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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

進撃のウォーキングデッド season4 ep1 もう一つの可能性(ルートB)

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  1. 1 : : 2015/06/30(火) 16:38:42
    前回の続きです。

    http://www.ssnote.net/archives/35099
  2. 2 : : 2015/06/30(火) 16:52:32

    立ち込める砂埃。
    鼻をつく嫌な匂い、そうこれは人の命の源だ。

    この紅はどうも残酷な色だと思う。
    例えば一面真っ赤に塗られた壁を見て、キレイだと思う人間は果たしてどれ位いるだろうか?




    「ご覧ください、この惨劇を…!ここLAで犯罪史に残る、凶悪な事件がまた一つ刻まれました!!」

    あたかもこの事態に”私も興奮している”と言わんばかりに、リポーターはカメラに向き合う。


    「おい、いつまでそうしてるつもりだ?帰還命令はとっくに出てるぞ?」

    黒髪の特殊部隊員は、”立入禁止”と書かれたテープの側から動こうとしない。

    「お前もわかってんだろ…俺らがどんなに頑張っても、全ての人間を救える訳じゃないってよ。」


    「わかってる、わかってるよ。それでも……この手が届く範囲のものは、全て拾ってやりたいんだ。」

    彼の真っ直ぐすぎる目は、ただただ現場を見ていた。

    「はっ、そりゃ夢物語だな。」

    綺麗事だ、と鼻で笑い
    彼はその通りだと顔を伏せる。






    「でもな、だからこそーーーーーーー」




    あれ?この後俺は何て言ったんだっけ…
  3. 3 : : 2015/06/30(火) 17:07:41

    「おはよう。」

    今日最初に目に入ったのは、この世界になってからの”相方”。
    しかし…こいつは何だってこんなに目つきが悪いんだと思う。

    ジャン「陽が昇った後に起きたのは久々だ。」

    アニ「何か良い夢でも見た?」

    奴の、現場を見据える真っ直ぐな目。



    ジャン「…別に。」

    そうして、また終わらない世界が始まった。

    ーーーーーーーーーーーーーーーー

    アニ「今日はどうする?このまま幹線道路沿いに進む?」

    地図を広げ、二人ぼっちのミーティング。
    ジャンは一瞬誰かの返答を待ったが、当然誰も何も言わない。

    ーー何故ならここにはジャンとアニしかいないのだから。

    ジャン「ああ…少し付近の街を探索しよう。そろそろ食料が心許ない。」

    確かのこりは…とバックの中を確認する。
    トマトの缶詰が3つと、この前仕留めた犬の肉が数切れだけだった。

    アニ「確かにね。もうトマトとパサついた肉の組み合わせはこりごりだよ。」

    寝ぐらから5km先の街が目的地になった。






    季節の変わり目の突風が少し肌寒い。

    2人並んで歩く歩幅はあいも変わらずスローだ。
    なんて事ない、急ぎの旅ではないから。

    アニ「そろそろ上着が欲しい。」

    ジャン「あー、そうだな。動き辛いのはゴメンだが。」

    そう言いながら横目でアニを見やる。


    しかし皮肉なものだ。
    最後の最後に残ったのが、一番キライな奴だったとは。

    コニー辺りとなら、うまくやれた気がする。
    あの馬鹿とならきっと長生きはできないけど、最後まで笑っていられるはずだ。


    アニ「…後悔してる?」

    ああ、この女がこの台詞を吐くのは…何回目だろうか。

    ジャン「そんな顔してたか?」

    彼女曰く、2日に一回は”そういう顔”をするのだという。

    ジャン「お前は考えることはないのかよ?」

    すると彼女は、無いね、と即答する。

    アニ「過去に興味はないよ。唯一の楽しみはーーーこれからアンタがどう行動するかだ。」



    聞いたか?何とも嫌味な女だ。
  4. 4 : : 2015/06/30(火) 21:52:42
    最近は星つけるばっかですいません
    期待してます
  5. 5 : : 2015/07/02(木) 22:28:33
    mountさん

    いーえ、長い間見守ってくださってありがとうございます。
    これからもよろしくお願いします。
  6. 6 : : 2015/07/02(木) 22:55:57

