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Rubber×Rubber 第二話「心服の青い炎」
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- 1 : 2015/02/27(金) 23:19:04 :
- 第二話、新たなホルダーが登場します。
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- 2 : 2015/02/28(土) 21:11:46 :
- 「起きろ武!朝食の時間だぞ!」
エマに起こされ、武は目を覚ました。彼は現在の時刻を確認すべく、枕元にある目覚まし時計を見る。
6時ちょうど、いつも起きている時間よりも早い。もう少し寝ていたいが、また起こされても面倒だし起きるとしよう。
そう思い、彼はリビングへと向かうため部屋を出て、階段を降りる。すると、何やら美味しそうな匂いがするのを感じる。
彼がリビングのドアを開けると、テーブルの上にご飯、味噌汁を始めとする日本の朝食を象徴するような料理が並んでいた。
「これ、エマが作ったのか?」
武がエマに尋ねると、彼女は得意げな顔をしてもちろんと答える。
てっきり料理は下手なイメージがあったんだが・・・いや、油断するのはまだ早い。見た目は良くても味は最悪というパターンも有り得る。
「何故睨むように朝食を見ているのだ」
「いや~、お腹が空いたなあって・・・」
「そうか。ではすぐに食べるとしよう」
二人が席に着く。
「いただきます」
武はおかずを箸で取り、恐る恐る口へと運んだ。
・・・うまい。いや、うまいなんてものじゃない!これはまるで・・・味の宝石箱!
「口にあっただろうか?」
「すげぇうまいな!お前、料理の修行でもしたのか?」
「殺し屋としてのスキルを高めるに当たり、少しでも殺しを有利にするものは修行して来た」
「料理の上手さって、殺しに関係あるのか?」
「食事に毒を盛る際に重要だ」
毒・・・
その言葉を聞いて、武は食欲を一気に失った。
「当然だが、この朝食には毒は入ってないぞ」
武の心中を察してエマは声を掛けるが、時既に遅し。武の箸を持つ手は完全に止まっていた。
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- 3 : 2015/02/28(土) 22:04:34 :
- エマさん……w
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- 4 : 2015/02/28(土) 22:04:47 :
- あっ!二話目も期待です!
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- 5 : 2015/02/28(土) 22:53:04 :
- >>4
期待&お気に入りありがとうございます。
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- 6 : 2015/02/28(土) 23:14:59 :
- 午前7時、何とか朝食を完食した武は自室にて制服に着替えていた。今までは家の中では所構わず着替えていたが、今日からはそういう訳にはいかないのだ。
やっぱり誰かと暮らすって言うのは新鮮だな。そう言えば、他人に起こされて起きるのも何年ぶりだっただろうか・・・
久しぶりの他人との同居の実感から、武は着替えを止め感慨に耽る。
「おい、早くしないと学校に遅れてしまうぞ!」
エマの声で武は我に返り、着替えを再開する。それから1,2分して、彼は部屋を出た。
「全く、だらしのない奴だな」
「登校完了時刻まではまだ余裕があるんだから焦らなくても・・・え」
「どうした?」
「ええ!!!?」
武は近所から苦情が来てもおかしくないほどの叫び声をあげる。その理由はと言うと・・・
「な、何でウチの制服を着てるんだよ!」
「そうか、まだ言ってなかったな。今日から私も貴様と同じ高校に通うことになったのだ」
「どうしてそんなことを」
「少しでも一人になる時間を減らすためだ」
だからと言って、普通ここまでするだろうか。いや、そもそも一般人の俺には殺し屋の普通が分からないのだが・・・転校手続きは済ませてあるようだし、一緒に学校に行くしかないか。
「変な誤解とかされたくないから、同居してることは絶対に言うなよ」
「それくらい、貴様に言われずとも分かっておる」
とにかく、今日からは騒がしい学校生活になりそうだ。
そんなことを思いながら、武はエマと共に家を出た。
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- 7 : 2015/03/01(日) 23:08:42 :
- 期待です。
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- 8 : 2015/03/02(月) 19:14:10 :
- >>8
ありがとうございます!
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- 9 : 2015/03/02(月) 19:47:05 :
- いつもの時間のいつもの通学路、しかし、武にとっていつもと違うことがあった。それはエマが隣に居ることである。
「学校まではどのくらいの時間がかかるのだ?」
「20分くらいかな」
「意外とかかるのだな」
20分は"一人"で歩くには少々長い。だから、武はいつも両耳にイヤホンを着け、音楽を聴きながら登校しているのだが、一緒に歩く人がいる今日はイヤホンを着けていなかった。だからと言って、彼の耳が寂しさを感じることはない。
「日本の高校の授業のレベルはどのようなものなのだ?」
音楽の代わりに、エマの声が彼の鼓膜を震わせているからである。主な内容は学校生活への質問だ。
「そもそもお前の頭脳レベルを知らないから、何て言えばいいか分からねぇよ」
「頭脳レベルか。それなら、ハーバード大学に入れるぐらいだ」
「な・・・それならとんでもなく簡単に感じると思うぜ」
戦闘、料理だけでなく、頭脳も超優秀だとは・・・これが一流の暗殺者。
エマのハイスペックさに畏れを抱く。
「ところで話は変わるのだが、貴様は輪ゴムを創り置くことはできないのか?もし出来るのなら、もしもの時のための貯蓄として毎日質の良い輪ゴムを創ってもらいたいのだが」
突然投げかけられた武の能力についての質問。しかし、彼は暇つぶしとして自身の能力を鍛えると共に熟知もしており、その質問に即答できた。
