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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの撰択』
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- 1 : 2016/08/02(火) 10:46:02 :
- 密めき隠れる恋の翼たち~『エルヴィン・スミス暗殺計画』
(http://www.ssnote.net/archives/2247)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスとの1週間』
(http://www.ssnote.net/archives/4960)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの苦悩』
(http://www.ssnote.net/archives/6022)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの審判』
(http://www.ssnote.net/archives/7972)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの否応』
(http://www.ssnote.net/archives/10210)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの溜飲』
(http://www.ssnote.net/archives/11948)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの流転』
(http://www.ssnote.net/archives/14678)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの渇望』
(http://www.ssnote.net/archives/16657)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの血涙』
(http://www.ssnote.net/archives/18334)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの証明』
(http://www.ssnote.net/archives/19889)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの慕情』
(http://www.ssnote.net/archives/21842)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの天命』
(http://www.ssnote.net/archives/23673)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの微睡』
(http://www.ssnote.net/archives/25857)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの再陣』
(http://www.ssnote.net/archives/27154)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの謀反』
(http://www.ssnote.net/archives/29066)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの杞憂』
(http://www.ssnote.net/archives/30692)
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- 2 : 2016/08/02(火) 10:47:29 :
- 密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの勇敢』
(http://www.ssnote.net/archives/31646)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの挽回』
(http://www.ssnote.net/archives/32962)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの慈愛』
(http://www.ssnote.net/archives/34179)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの青天』
(http://www.ssnote.net/archives/35208)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの夢想』
(http://www.ssnote.net/archives/36277)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの愛念』
(http://www.ssnote.net/archives/37309)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの咆哮』
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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの大望』
(http://www.ssnote.net/archives/39459)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの死闘』
(http://www.ssnote.net/archives/40165)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの火蓋』
(http://www.ssnote.net/archives/41081)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの贖罪』
(http://www.ssnote.net/archives/41737)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの危難』
(http://www.ssnote.net/archives/42605)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの災厄』
(http://www.ssnote.net/archives/43586)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの負戦』
(http://www.ssnote.net/archives/44454)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの幻想』
(http://www.ssnote.net/archives/45992)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの祈念』
(http://www.ssnote.net/archives/46683)
★巨人に右腕を喰われたエルヴィンと最愛のミケを失うが、エルヴィンに仕えることになった隠密のイブキとの新たなる関係の続編。
『進撃の巨人』の最新話に私の想像(妄想)を書き足したオリジナルストーリー(短編)です。
オリジナル・キャラクター
*イブキ
かつてイヴと名乗りエルヴィンの命を狙っていた隠密の調査兵 。
生前のミケ・ザカリアスと深く愛し合っていた。
ミカサ・アッカーマンの年の近い叔母。
※SSnoteのルールに則り感想等を書いていただくグループコミュニティを作りました。
お手数ですが、コメントがございましたら、こちらまで
お願いします⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2
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- 3 : 2016/08/02(火) 10:49:12 :
- シガンシナ区の壁からだいぶ離れた大地は獣の巨人の投石により、蹂躙され、つつましく根付いていた草花は調査兵団の若き兵士たちが流した血色に染められた。命を賭すのを覚悟のとはいえ、ほとんどの兵士の未来は軽々と潰えた。
調査兵団団長のエルヴィン・スミスと同団長補佐で、元暗殺者のイブキも、他の兵士と同様、投石に見舞われるが、どうにか意識を保っていた。腹部に痛みを感じながら、エルヴィンはイブキを背後から抱き寄せて大地に横たわっていて、次第に出血部から熱が帯びていくと感じる。それでも、どうにか目を凝らして遠くを見据える。その方向で大型巨人たちが体の軸を失って、次々と大地に突っ伏せると、白い蒸気が上空に昇っていく。血生臭くて重たい空気に包まれようと、調査兵団兵士長のリヴァイが大型巨人に挑んでいる。自分に託された新兵たちの命を自由の翼に背負い、巨人のうなじを削いでゆく。すると、人類最強と謳われる兵士はたったひとりで、約10体の大型巨人の討伐を成し遂げていた。
最後の大型巨人が大地に倒れると、遠く離れたエルヴィンとイブキの元にも轟が伝わった。エルヴィンは眉根を寄せて、リヴァイを眺める。すると、彼は立体起動装置のグリップに視線を落として振り返りもせずに、シガンシナの壁に向かって飛び立った。残されたガスの量を確認しながら舌打ちをしたのだろう、といつものリヴァイの姿勢に想像を巡らせても、エルヴィンには頬さえ引ける気力も残っていなかった。
「リヴァイ……やったな」
息が乱れ、かすれるような独り言が力なく放たれた。イブキは身体に巻きつく左腕の力が少しずつ抜けていくと感じる。エルヴィンの意識は身体の奥底に落ちて消え失せるようだった――。
「エルヴィン、起きて……。ねぇ」
左腕に触れても、だらりと揺れるだけだ。もう一度、声を掛けようとしたとき、その心に灯がともるような声を感じた――。
(イブキさん……僕、戻ってきたよ)
「えっ、何……」
戸惑いに乗じて声をもらした。イブキの胸を打つような少しだけ懐かしい幼い声に手を添えたくても、身体に力が入らない。おぼろげな意識を心に向けた。
(どうして、でも、あなたは……?)
