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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの抛棄』
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- 1 : 2016/04/21(木) 13:46:39 :
- 密めき隠れる恋の翼たち~『エルヴィン・スミス暗殺計画』
(http://www.ssnote.net/archives/2247)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスとの1週間』
(http://www.ssnote.net/archives/4960)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの苦悩』
(http://www.ssnote.net/archives/6022)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの審判』
(http://www.ssnote.net/archives/7972)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの否応』
(http://www.ssnote.net/archives/10210)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの溜飲』
(http://www.ssnote.net/archives/11948)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの流転』
(http://www.ssnote.net/archives/14678)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの渇望』
(http://www.ssnote.net/archives/16657)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの血涙』
(http://www.ssnote.net/archives/18334)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの証明』
(http://www.ssnote.net/archives/19889)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの慕情』
(http://www.ssnote.net/archives/21842)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの天命』
(http://www.ssnote.net/archives/23673)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの微睡』
(http://www.ssnote.net/archives/25857)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの再陣』
(http://www.ssnote.net/archives/27154)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの謀反』
(http://www.ssnote.net/archives/29066)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの杞憂』
(http://www.ssnote.net/archives/30692)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの勇敢』
(http://www.ssnote.net/archives/31646)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの挽回』
(http://www.ssnote.net/archives/32962)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの慈愛』
(http://www.ssnote.net/archives/34179)
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- 2 : 2016/04/21(木) 13:47:45 :
