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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

この作品は執筆を終了しています。

【EXTELLA発表記念】エレン「俺と行く"Fate/EXTRA〜予選〜"」

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  1. 1 : : 2016/09/10(土) 20:52:23
    初めまして。別のサイトから引っ越してきたものです。
    今回は11月10日に発売予定のfate新作ゲーム、【Fate/EXTELLA】から"Fate"に入っていく人がいてもいいように(そんな奴果たしているのか、とかは考えてない)、その前作(正確には前々作)であり、原点でもある【Fate/EXTRA】がどのような話なのかをなるべく分かりやすく、この作品で絶大な人気を誇っているエレンさんのお力を借りて書いていこうと思います。



    前置き長くてダルくなってきたと思うんで、そろそろ始めます。ゆっくりしていってくださいませ^^





    【目次】


    ・予選① >>3


    ・予選② >>14


    ・予選③ >>26


    ・予選④ >>40


    ・崩れゆく日常 ≪ある一生徒の閉幕≫ >>57


    ・岸波白野 登場 ≪もう一つの予選≫ >>65


    (ともしび)≪"英霊"エレン・イェーガー≫ >>79

  2. 2 : : 2016/09/10(土) 20:53:04

















  3. 3 : : 2016/09/10(土) 20:54:46



    気持ちよく晴れた朝の通学路。
    急ぎ足のクラスメート。
    くだらないお喋りで笑い合う声。

    いつも通りの登校風景、と思いきや、
    今日は校門の前が随分と賑やかだ。

    どうやら登校してきた生徒たちが
    呼び止められているらしい。
    校門を取り巻くように人垣ができている。
  4. 4 : : 2016/09/10(土) 21:09:37

    ーーー何が起こっているのだろう?


    覗き込むとその中心に、生徒会長であり、友人でもある柳洞一成(りゅうどういっせい)の姿が見える。


    一成「おはよう!今朝も気持ちのいい晴天でたいへん結構!」

    一成「ん?どうした、そんなに驚いた顔をして。先週の朝礼で発表しただろう、今日から学内風紀強化月間に入ると」

    一成「美しい規律は正しい服装から始まる。というわけで、風紀検査の陣頭指揮に当たっている次第だ」

    一成「…無論、長年の友人であろうと例外はない。面倒だろうが付き合ってくれ」









    一成「では制服から確認するぞ。……襟よし!裾よし!ソックスも……よーし!」

    一成「次は鞄の中身だが………うむ。ノート、教科書、筆箱、以上!違反物のカケラも見つからん」

    一成「爪もきっちりそろえられているし、頭髪も問題はない……と」




    一成「うむ、実に素晴らしい。何処から見ても文句の付けようのない、完璧な月見原学園(つくみはらがくえん)の生徒の姿だ」

    一成「お前のようなヤツが運営に回ってくれれば、非常に頼もしいのだが……」




    一成「む。いや、無神経なことを口にした。生徒会など無理強いしてまで入ってもらうものではなかったか」

    一成「では教室に向かってくれ。今日も悔いのない、いい一日を!」



    答える間もなく、真面目な生徒会長は次の生徒の風紀検査を始めていた。

    話題に飢えた生徒たちは、教室に急ぎながら、さっそくこの朝のイベントをお喋りの種にしている。

    刺激の薄い、いつも通りの朝の風景。ささやかな記録の積み重ね。

    おだやかな1日は、また、こうして始まっていく。
  5. 5 : : 2016/09/10(土) 21:41:46


    教室に入ると、隣の席の間桐慎二(まとうしんじ)が女子生徒に囲まれているのが目に入った。
    相変わらず、不思議なくらいにモテている。



    慎二「ん、なんだ、いつの間に来てたんだい?悪いね、地味過ぎて気が付かなかった」

    慎二「お前とは、ほら―――あぁ、一年生からの友人だったっけ。ま、でも気にする必要はないんじゃない?平凡な自分を卑下するコトはないさ。誰だって、才能溢れる人間のそばじゃあ退屈な奴に見えてしまうからね!」ドヤァ



