この作品はオリジナルキャラクターを含みます。
この作品は執筆を終了しています。
恐怖に負けずに
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- 1 : 2015/07/03(金) 23:19:20 :
- 短編です。この作品には、いくつかの注意点が存在します。
・低い文章力
・表現がおかしくなる可能性大
・結末がカテゴリの通り
拙い文章ですが、最後まで読んでいただけると幸いです。
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- 2 : 2015/07/08(水) 21:52:19 :
ーーーーーーーーーーーーーーその少年は、『自分』を持つことをしなかった。
言葉は発するし、行動もする。が、他人に指示されて動くことはあっても、自ら考えて動くことは無かった。
人に頼むこともしなければ、誕生日のプレゼントすらも欲しなかった。
これから語るのは、その少年が『自分』を持たなくなってから初めて、自分の意思で行動したときの話である。
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- 3 : 2015/07/08(水) 21:54:48 :
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- 4 : 2015/07/08(水) 22:07:57 :
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「おーい、渡ー。帰ろうぜ」
「うん」
時は放課後。とある中学校の3年A組に、その少年達はいた。
その少年達の名は、先に声をかけた方から、村上 悠斗 、そして川崎 渡 だ。
この2人の性格はほぼ正反対に近かった。ここでは2人を下の名前で呼ぶことにしよう。
悠斗は、友達も多く、行動力があり、学級委員長を務めたこともある。明るくて友達からの評判もいい。
一方渡は、何をするにしても受動的で、着替える、歩く、食べる等の行動以外は一切能動的に動かない。
会話でも、自分から話すことはなかった。
そんな2人が何故仲良くしているのかと言えば、その理由は悠斗の性格にある。
良く言えば誰に対しても友好的で、悪く言えば物好きな悠斗は、自分から渡に仲良く接するのだ。
渡には悠斗以外にまともに話せる人がいないので、内心感謝している。勿論口には出していないが。
閑話休題。
2人はいつものように帰り始める。そしてやはりいつものように悠斗から話題を振った。
「なあ、今日は七夕だろ? 渡は今年は何をお願いするんだ?」
「……うーん、どうしようかなぁ」
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- 5 : 2015/07/09(木) 22:58:00 :
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ここで幾つか説明しておこう。
まず、何故友達が多い悠斗がほぼ友達0の渡と一緒に帰るのかと言えば、渡以外に悠斗と同じ方面に帰る人がいないからである。
他に理由を挙げるとすれば、悠斗が人付き合いがいいから、くらいしかない。
次に、何故中3にもなって七夕にお願いなどと可愛いことを言っているのかと言えば、それは彼らの住んでいる村に少々特殊な慣習があるからである。
彼らの村では、高校卒業までは七夕にお願いをするのが当たり前となっている。決して2人が特別ピュアな訳ではない。
ちなみに関係ない上にどうでもいいことだが、彼らの村は小さく、学年1クラスで20人程度しかいない。なので残念ながら金パチ先生のクラスはない。
「やっぱり、いつもと同じかな」
「なんだよ、またそれか? いい加減何か自分のこと頼めよ」
「そうは言っても……」
「頼むだけなんだから誰も怒ったりしないって。『みんなの願い事が叶いますように』って、いい子ちゃん過ぎるだろ」
突然だが、皆さんなら何をお願いするだろうか?
