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この作品は執筆を終了しています。

泣いて泣いて、泣き終わったらまた飛べば良い。

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  1. 1 : : 2018/08/19(日) 14:59:43
    *注意*
    ・こちらは安価が進みそうにないので自給をします。
    ・百合成分あり。あやれいむだろあやさなだろ、ゆゆみょんだろうどみょんだろなどと押し付ける連中は帰ってもらいたいですが私の地雷は近親相姦しかない。
    ・妖夢受けだろjkの方も見てってください。
  2. 2 : : 2018/08/19(日) 15:08:24
    ――射命丸文は、誰とでも接する。
    隔てる事なく、隔てた者とも均等に、平等に。
    よく知っている者だとしても、よく匿う者だとしても、嫌われるように手回しをして。
    自分から距離を取り離れるその姿は、あくまでも職業柄接しているだけだと体現するかのよう。
    天狗の性質上、同胞以外と深い関わりを持つことはないと聞く。
    けれど、それで良いのかな。
    生きていて楽しいのかな。

     今日も空を滑空する彼女を見上げ、私は思い耽る。私なんかには分かる訳がない、貴女の事を。
  3. 3 : : 2018/08/19(日) 15:26:55
     彼女と出会ったのは、花の異変の時。背後から付きまとってくる彼女に痺れを切らして、怪しい者かと訊いたんだっけか。初対面で思ったことが巫山戯た奴。冥界の外に出るまでは、天狗の存在なんて文献上でしか知らなかったから。なんだっけか、剣術にも長けていると聞いたから、もっとしっかりした種族かと思ったの。そうしたら『幻想郷の観察者』なんて、ねえ。あの時はすっかり信じちゃってたけど……ほら、四季異変。あったでしょう?花菓子念報で見た天狗さん、凄く楽しそうだったのよ。あんな事を言っておいて、自分で幻想郷を創ってる。おかしいとは思わない?私は思わないけれど、やっぱりあの妖怪も同じなんだな、とは思っているの。あのつかみどころのない性格には会いたくないと思わせるところもあるわ。でも、なんでしょうね……漸く同じ立場に来たというか……なんだか、そういう一面を見たら接しやすくなるかな。上から目線が、横から目線。
     それでも彼女は線を引いている。自ら手を引いている。自分の感情に振り回される事があったとしても、それ以上の関係は持たないぞと自分で決めて。
     私にはそんな事はできそうにない。そもそも線の引き方を知らない。どう過ごしていれば人を煽ろうだなんて事ができるのだろうか。自分から好感度を下げに行くなんて芸当ができるのだろうか。私には分からない。だから私には彼女の事は分からない。あの時の同情も、結局はそれだけの事、だったのか。そうだとしても、私は覚えている。今をおかしいと思わせてくれた、貴女の言葉を。
  4. 4 : : 2018/08/19(日) 15:41:20
     結局、変わる事はなかったけれど……それが白玉楼での通常なのだから、仕方がなかった。そもそも、身分的に言ったとしてもからかわれておしまい。有耶無耶にされ、結局のところ宴会の笑い種にされるオチだ。でも、私は彼女の優しさを憶えている。あんな彼女にも、ちゃんと情がある。私の修行の成果を認めてくれたのは誰がいただろうか。半人前だ、まだ弱い者だとしか思われていない私の、力の一つを褒めてくれたのは他に誰がいただろうか。なのに、その優しさを隠して、酷い奴を演じる彼女が分からない。強き者でいる為の威厳とやらか。天狗である故の事か。けれども、私は何にも言わない。彼女とのことを口外した事はない。それは、たぶんきっと彼女の為。たぶん。

     人間の里、大きな荷物を抱えながら帰ろうとした私の足下に新聞が舞い落ちた。
     文々。新聞。
     そういえば、今日は発行日だったか。もしかして、と思って真上を見る。もう誰もいない。
     誰に配ったのかも分からぬ新聞を、ぼんやりと眺める。
     その辺の茂みに畳んで置き、里を後にした。
  5. 5 : : 2018/08/19(日) 16:09:38
     そういえば、来ていなかったな。
     訪れたのは博麗神社。いつもの紅白が見える場所、と……

    「どうもこんにちは! 初めまして! 高麗野です! ご主人の友人で? 」
    「おうおう。そうだ。こいつは妖夢。霊夢と私の友人みたいな奴」
    「あ、お、おう」