- 密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの青天』
(http://www.ssnote.net/archives/35208)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの夢想』
(http://www.ssnote.net/archives/36277)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの愛念』
(http://www.ssnote.net/archives/37309)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの咆哮』
(http://www.ssnote.net/archives/38556)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの大望』
(http://www.ssnote.net/archives/39459)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの死闘』
(http://www.ssnote.net/archives/40165)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの火蓋』
(http://www.ssnote.net/archives/41081)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの贖罪』
(http://www.ssnote.net/archives/41737)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの危難』
(http://www.ssnote.net/archives/42605)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの災厄』
(http://www.ssnote.net/archives/43586)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの負戦』
(http://www.ssnote.net/archives/44454)
★巨人に右腕を喰われたエルヴィンと最愛のミケを失うが、エルヴィンに仕えることになった隠密のイブキとの新たなる関係の続編。
『進撃の巨人』の最新話に私の想像(妄想)を書き足したオリジナルストーリー(短編)です。
オリジナル・キャラクター
*イブキ
かつてイヴと名乗りエルヴィンの命を狙っていた隠密の調査兵 。
生前のミケ・ザカリアスと深く愛し合っていた。
ミカサ・アッカーマンの年の近い叔母。
※SSnoteのルールに則り感想等を書いていただくグループコミュニティを作りました。
お手数ですが、コメントがございましたら、こちらまで
お願いします⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2
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- 3 : 2016/04/21(木) 13:48:32 :
- シガンシナ区の壁門上空から爆音が轟いた。同時に調査兵団の兵士たちの悲鳴も一斉に上がる。投石を避け、壁面付近で身を寄せ合う兵士のほとんどが新兵だ。同兵団の兵士長のリヴァイは悲鳴の矛先を怪訝に見上げ、思わずついて出た言葉は独り言のようだ。
「オイ……あれはエレンか? 壁の上まで吹っ飛ばされたってわけか……」
壁上で蒸気を上げ、巨人へと変貌を遂げたエレン・イェーガーの黒髪は強風に揺れている。共に見上げる団長のエルヴィン・スミスは目を剥いてリヴァイのつぶやく言葉をただ聞くだけだった。
あわせて投石の距離が少しずつ伸び出した。どうにか逃げてきたその場所まで到達しそうになり、リヴァイは兵士たちの叫び声を背後に投石の着地点を察していた。
「エルヴィン……反撃の手数が何も残されてねぇって言うんなら、敗走の準備をするぞ」
いつもの冷めた声は本望ではない仲間たちの死を目の当たりしたばかりで、さらに冷え切っていた。まるで冷水を浴びせられたようなエルヴィンだったが、リヴァイが壁上を指差して、巨人化したエレンと共に逃げろという指示を少しだけ上の空で聞いていた。何か言いたげな視線をリヴァイに送ろうとすると、ふたりから少しだけ離れた場所に立つ新兵たちは巨人の脅威に戦いて、相変わらず叫び声を上げている。憲兵団から転属してきたマルロ・フロイデンベルグだけが時には声を荒げながらも、どうにか宥めていた。
