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神霊百物語-弐の噺-

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  1. 1 : : 2014/11/09(日) 08:50:11
    無数の人で賑わい返す、神の街『マジリ』。


    この2日程で色々と分かった事がある。


    まず、ここには神と人が混在している。


    だが人には触れられず、また反応もされない。


    神になった影響、というやつだろう。


    …いや、一つ訂正しよう。


    ガチャン!!!


    蓮「っ!やべっ…」


    街人「と、突然花瓶が床に落ちた…!!おお、神よありがとうございます!この花瓶が私に害なすものであったから、この花瓶を壊してくださったのですね!!!」


    蓮「…」


    きっとこの時俺は、名状し難い顔を浮かべていたのだろう。





    …そう、人に反応されないというのは一部間違っている。


    正確には…


    『神の仕業』として捉えられる。しかも…何この街。皆めっちゃ信仰してるじゃないですかー…もはや洗脳の域じゃないですかー…花瓶壊しちゃう神がどこに居るんですかぁー!!!!!


    申し訳なくなった俺は、手持ちの食料を数個街人の近くに置いてそこを離れた(神の世界に金銭はない)。


    …ああ、今頃また騒がれてるんだろうなぁ。神の仕業だーっ!て…





    …現人神、辛い。






    神霊百物語-弐の噺-

    『神楽の街に寄せる蟲』
  2. 2 : : 2014/11/09(日) 16:11:52




    愚痴ばかり言ってても何も変わらないな、次は明るい話をしよう。


    ここを訪れて2日、俺の周りには簡易的ではあるが人間関係が出来つつある。


    俺が唯一他人に誇れるものにして、神の力を持ってしても補完出来ない(と思われる)能力……


    そう、『コミュ力』によって!!!!!


    …とまあカッコつけましたが、纏めると「街の人と仲良くなった」だけです。はい。


    まあ、厳密には人ではないけどな!!



    ???「あっ、蓮くーん!丁度良い所に!!」



    …と、異常に高いテンションで近況報告をしてたら1人の少女に声を掛けられた。


    彼女はフラン・エメーナ。俺と同じく百物語に巻き込まれた人間であり、元はフランス人だったらしい。


    言語の問題は神の力によって解決しており(神は世界中どこでも信仰される余地があるため、言語というものに縛られない)、また彼女自身のとても明るい性格から、今では仲の良い親友のような存在になっている。


    頭が良く、物事の理解が俺より数段早い。そのせいで俺は頻繁に彼女に教えを受ける事になっている。


    …出会いは衝撃的なものだったのだが…今語る必要はないだろう。…うん。


    フラン「貴方の憑神(よりがみ)について話があるって、カー様が!」


    蓮「マジか、んじゃちょっと行ってくる。ありがとな!」


    フラン「いえいえ、どういたしまして」ニコッ


    蓮「っ」


    …言い忘れてたが、フランは俺と同年代だ。しかも、外国人の中でも珍しい長い金髪や、薄い紅の瞳を持っている。


    しかも明るく、話上手。顔も整っている、と思う。


    何が言いたいかと言うと…








    …めっちゃ可愛い。なんだよあの生き物。
  3. 3 : : 2014/11/11(火) 15:22:33
    追い付いた
    とても吸い込まれていく物語ですね
    綺麗な文章で一目惚れしました
    期待させて頂きます
  4. 4 : : 2014/11/12(水) 07:34:26













    フランの話を聞き、蓮は街の中心に建てられた巨大な建物、ヴァイクへとやってきた。


    ここには、マジリを纏める一体の神が鎮座している。


    ??「来たか」


    蓮「偉大なるカー様、本日はお話があるので参りました…と。こうで良いんですよね」


    ??「ああ、すまないね。形式はちゃんとしないと、信仰に支障をきたすのでね。」


    半径100mほどの広い建物の中央に鎮座するのは、1人の少年だった。


    その華奢な見た目からは想像もつかないが…彼こそが正真正銘マジリの主神、『カー』であった。


    カー「えーっと、それでね。用件って言うのは、君の神の事についてなんだけどね。」


    蓮(相変わらず「ね」が多いよなぁ…ああ、凄え言いてえ…!!)