「出来ない。あのくらいの強度の輪ゴムだと、創ってから30分もすれば消える」
「なるほど、やはりか」
がっかりされると思って答えたが、エマの反応は案外あさっりとしていた。"やはり"と言うことは、この答えは予想通りということ。しかし、輪ゴムが消えるなんて普通は想像もつかないことだと思うが・・・
気になって武は質問する。
「やはりって、創った輪ゴムが消えることは分かってたのか?」
「まあな。貴様の創り出した輪ゴムはあらゆる保存則を無視した物質、この世界にとってイレギュラーな存在だ。だから、貴様を始めとする物質創造系のホルダーが創り出した物はある程度時間がたてば自ずと消えるようになっているのだ」
「てことは、俺が創った輪ゴムで束ねているものは・・・」
「いずれ散らかるということだ。それが何年後になるかは分からんがな」
ただでさえ使い道の無い自分の能力に、輪ゴムとして重大な弱点があることが判明し、武はショックを受ける。
「案ずるな。どんなに輪ゴムとして使えなかろうと、頑丈ささえあれば私にとっては有用な輪ゴムだ」
励ましの言葉としてはちょっとおかしな言葉に感じられるが、それでも嬉しかった。
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- 10 : 2015/03/02(月) 19:53:46 :
- 何年後になることなんてあるのか…メモメモ
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- 11 : 2015/03/02(月) 23:19:57 :
- 登校開始から約15分、学校が近付いて来たためあちらこちらに武達と同じ制服を着た学生の姿が見られる。すると、武が挙動不審になり始めた。
「そんなにキョロキョロして、何か気になることでもあるのか?」
「同級生に見られてねぇか気になって仕方がないんだよ。変な誤解とか持たれたくないからな」
「そんなことを気にしていたら身が持たんぞ。これだから思春期は・・・」
武の答えを聞き、彼女はお決まりとも言えるセリフを口にする。
「ゴ、ゴム男!」
武は何者かに突然あだ名を呼ばれる。
「親太朗か」
俺をこのあだ名で呼ぶ者は一人しかいない。どうやら恐れていた事態が早速起こってしまったようだ。
「お前の・・・隣に居る女子は・・・」
やっぱり誤解されているっぽいな。ちゃんと弁解せねば。
「こいつは・・・」
「お前の妹か!?」
そう来るの!?
親太朗の予想外の発言に武は驚愕する。
しかし冷静になって考えると中学生程度の年齢で、外国人ではあるものの日本人系の容姿をしたエマを妹と勘違いするのは仕方ないようにも思える。寧ろ、彼女と見る方が不自然かもしれない。
「あの、私達は兄妹ではありません。幼馴染なんです」
先に弁解の言葉を述べたのはエマだった。
「幼馴染!?お前にそんな奴がいたのか」
「あ、ああ。親の仕事の関係で引っ越してきて、今日からこの学校に通うことになったんだ」
「この子高校生だったの!?てっきり中学生かと思ってたよ」
「よく言われます」
親太朗との遭遇で、通学路はさらに賑やかになる。武は、エマが親太朗に対し、普段とは違ってごく一般的な日本語を使用していることに改めて彼女のハイスペックさを感じると共に、今まで経験したことが無いほど騒がしい登校時間を、心の底から楽しんでいた。
しかし、楽しい時間ほど過ぎていくのは早いもので、残りの5分間はあっという間に過ぎ、彼等は学校に辿り着いた。
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- 12 : 2015/03/03(火) 19:40:58 :
- 三人は生徒玄関にて上履きに履き替える。ちなみに、エマの靴箱は既に用意されていた。
そして、武と親太朗は2階にある教室に向かうために中央階段へと向かおうとする。しかし、エマは2人とは逆方向へと歩き出した。
「どこ行くんだよ」
気になって武が尋ねる。
「転校初日だから、職員室に寄ることになっているの」
なるほど。
武は事情については納得するものの、エマの普通の高校生の話し方に違和感を感じた。
今まで親太朗に使われていたため、彼女の高校への順応力に対する感心が先に出たが、いざ自分に使われるとどこか気持ちが悪い。というか、普通に話せるなら家でも話せよ。
しかし、その事をここでは言わないことにして武はエマと別れた。彼女の姿が見えなくなると、親太朗が待っていましたとばかりに口を開く。
「武にあんたに可愛い幼馴染がいるなんて、お前も隅に置けないな」
実は幼馴染どころか同居してます。とは、いくら親太朗にも言えない。
「あの子、どこのクラスになったの?」
「さぁ、俺もわからん」
クラスどころか、学年すら聞いていない。あの容姿だし、まさか三年生の俺と同じクラスになるなんてことはないだろう。
そう考えていた武に、突然ある言葉が降りてくる。
「私達はパートナーなのだからな」
昨日二人でコンビニへ出かけた時に、エマが発した言葉だ。彼はこの言葉を思い出し、彼女が同じクラスになるのではないかという一縷の期待と大きな不安が入り混じった感情を抱き始める。
結局、武の心が落ち着かないまま朝のホームルームが始まった。
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- 13 : 2015/03/03(火) 21:49:52 :
- 「ホームルーム始めるぞ。お前ら席に着け」
担任の土肥の声で、立ち歩いていた生徒達はぞろぞろと着席する。
「今日は重要な連絡がある。急な話だが、このクラスに転校生が来ることになった」
クラスの生徒達がざわめき始める。高校は小中と違って転校生はそうそう入ってこないので珍しい存在なのだ。それに加えて今は5月、何かの区切りの時期でもない。普通なら転校生が入って来ること等あり得ない。つまり、このクラスに転入して来た転校生は間違いなく・・・
「では、入ってきてくれ」
土肥が転校生を呼ぶと、教室の入り口の扉が開かれ一人の少女が姿を現す。その少女とはもちろん・・・
「エマちゃんじゃん!」
声を上げたのは親太朗だった。まだ名前を紹介してなかったが、俺達の会話の中で聞き取っていたらしい。
「和田、知り合いか」
「武の幼馴染っす!」
親太朗の発言を聞き、土肥を含むクラス全員が武に視線を向けたので、彼は小さく頷いて見せる。
「古木、そういうことなら家永に学校のことを案内してやれ」
土肥が武に命ずる。
へいへい、そう来ると思って・・・家永?
