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蛍③

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  1. 1 : : 2016/03/28(月) 19:27:41
    オリジナル設定多数。
    キャラ崩壊・・・在ります。



    下手くそですが・・上記をご理解の上、お付き合い頂きます様お願い申し上げます。


    過去スレ


    http://www.ssnote.net/archives/44134

    蛍②
    http://www.ssnote.net/archives/44186
  2. 2 : : 2016/03/28(月) 20:05:10



    煌々と照らす月明かりもいい具合に上っている。
    相変わらず防波堤の端に二人は座り、杯を酌み交わしていた。


    持ってきた一升瓶の酒も半分を過ぎ、酔いも良い感じに回っている筈だった。


    しかし、隼鷹も長門も何故かそれほど酔えなかった。
    口数も少なく、足元で繰り返す波の音が心地よい。


    月の明かりが眩しくて星の瞬きも息を潜めているようだった。


    「ねぇ・・・長門?」


    隼鷹がぐい飲みに酒を注ぎ足しながら長門に声を掛ける。
    片足を胡坐のように組み、もう片足を防波堤からぶらつかせている。


    「・・・なんだ?」


    長門は立膝に腕を持たれかけながら杯を空ける。


    「あんた・・あの時のこと覚えてる?」

    「・・・あの時?」

    「そう・・・提督がさ・・・作戦会議の時にさ・・・」

    「ああ・・・あの時か」


    隼鷹はぐい飲みの酒を一口飲んだ。
    長門は夜風に当たりながら波の音を聞いている。


    「あの後さ・・・提督と長門・・・いい雰囲気だったよね」

    「な!!き・・貴様!覗いてたのか!?」


    隼鷹がにやけ顔で長門を見やる
    長門は思わず酒を噴出した。


    「あたしだけじゃないよ・・・飛鷹だって陸奥だって・・・大和や武蔵、金剛4姉妹・・加賀や赤城も皆知ってるよ?」

    「貴様ら・・・言わなかっただけだったのか・・・」


    長門がわなわなと肩を震わせる。
    隼鷹はそんな長門の姿を見て酒が美味くなるのを感じた。


    怒りに肩を震わせるそぶりを見せた長門だったが、暫くすると酒の注がれているぐい飲みを見つめた。
    その目は寂しそうに伏せられる。


    「・・・思えば、あの時が一番幸せだったのかも知れんな・・皆も・・・私も・・・」

    「そうだね・・・あれから幾つもの大きな戦闘があってさ・・長門・・変わっちゃったもんね・・・」


    長門の言葉に隼鷹がしみじみと相槌を打つ。
    隼鷹の言葉に否定する事が根拠が見出せず、長門はそのままぐい飲みを見つめ続けていた。


    確かに・・・変わってしまったかもしれない。
    あの戦いは、失ったものが多すぎた。


    もう二度と・・・何も失いたくないと思ったから・・・


    長門は軽い溜め息を吐くと、ぐい飲みを呷った



    相変わらず江田島の島影は月に照らされ、山陰には明かりも見えた。
    遠くから行き交う船の汽笛が聞こえてくる。

    これから出航をするのだろうか?

