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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

星になった航海者 ③ ~アルミンとヒストリアの物語~

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  1. 1 : : 2015/06/14(日) 22:19:12
    星になった航海者、最終話です。



    よろしくお願いします<m(__)m>
  2. 2 : : 2015/06/14(日) 22:22:52























    ――――――――――父と母の失踪。




    そこから、僕の最後の旅――――――いや、戦いは始まった。





  3. 3 : : 2015/06/14(日) 22:24:28







    エルフは不老の存在だ。




    それは、半エルフである僕やヒストリアにしても同様で、歳を取るということがない。















    だから僕は鈍感になっていた――――――やがてやってくる、父の老いに。







    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





  4. 4 : : 2015/06/14(日) 22:26:41








    朝、僕が目を覚ますと、既に父が目を覚まし、椅子の上で本を読んでいた。




    大斧グランボルレグを振り回し、ゴンドリンで戦った往年の剛勇は、87歳を迎えていた。








    僕自身、既に57歳。それでも肉体が衰えるということはない。




    だが、父は老い、髪の毛はすっかり白くなって、顔には皺が刻まれていた。












    トゥオル「おお、起きたのか、アルミン。」




    アルミン「うん、何だか落ち着かなくてね。」





    ―――――――今から考えると、落ち着かなかったのは、僕の中に何か予感めいたものがあって、それが僕を騒がせていたからだと思う。




  5. 5 : : 2015/06/15(月) 10:46:34





    トゥオルはゆっくりと頷いた。




    トゥオル「お前はいくつになっても変わらない・・・・・・それどころか、海への憧れは強くなるばかり、ということかな?」




    アルミン「父さんが、僕に教えてくれたんだよ? あの日、僕の心に強い憧れを目覚めさせてくれなければ、今の僕はいなかったのだから。」











    トゥオル「そうだったな・・・・・・あの日からもう既に50年。私にとっては長い年月だった。」




    まるで遠くのものを望むかのように、父は呟いた。




  6. 6 : : 2015/06/15(月) 10:47:35






    イドリル「あら、起きていたのね。」




    母が目を覚まし、リビングへと入ってくる――――――エルフである母は、やっぱり50年たった今でも変わらない。




    トゥオル「ああ、すまんがな、私に紅茶を入れてはくれないか?」




    イドリル「はいはい、いつものでいいわね?」








    いつもの調子でそういうと、台所が紅茶のかぐわしい香りで一杯になった。




    僕と父と母は、久しぶりに親子水入らずの時を過ごした。









    すると、父がこんなことを言い始めた。




    トゥオル「・・・・・・イドリル、アルミン。私は・・・・・・これ以上ないくらいエルフを愛している。」




    イドリル「あなた?」




    トゥオル「聞いてくれ、お前たち。私は・・・・・・・・・・・・これから至福の国ヴァリノールへと旅立とうと思うんだ。」



  7. 7 : : 2015/06/15(月) 10:48:29









    あまりにも唐突過ぎて、僕は理解できなかった。




    アルミン「つまり・・・・・・どういうことなの?」




    いや、正確に言うと父が何をしようとしているのかは理解できた―――――つまり父は、ヴァリノールのある西方へと航海しようとしている。




    でも、その理由が僕には理解できなかったのだ。











    トゥオル「私はもう・・・・・・老いたからね。」




    静かに話を続けるトゥオル。




    トゥオル「この世界に留まっている限り、私の命は、有限だ。」




  8. 8 : : 2015/06/15(月) 10:49:36






    ――――――この瞬間、僕は父に忍び寄る老いの影を意識した。




    アルミン「つまり、父さんはこの世の外へと旅立ちたい、っていうことかな?」




    トゥオル「そう言うことになる・・・・・・人間の運命から切り離されて、エルフとして私はイドリルと過ごしたいのだ。」










    僕は母の表情を見た。




    母は強く父に共感している様子だった――――――そして僕は、その美しい母の顔に、どこか悲しく光るものを見出すに至った。





  9. 9 : : 2015/06/15(月) 10:50:25








    イドリル「・・・・・・・・・・・・実はね、私も、西方へ行きたいと思っていたの。」




    アルミン「どうして!?」




    僕は驚愕し、思わず聞いてしまった。










    すると、母は悲しい表情を前面に出して答えた。




    イドリル「私は、人間であるトゥオルと結ばれた時点で、エルフに約束された不老の力を失ったの。」




    アルミン「不老の力を・・・・・・失った!?」










    ――――――何で僕はこの時まで気が付かなかったのだろう。




    母も密かに、老いを感じていたことに。




  10. 10 : : 2015/06/15(月) 10:51:15





    イドリル「もっとも、エルフである私はトゥオルよりも長生きすることになるわ。だから、トゥオルがこの世を去った後、私は長い孤独の中を生きることになるの。」




    アルミン「・・・・・・それでも母さんは、父さんと一緒になることを望んだんだね。」




    イドリル「ええ、私は・・・・・・・・・・・・トゥオルと運命を共にする。そう誓った・・・・・・だから、トゥオルが旅に出るというのなら、私はついていくつもりよ。」




    アルミン「・・・・・・母さん。」












    ――――――別れは唐突にやってくる。




    受け入れる間もなく、時は無情にも過ぎていく。













    やがて父と母は、日没する西方へ向けて、遂に船で出航した。




    それから僕らは、両親の姿を二度と見ることはなかった―――――人づてに両親の消息を求めたものの、すべては虚しい徒労に過ぎなかった。








    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






  11. 11 : : 2015/06/15(月) 23:33:31







    両親が去った後、僕はシリオンの港の領主となった。




    領主となってからも、僕はファーランと共によく海に出航しては、大冒険を繰り広げた。