「では、自己紹介だ」
「はい。私の名前は家永 恵麻 と言います。これからよろしくお願いします」
まさか偽名を使ってくるとは・・・
武はまたしてもエマの殺し屋としての力を思い知った。
「席は左後ろ、丁度古木の隣だ」
「わかりました」
土肥の指示を受け、エマは武の元へ歩み寄る。
「よろしくね」
「あ、ああ」
こうして、エマとの学校生活の幕が開いた。
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- 14 : 2015/03/04(水) 07:41:01 :
- 適応力高いなエマちゃん
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- 15 : 2015/03/04(水) 19:43:27 :
- 一時間目が終了し、エマが転入して来て初めての休み時間が訪れる。すると、何人かのクラスメイトが彼女の机に群がりだした。
「ねぇねぇ、どこから来たの?」
「本当に高三?」
「興味のある部活とかはあるの?」
次々に繰り出される質問の嵐に、エマは当たり障りのない返答を返す。もちろん、標準的な日本語で。武はと言うと、その様子を眺めているだけだった。
「あの、恵麻ちゃん。一つ聞きたいことがあるんだけど・・・」
質問攻めを行う生徒達に紛れて、一人の女子が尋ねた。何やら周りの連中とは違う雰囲気を纏っているので、エマは彼女に意識を向ける。
「今朝駅で、エマっていう女の人を捜している男の人が居たんだけど、恵麻ちゃんじゃないよね?」
この質問を受け、武の身体に戦慄が走る。しかし当のエマは至って落ち着いており、彼女に質問を返した。
「その男はどんな人だったの?」
「えっと・・・白いスーツを着て、耳にはピアスをしてて見るからに怖そうな人だった。あっ、目の下にアイシャドウをしてたよ」
「そう・・・」
エマは何やら心当たりがあるような顔をするが、その女子はこれ以上の詮索はしてこなかった。しかし、事情を知る武はそういう訳にはいかない。
二時間目の英語の授業の後の休み時間に、彼は学校案内の名目で彼女を呼び出し、屋上へと向かった。
「貴様、こんな所に呼び出して何の用だ?」
話し方が戻ってる。しかし、今はそのことを気にしている場合ではない。
「さっきの女子が言ってた駅の男、そいつはやっぱりノアなのか?」
「・・・なるほど、その事か。そいつなら、心配は要らないとだけ言っておく」
それは、どういうことなのだろうか。ノアではないのか?それとも自分の力なら容易に退治出来るということなのか?
エマの曖昧な回答に対し、武はもっと詳しく話すように問いかける。しかし、彼女は案ずるなと言って階段に向かおうとする。武は一つ溜め息をついてから、彼女に続いて階段を下りた。
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- 16 : 2015/03/04(水) 22:39:54 :
- 「おいてめぇ!どこ見て歩いてんだ!?」
二人が階段を下り終えた瞬間、大音量の怒声が廊下中に響き渡った。一体何事かと二人は音源の方を見る。そこでは、がっちりとした体格で柄の悪いヤンキーが、気の弱そうな男を睨み付けていた。
「今、俺の肩にぶつかってきたよな?新品の制服がてめぇのせいで台無しだ。慰謝料として10万円払えや!」
「そ、そんな!無理ですよ!」
高校生としてはあまりにも法外な請求に、男は慌てふためく。
「随分と横暴な奴だな。何者だ?」
エマが小声で武に問う。
「あいつはこの学校"唯一"のホルダーの鬼塚だ。能力は全身をサボテンみたいに棘で覆うっていうもので、その能力を盾に不良行為を働いているチンピラだよ」
「唯一のホルダー?貴様もホルダーだろうが」
「そう言えば言ってなかったな。俺は学校ではホルダーであることを隠してるんだ」
「私としてもその方がありがたいが、何故だ?」
「言いたくないからだよ」
二人がこそこそ話している内に、鬼塚の横暴さはエスカレートしていた。
「払えつってんだよ!」
鬼塚が、怒鳴り声と共に男の腹に蹴りを放つ。男はその蹴りを食らい、その場にうずくまる。
「流石にやばいぞ、助けないと」
「そうか。では私は先に教室に戻っているぞ」
「な・・・見過ごすのかよ。お前ほどの力があればあんなチンピラ・・・」
「弱肉強食はこの世の摂理だ。縁も由も無い弱者を助けようと思うほど私は優しくはない。助けたくば一人でやれ」
そんなの無理に決まってんだろ・・・相手はホルダーだぞ。
助けようと思っても、無力故にその思いを行動に移すことができない自分に歯がゆさを覚えながら、武は再び鬼塚の方を見る。
「一回刺されとくか?」
鬼塚は右手から棘を出し、それを男に刺そうとしていた。
このままでは本当にまずい。俺が、助けなきゃ!
