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鬼祈島

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  1. 1 : : 2020/05/03(日) 19:19:31
    春のオリコ祭投稿作品です!
    今回は参加者全員でテーマを出し合い、ランダムに交換する方式で書いていきます!

    提出テーマ、作品テーマは以下の通りです。

    ししゃもん→De「悪」
    シャガル→ししゃもん「氷」
    あげぴよ→あげぴよ「散」
    風邪は不治の病→風邪は不治の病「水」
    理不尽→シャガル「巨」
    De→理不尽「嘘」

    それでは次レスより本編です。
  2. 2 : : 2020/05/03(日) 19:20:27

    離島の学校っていうとどんなイメージだろう?

    やっぱ港町で田舎で10年ぐらい時間が遅れてるような…

    ぶっちゃけだいたいそんな感じだ。

    俺の場合、ある一点を除いて……


  3. 3 : : 2020/05/03(日) 19:23:10
    桜が散って葉桜になる頃にはこの岡は花で一杯になる。

    この白い花の咲く岡の先が俺の家。

    白い花はウチで育ててるオリーブだ。

    ここの景色は正直俺の自慢だ。

    「ただいま。」

    「白坂」の表札を通り過ぎると「お帰り」の声が二回聞こえる。

    「あれ? お前部活は?」

    「今日は休みだよ~ 昨日大会だったしね」

    「って… ヤバい 剪定手伝うんだったわ」


    「もう終わったわよ。」

    「え…っ」

    マズイ、母さんだ…

    「あんたが寄り道してる間にもうとっくに終わっちゃったわよ!」

    「真貴那ちゃんが手伝ってくれたからね!」

    「いや… たまたま時間かかっただけ…」

    真貴那「雄毅、口になんか付いてるよ」

    雄毅「えっ! うっそだろ…」

    真貴那「うっそーー!」

    雄毅「おい!!」

    母さん「まったく嫌なとこばっか似るんだから…」

    母さん「ついでだからおつかいも行ってきて。」

    雄毅「はぁ… 分かったよ… 観念しましたー…」

    母さん「真貴那ちゃんはちょっとお茶でもしていく?」

    真貴那「いえ、お構いなく わたしもちょっと買いたいモノありますし」

    母さん「そうなの? じゃあ気を付けてね。」


    ……景観はいいけど、やっぱ帰り道が登り坂はタルいな……


    真貴那は4年程前からウチのオリーブ畑の手伝いをしてくれている。

    5年前に親父が行方不明になって途方に暮れていたところ、彼女が声をかけてきた。

    実際、相当助かってる。真貴那のお陰でウチは盛り返したって言ってもいい。

    それにしてもこんな島のどこで行方不明になるんだか…


    真貴那「ダメじゃん!お手伝いサボっちゃ」

    雄毅「先週の続きがどうしても気になったんだよ!あそこのコンビニ秒で売り切れっから! 」

    真貴那「立ち読みすると露骨にジャマそうにするからね~あのコンビニ…」

    真貴那「いや~ まさかあぁいう展開とは…」

    雄毅「やめろ! まだ読んでないんだぞ!!」

    雄毅「ていうか… そんな事よりだ」

    真貴那「分かってるよ。明後日の台風、なんとかしないとね…」

    雄毅「じゃあ…場所はいつもの岬で…時間もいつも通りでいいか?」

    真貴那「いいよ。今回もよろしくね。」

    雄毅「ま、ウチの収入にも関わる事だからな。」

    これこそ俺の生活を普通たらしめぬ理由。

    この一点においては確実に平凡じゃないって俺は言い切れると思う。
  4. 4 : : 2020/05/03(日) 19:25:03
    2日後の深夜、俺と真貴那は島の岬にいた。

    深夜の田舎に季節外れの台風接近。
    人の気配は無い。

    真貴那「大丈夫?つけられてない?」

    雄毅「あぁ、大丈夫だ。尾行の気配は無かった。」

    真貴那「よし… じゃあ、始めようか。」

    雄毅「あぁ。さっさと終らせて寝よう」

    風が逆巻き、紅い光が溢れだす。

    光の出処は真貴那自身だ。

    この時、真貴那の額には… 角が生える。
    真貴那はあまり見て欲しく無いようだけど…

    手を組み合わせ、真貴那が祷る。

    真貴那の祷りに合わせ、俺も手を合わせる。


    真貴那が詠唱を始めると風と光が一層強くなるのが瞼の裏からでも分かる。


    そして、閃光と突風が過ぎると…



    島の直ぐ側に迫る雷雲のカーテンは開かれ満天の星空が姿を現す。
  5. 5 : : 2020/05/03(日) 19:27:59
    この辺は街灯も無いからここの星空は本当に最高だ。

