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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

モブリット「副官のゆううつ」アンカ―87祭―

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  1. 1 : : 2014/08/06(水) 23:26:10
    モブリット「副官のゆううつ」アンカ―87祭―

    モブリット・バーナーにちなんで8月7日まで、87祭りを開催しています。
    http://www.ssnote.net/groups/553/archives/2
    詳しくは上記まで!!ご参加お待ちしています♪

    ハンジの副官モブリットと、駐屯兵団ピクシス司令の副官アンカ・ラインベルガー女史のお話

    似た立場の二人は、一体どのような関係になるのでしょうか

    ネタバレは基本単行本

    シリアスです

    よろしくお願いいたします♪
  2. 6 : : 2014/08/07(木) 01:01:55
    トロスト区 駐屯兵団指令室

    「司令…もうすぐ調査兵団が、壁外調査について、報告にくるそうです。どうやら巨人の捕獲に成功した様です」

    駐屯兵団の司令官、ドット・ピクシスは、執務机に肘を立てて、何かを考えているのか、目を伏せていた

    背後に控える女性兵士が声を掛けても、思考に没頭しているのか、全く返事をする気配がない

    「司令、聴こえてますか…って、寝てるでしょう!?司令起きて下さい!!」
    女性兵士が、ピクシスの肩をぽんと叩いたが、それでも起きない

    挙げ句の果て、グーグーと寝息までたてる始末

    女性兵士は、はぁと息をついた

    次の瞬間

    「司令!お客様がいらっしゃいますから、起きて下さい!」
    そう叫んで女性兵士が、ピクシスの頭をバシッと叩いた瞬間

    部屋の扉が開いて、司令室に客が入ってきた

    「ピクシス司令、こんにちは!!相談に乗って頂きたくて来ちゃったんだけど…ってアンカ、また司令の頭殴ったの…?ふふ」

    客の兵服には、自由の翼のエンブレムが縫い付けられていた

    眼鏡の下の凛々しい利発そうな顔が、笑いで歪んでいた
  3. 7 : : 2014/08/07(木) 01:07:48
    「ハンジ分隊長、殴っていませんよ、人聞きの悪い…叩いただけです」

    アンカと呼ばれた、先程ピクシスの頭を叩いた女性兵士は、肩の辺りの長さのブラウンの髪を振り乱しながら、首を振った

    「…フガッ…おおハンジか、おはよう」

    「ピクシス司令、おはようございます。実は巨人を二体捕獲したんですが、その警備について相談したくて…」

    ハンジは、ピクシスの執務机に歩み寄ってそう言った

    その時、司令室の扉がノックされた

    「どうぞ」
    アンカがそう言うと、かちゃりと扉が開いた

    「ピクシス司令官、こんにちは。エルヴィン団長からの伝言を持って参りました…あと、うちの分隊長がノックも無しに部屋に入室したことをお詫び致します…すみませんでした」

    入室してきた人物は、丁寧に敬礼と挨拶をし、頭を下げた

    その人物も、背中に自由の翼を背負っていた
  4. 13 : : 2014/08/07(木) 09:26:46
    「あ…」
    アンカは入室してきた兵士を見て、一瞬目を見開いた

    その声に気が付いたのだろうか

    その兵士は、アンカに視線を移動させて、軽く会釈をした

    「おお、ハンジの副官の…モブ…モブ…」

    「モブリット、です。司令」

    ピクシスの言葉にすかさずフォローを入れるアンカ

    彼女と司令との関係は、まさに阿吽の呼吸といえる

    長年連れ添った夫婦の様に…と言えば、アンカは複雑かもしれないが

    「モブリット…そうじゃったな。挨拶など堅苦しい事はわしにはいらんぞ、気にせんでいい」

    ピクシスはそう言うと、カラカラと笑った

    ハンジがそれに呼応する様に笑う
    「そうですよね~司令!ははは」

    「分隊長、調子に乗らないで下さい!!司令が寛大な方だから良かっただけです!!常識として、人の部屋に入る時はね…いえ、今はいいです、後程みっちり…」

    モブリットは、ついつい何時もの様に説教をしかかったが、止めた

    「ええ~また叱られるのお!?モブリットしつこいからなあ…」
    ハンジがさも嫌そうに顔を歪めながらそう言うと、司令室内が笑いで充満した

  5. 14 : : 2014/08/07(木) 09:51:36
    「ハンジよ、あいわかった。巨人の警備については、人数を割いて、調査兵団本部に派遣しよう。エルヴィンにもそう伝えてくれ」

    ハンジの要望に、ピクシスは快諾した

    巨人の研究など、調査兵団はともかく、駐屯兵団の兵士にとっては何の意味があるのか理解が出来ないのが現状だった

    だがピクシスは違った

    初めから、巨人を捕獲したいというハンジを後押ししていたのだ

    そんな上司のお陰か、アンカも、他の側近も、現状維持な考え方の駐屯兵団にありながら、巨人に対する考え方は柔軟だった

    「司令、ありがとうございます。では早速調査兵団本部に戻ります!!あっ、モブリットはエルヴィンの書状の返事を貰ってから帰ってきてね!?」

    ハンジはそう言うと、今度はきっちり敬礼を施して、退室していった

    「…嵐のような女じゃのお。説教をされそうだから、逃げたのじゃろうな…ハハハ」

    ハンジの後ろ姿を見送った後、ピクシスはそう言って笑った

    「はい、逃げ足が早くて困ります…。司令、こちらがエルヴィン団長からの書です。お目通しお願いいたします」

    モブリットはそう言って、ピクシスに書状を手渡した

    「返事は後で持たせよう。別室で茶でも飲んで待っていてくれ…アンカ」

    ピクシスに呼ばれて頷くと、モブリットを誘う様に、扉を開けて退出した
  6. 19 : : 2014/08/07(木) 10:22:45
    モブリットを伴って司令室を出たアンカは、隣にある応接室へと彼を誘った

    「…しばらく、ゆっくりして下さい。お茶をお入れしてきます」

    アンカがそう言って退出しようと踵を返しかけた時、ポンと肩に手を置かれた

    アンカの体がビクッと跳ね上がる

    「久しぶりだね、アンカ。元気そうでなにより」

    モブリットは笑顔でそう言った

    「…あなたは、相変わらず大変そうね。モブリット」

    肩に置かれた手を振り払う様に後ずさりながら、アンカは言葉を発した

    「そうだね。毎日振り回されて大変だよ。君は…」

    「私も、似たようなものよ。老人介護だとかいろいろ言われているしね…」
    アンカはそう言うと、ため息をついた

    「俺は、忠犬だなんて二つ名がついているよ…。もう諦めたけどね」
    モブリットもため息をついた

    「忠犬…ふふっ」

    「笑い事じゃないんだぞ、アンカ…。あらぬ噂をたてられて困っているんだ」
    モブリットは眉をひそめた

    「あらぬ噂?ハンジ分隊長とできてるって話なら、ここにまで伝わっているわよ?」

    アンカは腕を組みながら言った

    「…ほらね、根も葉もない噂がこんな所にまで。だいたい分隊長にはちゃんとした相手がいるのに…」

    「へえ…誰?」
    アンカがモブリットに詰め寄った

    「…兵長だよ。リヴァイ兵長」

    「あら、御愁傷様」

    アンカはそう言うと、ぷいっとそっぽを向いた

    「…アンカ。君、まだ怒っているのか?」
    モブリットの言葉に、アンカは拳をぎゅっと握りしめた
  7. 24 : : 2014/08/07(木) 11:16:48
    「怒ってなんか…いないわ。お茶を入れてくるから、座っていて」

    アンカはそう言うと、モブリットから視線を反らしたまま、退出していった

    「…怒っている様にしか、見えないじゃないか」
    閉まった扉を見ながら、モブリットは肩を竦めた

    アンカとモブリットは、訓練兵団で同期だった

    まだ巨人に壁が破られていなかった時代

    今より随分気楽な訓練兵時代を過ごしていた

    人々も、兵士でさえも、壁を絶対の物として何の危機感も抱いていなかった

    一部の兵士を除いては…

    その一部の兵士達は、壁に守られる事だけを由とはしなかった

    自ら果敢に、巨人の謎に迫るために壁外へ足を踏み出していた

    それが、自由の翼を掲げる調査兵団だった

    ただ、壁が破られていなかった時代に、そこまでの危機感と気概を持つものは少なく、調査兵団には殆ど新兵が加わる事はなかった

    殆どの訓練兵が、憲兵団か、駐屯兵団を希望するのが常であった

    アンカとモブリットは、訓練兵時代良く共に過ごしていた

    その間に男女の仲があった訳ではなく、ただ似た者同士で気が合う親友の様な存在だった

    そんな中、最後の進路選択の時

    二人の仲を裂く事件が勃発したのであった

  8. 25 : : 2014/08/07(木) 11:34:19
    ―数年前―

    「ちょっと!!どう言う事なの、モブリット!!憲兵団に行くんじゃなかったの!?」

    何時もは沈着冷静なアンカ・ラインベルガーが、有り得ないほど取り乱していた

    「アンカ、落ち着いて…話を聞いて欲しい。俺は…」

    モブリットは尋常ならないアンカの態度に面食らいながらも、必死に宥めようとした

    「憲兵になるって言ってたじゃない!!嘘つき!!」

    「…ごめん、アンカ」
    モブリットは、詰め寄るアンカに頭を下げた

    「モブリットみたいな人が、調査兵団に入って…生き残れるわけないじゃない!!そんなに死にたいの!?」

    「アンカ…死にたくはないよ。でもね、誰かが行かなきゃ…いけないんだ。俺はそう思った…だから、調査兵団に行くって決めたんだ。わかって、くれないかな…?」

    モブリットはそう言うと、アンカの肩にぽんと手を置いて微笑んだ

    その微笑みは何処と無く憂いを帯びていた

    「…分かるわけ、ないじゃない。あなたみたいないい人は、いくら成績が良くても、すぐ死んじゃうわよ!!モブリットの、わからずや!!」

    アンカは肩に置かれた手を振り払って、走り去っていった

    「アンカ…最後の最後に、泣かせてしまったな…」
    モブリットはそう言うと、何かに堪える様に目を伏せた


    それから、アンカは駐屯兵団へ、モブリットは調査兵団へ…

    道を別ってお互い違う場所にいながら、戦い続けていたのであった
  9. 26 : : 2014/08/07(木) 14:14:02
    そんな別れ方をして以来、顔は合わすことはたまにあっても、話す事は無く今に至っていた

