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そして僕と彼女は小鳥のように

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  1. 1 : : 2014/07/23(水) 00:31:44

    前回遊んでしまったので今回はちゃんとした作品を…(笑)

    アルミンとアニの話になります

    今までの作品は『閑話』がつく話以外は全部どこかで繋がっていますが、単体でも読めるように書いているつもりなので今作品だけでも楽しんで頂けたら幸いです

    原作13巻からの派生未来、17年後の話です


    ※執筆中のコメントに関しての制限はかけませんが、私が拝見した後は非表示にさせて頂く事をご了承下さいませ。
    お返事は執筆終了後に必ず致します※

  2. 2 : : 2014/07/23(水) 00:36:51


    その日僕は訓練兵舎の裏庭で

    金色に輝く美しい生き物を見た





    鮮やかな夕陽の赤を背に、自分の倍はあろうかという男達を苦もなく倒していく


    しなやかに動くその一挙手一投足に視線を奪われ

    呼吸をする事すら忘れて魅せられていた





    男達が逃げ去った後、彼女は藪の中に手を差し入れると、小さな仔猫を抱き上げた



    その唇が微笑みの形を作り

    目元が優しく細められる



    夕陽はとうにその姿を壁の向こうに隠していたが、夜の紺色と混ざり合った黄昏の光は、彼女の横顔を柔らかく照らしていた





    永遠とも思える時間は、実際はほんの数分の事だったのだろう


    僕の気配に気付いた彼女は、全てのものを拒むかのような氷の視線をこちらに向けた



    「あんた…誰?」







    その日から…彼女は僕にとって特別な存在になった










    『アルミン、はじまりの半分』

    ーーー終ーーー


  3. 3 : : 2014/07/23(水) 00:39:35


    訓練兵になって一年が過ぎようとした頃


    俺は度々、幼馴染の奇行を目にするようになった


    例えば図書室では…


    エレン「おいアルミン、何ボーッとしてるんだ?」

    アルミン「あ…うん?エレン?調べ物してたんだよ?ほら…」



    エレン「……本、逆さまだぞ」

    アルミン「………」



    食堂では…


    エレン「アルミン、こぼれてる」

    アルミン「あ……うん」

    エレン「どうした?何かあったのか?」

    アルミン「いや、何もないよ。ちょっと疲れてるのかな…ははは」

    ミカサ「……」

    エレン「ならいいけどよ。お前体力無いんだから、あんまり無理すんなよ?」


    アルミン「そうだよね…ありがとうエレン」



    寮の部屋では…


    アルミン「………」ゴロゴロ


    エレン「………」


    アルミン「……んー…」ゴロゴロ


    エレン「………」


    アルミン「………」モソモソ


    エレン「………」


  4. 4 : : 2014/07/23(水) 00:41:02


    俺でも分かるくらいだ

    勘のいいミカサが気付かないわけがない


    ミカサ「エレン、最近アルミンが変。気付いていた?」


    エレン「気付いてたよ。本人も言ってたけど、訓練がキツくて疲れてるんじゃないのか?」

    俺の言葉にミカサは首を横に振った


    ミカサ「アルミンは…恋をしてるのかもしれない」


    エレン「はぁ?何言ってんだミカサ。お前みたいに何でもこなせる奴とは違って、俺たちにそんな余裕あるわけないだろ」


    ミカサ「エレン…それは違う」


    何故か勿体ぶった様子で言葉を区切ったミカサは、いつもの無表情のまま続けた


    ミカサ「恋というのは本人の意思に関係なく訪れるもの。時には夏の落雷のように激しく。時には雪を溶かす春風のように優しく…そう、私たちにはそれが心を支配する事を止めることが出来ない」



