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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの謀反』

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  1. 1 : : 2014/12/22(月) 12:07:45
    密めき隠れる恋の翼たち~『エルヴィン・スミス暗殺計画』   
    (http://www.ssnote.net/archives/2247)   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスとの1週間』   
    (http://www.ssnote.net/archives/4960)   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの苦悩』   
    (http://www.ssnote.net/archives/6022)   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの審判』  
    http://www.ssnote.net/archives/7972)  

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの否応』 
    (http://www.ssnote.net/archives/10210) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの溜飲』 
    (http://www.ssnote.net/archives/11948) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの流転』
    http://www.ssnote.net/archives/14678) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの渇望』   
    http://www.ssnote.net/archives/16657

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの血涙』   
    http://www.ssnote.net/archives/18334

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの証明』
    http://www.ssnote.net/archives/19889

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの慕情』
    http://www.ssnote.net/archives/21842

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの天命』
    http://www.ssnote.net/archives/23673

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの微睡』
    http://www.ssnote.net/archives/25857

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの再陣』
    http://www.ssnote.net/archives/27154

    ★巨人に右腕を喰われたエルヴィンと   
    最愛のミケを失うが、エルヴィンに仕えることになった   
    隠密のイブキとの新たなる関係の続編。   
    『進撃の巨人』の最新話に私の想像(妄想)を書き足した   
    オリジナルストーリー(短編)です。 

    オリジナル・キャラクター

    *イブキ
    かつてイヴと名乗りエルヴィンの命を狙っていた隠密の調査兵 。
    生前のミケ・ザカリアスと深く愛し合っていた。
    ミカサ・アッカーマンの年の近い叔母。

    ※SSnoteのルールに則り感想等を書いていただくグループコミュニティを作りました。
    お手数ですが、コメントがございましたらこちらまで
    お願いします⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2
  2. 2 : : 2014/12/22(月) 12:10:12
     調査兵団に属するモブリット・バーナーは松明がゆらゆらと風になびく灯かりを頼りに真夜中の農道を愛馬に跨り駆けていた。併走するのは尊敬する上官で、所属する同兵団団長のエルヴィン・スミスである。
     
    「…分隊長、どうかご無事で――」

     逸る気持ちを抑えるつもりが、心根で思っている本音が弱々しい口ぶりと共に飛び出した。
     モブリットの本音は併走するエルヴィンの耳元にも届く。団長として一心に正面だけを見据え、左手が手綱に込める力強さに変わりはない。

    「モブリット、ハンジは無事だ…」

    「――はい、それは…もちろんです!」

     エルヴィン自身は本音を消した口調でモブリットにいう。モブリットが自分の声が聞こえていたことに
    怯んだのは一瞬だけで、すぐさま力強い口調で返していた。
     松明があたりを照らし、時折尻目に飛び込む木々や木造の家々に気を止めることなく、駆け抜ける蹄の音にエルヴィンは耳を傾けていた。

    (イブキ…君もきっと無事だろう…)

     少し口端を上げエルヴィンは冷徹に笑う。イブキを想い微かに火照る身体を真夜中の吹き荒ぶ風が自分自身を落ち着かせ、心地よささえ感じていた。
     凍りついたようなセルリアンブルーの瞳の奥の情熱の灯が絶えることもない。
     それは幼くして最愛の父親を失って以来、長い間求めていたこの世界の謎へ繋がる扉が少しずつ開いている気がしてならないからだ。それゆえに、エルヴィンが王政に歯向かう謀反は続く――。


     調査兵団分隊長のハンジ・ゾエと部下のアルミン・アルレルトはこれから命を賭す作戦に対して互いの頭脳をぶつけ合う。二人の様子を傍で耳を傾ける隠密の調査兵、イブキは特にアルミンに関心しっぱなしだった。

    (さすが…エルヴィンの部下…! 手綱を握りながら、武器の作動を観察していたなんて――)

     ストヘス区の街中で御者として動いていたアルミンが敵の動きを思い出し、ハンジに身振り手振りを交えて上官である彼女へ武器の詳細を説明する。
     その頼もしい背中に目をやり、イブキはそっと彼の肩に手を置いて、二人の傍から一旦離れた。