    「お待たせ…どうぞ」
    アンカはコーヒーカップをモブリットの前に置くと、再度部屋を退出しようと踵を返した

    「アンカ」
    モブリットはその後ろ姿に、声を掛けた

    アンカはしばらく動かなかったが、やがて体ごと、モブリットの方を向いた

    「何かしら」

    怪訝そうな表情で、モブリットの顔を見る

    彼の穏やかで優しげな表情は、昔と…訓練兵時代と、変わるところはなかった

    そんな表情通りの優しげで落ち着いた声色で、モブリットは言葉を発する

    「今度、飲みに行かないか?昔みたいに…」

    アンカはその言葉に、ふと目を伏せる

    そして再び目を開けた時には、何処か寂しげな瞳が、モブリットを映し出していた

    「いいわよ。昔にはもう…戻れないけど…」
    アンカはそう言い残して、部屋を後にした

  10. 27 : : 2014/08/07(木) 15:10:56
    モブリットはしばらく、アンカが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、物思いに耽っていた

    「昔には戻れない…か。そうだよな…」
    お互いの立場が上になればなるほど、自由に行動出来なくなる

    仕事が増えて、責任も増える

    自分はまだましだ

    小さな調査兵団という集団の中の、分隊の副長という立場

    アンカは…

    総勢三万とも言われる駐屯兵団のトップであり、南方を統括する司令官であるピクシス司令の副官だ

    南方の防衛は、謂わば人類の防衛の要

    そんな凄い人物に対して、時に強気な態度を見せるらしいアンカは、昔と変わらず責任感が強く、芯が1本通っている様に真っ直ぐなのだろう

    加えて、確実に美人の範疇に入る端正な顔立ち

    そんな彼女に、惹かれない男はいなかった様に思う

    訓練兵時代から、そう言う誘いは引く手数多だった

    自分も、その中の一人だった
    …実際に誘ったりはしなかったが

    駐屯兵団で適齢期まで働いて、引退して王都で暮らすものだと思っていた

    兵団で働きが良かった者には、シーナ内地の居住権が得られる

    アンカはまさにその候補に上がっているはずなのだろうが

    彼女はいつまでたっても、兵団を抜ける事はなく、司令の元で補佐をし続けていた


  11. 28 : : 2014/08/07(木) 17:21:34
    しばらく待っていると、扉が開き、兵士がピクシス司令の返事を携えてきた

    モブリットはそれを受け取り、足早に駐屯兵団本部を出た

    彼が門をくぐり抜けようとした時

    「待って!!」
    と背後から声がした

    振り返ると、駆けてくるアンカの姿が目に入ってきた

    「アンカ」
    モブリットは立ち止まり、彼女が駆けてくる方へと体を向けた

    「はぁ、はぁ…モブリット、これ」

    アンカは息を切らせながら、モブリットに紙を一枚握らせた

    「アンカ、大丈夫かい?」
    モブリットは息を切らすアンカの背中を、トントンと叩きながら言った

    「大丈夫よ…。それ、私の直近の非番の日が書いてあるから。奢りなら付き合ってあげる」

    アンカは、紙を握っているモブリットの手を指差して言った

    モブリットは紙を開いて内容を確認する

    そして、自分の胸ポケットから手帳を取り出して見比べた

    「三日後の非番が重なってるな…だけどチカチローニとアルベルトがなあ…」
    モブリットは眉をひそめながら、呟く様に言った

    アンカが首を傾げる
    「チカチローニとアルベルトって…誰?」

    アンカの問いに、モブリットは肩を竦める

    「…俺の頭痛の種さ」

    「何だか大変そうね…。別に無理しなくていいのよ?急ぐ事ではないし…」

    アンカは、何処と無くしおらしい眼差しをモブリットに向けて、そう言った

    「いや、三日後の非番の日、夕方に迎えに行くから」

    「…大丈夫なの?その…チカチローニとアルベルトは」

    アンカは一瞬パッと表情を明るくしたが、直ぐに引き締めて、モブリットに問い掛けた

    「一度聞いただけでよく覚えたね。さすがはアンカ。大丈夫だよ、多分ね」

    モブリットはアンカの肩をぽんと手を置いて、微笑んだ

    「本当に、無理はしないで。じゃあね…」

    肩に置かれたモブリットの手を、ほんの一瞬だけ握りしめて、自分の肩から下ろすと、アンカは踵を返して兵団本部に戻って行った

  12. 32 : : 2014/08/07(木) 18:04:13
    アンカは司令室に戻りながら、出来事を頭の中で反芻していた

    モブリットと久しぶりに話せた事が、嬉しくないはずはない

    なのに、何処か不安な気持ちになる自分がいた

    彼とはもう、道を別ったと考えていた

    調査兵団になんか入ったら、直ぐに逝ってしまうだろう…そう思っていた

    冷たいわけではない、それが現実だから

    新兵の五年生存率が1割に満たないと言われている、過酷な兵団

    モブリットが調査兵団に入ると決めたあの時

    アンカは心に決めていた

    もう彼の事は忘れようと

    亡くして胸が張り裂ける思いをするのが怖かった

    だから、忘れようと思った…でも

    忘れられなかった

    気が付けばいつも、彼の無事を気にしていた

    壁外遠征の度に、もう二度と会えないかもしれないと思い、出征前夜に調査兵団の本部へ足を運んだ事もあった

    結局会うことなく、引き返したのだが

    そんな複雑な思いをしてきたアンカの心に、易々と入り込んできたモブリット

    「人の気も知らないで…」
    アンカはそう呟くと、はぁと息をついた


  13. 39 : : 2014/08/07(木) 22:58:35
    調査兵団本部への帰り道

    夕焼け空が街を彩る

    訓練兵時代はよく、夕焼け空の中、馴染みの店を訪れた

    アンカとも何度も行った

    彼女は沢山飲む兵士達の制止役だった

    …彼女も酒は飲めるのに、何故かそういう場ではあまり飲まなかった

    余りにも飲まないので、ずっと飲めないと思っていた程だった

    それが勘違いだったとわかったのは、二人で飲みに行った時だ

    俺の飲むペースを遥かに超えるスピードで、まるで水を飲むかの如く、酒を飲んだ

    「何故、皆で飲むときには飲まないんだい?」
    と聞けば

    「私が酔っぱらったら、いろいろ危ないじゃない?だから飲まないの。皆と一緒に酔っぱらったら、そう思わない?」
    そう言って、艶やかな笑みを浮かべたものだ

    「俺と二人なら危なくないのか?」
    と聞けば

    「モブリット一人くらいなら、殴るなり蹴るなり、何とでもなるからね…ふふ」
    そう言って、イタズラっぽい笑みを浮かべたのだった

    そんな若かりし日の思い出を胸に、兵団本部に帰還した
  14. 40 : : 2014/08/07(木) 23:49:50
    「モブリット~遅かったじゃないか!!チカチローニがさあ…」

    モブリットは、本部に帰還するなり、待ち構えていたハンジに捕まった

    「分隊長すみません、先に団長に司令からの返事を渡してから聞きますから。しばしお待ち下さいね」

    「じゃ、私もついていってあげるね!!」
    ハンジはそう言うと、モブリットの腕に自分の腕を絡めた

    「…ちょっと、分隊長くっつかないで下さいよ!?」

    「何で何で!?仲間じゃないか!?」

    ハンジは腕を振りほどこうとするモブリットに、不服そうな顔を向けた

    「腕を組むなんてね、仲間がやるような…」

    モブリットはそこで言葉を止めた
    前方を見つめて、固まってしまう

    「何だよ、仲間だってやるだろ!?モブリット、なに固まってるの?」

    「兵長…」
    モブリットは震える声でそう言うと、ハンジの腕を引き剥がした

    「ハンジ…部下が困ってるだろうが。バカが」

    リヴァイは眉を弦のように引き絞って言った

    「あっ、よう、リヴァイ!!モブリットは困ってないだろ!?」

    「困ってますよ!!駐屯兵団にまで、あんたとできてるなんて噂立てられてるんですよ!!俺は!!」
    ハンジの言葉に、モブリットは激昂した

    「モブリット…気の毒にな。こんな奇行種の副官になったのが運のつきだ」
    リヴァイは肩を竦めた

  15. 41 : : 2014/08/08(金) 00:39:34
    「へぇーそうなのお?私とモブリットができてるって…そっかあ。ならいいよ?一回くらい相手してあげても!」