『ヒーローになれますように』や『いいお嫁さんになれますように』など、小さい子のかわいらしい願いから、『テストでいい点取れますように』や『家族が健康でいられますように』など、中学生から大人のまで幅広くあるだろう。
だが、渡は他とは違った。
決して自分から行動しない渡は、七夕のお願いすらもあつかましいと考え、悩みに悩んだ結果浮かんだこの願い事を毎年書いているのだ。
ちなみに去年までで6回同じ願い事を書いている。
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- 6 : 2015/07/09(木) 23:05:02 :
すると、不意に2人の前を女子3人組が通った。
「でね、そのときにー」
「えー、そうなんだ!」
「うそー!」
今ドキ女子はリアクションが少々大袈裟だ。
だが、渡はそんなことを気にした様子もなく、ただじっと女子グループの中の1人を見つめている。
「……さっきからずっとあいつら見てるけどどうした?」
「…………え? 何?」
「聞こえてないのかよ……」
渡はついさっき正気に戻ったかのような様子だ。つまりそれだけ集中していたということになる。
それは渡にとって珍しいことだった。
彼は自分を持たなくなる以前から、何事に対しても無頓着だった。
「……なるほどな。お前、あの中に好きなやついるだろ」
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- 7 : 2015/07/10(金) 23:00:17 :
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「……!」
「その顔は図星か。多分だけど、お前が見てたのって柏崎か? さっきお前の視線辿ったらそこだったような気がしたんだが……」
「うー……」
次々に悠斗に色々と言い当てられ、頭を抱えて赤面する渡。
そう、彼は恋をしていた。生まれて初めて、好きな人ができていた。
だが、既に2か月前くらいから気になっていたのにも関わらず、告白どころか一度の会話もしていない。
何しろ全てに対して受け身な姿勢の彼だ、七夕にすら願い事の1つも書けないでいるのだから想いを伝えるなんて出来る筈もない。
それにしても一度も会話をしていないのは流石に受け身過ぎるが。
「おい、だったら今日七夕にそれ頼めばいいじゃんか。『付き合えますように』って。俺は応援するぜ」
「でも……短冊ってみんなに見られるからすぐにバレるし……」
「いいじゃん、コクッちゃえば? ついでだし」
「む……無理無理無理! 絶対無理!」
どうやらこの日はツイているらしく、本日2つ目の珍しいことが起きた。
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- 8 : 2015/07/10(金) 23:05:35 :
渡は基本、人に頼まれたら断らない。弱音も滅多に吐かない。自分からは何もしないが、言われれば大概のことはやってのけている。
だから、こんな風に無理と言い張るのは、彼自身初めてだった。
「……へぇ、お前がそこまで無理って言うとか、どんだけ好きなんだよ」
「え……?」
「だってそうだろ。お前が無理って言ったの、俺初めて聞いたし。つまりそんだけフラれんのが怖いってことだろ?」
「……僕なんかじゃ、釣り合わないし、ほとんど喋ったことないし……」
「そんくらい大丈夫だって! 男なら当たって砕けろ!」
「く、砕けるのはちょっと……」
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- 9 : 2015/07/10(金) 23:15:36 :
悠斗という少年は、読心術に長けていた。
友達を多く持つが故に、常に相手の心を読み、傷付けないように、そしてその関係を維持できるようにということにより一層気を遣わなくてはならない。
そうして生きている内に、それは彼の一種の特技となっていた。
それのせいで次々に心の内を見透かされていく渡は、うつむいてひどく赤面している。
ここで一応誤解している人の為に言っておくが、何も渡は会話もまともに出来ない引きこもりぼっちというわけではない。自分から話題を振ったりはしないが、問われれば答えるし、相槌も打つ。
ちなみに渡がこうなった理由を知る者は多分いない。
まぁそれはいずれ分かることなので、今は置いておくとしよう。
そうこうしている内に、2人は家のすぐ近くまで帰って来ていた。渡はうつむいて赤面したまま、「またね」とだけ告げ、足早に家の中に入っていく。
時刻は午後5時。夜の七夕祭まで、あと2時間を切っていた。
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- 10 : 2015/07/10(金) 23:16:05 :
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- 11 : 2015/07/11(土) 17:10:30 :
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自室に戻った渡は苦悩していた。それこそこれまでに無い程に。
悩みの種というのは、勿論恋の件だ。
「うー、本当にどうしよう……。あんなこと言われても……」