    「アルミン…どうしたの? 急に止まって? 顔も赤いけど」

    「いいえ…! 何でも…ありません、ハンジさん――」

     アルミンはイブキに突然触れられたことで、驚きと嬉しさが入り交ざり微かに目元は緩み、懸命な口ぶりは止まっていた。
     それでも平静さを装う姿にハンジは少しばかり呆れて、改めて耳を傾ける。

    (…命を投げ出す覚悟をしている皆に安らぎを与える存在になったのか…イブキは…! エルヴィン、彼女を仲間に招いたあなたの選択は正しかったのかもね)

     同兵団兵士長、リヴァイの元へ向かうイブキの後姿を見送り、ハンジは再びサシャ・ブラウスを交え、レイス卿領土に挑む作戦を立てることにした。
  3. 3 : : 2014/12/22(月) 12:13:44
     リヴァイがどこからか見つけてきた大きな樽に車輪を備え付け、爆薬を仕掛けるよう皆に指示する姿にイブキはただ目を見開いた。日常的なモノから武器へ変えていく扱い方が明らかに隠密と同じで、さらに火薬の量が多いからである。

    「リヴァイ…! その火薬の量、多いと思うけど…?」
      
    「……確かにそうかもしれん…。 だが少ない火薬量だと…この樽の高さと同じくらいの火柱だろうな…」

     イブキの問いにリヴァイは冷めたまなざしで、自分の腰くらいの高さの樽に手のひらを沿え、次に軽く拳を握ってそれを叩いた。

    「だけど…これ以上だと大爆発を起こして、私たちにも被害が――」

    「そのときはそのときだ…避ければいい。 何のための立体起動装置を備えている…?」

    「それも…そうね」

     リヴァイの冷静ですべてを見越したような眼差しにイブキは軽くため息をついた。手馴れた手つきで
    油の入った布を仕込む姿に、イブキは怪訝に小首を傾げる。

    (いったい…頭(かしら)から…リヴァイは何を習ったの…?)

     リヴァイが3つ目の『樽』を作ろうとしたとき、イブキにも指示をする。
     多くを説明せずとも互いに何を作るか、ということをすでに理解していて、イブキも手早くまた器用にその樽を武器に変っていった。

     
    「……おまえら、手を汚す覚悟の方はどうだ?」

     手筈を整えたリヴァイが皆の腹を括った様子を伺う。小さな炎のランプの灯かりに照らされたリヴァイ班の面々は強張っているが、誰一人弱音を吐くものはいない。真夜中の礼拝堂はしんと冷えていて、足先から震えそうになる。その震えは恐怖に戦慄いているのか、寒さからくるのか、若きリヴァイ班には区別がつかなかった――。

     敵が潜んでいるであろう、地下に繋がる木製のドアにリヴァイは耳を当てる。眼力は鋭いまま、僅かな音でも聞き逃さないよう耳を集中させ、突入のタイミングを図っていた。
     リヴァイの動きに皆は警戒の色を隠せない。背中を皆に晒しながらリヴァイは大きく深呼吸した。
     呼吸が整いリヴァイの肩が下りたとき、突如、目の前の両開きのドアを乱暴に蹴り飛ばし、それを合図に敵が潜むその地下階段めがけ、爆薬を仕掛けた樽を突き落とした。
     ガタゴトと樽は音を立てながら、下に向かって降りて行く。合計3つの樽が目的の地下へ到着したとき、
    その胴体に巻きついていたガス缶が勢いよく煙を吐いていた。

     硬質な水晶のような柱にその身を隠す敵陣はリヴァイの奇襲にその身を硬直させ、樽の動きを静かに伺っている最中、リヴァイとミカサ・アッカーマンが両手にブレードを握り締め、階段を駆け出した。背後のサシャが刃先が灯火された火矢を構え、樽を目掛け弓を引く。矢が突き刺さった樽は瞬く間に火柱と轟音を上げた。

     敵は突然の爆発音に驚くよりも、煙がすぐさまその地下半分を覆う状況に狼狽の色をその顔に浮かべ、両手に銃を握り締めてもすぐトリガーを引けない。
     リヴァイは数少ない班員の力を最大限に活かすため、煙を使い、敵の目を晦ませ、的を簡単に絞らせない作戦を立てそれを実行に移していた。

