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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの幻想』

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  1. 1 : : 2016/05/21(土) 13:40:29
    密めき隠れる恋の翼たち~『エルヴィン・スミス暗殺計画』                   
    (http://www.ssnote.net/archives/2247)                   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスとの1週間』                   
    (http://www.ssnote.net/archives/4960)                   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの苦悩』                   
    (http://www.ssnote.net/archives/6022)                   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの審判』                  
    http://www.ssnote.net/archives/7972)                  

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの否応』                 
    (http://www.ssnote.net/archives/10210)                 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの溜飲』    
    (http://www.ssnote.net/archives/11948) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの流転』                
    http://www.ssnote.net/archives/14678)                 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの渇望』                   
    http://www.ssnote.net/archives/16657)                

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの血涙』                   
    http://www.ssnote.net/archives/18334)                

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの証明』                
    http://www.ssnote.net/archives/19889)                

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの慕情』                
    http://www.ssnote.net/archives/21842)                

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの天命』                
    http://www.ssnote.net/archives/23673)                

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの微睡』                
    http://www.ssnote.net/archives/25857)                

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの再陣』                
    http://www.ssnote.net/archives/27154)                

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの謀反』                
    http://www.ssnote.net/archives/29066)               

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの杞憂』               
    http://www.ssnote.net/archives/30692)    

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの勇敢』              
    http://www.ssnote.net/archives/31646)              

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの挽回』              
    http://www.ssnote.net/archives/32962)             

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの慈愛』            
    http://www.ssnote.net/archives/34179
  2. 2 : : 2016/05/21(土) 13:41:35
    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの青天』            
     (http://www.ssnote.net/archives/35208)     

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの夢想』     
     (http://www.ssnote.net/archives/36277)  

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの愛念』     
     (http://www.ssnote.net/archives/37309)  

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの咆哮』     
     (http://www.ssnote.net/archives/38556)   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの大望』 
    http://www.ssnote.net/archives/39459) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの死闘』 
    http://www.ssnote.net/archives/40165)  

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの火蓋』 
    http://www.ssnote.net/archives/41081)  

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの贖罪』 
    http://www.ssnote.net/archives/41737)  

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの危難』 
    http://www.ssnote.net/archives/42605) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの災厄』 
    http://www.ssnote.net/archives/43586)  

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの負戦』 
    http://www.ssnote.net/archives/44454)  

    ★巨人に右腕を喰われたエルヴィンと最愛のミケを失うが、エルヴィンに仕えることになった隠密のイブキとの新たなる関係の続編。          
    『進撃の巨人』の最新話に私の想像(妄想)を書き足したオリジナルストーリー(短編)です。     

    オリジナル・キャラクター       

    *イブキ     
    かつてイヴと名乗りエルヴィンの命を狙っていた隠密の調査兵 。      
    生前のミケ・ザカリアスと深く愛し合っていた。      
    ミカサ・アッカーマンの年の近い叔母。   
    ※SSnoteのルールに則り感想等を書いていただくグループコミュニティを作りました。  
    お手数ですが、コメントがございましたら、こちらまで  
    お願いします⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2  
  3. 3 : : 2016/05/21(土) 13:44:19
     シガンシナ区の上空で、純色が包んでひしめくような雲の僅かな合間から降りる光が満身創痍の調査兵団の兵士たちを照らす。柔らかな輝きでも傷を癒すことはない。血で体を濡らす兵士の身体は侘しい鈍い光を放ちだした。それでも容赦ない獣の巨人の投石は続く。
     暗殺者から調査兵に生まれ変わったイブキは腹部に強烈な痛みを感じるが、そこを押さえることもせず、手綱を握り、背後の調査兵団団長のエルヴィン・スミスと共に正面を見据えて駆けていた。子供の握り拳程度の小石が愛馬の首を掠めていても、兵士たちの熱意を感じてか、駆けている足を緩めない。またすべての兵士たちも目標の獣の巨人を討伐するまで、手綱を握る手を緩めることは許されない。イブキとエルヴィンの背後から兵士たちの信煙団の煙が伸びていく。本来なら目的に応じて色分けされている信煙弾は、この場では様々な色が弧を描く。兵士たちは目的を問わず装填し、命を賭して発射に務めた。
     多くの兵士の命を奪った散弾のような投石が最後まで伸びきったと思われた瞬間、今度は大人の頭程度の石がイブキとエルヴィンが跨る馬の頭を貫いた。イブキが咄嗟に背後の団長を庇っても遅かった。最初に傷ついた同じ腹部を更に大きく傷つけ、エルヴィンの左腹部を掠めていた。イブキは痛みを堪えて、歯を食い縛るも、共に駆けていた愛馬は限界で砂埃を立てながら、激しく転がり倒れた。

