この作品は執筆を終了しています。
背中の傷
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- 1 : 2016/09/11(日) 00:10:37 :
- シリーズ三作目、今回はライナー編です。予定としてはベルトルト編になる予定だったのですが、こっちの方が先に仕上がったのでこちらから先に…。
シリーズ物と銘打っていますが短編集なので前作を読まなくても大丈夫です。では次のレスから始めたいと思います。楽しんでいただけたら幸いです。
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- 2 : 2016/09/11(日) 00:11:56 :
- 「うぅー…。ツイてないです…」
頭の先から足の爪先までずぶ濡れになった私は思わずそう呟いてしまった。
山地踏破訓練の一環として山に放り込まれたのは別によかった。自分は山育ちだからその訓練はむしろ好きな方だ。問題はルートなどを全て一人で決めないといけないということ。略地図だけ渡されて大方のコースは決めたけれど、こんなところに溜め池があるだなんて聞いていない。柔らかくなった土に足を取られて真っ逆さまに落ちてしまった。
幸いだったのはその池の水が綺麗だったことと、浅かったこと。おかげで濡れるだけで済んだし、溺れる心配もない。ただ、かなり豪快に落ちてしまったからどこに出しても恥ずかしくない、立派な濡れ鼠になってしまった。
バシャバシャと水を掻きながら岸に向かう。足は一応着くが、地面は柔らかい土なので踏んだ側からどんどん沈んでいく。それならば泳いでいった方がはやい。そう決めて多少不恰好なまま泳ぐ。装備品を着けたままだから仕方ない。覚悟を決めて、泳ぎ出した。
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- 3 : 2016/09/11(日) 23:36:20 :
- 不恰好な犬掻きを続けているとバシャンと大きな水音がした。もしかしたら私と同じく誰かが落ちたのかと思い辺りを見回すと、こちらへ向かってくる影が見えた。
「大丈夫か!?」
その影の主は私に近寄ると切羽詰まった声で呼びかけてきた。その声がなんだか聞き覚えがあってその名前を呼ぶ。
「…ライナーですか?」
「今すぐ助けるから暴れるな!藻掻かず、体から力を抜いて楽な体勢を取れ!」
近寄ってくる影(ライナーで決定だと思う)はどうやら溺れたと勘違いしているようだ。
「ちょっと待って下さい!私です!サシャ・ブラウスです!溺れてませんから落ち着いて下さい!」
取り敢えず落ち着かせようと叫ぶとようやく私だと認識してくれたらしい。
「サシャ?」
「そーです!少し足を滑らせただけですよー?ライナーは心配し過ぎです!」
「あー…確かにお前なら大丈夫そうだ。でも、あの状態を見たら誰だってそう勘違いすると思うぞ?」
「そんな酷かったですか」
コクリと厳かに頷かれた。
「でも、装備品着けたままなら動きにくいだろう。外せ、半分持ってやる」
その申し出は大変ありがたかったので、半分渡す。そして二人で岸に上がった。
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- 4 : 2016/09/12(月) 00:01:09 :
- 「うー…ビチョビチョですー」
ブーツをひっくり返すと中から大量の水が落ちてくる。もう片方も同じようにして、足を拭う。ライナーに少し後ろを向いてもらってシャツなども絞るとボタボタ水が出てきてげんなりする。
「ライナー、もういいですよー。ありがとうございます」
「おう、もういいのか?」
「はい、大丈夫です。まだ服は湿ってますが、この天気なら歩いてるうちに乾きます」
「ならよし…ってよくない!」
振り向いたライナーは私の方を見ると、すぐに目を逸らしてジャケットを投げつけてきた。
「わぷっ!なにするんですか!」
「お前は一応女子なんだからもう少し慎みを持て!」
「?」
慎み?どういうことだろうか。
「取り敢えず、それ着とけ。流石に濡れたジャケットを着ると風邪引くからな」
ジャケットは軽い雨程度の水なら弾くけれど、ここまで濡れてしまったらもう乾きにくい。水気は切ったけど、着る勇気は湧かない。ありがたく頂戴しておくことにする。
「改めてライナー。ありがとうございました。溺れてはなかったんですが助かりました」
ぺこりと頭を下げる。彼は優しいから人が溺れているように見えたら放っておけなかったんだろう。あなり慌てていたと見えて、彼はジャケットだけを脱いだ状態で飛び込んできていた。
「ライナーもシャツ、濡れちゃってますよ。やっぱりジャケットお返しします」
「いや、いい。お前はそれを絶対着てろ。いいな?」
腑に落ちないが了承する。その様子に満足したのか彼は自分の装備を持ってその場から立ち去ろうとした。その背中に追いつこうと思ったけれど、私の装備品は濡れたままだから少し拭かないといけない。待ってくれないのは彼なりの気遣いだと知っているからその背中を見るだけに留める。
