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五月の雨に焦がれてる

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  1. 1 : : 2017/05/17(水) 14:36:06
    この作品はダンガンロンパの二次創作です。
    時系列としては77期生が2年生になった辺りになります。

    原作の設定と異なる点とネタバレ、キャラ崩壊がいくつかありますがご容赦ください。

    それではどうぞ当作品をよろしくお願い致します。
  2. 2 : : 2017/05/17(水) 14:42:10


    〈五月の雨に焦がれてる〉


    「恋をしてるってどんな感じ?」


    日本で一番過ごしやすい気候の季節だと言われる5月。しかし、今日は例外のようでコンクリートジャングルの熱気によるものか、肌に粘着性のある汗が蹂躙していた。空は薄い灰色の膜が張られている。


    「そういう季節と言えるのかな?」


    暑さへの嘆き、溜め息と共に吐いた言葉を彼女は聞き逃さなかったようで苛立ちを表に出す。


    「暑さにやられたって事じゃないの」


    俺の二の腕をつねり上げる彼女に悲痛な声で謝罪をすると指を離し、ゆっくりと語りだした。

  3. 3 : : 2017/05/17(水) 16:14:41


    「昨日、モデルの撮影があってね。そこでよく撮る娘だったから少しいつもと雰囲気が違うことをレンズ越しに見たの。気になって撮影の休憩時に何があったのか聞いたら『好きな人に告白された』って答えてくれてさ」


    「恋は人を変えるとも、どんな人でも揺るがされるとも言うしね」


    何処かで拾ってきた言葉で相槌を打つと、特別思いの籠ってないため息混じりに続きを話す。


    「それでさ、恋するってどういう感覚なのかな?って思ってさ」


    歩く速度は彼女の話が終えるに近づき次第にゆっくりとなっていき、涼しそうなベンチにどちらからともなく腰を下ろす。

  4. 4 : : 2017/05/17(水) 16:23:32


    「日向はさ、千秋ちゃんと付き合って暫く経つけど…どう?」


    いつかは来ると思っていたが、このタイミングで来るとは思わず用意していた言葉をうっかり忘れかけるも、間を空けて持ち直し応える。


    「仕種一つ一つに目が行っちゃうし、何をしたら喜んでくれるかな?とか考えちゃうな。あと、傷つけちゃったかな?って不安になる事もあって慌ただしいよ。けど、隣に居てくれるだけで穏やかな気持ちになる」


    「純情か」


    「悪かったな。初めての彼女だからな」


    「そう。千秋ちゃん、大切にされてるんだね」


    言われて純粋に嬉しく思うが、恐らくこれは恋心について回る不安へは応急措置に過ぎないのだろう。

  5. 5 : : 2017/05/17(水) 16:27:14


    「小泉にはそんな気持ちになるような奴いないのか?」


    喧騒から離れたひんやりと冷たいベンチは気付けば自分の体温で座っていた場所が温くなっていた。

    彼女はどうしたのだろうと目をやると、時間をかけて顔が硬直していき、ついには「ジュッ」と音を立てて汗を蒸発させてしまいかねないほどに赤くなっていた。


    「心当たりが?」


    「ない」


    「誰だよ」


    「いない!」


    目を三角にしながら否定する彼女に悪戯心が自身の中で垣間見る。俺はそいつを引きずり出し、最大級の脅し文句を言ってみる。


    「俺は超高校級の相談窓口だぜ?相手の表情の変化で気持ちを汲み取れないようじゃ編入だって許されなかった」


    「・・・そう、ね」
  6. 6 : : 2017/05/17(水) 16:30:22


    話が暗くなってしまったことに「しまった」と思う。

    超高校級の相談窓口としては彼女が自覚した瞬間にこの話を終えても良かったのだが、友人としてこの真面目で短髪の小泉真昼という女の子が恋する相手に興味を抑えきれなかった。


