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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの最期』(最終回)
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- 1 : 2016/09/08(木) 11:27:15 :
- 密めき隠れる恋の翼たち~『エルヴィン・スミス暗殺計画』
(http://www.ssnote.net/archives/2247)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスとの1週間』
(http://www.ssnote.net/archives/4960)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの苦悩』
(http://www.ssnote.net/archives/6022)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの審判』
(http://www.ssnote.net/archives/7972)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの否応』
(http://www.ssnote.net/archives/10210)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの溜飲』
(http://www.ssnote.net/archives/11948)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの流転』
(http://www.ssnote.net/archives/14678)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの渇望』
(http://www.ssnote.net/archives/16657)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの血涙』
(http://www.ssnote.net/archives/18334)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの証明』
(http://www.ssnote.net/archives/19889)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの慕情』
(http://www.ssnote.net/archives/21842)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの天命』
(http://www.ssnote.net/archives/23673)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの微睡』
(http://www.ssnote.net/archives/25857)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの再陣』
(http://www.ssnote.net/archives/27154)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの謀反』
(http://www.ssnote.net/archives/29066)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの杞憂』
(http://www.ssnote.net/archives/30692)
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- 2 : 2016/09/08(木) 11:28:53 :
- 密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの勇敢』
(http://www.ssnote.net/archives/31646)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの挽回』
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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの慈愛』
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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの青天』
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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの夢想』
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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの愛念』
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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの咆哮』
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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの大望』
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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの死闘』
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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの火蓋』
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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの贖罪』
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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの危難』
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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの災厄』
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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの負戦』
(http://www.ssnote.net/archives/44454)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの幻想』
(http://www.ssnote.net/archives/45992)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの祈念』
(http://www.ssnote.net/archives/46683)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの撰択』
(http://www.ssnote.net/archives/47557)
★巨人に右腕を喰われたエルヴィンと最愛のミケを失うが、エルヴィンに仕えることになった隠密のイブキとの新たなる関係の続編。
『進撃の巨人』の最新話に私の想像(妄想)を書き足したオリジナルストーリー(短編)です。
オリジナル・キャラクター
*イブキ
かつてイヴと名乗りエルヴィンの命を狙っていた隠密の調査兵 。
生前のミケ・ザカリアスと深く愛し合っていた。
ミカサ・アッカーマンの年の近い叔母。
※SSnoteのルールに則り感想等を書いていただくグループコミュニティを作りました。
お手数ですが、コメントがございましたら、こちらまで
お願いします⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2
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- 3 : 2016/09/08(木) 11:29:58 :
- とある時代のその場所の教師であるエルヴィン・スミスは、幼い教え子たちに街の歴史を教えようと、学び舎から出てきた。先頭に立つと、教え子たちが一列に並んで先生についてく。石畳の通りを歩いていくと、そこを隔てた先で見覚えのある背中がホロ付き馬車の車輪の前でかがんでいる動作に気づいた。
(ミケの奴、何をしてるんだ……?)
