とあるエンジニアの恋愛事情
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- 1 : 2015/04/22(水) 14:29:26 :
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「ねえねえ、君はなんのお仕事してるの?」
「えっ」
目の前の巨乳女子は僕に尋ねる。
本日の合コン現場に来ている中では一番綺麗で気も良さそうで、なんといっても豊満なお胸がとても素敵な女性だ。
僕、成志快(なるし かい)22歳は、就職したばかりの職場の上司からの紹介で普段飲めないお酒を無理やり飲み、勢いで合同コンパなる男女の出会いの機会へ参加していた。
「えっと、僕はですねえ」
まあ、今考えると馬鹿なことを発言したもんだ。
僕の職種である『エンジニア』という仕事は、同業者では理解があっても普通の一般人にとっては『何をしているのかよく分からない』と言われがちである。
なのに僕は、自身が酔って勢いづいていることさえ気が付くことなく、彼女にプログラミングやエンジニアとしての魅力を随随と話してしまった。
「エンジニアなんですよー」
「へー。エンジニア! ごめんなさい、よく聞く職種ではあるんだけどあまり内容は知らないの。どんなお仕事してるの?」
「えへへ。聞いてくれますー?」
ここから先は描かなくても大体判ってくれるだろう。
彼女に有無を言わせることなく、僕は自身のシステムエンジニアとしての誇り、そして自我論をぶちまけてしまった。
御分かり頂ける方は判るだろうが、エンジニアとはいわゆるインターネット上にサイトを作ったり、利便性に長けたシステム開発を行ったり、クライアント(依頼者)から開発の案件を受託し、お相手様にシステム自体を納品したりするものだ。
と言われても分からない方々が大半かもしれないで簡単に言うと、『IT業界』というやつで、僕らがいないとネット界は死んでしまうとまで言われている。
システム開発と言われると『地味』と捉われるかもしれないが、先に言ったように僕らがいないと世界は回らないのである。もちろんそれに付随して、人員が少ないことから給料は良い。
そんなことはどうでもいいから、お話の続きを教えろって?
まあ、客観的に見て分かるじゃないか。
普段PCに向かいっぱなしで大学でも勉強かブラゲーしかしてこなかった僕だぞ。
コミュ障とまで噂された僕が、酔っ払って合コンに参加した。事実はそれだけで十分ではなかろうか。
故に答えは既に決まっているが、あえて言おう。
その巨乳の子を家に持ち帰ってワンナイトラブを過ごしたのは良い思い出さ。
すいません嘘つきました。
その一次会で僕の熱弁を聞き圧倒的に引いた女性の方々は、二次会のカラオケが終わるまで僕とお喋りを交わしてくれることはなかった。
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- 2 : 2015/04/22(水) 14:30:30 :
『とあるエンジニアの恋愛事情』
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- 3 : 2015/04/22(水) 14:55:26 :
____朝。
僕はいつもどおり午前10時半に部屋の窓を開ける。
生憎今日は雨だ。窓から美しい光が差し込むことはない。まるで僕の曇り模様を表してくれているようだ。
頭痛がする。吐き気もだ。
昨日の合コンでやらかしてしまった後悔と、調子に乗って飲み過ぎてしまった自分を悔やむ。
とりあえず枕元のiphoneを確認する。
時間の確認+ソーシャルネットワーク関係の確認だ。
「……うわ」
と同時に、僕の心は深い嫌悪感に襲われる。
上司からのLINE連絡では、僕がカラオケで大好きなアニメソングを熱唱している写真が10枚以上も貼り付けられていた。
失態以後女性と喋ることが出来なかった僕は、カラオケでもまた飲み過ぎ、そのテンションをMAXにさせていたようだ。
最後の写真には、その上司と巨乳女子のキス写真。
僕の中でのカラオケ内のテンションの上がり具合とは間反対に、僕の心はド底辺まで落ち込んでいた。
「……んだよ。自慢かよ」