    「左右田」


    「ん?」


    「左右田和一よ!」


    沈黙は答えによって切られた。

    思いがけない人物の名前が上がり、驚き隠しきれなかった俺を尻目に彼女は俯き、黙り混む。


    「だけど、アイツは…」


    「どうしよう日向!左右田が好きになっちゃった!!ソニアちゃんのことを好きな左右田が好きになっちゃった!!」


    それまで、そこにあることが当然だった堤防が川の濁流によって氾濫を赦したかのように彼女は一度、二度、三度と回数を重ねて言葉を悲痛な叫びによって打ち付ける。


    「それは、お前がアイツとどんな関係でどんな想いを抱きたいと思うかによる」


    滅多に取り乱すことのない彼女の、ましてや焦燥による泣き顔に俺は不思議と落ち着いていた。自分でも酷く冷たく応えたものだと思うほどに。

  7. 7 : : 2017/05/17(水) 16:33:32

    「あ、アタシ…」


    「紫陽花は、『辛抱強い愛情』という花言葉を持っている。

    一説には降ったり止んだりを延々と繰り返す五月雨のせいで中々花が開かないのが由来とされているからなんだってさ」


    「なによ、急に」


    「だけど、他には『団結』や『結び付き』といった物もある。…そして何より、『元気な女性』という花言葉も持っている。小泉、お前に似ているよ」


    口説き文句として誰かに教わった花言葉は今、恋に四苦八苦する二人の友人の間を埋めようと思い放った。

  8. 8 : : 2017/05/17(水) 16:37:14

    1分にも満たない間呻き声を上げながら迷うも、今度は嗚咽混じりながらも明確に発音する。


    「アタシは、ッアタシは!左右田の側を譲りたくない!誰にも!誰よりも近いところで誰よりも好きなことを!ただ!ただ・・・!!でも、ソニアちゃんの方が好きだって明白だよ!」


    「それを望むなら、自分の気持ちに素直になって本人に直接言えばいい。

    左右田がソニアに抱く感情は憧れと慕いだ。

    お前に可能性はある」


    彼女の感情は急発進し、暴走することを恐れて目的地を前に急ブレーキをかけたのだろう。そんな悲痛な軋みは信号を目にして静かに動き出す。


    動き始めで揺れる電車のように彼女は嘔吐き、もう走り始めてるように見えた。


    「もう、アタシ決めた」


    息も絶え絶えに、けれど瞳には眩い程の光を宿らせて


    「日向!これから一杯愚痴に付き合って貰うからね!」


    ----
  9. 9 : : 2017/05/17(水) 16:51:07


    ----

    左右田和一。この男を表すなら「馬鹿」の一言ほど当てはまるものは無いだろう。


    無論、それは学力的な物でない。機械に対してだったり、ソニアという学友に対してだったりに向ける一途などとも言われたものだ。


    「どうしたものかな」


    元気になった小泉と別れ、自室に籠った俺は対人関係整理することに専念した。


    「左右田はソニアを慕う。ソニア、田中間は友人以上恋人未満。田中に対抗意識剥き出しの左右田。小泉は左右田に想いを寄せ、ソニアと仲が良いとなると…」


    ソニアが左右田をどう思っているか、そこがキーワードになってくる。彼女にそんな気が微塵も無いことが望む形だが、どうだろうか。

  10. 10 : : 2017/05/17(水) 16:55:18

    「日向くんはさっきから何をしてるの?」


    「んあ?相談窓口として何をすべきかをだな」


    本科の寮の一室は人一人が入ってきても申し分のない広さと帰ってからすぐに換気したからか居心地の良い空間となっていた。そんな中でだとつい集中力に勢いが付いてしまうのは仕方がないとしても、恋人が入ってきたのにも気付かなかったのは如何なものだろうか。