    もしかしたら、両親に会えるかもしれない――――――それをどこかで期待していたことも、僕を冒険へと駆り立てていた。




    やがて、航海者としての僕の名声が高まっていくにつれ、僕の心の中にも、ある思いが生まれていった。


















  12. 12 : : 2015/06/15(月) 23:34:01













    ヒストリア「そう・・・・・・アルミン、あなたも西方へと航海したいのね。」




    僕はイザベルと、愛するヒストリアにこの気持ちを告げた。









    イザベル「私は反対だねッ!」




    アルミン「・・・・・・。」




    イザベル「アルミンまで両親の後を追うことはないだろッ!? それに、今の暮らしには満足していないのかッ!?」







  13. 13 : : 2015/06/15(月) 23:34:26









    確かにそうだ。




    このシリオンの港に来てからというもの、僕らの暮らしは平穏で満ち足りていた。




    ゴンドリンを滅ぼした北方のアングバンドは沈黙し、なぜか僕らに攻撃を加えてくる気配がなかった。




    今考えれば、これは怪しむべきだった。




    そうすれば、これから先起こることに、気が付けたかもしれなかったのに・・・・・・。










  14. 14 : : 2015/06/15(月) 23:35:06







    ファーラン「俺は賛成かな。」




    イザベル「ファーランッ!? 何言ってんだよッ!?」




    ファーラン「俺たちがまだ航海していない海といったら、今や西方の海だけだからね。それに、俺たちはまたここに戻ってくる。そうだろ?」




    アルミン「そうだね、イザベル。これが最後の航海、という訳じゃないんだ。」
















  15. 15 : : 2015/06/15(月) 23:35:29















    真っ赤な嘘だった。




    僕はあらかじめファーランと示し合わせ、話を合わせていた。




    ファーランには、どうしても両親の消息を突き止めたいという話を既にしていた。




    けれど、僕には別に、もう一つの目的があった。




    誰にも明かしたことの無い・・・・・・秘密の目的が。

















    ――――――この二つの気持ちが一つになり、僕を西方への航海へと誘っていたのだ。






  16. 16 : : 2015/06/15(月) 23:36:32







    そんな夫の様子を見越してか、ヒストリアは澄んだ瞳で答えた。








    ヒストリア「・・・・・・私はここで待っているわ、アルミン。」




    イザベル「ヒストリアッ!? いいのかよ、それでッ!?」









    その瞳を見て、アルミンもまた、自分の気持ちが見透かされていることに気が付いた。




    そして、危険が伴う航海ゆえ、ヒストリアを伴うつもりは全くないということまで、ヒストリアは夫の気持ちを察していた。




  17. 17 : : 2015/06/15(月) 23:37:11






    ヒストリア「私には止められないわ。アルミンが今度の航海をどれだけ切望しているか、その瞳を見れば分かるもの。」




    イザベルは最早何も言わなかった。言ったところでアルミンの意思を変えることは出来ないと悟ったからである。
















    アルミン「・・・・・・ありがとう、皆。」




    ――――――こうして僕とファーランは、西方への航海に出ることが決まり、ヒストリアと僕の二人の息子であるエルヴィンとエルロス、イザベルが港に残ることとなった。







    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





  18. 18 : : 2015/06/18(木) 06:24:07























    白い帆の上に立つと、潮風の心地よい。






  19. 19 : : 2015/06/18(木) 06:24:38







    僕の心は、やっぱりここにある・・・・・・・・・・・・水平線の遥か彼方。




    どこまでも広がっていく海原の水面に日の光が輝き、その向こうには未だ見ぬ世界の広がる。









    ファーラン「また水平線の向こうを見つめているのか? アルミン?」




    アルミン「うん・・・・・・出航するたびに、僕はあの向こう側に導かれている気がするんだ。」












    風に帆を上げ、シリオンの港を出航してから既に何時間か経った。




    白い帆は、穏やかな海の微風をいっぱいに受けて、西へ西へと進んでいく。





  20. 20 : : 2015/06/18(木) 06:25:38






    ファーラン「そろそろ見えるころだな。」




    ファーランが呟くと、アルミンが帆から縄を伝って降りてきた。




    アルミン「そろそろ舵を替わるよ、ファーラン。風の様子に注意を払うんだ。ここから先は未知の領域・・・・・・・・・・・・何が起こってもおかしくないからね。」
















    やがて、西の水平線に、数珠状に並んだ島々が見え始める。




    アルミン「あれが・・・・・・・・・・・・惑わしの島々か・・・・・・。」










    船が難所に差し掛かる――――――この海域では島を中心に海流が荒れ狂い、航海を困難なものにしていた。




    船が大きく軋むような音を立て、右に左に大きく揺れ始める。









    アルミン「く、さすがに素直にはいかないか・・・・・・。」




    経験豊富な船乗りであるアルミンも、これほど舵が重く感じられたことはなかった。




  21. 21 : : 2015/06/18(木) 06:26:28






    ファーラン「アルミンッ! 風向きが変わったッ! 嵐がやってくるよッ!!!」




    遠くの空を見やると、黒々とした雲が現れ始める。

















    ゴロゴロゴロ・・・・・・




    ドオォォオォォンッ!!!













    晴天が霹靂し、俄かに波が荒くなる。




    風は西からの強烈な朔風。









    アルミン「くそッ! 舵が・・・・・・きかないッ!!!」












    その嵐の大きさ、まるで神々の怒りが如く。




    西方の地への門は鎖され、厳として入るのを許さない。




  22. 22 : : 2015/06/18(木) 06:27:11







    アルミン「うわぁッ!!!」ゴッ!




    船が大きく傾き、アルミンは転倒して後頭部を強打。そのまま気絶してしまった。




    ファーラン「アルミンッ! く、くそッ!!!」








    ―――――――――――





    ―――――――








    ――――









    ――












    ・・・・・・ミン・・・・・・・・・・・・アルミンッ!!!