    アニは変わった気がする。
    それは例の契約を交わしてからか、何と言うかーー物事をより客観的に言うようになった。

    少なくとも馴れ合いの関係から、一種のパートナーにはなれたのだろうか。


    そうこうしている間に街に到着した。

    ジャン「…くっせー街だな、オイ。」

    アニ「精肉工場があるね、故郷を思い出すよ。」

    ジャン「そんな所に住んでたのか?こんなモン、俺ぁ”テキサスチェンソー”でしか観たことないね。」

    アニ「そんな事言うもんじゃないよ、ベーコンにありつけるかもしれない。」

    ジャン「俺は正直気が進まねー。ここでも相当臭うんだ、中の事を考えると悍ましい。」

    悪臭が立ち込める中、重い足取りで進む。

    ジャン「俺にここまでさせたんだ、それはさぞかし立派なベーコンが…」

    今にも取れそうなドアノブを回す。

    ギィ





    ジャン「うおおおおおお?!」

    アァァァ…
    ガァッ、グゥウ

    中からムラムラと姿を現したウォーカーに、思わず飛び退く。

    アニ「ちょ、ちょっと…何やってんのさ!!この数は洒落にならな…」

    ジャン「お前が言い出しっぺだろうが!とにかく、走れッ!!」



    ウォーカーの大群に追われる二人。
    その迫力はさながらB級映画のようだが、これはれっきとしたリアルだ。

    ジャン「右だ右、とりあえず右に曲がれ!!」

    全速力でコーナーを駆ける。




    「こっちだ、そのまま全力で走れ!」

    ジャン「あ?!」

    声の主を必死に探すも、周辺にはそれらしい人影は見当たらない。

    アニ「あのバス!」

    アニが指差した方向を見ると、そこには確かにバスの窓から頭が一つ覗いていた。


    「早くしてくれ、追いつかれる!」

    だったら最初から声かけんな!と、悪態つきたくなるのを必死に引っ込める。



    ジャン「そりゃあぁ!!」

    開かれた乗降口に二人して飛び込む。

    「ヒッチ、すぐ出せすぐ!」

    「やってるっての、旧式だからエンジンのかかりが悪いのよ!」

    ジャンとアニは必死にドアを抑えつけたが、ほどなくしてバスは走り出した。




    ジャン「ハァ…ハァ…助かった…」

    アニ「食料に気を取られて、完全に思考能力が低下してたね。」

    ジャン「だから俺ァ言ったんだ、あんな肥溜に…」

    息も絶え絶えの二人に、マッシュルームヘアーの男が近づく。

    「危ない所だったな、左に曲がってたらアウトだったぞ。」

    自分たちの置かれている状況に気付き、思わず警戒態勢に入るジャンとアニ。

    「もー。アンタらのせいで冷や汗かいたじゃん。」

    ヒッチと呼ばれた女性は悪びれること無く、次々に文句を口にする。



    …何だ?

    ジャン「何故、見捨てなかった?」

    「?そりゃ困ってただろ。」

    ジャン「…あぁ?」

    アニ(…)

    「お前は目の前でご老人が転んだら助けないのか?」

    ジャン「いや、そういう話じゃねぇし。見ず知らずの俺らを、こんな世界で助ける義理はないだろって言ってるんだ。」

    男は顎に手を添え、少し考えた後に答えた。

    「どんな状況であっても、俺は同じ事をしたと思う。例えアンタらが左に曲がっていてもな。」



    ジャン(…こいつ、本物の馬鹿だ。)

    考え方のベクトルが違う。
    そう思うと、それ以上問い正すことができなかった。
  7. 7 : : 2015/07/02(木) 23:31:59

    ヒッチ「諦めな。そのキノコは、そういう朴念仁なキノコ男なの。」

    「…それ、人間か?」

    彼女のやりとりからして、二人はある程度一緒にいるという事が推測できた。




    キィィ〜ガチャ

    ジャン「うおっ!」

    エンジンが急停止し、その反動で思わず仰け反る。

    「何だ、エンストか?」

    ヒッチ「えぇ?なんでかからないのよ?!」

    懸命にキーを回すが、うんともすんとも言わない。


    「だから俺は言ったんだ、しっかりチェックしてからにしろって!」

    ヒッチ「はぁ?元はと言えば、アンタが厄介ごと持ち込んだんでしょーが!」

    ジャンは二人が言い争う姿に思わず口を開ける。
    アニはと言うと、やってられないと言わんばかりに首を振り、後部座席の方に歩いて行った。

    ジャン(何だコイツら…本当に只の馬鹿なのか?)

    素性もよくわかっていない人間を二人も乗せ、挙げ句の果てに身内の喧嘩を始める。
    こんなに茶番だと、何か企みがあるのかと疑ってしまう。


    ヒッチ「だからアンタが!」

    「だからお前が!」

    ジャン「ま、まぁ落ち着け。取り敢えず外に出て、機関部を見てみようじゃねーか。」

    不本意だが二人の間に割って入る。



    アニ(全く…とんだ連中に巻き込まれたもんだ。)

    やれやれと首を振り、ふと後方を見る。

    アニ「?!」


    アニ「まずい、全員早く外に…」

    ガアッ!
    ガンガン!!

    アニが言いかけた頃にはもう手遅れだった。

    「うわっ!」

    外に出ようと思っていた男は間一髪、ウォーカーがドアに張り付くのに気付き、必死に取手を抑える。

    ヒッチ「これ…もしかしてマズいパティーン?」



    アァァァ…
    ガァァァ…

    バスは四方を完全に包囲されていた。
    とんでもない数のウォーカーに囲まれ、手荒く窓を叩き始める。


    ジャン「ちくしょう、どうして気付かなかった?!」

    完全に雰囲気に流されてしまった、と乗降口の取手にバールを挟み込みせめてもの補強をする。

    アニ「駄目だ、完全に逃げ場を塞がれたね。窓ガラスが割られるのも時間の問題だ。」

    ジャン「万事休すだってか?!」

    両手で顔を覆い、座席に荒々しく座り込む。
    ヒッチとキノコ男に何か言ってやろうと思ったが、余計虚しくなると思い留まった。






    ジャン(そうだ、コイツらを盾に使えば…)

    良からぬ考えが頭をよぎる。

    ジャン(信用する方がいけねぇんだ、心を許した方から死んでいく。そうだ、悪いのは俺じゃなくて…この世界だ。)

    アニ「…」

    幸いこういう時の為に、アニとはサインを決めてある。
    アイコンタクトだけで行動に移せるだろう。


    ジャン(よし…)

    スッ…






    「みんな聞いてくれ。俺が囮になる、その隙に…」

    ジャン(は…?)