    雄毅「ふぅ… ありがとうな。真貴那」

    真貴那「うん… どういたしまして。」

    真貴那の角が引っ込んでいく。

    雄毅「やっぱ灯りがないと綺麗だな」

    雄毅「たまには見て行かないか? 」


    雄毅「分かったよ… 俺もすぐ行く。」

    真貴那は鬼だ。いや、比喩とかじゃなくて。

    真貴那は俺の祈りを元にして強大な力を発揮する鬼だ。

    台風を消し飛ばす事だって、地震を止めちまう事だって出来るんだ。

    俺と真貴那はかれこれ3年くらい"これ"を続けてるが今日の真貴那はどこかよそよそしい。

    俺は真貴那のあの姿に対して怖いとか嫌悪感は無いんだけどな…
  6. 6 : : 2020/05/03(日) 19:31:38
    ~翌朝~


    「今日、上陸が見込まれていた台風は突如として雨雲に変わり…」

    雄毅「じゃ 行ってくる…」

    母さん「朝から大あくびしてんじゃないの! 行ってらっしゃい!」

    真貴那との儀式の翌日はだいたいいつもこうだ。まぁ目立つわけにはいかないし。


    母さん「さて… 夕方までには4番の剪定をしないと…」


    ________
    _____
    ___




    雄毅「はよーっす…」

    教室のドアを開けるとやたら騒がしい事に気づいた。

    「すげぇなコレ…」「合成じゃね?」「いや、でも台風は本当になくなっちまったし…」

    クラスの殆ど全員がスマホに釘付けになってるなんて珍しくもないけど…

    聞こえてるワードがどうしても気にかかる。

    「あっ! 雄毅! 見てみろよこれ!!」

    SNSでバズったらしいその映像を見て俺は血の気が引いた。

    雄毅「へぇ…… すげぇな… これどこなんだって?」

    「それがさ、場所はこの島らしいんだよなぁ」
  7. 7 : : 2020/05/03(日) 19:33:24
    真貴那「おはよー」

    「あっ! 真貴那! ちょっとこれ見てみなよ!」

    真貴那も同様に青ざめて…

    いない。

    どこか… 驚きが少ないような…こうなる事を知っていたかのような……

    俺はその日の授業を終えて真貴那に直接問いただす事にした。

  8. 8 : : 2020/05/03(日) 19:34:10
    真貴那「………」

    雄毅「……………」

    呼び出したのは自分の方なのに何だかやりづらくて気まずい思いだった。

    真貴那「今日… ネットに上がってた動画の事だよね…?」

    雄毅「そう! それだよ!」

    雄毅「真貴那は…… もしかして、こうなるって知ってたのか…?」

    真貴那「………はぁ。」

    真貴那「やっぱり雄毅はごまかせなかったか…」

    真貴那「今日さ… これから大丈夫?」

    雄毅「そりゃ… 連絡入れればまぁ大丈夫だと思うけど…」

    真貴那「雄毅にはちゃんと説明しなくちゃね…」
  9. 9 : : 2020/05/03(日) 19:35:23
    島の反対側に来るのは島民である俺でもあまり無い。

