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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの負戦』
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- 1 : 2016/03/24(木) 12:28:29 :
- 密めき隠れる恋の翼たち~『エルヴィン・スミス暗殺計画』
(http://www.ssnote.net/archives/2247)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスとの1週間』
(http://www.ssnote.net/archives/4960)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの苦悩』
(http://www.ssnote.net/archives/6022)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの審判』
(http://www.ssnote.net/archives/7972)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの否応』
(http://www.ssnote.net/archives/10210)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの溜飲』
(http://www.ssnote.net/archives/11948)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの流転』
(http://www.ssnote.net/archives/14678)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの渇望』
(http://www.ssnote.net/archives/16657)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの血涙』
(http://www.ssnote.net/archives/18334)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの証明』
(http://www.ssnote.net/archives/19889)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの慕情』
(http://www.ssnote.net/archives/21842)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの天命』
(http://www.ssnote.net/archives/23673)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの微睡』
(http://www.ssnote.net/archives/25857)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの再陣』
(http://www.ssnote.net/archives/27154)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの謀反』
(http://www.ssnote.net/archives/29066)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの杞憂』
(http://www.ssnote.net/archives/30692)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの勇敢』
(http://www.ssnote.net/archives/31646)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの挽回』
(http://www.ssnote.net/archives/32962)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの慈愛』
(http://www.ssnote.net/archives/34179)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの青天』
(http://www.ssnote.net/archives/35208)
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- 2 : 2016/03/24(木) 12:29:16 :
- 密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの夢想』
(http://www.ssnote.net/archives/36277)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの愛念』
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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの咆哮』
(http://www.ssnote.net/archives/38556)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの大望』
(http://www.ssnote.net/archives/39459)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの死闘』
(http://www.ssnote.net/archives/40165)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの火蓋』
(http://www.ssnote.net/archives/41081)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの贖罪』
(http://www.ssnote.net/archives/41737)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの危難』
(http://www.ssnote.net/archives/42605)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの災厄』
(http://www.ssnote.net/archives/43586)
★巨人に右腕を喰われたエルヴィンと最愛のミケを失うが、エルヴィンに仕えることになった隠密のイブキとの新たなる関係の続編。
『進撃の巨人』の最新話に私の想像(妄想)を書き足したオリジナルストーリー(短編)です。
オリジナル・キャラクター
*イブキ
かつてイヴと名乗りエルヴィンの命を狙っていた隠密の調査兵 。
生前のミケ・ザカリアスと深く愛し合っていた。
ミカサ・アッカーマンの年の近い叔母。
※SSnoteのルールに則り感想等を書いていただくグループコミュニティを作りました。
お手数ですが、コメントがございましたら、こちらまで
お願いします⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2
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- 3 : 2016/03/24(木) 12:31:24 :
- シガンシナ区の上空にはベルトルト・フーバーが超大型巨人に変貌を遂げた際に噴出した蒸気が立ち上っていた。蒸気の勢いが弱まるにつれ、超大型巨人の周辺は薄墨色に包まれる。
さらにその色が薄まれば、ベルトルトは巨人の眼を通して、シガンシナの壁門を眺めていた。次に少し視線を上げる。姿は見えなくても、そこには数ヶ月前までの上官、調査兵団団長のエルヴィン・スミスが壁上で構えているはずだった。その方角を眺める程、目の奥には力が漲っていく。
共に故郷に帰ると約束したライナー・ブラウンが気心知れた同期たちに傷つけられた姿を思い返すと、底氏知れない強さをその眼差しで示しているようだ。
同じ頃、エルヴィンは壁上で超大型巨人が吹き上げた蒸気を避けるため、暗殺者から調査兵に生まれ変わり、今では補佐として活動するイブキにその身体を抱きしめられていた。その正面には超大型が立ち尽くしている。エルヴィンは表情を変えず、自分の身体に巻き付いていたイブキの腕を優しく振りほどき起き上がった。超大型が起こした熱風は壁上で吹いている冷風と入り交ざってすでに生ぬるくなっている。その頬に不快感が漂う風がなぶっても、超大型を睨みつけていた。脳裏では同兵団分隊長のハンジ・ゾエが巨人の研究成果を熱心に披露する姿を思い出していた。
(その大きさと質量の違いから、あの巨体でも立ち上がるのか?)