    アルミン「・・・・・・いてて・・・・・・ファーラン?」











    漸く意識を取り戻し、アルミンが周りを見渡すと、惑わしの島々ははるか遠くに浮かんでいた。




  23. 23 : : 2015/06/18(木) 06:27:47






    ファーラン「俺だけの航海技術じゃ・・・・・・どうしようもなかったよ・・・・・・。」




    ファーランもまた遠くを見つめ、まるで籠の中に閉じ込められた鳥のように沈黙した。













    アルミン「・・・・・・・・・・・・戻ろうか、僕らの港に・・・・・・。」




    アルミンは失意から、或はヒストリアへの愛しさから、シリオンの港へ戻ることを決断した。




    舵を切り、進路を西から東へと向け始める。





  24. 24 : : 2015/06/18(木) 06:28:21







    ファーラン「!!! アルミンッ! 東の空を見ろッ! 何か飛んでくるぞッ!?」









    ファーランの言葉に促され、東の空を見てみると、燃えるように白い白鳥が、こちらに飛んでくるのが見えた。




    アルミン「こっちに来るッ!!!」











    その白鳥は、静かに船の上に舞い降りると、そのままゆっくりとくずおれた。




    すると、その白鳥はみるみる姿を変え始め、人の形をとり始めた。




    それを見て、アルミンとファーランは驚愕した。

















  25. 25 : : 2015/06/18(木) 06:30:24







    アルミン「ヒストリアッ!?」




    ファーラン「いったい、何がどうなってるのさ!?」








    現れたのは、しとどに濡れた状態のヒストリアだった――――――――その首元には、シルマリルが輝いている。












    ややあって、ヒストリアが目を覚ました。




    ヒストリア「・・・・・・・・・・・・アル・・・・・・ミン・・・・・・私、死んだの?」




    アルミン「君は生きてるよッ!」




    ヒストリア「・・・・・・・・・・・・ごめんね・・・・・・・・・・・・私、港を・・・・・・守れなかった・・・・・・。」




    その言葉の端々に、悔恨と悲哀をにじませるヒストリア。












    ファーラン「守れなかった?」




    アルミン「・・・・・・どういうことなの?」























    ヒストリアは大きく息を吸い込み、そして、語り始めた。




    ヒストリア「・・・・・・・・・・・・同族殺害が、またしても繰り返されたのよ・・・・・・。」








    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






  26. 26 : : 2015/06/18(木) 08:26:09























    シルマリルを持つ者はだれであれ、憎しみをもって追跡する。




    さもなくば、永久の闇に呑まれる。





  27. 27 : : 2015/06/18(木) 08:26:32






    このフェアノールの誓言は、彼の息子達に、これまでも残虐な同族殺害を繰り返させてきた。




    フェアノールの長男と次男であるマイズロス、マグロールは、しかし、このことを非常に後悔していた。












    それゆえ、これまで彼らはヒストリアに手を出さないできた。




    ところが、いよいよこの誓言は彼らを駆り立て、同族殺害へと向かわせることとなった。













    かくして、最も残酷な三度目の、エルフによる同族殺害が、ここに行われた。




    領主であるアルミン不在の時を狙い、フェアノールの息子たちは、シリオンの港を襲撃したのである。





  28. 28 : : 2015/06/18(木) 08:27:33








    イザベル「ヒストリアッ! エルヴィンッ! エルロスッ! 逃げろッ!!!」



    剣を抜いたイザベルが叫んだ。



    その切先はフェアノールの長男、マイズロスに向けられていた。










    港は既に火の手が上がり、侵入してきたフェアノールの息子達につくエルフと、シリオンの港に身を寄せていたエルフの間で、悲しい殺し合いが始まっていた。



    マイズロス「シルマリルを持つヒストリアを渡せッ! そうすればこんなことはしなくても済むのだッ!!!」



    隻腕のマイズロスは叫んだ。









    イザベル「ふざっけんじゃねぇッ!!!」



    イザベルがマイズロスに斬りかかる。



  29. 29 : : 2015/06/18(木) 08:28:06





    マイズロスは、しかし、普段は勇敢な戦士だった。



    いかなる逆境にもめげず、苦しい戦いでも労苦をいとわず、左手のみで戦う壮士。



    そんな彼でも誓いに盲いて、これまで同族をその手にかけてきた。









    ドカッ! イザベル「うわッ!!!」



    マイズロスに蹴飛ばされ、仰向けに転倒。










    ヒストリア「イザベルッ!!!」



    エルヴィン「おばさんッ!」



    エルロス「止めろぉッ!!!」










    ドスッ! イザベル「あっ・・・・・・・・・・・・。」



    マイズロスの非情の刃は、イザベルの左胸を真っ直ぐに貫いた。

















    ヒストリア「いやあああぁぁああぁぁあぁぁあぁあぁぁッ!!!」




  30. 30 : : 2015/06/18(木) 08:28:46






    私は見た。



    アルミンの親友であるイザベルが、赤い血の中に沈んでいくのを・・・・・・。









    私は見た。



    私を守るために戦ってくれたエルヴィンとエルロスが、フェアノールの息子達の内、アムロドとアムラスをそれぞれ討ち取ったのを・・・・・・。









    私は見た。



    エルヴィンとエルロスが、数に押されて遂に敵に捕まってしまったのを・・・・・・。











    そして私は見た。



    マイズロスとマグロールの部下が、悔恨のために主人に楯突き、そして、殺されていくのを・・・・・・。






  31. 31 : : 2015/06/18(木) 08:29:48







    私は遂に、船着き場まで追い詰められてしまった。



    私とアルミンが・・・・・・・・・・・・初めて出会った場所。









    マイズロス「さあ、その首元のシルマリルを渡してもらおうかッ!?」



    マグロール「我らは、我らの誓いのために、シルマリルを求めるのです。シルマリルがなければ、この誓言は解けないのですッ!」












    ヒストリア「・・・・・・・・・・・・いかにもふさわしい罰だッ!」



    ヒストリアは叫んだ。










    ヒストリア「この無慈悲な悪魔めッ! 私の両親は、あんたらに殺されたッ! しかもその理由が誓言のためッ!? あんたらなんか、とっとと闇にでも呑まれちまえばいいんだッ!!!」