    隼鷹が変な事を言うから、あのときの事を思い出してしまう。
    あの頃が懐かしい・・・

    長門は視線を落とすと、海面に映る月を見つめた。
  3. 3 : : 2016/04/02(土) 20:42:04




    長門が近代化改修を終えた翌週、海軍幕僚監部からミッドウェー島の敵本拠地攻撃作戦に関する詳細が送られてきた。

    もちろん今回これを見越して取り急ぎ武蔵と長門の改修を急いでいたのだが・・・・


    まぁギリギリとは言わなくともちょっとスケジュール的にはパツパツで、新しい装備の完熟訓練などに多くの時間を割けるかどうかだった。


    ただ実際の作戦開始は共同で行う米海軍との歩調の関係もあるので若干の猶予がある。

    あとは参加する部隊の編成などの問題か・・・・



    長門が持ってきてくれた資料を読みながら大川は軽い溜め息をついた。



    窓の外は綺麗な茜色に染まり始めた。
    遠征に出ていた艦娘達も戻り始め、埠頭は賑わっていた。


    大川が資料に集中していると、コトリと何かが置かれる音が聞こえた。
    長門がお茶を持ってきてくれた音だった。


    「大分集中されていますが・・・少しはお休みにならないと・・・」


    長門が心配そうに大川を覗き込んだ。


    「ん?ああ・・・ありがとうございます。じゃぁ・・少し休みますか」


    長門の心配している顔を見て、大川も読みかけのページを伏せて机に置く。
    目の前に出されている湯飲みを持つと一口啜った。



    相変わらず彼女の入れてくれるお茶は濃すぎず薄すぎず・・・
    それまで肩肘に入っていた無駄な力がすっと抜けてゆくような安堵感を与えてくれる。


    大川は全身の力を抜くような溜め息をついた。


    長門はそんな大川の様子を見て安心すると、提督の事務机に対し少し間をおいて直角に位置している自分の机に戻った。


    「ねぇ・・・長門さん?」

    「はい、何でしょうか?」


    大川の問いかけに資材管理の帳簿を確認しながら長門が答える。


    「長門さんは・・・その・・艦だった時の記憶をお持ちですか?」


    湯気の立つ湯飲みを片手に席を立つと、大川は窓越しの茜空を見た。
    海と空の境界線を茜に染め、今にも藍色の夜が水平線にかかろうとしている。

    上のほうでは宵の明星がグラデーションの中に輝いていた。


    長門は提督の質問の意味を図りかねていた。
    艦だったときの記憶・・・・


    無いわけではないのだろう。


    自分は気がついたときにはこの鎮守府の救護室にいて、そこからの記憶がすべてだと思っていた。

    でも時々脳裏に映し出される・・・あの巨大な光。


    様々な艦が一同に介し、皆その光と炎と巨大な突風に飲み込まれ・・・そんな記憶が蘇る。

    そういう時は決まって意識が一瞬遠のいたり・・・


    それはきっと艦だったときの記憶なのだろう。


    でもそれ以外にもなにか懐かしい光景が脳裏に浮かぶ時があった。
    それは・・・






  4. 4 : : 2016/04/02(土) 20:43:01


    「・・・きっと艦だったときの記憶は、断片的でしょうが持っていると思います。」



    長門は提督の背中を見やりながら答える。

    彼は相変わらず夕焼け空を眺め、お茶を啜っていた。
    時折視線を下げ、建物の傍を通り過ぎてゆく艦娘達を見ているのだろう。


    「思い出されるのは、様々な国の艦たちに囲まれて私も居て・・・そして・・巨大な光に飲み込まれてゆく場面・・・」


    長門の言葉を背中で受け止め、大川は外を眺めながら溜め息をつく。
    そうか・・きっとあの時の・・・




    大川は第二次大戦後、米国が太平洋のとある環礁で行った作戦の事を思い出していた。






    クロスロード作戦。
    日本に対し原子爆弾を使用したかつての米国が、更に強大な威力を誇る『水素爆弾』の実験のため、敗戦国から鹵獲した艦船や、自国の廃棄艦をビキニ環礁に集結させ、標的艦として新型爆弾の威力の実験を行った。



    長門と酒匂もこの作戦 ----と言うよりも実験と言った方が正しいのだが------ の為にビキニ環礁まで運ばれた。
    一回目の実験では投下地点を大分外れたところで爆発、長門は爆心地から遠く離れていたためにほぼ無傷だった。