涼しい表情をそのままに肩越しのイブキを見れば、背後の獣の巨人を眺めている。左手でイブキの肩に触れると、彼女よりも一歩手前に立った。
「さぁ、どうする? 『獣の巨人』よ、すべては作戦通りか?」
僅かに焦るような口ぶりでも、獣を睨む眼差しは相変わらず鋭い。その視線を感じなくても、獣の巨人は股を開いたまま鎮座し、時折、顔を搔く仕草を見せるだけで、特別変わった様子はなかった。
シガンシナ区内の内門付近では調査兵団リヴァイ兵士長が率いる精鋭兵士たちが集まっていた。朽ち果てた住宅街の屋根を軽々と行き来する精鋭は手馴れた動作で小型巨人のうなじを削いでいく。迫り来る小型巨人に立ち向かう顔に警戒の色は浮かばない。
長年、調査兵として活躍してきた彼らにとって怯む時間さえ惜しかった。しかしながら、リヴァイだけは中央憲兵団の根城に迫った当時とは心境とは違うのか、率いているはずの精鋭たちよりも早く息を切らす。壁面に近い住宅の屋根に一人、ブレードを握って、息を乱しながら正面の獣の巨人を眺めていた。
その姿を見つけた精鋭兵の一人が立体起動のガスを噴かして近づいてくる。
「――こっちは片付いたぞ、残りの小せぇのは前方にいる奴らだけだ」
リヴァイよりも僅かに年上の精鋭は息切れすることなく、傍らに立った。ふたりは前方の住宅街の屋根に登る兵士に向かって手を伸ばす小型巨人を見下ろしていた。だがすぐに連なる屋根の遥か先、丘陵の手前で鎮座する獣を睨め付ける。
「しかし、どうやって『獣の巨人』を仕留めればいい? 奴はあそこに鎮座したまま動きそうにないぞ」
いつもの冷ややかな口調でも、珍しく困惑するようなリヴァイをよそに兵士たちがガスの音を立てて続々と近づいてくる。
「お前は休んでろ!! とりあえず小せぇのは全部片付ける!! 行くぞ」
精鋭兵はリヴァイの戦力を温存すべきと咄嗟に判断し、兵士たちを率いて瞬く間に飛び立っていった。
「奴はどうにも臆病なんだろうな、そもそもタマが付いてねぇって話だ」
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- 4 : 2016/03/24(木) 12:32:47 :
- リヴァイは傍らの精鋭と話しているつもりでも、任務を実直に遂行する兵士の前では独り言のようだった。勢いよくガスを噴かして離れゆく背中を眺めて、リヴァイは思わずクソ、と口をつくが溜め息も漏らす。
呼吸を整え背後の壁面を見て、また少し前に壁内から轟いた爆音を思い返す。毎回賭け事としか思えない作戦に挑むハンジや若きリヴァイ班の兵士たちが気がかりだった。
獣の巨人が投げた樽の正体がベルトルト・フーバーだったことも察していて、自分も壁内へ戻るべきだと判断し、肩越しの壁上を眺めようとしたときだった――。
精鋭たちが飛び立っていった方角から、大きさが疎らないくつもの岩が勢いよく攻め込んできた。リヴァイはブレードをクロスに抱えて身体を庇うしかできない。一瞬だけ顔を上げた。腕の隙間から覗けば、ついさっき傍らにいた兵士たちの身体が岩に吹き飛ばされ、粉々に散っている。さらにその向こうでは鎮座していたはずの獣の巨人が立ち上がっていた。その形態は岩を投げた直後で、身体を前のめりにし、右手を身体の手前でぶらぶらと動かしている。
「クソッ!! お前らーー!!」
すでに命を落としたであろう、仲間たちの元に向かうためリヴァイは声を荒げて立体起動を操作した。鋭さが増すブレードの先には大岩の打撃を受けて、さらに朽ち果てた屋根から煙が立ち上っていた。
「――いい女と団長殿! これが俺の気持ちだ、思い知れ!!」
獣の巨人に変貌するジーク戦士長はシガンシナの壁面に向かって勢いよく岩を投げつけた。だが、予想と違う方向に飛び散った光景を眺め、小首を傾げていた。
「うーん、球(ボール)1コ分、高かったか……」
前のめりでその長い右腕をぶらぶらと動かしながら釈然としないジークの口ぶりを聞いていたのは新たな岩を運んできた四つ足の巨人だった。
「あ、そこ置いといて」
豪腕ぶりを発揮した直後、辺りは土埃が舞っていた。それでも命ずる口調は軽くて、四つ足の巨人はやや不満げに顔を上げた。
「戦士長、調査兵団を壊滅させるために投げているんですか? それてもヤキモチからですか?」
