この作品は執筆を終了しています。
旅日記
-
- 1 : 2020/12/05(土) 02:34:43 :
- -注意-
このssはフィクションです。
読み終えた方は良ければ投稿主のグループをご覧ください。
当作品の裏話などが投稿されています。
http://www.ssnote.net/groups/2693/archives/1
-
- 2 : 2020/12/05(土) 02:34:58 :
- ---
ふと思い立って旅に出ることにした。
行先はもう決まっている。東北の山中、貸し切り温泉付きの旅館だ。
早速飛行機と旅館の予約。幸いにしてどちらも空いていた。
決めたことはすぐにやらねば気が済まない性質の私にとって、これは何ともありがたいことだった。決心は時間がたつほど鈍ってしまう。たとえ一度気持ちを起こしても、計画に悩んだりしているうちに決心がぶれてしまうのはよくある話だ。
出発の日程は5日後にした。本当は明日にでも出発したいぐらいの気持ちなのだが、何かと準備もしなければならない。土日も含めて諸々済ませるつもりでいる。これだけ時間があれば忘れ物をすることも、恐らく無いだろう。
今からすでにうずうずしている。ずっと行きたかった場所だから、当然と言えば当然なのかもしれない。自分へのご褒美という風に考えておこうか。
---
-
- 3 : 2020/12/05(土) 02:35:29 :
- ---
もう出発は明日に迫っている。時間が経つのはあっという間で、この日記を書くことすら忘れていた。日記もそうだが、どうにも私は物事が続かない。所謂三日坊主が多いのだ。幼い頃にはよく母親に叱られたし、会社でもそれで怒られてばかりだった。
ともかく、日記を書かなかった分準備は万全に整ったはずだ。あとは出発の時刻を待つだけ、他に何もやることが無い。
こんな風に暇を持て余すようなことは一体いつぶりなのだろう。会社を休んだことなんて無かったから、相当前であることには違いない。そしてそれ故に、こういう時に何をしたらいいものか分からない。
熟考の末、旅に出た後のことを想像しておくことにした。その中でもし必要になりそうなものがあれば、荷物に加えることになるだろう。持っていく荷物はできるだけ軽くしたいのだが、旅先で不足があっては大変だし、やむを得ない。
---
-
- 4 : 2020/12/05(土) 02:36:08 :
- ---
旅行1日目。
ようやく旅が始まった。現在、旅館の一室で、この日記を綴っている。
まずは何から書こうか。とりあえず、時系列で書いていくことにする。
出発時刻になって、家を出た。結局重くなってしまった荷物を車に詰め込んで空港へ。飛行機の中は快適だった。これまで飛行機なんて乗る機会はほとんど無かったし、今後も乗ることは無いだろうが、窓から見る景色はとても綺麗だと思った。
飛行機を降りたのは正午ごろだった。近くにあった拉麺屋で昼食をとったが、ここの店主がやたらと話しかけてきたのには辟易してしまった。麺の味がどうだの、肉と野菜がどうだのと矢継ぎ早に言ってくるが、こちらは味の違いなんて分からない。適当に相槌を打って、早々に店を出てしまった。
店を出たあとは、電車に乗った。持ってきていた本を少し読み進めた程度で、すぐに降車する駅に着いた。そこから歩いて数分、旅館に辿り着く。
夕食を頂いて、貸し切り風呂に入り、現在に至る。
こんな感じだろうか。なんだか形式ばったというか、堅苦しい文章になってしまっている気がするが、日記なのだし、そこまで気にしなくてもいいだろう。
旅はあと2日。せめて幸せな旅にしたいものだ。
---
-
- 5 : 2020/12/05(土) 02:36:29 :
- ---
旅行2日目。
今日は特に書くことは無さそうだ。強いて言えば、旅館の裏山の獣道を少しばかり歩いた程度か。今回の旅行の目的は、この山にあったといっても過言では無いだろう。
旅館の情報を見つけた時、まず私の目に入ったのがこの山だった。あまり人の手が入らない、自然豊かな山を見ながら貸し切り温泉に浸かれるというのが、この旅館の売りであった。
私が求めていたのはこういう場所だったのかもしれない。そんな漠然とした意識。それ以来、ここを目的地としたいという念に駆られていたように思う。
なんとなく不思議な感じだが、本当にそんな気がしていたのだ。
それで、今日はやっと散策できたというわけである。散策する中で、自分が落ち着ける場所も見つけた。
……何だかんだ言って、結局色々と書いてしまった。書くことが無いなんてことは全く無かったらしい。
いよいよ明日が最後だ。
---
-
- 6 : 2020/12/05(土) 02:37:00 :
- ---
旅行3日目。
昨日記した、自分が落ち着ける場所にて。
ここは本当に気持ちがいい。これまでの悩みがみんな解き放たれたかのような、そんな気分だ。私が今寄り掛かっているこの大木も素晴らしい。ずっしりと構えて、枝もしっかりとした太さをしている。
先ほど昼食をとった。旅館を出る際に女将が渡してくれた、手製のおにぎり。白米に塩だけという素朴なものだったが、それは確かに米と塩の味がした。
携帯はここに来る前に捨ててしまった。旅行の初日から通知が煩かったのだが、これでもう悩まされることもない。
この日記を書くのも最後になると思うと、少し寂しい気持ちもする。旅行前日から今まで、4日間継続できたわけだから、三日坊主は返上できたのではないだろうか。
随分と散文になってしまった。もう少し、文章の書き方を学んでおけばよかっただろうか。
決意が鈍らないうちに、終わっておくことにする。
---
- 著者情報
- 「私小説」カテゴリの最新記事
- 「私小説」SSの交流広場
- 私小説 交流広場