    ハンジはそう言うと、モブリットの頭を撫でた

    モブリットはわなわなと震えながら後ずさる

    「じ、冗談よして下さい!間に合ってます!!じゃなくって…兵長の前であんたなんて事を!!」

    「…モブリット、俺は気にしねえ。こいつはこんな奴だ。それに、誰にでも言う訳じゃねえしな…」

    リヴァイはそう言うと、はぁと息をついた

    「兵長、諦めないで下さいよ…。分隊長をよろしくお願いしますよ…」
    モブリットは、リヴァイに駆け寄って頭を下げた

    「まて、顔をあげろ…ハンジの躾はお前の仕事だろうが」
    リヴァイは首を振った

    「無理ですよ…兵長本当にお願いします。多少痛い思いをさせてもいいんで…」

    「ちょっと、君たち!!私を何だと思ってるんだよ!!」

    二人の押し付け合いに、ハンジは頬を膨らませた

    「分隊長が悪いんですよ!!もう少し大人の女性として慎み深い行動をですね…」

    「…慎み深いハンジ…」
    リヴァイはぼそっと呟いて、ブルッと身を震わせた

    「私が慎みを覚えたら、私じゃなくなっちゃうよ!!」

    「少しくらい女性らしくなさい!!」

    「以下同文だ、ハンジ」

    三人はそんな感じで戯れながら、団長室に向かった



  16. 42 : : 2014/08/08(金) 09:46:30
    団長にピクシス司令からの書状を渡し、モブリットの本日の勤務は終了した

    「では、私はこれで失礼しますね」
    モブリットは、ハンジとリヴァイに頭を下げて、踵を返した

    二人はこう見えても実は恋人同士

    モブリットとしては、二人の邪魔をしたくないというのもあったがそれより…、チカチローニの話を聞かされるのが嫌で、逃げようとしたのだった

    「モブリット、待ってよ!!チカチローニの話を聞いてくれる約束だったろ!?」

    案の定、逃げるように立ち去ろうとしたモブリットに、ハンジが声をかけた

    「兵長にゆっくり聞いてもらって下さい、分隊長。ベッドの上ででも…」
    モブリットは振り返りもせずに言った

    「待て、逃げるなモブリット。俺はベッドで巨人の話なんか聞く趣味はねえ」

    リヴァイがガシッとモブリットの肩を掴んだ

    「兵長…俺はあなたがたの逢瀬を邪魔したくないだけなんですよ…?」

    モブリットは振り向いて、リヴァイに真摯な眼差しを向けた

    「それは殊勝な心掛けだが…心配はいらん。チカチローニの話をお前が聞いてやってから、ハンジを俺の部屋にやってくれりゃいい」

    「…兵長!!また美味しいとこ取りですか!?」
    モブリットは泣きそうな顔をリヴァイに見せた

    「ほう。美味しいとことは…おまえやっぱりハンジを狙ってるな?」

    「兵長!!挙げ足を取るのはお止めください!!狙ってません!!恋人の話を聞くのは彼氏の役目です!!では失礼します!!」

    モブリットは全てを拒絶するかの様に首をブンブンと振り、走り去って行った

    「モブリット…やっぱり面白いね…ふふ」
    ハンジは走り去る副官の後ろ姿に、笑みを浮かべた

    「あいつはお前を好きだったと思うぞ。あんまりもて遊んでやるな。真面目なんだからな。お前とは違って」

    リヴァイはハンジをちらりと見やって言った

    「酷いな…私だって真面目さ。だから…あの子には手を出して無いんだからね。殆どの時間を一緒に過ごしていてもね…」

    ハンジは憂いを秘めた眼差しを、部下が走り去って行った方向に向けながら、静かに言葉を発した

    「…チカチローニの話を聞いてやるよ。ベッドの上でな」

    リヴァイはそう言うと、ハンジを誘うように目配せするのだった

  17. 47 : : 2014/08/08(金) 14:27:24
    「よし、逃げ切った…」

    モブリットは部屋の扉をパタンと閉めて、息をついた

    チカチローニ…捕獲に成功した巨人の名前だが、そんな話に付き合っていれば、夜が更け朝が来る

    明日はどのみち一日、チカチローニ…とアルベルトの側で過ごす事になる

    わざわざ今日夜通し、あの人の巨人話を聞く必要はないだろう…精神衛生上の観点からも…

    明日は多分、駐屯兵団を交えて、奇妙な『命名式』を行うつもりだろう

    名前の由来を巨人に語るのだ

    「それがまた、気持ち悪いんだよなあ…」

    ハンジが巨人につける名前は全て、実在していた殺人鬼のものだ

    その殺人鬼がどのように殺戮したのか、事細かに語るという儀式に、毎回兵士達は気分を悪くするのであった

    モブリットは慣れているので吐きはしないが、いい加減にしてほしいというのが本音だった

    兵服を脱ぎ、寝間着を着てベッドに横になる

    「…兵長は分隊長の話を聞いてあげてるのかな…」
    ふとそんな事を思い出して呟いた

    「仲良くやってるだろ。ベッドの上で…」
    そこまで言って、首をブンブン振った

    「ああ、想像するな、俺のバカ…寝よう」

    モブリットは枕に顔を埋めて、脳内で繰り広げかけた人の情事を忘れるべく、眠りについた
  18. 48 : : 2014/08/08(金) 16:36:34
    「三日後か…というか、日付変わったから、二日後ね…」
    アンカは兵舎の部屋で、ふぅと息をついた