元暗殺者で調査兵に生まれ変わったイブキは生気を失った兵士たちと格闘するマルロを渋い顔で眺めていた。団長の補佐としてその場から離れられず、もどかしさだけを募らせているようだ。これから死にゆく命を眺めるエルヴィンの眼差しはやはり虚ろで、それを感ずるリヴァイは敗走の手配を取るべきだと珍しく熱の篭る声で上官を説得している。
「おまえとエレンが生きて帰ればまだ望みはある。すでに状況はそういう段階にあると思わないか? 大敗北だ。正直言って、俺は誰も生きて帰れないとすら思っている」
「あぁ、反撃の手立てが何もなければな」
生き残るには敗走しかないと覚っていたせいか、エルヴィンの返事をリヴァイはうまく飲み込めない。ようやくエルヴィンを見上げた。これまでの博打のような作戦でも、負ける確立が高いと目論むのか、蒼空の目の奥は冷え切っているようだ。
「あるのか?」
「あぁ……」
エルヴィンが乾いた声で返した刹那、兵士たちが再び騒ぎ出す。投石が来ると察して、建物の陰にその身を隠そうと必死に動き回っている。
「……なぜそれをすぐに言わない? なぜクソみてぇな面して黙ってる?」
大岩がそこらじゅうの家々の屋根を弾き飛ばした。5年も手入れもさらず、放置されていた住宅街は容易く蹂躙されていく。新兵たちの叫び声と投石の爆音を背後にしても、少し不満げなリヴァイは微動だにせず、エルヴィンが言おうとする作戦を聞こうと耳を傾けている。傍らのイブキもまだ策が残っているのか、と想像すれば押し黙ってふたりを見守るだけだった。
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- 4 : 2016/04/21(木) 13:49:48 :
- 「この作戦が上手く行けば……おまえは獣を仕留めることが出来るかもしれない。ここにいる新兵と私の命を捧げればな――」
新兵たちの泣き叫ぶ声は止まない。エルヴィンは彼らを眺めながらも、どの道、ほとんどの兵士たちは死ぬだろうと淡々と話す。玉砕覚悟で僅かな勝機にでも賭けるという、その眼差しはどこまでも虚ろで冷ややかだ。
「……一流の詐欺師のように体のいい方便を死んでもらう若者たちに向かって並べなくてはならない。私が先頭を走らなければ、誰も続くものはいないだろう。そして私は真っ先に死ぬ」
互いの視線の先の新兵たちは現状を受け入れられずに、頭を抱えて大地にひれ伏している。マルロだけは毅然と皆を落ち着かせようと、立ちはだかる。それでも、大岩が貫いた屋根から煙が立ち上る光景を眺めれば、顔面蒼白となり、あんぐりと口を開けて小刻みに歯を震わせるしかないようだ。その新兵のマルロを眺め、続いてリヴァイは頷くことなくエルヴィンが言うことに耳を傾けている。
「地下室に何があるのか、知ることもなくな……」
「……は?」
てっきり唯一の足掻きであろう、作戦を最後まで話すと思っていて、潜めていたエルヴィンの本音を聞いてリヴァイは微かに頓狂な声を上げた。エルヴィンは珍しく溜め息をついて、目の前の木箱に腰を下ろした。丸める背中は悲壮感が漂うようで、イブキは彼の傍らに移動し、リヴァイは目の前に立ちはだかった。
「俺は……このまま地下室に行きたい。今までやってこれたのもいつかこんな日が来るかと思っていたからだ。いつか『答え合わせ』が出来るはずだと」
聞きながらイブキはエルヴィンが亡き父と立てた仮説の証明を優先したいのだろうと想像する。エルヴィンは幼い頃からから抱える苦悩が圧し掛かり、残された左手の指先をせわしく動かしている。
「――そして、今……手を伸ばせば届く所に答えがある……すぐそこにあるんだ」
晴れない気持ちで伸ばした左手をリヴァイは眺めている。その指の合間からまさに夢が零れ落ちていくようだ。それでもリヴァイの冷めた眼差しがエルヴィンに向けられることに変わりはない。丸まった背中も変わりはなかった。
「だが、リヴァイ……見えるか? 俺たちの仲間が?」
伸ばせばすぐに届くはずなのに、どうしようもないもどかしさで、その左手はだらりと膝の上に置かれた。自分の夢が叶わないという絶望でけでなく、失った仲間たちに想いを馳せれば、伸ばした手をどこに向けたらいいかわからなくなっていた。イブキはエルヴィンの傍らでその力を失った背中を撫でた。
またエルヴィンが言うように、ミケ・ザカリアスの気配を感じるだけでなく、どこか懐かしく暖かい空気があたりを漂っている気がしていた。
「仲間たちは俺らを見ている。捧げた心臓がどうなったか知りたいんだ。まだ戦いは終わっていないからな」
押し殺していた本音を零すエルヴィンを眺めながら、かつての班員たちに見守られていると日ごろから感じるのは確かだった。リヴァイはあえてそれを口にせず、目の前のエルヴィンにさらに近づき跪いた。投石は相変わらず屋根を叩いて、新兵たちを喚かせている。