ここで、件の少女について話しておこう。
少女の名は柏崎 音葉 。特に目立ったりはしていないが、人が良く、クラスでも割と人気がある。
性格は真面目で、外見もその性格をよく映し出している。
黒髪で肩の高さに揃えたストレート、顔立ちもそこそこ整っており、制服が驚く程似合う。
まあ一言で言うと可愛い。
おまけに渡自身、彼女とまともに会話したのは数える程だ。声を掛けようとするだけでアガッてしまうのだから、告白には程遠いと言える。
「『当たって砕けろ!』なんて、簡単に言ってくれちゃって……。それが出来るなら苦労しないよ……」
渡が今ひとつ決心しないという理由以外に、もうひとつ告白が出来ない理由があった。それこそが、七夕祭である。
そもそもこの七夕祭は、村総出で行う中々に派手なイベントなのだ。そんな中、人がいない場所など無いに等しい。
そのため、告白をしようとしても、確実に周りに人がいるという状況でなければいけなくなるのだ。
当然だが、自分から話題の1つも振れない渡が人がいる中で告白など出来る筈もない。それで中々決心がつかないのである。
「でもなぁ……このまま何もしないで終わるのもちょっと……」
だが、それと同時にこのまま終わりたくない、という気持ちも芽生えていた。
彼は今までの人生の中でも、一番といえるであろう明確な強い意思を持っていた。
だが、それでも思い切ることが出来ないでいるのは、彼の過去の経験からくる恐怖が邪魔をしているからでもあった。
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- 12 : 2015/07/11(土) 17:29:40 :
ではここで、彼の過去について、彼が『自分』を持たなくなったその経緯について話しておこう。
彼は、嘗てはごく普通の少年だった。
欲しいものがあれば欲しいと言い、嫌なことは嫌と言い、したいことはしたいと言えていた。
だが、それをするには少々彼の育った環境が悪すぎた。
欲しいものをねだると露骨に不機嫌になって怒られ、したいことをしたいと言うと冷たく断られた。
そうしてひたすら自分の言葉を否定され続ける内に、彼は自分から意見を言うことを、行動することを恐れるようになった。
そのせいで、8歳の時、今の彼が生まれた。
その両親は今は既に他界しており、親戚の家で暮らしているため、これ以上酷くなることはないが、それでも心に深い傷を刻まれている。
これが、彼の極端に受け身なその性格が出来上がった所以だ。
彼はこのことを誰にも話していない。勿論、悠斗にも。
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- 13 : 2015/07/11(土) 17:42:18 :
- そして彼は今も、告白することで怒られたりしないか、迷惑をかけてしまわないか、…………嫌な顔をされないかと、恐れているのだ。
そんな風に頭を抱えていると、一階から義母 の「電話よー」という声が聞こえてきた。それを聞いて、渡は慌てて階段をかけ降りる。
電話の相手を訊くと、「悠斗くんよ」と言われた。それを聞いて、大体用件は察したが、一応受話器を受け取り、用件を訊ねる。
『そんなの決まってんじゃん。お前、告白するだろ?』
やっぱりか、と思いつつも迷っているということを伝える。
『何迷う必要があるんだよ。グズグズしてると俺がコクッちまうぞ?』
「え、ちょっとそれは……」
『だったら今日告白すればいいじゃん。ちゃんと場所は作ってやるから』
「え、場所って……?」
『告白する場所だよ。周りに人がいたら緊張するし、雰囲気も台無しだろ? だから俺が一時的に人をどけてやる。その代わりフラれてもいいから絶対告白しろよ?』
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- 14 : 2015/07/11(土) 17:56:38 :
- 「フラれてもいいからって……」
『男ならウジウジしないで思い切ってやれよ。それとも何だ? 俺が代わりに言ってやろうか?』
「ちょ、ちょっとそれは……!」
『なら出来るよな。期待してるぜ!』
ガチャ。一方的に電話を切られる。
「そんなぁ……」
いよいよ渡は困り果ててしまった。
このままでは決心がつかないまま、2人きりになってしまうということになる。
決心がついていないのに告白は出来ないし、何もしないのも色々とツライ。
今の渡に取れる行動は2つ。
1つは、無理矢理にでも腹を決め、思い切って告白をする。
もう1つは、2人きりになる前に自分もどこかへ行く。
祭まであと30分を切っている中、渡が選んだのはーーーーーーーーーーーーー
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- 15 : 2015/07/11(土) 18:15:45 :
「……ついに、来た……」
時刻は7時過ぎ。
渡は家で願事 を書いてきた1枚の短冊を手に、悠斗との待ち合わせ場所に向かっていた。
待ち合わせ場所に着くと、既に悠斗がいて、「おーい、遅いぞ渡ー」と声が飛んできた。
「ご、ごめん……」
「まあ別に気にしてないけどな。これから告白する奴がそんな弱弱しくでどうするんだよ! 胸張れって!」
「……うん」
「よし、じゃあ短冊を結びに行こうぜ!」