訝しくミケ・ザカリアスを見やっても、子どもたちに身振り手振りでエルヴィンは説明し続ける。
「よし、これで大丈夫だろう!」
「ありがとうございます! 突然、動かなくなって、どうしようって困っていたんですよ!」
「いいって、気にすんな」
ミケが車輪の修理を終えて、荷台に向かって声を掛けている。すると、その声の主がホロから降りると、ミケに向かって丁寧に頭を下げ、礼をした。その地域では珍しい黒髪が麗しくて、整った魅惑的な横顔の女性にエルヴィンは目を見張った。ミケに向ける微笑みと、そよ風に揺れる長い髪を見てしまえば、その胸の鼓動が熱くなると気づく――。
明らかにミケの顔をほころんでいて、そして頬を指先で掻いている。ふたりを交互に見やれば、言い知れぬ感覚が次第に胸を燻るとエルヴィンは感じていた。
「先生、どうしたんですか? 急に黙って」
「あぁ、すまない。この通りはかつて――」
教え子のひとりに不満そうな声をかけられ、自分の説明が止まっていたと気づいて、改めてエルヴィンは課外授業を進めた。もちろん、背後から離れゆくミケとその女性が気になって仕方なく、エルヴィンの足取りは、どことなく重かった。
学び舎に戻ると、教え子たちは教室にそそくさと向かっていく。皆が木製のフロントポーチを潜るその傍らに、あのホロ付きの馬車が止まっていた。さらに校長が長身の長い黒髪で、後ろ姿を見せる女性と立ち話をしている。校長の目の前の女性がミケと一緒にいたその人だと一目で気づいた。
「あぁ、エルヴィン。課外授業、ご苦労。ところで、街の講堂の舞台に立つ役者さんが挨拶に来てくれたんだが。ほら、明日から始まるだろ」
校長がエルヴィンに言った途端、女性はエルヴィンの元へ振り向く。横顔でも美しかった微笑みを向けられれば、エルヴィンはただうつむいた。
「そうですか、校長」
素知らぬ顔をするのが精一杯で、そそくさとふたりの前から足早に去って行く。
「皆さんと観にきてくださいね」
背後から笑みを交えたような声を掛けられても、エルヴィンは横顔を見せて軽くうなずいた。
「エルヴィン、どうした? 明日のお芝居のことで、少し話を聞かないか?」
「いいえ、校長。子供たちが教室で待っていますので」
校長に言われようやく振り向くも、すぐさま視線を反らし、足早に教室に向かった。
(やはり、戻って話を……いや、俺は……何を考えているんだ)
胸の鼓動の騒がしさを覚えるが、廊下で歩みを止めることもなく、何事もなかった素振りで教室に入っていった。
その落ち着きを失ったエルヴィンの背中を見つけると、校長は鼻で笑って眉を上げた。
「何を照れてるんだか! きっとあなたの美しさに戸惑っているんでしょうね」
「まさか、そんな」
言われて、口角をそっと上げて微笑み返した。校長は話を戻すつもりで咳払いした。
「それじゃ、明日は親子で楽しみにしてますよ、イブキさん」
「まぁ、ありがとうございます! ご家族とお会いできるのも楽しみにしてますわ」
「いや、もう会っていますよ」
「えっ……?」
イブキと呼ばれた長身の女性は、少しの訝しさから顔を僅かに突き出した。
「エルヴィンは私の息子だ」
校長は自慢げに胸を張るようでも控えめに小さく笑って、ずれた銀縁メガネの真ん中を人差し指で押し上げた。
イブキは街から街に旅する小さな移動劇団の役者のひとりだった。主役を子供が演じるお伽噺を披露する予定で、そのため、エルヴィンが勤める学校に代表としてあいさつに来ていたまでだった。
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- 4 : 2016/09/08(木) 11:30:58 :
- 翌日、街の講堂には続々が人が集まり、教え子たちと共に向かうも、エルヴィンはどこか上の空だ。
劇が始まり、教え子たちが自分たちと同じ年くらいの子供が演じる姿に、顔を背けそうになったり、時には涙し、瞬く間に釘付けになっていた。だが、エルヴィンはその主役の傍らのイブキだけを見つめていた。演じる最中、松明に照らされるほんのりと赤い微笑みから視線を外すことはなかった。
主役の最後のセリフで芝居が終わったと告げる。その途端、目立つようなひときわ大きな拍手を送る男性がいて、それに続き観客たちは舞台上の役者たちに大きな拍手を送った。
「あいつ……」