    島の反対側に入り、山道を真貴那は行く。

    雄毅「なぁ 真貴那の家って学校に近いんじゃなかったか?」

    真貴那「あれはわたしが人間として生きていくために借りてる別荘なの」

    真貴那「わたしの… 実家って言ったらいいのかな?産まれた場所はこの山の奥なんだ。」

    雄毅「へぇ……」

    俺は真貴那について、あまりに知らな過ぎると思い知った。

    物思いに耽っているうちに山の奥の洞窟に着いた。

    真貴那「この中だよ。 今はお父さんが1人…?で暮らしてるけど」

    モヤモヤしたモノを抱えながら俺は洞窟へと歩を進めた。

    真貴那「お父さん 帰ったよ」

    「あぁ 戻ったか… 真貴那……」

    洞窟中に響くような、スピーカーで発しているかのな巨大な声が聞こえてきた。

    真貴那「お父さん。部屋の灯りつけるよ?」

    「そこの人間は夜目が効かぬのか。まぁいい。つけてやりなさい。」

  10. 10 : : 2020/05/03(日) 19:36:58
    「お前が真貴那が話ておった人間か…」

    あぁ、やっぱり。

    ここに来て、今さらながらに種族の違いについて思い知らされる。

    そりゃ耳元でスピーカーが鳴ってるような大声に聞こえて当然だ。

    一軒家よりもデカイ大鬼が洞窟で喋っているなら当然だ。

    大鬼「それで… ただワシに挨拶に来たというわけでもあるまい…」

    真貴那「うん… 色々と話さなきゃいけない事があるしね…」

    真貴那「まず… どこから話そうか…」

    雄毅「昨日の儀式の様子が拡散されてたのは… やっぱ最初から計画してた事なのか?」

    真貴那「そう… 雄毅は神様は人々に信仰されないと存在する事はできない… とか聞いたことない?」

    雄毅「なんとなく… もしかして 鬼でも同じ事って話か」

    大鬼「そうじゃ… 昔、 ワシらのような鬼はそこいらじゅうで暴れまわり…奪い、殺し、犯した……」

    大鬼「まぁ、鬼の方共は"信仰を集めるため"というより"そうしたいから"やっていたんじゃがの」

    雄毅「暴れまわる事が信仰に…?」

    真貴那「信仰… っていうより人に『鬼は確かにいる』って信じこませる感じかな」

    大鬼「恐怖も… また信仰じゃよ。小僧」

    大鬼「まぁそんなこんなで暴れておれば…当然人間も黙ってないわな。」
  11. 11 : : 2020/05/03(日) 19:49:14
    大鬼「人間は鬼に… 戦を挑んで来たわ…」

    大鬼「無論、鬼がそう人間に負けはせぬ…が」

    大鬼「鬼というモンは大概にして自分本位、時分勝手なモノ…」

    大鬼「人間のように…徒党を組み、集団戦で戦う事をしなかった… 人間の真似を鬼がするのは屈辱というのも… あったかも知れぬがな」

    大鬼「どちらにせよ鬼共は… 思いもよらぬ程に数を減らされた… 聞くに人は6分まで…鬼は5分まで死んだと聞く。」

    大鬼「そこで鬼、人間の代表者がそれぞれこう決めた。」

    大鬼「"人間は鬼に生け贄と信仰を捧げる代わりに…鬼は自然の脅威から人間を保護する"とな…」

    真貴那「………………」

    雄毅「これが… 今朝の件とどう関係が?」

    大鬼「まぁ、聞け。順を追って話さねば混乱するであろう。」
  12. 12 : : 2020/05/03(日) 20:30:31
    大鬼「そうして…鬼と人間とはひとまずのところ…平穏を取り戻した。」

