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星になった航海者 ② ~アルミンとヒストリアの物語~
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- 1 : 2015/06/10(水) 08:45:55 :
- 星になった航海者の物語の続きです。
よろしくお願いします<m(__)m>
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- 2 : 2015/06/10(水) 08:46:52 :
じゃあ、行ってくるねッ! 皆ッ!!!
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- 3 : 2015/06/10(水) 08:47:51 :
風に帆を上げ、アルミンはすべての船の中で最も美しいと歌われた白い船、ヴィンギロトを漕ぎ出した。
エルロス「いってらっしゃ~いッ!」
エルヴィン「お父さ~んッ! ファーランさ~んッ!」
双子の息子が手を振って父親とその親友を喜んで見送った。
息子たちに手を置き、旅立って行く夫を微笑んで見送るのは・・・・・・・・・・・・ヒストリア。
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- 4 : 2015/06/10(水) 08:49:38 :
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キアダン「行って・・・・・・しまわれましたな。」
アルミンと共にヴィンギロトを造った船造りのキアダンは、遠く水平線へと離れていく白い帆船を見やりながら呟いた。
ヒストリア「あの人は・・・・・・少しもじっとしていないから。」
イザベル「まったく、困ったやつらだよなッ!」
ヒストリア「ふふ・・・・・・じゃあこれからトゥオルおじいちゃんとイドリルおばあちゃんのところに行きましょうか?」
二人は笑いながら、二人の子供を引き連れて船着き場を後にした。
ギル=ガラド「ヒストリアは、明るくなりましたな。」
亡くなったアルミンの祖父トゥアゴンの甥であり、ノルドール族最後の上級王であるギル=ガラドは、ヒストリアの後姿を感慨深げに見つめた。
キアダン「ええ、初めにここに来た時は、自分の人生に絶望しきってしまわれて、深く心を閉ざしておられた。」
ギル=ガラド「アルミンとの出会いが、彼女を変えたのです。」
キアダン「そして、その出会いはアルミン殿自身も変わるきっかけとなった。」
ギル=ガラドは船に乗り込み、後から乗り込んだキアダンに向かって微笑みながら言った。
ギル=ガラド「出会いというものは・・・・・・かくも不思議なものです。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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- 5 : 2015/06/10(水) 15:06:33 :
―――――――――――ゴンドリンが陥落した後、アルミンは父トゥオルをはじめとした生き残りのエルフ達と共に、当てのない旅に出た。
運よくゴンドリンの環状山脈エホリアスを超えたゴンドリンの残党は、シリオンの谷間に降り立った。
そこから更に疲労と危険に満ちた旅を重ね、一行はようやく大河シリオンの水が流れ込むナン=タスレンの草原で休息を取った。
この地にはヴァラールの水の神、ウルモの力が今でも大河に流れていて、彼らの傷と疲れは癒されていった。
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- 6 : 2015/06/10(水) 15:07:10 :
アルミン「う・・・・・・うう・・・・・・じいちゃん。」
アルミンは、しかし、癒された身体とは反対に、心は閉ざされたままであった。
――――――あの光景が・・・・・・今でも目から離れない。
燃え上がる炎の中で、ただ一人残って青く光るグラムドリングの剣を握った祖父の姿が。
イザベル「アルミン・・・・・・・・・・・・。」
ファーラン「今は・・・・・・そっとしといてやろう・・・・・・。」
友人たちが気遣う中、アルミンは一人、草原に座って涙を流し続けた。
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- 7 : 2015/06/10(水) 15:12:07 :
トゥオルはこの地において宴を張った。
――――――先の戦いで失われたゴンドリン、そして、共に滅んでいった麗しい乙女や勇敢な戦士達を偲ぶ宴。
生き残ったエルフたちは、それぞれに思い思いの歌を歌った。
勇壮なエクセリオンや、忠実なグロールフィンデルのことが歌われた。
やがてアルミンは祖父トゥアゴンのことを歌に歌った。
勇猛な戦士であり、大魔王モルゴスが最も恐れた男。
ノルドールの上級王であり、僕の前では常に優しく――――・・・・・・
でも、時には厳しく、強さとは何かを気付かせてくれた祖父――――・・・・・・
アルミン「うう・・・・・・ううう・・・・・・。」
文字通り、尽きぬ涙を流すアルミン・・・・・・マンドスの呪いの力はここにも働き、アルミンの涙は留まるところを知らなかった。
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- 8 : 2015/06/10(水) 15:13:45 :
トゥオル「アルミン・・・・・・。」
―――――悲嘆にくれる我が子を後ろから抱きしめるトゥオル。
アルミンを抱き寄せながら、トゥオルも歌を歌い始めた。