    朝からいきなり御挨拶だが、これが間桐慎二なのだから仕方がない。

    余裕に満ちた笑顔と語り。
    どのあたりがツボなのか、とりまきの女子生徒たちは黄色い歓声を上げている。

    訂正しよう。

    相変わらず、不自然なくらいモテている。






    慎二「今も彼女たちに数学を教えているところ。学年トップの僕か僕からすれば、どうしてこんなのができないのか不思議なんだけど」

    女子生徒A「・・・・・・あれ?間桐君、これ、数字がおかしくない?」

    慎二「......えっ?な、何言ってんだよ。僕が解いたんだぞ、間違ってるわけないじゃないか!」

    女子生徒A「でもぉ...ほら、よく見てよ。ここ間違ってるよ?」ユビサシ

    慎二「ッ・・・こんな凡ミス、僕がするもんか!どうせお前らが間違えたんだろ。バカのくせにうるさいんだよ!」




    慎二が声を荒げると、女子生徒たちは慌てて自分の席に戻っていった。

    慎二「ふん。イヤだね、凡人は。こっちは気まぐれで付き合ってやってるのに、調子に乗ってさ。ほんと、身の程が見えないのは哀れだよな。その点お前は悪くないよね」

    慎二「地味な部活をやってる割には見どころがあるし、僕の邪魔もしないし。主役を引き立てるコトを心得てるってカンジ」


    無邪気に笑う慎二。信頼の置き方に問題はあるが、彼は彼なりにこちらを気に入っているらしい。

    何故か僕はこの間桐慎二の友人みたいな位置にいる。

    彼と仲良くなったきっかけは
    ・・・・・・なんだっただろうか、よく思い出せない。

    確か去年の春辺りに何かあったような?などと回想を始めた辺りで始業ベルが鳴った。


    ベルの音と同時に教室に飛び込んだのは担任の藤村先生だ。
  6. 6 : : 2016/09/10(土) 21:55:48


    藤村「よーし間に合ったーあ!みんな、おは―――――――」ズルッ


    ぎごん、と生物学的にヤバい音を立てて、藤村先生はすッ転んだ。

    鋭角に、教壇に頭を激突させて。




    静まり返る教室。
    生徒たちの視線が一点に注がれる。

    男子生徒A「またかぁ...毎回同じところで、よくコケられるよな~」

    女子生徒A「ちょっと男子!冗談言ってる場合じゃないでしょ」

    男子生徒B「そうだよ。先生動いてないぞ。気絶してんじゃないのか?」


    数名の勇気ある生徒が席を立ち、倒れこんだ生徒を取り囲む。


    男子生徒C「おーい。藤村せんせー!」

    女子生徒B「ふじむらセンセー......?あのー、大丈夫ですかー?」

    藤村「ん......んぁ?」ムクッ

    藤村「......あれ?みんなどうしたの?駄目よ、ホームルーム中に席を立っちゃ。ほらほら、始めるから座りなさい」


    起き上がった藤村先生は何事もなかったように教壇に立った。

    どうやら、教室に飛び込んできてから立ち上がるまでの記憶が、ポッカリと抜け落ちているようだ。

    いつもの事なので、誰もいちいち突っ込まない。




    ・・・・・・こんなのが日常というのも
    ちょっとどうかと思わなくもない。
  7. 7 : : 2016/09/10(土) 21:56:19
















    ―――――昼―――――















  8. 8 : : 2016/09/10(土) 22:04:03


    毎日繰り返される風景。

    いつも通りの授業。

    その内容もいつも通りだ。


    藤村「・・・えーと、この本は伝記ですね。"トワイス"さんって立派なお医者さんで―」

    今日も変わらない様子でタイ...藤村先生が授業をしている。

    藤村「みんなには馴染みのない話だけど、先生が若いころは未知の病原体とか流行ったのよ?」

    藤村「あうとぶれいく、とかしょっちゅうでね~。今はもう大抵の病気はナノなんとかで治っちゃうけどさぁー」

    藤村「あ、でも先生は今でも若いんだからね?ここ、重要だからチェックするように。テストに出すから。絶対。


    あはは、と笑うものの、目が本気だ。

    そこまでにしておけよ藤村、とクラスメートたちの気持ちが一つになった時――――――

    終業のチャイムが鳴った。



    藤村「はい、じゃあ今日はここまでー。みんな、ちゃんと復習しときなさいよー。重要ポイントは特にね」

  9. 9 : : 2016/09/10(土) 22:05:14
















    ―――夕方―――














  10. 10 : : 2016/09/10(土) 22:12:02


    眠たくなるほど退屈でもないけれど
    特別興味も惹かれない授業が終わった。


    放課後の開始を告げるチャイムが鳴ると、生徒たちは三々五々に散っていく。


    慎二「ふぅ、ようやくルーチンワークから解放された。学生ってのは面倒だよな。決まり事とはいえ、退屈な授業に付き合わされるんだから」




    慎二「おっと、まだ残ってたのかい?...ふーん。ちょっと珍しいな。放課後の予定とかある?デートとか?」

    慎二「はは、なんてな!お前なんかにそんなシャレた予定入ってる訳ないか!どうせつまんない部活―――お前は新聞部だっけ...に行くんだろ?」

    慎二「まっ、地味なお前にはお似合いだけどね。実に分を弁えてる、それでこそ僕の友人だ!」

    慎二「じゃあな!また明日、学校で会おうじゃないか!」















  11. 11 : : 2016/09/10(土) 22:26:47


    慎二と別れた後、いつもの場所で新聞部の部長と落ち合う。


    部長「よ!我らが新聞部のエース。どうだ?取材の方は進んでるか?」

    部長「何ぃ、忘れたぁ?【月見原怪奇スポット】の真相について調べて報告しろって――――」




    部長「昨日言ったじゃんよー。そんなんで大丈夫か?締め切りまで時間が無いんだぜ?」

    部長「まぁ、いいや。普段の行いに免じてそのあたりテキトーに許す!まったく、あたしの優しさったら走り回る黒豹のようだ。うん、特に意味はない」

    部長「で、だ。取材の方はあたしが途中までやっといたから、続き頼むわ」




    部長「......なんだよー。その驚いた顔。あたしだって、ただ遊んでいる訳じゃないんだって。真剣に遊んでるんだって」

    部長「んじゃ、本題に入るぞ。【月見原怪奇スポットその1。≪霊界の入り口≫!」

    部長「何でもさぁ...弓道場の裏手には、霊界への入り口があるんだって。昔、先輩からのいじめで弓道場の掃除を命じられた男子生徒が、裏手のゴミを拾いに行ったまま行方不明になってしまったとか」

    部長「これはきっと霊界の入り口に違いないと言われてんだよ」




    部長「ったく、誰だよなー。んな怖...いい加減なコト言い出した奴は」

    部長「とにかく、違和感から目をそらすなよ!違和感を感じ取る嗅覚......そして真実を見抜く目......それこそ、ジャーナリストの生命線だ!分かったか?」




    部長「・・・返事は大きく【はい】だ!よーし。じゃあ、行ってこい!」





  12. 12 : : 2016/09/10(土) 22:32:17


    昇降口を出て弓道場に向かおうとした時、扉の向こうで何かが動いたような気配がした。


    用具室への一般生徒の立ち入りは禁止されている。......猫か犬でも入り込んだのだろうか?

    何とはなしに、用具室の扉へと目をやった瞬間―――



    扉が裏側から、荒々しく引き開けられた。


  13. 13 : : 2016/09/10(土) 22:48:30


    ???「―――そこで何をしている」

    暗がりから現れたのは一人の男性だった。

    黒づくめの格好と、陰湿な表情。どう見ても学校には不釣り合いな人物で、つい萎縮してしまった。

    ......しかし。
    そんな驚きはより強い違和感で消え去ってしまった。

    唐突な危機感に全身が総毛立つ。

    睨まれているというより、もう、標準を合わせられたような、ゾッとする悪寒。

    ――――――信じられない、のだが。
    この男は、いま、こちらの首を、どうやって折るかを真剣に思案している、ような――――――


    ???「......」

    ???「ふむ......リストには無い名前だが、確認は必要か......」

    男はそう呟くとゆっくりと右の拳をこちらに伸ばした。


    背筋の悪寒がより強くなる。
    目眩と吐き気、痺れて動かない手足。

    まるでヘビに睨まれたカエルだった。

    あるいは。
    自分の気の迷いではなく、本当に、彼の手には何か――――――


    ???「構えもせん、とはな。俺の感も鈍ったものだ。確かに、そろそろ休息の一つでもとるべきか」

    男は吐き捨てるように言うと、右手を下ろした。

    ......手足を縛っていた悪寒が和らぐ。

    男は暗い瞳でこちらを見下ろしていた。


    ???「用具室への生徒の立ち入りは禁止されている。以後気を付けるように」

    ???「間もなく下校時間だ。用事がなければ早く帰りたまえ」




    ???「......まだ何か?」




    ???「............」




    ???「本日着任した、教師の葛木だ」




    葛木、と名乗った男は再び用具室の中へ戻っていった。

    定刻の予鈴が鳴る。

    景色は普段通り、何事もなかったように動き出していく。

    けれど体は硬く強張ったまま、ふきでた汗の名残だけが、
    今の出来事を雄弁に語っていた。

    自分の学校にはあってはならないもの。
    アレはきっと――――――
    『殺意』と呼ばれる、明確な悪意だった。


  14. 14 : : 2016/09/10(土) 22:55:18















    ―――学園生活、あと2日―――









  15. 15 : : 2016/09/10(土) 22:55:41















    ―――朝―――














  16. 16 : : 2016/09/10(土) 23:10:15


    教室に入ると、間桐慎二の周りにいつもの女子生徒たちはいなかった。

    今日の慎二は、どうも虫の居所が悪いらしい。女子生徒たちは怒鳴られるのを恐れて、近づかないのだろう。

    とりあえず、何があったのかを聞いてみると、

    慎二「なんだよ。別に何もないって。僕は見ての通り、いつもと同じだろ」

    慎二「それよりお前、遠坂凜(とおさかりん)を知ってるだろ?あの無駄に目立つ女だよ。この学校で僕と釣り合うレベルの女なんてアイツぐらいだと思ってたけどさ。いやぁ、見かけ倒しだったよ、ほんと」

    慎二「昨日話してみたんだけど、どうも話が合わないんだよね。僕の前だから上がってたのかもしれないけど」

    慎二「攻撃的なのも減点っていうか、僕の前に言い寄ったヤツなんって平手だぜ、平手。美人で凶暴な女の子は狙い下げだよ。お高くとまってるけどさ、あれは裏じゃ色々やらかしてるね、絶対!」

    慎二「あぁ勿体ない。黙っていればホントいい線いってるのに。......くそ、お前もそう思うだろ?」


    ......どうやら遠坂凜がらみでトラブったようだ。


    どうせ、美人で評判の彼女に声をかけて、こっぴどくフラれでもしたんだろう。


    慎二「......っていうかベアナックルってあり得ないよね?なんで僕だけ?その後回し蹴りとかしなかった?アイツ」

    まだブツブツと文句を言っている。
    慎二の事だから失礼な声のかけ方をしたに違いない。

    いつもなら多少強引なアプローチでも顔がいいので
    うまくいってしまうのだが、
    遠坂凜には通じなかったようだ。

    まぁ、こういう事もたまにはある。
    日常のちょっとしたアクセント、程度の出来事。



    今日も藤村先生は始業ベルと同時に、教室に飛び込んできた。
  17. 17 : : 2016/09/10(土) 23:15:05


    藤村「おーし間に合ったーあ!それじゃ早速ホームルームを―――――」


    チョークを握ったまま、いつもの場所でズッこける。


    ありふれた日常は、こうしてゆるりと刻まれていく―――
  18. 18 : : 2016/09/10(土) 23:24:13















    ―――昼―――














  19. 19 : : 2016/09/10(土) 23:34:32


    葛木「......して、先の大戦は終息した訳だが、その後も大国が背後についた地域紛争は起こり続けている」

    葛木「諸君の親の世代には、二十世紀末の極東都市紛争が印象深いかもしれんが、その後の三十年間、紛争の数は減っていない」

    教壇には、新任だという葛木......先生が立っている。

    彼の担当授業は数学だった筈だが、少し脱線しているようだ。

    葛木「―――いや、紛争はテロと名を変え、むしろ増え続けている言っていいだろうな」

    葛木「それを収める為の試みとして―――――」


    ―――と、終業のチャイムが鳴る。


    教室の雰囲気が緩んでいく。


    葛木「さて、今日はここまでとしよう。」

    葛木「......ところで、生徒指導としての連絡事項だが―――このところ、通り魔事件など何かと物騒だ」

    葛木「風紀強化月間に入ったこともある。皆、寄り道はほどほどにして、早めに帰宅するように」

    早めに帰宅・・・か。

    しかし、新聞部の活動はやらなければならない。
    何故か、そう思った。

    「怪奇スポット」の取材にどんな思い入れがあるのか自分でも不思議なのだが、何か、とても大切な事のように思えてならない。

    昨日の報告もある。
    夕方、忘れずに部長の所に行こう。


  20. 20 : : 2016/09/10(土) 23:36:09















    ―――夕方―――














  21. 21 : : 2016/09/10(土) 23:45:25


    女子生徒「ねぇねぇ。さっき階段ですれ違った人、すっごく綺麗だったけど、転校生かな?」

    女子生徒「何言ってんだよ?あれ、B組の遠坂凜じゃん」

    女子生徒「トオサカリン...?そんな人、いたっけ?