武が二人の元へ駆け寄ろうとした時だった。エマが二人の後ろを素通りした。
確かに、教室に戻るための最短ルートは二人の居る廊下である。しかし、普通の人間があんな所を通ろうなどと思うだろうか。前言撤回、エマは普通の人間では無いな。だが、あんなにいきり立っている鬼塚の背後を通ったりなんかしたら・・・
「おい女、俺様の後ろを素通りとは何様のつもりだ?」
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- 17 : 2015/03/05(木) 19:08:42 :
- 武の予想通り、エマは鬼塚に絡まれてしまう。
「教室に戻ろうと思っただけなんですけど、何か問題でも?」
エマは素っ気無い態度で返答し、その場から去ろうとする。それが鬼塚の気に障った。
「てめぇ、女だからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
鬼塚がエマの右腕を掴み、強引に引き留める。その時だった。武は、今まで感じたことの無いほどの酷い寒気を感じた。
「何をしている、鬼塚!」
「ちっ、センコーかよ。面倒くせぇし逃げるか」
鬼塚はエマの腕を放し、その場から走り去っていった。
「大丈夫か!?」
先程現れた教師が鬼塚に殴られた男の元へ駆け寄り、声をかける。悪寒によって半ば放心状態になっていた武はその声で我に返る。気が付けば悪寒は既に消え去っていた。
先程の悪寒は何だったのだろうか。
一つの疑問に頭を悩ませつつも、エマの元へ歩み寄る武。彼の疑問はすぐに解決した。
「鬼塚と言ったか。能力を持っているだけの雑魚の癖に、乱暴に私の腕を掴み、進路を妨げるとは・・・一度痛い目を見せておかなければ」
エマは眉間にしわを寄せ、右拳を強く握りしめながら呟いた。恐らく、さっきの悪寒はエマが放った殺気によるものに違いないと武は確信する。
「今日の放課後、奴を成敗するぞ。私の力を見誤った報いだ」
「りょーかい」
今朝の予想通り、エマとの学校生活は大荒れの模様だ。
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- 18 : 2015/03/05(木) 22:27:04 :
- 午後4時前後、六時間目の授業の終了を知らせるチャイムの音と共に、部活のある生徒は部活へ、そうでない生徒は家へと向かい歩き始める。当然俺は後者の人間であるのだが、チャイムから20分が経ったにも関わらず、まだ校地内に居た。
「本当にここに鬼塚は居るのだな」
「ああ、間違いない。ここが鬼塚達の不良グループのアジトだ」
こことはどこか。その答えは、つい最近廃部になったセパタクロー部の部室前である。目の前にある扉を開けば、そこには校内最悪の不良集団が屯している。しかも、この後そこへ乗り込んで行くわけだから緊張が半端じゃない。もっとも、乗り込むのは俺ではなくエマなのだが。
「本当に大丈夫なのか?」
突入前、武は心配の余りエマに声を掛けた。疑問の形を取ってはいるが、突入を止めにしようという彼の本心が伺える。
「言っておくけど、喧嘩が強いのは鬼塚だけじゃないからな。幾らお前でも、分が悪いんじゃないか?」
「何を言うか。私は生粋の殺し屋だぞ。高校生のヤンキー等何人居ようが相手では無い」
エマは武の意見に全く耳を貸しそうにないので、武は彼女の説得を即座に諦める。
「わかった。なら今すぐ輪ゴムを・・・」
「その必要はない。ヤンキーの相手ぐらい素手で十分だ」
ええ!?
素手で行くというエマの言葉に、武の心配はさらに募る。
殺し屋の彼女なら鬼塚達が相手でも勝てるかもしれないという期待はあった。だが、それは彼女が輪ゴム鉄砲 を使うという前提での話である。輪ゴムを持たないエマはホルダーとは言えない。つまり、彼女が今しようとしていることは、一般人が戦闘タイプのホルダーに勝つと言うことと同義なのだ。
武は再びエマを説得しようと考えを巡らそうとする。しかし、彼女はそんな彼の心配を振り切るかのように元セパタクロー部の部室の扉を思い切り開いた。
案の定、中には鬼塚を含む8人の男がいた。突然の来訪者に彼等は一瞬呆然とする。そして、彼等が我に返るよりも前の事だった。
「ごふっ!」
一番扉の近くに居た小太りの男が、腹を抱えてその場に倒れこんだ。
「なっ、てめぇはさっきの!」
突然の襲撃に慌てふためきながらも、鬼塚は来訪者の正体を知り声を上げる。
「制裁の時間だ。覚悟しろ鬼塚」
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- 19 : 2015/03/06(金) 22:42:58 :
- エマの宣戦布告に一同はどよめく。そんな中、鬼塚の仲間で最も冷静な男・矢沢がのそのそと彼女に近づく。
「制裁を受けるのはあんただぜ、嬢ちゃん」
矢沢がエマへと拳を振り下ろす。彼女はそれを必要最小限の動きで避け、彼の懐に潜り込む。そして、パンチを一発繰り出した。
「ぐおっ!」
その一発により、矢沢の体は崩れ落ちた。それを見てようやく一同はエマの恐ろしさを理解した。
「お前ら、全員でかかれ!」
鬼塚の命令で5人の仲間達が一斉にエマに襲い掛かる。彼等はかなり喧嘩慣れしており、攻撃はかなり鋭いものではあったが、それはあくまで高校生の話。裏社会で生きてきた彼女には通用するわけも無い。
「ぎゃっ!」
「ごっ!」
「ぐえっ!」
「がはっ!」
「ひでぶっ!」
5人の男達は攻撃を全てかわされた挙句、エマのパンチ一発で次々と沈んでいった。目の前で起こった一瞬の出来事に、鬼塚は唖然としていた。
「残るは貴様だけだな」
エマの視線が鬼塚へと向けられる。彼女と目を合わせた瞬間、鬼塚の全身から大量の汗が噴き出す。彼は命の危機を感じていた。しかし、彼はそれにもかかわらず不敵に笑った。その理由は、勝算があるからに他ならない。
「言っておくが、お前に勝ち目はないぜ」
「ほう、この状況でハッタリをかます余裕があるとはな」
