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本編壱の書 幽谷に光る碧眼

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  1. 1 : : 2020/05/07(木) 21:07:53
    ・・・・人は争う。

    領土を、食料を、名声をかけて争う。


    一度争いから離れると、そこには穏やかな人間の生活がある。

    これは、太古の昔から続いてきた"日常"である。

    これを、人々は"表の世"という。



    しかし、その裏にはもうひとつの世界があると言われている。

    "裏の世"とも言われるその世界では、"鬼"と呼ばれる生き物がその世界の人間の生活を脅かしている。

    そして、それも人の世と同じく昔から続いてきた日常である。


    世は明治


    欧化が進む表の世に伸びる"裏の闇達"。





    世界は、"闇"に包まれる。







    本編壱の書 幽谷に光る碧眼

    はじまり
  2. 2 : : 2020/05/07(木) 21:49:05
    ーオオマガトキの二年前

    裏の世、中つ国の東にある"アツモリの里"が崩壊した。

    生き残りの話では、突然大型の鬼が里を襲撃し、"神垣ノ巫女"が張る結界を破壊。

    それに続くように無数の鬼が里に侵入し、巫女を始めとしたほぼすべての里の住民が殺された。

    中つ国にて鬼と戦う戦士、"モノノフ"を統括する"霊山"本部は、霊山軍師・九葉、及び"百鬼隊"三番隊にその調査を依頼した。



    九葉「・・・・酷い有様だ・・・・」

    アツモリの里跡地に辿り着いた九葉は、その凄惨な光景に閉口する。


    正に"絶望"

    これは裏の世に生きる者達の"呪い"なのか・・・・


    アツモリの里を更に東に進むと、そこには巨大な山脈がある。

    里を護る御神体が祀られているのだが・・・・神などアテにならない。

    だが無数の鬼が襲撃した痕跡があるかもしれない。

    調べる事にした。



    御神体が祀られている小さな祠に到着した。


    祠は老朽化していて、屋根が半分ほど崩れ落ちていた。

    鬼の痕跡は期待できそうにない。


    しかし、そこには鬼ではない者がいた。


    祠の中に、青年に見える人間がいたのだ。
  3. 3 : : 2020/05/07(木) 22:00:17
    九葉は驚いた。

    知性のある人間ならば、神を祀る祠の中に入り込む事はしない。

    しかしこの人間はその祠の中に入っているではないか。


    そして九葉が更に驚いたのは、その人間の"目"だった。

    碧眼。

    それも薄く輝きを放っている。


    鬼か・・・それとも人間か。

    そんな疑問が頭を巡る。


    九葉が腰に刺した刀を抜こうとしたとき、その生き物は意識を失った。

    慎重にそれに近づき、様子を見る。


    暗くてよく見えないが、呼吸音はする。


    祠の外に運び出し、その姿を確認する。

    ・・・・どうやら人のようだ。

    それも齢二十くらいの青年だろうか・・・・

    体躯は引き締まっているが、痩せている。


    飢えに耐えかね気を失ったのか。

    九葉「・・・・馬の用意をしろ、この青年を霊山に連れて行く」


    これ以上調査しても、アツモリの里の真相は分からんだろう。

    この青年が何者なのかも聞かなくては・・・・

  4. 4 : : 2020/05/09(土) 11:14:35
    ・・・・長い夢を見ている気がする。

    まるで・・・時間を飛び越えた景色を見ているような・・・・


    青年「・・・・あれ?ここは・・・・?」

    目が覚めると、俺は病室みたいな所にいた。

    今まで何をしていたのか・・・・全くもって思い出せない。


    いや・・・・ん?



    俺は・・・・誰だ?



    九葉「目が覚めたか」

    青年「!!」

    ・・・・・知らない人間だ・・・・

    九葉「落ち着け、取って食いはしない」

    青年「・・・・あなたは何者だ・・・・それと俺は誰だ?」

    九葉「・・・・そうだな・・・私は、霊山軍師・九葉、お前は誰か・・・それは私が知りたい事だ」

    青年「・・・・軍師九葉、俺は・・・・何者なんだ」

  5. 5 : : 2020/05/09(土) 11:20:20
    この青年の言動、そして怯えと焦りの表情。

    まさか・・・・・

    九葉「お前は、アツモリの里の祠にいたのだ・・・・・覚えているか?」

    青年「覚えてる」

    九葉「ふむ・・・・」

    ここ最近の事は覚えている・・・・なるほど

    九葉「お前は、どこの里の生まれだ」


    青年「・・・・分からない」


    自分の出自の事、名前、交友関係・・・・

    自分に関する記憶の欠落・・・・


    年は20程度に見えるが・・・・まあいい


    九葉「お前は、モノノフか?」
  6. 6 : : 2020/05/09(土) 11:34:54
    ・・・・モノノフ?