「うん!」
水を差すようで悪いが、実はこの『短冊を結ぶ』というのが少々面倒なのだ。
短冊を結ぶ笹は、少しでも天に近いところに置こうということで村にある小さな丘の頂上 に置かれている。小さい丘と言っても傾斜は結構キツいので、毎年みんなやっとの思いで丘を登っていた。
「くっそ……相変わらず怠いな、この丘……」
「何で場所変えないんだろう……」
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- 16 : 2015/07/11(土) 18:29:28 :
- 丘を登り切った2人は、既にいくつか短冊が結んである笹の下へ向かう。
そして、2人の身長で届く一番高い位置に自身の短冊を結んだ。
「ふう、とりあえずこれでオーケーだな」
「そうだね」
「よし、じゃあ他の奴の短冊みて回ろうぜ」
「……わ、わかったよ」
悠斗の言葉に対し、短い相槌を打つだけの渡。どこか落ち着かない様子だ。
それもその筈、渡はさっき悠斗と一緒に短冊を結んだ。つまり渡の短冊がどれか、悠斗は知っているということだ。いつもと同じなら見られても問題はないのだが、今年はちょっと変えてあるため、見られたくないというのが渡の心境だった。
だが、そこは特に心配する必要はなかったようで、悠斗は自分達の短冊はスルーし、自分達の短冊がある方と反対の方へ回った。そこから笑ったり感嘆したりしながらゆっくりと見ていく。
ちなみに短冊に名前は書いていない。プライバシーを考慮し、短冊は全て匿名となっている。
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- 17 : 2015/07/12(日) 11:11:50 :
2人が半分程見終えた時、渡の意中の相手である音葉が息を切らしてやってきた。渡の動きが止まる。
あまり身長が高くない音葉は少しでも高い場所に結ぼうと、必死に背伸びをしている。
その間、渡は手伝うこともなく、ただその光景に釘付けになっていた。
その時、悠斗が動いた 。
「わり、俺ちょっとトイレ行って来るわ」
「え? う、うん。わかった」
するとそれを皮切りに、次々と周りの人が丘を降りていく。渡はどうすることもできず、瞬く間に丘の上は渡と音葉の2人だけになってしまった。
突然のことに慌てふためく渡に、不思議そうな顔をしながら辺りを見回す音葉。
いつの間にか、この丘は2人だけの空間となっていた。
渡は先程の電話の内容を思い出し、かあっと赤面する。要するにこれは、今告白しろと悠斗に言われているのだ。
そして今のこの状況は、文字通り告白するにはまたとない絶好の機会だった。
突然作られた告白の場で、思わず尻込みしてしまう渡。だが、渡は既に心を決めていた。
「(しっかりしろ、今日告白するんだろ!?)」
心の中で自分に活を入れる。先程の電話の後、渡は自分の中の恐怖の感情を押し殺し、告白することを決意していた。
「……あ、あのっ、柏崎、さん」
完全に気持ちがアガッてきる中、必死にそれを隠して声を掛ける。
音葉は微笑を浮かべて「ん、なあに?」と聞き返してきた。
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- 18 : 2015/07/12(日) 11:34:41 :
「あ、あのさ。いきなりなんだけど、伝えたいことがあるんだ。ちょっと……いいかな?」
「へえ、そうなの? なになに?」
渡は乏しい語彙力と言語力を総動員して、慎重に言葉を選んでいく。何せ彼はほとんど音葉と会話したことがない。いきなり「好きです!」と言っても気持ち悪がられるだけなので、出来るだけ細心の注意を払いながら言葉を紡ぐ。
「こんな、あんまりっていうかほとんど喋ったことない相手にこんなこと言われるのもアレかも知れないんだけど……」
「うん」
「率直に言うと、柏崎さんと話してる時って、楽しかったんだ、すごく」
「…………え?」
「……それで、もっともっと話したいって思った」
フラれることも、拒絶されて心がズタボロになることも覚悟しつつ、少しずつ自分の想いを伝えていく。
ここまで自分から一方的に何かを伝えたのは、彼の人生の中でも初めてのことだった。
「だから…………付き合うのはまだ早いと思うから、友達からでいいです。お願いします!」
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- 19 : 2015/07/12(日) 11:45:59 :
- ついに、渡は自分の想いを言葉にし、言い切った。
渡はドクン、と心臓の音がやけに大きく聞こえるのを感じた。音葉が再び口を開くまでの10秒程の時間が、渡にはとてつもなく永く感じられた。
「…………もちろん。まだ、友達からだけどね」
そう言って音葉は軽く微笑んだ。
渡がその言葉の意味を理解するまで、少しばかり時間を要した。
そしてようやくその言葉の意味を理解したとき、渡は全身が熱くなるのを感じた。
自分の言葉が届いた。
彼女に、自分の言葉を受け入れてもらえた。
ーーーーーーーーー自分の言葉を聞いて、微笑んでくれた。
渡の目から静かに涙が零れた。
とてつもなく、嬉しかった。
「『みんなの願い事が叶いますように』って…………あれ、渡くんのでしょ?」
「え、何でそれを……」