「ハッタリじゃないってことを今から見せてやるよ」
そう言うと、鬼塚は全身に力を込め始める。すると、身体の至る所から棘が生えてきた。
嘘だろ・・・
物陰からエマの戦闘を見守っていた武は鬼塚のサボテンのような姿に絶句する。
「どこからでも掛かって来な。つっても、攻撃すれば傷つくのはお前の方だがな!」
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- 20 : 2015/03/07(土) 17:53:44 :
- 鬼塚の変化にエマは全く動じていないように見える。しかし、彼の言っていることは間違いなく事実であり、パンチにしろキックにしろエマが直接攻撃で彼を攻撃しようとする限り、ダメージを負う覚悟で攻撃しなけらばならない。
「さっきまでの威勢はどうした?さっさと攻撃して来いよ」
勝利を確信した鬼塚は両手を広げて身体の守りが無防備であることを示す。しかし、実際には無数の棘が身体を覆っているため完全防備と言える。この状況では攻撃することは不可能であり、諦めて逃げるしかない・・・と考えるのも、あくまで一般人の話。
「それならお言葉に甘えよう」
元殺し屋のエマは鬼塚に接近すると共に、棘だらけの顔面に躊躇なく蹴りを放った。彼女の蹴りを食らった鬼塚は地面へ倒れるものの意識は保っていた。
「な、何故攻撃できる!?痛みを感じないのか!?」
予想外の事態に動揺する鬼塚。そんな彼にエマは言い放った。
「その程度、我慢すれば良い話だ。誰でも出来る」
誰でも出来たら苦労はしねぇよ。
武が心の中で突っ込みを入れる。
「さて、ここで1つ貴様に命令だ。貴様は半ば力があるが故に自分の力を過信し、悪事を繰り返していたようだが、自分の無力さはもう十分理解しただろう。だから、今後一切悪事は働かないと誓え」
「てめっ、調子に」
「誓わぬと言うなら殺すぞ」
高校生の言う"殺す"としては余りにも重過ぎるエマのその言葉に、鬼塚の全身から再び大量の冷や汗が流れ出る。
「ち、誓います」
「よろしい」
エマは笑顔でそう答える。その表情を見て鬼塚が安堵したその時だった。
「がっ!」
エマの拳が鬼塚の腹に叩き込まれた。その一撃により、彼は今度こそ意識を失った。
「・・・はぁ~、すっきりした」
戦いを終え、エマは身体を思い切り伸ばす。彼女の元へ、武が歩み寄る。そして、思ったことをはっきりと言った。
「やってること、ヤンキーとあんまり変わんなくね?」
悪事を止めさせるという大義名分はあったが、それは明らかに後付けであり事の発端はエマの個人的な怒りによるものである。彼女はそれを自覚していたようで、武に何も言い返さなかった。
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- 21 : 2015/03/07(土) 18:20:15 :
- ちょっとゴムの製造会社の社長になって来ます
期待です
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- 22 : 2015/03/07(土) 19:33:06 :
- 俺 ハンコックになるわ
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- 24 : 2015/03/07(土) 22:01:15 :
- とにもかくにも無事に不良退治を終え、武は胸を撫で下ろす。そして、改めて先刻起きた出来事を思い返す。
「どうした?顔色が悪いぞ」
「いや、何でもねぇよ」
武は不良達を次々と蹴散らしていくエマの姿を目の当たりにし、彼女の殺し屋としての力に対する感情を畏敬から畏怖へと変化させていた。
でも、何故だろうか。怖いんだけれど、エマの怖さはどこか優しく感じる。
複雑な感情を抱きながら、何となく彼はエマを見つめた。
「な、何を見ている。私の顔に何か付いているのか」
「いや、何にも」
「ならそんなに見つめるな、気色が悪い。さっさと帰るぞ」
エマは武から目を逸らし、元セパタクロー部の部室から立ち去ろうとする。すると、彼女の通った所に血の道ができていた。
そうだ、エマは棘だらけの鬼塚の体を策も無いのに無理矢理攻撃したんだった。
「エマ、場所は案内するから保健室に寄って行くぞ。応急処置ぐらいしないとやばいだろ」
「この程度の傷、自然に治る」
そう言いつつも、エマは鬼塚の腹を殴った方の手を咄嗟に隠した。
ちゃんと見たわけではないが、わざわざ隠したということは重傷なのだろう。
「そりゃいつかは治るし、お前なら痛みも我慢できるだろうけど、破傷風になることも考えられるからな。用心に越したことはないし、行くぞ」
「そんなことをすれば困るのは貴様だぞ。傷を見せる以上、事情は話せねばなるまい。しかし、幾ら相手が校内一の不良集団だからと言って、私達にも何かしらの罰がある可能性も・・・」
恐らく、エマは余り他人の世話になりたがらない人間なのだろう。厳しい裏社会に生きてきた事を考えれば、それが当然だしそうでなければ生き抜けないのかもしれない。でも・・・
「もしお前に何かあったら、俺が嫌なんだ。一応、パートナーだからよ・・・」
武は照れ臭そうに自分の本心を告げる。
「・・・パートナーの頼みだ。言う通りにしよう」
こうして、二人は保健室へと向かった。その後、教師陣達からこってりと絞られたのは言うまでも無い。
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- 25 : 2015/03/08(日) 16:45:05 :
- 「おいおい見ろよ。あれが鬼塚を倒した転校生だぞ」
「全然強そうに見えないな。寧ろ可愛いぞ」
「彼女は学校を救った救世主か、はたまた鬼塚を超える悪魔となるのか」
「お前、いつから中二病になった」
皆さんは既に存じ上げていると思うが、噂が広まるのは早いものである。ここ最近ではツイッターやフェイスブック等のSNSの力もあってちょっとした事でも一瞬で全世界に広まる。