「おまえはよく戦った。おかげで俺たちはここまで辿り着くことが出来た」
プライドが高いリヴァイのひれ伏せるような動作を眺め、イブキはエルヴィンの背中を撫でる手を止めた。少ししんみりとしたように返していたはずが、リヴァイの頑なな決意から眼差しは鋭い。
「俺は選ぶぞ。夢を諦めて死んでくれ。新兵たちを地獄に導け。『獣の巨人』は俺が仕留める」
いつもながらの冷めていても、熱を帯びる声を聞いてエルヴィンはようやく顔を上げる。夢だけでなく、命さえ抛棄(ほうき)しようとするエルヴィンの眼差しの奥は心細くても穏やかに輝いていた。
エルヴィンは最後の足掻きとなる作戦を一通り話した。直後、傍らのイブキを見上げた。
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- 5 : 2016/04/21(木) 13:50:35 :
- 「リヴァイ、少しだけ外す。イブキに話がある」
「あぁ……」
言いながら、立ち上がると、エルヴィンが先頭にふたりは背後の朽ち果てそうな建物に入った。元はきゅう舎だったのか、馬が繋がれていたような面影はすでになく、古びた木材が転がっているだけである。
ドアが閉められると、リヴァイは何食わぬ顔で、ドアの前に立つだけだった。ふたりがその場所を数歩進んだだけで埃が足元で舞う。外からの光が遮断されたとエルヴィンが感じれば、左手でイブキの身体を引き寄せ強く抱きしめた。
「君に命が尽ききるまで一緒にいようと言った……だが、あの獣は君を気に入っていて……」
エルヴィンはそれ以上の言葉を綴れなくなる。温もりを味わって、イブキは顔を上げる。
「あなたに私を拾ってもらったの。だから、この命……好きなように使って」
イブキの魅惑的な唇が暗がりで動いた。それを見てしまうと、エルヴィンは口づけを落とさずにはいられなくなった。左手で抱き寄せる力は強さが増す。
「……本当にこれが最後になるかもしれない」
息を切らしてエルヴィンが言えば、さらに艶やかに輝くイブキの唇から熱い吐息が零れる。
「最後だからこそ……思い出に――」
言い終える前にエルヴィンはイブキの両手を左手で握って、壁に押し当てた。再び落とす口付けは激しくなっていく。濡れる淫靡な音が唇から放たれると、イブキは息を乱して悩ましげに胸を揺らす。
「これでどうだ?」
「もう、あなたって……こんなときに」
エルヴィンはイタズラっぽく右の眉を上げる。イブキが目を細めてその顔に浮かべる笑みは美しい。エルヴィンは掴んでいた両手を優しく振りほどくと、イブキを再び強く抱きしめその顔を自分の胸に埋めさせた。襲ってくる投石が立てる轟音に異なる爆音が混ざっている。壁内でも何かが起きていると察すれば、ふと我に返った。だが、ちょうどそのとき――。
(おまえら、死ぬな)
ミケの柔らかくても力強い声が互いの心に染み渡り、身体の隅々まで溶け込んでいくようだった。
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- 6 : 2016/04/21(木) 13:51:55 :
- 何食わぬ顔でドアの前でリヴァイは立ちはだかっている。見知った新兵たちが頭を抱えて、断末魔のような叫びを上げている最中、背後のドアが開かれた。いつもの涼しげな横顔が通り過ぎていく。
「気が済んだか? エルヴィン」
冷めた声を掛けられても、呼応することなく、エルヴィンは冷徹に正面を見据えている。何か大きな決意を胸に秘めていると確信すれば、リヴァイはただ背後を追うだけだ。肩越しのイブキに一瞥をくれると、大きくても切れ長な瞳の奥にはどこまでも濃い覚悟の色を滲ませているようだった。リヴァイはふたりの顔を見て胸中の不安をどうにか払拭し、泣き叫ぶ新兵たちの前にエルヴィンと共に立った。
「これより、最終作戦を告げる! 総員整列!!」
エルヴィンが命令を下す声は投石で止んだ直後で、低く通るその声は兵士たちにすぐさま広がった。団長の新たなる命が下されると知れ渡ると、涙を流す兵士たちは思わず顔を上げる。投石の衝撃は身体は傷つけてなくても、心を十二分に抉っていて隊列を作ろうにもよろよろと歩く影響から団長の前に集まるまで少しだけ時間が掛かった。エルヴィンはそれを咎めることなく、彼らがそろうと、呼吸を整えた。
「総員による騎馬突撃を目標の『獣の巨人』に仕掛ける!! 当然、目標にとって格好の的だ!!」
最終作戦とは次のとおりである。馬で一斉に駆け、タイミングを見計らって一斉に信炎弾を獣の巨人に向かって発射する。投石の命中率を少しでも下げ、兵士たちが囮になる最中、リヴァイは獣の巨人を討ち取ることだ。