    寝る時、足と足の間に布団を挟むのが好きなアンカ

    上を向いて寝るのが苦手で、いつも横を向いていた

    リラックスしている時は、いつもこの体整だった

    「モブリット…かあ」
    アンカはぼそっと呟いた

    彼に対して、恋愛感情があったかどうか、今となっては定かではない

    訓練兵時代は他に付き合っていた男もいたし、三年間の間に数人と関係していても、その中にモブリットの名は連なっていなかった

    アンカにとって、モブリットは一番近しい親友だった

    皆まで言わなくても、言いたいことを分かってくれる、良き理解者だった

    自分に男ができた事もそれとなく察知して、その期間中は決して二人で飲みに行こうとはしなかった

    別れればまた、それも察知して、飲みに誘ってくれた

    総じて言えるのは、いつも穏やかで優しいという事だ

    意見が違っても、決して喧嘩にはならない

    彼はどんな暴言に対しても、暖簾に腕押しの様な態度ですり抜けるからだ

    モブリットに愛される女性はきっと幸せになるだろうな…

    そんな事を思いながら、他の男と付き合っていた気がする

    そんな感じなのだから、長続きするはずがなかった

    モブリットの事が好きだったと言われれば、好きだったと言える

    恋愛感情なのかがわからないだけだ

    ただ、ある時を境に、モブリットを異性として意識していたのかもしれない、と悟った

    それが…例の噂だった

    『ハンジ分隊長とできてる』

    確かに副官の様に、付きっきりで仕事をしていれば、いくら上官で、しかも奇行種などと言われるハンジであっても、女性だ

    …そういう事が全くない方が、不思議だと思う

    だがそれを聞いた時、胸が締め付けられる様に苦しく、痛くなった

    居てもたってもいられなくなって、真夜中に調査兵団本部に足を運んだ

    だが、本人に会ったとして、自分の気持ちをどう伝えれば良いかわからなくて…

    それどころか、伝えるべき自分の気持ち自体がわからなくて

    アンカははぁと息をついて、来た道を戻ったのだった

  19. 49 : : 2014/08/08(金) 19:19:18
    「…ああ、もう考えるのは止めよう」
    アンカはため息をついた

    自分でも言ったが、昔には戻れないのだ

    あの時こうしていれば…なんて思っても、どうしようもない

    いつもの冷静な自分に戻らなければ

    私らしく、自分らしく

    「私らしいって…何だっけ?…だめ、どつぼにはまりそう…寝よう」


    アンカはそう呟いて、目を閉じた
  20. 50 : : 2014/08/08(金) 20:48:29
    翌日の調査兵団本部

    中庭に張り巡らされたネット

    その真ん中に、二体の巨人が蠢いていた

    勿論身体や関節をしっかり固定され、動けない様にはしている

    だが、ともすればその巨体から繰り出される火事場の攻撃が、近寄る人間を襲う事があった

    …こんな得たいの知れない危険な天敵に、自ら近寄る様な人間がいればの話だ

    調査兵団には一人、該当する人物がいた

    「チカチローニ~アルベルト~なんて可愛いんだ!!つぶらな瞳に吸い込まれそうだよ!!」

    うっとりとした表情で、巨人に歩み寄るハンジ

    その表情は慈愛に満ちたものだった

    「ぶっ分隊長!離れて下さい!!近すぎます!!」

    ハンジの背後には寄り添うように、だが明らかに腰が引けている、モブリット

    だが彼は勇敢な方だ

    回りの他の兵士達は、半径5メートル以内に近寄ろうとはしない

    震えながら、事の推移をただ眺めているだけだった

    「チョッとほっぺに触っちゃうよ…つんつんつん…結構柔らかいね…わっ!!」

    ハンジがチカチローニの頬をつついた瞬間、チカチローニが顔を背けて、がちんと顎を鳴らした

    「ハンジさん危ない!!」
    モブリットの声を聞いたかどうか做だかではないが、ハンジはひらりと避けた

    避けなければ、手を食われていただろう

    「惜しいなあ!!私を食べたい気持ちはわかるよ、でも我慢してね、チカチローニ!!」

    尚も巨人に触れようとするハンジに、モブリットは彼女のマントを後ろに引っ張る事で、静止を促す

    「分隊長!触ってはいけません!」

    「何でだよ、触らなきゃいろいろ試せないじゃないか…」
    ハンジは口を尖らせた

    「あんた、さっき食われかけたじゃないですか!!俺が声かけなかったら、手を食われてましたよ!!」

    モブリットはマントを離そうとはしない

    「あー、もう、うるっさいなあ…モブリットは…」
    ハンジはふんと鼻を鳴らした

    「うるさく言うのが俺の仕事ですから。安全な位置から、様子を伺って下さい、分隊長」

    「ハイハイ、わかりましたよ」
    ハンジは気の無い返事をしたが、モブリットはそれ以上は何も言わず、マントを離した

    それからは一応、巨人に必要以上に近付く事は無かったが、モブリットはともすれば暴走するハンジから、目を離す事なく見守った

  21. 52 : : 2014/08/08(金) 21:21:44
    駐屯兵団本部

    アンカは何時もの様に、ピクシス司令の側で補佐についていた

    参謀として抜擢されて以来、必死に司令の考えや行動についてきたアンカ

    そのお陰で、広い視野で物事を見るという事が出来るようになった

    調査兵団についても…

    モブリットが行くと言ったあの時には、その必要性を全く理解出来ず、ただ死に急ぎたい変人の集団…という認識しかなかった

    だが今では…壁を壊された経験をした今では…

    内に籠っているだけでは解決はしないと、理解できる様になった

    もしウォールローゼが破壊されたら…

    考えただけで身震いがする

    そんな状況を打開する術が、壁外にあるのか…それもわからないのが現実だが…


  22. 54 : : 2014/08/08(金) 23:25:13
    夕方まで勤務をし、何となく気だるさを身体に感じながら、夕食を食べるアンカ

    ふぅ…と息をつく

    月のもののせいだ
    こればかりは女であれば避けては通れない

    痛む下腹を手で温める
    そうすると少し、痛みが楽になる気がした

    「アンカ、どうした?」
    その様子を見咎めた兵士が声を掛けてくる

    「グスタフ…大丈夫よ」
    アンカは隣に座った兵士に、そう言った

    グスタフはピクシス司令の参謀…アンカと同じ立場にある

    少し長めのブラウンの髪を、きっちりとオールバックにしている

    アンカ同様、若くして参謀に抜擢されたいわゆるできる男である

    知略に長け、あらゆる状況を想定して、最善の作戦を立案する能力を有していた

    「腹か痛いのか?病院には行かなくていいのか?」
    グスタフは心配そうに聞いてきた

    参謀としては有能だが、女性の事情にはその知略は働かない様だった

    「大丈夫よ、本当に」
    アンカは静かにそう言うと、食事を再開させた

    「…なあ、アンカ。明後日の非番、空いていないか?」

    明後日…モブリットと約束をした日

    アンカはしばらく返事を躊躇ったが、やがて口を開いた

    「ごめんなさい、予定が入っているの。夕方から…」

    アンカの言葉に、グスタフは表情を曇らせる

    「そうか…。先日の返事を、聞きたいんだけどな…」
    グスタフはぼそっとそう言った

    「返事…」
    アンカはその事に思い至って、俯き、膝の上で手をきゅっと握った

    その様子に焦ったのだろうか

    グスタフは首を振る
    「いや、すまない。急かせるつもりは無かったんだ。ただ…」

    そう言うと、アンカの膝の上の手に、自分の手を重ねた

    「俺は本気だから…もし決めたやつがいないなら…」

    「グスタフ…ごめんなさい、今は私は…」

    アンカはグスタフの手をそっと退けて、夕食を残したまま席を立ったのだった


  23. 55 : : 2014/08/09(土) 00:09:56
    先日の返事

    数週間前の夜の話だ

    グスタフが夜にアンカの部屋を訪ねてきた

    まずこんな時間に来ることなどない彼の来訪に驚いたのだが、もっと驚いたのは、彼の表情だった

    いつも知的で、あまり狼狽える事がないグスタフが、その日は所在なさげに、視線を踊らせていた

    「ど、どうしたの…っ」
    アンカが口を開いた瞬間、グスタフは彼女の身体を抱き寄せた

    「アンカ…しばらくこのままでいさせてくれないか」
    グスタフは、抱擁から逃れようとするアンカに、そう声を掛けた

    アンカはしばらくじっとしていた

    やがて、身体が解放されると、グスタフは頭を下げた

    「すまない、アンカ。君に…こんなことをして」

    「…びっくりしたわ」
    アンカは正直に感想を述べた

    「アンカ…俺は、君が好きだ。付き合って欲しい」

    唐突に投げられた告白に、アンカは目を見開いた

    「少し…考えさせて…」
    アンカがそう言うと、グスタフは頷き、部屋を後にしたのだった
  24. 56 : : 2014/08/09(土) 07:18:32
    そんな事があってから数回、グスタフに口説かれていたアンカ

    大切にするから…結婚を前提に…

    女なら言われたら嬉しい言葉が、何故かアンカの心には響かなかった

    こんな世の中のせいなのか、それとも他に引っ掛かる事でもあるのか

    部屋に入るなり、ベッドに倒れ込む様に横になって、お腹を押さえた

    「痛い…」

    下腹部の鈍い痛みが、まるでアンカの胸の痛みと呼応するかの様に、その頻度を増したのであった
  25. 57 : : 2014/08/09(土) 10:40:32
    翌日、ベッドから身体を起こしたアンカは、まだ痛む下腹部を気にしていた

    「まあ、仕方ないけれど…身体だるい…」

    そう愚痴を言いながらも、任務に就くべく、兵服に袖を通すのであった


    「アンカ、お主顔色が良くないのお…大丈夫か?」

    ピクシスの側で補佐についていたアンカは、いつも通りてきぱきと動いていたつもりだったが、ピクシスにそう声を掛けられて動きを止めた

    「大丈夫です、司令。ご心配おかけしてすみません」

    「あれかのう…女は大変じゃ」
    そう言って、アンカに何かを投げてよこした

    「司令…?」

    「飲むと少し身体が温まって、楽になるかもしれんぞ?」

    ピクシスがアンカに投げよこしたのは、酒入りのスキットルだった

    「また…満タンに入ってますね。懲りないですね、司令」
    アンカは眉をひそめた

    「酒と美女を嗜めないなど、生きている意味がなかろう…ふぉふぉふぉ」

    「司令はお酒を嗜み過ぎです…。これはお気持ちだけ頂きます。勤務中ですから」
    アンカはそう言って、ピクシスの胸ポケットにスキットルを入れた

    「そうか…わしは主が任務中に酒を嗜む姿を見てみたいんじゃがのお…」

    「…私は司令が任務中に、酒を嗜まない日を拝みたいものです」

    アンカはピクシスの言葉に直ぐ様返しを入れた

    「ふぉふぉふぉ…さすがは主じゃな。敗けじゃよ、敗け」

    そう言うと、ピクシスは目の前に積まれた書類に目を通し始めるのであった
  26. 60 : : 2014/08/09(土) 11:22:33
    その頃調査兵団本部では―

    「分隊長!いい加減に言うことを聞いて下さいよ!!」

    「やだよ、アルベルトの身体検査、するんだってば!!はーなーせー!!」

    ネットが張り巡らされた中庭で、ハンジはモブリットに組み敷かれて叫んでいた

    端から見れば、モブリットがハンジを押し倒している格好だ

    だが、回りの兵士達は全員、組み敷いている方の味方をしていた…声に出しはしないが

    「身体検査ってね!!あんた医者じゃないんですから!!そんな聴診器で何を調べるって言うんですか!?」

    モブリットの下のハンジは、白衣姿にジャケットだけ羽織って、聴診器を耳に当てていた

    「私はチカチローニとアルベルトの、専属の医者さ!!聴診器は胸の音とかお腹の音を聴くものだろ!?そんな事も知らないのお!?」

    「知ってますよそれくらい!!そんなの当ててる間にパックリ食われますって!!」

    部下に組み敷かれながらも、ハンジの強気な態度は変わらない

    「モブリットが囮になってくれたらいいんだよ!!その間にやるからさ!!」

    「嫌ですよ!!俺はこんな所で巨人に食われたくありません!!」

    懸命に拘束から逃れようとするハンジを、これまた懸命に押さえ付けながら、モブリットは悲鳴のような声をあげた
  27. 61 : : 2014/08/09(土) 11:38:48
    「…君は女を組み敷くの上手いね、モブリット」

    にやりと不敵な笑みを浮かべるハンジに、モブリットは首を振る

    「そんなもの得意なはずないでしょう。あなたは女じゃなくて奇行種だと思って押さえ付けていますから」

    そう言って、ふんと鼻を鳴らした

    それを聞いたハンジは、目を見開いた

    「はは、そっか、なるほどね…。私の敗けだよ。聴診器での身体検査は諦めるよ」

    部下の腰をぽんぽんと叩いて、降参の合図を送るのだった
  28. 62 : : 2014/08/09(土) 11:46:14
    ハンジの上から退いたモブリットは、上司に真摯な眼差しを向ける

    「身体検査という案には賛成なんです。ただ、そのやり方が問題です。もう少し危険の少ない方法を考えましょう。そうだ…兵長にも手伝って頂きましょう」

    モブリットの意見に、ハンジは目を輝かせる

    「そうだね!!リヴァイに手伝って貰えたら、何かの時に安心だ!!そうしよう!!」

    リヴァイには悪いと思いながらも、無茶な行動をとりあえず抑えられた事に、内心胸を撫で下ろすモブリットであった
  29. 65 : : 2014/08/09(土) 22:56:43
    チカチローニとアルベルトの観察は、一日続けられた

    モブリットは常に現場に立ち会っていたが、その間の緊張感は普段の比ではない

    いつ暴走するかわからないハンジに、危険が及ばないようにするのが彼の役目だ

    それがいかに大変な事なのか、それは本人にしかわからないかもしれない

    壁外遠征以外でもこんなに緊張感を持って任務に就いているのは、調査兵団でもモブリットだけかもしれない

    一番の…苦労人と言えた

    だが彼はそれを甘んじて受け入れていた

    ハンジの視線の先に、何が写ってるのか

    それを一番最初に、そばで確認したいと思っているからだ

    振り回されながらも確かに、ハンジに惹かれて行く自分

    上司として敬愛するだけに留まらなくなった、彼の気持ち

    リヴァイと恋人同士だと気が付いた時、ショックが無いわけではなかった

    想うのは自由だと考えて、ひっそりハンジを想った

    その時、モブリットはふと昔を思い出した

    訓練兵時代に憧れていた、彼女の事を…
    彼女に男が出来た時、やはり同じ事を考えた

    想うのは自由だと

    ひっそりと、親友である彼女に想いを寄せていた

    気持ちを伝える事は、出来なかった

    勇気が無かったのか

    それとも、自ら選んだ調査兵団という選択に、彼女を巻き込みたく無かったのか

    その両方か

    今となっては、伝えなかった事が良かったのか悪かったのか、わからない

    何故今さら彼女を飲みに誘ったのか

    そうしたいと思って、自然に口をついて出た

    彼女を最後に泣かせてしまった事を謝りたかったのか

    モブリットは物思いに耽りながら、ふぅと息をついた

  30. 66 : : 2014/08/09(土) 23:30:20
    明日は非番だが、案の定チカチローニとアルベルトの観察を行うという分隊長に付き合うことになっていた