  32. 32 : : 2015/06/18(木) 08:30:34





    そのままヒストリアは、船着き場の縁に立った。



    ヒストリア「これは・・・・・・・・・・・・私からあんたらに与える罰だッ!!! シルマリルは永遠にあんたらのものにはならないッ!!!」














    そう言うなり、ヒストリアは身を海に投げた。



    彼らから永遠にシルマリルを取り上げるために・・・・・・・・・・・・。
















    ギル=ガラドとキアダンが救援に駆けつけた時には、すべてがもう終わっていた。



    エルフ最後の憩いの場となったシリオンの港は、他ならぬエルフの手で滅亡したのである。



















  33. 33 : : 2015/06/18(木) 08:31:32







    ヒストリアの命運は、しかし、そこでは尽きなかった。




    水の神であるウルモが彼女を抱き取り、大きな白い鳥の姿を与えたからである。




    ヒストリアは愛するアルミンの元へ、飛翔していった。








    ――――――――――








    ――――――――









    ―――――











    ―――







    ファーラン「そんな・・・・・・イザベルが・・・・・・。」









    アルミン「あはは・・・・・・・・・・・・ははははは・・・・・・・・・・・・。」




    虚ろな笑いを、アルミンは立てた。




  34. 34 : : 2015/06/18(木) 08:32:55






    アルミン「中つ国には・・・・・・もう希望は残されていないんだね。やっとわかったよ・・・・・・・・・・・・モルゴスが手を出してこなかった理由が。」




    ヒストリア「えっ?」










    アルミンの表情が、絶望に変わった。




    アルミン「僕らエルフが・・・・・・・・・・・・こうやって自滅することをあいつは分かっていたんだッ! 何処までも愚かで学ばない僕らを、あいつはどこまでも嘲ってたんだッ!!!」














    すると、アルミンはヒストリアの持っていたシルマリルを、自らの首元に結んだ。




    アルミン「ファーラン。もう一度ヴァリノールを目指そうッ! 僕には・・・・・・すべきことがあるッ!!!」















    こうして、いったんは東へ向けた舳先を、もう一度西へ向け、ヴィンギロトは海原を進み始めた。





  35. 35 : : 2015/06/18(木) 08:34:06






    シルマリルの光は西方へ近づくにつれ、その輝きを増していく。








    惑わしの島々に入り、今まで誰も通さなかった海域に船が進んでいく。




    さっきまでとは打って変わって、波は穏やかになり、天候も安定していた。










    アルミン「・・・・・・・・・・・・思った通りだ。この光が指針になって、僕らを西方へと招き入れてくれるんだ。」




    シルマリルの強い光が、この海域にかけられた魔法からアルミン達を守った。




    こうしてアルミンは、惑わしの島々を初めて通り抜けることが出来たのである。
















    ヒストリア「見てッ!!!」




    やがて、水平線の向こうに僕らは、至福の地、アマンの島の姿を認めた。








    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





  36. 36 : : 2015/06/18(木) 08:34:52







    アルミン「遂に僕らは来たんだね。」




    ファーラン「これでもう、引き返せないね。」




    ヒストリア「なんだかとても・・・・・・静かな場所ね。」










    至福の地アマンは森閑として人気がなかった。




    実はこの日は祝日であり、ここに住むエルフはそのほとんどがヴァラールの神々の宮居に集っていたのである。












    アルミン「静かすぎる・・・・・・何か、あったのかな?」




    胸騒ぎがするのを堪え、アルミンはゆっくりと歩き始めた。



  37. 37 : : 2015/06/18(木) 08:35:14






    ヒストリアもついていこうとすると、アルミンはそれを押しとどめた。




    アルミン「君はここで待っていてくれないか、ヒストリア。」




    ヒストリア「どうしてッ!?」




    アルミン「僕は・・・・・・・・・・・・君にまで神々の怒りが及ぶのが恐ろしいんだ。それに、僕の身に何かあったら、君だけでも船に乗って引き返してほしい。」




    ファーラン「まぁそう言うことだね。大丈夫、アルミンは俺が守るからさ。」
















    ヒストリア「・・・・・・・・・・・・分かった。そのかわり、必ず・・・・・・・・・・・・帰って来て。」




    こうして僕とファーランは、至福の地の奥へと進んでいった。









    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



  38. 38 : : 2015/06/18(木) 08:35:40






    アルミン「・・・・・・なんだか、懐かしい。」




    白い石の町並み美しい、鐘の音響くティリオンの都。




    アルミンの故郷であるゴンドリンは、この街を模して作られたため、アルミンやファーランにはどこかしら、昔を思い起こさせる街並みであった。











    ファーラン「でも、人気がないのは相変わらずだね。」




    アルミン「・・・・・・少し、心配になってきたよ。」




  39. 39 : : 2015/06/18(木) 08:36:04






    すると、街の奥のほうから声が聞こえてきた。




    「よくぞ参られた、アルミン、船乗りの中にて最も世に聞こえし者よ、はからずも来たれる待ち設けられし者よ、望みなきときに来たれる待望せられし者よ! よくぞ参られたな、アルミン、日と月の出づる前の光の所有者よ! 地上の子らの輝き、暗夜の星、日没の宝石、朝まだき時の光よ!」