かつてヴィンヤマールの海岸で、水の神ウルモが偉大な姿で現れ、直接トゥオルに啓示を与えられた時のことを歌にした。
その歌声はまるで海水の如く、澄んでいて麗しくもあれば、涙のように悲しいものでもあった。
アルミン「・・・・・・海。」
その時から、アルミンの心に、そして歌を作ったトゥオル自身の心にも、海への憧れが目覚めてきた。
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- 9 : 2015/06/10(水) 15:14:40 :
トゥオル「アルミン・・・・・・お前は今まで一度も海を見たことがなかったな?」
アルミン「・・・・・・ねぇ父さん・・・・・・海ってどんなところなの?」
トゥオル「海はな・・・・・・とにかく広いところなんだッ!」
トゥオルは瞳を輝かせ、熱心に海についての話を始めた。
その話は、悲しみに沈んでいたアルミンの心を開き、彼の中に眠っていた冒険心をくすぐった。
すると、トゥオルはアルミンへ唐突に提案した。
トゥオル「なぁ、これから海を見に行かないか?」
アルミン「えっ?」
イザベル「いいじゃんアルミンッ! 一緒に行こうぜッ!」
ファーラン「こっから海まではそう遠くないしね。」
アルミン「う、うんッ! 行きたいッ!!!」
幼馴染み達に肩を押され、芽生えた海への憧れも手伝って、アルミン達ゴンドリンの残党は、予定より早くナン=タスレンを出発した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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- 10 : 2015/06/10(水) 15:15:30 :
やがて夜の帳がすっかり降りて、星々が瞬くころに、アルミン達はシリオンの港へと到着した。
アルミン「これが・・・・・・。」
それ以上は言葉に出来なかった・・・・・・。
僕の持てる言葉では、到底この海の果てしなさを表現できそうになかったから・・・・・・。
初めて見る海は僕の心を包み込み、尽きることの無い悲しみを支えるだけの力を与えてくれるように思われた。
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- 11 : 2015/06/10(水) 15:16:33 :
すると、僕の耳に歌声が聞こえてきた。
さざ波のようにか細い、それでいて筋の通った歌声。
ふと見ると、船着き場のほうで、誰かが歌っているのが見える。
「貴方は、誰なの?」
アルミン「えっ!?」
僕は思わずどきっとしてしまった――――――船着き場に座り、歌を歌っていたのは僕と同じ金髪を持つエルフの少女。
その首元には金の首飾りがかけられ、嵌め込まれた宝石のうちの一つが、強い光を放っている。
まるで、宵の光が波打ち際に揺蕩っているように僕の目には見えた。
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- 12 : 2015/06/10(水) 15:17:13 :
アルミン「僕は、アルミンっていうんだ。」
僕の名前を聞くと、その少女は僕に背を向けて歩き出した。
アルミン「ま、待って、君の名前は?」
少女は一瞬足を止めたが、歩き出して僕の目の前から立ち去ってしまった。
なぜだろう・・・・・・その少女の顔が、僕には悲しみに曇っているように見えて、その時から少女の顔が頭から離れなくなった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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- 13 : 2015/06/11(木) 00:45:17 :
シリオンの港には、5年前に滅亡したドリアスの残党、シンダール族のエルフ達が既に生活していた。
そこに、滅亡したゴンドリンの残党であるノルドール族のエルフ達も加わり、ここは亡国の民の、最後の砦。
シリオンの港は、バラール湾という入り江の奥にあり、その入り江の先にはバラール島という島があった。
ここにはノルドール族最後の上級王ギル=ガラドや、船造りであるエルフ、キアダンが館を構えており、シリオンの港を守っていた。
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- 14 : 2015/06/11(木) 00:46:15 :
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アルミン「ぐがぎぎぎ・・・・・・・・・・・・。」
ギル=ガラド「ははは、まだアルミンにその弓は早いようですな。」
アルミンは顔を真っ赤にして、燃えるように赤い紅蓮 の弓を引こうとしていた。
アルミン「はぁ、はぁ、ダメだ・・・・・・固くて引けないよ・・・・・・。」
――――――シリオンの港に来てからというもの、アルミンはたびたび船を出してはバラール島に赴き、彼にとっては伯父にあたるギル=ガラドに武芸の稽古をつけてもらっていた。
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- 15 : 2015/06/11(木) 00:47:46 :
ギル=ガラド「気にすることはない。この強弓を扱うことのできたエルフは過去に一人しかいなかった。」
アルミン「一人だけですか?」
ギル=ガラド「・・・・・・そのものは確かに武芸に秀で、しかもノルドールの中で最も美しいものだった。」
ギル=ガラドの表情が曇った。
その人物に対して、ギル=ガラドが好意を持っていないことは明らかだった。
そんな伯父の様子を見て、アルミンはその人物が誰であるのか、察しがついた。