    休日返上など、彼にとっては日常だった

    「じゃあ、すまないけど明日も頼むよ、モブリット。昼までに済ますからさ」

    夕食時にハンジが、隣で食事をするモブリットに声をかけた

    「はい、わかりました、分隊長」
    モブリットは頷いた

    すると、ハンジが口元に少し笑みを浮かべた

    「…夕方からってさ、もしかしてデート!?」
    モブリットの耳元で、そう呟いてきた

    モブリットは、耳に突然降りかかった感覚に、背中をぶるっと震わせた

    「…いえ、そういうのでは…」
    小さな声で、呟くように言った

    耳に感じた刺激と、デートと言われた恥ずかしさ、その両方のせいで、顔が朱に染まった

    「相手は誰?男?女?」

    「…女性ですよ」

    モブリットがそう言うと、ハンジはバン、と彼の背を叩いた

    「やるじゃないか!!相手は誰なのか気になるけど…まあそこは聞かないでおくよ」

    にやにや笑うハンジに、モブリットはげんなりとした表情を見せる

    「そんなんじゃないですよ…分隊長」

    「連れ込み宿の場所は知ってるかい!?ちゃんと調べておきなよ、モブリット!!」

    「だからそんなんじゃないですってば!!」

    二人の声に、食事をしていた他の兵士達は、好奇な視線を送っていたのだった

  31. 69 : : 2014/08/10(日) 01:30:46
    「分隊長は本当にデリカシーの欠片も無いですね」

    部屋に戻るなり、本人を前に思わず声に出して愚痴るモブリット

    連れ込み宿、などと大きな声で言われたからか、兵士達からの冷やかしが凄かったのだ

    「私にデリカシーなんて期待するのが間違ってるよ、モブリット!!あはは」

    ハンジはそう言うと、愉しげに笑った

    「はあ、確かにそうですね。それよりもう寝たいんで、出ていってもらえますか?」

    「…ちょっと、話がしたいんだ」
    ハンジの真剣な眼差しに、モブリットは否とは言えなかった

    「はい、分隊長」

    椅子に座るハンジの前に立つモブリット

    何の話かわからないが、真剣な表情から察するに、何か重要な事だろう…モブリットはそう思った

    「…君の事は、最高の部下で、最高の副官だと思ってる」

    ハンジのその言葉に、モブリットは目を見開いた

    「ありがとうございます」
    そう言って、頭を下げた

    ハンジはモブリットの自分への気持ちに気が付いていた

    それを受け入れられない事を、暗に伝えたのだ

    「…君を異性として意識したことが、無かった訳じゃない。君は一生懸命で可愛いけど、結構強気な所もあって、魅力的だ。ギャップなのかな…」

    モブリットはハンジの顔を、じっと見つめていた

    「ハンジさんは俺にとって、敬愛する、ただ一人の上司です。今の俺にとって、あなたはそう言う存在です。ずっと、あなたについていこうと決めています」

    モブリットの言葉に、ハンジは顔をくしゃっとさせて笑みを浮かべた

    「ありがとう、モブリット…明日は頑張ってきなよ?応援してるからさ」
    ハンジは立ち上がり、モブリットの腰をバン、と叩いた

    「…な、なんの応援ですか?!」

    「モブリットが女性と二人きりで出掛けるなんて、聞いたことがないからさ。きっと狙いを定めている子なのかな、とかね~」

    ハンジはにやにや笑いながら言った

    「本当に、そんなのではありませんよ。訓練兵時代に親友だった人ですから」

    「親友ってさ、近すぎてわかんないんだよね、それが愛情なのか、友情なのか。ちゃんと確認しておいでよ?モブリット」

    ハンジはそう言うと、部屋を後にした

    残されたモブリットは、愛情と友情と言う言葉に妙に引っ掛かって、しばらく考えを巡らせるのであった
  32. 70 : : 2014/08/10(日) 12:08:27
    「明日…かあ」

    アンカはベッドの上で、何時もの格好…布団を足に挟んで、リラックスしながら呟いた

    下腹部の痛みは少し治まった
    いつも3日間は辛い痛み…明日はましになるといいのにと、お腹を温めていた

    兵士たるもの、こんな事で参っている暇はない

    だが、貧血のせいで、司令にバレるほど顔色が悪くなっている

    「お肉でも食べなきゃいけないかな…」

    食糧事情が余り良くない昨今、不足しがちな鉄分を補える食糧をなかなか満足に摂ることが出来なかった

    少し奮発すれば、肉は手に入るのだが

    明日の事を考えると、顔色の悪いままではいられない

    「バレちゃうもんね…モブリットには」

    昔から、他人の体調の変化によく気が付いた彼

    自分より先に、発熱している事を察して、休むように促された事もあった

    「お母さんみたいだったんだよね…ふふ」
    アンカは昔を思い出して、ふと笑みを溢したのであった
  33. 75 : : 2014/08/10(日) 16:59:34
    彼が何故、今更自分を誘って来たのか、アンカにはわからなかった

    懐かしい思い出話でもしようと思ったのか…

    気持ちが分からなくはない

    彼の同期の殆どは駐屯兵団へ行き、同じ調査兵団に入った者も、次々逝ってしまった

    懐かしい話をする相手が、モブリットにはいないのが現実だ

    ただ、揺れ動く自分の気持ちを、アンカは持て余していた

    嬉しい気持ちと切ない気持ちが同居して、胸が張り裂けんばかりだった

    「いけない…深く考えすぎないでおこう」

    そうだ、懐かしい人と、懐かしい話をしに行くのだから、それだけなんだからと言い聞かせて、目を閉じた
  34. 76 : : 2014/08/10(日) 17:41:56
    翌日

    調査兵団本部中庭では、チカチローニとアルベルトの身体検査…を、リヴァイ兵長監視のもと、行っていた

    身長や体重、力の強さ、歯の数

    それらの項目を慎重に計り、検査をした

    「歯は、人間と同じ数あるねえ…アルベルトは、親不知まであるよ」

    厳重に固定された巨人の顔の上から、口の中を覗きこむ様な格好のハンジ

    モブリットは、今にもガチンと口が閉じて、ハンジの頭がかじられるのではと、気が気ではなかった

    だが、口は顎の筋肉を削いだ上で固定しているため、しばらくは動かせないはずであった

    「おい、ハンジ。そろそろ覗くのをやめろ。ほら、顎の筋肉が回復しつつある」

    巨人は、うなじを削がない限りは身体を再生することが出来ると発見していた

    「わ、本当だね!!回復早いなあ…人間もこれくらい早く、怪我がなおればいいのにねえ…」

    ハンジは巨人の鼻を撫でながらそう言った

    「ハンジさん、そろそろ降りて下さい。危険です」
    モブリットの言葉に、ハンジは口を尖らせたが、やがて地面に降り立った

    「ま、今日は有意義な検査が出来たし、いいかな!!このデータを元に、またいろいろ考えよう!!」

    ハンジの言葉に、モブリットは頷いた

    リヴァイは…
    「危ない目をして手伝ってやったんだ、役に立てろよな」
    そう言った

    「リヴァイ、ありがとう!!助かったよ!!」
    ハンジの言葉に、リヴァイはほんのり頬を赤く染めた

    「良かったですね、分隊長」

    モブリットがそう言うと、ハンジがばちんと手を叩いた

    「そうだ!!モブリットはいまからデートなんだった!!さっさと片付けて、資料まとめちゃおう!!」

    そう大きな声で言うと、巨人の頭を撫でて中庭から立ち去った

    「…モブリット、デートなのか」
    リヴァイが隣で佇むモブリットに、ぼそっと言葉を発した

    「そんなのではありません…兵長」

    モブリットがため息混じりに呟くと、リヴァイはぽんと彼の肩を叩いた

    「まあ楽しんでこい。非番の所ご苦労だったな。後は任せておけ」

    「…はい、兵長ありがとうございます」
    モブリットは頭を下げると、その場を後にした
  35. 77 : : 2014/08/10(日) 23:26:21
    駐屯兵団本部に併設されている兵舎の廊下を、私服姿で歩くアンカ

    体調はかなりましになった

    顔色はまだ良くないかもしれないが、気になるほどでもない

    たまに身体がフワッとする位だ

    淡いブルーのワンピースは、お気に入りだ

    スカートをふわりと靡かせて、颯爽と歩いていると、背後から声が掛かった

    「アンカ、今日はおしゃれをして何処へ行くの?」

    アンカが振り替えると、自分より少し小柄な女性が立っていた

    「リコ、あなたも非番?」

    アンカに声を掛けたのは、駐屯兵団きってのエリート集団、精鋭班のリコ・ブレツェンスカだった

    眼鏡の下に輝く大きな瞳からは、少し気が強そうな様子が伺えた

    リコは頷く
    「ええ、でも暇だから…トレーニングしてたのよ」

    リコは日々身体を鍛えるべく、努力をしていた

    壁の中をを守るという使命に、命を掛けていると言っても過言ではなかった

    「リコは、本当に努力家よね。たまには遊んで欲しいわ」

    「…あなたは遊んでくれる人に事欠かないでしょ、アンカ」
    リコはそう言うと、アンカの髪に手を伸ばした

    「リコと遊びたいのよ、私は」
    アンカにとって、一番気心のしれた友人が、リコだった

    「可愛い髪留めね。ワンピースと色が合ってるわ…アンカはこういう格好が似合うから羨ましい」

    リコは、アンカの髪に留められた髪飾りに手を振れながら言った

    「リコだって、かわいい格好が似合うじゃない。自分から着ようとしないだけでしょう」

    「似合わないよ。それより、今日はデート?相手はグスタフかな」

    リコの問いに、アンカは首を振る

    「ううん、違うの」

    「じゃあ誰?そんな格好で会いに行く相手…」

    リコはアンカのワンピースの裾を引っ張りながら問いかけた

    「訓練兵時代の、親友よ」

    「…憲兵団?」

    「ううん、違う。リコ、誘導尋問しないで?相手は調査兵団よ」

    アンカのその言葉を聞いて、リコは目を見開いた

    「そうなの?珍しいね。アンカが調査兵団の人を選ぶなんて…いつも付き合う人は内地の人ばかりじゃない?安定第一というかさ…」

    「選ぶなんて…そんなのではないわ。親友よ、親友」
    アンカはそう言うと、頬を少し膨らませた

    「そんな格好してるのに、そんなのではないとか…説得力に欠けるよ、参謀さん。ま、頑張って。話は聞かせてね?」

    リコはアンカの肩をぽんと叩くと、片手をひらひらさせて去っていった

    「そんなのではないつもりだけど…」
    自分の着ているお気に入りの、ワンピースの裾をつまんで広げながら、アンカは独りごちた
  36. 78 : : 2014/08/10(日) 23:53:33
    アンカが水色よワンピース姿!可愛いすぎです!!
  37. 79 : : 2014/08/11(月) 00:29:53
    >ハンジ大好きさん☆
    かわいいでしょ!?絶対似合うと思うの!!
    知的な美人さんだしね♪
  38. 80 : : 2014/08/11(月) 10:42:14
    夕方、アンカは兵舎の門の前で、時おりあおられるスカートを気にしながら立っていた

    駐屯兵団の兵士達によると、今日もチカチローニとアルベルト…巨人の実験をしていたらしい

    そこにはいつもの様に、ともすれば暴走しそうになるハンジと、忠犬の様に付き従うモブリットがいたという

    非番でも仕事をするというのは、真面目で責任感の強い彼らしい

    いつも身体を張って、上司を守っているらしいモブリット

    ただの上司に、そこまではしないと思う

    きっと彼は、ハンジに上司として以上の感情を抱いているんだろうなと、アンカは思っていた

    そしてそれを考えると、胸がちくりと痛むのだった
  39. 81 : : 2014/08/11(月) 11:20:53
    俯きながらそんな事を考えて、まだ少し痛むお腹に手を当てていると、肩にぽんと手を置かれた

    「アンカ、ごめん、待たせたね」
    アンカが顔を上げると、優しげな笑みを浮かべているモブリットが、そこにいた

    「いいえ、待ってないわ。今来た所」

    「それなら良かった。もう少し早く来れる予定だったんだけどね…」
    モブリットは鼻の頭をぽりっと掻きながら言った

    「チカチローニとアルベルトでしょう?今日、あなたも実験に参加していたって聞いたわ…兵士達から」
    アンカがちらりとモブリットの顔を伺いながら言うと、彼は肩を竦めた