    大鬼「ところが…時代が進むにつれ、人間は鬼に対する恐れや信仰を失っていった。」

    大鬼「そうすると困るのは当の鬼の方でな」

    大鬼「信仰が集まらぬなら力を充分に発揮出来ぬ、力を発揮できぬなら信仰も集まらぬ…」

    大鬼「といって… また好き放題に暴れだせば今度こそ鬼は根絶やしにされてしまう。」

    大鬼「袋小路というヤツよな…」


    雄毅「だから… 手っ取り早く多くの人間に鬼の存在を認知させる必要があった……」

    大鬼「話が早くて助かるのぅ いんたぁねっとなる物を使う事を提案したのは…」

    真貴那「わたしがお父さんに言ったの。人間界にはこういうのがあるって。」

    真貴那「お父さん… 訳あってここから動けないから…」

    大鬼「そうして…金子(きんす)握らせた人間をあの場で待ち伏せさせたのよ。」

    雄毅「それが今朝の動画ってことなのか…」
  13. 13 : : 2020/05/03(日) 20:48:47
    大鬼「話とはもう1つあっての…」

    大鬼「………………」

    今目の前にいる巨大な鬼は何やらばつが悪そうだ。

    そしてもっと顔を青ざめさせているのは…


    真貴那だった。


    大鬼「鬼と人間が交わした契約を覚えて…」

    真貴那「いい!!!」


    真貴那「わたしが… 言うから………」

    雄毅「真貴那……?」

    真貴那「雄毅のお父さんって… 5年前から行方不明だよね……」

    雄毅「そうだけど… なんで今……」

    真貴那「あの日… 足を滑らせて動けなくなった雄毅のお父さんを…」

    真貴那「ここへ連れて来て……」

    雄毅「よせ…」

    真貴那「…………たの…」

    真貴那「雄毅のお父さんを… 殺したのは……」

    雄毅「やめろ!!!!」


    真貴那「わたしなの……」

  14. 14 : : 2020/05/03(日) 21:14:47
    雄毅「……な… なんだよ……それ…」

    雄毅「……笑えねぇよ…冗談下手すぎかよ…」


    真貴那「………うそじゃない……」


    大鬼は俺の前に壺と… 段ボールを差し出した。

    大鬼「………お前の父の形見と…遺骨だ。」




    大鬼「鬼は… 人の信仰の他に… 人を生きたまま喰らわねば本来持つ力を発揮出来ぬばかりか…20歳ほどで死んでしまうのだ……」

    大鬼「昔は…人の側から密かに生け贄が送られていたが… これも時の流れとともに潰え…」

    大鬼「自力で"人"をどうにかして手に入れねばならなくなった…」

    雄毅「なん…… だよ…」

    雄毅「だったらなんで… 俺なんかに近付いたんだよ……」

    雄毅「俺をコケにしてんのか?」

    雄毅「どうしてだ…?」

    真貴那「……ごめんなさい…」

    雄毅「そういうことが聞きたいんじゃねぇんだよ!!」

    雄毅「俺も母さんも待ってたんだぞ!!それが今になって…こんな姿で返しやがって……!!」

    雄毅「お前一体どういうつもりで俺や母さんに……!!」

    大鬼「真貴那は…お前に負目を感じ…お前やお前の母の身の回りに……!」

    雄毅「ふざけんな!! お節介だよバカ野郎!!!!」

    雄毅「お前らが人なんか食わなけりゃ最初から……!!」




    ……吐いた言葉は…飲み込めない物だ。

    今俺が言った言葉は魚に"泳がなきゃよかったじゃねぇか"と言ったに等しい。


    けど…今の俺には… ここにいる2人の鬼がやはり人と相容れるモノとは思えなかった。
  15. 15 : : 2020/05/03(日) 21:25:23
    __________
    ______
    ___





    大鬼「………行ってしまったか…」

    真貴那「………ごめん…お父さん………」

    大鬼「言い出さねば… あるいはあの男と変わらぬ日々を過ごせたかも知れぬものを…」

    真貴那「……そうかもね… でも… ダメだよ それは……」


    真貴那「きっと…… これが報いなんだよ…」

    大鬼「………………」


    真貴那「それに… これで鬼は世界に広く… 多くの人に知られることになる…」

    真貴那「忙しくなるね……」



    大鬼「………すまぬ…」


    真貴那「大丈夫だよ。」
  16. 16 : : 2020/05/03(日) 21:29:59











    あれから、何日経っただろうか。

    この島の定期便が満杯になり、町には見かけない人が多くなった。


    "超能力者のいる島""鬼の住まう島"なんてメディアで取り上げられ、岬はちょうど人でごった返している。

    あの日から… 真貴那は見かけていない。

    今朝のテレビを除いて。
  17. 17 : : 2020/05/03(日) 21:40:23

    ~数時間前~

    「今日はですね~ snsを騒然とさせたあの! 鬼祈島にやって参りました!」

    「早速ですね! この島の"鬼"であるという東山真貴那さんにお話しを伺いたいと思います!」


    テレビに映った真貴那は化粧をして…服もいつもの制服じゃなくて御子の衣裳を纏っている。


    真貴那「皆さんをお救いするために… わたしは全力を尽くしたいと思います!」

    カメラにも物怖じせずに答えている。

    なんでも今回は数十年以内に確実に起こるという大地震の脅威を無くすということだ。

    俺1人が祈って台風を消せたんだ。今さら地震なんてどうって事ないだろう。
  18. 18 : : 2020/05/03(日) 21:47:26


    今まで心の底に封印していたが、今朝のテレビを見てふと、思ってしまった。

    俺は真貴那とどうしたいんだろう。


    このまま絶縁してしまうのが互いのためのような気もする。

    が、やはりあの時は存在否定とも言える発言をしてしまった。

    父さんを殺された… もとい食われた事に関しても俺は許せるのか。

    そんな事を考えていると…

    母さん「雄毅、手紙来てるわよ。」

    雄毅「手紙……?」
  19. 19 : : 2020/05/03(日) 21:52:28

    封筒の中には手紙が1通と、その他にもう1枚紙のような物があった。


    "