リヴァイは最初にこの作戦を聞いたとき、まさか突っ立ている巨人をアンカーを突き刺す大木代わりに利用するとは思いもしなかった。獣まで辿り着ける可能性はどれだけ残されているか想像もできない。囮となる兵士たちが命を賭す最後の最後の作戦として挑もうと決意するしかなかった。
自殺行為としか思えない作戦を理解した兵士のひとりがむせび泣きながらしゃがみこみ、胃液さえ吐き出した。自分の死が直ぐにでも手が届くところにあると実感すれば当然だろうが、エルヴィンは引き続き命令を下す。
「ここに突っ立っていても、じきに飛んでくる岩を浴びるだけだ!! すぐさま準備にとりかかれ!!」
恐怖で強張る顔を隠せず、涙を流す新兵のひとりがエルヴィンの目前ににじり寄る。解せない表情から零れる涙は止まらなかった。
「俺たちは……今から死ぬんですか?」
「そうだ」
「……どうせ死ぬなら、最後に戦って死ねということですか?」
「そうだ」
涙声の兵士の声にエルヴィンは冷淡に呼応し続ける。その返事は彼の命の灯火さえ吹き消すようだ。
団長の強い覚悟を知ってか、兵士の涙はますます止まらなくなった。
「いや……どうせ死ぬなら、どうやって死のうと、命令に背いて死のうと、意味なんかないですよね?」
「まったくその通りだ」
団長の冷め切った答えに改めて疑問を投げかけた兵士は口を噤んだ。死ぬ意味がなくても挑もうとするような姿勢を目の当たりにし、何も考えられなくなった。
「まったくもって無意味だ。どんなに夢や希望を持っていても、幸福な人生を送ることが出来たとしても同じだ」
言いながらエルヴィンは無意識に傍らのイブキに一瞥をくれ、再び正面の兵士を見据える。
「――岩で砕かれても、人はいずれ死ぬ」
エルヴィンは途方にくれたような多くの若者を見渡し、淡々と説明し続ける。
「また本作戦において、我々が囮になるといったが、私の補佐であるイブキが……」
団長が初めてイブキの名前を口にすれば、一斉に彼女に向けて兵士たちの視線が集まった。
「獣の巨人に捧げる生贄になってもらう」
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- 7 : 2016/04/21(木) 13:52:53 :
- 皆に通る相変わらずの低い声が響けば兵士たちは一瞬だけざわつくも、息を呑んでイブキを眺めた。リヴァイはイブキも囮になると当初の説明で聞いていた。僅かな戸惑いから目を大きく見開いた。胸中を知られぬよう、若い兵士たちを見渡した。
また勘の鋭い兵士はイブキが団長の補佐だけではなく、個人的な関係もあるだろうと、それとなく気づいていた。囮は帰還する可能性は多少はあっても、生贄は確実に死ぬようなものだ。自分の女さえ生贄として捧げるとは、本気でこの作戦に挑むのだと確信せざるを得なかった。
肝心のイブキは敬礼をして、強く握った拳を心臓にあてがう。眼差しは強くても、確固たる決意から気品ある美しさも表現しているようだ。心なしか微笑む唇はきゅっと口角を引いていて、死を直前にし身体中の細胞から生涯最後の美を放つようにも見えた。
「ならば人生には意味がないのか? そもそも生まれてきたことに意味はなかったのか? 死んだ仲間もそうなのか? あの兵士たちも……無意味だったのか?」
少し俯き加減になり、エルヴィンが呼吸を整える頬は紅潮し始めた。
「いや違う!! あの兵士たちに意味を与えるのは我々だ!! 我々はここで死に次の生者に意味を託す!!」
勝利よりも敗北の色の方が濃い作戦を突きつけ、部下を鼓舞するよりも、まるで叱りつけるかのように声を響かせた。それは死にゆく部下にではなく、自分に対し、激高するような声にも聞こえる。傍らのリヴァイは夢を諦める変わりに命を捧ぐ男の嘆きではないと強く確信していた。
生き残った者として最後の足掻きを勇敢に散った仲間たちに見せろと、けたたましくエルヴィン叫んだは。兵士たちが流す涙はようやく止まる。一流の詐欺師ではなく、団長の最後の方便が皆が理解するほど命の灯火は一つずつ消えていく。リヴァイは目の前の若者たちの輝きを託された気がして、不意に握る拳には力が込められた。
新兵たちの先頭に用意された愛馬にエルヴィンが跨ろうとしたとき、すでにリヴァイは配置について、兵士たちの出立を待ち構えていた。イブキがふと壁上を見上げれば、蒸気が空高く昇り始めていた。
風は吹いていなくて、立ち昇っていた蒸気はゆっくりと流されている。生き残って欲しいと願う兵士たちの中にはイブキの姪であるミカサ・アッカーマンも含まれている。イブキは彼女の無事を案じてエルヴィンの元へ向かった。
(ミカサ……あなたともっと一緒にいたかった……)
たった一人の肉親に思いを寄せれば目頭が痛いほど熱くなる。だがそれをエルヴィンに気づかれないよう、視線を落とした。エルヴィンに左手を差し伸べられ、同じ馬に跨った。背後のエルヴィンの熱を感じる。手綱を握る手のひらには汗が滲む。信炎弾のグリップを握る左手がイブキの左手に添えられた。
