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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

進撃のウォーキングデッド season3 ep6 狂気に代えて

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  1. 1 : : 2015/05/12(火) 11:02:01
    前回の続きです。
    http://www.ssnote.net/archives/33937
  2. 2 : : 2015/05/12(火) 11:05:48

    パパ、なんでお星様はピカピカ光るの?

    それはね、自分の事を知らせるためだよ。

    え、お星様は生きているの?

    いいや。だがね、元々は人間だったんだよ。
  3. 3 : : 2015/05/12(火) 11:24:53


    サシャ達が理想郷に来て一週間が経った。
    しかし彼女は同年代の輪には入れず、いつものように遠巻きからその光景を眺めていた。

    サシャ「…」

    ワーワー!

    ガバナー「彼らは人一倍恥ずかしがり屋なだけなんだよ。どれ、私が口を利いて…」

    サシャ「待って。私、ちゃんと自分から言います。…ちょっとだけ待って下さい。」

    ガバナー「君がそう言うなら。」

    ガバナーとしては、早く町に馴染んで欲しかった。
    自分は彼女を独占欲で連れてきた訳ではない、と証明したかったのだ?

    サシャ「…」

    ガバナー「そんな顔をしないでくれ。何、エルドもじきに戻ってくる。」

    エルドは自ら調達部隊を志願した。
    相変わらずサシャとはすれ違いが続いているが、その行動は紛れもなく彼女を想ってのことである。

    サシャ「ご馳走様でした。」

    この日配給された食事にはほとんど手をつけず、椅子から立ち上がった。

    ガバナー「待ちなさい、ここの所ほとんど食べていないじゃないか。」

    サシャ「食欲がありません、放っていて下さい。」

    ガバナー「そうはいかないよ、住民達の健康管理も私の仕事だ。」

    管理。その無機質な言葉に、サシャはゆっくり目を伏せた。



    ガバナー「…と言いたい所だけどね。実は午後のティータイムの相手がいないんだ。」

    サシャ「え?」

    ガバナー「紅茶なら喉も通るだろう?少しだけ付き合ってくれないか?」

    サシャ「じゃあ…少しだけ。」

    彼の好意を無為にするのも、と思いその背中に続いた。




    ガバナー「散らかっていて申し訳ない。こういう所は手付かずでね、恥ずかしい限りだ。」

    彼はソファーの上の書類を払うと、サシャをそこに座らせた。

    サシャ「…」

    市の計画書だろうか。”再開発”、”人口”といった、最早なんの意味もなさない文字の羅列が、サシャの目を横切る。

    ガバナー「かつてここウッドベリーは、10万人以上の人が暮らしていたという。元々開拓地だったのもあってか、商業としては大成功になるはずだった。」

    サシャ「…たまたま目に入っただけです。」

    ガバナー「その偶然が大事でね、”変化”のきっかけは断片的なものからが多い。故に、現実から背を向け続ける者は変わることがない。」

    パックに熱湯を注ぎ終わると、目の前に白いマグカップを差し出した。

    ガバナー「さぁ、熱いうちにどうぞ。」

    サシャは差し出されたマグカップを黙って受け取る。

    ガバナー「…そうだな、少し私の話をしよう。人に尋ねる前に、まずは自分からだね。」

    サシャ「あの、そういえばあなたをなんと呼べば…」

    ガバナー「私かい?皆のようにガバナーで…」

    ドクン…



    ガバナー「いや…エルヴィンと呼んでくれ、私の本名だ。」

    ガバナー(何だ今の感覚は?まるで意思を無視したように…)
  4. 4 : : 2015/05/23(土) 13:16:57


    (エルドはいつもそうです…!)

    エルド「…」

    彼が心を傷める理由は、決してエレン達に対する感傷ではない。
    妹のサシャについてだ。この世界になってから必要以上に保護したのも、彼女に生き延びて欲しいからであった。

    しかしそれは間違いだったのかもしれない。
    彼は少しずつそう思い始めていた。

    ゲルガー「なぁアンタ。俺の思い違いだったら悪いんだが…もしかしてNFLにいたか?」

    調達に出向く最中、助手席に座るゲルガーがしきりにこちらを見ていた。

    エルド「…その推測は当たっているよ、三年間タイトエンドとしてプレーした。まぁいつも登録抹消ラインギリギリだったがな。」

    ゲルガー「過去の話はどうだっていいさ。大事なのは、今アンタが生きているってこった。」

    ゲルガー「考えても見ろ、当時のスタープレーヤー達は今どうしてる?簡単な話だ…今頃雁首揃えて奴らの仲間入りをしているよ。」

    ゲルガー「つまりだ、アンタは今恐らくNFL唯一の生き残りだ。」

    キャビネットにだらしなく足を乗せ、バットをパンパンと手の平で叩く。

    エルド「言い方はよろしくないが、その意見には賛成だ。生き残った者勝ちと言いたいんだろ?」

    ゲルガー「That's right.所で一ついいか?」

    バットのヘッドをこちらに向け言った。

    エルド「何だ?」

    ゲルガー「何故仲間の元を離れた?あそこは悪くない環境のはずだぜ?」


    (ここに留まれ。選択肢はないんだよ)

    忌々しい記憶に思わず目を細める。

    エルド「仲違いしたんだ。意見の食い違いという奴だ。」

    ゲルガー「意見ねぇ…間に入ってくれる奴はいなかったのか?あのライナーって男は、中々筋が通ってたが。」

    エルド「会ったことがあるのか?」

    ゲルガー「あぁ。元の世界で出会ってたら、いい友人になれただろうよ。」

    今度はクチャクチャとガムを噛み出した。
    この男、非常に核心をつく話し方をするが、落ち着きというものがまるでない。

    エルド「最初は俺もいい奴だと思った。だがライナーも所詮エレンの腰巾着だった。」

    ゲルガー「へぇ…うちの総督の事はどう評価する?」

    エルド「そうだな…現実が見えているし、人間性を重んじる素晴らしいリーダーだと思う。」

    それを聞くとゲルガーを大笑いしだした。

    エルド「何が可笑しい?」

    ゲルガー「全部だよ。お前は何にもわかっちゃいねえ。」

    エルド「何だと?」

    ゲルガー「いいか?お前は仕事を忠実にこなすし、人望だって厚い。…だが物事の根本がまるで見えちゃいない。」

    ゲルガー「妹の為にも忠告しておくぜ、仲間のとこに戻んな。」

    エルド「何を…!」

    車を急停止させ、ゲルガーを睨む。
    しかしエルドは気付いた、彼はこれまで見たことのない真剣な表情だった。


    ゲルガー「現実が見えているだって?奴が見ているのは幻想だ。」

    ゲルガー「人間性?そんなもんはとっくの昔に捨ててるよ。」

    エルド「矛盾しているな。」

    ゲルガー「今のガバナーはそういう人間だ。…いいか?俺は忠告したぞ。」

    程なくして車が動き出した。
  5. 5 : : 2015/05/23(土) 14:00:18

    ーーーーーーーーーーーーーー

    ライナー「…じゃあ決定だな?他に意見のある奴はいないか?」

    丸テーブルを囲む面々は黙ってライナーの顔を見た。

    ミカサ「エレンには私から…」

    ライナー「いや、俺も一緒に行く。元々言い出しっぺは俺だからな。」

    コニーはうーん…と頭を掻き、ハンネスは目を瞑って腕を組んでいる。
    二人が退出した後、ユミルが切り出した。



    ユミル「果たしてうまくいくと思うか?いや、聞き入れるかじゃなくて…これで状況が回復するかってことだ。」

    ハンネス「それはやってみないとわからんな。だが一つ言えるのは、彼無しでは我々はここまで来れなかった。」

    コニー「それは言えてるな、エレンには土壇場の行動力がある。今まで何度も救われてきたし…」

    それぞれが思い思いの丈を話す。

    ユミル「ここには私らしかいないから聞くが…もしジャンがリーダーになっていたらどうなった?少なくともあの二人は漁村で死なずに済んだのか?」

    コニー「そりゃ…俺にはわからん。」

    ハンネス「その場合は、エレンとミカサが死んでいたかもしれない。だが俺には…その場合の未来が想像できないよ。」














    エレン「…」

    エレン(ジャン…俺は間違っていたのかな?お前なら、どう行動した?)