    キノコ男がそう言ったのは、ジャンが立ち上がったのと同じタイミングであった。
  8. 8 : : 2015/07/17(金) 02:14:10

    「左側の前座席の床下から降りられるようになってる。恐らく整備用だ。」

    慌てて見ると、確かに四角い枠があった。

    アニ「だったらすぐに全員で抜け出そう。」

    「そのタイプは手動では開けられない。」

    ジャン「んなもん知るかよ…このっ、開きやがれ!」

    ナイフの先端を無理矢理差込もうとするが、鈍い音を立てて刃先が折れた。

    「バールか何か…先端が尖っていて、強度のあるものが必要だ。」

    その言葉を聞き、ジャンはふと乗降口を見やった。


    「もうわかったろ。そのバールを引き抜けば、奴らが入ってくる。床をこじ開けるまでの間、ドアを守る必要がある。」

    「一人でも抑えられるような、力の強い者が残らねばいけない。…この中だとそれは俺だ。」

    キノコ男はキッパリ言い放った。
    この状況で四人全員が生き残る手段はそれしかないだろう。
    しかし二人を盾にした方が、より確実性は増す。

    ジャンの心は揺れていた。


    ジャン(やっぱりコイツら正気じゃねぇ。ご丁寧に一から説明した挙句、先に逃げろだと?)

    落ち着いて周りを見渡す。
    アニは床の部分を入念に調べていて。ヒッチは呆れたように首を振っている。

    ジャン(待て、その案に従おうなんて思うな。生き残る為に、確実な方を選ぶんだ。…じゃないと)






    じゃないと、エレン達と決別した意味がない。



    わずかに心に残った善を必死に取り除こうとしたが、都合の悪い事にキノコ男は真っ直ぐこちらを見つめていた。

    「決断してくれ。」

    ジャン「…ッ。」

    何を迷う必要があるのか。
    会って数分の人間など断ち切るのは簡単だ。

    しかし”そうできない何か”がキノコ男にはあった。





    ジャン「…一つ聞きたい。そうして自分を犠牲にしてまで、他人を助けようとするんだ?」

    さっきも、今も。と付け足した。



    「自身のエゴだってわかってるんだが・・・」




    「俺は自分の手の届くものは、全て拾いたいんだ。」







    ああ、全部わかった。

    こいつ、あの馬鹿に似てやがんだ。


    体つきも顔立ちもまるで似ていない、だが一瞬かつての相棒の姿が重なった。

    ジャン「お前、名前は?」


    「マルロだ。マルロ・ハイデンベルク。」

    ジャン「そうかよ。…よろしくな、マルロ。」





    俺ってば、本当に何処までも馬鹿のお人好しだな。

    そう後悔しながら、差し出された手を握った。
  9. 9 : : 2015/07/24(金) 18:07:45

    俺逹はもう一度手順を確認した。
    まずバールを抜いて、俺が床下をこじ開ける間はヒッチとアニもドアを抑える。

    少し心許ないが、ウォーカーの侵入を許してしまっては元も子もない。

    マルロ「どうだ、すぐに開けられそうか?」

    ジャン「角が少し浮いてる、先端がうまく引っ掛かれば…そう時間はかからないだろう。」

    マルロ「よし…準備はいいか?」

    ヒッチとアニが乗降口に張り付き、目でこちらに合図する。

    ジャン「いくぞ。1、2の…」


    ガシッ

    ジャンがバールを引き抜くのと同時に、三人が全体重をドアにかける。


    ドガッ、ドンドン!

    アニ「ッ…!」

    ヒッチ「あーもう、余計に興奮させてんじゃん!保つのこれ?!」

    マルロ「無駄口叩く暇あったらもっと集中しろ!」

    予想はしていたが、恐らく数分しか保たないだろう。

    ジャンはすぐさま床下にバールの先端を打ち付けると、梃子の原理で持ち上げた。



    ジャン(マジかよ、思ったより硬ェ…!)

    老朽化が進んで錆びているせいか、中々持ち上がらない。

    ヒッチ「ちょっとまだぁ?!早くしなさいよ馬面!!」

    ジャン「やってるっての!うおぉぉぉぉ!!!」


    ググ…

    ジャン(上がった…!このまま…)

    確かな手応えを感じ、更に力を振り絞る。









    バキッ


    ジャン「あぁ?!」

    しかし鈍い音が無情にも希望を打ち砕いた。
    恐る恐る足元を確認すると、バールが真っ二つに割れているではないか。

    ジャンは自分の顔が引き攣りながらも、口角が上がっていくのを感じた。
    人間どうしようもない時は、何故笑ってしまうのだろう。

    マルロ「お前…まさか。」

    ジャン「もう少しだったんだが…すまん。ハハハ…」

    ヒッチ「ハハハ、じゃないわよ!簡単に諦めやがって!!」

    駆けつけたヒッチが折れたバールの片割れをジャンから奪い取ると、無理やり隙間にねじ込んだ。



    ヒッチ「ぬおぉぉぉぉぉぉ!!」

    先程までの澄まし顔はどこへ行ったのか、渾身の力を込めて
    到底女子とは思えない顔を晒すヒッチ。


    ギシ…

    ジャン「うお、何て女だ…」

    ヒッチ「アンタもやるんだよ!」

    その一言に傍観者になりかけていた自分を慌てて振り払い、自らも短いそれで踏ん張る。



    ジャン「おらぁぁぁぁ!!」

    ヒッチ「ふおぉぉぉぉ!!」

    ジャン(頼む、開いてくれ!)