(うん、どうにか戻れそう……でも、わからないけど)
命が潰えた104期の兵士は誰なのか、と想像するにはとても心苦しかった。それでも、不意に訪れた、朗らかさが少し欠けたアルミン・アルレルトの声を感じて、命が危うかった兵士が彼だったと得心した。
(本当にどうして……)
(命を捨てたつもりだったのに、僕もよくわかんないけど……でも、最後の最後まで、もう一度頑張ってみるよ)
(アルミン……)
心に沁みるアルミンの声は落ち着いていて、儚さは感じられない。激痛はイブキの身体を蝕んでいく。痛みから意識が腹部に集まろうとしたとき――。
(逃げないおまえの勇敢さに敬意を払うよ)
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- 4 : 2016/08/02(火) 10:50:33 :
- ふたりの間に割り込むように今度はミケ・ザカリアスの声がイブキの心に沁みた。喉はすでに乾ききっており、その声を感じても唾を呑んで喉を潤すこともできない。
アルミンは命を捨てるつもりで、超大型巨人に変貌を遂げたかつての仲間、ベルトルト・フーバーが起こす熱風にその身をさらした。無謀な陽動作戦はアルミンに大やけどを負わせる結果となった。親友のエレン・イェーガーと共に叶えたい夢への心残りからか、煌く命は地上に留まっていた。そのアルミンの魂が自分の身体に戻る直前、イブキの心を通して、上官であるミケに励ましてもらった出来事を思い出し、彼女を探し求めていた。
(『立ち止まっていては勝てない』 分隊長はそうおっしゃていましたよね? だから、僕は立ち止まらずに、戻ります)
(そうか。おまえなら、できるだろうな、アルミン)
朦朧とする意識の最中、ふたりの声がイブキの心でやさしく響き渡る。イブキは姿は見えなくても、アルミンが上官に向かって拳を右胸にたたきつけ、逞しい敬礼をしているようだと感じる。だが、その直後、アルミンの存在は遠ざかって、心から消えた気がした。
(イブキ、そろそろ助けが――)
ミケの声が伝わった途端、イブキの背後に足音が近づいてきた。
「もしかして、団長? それから……」
続けて団長の女、と言いたげなその声の主は息を呑む。ミケはイブキの心の奥で潜んだ。横たわるふたりに近づいてきた兵士は、多くの兵士が命を落としたこの作戦前、エルヴィンに盾突いた新兵だった。イブキは痛みをこらえて、エルヴィンの左腕からすり抜けた。横たわって大地に両手をつき、この兵士を見上げる。
「団長は……生きてますか?」
「エルヴィンは意識を失っているだけ……」
新兵がエルヴィンの身体を揺らすと腹部から夥しい出血を目の当たりにし、戸惑いの色をその顔に浮かべても素早く手持ちの布で止血した。今度は出血に気遣って抱き上げた。目の奥に宿る真剣さを見やって、イブキは彼の行動の意味を察知した。
「あの作戦ね……」
「はい」