フェイスブックやツイッターも確認したかったが、イライラが募りやめた。
まあ、上司はイケメンでもあるし仕事もできる。それに昨日の僕の失態から思うと巨乳女子が上司と恋に落ちるというのはごく自然な流れだ。
カラオケが終わっても始発までは時間があったし、このキスの写真から察するに巨乳の女性は既に上司と肉体関係を結んだだろう。
別に悔しい訳ではない。
こんなことはいつものことだし、これが社会で言う『普通の流れ』なのだ。
学校でも喧嘩が強い奴がかわいい女子にモテたり、運動できる奴がチヤホヤされたりするじゃないか。それと同じだ。
ただ、僕はもう『エンジニア』。
大学の研究等で資金が得られない存在ではない。やり方次第では年収1000万等を超すことも可能であろう。
そうなれば女子目線も変わってくるのが生きる上の流れという奴だ。ネットにもそう表記されている。
3大3Kという言葉が昔あったらしいが、結局は稼いだもの勝ちだし、自分の特徴のない顔であってもそこそこの美人と結婚できる。はず。
気分はむやむやとしていながらも、僕は普段ずっと空の冷蔵庫を開けグレープフルーツ100%のジュースを流し込んだ。
上司から聞いたのだけれど、飲んで頭痛がするときはこれが一番効くそうだ。
「はぁ~ぁ……」
さすがに苦味が強い100%ジュースは胃にくるものがある。
ただまあ、目は覚めてきたしさっぱりはしたので、僕はもう一度携帯を確認することとした。
すると、LINEには見知らぬ名の登録を確認。
__誰だこれ。
LINE名:ぽち
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- 4 : 2015/04/22(水) 15:00:05 :
◇
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- 5 : 2015/04/22(水) 15:27:06 :
「と、突然、ごごごごめんなさいっ」
「……」
僕の目の前いるのは『ぽち』さん。
あ、いや。犬とかじゃなくてれっきとした女性である。今のところは本名は不明。
髪は赤みがかかった茶色のショートヘア。お世辞にも光る黒縁眼鏡が似合っているとは言えない。
色白ですらりとした体型は好感が持てるものの、気に食わないのはその突出していない胸だ。
別に僕もまな板を否定したい訳ではないが、がっかりしたのは男としての自然の感情であります。
「……で、僕になんの用ですか?」
仕事終わりに腹を空かせた僕は、苛立ちを隠せずに彼女に質問した。
あ、説明不足のようなので簡単に言うとだけど、この女性は昨日のコンパにいた女性の一人らしい。
僕は酒に酔ってほとんど何も覚えていなかったが、カラオケで2~3の会話を交わしたそうだ。
そこでLINEIDを交換していたらしく、今日改めて僕に連絡をしてきてくれた。
ていうか、こんな子いたっけ。
巨乳女子にしか目が行っていなかったから正直思い出せない。
「えっとぉ……あのぉ……その……」
彼女はモジモジしながら僕から目線を逸らし何かを話そうとしている。
どんだけ気が弱いんだよ。コミュ障と謳われた僕も尊敬するレベルだ。
「お客様、ご注文は?」
彼女が話し出す前に、喫茶店の店員が注文を聞いてきた。
まあそりゃ、5分くらいこの状態が続いてるんだから当然か。
とはいえお腹もすいていたし、僕はパスタセットと紅茶を注文した。彼女は店員に話すことも苦手なのか、水だけで良いと答えた(と思う。声が小さくて聞こえなかった)。
「えーっと」
ここは僕が話を切り出した方が良いのだろうか。
特段可愛いという子ではないけれども、仮にも彼女は女性だ。
相手のことを考えて行動する男は紳士であると(漫画から)教わったし、ここは僕がお話をしやすい環境を作ってやろう。
「あの、ゆっくりで」
「あの、実は!」
「……」
「……」
完全にやってもーた。
この子今にも理由話しそうだったのに、僕が言葉を発したことでそれを完全にシャットアウトした。
自分では理解しているけれど、何故ここまで僕に情けない男スキルが発動するかな。もう本当。勘弁してよ。
「あの……ど、どうぞ。すいません話折っちゃって」
「あっ、い、いえっ! 私こそごめんなさい!」
「……」
「……」
え、なにこれ。
まだこのだんまり空間が続くの?
