この作品はオリジナルキャラクターを含みます。
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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの杞憂』
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- 1 : 2015/01/24(土) 14:06:53 :
- 密めき隠れる恋の翼たち~『エルヴィン・スミス暗殺計画』
(http://www.ssnote.net/archives/2247)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスとの1週間』
(http://www.ssnote.net/archives/4960)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの苦悩』
(http://www.ssnote.net/archives/6022)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの審判』
(http://www.ssnote.net/archives/7972)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの否応』
(http://www.ssnote.net/archives/10210)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの溜飲』
(http://www.ssnote.net/archives/11948)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの流転』
(http://www.ssnote.net/archives/14678)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの渇望』
(http://www.ssnote.net/archives/16657)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの血涙』
(http://www.ssnote.net/archives/18334)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの証明』
(http://www.ssnote.net/archives/19889)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの慕情』
(http://www.ssnote.net/archives/21842)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの天命』
(http://www.ssnote.net/archives/23673)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの微睡』
(http://www.ssnote.net/archives/25857)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの再陣』
(http://www.ssnote.net/archives/27154)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの謀反』
(http://www.ssnote.net/archives/29066)
★巨人に右腕を喰われたエルヴィンと
最愛のミケを失うが、エルヴィンに仕えることになった
隠密のイブキとの新たなる関係の続編。
『進撃の巨人』の最新話に私の想像(妄想)を書き足した
オリジナルストーリー(短編)です。
オリジナル・キャラクター
*イブキ
かつてイヴと名乗りエルヴィンの命を狙っていた隠密の調査兵 。
生前のミケ・ザカリアスと深く愛し合っていた。
ミカサ・アッカーマンの年の近い叔母。
※SSnoteのルールに則り感想等を書いていただくグループコミュニティを作りました。
お手数ですが、コメントがございましたら、こちらまで
お願いします⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2
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- 2 : 2015/01/24(土) 14:07:37 :
- 調査兵団に属する兵士たちがレイス卿領地地下で、敵である中央憲兵に刃を向けている最中、
同兵団に属する分隊長、ハンジ・ゾエだけが敵の奇襲に遭い、その身体は地に叩きつけられた。