    エレン「…………え?」


    ミカサ「…………」


    エレン「えっと………」


    ミカサ「…………」



    エレン「……お前…それどこで聞いた?」



    ミカサ「……ハンナとミーナが話しているのを…少し…聞いた…」


    エレン「だよな…」

    確かにあいつらならそんな話をしてそうだが…ミカサの口から聞くと、全く別物に聞こえるから不思議だ

  5. 5 : : 2014/07/23(水) 00:45:40

    ミカサ「エレン…恋に落ちると何も手に付かなくなるらしい…」

    エレン「アルミンは、訓練自体は前以上に頑張ってるじゃねえか」

    ミカサ「でも、それ以外は普通じゃなくなった」


    エレン「まぁな。それは心配だから、それとなく聞いてみるよ」

    ミカサ「うん、そうしてあげて」




    しかし…ミカサの奴があんな事言うとは…

    やっぱり女の中にいる時間が多くなると影響されるんだろうか…

    アルミンに聞いてみるとは言ったものの…あいつは素直じゃねえしな…


    なるべくさりげなく…さりげなく…



    んー…そういうの苦手なんだよなぁ…






    ミカサ「エレン、実は私にも身に覚えがある…」

    ミカサ「……貴方がマフラーを巻いてくれた時…暖かい何かが私の中に訪れた…あれは…もしかしたらk…」


    サシャ「ミカサ?こんな所で一人で何やってるんですか?早く行かないと朝ご飯無くなっちゃいますよ?」





    ミカサ「……………」



  6. 6 : : 2014/07/23(水) 00:49:20


    その夜俺は、アルミンを外に連れ出した


    「エレン…聞きたい事って、何?」


    何を聞かれるのかわかっているのか、緊張した様子の声だった


    これは今更さりげなくしても無駄だな

    そう思った俺はストレートに尋ねてみた


    エレン「アルミン、お前最近おかしくないか?」


    アルミン「あー……ごめんね、心配かけて。ちょっと訓練頑張りすぎてるのかな…?ほどほどにしないとね」


    あ、これは失敗だ



    すでにお手上げ状態になってしまった俺は、ミカサが持ってきた爆弾を投下してみる


    エレン「お前、恋してる?」


    アルミン「!」


    爆弾の威力は強大だった


    アルミン「……え、えれん?ど、ど、ど、どうして?!」


    一瞬で耳まで真っ赤に染めて、慌てるアルミン


    エレン「おいおい、落ち着けアルミン、大丈夫だ。ちょっとカマかけてみただけだから」


    アルミン「………!」


    エレン「まさかとは思ったけど…図星だったみたいだな」


    アルミン「恋……かどうかは分からないよ…ただ、ちょっと気になるんだ……大体僕みたいな落ちこぼれは、そんな事考えてる場合じゃないし…」


    エレン「いいんじゃねぇの?訓練が疎かになってるわけじゃねえし」


    アルミン「もちろんだよ。少しでも彼女に近づきたいからね…」


    エレン「彼女って、誰だ?」




    アルミンは長いことためらった後、聞き取れないくらいの小さな声で囁いた




    アルミン「………」



  7. 7 : : 2014/07/23(水) 00:51:05


    エレン「はぁぁ?!なんであいつ?!」


    アルミン「ちょっ!エレン!声が大きい!」


    エレン「お前あいつと仲良かったっけ?!」


    アルミン「声大きいってば!ほとんど話した事もないよ…」


    エレン「話した事なくてもほれr…」

    アルミン「エレン!!!」


    アルミン「ちゃんと話すから!静かにして!」



    エレン「…あ…ああ、わりぃ、あんまりにも意外だったから…」


    アルミン「誰にも言わないでね?ミカサにもだよ?」


    エレン「お、おう」


    アルミン「絶対だよ?」


    エレン「絶対だ。言わねぇよ…」




    アルミン「……誰かにバレちゃったら…泣かすからね?」




    エレン「……怖ぇよ…お前。確実に泣かしに来るだろ…」




    アルミン「やだな、約束守ってくれればずっと友達だよ?」


    エレン「…………おぅ」





    そして幼馴染みは、奴らしくない歯切れの悪い口調でぽつぽつと話し出した




    アルミン「……最初は近寄り難い子だなって印象しかなかったんだ…」






    アルミンは


    時には嬉しそうに


    時には恥ずかしそうに


    決して多くはない、でも奴にとってはとても大切な彼女との思い出を、俺に話してくれた


  8. 9 : : 2014/07/23(水) 08:06:08


    数分後

    悪魔のような舌を持つ幼馴染の手によって、俺はすっかり心を折られていた



    エレン「…ひでぇよ…アルミン……グス…」


    アルミン「君が途中で何度も大声出すからでしょ?」



    そうだ

    俺の幼馴染は『やると決めたら必ずやる』奴だった…



    アルミン「で…わかってもらえたかな?」


    覗き込んで来る視線が怖い…


    エレン「わかったよ…誰にも言わねぇ…」


    アルミン「うん。正直僕にもよく分からないんだから…」


    エレン「……でも…気になるんだろ?」


    アルミン「うん…」


    エレン「……お前にとって特別な人ってことだろ?」


    アルミン「そうだね…他の人とは違う…」



    エレン「アルミン…恋って奴はな、雷みたいに強くて、春風みたいに優しい巨人に支配されるみたいなもんなんだ…でもそれを駆逐することは誰にも出来ないんだ…」



    アルミン「………え?」




    エレン「俺は巨人を駆逐してやるけどな!」




    アルミン「エレン…意味がわからないよ……」




    あれ…俺、どこかで間違えたか…?