    「いつからいた?」


    「日向くんが入ってくる前に」


    失念していた。彼女には授業後鍵を預けていたことを。何故俺が外を歩いていたのかを忘れていたのだ。


    「日向くん、コーラは?」


    「す、すまん」


    「遅かった」


    「すまん」


    応急手当をしたはずの箇所がじんわりと染みが広がり、やがて補っていたものを剥がした。


    「日向くん、大丈夫だよ」


    「何がだ?」


    「私は何も聞いてないし、何も見てないから解らないけど。日向くんがこれ以上心労を重ねる必要はないよ」


    ふわりと柔らかな抱擁を正面から感じた。


    頭がショートしてしまいそうなほどパニックになるが、あくまでも当作品は下ネタを含まない純愛小説であるため、どうなっているかについて言えない。


    「ありがとう七海。もう大丈夫」


    急いで、けれど割れ物注意と言わんばかりに七海の身体を押し返す。


    「ここから先は後押しが限界だな」

    ----

  11. 11 : : 2017/05/17(水) 19:50:02


    ----

    「左右田!」


    ライトグレーだった空は曇天に侵入を許していた。日向に礼を告げ去った後、アタシは早速思い人の下に駆け出した。


    机の上で試行錯誤するなんてらしくない。アタシはいつだって現場に行って実績も、知識も、経験も手にして来た。


    「ん?ああ、小泉か。どうした」


    何でこいつを好きになったか。それは人の傷に対して誰よりも正確で早い反応だった。

    この能力には日寄子ちゃんに暴言を吐かれた蜜柑ちゃんに対しても、狛枝に辛辣にされた日向に対しても、菜摘ちゃんに蔑まれた私に対しても遺憾無く発揮されたものだった。


    「アンタに言いたいことがある!」


    詰め寄ろうにも足がすくんで動けない。そんなアタシを見て、歩み寄ってくる靴音は穏やかで、けど、不安気ないつもの左右田らしさがあった。


    「アンタのことが好きなの」


    だからこそ取り戻せた。自分らしさを。日向から教えてもらったアタシという人間を。
  12. 12 : : 2017/05/17(水) 19:53:50


    振り絞った勇気は目の前にまで来た左右田の足を止めた。靴音も止み、静かになった彼の研究所前をアタシ達は佇む。


    もう駄目かとやはり心が折れそうになる。が、気付けば力強く抱き止められていた。


    「ありがとう。ありがとう…ありがとう…ッありがとう!!」


    繰り返される言葉に、彼の香りによって彼の存在にピントが合わない。


    「小泉、俺はお前からその言葉を聞けて嬉しい。

    辛い気持ちが押し寄せてくる中でそれを言えたお前を好きになっちまった。けど、これじゃ不誠実だ。だから待っててくれ。」


    彼の胸の中で再び涙が私をまみれさせる。


    「俺がお前の事しか考えられなくなるまで。そんなに遠くないだろう未来を」
  13. 13 : : 2017/05/17(水) 20:10:00

    ----


    人に愛されたり、必要とされることが普通なのだろうか?


    何かで差別して生まれた団結というのは普通なのだろうか?


    俺は、左右田和一という生を受けてから今まで家族以外から涙を流してもらったことはなかった。


    ソニアさんという人と出逢い、慕ったのは「平等」や「信念」を持って接する姿に憧れがあったからだった。


    けど、今はどうだろうか。


    思わず腕の中に入れてしまったこの少女は、「俺にだけ向けた」愛情を訴えて、涙してくれた。


    この一瞬で傾いて良い。そう思えるのが今までだったが、今は違う。


    田中とソニアさんが仲良くする姿を見て、嫉妬した自分がいた。つまり、憧憬の眼差しには少なからず独占欲が紛れ込んでいたのだ。


    この独占欲が今の俺の愛情の在り方だとするなら、俺は同じように独占欲を募らせた愛情を持つ彼女に真摯に応えなければならない。

  14. 14 : : 2017/05/17(水) 20:37:16
    腕の中の震えは止まった。俺の現状精一杯の答えを受信してくれたようで、彼女は顔を緩ませていた。


    「らしくないよ」


    「これがらしさにならなきゃ、お前の事大切にできないじゃんか」

                ク サ
    「アタシの左右田がこんな格好良いこと言えるわけがない!」


    「うっせうっせ!」


    彼女が俺を酷評し、俺がそれに嘆きつつ突っ込む。 元に戻った事に安心してか腕からソッと細い肩が離れる。それが無性に名残惜しく感じた。


    「大丈夫か?」


    「うん」


    はにかみながら微笑む姿は少女のような可愛らしさを感じる。


    「じゃあ、言いたいことはもう終わったから」


    「ああ、いつでも来いよ」


    恥ずかしさに身を任せ立ち去った後ろ姿とは対照的に、俺の胸から爽やかさが全身を浸透させる。
  15. 15 : : 2017/05/17(水) 22:33:02



    お疲れ様でした。これにて「五月の雨に焦がれてる」にピリオドを置かせて頂きます。

    私個人としては二作品目となる女性目線の「恋」を書いてみましたが、如何でしたか?
    ご意見、ご感想ございましたら書いていただけましたら幸いです。

    他のキャラは兎も角、左右田和一はこんなんじゃない!というのはご勘弁願いたいです 笑
    しかし、「女心をわかってない!」という方は男女関係無くご教授ください。構想を練る段階でゲシュタルト崩壊するほど悩みに悩みましたので… 笑

    では、失礼致します。後愛読ありがとうございました。

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2T0NED

みんとなくぷー

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