    ガタッ

    ジャン「よっしゃ、急げアニ!」

    ヒッチなどはすかさず降りており、恐らく下で待機しているはず。

    アニ「もう少しの辛抱だ、頼むよ。」

    マルロ「そろそろ限界なんだがな…」

    そう言いつつ苦笑するも、アニがドアから離れた瞬間
    体全体を使って最後の力を振り絞った。



    マルロ「お前も行け!」

    ジャン「ッ!」

    マルロ「あぁ、待て!まだ名前聞いてなかったよな?!」

    ジャン「ああ?!そんなん後で良いだろ!」

    マルロ「その後が俺には無いかもしれないんだよ!!」


    ジャン「ジャンだ、ジャン・キルシュタイン!」

    そう言い放つと、飛び込むように自らも降りた。

  10. 10 : : 2015/07/24(金) 18:38:20

    アニ「抜けるならあそこだね。」

    脱出口に目星をつけていたアニが指を指す。
    丁度ウォーカーが群がっているのは両脇。後部に見える限りは2、3体だった。

    ジャン「俺が先陣を切る、その隙に二人で左右から抜けてくれ。」


    まだ降りてくる気配の無いマルロが気掛かりだったが、邪念を振り払うようにジャンは飛び出した。

    ジャン「…!」

    タックルの要領で、ウォーカーの下半身に飛びつくと
    そのまま押し倒し頭部に銃口を押し付け引き金を引く。



    ガァッ!

    横から迫り来るウォーカーに対応しようとすぐ顔を上げたが、二つの乾いた音がした後
    醜い亡者は崩れ落ちた。

    ヒッチ「中々やるじゃない。」

    アニ「そっちもね。」

    二人の側に駆け寄り、距離を取るとすぐにバスの方を振り返った。







    ジャン「おい…嘘だろ?」


    アァァァ…
    ゲアッ、ギィィ!!

    既に乗降口は破られ、我先にと中に乗り込む無数のウォーカー。
    マルロは、まだ出てこない。





    アニ「…まだかい?何匹かこっちに気付いてる、そろそろマズいよ?」

    ジャン「まだ待つ。」

    ヒッチ「アンタ正気?!せっかく助かったんだから先に…」


    ジャン「うるせぇ、待つって言ってるだろ!!」





    (手の届く範囲のものは、全て拾ってやりたいんだ。)

    ジャン(馬鹿野郎が、勝手に人に夢見せといて…!)







    タタンッ!

    そう思った刹那、マルロが応戦しながら這い出てきた。

    マルロ「伏せろ、早く!」

    ジャン「は?」

    一瞬の出来事に茫然とする三人をマルロが押し倒した瞬間
    バスが勢いよく炎上した。

    ーーーーーーーーーーーー


    ジャン「しかしもうダメかと思ったぞ。」

    マルロ「ギリギリまで引きつけたんだ。あのサイズの出口をすぐに降りてくる器用さは、流石に奴らにはないんじゃにかと思ってな。…まぁ、賭けだったが。」

    アニ「よく手榴弾なんて持ってたもんだね。」

    マルロ「まさかこんな所で使ってしまうとは思わなかったがな。」




    町から少し離れたガソリンスタンドで、四人は一息ついていた。

    ヒッチ「ダメ、どれもダメ。バッテリーもガソリンも根こそぎ盗られてる。」

    付近の車を調べていたヒッチが戻ってきた。

    マルロ「だろうな、元々期待していた訳じゃない。」

    ヒッチ「だったらさ、一回アジトに戻らない?こんな状態じゃさ…」

    マルロ「そうだな。手ぶらで何を言われるか、わかったもんじゃないが…」

    ジャン「すまなかったな、せっかく見つけたバスもお釈迦にしちまって。」

    マルロ「過ぎたことだから仕方がない。それより、これからどうするつもりだ?」

    ジャン「南はダメだった。北に行こうと思ってる。」

    するとマルロは少し考えた後、切り出した。





    マルロ「良ければ俺逹と一緒に来ないか?」

    ジャン「え…」

    ヒッチ「マルロ、それはマズいでしょ。勝手に決めて、あのヒス女が何て言うか…」

    マルロ「いいさ、彼等の事は俺が保証する。」


    ジャン「申し出は有難いがよ…お前のそういう根拠はどっから来るんだ?」

    マルロ「そうだな、こいつだ。」




    ジャン「あ…」

    マルロが胸元から取り出して見せたパスケースに、思わず言葉が詰まる



    マルロ「職業病、ってやつだ。」

    黒い布地に、煌びやかにひかる銀のエンブレム。
    自分はもう、とっくの昔に捨ててしまったものだった。
  11. 11 : : 2015/07/29(水) 13:00:44


    ーーーーーーーーーーーーーー

    アジトに向かう途中、何やらまた小競り合いをする二人の背中をジャンは眺めていた。

    ジャン「しかしまた可笑しな連中と出くわしたもんだ。」

    アニ「そう?確かに馬鹿だとは思うけど、私は人間らしいと思う。」

    ジャン「…人間らしい?」


    アニ「気に食わないから意見する、自分の思った事を素直に言う、信じたいと思ったから信じる…どれも当たり前の事だ。」

    アニ「まず人を疑うなんて方が狂ってるんだよ。」

    ジャン「そうは言ってもよ…こんな世界じゃ仕方ないだろ、今までそうやって生き残ってきたんだ。」

    アニ「そう、今までは…ね。」

    ジャン「何が言いてェんだよ?」

    そう言うと、アニの鋭い目線が一層厳しくなった。


    アニ「今まで?ハッ、笑わせるね。何のためにアンタはエレンたちと別れたの?」

    アニ「契約の内容を良く肝に免じておくんだね。」

    そう吐き捨てるように言うと、マルロ達の方に歩いて行った。

    ジャン「…っせーな、俺だってわかってるよ。」


    ジャン「契約…か。」

    自分で言っておきながら、無機質な感じがして嫌な言葉だ。
    しかし二人の関係を言い表す言葉としては、実に的を得ていると思う。

    ジャン(そう、俺達は馴れ合いで一緒にいるんじゃない。)