――――――――ノルドール族でも特に武芸に秀で、しかもあまり好意を持たれない人物といえば、一人しかいない。
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- 16 : 2015/06/11(木) 00:49:31 :
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アルミン「・・・・・・今は亡き、フェアノール、ですね?」
ギル=ガラド「察しが良いのはそなたの祖父である賢者トゥアゴン譲り、といったところですな。」
アルミンの心に憂鬱の影が差した。
アルミン「これが・・・・・・白鳥港において船の提供を拒んだテレリ族のエルフを襲撃、殺害して船を奪った、あのフェアノールの・・・・・・弓ですか・・・・・・。」
アルミンにはそれが、まるで自分の罪であるかのように思えてならなかったのだ。
その気持ちがアルミンの心に不安を植え付け、いつしか暗い表情を取らせていた。
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- 17 : 2015/06/11(木) 00:51:45 :
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ギル=ガラド「・・・・・・気持ちを鎮められよ、聡きものよ。」
そんなアルミンの心の内を見抜いてか、ギル=ガラドはアルミンを窘めた。
ギル=ガラド「そなたの中にも、私の中にも、確かにノルドールの血は流れている。だが、そなたとフェアノールは、私とそなたほどに違う人間であることを忘れてはなりますまい。」
アルミン「・・・・・・。」
ギル=ガラド「例え同じ弓を使おうとも、その弓の矢尻がどこに向けられるかはそなたの選択次第・・・・・・でしょうな。」
あえて上級王はアルミンにフェアノールの弓を与えた。
ギル=ガラドはそれ以上何も言わず、そのまま自分の館へと去っていった。
アルミン「うおおぉおおぉぉぉッ!!!」
どの武器よりも同族を殺した弓―――――紅蓮 を限界まで引き絞り、アルミンは再び武芸の稽古に励んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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- 18 : 2015/06/11(木) 01:38:11 :
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―――――私は・・・・・・一人だ・・・・・・。
お父さん・・・・・・おじいちゃん・・・・・・おばあちゃん・・・・・・お姉ちゃん・・・・・・・・・・・・。
皆・・・・・・私を置いて逝ってしまった。
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- 19 : 2015/06/11(木) 01:40:38 :
暗い夢から目が覚めても、目の前はまだ、暗いまま・・・・・・。
白い衣を身に纏った金髪の少女―――――ヒストリアはベットから起き上がり、部屋に差し込む朝日に目を細めつつ、しかし、何もかもが暗く包まれているように感じていた。
ドリアスが滅亡した日のことは、今でもはっきりと覚えている。
あの忌まわしい出来事を、どうして忘れられるだろう?
―――――あの日、私たちエルフは、エルフによって、殺されたのだから。
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- 20 : 2015/06/11(木) 01:41:35 :
ヒュンッ!
張り詰めた音が朝の静かな港に響き渡るのを私は耳にした。
二階の窓から下を見下ろすと、ある光景が目に入った。
アルミン「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。」
あの金髪の少年が、顔を真っ赤にして弓を引いている光景であった。
――――――正直に言ってしまえば、あの金髪の少年が疎ましかった。
何故ならあいつは――――――・・・・・・
・・・・・・・・・・・・―――――ノルドール族だから。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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- 21 : 2015/06/11(木) 01:42:07 :
7年前―――――アルミンが誕生した年。
エレル「ほら、おじいちゃんおばあちゃんにさよならの挨拶をするんだぞ。」
フリーダ「さようなら。」
ヒストリア「また遊びに来るね。」
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- 22 : 2015/06/11(木) 01:42:32 :
エレン「おう、待ってるからな。」
ミカサ「いつでも来るといい。」
これが、私の記憶の中にあるおじいちゃんとおばあちゃんの、最後の記憶。
私はまだ三歳で、二人がどんな困難を潜り抜けたかを知るのはずっと後だった。
―――――二人はとても仲睦まじかったし、そして、とても美しかった。
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- 23 : 2015/06/11(木) 01:43:45 :
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おばあちゃんの首元には、様々な宝石が嵌め込まれた金の首飾り―――――ナウグラミアが輝いているのが見えた。
ナウグラミアに嵌め込まれた宝石の中でも、ひときわ強い光を放っていたのはかの大宝玉、シルマリル。