    アルファラン「「!!!」」










    その声の主はエオンウェ――――――――ヴァラールの神々の長上王、マンウェの伝令使であった。




    エオンウェはヴァリノールから来て、アルミンとファーランにヴァラールの神々の御前に出るように命じた。




  40. 40 : : 2015/06/18(木) 08:36:53






    ヴァラールの神々は協議し、わだつみからウルモを呼び出した。






    長上王、風の神マンウェ


    星の女神ヴァルダ


    鍛冶の神アウレ


    木々の女神ヤヴァンナ


    水の神ウルモ


    偉大なる狩人オロメ


    慈悲の女神ニエンナ


    そして、かの呪いをノルドール族に下した予言者マンドスがヴァラールの宮居に集った。







    アルミンとファーランは、彼らの御前に引き出されたのである。





  41. 41 : : 2015/06/18(木) 08:37:40







    一番初めに口を開いたのはマンドスであった。




    マンドス「汝、何ゆえにここに参ったのだ? 人間の血を引くものがこの地に足を踏み入れるなど、前代未聞のこと。」




    彼の口調は重く、そして、とても厳めしいものであった。











    するとアルミンは、ヴァラールの御前に進み出で、これに答えた。




    アルミン「恥を忍び、私がここに参ったのはほかでもありません。ヴァラールの皆様に、どうしてもお耳に入れたいことがあるのです。」











    僕が秘密にしていたもう一つの目的。




    深く息を吸い込み、アルミンは話し始めた。




  42. 42 : : 2015/06/18(木) 08:38:15







    アルミン「我らが一族は、不当にも同族の血を流し、この至福の地を血で穢しました。同族殺害の罪は重く、とても私の双肩だけでは償うことは出来ません。




    さらに、中つ国へ帰還してからも、我ら兄弟は誓いに盲いて和することをせず、この宝玉を巡って・・・・・・同族殺害を繰り返す結果となりました。」









    いつしかアルミンの瞳には涙が浮かび、頬を伝って静かに流れ落ちはじめた。













    アルミン「モルゴスへの復讐の念は、いつしか我らを縛る足枷となり、遂にモルゴスを打ち破ることなく、却って我々はモルゴスによって悉く滅ぼされました。




    初め私は傲慢にも、マンドスの呪いによってこの結果がもたらされたものと思い上がりました。ですが、我がシリオンの港は、同族であるマイズロス・マグロールによって滅びました。




    つまるところ、すべて我々の身から出た錆であり、罪深き我らの・・・・・・業から出でしものだったのです!」













    ファーラン「アルミン、お前・・・・・・。」






  43. 43 : : 2015/06/18(木) 08:39:06







    アルミン「挙句に我々は、後から生まれし人間達にもこの業を背負わせ、彼らの王国をも、滅亡へと・・・・・・導きました。




    本来私は、ここに来る資格さえない、あさましい身です。しかしながら・・・・・・私は、人間である父トゥオルと、エルフである母イドリルの血を引くもの。




    双方の種族の嘆きを子守唄に今日まで育ってきたのです!」













    アルミンは膝をつき、ついで、両手を床についた。











    アルミン「モルゴスのために、中つ国では多くの嘆きと怨恨が生じました!




    エルフであれ、人間であれ、すべての国は滅ぼされて、良きものは消えかかっています!




    こんな恥ずかしい身であることをお許し下さい!!




    どうか・・・・・・どうかッ! ヴァラールの神々の御助力を賜りたいのですッ!!!」













    そのままアルミンは額づき、泣き崩れて慈悲と助力を乞うた。




    人間とエルフ・・・・・・二つの種族のために、彼らが犯したすべての罪と、彼らから生じたすべての悲しみを背負い、神々に頭を下げ、赦しを乞うたのである。




















    ――――――アルミンの最上の勇気が、ここに示された。





  44. 44 : : 2015/06/18(木) 08:40:41






    すると、ヴァラールの長上王、サファイアの如き髪と瞳を持つ風の神、マンウェは立ち上がった。










    マンウェ「二つの種族への愛のためにアルミンが冒した危難を、彼の身に降りかからせてはならない。また、彼への愛、または友情のために、自ら同じ危険に身を投じた彼の妻、ヒストリア。そして、彼の友人たるファーランにも降りかからせてはならない。




    とは言え、彼らを再び外なる陸地のエルフや人間の間に帰らせるわけにはゆかぬ。




    彼らに関する我が判決は次の如くである。




    アルミンにヒストリア、その友人たるファーラン、およびエルヴィンとエルロスに、いずれの種族に属したいか、またいずれの種族の元にあって裁かれたいか、自由に選択することを許そう。」
















    ―――――――神々は待っていたのである。




    人間とエルフ、二つの種族を代表し、その悲しみを代弁できるものを。











    アルミンの祈りは、ヴァラールの神々によって聞き入れられた。







    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





  45. 45 : : 2015/06/18(木) 08:41:46







    その頃、ヒストリアはテレリ族のエルフに迎えられ、ドリアスやゴンドリンの滅亡のこと、そして、シリオンの港の襲撃のことを話していた。




    ノルドール族のフェアノールによって襲撃され、同族を殺害されたテレリ族であったが、その後のノルドール族の悲惨な運命を知り、涙するものも多かった。












    やがて、ヒストリアの許に、マンウェに遣わされたオローリンが現れた――――――マンウェに使える下級神マイアールの一人であり、後に中つ国へ赴き、ガンダルフとして知られるものである。