    女子生徒「本当に知らないんですか?容姿端麗、品行方正、成績優秀、スポーツ万能の...」

    女子生徒「女生徒からは嫉妬と羨望の、男子からは情欲の視線を集めて涼しい顔のミス・パーフェクト!この学校のアイドル的存在と言っても過言ではない人ですよ。遠坂先輩は」

    女生徒「......そうだっけ?」

    女生徒「もー、そんんことも知らないなんて、ホント、あんたってぼーっとしてるわね~」

    女生徒「えぇ~?私、そんなぼーっとしてないよー。たぶん...」

    女生徒「でも...あの人、学校なのに真っ赤な服着てなかった?何だか、違和感を感じたような...」

    女生徒「さぁ......私は気が付きませんでしたけど」

    女生徒「えー。私の勘違いかなぁ......」

    女生徒「きっと、そうだよ。さ、それより早く部活いこ」

    女生徒「う、うん......」



    ふと、教室を出てすぐの廊下で、そんな会話を耳にした。


  22. 22 : : 2016/09/11(日) 00:41:09































  23. 23 : : 2016/09/11(日) 00:56:31




    部長「おう!我が部のエース。昨日の取材、成果はあったか?......ふんふん」

    部長「―――なるほど、正体はタイガーか!そーだよな、やっぱ霊界への入り口なんてあるわけないよな!」

    部長「アンタのお陰でいい記事が書けそうだよ。―――さて、んじゃ、次のネタの取材を頼むわ」

    部長「次の怪奇スポットなんだけどな。昨日真っ赤な服着た女が、屋上から恨めしそうに地上を眺めてんのを見たって奴がいたんだ」

    部長「【屋上に立つ赤い女】なんて噂も広がり始めてる。そいつの正体を取材してきてほしいんだ。ジャーナリストは足早に!頼んだぞ、我が部のエース!」

  24. 24 : : 2016/09/11(日) 00:57:26














  25. 25 : : 2016/09/11(日) 01:21:21

    冷たいドアノブをひねると、金属製のドアは音も立てずに開いた。

    立ち入り禁止の屋上には誰の姿もない筈だが、長く伸びる髪があった。


    その鮮やかな色彩(いろ)だけで息を飲んでしまう、赤い夕暮れ。

    切り取られた空の下、眼下に広がる町を見据える一人の少女。

    百年の歳月を過ごした絵画のようだ。
    少女はそんな赤色の中でいっそう赤く映えている。

    ???「綺麗な夕日――――」

    ??「ここにいる人たちは今、そう捉えているんでしょうね。確かに、とっても綺麗な光景だわ。けどまるで生きていない」

    ???「口当たりの良い世界。約束された退屈な平穏。暮れていくだけの未来」

    ???「ここはまるでカリカチュアね。趣味の悪い戯画。観るだけ、残すだけの記録に、一体なんの価値があるんだか」


    それは自嘲だったのか、ため息だったのか。

    語尾にかすかな苦笑を持たせて、少女はゆっくりとこちらを振り返った。

    迷いのない、前だけを見据える瞳。

    赤く美しく燃える夕日よりも、それは鮮烈に輝いて見えた。

    ???「あら、生徒会(システムサイド)からの警告ってわけ?ご苦労様ね」


    ???「...え、違うの?じゃあ、一般生徒(NPC)?」

    ???「何の関係もない一般生徒(NPC)が来るなんて。......ってことは、やっぱりこの場所はハズレだったのかしら」


    そう小さく呟くと、少女はつかつかとこちらに向かってきた。


    ???「ま、いいわ。人目もないし、試すには丁度いいし。ちょっとあなた、そこ動かないで」

    不意に伸ばされた彼女の指先が頬に触れる。









    ???「......ちょっと、何これ!?」

    ???「生徒会(システムサイド)からの遮断(ブロック)ってこと?なるほど、他人への接触干渉は予選の規定違反ってわけね」

    一言二言呟くと、
    何が起きたか認識する間もないまま消え去る。
    そこには、元から何も居なかったかのように。


    ――――消えた?

    その姿は、今も網膜に焼き付いているのに。







    一成「何だ、まだ居たのか。そろそろ下校時刻になるから、帰り支度をしたほうがいいぞ」

    一成「...どうした?顔色が悪いぞ?」


    一成の声で、現実へと引き戻される。余程混乱していたのだろう。

    疲れているのか、それとも―――


    ......部長には明日改めて報告しよう。

    とりあえず、今日は一成の言う通り、帰った方がいいのかもしれない......





  26. 26 : : 2016/09/11(日) 01:22:39















    ―――学園生活 あと1日―――














  27. 27 : : 2016/09/11(日) 01:23:00















    ―――朝―――














  28. 28 : : 2016/09/11(日) 11:09:05


    ドアを開けて教室に入る。

    今日もまた隣の席...間桐慎二の周辺は、
    満員御礼の装いだった。


    慎二「だから言ってあげたのさ。可哀相だけど、君に才能はないんだから、そのあたりでやめておけってね」

    慎二「そしたらそいつ、なんて言い返してきたと思う?」

    女子生徒「え~?なになに?なんて言ってきたの?」

    女子生徒「知りた~い。教えてよ」

    慎二「そいつは涙声でこう言うんだ。僕だって努力すればもっと上手くなる、いつかは練習をサボってる慎二先輩よりも正確に矢を射てみせる......だってサ」

    慎二「申し訳ないけど笑っちゃうよね。凡人でも努力すれば天才に追いつけるとか、本気で信じちゃってるなんて!」

    慎二「そんな与太話、いい加減卒業していてほしいもんだよ。そいつがダメなところはさ、凡人ってコトじゃなくて、諦めが悪いってトコロなワケ!」

    慎二「あはは、ほーんと馬鹿だよねぇ。人間ってのは持って生まれた格の違い...越えられない壁があるんだって、どうして分からないのかな!」


    女子生徒「間桐君は練習しなくても上手いもんねー。その子、かわいそー」

    慎二「あぁ、だから可哀想だって言ったろ?ま、そんな夢でも見なくちゃ、未来に希望が持てないのは同情するよ」


  29. 29 : : 2016/09/11(日) 11:09:54




















  30. 30 : : 2016/09/11(日) 11:14:56


    響き渡るチャイム。
    その音に促され、女子生徒たちは、
    それぞれ自分の席に戻っていった。

    先生を待つ間、
    何となく慎二の話していたことを考える。

    慎二に天賦の才能があるかは別として、
    僕が凡人である事は間違いない。

    そんな自分の未来に、
    希望があるかと言えば...よく分からない。
    遠過ぎて、全然イメージが湧かないのだ。

    ただ、似たような毎日が続いた先には
    面白みのない未来が待っている。
    誰であれ、漠然とそう思っているはずだ。

    それがいいのか悪いのか、
    悪いとして、どうすればいいのか。

    そんな事もわからぬまま、
    また平凡な一日が――――――







  31. 31 : : 2016/09/11(日) 11:47:27




    藤村「みんな、おはよ~」



    ――――――唐突に、鼓動が乱れだした。
    心臓に亀裂が入るような痛み。
    鮮烈な空気と、目を疑う程の存在感。

    それを放っているのは、
    藤村先生ではなく―――――


    藤村「さっそくなんだけど、今日はみんなに新しいお友達を紹介します」

    ???「......」


    理性よりも先に、体が反応している。
    この重圧の原因が先生の傍らにいる、
    あの少年にある事を。


    藤村「ささ、レオ君。自己紹介を」

    レオ「...それは何故ですか?」

    藤村「え?何故って......そりゃあ今日からクラスメートになるんだから、自己紹介は必要じゃない?」

    レオ「あぁ、なるほど。ここの方達はまだ、僕の名を知らないんですね」



    少年は何かを呟いた後、
    一歩前に歩み出た。


    レオ「皆さん、僕の名前はレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ。いずれ世界中の誰もが僕の事を知りますが、今はあなたたちの学友です。この幸運を嬉しく思います」

    レオ「それでは皆さん、しばらくよろしくお願いします」


    生徒達「......」

    藤村「......」


    教室は無音だった。

    風変わりな言葉に対する突っ込みも、
    美形の少年に対する嬌声もない。

    誰もが少年のたたずまいに、圧倒され、あるいは、見惚れていた。


    先程慎二が口にしていた事を思い出す。


    ......なるほど、
    格の違いとはこういう事か。


    あの少年には全てがあった。
    僕達のような平凡な学生ですらそんな壁を実感させるだけの、確かな天賦が。


    特別な存在とは、
    いるだけで人々の心を麻痺させる。


    我々の人生とは決して交わらないモノを、どうして直視できるだろう......?


    喩えるのなら、
    生まれながらに多くのものを与えられた王者。


    しかし、それが何の手違いでこんな場所に......?