    「目を離して死なれたら厄介だからね…。あれでもうちの兵団には欠かせない人だから」

    「そうね、確かにハンジ分隊長は凄い人だと思うわ。いろいろと…」
    アンカの言葉に、モブリットははぁとため息をついた

    「…そのいろいろとの部分がまともな部分と同じくらいあるんだけどね。おっと、立ち話もなんだし、行こうか」

    モブリットはそう言うと、アンカをエスコートする様に、手を差し出した

    アンカはしばし躊躇った後、その手に自分の手を重ねた

    耳の先まで、熱くなった様に感じた
  40. 82 : : 2014/08/11(月) 11:43:22
    他愛の無い話をしながら、昔よく行った酒場兼料理屋に行った

    バーカウンターに加えて、個室が完備された店内

    兵団の幹部も、良くこの酒場を利用していた

    「訓練兵時代、よくここに来ただろう?調査兵団でも、この店は人気でね…たまにお邪魔してるんだ…これと、これと…」

    モブリットはそう言いながら、店員にメニューを指し示していた

    「私は訓練兵以来だわ、ここに来るのは。懐かしいわ」
    アンカは部屋を見回しながら、目を細めた

    「二人で飲んだ時の、君の底なしを思い出したよ。でも、今日は無理はだめだよ、アンカ」

    モブリットの言葉に、アンカは目を見開く

    「…やっぱり、わかるのね?」

    「なんと無くね。お腹を気にしていたし、少し顔色がね」
    モブリットは頷いた

    「上司も女性だしね?」

    「ハンジさんかい?勿論あの人にも一応そういう日はあるけど…あの人は肉をしっかり食べてるからなあ…あっ、ちゃんと肉を頼んだから、死ぬほど食べてくれよ?アンカ」

    モブリットの言葉に、アンカは笑顔を見せた

    「うん、そうするわ。沢山食べて太っちゃおう」

    「そうだね、君はもう少し太っても平気だよ」
    モブリットも、笑顔を見せた

    「もし、立体機動出来ないくらいになったらどうする?」
    アンカがいたずらっぽくそう言うと、モブリットは肩を竦める

    「さすがにそうなりかけたら、止めるよ。全力で」

    「ええ、お願いね、モブリット」
    アンカはモブリットに微笑みを見せた
  41. 85 : : 2014/08/11(月) 14:06:29
    会うまでは何となく切なくて不安だったアンカの心も、穏やかで優しい彼の口調と表情、そして然り気無い気遣いで、次第に解きほぐされていった

    調査兵団という過酷な兵団に所属しながらも、モブリットの人となりは全く変わりなかった

    親友だったあの頃を思い出しながら、取り留めのない会話を楽しんでいた

    「モブリットは、全然変わらないわね。壁外で数年生き残っている様な猛者には見えないわ」
    アンカは、酒の入ったグラスを持って、氷をカランと言わせた

    「変わらないかい?結構修羅場を潜り抜けてきたから、背中に黒い羽根でも生えていそうだけどな」

    「いいえ、変わらないわ。相変わらずお人好しで、気が弱そうで…ふふ」

    アンカはそう言うと、いたずらっぽい笑みを浮かべた

    「お人好しはともかく、気が弱そうはないだろ…?」
    モブリットは口を尖らせた

    「だって、そう見えるんだもの」
    アンカは拗ねるモブリットの額を、指で弾いた

    「いてっ…まあ、調査兵団では気の弱い方かもしれないな…いつも腰が引けてるって自覚してるしな」
    モブリットはそう言って、肩を竦めた

    「でも…凄いと思うわ。あれだけの戦いをしながら、まだ生き残っているんだもの」

    アンカはそう言うと、ふぅと息をついた

    モブリットは首を振る
    「ああ…ハンジさんのお陰だよ。何度も助けて貰っているからね」

    そう言うと、モブリットは一瞬遠くへ視線を移した

    「ハンジ分隊長を、慕っているのね」
    アンカが静かにそう言うと、モブリットはしばらく躊躇った後、頷いた
  42. 86 : : 2014/08/11(月) 16:36:24
    「そうだね。あの人の下について、振り回されてばかりの毎日だったけど…あの人に着いていれば、自分では見れない何かが観れるんじゃないかって、そう思っているんだ」

    モブリットは、視線をアンカに戻して微笑んだ

    「慕っているというのは、女性としてよね?」

    「ここだから言うけどね、女性としても、慕っていたのは事実なんだ」
    モブリットは、アンカの問いに困ったような顔をしながら答えた

    「ええ、ずっと一緒にいれば、そうなって当たり前だと思うわ」
    アンカは頷いた

    「ああ。でも、あの人は他に好きな人がいるからね。不思議なのは…失恋しているはずなのに、そこまでショックじゃなかったんだ」

    「そうなの…?」
    アンカは首をかしげた

    「何だろうね…そういう状況に慣れたと言うかね…」
    モブリットの少し寂しげな表情に、アンカは一瞬目を伏せた

    「そんな状況に慣れたって…悲しすぎるじゃないの…モブリット」

    アンカはそう言って、ゆるゆると首を振った

    「俺が好きになる人は、高嶺の華なんだろうな。いつも他に好きな相手がいるしね」

    モブリットはそう言うと、力なく微笑んだ

  43. 87 : : 2014/08/11(月) 17:49:33
    「今日は付き合ってあげるから、とことん飲みなさい。あなた本当は酒豪なんだから」
    アンカはそう言うと、モブリットの空になったグラスに酒をなみなみと注いだ

    「君には負けるけどなあ…」

    「モブリットが本気を出せば、兵団一の大酒飲みなのはわかってるわよ。私なんかの比じゃないはず。今日はハンジ分隊長もいないし、沢山飲めばいいわ」

    アンカはそう言うと、自らもグラスに残った酒をあおり、また注いだ

    「おいおい、君は体調の事もあるんだから、無理はするなよ?アンカ」
    モブリットは心配そうな表情で言った

    「…私だってたまには飲みたいのよ。私が酔っぱらっても、あなたは酔わないでしょう?だから大丈夫」
    アンカは艶やかな笑みを浮かべて、モブリットの頬に手で触れた

    「アンカ…そりゃ、勿論責任持って送るけどね…」
    モブリットは、頬に触れた手の感触に、身体の何処かが疼いた気がした

    「こんなに気弱そうで優しいくせに、大酒飲みで、壁外遠征から何度も生還している歴戦の兵士だなんてね…。外見詐欺よ、あなた」

    アンカはそう言いながら、モブリットの頬を撫で、ふぅと熱い息を吐いた

    「…アンカ、君、酔ってるだろ…?」

    「酔ってないわ、正気よ…。あなたはね、いい男よ、モブリット」
    そう言って、ふんわりと笑みを溢すアンカに、モブリットは頬を赤く染めた
  44. 92 : : 2014/08/11(月) 21:22:18
    「モブリット、高嶺の華ばかりって言ってたけど、ハンジ分隊長の他に誰がいたの?あなたの浮わついた話って聞いた事がないから…」

    アンカの問いに、モブリットはびくっと身体を震わせた

    それは、目の前にいる君の事だよなんて、とても言えそうにない

    「いや、まあ…いろいろとね」
    そう言葉を濁したが、少し酔っているアンカが、それで引き下がる訳がない

    「いろいろとじゃ、わからないわ。ちゃんと話して?モブリット。あなたと私の仲でしょう?」

    あなたと私の仲だから、話しづらいんだよなんて、言えるはずがない

    モブリットは無言で酒をあおった
    酒の勢いを借りたら、言えるかもしれない…

    だが、そんな彼の思いとは裏腹に、酒に強すぎる体質のおかげか、全く酔う様な気配はなく…

    むしろ人生で酒に酔った事が無いモブリットは、意を決して言葉を発する

    「俺が…好きだったのは…」
    その時、ふわりと何かが、彼の頬を撫でた

    彼の頬を撫でたのは、アンカの頬だった
    彼女はモブリットに、頬擦りをしたのだった

    そのまま耳元で囁く
    「私は、あなたが好きだったの」

    「ア…アンカ…?酔ってるね、君」

    自分の膝の上に座って、頬擦りをしてくる駐屯兵団のエリート参謀に、モブリットは困り果てた

    「少し、酔っているわ…でも、割りと正気よ。酒っていいわね…自分の気持ちに素直に向き合えるわ」

    アンカはやっと頬擦りを止めると、優しげな笑みを浮かべて、モブリットを見つめた
  45. 93 : : 2014/08/11(月) 22:00:19
    「あら、胸のポケットに何か入ってるわよ…紙ね」
    アンカは、モブリットのシャツのポケットから、一枚の紙切れを取り出した

    「何だろう…そんなの入れてきた覚えがないんだけどな」
    モブリットが首を傾げると、アンカが紙を凝視して、顔を真っ赤に染めていた

    「こ、これ…モブリット…。どういう事…?責任持って送ってくれるって言ってたわよね…?」

    アンカは震える声でそう言った

    「何の話だい?ちょっとそれ見せて…うわぁぁ!!これは、違う!!俺は知らないんだ!!」

    アンカから紙を受けとって見るなり、モブリットは叫んで頭を抱えた

    「連れ込み宿のリストなんか用意しちゃって…顔に似合わないの極地だわ…」
    アンカは眉をひそめた

    モブリットは首をぶんぶん振る
    「違う、本当に知らないんだ!!そんなつもりは全く無いし、そのために君を飲みに誘ったんじゃないんだ!!」

    アンカは必死に訴えるモブリットを、しばらく神妙な面持ちで、じっと見つめていた

    「私を酔わせて…連れ込むつもりだったのね………って、あはは」
    アンカはたまらず、お腹を抱えて笑った

    「アンカ…?」

    「わかってるわよ。あなたがこんな事するような人じゃないって事くらい。大方、調査兵団の誰かに仕込まれたんじゃない?」

    モブリットの今にも泣きそうな顔を、そっと指でなぞりながら、アンカは艶やかな笑みを浮かべた

    「ハンジさんだよ、この筆跡は…調べておけとか、言ってたしね」
    モブリットははぁと息をついた

    「ハンジ分隊長って、やっぱり面白い人ね…ふふ」

    「面白いじゃすまないよ…全く」
    モブリットはこめかみを指で押さえた

  46. 96 : : 2014/08/12(火) 10:13:08
    「副官って大変よね…?ほぼ付きっきりでいるし、いろいろと世話も焼かなきゃいけないし…」