エマが鬼塚達不良グループを倒したと言う噂はもちろんその例外ではなく、次の日彼女が登校すると、至る所で彼女のことを話すひそひそ話をしている生徒が居た。
「どいつもこいつもこそこそ噂話しやがって、話すなら堂々と話せってんだよな」
武はそんな彼等にわざと聞こえるようにして言った。すると、ひそひそ話がピタリと止んだ。
こんなんで止めるんなら最初からひそひそ話なんてするなよ。
武がそんな風に思っている傍ら、エマはそれを全く気にしていないようだった。
この後も、数組ひそひそ話をしている連中を見かけたが、とりあえず無視をして二人は教室に入った。
教室に入ると、予想通り大半の生徒がエマの事を見て何かしらの反応をした。笑顔で昨日の事を聞いてくる者、若干怯えているような顔をしている者、陰険な表情でひそひそ話をしている者と様々だ。しかし、エマに対して昨日通りの態度で接してくれる人の方が圧倒的に多かったことには少し安心した。
賑わう教室の様子を眺めていた武は、安堵しつつも1つ懸念していることがあった。それは、この噂がノアにも伝わっているのではないかというものである。転校生が一日で不良を絞めたという話を聞けば、ノアは真っ先にその転校生がエマであると気付くだろう。
武は不安を募らせるが、ともかく本日の授業は何事も無く終わった。
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- 26 : 2015/03/08(日) 22:42:55 :
- しかし、エマの転校二日目がこのまま何事も無く終わるはずがなかった。
放課後、二人は生徒玄関に居た。昨日と違い、今日は何もすることはない。今日こそは普通に帰れそうだと武はほっと一息つく。
靴を履き替え、二人は玄関を出た。すると、校門の近くに校地内に似つかわしくない派手な格好の男が居るのが目に付いた。服装は白いワイシャツ、耳にはピアスをしており目の下にはアイシャドウをしている。それを見て、武はマフィアを連想した。
もしあの男がノアなら一刻も早く逃げなければいけない。そのため、男が何者であるかエマに質問しようとするが、それよりも早く男が声を上げた。
「み、見つけた!」
男は明らかにエマを指差していた。恐らく、昨日クラスメイトが言っていた駅前の男はこいつのことだったのだろう。そして、エマを捜している連中と言ったら奴らしかいない。
「逃げるぞ!」
武はエマの腕を掴み逃亡を図る。しかし、彼女は全く動こうとしない。改めて男の方を向くと、彼はこちらに向かって走り出していた。
くそ、こうなったら戦うしか・・・
「エマ師匠!」
その男から発せられたのは、武の予想から大きく外れた言葉だった。
師匠!?
「おお、久しぶりだな。ロージ」
ロージと呼ばれたその男はエマの目の前まで近付くと、その場に跪きいきなり号泣し始めた。
「何も言わずに居なくなっちゃうなんて酷いですよ・・・俺、世界中捜し歩いたんですからね」
「ノアに逃亡を悟られるわけにはいかなかったのでな。すまない」
「いえ、もう良いんですよ。こうしてまた会えたんですから。聞きましたよ、転校初日にして学校を支配していた不良をぶっ飛ばしたそうですね。さっすがっす!」
突然の事態に全く着いていけていない武を尻目に、エマとロージは感動の再会を喜び合う。
「そっちの男は誰ですか?」
「古木武。私のパートナーだ」
「ど、ども」
いきなり自分の話題が出たので、あたふたしながらも武はロージに挨拶する。
「師匠のパートナーですか!?それは大層すごいお方なんでしょうね」
大きな誤解をされているようだが、置いてけぼりを食らっている武にそれを訂正する気力はない。その時になって、ようやくエマは武がロージの出現に混乱している事に気が付いた。
「そう言えば、紹介がまだだったな。この男はロージ・ウィリアムズ。私の一番弟子だ」
「よろしくっす!」
-
- 27 : 2015/03/09(月) 21:21:38 :
- いや、そういうことじゃないんだ。この男がエマの弟子で名をロージと言うのは二人の会話を聞いて居ればわかる。俺が気になっているのは・・・
「エマはこいつの何の師匠なんだよ」
やや怒り気味に武は尋ねる。
「決まっているだろう。殺し屋としての師匠だ」
「やっぱりか。なら、一つはっきりさせて欲しいことがある。こいつはノアなのかそうでないのかだ」
はっきり言ってロージが何者であろうとどうでもいい。ただ、彼がノアであるならば話は別だ。例えエマが彼を弟子として信頼していようとも、エマを追う組織の人間を完全に信用する訳にはいかない。
「まっさか~、あんな大組織の殺し屋になれる程俺は強くないっすよ」
ロージがノアであることを否定する。しかし、彼の意見は宛にならない。
武はエマにアイコンタクトを送りこの質問に答えるように促した。彼女はそれに気付き答える。
「ロージはどこにも所属していない、フリーの殺し屋だ。しかし、彼もなかなかに優れた殺し屋だぞ」
「滅相も無いっす。俺はまだまだ未熟者ですよ」
エマからの回答を聞き、武はとりあえずはロージを信用することにした。それと同時に、新たな疑問が生まれる。
「マフィアの殺し屋ってことは、こいつもホルダーなのか?」
「もちろんっすよ。俺の能力は・・・」
ロージが自身の能力を説明しようとすると、エマが待てと口を挟んだ。
「百聞は一見に如かず、実際に見せてやれ。だがここでは他の生徒達の目もあるし、一先ずは帰るとしよう。ロージにも私の今の住まいを紹介しておきたいしな」
「わかった」
武はエマの案に賛同し、ロージの能力への想像を膨らませつつ帰路に着いた。
-
- 28 : 2015/03/10(火) 21:35:27 :
- 学校の敷地を出てからも、エマとロージの会話は止まることを知らない。コミュニケーション能力が余り高くない武は二人の会話に全く入り込めずにいた。
「次は、俺が師匠を捜してチベットに行った時の話なんですけど・・・」