    「団長が……!」

    「振り返るな!! 進め!!」

     団長が倒れたことで、兵士たちに広がる動揺をいち早く鎮めるように檄を飛ばしたのはマルロ・フロイデンベルグだった。
     大地に顔を埋めていたエルヴィンが僅かに顔をあげれば、マルロが先頭に兵士たちと駆けていく。傍らの愛馬は頭から夥しい血を流していて、両脚を痙攣させていたがすぐに治まっていた。どうにか左手を地面について跪いて、愛馬を見渡せば片手で手綱を握ったままのイブキが鞍を背に横たわっていた。

    「……イブ……キ」

     名を呼ぶ声は心細くて頼りない。また地面に顔を突っ伏せていてイブキの表情はうかがい知れない。近づこうにも自分自身にも左腹部から火が付いたような痛みが駆け抜けた。マントを脱いで止血をすると、落馬した影響から腹部以外にも痛みを感じる。左腹部を左手で押さえどうにか膝だけで使って歩こうにも、バランスを崩して再び倒れこんだ。右腕を失った不自由さを痛感してもどうにもできない。前方に進む兵士たちが気になりながらも、そのときは身じろぎしないイブキだけを見ていた。
     左腹を庇ってほふくしてどうにかイブキに近づいた。身体を揺らして仰向けにさせると、エルヴィンは目を剥いた。二度も腹部に投石を受けていて、白かったシャツは真っ赤に帯びていて、口付けを交わせば紅を刺したようにほんのり紅く染まる唇は青白く小刻みに震えていた。

    「俺は……また大切な人を失うのか――」

     エルヴィンはイブキの肩をそっと抱きしめた。投石に備えて愛馬を盾にして、しゃがみこめばどうにか死角に入り込むだろうと勘ぐった。

    「エルヴィン……生きている?」

     柔らかくて身体が覚えてる手のひらに触れられイブキはようやく口を開いた。薄く開く唇から喘ぐ息は荒い。

    「あぁ、どうにか」

    「よかった」

     青ざめる唇はぎこちない笑みを作った。イブキはエルヴィンの左腕に抱かれ身を寄せた。出血の多さから意識は朦朧として頭はふらついている。
     信炎弾が発射する音が鳴り響いて、エルヴィンが顔を上げると、獣が振りかぶる動作を睨んだ。だが、その途端、立て続けの投石で、団長の代りに鼓舞して叫んでいたマルロを始め兵士たちが吹き飛ばされる姿を見つけた。咄嗟にイブキを抱えしゃがみこむ。今回、投げ込まれた石は細かくて、大地に大きく跳ね返ってく。エルヴィンは身をかがめて、跳ね返るいくつもの石からイブキを守っていた。
  4. 4 : : 2016/05/21(土) 13:46:16
    「そんなに叫んで、何の意味があるんだよ!!」

     獣の巨人を纏うジーク戦士長は捨て身の調査兵たちに対して、力いっぱい振りかぶって投石し、彼らの命をためらいもせず奪った。その巨体の傍らでは信炎弾の煙がゆっくりと伸びた。それを発射して身体の形を留めない兵士を眺めて、何度も繰り返されてきた過ちは悲劇とし、それを思い返せばただ溜め息をついた。

