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神霊百物語-壱の噺-
- ファンタジー × アクション
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- 1 : 2014/10/30(木) 16:34:23 :
- ザリッ…ザリ…
砂を踏む
ザリ…ザッ……
太陽を睨む
ザッ……ザ……
汗が身体を這いずり回る
…ザ…………
砂漠が、随分と黒くなった
神霊百物語-壱の噺-
『暑き砂漠に熱き神』
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- 2 : 2014/10/30(木) 16:44:04 :
砂漠に放り出された事に気付いてから、初めにしたのは持ち物の確認だった。
携帯があれば、誰かと連絡が取れれば何とかなる。そう思ったのだ。
運良く携帯はあった。ポケットに無造作に突っ込まれていた。
だが…
空と砂以外映らない様な場所で携帯が使えるはずもなかった。そんな事にも気付かないとは、暑さで頭がやられていたのか…
…なんにせよ、今時の高校生が信仰している携帯神話という奴は、この時点で粉微塵に打ち砕かれた。
少年を襲ったのは、次こそ本当の絶望であった。
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- 3 : 2014/11/01(土) 22:48:49 :
- 歩みが辛い。一歩踏み出す毎に足が痛む。
だが、歩みを止めれば死ぬだろう。
とにかく暑い。動く度に汗が噴き出す。
だが、動かねばやはり死ぬだろう。
死にたくない。ただその一心で、ゴールの見えない歩みを再開する。
しかし…
体力というのは、無尽蔵に溢れ出てくるものではない。
当然、尽きる。
「あ…」
少年…蓮は崩れ落ち、動きを止めた。
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- 4 : 2014/11/01(土) 23:28:14 :
「…」
…これは夢だろうか。それとも死後の世界というやつだろうか。
理由は分からないが、とにかく意識がはっきりしてきた。
だが瞳が重い。目を開けたくない。
なので、取り敢えず耳を澄ませてみることにした。
パチパチ…
音だけではあるが、暖炉の火が室内を優しく暖めている事がハッキリと分かる。
トン、トン…
これは…何の音だろう。…人の歩く音…かな?
…もしかして、死んだ俺を迎えに来た天使だったりして。
よし、これは確認せずにはいられない。
(美人さん来いっっ!!!!!)
重い瞼をこじ開け、俺は目を見開いた。
その先にある希望を信じて。
その先に続くサクセスストーリーを信じて。
…だが……
「…おお、起きたか。随分と早いのう」
希望に満ちた目に映ったのは爺さんでした。
もう一度言います。
白い髭蓄えた爺さんでした。
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- 5 : 2014/11/02(日) 00:34:09 :
- 蓮「…」ツー…
「…なんで突然泣いとるんじゃ、怖い夢でも見たか」
蓮「ハッ!?」
どうやら泣いてたらしい。気付かないほどナチュラルに。
「まあいい、それより起きたなら聞かせてもらうが…なんであんな所に居ったんじゃ?しかもこんな格好で」
蓮「え…?」
…あ、そういえば死にかけてたんだった俺…
ん?ということは俺、この爺さんに助けられたのか…
蓮「命の恩人じゃねえか!!!!!」ガタッ!!
「ぬおっ!?と、突然立ち上がるな!!心臓に悪いじゃろうが!!!」
蓮「あ、すんません…じゃなくてすいません。えっと…」
「わしは森田。森田 鴎喜(もりた おうき)じゃ。好きに呼ぶと良い」
蓮「え、えっと…じゃあ…」
蓮「…森田様?」
森田「どこの店員じゃお主は。もっと柔らかい感じでええわい」
蓮「え、いやでも命の恩人だ…ですし」
森田「あまり気にせんでええ。家に入れただけでそこまで恐縮されると、こっちが却って話しづらいわ」
蓮「えっと…じゃあ…」
森田「ええい、まどろっこしいの。じゃあ森爺とでも呼べ。あと敬語も無しで良い」
蓮「え…あ、じゃあ森爺…」
森田「うむ、それでええ。直にお主も慣れるじゃろ。で、話を戻すぞ。なんでお主はあんな所に居ったんじゃ?」
蓮「…なんていうか…馬鹿みたいな話なんでs…だけど」
俺は取り敢えず、この爺さん…森爺に全て洗いざらい話すことにした。寝て起きたら砂漠に放り出されてたこと、ひたすら歩いてたら気絶したこと。