おじいちゃんとおばあちゃんが、二人でモルゴスから取り返したこのシルマリルは、ミカサおばあちゃんをより美しく輝かせていた。
それから一年して、エレンおじいちゃんとミカサおばあちゃんはこの世を去った。
あのシルマリルによってもたらされた輝きは、有限の命のものにとって輝かしすぎ、却って二人の寿命を縮めることとなったのだと、後から人づてに聞いた。
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- 24 : 2015/06/11(木) 01:56:00 :
おじいちゃんとおばあちゃんが残した大宝玉は、私の父であるエレルが引き継いだ。
人間とエルフの血を引き、ミカサの母である下級神マイアールのメリアンの血も流れている父がシルマリルを身に着けると、それはそれは本当に美しく見えたものだった。
――――――私は、父が大好きだった。
でも父は・・・・・・・・・・・・フェアノールの誓約によって、殺された。
『これを守らぬようなことがあれば常闇に呑まれるべし。
ヴァラであれ、鬼神であれ、エルフであれ、まだ生まれておらぬ人間であれ、あるいは、偉大なると卑小なるとを問わず、善なると悪なるとを問わず、世の終わりの日まで時が世界にもたらすべきいかなる被造物であれ、かれらからシルマリルの一つを奪う者、手許に置く者、所有する者は誰であれ、この世の果てまで、復讐と憎悪をもって追跡するであろう。』
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- 25 : 2015/06/11(木) 01:57:11 :
この誓約に縛られたフェアノールの七人息子が、ドリアスを襲撃してきた。
シンゴル亡き後、王位を継いだ私の父エレルは、屈強な彼ら相手に必死に戦った。
息子たちのうち、ケレゴルム、カランシア、クルフィンを討ち取った。
でも―――――・・・・・・抵抗虚しく、父はフェアノールの長男であるマイズロスに殺された。
同時に、母も、そして、フリーダお姉ちゃんも彼らによって、殺された。
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- 26 : 2015/06/11(木) 01:57:47 :
その目的は一つ・・・・・・・・・・・・シルマリルを取り戻すため。
マンドスの呪いを受けてもなお、誓約に縛られ、常闇に呑まれるのを恐れるあまり、彼らは私の家族を皆殺しにした。
私は・・・・・・・・・・・・ノルドール族が憎い。
――――――ドリアスの滅亡。これは、かの誓約によってもたらされた黒い果実であり、エルフによる忌むべき二度目の同族殺害であった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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- 27 : 2015/06/11(木) 21:34:31 :
- 期待
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- 28 : 2015/06/12(金) 02:03:13 :
- 期待ありがとうございます!
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- 29 : 2015/06/12(金) 02:03:59 :
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そのままアルミンはこの港に居付き、ノルドール族は勿論のこと、ヒストリアの一族であるシンダール族のエルフ達とも親しく交わるようになっていた。
特に武芸の指導を仰いだギル=ガラドや、航海術を指導したキアダンと、アルミンは深い友情で結ばれるようになった。
アルミン「はぁッ!」
ファーラン「うおッ!?」
イザベル「マジかよ・・・・・・ファーランの兄貴がアルミンに投げ飛ばされちまった!」
アルミン「ふぅ、大丈夫かい、ファーラン?」
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- 30 : 2015/06/12(金) 02:05:13 :
アルミンの差しのべた手を、ファーランは素直に取った。
ファーラン「いててて、強く・・・・・・なったもんだね。」
そんな幼馴染み達の様子を、ヒストリアはいつも二階の窓から眺めていた。
ヒストリア「・・・・・・。」
彼女はノルドール族への憎しみからますます心を閉ざし、他のエルフと関わることさえ避けるようになってしまったのだ。
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- 31 : 2015/06/12(金) 02:10:00 :
さて、ある日のこと。日の暮れた船着き場でアルミンは、一人歌を歌うヒストリアを再び見出した。
その首元には、あの時と同じように、光り輝く宝玉がかけられている。
星の瞬く夜であった。
アルミンはそっと、ヒストリアに話しかけようと、近づき始めた。
ヒストリア「・・・・・・よらないで。」
アルミン「えっ?」
ヒストリア「それ以上、近寄らないでッ!」
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- 32 : 2015/06/12(金) 02:10:38 :
一瞬何を言われたのかわからず、アルミンはそのまま立ち尽くした。
ややあって、アルミンが口を開く。
アルミン「君は・・・・・・人間の血を引いているんだってね?」
ヒストリア「だから何?」
―――――アルミンには、ヒストリアの抱えるものの何たるかが、手に取るように分かっていた。