    アンカは椅子に座り直すと、空になったモブリットのグラスに酒を注ぎながら呟くように言った

    「そうだね。タイムスケジュールは勿論、体調管理から何から、全て任されてしまうしね」

    モブリットは、アンカが落ち着いた事にそっと胸をなで下ろした

    ただ、酔った勢いで言ったであろう、自分を好きだったという彼女の言葉と、その後の彼女の大胆な行動を、頭から離す事は出来なかった

    「…私は司令のお相手だから、間違いなんておきないけど、モブリットは、そういうわけにはね、だってハンジ分隊長は素敵だもの」

    アンカはそう言って、ふぅとため息をついた

    「アンカ、俺だってハンジさんと間違いなんて起こしてないよ。あの人にはちゃんとした相手がいるしね」

    「…ええ、それはわかっているわ。モブリットはそういう人だもの。例え報われないとわかっていても、貫く人よ」

    アンカは憂いを秘めた眼差しを、モブリットに向けた

    「アンカ、俺は…」

    「あなたは、ハンジ分隊長の翼になるの。そして、盾にもなるの。そうでしょう?モブリット」

    「…ああ。あの人の側で、戦い続けるつもりだよ。命有る限り」
    アンカの言葉に、モブリットは頷いた
  47. 97 : : 2014/08/12(火) 10:59:42
    「あなた達は、私には行けない遠くに行くわ。私には勇気がないから、そこへ一緒に行く事が出来ない。本当は一緒に飛びたいと思っていてもね」

    アンカは悲しげに瞳を揺らした

    「アンカ…」
    モブリットはじっと、彼女の顔を見つめた

    「だけど、私にも出来る事はあるわ。私は、あなたが傷付いて帰ってきた時に、それを癒す器になる。私はそう決めたの」

    アンカはそう言うと、力強く頷いた

    その瞳からは悲しさは消え、青い焔のような強さと熱さが伺えた

    「アンカ、君は俺のために…?」

    「そうよ。自分の気持ちを偽って、もう後悔はしたくないから」

    アンカはそう言うと、晴れやかな笑顔を見せた

    ずっと憧れ続けていた女性のそんな表情に、モブリットが目を奪われないはずがなかった

    しかも、その笑顔は自分に向けられているものだ

    モブリットは、心を震わせながら、辛うじて言葉を発する

    「アンカ、ありがとう。ごめん、他に言葉が思い浮かばない…」
    はにかんだような笑みを浮かべるモブリットの手を、アンカはぎゅっと握りしめた

    「いいのよ。言葉は要らないから…行動で示して?」

    アンカのその言葉と、強く握られた手の温もり、そして艶やかな眼差しに、胸の鼓動が早鐘を打った

    モブリットは握られていない自由な方の手で、そっとアンカの頬に触れた

    彼女が目を閉じた時、モブリットは頬に唇で触れた

    アンカが思わず目を開けて、まるで抗議をするかの様な眼差しをモブリットに向けた時

    今度こそ、彼女の唇にキスを落としたのであった
  48. 98 : : 2014/08/12(火) 12:24:37
    夜のトロスト区

    繁華街を抜け、しんと静まり返った道を、二人の人影が重なるように動く

    二人は手を絡ませて、ゆっくり歩みを進めていた

    「ねえ、モブリット」

    「ん?なんだい、アンカ」

    モブリットが隣に視線を向けると、頬をほんのり上気させたアンカが、艶やかな笑みを浮かべながら、自分をじっと見つめていた

    「今日は、行かないわよ?」

    「…何処へ?」

    モブリットの問いに、アンカはぎゅっと腕を絡めた

    「胸のポケットのリストの場所よ」

    アンカの言葉に、モブリットは立ち止まる

    「そんなつもりは無いっていっただろ…?君の兵舎に送って行ってるんじゃないか」

    「ええ、わかっているんだけどね…」
    アンカは少しふて腐れた様に、頬を膨らませた

    モブリットはその様子を見て、アンカの顔を覗いた

    普段は決して見せないような、なんとも可愛らしい表情に、モブリットはつい抱き締めたくなる衝動を抑えた

    「もしかして、俺が押しが弱いとか、そんな風に思ってるんじゃないか?」

    アンカは、うんうんと頷いた

    「そうね、そう思っているわ」

    「………でもアンカ、君今日は無理だろ?ほら、お腹、痛い日なんだから」

    モブリットの言葉に、アンカははっと顔を上げた

    「そうだったわ…忘れてた」

    「無駄に煽らないで欲しいな…お預けくらう俺の気持ちにもなってくれよ」

    モブリットは肩を竦めた

    「ごめんてば…本当にうっかりしていたわ…」

    アンカはそう言うと、モブリットの頭を撫でた

    「アンカは結構天然だからなあ…。いいよ、お預けなんてどうってこと無いしね」

    「…次の壁外遠征から帰ってこれたら、お預け解禁してあげてもいいわよ?」

    アンカの言葉に弾かれる様に、モブリットは彼女を抱き締めた

    そして、耳元で
    「意地でも帰ってくるよ」
    と呟くのだった
  49. 100 : : 2014/08/12(火) 12:56:07
    ―数週間後―

    トロスト区の突端壁の門から、調査兵団が帰還した

    夜明けと同時に出立して、夕方の帰還だった

    やはり犠牲者が出た
    怪我人も沢山いた

    「モブリット、今日もよく生きて帰ってこれたよね」
    そんな中、自らの足で地を踏むハンジとモブリット

    「はい、そうですね」

    周りを見回すと、家族と再会出来たのか、抱き合う兵士達がいた

    かたや、泣きじゃくる犠牲者の家族

    毎度の光景ではあるが、嘆き悲しむ人を見るのは慣れる事はなかった

    モブリットが目を伏せ、また前を見据えると、横合いから兵服のマントが引っ張られた

    「?」
    モブリットが振り返ると、そこには

    「お帰りなさい、モブリット」
    泣き笑いの様な表情の、アンカがいた

    「ただいま…アンカ」

    アンカは私服姿だった

    だが、隣にいたハンジは直ぐに彼女が誰かに気がつく

    「君、駐屯兵団の、アンカじゃないか!!えっ…もしかしてモブリットの相手って…アンカなの!?なんて事だ!!」

    ハンジはその場で頭を抱えた

    「分隊長、声が大きすぎです!」

    「女なんて知りませんみたいな顔しておいて、ちゃっかり超上玉ゲットしてるだなんて!!モブリット、顔に似合わないなあ…」

    ハンジはニヤリと笑った
    そして、彼の身体をアンカの方に追いやる

    「アンカ、もう今日はモブリットを好きにしていいから、連れて帰って?事後処理は私がちゃんとしておくから!じゃあね~」
    そう言うと、モブリットの馬の手綱を取って、歩き出した

    「分隊長!?書類の処理と報告書作成と…!」

    「わかってるって!!今日は特別サービスだからね!!今日だけ一人でやるから…ふふ」
    ハンジは嬉しそうに、モブリットに微笑みかけた
  50. 101 : : 2014/08/12(火) 13:15:07
    隊列を離れて、人混みから逃れた二人は、しっかりと抱き締め合う

    「モブリット、怪我はない…?」

    アンカは瞳に涙をためて、そう言った

    「大丈夫だよ。それより…今日は非番だったんだな。まさか来てるとは思わなくて、びっくりしたよ」

    「どうしても、あなたの無事を確認したくて…居てもたってもいられなかったのよ」

    アンカはそう言うと、モブリットの胸に顔を埋めた

    大きく息を吸い込むと、汗の匂いと、戦いの際に分泌される、独特なアドレナリンの匂いに混じって…確かに落ち着く匂いがした

    「汗くさいだろ?」

    「ううん、いいの…あなたの匂いだもの」
    そう言って瞳を閉じると、一粒だけ涙がこぼれ落ちた

    「流石に疲れたな…汗だくだし、風呂に入ってゆっくりしたいよ」

    モブリットの言葉を待っていたかの様に、アンカは顔を上げた

    「…行きましょう、お風呂のある所。約束だしね」
    アンカは頬を真っ赤に染めながら、呟くように言った
  51. 103 : : 2014/08/12(火) 14:31:28
    連れ込み宿…などと言われていても、普通の旅人が使う宿となんらかわりがない

    ただ昨今はあまり旅人が多くはないため、宿の需要が偏っているだけの話だ

    夕方から夜に移り変わる時間帯

    部屋の窓からの景色は、赤から紺に変わるようなグラデーションを帯びていた

    美しい夕焼けだ

    窓際の椅子に座りながら、アンカは風呂から上がってくる彼を待つ

    彼はもう戻って来ないかもしれない、そう思うと、やはり胸が張り裂けそうになった

    慣れる…ものなのだろうか

    そういう仕事をしている彼を選んだのだから、覚悟はしているつもりではいる

    だが実際にその立場に立ってみると、不安と心配でじっとしていられなくなった

    だから、彼を迎えに行こうと決めた
    おあつらえ向きに、今日は非番だった

    朝も、実はこっそり、出立する調査兵団を見送った

    彼の姿も、彼が翼になると言った人の後ろに確認できた

    その後は、彼が帰ってくる事を信じて、町で彼に似合いそうな服を買い込んだ

    おしゃれに全く無頓着な彼を、自分の色に染めるために

    そして、疲れて帰ってくるであろう彼のために、兵舎の厨房を借りて、弁当を作った

    それらを手に、迎えに行くと…丁度開門の合図の鐘が鳴り響いていた

    怪我をして、馬車に揺られている兵士達を見るたびに、胸がちくりと痛み…

    家族を失った悲しみに暮れる人々を見て、胸が張り裂けそうになった

    祈るような気持ちで、隊列を見つめた

    だから、その中に彼の姿を見つけた時…

    その彼が二本の足でしっかりと、地面を踏みしめている事を確認した時…

    思わず駆け出して、抱き付きたくなった

    それを必死に堪えて、通りすぎようとした彼のマントを、引っ張ったのであった

    生きて帰ってきてくれたことが嬉しくて、たまらなかった

    今まで生きてきた中で、一番嬉しかったかもしれない…それくらい、心が満たされた
  52. 104 : : 2014/08/12(火) 14:55:40
    「アンカ、待たせたね。ああ、すっきりした」
    アンカが新しく買った服に身を包んだモブリットが、風呂場から出てきた