「うるさい! お前は小姑か!!」
両手では有り余る大きさの岩を握って、上下に軽く動かせばビシっと音を立てた。粉砕された岩はちょうどその両手に収まった。
「初見は様子を見て……」
正面を見据え、手元の岩のサイズを微調整するジーク戦士長の背中を見やると、四つ足は軽く溜め息をつく。
「女にうつつを抜かさずに、真面目にやってくださいね」
四つ足は嫌味っぽく言い残し、新たな岩を探すため駆け出した。
「あのいい女だけが無事なら遠慮なくいくか。目指すのは完全試合(パーフェクトゲーム)だ」
ジーク戦士長はシガンシナの朽ち果てた住宅街とその向こうの壁を眺めて、その巨大な足で大地を踏みつける。
目標が定まれば、その両腕を大きく振りかぶった――。
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- 5 : 2016/03/24(木) 12:33:49 :
- ようやく動き出した獣の巨人を眺めれば、エルヴィンは焦りを隠せない。散弾の如く投げつけてきた石の動きが素早くて、瞬く間に住宅街は蹂躙され、また兵士たちは無残な姿に変わり果てた。
仲間たちの身体が破壊されて飛び散っていく光景を眺めて、エルヴィンは叫ぶ。
「――前方より砲撃!! 総員物陰に伏せろおおおお!!」
絶叫する団長の命令を聞いても、壁下の兵士たちは状況を飲み込めない。その声に従うしかなくても姿が見えない突然の攻撃に戸惑い立ち尽くしていた。エルヴィンの傍らのイブキはその命令が聞こえていても、その頬は恐怖より怒りで戦慄いている。
「あいつ……」
イブキは立ち上がっている獣を少し眉根を寄せて眺めている。ブレードのグリップを握って今にも身を乗り出そうとするイブキの肩に手が触れた。
「待て、君が行っても何もできない」
「だけど!」
落ち着き払った口調が嫌味っぽく聞こえ、振り向きエルヴィンの顔を見上げた。冷酷な指揮官の額から汗が流れている。だが、左手はだらりと腰の傍に下ろされていた。
「それは俺も同じだから」
エルヴィンが目を見張った先の獣の巨人が右腕を大きく振りかぶっている。左手はバランスを保つように水平に伸びていた。
(今、私に触れたのはミケ……?)
危機が迫ればその心に沁みてくるミケ・ザカリアスの声が聞こえなくても、姿が見えない彼に触れられた。
イブキはエルヴィンと共に正面の獣の巨人を睨みつけながら、そっと肩を触れば自分の身体が小刻みに震えていると感じる。死してもなお見守ってくれるミケが残した温もりを求めるように肩をぎゅっと掴んでいた。
獣の巨人が左足を大地を力いっぱい踏みつければ、右手に握られた粉砕された小石が壁門に向かって投げ込まれた。獣にとっては小石でも兵士にはその頭の大きさとは変わらない。壁面に到達するまで、古びた住宅街が隔ているが、勢いが止まない小石に次々と蹂躙されていく。うなじさえ傷つけなければ、消滅しないと知っているのか、傍らに立っている小型巨人の手足さえも貫かれた。
仲間たちを助ける目的で、発射地点へ向かっていたリヴァイだったが、木造の住宅に身を潜めるのがやっとだった。その上空では屋根の破片が勢いよく飛んでいて、とてつもない速さで流れ続けている。木片と思しき中には兵士たちの身体の一部も含まれていた。
リヴァイが身を潜める住宅の壁に大石がぶつかると、その全体が軋む激しい音を立てた。身体を微かに震わせ顔を上げれば、半身だけの何人もの兵士たちを見つけ、苦虫を噛むしかなかった。
エルヴィンは丘陵から壁面に向かって放たれた砲撃が残した轍のような道筋を眺めていた。それは最初の砲撃に比べて伸びている。壁下で待ち構えるのは主に軍馬を管理するこのウォール・マリア最終奪還作戦に志願したばかりの新兵たちだけだった。
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- 6 : 2016/03/24(木) 12:35:29 :
- 「イブキ、今から壁下に下りる。あの砲撃はすぐにでも壁に到達するだろう。行くぞ」
イブキは息を呑んで頷くしか返事はできない。エルヴィンの背中を追って立体起動を操作し、壁下に向かって飛び立った。
「なっ! 何なんだよ、この砲撃音は!?」