    自ら戒めた事を再認識すると、歩を進めた。






    ジャン「アジトには他にもいるのか?」

    ヒッチ「あと2人、両方ヨーロッパ人よ。事ある毎にヒステリック起こす女と、どうしようもないロマンチスト。」

    ジャン「へぇ、長いのか?」

    マルロ「いや、まだ二ヶ月くらいの付き合いだ。…もっとも、こいつとは10年来の腐れ縁だがな。」

    アニ「仲が良いんだね。」

    それを聞いて黙っていられないのがヒッチである。

    ヒッチ「ちょっと、変な言い方止めてくれる?マルロがずっと付いてくるだけだから。ほら、こういう顔したストーカーいるじゃん?」

    マルロ「ストーカーとは心外だな、その程度のルックスで芸能人気取りはよせ。良かったな、この世界じゃお前の後を追っかけ回す、根強いファンが沢山いるようだぞ。…全員汚臭を放ってるがな。」

    ヒッチ「へぇ…マルロのクセに言うじゃんか。ケンカ売ってんの?」

    ジャンはまたか、と溜息をつくながらも
    この光景に誰もが持つであろう疑問をぶつけた。


    ジャン「なぁ、ずっと聞きたかったんだが。そんな言い争いして、今までヤバい事にならなかったのか?」

    マルロ「ヤバい事?」

    お互いを小突きあってた二人は、キョトンとした表情で振り返る。

    ジャン「あー、あれだ。人間に襲われたりとか、ウォーカーに囲まれたりとか。」

    ヒッチ「何で?何でそんな事になる訳?」

    マルロ「何度か危ない場面はあったが…そういった事にはならなかったぞ。」


    そう平然と言い切る二人を見て、ジャンは諦めた。
    この世には言葉で説明がつかない事が幾つもある、この2人も恐らくそれなんだろう。

    ジャン「悪かった。聞いた俺が悪かった。」

    馬鹿にしてんの?と詰め寄るヒッチを見ながら、アニは考えた。



    アニ(おかしいのはどっちだろう。世界か、それとも人の心か。)


  12. 12 : : 2015/07/31(金) 21:57:28

    森の先に進んでいく事に、ジャンはあまり気乗りがしなかった。
    それもそうだ、森にはあまり良い思い出がない。

    ジャン「かなり奥まで行くのか?」

    マルロ「いや、中腹といった所だな。」

    そもそもこの森自体あまり深くはなく、四方には中規模の街並みが聳え立っていた。



    ジャン「あの家か?」

    アニ「立地は悪くないけど…周りが開けすぎているのが気に食わない。」

    ジャン「これじゃ襲われた時に一たまりもないだろ。」

    ヒッチ「ああ、そういう心配はいらないわ。」

    彼女はそう言いながらポーチをくぐると、一定のリズムでドアを数回叩いた。

    ーーーーーーーーーーー

    「マルロ達か?」

    「いや…他に誰かいる。」

    暗がりの中で女がそう呟いた。

    「何人だ?」

    「二人。脅されてる可能性がある。」

    「おいおい、いくら何でもそんな…」

    「前にいた集落は、この手口で全滅したんだ。」

    ーーーーーーーーーー

    マルロ「おかしいな、反応がない。」

    ジャン「合図を間違えたんじゃないか?」

    マルロ「そんなはずはない、確かに合っていたぞ。」

    アニ「だとしたらマズいね、何かあったのかも。」

    ーーーーーーーーーーーーーー

    「様子はどうだ?」

    「…何か話してる。」

    「一度開けてみたらどうだ?脅されている割には緊張感が…」

    「…」





    ガチャ

    ヒッチ「ちょっと、いたならさっさと開けなさいよ。」

    しかし出てきた眼鏡の女はヒッチには目もくれず
    ジャンの顔を見ると



    ブォン!

    ジャン「うおっ!」

    振り下ろされた鉄パイプが頬を掠めた。

    「うああああ!!」

    ジャン「ま、待て。やめろって、どうなってんだマルロ!」

    女は聞く耳を持たず、獲物を振り回し続ける。

    マルロ「落ち着けリコ!彼らに敵意はない!」


    ガッ!