    「さすが、サシャだね…! 一発で樽に命中させるなんて…!」

    「ありがとうございます…イブキさん――」

     サシャの背後から弓を引く動きを伺っていたイブキは彼女への関心が高まるようだった。互いに緊張感を漂う顔を向かい合わせるが、イブキは黙って頷き、次にリヴァイとミカサの背中を立体起動を操作させ追いかけた。
     空を翔る3人の合間から信煙弾が飛んできて、煙の筋がいくつも作り出される。その最中、リヴァイは敵の数を数え、ブレードを振りかざす――。

    「敵数35人! 作戦続行、すべての敵を叩く!!」

     声を荒げるリヴァイの合図にアルミンとサシャ以外の皆も敵に目掛けて立体起動で飛び立つ。ハンジだけはこの地下の広さに訝しげで視線は定まらず、見渡しながらこれまでの培ってきた巨人の研究と照らし合わせているようだった。 

     乳白色にも透明にも見える地上から天井へ目掛け聳え立つ石柱にイブキはアンカーを射し込み、敵を見渡す。立体起動で飛びながら、ブレードを扱いにくいと感じて、いつもの手中に収まるナイフに武器を変え、挑むことにした。
  4. 4 : : 2014/12/22(月) 12:16:01
    「…まさか…自ら進んで殺しをするとは…思ってもいなかった――」

     煙に逃げ惑う敵の背後に回り、イブキはその首に左から右へ流すようにナイフを入れると、瞬く間に敵は地上目掛けて落ちていく。ナイフから伝わる肉が切れる感覚だけでなく、骨も刃先に触れていた。

     好きではなかった感覚を思い出し、イブキは敵から身を隠しては、血のついたナイフとそれを握る指先を眺めていた。
     その直後、自分の頭上で敵の叫び声が聞こえ、イブキがすぐさま顔を上げると、その光景に我が目を疑う。


    「ミカサ…?」

     躊躇どころか、迷いさえ見せず敵の身体にブレードを入れ、瞬時に止めを刺す姿にイブキは驚き隠せない。少しだけ身体を硬直させ、イブキは怪訝にミカサを眺めていた。その動きは自分とも異なる素早さと的確さに自身の姪とは思えず、握っているナイフに思わず力が入る。

    「やっぱり…あの『バカみたいな力』…それを発揮させると、こうなるの…?」

     ミカサのブレードを扱う並外れの姿に初めの戸惑いから今度は妖しく微笑む。『暗殺者イブ』が少しだけ顔を覗かせているようだった。

    「なんだ、この女! バケモンか――」

     逃げ惑う敵の叫び声にイブキは怒りのスイッチが入るようにナイフを握る手に力が入った。
     ミカサが『化け物』扱いされたことで、妖しかったその眼差しは憎悪に燃える。

    「ウチのかわいい姪に向かって、化け物とは何っ!?」

     その叫び声を上げた敵にイブキがナイフを投げようとしたとき、ミカサが顔面目掛け、蹴りを入れ、敵は石柱にその身を叩きつけられた。


    「ざまーみろ…。 えっ? みんな…?」

     ミカサに応戦する敵はイブキのかつての隠密の仲間たちだった。
     親しい仲間同士はつらい修行を苦とも感じず、励ましあった懐かしい記憶がイブキの脳裏に突如、思い出される。

    「…どうして、こんなことに? みんなに刃を向けるって決めたけど…だけど――」

     手中のナイフを握りながら、目の前の殺戮にイブキは殺めることにやや迷いを見せて、額に汗が滲むようだった。

    「ミケと出会って……もう命は奪わないって決めたのに…どうしてまた繰り返されるの…?」

     強張る唇から、か細い本音がこぼれる。気持ちを切り替えようと歯を食いしばったとき、イブキはその唇に温かく柔らかな空気が触れた気がした。

    (イブキ…すまない、それでも…戦わなければ…勝てないんだ…)

    「ミケ…!」

     イブキは自分の唇にミケ・ザカリアスの温もりが触れた気がして、その同時にその心に彼の懐かしい声が響く。
     
    「わかった…ミケ、私は…調査兵として挑む――」

     手のひらに敵の血が付着していても、イブキは気にもせずミケの声が響いた胸元に手を宛がった。
     大きく深呼吸して、イブキが再び飛び立とうとしたとき、へばり付いている石柱にリヴァイがアンカーを射して、ガシャリという金属音が彼女の頭上で響いた。
     そのリヴァイの頬には何人もの敵の血が付着していて、それを拭うこともせず、敵が飛び交う空を見上げていた。

