この作品はオリジナルキャラクターを含みます。
この作品は執筆を終了しています。
勇者の師匠
- ファンタジー × アクション
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- 1 : 2017/03/01(水) 21:59:57 :
- こんにちは!こんばんは!初めての方ははじめまして!刹那と申します!
今回は春花杯用の作品、そして私のssnoteでの活動ちょうど一周年目の節目としてこの作品を書かせていただきます
初めに断っておきますがオリジナル作品なのでなにかの二次創作ではありません。そちらをご期待の方はブラウザバックを推奨します
また作品執筆中はコメントの返信は致しません
以上二点、把握をお願いします
コメントの制限はする気はないので、意見、感想、激励などいただければ嬉しいです!
それではお楽しみください!よろしくお願いします!
-
- 2 : 2017/03/01(水) 22:00:32 :
- 期待です!
-
- 3 : 2017/03/01(水) 22:18:19 :
この世はいつ明けるかもわからない暗い闇に支配されていた
一筋の希望も抱けない
ただただ真っ暗な世界
昨日いた人が今日いないのはそう珍しくもなく
人々はただ怯えることしか出来ない
一時は絶対的な力を象徴していた騎士団も今やタダ飯ぐらいのろくでなし
偉大な勇気を象徴していた冒険者たちも今では死に急ぐだけの狂人の集まり
人類の繁栄を象徴していたルートディア王国も王都ゼノビアを除けば殆どが寂れている
魔王という絶対的な力の前に人類は屈しようとしていたのだ
眩しい光が彼らを照らすまでは
-
- 4 : 2017/03/02(木) 17:33:13 :
- 「ふっ!ふっ!ふっ!」
ルートディア王国の南方、ギラード村にある一軒家
村の中枢から外れているため辺りに家はなく周囲は草むらが広がっている
その庭で俺は棒を振っていた
正確に言えばそれは木刀で両刃ではなく所謂刀という片刃の剣を模したものだった
俺が刀を振るたびに風を切る音が唸る
俺の名はフリスト・シャール
人呼んで剣聖フリスト
これでも魔王軍の侵攻を食い止めてる立役者の一人だ
-
- 5 : 2017/03/02(木) 21:53:58 :
- 何でこんな村はずれで一人で剣を振るっているかというと......
まぁいろいろな理由はあるんだが一番は弟子がいないこと
数年前までは村で剣を教えていた
当時俺は20歳で既に剣聖と呼ばれる実力を持っていた
だが剣の腕はよくても人間としてはまだまだだったようだ
俺は人に教えることなんてできる器じゃなかった
あっという間に弟子はいなくなり
俺がこのはずれに引越してくるのにそう時間はかからなかった
-
- 6 : 2017/03/07(火) 18:51:30 :
- 「ふっふっふっ!はっ!」
ただの素振りから剣技に変える
このルーティンは俺が剣を握った日から続けてるものだ
これを見たやつは大概「すごい!教えてください!」とかいうんだが
そんなやつに限ってすぐに辞めていく
ただ続けるだけでこれ程までできるのに
なぜそうしないのか俺には理解できない
-
- 7 : 2017/03/12(日) 22:45:02 :
- 「ん?」
ふと気づくと一人の少女が自分を見ていることに気づいた
そこで動作をやめたからか少女も自分が見られていることに気づく
「おい!お前――」
「ご、ごめんなさい!」
俺がなにかいうよりも先に頭を下げられてしまう
「邪魔してしまって.....」
「あぁ?別にいいけど.....何してんだ?こんなとこで」
こんなはずれに人が来ることなんて滅多にない
街に魔物が突然現れでもしたのか?