「敵は大砲なんて持ってたの!?」
「だとしたら、100門はあるぞ!!」
目前の住宅の屋根に落ちてくる大小の石の塊を砲撃と大砲と勘違いした新兵たちは腰を抜かしたように身を縮めていた。新兵でも手綱を強く握るのはマルロ・フロイデンベルグだけだった。限界地で困惑する仲間たちを見渡して、めいっぱい叫ぶ。
「お前ら落ち着け!! 馬が荒れるぞ!!」
皆を宥めようとしたそのとき、遠くの屋根が崩れ落ちる合間に混じって立体起動のガスの音が近づいてくる。その方向を見やっても新兵たちの気持ちはまだ乱れている。近づいてくる表情は焦りから強張っていた。
「リヴァイ兵長!」
「巨人から投石だ!! 全員馬を連れて壁側に後退しろ!!」
了解、と咄嗟に応えられた新兵はマルロだけだった。返したと同時に近くの住宅の屋根の斜面に向かって一斉に多くの石が叩きつけられた。兵士たちはしがみ付くように手綱を握って壁に向かって走り出した。
「急げ!! 射線の死角を移動しろ!!」
リヴァイに続いて新兵たちは全力で走った。手綱を握る手には力が入り、汗も滲む。背後に爆音を受けて辛うじてようやく到着したが、獣が投げる大岩は壁際まで距離を伸ばしていた。
大岩のひとつが近くの旧教会の鐘を据える塔を貫いた。それはすぐに倒れず、一瞬だけ巨大な鐘は空中に浮いた。鈍い鐘の音がそこらじゅうに響いて広がる。兵士たちだけでなく、共に駆けて来た馬たちさえ落ち着きをなくして暴れ始めた。勢いよく馬首を翻され、手綱を手放してしまった新兵のひとりが大地にしゃがみこんだ。
「うえあああああ!! もうダメだ」
両手で耳を充てる兵士を見つけたリヴァイは彼の元に駆け寄った。
「オイ、立て!! 死にてぇか!?」
新兵の首根っこを引っ張る傍らでは、彼が手放した馬の手綱をマルロが引っ張っている。馬首に翻弄されながら、背後からは立体起動装置のガスを噴かす音が聞こえた。振り向いた瞬間、手綱に込める力が強くなった。
「団長!!」
マルロが叫ぶ声を聞いて、リヴァイは溜め息を漏らす。掴んでいた新兵の首根っこを緩めた。エルヴィンは左腕だけで立体起動装置を軽やかに操作し、リヴァイの元へ駆け寄った。その背後のイブキは健気に付いてきていた。
「状況は?」
リヴァイはエルヴィンに問うも、団長からはやや狼狽する視線を注がれていた。それでもどうにか落ち着き払って彼を見上げる。
「最悪だ。奴の投石で前方の家は粗方消し飛んだ。あの投石が続けば我々が身を隠す場所はなくなる」
エルヴィンは毅然としていても早口でリヴァイに経緯を話していた。その声を聞いている新兵たちは困惑し引きつる顔を晒すしかない。シガンシナ区内では超大型巨人が炎を撒き散らしながら近づいていて、獣の巨人が仕掛けた投石で複数の精鋭班が全滅してしまった。頼みの綱といえるエレン・イェーガーでさえ消息が不明となっていた。残された兵士たちの少なさを目の当たりにして特に新兵たちは押し黙ってしまう。
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- 7 : 2016/03/24(木) 12:37:50 :
- 「うわあああ!!」
「もうダメだああ」
もっとも安全であろう壁門付近の住宅の屋根にさえ大きな岩が次々と投げ込まれた。爆音が上がれば新兵たちはうろたえ、叫び声も同時に広がる。調査兵団でもトップクラスの精鋭であるリヴァイのやけに落ち着いた表情を見て、イブキは敗北感を味わい唇を噛んでいた。
耳を劈く爆音を背に抱えて、しゃがみこむ中年の新兵が恨めしそうにイブキを見上げた。
「団長はこんなときでも女連れかよ!!」
その叫びを聞いたリヴァイが声の主に視線を向けようとしたとき、マルロがこの兵士の前に立ちはだかった。イブキは殲滅しかけている状況においても毅然とし、エルヴィンの傍らで姿勢を正している。だが、視線は少し泳いでいて不安の色を覗かせていた。リヴァイはマルロの咄嗟の動きに関心しつつ、イブキに話しかける。
「イブキ、おまえはエルヴィンの補佐として尽くしているようだな。やっぱり女王の警護の方がよかったかもしれないな、こんな目に遭えば」
爆音が上がる最中、リヴァイは少しだけわざとらしく声を張り上げていた。辺りの兵士たちにイブキの立場をわからせるよう、彼なりの気遣いだった。