その大きな拍手を送るのが、すぐさまミケ・ザカリアスと勘づく。舌打ちしたくても、周りの教え子たちが懸命に拍手を送る姿の傍らで、それはどうには堪えていた。
ミケは幼馴染の建築士である。この講堂だけでなく、エルヴィンが勤める学校もミケが携わっていた。
劇が終わったので、観客たちが出入り口に向かう。エルヴィンと教え子たちもその流れに乗っていた。
「よぉ! エルヴィン」
聞き慣れた声のする方向にエルヴィンが振り向けば、笑みを隠せないミケが近づいてくる。
「引率も大変だな」
「あぁ。だが、これが俺の仕事だ」
無邪気そうなミケにエルヴィンが少し刺がある声で返した。
「そっか。まぁ、俺はイブキと約束があるんで、失礼するよ」
「イブキ……さんとは?」
「あぁ、この舞台で一番の別嬪さ」
誰を指しているのか、エルヴィンの直感が働いた。ミケの前に詰め寄った。
「約束って何なんだ? ミケ」
「この舞台が終わったら、一緒に飲もうって誘ったら、承諾してくれたんだ」
「そうか。俺も一緒に行く」
間髪入れずに返すエルヴィンに、ミケは怪訝そうに眉を寄せた。
「なんだよ、いきなり」
「もちろん、俺も感動したのさ。この舞台を」
冷淡な表情を作っても、その目力で、さらには付き合いの長さも手伝って、エルヴィンがイブキに惚れていると、わかった。気づくほど、胸に黒いもやがかかるようだ。だがそれはお互いさまで、自分の気持ちも知られているであろうと、ミケが確信すれば、やれやれと、降参の意味で両手を広げた。エルヴィンは幼いころから、これだ、と決めたことには譲らない性格であると、充分知っているからだ。
「俺とイブキが一緒に飲む酒場の場所なんだが」
「俺とイブキさんとおまえ……だろ」
頬を染めても、低く通る声が強い嫉妬心を表すようだ。エルヴィンは仕事を終えたらすぐ向かうとミケに言い残し、教え子たちと講堂を後にした。
夕暮れ時、エルヴィンが約束の酒場に向かう。ウェスタンドアを開くと、多くの役者たちがすでに飲んでいて、端の丸テーブル席でミケとイブキが楽し気に木製のジョッキを傾けていた。
ミケはエルヴィンが近づいてくると、手を上げて、合図する。仕草を見て、また視線の先をイブキが追った。
「あら、先生! 来てくださったんですね。今日は舞台も観て頂いて、ありがとうございます!」
微かに頬を赤く染めるイブキの笑顔に近づくにつれ、美しさに魅了されていく。もちろん、どうにか冷静さ保ちながら、席に着いた。
「堅物のこいつが飲みに来るたぁね」
言いながら、ミケが口に寄せる姿はどこか愉快だ。
「そうなんですか? 先生」
イブキが瞬きする切れ長の大きな目が少し見開いた。
「いや、その。まぁ、ここでは先生ではなく……エルヴィンでいい」
歯切れの悪い返しに頷くイブキの笑顔はやはり美しい。給仕がエルヴィンの元へジョッキを差し出すと、すぐさま手に取り、一気に飲み干した。
「いい飲みっぷりね!」
頬杖ついて、エルヴィンを眺めるが、イブキが細める目元が艶っぽくて、彼はごくりと固唾も飲んだ。傍らのミケは独り占めしていたはずのイブキを奪われたように感じた。不機嫌にそっぽを向いたとき、3人の席には新たなジョッキが運ばれていく。
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- 5 : 2016/09/08(木) 11:34:23 :
- エルヴィンとミケは運ばれてくるジョッキを次々と飲み干しても、イブキと話がしたいがため、時間が過ぎても、冷静さを保とうとしていた。それでも、酔いつぶれる寸前だ。同じように飲んでるはずのイブキは頬を赤く染めても、微笑みを絶やさず、楽し気に話しかけてくるふたりの顔をせわしく交互に眺めて、受け答えていた。
「――ところで、イブキ。この街に戻ってくるのはいつなんだ?」
ミケが聞くと、エルヴィンは身を乗り出すように、返事を待っている。イブキは肘をテーブルにつき、両手で頬を支えて、視線を上げた。
「そうね、早くても来年かな」
その返事を聞いて、エルヴィンは息を呑んだ。無意識のうちにイブキの方へ椅子を寄せた。
「来年までなんて、待てない。君とそんなに長い間、会えないなんて。俺は……君のことを」
エルヴィンは日常の冷淡さを置き去りにして、イブキの手を握ろうとした。もちろん、ミケはそれを阻止するため、エルヴィンに目掛けて素早く手を伸ばすと、胸倉をつかんだ。