    オローリン「ヒストリア殿、ヴァラールの長上王、マンウェ様がそなたを待っておられる。このわしについて来てくれんかのう?」







    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





  46. 46 : : 2015/06/18(木) 08:42:39






    ヒストリア「アルミン!」




    ヴァラールの宮居の中で、ヒストリアはアルミンを見るなり、我を忘れて飛びついた。




    アルミン「あぁ、ヒストリア。心配をかけて本当にゴメンね。」




    アルミンはヒストリアを包み込むように抱きしめた。









    この様子を見た海の神、ウルモは彼らに問うた。




    ウルモ「さぁ、教えてくれ。君たちはエルフなのか? それとも、人間なのか? どちらの種族に属したいのかを、ここで決めてくれ。」




  47. 47 : : 2015/06/18(木) 08:43:07







    アルミン「君が決めてくれ、ヒストリア。」




    ヒストリア「私が?」




    アルミン「うん、僕はもう、この残酷な世界に倦み疲れたから・・・・・・。」










    ヒストリアは、祖母であるミカサと同族であることを望み、エルフであることを選択した。




    アルミンは、父親であるトゥオルと同族でありたいと思ったのであるが、ヒストリアのために同じ選択をした。




    ファーランはそもそもエルフであったが、友のため、改めてエルフであることを選択した。













    そして彼ら三人は、エルフとして長上王の判決を受けたのである。











    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





  48. 48 : : 2015/06/18(木) 08:44:18








    アルミン達が乗ってきた船、ヴィンギロトはヴァラールによって作り直され、清められた。その結果、ヴィンギロトは今まで見たことの無いほど美しい帆船へと生まれ変わった。




    そして、その舳先には航海者アルミンが座った――――――その首元にはナウグラミアがかけられ、シルマリルの光が燦然として輝いた。











    ファーランが舵を取り、ヴィンギロトは天つ原へと出航した。




    外なる海を航海し、世界の果てにある朝の門や夜の扉を通って、時無き虚空へと旅をすることがアルミンに課せられたのである。











    初めてアルミンが天つ原を出航したとき、地上からは新たな星が水平線の彼方から現れたように見えた。




    この星の出現を予想したものは誰もおらず、この星はギル=エステル(いと高き望みの星)とも、後には航海者アルミンの星とも呼ばれた。




    この星が見られるのは、アルミンが朝の門、夜の扉から虚空へ向かう、或は虚空から戻る際であり、明けの明星、宵の明星として今では知られる星である。




  49. 49 : : 2015/06/18(木) 08:47:28





    この旅にヒストリアは同行しなかった。前人未到の虚空への旅にヒストリアが耐えられるかどうか分からなかったからである。




    その為、世界の最果てに、ヒストリアのために白い塔が建てられた。




    鳥たちは彼女に飛翔の術を教え、ヒストリアは白い翼で自由に空を飛びまわった。




    そして、愛する夫が虚空から地上(アルダ)へと戻る際に、その翼で夫を出迎えに行った――――――丁度、海水の中に身を投げた後、ウルモに与えられた翼でアルミンを探しに行ったように。




  50. 50 : : 2015/06/18(木) 08:48:28






    この星を見た者は、もはや絶望しなかった。




    ――――――いつか祖父トゥアゴンが予言したとおり、アルミンは人間とエルフの救世主となり、星となって人々に希望を与える存在となったのである。




    一方で、モルゴスの心は疑念で満たされた。











    とは言え、モルゴスはヴァラールの襲撃を全く予期していなかったという。




    彼の増上慢は留まるところを知らず、彼に向かって公然と戦いを仕掛けてくるものなど、もはやいないと考えていたのである。




    しかも、ヴァラールは至福の国に満足し、中つ国には干渉してこないと考えていた。




    憐れみの心を持たぬものには、憐れみとは常に未知なる、推測不可能なことなのである。


















    そんなモルゴスをよそに、ヴァラールはアルミンの祈りを受け、いよいよ進撃の準備を整えた。








    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




  51. 51 : : 2015/06/18(木) 08:50:01








    西方(ヴァラール)北方(モルゴス)の一大決戦は、怒りの戦いと名づけられた。













    マンウェの伝令使、エオンウェが挑戦のラッパを吹き鳴らし、美しくも恐ろしい武器を炎のように煌めかせ、ヴァリノールから一度も離れたことの無かったエルフの軍勢が上陸。





    一方、モルゴスはアンファウグリスに入れられないほどの全兵力を動員し、ヴァラールの軍勢を迎撃。





    ――――――ベレリアンド北方全体が、戦火に燃え上がった。





  52. 52 : : 2015/06/18(木) 08:50:35





    初めこの戦いは、ヴァラール軍が優勢であった。




    無数のオークの軍勢は、大火の中の藁しべの如く消滅するか、熱風の前に縮れ上がった木の葉のように掃討された。




    バルログはごく少数が近づき難い地下に隠れ潜んだほかは、すべて殲滅された。












    さて、モルゴスは自分の築き上げた勢力が雲散霧消するのを見て怖気づき、中々姿を現さなかった。




    ヴァラールの軍勢は、一気にアングバンドへと進撃した。





    だが――――――・・・・・・








  53. 53 : : 2015/06/18(木) 08:51:06








    ゴアァアアァァアアァァッ!!!









    モルゴスはかねてから準備していた死に物狂いの反撃に出た。




    アングバンドの地下抗から、巨大な翼を持ったドラゴン達が次々と進撃を開始したのだ。










    その勢い、まさに嵐の如く、破滅的な炎と雷の嵐を伴って、ヴァラールの軍勢を蹂躙。




    勢いよく進撃してきたヴァリノールのエルフたちは、破滅の炎に呑まれ、灰となって消え失せた。













    ヴァラールの軍勢は押し戻され、戦いはモルゴス優勢となった。




    ドラゴン達の無慈悲な進撃は、ベレリアンドのありとあるものを破壊し始めたのだ。





  54. 54 : : 2015/06/18(木) 08:51:57







    その時であった。




    突如として、西の空に、白い炎が燃え上がった。




    押されていたヴァラールの軍勢は、その眩しい光を仰ぎ見た。


































    アルミン「さぁ、いくよッ! ファーランッ!!!」




    ファーラン「まかせとけよッ!」









    天駆けるヴィンギロトに乗り、星になった航海者、希望の救世主、アルミンが参戦したのである。




    その首元にはシルマリルの光が燦然と輝き、その白き炎に導かれ、様々な大鳥たちが飛来。その指揮官は大鷲であるソロンドールであった。




  55. 55 : : 2015/06/18(木) 08:52:27






    アルミン「いよいよ決戦の時だね。」




    アルミンはドラゴンの軍勢の中に、かの黒龍アンカラゴンの姿を認めた――――――ゴンドリンの守りを切り崩したアンカラゴンと、アルミンは遂に相まみえたのである。










    アルミン「取り舵いっぱいッ!」




    アルミンめがけ、ドラゴンが飛来。大小さまざまな火球をファーランの舵ですり抜けていく。










    アルミン「おおぉおおぉぉおぉぉぉッ!!!」




    赤々と燃えるような紅蓮(ルイン)の弓矢を力いっぱい引くアルミン。




    かつて祖父に、そして伯父に鍛えられた強弓の名手の一撃は、ドラゴンの堅いうろこを突き破るほどに強力であった。





  56. 56 : : 2015/06/18(木) 08:53:11





    ヒュンッ!!!