    「かわいそうに……」

     振りかぶっていた大きな拳をだらりと下ろした。あたりを覆っていた信炎弾の煙が少しずつ薄らいでいて、目前が少しずつ晴れていく。すると、巨人が大地にひっくり返っていた。
     
    (……何だ? 俺の巨人が倒れて――)

     2体目の横たわる巨人が見えた刹那、不意に右肩に違和感を感じた。薄れてきた煙の中から、突として血だらけの顔の兵士がブレードを振りかざして攻めてきた。
     ジークは雄たけびを上げて、左手を伸ばして振り払おうとした。左腕が伸びきった途端、指先から二の腕にかけて、一気に削がれてしまった。ジークは獣の内側で目を見開いて、削がれて落ちる自分の親指を眺めていた。途端にライナー・ブラウンが言っていたことが過ぎる。

    (リヴァイ兵長は危険です)

     少し焦りを感じさせるようなライナーの顔を見ても、深く気にせずしれっと返すだけだった。それを僅かに後悔する。

    (こいつが、リヴァイか!!)

     立体起動装置のガスを目の前で噴かして駆け回る兵士が調査兵団でも精鋭中の精鋭のリヴァイだと気づいても、獣の身体には次々と切り込まれていく。確実に急所を狙う捌きは見栄を切るようにも、全身から怒りが漲っているようにも見える。

    (マズイ!! うなじを――)

     右手でうなじを押さえようとしても、その動作さえリヴァイが払いのけるように削いでいく。リヴァイの容赦ない疾走感ある動きに絡まれては、多くの兵士を死に追いやった豪腕は打つ手をまったく持ち合わせていないようだった。

    「さっきはずいぶんと楽しそうだったな」

     ジークの耳にリヴァイの恨みをぶつけるような冷徹な口ぶりが微かに届いた。目の前が暗くなって、目をやられたことに気づく。ガクンと膝から落ちて、今度は足首が削がれたと気づく。閃くような速さがジークの感覚を鈍らせた。うなじを守るため、硬化させようとしてもそれを許されず、右手の手のひらも細かに簡単に削がれた。守っているはずのうなじに違和感を覚えた途端、ジークの身体は蒸気を上げ、強制的に引き上げられた。リヴァイの素早さに感覚はまったく機能しない。
     気がついたときには、ブレードの刃先を口から突っ込まれていた。

    「巨人化直後、体を激しく損傷し、回復に手一杯な内は巨人化できない。そうだったよな?」

     リヴァイは息を切らしながら、ジークに問う。当たり一体は蒸気に包まれている。次々と移り変わった光景にジークは神経をすり減らしていた。それに気づかずとも、リヴァイはブレードを押し込んだ。刃先が右瞼の下部を貫いて、表に出てきた。 

    「オイ、返事をしろよ、失礼な奴だな……」

     獣の巨人が全身から上げている蒸気が少しずつ落ち着き始めた。ジークの口端と瞼から血が溢れ、頬まで削がれそうになった。
     巨人の血で濡れた顔を突きつけ怯むことなく、リヴァイはブレードを押さえ続ける。

    (こいつは、まだ殺せない――)

     ようやく仕留めた獣の本体を見下げるリヴァイは息を切らし、動悸は治まらない。ジークから視線を逸らして、周りを見渡した。

    (誰か……生きてる奴はいねぇか? 瀕死でもいい、まだ息さえあれば、この注射を使って巨人にする)

     懐に隠し持つ巨人に変貌するとされる注射のキットの存在を感じる。

    (そいつにこいつを食わせて『獣の巨人』の力を奪う。誰か一人だけでも……)

     リヴァイは兵士を生き返らせることができないか、と想像すればエルヴィンの姿が脳裏に浮かぶ。ジークと周辺をせわしく見比べ、生存する兵士を探し始めた。突として背後に消えかかっていたはずの蒸気が迫ってきた。四つ足の巨人がリヴァイを狙って、その巨大な口を開ききっている。リヴァイは体を翻らせた。巨人から逃れられたと思っていたが、そうではなかった。四つ足の巨人は獣の中身を救いに来ただけだった。
  5. 5 : : 2016/05/21(土) 13:47:27
     四つ足が足を緩めて肩越しでリヴァイを睨めば、咥えられているジークの身体が揺れている。頬や口元から血を流し、意識が薄くなりつつあっても、どうにか口を開いていた。