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- 20 : 2015/07/12(日) 12:13:34 :
- 「去年の七夕祭の時に、渡くんがそれを結んでるのが見えたの。それで、心の暖かい人なんだなぁって思ったの」
「……そうなんだ……」
渡はこの時、初めて七夕に感謝した。
「……ねぇ、今年の渡くんのお願い、見せてくれる?」
「……わかった」
2人だけの空間の中、渡は音葉を自分の短冊の所まで連れていく。
「これだよ。……もう願いは叶ったけどね。生まれて初めて」
「……『想いが相手に伝わりますように』か……。ふふ、確かにもう叶ったね」
「……うん」
2人だけの、甘酸っぱい空気が漂う。
世界が終わっても、ここは残ってるんじゃないか。渡はそんな気もしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーだが。
その幻想と静寂は、ガサガサッという音と共に容易く破られた。
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- 21 : 2015/07/12(日) 13:40:40 :
『フゥーーー!!』
『いよっ、やるねぇ!』
『いやあ、悠斗の言った通りだったわ!』
「えっ……?」
「え、な、何?」
次々に人が集まる。学校の生徒だけでなく、一般人までゾロゾロと木々の陰から現れた。
2人が戸惑っている中、人混みを掻き分けて渡達の元へと向かってくる人物がいた。
何を隠そう、悠斗である。
「しっかりコクれたじゃねぇか! やればできる奴だと思ってたぜ!」
「うわっ、わ、ちょっ……」
突然悠斗にがっしりと肩を掴まれ、思いっ切り揺すられる渡。コケそうになりながらこの状況について訊ねる。
「ん? ああ、いきなりで吃驚しただろ? まあこれはこの丘から人をどける時に出した条件っていうか、まあそんなやつだ」
「いや、さっぱり意味が分かんないんだけど……」
「いや、まあアレだよ。要するに俺が合図したらこの丘から降りてくれ、そうすりゃ面白ぇもんが見れるからって言ったんだ。そしたらみんな協力してくれた」
「……え、つまり僕、ずっと見られてたの……?」
「ま、そうだな。バッチリ見てたぜ」
「……」
ついさっきまで2人だけの空間だと思っていたのに、実は一部始終を見られていたと聞き、呆然となる渡。
それを傍で聞いていた音葉も「うそ……?」と目を丸くしている。
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- 22 : 2015/07/12(日) 17:14:33 :
- 「よかったぜ、『友達からでいいです。お願いします!』」
「うわあぁぁぁぁ、やめてー!」
「ふふっ。渡くんはいい友達をもってるんだね」
「……うん」
悠斗にからかわれ、赤面しつつも、音葉の言葉に力強く頷く。この自分の友人に、渡は心から感謝と賛辞を送った。
「悠斗くん……ありがとう」
「ん? ああ、別に気にするなよ。友達 だしな!」
大勢の人に囲まれながら、渡は笑みをこぼす。
渡はその日、ほんの少しだけ、だが確実に、自分の殻を破ることができたのだ。
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- 23 : 2015/07/12(日) 17:14:55 :
*ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー*
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- 24 : 2015/07/12(日) 17:17:33 :
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー如何だっただろうか。
ここまでで、自分の中の川を渡ることができた、この少年の話は終わりである。
ではここで失礼するとしよう。
ここまでこの話を聞いてくれた皆様に、多くの幸があらんことを祈って…………。
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- 25 : 2015/07/12(日) 17:22:40 :
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あとがき
ここまで読んでくださった読者の皆様、ありがとうございます。
出来る限り今回は文章がおかしくならないように気を付けたつもりですが、恐らく矛盾点があると思います。
それでも温かい目で見守ってくださり、誠にありがとうございました!
ちなみに誤解させてしまっているようなので補足しておきます。
悠斗は読心術に長けていますが、別に裏社会のアレコレを見てきたりしているわけではないのでご安心ください。
ではここで失礼します。冷房の効いた部屋でのんびりとお茶をすすりつつ。
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- 27 : 2015/07/22(水) 11:57:52 :
- 良い話でした。
- 著者情報
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