    アルミン「まぁいいや。なんだか話したらスッキリしたよ。ありがとうエレン」



    エレン「お、おう。良かったよ」




    アルミン「それにね………」



    照れたような笑顔で小さな望みを話すアルミンを見て





    俺は少しだけ羨ましいと思ったんだ


  9. 10 : : 2014/07/23(水) 08:32:37


    ーーーーーーーーー

    ーーーーーーー

    ーーーーー





    ーーー戦わなくちゃダメでしょ?




    俺たちは地下道の暗がりの中にいた



    わかってる

    戦わなくちゃダメなんだ



    ミカサ「……それとも…何か特別な感情が妨げになってるの?」



    でも……




    『何もしなければ、エレンが中央のヤツの生贄になるだけだ』



    お前は…

    それでよかったのか?



    『誰かの役に立っても他の誰かにとっては悪い人になっているかもしれないし…』



    爪が白くなるほど

    固く拳を握り締めて…




    『僕達はまだ話し合うことが出来る!!』




    最後まで

    諦めなかった…







    なのに……


    お前が想いを寄せた相手は


    俺たちの…


    人類にとっての敵だった











    ーーー仕方無いでしょ?世界は残酷なんだから









    俺に恋の例え話をした時と同じ声のトーンでミカサが言った







    あの日に見た


    アルミンの笑顔が蘇る




    『それにね……いつかは彼女と笑って話せる日が来るといいな……なんてね』






    ーーーーーーーーー

    ーーーーーーー

    ーーーーー


  10. 11 : : 2014/07/23(水) 08:54:12


    あれから17年

    やると決めたら必ずやる幼馴染は、全てを成し遂げて俺の目の前にいる

    外の世界も見て来たし、彼女を自由にする事にも成功した


    エレン「なぁアルミン、今お前がやりたい事ってなんだ?」


    アルミンは質問の意図を図りかねるように、少しだけ眉を動かしたが、すぐに笑顔になると


    アルミン「たくさんあるよ」



    そう言って俺を真っ直ぐな瞳で見つめた



    アルミン「まだまだこれからが本場さ」


    山のように積まれた書類を片付ける時のように、こいつは一つづつ確実に前に進んで行くんだろう





    アルミン「あ…そういえばエレン…君、ミカサにあの事話したね?」


    エレン「……え……?」



    マズイ…

    こいつ笑顔なのに目が笑ってない…







    アルミン「約束…忘れてないよね?」








    ーーーそして俺は、17年前と同じ恐怖を味わう羽目になったのだった…







    『エレン、幼馴染の初恋を語る』

    ーーー終ーーー



  11. 12 : : 2014/07/23(水) 12:09:32


    ーーーあいつさ、昔から彼女の事…



    そうエレンから聞いたのは、今から丁度半年前、彼女を解放する作戦を聞いた後の事だった



    以前から、アルミンが結晶に包まれた彼女の元に足繁く通っていたのは気付いていたけれど、彼にとっては世界に数多ある不思議の一つに興味を持っただけ

    そう思っていたので正直驚いた



    訓練兵時代を思い返してみても、彼と彼女を繋げるエピソードはほとんど覚えがない



    結果的には彼女は解放され、罪を赦されたが、アルミンの元に留まることは無かった


    その場に立ち会ったリヴァイさんの話によれば、彼らの別れは呆気ないほどあっさりしたものだったらしい


    彼女はずっと自分を想い続けていた相手より、同郷の仲間を選んだのだ

    呆気ないほどあっさりと……


    ミカサ「つまりはそういうこと…でしょ?」


    全てが終わった今、彼の執務室に押しかけてまで確認したかったのは、この質問に対する答え



    突き放したような私の言葉に、優しい幼馴染はいつもの笑顔を返した


    アルミン「そうだね。僕も彼女も自分の今やるべき事が何なのか分かっていたから」






    あぁ……


    どうしてこの子は……


    全く……






    不意に子供の頃の記憶が蘇って来た



  12. 13 : : 2014/07/23(水) 12:16:48

    ーーーーーーーー




    エレン「あ!アルミンだ!」