    ドスッ!!! ドラゴン「ギャアァウゥゥゥッ!!!」




    放たれた矢は、11時の方角から飛来したドラゴンの心臓を貫いた。




    アルミン「よしッ! 討伐数1ッ!」




    ファーラン「油断するなよッ!? まだまだ来るぞッ!!!」










    アンカラゴン率いるドラゴンの軍勢と、アルミン率いる大鷲を中心とした軍勢が正面から衝突。




    その日は夜を徹して、形勢不確かなまま、激しい空中戦が繰り広げられた。




    ベレリアンド中の上空が戦場と化し、逆巻く炎がまるで昼間のように、ベレリアンド中を照らし出した。




  57. 57 : : 2015/06/18(木) 09:30:06






    ファーラン「アルミンッ! 6時の方向に敵だッ!!!」







    後ろから飛来したドラゴンがヴィンギロトに飛びついた。




    アルミン「うわッ!」








    バランスを崩し、転倒するアルミンにドラゴンは襲い掛かった。アルミンを掴もうと、その手を伸ばす。




    アルミン「はぁッ!!!」




    ズバッ! ドラゴン「ギャアウウゥッ!!!」




    咄嗟にハザファングの剣を抜き、ドラゴンの手を切りつける。








    ファーラン「うおおぉおぉぉッ!!!」




    ドスッ! ドラゴン「グギャアアァアアァアッ!!!」




    ファーランがグランボルレグの大斧でドラゴンの手を切断。痛みにたじろいで思わずとびだったところに、アルミンが弓でとどめを刺した。



  58. 58 : : 2015/06/18(木) 09:30:38






    そのまま船はまっすぐ進み、いよいよアンカラゴンの前に出た。




    アンカラゴン「グオオオオオオオオオッ!!!」




    その咆哮は大地を揺るがし、天をも震え上がらせた。









    アルミン「!!! 来るよッ!!!」




    ファーラン「分かってるってッ!!!」








    アンカラゴンの口から、ゴンドリンの山脈を崩した炎が噴き出した。




    その一撃は遠く山脈を破壊し、集落を飲み込んで炎に包んだ。








    アルミン「うおおぉおぉぉッ!!!」ヒュンッ!








    アルミンが放つ、燃えるような一撃。




    その一撃は、しかし、アンカラゴンを一撃で仕留めることは出来ず、うろこを一枚剥がすのみであった。



  59. 59 : : 2015/06/18(木) 09:31:20






    アルミン「く、硬い・・・・・・。」




    ファーラン「流石にあの日のドラゴンは違うね!」








    その巨大な翼を広げたアンカラゴンは、竜巻の如き風を巻き起こしながら、ベレリアンドの上空を飛行。




    展開するヴァラールの軍勢をその炎で駆逐していく。











    ファーラン「どうする? 並のドラゴンは倒せても、あいつは簡単にはいかないね!」




    アルミン「でも、さっきの一撃でうろこが剥がれた。チャンスがあるとすればそこだ・・・・・・・・・・・・いいかい、ファーラン。今から言う作戦を頭に入れておくんだ!」








    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





  60. 60 : : 2015/06/18(木) 09:31:49








    アルミン「うおおぉおぉぉッ!!!」









    アルミンの船がアンカラゴンに急接近。




    船を見たアンカラゴンはここぞとばかりに炎を吹きだした。









    アルミン「今だッ!!!」




    ファーラン「おおおぉおおぉぉぉッ!!!」









    間一髪炎を交わすヴィンギロト。




    その船の上で、アルミンは矢をつがえ、狙いを定めた。












  61. 61 : : 2015/06/18(木) 09:32:14















    咄嗟にうろこの剥がれた部分をかばうアンカラゴン。




    しかし、アルミンの狙いはそこではなかった。









    ヒュンッ!




    ドスッ! アンカラゴン「グアアァアアァアァァァアアァアァァァッ!!!」










    紅蓮の一撃はアンカラゴンの左目を抉った。





    アルミン「よしッ!!!」




    余りの激痛にのたうち回るアンカラゴン。そして、アルミンはこの隙を逃さなかった。





  62. 62 : : 2015/06/18(木) 09:32:40













    ヒュンッ!