    よくはわからないが・・・・俺は

    青年「・・・これだけは分かる・・・・俺は人ならざる者と戦う人間だった」

    九葉「そうか・・・・ついてくるがいい」


    俺が軍師九葉に連れられた先には、なんだか懐かしく感じる光景が広がっていた。

    武器を・・・・木刀を手に稽古をする兵士たち・・・・

    すると、軍師九葉が誰かを呼び寄せてきた。

    九葉「雪乃」

    雪乃「お呼びでないでしょうか、九葉殿」

    九葉「この者を稽古に参加させるのだ」

    雪乃「?それは良いのですが・・・この方は?」

    九葉「そうだな・・・・・こやつは、和平(かずひら)

    青年「和平?」

    九葉「名がなければいささか不便であろう、これがお前の新たな名だ・・・今度は忘れぬようにな」

    雪乃「?まあいいか・・・・よろしくね、和平!」




  7. 7 : : 2020/05/11(月) 14:29:54
    和平「・・・・はい、お願いします」

    雪乃「あら!礼儀正しい人ね〜」

    九葉「・・・・雪乃、今から和平と打ち合いをしてもらう」

    雪乃「へ?」

    九葉「和平には戦いの記憶がある・・・・それがどれ程のものなのか、見極める必要がある」

    雪乃「見極めるって言っても・・・・まだ目覚めて半日も経ってないんでしょ?いきなりそんなこと・・・・!!」


    雪乃が何かを言い終わる直前、鐘が鳴り響いた。

    すると、雪乃を始めとしたモノノフ達が一斉に険しい表情になった。


    敵を知らせる鐘と、即座に理解した。

    九葉「・・・・ちょうど良い、和平の腕試しと行こうではないか」

    雪乃「!!本気なの?」

    九葉「どうする?和平」

    和平「・・・・刀を」

    九葉「刀?」

    和平「刀をくれ」

    九葉「・・・・・いいだろう、それがお前の戦いならば」
  8. 8 : : 2020/05/11(月) 16:04:00
    和平

    そう名付けられた彼は、鬼を討つには心許ない風格だった。

    浮いていると言うか・・・・ふわふわ(・・・・)していると言うか・・・・


    でも、わたしと彼には同じ所がある。


    その薄く輝く碧眼・・・・それだけは、全く同じ。


    九葉が持ってきたのは、正に刀、というような物だった。

    太刀の様に長くなく、それでいて双刀の様に短く二つある訳ではない。

    歴史書や、展示物として今は滅多に使われない日本刀・・・・

    硬い鬼の肉を日本刀で断ち切るには技術がいる。

    それではモノノフが増えない、その為により大きくかつできるだけ軽量な武器が主流になった。

    中には双刀や鎖鎌使いの様に、速さを突き詰めるモノノフもいる。


    だけど、日本刀を扱うモノノフは滅多に見ない。


    だけど・・・・何故だろう。



    彼と日本刀という景色が、怖いほどしっくり来る。


    まるで、生まれた時から傍にいたかのように・・・・
  9. 9 : : 2020/05/11(月) 16:20:00
    九葉「念話官」

    念話官「はい、繋ぎます」

    九葉「戦域のモノノフに通達する、霊山本部を襲撃する鬼を、一匹残らず殲滅するのだ!!」


    九葉の号令のもと、霊山本部のモノノフ達が一斉に鬼に襲いかかる。

    雪乃「行くよ!!」


    最初に見つけた敵は、小さな餓鬼の様なモノだった。

    前方に飛び込み、距離を一気に縮めて薙ぎ払う。

    首をはねられたそれは、瘴気の様な物を撒きながら絶命した。

    瘴気祓いは後続の支援部隊がやってくれるらしい、敵を狩るのに専念できる。



    ひと目みて驚いた。

    浮ついた様な雰囲気の彼が、扱いの難しい日本刀を自在に操っている。

    それに、疾い。

    わたしの薙刀でも追いつかない速さ・・・・

    部隊でもトップで疾い自信があるけど、それを上回ってる。

    光明・・・・長きに渡る鬼との戦いに、光刺したような感覚だ。

    わたしも、限界まで鬼を・・・・世を脅かす敵を討つ。

    "鬼"討つ"鬼"として!!
  10. 10 : : 2020/05/14(木) 18:01:34
    ・・・・あれから十分ほど経っただろうか。

    眼前の敵が逃げていく。

    どうやらこの戦いに勝ったようだ、味方も次々に引き上げていく。

    雪乃「終わったみたいね〜」

    和平「・・・・奴らは、何者ですか?」

    雪乃「・・・・あいつらは、"鬼"と呼ばれる"人ならざる者達"のひとつ」

    和平「鬼・・・・」

    雪乃「わたし達のいる"裏の歴史"に巣食うケダモノ達よ・・・・あいつらのせいで、今まで幾百、いや幾千幾万の人たちが殺された・・・・」