「あ...あの.....」
なにやら事情があるようだ
見た目綺麗に着飾っているあたりどうやらこの辺の貴族の娘かなんかだろう
面倒くさそうなことには首を突っ込まない方がいい
口どもる少女を見て俺はため息を一つ
そのため息で気持ちを切り替え再び剣に集中する
「言いたくないなら言わなくていい。邪魔しないなら好きなだけそこにいても構わない」
それだけ言った後俺はまた剣を振り始めた
-
- 8 : 2017/03/13(月) 15:30:12 :
- 「凄いですね...」
少女が再び口を開いたのは俺が一通りの鍛錬を終えた後のことだった
「あ?まぁこのくらいやらないと死ぬからな」
「死...ぬ......?」
少し首を傾げてポツリとつぶやく少女を見て軽くショックを受ける
この時代、人が死ぬのは日常茶飯事だ
だがそれを実感をもてなそうに言うってことは...
(相当な箱入り娘ってことか......)
世間知らずほど厄介なものはない
しかも大事に育てられたってことは誘拐などに間違われたら...
(めんどくせぇ...)
-
- 9 : 2017/03/13(月) 17:18:40 :
- 「あーまぁそうだ...そろそろ帰った方が――」
「帰りたくないです」
間髪入れない少女の回答にため息をつく
「私に!」
突然少女が声を張り上げる
「私に剣を教えてもらえませんか?」
「はぁ?」
「馬鹿な事を言っているのは承知しています...ですがどうか――」
「無理だ」
即決で断る
「そこを――」
「無理だ」
「どうか――」
「無理だ」
「何でですか?」
「面倒くさいからだ」
「そんなこと――」
「それに剣は思いつきで習うようなもんじゃねぇ.....それ相応の覚悟がいる」
「覚悟...?」
首を傾げる少女に向けて殺気を少し送る
途端に少女が硬直する
まるで蛇に睨まれたカエルのように
「あぁ.....剣は誰かを守れると同時に傷つけることもできる......剣の技は人を殺せる」
「誰かの命をその手にかける覚悟はあるか?」
-
- 10 : 2017/03/13(月) 17:38:10 :
- 「それは――」
「その覚悟がなけりゃやめとけ。辛いだけだ」
辞めてった連中はみんなそうだ
命を賭けるって覚悟がなかった
だから簡単に辞めていった
「どうすれば......その覚悟は示せますか?」
少し考えて少女が言い放つ
その決意の表情は何よりも雄弁に彼女の真剣さを語っていた
彼女の目の強さに俺は一時我を忘れる
彼女の根っこ...
根本に何か人らしからぬものの強さを感じる
ゾクリと悪寒が体を駆け巡った
(本気...なのか...?)
その時...俺は思い出した
初めて剣を握った時のことを......
-
- 11 : 2017/03/13(月) 21:34:00 :
-
俺が剣を習おうと思ったのは七つになるかならないかの頃
俺が元々住んでいた村が襲撃されたことがきっかけだった
襲撃してきたのは他でもない人間
周辺を賑わせていた盗賊集団だった
俺の両親は俺を守ろうと、俺を家の地下室に閉じ込め
盗賊に立ち向かって死んだ
俺が地下室をでて両親の亡骸を見た時
決めたのだ
力がなければ何も守れない
だったら力をつけようと
俺は地下室に残されていた僅かな金と食料、ナイフを持って旅に出た
剣の達人...剣聖がいるという国はずれの山の中へ
正直無謀な旅だった
たった七歳のガキが一人で旅に出る
持ち物はごくわずかでナイフしか持っていないのに
当然何度も死にかけた
奴隷商に捕まりそうになったこともある
だが俺は死ぬわけにはいかなかった
自由を奪われるわけにはいかなかった
死んだら復讐ができない
何も守れない
奴隷になり下がれば剣を習得できない
何も守れない
だから必死になって生き残った
どんな過酷な状況でも
-
- 12 : 2017/03/13(月) 21:42:10 :
- 剣聖の元へたどり着いたのは村を襲われて一年後のことだった
「どうか俺を弟子にしてください」
疲れきっても尚それだけを剣聖に訴えかけた
当時の剣聖は弟子入りに来た人間を門前払いすることで有名だった
だが......