    ミカサ「うん。何してるのかな…?」


    エレン「おーい!アルミンー!」

    ミカサ「エレン!寄り道したらまたカルラおばさんに叱られる!」


    エレン「何してるんだよー!」

    ミカサ「……もう…」


    アルミン「あ、エレンにミカサ、薪運び?」

    ミカサ「そう。早く帰らないと…」

    エレン「葉っぱ流してるのか?」


    アルミン「ふふ、これはね、船のつもりなんだ」


    エレン「船?」


    アルミン「この川は壁外までずっと続いてる。きっと海まで行くんだよ」


    エレン「海!塩辛くてデカイんだよな?!」


    アルミン「うん。今はまだ行けないけど、いつか行けるように、調査隊が乗る葉っぱの船を流してたんだ」


    エレン「調査隊!かっこいいな。俺も流す!」

    ミカサ「エレン!」

    エレン「うるさいなーミカサ。叱られるのが嫌なら先に帰ってろよ」


    アルミン「エレンダメだよそんな事言っちゃ。ミカサも流す?」


    ミカサ「……うん」

    アルミン「見届けたらちゃんとお手伝い済ませてね、エレン」

    エレン「分かってるって!早く流そうぜ!」

    アルミン「ははは、飛び跳ねたら薪が落ちちゃうよ?なるべく薄い葉っぱがいいから、これ使って」


    エレン「よし!エレン号だ!」

    ミカサ「…ミカサ…号…?」

    アルミン「僕のは『女神の翼』号」

    エレン「!…なんだよそれ?アルミンだけなんかかっこいいじゃねぇか!」


    アルミン「んー、じゃあ三人共『女神の翼』にしよう。1号と2号と3号だ」

    エレン「俺1号!」


    ミカサ「アルミンが付けた名前なのに……」


    アルミン「はは、いいよミカサ。ミカサが2号で僕が3号ね」




    エレン「よーし、行くぞー!」






    ーーーーーー


  13. 14 : : 2014/07/23(水) 12:24:57


    そう

    アルミンはいつも自分の事は二の次だった


    彼が言う『やるべき事』も、決して彼自身の私事ではないはず


    外の世界を見たいという夢さえも、自分が犠牲になることで成し遂げる道を選んだくらいだから…


    ヒストリアのような自己犠牲とも違う

    彼は大きなものを見つめ過ぎて、1番ささやかな幸せを掴みそびれている


    アルミン「ミカサ?」


    私を気遣うこの表情も、彼の見慣れた顔の一つ

    アルミンには申し訳ないけれど、この顔はもう見飽きた



    笑顔の中にある達観したような諦めの色も


    うちの娘を見つめる時の、愛おしさと切なさの入り混じったどこか寂しげな瞳も……




    私は立ち上がると、デスクの後ろに回り込み、座っているアルミンの頭を卵のようにお腹に抱えた


    アルミン「え?ミ、ミカサ?!何してるの!!」


    ミカサ「開拓地にいた頃は…エレンと3人、こうして身体を寄せてお互いを励まし合っていた。私達には寄りかかれる身内も、甘えられる親もいなかったから」


    アルミン「子供の頃の話でしょ?!今はもう大人なんだから…!」






    ミカサ「大人になったら、勝手に心も強くなるの?」







    その言葉にアルミンの抵抗が止まった


    ゆっくりと身体から力が抜けてゆき、きっと今まで幾度となく心の中で繰り返してきた呪文を口にする





    アルミン「だって…強く…ならなきゃいけないんだ…」




    ミカサ「私には、あなたは子供の頃から何も変わっていないように見える」


    アルミン「……そんなに僕、成長してないかな?」


    ミカサ「そうじゃない。アルミン、あなたは子供の頃からずっと大人だった」


    アルミン「……そんな事ないよ」


    ミカサ「そう?なら子供のように駄々をこねればいいのに」


    アルミン「だって僕はもう大人だからね。それに…駄々をこねてまで欲しいものなんか……」



    ミカサ「無いの?本当に?」

  14. 15 : : 2014/07/23(水) 12:36:52


    暫く黙り込んでいたアルミンは、突然子供が癇癪を起こした時のように、私のお腹に頭をぶつけてきた


    1回…

    2回…

    3回…


    4回目でようやく止まる







    アルミン「……一体どんな腹筋してるのさ…ミカサ。頭の方が痛くなったよ…」


    ミカサ「これでもだいぶ筋肉が落ちてきているのだけど?」