    「…イブキ、怖気ついたか? 暗殺者だったおまえが…こんなところで死ぬわけねーよな…?」

    「それは…!」

     イブキはこの殺戮の最中でも自分の気持ちが見抜かれたようで、直視していたリヴァイから視線をそらす。
     肝心なリヴァイはイブキを見ることもせず、眼差し鋭く敵を眺めていた。

    「まぁ…巨人と対峙すれば、こんなもんじゃねーよ…。 まだ敵が俺たちを喰わないだけましだ…。
    だが、おまえの戦い方…懐かしいな…。 俺も最初はこのブレードを使わず、ナイフで切りつけていたもんだ――」

     再び逆手でグリップを握り、アンカーを操作して再び勢いよく飛び立った。イブキはリヴァイの小さな背中を頼もしく感じる。それでも敵に挑む姿に高揚感さえ覚えるようだった――。

    「リヴァイ…あなたって…何がその身体を突き動かす? どうして…戦える……ああ…また!」
     
     リヴァイの背中を見送り、彼の姿が視界から消え、天井目掛けていくつもの信煙弾の煙の柱が目の前に作られていく。その煙の柱を隔た石柱にへばりついていた敵は、イブキのことをわが子のようにかわいがってくれた隠密の男の姿だった。
  5. 5 : : 2014/12/22(月) 12:19:33
    「おじさん……やっぱり、そうなるよね…」

     その敵を懐かしそうにイブキは目を細める。ケニーよりも父親らしくイブキの世話をしていた年老いた隠密の男である。目元には年を重ね、日焼けしたしわが目立っていた。
     かつての仲間たちを目の前にするイブキは過去の出来事を思い出し再び彼女を苦しめ始める。
     『暗殺者・イヴ』として身体を使って敵を殺すイブキの技に、この隠密の男は彼女の身体をいつも心配していた。
     
    ――ごめんな…王のためとはいえ、女として…自分も殺して…こんな殺しをさせて…

     仕事から戻った直後、彼女の心と身体を思い、目元のしわがさらに深くなるような顔が思い返される。
     まるで二人だけの秘密のように、誰にも聞かせたくない押し殺したようでも優しげな声を掛け、男はイブキの頭を優しくなでていた。
     大きくごつごつとした手のひらは温かく、イブキはその何気ない仕草に育ての親よりも親近感を覚え、暗殺者とはいえ、人間らしさを忘れることはなかった。その相手さえ、今ではイブキの敵となる――。

    「私は…調査兵団に拾われた…。 イヴじゃなくて…普通の女のイブキとして生きたかった…」

     自分を愛でてくれた年を重ねた男やミケが包んでくれた優しさに苛まれ、イブキは身動きできなくる。
     立体起動装置の噴射口付近に隠したナイフを手を伸ばし、イブキはただその男を見上げるしかなかった。
     その隠密の男が何気なく視線を下ろしたとき、イブキを見つけるとすぐさま立体起動の操作を止め、彼女へ身体を向ける。

    「…イ、イブキーー!!」

     咄嗟に男はイブキの名を叫び、対人立体起動装置の銃口を彼女に向けてもすぐにトリガーを引こうとはしなかった。その銃口目掛け、イブキもナイフを投げようとしても、その男の目を見ると、動きが止まる。戦慄の中でも、優しい男の眼差しが昔と変らず存在していたからだ。
     イブキとその隠密の男は互いに戸惑いと迷いの色をつき合わせていた。
     二人の迷いを断ち切るように目の前にいくつもの信煙弾の煙の柱が通り過ぎる――。

    「どうした!? イブキさん、何やってんだ!!」

     信煙弾を撃ったアルミンがイブキに発破をかける。いつもの優しい彼とは違う威圧的な口ぶりにイブキは我に返った。

    「命の尊さを…私はもう知っている…。 だけど…手を汚さなければ……この壁の中の争いとエレンの奪還は叶わない……ごめん、おじさん…」

     ナイフの柄を握り、手早く男の太もも目掛けて投げつけた。その心は押しつぶされそうになる。
     突然のことで、男は痛みで叫び声を上げ、イブキを睨むが、直後、引きつらせながら柔らかい笑みを浮かべる。それでも痛みで目元は青ざめていった。