    独房で虚空に問いかけるエレン。右手には痛々しく包帯が巻かれている。

    エレン(今ここにお前がいてくれたらって、心からそう思うよ。)

    元は親友の持ち物であった、ベレッタM92Fを眺める。
    そういえば銃器の扱いは彼の方がうまかったな、と。




    ライナー「エレン。」

    顔だけ入り口に向けると、ライナーとミカサの姿が。

    ライナー「右手の具合はどうだ?」

    エレン「なんとか使い物にはなってるよ。」

    ライナー「それは何よりだ。…所でそろそろそこから出てこないか?皆が心配している。」

    エレン「…遠慮しておくよ。気分じゃない。」

    ライナー「おいおい、ガキみたいな事言って困らせないでくれよ。」


    ハハハと笑うライナーの脇をミカサが抜けた。

    ミカサ「エレン、何を考えていたの?」

    エレン「…ジャンがここにいてくれたらってな。ふざけてるよな、俺が殺したも同然なのに。」

    エレン「ただそう思わずにはいられないんだ、思い出が邪魔をする。」


    ミカサ「それは思い出とは言わない。」

    ベッドに腰掛けると、更に切り出した。

    ミカサ「思い出とは時々思い出すから、思い出。そこに良いも悪いもない。」


    ミカサ「束縛されたり、囚われたりというのは”後悔”しているだけ。これは心理的な考えに過ぎないけど。」

    エレン「後悔…」

    ミカサ「思い出と後悔を一緒にしてはいけない。それは即ち、人間性の崩壊を意味する。」

    ライナー「何だ、今日はやけに哲学的だな。」

    決して悪い雰囲気ではないが、フォローを入れる事も忘れない。
    もう険悪なムードは懲り懲りだった。


    エレン「人間性…それを捨てる事で強くなれるなら、どう思う?」

    ライナー「それはそいつ次第だな。ただ人間辞めちまうってことは、俺は堕落だと思う。」



    ライナー「あぁ…悪い。そろそろ本題に入ってもいいか?これはみんなで話し合ったことなんだが…」

    ごほんと咳払いをし、切り出した。





    ライナー「俺がリーダーに推薦された。」

    エレン「そうか…」

    ライナー「勘違いしないでくれよ。これまで通り、お前の立場は変わらない。ただ今のままだと負担がかかりすぎているのも事実だ。2人ならば、それも軽減できる。」

    エレン「いっそ俺は降りたほうがいいんじゃないのか?」

    ミカサ「それは駄目。ライナーの言葉を借りるならば、それは堕落。」



    ライナー「…なぁエレン。俺はこんなクソみたいな世界だからこそ、人間らしくありたいんだよ。何故なら俺は今”生きている”からだ。」

    エレン「…」


    ミカサ「見張りのナナバ以外は看守室に集まっている。あなたが来るのを待っているわ。」

    それだけ言うと二人は独房から出た。







    ミカサ「エレン。」

    エレン「…何だ?」

    ミカサ「負けないで。待ってるわ。」



  6. 6 : : 2015/05/29(金) 00:01:44

    ーーーーーーーーーーーーーーー

    ガバナーの部屋で紅茶をご馳走になって、彼は自身の事を多く語ってくれた。
    今までに経験した職、住んでいた場所、幼少期の事。

    しかしどの話も真っ先に出てくるのは”私”という単語だった。
    まるで他人の話しがでてこない、そこにひっかりある質問をした。


    家族はいなかったんですか?
    と。

    するとガバナーは頭を抱えるや、みるみる顔色が悪くなり
    最終的には退出を促された。

    サシャ(私、なんか悪いことしたな…きっとあの人にも大事な家族があったんだ。)

    ふと近くなったエンジン音に顔を向けると、エルドがこちらに歩いてくるのが見えた。

    サシャ「…」プイ

    ついつい反射的に顔を背けてしまう。

    エルド「ただいま。」

    サシャ「うん…」

    エルド「なぁ、ちょっと話さないか?もういい加減この冷戦状態を、終わりにしたいと思ってるんだよ。」

    サシャ「私は怒ってなんかいないです。」

    エルド「なら付き合ってくれよ。怒ってないならいいだろ?」

    渋々エルドの後に着いていく。
    確かにここに来ては、もう彼に腹を立てる理由などない。
    しかしまだサシャはそこまで大人ではなかった。



    エルド「今日のパトロールは散々でな。サムエルが噛まれた!と叫ぶから行ってみれば、野良猫だったんだ。」

    サシャ「そうなんですか。」

    連れてこられた先は、理想郷で一番高い建物の屋上。
    強めの風がちょっぴり寒く感じさせる。

    エルド「…ここからだとあの刑務所は見えないな。あの森の先だ。」

    サシャ「…」

    エルド「サシャ、お前には悪い事をしたと思っている。その…ずっと聞きたかったんだが、刑務所に残りたかったか?」

    サシャ「…それは、わかりません。残っていても、恐らくは寂しい思いをしたでしょう。」

    それを聞くとエルドは照れ臭そうに頭を掻いた。

    エルド「はは…嬉しい事言ってくれるなぁ。ライナー達は、元気にしているだろうか…」

    サシャはエルドの口からその言葉が出たのに驚いた。
    とてもじゃないが、彼らの話は出せそうにない雰囲気だったのだ。
    エレン、ではなくライナーの名を出した辺り、まだ吹っ切れていないのだろうが。

    エルド「奴とは1on1の決着がついていなかったからな。何度も言うが…あのダンクの前に絶対三歩歩いてた、あれは反則だ。」

    手振りで必死に弁解をする姿勢を見て、サシャは思わず笑った。

    サシャ「いいえ、あれは完璧なプレーでしたよ。明らかにエルドの負けです。」

    エルド「全くお前まで…」

    サシャ「その後も負けが込んでましたよね、エレンには買ったけど…あ…」

    エレンの名前を出してしまい、すぐに口を塞いだ。




    エルド「…エレンか、あいつは劇的に下手くそだったなぁ。ボードの角にシュートする奴は初めて見た。」

    しかしサシャの予想は外れた。
    てっきり怒り出すものだと思っていたのだが、遠くの風景を見ながら感慨深そうに話し出した。

    エルド「覚えているか?森の中でウォーカー達に囲まれた時、俺たちは自害しようとしたよな。」

    サシャ「はい、あの時の事はよく覚えています。」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    エルド「いいか?合図で引き金を引くんだ…」

    ウォーカーの大群に囲まれ、必死に応戦しながら逃げたが
    弾丸はほぼ底をつき、退路も塞がれ最早走る体力も残っていなかった。

    サシャ「い…や。エルド、私まだ死にたくない…」

    エルド「早くするんだ!俺はお前に苦しい思いをさせたくない…!」

    せめて楽に逝けるようにと、残りの一発をお互いに向け合う。
    しかしサシャは泣き震え、必死に首を横に降る。その間にもウォーカーも集団は迫り来る。

    エルド「サシャ…もう時間がない。俺を許してくれ…」

    エルド「先に逝って待ってろ。」

    人差し指に力を込める。

    サシャ「!嫌、やめて…お兄ちゃん!!」



    エルド「!!」

    タンッ!










    弾丸は一番近くのウォーカーの頭を撃ち抜いた。

    エルド「お兄ちゃん、か。お前がそう呼んでくれるのはいつ以来だ?」

    エルド「済まなかった、まだ諦めちゃダメだよな…?」

    震えが止まらないサシャを必死に抱き寄せる。

    エルド「まだ弾は一発残ってる、走れるか?」

    サシャ「はい…頑張ります!」




    ブロロロロ…

    二人は立ち上がり、銃を構えた瞬間
    車が猛スピードで周囲のウォーカーを蹴散らしながら向かってきた。

    ガチャ!