    腕に抱えていた頭を解放すると、頬を紅潮させ少年のような顔に戻ったアルミンは、上目遣いで私を睨んできた



    ちっとも怖くはないけれど…



    アルミン「ズルいよ、ミカサ」


    一旦大人の仮面が剥がれた彼は、私と初めて会った頃よりずっと幼く、無防備に見えた


    ミカサ「何もズルくはない。あなたに出来ないことが、私には出来る。それだけのこと」


    アルミン「どうせ僕は素直じゃないさ…!」


    拗ねたように言い放ったアルミンは、その勢いのまま




    アルミン「でもよく分かったよ。僕だって一つぐらい、駄々をこねてでも手に入れたいものがあるんだ!」





    小さな子供のようにそう宣言した










    『ミカサ、母性本能を爆発させる』

    ーーー終ーーー



  15. 17 : : 2014/07/23(水) 22:02:14


    ライナー「ただいま」

    ベルトルト「おかえり、ライナー」

    アニ「おかえりーお父さん」


    ライナー「うむ……っておい!」


    アニ「なに?」


    ライナー「その呼び方やめろって言ってるだろ」

    アニ「いいじゃない。私が眠ってる間に、あんたたちはおっさんになっちゃったんだから」


    ベルトルト「おっさんって…せめてお兄さんにしてよ…アニ」

    アニ「16歳の乙女から見たら、30過ぎは立派なおっさんだよ」


    ライナー「ほぉ……って事はあいつもおっさんだな」


    ライナーの意地悪な言葉に自称乙女の頬が赤く染まった


  16. 18 : : 2014/07/23(水) 22:03:37


    僕達は今、ウォールマリア西の外れにある、小さな町にいた

    アニが解放されてから半年余り、北の街を旅して回ったが

    「私冷え症だから寒いのは嫌い」

    というアニの一言で、西まで下って来たところだった



    アニの罪は公に赦されている


    彼女を解放するためのきっかけを作ったのは僕達だったけれど、特赦状が出るところまで謀ったのは、おそらく彼女を想う優秀な参謀の仕業だろう


    アニ「誰のこと言ってるのか、さっぱり分からないね」


    そんな赤い顔をして言っても全く説得力無いのに、往生際の悪い彼女はライナーに噛み付く


    ベルトルト「ライナー、あんまりアニを苛めちゃダメだよ。こうして僕達と一緒にいてくれるだけでもありがたいんだから」


    僕の出した助け舟を、彼女は鼻で笑って切り捨てた


    アニ「ふん、そんな殊勝な事言うなんて、ベルも歳を取った証拠だね」



    うわぁ……かわいくないなぁ…







    いや……

    かわいいんだけどね…


  17. 19 : : 2014/07/23(水) 22:15:37


    その夜、アニが自室で休んだのを確認した僕とライナーは、何度も繰り返された『これから』についての話をした


    いつも話の結末は同じなのだけど、まぁ、僕達2人が話す事といったらそれくらいしかなかったし…


    ライナー「いつかはアニをあいつの元に帰してやりたいけどな…」


    ベルトルト「あのさ、いつも気になってたんだけど…その『帰す』って表現は間違えてるよ」


    ライナー「そうか?」


    ベルトルト「元々アニは僕達のところに『帰ってきた』んだ。彼のところに行くのは『送り出す』でしょ?」


    ライナー「……細かいなぁ…お前」


    ベルトルト「君が大雑把すぎるんだよ」



    ライナー「まぁ、どっちにしてもアニには普通の幸せを手に入れて欲しいからな」



    ベルトルト「同感だよ。なんかもう、ほとんど親心だよね」



    アニとは違い、僕とライナーは罪を赦されてはいない

    故郷を追われたドサクサに紛れて行方をくらませ、隠遁生活の身の上なのだ

    一つの街に定住することは出来ないし、いつ正体がバレて捕らえられるかもわからない


    せめてアニだけでも幸せになって欲しいと思うライナーの気持ちは、僕にも十分理解出来た





    願わくばその幸せそうな姿を傍で見られたら……




    そう思う事はあるけれど、それは到底叶わぬ夢だった






    僕達は

    人類にとっての仇なのだから……



  18. 20 : : 2014/07/23(水) 22:35:47


    アニ本人から彼についての話を聞く事は、今まで一度も無かった

    それでも彼女の変化に気付かないほど、僕は鈍感じゃない


    彼女の視線の先には、かなりの頻度で彼の姿があった