    「どうして…おじさん…笑って…?」

     イブキが次のナイフを取るため、背に手を伸ばしたとき、男は何か覚悟を決めてるのか、ゆっくりと頷いても銃を改めて構えることはしない。ただ痛みで眉をしかめ、ナイフが刺さった太ももを両手で押さえていた。
     男はイブキに視線を送った後、石柱に刺さったアンカーを見ては再びイブキを睨み返す。
     ナイフをこの場所に刺せ――。という合図をイブキに送っていたのだった。

    「えっ…? おじさん…あのときは…ありがとね――」

     イブキが乾いた喉を鳴らしても、潤うことはない。男の意図を感じ、勢いよく力任せにアンカーが刺さった石柱にナイフを投げた。直後、アンカーの『爪』の部分からボロボロと小さな石の欠片が落ち、同時に突き刺さっていた部分が男の体重に耐えられず、男の身体は地上目掛け落ちていく。それでもイブキに向ける顔は穏やかで、微笑んでいるようにも見えた。

     男は『ケニーの夢』に賛同していても、組織を抜けたとはいえ娘のようなイブキを手に掛けるより、自ら死を選んでいた。
     叫び声をあげずとも、男の身体が地上に到達したとき、ぐちゃっという肉が叩きつけられる生々しい響きがイブキの耳にも届いた。耳を塞ぎたくても間に合わず、イブキは目を背けても音だけ聞いてしまっていた。

    「おじさん…私に殺される覚悟してたんだ…。 どうして…私なんかに? それに私はもうイブキ…人を殺める罪深さを知った…。 おじさんは身を持って…それを私に教えたの…?」
  6. 6 : : 2014/12/22(月) 12:21:58
     イブキは再び人を殺める罪の深さに戸惑い、良心の呵責に苛まれる。

    「私は…あなたに導かれ、ここまできた…エルヴィン…私は正しい道を歩いている? あなたや…
    調査兵団に仕える調査兵に生まれ変わった…それでいいのよね…」

     見上げると、若きリヴァイ班たちも人を殺めることに躊躇しながらも挑んでいる。イブキは自分だけ迷って動きを止めてはいけないと、思いながらも身体は硬直したままだった。

    (イブキ…しっかりしろ…! 俺がついている…)

     心に響くミケの声はこれまでに比べイブキの身体に響き渡るような低さで、彼女を鼓舞するようにも聞こえる。イブキはその声が響いた胸にそっと手を宛がい視線を注ぐ。

    「ミケ…ごめん…こんな弱い私だけど…見守って――」

    (もちろんだ…)

     ミケの声はイブキの全身を包み込み力を与える。奥歯をかみ締め、改めて呼吸を整えると、アンカーを再び空中に目掛け操作し、新たな敵の首目掛け、ナイフを滑り込ませた。 


     爆発音が響く最中、イブキが敵と戦っていると、リヴァイに果敢に挑む女兵士がいることに気づく。隠密ではないが、イブキは見たことも会ったことなく、それでも戦う姿勢がケニーに育てられたのだと見抜いていた。

    (あの…女は…ケニーの次に注意すべき敵だろう――)
     
     長い髪を後ろに束ねた女兵士を注視していたとき、イブキは遠くからでもその女の視線を感じていた。
     気のせいだと思いながらも、イブキは目の前の敵に挑む。

    「あれは…イブキ、確か…団長の女…そうだ――」

     この兵がリヴァイの動きを封じ込めようと、咄嗟にイブキを射程圏内に捕らえようとしても、距離が遠すぎて狙えなかった。
     苛立ちをおさえられず、舌打ちしながらリヴァイとイブキを交互に睨みつけたとき、新たな人物が射程圏内に入ってきた。

    「せめて…一人、敵に穴が開けば…!」

     敵が卑しく笑みを送った相手は立体起動で同じ方向へ飛んでいくハンジだった――。
     その兵がハンジに向かい弾を二発撃った直後、石柱にアンカーを突き刺す様子にイブキは気づく。 
     すぐには発射できないはずだが、女兵が銃口をハンジに向けたことを怪しんだ。