「おい、てめぇ! 何を言ってやがる? 俺が先にイブキと出会っていたんだ。横からしゃしゃり出るな」
「何だと!」
少し呂律が回らないミケに向かい、エルヴィンは珍しく声を荒げた。イブキは戸惑ったような笑みを浮かべても、やはりどこか悪戯っぽい。
「もう、ふたりとも……私に惚れちゃった?」
図星をさされ、ふたりは凝り固まった。特にミケは胸倉をつかむ手に力が入り汗ばんでいく。
「じゃあ、ふたりで~~私を巡って決闘でもすればいいんじゃないの~?」
酔っ払っていて、のんびりとしたイブキの口ぶりがいう。途端にふたりの目の奥が鋭く輝くようだ。
「そうだな、エルヴィン。表に出ろ」
「わかった」
ミケが顎で外に向かって合図すれば、エルヴィンが立ち上がろうとした。すると、イブキはふたりの頭を押さえて改めて座らせた。その日に初めて会ったふたりの気持ちを知り、赤い頬は強張っている。
「もう、冗談だって! お酒も残ってるし、ここで飲もうよ」
イブキがジョッキを差し出すと、ふたりは競うように口元に寄せた。頬杖ついて、ふたりの飲みっぷりに妖艶な笑みも注ぐ。
「誰かひとりを選ぶなんて、できないわ」
まんざらでもなさそうに、イブキは視線を落とした。頬は赤いが、酔っているだけなのか、ふたりにもわからない。
「どうして? いいじゃないか、イブキ」
エルヴィンとミケは立ち上がり、両手をテーブルにつくと、イブキに詰め寄る。
「だって、ねぇ……」
何か言いたげでも、語尾はもう呂律が回らないようだ。イブキはふたりを見上げた。艶やかな誘惑的な唇の動きがふたりを黙らせ、さらに釘付けにさせ、最後には着席までさせた。
「それにしても、平和な世界だね、ここは」
「平和な世界……」
頬杖をついていたイブキが小首を傾げた途端、エルヴィンとミケははっとして姿勢を正す。その仕草を倣うように、イブキは自分が発した言葉に戸惑いを覚え、思わず姿勢を正した――。
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- 6 : 2016/09/08(木) 11:34:46 :
- 調査兵団団長のエルヴィン・スミスが閉じていた瞼をゆっくりと開くと、シガンシナ区の上空で透明な存在に変貌していて、投石で受けた耐えがたい痛みを感じることはなかった。数か月ぶりに自身の右腕の動きを眺めるが、その胸元では暗殺者から調査兵に生まれ変わったイブキの温もりを感じていた。高い空で、初めてイブキを両腕で抱きしめるという奇妙な感覚が包むと、エルヴィンの前に少しだけ懐かしい存在が近づいてきた。
「おい、俺もいるんだが」
その声を聞いて、すぐに反応したのはイブキだ。
「ミケ……ミケなの?」
ミケ・ザカリアスの存在を感じて、振り向いたイブキがエルヴィンから離れようとする。だが、咄嗟にエルヴィンは右手でイブキの手をつかんでいた。
「……また別の意味を持つ地獄が待っているのか?」
ミケは微かに眉を上げてエルヴィンに問う。聞いて、エルヴィンは鼻を鳴らして笑った。
「そうだな。どこかに新しい世界があるのなら……イブキを奪い合う地獄の方がまだいい」
懐かしむ間もなく、3人の調査兵たちは真下の住宅街の屋根に横たわる兵士たちを眺めている。肉体的な痛みが消えても、安堵する気持ちはない。不安げな表情を地上に落とし、続いて透明な存在は大空に溶けていった。
調査兵団、兵士長のリヴァイは人間が巨人に変貌するという注射を腹心といわれた団長のエルヴィンには打てなかった。幼い頃から見ていた夢は手を伸ばせば近くにあったはずだが、それを諦めさせたときの穏やかな顔が脳裏に焼き付いていた。
地獄に落としてまで、夢を叶えさせていいのか――。それを感じるほど、注射を打てなくなっていた。
調査兵たちが登る屋根の上で、近づいてくるおぼつかない足音を新兵のフロックが肩越しで眺めた。
「団長補佐! 大丈夫ですか?」
フロックはイブキに近づいて、肩を抱き寄せる。視線も定まらず、身体には微塵の力も残ってないはずが、エルヴィンの元へ近づいていた。
「フロック、イブキをここへ」
分隊長のハンジ・ゾエの指示に頷き、フロックはイブキをエルヴィンの傍に横たわらせた。血のにじむ震える手がエルヴィンの胸にゆっくりと添えられた。その手の動きはそれ以上、変わることはない。
「イブキ、おまえまでも……生き返らせたい兵士になってしまったのか」