    君に話せなかった事、渡せなかった物をこの手紙に同封する。

    真貴那の父
    "


    雄毅「これは… 式神?」

    手に触れた途端、俺の意識は飛んでしまった。
  20. 20 : : 2020/05/03(日) 22:26:37



    雄毅「…………」


    「…雄毅? 雄毅なのか?」

    雄毅「う……ん………」

    雄毅「……え?」


    雄毅「とう……さん………?」

    父さん「雄毅…… おまえ……… でっかくなったなぁ…!」

    雄毅「父さん!!」


    父さん「雄毅… お前にまた会えるなんて思ってもみなかった…」

    父さん「けど… ダメなんだ… 父さんどうしてもお前に言っておかなきゃならない事がある…」

    雄毅「言わなきゃならない事……?」

    父さん「あの日… 父さんはあの鬼の子に自分を食べてくれるように頼んだんだ……」

    雄毅「そ…そんな事あるのかよ…… なんで…」

    父さん「今でこそ… 魂だからこんな姿でいるけど… 父さん… あの大雨の日はひどい状態だったんだ…」

    父さん「頭蓋骨、両腕両脚の骨が滅茶苦茶に折れて……」

    父さん「携帯も落として… 声も張り上げられない所に… 彼女が来たんだ。」

    父さん「彼女は…全てを話してくれた。自分の持つ力、自分の素性……」

    父さん「そして… 父さんを食べようとしている事もね……」

    雄毅「じゃあ…父さんはまさか……」

    父さん「父さんを殺したのは真貴那ちゃんじゃなくて… ただの土砂崩れ。」

    父さん「父さん… あの時…… もうダメなんだって分かってさ」

    父さん「死ぬのも勿論怖かった… でも……」

    父さん「母さんや… 雄毅の未来を思うと父さん……どうしようもなく怖くて…辛くなってな…」

    父さん「そうしたら… あの子が"わたしに任せて"って言ったんだよ……」

    父さん「あなたの代りに…その子と…お嫁さんを護るからって………」

    父さん「雄毅……?」

    雄毅「ぁ……ぁあ………」

    雄毅「分かってた…… 分かってたはずなのになぁ………」

    雄毅「真貴那が……悪意を持って俺や母さんに近付いたんじゃないって事くらい……」

    雄毅「俺は…… 真貴那の"殺した"って言葉を真に受けて…………」


    雄毅「ぅうッ…… ぅぅううう………」


    父さん「なら… 早く戻ってあげるといい……」

    父さん「真貴那ちゃんには… 雄毅が必要だ。」

  21. 21 : : 2020/05/03(日) 22:33:49













    __________

    ______

    ___





    「雄毅! ちょっと起きなさい! 雄毅!!」


    雄毅「……母さん…?」

    母さん「なに寝惚けてるのよ!! 大変な事になってるわよ!!」

    母さん「この辺りもけっこう揺れたんだから……」

    雄毅「揺れたって何の話………」

    母さん「もう!!ついさっき大地震が起きたのよ!!」

    雄毅「え? だってそれは真貴那が……」

    母さん「何言ってんのよ!!テレビだってもうそんなオカルトモンやってる場合じゃないでしょ!!」


    今回は確か、大地震を事前に止めるとかいう話だったはずだ。

    それがついさっき起きた。

    止めるはずのものが、今さっき起きた。
  22. 22 : : 2020/05/03(日) 22:37:42



    「ヤラセ乙」


    「やっぱり鬼なんていなかったね」


    「オカルト番組やろ期待する方が馬鹿」


    「タイミング神すぎwww」


    「コスプレはかわえぇ」

  23. 23 : : 2020/05/03(日) 22:39:49


    脚は意識するまでもなくすでにそこへ向かっていた。


    後ろから母さんの声が聞こえた気がしないでもない。


    マスコミが一目散に逃げた跡に真貴那は1人座り込んでいた。
  24. 24 : : 2020/05/03(日) 22:54:16


    真貴那「………ゆ…うき……?」

    真貴那「わ……わたし… し…しっ…ぱい……しちゃった………」


    真貴那「人……あんなにいて… いたのに……」

    真貴那「だれも…… 信じてなかった……」


    それはちがうなんて言えるのか??