    「まさか……あの女、ハンジを!?」

     弾を二発撃ったのはわざとで、何か目論見があるのだと睨んだとき、イブキはハンジに方へ飛びたくても、目前の敵は一発しか弾を発射しておらず、慎重に首元にナイフを入れようとしていたときだった。

    「君も生き急ぐタイプかな!?」

     ハンジが部下のモブリットにいつも言われていることをその兵士に向かって叫ぶ。
     ブレードを両手に挑もうとしたと同時に、対人立体起動装置のアンカーがハンジの肩に目掛け勢いよくそのままに伸びていき、彼女の右肩奥深く突き刺さった。

    「――ハンジ!?」
  7. 7 : : 2014/12/22(月) 12:23:01
     イブキが目前の敵の止めを刺せた。それと同時にハンジは女兵士へ向かってワイヤーが引き寄せられ、さらには力任せに彼女の身体は放り出されると、石柱に全身を打ちつけた。
     石柱から地上目掛けすべり落ちたハンジの頭は血まみれで、彼女はすぐに意識を失っていた。

    「――ハ、ハンジさん」
     
     リヴァイ班の面々は瀕死のハンジに動揺して青ざめる。イブキはいち早くハンジの元へ駆けつけようとするが、それをリヴァイが阻止した。

    「今だ!! 総員撤退!! この煙から離れろ!! 守りを立て直す――」

     女兵士が部下に声を荒げると、立体起動でその地下の奥へと飛び立っていく。イブキはその姿を苦々しく睨んでいた。

    「まさか…あの女…! ハンジを狙って…隙を作って、逃げる機会を…!」

    「そうだな…間違いねーな…」

     イブキが苛立ち表す口調に傍らのリヴァイは冷静に返す。リヴァイはアルミンにハンジの手当てを命ずるが、イブキもそれに加勢しようとしても、再び阻止された。

    「――どうして、リヴァイ!?」

    「おまえも…俺についてこい…ケニーを追いたいだろう…?」

     血に濡れた頬を向けて冷め切った眼差しでイブキに命令する。リヴァイの恨みや憎しみがこもった視線は仲間が負傷したからでなく、その意図はまた別にあるのではないかと、彼の眼差しにイブキは背筋が凍る感覚がしていた。

    「残りで敵を追う!!」

     まるで氷の中にいても、やけどしそうなリヴァイの熱い声に皆は従う。リヴァイ班の面々は敵が残した立体起動装置のガスの痕を追いかけ空(くう)を翔けだした。
     イブキはリヴァイの背中を追いかけ、呼吸を整えたつもりでもそれはため息のようになっていて、まだまだ鼓動は激しいままだった。

    (リヴァイ…きっと、ケニーと刺し違えるつもりだ…)

     イブキはリヴァイの殺気だった背中を見やって、彼を隔て逃げゆく敵の姿を眼差し鋭く眺める。 
     その先には皆がまだ知らない独りよがりな野望を明らかにしたケニーが待っていた。
  8. 8 : : 2014/12/22(月) 12:23:13
     ★あとがき★

    みなさま、いつもありがとうございます。毎回難しいのですが、展開が進むほ難しくなっていく感覚がします。それでも原作を読みながら、イブキがどこかにいる気がして、いつも隅々まで別マガを読んでしまいます。まだまだイブキとエルヴィンの再会は叶いませんが、いつになるのでしょうか?
    二人だけでなく、リヴァイやリヴァイ班の面々もエルヴィンと会ってほしいものです。
    今回はイブキが尊い命を奪わなければ、前に進めないという葛藤を書きました。
    リヴァイ班の面々もきっとそうかもしれない。それをイブキに代弁してもらった感じです。
    またミケはいつもイブキを見守っている。愛し合った女性が必死に戦っている様子に死んでもしにきれない。
    その気持ちで、いつも見守っている。それはいつまで続くのでしょうか?
    これからも引き続きよろしくお願いします。

    お手数ですが、コメントがございましたら、こちらまでお願いいたします!
    http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2 

    Special thanks to 泪飴ちゃん(•ㅂ•)/♡love*

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著者情報
lamaku_pele

女上アサヒ

@lamaku_pele

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