     見慣れない緑髪の一角獣……あとついでに白黒もいた。

    「あ、妖夢じゃない。いつぶりだっけ」

     私の姿に気が付いたらしい霊夢が声を掛けてくる。

    「一ヶ月ぶり位かしら」
    「やだ、結構近い。その時にあうんはいたっけ? 」

     あうん、と呼ばれた一角獣の少女が首を傾げる。

    「うーん、いなかったと思います」
    「じゃあ、初めましてということだな」

     魔理沙が強引にあうんを近づけてくる。

    「よろしくお願いしますね、妖夢さん」

     流れるようにあうんは右手を私に差し出してくる。私もその流れに沿うようにして、右手に持っていた荷物を半身に渡す。そうして、手を握る。

    「ああ、よろしくお願いするわね」

     見たことがない、ということは四季異変で現れた子なのかな。花菓子念報に写った彼女の笑顔が思い出される。

    「それにしても、生真面目な妖夢が買い物帰りに来るなんて、ねえ」
    「あれだろ? 上を目指した結果此処に辿り着いたんだろ? 子供は上を目指すからな」
    「そうね。妖夢はまだ子供だものね」
    「勝手に自己解決をするな」
    「魔理沙さん達も十分子供なんですけどね」

     握っていた手でそのままあうんと一緒に鉄槌を下すところだった。これはいけない。ぱっ、と手を離す。

    「と、そんな冗談はさておき、何の用だ? あれか? 冥界に帰る時の通過点か? 」

     家主っぽく賽銭箱の隣に座って脚を組む魔理沙を見て、霊夢も同じくする。

    「用もなく来るなんてあんたらしくないしね。用があるなら言いなさい? 」
    「あー……」

     そういえば、これと言った用事もない。なんとなく顔を出しに来ただけだったし。
     頬をぽりぽりと右手で掻くと、目の前に文字で埋め尽くされた紙が落ちる。

    「お帰りください」
    「やだなぁ。そんな邪険に扱わなくても」

     あうんが睨んだ先……そこには件の彼女がいた。足音一つも立てず、私の背後に立っていた。

    「ちょっ、ちょっ!? 」

     驚いた私は後ろを向き、身を仰け反らせる。……いつの間に。

    「あ、ほらまた来たわ新聞屋。最近は一週間に二回来るけど、ネタとやらは尽きないの? 」
    「ええ。誰かさんが話題を尽かせないから」
    「氷の妖精か」

     平然と私を介して会話しないで。また来たという事は恒例行事? 事態を飲み込めず、あうんを見つめる。

    「いつもの事ですから、もう諦めていますよ」

     そ、……そう。

  6. 6 : : 2018/08/19(日) 16:20:23
    「そんなことよりなんだ。今回は物騒な記事が多いな。自殺? 」

     紙面を眺める魔理沙が一言。それを奪い取って霊夢も覗き込む。

    「何? ああ、確かに物騒な記事ばかりね。あんたにしては珍しいじゃない。死神には自殺も他殺も書かないなんて漏らしてたのに?」
    「……自殺?」

     また、ここに霊が溢れるのか?そういう可能性と聞くと冥界人という立場上柄黙ってられない。ちょっと不満げな魔理沙を横目に、見せて見せてと霊夢に近づく。

    「嘘なんじゃないですか? あんまり毒されない方が良いですよ。魔理沙さん達はそういうのに慣れているだけなんです。嘘を嘘と感じるだけの器量がある。貴女、純粋なんでしょう?つまりは、そういう事」
    「は、はぁ……」

     私の肩に手を置いたあうんを見ようと、後ろを振り向く。もう既に彼女の姿はなかった。一瞬、いつもの笑顔に陰りが見えた気がする。気のせいだとしても、なんだか忘れがたかった。
  7. 7 : : 2018/08/19(日) 16:39:36
     冥界、白玉楼。
     帰りが少し遅くなったのを気にした主が、声を掛けてくる。

    「あら、妖夢。遅かったじゃない。上に上がる要領で山でも登っていたのかしら」
    「登っていません」
    「子供は上を目指すじゃない? 半人前たる故の」
    「いやだから、どうして魔理沙達と同じようなことを言うのかなぁ」

     などと小言をこぼしながら、蔵に食料を置きに行く。その最中に新聞の有無を見たが……どうやら、まだ来ていないらしい。いつもならば朝にばらまきに来る為、日課の鍛錬と掃除が終われば手元にあるのだが……あの影と、自殺。何か関係があるような気がして、考えを拭えなかった。