ロージが新たな話題を切り出そうとする。しかし、エマがそれを制止した。
「その前に、武から何か話したいことがあるそうだ」
気を利かせたエマが、武に会話に入る機会を与える。
特に何か話したいことがあった訳ではないが、せっかくの彼女の気遣いなので思いついた事を一つ尋ねることにした。
「えっと・・・お前の家ってどこにあるんだ?」
「住んでる所なら、郊外のマンションっす」
「へぇ、今度案内してくれよ」
「別に構わないですけど、人を招くような所じゃないですよ」
「それでも良いからよ」
この話題についてはこれ以上話は続かなかった。しかし、これが契機となって武も少しずつ会話に混ざり始めた。
本当に何でもできるんだな・・・
武の目に移るエマの姿が一段と大きく見える。
それから殺し屋が二人居るとは思えないほど和やかな雰囲気で歩き続けること15分が経ち、事件は起こった。
「それでですね・・・」
「居たぞ!」
突如、三人の進行方向から大声が上がる。三人がそれに反応し、前方を向くと黒スーツの男の二人組がこちらを指差している姿があった。
「あいつらは・・・逃げるぞ!」
今度こそノアであると確信した武は、急いで逃げ出そうとする。しかし、エマに肩を掴まれ止められた。
「まぁ落ち着け」
「これが落ち着いてられるか!」
エマの意味不明な平静さに苛立つ武。そんな彼に、彼女は言った。
「良い機会だ。ロージの能力を見せてやろう」
-
- 29 : 2015/03/11(水) 22:39:53 :
- どうやらエマは、弟子のロージに迎撃を任せるつもりのようだ。
「分かりました!俺に任せてください!」
エマの指名を受けてロージは張り切り始める。しかし、武はロージがノアの刺客に勝てるのか不安で仕方がなかった。まだ戦う姿を見せていない彼に対して武が何故そこまで不安を抱いているかというと、彼がエマの弟子であるからだった。
確かにエマは一流の殺し屋だ。彼女の隣で過ごした二日間の経験から、それは断言できる。しかし、彼女の能力は決して優れた能力ではないようにも思える。幾ら一発でマフィア三人を倒せる威力があろうと、たかが輪ゴムなのだ。炎を操るなどの、圧倒的な能力にはどうしても見劣りする。
そして、もし自分が誰かの教えを請いたいと思うなら、その誰かとは自分より強い力を持った人であるだろう。と言うことは、ロージの能力はそれ以下の能力であると考えられる。
エマが師弟の間柄とはいえ、優れた殺し屋であると言ったことから恐らく弱くはないのだろうが、その程度ではとても安心はできない。
「あいつ一人に任せて大丈夫なのか」
心配の余りにエマに質問をするが、彼女は一言大丈夫だと答えてそれ以上は言わなかった。
「よし、最初から能力全開で行くぜ」
ロージは右腕に力を込め始める。そして、彼は右の手のひらを黒スーツの男達に向けた。
「出でよ!俺の青碧の炎 !」
うっそー!!?
武の予想は、完全に裏切られた。
ロージが叫ぶと同時に、彼の右の手のひらから青い炎が放出され、瞬く間に黒スーツの二人を包み込み、彼等を倒してしまったのだ。
「ロ、ロージの能力って・・・」
「見ての通り、青い炎を創り出し操る能力だ」
予想の遥か上をいく能力に、武は完全に呆気にとられた。
-
- 30 : 2015/03/11(水) 23:37:59 :
- しかし、ノアの追撃はまだ終わってなかった。
「武!」
「え、うお!」
引き続き呆気にとられていた武は突然エマに突き飛ばされた。いきなりの行動に何をするんだと声を上げようとした時、さっきまで自分が立っていた所を一発の弾丸が通過した。
エマが突き飛ばしてくれなかったら死んでいた。
武の顔が一気に青ざめる。
「物陰に隠れるぞ!」
エマの声で我に返り、武は二人に続いて近くの家の塀の裏へと身を隠した。
「どうやら近距離攻撃と狙撃で挟み撃ちにする予定だったらしい。スナイパーとの距離は約150メートル・・・ロージ、奴等の相手も任せられるか?」
「申し訳ないですけど、俺の力じゃ遠距離には炎を飛ばせません」
「となると、今度は私達の出番だな。武、そんなに青い顔をしていないで輪ゴムを創ってくれ」
「お、おう。わかった」
武は右手の人差し指に意識を集中させる。すると、赤い輪ゴムが現れた。
「おお、これが武さんの能力かぁ・・・」
ロージはそれを見て、どういう意味でかは分からないが感嘆の声を上げる。
武は輪ゴムを創り出すとすぐにエマがそれを受け取った。そして、その輪ゴムを彼女の右手に掛ける。
「弾種 ・通常弾 、出力 ・20%」
エマの呟きと共に輪ゴムがキリキリと音を立て始める。次の瞬間、彼女は塀の陰から飛び出した。そして、右手の人差し指をスナイパーが居ると思われるビルへと向ける。
「輪ゴム鉄砲 !」
エマの指から超高速で輪ゴムが放たれる。その輪ゴムは、塀の陰を飛び出てからこれまでの一瞬でスナイパーの位置を把握していた彼女の狙い通りの軌道を描き、正確にスナイパーの顔面を捉えた。
輪ゴムを食らい意識を失ったスナイパーの姿を確認した後、彼女は二人を呼び出した。
「もう出てきていいぞ」
ロージの能力にも驚いたが、やっぱりエマが一番凄い。
改めてそう確信した。
-
- 31 : 2015/03/12(木) 07:46:09 :
- エマさんに惚れた
-
- 32 : 2015/03/12(木) 20:55:33 :
- 下校中に遭遇したノアのメンバーを無事撃退した三人は、その後何事もなく武の家に到着した。
「へぇ、ここがエマ師匠が居候している武さんの家ですか。何というか・・・平凡なのが潜伏場所として最適ですね」
微妙な褒め言葉からかなり無理をしていることが察せられる。変に褒めるよりなら何も言わなくていいのにと、武は内心愚痴をこぼす。
「とにかく、少し上がって行けよ」
「良いんですか!?では、遠慮なく」
一同は家へ入るとリビングにある椅子へと腰を掛けた。
「いや~、中は見た目よりは広いんですね」
悪気は無いのだろうが、いちいち微妙な褒め言葉を述べるロージに少しイラついてくる。その時、エマが立ちあがった。