    ジャン「何なんだこいつは…」

    顔の前で鉄パイプを受け止めると、女はジャンを睨みつけたが
    それ以上危害を加えることはなかった。

    ヒッチ「さっき話したヒス女。」

    ーーーーーーーーー

    「脅されてると思った?!いつの刑事ドラマよ!」

    無事に案内された先の居間でヒッチが叫んだ。

    「そう言わないでやってくれ。トラウマが蘇ったんだろう。」

    自らをイアン・デートリッヒと名乗った男がなだめる。
    この人当たりが良さそうな男は、ジャンより幾つか年上だろう。

    マルロ「まぁ…勝手に連れてきた俺も悪かったが。」

    リコ「そうだ、お前が悪い。」

    そう言うとソファーから立ち上がり、そそくさと二階へ消えていった。


    ヒッチ「…むっかつく。今日は一段と。」

    ジャン「最初からああだったのか?」

    マルロ「最初にここで鉢合わせた時もかなり警戒されたんだ。あれでも今は落ち着いた方だよ。」

    イアン「ジャンとアニと言ったか?私の連れが申し訳ない。」

    アニ「アンタが謝ることじゃないよ。」

    イアンは律儀に頭を下げて見せた。

    イアン「俺もリコとの付き合いはそう長くないんだが…彼女は色々な集落を転々としていたそうだ。」

    ジャン「色々?」


    イアン「そう。そのどれもがウォーカーやら、悪人やらに襲われて壊滅したらしい。息をつく暇もなかっただろうな、信頼を築いた途端にそれが崩れての繰り返しだ。」

    マルロ「疑心暗鬼になるのも仕方ないだろうな。」

    ヒッチ「ねー、もうその位でいいでしょ?食事にしようよ。」

    場の空気がシリアスになったのも束の間だった。
    とりあえず、やっと犬肉とトマトからおさらばできる。





  13. 13 : : 2015/08/12(水) 12:14:16

    食事が済むとマルロがおもむろに話しかけてきた。

    マルロ「この世界になる前は何を?」

    ジャン「それを聞いて何の意味があるんだよ。」

    マルロ「釣れない奴だな。」


    マルロ「まぁいい、俺の話を聞いてくれ。俺とヒッチは内勤だったから一次被害は何とか逃れた。他の同僚と署に立て篭もったんだ。なんせ大都市のロサンゼルスだ、備えはいくらでもあると。」

    ジャンの眉が若干つり上がった。

    マルロ「しばらくすると助けが来た。街はどこも壊滅状態だから、郊外に逃げようと。他の同僚達は署の方が安全だと言って別れたんだ…今思えば、それが正解だったよ。」

    ジャンは何も言わずマルロの話を黙って聞いていた。

    マルロ「仮にお前がその立場だったらどうする?」

    ジャン「…さぁな、少なくとも人口の多い大都市は危険だろ。物資があっても、物量で攻め込まれちゃ敵わない。」

    マルロ「同感だな、リスクの方が大きい。」

    それでも広い土地で、生き残りがいる可能性は捨てきれないが、と付け加えた。

    マルロ「南から来たと言ったな。アトランタか?」

    ジャン「いやマイアミだ。アトランタは勤務地だった。」

    そう言うと、マルロはしばらく口を開けていた。



    マルロ「キルシュタイン…やはりそうだな?聞き覚えがあると思ったんだ。」

    ジャン「…」

    マルロ「ミネアポリス分署に設立された、特殊部隊。そこの隊長が確か…ジャン・キルシュタイン。そして数年前に異動届を出し、アトランタへ異動した。」

    ジャン「警官にしちゃ随分お粗末な誘導尋問だな。」

    マルロ「言ったろ、俺は内勤だ。…そんな事よりも、本当に本人なのか?」

    ジャン「あぁ。」

    ガバッ!

    マルロ「何故だ、どうして片田舎なんかに飛んだ?そのままいけばもっと上も目指せたろ?!」

    若干興奮した様子でジャンに掴みかかる。

    マルロ「データでしか見たことがなかったが、俺はアンタに憧れていた。大胆だが意表を突く作戦、部隊の生存率…どれを取ってももっと評価されるべきだ。」

    マルロ「そうした実務経験を持った奴が上に行けば、腐りきったあの組織を中から変えられたんだ!」


    ジャン「お前はおめでたいオカッパ野郎だな。俺らがスターにでも見えたか?あの部隊は都合のいい豚小屋だ、上から目障りと判断された奴が打ち込まれるな。」

    ジャン「15人。」

    ジャン「俺が除隊するまでの殉職者の数だ、公に公表されてる情報なんざでっち上げなんだよ。」

    マルロ「そんな、だがデータでは…」

    目の前で狼狽える男の胸倉を掴み上げる。

    ジャン「お前らキャリア連中が俺の仲間を何人殺した?業務作業に過ぎないマウスのワンクリックが、俺らにとっちゃ死刑宣告されてるようなもんだ。」

    ジャン「人が命張ってる最中に、上の連中はマフィアにヘイコラしてやがる。俺らがどれだけ死のうが、あの街は変わらなねぇ。…それだけの理由だよ。」

  14. 14 : : 2015/08/20(木) 16:03:37

    ベッドにありつけるのは久々だ。

    二階に上がり部屋を見て回ったが、三つの内二つはリコとイアンが使用していた。
    最後に覗いた寝室はキングサイズのベッドがあり、おまけに誰もが使用していないようだった。

    アニ「…」

    ボフンッ

    思わずシーツに飛び乗る。
    我ながら子供みたいだと思ったが、目を細めしばらくスプリングの揺れを楽しんだ。



    「見ーちゃった。」

    急いでドアの方に顔を向けると、いつからいたのかヒッチがニヤニヤしていた。

    ヒッチ「可愛いところあるじゃん。」

    アニ「どうも。ここはアンタの部屋って訳だね、すぐ出て行くよ。」

    ヒッチ「まぁこの広さだしぃ、二人で寝てもいいんだけどね。アンタにそっちの気がなければの話だけど。」


    部屋を出て行こうとするアニの動きが止まった。
    どうやら彼女は、自分の神経を逆撫でするのが得意なようだ。

    アニ「言ってくれるね、よっぽどアンタのが物好きって顔してるよ。」

    ヒッチ「…取り敢えず座ったら?」

    自らの隣をバフバフと叩く。

    アニ「…」

    ヒッチ「やっぱりベッドの魅力には勝てないでしょ?私も話し相手が欲しくてさぁ、リコはああだし。」

    アニ「アンタのリカちゃん人形になる気はない。そういうのは他でやってくれないか。」

    ヒッチ「全く釣れないわねぇ。」

    ケラケラと笑うヒッチをよそに、アニは下唇を噛んだ。


    ヒッチ「早い話さ、友達になってあげようって言ってんの。」

    「アンタ、そういうのいなさそうだし。」






    ドクン


    (私がアニの友達一号だね!)