    藤村「あー......えと.....」

    藤村「とにかくみんな、レオ君と仲良くしてあげてね。じゃあレオ君の席は......左から二列目の前から三列目が空いてるわね。そこでいい?」

    レオ「......レオ君......?あぁ、僕の事ですね」

    レオ「はい。僕はそれで構いません。貴方はまっすぐな人ですね、先生。レオと呼ばれることになんの違和感もなかった」

    レオ「機会があれば、ぜひ僕の国に来てほしいくらいです。藤村先生は、たいへん魅力的だと思います」

    藤村「う、うぇ!?ももも、もう、先生をからかうんじゃありませーん!レオ君は早く席につくこと!でも嬉しかったので、特別にゲンコツは勘弁です」

    レオ「はい。お心遣い感謝します、先生」

    少年は幼さの残る、風託のない笑顔を浮かべた。

    その表情一つで、
    凍り付いていたクラスの空気が和らいでいく。
    かくいう僕も知らず、楽しげに微笑んでいる。

    前言撤回。
    あの少年は王というより王子さまだ。
    誰よりも特別でありながら、
    誰からも愛される人柄。

    ――――しかし。
    刺々しい敵意を隠そうとしないヤツが一人......

    慎二「......気に入らないな。何が嬉しく思う、だよ、偉そうに。転校生のくせに生意気だよね、あいつ」

    慎二は苛立ちをあらわにして、
    毒づいている。

    藤村「何かわからないことがあったら、クラスのみんなか先生に相談すること。というか、まず先生に相談すること。遠慮なんてしなくていいからねっ」

    レオ「はい、分かりました。いい学び舎に出会えたようで、嬉しいです」




    レオ「......」

    ――――気のせいだろうか?ほんの一瞬だが、
    彼がこちらに目を向けたような気がした。

    騒がしく毒づいていた慎二にではなく、
    その他大勢のひとりである自分に。

    ......気のせいだろう。
    あの世界の中心にいるような少年が、
    平平凡凡を絵に描いたような僕に、なんて。



  32. 32 : : 2016/09/11(日) 11:49:41















    ―――昼―――














  33. 33 : : 2016/09/11(日) 12:47:18

    その後、他には何も起こらず、放課後になった。

    しかし、少年ーーー
    レオの姿に感じた違和感は、
    まだ心に残っている。


    少しずつ、歯車がずれているような……


    いや、これも一昨日の風紀検査のような、退屈な日々の中のちょっとしたイベント……
    なのかもしれない。


    ーーーとにかく、まずは、
    昨日の事を部長に報告しよう。


  34. 34 : : 2016/09/11(日) 12:56:59


    部長「よ!我が部のエース。昨日の取材、成果はどうだった?ふんふん……」

    部長「何ぃ?屋上の赤い女が目の前で消えた?」





    部長「……そっか、消えちまったのか。じゃ、しょーがねーな」


    ……しょうがない?

    なんだろう、
    部長のあの反応の、この、違和感……

    こんな話を聞かせたら、彼女の事だから、
    「あ、あたしを怖がらせようったって、そーはいかねーぜ!」
    とか、言いそうだと思っていたのだが。

    いや、それ以前に、
    人が消えたなんて話を聞いた反応が、
    「しょうがない」というのは……

    部長「次のネタはこれ、【中庭に立つ教会のナゾ】だ!」

    部長は、
    何事も無かったように話を続けていた。

    いつの間にか、話は、
    次の怪奇スポットに移っている。

    いいのだろうか……これで……

    部長「アンタ、ウチの学校ってミッション系でもないのに、敷地内に教会があるのは知ってたっけ?」

    部長「その教会ってさ、学校ができる前からそこにあったらしいんだ。で……その教会にはな、幽霊が出るとか、悪魔の儀式が行われてるとか、噂だけは色々あるわけよ」

    部長「だから、この教会について、取材してきてくれよ。教会がある中庭の花壇には1F廊下右奥の扉から出られるはずだ。じゃ、頼んだぜ」


  35. 35 : : 2016/09/11(日) 12:58:04













  36. 36 : : 2016/09/11(日) 13:11:00


    色とりどりの花が植えられた花壇ーーー
    そこに、こびりついた染みのように
    黒衣の男がいた。

    新任教師の、葛木だ。

    しかし……眼前に立つその姿は
    教師という聖職からは
    かけ離れた空気をまとっていた。

    おぞましいほどの殺気。
    そして、その周りにあるのはーーー

    ……生徒の……死体?

    葛木「何故入ってくる……?扉にはカギをかけた筈だが……」




    葛木「ーーーーー試すか」

    薄い唇がかすかに動いた、ように見えた。
    次の瞬間ーーーーー











    見えない何かに殴られたような衝撃を受け、
    地面に叩きつけられる。

    混乱は土砂となって思考を埋める。
    一体何が起こった?
    手足はまだ付いてるか?
    そもそも今のは一体なんだ?

    葛木はその場から一歩も動いてはいない。
    あたりに人影もない。

    誰が。

    なぜ。

    どうやって……

    空回る思考。

    早鐘を打つ心臓。


    葛木「底が知れたな。……貴様ではなかった、という事か」

    呟きほどの小さな声だけが妙にはっきりと聞こえた。

    思考の読めない、冷たい目をした男は
    掌をゆっくりとこちらに向け……













    ……

    ……………

    ……気がつくと、
    花壇に倒れこんでいた。

    静まり返った中庭。
    あの男の影も、周りにあった筈の死体も無い。

    堅い地面に寝ていたせいか少し体が軋むが
    怪我はないようだ。

    嫌な汗もすっかり引いているが……
    頭の芯から突き刺すような痛みだけが残っていた。

    まるで悪い夢を見ていたようだ。
    大きく一息ついて立ち上がる。



    ……足元が、かすかに、揺れた気がした。

    ……もちろん錯覚。
    そんな気がしただけだ。

    ……部長への報告は
    明日、改めてすればいいだろう。

    今日はこのまま家に帰ろう。


  37. 37 : : 2016/09/11(日) 13:20:06


    帰り支度をすべく教室に戻ると、同じ新聞部員の男子生徒が待ち伏せていた。

    男子生徒「おぉ、よかった!まだ帰ってなかったみたいだな」

    男子生徒「実はさ、部長から頼まれて七不思議について調べてるんだが……ちょっとやっかいな内容でさ。聞いてくれよ」


    月見原学園七不思議「さまよう少女の霊」


    二回廊下をさまよう東洋人の少女の霊。
    廊下を歩いていると後ろから突然声を掛けられる。
    声を聞いて振り返ると魂を抜かれるという。


    男子生徒「こんな内容なんだ。お前ちょっと調べてきてくれよ」

    男子生徒「えっ?二階にいるんだし、今から帰るところだから自分でやれって?」

    男子生徒「やだよ……俺は幽霊とか心霊写真とか、そういうのホント駄目なんだ。二階廊下のさまよう少女の件はお前に任せたからな。頼んだぞ!」


    ………………


  38. 38 : : 2016/09/11(日) 13:29:02


    廊下はもう放課後で一通りもない。
    話し声もしないし、足音の一つもない。
    寒気がするほどの静けさだ。

    そんな中、
    不意に、妙な気配を感じた。


    廊下の奥……
    生徒達のロッカーが置かれている、
    丁度、今の立ち位置からは死角となっているスペースに、何かの気配を感じたような。
    突然、その場所に現れたような、

    ……錯覚に違いない。
    足音も吐息も声もない。
    誰もいるわけがない。
    居たとしても、せいぜいロッカーを利用している生徒だろう。

    だが、だとしたら…何かしらの物音が聞こえてもおかしくはない筈だが、それもない。

    なのに、何かがいるような気がする。
    やはり、錯覚に違いない。

    ならどうしよう?
    どうせ気のせいなのだから、
    見に行ったところで何かが起こるわけでもない。
    どちらにせよ同じ事だ。

    さて、それではどうしようか……?

  39. 39 : : 2016/09/11(日) 13:53:57


    見に行ってみる。
    もちろんそこには誰もいない。


    はずだったが………少女がいた。


    その姿はこの学園には明らかに不釣り合いだ。

    白いワイシャツの上に、腰までの長さしかないジャケット。
    首に巻かれたマフラーは風がない筈なのに、まるで吹かれ、煽られるようにゆったりとたなびいていた。

    その格好からはこの少女がどのような人物なのか察する事はできなかったが、短くはありながら、遠坂凛を連想させる鮮やかな黒髪は、正直、とても綺麗だと感じた。


    だが…
    綺麗ではあるが、その少女は生きている人間には見えなかった。


    少女は微動だにしない。
    人形のように/死人のように
    絵画のように/亡霊のように
    ただ、瞳だけがじっと、悲しげに自分の足元を見つめている。


    やがて、ゆっくりと少女の姿が薄れていく。
    服が、白い肌が空気に溶けていき、光を失ったかのような瞳が最後に消える。

    そして、あの気配も同時に消えた。
    少女のいた事を示すものは、何もない。
    全ては幻だったかのように。


    ……きっとあれが、
    噂に聞く【さまよう少女】なのだろう。

  40. 40 : : 2016/09/11(日) 14:04:25















    ―――学園生活 あと0日―――














  41. 41 : : 2016/09/11(日) 14:05:32















    ―――朝―――














  42. 42 : : 2016/09/11(日) 14:33:29


    教室に入ると、
    そこにはいつもとは若干異なる光景が広がっていた。

    女子生徒「すご~い!じゃあレオ君、この問題はどう解くの?」

    レオ「この場合はこちらにある数列を二番目の式に代入し、xで全体を割ればいいのです。後は簡単な公式に沿って解いていけば、答えは導き出されます」

    女子生徒「うわっホントだ!ありがとう、レオ君」

    誰かと違い、
    嫌味なく親切にクラスメートを教えている。

    そんな微笑ましい光景を苦々しく見つめる視線が一つ。

    慎二「あんなガキから物を教わろうだなんて、プライドってのが無いんだろうな」

    慎二「......ふん、いいさ、清々したよ。顔のクォリティが低いヤツは、心まで低いってコトだしね」

    今レオの周りを囲んでいる女子生徒たちは数日前までは慎二を囲っていたメンツだ。

    なら、この慎二の不機嫌さも仕方のない事かもしれない。

    慎二「あのガキもさ、背伸びして大人ぶりたいなら身の程にあった場所でやってりゃいいのにさ。僕の目の前で頭いいフリしたって、必至すぎて恥ずかしいだけだって。底が見えすぎだよ。そんなことも分からないなんて、やっぱりまだ子供っていうか―――」