そんな彼は俺に木刀を一本よこして言った
「立て.....俺に勝ったら弟子にしてやる」
無論、剣を握ったこともないガキが剣聖に勝てるわけがない
コテンパンに叩きのめされた
ただでさえ痣だらけの体に
上書きするように何度も何度も叩かれた
あれは児童虐待じゃないのだろうか...?
だが俺も何度も何度も立ち上がった
こんな所で負けてられない
弟子にしてもらわねば意味がない
剣を使えるようにならねば明日はない
くじけそうになる度
「うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
何度も何度も叫び立ち上がった
俺が気絶してぶっ倒れるまで
-
- 13 : 2017/03/13(月) 21:51:38 :
- 目が覚めた俺が見たものは縁側で剣を振る剣聖だった
その動きは流れるようで一種の美を感じさせた
「起きたのか?」
俺に気づいた剣聖の問に頷いて返した
「じゃあさっさとそこの木刀持って外出ろ。俺の指導は温くねぇからな覚悟しとけ」
そう言って何事も無かったように剣を振り始める
「え?でも...俺は負けたんじゃ――」
「あぁ?無駄口叩いてんじゃねぇよ。テメェは今日から俺の弟子だ。師匠のいうこと聞かねぇ弟子がどこにいる?」
今日から...弟子
俺は嬉しかった
弟子になれたこともそうだが
認められたことが嬉しかった
弟子としてこの人に認められたこと
そう思ったら
村が襲われてから一回も出たことがない涙が次々と溢れ出した
-
- 14 : 2017/03/13(月) 22:03:56 :
- 一度聞いてみたことがあった
「師匠......どうして今まで弟子を取らなかった師匠が俺を弟子にしたんですか?」
答えは単純だった
「目だ」
「目?」
「人間最強って謳われた俺がたかが八歳のガキの目に射すくめられたんだ」
囲炉裏に薪を突っ込む師匠の目はいつもより輝いているように見えた
「まるで弟子にしなければぶっ殺すと言わんばかりの目だった。そしてそれはお前が叩きのめされた後でも、いや叩きのめされる度に強くなっていった」
バケモンだったよと口元を緩めながら師匠は語った
「何か――確固たる意思ってのを持つ奴はいつか化けるんだよ......どんな形かはわからんが絶対に化ける」
俺はその可能性をお前に見た
くべられた薪が小さく爆ぜた
「期待に応えろよ...バカ弟子」
その時の師匠の表情は未だに覚えている
俺が師匠から剣聖を受け継いだのはそれからひと月後のことだった
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- 15 : 2017/03/13(月) 22:23:58 :
(こいつの目に宿る光......これが確固たる意思なのか...?)
その答えはわからない...そこまで人生経験を積んでいないから
だがわかることは一つ
これを拒めば......俺は殺される
殺気とは違う.....もっと絶対的な力が俺を射抜いていた
だから.....
俺がやるべき事は一つなのだろう
木刀を一つ放り投げる
「それを取れ......俺に勝てたら教えてやるよ」
少女は剣を手にとってまじまじと眺めた後
俺と同じように構える
動き出したのは......
同時だった
-
- 16 : 2017/03/13(月) 22:47:30 :
- まぁ予想通り
少女の剣はデタラメでお粗末なものだった
非力で満足に振れてもいないのに
目だけは一丁前にギラつけせて上に、横に剣を振るってくる
流石に俺も冷静さを取り戻し極限彼女の体に木刀を当てることはせず
少女の持ってる剣を何度も何度も吹き飛ばす
痣とかついたら後々面倒だからな
だがそれをおちょくられていると勘違いしたのか
その度に睨みつけられた
眼力を強くして
やがて――
「あぁ!もう辞めだ辞め!そんなに睨むなよなぁ」
俺が根を上げてしまった
居た堪れない気持ちにさせるその視線に嫌気がさしたのだ
忍耐力は修行の時に鍛えたはずなんだがな.....