    「早く乗れ、すぐに出すぞ!」

    エルド「?!」

    事態が飲み込めなかったが、体が先に反応し気付くと後部座席に飛び込んでいた。

    「ライナー、殿を頼む!」

    「了解だ!」

    運転席の若い男が窓越しにそう叫ぶと、今度は一台のバイクが現れ短刀で次々にウォーカーの首を刈っていく。
  7. 7 : : 2015/06/02(火) 16:27:38

    その後の数十分は記憶がない。
    気がつくと車は国道を走っていた。

    サシャはすっかり寝息を立てて、エルドの膝の上に横たわっている。

    ふとフロントミラーに目をやると、バイクの男も後をついてきていた。

    エルド「なぜ素性も知れない俺たちを助けたんだ?」

    「自害しようとしていたのが見えたからな。急いで止めに入ったんだが、思い留まってくれて良かった。」

    エルド「見ていたのか?」

    「ああ、偵察に出ていたライナーが気付いてな。」

    ライナーというのは、恐らく後ろを走る男だろう。



    エルド「…ちょっと待て、それは助ける理由になっていないぞ。」

    「お前、何を言っているんだ?」

    男は横目でエルドを見やった。


    「お前達は最後の最後まで諦めなかった。俺にとっては十分すぎる理由だ。」

    「成り行きになっちまったが、俺たちと一緒にこないか?いい隠れ家がある。」

    そう言うと男はニカッと笑った。



    エルド「…アンタの名前は?」

    「俺か?俺はエレン。エレン・イェーガーだ。」

    ーーーーーーーーーーーーー

    サシャ「でも何でまたこんな時に?」

    エルド「…いや、ちょっとな。だが俺たちは確かにあの時エレンに命を救われたんだ。」

    それをずっと忘れていたよ、と付け加えると刑務所がある方を見やった。

    エルド「エレン達とは袂を分かつ事になったが、いつでも会える距離だ。」

    サシャ「そうですね…そうですよね!!」

    エルド「ああ、ガバナーに許可をもらって謝りに行こうと思う。」

    それを聞きサシャは笑顔になった。






    エルド(俺はエレン達の所に戻りたいのか?いや…違うな。ゲルガーが言ったあの言葉、妙に気にかかるんだ。)
  8. 8 : : 2015/06/02(火) 16:45:37


    一方執務室では、ガバナーが頭を抱えたまま座り込んでいた。

    ガバナー(誰だ…誰が私の名前を呼ぶ?)


    パ…パ。パパ!

    ガバナー(うるさい!!私はお前のパパなどではない!!!)

    あなた…今日のディナーはローストビーフよ。

    ガバナー(…止めてくれ、私に話しかけないでくれぇ!!)


    スッ

    (いい加減認めたらどうだ?君が見ているものは幻想なんだよ。)

    (サシャは君の娘にはなれない。)

    ガバナー「お前は、何者だ?」

    (おかしな事を聞くな。君は私、私は君じゃないか。)

    ガバナー「ッ…。一体何を言って…」

    (御機嫌ようエルヴィン。私の名は”総督”だ。)










    ハンジ「…ルヴィン、エルヴィン!」

    ガバナー「はっ…」

    気づくと目の前にハンジが立ち尽くしていた。

    ハンジ「ノックしても全く返答がないから、勝手に入っちゃたよ。それにしても相変わらず汚い部屋だなぁ。」

    ガバナー「君の研究室よりはマシだと思うよ。それで、要件は?」

    幸いこちらの異常には気付かれていないようだったので、平静を保つ事に努めた。


    ハンジ「あの”実験体”を破棄しようと思うんだ。もう必要ないんでしょ?エレン達とも争う必要がないんだし。」

    ガバナー「そうだな。いつ暴走するかもわからない、今日データを取ったら明日処分してしまおうか。」

    ハンジ「私としては残念無念だよ、我が子を崖から蹴落とすライオンの心境だ。」


    ああ、何て事だ。神よ、どうかあの子に慈悲を!
    などとマッドサイエンティストが喚くのを尻目に、ガバナーはマグカップを片付け始めた。

    ハンジ「ん?誰か来ていたのかい?」

    ガバナー「ああ、サシャがね。」

    それを聞くと手を叩き、ああ!と呟いた。


    ハンジ「エルドとサシャが呼んでいたよ、多分まだ通りにいるんじゃないかな。」

    ガバナー「そうか、すぐ行こう。」




    ガバナー「…」

    先程の現象はただの妄想か?
    妙な悪寒が感覚となって体に残っていた。
  9. 9 : : 2015/06/07(日) 23:13:56
    すみません、死んだキャラを同姓同名の別の人物として再登場させる予定ってありますか?
    後、期待です。
  10. 10 : : 2015/06/08(月) 05:11:22
    アルミン大好きさん

    コメントありがとうございます。

    ご質問の内容についてですが、それは考えていません。回想などでは出すとは思いますが...

    ネタバレになってしまうので、詳しくは書けませんが
    キャラクターについては、対人関係も含めて
    今の段階で後半まで既に伏線をはっています。

    ちなみにこのseasonで全体の話の序盤、中盤、終盤の
    序盤に当たる部分が終わると思っていただければ。

    かなりの長作の予定です。
    最後まで見て頂ければ幸いです。
  11. 11 : : 2015/06/08(月) 17:27:44
    そうですか
    ジョンさんが書くウォーキングデッドはモブキャラも活躍していて、話もドラマと違うはずなのに安定していて面白いです
  12. 12 : : 2015/06/09(火) 16:32:05
    アルミン大好きさん

    ありがとうございます、励みになります!
  13. 13 : : 2015/06/11(木) 16:13:25

    ザッ、ザッ、ザッ。

    草根を短刀で切り分け慎重に進む。

    理想郷から刑務所へは、迂回すれば本来は車道が通っているのだが。
    その道は何故か大木で塞がれていて通行不可能だった。

    仕方なく車を降り、森の中を行く。

    エルド「すまないな、俺たちのわがままに付き合わせて。」

    ガバナー「お安い御用だ、私も彼等とはできるなら友好的な関係を築きたいからね。」

    二人の頼みはガバナー自らも同行するということで
    意外にも二つ返事でOKが出た。

    あと30分もすれば目的地に着くだろう。

    ガバナー(…)

    これでエレン達に対するサシャのモヤモヤが解消されるなら、
    ガバナーにとっても願ったりであった。

    エルド「そう言えばナナバとは知り合いなのか?ずっと聞きたかったっんだ。」


    ズキッ

    表情が変わりそうになる所を必死に抑え、振り返る。

    ガバナー「ああ、彼女は以前私の所にいてね。なんて事ない、それだけだよ。」

    ズキッ


    そうなのか、という変とも耳に入らずその場に座り込む。

    サシャ「エルヴィン?!どうしたんですか!」




    ふと、意識が遠のく。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    「エルヴィン、どうしたの?」

    顔を上げるとそこにはナナバの姿が。

    とても穏やかな表情でこちらを覗き込んでいる。

    ガバナー「ちょっと立ち眩みがしてね、心配は要らないよ。」

    深酒が祟ったんじゃないの?と彼女はニヒルに笑う。

    ガバナー「そういう君はもうここには慣れたかい?」

    ナナバ「ああ、お陰さまで最近は悪夢も見なくなったよ。」

    ナナバは一月前、近くを徘徊していた所を保護された。

    日本刀片手に、全身は返り血が走っていた。
    目は野良犬のように血走り、こちらが何を言っても暫くは警戒態勢を崩さなかった。

    しかし精神的に限界がきたのか、突然膝から崩れ落ちた。


    ガバナー「それは何よりだ、所で何か思い出したかい?」

    それを聞くと彼女は首を横に振った。

    ナナバ「ここに来るまでのことは一切思い出せない。何故刀なんかを持っていたのかもね。」

    ナナバ「その事について考えようとすると…頭の中がこう、ギュッと絞られるんだ。」

    ガバナー「無理をする必要はない。君が望むなら、ここにずっといてくれても構わないよ。」

    そう言って彼女の頭に手を乗せた。
    クシャクシャと髪を撫でられると、ナナバは猫っぽく笑う。


    彼女はこの行為が好きだったし、ガバナーもその笑顔が好きだった。

    ナナバ「ありがとう。」
  14. 14 : : 2015/06/11(木) 16:47:10

    彼女は理想郷内でも忽ち人気者になった。

    食事の配給の際は、先頭に立ち腕を振るい
    男手が足りないとあっては、屈強な男共に混じり力仕事もこなした。

    ゲルガー「お前は到底女には見えねぇな。」

    ナナバ「黙りな、そのケツを蹴り飛ばすよ?」

    言い終える前に実行すると、ゲルガーが臀部を抑えウサギのように跳ね回った。
    その光景に皆が笑う。



    そう、何も問題ない。全てがうまくいっていたー










    「…から、このやり方では…!」

    ある日、執務室の前を通ると何やら言い争う声が。

    そっとドアの隙間を覗くと、古参の幹部である男がガバナーに詰め寄っていた。
    その時の男を見るガバナーの目が、なんとなく恐ろしくなり

    すぐにその場を離れた。



    ナナバ(…私の考え過ぎだよね。)

    必死に頭を振り払い、作業に戻ったがどうしてもあの光景が浮かぶ。

    (このやり方ではでは…!)