新兵は自分より背が高くて手負いの上官の命を活かす行動に少しだけ手間取っている。だが、その作戦に挑む使命感に駆られるのか、背負って立体起動装置を操作できるまでに至った。その作戦の主目的はリヴァイが預かる巨人へ変貌するという注射を兵士に打つことだ。最優先事項の「知性を持つ巨人の死滅」や「ウォール・マリアの奪還」に変わりはないが、その上で条件がそろった可能な範囲で「巨人の力」を奪うことも含まれる。それは、重症の兵士に注射を打った後、その兵士が「巨人化できる人間」を食らうと成し遂げられるという――。
新兵がイブキも助けようとしゃがむが、バランスを崩しそうになって、身体を揺らす。
「もう、あなたは行って」
「だけど!」
「私はこれまでかもしれない。エルヴィンは生き延びて、皆を導く義務がある。団長としての……」
大地に両手をつく手のひらは痛みで震える。血の気を引いた顔を見て新兵は息を呑み、うなずくだけだ。
振り返って目的であるシガンシナの壁を眺めグリップを握った。新兵はイブキに問う。
「あの……お名前は何でしたっけ……」
「イブキよ」
「すいません」
新兵は少しバツが悪そうな口調で返すが、改めて息を呑み姿勢を正した。
「イブキ団長補佐、行ってきます」
イブキの返事を聞かず、新兵はグリップを操作し、シガンシナに向かって飛び立った。
「団長補佐か……私は何ができたのか」
エルヴィンの背中が小さくなると、腹部の激痛を感じ、身体を大地に突っ伏せた。顔を上げ、さらに小さくなる背中に向かって血に濡れた右手を伸ばした。
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- 5 : 2016/08/02(火) 10:52:13 :
- 「やっぱり、行っちゃ……いや」
イブキの唇からもつれるような本音が漏れた。この作戦において、エルヴィンの補佐として傍にいた。
また、暗殺者として初めて出会い、調査兵に生まれ変わった頃から、男女の関係に至った出来事をふと思い返すと孤独感が身体を包むようだ。もちろん、ミケ・ザカリアスに初めて抱きしめられたときの温もりも忘れない。
「私は……この短い間にふたりの男と……。とんでもない女だな」
自嘲気味な唇に浮かぶ笑みは引きつった。うつろな瞳にエルヴィンの背中はもう映っていない。
(俺はおまえに本気だった! こういう出会いもあるさ。俺はエルヴィンとなら、決闘してもいい)
イブキの独り言に反論するかのようなミケの声がイブキの心に沁みた。ミケはエルヴィンとイブキがお伽噺のように話していた別世界で生きる願いを彼女の心のどこかで聞いていた。イブキを巡って、エルヴィンと決闘してもいい、という声はどこか熱がこもっているようだ。
(もう、ミケったら……こんなときに何を……どうやら、私はもうこれまで……あなたのところに)
(いや、俺はまだ会いたくない)
(どうして?)