自分で言ってても馬鹿みたいに感じる話だ、信じられるわけがないだろう。 そう思っていた。
しかし、現実はどうやら違ったみたいである。
話を聞くにつれ、森爺の表情がみるみる強張っていった。
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- 6 : 2014/11/02(日) 08:56:46 :
- 森田「……お主、昨日の晩は何をしておった」
先程までとは打って変わり、低く重い声の森田。
無意識に顔が強張るのを抑え、蓮は答えた。
蓮「それが、記憶が全然なくて…」
森田「神遊び(かんなそび)という言葉を聞いたことは?」
蓮「…神遊び…?いや…ない」
森田「ないか……なら」
森田「神霊百物語…はどうじゃ?」
蓮「…!!!」
蓮の表情が驚きで染まる。
それもそうだ。だって神霊百物語とは一昨日、蓮達が話していた用語だったのだから。
森田「どうやら…当たりじゃの」
蓮「森爺…なんでそれを…」
蓮の思考は停止しかけていた。
森田「…酷な事を言わねばならん」
蓮「え…」
森田「恐らくお主は昨日、神遊び…いや神霊百物語の儀式を行った。そして…百物語に巻き込まれた。記憶障害はその影響じゃろう」
蓮「…は…」
全く意味が分からない。分からないが…その語気から、嘘ではないということだけはハッキリと分かった。分かってしまった。
森田「ここからが大事じゃ。神霊百物語に巻き込まれておるということは…」
森田「お主の人生は、もう終わっておる」
蓮「!!?」
開いた口から、空気だけが漏れ出した。
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- 7 : 2014/11/02(日) 09:11:20 :
- 森田「…まあ、呆けるのも無理はないじゃろう。こんな話、受け入れられる方が馬鹿げとるわ」
そう、こんな話は普通なら信じないだろう。
だが…
蓮「…そうか、なるほど」
数十秒の思考を終えた蓮の頭は、この話をすんなりと受け入れた。
森田「…驚かんのか?疑わんのか?」
蓮「確かにすっげえ驚いたし、心臓もバクバクいってた。でも…なんでだろ、凄え自然に受け入れられる…」
もはや、蓮の中に疑問はなかった。それどころか、この状況を『当然』であるかのようにさえ思っていた。
森田「…大丈夫じゃ、その理由もなんとなく察しはついておる」
森田はそう言うと、少し語気を弱めて言った。
森田「その理由の説明も兼ねて…まずは神霊百物語について話そうかの」
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- 8 : 2014/11/02(日) 09:29:24 :
- 神霊百物語というのは神遊び(かんなそび)とも言われておってな。いつから存在するのかは儂も分からん。じゃが、少なくとも2千年は続いておる。
太古の昔、人が『神』という概念を知った時からじゃ。
…ん?神が実在するのかじゃと?
ああ、実在する。ただし普通の人間には絶対に見えん。
神というのは人々の信仰心から産まれ出でるものにして、人々より優れた能力を持つものじゃ。人は苦しんだ時に無意識的に神を創り、神は次からも創られるよう、人々に恵みを与え問題を解決する。持ちつ持たれつの関係というやつじゃな。
人々に恵みを与えた後、神はより多くの信仰を得ようとする。そうせねば消えてしまうからじゃ。信仰は神の肉であり血じゃからの。
…さて、ここでお主に一つ問題じゃ。信仰を得るため、神は何をすると思う?
…残念、外れじゃ。確かにより多くの恵みを与えれば信仰は増すじゃろう。しかし多すぎる恵みは人々から苦難を遠ざける。すると新しい神が産まれられんようになる。
ギブアップかの?…では正解を言おう。
神は信仰を得るために自らの力を人に伝えようとする。
そのために、『神話』を作るのじゃ…
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- 9 : 2014/11/02(日) 09:55:01 :
- 神話はお主も知っておろう?
ああ、神話には偶然出来た類のものも多く存在する。因幡の白兎はその有名な例じゃな。
…天照大神の岩戸隠れか…あれは…多分偶然じゃろ…でなければ日本の主神が物凄くハイレベルな構ってちゃんに……。この話はやめておこう。忘れるのじゃ。
話が逸れてしまったの。で、その神話作りなんじゃが…
さっきも言った通り、神は人に見えん。だから、何をしても神がやったとは気付かれん。それでは駄目じゃ、神話にならん。
そこで神はどうしたか。…そろそろ気付いたかの?