    それは彼女にとってはとても珍しい事だったし、ふとした時に見せる柔らかな表情は、誰か大切な人を想う時のそれと似ている

    そう感じた



    彼女は孤独と欺瞞に満ちた生活の中で、ひとすじの光を見つめ続けていたのかもしれなかった




    憲兵団に向かう前の最後の打ち合わせの時アニが僕達に言った


    アニ「私達みたいなクズをさ、普通の人として見てくれる奴っていると思う?」


    ライナー「おい、俺達は戦士だ。クズなんかじゃないだろう」

    単純なライナーはクズという言葉に反応して彼女を嗜めたけれど




    アニ「……あぁ、そうだね……悪かったよ。私達は戦士だ。使命を全うするためのね」





    アニは自分が使命という名の元に使い捨てられる傀儡だと、気付いていたのかもしれない


    彼女の言葉の響きから、僕はそう思ったんだ


    多分…決して多くはない彼との関わり合いや、偶然耳にした彼の考えに心が動かされていたんだろう


    いかにも彼の思想っぽい





    でもね

    気付いたところで、既に手遅れ…




    うん

    僕達にそれを止める術は無かったしね…



  19. 21 : : 2014/07/23(水) 23:01:55

    そんなこんなでいつも通り、なんの結論も生み出さないおっさん2人の不毛なミーティングが続いていたある日

    初めて見る男が僕らの仮住まいに訪れた




    男は一通の手紙をアニに手渡す




    それを読んだ彼女は

    僕とライナーを交互に見つめた後





    アニ「仕事が入ったよ。お父さんたち」





    いつもの横柄な態度でそう言ったんだ





    僕には分かった

    誰からの手紙なのか


    必死で抑えていたけれど、彼女の身体からは喜びのオーラが滲み出ていたから




    ちょっと悔しい気もする…

    でもこれでいいんだ







    彼女が幸せになれるのなら












    そしてそれから数ヶ月後、僕達3人は外洋航海に向かう大型船の中にいた




    『ライベル、同郷の乙女を暑苦しく見守る』

    ーーー終ーーー

  20. 22 : : 2014/07/23(水) 23:26:54



    「あんた…誰?」


    そこに立っていたのは、激しい訓練に疲れ果てた、満身創痍の仔犬のような少年だった


    「あ…ごめん。僕はアルミン・アルレルト」


    食堂で派手に喧嘩を始めた、死に急ぎの幼馴染か…


    座学以外では人並み以下のひ弱な男

    そんな印象しかなかった



    「あんたさ、兵士には向いてないんじゃない?大人しく学者か技工士にでもなったら?」




    いつになく饒舌になってしまったのは

    仔猫を抱く姿を見られてしまったバツの悪さか…

    それとも逢魔が時の悪戯か…




    「んー…そうだよね。でも僕は今出来る事を精一杯頑張りたいんだ」




    そう言い切る純粋な瞳を曇らせたくなった私は

    残酷な、でも近い将来必ず訪れる予言を口にした





    「全部無駄になるかもしれないよ」





    私の不吉な予言に、彼は屈託の無い笑顔を見せた



    「無駄かどうかは誰にも分からないよ。
    考えることの全て、行動することの全てが自分の糧になるって僕は信じているからね。
    どんなつまらないことでも、どんなに辛くて苦しい経験でも、無駄にはならないはずさ。……えっと……」





    「アニ。アニ・レオンハートだよ」





    「アニか。ねぇアニ、君はそう思わない?」









    その日から…彼は私にとって暗い日々を照らす一本の光になった










    『アニ、はじまりの半分』

    ーーー終ーーー


  21. 23 : : 2014/07/23(水) 23:50:09


    ライナー「なぁ、海の向こうには、俺達が見たこともないようなものが、たくさんあるのか?」


    エレン「さぁな。でもアルミンの話だと、結構面白いもんが見れるみてぇだぞ」


    ライナー「そうか。それは楽しみだな。……しかしエレン、お前が旅に出ること、よくミカサが許したな」


    エレン「許すも許さねぇも、アルミンは俺達の大事な家族、しかも今は人類にとっても大切な人材だ。
    そんなあいつと一緒に、巨人化できる奴が3人も船に乗るんだぞ?
    その事を知ってるのはジャンとミカサぐらいだしな。
    俺以外誰があいつを守るんだよ」