    この、とは何だったのだろうか。
    あの時彼は何を言おうとしていたのか。

    ナナバ「…」

    深く深呼吸をし、作業を中断した。
    やめよう、考えても仕方がない。一息入れるために外に出た。




    「これが笑わずに入られるかぁ?!アッハッハッハ!!」

    ナナバ「?!」

    奇声に驚きその方角を見た。
    髪は後ろで束ねたのみでボサボサ、染みだらけの白衣に身を包んだ女性が、妙な走り方で一目散に駆けていく。

    このマッド・サイエンティストと陰口を叩かれるハンジ
    ナナバはどうも苦手だった。
    そもそも外で見かけるのが珍しい。


    ハンジ「さぁ参ろうか、いざ花園へぇ!!」

    あまりのテンションの高さと、向かった先にどうも違和感を覚えた。

    周りをフェンスで囲まれた白い建物。
    ガバナーから近づかないように、ときつく釘をさされている。

    そこにハンジが意気揚々と入っていくのがどうも気になった。
    彼女ら研究員は、普段別の棟で作業をしているはずなのだから。




    ナナバ(ほんのちょっとだけ、言い訳は作れる。)

    ここの総督からは信頼されているし、問題はないだろう。
    不用心にもハンジが開けっ放しにした扉をくぐる。



    暗い廊下を手探りで進み、たどり着いたその先にはー

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    「ガバナー!」

    叫ぶ声にふと我にかえる。
    顔を上げるとサシャの姿が見当たらない。

    ガバナー「何があった?」

    エルド「サシャが落とし穴に落ちた。恐らくウォーカー用のトラップだ、俺一人じゃどうにも…とにかく来てくれ!!」

    多くは聞かなかったが、危険を察知しエルドの案内で走る。

    林を抜け、目に入ったのは縦3m横7m程の大きな穴。
    間の悪いことにそれを目掛け、ウォーカーの集団が群れていた。


    サシャ「エルド!!」

    エルド「待ってろ、今行く!」

    ガバナー「ッ!君は援護を、私が助ける!」

    エルドの制止も虚しく、ガバナーは全速力で駆け出した。



    サシャ「嫌、来ないで!!」

    既に数体のウォーカーが彼女に迫っていた。
    サシャは武器を持っていない。その辺りに転がる石を必死に投げつけるが、足止めにもならない。

  15. 15 : : 2015/06/18(木) 16:40:41

    この穴から自力で出る事は困難だ。
    時間をかけて出たとしても、ウォーカーに捕まってしまっては元も子もない。

    タン、タンッ!

    頭上で弾丸が飛び交う。
    サシャを追い詰めていたウォーカーが、一瞬其方に気を取られた。



    ガバナー「うおぉぉぉぉ!!」

    その刹那、ナイフを構えたガバナーがウォーカーに飛びついた。

    グシャア

    嫌な音を立てて血と肉片が飛び散る。

    ガバナー「くそ!」

    しかし仕留めきれず組み合いになり、体勢の悪さから倒されてしまう。

    サシャ「エルヴィン!」

    ガバナー「来るんじゃない!すぐに片付け…」

    そう言いかけてホルスターから抜いた銃は弾かれ、サシャの目の前へ転がった。

    ガバナー「逃げろ、私はもう…!」


    サシャ「あ…あ…」

    目の前の選択肢。
    どちらかを選ばねばならない。

    サシャには実戦経験がなかった。
    刑務所に行き着くまでは、護身の意味で持たせていたが、その後はエルドが所持を許さなかった。


    ドクン

    エルドの援護がある今なら、何とか脱出できるかもしれない。

    しかし見捨てるのか?

    彼には多くの事を教わった。
    最近では親近感すら湧いてきた。その彼を犠牲にして?

    サシャ(選べない、選べないよ…)

    銃を拾ったはいいものの、その場から動くことができなかった。



    (私は、謝れなかったんだ…死ぬほど後悔したよ。)

    サシャ「あ…」

    頭に浮かんだのは、自らの過去を語ったユミルの姿。

    ”お前は後悔するなよ”

    彼女の姉貴分が心にそう呼び掛けたのか。


    サシャ「…!」

    ガバナー「!」

    タンッ!

    ーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エルド「粗方殺ったか…?」

    予備のマガジンも全て使い切り、右手に構えた斧は持ち手部分まで赤く染まっていた。
    これだけのウォーカーを相手にして、無傷で済んだのは奇跡だろう。

    しかし、彼はやり遂げた。


    エルド「サシャ…?!」

    落し穴まで駆けたエルドが見たものは


    震えながら銃を持つ妹の姿だった。

    ガバナー「もういい…終わったんだ。辛い思いをさせて済まなかった。」

    そう言うとサシャの両手を銃ごと包み、下げさせた。

    エルド「一体何が…」

    ガバナー「彼女が助けてくれたんだ。…そうしなければ、私は死んでいた所だった。」

    サシャ「…」

    エルド「サシャ、お前…」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーー

    結局ガバナー達は来た道を引き返した。
    今の武装と精神状態では、とてもじゃないが目的を果たせる気がしない。

    エルド「アンタが急に頭を抑えてしゃがみ込んだから…近くの川で水を汲もうと。その途中でやられたんだ。今思えば軽はずみな行動だったな。」

    ガバナー「いや、発端は私にある。それより、サシャに撃たせてしまった事を詫びたい。」

    それには答えず、エルドは妹の頭を撫でた。

    エルド「よく決断したな。お前は立派な事をしたんだ。」

    サシャ「ユミルの…」

    エルド「ん?」


    サシャ「ユミルの声が聞こえたんです。後悔するなって…」

    ガバナー「…」
  16. 16 : : 2015/06/18(木) 16:54:14

    理想郷へ戻ると、ガバナーは例の頭痛に悩まされ自室に籠もっていた。



    (必死に体を張ったのに、サシャが口したのはかつての仲間の名だ。)

    (これでわかったろ?お前が真にやるべきことが。)

    ガバナー「うるさい、黙れ…」

    (まだわからないのか?あの子を縛り付けているものは、過去への思いだ。)

    (簡単さ、それを打ち切ってやればいい。得意だろ、そういうの。)

    ガバナー「消えろ…私の前から消え失せろッ!」



    影は、大きく溜息をついた。

    (仕方がない、見せてやろう。お前の影を。)

    すると影はみるみる色を増していく。




    ガバナー「お前は…」

    ガバナー「やあ、初めまして私。」

    ガバナー「!!」




    突然頭の中に何かが入ってくる。
    夜な夜な機材を持って大木を切り倒す自分、シャベルを突き刺し穴を掘る自分。

    どちらも一心不乱に、何かに取り憑かれたように。

    そして作業が完了し、自室の椅子に腰かけた。

    「返事がないから入っちゃったよ。」

    「そう言えばエルドとサシャが探していたね。」









    「…」

    この瞬間、彼は全てを理解した。

    目の前のガバナーは不気味な笑顔を見せると、煙のように己の中へと消えて行った。


    ガバナー「さぁ、始めようか。」
  17. 17 : : 2015/06/18(木) 17:23:41

    翌朝ー


    広場に集められた住民達、彼らが囲んでいるのは惨殺された死体。
    布は被せてあるが、その上からでも状態が見て取れる。

    「酷い…ウォーカーにやられたのか?」

    「そんなはずないだろ、彼は元ボディーガードだぞ。」

    「しっ…ガバナーが話すわ。」



    ガバナー「彼は殺された、バイターではなく人の手によって。」

    ザワザワ

    「まさか…この中で起こった事なのか?」

    ガバナー「静粛に!」



    ガバナー「彼は私と調達に当たっていた。しかし時間になっても彼は現れず、私は痕跡を辿った。」

    ガバナー「そう…森のかなり先に入った所で、呻き声が聞こえた。まさかと思い駆けつけた先にいたのは…瀕死状態の彼だった。」



    ゲルガー(…)

    ハンジ(…)

    ガバナー「彼は言った。突然背後から襲われ、物資を奪われたという。姿を見たのか?ーーするとこう答えた。」






    ガバナー「ボウガンを持ったガタイのいい男と、日本刀を持ったショートヘアの女。」

    ザワザワ

    「それって、まさか…」



    ガバナー「そう数ヶ月前、ここを襲撃した男の仲間と…私の右目を奪ったあの女だ。」

    あちこちから悲鳴が上がる。


    「なんだって?!その件はもう片がついたはずだろ?!」

    ガバナー「落ち着け!話はまだ終わっていない。彼は男達が去る間際、こうも聞いたそうだ。」


    「ウッドベリーの人間は、皆殺しにすると。」






    ガバナー「恐らく今頃、あの刑務所では襲撃の準備が行われている。彼らは徹底的にやるだろう、それは前回の襲撃でも証明されている。」

    「そんな、人間同士争うなんて…!」

    ガバナー「諸君らの言い分はよく分かる…私もできるなら避けたい、しかし失う訳にはいかない。」




    ガバナー「この街と諸君らをーーー築き上げてきた、この理想郷を!!」

    住民達が静かにガバナーを見つめる。
    まるで何かの合図を待つかのように。



    ガバナー「諸君らの力を貸して欲しい。殺すのではなく、守るために。」



    ワァァァー!!
    やってやろうぜ、この街を守るんだ!!