誰かが傷ついて、命を落とすかもしれない――。その可能性を胸に挑んでいたはずが、実際に頭から血を流し身動ぎさえしないハンジに戸惑い、それでも皆は前に突き進むことしか許されなかった。
同兵団兵士長、リヴァイは自身の動揺を隠すが如く、皆に発破をかけ敵を追いかけるよう指示し、
立体起動のガスを吹かせながらだいぶ先に飛び立っていった敵の背中を目指していた。
左右の地面から天井に突き刺さる石柱の合間を翔け抜け、敵の背中にアンカーを突き刺そうとしたリヴァイの動きが突然止まる。次に石柱に留まるよう指示を与え、皆もそれに従った。
隠密から調査兵に生まれ変わり、それでも隠密の動きを兵士として存分に活かすイブキはリヴァイの指示通り、石柱にへばりついていた。
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- 3 : 2015/01/24(土) 14:08:54 :
- リヴァイが敵の動きを凝視していると、不意に爆音が響き上へ上へと天井目掛け、いくつもの光の柱を作った。イブキ以外は巨人の仕業であろうと、目を剥いてごくりと唾を飲み込む。
その方向を皆が眺めるとほぼ同時に突風が顔を掠めていく。
距離がある影響か、皆の前を通り過ぎる頃には生ぬるい風のようで、不快感もまとわり付くようだった。
イブキは初めて応戦する巨人を目前に、額に汗を浮かべ、ポニーテールにしている長い黒髪も突風の影響で、揺れている。またナイフを握る手も汗が滲むだけでなく、震えそうになり、それを止めるようにあえて力を込めていた。
ナイフを握る手の甲が俄かに温かみを帯び出し、イブキの心にも伝わる――。
(…イブキ、ナイフをしまえ……。 ここからはブレードだ…巨人の前では…)
イブキの心に温もりを伴い響いたのは彼女が愛したミケ・ザカリアスの声であり、そのときの声はこれれまでに比べ語尾には力が入るようだ。
彼の力強い声を抱きしめるようにイブキは胸元に手のひらを宛がい、呼吸を整える。
「ミケ…。 わかった、ここからなんだね……」
腰のベルト部分にナイフを隠し、精神を集中させるため何度か深呼吸をしては、立体起動装置のグリップにブレードを繋ぎ合わせた。巨人だけではなく、ケニーとも対峙するとなると、イブキがグリップを握る手にはいっそう力が入るようだった。
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- 4 : 2015/01/24(土) 14:09:45 :
- ちょうど同じ頃――。調査兵団団長のエルヴィン・スミスが陣頭に立ち、彼が部下を引き連れ、それぞれの愛馬に跨いで駆けていて、いよいよ目的地であるレイス卿領地付近まで差し掛かっていた。
愛馬で駆けながら、突如、どこからか伝わる地響きにエルヴィンが手綱を握る左手に力が入る。
うなり声は聞えなくても、エレン・イェーガーが巨人化したときと限りなく近い空気の揺れを感じ、エルヴィンは加えて胸騒ぎを覚えた。
「エレンか…? または別の巨人…?」
眉根を寄せ、エルヴィンは正面を見据えても、その脳裏に浮かんだのは今の彼にとって、手放せない存在となったイブキの笑顔と彼女に触れた柔らかさだった。
(…君は初めて巨人と対峙する……イブキ、生きていてくれ、俺が行くまで――)
団長として責任ある立場で多くの部下を率いても、心の片隅で熱く彼女を想うことは大切な秘め事のようものである。その気持ちを誰にも覚られぬよう眼力強く正面を見据える。エルヴィンは跨る愛馬の腹部を圧迫するように両脚に力をいれ、スピードが出るように扶助を送っていた。
「ハンジ分隊長…!!」
エルヴィンの隣で彼と同等のスピードの愛馬で駆けるモブリット・バーナーは、上官のハンジ・ゾエを案じながら無意識に上ずり震える声を上げていた。
モブリットの横顔を眺め、ハンジは無事だとエルヴィンは言い切れない。またハンジだけでなく、
皆は無茶を承知で挑んでるだろうと容易く想像できる。それでも皆の兵士としての能力を考えれば
これも杞憂に終わればいいとエルヴィンは願うばかりだった。
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- 5 : 2015/01/24(土) 14:11:23 :
- ケニー・アッカーマンがロッド・レイスの額に銃口を突きつけ、さらには憎しみがこもったとき、ケニーの左手で襟首を強く閉められていたロッドの身体は宙に浮いていた。
恐怖で目を剥くロッドを睨みながら、ケニーは若かりし頃、病床の祖父が話してくれた物語の記憶が逆巻いていた。
アッカーマン家と東洋人が王が代々受け継ぐ巨人の力による記憶の改ざんに影響されない、と聞いたときケニーは驚きと同時に笑いを堪えるのに必死だった。それは不遇と長年感じていた自分自身には未知なるモノが秘められていると感じたからだ。
その時から数ヶ月前の、月も顔を出さないとある夜更け――。ケニーが某屋敷で自分をかぎまわっている憲兵を殺したとき、ちょうど同じ屋敷に忍び込んでいた数人の隠密に見つかっていた。この憲兵は王政の反逆者との疑いがあり、それゆえ王政に命じられ隠密が手にかけようとした矢先、ケニーに殺されていたのだった。