「では!?」
「うっせーな!好きにしろ!いつでも来やがれったく」
その言葉を聞いた途端に獣みたいな飢えた目は年齢相応のキラキラした目に変わった
「お前......名前は?」
「セレン・アストレア・ヴェインガード。齢十二です。師匠」
その答えを聞いてため息をつく
ヴェインガード家はここいらでは有名な地方貴族
その娘ってことは......
めんどくせぇもん背負い込んだな...
「心配なさらないでください、師匠。家の者には秘密にしておきます」
俺のため息の意味を正しく理解したのだろう
だがセレンのフォローも俺の不安を晴れさせることは出来なかった
-
- 17 : 2017/03/14(火) 10:42:35 :
「うらぁ!」
「ふっ!」
三年前に俺達が出会った場所
俺の家の庭で俺達は打ち合っている
木刀と木刀がぶつかる度に子気味の良い音が響き
それは一人で振っていた頃よりも清々しい音だった
掛け声とともに振り落とした俺の一撃を木刀で受け
そのまま流れるようにセレンがカウンターを狙う
まぁ想定済みなんだが
「はっ!」
振り下ろした木刀をそのまま前に突き出しセレンの刀が当たるよりも先に吹っ飛ばす
「はい!22316回目の死亡!」
「ま、まだです!」
諦めず立とうとするセレンの木刀を弾き飛ばし俺の木刀を顔に突きつける
「死亡」
その言葉に渋々ながら頷いて木刀を取りに行こうとするセレンに後ろから声をかけた
「今日は終わりだ!帰れ」
はじかれたようにセレンは振り向いた
「も、もう一度!お願いします!」
「ダメだ。明日にしろ」
「お願いします!」
その頭の下げ方に異常を感じる
「どうかしたのか?」
「い、いえ......」
少し逡巡してからセレンは口を開いた
「私は......明日からはもう......ここに来れないのです」
-
- 18 : 2017/03/14(火) 10:57:33 :
- 「あ?なんでだ?」
「実は......師匠もこの世の中の状態はお分かりでしょう......?」
魔王が君臨し、魔物が人を襲う
「あぁ」
「そこで......国王様がこの状況を打開すべく勇者選定の儀式を行ったのです」
勇者選定
教会の力を借りて儀式を行い
人々を導く勇者を神からの啓示により選定するという
「神のご意思が聖紙に書かれる......そこに、私の名前があったそうです」
つまり......
「お前が......勇者に選ばれた......?」
「ええ......便りが来たのが昨日。そしてそこには......四日後に王城に来いと達しが...」
ここから王城までは馬車で行っても三日はかかる
だから明日ここを出なければ間に合わない
「そして......おそらく私はそのまま魔王を倒す旅に出なくてはならないでしょう」
まだ15歳の少女に課せられたあまりに大きな使命
「ですから......もうここには戻ってはこれません」
「その前に師匠を......師匠を超えたいんです!」
その使命の前に自らの命が絶たれることをこの少女は予感しているのだろうか...?
命を投げ出す覚悟
彼女の目には最初に日のようにそれが宿っている
「......剣を取れ」
答えとして......俺は木刀を構える
「はい!」
セレンも剣先を俺に向け集中している
そして......
一陣の風が吹いた
-
- 19 : 2017/03/14(火) 15:57:31 :
- 無音
そして宙を飛ぶ物体が一つ
セレンの木刀
真ん中から先がなくなり、本人はそのことにまだ気づいていない
あまりにも速い剣のせいで俺の木刀でセレンの木刀を''切った''のだ
やがて木刀の先が地面に落ちる
それが合図となったようにセレンは膝から崩れ落ちた
「あーあ......これじゃ俺を超えるのは無理だな......」
木刀を振り切った状態で俺は言った
「魔王でも何でもさっさとぶっ倒して帰ってこい......また稽古つけてやる」
それだけ言い残し、俺は自分の家に入った
-
- 20 : 2017/03/14(火) 17:05:33 :
「ふっ!ふっ!ふっ!」
十年前と同じように俺は今日も一人で剣を振っている
弟子が出て行ってから七年
噂は聞いている
西方にある王国の拠点を奪還したり、そのまま敵の拠点を潰したり
東にある小さな村を開放したり、山に居座っていたドラゴンを討伐したり
どれもここで修行していた少女のことを言っているとは思えないくらい勇敢な冒険譚だった
(つーかドラゴン討伐とか......)