    あちこちから歓声が上がり、誰もが狂気に震えている。





    ゲルガー「サシャは、駄目だったか…」

    ハンジ「もう誰にも止められないよ。腹をくくる準備は?」



    ゲルガー「馬鹿野郎、とっくにできてるよ。」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーー


    エルド「ちょっと待ってくれ、何かの間違いだ!!」

    執務室へ戻ろうとするガバナーに、必死にエルドが追い縋る。

    ガバナー「間違い?何が間違いというのだね?」

    エルド「奴らは行き過ぎたところはあったが、決して過ちを犯す人間じゃない!」


    ガバナー「四肢を斬り刻み、動けなくしてからダーツを楽しむかのように矢を射る。これが過ちで済むのか?」

    エルド「ッ…!」

    エルドは思わず後ずさりした。ガバナーが今まで見た事のない目をしていたからだ。

    ガバナー「彼は引き裂かれた喉で事の詳細を教えてくれた後、トドメを私に頼んだ。これがどういうことかわかるか?」

    それだけ言うと、ガバナーは歩いて行った。




    エルド「何故だ、何故こんな事に…」

    両手で顔を覆うと、膝からその場に崩れ落ちた。




  18. 18 : : 2015/06/18(木) 18:06:52


    バンバン!
    ギヤァァァァ、ガァッ!!


    ハンジ「いやぁー、廃棄前で良かったよ。」

    ゲルガー「持っていくのか、そのバケモンを?」

    ハンジ「もちろんじゃないか、この子は私の美と汗の結晶だからね。」

    ゲートの前では襲撃の最終チェックが行われていた。
    住民を含めて50人強が襲撃に参加し、女子供を含めた残りの30人が理想郷に残る。

    ゲルガー「戦車二台にRPG….たかだか10人以下の拠点を襲うにはやりすぎだろうよ。」

    ハンジ「それだけガバナーは本気って事さ。」

    ゲルガー「ん?」


    ハンジ「もう、彼はエルヴィンではないからね。」

    ゲルガー「そうだな…あの二人は?」

    ハンジ「結局ついてくるみたいだよ、この目で確かめるってさ。サシャなんて怯えきっちゃって、あぁあの表情…僕濡れちゃったよぉ。」

    奇行に走り出す彼女を尻目に、ゲルガーも自らの装備を整えた。
    部隊の隊長を任される彼は、恐らく前線での指揮を取ることになるだろう。



    ゲルガー「わかってたろうよ…結局こうなること位。」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    〜刑務所〜

    ミカサ「フンッ!」

    高々と持ち上げた鍬を振り下ろす。その姿は最早農夫顔負けだ。

    ハンネス「やるなぁ、ミカサ。もう終わっちまいそうじゃねーか。」

    ミカサ「今の私に出来ることは、体を動かす事。エレンが落ち着いてきた今、私がしっかりしないと。」

    そう言いながら鍬を振るう彼女を、ハンネスは腕組みしながら眺めていた。

    ハンネス「お前もエレンも、ちと気張りすぎだな。」

    ミカサ「え?」


    ハンネス「肩の力を抜いてもいいんじゃないかって事よ。ま、それができたら苦労しないんだろうけどよ。」

    ミカサ「…」

    それは一理あった。二人は喧嘩しだすと、お互いに引かないタチだった。
    ジャンなり誰かなりが仲裁に入らないと、丸一ヶ月続くこともあった程だ。

    ミカサ(いつからこんな強情になったんだろう?)
    手を止め、ふと考える。





    「ミカサ、ハンネス!伏せろ!!」

    ミカサ「!」

    監視塔からの大声に呆気に取られるハンネスの首根っこを掴み、その場に腹ばいになる。

    ミカサ「あれは…」

    約500m先、武装した集団がこちらに向かっていた。
    その真ん中、戦車に腰掛ける隻眼は忘れもしない。





    ライナー「くそ、今頃何だってんだ!あの約束は?!」

    ナナバ「そんなもの信用がないんだよ、奴のまえじゃ。」

    棟からエレンも姿を現し、バリケードに身を隠す。




    ユミル「…ん?!」

    コニー「どうしたよ?」

    ユミル「あれは…」

    双眼鏡の先には、銃を構えて歩く妹分とその兄の姿があった。





    ガバナーらはゲート前に群がるウォーカーを一掃すると、拡張機を取り出した。

    ガバナー「…何か言いたい事はあるかね?」


    ライナー「何を言ってやがる…?」


    ガバナー「君達が惨殺した私達の仲間について、何か言いたい事があるか、と言っているんだ。」


    エレン「何だって?」

    ナナバ「言い掛かりだ、ここ数週間は外で人間を見ていない。」

    エレン「…俺が行く。」

    身を低くし、中庭の側まで行くとエレンは問いかけた。


    エレン「話の意図が掴めない、俺たちはそっちの人間とは接触していない!」



    ガバナー「…」

    エルド「エレンもそう言っている、ここは話し合いで…」

    しかしなだめるエルドの言葉も聞かず、ガバナーはある物を取り出した。



    ガバナー「君達が嬲り殺しに使ったものだよ、見えるかい?」

    ガバナーは血塗れの数本の矢をかざして見せた。

    エルド「これは…」

    サシャ「…!!」

    それは確かにライナーが使用する物と同型だったが、そんなものが証拠になるはずもない。
    しかしそんなチンケなものが、今の住民達を発奮させるには十分な材料だった。





    コニー「おいおい…あんなもんどっから持って来やがった?!」

    ユミル「大方前回襲撃した時のやつか、別モンこしらえたんだろ。…汚ねぇ真似しやがって。」



    エレン「覚えが無いと言っている!第一目撃者は…」


    ドォォォォ!!

    戦車から放たれた榴弾が、フェンス前に放たれた。


    ミカサ「…!」

    ハンネス「畜生!撃って来やがった!」



    ガバナー「あくまでシラを切るつもりだな。では…」

    エルド「待て、落ち着け!!」

    しかしエルドの制止は誰の耳にも入らない。
    住民達の目は最早正気の色をしていなかった。

    エルド「ガバナー!」



    ガバナー「撃て!!」

    放物線を描き放たれた榴弾が、今度はフェンスに直撃した。



  19. 19 : : 2015/06/23(火) 18:01:57

    激しい轟音を立てて、門は跡形もなく吹き飛ばされた。

    この三ヶ月間、せっせと補強を繰り返してきたものが、たった一発の榴弾によって崩されたのだ。

    エレン「コニー、ユミル!2人が退くのを援護してくれ、土煙が晴れたら撃ってくるぞ!!」

    トランシーバー越しにそう叫ぶと、監視塔からの援護が始まった。


    タン、タタンッ!