    レオ「......」

    慎二の声に反応し、
    レオがこちらに視線を向けた。

    睨みつけたわけではないが、
    何を思っているのか、その表情からは読み取れない。

    慎二「あっ、うっ......なんだよ、お前?この僕とやろうっての?」

    どもりながらようやく絞りだした慎二の声は、
    ほとんど呟きのような小さな声だった。

    それが聞こえたのかは定かではないが、
    レオは視線をこちらに向けたまますっと立ち上がる。

    びくりと萎縮する慎二と、
    優しげな笑みを浮かべるレオ。

    彼の全ての所作が、
    慎二とは正反対の気品に満ちている。



    レオ「申し訳ありません。知らず、不快な思いをさせてしまったのですね」

    レオ「間桐慎二さん、でしたね。気後れさせてしまった事も含めて、以後は気を付けるようにします」

    ―――それだけ告げると、
    レオは静かに席についた。

    その柔らかな口調は、
    敵意も嫌悪もない事を誠実に示している。

    ......あるいは。
    もとから、そういった対象にすら、
    捉えていないのかもしれないが。


    慎二「ふ、ふん。僕にかなわないから頭を下げたってワケか。よく分かってるじゃないか。そういう事なら大目に見てもいいさ。ふ、ふん、元々あんな子供、眼中になかったけどさ!」

    慎二は、
    レオが自分から視線を外したことをしっかり確認した後、平静を装って席に座り直した。


  43. 43 : : 2016/09/11(日) 14:35:52















    ―――昼―――














  44. 44 : : 2016/09/11(日) 14:58:45

    慎二はまだ不機嫌だった。
    相変わらずレオの事がお気に召さないらしい。

    しかしこの友人、大抵の場合は不機嫌か、
    独自の価値観で斜に構えているかのどちらかなので、
    別に珍しくもない事だ。

    藤村先生はホームルーム同様、
    遅刻ギリギリで教室に飛び込んできて、
    いつも通りの授業を始めた。


    藤村「......えーと、じゃあ、この間の続きからね。トワイスさんの伝記ですが―――」

    授業中、
    レオ少年の口元がふとほころんだようにも見えたが、
    だからといって別に何事もなく。

    今日もただただ、
    ありふれた日常が―――


    藤村「みんなは、アムネジアシンドロームとか知ってるかなー?」

    藤村「ある日、きれいさっぱり記憶をなくしちゃうっていうホラーな話!脳の機能を麻痺させちゃう病気でね、口内からの粘膜感染......汚染した水を飲むだけでかかっちゃったらしいわ」

    藤村「いま読んだ文は、その病気について触れてるんだけど......そういうこわーいウイルスのワクチンを見つけたのも、このトワイスさんなわけよ」

    藤村「あ、ちなみにアムネジアシンドロームは、もう、治療法が確立されてるからね。宿題忘れた言い訳にしても無駄よ!先生が若いときは、そういう不届きなクラスメートが結構いてねー」

    藤村「あ、大事なことだからもう一回言うけど、先生は今でも若いのよ?ここテストに出すから。本当に」

    タイガーの話が横道にそれだす。

    またか......と、
    クラスメート達の気持ちが萎えかけた時―――




    レオ「藤村先生」

    レオが立ち上がった。
    授業中に、教師に指されたわけでもなく、
    唐突に。

    教室中の目が驚きと、
    これから始まる何かへの恐れを伴って、
    レオに集中する。

    少年は周りを見回して視線を受け入れ、

    レオ「......それにみなさん。そろそろ僕は行く事にしました。これでもう会うことはないでしょうが、ごきげんよう」



    ――――――――っ

    何だ......頭が、痛い......

    レオ「......あぁ。もう一つ言い忘れていた。藤村先生は今もお若いと思いますよ。貴女はそこにいるだけで青春を思わせる、実に得難い人でした」

    お辞儀だろうが、小さく上体を傾けると、
    それから教室を出て行った。
    止める暇もなく、速やかに。

  45. 45 : : 2016/09/11(日) 15:07:52


    藤村「え、えーーと......じゃ、じゃあこの続きですね。86ページを......」

    生徒たちがページをめくる音。
    ぎこちなく、授業が再開される。

    慎二「あーぁ、目立ちたがりでも、ここまでいくと見苦しいねぇ。授業中だぜ?トイレならもっとコソコソと行くもんだろ?何が行く事にしました、だ。どれだけ大事に育てられた坊ちゃんなんだか」

    もちろん、そんな事であるわけがない。

    白昼堂々の、謎のエスケープ。
    それなのに先生は、追おうともしない。
    怒る様子も見せない。

    クラスの生徒たちも、何も言わない。
    授業が滞りなく進められる。
    何事もなかったかのように。

    それはいつもと同じ、
    ありふれた日常の風景で―――だからこそ、
    これ以上なく不自然だった。


  46. 46 : : 2016/09/11(日) 15:09:48















    ―――夕方―――














  47. 47 : : 2016/09/11(日) 15:18:03


    レオが教室を出てから、
    台本通りに進めなければいけない芝居のように、
    淡々と、不自然な授業は続いた。


    ―――おかしい。


    絶対に、おかしい。


    ......地面が微妙に傾いている。
    目に見える風景が、刻一刻と現実感を失っていく。

    何だか......ひどく頭が痛い......
    此処が何処なのか、
    自分が誰なのかも分からなくなりそうだ。

    あぁ、そういえば――――


    ............


    そういえば。


    僕は。


    ――――――――――――誰だ?


    名前は何だ?


    歳は?


    どこに住んでいる?


    家族は何人だ?


    この学校に来る前は何をしていた?


    何も............思い出せない。
    記憶がスッパリと断ち切られている。


    そんな、一体どうして――――!?


    ―――そうだ。部長なら....新聞部の部長なら、
    こちらの名前くらい知っているはずだ。

    部活に入るとき、
    書類くらい出しているはずだ。


    彼女に、聞いてみよう。



    彼女は、
    恐らく、いつもの場所に、いるだろう。



  48. 48 : : 2016/09/11(日) 15:24:32


    部長「よ!我が部のエース。昨日の取材、成果はどうだった?」

    部長の様子はいつもと同じだった。

    昨日の成果と言われて、中庭に倒れた死体を思い出す......

    いや、それより今は自分のことだ。
    彼女に僕の名前を尋ねてみよう――――


    部長「は?アンタの名前?そんなの......図書室で名簿でも調べなよ」

    そうか、名簿だ。


    学生名簿を見れば自分のことが分かる。
    何か思い出すこともあるかもしれない。

    図書室に行ってみよう。







  49. 49 : : 2016/09/11(日) 15:29:12


































  50. 50 : : 2016/09/11(日) 15:34:57


    見つけた。

    『月見原学園 学生名簿』

    これを見れば、きっと、
    自分のことが......

    手に取り、ページをめくってみて、
    異変......に気がつく。


    ―――白紙。


    白紙、白紙、白紙。
    どのページも全て白紙だった。

    隣にある、過去の名簿に手を伸ばす。
    ページをめくると......

    白紙。
    白紙、白紙、白紙――――――。



    パキン――――――――――――――




    何が起こっている?
    僕は誰だ?

    ここは......いったいどこなんだ?