    「そういえば妖夢」
    「はい、なんでしょうか」
    「今日は新聞が来るそうね」
    「ふむ、楽しみにされているようですが……何か? 」
    「いいえ、何でもないわ。きっとそういう化け物が現れたから、注意喚起をしているのよ」
    「は、はぁ」

     夕餉の際に掛けられた言葉も、謎を呼ぶ。幽々子様の事だから、きっと私の考えを読んでいるのだろう。なんとも恐れ多い方だけど、読んでみなければ分からない。もしかしたら、もう幽々子様はどこかで読んでいるのかもしれないし。例えば、紫様とか。その辺と、こっそり。幻想郷の異常にはすぐ気づくお方なのだから、まぁ、見ない理由はないだろう。
     ……記事にするまでの自殺、か。
     主が寝に行った傍ら、考えた。霊夢の言伝が正しいのなら、きっとそれは幻想郷の少女の危機……なのかもしれない。

     茹だるような熱さの湯にぷかぷかと浮かんで、ぼんやりと天井のシミの数を数えた。増えてはいなかった。
  8. 8 : : 2018/08/19(日) 16:55:56
    「こんばんは」

     月が頂点に浮かび、寝入ろうとした頃。新聞を持った彼女がやってきた。貼り付けたような笑顔を浮かべてやってきた。

    「夜分遅くに失礼します」

     博麗神社で会った時とは違う服装。白黒はっきり分かれていたのが、完全に黒になった。それにどこか煙臭い。……この匂いを、この姿を、私は知っている。
     白い寝間着を羽織り、廊下を巡回していた私は玄関に向かい、彼女を出迎える。今から門の鍵を閉めに行こうとしていたところなので、丁度良い。下駄を履くと、彼女の前に半身を引き連れて出る。

    「お疲れ様です。今日は珍しいじゃない。自ら届けに来るなんて。お茶、出しますよ」

     両手を差し出すと、新聞を乗せてくれる。そのまま玄関の方を向いて、彼女を招き入れる。

    「あ、良いのよ。お構いなく」

     お茶なんか要らない、とでも言うように両手を横に振る。笑顔は崩れない。

    「社交辞令なんかじゃないのよ。私が社交辞令を覚えているとでも? 」
    「思って……ないわね」
    「でしょうね」

     苦笑をしながら彼女は答える。困り眉で、目を細めて。

    「じゃあ、飲んでいってくれますよね? 」
    「ええ……頂くわよ。折角の好意なんですもの」

     開いた玄関に入ってもらうと、扉を閉める。彼女の笑顔は崩れそうになかった。お面をかぶっているかのようにも見えた。そうして相手を信用していない素振りを見せる理由が、私には分からなかった。

    「お茶を用意するから、適当に座っていて。水出しで良いかしら」
    「ああ、それでお願いするわ。丁度冷えたものが飲みたかったのよ」

     客間に案内し、四つある座布団のうち二つを部屋の角に重ねる。彼女が座ったのを見ると、私は台所に向かった。

  9. 9 : : 2018/08/19(日) 17:27:29
    「烏は不吉の象徴と言われているのよ」
    「はぁ」

     客間に戻ってくるなり、掛けられた言葉がそれだった。意味が分からず、生返事。

    「生まれてからずーっと鴉天狗なんて甘えた連中にはわからないでしょうけど、よく邪険に扱われたわね」
    「……貴女も、不幸を運ぶと? 」
    「そうなのかもしれない」
    「かもしれないって……」

     緑茶と氷か入ったグラスを彼女の前に置くと、頂きますと一言言ってから口に含む。一回飲み込むとごとんと置き直し……うん、美味しい。と呟いて。

    「そんな事より……やけに遅かったけれど、何かあったの?」
    「あー……」

     私がそう聞くなり、彼女に焦りが表れる。あくまでも笑顔はそのままに、黒いYシャツをぎゅっと掴んで。

    「死者の国に来る為の儀式?」
    「誰が」
    「うーん」
    「来ているのは貴女よね」
    「それはそうなのだけど……」

     いつもの遠回しが顔を出してきた。ああ、そうだ。この香りは線香の香りだ。先の自殺と何か関係があった事は確かだろう。未熟な私でも流石に分かる。

    「まあ、大した事じゃないわ」
    「大した事じゃ、ないじゃない」
    「こうして誰からも忘れられていく。そうなるのがオチなら、これをどう大した事でないと言い張るのでしょうか」