    「ぐあっ!」

    ゲルガー「前に出すぎるな、あっという間にドタマ吹っ飛ぶぞ!」

    ゲルガー「くそ、あれは厄介だな…」

    こう上を取られては進軍も滞る。

    ガバナー「三方向に分かれて進め。戦車を前面に出し、盾代わりにすればいい。」




    ミカサ「早く!」

    ハンネスを立ち上がらせ全速力で下がる。
    さっきの砲撃で聴覚をやられたか、前を走るハンネスを視覚で捉えているのみだ。


    ミカサ「…?!」

    しかし、焦点が段々と下に落ちていく。
    平衡感覚までおかしくなっているのか。

    ドサッ

    ついに前のめりに倒れてしまう。
    足を撃たれたと判ったのはその後だった。

    エレン「ミカサ!」

    聴覚が戻ってきて、エレンの叫ぶ声が聞こえる。

    ユミル「マズイぞ…どんどん入ってきやがる!」

    戦車やトラックを隠れ蓑にして、ガバナー達は前に出始める。
    最初は効いていた二人の狙撃も、こう散開されては効果が薄い。

    ハンネス「つかまれ!」

    駆けつけたハンネスに肩を借り、右足を引き摺りながらも懸命に走る。

    エレンやライナー達の援護射撃も虚しく、相手方の機関銃が火を吹いた。



    ハンネス「このままエレンの所まで行けると思うか?」

    ミカサ「その前に撃たれる確率の方が高い。」

    ハンネス「はは、だよなぁ…」

    その含み笑いにミカサは何かを言いかけたが、


    ハンネス「嬢ちゃん、走れ。」

    彼はミカサの腰からワルサーを抜くと、そのまま来た方向に走り出した。

    ミカサ「ハンネス?!」

    ハンネス「走れ、振り向くな!」


    ユミル「親父?!何やってんだ、戻れ!」

    仲間の声も届かず、彼はひたすら引き金を絞る。



    ハンネス「神父の真似事もやってみたが…結局本質は変わんねぇな!俺は今からただのクソ親父だ、うおぉぉぉぉぉ!!」

    エレン「ナナバ、ミカサを頼む!」

    命からがら戻ったミカサの足はかなり悪そうだった。


    ガッ

    ナナバ「行かせないよ、今出て行けば蜂の巣だ。」

    エレン「わかっていても見殺しにはできない!」



    ゲルガー「あのじいさんはどうする?」

    ガバナー「捕らえろ。殺さなければ、多少痛めつけても構わん。」

    ガバナー「右翼は監視塔を包囲しろ、あれをとればほぼ勝敗は決まる。」


    ナナバ「この状況ならガバナーは人質を取るはず。…私を信じて。」

    そう強く言った彼女に思わず頷く。

    ナナバ「何とか時間を稼いで。」

    彼女は言い捨てるようにして、東端のフェンスに走った。


    ナナバ(カタをつける。私が、この手で。)




    ガァァァ!

    「バイターだ、対処しろ!」

    ダダダダダ!!

    激しい銃撃音につられて、ウォーカーがやってきた。
    しかしガバナー達は予期していたようで、背後からの襲撃にも冷静に対処する。


    ガバナー「さて…精々楽しませてくれよ、ご老人。」

    顔のあちこちが腫れ上がったハンネスは、せめてもの抵抗か、ガバナーに唾を飛ばした。

    ガバナー「…」

    ドガッ!

    ハンネス「ぐあっ…」

  20. 20 : : 2015/06/23(火) 18:25:54

    ライナー「何でもいい、バリケードを積み上げろ!」

    弾丸が飛び交う中、最後の砦と言わんばかりに本棟前にありったけの物資を積み上げる。

    エレン「コニー達がこのままじゃ危ない。」

    ライナー「いざとなれば、連絡通路を伝ってこっちまで来れる。今あそこを取られたら、俺たちはお終いだ!」

    悔しいがライナーの言う通りだ、2人にはギリギリまで粘ってもらうしかない。




    コニー「焦らしやがって、登ってくるならサッサとしろってんだ!」

    階段に陣取り、一向に上がってくる気配を見せない敵にイライラが募る。

    ユミル「銃を下ろしたり好きでも見せれば…すぐに制圧されるだろうな。」

    コニー「…なぁユミル、聞いてくれ。」

    ユミル「ん?」

    コニー「最悪の場合、お前が先に逃げろ。俺がギリギリまで引きつける。」

    その顔にはどこから見ても焦りの色があった。

    ユミル「…冗談はよせよ。親父も捕まっちまって、今なんとかできんのは私らだけだろ。」

    コニー「ここで一緒に心中しろって?そんなのは…」




    ユミル「その程度か?」

    ユミル「その程度の覚悟で、私に指輪を送ったのか?」

    コニー「…」






    ガバナー「撃ち方やめ!」

    ガバナーがそう指示すると、一斉に銃撃音が止んだ。

    エレン「何だ、この状況で…」


    皆が注視する中、戦車の上に縛られたハンネスが上げられた。

    ライナー「人質チラつかせて有利な取引か?悪魔め…!」

    ナナバ(…)

    既に物陰で待機しているナナバもその様子をじっと見つめる。


    ナナバ(一瞬だ。奴が要求して、反応を伺っているその隙に…)

    ライナーがそう叫ぶと、ガバナーは拡声器を取り出した。

    ガバナー「交渉?例えばこの薄汚い老人の命と引き換えに、刑務所を明け渡せとか?」


    ユミル「野郎…!」














    ザンッ!

    ハンネス「ぐうぅっ…!」

    ガバナー「そんな価値は、君たちにはない。」

    ハンネスの喉から、鮮血が勢いよく吹き出した。



    ナナバ「なっ…!」

    エレン「ハンネス!!」

    ユミル「親父ィーーーーー!!」


    喉から短刀を引き抜くと、ハンネスは口から血の塊を吐き出しーー戦車から崩れ落ちた。

  21. 21 : : 2015/06/23(火) 19:03:28

    その光景に誰もが目を見開いた。
    エレン達はおろか、理想郷の住民達もその狂気に怯えの色を見せた。

    エルド「ハ、ハンネス…」


    「嫌、もう嫌ァーーー!」

    サシャはガバナーに縋り付くと必死に訴えた。

    サシャ「エルヴィン、こんなのもう嫌です!!もうやめて!」

    すると彼はサシャの頭を撫でた。

    ガバナー「全ては君の為だよ。それと…」


    パンッ!

    サシャ「うっ…!」

    ガバナー「私はエルヴィンなどではない。」

    先程までとは打って変わり、サシャの頬を引っ叩いた。



    ガバナー「全軍進撃しろ、完膚なきまで叩きのめせ。」

    その合図と共にまたあちこちから火が吹いた。





    「イーーーヤッホォォォォーーー!!」

    奇声を上げながら、トラックがバックで突っ込んでくる。
    そのままフェンスに打ち付ける形でになり、ライナーの目の前で停車した。

    ハンジ「さぁさぁ、お涙頂戴者だよ。」

    ガン!…ギィィィーー




    「…」

    ライナー「あ…?」

    ライナー「おい…嘘だと言ってくれよ…」

    トラックの後部から出てきた禍々しいそれに、ライナーはこの世の終わりを見た。








    ライナー「ベルトルト…!」

    「ギィアァァァァェ!!」

    かつての親友は、変わり果てた姿でライナーに飛びかかった。

    ーーーーーーーーーーーーーーーー

    ナナバ「うあぁぁぁ!!」

    ガバナー「?!」

    ガバナーは不意に物陰から出てきたナナバにたじろぐ。

    ナナバ「貴様ァぁ!!」

    ビュン!

    刀の横薙ぎがガバナーの右肩を捉える。

    ガバナー「ッ…!やぁナナバじゃないか、会いたかったよ…!」

    まるで待っていたと言わんばかりに、ガバナーも体勢を整える。




    ゲルガー「これ以上長引くとヤベェな…」

    予想以上のウォーカーが、後方から追ってきていた。
    それによる被害も出始めている。

    ゲルガー「…」

    エルド「俺は…俺は…」

    膝をつき立ち竦んでいるエルドの胸倉を掴み立ち上がらせた。


    ゲルガー「…行けよ。今なら誰にもバレやしねぇ。」

    エルド「!…何を言って…」

    ゲルガー「まだわかんねぇのか!!ここはお前らのような奴がいる所じゃねえ!」


    ゲルガー「あの死体も、サシャの一件だって全てガバナーが仕組んだ事だ。」

    エルド「!」

    ゲルガー「これ以上奴の欲望に付き合う必要はねぇ。…逃げろ。」

    エルド「お前は、どうする気だ?」

    俺か?と答えたゲルガーは、半ば諦めたような笑顔を見せた。



    ゲルガー「俺はな、一瞬でもあんな奴に夢を見ちまった。付き合うさ…最後までな。」

    そう言うと刑務所の方に走って行った。

    エルド「くそ、くそ!なんだって言うんだ、勝手なことを…!」

    彼は放心状態のサシャの腕を掴むと、森へ走り出した。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    ミカサ「はぁ、はぁ…降ろして、私も戦う!」