  51. 51 : : 2016/09/11(日) 16:08:05



    止まぬ頭痛を堪えながら、
    自分がなんなのか、
    その答えを求め、当てもなく校舎を歩く。


    ......と。


    気が付けば、昨日あの幽霊を見かけた場所まで来ていた。
    今日もあの少女は、あの場所に、いた――――



    生気をまるで失っている瞳。
    よく見ると、目元が赤く腫れていた。

    もしかして、泣いていたのだろうか。


    ここで話しかけるのは、きっと良くない。


    とは言っても、このまま何も言わずに見つめ合うだけ、というのも
    何か気まずいものがある。


    あくまで相手の立場に立つように気を配りつつ、
    話しかけてみよう。


    ???「......なさい。ごめ...なさい」

    儚げな、少し透き通る声。

    どうやら相手には、こちらの声は聞こえていないようだ。
    呼びかけに微塵の反応も示すこともなく、
    少女はまるで念仏でも唱えるかのように、
    言葉を発し続ける。


    ???「ごめん、なさい...■■■......私が、弱いせいで、貴方は......これからも、ずっと......」

    ???「もう、誰も...貴方の心を、癒しては、あげられない...■■ミンも、1■■期のみんな、も...■■■団の人達も、団長、も...リ■■イ兵■も...もう、誰も貴方を救えない......」

    ???「あなたは、もう、一人ぼっち......もう、いい...■■を駆逐、するなん、て、考えなくて......いい...」

    ???「貴女、は...幸せ、に――――――る、権利――――。――――ん、おば、さん―――――どう、か―――■■■を―――――守―――――――――て――――――――」


    やがて、泣き崩れていくかのように、
    少女の声は、その姿と共に、跡形もなく消え去った。



  52. 52 : : 2016/09/11(日) 16:11:47
























  53. 53 : : 2016/09/11(日) 16:21:11


    この世界は、おかしい......
    それ以上に自分の記憶が無い事に不安を覚え、
    校内を徘徊する。

    ふと、一階の廊下を歩いていくレオの姿が目にうつった。
    転校してきたばかりのレオが、
    一年の教室に用事があると思えない。

    しかし、この廊下の奥は行き止まりの筈だ。
    一体レオはどこに行こうとしているのだろうか......?


  54. 54 : : 2016/09/11(日) 16:59:40


    廊下の先に、異質な気配を感じた。


    レオ「......」


    何の変哲もない廊下の壁を、
    考古学者が遺跡に対して見せるような丁寧さで撫でている。


    レオ「本当に良くできていますね。ディティールだけじゃなく、ここは空気でさえリアルだ。ともすれば、現実よりずっと現実らしい」

    レオ「ねぇ......貴方たちは、どう思います?」


    ―――心臓が跳ね上がるのを感じた。


    それに同調して全身の血の巡りが加速し、
    体温が上がっていく。


    動悸。動悸。動悸。


    鼓動は爆音のように、
    手足を巡る血液は加速していく。

    何故、と自問するまでもない。


    彼に―――レオに正面から見据えられているからだ。

    今度はもう勘違いじゃない。
    この場所には今、僕たちしかいないのだから。

    レオ「こんにちは。こうして話をするのは初めてですね」

    敵意など全く感じさせない、
    愛嬌に溢れた笑顔を向けてくるレオ。

    その笑顔は太陽そのものだ。

    すべてを照らし、すべてを惹きつける。
    その引力に自分も惹かれていることに気付く。

    不思議と不安はない。
    ただ、従おう。彼の命じるままに。
    それがきっと正しい道なのだから―――


    ......そんな心地の良い感情が、
    ぼんやりとした頭の中を満たしていく。


    レオ「ここの生活も悪くはありませんでした。見聞の限りではありましたが、学校というものに僕は来た事がなかった」

    レオ「そういう意味ではなかなかに面白い体験が出来ましたよ」

    レオ「......でも、それもここまでです。この場所は、僕のいるべきところではない。寄り道は所詮寄り道。いずれは本来の道へと戻る時がくる。それが、今......」


    レオは踵を返し、こちらに背を向けた。


    レオ「さようなら」

    レオ「――――いや、違いますね。お別れを言うのは間違いだ。今の僕は理由もないのに、また、貴方に会える気がしている」

    レオ「だから、ここは、『また今度』と言うべきでしょう」

    レオ「では、先に行きますね。貴方たちに幸運を」


    言葉だけを残し、レオはその場から姿を消した。

    文字通り消失。
    壁に手をかけた後、
    次の瞬間には影も形もない。

    少年は姿を消した。

    空間が彼の存在を拒んだ。
    いや、彼がこの空間にいる事を拒んだ。
    彼は何も特別な事はしていない。
    ただ確固たる意志で、自らの道を決めただけ。

    彼という強大な違和感が消えたお陰で、
    体を圧迫していた何かが散って、
    少し楽になったような気がする。

    ―――しかし、そのせいで、
    根本的な疑問が力を取り戻した。

    僕は誰なのか?

    それは、抑えようもなく膨れ上がり、
    じりじりとした頭痛として、
    自らをさいなみ続けるようだ......


  55. 55 : : 2016/09/11(日) 17:15:17




    レオが消えた壁を調べる。

    ただの行き止まり。
    何の変哲もないコンクリートの壁。
    床に落ちているのは埃くらいだ。

    しかし、レオはこの壁の前で消えた。
    ここには何かがある。
    それは間違いない。

    振り返れば、見慣れた廊下が広がっている。
    引き換えせばすべては元通りで、
    異常は錯覚のまま、記憶の棚に仕舞われるだろう。

    しかし、僕は、
    この世界に疑問を持ってしまった。

    僕自身の記憶が無い事に気付いてしまった。

    ......もう、引き返すことは出来ない。
    僕には戻る場所など、初めから、
    どこにもないのだ。

    レオは何と言っていた?

    「――――いずれは本来の道へと戻る時がくる」

    彼は、そう言っていなかったか?
    なら、この先には「本来の道」がある。
    この世界の真実が。

    彼の後を追えば、
    望まずとも「結末」を手に入れることになる。

    目覚めは残酷......なのだろう。
    それでも眼を逸らす、目を疑わず、
    この目蓋を開けるべきなのだと、僕は思った。




  56. 56 : : 2016/09/11(日) 17:17:05









































  57. 57 : : 2016/09/11(日) 17:26:32



    何かが変わった。


    壁も床も、
    校舎はさっきまでと変わらぬ外見を保っていたが、
    その中身はもう違う物と断言できる。

    何故なら、恐ろしいほど現実感がない。

    書き割りの背景以上、
    土塊の張りぼて未満。

    叩けば世界の裏側にまで音が響きそうなほど、
    もろくうすい物に感じられる。

    つまらないコンクリ壁だった場所には、
    扉らしきものがぽっかりと空いていた。

    入り口。
    あるいは、外に続く非常階段。

    それはこの世のモノに非ず。

    あの入り口から行けるのは、
    ありえない世界に違いない。

    中に待ち受けるものは、どのようなカタチであれ、
    一つの結末に違いない。

    しかし、この場に留まるという選択肢はない。
    既に僕は選んだのだ。
    この道筋(ルート)を。

    偽りの日常に別れを告げ、
    あるべき場所へと足を踏み出す―――


  58. 58 : : 2016/09/11(日) 20:31:00
































































  59. 59 : : 2016/09/11(日) 20:36:32


    扉の先は、ほの暗い廃棄場だった。

    目の前には、
    つるりとした肌の人形(ドール)
    どう対処しようか、と考えていると――――


    ???「ようこそ、新たなマスター候補よ」

    何処からともなく、声が響いてきた。

    ???「それは、この先で、君の剣となり、盾となる人形だ。命ずれば、その通り動くだろう」

    ???「さぁ、進みたまえ。君の求める真実は、この先だ」

    声の主の意図や正体は気になるが、
    この場に留まっていても、
    何も分からないのは確かだ。

    そして、今更引き返す気も無い。

    ―――奇妙な人形の従者と共に、とにかく、先に続く闇へと歩き出した。



  60. 60 : : 2016/09/11(日) 20:37:26



































  61. 61 : : 2016/09/11(日) 20:46:16


    ―――着いた。


    扉を抜けた世界の奥の奥―――


    この場所こそがきっとゴール。
    そう思えた。


    穢れたもの、害為すものは侵入できない、息苦しさすら感じる荘厳さ。


    ...知っている。
    この空気は教会と呼ばれる、
    今は失われた、聖霊の宿る場所だ。


    部屋の様相に圧倒されていて気が付かなかった。


    部屋の端に、
    見慣れた制服を着た青年が横たわっていた。


    声を掛けてみるが、返事はない。
    ゆすり起こそうと体に触れ、気付く。


    ――――冷たい。


    自分の血の気まで、さっと引いていった。
    目の前の真実に頭が混乱し、うろたえる事しかできない。


    その時だった。


    ――――――――――――――ベキバキパキッ


    男子生徒の傍らに崩れていた人形が、カタカタと音をたてて立ち上がる。

    状況を理解する間もない。
    人形は、大きく体を捻ったかと思うと、
    そのままこちらに向かってきた。


  62. 62 : : 2016/09/11(日) 20:51:40



    ザクッ――――――――――――!!





    ......


    ............


    ........................




    ???「...ふむ、君も駄目か」


    手も足も出なかった......
    僕には資格が無かったようだ。


    僕?資格?そうか―――――
    今ならわかる。
    確かに真実は、ここに......


    だけど......もう......


    あぁ......
    薄れていく......