    和平「・・・・俺の記憶にいるケダモノも、似たような奴らでした・・・・人を襲い、生命を奪っていく・・・・」

    雪乃「だからわたし達がいるの、鬼と戦い、人を護るモノノフが」

    和平「モノノフ・・・・」

    九葉「ここにいる者達は、そのモノノフの中でも特に秀でた能力を持った者達だ」

    雪乃「九葉!」

    九葉「鬼の群れはどうだ」

    雪乃「中型の鬼を中心にした群れだった、大型鬼は全く・・・・」

    九葉「そうか・・・・一旦本部に戻るがいい、ここも危なくなってきた」

    雪乃「了解、行くよ」

    九葉「いや、和平は私について来い」

    和平「・・・・わかった」

    雪乃「?まあいいけど・・・・気をつけて行ってね」

    和平「わかった」

    九葉「では行くぞ」
  11. 11 : : 2020/05/23(土) 12:19:18
    ・・・・九葉に着いていった先には、何やら石碑の様な物があった。

    その石碑は不思議な事に、俺の目と同じ輝きを放っていた。

    九葉「この石碑に見覚えはあるか?」

    和平「・・・いや、無い・・・・けど何か懐かしい感覚がする・・・・」

    九葉「そうか・・・・」

    石碑を見せれば、何か分かるかと思ったが・・・・今はどうにもならんらしいな。

    和平の記憶は、それ程まで固く閉ざされていると言う事か・・・・

    九葉「記憶が戻る事が無いかもしれない・・・そう思った時、お前はどうする」

    和平「・・・・それでも俺は、"鬼"という者達と戦う・・・それが、俺の使命だと思っている」

    九葉「そうか・・・・ならば、お前は私の部隊に入れ」

    和平「あんたの部隊?」

    九葉「全てのモノノフの中でも精鋭中の精鋭を集めた部隊・・・・影に身を潜めながら鬼を討つ暗黙の部隊・・・我ら"モノノフ特務隊"に来るのだ」

    和平「特務隊・・・・」

    九葉「普通のモノノフでは太刀打ちできない鬼、表の世に干渉する鬼を討つ部隊・・・・特に表の世では人目につかず鬼を討たねばならない・・・・これは並のモノノフでは出来ない事だ」

    和平「・・・・・・」

    九葉「だがお前は、ここが初の実戦だと言うにも関わらず、我ら特務隊の戦いにも匹敵する・・・・いや、それ以上とも言っていい動きで鬼を討った・・・・我らの部隊に来るか?」

    和平「・・・・・・」

    "鬼"と戦えば、俺も何かしら思い出すかもしれない。

    それに、俺は一瞬だけだが見た。

    アツモリの里と言っていた場所で、人が"鬼"に殺される所を・・・・

    武器も無く、空腹と疲労でそれどころでは無かった・・・・だが俺に力があれば・・・・そこにいたのが"モノノフ"だったら救えた。

    ならば・・・・

    和平「・・・・特務隊で、鬼を討つ」

    九葉「決まりだな、明日からは鍛錬と任務日々になる、覚悟を決めておけ」

    和平「了解、軍師九葉」
  12. 12 : : 2020/05/24(日) 15:35:40
    ・・・・霊山本部

    九葉「報告に上がりました、霊山君」


    霊山君とは、モノノフを統括する霊山組織を守護する"神垣ノ巫女"である。

    霊力を操る"神垣ノ巫女"は、中つ国にあるそれぞれの里に一人ずつ存在しており、その霊力が織りなす結界を張って里の住民を護っている。

    そんな神垣ノ巫女の中でも特に優れた霊力・力量を持った巫女は、霊山君として霊山本部の守護に就く。

    扱いは最高権力者と同等であり、里へのモノノフ派遣、各部隊の承認、神垣ノ巫女育成などの役割がある。


    霊山君「軍師九葉であるか、何かあったのか?」

    九葉「先日報告したモノノフ・和平の件でございますが、彼をわが特務隊に入隊させ、モノノフとしての役割を与える事に致します、承認願いますか」

    霊山君「彼の戦果は既にこちらにも届いておる、問題は無い、特務隊入隊を許可する」

    九葉「有難きお言葉・・・それともうとつ、報告する事がございます」

    霊山君「何だ?」









    九葉「近いうちに、鬼が"表の歴史"に干渉すると思われます」





    続く

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著者情報
Ryusei18Asuka

雷電(・-#)

@Ryusei18Asuka

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真・討鬼伝(没) シリーズ

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