    腕の中で暴れるミカサを、必死に抑え込む。

    エレン「うるさい!…いいか、必ずここに戻ってくる。みんな一緒だ。」

    ミカサ「そんなの嘘ッ!!」

    この状況で、全員無事に戻れるはずがない。


    エレン「聞いてくれ、ミカサッ!」

    ミカサ「!」


    エレン「今まで随分と勝手した。お前はいつも側にいてくれたのに、俺はいてやれなかった。」

    不意に目頭が熱くなる。こんな時に…

    エレン「あの時だってそうだった、お前が言葉を”失った”あの時も…」

    ミカサ「…違う、それは違う!!」


    エレン「だけど!」

    エレン「わかったんだ、お前を失いたくないって。だから、戻ってくる。…必ず。」

    そう言って額に口づけた彼は、すぐに戦場に戻って行った。







    ミカサ「ずるい…あなたはいつだってそう。」

    ミカサ「ずるいよ…」

    ーーーーーーーーーーーーーーー

  22. 22 : : 2015/06/23(火) 19:34:51

    ライナー「おおおおお!」

    動揺する心を必死に雄叫びで誤魔化す。
    こいつは、ベルトルトじゃない…!!

    組みつかれてボウガンを落としたライナーは、ナイフ片手に必死に応戦していた。

    全身から異臭が漂い、他のウォーカーと比較しても妙にドス黒く変化した顔は
    所々腐り落ちていた。




    「ただのバイターと思わないでくれよ。転位ギリギリまで追い詰めて、筋力や膂力を最大限まで追求したんだ。」

    「薬物投与があったとはいえ、なんと一ヶ月保ったんだ。ねぇ、褒めて褒めて?!」

    「そうそう…執着心も肉食動物のそれまで上がっているよ。長い事暗闇にいたからね、最初に目に入った君はさぞかしお気にだろうね。」


    そうケタケタ笑うマッドサイエンティストは、煙のようにどこかに消えていった。
    彼女に対する怒りよりも、今は目の前の理不尽さに頭が一杯だった。

    ライナー(倒されたら終わりだ…!)

    距離を稼ぎながら対峙するが、ただでさえ弾丸飛び交う中だ。
    まともに戦えるはずかない。


    ライナー(ベルトルト…!)


    ライナー「珍しいな、そんなに歯ァ食いしばって。」

    ガァァァ…

    ライナー「イメチェンか?やめとけ、やめとけ。草食ってる方がお似合いだぞ。」

    アアァァァ!!

    言葉が通じるはずもない。
    だが彼はそうするしかできなかった。


    ダダダダダ!

    ライナー「うぉっ!」

    銃弾が顔を掠める。
    体勢を崩したライナーをさらに追い立てた。

    「ラァァァアッ」

    ライナー「ま、待て…!」

    制止も虚しく押し倒されてしまう。



    ライナー「うおぉぉッ…」

    必死に喉元に喰いつかんとするその歯軋りの音が、非常に耳障りだった。

    ライナー「ッ…」

    左で顔を押さえつけながら、必死に右手を伸ばす。
    その先にはボウガンの矢が。


    ライナー(あと少し…頼む、届けェ!)

    「ガガガガガァ!」

    ライナー「ああッ!」

    ブシュ!

    やっとの思いで手にした矢を彼の喉元に叩きつける。


    ライナー「ぐっ!」

    ひるんだ隙に何とか体勢を反転して見せた。


    ライナー「うぉっ!」

    マウントを取られてなお、彼は激しく抵抗した。



    ライナー(やれ、やるんだ…!頭を一突きすればいい…)

    「ブラァァァ!」

    ライナー(!)






    ライナー『よう、さっきの狙撃は助かったぜ。』

    ベルトルト『君はもうちょっと慎重になった方がいいよ…』

    ライナー『なぁに、その必要はない。お前が助けてくれるからな』

    ベルトルト『はぁー…』

    ライナー『さぁもう一仕事だ、親友。』





    ライナー「……ッ!」

    両手でナイフを振り被った刹那、動きが止まる。
    ポタポタと雫が、彼に落ちる。

    ライナー「ベルトルトォ、許せ…!」

    そう言うと、彼の抵抗する動きが一瞬止まった。
    決して感情の類などでない。ただの偶然だ、だが確かに止まった。




    ゴッ










    ベルトルト『親友なんて気安い呼び方はやめてくれよ。』



    ベルトルト『僕たちは”相棒”だろ?』

    彼は、笑った。
  23. 23 : : 2015/06/23(火) 20:02:26

    ーーーーーーーーーーーーーーーー

    彼女が見たもの。
    それはウォーカーに対する、人体実験だった。


    あの時意見をしていた幹部が、椅子に縛り付けられている。



    「ああアァァァァぁ!!」

    痛々しい悲鳴が耳に響く。
    その光景を見て、ガバナーは恍惚の笑みを浮かべていた。



    ふと彼が振り返る。
    その狂気の目を見た瞬間、何かがナナバの中で弾けた。






    ナナバ「フーッ、フーッ…!」

    気付くと、ガバナーの右目に刀を突き立てていた。

    何故だ、彼が呟く。
    私は君の事を…と。


    ナナバ「私は、あなたの所有物ではない…!」

    全てを思い出した。
    初めてガバナーを見た瞬間、身体中が警鐘を鳴らし
    自発的に一時的にショック状態になった事。

    そして”彼ら”を森に隠し、警戒されないよう血だけの状態で姿を現した。


    そう、こいつは私が殺さなきゃいけないんだーーと。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



    ナナバ「ああああぁぁ!!」

    私は”許されない”事をした。

    ガバナー「おおおおお!」

    それは彼も同じ。

    ギン!





    ”許されたい命が今、惹かれあった”






    肩を撃ち抜かれ、刀を落とす。

    ドガッ!

    ナナバ「ぎゃあああ…!」

    その肩を踏みつけられ、苦痛に声を張り上げる。

    ガバナー「…」

    それを見て、彼は狂気に顔を歪ませた。


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    サシャ「…!」

    森を走り抜ける中、エルドが引く手を振り払った。

    エルド「サシャ…?」



    サシャ「私、やっぱり戻ります。」

    エルド「おま、何を言って!」

    サシャ「私は、後悔したくないから。」

    そう告げると反転し、全力で走り出した。
    後ろでエルドが何かを叫ぶが、何も聞こえない。


    エレン、ユミル、エルヴィンーー

    全て自分でかき乱したまま、そのままなんて。



    私は、嫌だ。
    どこの誰がなんと言おうと、私だけはそんなの嫌だ。

    ーーーーーーーーーーーーーー

    ガバナー「さぁ、因縁にケリをつけよう。」

    そう笑いながら、ナナバの顔に銃を向ける。









    「ガバナー、逃げ…ああああああ!!!」

    ガバナー「!」

    その悲鳴に振り返ると、後方の部隊はウォーカーに蹂躙されていた。

    ナナバ「…!」

    ザンッ!

    ガバナー「がぁッッ!!」

    その隙を彼女は見逃さなかった。
    刀を握りなおすと。ガバナーの足を掴み、下腹部に刃を突き刺す。


    ナナバ「終わりしにしよう、もう。」

    ガバナー「が…ハァー、ハァー…!」

    どこか悲しげな瞳で立ち上がると、
    そのままとどめをさそうとしたが、


    背後から迫り来るウォーカーと、燃え上がる刑務所を見比べ
    名残惜しそうにガバナーを見ながら、やがて刑務所の方角に走り去った。




    ザッ

    「何とも哀れなものだねぇ。」


    ガバナー(おお、ハンジか。なんでもいい、治療を…)

    しかし、彼女は無言で側を過ぎ去っていく。

    ハンジ「言ったよね、”世界を壊し、創造する”って。」


    ハンジ「でも結局、貴方が追い求めたものは過去の幻想だった。…がっかりだよ。」

    そう言う彼女の顔はいつになく真剣で、どこか寂し気だった。

    ハンジ「ただ一瞬でも、この壊れた私に夢を見させてくれた事は…感謝してる。」



    「ありがとう。」

    足音は段々と遠くへと行った。







    ガバナー(ま、待て。待ってくれ…とどめを…)

    後方部隊を喰い漁ったウォーカーが迫り、誰もが望まない最後を迎えようとする中
    ガバナーは必死に懇願した。





    サシャ「エルヴィン…」

    ガバナー「…?」

    サシャ「違うよ、あなたは、エルヴィン。」

    視線を向けた先には最愛の娘の姿が。





    ああ、そこにいたんだね。
    私の天使。。


    狂気に代えて、君たちの名を呼ぶよ。









    「マリー、二ファ…」


    パンッ!