俺ですらできるかわからん
相当いい刀があればあるいはと言ったとこか
まぁ仲間がいるそうだから少しは楽だったんだろう
そういえば
ふと思い出す
ここ最近魔物が村に攻めてくることが少ない
兵力をセレン相手に割いてるのだろうか
もう1ヶ月ほど戦いをしていない気がする...
-
- 21 : 2017/03/14(火) 17:21:44 :
- 「魔王が討伐された」
その知らせを聞いたのそれから数日後のことだった
三週間前のことらしい
討伐した当の本人達は既に王城への帰還を果たし
王都ゼノビアでは連日パーティーが開かれているらしい
『地方の荒廃には目もくれず......な』
教えてくれた商人はそうボヤいていた
まぁそんな調子ならセレンが帰ってくるのも当分先なんだろう
今のアイツに勝てるかわからんが......
――確固たる意思を持つ奴ってのはいつか化けるんだよ......どんな形かはわからんが絶対に化ける
「化けたなぁ......」
一人しかいない庭で俺は呟いた
-
- 22 : 2017/03/14(火) 21:30:59 :
「師匠〜!」
俺の弟子が帰ってきたのは結局魔王討伐後二ヶ月の時だった
「あぁ?誰だおめぇ?」
「そんなぁ〜セレンですよ!ただ今戻りました!」
俺に敬礼をするセレン
俺はその姿にため息をつく
「なんですか!?久しぶりの再会ですよ?」
「それはいいんだけどな......後ろの奴らは誰なんだ」
ビシッと敬礼を決めるセレンの後ろに三人の人が立っている
「あぁ紹介します!こちらが私と一緒に魔王を打ち倒した賢者のジャルマ。そしてこちらは大臣のネフィロス卿、そして――」
「ワルト・ヴェインガードだ。無礼な口は謹んでいただこうか''剣聖''殿」
偉そうな態度で(まぁ実際偉いんだろうが)立派な髭を蓄えた壮年の男性が言った
まぁ俺が一番苦手なタイプの奴だ
「私の父です」
申し訳なさそうな態度でセレンが謝る
「悪いな......生憎だが俺は庶民出でね。礼儀とかそっちの方面には疎いんだ」
とりあえず想像通り面倒なことに巻き込まれたようだ
-
- 23 : 2017/03/14(火) 21:51:24 :
- 「それで何のようだ?」
「その態度を変える気はないようだな......いいだろう。用事はお前に報奨を出そうという事になったという報告だ」
「報奨?」
「救国の英雄を育てた男......しかもそれが''あの''剣聖の弟子ともなればそれ相応の身分と財を与えねばなるまいという事です」
大臣と紹介された男が俺に紙を渡す
内容はシンプル
爵位をやるから城へ来い
それだけだ
「断る」
速攻で拒否の意を示す
「お前......何様だ?」髭男爵 が眉を釣り上げる
「り、理由を伺っても?」
「面倒臭い」
「貴様ァ――」
腰に吊るした剣に手をかけようとした髭男爵に殺気を当て硬直させる
「お父様!私の師匠に何をするつもりですか!?」
切れたのはセレン
俺と同じく殺気を出して実の父を睨みつけている
「ちっ!」
大きな舌打ちとともに髭男爵は剣の柄から手を離し背を向けて来た道を帰り出した
「それでは王の召喚命令を無視する......という事ですかな?」
幾分か冷静な大臣は先程までとは打って変わって冷たい目を俺に向けた
「あぁーまぁそうなるのかな?悪いが俺は王城へ行く気は無いし爵位とか報奨とかもいらん」
「わかりました......では失礼」
大臣も一礼した後、踵を返して庭から去っていった
-
- 24 : 2017/03/14(火) 22:01:56 :
- 「お前は帰らなくていいのか?」