     落ち着き払ったフリの彼女が緑茶を啜る。二口。

    「こうして、貴女は誰からも愛されなくなるおつもりで?」

     グラスを強かに置く音がする。完全に机に付けた時には、氷の音さえしなかった。

    「それが天狗の在り方……なんて言ったら、仲間や上司に怒られてしまいそうね」
    「そうですか」

     彼女の苦笑が笑みに変わると、場は静寂に包まれる。聞こえる音は、緑茶を飲む音と、グラスを置く音。呼吸音。なんというか、気まずかった。
  10. 10 : : 2018/08/19(日) 18:13:24
    「つまるところ、私は不吉なのよ」
     静けさを打ち破ったのは彼女だった。よく分からない結論を述べながら、飲み干したグラスを机に叩きつける。

    「そうでしょうか」
    「そうなのよ」

     あくまでもそう言い張る彼女に、どうしたものか、と思案する。

    「そうは思わないわ」
    「ふぅん」
    「私は貴女の優しさを知っている」
    「……そう」
    「それを隠すのは仕方ないのかもしれないけれど、私は貴女の事が理解できない」
    「理解されなくたって、それでいい」
    「そうですか。そうやって、また嫌われようとするのね」

     黒いYシャツの胸の辺りを、強く握って。

    「好かれたって、得しないじゃない」
    「そう言って、逃げ場を無くすー。アレでしょう?強がった結果、からかわれると思って言えなくなったんでしょう?本当は泣きそうなんでしょう?」
    「……貴女の煽りスキルがメキメキと上がっていらっしゃる」
    「これでもEasy」
    「あやややや……こうして白は汚されていくのね」
    「元から血の色だったのよ」
    「それはそれは」

     そう言って、彼女はグラスを見やる。少し青みを差した壁にへばりついていた透明な氷が、コトンと底に落ちた。

    「……そんな事より、よ。どうして貴女の立場が分かったと思う? 」
    「同じだから」
    「当たりー。弄られて有耶無耶にされる位なら、言わない方がマシよ」
    「もしかしなくてもー、有耶無耶にされたのかしら? 」
    「そうそう。参ったわ」
    「ということは……未だに無給の?」
    「無休」
    「それは愉快」
    「どこがよ」

     けらけらと笑う彼女。少しずついつもの様子に戻ってきているような気がする。

    「そういえば貴女。自称・冥界一の盾って言っていなかったっけ?」
    「貴女こそ、天狗は幻想郷の観察者だ、って」
    「もはや盾が武器」
    「観察しない幻想郷の創造者」
    「機能してないわね、貴女も私も」
    「役目を放棄した訳ではないのだけどね、貴女も私も」
    「それもそうか」
    「そうよ」

     戦闘前の煽り合いをした私達は、笑い合う。けれどこれから始まるのは戦闘ではない。
     彼女が口を噤む。安心して紐が切れたのか、顔を俯かせて。
  11. 11 : : 2018/08/19(日) 18:26:28
    「この事、誰にも言わないわよね」

     少しよそよそしくなり、チラチラと目線を合わせてくる。スカートを強く握った腕が震えている。

    「ええ。誰にも口外しないでおくから」
    「それは有難い」

     言い切ると、彼女は手をぶらぶらとさせる。力が脱けたらしい。……しかし、言い出しにくいのか中々口を開かない。

    「……? 私が信じられないの?」
    「いやっ、そんな、事は……」
    「バカ正直に優しさを受け取る私よ?」
    「それを言われるとこう……信頼と実績の?」
    「信頼と実績の魂魄妖夢です。どうぞお話ください」
    「長くなりますが良いですか」
    「じゃあいいです」
    「……あのねぇ」

     即座に断った私に、苦笑いを向ける彼女。それはないだろと言いたげに、眉をひそめている。

    「私なんか泣きながら報告した事あるもの。何言ってるのかわからないって言われたわ」
    「それはどうなのよ」
    「それぐらいが良いの。誰だって誰にでも話せる訳ではないし、幽々子様のお気に入りのお皿を割ったこと、まだ言ってないし」
    「流石に言いなさいよ」
    「もう十年前だし……」
    「あのねぇ……」
  12. 12 : : 2018/08/19(日) 18:58:43
    「そんなことより、辛い顔をして空を飛ぶのはいけないことだと思うのよ。話したとしても、どうせまた辛くなってきちゃうことでしょう? ほら」
    「ほら……って……」