    ライナー「なるほど…上手く俺達を使ったな」



    エレン「何のことだかわからねぇな。俺はまだお前達を赦したわけじゃねぇから」





    ベルトルト「ねぇ!君たち心配じゃないの?!」


    エレン「あん?」

    ライナー「何がだ?」


    ベルトルト「アニだよ!アルミンの部屋に行ってから、もう1時間以上経つよ?!」


    エレン「そうか?」

    ライナー「そうかもな」


    ベルトルト「やっぱりもっと細かく決まりを作っておくべきだった……まさか約束破ったりしてないよね?!」


    エレン「アルミンはそんな奴じゃねぇよ」

    ライナー「アニはじゃじゃ馬だから分からんがな」



    ベルトルト「ああああ!もう!!」



  22. 24 : : 2014/07/24(木) 00:12:44

    ーーーーーー



    アニ「………」


    アルミン「ア ル ミ ンだよ」


    アニ「うるさい!分かってるさ…」


    アルミン「今まで呼んだこと無かったわけじゃないのに、どうして言えなくなっちゃったんだろうね?」


    僕が膝の上に座ったアニの顔を覗き込むと、彼女は関節の限界まで首を曲げて、その視線から逃れようとした


    アニ「あんたがそういう事するからだろ!」


    アルミン「あ、また名前で呼んでくれなかった……ペナルティね」


    僕は彼女の桜色に染まった頬に、唇を落とした




    アニ「……あんたって……こんな奴だったっけ?」


    アルミン「ふふ、今の僕は大切な宝物を手に入れて、すっかり舞い上がってる子供だからね。はい、また失敗」



    アニ「はぁ……もっと落ち着いた大人になってると思ってたよ…」



    諦めたようにため息をつく彼女の顔を、両手で包む




    男としては決して大きくはない僕の手の中に、ずっと焦がれていた僕だけの幸せが小さく収まっていた






    アルミン「こんな僕は好きじゃない?」






    その問いかけに、少し考えるような仕草を見せた彼女は




    そっと目を閉じ、僕の唇に羽毛のように柔らかいものを触れさせた






    アルミン「……ダメだよアニ。唇へのキスはベルトル父さんに禁止されてる」




    アニ「バカだね…お父さんとの約束は、破るためにあるんだよ?
    あんた物知りなくせに、そんな事も知らなかったのかい?」



    アルミン「そっか…じゃぁ、今また『あんた』って呼んだ分……」









    そして僕と彼女は小鳥のように

    いつまでも飽きることなく小さな口づけを交わし合った












    彼女のお父さんが

    痺れを切らして部屋に乗り込んでくるまで……








    fin

  23. 25 : : 2014/07/24(木) 00:22:10

    以上で終了です

    アルミンとアニは我慢癖がついていそうですし、お互いの立場からいつまでも素直になれそうもなかったので、周りの力を借りた回りくどい話になりました(^_^;)


    最後までお付き合い頂き、ありがとうございました(o*。_。)o





    >>8さん、早い段階からの応援、とても励まされました。ありがとうございます(^-^)



    ありゃりゃぎさん、紛らわしい書き方で、申し訳なかったです…
    せっかく感想頂けたのに、非表示になってしまってごめんなさい(´・_・`)
    書いてはいませんが、エレンの泣かし方を色々妄想するのは、ちょっと楽しかったです(笑)
    アルミンも、虫歯になるくらい甘い結末になってしまいましたが…
    これからもよろしくお願いしますm(_ _)m


  24. 26 : : 2014/07/24(木) 00:33:31
    凄かったです!!
    何か読んでて引き込まれました!!
    ライナーとベルトルトがお父さんって何かしっくりきますね(笑)
    自分はエレンが泣くシーンを1人で想像して笑ってました(笑)
    次も期待してます!!
  25. 27 : : 2014/07/24(木) 09:03:04


    EreAniさん、楽しんで頂けて良かったです(^-^)
    ライベルのお父さん的会話は、書いていてもとてもしっくり来ました
    エレンは熱い男のイメージなので、上手く誘導すれば泣きそうですよね(笑)
    次回はどうなるかわかりませんが、またよろしくお願い致します。ありがとうございました♪



  26. 28 : : 2014/07/24(木) 09:46:01
    執筆、お疲れさまです。

    なんと、地獄の夏期講習に行く前にこんなに素敵な作品と出逢えるとは!!!!!?
    ssnoteに足を運んだかいがあります。
    アニは自称・乙女ですが、やっぱり乙女ですよね!!!!
    アルミンは、何かもうめちゃくちゃかっこいいですし!
    エレンが泣くシーンは、もう(笑)
    ライナーとベルトルトの会話は私の腹筋を痛め付ける効果があるみたいです、はい。
    回りくどくても二人が素直になれたのは、周りのおかげでもあるのかなと思いました。