    サシャ「さようなら、エルヴィン。」
  24. 24 : : 2015/06/23(火) 20:40:38



    ユミル「死ね、死ねこの野郎共ォォォォーーー!!」

    目の前で父を殺され、ユミルは自暴自棄になっていた。
    階段を上がってくる住民達を片っ端から撃ち続ける。

    コニー「ユミル、もういい!退くぞ!!」

    だが彼の言葉は耳に入らない。
    彼女は感情に取り憑かれてしまっていた。



    コニー「…ユミル!!」

    ライフルを無理矢理抑え付け、彼女の頬を殴る。

    ユミル「…!」

    ユミルは突然の衝撃で、連絡通路側に転がる。

    ユミル「何しやがるんだ!」




    コニー「…なぁ、さっき言ったよな。その程度の覚悟かって。」

    コニー「俺の覚悟は、何があってもお前を守る事だ。例え目の前で義父が殺されても…お前だけは。」

    ユミルは気付いた、コニーの拳が震えている事を。
    悔しくない訳がない、彼だって。

    コニー「そう、お義父さんと約束したからな。」


    ユミル「コニー、お前…!」





    コニー「がっ…」

    背後から腹部を撃ち抜かれ、膝を付く。

    ユミル「…っ、野郎ォ!」

    階段の方に銃を向けるが、それより早くコニーのライフルが火を吹いた。

    コニー「走れ、ユミル!」

    ユミル「ま、待てよ。コニーまで私を置いていくのか?お前まで…」



    コニー「走れ!!」

    そう言ったコニーの顔は鬼気迫っていた。
    口からは血が流れている。



    コニー「走れェェェェ!!」

    ユミル「アアッ・・・!」

    コニーがそう叫んだ時には、もう地面を蹴り出していた。





    ユミル「私を一人にすんなよ?!いいか、ゼッテェ帰ってこいよぉぉー!!」

    力の限りそう叫んだ。彼に聞こえるように。










    コニー「へっへっへ、丸聞こえだての。」

    コニー「あ。」

    戦車の砲台が、こちらに向いた。






    コニー「…ヤッベェ〜、これ、終わったな。」

    ドォンッ!!

    数秒後、監視塔は激しく燃え上がった。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    タン、タンッ!

    エレン「くそっ!」

    このままではラチがあかない。
    ウォーカーが背後から襲撃してきたおかげで、圧力は大分マシになったが
    未だに住民達は状況がわかっておらず、こちらに攻め寄せる。

    ライナーも、ナナバの姿ももう見当たらない。
    コニーとユミルは駄目だろう。監視塔が砲撃される瞬間を、エレンも見ていた。





    「エレン!!」

    エレン「!」

    呼ばれた声に、すぐさま振り返り銃を向ける。

    サシャ「っ…」

    エレン「サシャ?!なんでここに…」

    サシャ「私はその・・・」

    エレン「…伏せろ!!」

    ショットガンを構えた住民がこちらに標準を向けた。




    タンッ!

    しかし、散弾は発射されることはなかった。

    エレンの視線の数10m先、艶のある黒髪が舞う。

    エレン「ミカサ…?!」

    ミカサ「エレン、逃げて!!」

    囲まれつつあるエレンを逃がそうと、ミカサが建物の陰から躍り出た。



    エレン「やめろ、戻れ!それ以上出るな!!」

    死角からの奇襲に、次々と倒れる住民達。

    ミカサはエレンに微笑みかけた、私も出来るのだと。




    ミカサ(エレン、私もまだまだ戦えるんだよ?)

    ミカサ(あなたの足手まといには、ならない。)

    轟音の中、ふとエレンがこちらに何かを叫んでいる。



    口の形だけを判断し、それが「右だ」と分かると
    ミカサは顔を右に向けた。

    閃光が、一瞬走った。


    喉の辺りに焼けるような衝撃。
    見えない何かに吹っ飛ばされたかのように、ミカサ数メートル後ろに吹き飛んだ。




    エレン「ミカサァァーーー!」

    彼女の首から血が溢れ出る。
    朦朧とする意識の中、それでも彼女ははっきり言った。





    「行って。」


    エレン「?!…ッ…!」

    抱き寄せるサシャとミカサを見比べながら、エレンは必死に思考を巡らせた。
    考えるまでもないーーミカサはもう、助からない。


    それでも、それでも…!!




















    彼は走り出していた。
    不思議と涙は出なかった。

    「エレン。」

    傍の女性が呟く。

    彼女は唇を噛む。
    何故私を助けたのかと。

















    エレン「何だ、サシャ…」

    燃え盛る刑務所を背にし、二人は走り出した。






  25. 25 : : 2015/06/23(火) 20:44:46
    season3 ep 6 end



    次回予告

    「こいつ…似てやがる、あの馬鹿に。」

    「アンタさ、私を誰に重ねてるの?」

    「夢くらい、見たいじゃないか。その位の資格はある。」





    season4 ep1 (ルートB ) 『もう一つの可能性』
  26. 26 : : 2015/06/23(火) 20:52:52
    つ、疲れた。
    もう一つのエピソード増やせばと、途中から後悔しました。

    私戦闘の描写苦手ですね…最近薄々気づきました。


    いくつか補足を。
    ゲルガーがいっていた、ガバナーが仕組んだ事とは

    サシャがいつか刑務所に行きたいと言い出すことを踏まえて、①車道を大木を切り倒してふさぎ、迂回させる。 ②迂回先で落とし穴を仕込む
    これは全部一時的に意識を乗っ取られた状態で、もう一人のガバナーが穏やかになってしまったガバナーを元に戻すため、仕組んだものです。

    で、作業を終え自室に戻った後に…という感じです。
    解りづらくてすみません…


    原作でいうガバナーにはエルヴィンを当てました。
    もうこの人しかいないと。適役ですねー

    しかし扱いは難しかったです。ちゃんとテーマの「狂気」を出せたかどうか。



    よろしければ感想を是非お願いします。
  27. 27 : : 2015/06/23(火) 20:59:03


    読者の皆様に重要なお知らせがあります。

    次回からseason4に入る訳ですが、次回予告にあった通り
    今後は二つのルートを交互に展開していきます。

    エレン一行はルートA、ルートBの主人公は…多分もうお分かりだと思いますが笑

    この二つはどっちも正史であり、アナザーストーリーではなく、あくまで同じ時系列で進行するものだと思って頂ければ幸いです。
    話がごちゃごちゃするんで、シリーズ別にしようかと思ったんですが、ここまで来てそれもなぁと思い断念しました。


    今後、更に物語は加速していきます。
    今まで原作に沿ってきましたが、70%はオリジナルになっていきます。


    ここまで執筆を続けられたのも
    ひとえに読者の皆様のおかげです。

    今後ともジョンと進撃のウォーキングデッドをよろしくお願いします。
  28. 28 : : 2015/06/23(火) 23:41:21
    あなたの作品はほんとうに素晴らしい!神です!
    いつも見させてもらってます!
    応援してます!がんばって!
  29. 29 : : 2015/06/24(水) 10:19:59
    今回の回が今までで一番面白かったです!
  30. 30 : : 2015/06/24(水) 17:47:10
    次回は久々にジャンが出るのかな?
    楽しみにしてます!
  31. 31 : : 2015/06/24(水) 23:06:22
    頑張ってください‼︎
  32. 32 : : 2015/06/30(火) 16:39:43
    名無しさん

    神なんて恐れ多いです。
    これからもよろしくお願いします。
  33. 33 : : 2015/06/30(火) 16:40:26
    名無しさん

    ありがとうございます。
    確かに今回は色々な場面で盛り上がりがありましたね。
  34. 34 : : 2015/06/30(火) 16:40:57
    名無しさん

    是非ルートBにご期待下さい^ - ^
  35. 35 : : 2015/06/30(火) 16:41:12
    名無しさん

    ありがとうございます!!
  36. 36 : : 2015/06/30(火) 16:42:17
    次作です。

    http://www.ssnote.net/archives/36783

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kazumax

ジョン@四聖剣とは虚名にあらず

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