…そうじゃ、その通り。神は人に取り憑き、その身体を借りるのじゃよ。人の身体を部屋としたルームシェアみたいな感じじゃな。
そして、神に憑かれた人間は人に見える状態で事を成す。すると神話が出来る。とまあこんな感じじゃな。
つまり神霊百物語とは神の神話作り、そしてその依り代になる人間を選ぶ儀式のことなのじゃよ。
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- 10 : 2014/11/02(日) 10:24:28 :
- 森田「つまりお主は神に憑かれておるのじゃよ。人であり神…現人神の状態じゃ。お主がすんなりと現状を受け入れられたのもそのせいじゃろう、蓮よ」
蓮「現人神…砂漠で生きてられたのはそれもあったのか…?……あれ?なんで森爺俺の名前知って…」
森田「企業秘密というやつじゃ。…まあ神の力とだけ言っておこうかの」
蓮「えっ!?じ、じゃあ森爺って…!!!」
森田「儂は前回の百物語に巻き込まれての。その力でこうして生き永らえとるのじゃよ。色々と知っておるのもそのせいじゃ」
蓮「…なるほど…」
森田「さて、これで神霊百物語については理解出来たじゃろう。では最後にもうひとつ。これは最も大事なことじゃ」
蓮「?」
森田「神話というのは色々とある。中には…神殺しの神話もな」
蓮「!!?そ、それって…まさか…」
森田「…お主を見つけてからもう5,6時間は経っとる。神とその力も馴染んできた頃じゃろう…」
森田「ここからずっと北に行けばマジリという街がある。一先ずはそこで時が経つのを待つのじゃ。3日もすれば神は完全に馴染むじゃろう」
蓮「マジリ…?」
森田「ああ、言い忘れておったな。お主は今、現人神なんじゃ。見える世界にも神のそれが混ざっておる」
森田「マジリというのは神の世界の地名のことじゃ。まあ、あまり気にせんでも良い」
蓮「…」
蓮は一瞬、ここに居たら駄目なのかと聞こうとした。しかしそれは余りにも厚かまし過ぎると思い、言うのをやめた。
蓮「ありがと、森爺。お陰で色々分かった。凄え変な感覚だけど…まあ、これも時間かけて馴染んでいくよ。」
森田「うむ。気を付けるのじゃぞ。ほれ、食料と水じゃ。」
蓮「本当にありがとう、森爺。じゃあ、行ってくる!!」
そう言うと、蓮は飛び出して行った。
森田「元気でな。何よりも…」
森田「生きろ、蓮よ。」
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- 11 : 2014/11/02(日) 10:53:31 :
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- 12 : 2014/11/02(日) 10:59:51 :
- ザリッ 、ザッ…
森田「…やはり来たか…」
1人の男が小屋に入ってきた。
「分かってただろぉ?あのガキの話聞いた時によぉ」
森田「生憎じゃが、茶請けを切らしとるんじゃ。また今度来い」
「かつての仲間に随分な態度じゃねえかぁ…鴎喜ぃ…?」
森田「仲間…?ふん、見た目は若くとも頭の方はボケとるようじゃの」
「…ははっ…その減らず口も最後だと思うと悲しいなぁぁ…」
そう言いながらも、男の口元には笑みが浮かんでいる。
森田「儂の仲間じゃったのは藤太(とうた)じゃ…お前ではない、月夜見(ツクヨミ)ィ!!!」
刹那、鴎喜を中心に暴風が発生し…
小屋を打ち砕いた。
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- 13 : 2014/11/02(日) 11:13:46 :
- 男「ひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!老人が無理するなよぉ…死ぬぞぉ!?」
そう言いつつ男は両腕を広げる。
すると、その両手の拳に黒い炎が灯った。
男「お前なら嫌というほど知ってるよなぁ…この炎の怖さぁぁぁ!!!!!」
絶叫しながら、その炎を鴎喜に向ける男。
ドドドドドドド……!!!!!
シャワーのように降り注ぐ黒炎。
しかし鴎喜は微塵も動じてはいなかった。
森田「『炎を避けろ』」
ただ、重々しい口調でそう呟く。
すると…
男「分かっててもやぁっぱ面倒いなぁ…一言主ぃ…」
炎の雨は鴎喜に当たる直前で全て逸れていった。
森田「……」
男「…」ニヤニヤ
ドッッ!!!!!!!
この日、砂漠で非常に大きな砂嵐が観測された。
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- 14 : 2014/11/03(月) 19:45:17 :
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- 15 : 2014/11/03(月) 19:53:33 :
「ふう…、なんつーか凄えな…」
蓮は自分の身体の変化に気付き始めていた。というより思い知らされた。
何故なら『それ』は、実に顕著な形で現れたからである。
「もう1時間ぐらい歩いたんだけどなあ。全然疲れねえや」
まず第一に、体力。休む事なく歩き続けているが、疲労の「ひ」の文字も感じられない。
「喉も全然乾かねえし…荷物、こんなに要らなかったかもな…」
第二に、身体が水分補給を欲しない。というか発汗がない。
足が痛まない事なども含め、身体機能が増強されているのだろう。
「神になったって言われてもしっくり来なかったけど…実感湧いてきたな」
そう言いつつ、蓮は苦笑した。
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- 16 : 2014/11/06(木) 23:43:47 :
- と、独り言を呟きながら歩き続けると、街の明かりが見えてきた。
砂漠から伸びるビルの群れ。
どこか懐かしく感じる淡い灯り。
蓮「案外人の街に似てるんだな…ま、なんにせよ…!!」
蓮「到着だ!!!!!」
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- 17 : 2014/11/06(木) 23:48:09 :
神の街、『マジリ』に辿り着いた蓮。
だが、試練は彼に次々と襲いかかる!
蓮の明日は!!?
次回 神霊百物語-弐の噺-
『神楽の街に寄せる蟲』
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