アルミン「暗闇に向かって、君は何を話しているの?」
ヒストリア「・・・・・・・・・・・・あなたへの、憎しみよ。」
アルミン「憎しみ?」
ヒストリア「しらばっくれないでッ!」
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- 33 : 2015/06/12(金) 02:11:19 :
次の瞬間、ヒストリアは剣を抜いた―――――その指には、かつて祖父エレンが嵌めていた、グリシャの指輪が光っている。
ヒストリア「私の一族は、あなたたちノルドールに殺されたッ! だから、私はあなたを殺すのよッ!」
ヒストリアは剣をそのままアルミンに突き立てた。
ヒストリア「!!!」
アルミンは、しかし、剣を右手で握って体から逸らした。
掌が少し切れ、赤い鮮血が滴り落ちる。
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- 34 : 2015/06/12(金) 02:12:34 :
アルミン「・・・・・・確かに僕には、フェアノールやその息子たちと同じ血が流れている。ヒストリア・・・・・・君の言う通り、僕は悪魔の末裔だ。」
アルミンは剣から手を離すと、ゆっくりとヒストリアに近づいた。
アルミン「でも僕には、人間の血が半分流れている・・・・・・僕は半エルフ、君と同じだ。」
ヒストリアの体は、小刻みに震えていた。手から力が抜け、剣を取り落す。
開いたヒストリアの両手を、アルミンは包み込むように両手で握った。
アルミン「だからこうやって、僕は君を包み込むことが出来る・・・・・・・・・・・・心を開くんだ、ヒストリア。君を、一人にはしないから。」
アルミンの掌は・・・・・・暖かかった。
ヒストリア「う・・・・・・うわあぁあぁぁぁッ!!!」
まるで堰が切れたようにヒストリアは泣き崩れ、アルミンの胸に顔をうずめた。
彼女の首元にある宝玉―――――シルマリルは静かな光を湛えていた。
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- 35 : 2015/06/12(金) 02:13:59 :
キアダン「貴方の差し金ですかな? ギル=ガラド殿?」
遠くから二人の様子を見つめていたキアダンは、ギル=ガラドに話しかけた。
ギル=ガラド「さて、何のことか存じ上げませんな。私はただ、アルミンに弓を与えただけなのですから。」
ギル=ガラドは微笑むと、キアダンを残してその場を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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- 36 : 2015/06/12(金) 02:46:20 :
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やがてアルミンとヒストリアは結ばれ、二人の間には珠のような双子が生まれた。
後に裂け谷の領主となり、風の指輪ヴィルヤをギル=ガラドから受け継ぐこととなるエルヴィンと、後のヌメノール王国初代国王にして、ドゥネダインの一族の祖となるエルロスである。
アルミン「じゃあ、行ってくるねッ! 皆ッ!!!」
エルロス「いってらっしゃ~いッ!」
エルヴィン「お父さ~んッ! ファーランさ~んッ!」
ところでアルミンは、このころになると港を留守にすることが多くなった。
すっかり屈強な海の男となったアルミンの心には、常に潮騒の音が鳴り響き、彼を冒険へと導いていたからである。
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- 37 : 2015/06/12(金) 02:47:33 :
キアダン「行って・・・・・・しまわれましたな。」
ヒストリア「あの人は・・・・・・少しもじっとしていないから。」
イザベル「まったく、困ったやつらだよなッ!」
ヒストリア「ふふ・・・・・・じゃあこれからトゥオルじいちゃんとイドリルおばあちゃんのところに行きましょうか?」
ヒストリアもアルミンの冒険心を受け入れていた。
正確に言うならば、アルミンを冒険へとけしかけたのはヒストリアであったのだ。
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- 38 : 2015/06/12(金) 02:51:26 :
一人にしないと約束したものの、アルミンが抑えきれない冒険心を持っていることを、ヒストリアは誰よりも理解していた。
ヒストリア「私のそばでうじうじするくらいなら、でっかく冒険しに行きなッ!」
二人の子供を抱え、すっかり強くなったヒストリアに、アルミンは背中を押される格好になった。
アルミン「・・・・・・きっと、帰ってくるからねッ!」
―――――こうしてアルミンは相棒のファーランと共に、偉大な航海者として名を馳せるようになった。
海という海を探求し、シリオンの港のエルフたちは、アルミンが帰ってくるたびに彼の冒険譚に心を躍らせた。
そして、彼が探検していない海は、ただ一つだけになった。
惑わしの島々―――――ヴァラールが、至福の国ヴァリノールからノルドール族のエルフを締め出すために置いた島々である。
―――――アルミン最後の冒険は、間もなく行われようとしていた。
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- 39 : 2015/06/12(金) 03:01:27 :
- 以上で②が終了になります。
次回が最終話の予定です。よろしくお願いします<m(__)m>
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