俺はもう一人セレンと来た人物......ジャルマに声をかける
「ええ。僕は彼らとは違い個人的な理由でここに来ましたから」
肩を竦め飄々と述べるジャルマは賢者というに相応しい赤いローブを纏っている.....賢者というに相応しくない小柄な体格で
「個人的な理由?」
「ええ。あの無敵の勇者の師匠という存在に興味があったのです。まぁどんな人物かは大体分かったのでもうお暇しますが」
「そうか......」
何か少し気味が悪い
こういうタイプも苦手だ
「ではセレン。僕も失礼します」
そう言って去っていくジャルマの後ろ姿を眺めて思わず一言
「アイツ何なんだ?」
-
- 25 : 2017/03/14(火) 22:19:36 :
- その夜セレンは俺の家に泊まっていくことになった
流石に年頃の女を男の家に泊めるのはまずいと思ったのだが
曰く「師匠なら大丈夫」らしい
よく分からん
まぁと言っても冒険についてマシンガントークを繰り広げるセレンに寝そうな気配など全くしないが
「それでですね!皆さんが応援してくださるんですよ!それだけで私も頑張ろうって思えて――」
とても嬉しそうに語るセレンを見て思う
成長したんだな......と
初めてあった時はちっこいガキだったのに
それに見合わない使命を課せられて......そして果たしてきた
物凄く強くなって帰ってきた
剣客としても、人間としても
明日の勝負は......どうなるんだろうか
まぁ師匠として無様に終わるわけにゃいかないな
''あの人''みたいに......強くあらねばならない
それが師匠ってもんだから
-
- 26 : 2017/03/14(火) 22:37:08 :
突然足元が光った
いや......家全体が光出した
「あ?」
とともに強烈な脱力感と疲労感を覚える
「なんだ......これ」
「体が......重い......?」
それはセレンも同じようだ
「この光は......魔法陣?」
セレンの呟きに俺は入口に目を向ける
刹那、大きな音とともにドアが蹴破られた
そこにいたのは
「テメェ......」
「ネフィロス大臣!?」
昼間の野郎だった
「フリスト・シャール......王国への反逆の疑いがかけられています。速やかに投降しなさい」
手に令状のようなものを持って俺に突きつける
「そうか......宮廷魔術師の広域型魔法陣ってやつか」
国からの命令ってことはおそらく外で何人もの魔術師がこの魔法陣を組んでいるのだろう
「ネフィロス卿!何を馬鹿な事を言っている!師匠がそんな事するはずが――」
「お可哀想に勇者様......そやつに洗脳されてしまっているのですね」
「な!何を!」
「でなければ王子との婚姻......断るわけがなかろう」
入口からもう一人の男が入ってくる
お察しのとおり髭男爵だ
「その男はお前を操り国を転覆させようとした......立派な反逆罪だ」
「何を言うのですか!?お父様!」
「では何故王の命令に背いた......疚しいことがなければ召喚に応じても良かったはずだ」
まぁ......大体話の流れは読めたな
-
- 27 : 2017/03/14(火) 22:50:45 :
- 「めんどくせぇなぁ......」
横に置いてあった木刀を手に取って構える
セレンもそれに倣う
「悪いが俺は面倒臭いことは嫌いでねぇ......王都まで行く気はない」
「そうですか......では仕方ありません......捕らえろ!」
掛け声とともに大勢の兵が雪崩込む
どうやら魔法陣の効果は俺達だけにかかってるようだ
相手は真剣
対する俺達は木刀
敵は大勢
俺達は二人
だが......