真夜中の仄暗い屋敷の応接間で隠密は黒い忍装束を着て、また全身を隠している影響でケニーが見えるのは彼らが自分を睨みつける冷徹な黒目だけである。
「何だ…てめーら…?」
家人に自分の存在を知られないよう、それでもケニーは声を押し殺し、彼らを威圧する。
再びナイフを取り出そうと、背中に手のひらを回したとき突然ケニーの目の前が真っ暗になり、視界が遮られ、また身動ぎも出来なくなる。それは音もなく背後から近づいた別の隠密がケニーの頭から布袋をかぶせ、ロープで彼の身体を拘束したからだった。
ケニーは突として隠密に捕らわれ、王政の秘密裏の施設まで連れ去られることになった。
理由がわからないまま、ケニーがその施設で開放されると思いきや、跪かされ、被されていた布袋を脱がされると、顔を晒すことを許された。久方ぶりの当たり前にできる呼吸に、咳き込みながらも息を整え、蝋燭の灯りだけが頼りのその場所を見やる。最初と同様に全身黒ずくめの忍装束の隠密に囲まれ、ケニーは眉根を寄せ声を荒げた。
「おい、この俺にこんなことしやがって、ただじゃすまねーぞ!!」
ケニーの声に反応したひとりの隠密が彼の視線に合わせるように跪いた。
目元しか見えない隠密の眼差しにケニーは怯まず、それでも睨み返す。
「おまえが…最近流行の『切り裂き魔』ってヤツか…なかなか見込みがあるな…仲間にしてやる…」
「はっ!?」
「が、断れば…死ぬしかないが――」
隠密が小刀を取り出し、その側面をケニーの頬に軽く数回押し当てた。わずかに血の匂いが残る小刀を握り、慣れた手つきの隠密を目先にケニーは本当に殺されると確信した。この無茶苦茶な誘いを振り切るように隠し持っていた小型ナイフで自分を縛っていたロープをケニーはようやく切り落とす。
「な、何…を! 意味わかんねーこと言ってんだ! てめーらっ!!」
怒りのままにケニーは同じナイフを目の前の隠密の腹部に突き刺そうとしたが、暗闇の応戦ではその実力が上回る隠密はいとも簡単に攻撃をかわしていた。ナイフを手にするケニーの手首を握る隠密の力はとても強く、目元しか見えなくても、ケニーはあざ笑われている気がして、沸々とした怒りから頬が赤くなるのを感じていた。
「まぁ…よい…ケニー、おまえはやはり、できるヤツ…」
ケニーの秘めた実力を見抜いた当時の隠密の頭(かしら)が音も立てず二人の間ににじり寄った。
その動きにケニーを攻めていた隠密は力を緩め、彼から離れたと同時に頭の前に片膝を立てて跪いた。
予想さえできないことが自分に起き、ケニーはその場で立ち尽くしていると、目前の頭が自ら忍び頭巾を脱いで、顔を晒す。またケニーから取り上げていた彼のお気に入りのテンガロンハットを返していた。
ケニーは宙を仰ぎ、右手で軽くテンガロンハットのトップを持ち上げ、左手の指先で髪の毛を後ろに流し整え、ハットを被り直す。
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- 6 : 2015/01/24(土) 14:12:32 :
- 「…あんたたち…見慣れない顔立ちだな…」
「あぁ…我々の先代は…東洋という国から来たんでな…この壁の中の人種とは顔立ちは違うはずだ」
色白で彫りが深くない、うりざね顔の切れ長の両目は鋭いが、ケニーを見つめる年齢を重ねたしわの多い眼差しはどこか和らいでいた。
見慣れない顔立ちにケニーは小首を傾げ、他の隠密たちが次々に顔を晒したとき、切れ長の眼差しもいれば、東洋でも南洋系に近い彫が深く目鼻立ちが整ったものもいる。
「まぁ、ケニー…顔立ちは我々だって様々だ…。 おまえほどの男前ではないが、近い顔立ちは…?この面子には……いないか――」
「なかなかいい冗談を言うじゃねーか…あんた」
少しばかりおどける頭から自分の顔を褒められ、ケニーは鼻を鳴らして笑っても、眼差しは変らず鋭いままで、頭を睨みつけていた。
「おまえはいつか、この我ら隠密を率いていける……期待しているぞ」
「オイオイ…! またまた何言ってんだ!」
「もちろん、女が欲しければ、与えるが、それはどうだ?」
「えっ!?」
蝋燭の仄かな灯りの中で黒尽くめの忍装束で佇む、色白の切れ長が美しい東洋美人の『くのいち』がケニーを妖しく見つめていた。次に音も立てずにケニーに近づき、彼の肩に身体を預けては、そっと耳元に熱い息を吹きかけた。
「…まぁ、これも悪くないか…! で、俺は何をすればいい?」
ケニーはくのいちの美しく妖しい眼差しにニヤっと片方の口角を上げても、すぐさま頭を見やった。
「ケニー、おまえも男よのう…! だが…憲兵を殺った時の…喉元の切り裂きは見事だった――」
頭はケニーに隠密について伝え、そのナイフの使い方で隠密として殺し働くよう促し、仲間になることを彼も同意する。その日を境にケニーは隠密のひとりとなった。
王政の秘密裏で動く隠密になれば、かつて王家の武家だったアッカーマン家がどうして、王政から
恨まれる存在になったのか、その謎を知りえる機会があるのだろと、ケニーは最初、そう睨んでいた。