    「これで……ゲームセットのはずがよ……せっかく、いい女も……モノに出来ると……思ったのによ」

     消え入りそうな口ぶりをリヴァイに向けるが、舌打ちで返された。リヴァイはそのいい女が誰なのか察するに難くない。

    「てめぇも、イブキに気があったのか?」

    「えっ……イブキちゃんって……いうんだ……覚えておこう」

     ニヤついて頬を緩ませれば、ジークは痛みから咳き込んだ。血飛沫を飛ばしても、四つ足は危機的な状況でなお、相変わらずのジークの軽口にその身体を砕きそうになった。正面を向いて、まだリヴァイが倒していない大型巨人に向かい、四つ足は駆け出す。

    「……どこに行く? 止まれ、まだお前には用が」

     リヴァイは息を切らしながら、ジークの元へ駆け寄った。ジークはリヴァイを睨み返した。

    「お前ら!! あいつを殺せ」

     両方の肘下から腕を失って、四つ足に咥えられながらも、ジークは持てる力を振り絞り叫んだ。その声を感じて、突っ立っていたはずの大型巨人たちが一斉にリヴァイを見下ろす。狙いを定めれば、たった一人の兵士に向かって巨体を揺らしながら駆け出した。

    「痛ぇ……やりやがったな、リヴァイ……だが、武器は使い果たしただろ? これで全滅だ、我々の勝ちだ」

     頬の痛みを堪え、巨人たちとすれ違いざまにジークは少しだけ愉快そうにつぶやいた。
     獣の中身が遠ざかり、反対に巨人たちが上げる鳴動がリヴァイに向かって近づいてくる。巨人へと変貌を遂げる注射を兵士に打つべきだと考えている最中、仕留めたはずの巨人の中身は奪われた。
    唖然と目を剥いて、小さくなる四つ足の巨人の背中を眺めていた。迫り来る巨人の体は次第に大きくなる。リヴァイは巨人を恨めしそうに見上げた。

    「待てよ、俺はあいつに誓ったんだ……必ず、お前を殺すと……俺は……誓った!!」

     グリップを操作して、鈍らなブレードを捨てた。フォルダーに残る最後のブレードをグリップに差し込んで、アンカーを目標の巨人に向かって突き刺した。
     リヴァイが誓った相手はエルヴィンだけではなかった。地下街から共に連れて来られ、地上の居住権を得ることを夢見た仲間たちにも向いていた。思いを馳せる彼らは巨人に殺された。仇であり、この巨人のいる世界の根源が目の前から遠ざかっていく。誓った強い気持ちが胸を打てば、手を伸ばせば届く距離まで近づいてきた大型巨人にブレードの刃先を向けた。
  6. 6 : : 2016/05/21(土) 13:50:15
     シガンシナ区内の住宅街の屋根の上で、アルミン・アルレルトは超大型巨人を目を凝らして眺めていた。傍らのミカサ・アッカーマンとジャン・キルシュタインは瓦に膝をついて、復活した鎧の巨人を見上げていた。不死身なような敵を目の当たりにすれば、打ちひしがれる。ジャンはアルミンに声を掛けて、エレンを逃がす作戦を提案するも、彼は超大型から視線を逸らさない。

    「聞いてるのかよ、アルミン……」

    「痩せてる」

     どこを向いているかわからない返しにジャンは口を噤む。背後のミカサは反応して火傷した頬を突き出した。


    「『超大型巨人』が……少し痩せてる」

     兵士としては体力不足でも洞察力が相変わらず鋭いアルミンの自信ありげな小声を聞いて、ミカサとジャンは目を大きく見開く。この期に作戦を思いついたのか、と新たな期待が膨らむ。