勝たねばならない
「はっ!」
声とともに俺は敵の懐に踏み込んだ
-
- 28 : 2017/03/14(火) 23:10:42 :
- なるべく木刀を敵の剣の横に当て切り裂かれないように弾いていく
隙を見せたものには脳天に思い切り打ち込み気絶させ
そうでないものはとにかく殴り続ける
いつもより体が重いせいで思ったように動かせない
がこの程度の敵には劣らない
「舐めんじゃねぇぞ!」
また一人気絶させ俺は吠える
ふとセレンの方を見ると......
三人に押さえ込まれて膝をついている
「セレン!」
助太刀に入ろうとするが、次々と突っ込んでくる雑魚に阻まれ進めない
苦渋の表情を浮かべなおも抵抗するセレン
そして......
その木刀が切られた
「おい!!!」
崩れ落ちる彼女の後に別の兵が周りこみ
手刀でセレンを眠らせる
「ハハハハハハ......さぁ無駄な抵抗はよしなさい」
そのセレンに近寄り首筋に剣を当てる糞野郎
動けなくなった俺を容赦ない暴力が襲う
「さぁて......今日のところはこれでいいでしょう......明日の夜、月が出る頃......この村の警備隊の詰所まで歩いてきてもらいましょうか」
ね?無駄なことはしない剣聖さん?
高笑いとともにセレンを連れ去る大臣
薄れゆく意識の中で最後に聞こえたのはそれだった
-
- 29 : 2017/03/14(火) 23:49:09 :
-
俺は師匠と対峙していた
手にはいつも通りの木刀
どこから打ち込まれてもいいように身構える
「面白くねぇなぁ」
突然師匠が構えを解いた
「なんだお前?誰だお前?」
師匠の言葉の意味がわからない
「俺は......」
「テメェの剣にはなんにも感じねぇな」
剣を収め縁側に座る
「何のためにここにいんだ?お前」
胸からタバコを取り出し火をつける
「何だそのクソみてぇな目つきはよぉ!」
睨みつけられて俺は震える
「テメェは何のために剣を欲した......何のためにここまできた......」
俺は......
「力が欲しい.......」
「守る力を......''あの時''をもう二度と繰り返さないように」
「今のお前じゃ無理だな」
「そんなアホみてぇな面してるうちは無理だ」
タバコを地面に落としそれを踏んずけて師匠が立ち上がる
「刀 を取れ、馬鹿野郎」
言い終わった瞬間師匠の強烈な殺気が場を支配する
「教えろ......テメェの覚悟はどこへ行った」
一陣の風
「くっ!」
辛うじて師匠の剣を受け流す
「見せてみろ......お前が欲したものを!」
一陣の風
避ける
「俺は......!」
一陣の風
受け流す
「俺は......!」
一陣の風
「俺はッ!!!」
受け止める
鍔迫り合い
力で師匠が押してくる
「守りたいものを......守り抜くッ!!!」
力で押し返す
少しふらついた師匠
その木刀を弾き飛ばし
喉元に剣先を突きつける
「いい面構えになったじゃねぇか」
ニヤリと師匠が笑った
「期待に応えろよ...バカ弟子」
-
- 30 : 2017/03/15(水) 00:00:56 :
- ハッと目を覚ます
そして自分が布団の中にいることに気がついた
「俺は......」
「気がついた?」
声のした方を見ると昼間の賢者のガキがいた
「お前は......」
「身構えなくてもいい......僕は君の...いや勇者の味方だ」
「どういう......?」
ふっと微笑んでジャルマは言った
「惚れた人の力になりたい......それだけさ」
その目は
覚悟に満ちていた
「貴方という人間は......信用に足る人だと分かったので力を貸します......いえ力を貸してください」
もたらされた情報は2つ
彼女は今日の夜にこの村を立ち王都まで護送される
護送車は極秘裏に出発するため護衛は少ない。当然魔法使いはいない
「僕が貴方に変身して詰所に行きます。その隙に奪還してください」
有無を言わさぬ剣幕に俺は頷いた
-
- 31 : 2017/03/15(水) 00:08:36 :
- 時刻は午後六時
月が出始める頃
俺は街道を走っていた
手には真剣を持ち
護送車を追って
「守る......セレンを......!」
その後ろ姿が見える
どうやら休憩してるようだ
幸いとばかりに草むらに忍び込み
そして
兵士に切りかかる
「て!敵襲!!!」
叫び声が上がり
あっという間に俺は囲まれる
二人叩ききった時には既に逃げ場は残ってない
まぁ全員切り伏せれば問題ない
そう思って護送車の中を見ると......