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- 8 : 2015/01/24(土) 14:16:05 :
- 祖父からアッカーマン家の先代の秘密を耳にしても、ケニーは隠密にその話をあえて伝えることはしなかった。
また自分に接触してきた隠密の東洋人が自分の血筋とは違っても、同じように巨人の力による記憶の改ざんに影響されないとは思いもしなかった。自分だけに託されたアッカーマン家の秘密の物語は、いつか自分の夢として花開かせようと決め、ケニーは一切口外せず、それ以来、肝心なことを口にしない秘密主義になっていた。
隠密に属した直後から、精鋭から格闘術を教わるなどして、ケニーの殺しの腕はさらに頭角を現してきた。数人の実力者と組んで憲兵殺しを繰り返すと、『切り裂きケニー』と呼ばれ、その『表の顔』と隠密の『裏の顔』を持ちながら生きていこうと決めていた。
当時の頭は別の人種を隠密に引き入れることは当初、否定的だったが、ケニーの殺しの手口を目の当たりにしたとき、彼を引き入れることが今後の隠密のためと考えを改めざるをえなかった。
ケニーが隠密の新たな仲間たちとの間と行き来する生活をして、幾年が過ぎた。
二つの顔を持ちながら、その実力から当時の頭と同等のくらいに頼りにされるが、相変わらずの秘密主義であった。自分のことをあまり語りたがらないことを不満にする仲間がいたのも確かである。
それでも秘密裏の存在である隠密のことも表に出さないことで、仲間からの信頼は厚かった。
生ぬるい風が吹き荒ぶある夜――。
隠密の仲間が組織を裏切り、逃げ出したとケニーは聞かされた。
その理由は、これ以上殺しをしたくない、とうだけでなく、平凡な家庭を築きたいがために逃げ出した、といことだった。
ケニーは平凡なんて、そんなものは俺らに存在しないと怒りよりも呆れる気持ちが強かった。
逃げ出したのは隠密夫婦と、その幼い娘と生まれたばかりの赤子の家族で、壁外へ逃げようとしていたのだった。
「まったく……手こずらせやがって…壁外で平凡な家庭を築く前に巨人に喰われちまうよ――」
当時の頭を先頭にケニーもウォール・マリアの森の中を追いかけても、先へ進む隠密の背中が
遠くに見える程度の速さで走っていた。息を切らしながらも、ケニーは隠密独自の走法を取得していて、迅速に駆けることが出来ていた。
始めは面倒だ、と修行は嫌がっていたはずなのに、彼独自の『バカみたいな力』の影響か、それを
発揮するほど、速く走れるようになっていた。
それでも精鋭の隠密に比べれば、まだまだ遅い方であった。年少からケニーが修行を始めていれば、精鋭中の精鋭になっていただろうと当時の頭は踏んでいた。
「はぁ…しかし、これは体力が持たねーな……どうにかしなければ…調査兵団が使っている飛び道具があれば……」
聳える木々の枝で息を切らしてケニーは一休みして、小さくなる仲間たちの背中を眺めていた。
容易く付いていける、という自信の下、彼は度々休んでは、皆に追いついて行く。
その当時、開発されたばかりの立体起動装置が調査兵団によって使われ始めた頃でもある。ケニーが好奇心からその装置を見たくて、調査兵団の訓練施設に忍び込み、その訓練風景を盗み見したこともあった。その時、立体的に飛び立つのが当の兵士でさえ困難であるとケニーは目の当たりにしていた。将来的に扱いやすい装置が開発されれば、武器として使えるとケニーはその頃から予想していたのだった。
「動きやすいっちゃ、動きやすいんだが…」
舌打ちしながら、ケニーは自分の全身を見ては再び正面の仲間たちを見据える。
全身黒尽くめの忍装束は着慣れなく、この隠密の仲間たちの間にいるだけ、と仕方なく着ていた。
東洋の着物に着慣れなくてもそれでも動きやすく、武器も隠せる理に適う服には関心を寄せて、
まったく嫌い、ということもなかった。
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- 9 : 2015/01/24(土) 14:17:50 :
- ケニーが頭や精鋭に追いついて、木々の枝からひらりと地上に降り立ったとき、乳飲み子を抱えた母親である隠密と出くわした。彼女は恐怖に震えながらも子供を必死に守るためケニーから果敢に逃げようとしても、背中から切られそのまま息絶えた。
母親に抱きかかえられたままの赤子は火がついたように泣き出し、その隙に幼いもうひとりの娘は暗闇に消えていった。それは後のミカサ・アッカーマンの母親である――。
「頭…この赤子…こいつも殺しちまおうか?」
「いや…待て……」
頭は隠密家族の父親に裏切り者への刃をすでに入れていて、血の着いた刀を振り下ろし、鞘に戻した。
またケニーが殺した隠密のそばに跪き、頑なに抱きしめられていた赤子を取り上げても、火がついた泣き声はまだまだ治まっていない。
「頭、うるせーな…! やっぱり、殺しちまおうぜ――」
「逃げた娘は…いつか見つけだして、裏切り者の仕置きを…。 だが、この赤子…夫婦そろって精鋭の娘…。 まだ生まれたばかりだ…」