「覚悟はいいな? イブキ……」
「もちろん!」
自ら鼓舞するように強張る唇から、はしゃぐような口ぶりでエルヴィンに返す。イブキに伝わるエルヴィンの熱はさらに高くなった。
「突撃!!」
団長の命を削って叫ぶ号令で兵士たちは一斉に飛び出した。雄たけびを上げながら、獣が待ち構える丘陵に向かって駆けてゆく。轟く馬蹄が舞い上がらせる土煙を残して、兵士たちは進む。敗者になる選択を捨て、勝利の鉄槌を突きつけるため、多くの命が戦いに注がれていく。
エルヴィンと先頭を駆けるイブキは私を見て、と言わんばかりに姿勢を正して手綱を握る。エルヴィンの号令で信炎弾が一斉に丘陵に向かって放たれた。多くの放物線が上空に描かれる。煙の距離を推し量り、リヴァイは立体起動を操作させ、獣の巨人に向かって飛び立った。
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- 8 : 2016/04/21(木) 13:53:34 :
- 「煙……?」
獣の巨人に変貌したジーク戦士長は振りかぶろうとする体勢をほんの一瞬だけ止めた。
「やっぱり特攻する気なのね……あれは?」
目を凝らして先頭で駆けている馬を見れば、厭らしくニヤついた頬を緩ませた。ジークはイブキも近づいてくるとすぐに気づいていた。
「あのいい女……だけじゃない、後ろには団長もいるのか? あの男、自分の女を捧げるってか? まさか、寝取られ願望とかあるのか? この変態め!」
ジークは向かってくる煙に目を細めた。四つ足の巨人は新たな岩を運びながらジークの不快な色を表す独り言を聞いていた。呆れて、舌打ちしたい気持ちを抑えて肩越しでジークの背中を見上げる。
「あの……その発想の方が変態というか、ゲスですよ」
「相変わらず、ひと言多いな! おまえは!! まぁ、残念だが……ここに到着するまであのいい女の身体は持たないだろうな……」
白けたように鼻で笑うと玉砕覚悟の兵士たちに向かい、つぶした岩を握って迷うこともなく大きく振りかぶった。
馬で駆ける兵士たちの目前には瞬く間に火を噴くような大きさや形が疎らな石が投げ込まれていく。彼らの叫び声の真正面に突っ込まれて、先頭を駆ける兵士たちは投石の最初の犠牲になった。避けることもできず、一瞬で兵士たちの身体が吹き飛ばされ、次々に蹂躙されていく。エルヴィンとイブキが跨る馬の首も子供の握り拳程度の小石が貫いた。小さくても衝撃は大きく、馬首を抜けた後、イブキの腹部を傷つけ次にエルヴィンの立体起動装置のガスをへこませて、ようやく大地に転がり落ちた。エルヴィンの腹部にも痛みが走っているようだが、信炎弾のグリップを強く握って叫び続けている。イブキは脇腹の痛みだけでなく、生暖かさを感じても堪えるだけで、獣までの距離を縮めるため手綱を強く握っていた。
(ミケ……どうやら、あなたに……もうじき会える。エルヴィンも一緒で……いいよね)
迫り来るたくさんの石を正面に迎えながら、イブキは薄く冷笑を浮かべる。
(まだ、来るな……!)
心に沁みるミケの声からあせりを感じさせるようだった。その声を感じても投石は収まらず、兵士たちは抗い続けるだけだった。
リヴァイは投石を避けながら獣の巨人に忍び寄った。ようやく辿り着いた一体目の大型巨人は女の顔をしていたが、うなじに刃を入れると、共に削がれた長い髪が空中に舞い散った。巨人が元人間だとしても、ためらいはない。自分の選択が獣の巨人を仕留められると頑なに信じるだけだった。
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- 9 : 2016/04/21(木) 13:53:47 :
- ★あとがき★
いつもありがとうございます。
今回も難しかったけど、エルヴィンはイブキを健気に支えている光景を妄想しながら
仕上げました。最後の突撃は衝撃的で来月が怖いほどです。
エルヴィンはリヴァイは…はたまた兵士たちはどれだけ生き残るのでしょうか。
ライナーは立ち上がったけど、力はどの程度残っているのか?
命がどれだけ残るのか怖いけど、怖いもの見たさもありますよね。。
ミケを始めとする死んでしまった兵士たちはずっと見守っているのだろうと
想像します。死んだ甲斐があったと思うような結果を残せるよう、願うばかりです。
引き続き来月もよろしくお願いします!
お手数ですが、コメントがございましたら、こちらまでお願いいたします!
⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2
★Special thanks to 泪飴ちゃん(•ㅂ•)/♡love*
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