    お前が? お前なんかが? お前のような人間がか?


    お前()は一度、真貴那を信じる事をやめたのだ。



    真貴那ならやってくれると心の底から信じなかったから。



    今このザマなんだ。

    雄毅「真貴那は… 悪くない……」

    雄毅「俺が…… 真貴那を"信じなかった"から……!」

    真貴那「雄毅……」

    雄毅「災害を止める力があるんだ!! 壊れた街を元に戻す力だってきっとある!!!!」

    雄毅「もう…… 疑わないから………」







    世界で誰1人として真貴那を信仰しなくても…

    俺だけは真貴那を信仰し(しんじ)ているから。



    失なわれた物をこれから一緒に取り返しにいこう。



    このままでは終われない。


    雄毅「真貴那の父さんの所へいこう。これからどうするか… 話し合おう。」

    真貴那「うん……」


    まだ足元に力が入らない真貴那の手を引いて洞窟を目指した。
  25. 26 : : 2020/05/05(火) 21:25:23
    雄毅「よし、洞窟は塞がってないな。」

    奥へ進むと大鬼はそこにいた。

    大鬼「来たか……」

    雄毅「あの地震の被害を元に戻したい!」

    大鬼「その前に… ワシは謝らねばならぬ……」

    大鬼は掛けていた椅子から下りると…

    両手両膝を地面に着けた。

    大鬼「ワシの責任じゃ……!! すまぬ!!」

    大鬼「鬼の力の復権を願うばかりで… お前たちには……取り返しのつかない事をしてしまった……」

    雄毅「取り返しは… まだ付くと思います……」

    雄毅「真貴那の力を…… 壊れた街を元に戻したり…そういう事に使えないですか!?」

    大鬼「……真貴那の力を使えばそれは可能ではある…」

    大鬼「だが… 今は無理じゃ……」

    雄毅「今は……?」

    真貴那「力が使えないの……」

    真貴那「力が無くなったわけではないと思う…でもダメなの……」

    真貴那「あの時もそうだったの… いくら力を引き出そうとしても全然…パワーが足らないというか……」

    大鬼「人が…… 真貴那を真に信じていないからよ……」

    大鬼「考えが甘かった… 人はあの映像1つでは真貴那が真に力を持った鬼と信じていなかったのよ」

    大鬼「ゆえに… 真貴那の力の源に不純物が混ざるようになったのよ」

    大鬼「真貴那を認識しながら…その実、真貴那を信じていない者が多すぎた…」

    雄毅「機能は無くなってないけど…燃料に不純物が混ざってて機能が十分に発揮出来ないって事か…」

    真貴那「半端な力で地殻に干渉したから… それで地震が引き起こされた…」

    大鬼「そして今… "真貴那は力を持った鬼ではない"と広まってしもうた…」

    雄毅「だから……今はもう無理だと…」
  26. 27 : : 2020/05/05(火) 21:40:58
    大鬼「それに…"元に戻す"とはどこまで戻すつもりなのだ?」

    大鬼「死人返りまでしようというのではあるまいな?」

    雄毅「そのつもりですが……」

    大鬼「……神の領域にまで手を出そうと言うか…」

    大鬼「死人の魂は神仏の管理下になる… そこから魂を強奪するとなれば…」

    大鬼「地獄行きでは済まぬぞ……」

    雄毅「不可能……ではないという事ですね…?」

    大鬼「お前の父に引き合わせたのも…神の領域に干渉しての事だからの…」

    大鬼「あの式神は… お前の魂の帰る場所を印すと同時にあれが身代わりとなって"罰を受ける"。」

    大鬼「あの式神は……… もうあの世にもこの世にも無いぞ。」
  27. 28 : : 2020/05/06(水) 18:36:25
    大鬼「神に送る身代わりは………」