    「ハンジさんが言った通りだ!! やっぱり、『超大型巨人』は消耗戦に弱い!!」

     強張っても真剣な面持ちをふたりに向け、アルミンは少し早口で真向かいで全身から蒸気を噴かしている敵について次のように話し出した。エレンが巨人の巨人化した実験の折、続けて巨人化できる回数や硬質化できる回数には限度があって、さらにその限度を超えた後は力が先細りするだけで有効な力は発揮できなかった。エレンよりも、大型の二体の方が燃焼効率が悪いはず。二人の攻撃方法として骨格以外の肉を消費して熱を発生させるが、現在のライナーとベルトルトはす筋繊維を失っていて、それが出来ない可能性があるだけでなく、動けない巨大な骸骨であると――。
     ミカサとジャンはアルミンが突拍子もないことを言い出した、と思いつつ咄嗟に内容の半分も飲み込めないでいた。

    「つまり、何だよ?」

    「作戦がある! みんなで鎧(ライナー)を引きつけてくれ!! 超大型は僕とエレンで倒す」

     ミカサとジャンは火傷した目元の痛みを構わず、大きく見開いた。この危機的な時でもアルミンは正解を導く力を発揮している、とミカサが感じれば少しだけ安堵で唇が緩む。

    「僕達二人で……勝ってみせるから……」

    「わかった、鎧(ライナー)は私たちに任せて」

    「遅えよ、バカ……! 本当にもうダメかと思ったぞ」

     強い確信がある表情を突きつけられ、ミカサはやはり安堵したように唇を緩ませ、ジャンは少しだけ語気を強めて返した。付き合いの長いふたりの気持ちを汲み取るアルミンは一瞬だけ自信が溢れたり、戸惑うような目の色で頷いた。
     作戦を遂行しようと、すぐさまアルミンはエレン・イェーガーが倒れこむ壁上へ飛び立つため、ガスを吹かした。ミカサとジャンはコニー・スプリンガーとサシャ・ブラウスと合流するため、シガンシナ区の住宅街の屋根を駆け出した。いち早く飛び出したミカサに追いつくように、ジャンは併走する。

    (今……言うべきじゃねぇよな。だけど)

     火傷したミカサの頬を尻目に眺めれば、理由もわからずとも自分の正直な気持ちがその胸に沁み出そうとしていた。

    「ジャン、何?」

     視線に気づいたミカサが不意に言うも、正面を見据えたままだ。

    「あぁっ……いや、ミカサ……。この戦いが終われば、おまえのおばさん、イブキさんと……おしゃれなんかしてさ、女らしく茶でも飲んだり、甘いものなんか食いに行けるだろうな……なんっつて」

     ジャンはこの場で正直な気持ちを告白すべきではないともちろん察していて、最後はおどけた口調になっていた。
     すでにふたりはコニーとサシャがしゃがみこむ屋根近くまで駆けていた。ミカサはジャンの自分に対する気持ちに何となく気づいていた。だが、あえてそれを気にしないようにしていた。
     併走するジャンに尻目で視線を送る顔はいつものように涼しげも、どこか困惑するようだ。

    「あなたも、エレンを誘うなら、四人で……」

     すでにふたりはコニーたちの傍らに到着して足元を緩めていた。ミカサは言い慣れないことを口走ったからか、口ごもった。ジャンにはその声が最後まで届かなかった。

    「ミカサ、何か言ったか?」

    「何でもない。アルミンが立案した作戦に入るよ――」

     4人は雷槍の発射状態を確認して、かつての同期で敵となったライナーに挑む。
     ミカサはジャンに言われたことが胸裏に残っていて、それを考えれば傷を負った左腕の痛みは感じなくなる。

    (ジャンの言うとおり……イブキおばさんとお茶したりとか……このシガンシナが平和を取り戻せば、この故郷を……案内したい。これも、この作戦がすべてうまくいけば)