そこにセレンの姿はなかった
-
- 32 : 2017/03/15(水) 00:15:41 :
- 「な!!!」
思わず声を上げる
刹那
高笑いが響き渡った
声の主は.......
「テメェ......」
ネフィロス
「残念でしたねぇ...君のお探し物はここです」
後ろに合図を送る
喉元に短剣を突きつけられたセレンが連れられてきた
「なぜ......」
「なぜ...?私があの賢者の裏切りに気づかなかったと......?」
裏をかかれたのだ
「あのボーヤが勇者を思慕していたのは知っていましたから......後をつけさせて...ね?」
ってことは...
「まぁ最後は殺しましたけど」
高笑いが響き渡る
底知れぬ怒り
俺の体中をそれが巡った
「さぁ...大事な弟子が殺されたくないなら......神妙にお縄につきなさい」
その言葉を合図に兵士が近寄ってくる
-
- 33 : 2017/03/15(水) 00:23:56 :
- 「なぁ......」
俺は静かに問いかけた
「俺がなんであの頑固な師匠に師事できたと思う?」
「俺の目に......確固たる意思が宿ってたかららしい......」
「俺の両親は俺を守って死んだ」
「だから俺は力を欲した......」
「あの時みたいに力がないせいで誰かが死んだりすることがないように」
「俺が守れるように」
だが......
「昨日の戦い......俺はそれをすっかり忘れてたみたいだ」
「温い生活が続いてたからな.....」
「誰かを守るって信念を...」
「その為に命を懸ける覚悟を...」
「夢に師匠が出てきて気づいた」
「俺がすべきことは......」
『確固たる意思ってのを持つ奴はいつか化けるんだよ』
『俺はその可能性をお前に見た』
『期待に応えろよ...バカ弟子』
「命張って......セレンを守ることだ」
-
- 34 : 2017/03/15(水) 00:26:45 :
- 一陣の風が吹く
セレンを抑えていた兵士の首が飛ぶ
一陣の風が吹く
その隣にいた兵士の首が飛ぶ
一陣の風が吹く
その隣にいた兵士の首が飛ぶ
一陣の風が吹く
その隣にいた兵士の首が飛ぶ
一陣の風が吹く
一陣の風が吹く
一陣の風が吹く
一陣の風が吹く
残ったのは返り血を浴びた俺と
守りきれたセレンだけだった
-
- 35 : 2017/03/15(水) 00:34:32 :
-
王国から指名手配された男女二人
勇者とその師匠
王国は彼らを犯罪者と呼び
彼らには多大な懸賞金がかけられた
国を転覆させかねないと国王が怯えたためだろう
勇者探しに躍起になった王族
もはや民衆はそんな国に呆れ果て
地方から次々と反旗を翻すものが出てきた
そして......
魔王が討伐されてから二年後
王国はなくなり新たに一つの国が誕生した
新たな政府は世界を変えた勇者を英雄と呼び
政府に迎え入れようと行方を探した
しかし彼らが見つかることは無かった
ただひとつ
かつての剣聖が住んでいた山に
一度だけ一組の男女が訪れたのが目撃されたというのは有名な話である
fin
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- 36 : 2017/03/15(水) 00:38:03 :
- はい!いかがだったでしょうか?
力を持つものの覚悟、そして師匠から弟子へというテーマで今回の作品を書かせていただきました!
難しかった!
是非感想、お気に入り登録していただけたら嬉しいです!
そしてもしかしたら勇者サイドの話を書くかも......(未定)
何はともあれ!最後まで読んでいただきありがとうございました!
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