ハンジは狂いそうな気持ちを押さえつけ、エルヴィンとイブキの瞼をそっと開いて瞳孔の開き具合を確認するが、その必要のないくらい、ふたりは身じろぎさえしなくなっていた――。
イブキの姪であるミカサ・アッカーマンは巨人化する人間に変貌を遂げたアルミン・アルレルトを抱きかかえていた。巨人のうなじから飛び出し、全体からあふれ出る蒸気を浴びるその身体に触れていた。
「ほら……イブキさん、僕……逃げなかった……でしょ」
「アルミン、イブキおばさんと約束でもしたの?」
イブキを呼ぶ今にも消え去りそうな口調を聞いて、アルミンの頬にミカサが触れようとした瞬間だった――。
「――ミカサ! イブキが!!」
呼ばれて、ミカサは声の方へ振り向く。今度はハンジがイブキの名をめいっぱいの声で叫んだ。不快な予感がミカサの胸を貫いた。すぐさまハンジの元へ立体起動で飛び立った。横たわる兵士たちが視界に入り込んだ途端、膝から崩れ落ちた。
「イブキ、おばさんも……どうして、こんなことに……もっといっぱい話したかったのに……。ごめんなさい、私はどうしても、アルミンを……イブキおばさんの大切な人を……」
ミカサはイブキにすがった。泣き叫ぶ声は苦しそうに息が乱れてる。ハンジが背中をさすっても構うことなく、イブキから離れなかった。
ほんの少し前、リヴァイはミカサと注射を誰に打つかを巡って、取っ組み合っていた。ミカサが泣き崩れようと、アルミンを選択した後悔は微塵もない。腹部に受けた激痛から解放された直後で、まだ青白い表情のエルヴィンと、かろうじて美しさを残すイブキの横顔をゆっくりと見比べた。
(エルヴィン、おまえを……地獄に呼び戻さない代わりに約束してほしい。あの世があるなら、頼む。俺の妹を)
冷徹な視線が巨人を脱ぎ捨てたアルミンに注がれる。突っ立っていた何体もの大型巨人を討伐したときに浴びた血飛沫が発する蒸気はリヴァイの身体からすでに消えていた。それでも頬に残る滴り落ちた血の跡は暴れ出した魂の名残のようだった。
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- 7 : 2016/09/08(木) 11:35:05 :
- ★あとがき★
いつもありがとうございます。今回はプライベートでいろいろあって、別マガ発売日の前日に
このシリーズ最新話の更新になってしまいました。どうにか間に合ってほっとしていますが。。
エルヴィンとアルミン、リヴァイは誰を選択するのか?そして追いつめられているのか、それとも冷静に判断するのか。それは読んでいて心苦しかったです。エルヴィンを選ぶようでも、アルミンを選んだ。子供のころを思い出して、手を上げるシーンは自ら注射を打たれるのを断っているようにも見えますね…。解釈次第かもしれませんが。。
そして、エルヴィンの戦いは終わった。イブキも……です。今回の話の半分をエルヴィンの意識がもうろうとする最中に、こういう夢を見てほしい、という私の願望で埋めました。
ミケに愛され、そしてエルヴィンとも向き合う。ふたりに思いを寄せられ応えるイブキの葛藤。
そして進撃の過酷な世界でも恋をしてもいいじゃないか!というテーマでこのシリーズをずっと続けてきました。
で、書き始めたときから、決めていました。エルヴィンが死んだら、このシリーズはおしまいだと。
そのため、今回で最終回となります。
皆さま、今までありがとうございました。
そして、SSnoteで作品を載せるのをこれで区切りにして、今度はpixivやオリジナルにも挑戦して
さらなる高みを目指していきたいです。
このssnoteに投稿し始めてそろそろ3年です。個人的にはほんとにいい区切りだと感じました。
ここで投稿した作品をそのままにしていきますが、感想を頂けたら幸いに思います。
またツイッターでは毎日のようにつぶやいてますので、こちらもよろしくお願いします!
アカウントはこちらです!@lamaku_pele
お手数ですが、作品へのコメントがございましたら、こちらまでお願いいたします!
⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2
★Special thanks to 泪飴ちゃん(•ㅂ•)/♡love*
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