    ......怖くはない。
    胸に残るのは、悔しさだけだ。


    結局、僕は。
    最後の最後まで、自分が誰なのか、思い出せなかった。





    あぁ......誰か。


    他の、まだ資格のある、誰か。


    僕の名前を―――――――忘れない、で――――――――――





























  63. 63 : : 2016/09/11(日) 20:57:01














    ―――――Fate/EXTRA―――――













  64. 64 : : 2016/09/11(日) 20:59:23




































  65. 65 : : 2016/09/11(日) 21:21:27


    気が付けば、目覚めはいつも唐突だった。
    夢を見た感触もない。
    気が付けば通学路を歩いている。

    頭痛は日増しに強くなっていき、
    ついに警鐘のように脳に鳴り響いた。

    その日。
    あまりに強い痺れに、平時(ルーチン)より二分だけ早く目が覚めた。


    朝の通学路を行く。
    午前七時半、雲一つない晴天。
    なのに季節は曖昧だ。

    今が何月の何日なのかを考えようとすると、
    目眩で全てが真っ白になる。

    気を抜けば昏倒して、
    朝のベッドに戻っているかもしれない―――


    そんな、益体のない想像を、これまでずっと抱いてきた。


    急ぎ足のクラスメート。
    お喋りで賑わう通学路。
    いつも通りの登校風景。


    何一つ変化がない


    何一つ変化はない。


    ―――――深く考えると、目眩で視界が真っ白になりかける。


    今日は/今日も
    校門の前は混み合っている。
    どうやら登校してきた生徒たちが
    呼び止められているらしい。


    何が起こっているのかは――――


    校門には黒い学生服がひとり。
    生徒会長である/と記憶している
    友人でもある/と記憶している
    柳洞一成姿が見える。


    この初体験は、既に分かっている。
    一成は視線に気が付くと、
    人波をかき分けてこちらにやってくる。


    一成「おはよう!今朝も気持ちのいい朝でたいへん結構!」

    一成「ん?どうした、そんなに驚いた顔をして。先週の朝礼で発表しただろう、今日から学内風紀強化月間に入ると」


    彼は初めて開示する情報のように、
    丁寧なチュートリアルを口にした。


    知っていた。
    知っている。
    この展開は知っていた。
    もう、幾度となく知っている。


    頭痛がする。
    目眩で、一日の開始に戻されそうになる。
    その強制退出(ログアウト)に、意識を噛み殺して堪えた。


    一成「では、まずは生徒証の確認だな。言うまでもないが、校則では携帯する義務がある」


    お前は誰だ、という質問。


    決まっている。


    いつも目眩で曖昧にされる質問に、はっきりと回答する。









    白野「.........岸波 白野(きしなみ はくの)

  66. 66 : : 2016/09/11(日) 21:53:35


    一成「よろしい。天災はいつ起こるか分からんものだ。有事の際、身分証明が確かだと皆が助かる」


    白野「......」

    吐き気がする。
    気分が悪いのは自分の体調不良ではない。


    吐き気がするのは、自分以外の全てだ。


    この世界そのものが、
    同じすぎて気持ちが悪い――――――


    一成「それでは制服へ移ろう。......襟よし!裾よし!ソックスも......よーし!」


    白野「......っ!」ダッ!


    退いてほしい。
    その繰り返しをやめてほしい。
    黒い制服を押しのけて先に進む。


    乱暴に押しのけられた彼は、


    一成「次は鞄の中身だが......うむ。ノート、教科書、筆箱、以上!違反物のカケラも見つからん。爪もきっちりそろえられているし、頭髪も問題はない......と。うむ、実に素晴らしい。どこから見ても文句のつけようのない、完璧な月見原学園の生徒の姿だ!」


    誰もいない空虚に向かって、
    高らかに独りごとを言っている。

    頭痛がする。
    悪寒をのむ。
    確信がある。


    ここは違う。
    ここは、決して自分の知る学校じゃない......!


    行かないと。
    早く目覚めないと。
    何もかも手遅れになる。

    目覚めは――――――一体、誰の為に―――――



  67. 67 : : 2016/09/11(日) 21:56:25















    ―――昼―――














  68. 68 : : 2016/09/11(日) 21:56:47















    ―――夕方―――














  69. 69 : : 2016/09/11(日) 22:00:58


    白野「はぁ...はぁ...」


    焦燥感と頭痛は増すばかりだ。

    けれど、
    このおかしな状況の突破口を見つけられないまま、
    結局、夕方になってしまった。

    視界は、相変わらずノイズに覆われている。


    違和感。
    空疎間。
    空虚感。

    誰か、説明して欲しい。
    この感覚の正体を。

    どこかに...あるのだろうか。
    この感覚に答えを与えられる鍵のようなものが―――


  70. 70 : : 2016/09/11(日) 22:07:00



    一階に降りた瞬間、
    強烈な違和感に襲われた。

    紅い服をまとった少年―――転校生の、レオだ。

    彼が視界に入った瞬間に、
    締め付けられるような違和感に挫けそうになる。

    そして、彼を追っていく生徒。
    あれは......同じクラスの――――


    そうだ、
    この学校を支配する違和感。
    レオからだけではない、
    思い起こせば、様々な空虚感があったはずだ。


    思い出せ。
    いる筈も無い人間、
    消えていく生徒。
    剥がれていく世界観(テクスチャー)


    目を背けるな


    真実は何か。


    目を るな


    お前の知る世界は何なのか。


    目を背けるな


    ここに居る、その意味を。








    追おう。
    この目覚めを、裏切らないために―――――。


  71. 71 : : 2016/09/11(日) 22:22:23



    廊下の先で、レオと、
    同じクラスの男子生徒が話している。

    レオ「本当に良く出来ていますね。ディティールだけじゃなく、ここは空気でさえリアルだ。ともすれば、現実よりずっと現実らしい」


    レオ「ねぇ......貴方たちはどう思います?」


    白野「っ!?」ビクッ


    一瞬、気付かれたと思い、ドキリとする。


    が、レオは自分を無視して、彼と話し始めた。

    レオ「こんにちは。こうして話をするのは初めてですね」

    敵意などまったく感じさせない笑顔を向けるレオ。

    だが―――
    その背後には、もっと別の何かが潜んでいる。
    なぜか、そう思った。

    レオ「ここの生活も悪くはありませんでした。見聞の限りではありましたが、学校というものに僕は来た事がなかった。そういう意味ではなかなかにおもしろい体験が出来ましたよ」

    レオ「......でも、それもここまでです。この場所は、僕のいるべきところではない。寄り道は所詮寄り道。いずれは本来の道へと戻る時が来る。それが今......」


    レオは踵を返し、こちらに背を向けた。


    レオ「さようなら」

    レオ「――――いや、違いますね。お別れを言うのは間違いだ。今の僕は理由もないのに、また、貴方に会える気がしている。だから、ここは、『また今度』と言うべきでしょう」

    レオ「では、先に行きますね。貴方たちに幸運を」チラッ


    白野「!!」


    そう言ったレオは、
    一瞬、確かに、こちらに視線を向けた......

    やはり、自分が覗き見ていたのは
    気付かれていたようだ。

    そんな事を考えているうちに、壁に向かったレオは―――
    その場から消えてしまった。




    そして、もう一人の男子生徒も、
    壁に手をかけ、消えてしまった。

    彼らが消える瞬間、
    ジジッと、視界のノイズが強くなり、脳幹に衝撃が走った。

    これは一体...どういうことだ?

    ここが、この違和感の終着点なのだろうか......
  72. 72 : : 2016/09/11(日) 22:27:07


    白野「......」スッ


    自分もまた、彼ら同様、
    吸い寄せられるように壁に手をかける。

    そうだ、ここが終着への出発点。
    真実を、
    この違和感の元を――――――。





    バチバチバチバチッ――――――――――――!





    空気が変わった。

    コンクリートの壁だった場所に姿を現した扉。
    それは入り口。

    それはこの世のモノに非ず。

    この入り口から行けるのは、
    ありえない世界に違いない。

    偽りの日常に別れを告げ、
    自らがあるべき場所へと足を踏み出す――――


  73. 73 : : 2016/09/11(日) 22:31:23




































  74. 74 : : 2016/09/11(日) 22:35:37


    異界の入り口―――

    扉の先は、その表現がぴったりの場所だった。

    目の前には、
    つるりとした肌の人形(ドール)

    これは、この先で、
    自分の剣となり、盾となるもの......
    何処からともなく、そんな声が聞こえてきた。

    何かが分かったわけではないが、
    何をすればいいのかだけは示された。

    白野「......」ゴクリ

    この先に、
    少なくとも違和感の手掛かりがあるのだろう。


    ―――奇妙な人形の従者と共に、
    とにかく、先へ進む事にしよう。



  75. 75 : : 2016/09/11(日) 22:37:13














































  76. 76 : : 2016/09/11(日) 22:43:36


    その場所には、あの学校の面影など、
    微塵も残っていなかった。
    床も壁も、空気、気配、全てが違っていた。

    いつ物陰から怪物が現れてもおかしくない異様な空間。
    この場所を許容するには、
    地下迷宮(ダンジョン)の語がぴったりだろう。







    ???「ようこそ、新たなマスター候補よ」

    どこかからか声が響いてきた。
    人影はない。
    虚空から湧き出てきたかのようだ。


    ???「君が答えを知りたいのなら、まずはゴールを目指すがいい。さあ、足を進めたまえ」




  77. 77 : : 2016/09/11(日) 23:31:30



    何者か分からぬ声、
    そして従者である人形(ドール)に助けられながら"エネミー"と呼ばれる敵性プログラムと戦い、迷宮の奥へと進む。

    素性不明の声は言った。


    非力なお前に代わり、その人形がエネミーと戦うと。

    人形が倒れし時、この世界において岸波白野を守護する者はいなくなる、
    それはいわゆる、"死"であると。


    突然突き付けられる事実。
    それを脳内で整理する間も与えられぬまま、
    何とか数戦を乗り切り、進み、

    そして―――――







    ―――――着いた。

    壁に出現した扉をぬけ、
    長い長い通路を辿った先の先......