「ん? 何言ってんだ?」
「ケニー、おまえが育てろ――」
「何!? 何で俺が…!?」
頭は抱きかかえていた赤子をケニーに引き渡した。生まれて間もない赤子で、身体はぐにゃぐにゃと柔らかい。
不機嫌なまま抱きかかえていた影響で、まだまだ火の着いたような泣き声をあげていた。
片腕で抱きながら、頭の目を盗みケニーは密かに赤子にナイフを入れようと企んでいたそのとき――。
ナイフの頂が月明かりで反射し、淡い黄金色を放ちながら、赤子の目元を照らした。その直後、突然泣き止むと、ケニーに微笑みかけ、ナイフに手を伸ばす仕草をしていた。その笑顔にケニーの動きも止まる。
「そうか…! おまえもナイフが好きか…?」
ナイフを腰のホルダーにしまいケニーは妖しく微笑みかけ、両腕で赤子を優しく抱きかかえていた。
(俺が…この子を殺し屋として…育ててもいいな。 リヴァイの…妹のようになるか…。
まぁ、あいつとは別の暮らしだし、会うこともなさそうだが――)
その赤子が後のイブキであり、その日からケニーが育ての親となっていた。
隠密との生活で、ケニーは擬似的に家族を持ち、悪く感じることもなく、二重生活を続けながら、頭を継いでも年を追うごとに自分の夢も膨らんでいく。
まず最初は数少なくなってきた隠密を含めた自分の仲間たちを中央憲兵団に属する対人制圧部隊に編制することだった。
それが自分の夢に一歩でも繋がるとケニーは長い間、信じていた――。
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- 10 : 2015/01/24(土) 14:18:38 :
- ケニーはロッドから、おまえの野望は叶わないと突きつけられ、怒りのままエレン・イェーガーの髪の毛を掴むと、ナイフの刃先を額に充て、横一線に切れ込みを入れた。
額から血しぶきが溢れ、両目を覆うように鮮血が流れる。エレンは痛みよりも巨人の力を親子で奪ってしまったことが原因で、多くの命が奪われたことに思いを馳せると、身体が硬直し、身動ぎさえできなくなっていた。
立体起動装置でケニーはいち早くエレンから離れて、彼を見下ろせる石柱にへばりついていた。
「俺の…夢が……俺の物語が……!!」
若い頃から見ていた夢が潰えようとして、相棒に等しいナイフに付着したエレンの血に怒りを覚える。
「なんてこった…まったく…! 寿命が尽きるまで、ただ息だけすりゃいいってもじゃねーだろ!」
ケニーの怒りで唇は強張り、身体が熱くなるのを感じる。忌々しい眼差しをロッドに向け、舌打ちしながらロッドとヒストリア・レイスの動きを睨んでいた。
「リヴァイやイブキを敵に回しても…俺の夢は叶うと思っていたんだがな……」
苛立ちから眉根を細めると、眉間のしわはさらに深くなる。ケニーはへばりつきながら、リヴァイを始めとした調査兵たちがいるであろう方向に顔を向け、眺める強い眼差しは冷え切っていた。
再び視線を下ろしたとき、突然の爆風に長身の身体を揺らし、ケニーは慌てふためき石柱にすがりつく。
「これが…巨人の力か――」
爆風で飛ばされそうになったテンガロンハットを掴み目下の光をさえぎる。
つばの先で目元を押さえ、隙から見える四方八方に放つ光は希望なのか、と訝しげに眺めていた。
「俺の…物語は…こんなはずじゃ…」
長年の夢が潰えようとしている途中、ケニーの目前に熱風と共に白い煙がまとわり付く。
煙が少しずつ薄れていき、また徐々に巨人がその全貌を晒し始める。
初めて目の当たりにする、人から変貌を遂げたとてつもない巨体をケニーは苦々しく眺めていた。
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- 11 : 2015/01/24(土) 14:18:55 :
- ★あとがき★
いつもありがとうございます。
毎回、難しくなっていく本作品ですが、今回は主役は誰だ?と突っ込まれそうでも、
ケニーのその人生を着目してみました。隠密の頭はケニーが出てくる前から、出番はありましたが、
いつかのタイミングで表に出てもらおうと思っていました。
まさか…!ケニーとピッタリくるとは嬉しい想定外で、今回はケニーと隠密との絡みのようなものを妄想してみました。
最新話を読むたび、難しくなりますが、それでも進撃も好きなので、これからも書いていきたいです。
「進撃×忍者」みたいな話っぽいのですが、こういう話もスピンオフであってもいいかもですね。
本来の主役であるイブキは今回は少ししか出ていませんが、エルヴィンと早く再会できるよう願うばかりです。
来月もまたよろしくお願いいたします!
お手数ですが、コメントがございましたら、こちらまでお願いいたします!
⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2
Special thanks to 泪飴ちゃん(•ㅂ•)/♡love*
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