    大鬼「最悪… ワシがどうにかしよう…」

    真貴那「…お父さん………」

    大鬼「真に厄介なのは最初の問題の方よ……」

    雄毅「真貴那を認識した人間は多くても真貴那を信じている人間が少なすぎる事ですか?」

    大鬼「それよ。こればかりは……」

    雄毅「俺の知る限り… 真貴那の儀式に付き合ってきたのは俺だけです… 」

    雄毅「どうにかならないんですか…?」

    大鬼「無茶な…… 洪水に1人で立ち向かうような物だぞ……」

    大鬼「お前が1人で頑張ったところで…… それは真貴那には………」


    真貴那「……いや」

    真貴那「ちがうよ。お父さん。 わたしは聞き届けてみせる。」


    真貴那「わたしを信じてくれる雄毅の声を…絶対聞き逃したりしない。」


    真貴那「だから… お願いです。お父さん 行かせてください………」













    真貴那(これはわたし達が決着をつけなくちゃいけない事……)

    真貴那(ごめんなさい… お父さん。たとえ止められても…わたしは行きます。)


    大鬼(…いや、ワシはむしろ礼を言う……)

    大鬼(老いぼれの暴れ鬼には過ぎたる最期じゃ……)

    大鬼(ツケにしては…随分安上がりよ……)


    真貴那(………… お父さん…… わたし…… お父さんの娘で良かった…)


    大鬼(あぁ… 幸せになるんじゃよ真貴那………)

    大鬼(さぁ もう行くがいい…… 魂がこの世から剥離していくほどに儀式は困難になる。)

    真貴那(ありがとう…… お父さん。 わたし… 行ってきます。)











    雄毅「真貴那…? 真貴那!! 真貴那の父さん!」

    雄毅「どうしたんだよ2人とも急に黙りこくって………」

    雄毅「真貴那………」



    真貴那「なんでもない………! 大丈夫。」


    大鬼「まったく! カカ……ッ! これは言っても聞かぬ顔じゃな…」

    大鬼「であれば…ワシはお前たちの身代りを用意せねばならない……」

    大鬼「ここは閉ざす… ワシが"良い"と言うまで……開けるでないぞ…」


    大鬼「さぁ早く行け!!!」

    真貴那「行こう……! 雄毅。」

    雄毅「分かった……! やるぞ…! 真貴那!!」



    大鬼「雄毅………と言ったか……」


    大鬼「娘の事……よろしく頼むぞ…………」




    雄毅「はい……!!」



    真貴那と共に来た道を戻り、洞窟の出口に差し掛かると…


    洞窟はその入り口を閉ざした。恐らくは永遠に……



    真貴那「雄毅…?」




    言葉は……見つからなかった。


    感謝したい事、謝りたい事……言いたい事が多すぎた。


    俺はただ、そんな感情を全部ごった煮にして…頭を下げるしかなかった。




    真貴那「…………ありがと……」

    雄毅「岬へ行こう。 決着をつけに行こう。」
  28. 29 : : 2020/05/06(水) 19:01:48



    鬼祈岬(きさらぎみさき)



    岬から見える海はいつものコバルトブルーではなく、泥やらゴミの混じった黒くて茶色い汚いい色をしていた。

    ここも多少の被害は被ったが海の向こう側程ではない。

    この海の向こうは文字通り変わり果てた姿になっている。


    雄毅「始めよう… 真貴那。いつものように…!!」


    真貴那「うん…!」


    真貴那も本気モードだ…

    纏った御子服に角と黒髪がよく映える。




    やっぱり俺はこの真貴那が好きだ。

    ずっと俺のそばにいてくれた幼馴染みで…ヒーローで…


    俺の………


    真貴那「行くよ雄毅……! 絶対元に戻すからね……!!」


    雄毅「あぁ! いつでもいける!!」
  29. 30 : : 2020/05/06(水) 19:24:25


    目を閉じ、真貴那に合わせて祈りを捧げる。


    破壊された全ての物が元に戻るように。

    今日生きていたはずの人達が今日、家に帰れるように。


    ……この儀式が終わったら真貴那が笑ってくれるように。




    祈り、祈り、祈り、祈る。



    思索の深みに入る頃… いつもと明らかに違う…
    違和感に襲われた。


    何かが聞こえてくる。





    「な~にが鬼だよバカじゃねぇか」


    ………は?



    「コスプレ詐偽女」



    ……………何だよコレ



    その音あらぬ声は徐々に反響と増幅を繰り返し……


    濁流となって押し寄せた。


    「ふざけんな死ね」
    「人コケにすんのも大概にしろよ」
    「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い」
    「お前が代わりに死ね」
    「偽者」
    「詐欺師」









    ふざけるな ふざけているのはお前らの方だ。


    …お前らが…………!!!!











