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800m⑅
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- 1 : 2016/10/08(土) 21:34:33 :
- 陸上競技種目のひとつの800m競争についてです。
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- 2 : 2016/10/08(土) 21:42:44 :
- スタート前、各レーンに1人ずつ入り流しを1本する。
スタート位置に戻り、それぞれ体を動かし合図を待つ。
僕は陸上競技の中で800mが1番好きだ。
400mあるトラックをたった2周しかしないが、その中での場所取りなどの駆け引きや、スピードに身を任せ駆け抜ける疾走感がたまらなく気持ちいい。
もちろん僕は大して速くもなく、実績も全くない。でも、そんなことを気にする以上にめちゃくちゃ楽しいのだ。緊張はしてしまうが。
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- 3 : 2016/10/08(土) 21:51:26 :
- そうこうしている内に、ファンファーレがなり始めた。
キタ、もうすぐだ。
競技が始まるのを告げる陸上の大会ではお馴染みのファンファーレ。
それと同時に僕の緊張感もどんどん上がっていく。
ファンファーレが鳴りやむとスターターが台にのぼり、マイクの準備をする。
そして、辺りに静寂が訪れる。
聞こえるのは自分の鼓動のみ。
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- 4 : 2016/10/10(月) 12:20:41 :
- 「on your marks」
その合図を受け軽く一礼し、各々のスタート位置の線に軽く中腰の様な体勢でスタートの合図を待つ。
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- 5 : 2016/10/10(月) 20:01:42 :
- ほんの2、3秒しか間は無いが、長く苦しく感じる。
はやく、はやく走らせてくれ。
「パァンッ!!!」
雷管の音と共にスタートダッシュを決める。
最初のカーブは無理せず徐々に加速していき、その加速に合わせながら上体をゆっくりと起こしていく。
ここからが重要。
800は基本的に最初の100を過ぎるまではそれぞれのレーンを走らなければならないが、100地点辺りに置いてあるポイントを通過した後に内側へと入っていくことができる。
ただ、ここで遅れてしまうといいポジションを取られてしまうのでなるべくそこを通過する時には先頭あたりにいたいのが僕の理想である。
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- 6 : 2016/10/10(月) 20:11:37 :
- 僕は2番手あたりでポイントを通過した。
よし、いい感じだ。
バックストレートに入ったところで位置どったポジションを確実なものにしにいく。
ここで後ろから横に並ばれたりして前に出れないポケット状態だけは避けたい。
念のため、先頭のやや斜め右下にポジションを確定させた。
案の定、後ろから恐らく横に並ぼうとした選手が僕の左側に強引に入ってきた。
その時だった。
「グイッ」
危ない!!!
僕の左側に入ってきた選手が肘で突き飛ばしてきた。
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- 7 : 2016/10/10(月) 21:39:19 :
- 800などの中距離は陸上競技の格闘技と言われるほど激しく競り合う。
危ない、危うく転んでしまうところだった。
慌てて体勢を直し、元の位置に戻ろうとしたころにはもう200を過ぎ、カーブに入っていた。
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- 8 : 2016/10/10(月) 21:49:50 :
- 少しもつれたせいで遅れてしまい、前から4番手になってしまった。
まずい、このままだとそのまま置いてかれてしまう。
200から300にかけてのカーブで自分のリズムを取り戻そうと必死に前に食らいつく。
1周目最後の直線に入ったところでさっきぶつかった選手が前から少し遅れていたので様子を見ながら少しずつ差を詰めていく。
「カランカランッ」
ラスト1周を伝える鐘が鳴らされた。
今だ!!!
一瞬の隙を見て3番手と2番手の選手を一気に抜き去り、2番手に躍り出る。
よし、上手くいった。
あとはここからどれだけ先頭へ追いつけるか、後続からの猛追に競り勝てるかが記録と勝負が決まる。
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- 9 : 2016/10/10(月) 21:59:02 :
- カーブを駆け抜け、バックストレートに入ると前を走っていた先頭がスパートをかけ始めた。
このままでは置いてかれてしまう。
その時だった。
序盤に最後尾辺りを走っていた選手だろうか、2人がいっきに後ろから上げてきて、必死に前を追いかけていった。
なるほど、序盤後ろの方にいたのは体力を温存していたのか。
僕はそれに引っ張られるようにスパートをかけ始め、一緒になってくらいついていった。
残り200。
先程抜かしていった2人とは3秒差ないほどくらい離れていた。しかも先頭に追いついている。
ここまできたら行くしかない!
そう決めると僕は、カーブに入ってからさらにギアを上げ、スパートをかける。
前の3人は恐らく最後の直線に入ってから勝負するのだろう。
そうとなれば僕はここで流れに乗って勝負に出るしかない。
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- 10 : 2016/10/10(月) 22:07:27 :
- 残り150で前ともう1秒ないほどくらいまでに詰めることが出来た。
最後の直線に入ったところでようやく前の3人が僕の存在に気づく。
そしてほぼ真横に並んで最後の直線に差し掛かった。
僕は残り200くらいからあげており、勢いはあったが、最後まで競り勝てるかとても際どいところだった。
残り50。
1人が遅れた。ここまで先頭を走ってきた選手だ。
さすがにここまで1人で走るのはきつかったのだろう。そのまま消えていった。
1人が消えたのがわかるとよりスピードは増し、お互い負けるものかと必死になった。
そして、3人ほぼ同時にゴール。
走っていた僕らはもってのほか、観客でさえ誰がトップだったのかわからないほど接戦だった。
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- 11 : 2016/10/10(月) 22:16:16 :
- 僕は苦しくて膝に手をついてスクリーンを見てただ結果を待った。
そして、アナウンスが流れた。
「ただいま行われました、男子800m決勝の結果です。」
会場がスタート前よりも静かになった。
誰も人1人いないのではと思うほど。
会場にいる全員がスクリーンに注目していた。
「お待たせしました。速報タイムと着順です。」
なんと、1着に僕の名前があった。
しかも2位とは同タイムで着差ありの1着だったのだ。
3着とでさえ、0,01秒差しかない。
僕はやっと開放された気分になった。
記録もベストで優勝までできるとは想定外だったが、それ以上にやっとレースが終わったことの方が大きかった。
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- 12 : 2016/10/10(月) 22:18:40 :
- 最後諦めずに前を追いかけてよかったと、ただ思った。
これだから、やっぱり800は楽しいんだ。
おしまい
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- 13 : 2016/10/10(月) 22:21:41 :
- 思ったより長くなってしまったけど、走った距離の中に距離以上のものがあることが伝われば幸いです。同時に苦しさを超えた先には必ずいい結果があることも分かっていただけると嬉しいです。
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- 14 : 2016/10/11(火) 20:40:44 :
- 私は陸上部の走り幅跳び専門ですが分かります。
私は「嬉しい!」だけで記録が伸びる程陸上は甘く無いといつも感じてます。
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