「私はエルヴィン団長の補佐として命を賭すこと! それが私の務めだから」
言いながらイブキは力強く拳で胸を叩く。その力強い敬礼を眺めてリヴァイは薄く笑った。
「そうだな……」
マルロの背後でしゃがみこむ不満を叫んだ兵士が顔を上げれば、リヴァイと視線が合わさった。きまづそうに俯いても、投石が立てる爆音に耳を押さえて叫ぶしかなかった。次にリヴァイはマルロに視線を合わせた。
「おまえはこの新米だらけの兵士でも、なかなかやるじゃねぇか」
突として褒められ、マルロは申し訳なさそうに微かに赤い頬で頷いた。
「はぁ……ですが、団長と兵長の新たなる指示をお聞きしたかったのですが、まだまだ新米の僕がおふたりの話に加わっちゃ、何かマズかったでしょうか?」
やや動揺してマルロは顔を曇らせた。リヴァイはてっきりイブキに対して不満を漏らす兵士の声を聞かせないよう、マルロが身を張ったのだと思っていた。自分の勘違いに微かに鼻で笑って軽くマルロの肩を叩いた。
「まぁ、いい」
いつもの強気な眼差しは少しだけ弱くなる。
イブキは短い付き合いとはいえ、リヴァイの強張る表情を見て、二の句が継げなくなった。
エルヴィンは兵士を率いてこの場所に辿り着いた団長という最高責任者として、リヴァイに策があるか、と問われ視線を逸らした。甚大な被害を受けたとはいえ、その視線の先にはいつもの博打でも思いついたのか、とリヴァイが感じれば、ほんの少しだけ安堵する。もちろん、投石の爆音が大きくなるほど、不安も膨らんでいった。
エルヴィンは負戦(まけいくさ)と思われようと、何度でも最後の足掻きをしようとその心臓には幾度も誓ってきた。だが、今回ばかりは命を落とすのではと心のどこかで思う。それはエレン・イェーガーの生家に存在するであろう、この世界の真相に繋がる入り口を失うという意味を成す。だが、新兵たちの叫び声を聞きながら新たな屍を作ってはならないと、これまでの調査兵としての経験をその脳裏に浮かべ、手探りするように引き出そうとした。傍らのイブキは壁上のときのようにふたりだけなら、彼に触れてどうにか落ち着かせたいと思っていた。エルヴィンの団長としての威厳を守るため、それをせず、ただ見守っていた。
何かを思いついたのか、そのセルリアンブルーの瞳が大きく見開いたときだった――。
突然、兵士たちが身を寄せる壁面が揺れた。シガンシナの壁内では超大型巨人と、近況を知らずとも巨人に変貌を遂げたエレンが戦っていると皆はすでに知っている。一斉に振り向き、見上げた刹那、巨大な頭が壁上からはみ出していた。
その髪の色は黒で、容易く巨人化したエレンだと皆に知れ渡った。
何が起きたか瞬時には理解できない。人類の希望で、頼みの綱のエレンの危機を目の当たりにした新兵たちのさらなる叫び声が広がった。
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- 8 : 2016/03/24(木) 12:38:05 :
- ★あとがき★
みなさま、いつもありがとうございます。
今回は諸事情により遅い投稿になりました。原作が厳しい状況になるにつれ、この作品も難しくなっていきます。だけど、これまでイブキがエルヴィンに健気に仕える姿を書いていきたいです。
まさか壁下の兵士たちが新兵たちだけだとは思わなかったのですが、いったいどうなっていくのでしょうか。。あと、ハンジとモブリットの消息も気になります。。あの描写だけで、行方知れずとは悲しすぎます。無事でいることを願うしかないですね。リヴァイの息切れも続いていて、中央憲兵団と戦っていたときとは体力が違う。何があったのでしょうか。それも書かれるのでしょうかね。
それを考えていたら尽きないですが、また次号を楽しみ待つしかないですね。
引き続き来月もよろしくお願いします!
お手数ですが、コメントがございましたら、こちらまでお願いいたします!
⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2
★Special thanks to 泪飴ちゃん(•ㅂ•)/♡love*
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