     ライナーに立ち向かう足取りは速くなり、眼差の強さは迷いもなく、女型の巨人に挑んだときのようにどこか憂いのある輝き増していった。 
  7. 7 : : 2016/05/21(土) 13:51:47
     すでに冷たくなった愛馬の背中にもたれて、エルヴィンはイブキを背後から抱き寄せ、左腕を彼女の身体に巻きつけていた。気を失っているようで、イブキはエルヴィンに抱きしめられても、反応を示さない。またエルヴィンの身体にはもうにその程度の力しか残っていない。イブキの身体を引き寄せるが、だらりと前かがみに揺らいだ。
     微かに身体に振動が伝わった。顔を上げれば、四つ足が丘陵に向かって駆けていた。人間が口に咥えられていて、エルヴィンは中身が奪わたのだと察した。続いて隊列を作り突っ立っていたはずの巨人が一斉に駆け出した。
     リヴァイに群がるのだろうと理解しても、エルヴィンにはなす術もなかった――。

    「リヴァイ……」

     息を乱しながら名を呼んだ。耳元で吐息交じりのその声を感じてイブキは薄い意識の中、どうにか目を覚ました。顔を上げて大型巨人が一塊に蠢く光景を眺めた。 

    「どうか、生き延びて……リヴァ……イ」

     消えうせるような語尾を伴ってイブキは再び意識を失った。エルヴィンはイブキのマントを使って止血していたが、それでもどうにも間に合わないようだった。そのエルヴィンも出血の多さから身体が次第にふらつき始めていた。

    「ミケ、いるのか……? イブキが」

    (おまえも今までほんとうによくやった、エルヴィン)

     虚ろに弱々しくミケ・ザカリアスに話しかけたつもりが、その返しがエルヴィンの心に広がり沁み渡った。温かな懐かして頼りがいのある声を感じて朦朧する意識の最中、どうにか目元を震わせながら見開いた。

    「そうだ、俺は……自分の夢を捨ててまで、ここまで来たんだ」

     顔を上げれば、手を伸ばせば届きそうなその場所に、突として木製で古ぼけたドアが据えられていた。その枠から淡い輝きが漏れていて、まるでその中には希望が光が詰まっているようだ。左開きのドアには年季が入った銅製の丸いドアノブが取り付けられていた。

    「もう地下室に来たんだ……」

     イブキを抱えていた左腕を振りほどいて、そのドアノブに手を伸ばす。

    「僕は……ようやくここに来たんだ、父さん……」

     身体の軸が崩れ、イブキと共に大地に横たわっていた。エルヴィンはすでに気を失っていた。幼い頃からの夢が瞼の裏に幻想として現れていて、惑わされてもようやく夢を手にしたような幻の幸福感に浸り、青ざめる口角は微かに上がっていた。
     ふたりの向こう側には血に濡れた草原が広がる。夢さえ見られなかった若者たちの血飛沫や身体の破片がそこら中に広がっていた。 

    (イブキ……おまえまで、エルヴィン)

     ミケはふたりの心に問いかけても、返事を何も感じられず、また触れたくても触れられないもどかしさで、彼らの前で跪いた。かつての仲間たちも付いて来ていて、特にリヴァイと最も一緒にいた兵士たちは彼の勇姿を見守ることしかできないじれったさをかみ締め立ち尽くしていた。
  8. 8 : : 2016/05/21(土) 13:52:01
    ★あとがき★

    いつもありがとうございます。
    またまた衝撃的な内容でしたが、エルヴィンはどうなるのでしょうか?リヴァイはひとりだけで
    あの群がる巨人に立ち向かえるのでしょうか…。気になって仕方がない内容ですよね。
    アルミンはさすがにもう何も思いつかないのか、って諦めモードでしたが、さすがの洞察力で
    作戦をひねり出しましたね。。さすがです。何だか原作が凄すぎて、私の妄想力もフル稼働
    しないと追いつけないという印象です…。またオリキャラで主役のイブキも傷を負ってミケも
    心配していますが、どうなるのでしょうか。。
    引き続き来月もよろしくお願いします!


    お手数ですが、コメントがございましたら、こちらまでお願いいたします!      
    http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2       
    ★Special thanks to 泪飴ちゃん(•ㅂ•)/♡love*   

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著者情報
lamaku_pele

女上アサヒ

@lamaku_pele

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