    アニ「うるさい。」

    ヒッチ「何、聞こえなーい。なんか思い出しちゃったりしてんの?」

    アニ「違う、うるさい。」

    ヒッチ「違わないよ、だってさぁ」




    「さっきからこっち見て話さないじゃん。」





    ドクン


    (人と話すときは、相手の目見て話そうよ!)


    ヒッチ「ねぇ、ちょっと…」

    うるさい 話しかけるな うるさい うるさい うるさい


    ヒッチ「アニ…アンタさ、私に誰を重ねてるの?」

    アニ「やめてッ!!そんなんじゃないッ!!!」


    ヒッチ「会った時から思ってたんだよね。この子、私を見る目がおかしい、って。」

    ヒッチ「誰だか知らないけど私は…」


    アニ「やめろ、言うなぁ!!これ以上はやめろぉぉ!!!」

    そう叫ぶと、両耳を塞ぎベッドにうずくまった。







    ぐ…うぅ…う…

    「泣いてるの?」

    その問いかけに首を振る。

    「嘘つき。震えてんじゃん。」






    ヒッチ「ごめんね、もうしない。もうしないから…」

    アニの頭を自らの胸に引き寄せ、優しく頭を撫でる。

    ヒッチ「!」

    すると何かにすがるかのように、ヒッチの背中にアニの手が回った。

    アニ「………」

    ヒッチ(この子は…)


    泣きじゃくる子供をあやす様なその行為は
    彼女が泣き疲れて、寝息を立てるまで続けられた。
  15. 15 : : 2015/08/21(金) 18:27:56

    ーーーーーーーーーーーーーーー

    イアン「やあ、おはよう。」

    ジャン「…」

    イアン「何だ、何かあったのか?」

    ジャン「アニは?」

    イアン「まだ寝ているようだ。」

    居間では既にイアンが起きていて、簡単な朝食を見繕っていた。

    ジャン「マルロとリコは?」

    イアン「少し前に調達に出たよ。」

    ジャン「ここいらはウォーカーが少ないのか。」

    イアン「いや、むしろ多い方だな。この辺は中規模の街が連なっている。」

    決して都合が良いとは言えないアジトの立地、そして妙に落ち着いたイアン。

    ジャン「昨日ヒッチも言ってたが、何か対策はあるんだろうな?数で囲まれたら終わりだぞ。」

    イアン「ああ、その事は心配しなくていい。実際に見てみる方が早いだろう。」

    実際に見てみる方が、とは何だろうか。
    釈然としないジャンをよそに、イアンは窓辺に腰掛けた。


    デッサンだろうか。気分良さげに鼻歌を歌いながら、鉛筆を走らせていく。

    ジャン「こりゃ中々のもんだな。」

    イアン「大した事ないさ。この程度の絵描きはゴロゴロいる。」

    いや、正確にはいた、だな。
    とイアンは鼻で笑った。

    イアン「皮肉な事に、この世界になってから色々て見えてきたんだ。本質、底、感情…だが変わらないものもある。俺はそれを描いているんだ。」

    キャンバスの左端を見ると、”静寂”と走り書きがあった。
    これにはジャンもなるほど、と思わず頷いた。

    ジャン「どうして渡米を?」

    イアン「元々世界を回っていたんだ。エジプト、オーストラリア、フィリピン、日本、中国。そしてブラジルでこの騒ぎに巻き込まれた。国境の先は安全だっていうんで、必死の思いで柵を乗り越えたが…」

    ジャン「そうすると南大陸もか…」

    イアン「ああ、特に中間諸島はどこも悲惨だった。少なくとも世界地図の三分の一は駄目だな。」


    イアン「先々の事を考えるのはいい加減疲れてきた。最近考えるのは、どれだけ一つの場所に留まれるか。」

    ジャン「同感だ。」

    イアン「しかしだな。」

    ジャン「あ?」


    イアン「夢くらい、見たいじゃないか。それは誰しもが平等に与えられている権利だ。」

    キャンバスを裏返すと、何やら街が描かれていた。
    良く目を凝らすと、走り書きもある。

    これは、と。


    ジャン「…ちょっと夢物語すぎやしないか?」

    イアン「言ったろ。見るだけ、だ。」

    変わらないものの一つだ、と付け足した。



    バタン!

    「戻ったぞ!」

    イアン「巻けたか?」

    リコ「いや、今回はダメだ。群れに見つかった。」

    荒々しく玄関から飛び込んできた2人にイアンが駆け寄る。

    イアン「しかし、時間通りだな。かなりの好タイミングだ。」

    ジャン「おい、何を悠長におしゃべりしてやがる?!奴等が来たんだろうが!!」


    イアン「いや、問題ない。二階へ上がるぞ。」

    自称ロマンチストの男は、ややニヒルに笑った。
  16. 16 : : 2015/08/23(日) 17:24:07

    促されるままに二階へ上がり、窓から外を覗く。

    ジャン「ほら見ろ、ゾロゾロお出ましじゃねぇか!!」

    イアン「13…12…あと五秒だ。」

    本人は腕時計の秒針を数えるばかりで、危機感も何もあったもんじゃない。
    一階の二人もドアを抑えてはいるが、特段焦っている様子はなさそうだ。


    ゴーン…ゴーン…

    ジャンが何か言いかけた瞬間、鐘の音が響いた。

    イアン「6時きっかりだ。」

    ジャン「だから何が…あ?」

    窓の外を見れば鐘の音に吊られて、ウォーカーの集団が来た道を引き返していくではないか。

    イアン「この街では朝と夕方の6時に塔の鐘が鳴る仕組みになっている。」

    イアン「当然2、3匹は家の周りをウロウロしているが、今頃マルロ達が対象しているはずだ。」

    遠ざかっていく呻き声。
    イアンはどこか得意げに言った。

    ジャン「奴等の習性を利用したって訳か。」

    イアン「付近の街へ出る時は、鐘がなる時間を計算に入れる事。見つかった事も考えて、6時5分前には必ずアジトに戻る。」


    イアン「俺たちはこの方法で二ヶ月ここに留まっている。」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーー

    ヒッチ「へぇ、今回は大量じゃん。」

    マルロ「三番街まで行ってきたんだ…誰かさんが爆睡している間にな。」

    アニとヒッチが起きてきて、テーブルの上には今回の成果が並べられた。

    アニ「よくこれだけ残ってたもんだ。ある所にはあるって事かい。」

    ジャン「全くだ。俺らはこの二ヶ月、ひもじい思いをしてたっていうのによぉ。」

    マルロ「恐らく街によるんだろう。ここは少し歩けば都市があるから、生存者は避けて通るはずだ。」

    一瞬二人の目線がかち合ったが、すぐにそっぽを向いた。

    ヒッチ「なぁにアンタ達。よそよそしいわね。」


    ジャン「まぁ当面の間はなんとかなるだろう。俺らが来た分、人手も回りやすい。」

    ヒッチの言は無視し、イアンと一緒に広げられた地図に書き込みを入れる。
    そうこうしている内に、朝食のコーンスープの香りが漂ってきた。

    アニ「リコを起こしてくるかい?」

    マルロ「徹夜で見張った上に、探索にまで出張ったんだ。もう少し寝かしてやれ。」














    (やあリコ。調子はどうだい、何か困っている事はないか?)

    (凄いなリコ!奴等を3匹も仕留めたんだって?)

    (リコが来てくれてここも安泰ね。)

    (だな、どこからでも来てみろってんだ。)

    この人達は、私が必ず守る。
    もう、同じ悲劇は繰り返さない。





    (助けて、助けてリコ…!あ、あぁぁぁぁ!!)

    (逃げ道を塞がれた、こっちはもう駄目だ!)

    (走って!あなただけでも逃げ…)


    何でだ。
    どうしていつもこうなる。
    何で私が来るといつも…



    「教えてあげようか?」


    イアン「お前が死神だがらだよ、リコ。」




    リコ「…ッ!〜〜〜うっ…」

    悪夢は、まだ終わらない。




    season4 ep1 end

  17. 17 : : 2015/08/23(日) 17:27:21

    次回予告

    「いつもそうだ、私だけは死ねない。」

    「何でだ、何故戻らない?!」

    「これが、現実だ。」


    ルートB season4 ep2 ”乖離”
  18. 18 : : 2015/08/23(日) 17:31:20
    完結までだいぶかかってしまい、申し訳有りません。

    新キャラが続々登場中です。
    ちょっとコミカル路線?という意見がありましたが、そういう訳じゃないです。

    キャラの味を出すのと、ルートB season4のテーマである「理想と現実」に沿って
    シリアスに捉えて描いています。

    マルロ達はともかく、イアンとリコの設定はギリギリまで迷いました。
    ズレてなければ良いのですが…


    良ければ感想などお願いします。
  19. 19 : : 2015/08/23(日) 17:44:21
    次作です。

    http://www.ssnote.net/archives/38838
  20. 20 : : 2015/08/24(月) 22:30:37
    とても面白いです‼︎
  21. 21 : : 2015/08/28(金) 15:10:52
    名無しさん

    ありがとうございます!!
    その一言で疲れが吹っ飛びました!
  22. 22 : : 2023/07/20(木) 12:38:32
    http://www.ssnote.net/archives/90995
    ●トロのフリーアカウント(^ω^)●
    http://www.ssnote.net/archives/90991
    http://www.ssnote.net/groups/633/archives/3655
    http://www.ssnote.net/users/mikasaanti
    2 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 16:43:56 このユーザーのレスのみ表示する
    sex_shitai
    toyama3190

    oppai_jirou
    catlinlove

    sukebe_erotarou
    errenlove

    cherryboy
    momoyamanaoki
    16 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 19:01:59 このユーザーのレスのみ表示する
    ちょっと時間あったから3つだけ作った

    unko_chinchin
    shoheikingdom

    mikasatosex
    unko

    pantie_ero_sex
    unko

    http://www.ssnote.net/archives/90992
    アカウントの譲渡について
    http://www.ssnote.net/groups/633/archives/3654

    36 : 2021年11月6日 : 2021/10/13(水) 19:43:59 このユーザーのレスのみ表示する
    理想は登録ユーザーが20人ぐらい増えて、noteをカオスにしてくれて、管理人の手に負えなくなって最悪閉鎖に追い込まれたら嬉しいな

    22 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:37:51 このユーザーのレスのみ表示する
    以前未登録に垢あげた時は複数の他のユーザーに乗っ取られたりで面倒だったからね。

    46 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:45:59 このユーザーのレスのみ表示する
    ぶっちゃけグループ二個ぐらい潰した事あるからね

    52 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:48:34 このユーザーのレスのみ表示する
    一応、自分で名前つけてる未登録で、かつ「あ、コイツならもしかしたらnoteぶっ壊せるかも」て思った奴笑

    89 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 21:17:27 このユーザーのレスのみ表示する
    noteがよりカオスにって運営側の手に負えなくなって閉鎖されたら万々歳だからな、俺のning依存症を終わらせてくれ

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