まさかパスタが出来上がるまでこのままの状態じゃないだろうな。
「あ、あのー……」
と思っていると彼女が勇気を振り絞ったのか、上目遣いで僕を眺めながら言う。
「な……成志さんは……エンジニアさん、ですよ、ね?」
……うん、まあ、そうだけど。
そこまでコンパで話してたのか僕は。
あいや違う。そこまでどころじゃなく延々とエンジニアトークしてたもんな。
過去を思い出し僕は少し顔を赤らめた。
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- 6 : 2015/04/22(水) 17:12:07 :
「えーっと……まあ、はい。そうです、エンジニアです」
「よ、よかったです!」
『ぽち』さんは一瞬笑顔になりそう言うと、再び顔を下へ向け恥ずかしそうにする。
そして黙る。
おい。
まさか一言一言でこんなに間を取るんじゃないだろうな。正直君が何を言いたいのか分からんぞ。
「……あの、それで?」
「ひゃっ、はいっ!?」
「え、いや。僕がエンジニアだから、どうしたんです?」
「あっ! えっ! そ、それでですね、えーっとえと……」
彼女が慌てふためいている内に注文したパスタセットが届いた。
彼女は汗かきなのか緊張からなのか、バッグの中からハンカチを取り出し額を拭いている。
ふむ、やはり僕がイケメン過ぎて緊張を隠せないのだろうか。
全く、罪作りな男だぜ僕は。
ナルシストは女性に好まれないだって?やかましいわ。たまにはいいじゃないか僕だって優越感に浸りたいときはある。
「その……て、手伝ってほしいことが、あ、あるんです!」
僕が妄想を膨らませパスタを口に含もうとした瞬間、彼女はいきり立って僕にお願いをする。
「あっ! ご、ごめんなさいっ。食べてる途中に……」
口を開けた僕を見て、彼女は再び申し訳なさそうにした。
もう、なんだろう。この子の前で何をしても僕は申し訳なく思われてしまうのだろうか。
「いえ、大丈夫です。手伝ってほしいこととは?」
僕はフォークと絡めたパスタを皿に置き、彼女に問うた。
「……開発関係ですかね?」
「あ、い、いや。開発というか、バグの修正というか……」
「バグ?」
「はい。うちの会社でこれから運営していこうと思うアプリなんですが、リリース前に多数のバグが認められて……」
「……はあ」
バグ、というのは一種のウイルスのようなものだ。
どれだけ自信を持って開発を完成させても、このバグだけは完全に取り除くことはできない。
彼女が言っている『アプリ開発』という言語からして、何かゲーム系の案件を完成させたのだろう。
ようはそのテストプレーをしている最中にバグが見つかったから、僕に取り除いてほしいと言っているのだ。
しかし、考えてみてくれ。
そのゲームを開発した『エンジニア』は、彼女の会社にいるはずだろう。
ならその人にバグ修正をお願いするのが筋だと思うのだが……。
「それ、君の会社のアプリだよね? 開発した人がバグ修正すればいいんじゃないの?」
と、僕は素直な意見を彼女に伝える。
「……それが……」
「?」
「開発者の方が、リリース前から連絡が取れなくなりまして……」
「ありゃま」
「というか、元々納品の時点で契約が切れますから、その方が連絡に応じなくても契約違反にはならないんです……」
「……それは契約書自体が悪かったね。リリース後も修正やプラスの開発で連絡を取るor責任を負うという規約を明確にすればよかったのに」
「うう……そうなんですが……うちのチーフ、そういうとこ勢いで突っ走っちゃうタイプなので……」
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- 7 : 2015/04/24(金) 15:11:53 :
「ふうん」
僕は彼女の言い訳を聞き流すようにしてパスタを口にした。
だってお腹空いてたんだもん。
この子の言うとおりなら今の現状として、契約書通り開発者とは連絡は取れず、残ったバグ作業を僕に頼みたいという頼みなのだろうな。
ふむどうするか。
僕もアプリのバグを取り除く仕事なんて楽しそうではあるんだけど、正直今は就職したばかりの会社の仕事で忙しいし……
「うぅ……」
項垂れるように落ち込む彼女を見ると、多少は力になってやりたいところであるが、はっきり言って今の現状で僕が別案件を抱える訳にはいかない(今の会社の仕事もあるし)
ということで、悪いけど。
「ごめんね、僕はこの」
「せ、成功したら、1000万円を差し上げますっ!!」
「………………は?」
再び僕らは声が重ね合ってしまった。
ていうか。えっ。1000万と言ったのかこの子……?