    なお、よっぽどの事情がない限りカーの話に返事をすることは出来ない。


    これもまた、主神としての神格を保つために必要な「形」であった。


    カー「憑神の事は前に話したよね。2日ほどで意思疎通が出来て、5日ほどで目の前に顕現する神の事だね。まあ「自分にとり憑いてる神」と思えば良いって言ったね。うん」


    蓮(分かりづれえ…!!!)


    カー「でね、今回話したいのは君の憑神についてなんだけどね」


    カー「君、2日以上たってるのに意思疎通の「い」の字も無いんだよね?」
  5. 5 : : 2014/11/12(水) 07:41:26
    カー「………」


    蓮「………」


    カー「……………」


    蓮「……………」


    カー「……………どうした、返事したまえ」


    蓮「いや返事(それ)禁じたのカー様ですよね」


    カー「あっ」


    蓮「…」


    カー「…今のノーカンね。君の返事についても不問にしてあげるから、ね」


    蓮(大丈夫かこの街…)
  6. 6 : : 2014/11/12(水) 12:41:20
    カー「あ、あー、ごほん。さて、話を戻そうね」


    蓮「…」ジトォ


    カー「…蓮くん、喋れないからって目で何かを訴えかけてくるのはやめようね。私これでもメンタル弱いんだからね。泣くよ?洪水起こすよ?」






    カー「今度こそ話を戻すからね。…で、君の憑神が意思疎通をしない、出来ない理由について私なりに考えてみたんだね」


    カー「その結果…」


    カー「付喪神かもしれない…という結論に至ったんだよね」


    カー「付喪神なら、憑く物体がなければ顕現出来ないからね。辻褄は合うんだよね、うん」


    カー「…」


    蓮「…」


    カー「……あっ」


    カー「以上だからね、もう帰っていいよ」


    蓮(…ルール変えたら駄目なのか…?)


    この街の長に内心苦笑しつつ、蓮は出ていった。




















    カー「…決まり、変えようかなぁ…」





  7. 7 : : 2014/11/13(木) 23:04:47




    カーの話を聞き終えた蓮は、大急ぎで走っていた。


    古道具屋の片付けを手伝うと約束していたのに、もう1時間以上遅れてしまっている。


    カーに呼び出されたのだから仕方ないと言えば仕方ないのだが、それでも律儀に約束を守ろうとするのが蓮という男であった。


    蓮(せめて1分でも早く着かねえと…!!!)ダダッ…


    坂道をなだれ落ち、加速に加速を重ねていく。


    蓮(うっし、このペースなら…)


    グチャッ


    不意に、嫌な水気を含んだ音が鳴った。


    蓮(っうえ、何か踏んだ!?)


    蓮(…なんか知らねえけどすいませんっ!!!)ダダダ!!!