「茶でも出そう。武、茶はどこだ?」
「良いよ、俺がやるから」
「いや、居候をしている身だしこれぐらいはやらせてくれ」
「じゃあ頼む。お茶の場所は・・・」
武が茶葉と湯飲み茶碗のある場所を指示する。
しかし、エマはこれぐらいはと言ったが、実は彼女は二人の三回の食事の用意を全てしてくれている。買い物は俺の役目だが、食事の準備の時間を勉強などに当てられてかなり助かっているというのが正直な感想だ。最近思うのだが、彼女は俺以外の者が居る空間では無理にしっかり者を演じるきらいがあるような気がする。
きっと、これも殺し屋の性なのだろう。
武の指示を受け、エマが台所へと向かうとリビングでは武とロージが二人きりになった。すると、場が沈黙で包まれてしまう。武はまだ、ロージと一対一で会話するほど親しくなれていなかった。
お茶が出来るまで大した時間はかからないだろうが、このまま沈黙が続いては、せっかく仲良くなりかけてきたのに勿体無い。
そう思い、彼は一つの質問をした。
「ロージ、お前は何がきっかけでエマの弟子になったんだ?」
-
- 33 : 2015/03/13(金) 21:14:05 :
- 「きっかけ・・・ですか?」
「ああ。同じ組織の殺し屋ってわけでもないし、何かきっかけがあったんだろう?」
「そうですね。きっかけは、3年前に俺が師匠を殺すという仕事を引き受けたことですね」
「エマを殺す!?」
「はい。最強クラスの殺し屋である師匠は、ノアと敵対しているファミリーからすれば邪魔な事この上ない存在ですから、当然消そうと考えている輩も多いんですよ。その上標的としても強いですから報酬も半端じゃないんす。だから、当時新人最強の殺し屋と謳われて自惚れていた俺はその任務を引き受けたんです」
ロージは自分の過去を照れ臭そうに語る。武は、何度か現れる最強という言葉に二人が凄腕の殺し屋であることを改めて認識した。
「もちろん、相手は師匠ですから綿密な殺害計画を練った上で奇襲を仕掛けました。でも師匠はその奇襲を難なく躱し、能力も使わず俺を返り討ちにしたんです。幾ら当時の俺が能力にあぐらをかいて基礎体力の強化を疎かにしていたとは言え、なかなか出来る芸当じゃありません」
ロージすらも能力を使わず倒してしまったのか。それなら、鬼塚達が相手にならなかったのも当然か。
「師匠の強烈な殴打を食らって意識を失った時、自分はこれで終わりだと思いました。でも、俺は生きていた。師匠は自分を殺そうとした男を見逃してくれたんです。いや、それだけじゃない、看病までしてくれた。その器の大きさを見て、この人には何があっても敵わないと確信しました。それと同時に、この人の弟子になりたいと思ったんです」
「エマの奴がそんなに凄い奴だったとはな」
「師匠はマフィア界一の殺し屋っすよ!」
「その辺にしておけ、褒めても何も出ないぞ」
ロージの昔話が完結した所で、丁度お茶を入れ終えたエマがリビングへとやって来た。彼女は3つの茶碗を机の上にそっと置く。茶碗の中のお茶は澄んだ色をしていた。
それから、彼女はそっと席に着く。武はその姿をじっと見つめていた。
見た目は年端もいかぬ中学生。それなのにこんなにも強くて器が大きい人間が存在するとは・・・あれ?
「そういやお前、本当の年はいくつなんだ?」
「女性に年を聞くとは失礼な奴だな」
「気にする年齢じゃないだろうが。真面目に答えろ」
「実は自分の正確な年齢を知らないのだが・・・恐らく13か14だ」
13か14!?
武はエマの答えに度肝を抜かされた。何故なら、ロージの話が正しければエマは3年前、つまり10歳か11歳には既にマフィア界でトップクラスの殺し屋になっていたということになるからだ。
-
- 34 : 2015/03/13(金) 23:23:15 :
- 「お前、一体何時から殺し屋やってんだよ!?」
「・・・私に名前が付いた時からだ」
武の質問にエマはこう答えた。
この時の彼女の表情は、とても悲しく、寂しそうだった。
しかし、すぐに彼女の表情はいつもの堂々としたものに戻った。
結局、武達三人は日没まで話し込み、さらには夕食も三人で食べることにした。料理を作ったのはもちろんエマである。そして、夕食後も会話を弾ませた。
「今日はお世話になりました。夕食までいただいちゃって・・・」
「良いって良いって。またいつでも来いよ」
「師匠、武さん、さようなら」
「じゃあな」
「うむ」
こうして、ロージは去って行った。
「さて、もう11時だ。私は寝るとしよう。貴様ももう寝た方が良いぞ」
「ああ、少し勉強したら寝ることにするよ」
「そうか、無理はするなよ。では・・・おやすみ」
「おう」
エマは就寝前の挨拶を済ませると二階へと上がって行った。この時、武の頭には彼女の発したある言葉が引っかかっていた。
『私に名前が付いた時からだ』
生まれた時から殺し屋として育てられたということだろうか。いや、それなら生まれた時からと答えればいい筈だ。それなのに、何故彼女はこんな回りくどい言い方をしたのだろうか・・・
エマのこの言葉に込められた本当の意味を、武はまだ知らない。
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- 35 : 2015/03/13(金) 23:31:07 :
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- 38 : 2020/10/03(土) 08:45:03 :
- 高身長イケメン偏差値70代の生まれた時からnote民とは格が違って、黒帯で力も強くて身体能力も高いが、noteに個人情報を公開して引退まで追い込まれたラーメンマンの冒険
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コソコソ隠れて見てるのも知ってるぞ?
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