    息苦しさすら感じる荘厳な空間。
    今は失われた、聖霊の宿る場所。
    ここがゴール。そう思えた。


    そこに―――――
    誰かが倒れていた。

    顔を確認すると、
    先程レオを追っていった男子生徒だ!

    白野「ねぇ......」

    声を掛けてみるが、返事はない。

    白野「ちょっと......」スッ

    ゆすり起こそうと体に触れ、気付く。


    ―――――――冷たい。


    自分の血まで、さっと引いていった。
    目の前の事実に頭が混乱する。

    その時だった。



    ―――ピシッ、カタカタカタ.....



    白野「え...?」


    彼の傍らに崩れていた人形が、
    カタカタと音をたてて立ち上がる。

    何度か敵性プログラムと戦った今なら分かる。
    あれは、敵だ。

    人形は、大きく体を振ったかと思うと、そのままこちらに突進してきた。


  78. 78 : : 2016/09/11(日) 23:32:33































  79. 79 : : 2016/09/11(日) 23:36:33



    ザクッ――――――!




    白野「か、ァッ...」ドサッ、


    ???「......ふむ、君も駄目か」


    .....遠く、声が聞こえる。


    ???「そろそろ刻限だ。君を最後の候補とし、その落選をもって、今回の予選を終了しよう」


    ???「―――さらばだ。安らかに、消滅したまえ」

    声はそう言い放った。


  80. 80 : : 2016/09/11(日) 23:53:37


    否定する力もなく、
    ぼんやりと床を見つめるコトしかできない。
    ......このまま、死んでいくのだろうか。

    突然、霞んだ視界に、
    土色の塊がいくつも浮かび上がった。

    いや、今になって見えただけで、元からそこにあったのかもしれない。

    それは、その塊は、
    幾重にも重なり果てた月見原学園の生徒たちだった。

    先ほどの彼だけではなかったのだ。
    ここまでたどり着き、しかしどうにもできず、
    果てていった者たちは。

    ......そして間もなく、
    自分もその仲間入りするのだろう。


    白野「......」


    ――――このまま目を閉じてしまおうか。
    やれることはやった。
    もう終わりにしてもいいのかもしれない。


    白野「......うぅ、くッ―――――」グググ


    諦めたくない......
    そう思って、起き上がろうと力を入れた。

    しかし体中に激痛が走り、全く動かない。

    それならば......
    いや、それでも――――――

    白野「うぅぅ......!くっ...!」ググググ!

    ......そうだ。
    諦める訳にはいかない。

    いずれ膝を屈する時が来るにしても、
    今ここで、諦めるのは間違っている。

    ......間違っている、気がするのだ。


    からだの感覚が、薄れていく。

    全身に駆け巡る痛みは、
    とうに許容外の蓄積。
    死後の拷問、地獄の責め苦をイメージさせる。

  81. 81 : : 2016/09/11(日) 23:54:30






    ―――――それでも


    私/自分/貴女/は、


    立ち上がらないと。





  82. 82 : : 2016/09/11(日) 23:57:00


    それは自分でも理解できない衝動だった。
    死ぬのが怖くて諦められないのではない。

    寧ろ楽になりたがっている。
    なのに、なぜ懸命に、
    体は力をこめて立ち上がろうとしているのか。

    その理由が分からない。
    なぜ殺されるのか分からない。
    どうして自分がここにいるのかが―――――










    ――――――そうか。
    理由はきっと、それだけだ。

  83. 83 : : 2016/09/11(日) 23:57:30





    多くの死体があった―――――――





  84. 84 : : 2016/09/11(日) 23:57:49






    多くの問いかけがあった――――





  85. 85 : : 2016/09/11(日) 23:58:28






    なら―――――――分からない、で済ませてはいけない。




    否。




  86. 86 : : 2016/09/11(日) 23:59:20





    自分は心を持って目覚めたのなら。





    分からないまま終わるのだけは―――――――





  87. 87 : : 2016/09/12(月) 00:01:24















    白野(命がある限り――――許されない......ッ!)ギリッ














  88. 88 : : 2016/09/12(月) 00:03:35















    ???「......なるほどね。それがお前の出した"結論"って訳か」













  89. 89 : : 2016/09/12(月) 00:14:44



    ???「死んで無様に這いつくばってる癖して、一丁前に自分の生き方に疑問を持って、自分を不明さを恥じた...か」


    ???「お前みたいな無様な人間をよく知ってるよ。他人からすりゃただの阿保か、それまた別の何かかは知らんが―――――あぁ、お前みたいな奴、俺は嫌いじゃないな」


    ???「そんな"死に急がない女"のお前に丁度いい...かは分からんが、ちょっとした余りモンがある。――――――覚悟決めたからには、必ず生き残って貰うからな!」


  90. 90 : : 2016/09/12(月) 00:16:54




    ガラスの砕ける音がして、共に部屋に光がともった。
    軋む体をどうにか起こし、
    頭痛に耐えながらあたりを眺める。

    部屋の中央には、いつの間にか、
    ぼうっと何かが浮かび上がりつつあった。


    ―――――その姿は



  91. 91 : : 2016/09/12(月) 00:51:13


    外見は殆ど普通の人間と変わらない。
    だが違う。明らかに。

    ここに来るまでに出会った敵などとは
    比べ物にならぬほどの、
    人間を超越した力。

    触れただけで蒸発しそうな、
    圧倒的なまでの力の滾り。
    それが体の内に渦巻くのが、嫌でも感じ取れる。



    ???「―――やっと、やっとこの時が来たか」フッ


    ???「今の今になって、ようやく"運"とやらが俺についてきてくれたみたいだな。よし、二度と無いかもしれんチャンスだ。全力で抗わせて貰うことにしよう」





    ???「......あー、呼ばれた気がしたんで来させてもらった。この場にいるのはお前だけ、か」




    ???「一応聞くぞ?お前が、俺を呼んだマスターって事でいいんだな?」




    白野「............(...?)」コクッ




    ???「分かった。アレの情報からすると、今回の呼び出しはおかしなケースに入りそうなモンだが、まぁ関係無いな」



    ???「お前の在り方は嫌いじゃないが、さっきの"自分が何者なのか"ってのは、悪いが俺の知ったことじゃない。自分で考えてくれ。俺にできる事と言えば敵を殺す事だけ―――。お前は安全なところにでも隠れて、自分の疑問について考えているだけでいい」



    白野「.............」


    呆然と、
    突如現れた人物を眺め続ける。


    と、手が僅かに発熱し、鈍い痛みが走る。
    まるで、何かを刻まれたかのような。

    そこには、3つの模様が組み合わさった紋章にも見える、
    奇妙な印があった。
    刺青のように皮膚に染み込んでいる。

    呆気にとられて、
    その模様と目の前の人物―――――少年を交互に見る。
    何が起こったのか、さっぱり分からない。

    と。


    背後の物音で我に返った。

    振り向くと、
    そこには先程戦ったあの人形が身構えていた。

    惨敗を思い出し、思わずたじろぐ。


    ???「あー...お前は下がってろ。さっきの二の舞になりたくないならな」


    ???「なに、心配はない。お前と一緒で俺も未熟者だが、こんな木偶野郎に負ける程、雑魚でもないさ」



    白野「あ、あの......」


    ???「......レン」


    白野「......?」


    エレン「エレン・イェーガー。それが俺の名前だ。一応、俺はお前に命を預ける形にはなるから、自己紹介ぐらいはしておく」












    エレン「長話が過ぎたな。んじゃ、そろそろ始めるか」


    エレン「人形風情が...俺の邪魔をするなら、今すぐにでも押し通る――――――ッ!」ダンッ!

  92. 92 : : 2016/09/12(月) 00:55:01










    ――――To be continued...










  93. 93 : : 2016/09/13(火) 14:05:39
    気が付けば、閲覧数が100を超えていました。

    読んでくれた皆さん、ありがとう
  94. 94 : : 2016/09/24(土) 14:30:03

    閲覧数、200越えみたいです。ありがとうございます。
    これからも、頑張っていきます。

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OpeyuOpeyuOpeyu

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エレン「俺と行く"Fate/EXTRA"」 シリーズ

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