    だが、急いでいた蓮はその出処を確認することもせず一目散に走り去っていった。






    蓮が通った道の後で


    潰れた1匹の虫が、足をカサカサ動かしていた。
  8. 8 : : 2014/11/14(金) 07:38:33














    「ははは!そりゃ災難だったなぁ」


    街外れにポツンと構える古道具屋の店主は、そう言って大きく笑った。


    蓮「本当ごめんな。まさか呼び出し食らっちまうなんて…」


    店主「そりゃあ、そこらの威張り散らしてる下級神(ばか)共ならともかく、カー様に呼ばれたんじゃあ仕方ねえよ」


    店主はそう言うと、また笑った。


    知り合って2日程度であるにも関わらず、齢50は超えていそうな店主と蓮が親しげに話しているのは、この店主の性格が原因であった。


  9. 9 : : 2014/11/14(金) 07:46:19


    店主「さて、過ぎたことを言ってても仕方ねえ!急いで済ましちまおう」


    店主「とはいえ、あらかたはやっといたからな。蓮は店の奥やってくれるか?古そうな物と新しそうな物を分けてくれるだけでいい、後は俺がやるからな」


    蓮「おう、了解っ!」


    こうして、蓮は1時間ほど作業を行う事となった。





    …作業の途中に蜘蛛に襲われ、変な声を出してしまったことは墓場まで持っていかれる事だろう。
  10. 10 : : 2014/11/14(金) 08:07:46






    店主「どうだ、終わったか?」ヒョイ


    店主が奥に入ってきた。恐らく、もう奥(ここ)以外は終わったのだろう。


    蓮「ああ、もう終わる。判断に困る奴は別に分けといたから」


    店主「おー、了解」


    蓮「そういやさ、一つ聞きたいんだけど良い?」


    店主「おう、何でも聞け聞け」


    蓮「こいつなんだけどさ…」スッ


    蓮は積み上げられた道具の山から一振りの剣を抜き出し、置いた。


    その剣は埃を被って古びている様だが、同時に強い輝きを放っており、打ち上げられたばかりの新品の様でもある。


    蓮「これだけはマジで新しいのか古いのか分かんなくてさ…なんなんだ、これ?」


    店主「それか?それはな…えー……なんかかんとかっていう…あれだ」


    蓮「いや分かんねえよ!!?」


    店主「あー、なんか東の方から来た神さまから譲って貰ったもんだったんだがなあ…名前忘れちまった」


    店主「だがな、少なくともその神さまっていうのが、俺なんかの神格じゃ震え上がっちまうくらい凄かったからな。きっとそいつも凄え物には違いあるまい。…なんっで名前忘れたかなぁ…うーん…」


    蓮「って事は一応古い物なんだな…よっと」


    蓮は、古い物を集めた山にその剣を置いた。


    蓮(…?)


    一瞬、妙な喪失感が蓮を襲った。


    これが剣の凄さというやつなのか、と蓮は思った。


  11. 11 : : 2014/11/15(土) 00:21:12






    店主「今日はすまねえな。あの剣についてはまた調べといてやるから、また暇あったら来い!」


    蓮「こっちこそ、遅れちまってごめんな!じゃ!」


    そう言葉を交わして、蓮は店を出た。


    蓮(えーと、今日やることはもうなかったよな…?)


    蓮(…)


    蓮(…よし、ないな。んじゃ帰るか)


    こうして、蓮は1日を終えた。
  12. 12 : : 2014/11/15(土) 00:22:42




    蓮はベッドの中で考えていた。


    蓮「…」


    蓮(付喪神…か)


    蓮(全ての物に神が宿るっていうのは日本古来の考え方だ、日本人の俺に憑いててもなんら不思議はない)


    蓮(でも…付喪神ってのは文字通り「全ての物」に宿るもんだ)


    蓮(その中から俺の付喪神が宿る物を見つける…)


    蓮(…)


    蓮(やだ…私のハードル、高過ぎ…!?)


    結局、これといったアテも考えつかないままに蓮は眠りに落ちることとなった。



  13. 13 : : 2014/11/15(土) 00:24:34

















    …ドッ


    ガシャアアア!!!!!



    蓮「っ!!?」


    次の朝、蓮を飛び起こしたのは扉が吹っ飛ぶ音だった。
  14. 14 : : 2014/11/15(土) 00:31:36
    蓮「なんだよ朝っぱらか…ら…」


    慌てて扉の方に視線を移す蓮。


    その目に映ったのは…


    「ギィィィィ…」


    黒光りする羽


    無数の細毛を携えた触覚


    カサカサと蠢く足…





    …間違いなく、台所の悪魔Gだった。


    だが、「それ」には通常のGとは明らかに異なる点が見える。


    蓮「…で…でけ…え…」


    横幅1メートルを越しそうな、その巨体である。
  15. 15 : : 2014/11/15(土) 00:39:54
    「ギィッ、ギィィィ!!!!!」


    「それ」は蓮を見て一瞬停止していたものの、すぐに動き出した。


    ブゥゥゥゥゥン!!!!!