    紅蓮の弓矢は今度こそうろこの剥がれた部分を捉え、アンカラゴンの心臓を貫いた。











    アンカラゴン「ガアアアアアァァァアァァアァァァァァァアアァァァァ・・・・・・・・・・・・」




    遂にアルミンは黒龍アンカラゴンを仕留め、空中から彼を放り投げた。




    アンカラゴンの亡骸はサンゴロドリムの塔に落下し、塔はこぼたれた。





  63. 63 : : 2015/06/18(木) 09:33:03






    やがて夜が明け、勝利を得たヴァラール軍は、再びアングバンドへ進撃した。








    ヴァラールの力はアングバンドの地下抗にまで達し、穴という穴は剥き出しにされ、残らず天日に晒られた。




    モルゴスは地下抗の一番奥深くに逃れ、遂に絶体絶命の立場に追い込まれながら、なお往生際悪く立てこもっていた。











    アングバンドの最下層に進撃したアルミンとファーランは、遂に憎悪と恐怖の支配者に対面した。




    彼らに対し、モルゴスは考えられない行動に出た。

























    和睦と容赦を乞うたのである。




    丁度、かつてヴァラールの神々に見せかけの改心をして、鎖から解き放たれた時のように。






  64. 64 : : 2015/06/18(木) 09:33:51







    その行為は勿論、二人の激しい怒りを買った。




    アルミン「君にかける情けなんて・・・・・・あるわけがないッ!!!」




    ファーラン「だねッ!」











    アルミンとファーランがモルゴスに斬りかかり、モルゴスはふたりに両足を切断され、俯け様に倒された。




    モルゴス「ぐおおぉおぉおぉぉぉッ!!!」









    そのままモルゴスは膝と頭が付くほど体をくの字に折り曲げられ、彼が以前括られたことのあるアンガイノールの鎖でがんじがらめに括られた。




    彼の鉄の冠は、首に嵌める鉄の環に打ち直され、彼の王冠から残った二つのシルマリルは取り外された。











    アルミンとファーランは、取り外されたシルマリルをそれぞれ手に持った。




    アルミン「ようやく・・・・・・終わったよ。じいちゃん、父さん、母さん・・・・・・。」














    ――――――かくして北方のアングバンドの勢力は滅び、モルゴスの邪悪な王国は打ち倒された。





  65. 65 : : 2015/06/18(木) 09:37:07






    西方と北方、二つの勢力のぶつかり合いは凄まじく、ずたずたに切り裂かれたベレリアンドには、海水が轟轟と流れ込んだ。




    谷は隆起し、山は踏みつぶされ、シリオンの大河は最早存在しなかった。















    ベレリアンドと呼ばれた地方はこうして水没し、中つ国の地図から姿を消したのである。




  66. 66 : : 2015/06/18(木) 09:49:23







    ヴァラールの神々は生き残ったエルフ達に、ヴァリノールへと帰還するように勧めた。




    しかしながら、マイズロスとマグロールは、フェアノールの誓言によって、これを厭う気持ちで一杯であるにもかかわらず、なおもシルマリルを神々に要求した。








    彼らに対し、エオンウェはこう応じた。




    エオンウェ「シルマリルは初め、確かにフェアノールと、その息子たちのものであったかもしれぬが、誓いに盲い、あらゆる蛮行を重ねた結果、特にエレルの殺害と港の襲撃によって、誓いは無効となった。汝らはヴァリノールへと帰還し、ヴァラールの判決をうけるべきである。」












    しかし、彼ら兄弟はこれを信じず、エオンウェの陣営に保管されていたシルマリルを盗み出した。



    盗み出したシルマリルは、マエズロス、マグロール両名が、めいめいひとつづつ受け取った。




    マイズロス「これでシルマリルの所有権が我らにあることははっきりした!」










    だが、シルマリルは二人の兄弟の手に耐え難い激痛を与えた。




    シルマリルの聖なる光は、ふさわしからぬものの肉体を焼く。そして、ついに彼らは誓いが無効になり、所有権も消滅したことを悟ったのである。









    絶望に苛まれたマイズロスはシルマリルを抱えたまま、燃え盛る火口に身を投げて死んだ。




    一方マグロールは、苛むシルマリルの痛みに耐えかね、遂にそれを海中に投じた。そして、波打ち際で苦しみと悔恨の歌をしばらく歌い続けた後に失踪した。











    かくしてシルマリルは、それぞれに安住の地を見出した。








    一つは星の瞬く天空に。



    一つは燃え盛る大地の懐に。



    一つは暗く深きわだつみの底に。








    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






  67. 67 : : 2015/06/18(木) 09:50:21






    アルミンの祈りによりノルドール族はマンウェの愛とヴァラールの許しを被り、マンドスの呪いはここに停止された。




    しかし、長年住み慣れた中つ国を去りがたく思うエルフも多く、ノルドール族の初期の指導者達のうち、ただ一人の生き残りとなったガラドリエルは、ドリアスのケレボルンと共に中つ国に残った。




    上級王ギル=ガラドとキアダンも中つ国に残り、ヴァリノールへと帰らなかったノルドール族を集め、わずかに水没を免れたベレリアンドの地であるリンドンに灰色港を築いた。










    アルミンとヒストリアの双子の息子は、それぞれの選択をした。







    エルヴィンはエルフの側に留まることを選択し、ゴンドリンにゆかりのあるハザファングの剣と、夕星の光を湛えたネックレスを受け継いだ。これは後に彼の娘であるペトラに引き継がれた。




    一方エルロスは人間として有限の命であることを選択した。その為、祖父トゥオルのグランボルレグの大斧と、ヒストリアの祖父であるエレンが身に着けていたグリシャの指輪を引き継いだ。大斧は失われたが、指輪は後に子孫であるリヴァイへと伝えられることとなった。




  68. 68 : : 2015/06/18(木) 09:51:18







    モルゴス自身はいかなることになったかといえば、彼は夜の扉から、時無き虚空へと放逐され、世界の壁の上には絶えず見張りが置かれ、天空の障壁からはアルミンが見張っていた。




    しかしながら、呪われたる強者メルコール。憎悪と恐怖の支配者モルゴス・バウグリアが、人間とエルフの間に撒いた数々の虚言は撲滅されることもなく、時折目を吹き出し、最後の日に至るまで、黒い果実をつけるであろう。







  69. 69 : : 2015/06/18(木) 09:52:17









    アルミン「じゃあ、また行って来るね、ヒストリア。」




    ヒストリア「戻ってくるのを待ってるわ、アルミン。」

















    今日もアルミンは、星の瞬く天つ原から時無き虚空へと出航する。













    ~星になった航海者~




    永遠の旅人は、未だ還らず。












  70. 70 : : 2015/06/18(木) 09:59:03
    以上で終了になります。



    ロード・オブ・ザ・リングでガラドリエルの玻璃瓶に込められた光というのは、実はシルマリルの光であったということです。



    王の帰還において、この玻璃瓶は大活躍する予定です。



    最後は駆け足でしたが、いかがだったでしょうか?



    感想を頂けると嬉しいです。

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hymki8il

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星になった航海者 ~進撃×ロード・オブ・ザ・リング番外編~ シリーズ

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