    真貴那………


    真貴那が震えている………



    見えるわけじゃないけど、分かる。


    こんな事を言ってる場合じゃあない。

    俺もかつてはあっち側に成り果てた。

    あいつらを怨むのは今やるべき事じゃあない。



    怨嗟、悲しみ、怒りに無念の濁流に真貴那が連れて行かれないように。

    真貴那が俺を見失わないように。


    真貴那の手を握った。


    俺はここにいるぞ。


    世界中で誰よりもお前を信じている俺がいる。


    飲まれるな。流されるな。



    真貴那ならやれる。



    絶対に出来る。



    俺と真貴那ならば!!



  30. 31 : : 2020/05/06(水) 19:25:34




    (無音)





    気がつくと、辺りからは何も聞こえなくなった。



  31. 32 : : 2020/05/06(水) 19:36:05



    「………き!」




    「……………ん!!」




    なんだ?






    今度は知ってる声の気がする。






    「雄毅………!」


    「真貴那ちゃん………!!」




    あぁ、知っていた筈だ。


    雄毅「かあ……さん………」

    母さん「この大馬鹿!!!!」


    雄毅「いっってぇ!!!」


    母さん「いきなり飛び出したりなんかして!!! どれだけ心配したか分かってるの!!?」

    雄毅「……ごめん… 母さん……」

    母さん「あんたが… もしあんたもあのまま帰って来なかったら…… 母さん………」

    雄毅「ごめん…… ごめんなさい!! 母さん!」


    母さんには勿論申し訳ないと思った。

    あんな緊急時で何も言わずにどっかへ行けばひっぱたかれるくらいは当然だ。

    でも、俺の頭は疑問と不安で埋めつくされた。



    「まさか…… 上手くいかなかったのか……?」

    母さんが捜しに来たという事はそこまで長い時間は経っていないはずだ。


    そうだ。そうだ海だ。



    あの地震で滅茶苦茶になった島の海。


    儀式が上手くいったならば…………








  32. 33 : : 2020/05/06(水) 19:41:08

    雄毅「真貴那! 真貴那おきろ!!」


    真貴那「ん……ぅ?」


    雄毅「見ろ…真貴那………」




    雄毅「いつもの海だ………」





    白波を立たせ、太陽の光を反射して耀くその海は…


    まさにコバルトブルーであった。


    真貴那「綺麗………」


    真貴那「昼だとこんななんだね………」


    母さん「良かった……真貴那ちゃんもケガはないみたいね……」

    母さん「あれ? 真貴那ちゃん。それは……?」
  33. 34 : : 2020/05/06(水) 20:45:02


    ~7年後~



    「あの奇跡の復興劇から既に7年が経ちましたが…未だに何が起こったのかは解明されておらず…… 未だに当時世間を騒がせた鬼による物か…自然現象かで意見が割れており……」

    母さん「ちょっと雄毅! 遅れるわよ!!」

    雄毅「分かってる!!」

    テレビを切って鍵を閉めて家を出る。

    慌ただしく家を出る俺をオリーブの白い花が見送っている。


    今日という今日は遅刻は許されない。


    今日は俺にとって… いや、色んな人にとって特別な日だ。とても忙しくなる。


    集合場所は島の神社だ。

    俺は今日、ここで神に誓いを立てる。


    ……なんとも複雑な気分ではあるが。



    旧友との談笑もそこそこに俺は見たいものがあった。

    どの道今日には見る事にはなるんだけども。


    控え室の扉を開けると………


    真貴那「雄毅……」


    真貴那「どう……なのかな? これ…」

    真貴那「これが本当の角隠し……! なんて…」

    雄毅「似合ってるよ。 ……綺麗だ。」

    神が…… 俺の誓いを聞いているかは分からない。


    でも、俺を支えてくれた鬼や人に確かに誓おう。


    これまでもこれからも一番側で
    真貴那を世界で一番信じてるって。









    END
  34. 35 : : 2020/05/06(水) 20:50:07
    あとがき


    一旦完結! とはしたんですが尻切れトンボ感が否めなかったのでリメイクしてみました!

    悲しい結末も一応考えてはあったんですがやっぱハッピーエンドの方が良いと個人的には思ったのでこんな感じに仕上げてみました。

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著者情報
jun

シャガルT督

@jun

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