    窓際の椅子に座るアンカに声を掛け、彼女に歩み寄るモブリット

    「お疲れ様、モブリット。お腹空いたでしょう?お弁当作ったんたけど…食べてくれる?」

    アンカの問いかけに、モブリットは彼女の後ろから腕を伸ばして、抱いた

    「食べるに決まってるだろ?わざわざ作ってくれたのか」

    「まあ、たまにはね?」

    アンカが後ろを振り返る様に顔を傾けると、モブリットは屈むように顔を近づけて、彼女の唇を奪った

    そのまま自分の体を探ろうとする彼の手を、アンカはぎゅっと握りしめた

    「先にお弁当を食べて?モブリット」

    アンカの言葉に、モブリットはばつが悪そうに、鼻の頭を掻いた

    「ああ、そうだね、そうするよ」

    そう言って、はにかんだような笑みを浮かべるモブリットに、アンカはひらりと立ち上がって、彼の頬にキスをした


  53. 107 : : 2014/08/12(火) 16:13:42
    「ああ、美味しかった。ご馳走さま」

    モブリットはアンカお手製の弁当を平らげて、ふぅと息をついた

    「口に合って良かったわ。片付けてくるわね」

    アンカはテーブルの上を片付け始めた

    「俺も、手伝うよ」
    そう言って立ち上がりかけたモブリットを、アンカは手で制した

    「あなたは疲れているんだから、休んでいて?」

    そう言いながら、彼女が指をさす方向にはベッドがあった

    モブリットは言われるがまま、ベッドに横になった

    壁内へ戻って来た安堵感に、風呂上がりの温かくて清潔な身体、満たされたお腹

    その三つが揃えば、人が持つ欲は止めることは出来ない

    ほんの少し目を閉じただけなのに、モブリットはまるで誘われるかの様に、夢の世界へ旅立ったのであった
  54. 108 : : 2014/08/12(火) 16:22:04
    片付けを終えて、ベッドに歩み寄ると、モブリットは随分あどけない表情ですーすーと寝息をたてて寝ていた

    「…あら。寝てしまったのね」
    アンカは苦笑すると、呑気な彼の身体に布団を掛けてやった

    そして、そっと彼の頬に手で触れると、なにかを呟いて、寝返りを打った

    「…かわいい…なんて言ったら、さすがに怒られちゃうかしら…ふふ」

    今度は唇で、頬にそっと触れると、ぼそっと呟いた

    「もしかして、私がお預け状態なんじゃないの…?もう」

    そう言って、彼の横に身体を滑り込ませたのであった
  55. 109 : : 2014/08/12(火) 16:42:31
    翌朝―

    「アンカ…どうして起こしてくれなかったんだい?」
    モブリットが今にも泣きそうな顔でそう言った

    「だって…凄く気持ち良さそうに眠っていたんだもの。起こすのが可哀想で…」

    モブリットは結局、疲れからだろうか…
    朝までぐっすり眠ってしまったのであった

    アンカは隣で寝ていたが、たまに彼をつついたりキスをしたり、イタズラをしていた

    それでも全く起きる気配が無かったのだった

    「また、お預けじゃないか…」

    心底情けない顔をするモブリットに、アンカは頷く

    「次の壁外遠征から帰ってきたら、また考えるわ」

    「ええっ…正気かい!?アンカ」
    モブリットはアンカの言葉に耳を疑った

    「ええ、仕方がないでしょう?私を放ったらかして寝てしまったあなたが悪いのよ」
    アンカは口を尖らせた

    「じ、じゃあ今から…埋め合わせを…」
    モブリットはそう言うと、アンカの身体を組み敷いた

    「だめよ…もう朝7時。もうここをでなきゃ、私もあなたも遅刻よ?」

    「うっ…わ、分かった。俺はともかく、君を遅刻させるわけには行かないからな…」

    モブリットはそう言うと、アンカの身体を組み敷くのをやめて、立ち上がった

    アンカもベッドからひらりと降り立つと、モブリットの頭に手を伸ばして、撫でた

    「ま、次の壁外遠征まで、私が待てそうにないかもしれないけどね」

    小さな声でそう言うアンカに、モブリットは首を振り、絞り出すように言葉を発する

    「俺は一日だって待てないよ…」

    「まあ、情けない顔をしないで?調査兵団の幹部さん…ふふ」

    アンカはそう言うと、背伸びをして、世にも情けない顔をしているモブリットの唇に、自分の柔らかいそれを押し付けたのだった
  56. 110 : : 2014/08/12(火) 16:56:57
    二人の副官は、立場や所属兵団は違えど、自らの力及ぶ限り、与えられた役割を担ってきた

    調査兵団の、一見気の弱そうな、酒に強い兵士は、相変わらず上官に振り回されながらも、自らの夢をその上官の視線の先に見出だし、飛び続ける

    駐屯兵団の、凛とした佇まいの美しい参謀は、上官が見えている広い視野を、少しでも理解すべく、常に側に付き従いながら、地に足をつけて歩み続ける

    その行動範囲も、移動手段も異なるが、二人の見る未来は同じ

    二人が携える手は、やがて兵団同士が手を取り合う時代が来る事を、案じさせているのかもしれない


    人類が自由に壁の外へ行ける世界

    二人が目指す未来の形

    それを手にするまで、二人は共に生き続ける

    些細な事に喜びを感じながら
    悲しみを共に分かち合いながら…


    ―完―

  57. 111 : : 2014/08/12(火) 17:39:38
    ロメ姉さん執筆お疲れ様です!!
    モブアンは初めて読みましたが、とっても良かったです
    同じ副官という立場で、2人の、目線で書かれていて、読みやすく感動しました(ू˃̣̣̣̣̣̣o˂̣̣̣̣̣̣ ू)⁼³₌₃


    ロメ姉さんに敬礼!ビシッ
  58. 112 : : 2014/08/12(火) 17:48:02
    >ハンジ大好きさん☆
    ありがとうございますm(。≧Д≦。)m
    モブアンて、あまり…というか、みたことありませんよね!!

    読みやすいと言って頂けて嬉しいです♪
    読んでくれてありがとうございました(~▽~@)♪♪♪
  59. 113 : : 2014/08/12(火) 18:34:46
    執筆お疲れ様でした。
  60. 114 : : 2014/08/12(火) 22:47:05
    執筆お疲れ様でした。

    88さんのモブリットはどなたが相手でも格好よくて、可愛くて、真面目で素敵です!
    私もアンカさんがお相手なのは初めて見たかもしれません。でも目覚めそうです。モブアン……。
  61. 115 : : 2014/08/12(火) 23:06:39
    >ボールさん☆
    読んで頂き、ありがとうございますm(。≧Д≦。)m
    応援感謝しています♪

    >キミドリさん☆
    読んで頂きありがとうございます♪
    モブリットはかっこよくて真面目で…うーん、理想になってしまっていますw
    アンカは珍しいですよね♪
    結構いいですよね、モブアン♪(*´∀`)
    目覚めちゃって下さい♪
  62. 116 : : 2014/08/13(水) 10:35:52
    執筆お疲れ様でしたm(__)m

    公にはしていないのですが、実は私隠れアンカファンでロメ姉さんがモブアンを書くと知った時、とても嬉しかったです~♪
    二人の副官という立場の目線から見る世界の先は、執筆終了後の世界はどうなっていくのか楽しみです。でも、きっと同じ未来の形になっていることを願います。
    それにしてもアンカさん可愛いっ、そして安定のモブリット!!!!(笑)

    素敵な作品をありがとうございました(#´ω`#)ノ☆
  63. 117 : : 2014/08/13(水) 10:52:53
    >らむねさん☆
    読んで頂きありがとうございますm(。≧Д≦。)m
    わあわあ、らむねさんもアンカちゃん好きだったんですね♪
    モブアン喜んで頂けて嬉しいです(*´∀`)
    この後は試練に満ちた時代の幕開けですが…
    乗り越えた先に幸せが待っていると信じたいです!!
    アンカちゃん可愛いです…仕事も出来て可愛い女!!
    モブリットは、私が書けばもうねw
    コメントありがとうございましたm(。≧Д≦。)m
  64. 118 : : 2014/08/13(水) 12:49:21
    モブリット様とお呼びしたいくらい、素敵でした。
    いい男だあ(//∇//)

    アンカさんも素敵な大人の女性ですよね。原作ではあまり出番ないですが、私も彼女、結構好きです。

    素敵なお話ありがとうございました。
  65. 119 : : 2014/08/13(水) 13:03:28
    >ありゃりゃぎさん☆
    読んで頂きありがとうございます(*´∀`)
    モブリットは、私の一番オシメンwなのでどうしてもこうなってしまいます…(^w^)
    アンカさんはアニメでは結構みますよね…すっごく美人で…
    アンカさん好き仲間ですね♪
    コメントありがとうございましたm(。≧Д≦。)m
  66. 120 : : 2014/08/13(水) 20:10:17
    執筆お疲れ様でした!
    ハニーのモブリットは本当にイケメンだね!個人的にはピクシスの旦那が本当にツボで好きになりました(//∇//)
    アンカちゃんもモブリットも、年頃の男女のように恋して、いちゃいちゃして、心が満たされる思いでした♪
    モブリットの、高嶺の花論は確かに優しいからそう思っちゃうんだろうな、って切ない気持ちになりました!
    素晴らしい作品をありがとう!やっぱり、ハニー最高(^з^)/チュッ
  67. 121 : : 2014/08/13(水) 21:11:26
    アンカちゃん...アンカちゃん!!
    私、モブリットといい、ナナバさんといい名脇役(?)好きなので、アンカさん出てきて滾りまくりでした!
    そして姉さんの読み手を引き付ける文章力がさすがでした!

    執筆お疲れ様です☆
  68. 122 : : 2014/08/13(水) 23:15:14
    >だぁりん☆
    読んでくれてありがとう(*´∀`)
    ピクシスねw結構気が利くいいお祖父ちゃんて感じだよね♪
    アンカとモブリットは、互いに想いながらも、最初は一緒にはならなかった…その想いがまた一層、二人をラブラブにするのかも!!
    モブリットはやっぱりイケメンや!!
    でもだぁりんはもっとイケメン~(^w^)テヘペロ
  69. 123 : : 2014/08/13(水) 23:17:19
    >妹姫☆
    読んでくれてありがとうございます♪
    脇役こそ好きになるあたり、私と似た者同士だね♪あっ、逃げないで、ナニモシナイカラ
    文章誉めてくれてありがとう♪嬉しい♪
    わーい!!

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fransowa

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@fransowa

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