遠目に見えた彼の背中に大きな傷が走っているのを見つけたけれど、今は気にしている余裕がない。少しでも早く、復帰できるように装備品を拭う手を強めた。
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- 5 : 2016/09/12(月) 00:05:44 :
- ◆ ◆ ◆
ライナーの背中には傷がある。まだ戦士でなかったころに傷つけられたから、未だに残っている傷が。私がそれを思い出したのは彼のその傷がシャツから透けて見えているからだ。ジャケットは無いし、シャツはまだ薄っすら湿っている。また誰かを助けたのだろう。と内心で溜め息をつく。
あれは、訓練が終わった後のことだった。厳しい訓練でクタクタになった体を引きずって、家族の待つ家へ帰ろうとしていた。そのとき、ライナーだけ村の大人に呼ばれた。その大人の表情とか、声とかが鼻について私はこっそり着いていったのだ。
人気の少ない場所でライナーは叱責されていた。彼は身体面においてなんの問題もなかったけれど、精神面において少し不安が残っていたからだ。それはベルトルトみたいに受け身というわけではなく、ただ単に優しすぎる、というたったそれだけのこと。戦士は非情であれ。それは仲間に対しても適用される。見捨てられない優しさは、ときに凶器と化すのだ。
大人しく叱責を受けていたライナーは、やはりまだ子供だった。それはおかしい、と食ってかかってしまったのだ。口ごたえされた大人はライナーに後ろを向くようにだけ命じると、剣を抜き彼の背中を一閃した。それはあまりにも急な出来事で私はただ呆然と見てることしかできなかった。ボタボタ流れる血の赤がやけに目にしみて、夢が何かかと思ったのを覚えている。
斬った大人はまた何かを言った。ライナーが真っ青な顔で頷くと、満足したようにライナーの頭を撫でた。そして彼を連れていくと、そのまま見えなくなってしまった。最後にチラリと見えたライナーの顔が先ほどとは打って変わってとても精悍だったこと、それはもしかしたら今の状態になることの暗示だったのかもしれない。今となってはもう、遅い後悔だけど。
◆ ◆ ◆
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- 6 : 2016/09/12(月) 00:27:59 :
- どうにかゴールした私はライナーを探す。もちろんジャケットを返すためである。キョロキョロしていると、ドスンと派手な音がした。そちらを向くと、ライナーがアニに転ばされていた。また何か不用意なことを言ったのだろうか。クスリと微笑むと彼に向かって駆け出す。
「ライナー!これ、ありがとうございました。また何かお返しをしますね!」
「お?サシャか。別にいいぞ、お返しなんて」
腰を摩りながらライナーが立ち上がる。アニはさっさとどっかに行ってしまったけど、少し離れたところからライナーの背中を睨みつけている。その目はとても複雑な色を孕んでいたから自分にはよく読み取れなかった。
ライナーはジャケットを受け取り、それを羽織る。訓練兵の証である剣の紋章が揺れて彼の背中に張り付いた。遠ざかっていく彼の背中を見つめながら、食事を摂りに食堂へ走った。
fin.
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- 7 : 2016/09/12(月) 00:34:16 :
- こんにちは、弥生です。今回はライナー編でした。もう少しアニを絡めたかったという後悔…。
このシリーズは別にCPというものを意識していません。私的には足し算なつもりですが、人によっては掛け算に見えるかもです。好きにとってもらって結構です。
さて、次の更新もそこまでお待たせすることはない、と思われます。
最後まで読んで下さりありがとうございました。また次でお会いしましょう。
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- 8 : 2016/09/12(月) 00:35:59 :
- 面白いです!!
なんかありそうでないことですね(巨人化すれば傷が消えるので)
期待してます!!
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- 9 : 2016/09/12(月) 00:40:44 :
- >>8
なんとなくふと思い立ったのでつらつらと書いてみてます笑。
残りも後二つなのでまたのんびり更新していきたいと思います。応援ありがとうございます!
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彼らが人間だった証を シリーズ
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