    耳障りな羽音を鳴らしながら蓮に突っ込んでくる。


    蓮「えっ、うっ、うえっ!!?」ガダッ


    咄嗟にベッドから転げ落ちる蓮。


    ヒュッ…


    ドグシャアアッ!!!!!


    一歩遅れて直撃した「それ」の体当たりは、ベッドを粉々に破砕した。


    無残に散った破片が、蓮に「もしものケース」を考えさせる。


    蓮「なんなんだよこれ…!!!」


    気を抜けば殺される。


    蓮の勘はそう告げていた。

  16. 16 : : 2014/11/15(土) 00:47:04



    蓮(虫に殺されてたまるかよ…!!!)


    なんとか事態を打開しようと、辺りに視線を走らせる蓮。


    だが、謎の虫は蓮に時間など与えてはくれない。


    ブゥゥゥゥゥン!!!!!ガァン!!!!!


    ガサガサガサ!!!!!バキィ!!!!!


    家の中を、縦横無尽に走り飛ぶ。


    その度に命のダイスを振らされる蓮。


    このままではジリ貧なのは確実である。


    蓮(何か…何かなかったか…!!?)


    その時、蓮の視界にある物が映った。


    蓮(…仕方ねえ…!!!!!)


    一目散に走り出す蓮。


    それを追うように、虫が再度突撃の態勢をとる。
  17. 17 : : 2014/11/15(土) 00:50:44
    蓮(…間に合え…っ!!)ダダッ


    「ギィィィィィイ…」


    蓮(間に合え…っ!!!)ダダダッ…


    ブゥゥゥゥゥン!!!


    蓮(間に合えっっ!!!!!)ダダダダダッ!!!!!


    ビュウウウウウン!!!!!!!

















    ガシャァァァァァン!!!!!!!


    激突音が響いた。
  18. 18 : : 2014/11/15(土) 00:55:00





    ……………





    ひと時の静寂。


    それを破ったのは…


    「ギィィィィイイイイイ!!!!!!!」


    虫の絶叫と


    「…へっ、残念だったな」ズボッ


    蓮が、虫の腹に突き刺さった木片を抜く音だった。
  19. 19 : : 2014/11/15(土) 01:01:48
    蓮「家ん中ボロボロにするような威力のある突進…そりゃあカウンターも受けやすいよな」


    「ギィイイ…イィィ…」


    蓮「…っ」ガクッ


    木片により胴体の殆どが潰れた虫は、まもなく動かなくなった。


    緊張感がなくなると共に、ドッと負担がのしかかる。


    蓮「…はぁ…はぁ…なんだったんだこいつ…?」


    蓮「なんにせよ…取り敢えず誰かに報告しねえと…!」


    あの虫の事を一刻も早く伝えねばならない。


    そう考えた蓮は家を出ることにした。
  20. 20 : : 2014/11/15(土) 01:05:57



    ガゴッ、ガラッ…


    壊れた家財を押しのけ、出口へと向かう。


    蓮「っと、やっと出られ…」


    出口から顔を出した蓮。





    彼を待っていたのは、本日2度目の絶句だった。


  21. 21 : : 2014/11/15(土) 01:11:45





    蓮に憑いた神とは一体何なのか?


    突如現れた巨大な虫は一体?


    …そして、外に出た蓮の目に映った光景とは?


    謎が謎を呼ぶマジリ編。次回、急展開!




    次回 神霊百物語-参の噺-

    『憑守神』

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じゃがみん

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