ちょっと待てちょっと待て。
たかがアプリのバグを取り除くことで1000万もらえるなんて聞いたことがないぞ。
いや、そりゃあ莫大なアプリとか世界のITの一端を担う開発アプリなら分からない金額でもないが、あまりにも多すぎる。
「えっと、僕の聞き違いかな? 1000万円の報酬がもらえるって聞こえたんだけど」
「は、はい! その通りです! バグを除去して頂いたら1000万円を差し上げます!」
「…………」
いや本当、マジで言ってんのかこの子。
値段もそうだけど、なんで僕に頼むの?
未だ大学を卒業してたかが2か月しか立っていない僕が、いきなり1000万円の案件を請け負うだって?
……怪しい。怪しすぎる。
こんな上手い話がある訳ないだろ。
「や、やっぱり……む、無理ですかね……?」
「……無理というか、なんというか……普通に考えてこんな話おかしいよね。バグを除去しただけで1000万円とか」
「う、うぅ……そ、そうですよね……」
『ぽち』さんは曇る黒縁眼鏡を拭きながら、更に申し訳なさそうにした。
……つかこの子今何歳なんだ。
合コンの時には気が付かなかったけど、その態度からも年齢はかなり低いように見える。最悪高校生と言われても遜色ない。
しかしまあ、こういう風に女性に頼りにされるのは男として悪くない気分だ。守ってあげたいという気持ちになる。いや、守ってあげるような女性とはこの年まで無縁だったけども。
「……まあ、興味はあるのでお話は聞いてみたいです」
「えっ!」
『ぽち』さんは目を輝かせて僕を見る。
確かに変な依頼かもしれないが、僕も一応男だ。
「ただ、一つ確認させてほしいんですが」
「あ、は、はい! なんなりと!」
「えっと……どうしてその案件を僕に頼もうと?」
「え? え、えっと……」
そこからの彼女の答えを聞き、僕の顔中が沸騰したように赤くなったのは言うまでもないだろう。
そりゃ合コンであんだけエンジニア自慢してれば頼みたくもなるわな。
恥ずかしくて死にそうになった僕と彼女は店を出て、彼女の勤める会社へと向かった。
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- 8 : 2015/04/24(金) 15:12:04 :
◇
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- 9 : 2015/04/24(金) 15:31:21 :
「HEEEEEEEEEEY!!!」
ちょ。
「YOUがバグ処理を行ってくれるEngineersでスネー!?」
待っ。
「OHH! ナイスガーイじゃないでスカー! グッジョブネ! ぽち!」
「あ、ありがとうございます……」
そう言って『ぽち』さんは控えめに礼を言う。
いつの間にか僕は、金髪で青目で巨乳の外人にギュウウと音がなるくらい抱きしめられていた。
どうやらこの片言の外人女性が『ぽち』さんの上司らしい。
時刻はすでに午後9時を迎えており、このテンションについていけるか心配だ。
「あ、あのー……」
大きな胸に顔を埋めながら、僕は苦しそうに外人の女性に話しかける。
いやーしかし、こんなおっぱいに顔を埋めるなんて体験初めてだ。僕明日死ぬんじゃないかな。
「OH! ソーリー! これじゃ喋れませんネー!」
「あ、い、いえ。大丈夫です」
あ、大きな胸が僕の顔から遠ざかる。
もうちょっとだけ、後2時間程その気持ちよさに癒されていたかったんだが……まあしょうがない。
「成志さん。この方が社長の釈迦郡睦美(しゃかごおりむつみ)さんです」
「へー。この人が」
っておい。
「は、はあ!? この人が社長!?」
「え、ええ。そうです」
「どうしたのデース? 私が社長なのデース! 何かおかしいですかァ?」
「いやおかしいというかなんというか……」
とりあえず驚いたのはまあ、その若い容姿で社長という点だろうか。間違いなく20代前半だよな。
つか外見完全に外人なのに名前超日本人じゃねえか。
「に、日本人なのですか?」
「イエース! 私はれっきとした日本人ダヨー?」
「あ、あの……社長アニメが大好きで……。そのお気に入りのキャラのモノマネしてるんです」
「なんだそりゃ」
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- 10 : 2015/08/16(日) 11:13:44 :
- 面白いです。可能ならば続きを期待します。
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