(会えないな……今は)
僅かに寂しい色が混ざる声が響いた直後、腹部の激痛が和らぐような感覚が広がった。
(何? 痛みが……)
血にまみれた腹を恐る恐る触れると、痛みが落ち着いている気がした。
(いったい、どうなってるの……私の……身体)
(俺が先にきたこの世界は不思議なことがいっぱいでな。さっきここに来た兵士は無傷だろ? どうやら、あいつが兵士として旅立ってから、家族が毎日のように無事であるよう、祈っているんだ。そしてあいつに家族の想いが通じた……のかもしれない。ただし、心から祈れば、だがな)
(そうなの……)
イブキは頬は引きつっていても、微笑むくらいの力が湧いてきていた。
(俺は……おまえのために祈る)
ミケの柔らかな声が心に広がった直後、イブキの腹部からの血の流れが緩くなる。またミケだけでなく、他の兵士やかつての仲間の温もりを感じれば、イブキの頭が少しずつさえていく。血はだんだんと止まり始めていた。
「でもっ、まだ……」
大地に両手をついて、上半身を起こそうとした。だが、改めて腹部にそっと触れると止血だけで傷は治ってないと感じる。大地に片膝をついて、どうにか周りを見渡した。もちろん、あたりには命を賭した兵士たちの遺体が無残に転がっている。身体の一部が不足し、血に濡れた兵士の顔を見ながら、両手をふたたび大地についた。
「私も……壁の中へ」
よろけながらも、今度はふらつく両足で立ち上がった。立体起動装置のグリップを握るが、トリガーが固まっていて、ガスは満たされていても、操作ができないとわかった。
力なく横たわる兵士の傍に近づいて、険しく固まった顔を覗き込んだ。
「ごめんね、あなたの……借りるね」
イブキは命を落としても目を剥いたままの兵士の瞼に触れた。続いて、この兵士の立体起動装置を探って、グリップの作動を確かめた。
「これは、問題ない。ありがとう」
いいながら、イブキは立ち上がり、自分の装置と取り換えた。息を整え軽く駆け出し、飛び立つ。これまで難しいと感じなかった動作に不安を感じたとき、身体が覚えてるミケの温もりが腹部に伝わった。
(俺が見守っている。安心して、飛べ)
痛みからイブキの顔をは強張る。もちろん、ミケの温か味を感じると、うなずいた。目の前には壁が迫っていて、壁上に降り立った。
「痛っ!!」
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- 6 : 2016/08/02(火) 10:53:09 :
- 両足を通して腹部に激痛が伝わる。イブキは咄嗟に腹部を抑えた。額から汗が零れ、乱れた呼吸を整えながら壁内を眺めた。視線が定まった瞬間、目を見開く。四肢がぶった切られた兵士が屋根に横たわり、その傍らにはブレードのグリップを握るエレン・イエェーガーが立っている。イブキはその顔は知らなくても、手足のない兵士は敵のひとりであろうと、勘ぐった。
「エレンが……巨人を?」
兵士の首根っこを捕まえて離さない光景を見やって、ささやかな安堵感が胸に宿る。屋根には数人の兵士が立っているが、そのうちのひとりが信炎団を打ち上げた。緑の煙の元を辿って、信炎団のグリップを握る兵士を見つめると、イブキはさらに目を見開いた。
「ミカサ! よかった……無事なのね」
せわしく動く兵士の雰囲気はどこか殺気立っている。イブキはその動向を知る由もない。信炎弾の緑が空に滲んででも、何かの作戦だろうと、深く気にはしなかった。ただ、姪のミカサ・アッカーマンと互いに生きて再会できるのが、やはり心なしか安堵感が増すようだ。しかし、その気持ちはすぐに消え去ることになる――。
ミカサの動きの向こうに横たわるエルヴィンとあの新兵が両膝を屋根についている姿を見つけた。無事に到着したのだと、一瞬だけ頬を緩めても、すぐに強張る。その新兵の背後にはもうひとり、横たわる兵士がいて、その全身が黒焦げだった。
「もしかして、あの兵士がアルミン?」
少し前に心で感じた声の主の痛々しい姿を見てしまえば、イブキは咄嗟にグリップを握って、壁上から飛び立つ。痛みをこらえて、皆が立つ屋根へ降り立ったと同時に背を見せるミカサがホルダーに残る最後のブレードを抜き取った。
「ミカサ!」
ミカサの咄嗟の行動が理解できずとも、イブキは焦りが宿るような背中に声をかける。背後に降り立った兵士がイブキだと感じて、ミカサの背筋が一瞬だけ微かに跳ねた。叔母が生きていたのだと、理解しても、ただ目の前のリヴァイに詰め寄った。
「イブキ、生きていたか」
近づくミカサの肩越しにイブキを見つけても、心がゆるむ表情をリヴァイは見せない。巨人を討伐したばかりで、全身に浴びた血液から蒸気が立ち上っていて、いつもの冷めた声はさらに冷めているようだ。