    素敵な作品をありがとうございましたm(__)m
    次の作品も楽しみにしてます(#´ω`#)ノ♪♪♪
  27. 29 : : 2014/07/24(木) 20:47:09

    砂糖楽夢音さん、夏期講習お疲れ様でした♪
    アルミンかっこよかったですか…良かった…ラストはキャラ変わり過ぎかな、と思っていたので安心しました(^-^)
    年齢差が無かったらアニの尻に敷かれそうですが…(笑)
    ライベルエレンは、意外といいトリオになると、書いていて思いましたw
    いつも暖かい応援ありがとうございます(o*。_。)o
  28. 30 : : 2014/07/24(木) 21:21:22
    執筆お疲れ様でした。

    アルミンとアニを軸に周りのキャラクターたちの優しさを感じることができるお話でした。
    原作でもこんな未来になったらいいなぁ……と思ってしまいます。(ならないと思いますが)

    お父さんポジのライナーとベルトルさん、歳をくった分だけ攻めっ攻めのアルミンが今回の私的萌えでしたw

    いつも素敵なお話をありがとうございます。

  29. 31 : : 2014/07/24(木) 22:05:53


    キミドリさん、ありがとうございます♪
    攻めアルミンは、私的にもかなりお気に入りです。
    お父さん2人ぐらい居ないと、娘の貞操は守られそうもありません…『やると決めたら必ずやる』男なので居ても無駄かもしれませんが(笑)
    次回も楽しんで頂けるように頑張ります(^-^)

  30. 32 : : 2014/07/31(木) 11:47:51

    執筆お疲れ様でした。
    なんだか水彩画を見ているような、そんな優しいお話だなあと感じました。
    冒頭の2人の出会いのシーンから引き込まれてしまいました。
    最後の大人アルミンと少女アニ、とてもいいですね(じゅるり)
    今回も楽しませていただきました!ありがとうございました。
  31. 33 : : 2014/07/31(木) 21:15:17

    submarineさん、ありがとうございます。
    この2人は大きなエピソードもなく、周りのフィルターを通した淡い雰囲気の恋愛話にしてみたので、絵に例えて頂けてとても嬉しいです。
    ぼんやりし過ぎた感は否めませんが…最後はきっちりイチャつかせましたので(笑)
    また楽しんで頂けるように頑張ります(^-^)
  32. 34 : : 2014/09/04(木) 21:24:38
    わあああぁぁぁ!
    見逃してました、こんないじらしい作品をっっ!

    もうボンボヤージュですよ。
    行ってらっしゃい大航海ですよ。

    我慢ぐせがついた二人に外野がやきもき大変そうですが、新しい時代の始まりを感じる爽やかなラスト。
    映画のようです。

    うっとりです♪
  33. 35 : : 2014/09/04(木) 22:24:16


    なすたまさん、作品ではいつも楽しませて頂いておりますが、コメントも楽しい。
    「行ってらっしゃい大航海」ツボにハマりました(笑)そのままタイトルにしたいぐらいです。
    喜んで頂けて本望です。見つけて下さりありがとうございました♪
  34. 36 : : 2014/09/04(木) 22:33:14

    美し過ぎる流麗な文章と巧みな主観転換や淡く切ない雰囲気……
    今まで素晴らしいSSを沢山読んできましたが、ここまでビビッときた恋愛SSは初めてです(((o(*゚▽゚*)o)))
    超大型巨人でも顔が出ないくらいの大きな実力差の壁を感じました(゚o゚;;
    特にー彼は大きなものを見つめ過ぎて、1番ささやかな幸せを掴みそびれているーっていう台詞に痺れました!!
    これからも滾るSSを書き続けて下さいませ( ̄^ ̄)ゞ
  35. 37 : : 2014/09/05(金) 00:03:08


    カンタさん、ご丁寧な感想ありがとうございます。
    蝉のお話がとても好きで、こそっと星の付け逃げしておりました…人見知りなもので…ご容赦くださいませ(^_^;)
    ストレートな恋愛話では無い分、本人達の気持ちは「察して」感が強くなってしまったのですが、そこまで共感して頂き、冥利につきます。
    まだまだ課題は多いですが、これからも精進致します(^-^)

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Tukiko_moon

月子

@Tukiko_moon

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