     立ち上がり、座布団を持って彼女の目の前まで移動する。正座をして、ぽんぽんと膝を叩いてみせる。

    「ここでお前を泣かすから来い」
    「そんな辻斬りみたいに泣かせられるの? 私の涙腺は強固よ? 」

     不意に挑戦状を突きつけられたような気がしたのだろう。挑発をしながら私に近づいてくるので、瞬時に立ち上がっては後頭部の襟を掴み引っ張り、そのまま膝の上に置く。

    「ちょっ、何をして!? 」
    「祖父の技です。よくやられたわね」
    「凄い愛情表現ね。私はそれにしてやられたってことか」
    「愛情と理解しているのは、流石天狗といった所か」
    「殺意の籠もった膝枕とか嫌すぎるわよ」
    「いやまあ、殺意ではないのだけど」
    「でしょうね」

     初めて触れた、髪を。頭を撫でる。一線を引こうとしたのは、強がりの果てならば。自分の力を過信した者の成れの果てならば。……上から目線が、横から目線。そう思った理由が分かった気がして、同じな彼女が愛おしく思えてきた。なんだ、彼女も上を目指す子供じゃあないか。
     ぽんぽんと、頭を撫でている内に、太腿の辺りが濡れた。少しだけ濡れた。その湿りはどんどんと広がっていく。私は気にしなかった。一人で隠れて泣いているような者は、こうも静かに泣くのかと思った。

    「……自殺、したのよ。仲間の鴉天狗がね」
    「そう」

     呟く彼女に、続きを促す。

    「天狗だけではなく、前に取材をした妖怪だって、人間だって」
    「あの子は追い詰められた果てに忘れられようとして、自分から縁を切りに行ったのよ。そして自害っ! 私は何百年前に喧嘩をしたきりだったから……でも、それでも……」
    「あの野良妖怪も、熱く取材してからというものの自分から引きこもって忘れられて、そのまま消えた」
    「根気を入れて取材した店が経営不振になって……店長の女の子が自殺して」
    「他にも私が深く関わったせいで死んだ者がたくさんいる……じゃあ! もう! 突き放すしか……ないじゃない、っ……」

    「うーん……」

     途中から頷くのをやめた。これは深刻すぎやしないか。否定も肯定もできない。
  13. 13 : : 2018/08/19(日) 19:44:46
    「……嫌われる為に嘘を書くと」
    「むしろ嘘を書くのは天狗の間ではよくある事だわ……嘘八百。そればかりが面白がられるの。……まあ、それも、あるけれど……バカ正直に書いてた頃もあったわね……」

     今度はこちらが苦笑を浮かべる。むしろ、どんな顔を向ければ良いのだ。全く分からない。とりあえず頭を撫でておく。

    「まあ……そんな事があったなんてね……大丈夫よ。死なないわ」
    「本当?」
    「私は強いですからね」
    「強い庭師さんには庭を綺麗にしてもらいましょうか」
    「まあ、なんと荒れた庭でしょうか。それも一撫でで元通り」
    「こんなにも心をめちゃくちゃにするなんてね。そろそろ泣くわよ」
    「泣きなさい? 私のせいで泣きなさい。貴女の庭は、渇きすぎているから」

     この後、めちゃくちゃに泣かれた。いつ寝たかは覚えていないし、いつ帰られたのかも覚えてはいないが、目が覚めたら布団の中にいたので。
     眠っている彼女の頭をそっと撫でてやった。
  14. 14 : : 2018/08/19(日) 19:50:49
    博麗神社での宴会にて。

    「それでですねぇー。私ぃー。強い人の泣いてるところをぉー、見せてもらったんですよー。つまり私はぁ、強いんですー」

    「言うなっていう約束だったでしょう!? 」

    「おうおう? お前泣いたのか? 」

    「泣いてたわよー。泣いてたわー。私しっかりこの目で見てたのよー? 」

    「ちょっ、起きてたの!? 」

    「血も涙もない者かと思ってたけど、そうでもないんですね」

    「酷い!? 」

    「文の泣き顔か……ちょっとはたてに頼んで一儲けしてくるわ。おーいはたてー」

    「血も涙もないのは貴女達の方だと思うわ……妖夢は後で泣かせます」

    おわり

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yukiyume_46aya

灘井灯奈

@yukiyume_46aya

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