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右腕の傷

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  1. 1 : : 2016/09/08(木) 00:46:36
    シリーズ二作目、今回はアニのお話です。一応シリーズ物と銘打っていますが、短編集なので前作を読まなくても大丈夫です。

    それでは、次のレスから始めます。楽しんでいただけたら幸いです。
  2. 2 : : 2016/09/08(木) 00:48:03
    目の前に揺れる金色が見えたので、思わず駆け出してしまった。前を歩いている少女は私が近づいていることに気がついていないみたいで、歩調を緩めることも、速めることもなく、歩き続けている。

    「アニ!」

    隣に並んで声をかけると、彼女は青色の目を少し大きくさせてこちらを見た。

    「…クリスタ?」

    「アニも今からお風呂?よかったら一緒に入らない?」

    「いいけど。ユミルはどうしたの」

    「ユミルは今日、夕食当番。だから夕食の後に入るって」

    「ふーん」

    そうこうしているうちに、脱衣所へ到着する。扉の前に立っている教官に挨拶をして中に入った。
  3. 3 : : 2016/09/09(金) 00:02:11
    いつもより早く来たせいか、脱衣所内はガランとしていて妙に広く感じた。適当なカゴを一つ取って脱いだ服を入れる。

    「うわぁ…」

    露わになったアニの体を見て思わず感嘆の声を上げた。背丈は私とあまり変わらないのに、まるで比べものにならないほどの筋肉がついていて、彼女の努力が窺える。

    「…何?」

    「えっと、あのね。体、すごく鍛えてるんだねって」

    「まあね」

    対人格闘術の訓練のとき、エレンとかライナーをポンポンひっくり返すのを常日頃不思議に思っていたけれど、こんなにも鍛えてるのなら納得もできる。

    あまりジロジロ見るのははしたないと思いながらも、観察させてもらう。視線が右腕の方を向いたとき、二の腕から肘辺りにかけて丸い傷跡がポツポツと並んでいるのを見つけた。

    「っ…!」

    思わず、痛々しい傷跡から目を逸らす。

    「どうしたの」

    「あ、あの。それ…」

    恐る恐る指を指すとアニはその傷を一瞥した後、なんでもないように言った。

    「野犬に噛まれた」

    「え…」

    アニはさっさと着替えを済ませると風呂場へ歩き出した。私も慌てて着替えを終わらせて、その背中を追った。
  4. 4 : : 2016/09/10(土) 00:45:22
    入浴も終わって、アニと別れる。ユミルに脱衣所近くで待っててと言われたからだ。

    壁に凭れかかってぼーっとする。野犬に噛まれたって簡単に言っていたけれど、腕を動かすのは痛くないのだろうか。そんなことをぼんやり考えながら待っていると、視線の先に私と同じように壁に体を預けてぼんやりしている人を見つけた。

    「ベルトルトも誰か待ってるの?」

    「え、あ、うん。ライナーを」

    話しかけると、ベルトルト少し驚いたような顔をした。

    「そうなんだ」

    「クリスタはユミル?」

    「そう」

    彼はこの訓練所内でかなり背が高い方だ。対して私は低い方。視線は中々合わない。

    「どうかしたの?」

    「へ?」

    「なんか、元気なさそうだから」

    急に尋ねられて驚く。ベルトルトはあまり人と会話しているところを見たことがないし、どっちかと言うと寡黙なイメージがあったからだ。

    「なんでもないんだけど、ちょっとね、アニとお話ししてね…」

    「アニがどうかしたの?」

    驚いた。まさか興味を持たれるとは思わなかった。正直に話した方がいいのだろうか。悩んだ末、掻い摘んで話すことにした。

    「アニの腕に傷跡があって、痛そうだなって思っただけなの。大丈夫かな」

    「…」

    ベルトルトは口をギュッと噤んだままなんの反応も示さない。そのことに少し不可解な思いを抱きながらも、笑ってお終いにする。

    「もしよかったら、気にかけてくれないかな?古傷って時折痛むって聞いたことあるから…」

    「分かった。ありがとう、クリスタ」

    柔らかく微笑まれる。その笑顔は何故か少し悲しげだった。何か悩みでもあるのかと聞こうとしたとき、後ろから名前を呼ばれた。

    「あ、ユミルが来たみたい。じゃあね」

    「うん、じゃあね」

    手を振ってベルトルトと別れる。もう一度振り返って見た彼の顔はやはり、悲しげに見えた。
  5. 5 : : 2016/09/10(土) 12:00:08
    ◆ ◆ ◆

    クリスタの背中が遠ざかる。サラサラした金色の髪が揺れて、幼い頃のアニを思い出す。子供の頃は結んでいないときもあって、あんな風に金色の髪を風に靡かせていた。そう、あの時も。

    まだ子供で、戦士になってなかった頃。僕らが多分、一番幸せだった頃。よく村の中にある森の中を駆け回って遊んでいた。村の中ならば大人が沢山いるため巨人に襲われてもすぐに救出された。いつか僕らもあんな風になりたい、と恥ずかしげなく思っていたっけ。

    その日の遊びはかくれんぼで僕が鬼だった。十まで数えてライナーとマルセルとアニを探した。ライナー、マルセルはすぐに見つかったけど、アニは中々見つけられなかった。アニはかくれんぼが得意だったから。

    小さな木を掻き分けて、アニの姿を探した。下ばっかり探していたら木の上に登ってたときもあったから時折上も見ながら。そうして歩いていると、揺れる金色を見つけた。

    アニだってすぐに分かった。こっそり近寄ろうとすると様子がおかしいことに気づいて、ライナーとマルセルを呼んだ。彼女の目の前には大きな野犬がいて、唸り声をあげていたのだ。アニ、と叫んで手を伸ばしたけれど、野犬の牙は無情に彼女の腕に噛み付いた。飛び散る赤と髪の金色。その二つの色が僕の目に焼き付いている。

    結局、その後、二人が呼んだ大人にアニは連れて行かれて治療された。何日か寝込んで、腕も一ヶ月くらいは動かせないままだった。それのせいかは知らないけれど、それ以来彼女は足技をよく使うようになった。因みにその野犬はアニのお父さんによって丁重に退治された、らしい。あの時のアニのお父さんの顔はちょっと…思い出したくない。

    ◆ ◆ ◆
  6. 6 : : 2016/09/10(土) 18:11:24
    ベルトルトと別れ、ユミルと共に食堂へと向かう。彼が最後に見せた表情の意味は分からない。でも、それでいいんだと思う。彼は知られることを望んでいないだろうし、私に知る権利なんてないのだから。そんなことを考えながらただひたすら、歩みを進める。

    歩いているとアニの背中が見えた。今度は駆け寄ったりはしない。ただ右腕だけを少し気にかけながらゆっくり歩く。彼女の歩調は速いから、どんどん離されていくけれど彼女らしいな、と思う。途中、ミーナに声をかけられて一緒に歩き出すのを見た。先ほどよりもペースが緩くなったのが分かると何故だか急におかしく思えて笑みが零れる。

    「意外と、優しいんだ」

    ポツリと呟いた言葉は喧騒に呑み込まれて誰にも届くことなく消えた。それでも、胸の中にホッコリとした塊は依然として残っていてほんの少し歩調を速めた。

    fin.
  7. 7 : : 2016/09/10(土) 18:18:47
    こんにちは、弥生です。今回はアニ編でした。書いてて結構楽しかったです笑。

    次も、大筋はできているのでそんなにお待たせすることはないと思います。…多分。

    最後まで読んで下さりありがとうございました。また次でお会いしましょう。

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弥生

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