何体もの大型巨人をたったひとりで討伐した直後、また新たな脅威がリヴァイに迫っている。巨人の死滅を優先して、命を落としかけている部下、そして、これからの人類を救えるであろう上官、どちらか命の撰択だ。
幼馴染に思いを馳せ、涙ぐむエレンは血糊で顔を濡らすリヴァイに詰め寄っている。人類に心臓をささげる兵士たちの無情な仲間割れが始まった。ひとつの命だけを救うのか、またはひとつを救って、それに繋がる多くの命を救うのか。残り少ない兵士の視線はリヴァイの血に濡れた手に集まった――。
イブキはリヴァイが大事そうに抱えている巨人へ変貌を遂げる注射のキットを見つめる。それを誰に打つべきなのか、と考えるほど胸が詰まって、ただうつむくだけだった。
(ミケ……どうしたら)
心でミケに問う。その心と身体は懐かしい温か味に包み込まれた。
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- 7 : 2016/08/02(火) 10:53:25 :
- 調査兵団の兵士たちから遠ざかり、離れた壁上からライナー・ブラウンを奪った四足の巨人が壁内を見下ろしていた。その背中では身体から蒸気を揺らめかす戦士長のジークがライナーに向かい、哀れみが織り交ざるような労う言葉を投げる。
「お前は運がよかったね」
四足の巨人と同じ方向を目を凝らして眺める。リヴァイがいるであろう住宅街は、立ち上る蒸気が風に流されているが、突っ立っている兵士たちの姿をようやくとらえた。さらに顔を突き出して目を凝らすと、痛みを感じても、頬がほんのりと赤くなる。
「あれ? もしかして、あのいい女、生きていたのか! やっぱり、俺の気持ちが通じたのか……確か、名前はイブキちゃんとか言っていたな」
ジークの独り言はイブキを見つけて、僅かにおどけている。その声を聞いて四足は右手で軽く地団太を踏んだ。明らかに不機嫌さを表している。身体が揺れ、ジークは冷めた目で、四足に言う。
「わかっているさ、もちろん。だけどさ、俺が成し遂げた先に、あんないい女が傍にいれば」
「戦士長……」
今度は不機嫌な口ぶりを返した。だが、ジークはからつもりで、小首をかしげた。
「だってさ、あの女の揺れる胸と尻を見てしまえば、触りたくなるだろうよ!」
「はいはい、そうですか。だけど、今は両手もないですよね」
「おい、言うね、おまえ! だけどな、口が残っているだろう!!」
背後のジークが唇を尖らせているだろう、と思い浮かべただけで、四足は両手で激しく地団駄を踏んだ。彼が露わにする不機嫌さに苦笑いして、ジークは背後に積まれた木箱に肘を置いた。
「悪い。こんな冗談でも言わなきゃ、やってられねぇよ、まったく。完璧な作戦がここまで、追いつめられるとはねぇ」
ジークは初めて見かけたエレン・イエーガーや、リヴァイがいるであろう、住宅街を冷徹な目つきで眺め、続いて四肢を失ったライナーに視線を移した。思い浮かべるのは次なる作戦よりも、父親に似ていないエレンの顔だった。
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- 8 : 2016/08/02(火) 10:53:38 :
- ★あとがき★
いつもありがとうございます。
今月というか、7月は体調がすぐれないことや、他にもいろいろあって
初めて月を越してしまいました。だけど、やっぱり、書きたいという気持ちには変わりないです。
さて、最新話ですが、アルミン、どうなっているのでしょうか……か細い呼吸をしている最中、
エルヴィンがやってきた。命の選択が迫れれている。だけど、リヴァイはどっちを選ぶ?
進撃はいつも大きな選択が分岐点になるような、そんな感じがします。
あの盾突いていた兵士がまさか生き残るとは。。無傷だったし、家族の心からの祈りで
生き延びたのか?と妄想して、あの描写にしましたが。。
私が書くイブキもひん死ですが、仲間を思って飛び立った。暗殺者だったのに、
命を殺めていたのに、救おうとする姿勢に変わったのは調査兵団に入れたから、
ということなんですが…いったいどうなるのでしょうか。こんなに辛いなら、
現パロの7章を書きたいのですが…どうでしょう。
また次回、もしかして今月末になるかもですが、どうぞよろしくお願いします!
お手数ですが、コメントがございましたら、こちらまでお願いいたします!
⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2
★Special thanks to 泪飴ちゃん(•ㅂ•)/♡love*
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