    酒匂はこの一回目の実験で沈んでいる。


    二回目は水中での爆発だったため、長門は艦底に多大なる損傷を負い、数時間後、誰にも見取られる事無く沈没した。


    それでも爆心地からは900~1000mの位置におリ、開始前に艦首部に穴をあけられたり、機雷が幾つも艦体に設置されていたりと、不利な状況の中での実験であった。







    大川の背中を見つめ続けていた長門は、視線を机に落とすと、急に思い出したかのように顔を上げた。


    「あ・・でも・・・それ以外にも思い出すことがあります。」


    鉛筆を下唇に当て、ふっと微笑んだ長門は立ち上がると大川の横に並んだ。


    「何時の頃だったかはっきりとは覚えてないのですが・・・零式観測機の操縦士でとても優秀な者が居ました。名前は思い出せませんが・・・戦争中、零観は殆ど着弾観測に使われることは在りませんでしたが、偵察任務中に何機か敵の戦闘機や艦爆、艦攻なんかを撃墜していましたね・・・。」


    同じ風景を眺めながら長門は微笑んでいた。
    大川はその横顔を眺めながら、ほうと興味深げに相槌を打つと、残りのお茶を飲み干した。











  5. 5 : : 2016/04/03(日) 13:50:52








    大川と長門が艦だった頃の記憶の話をしてからもう2週間が過ぎた。


    ミッドウェー諸島の敵本拠地攻撃作戦の詳細なスケジュール、部隊編成などが決定し、会議室で各艦娘達に資料の配布と説明がされていた。



    しかし、この作戦前の報告会議の場が荒れた。



    今回、提督自らが空母に改装されたかつてのいずも型護衛艦、DDH-184『かが』に乗り込み、海軍戦闘機隊を指揮することが決まったからだ。

    しかも彼自身も飛ぶ。



    通常、提督が戦場に出ることはあっても、戦闘に参加することはありえない。
    ましてや航空機隊を率いて制空権の確保に参加するというのは・・・・


    元々大川はそれがあって戦時特進している位で、戦闘機操縦士としての腕は相当なものであった。


    実際、開戦初期は深海棲艦の艦載機との戦闘で米国より少数調達していたF35の垂直離着陸機を使い、何十機もの敵戦闘機、何十隻もの敵艦艇を撃破している。

    的が小さいので相当の苦労もあったそうだが・・・・



    F3国産戦闘機『心神』の開発、その派生型である艦上機型のテストも彼が行った。



    今回、この作戦と彼自身の参加を海軍幕僚監部に上申したところ、なんら反対意見も出なかったと言う。

    ----おそらく彼の特進を快く思っていない官僚達が監部の中には多数居るらしく、その勢力が彼の出撃に対する反対意見を抑えたらしい-----




    元々彼自身も上司受けするタイプの人間ではなかった。
    まぁそれ以上の事情は察していただけると助かるのだが・・・



    どちらにしてもすでに決定されている事を、秘書艦である長門自体も知らなかったこの事実を会議の最後に報告した事で、終わろうとしていた空気が再び荒れ始めたのだ。




    「静かに!!」



    大川が壇上から大声で叫ぶ。


    目の前のマイクはあまりの大声にその全ての音を拾うことが出来ず、一部の音域はハウリングとなって場内に響いた。


    場内はそれまで各々勝手に抗議の声を上げていたが、スピーカーから響き渡る大川の普段聴くことの無い声と言葉に静まり返った。


    雛壇状になっている各席の一番下段、対面する壇上で彼は艦娘達を見回していた。

    硬く、険しい表情のまま全員と目を合わすと、ニッコリと柔和な表情となり、目の前のマイクに向かって語り始めた。



    「皆さんのお気持ちは非情にありがたく思います。しかしこれは決定事項です。明日からはこのタイムスケジュールで行動していただきます。以上解散」



    大川はそう言い切るとファイルを閉じ、ツカツカと早足でその場を離れた。
    呆気に取られ、大川の後ろに控えていた長門も、慌てて立ち上がり後に続こうとする。



    しかし、会議終了後、一斉に立ち上がった艦娘達に囲まれ、動けなくなってしまった。



  6. 6 : : 2016/04/03(日) 14:22:24

    提督の飛行機の操縦技術は皆知っていた。

    過去の戦闘の際に、空母ヲ級、軽空母ヌ級多数の艦隊に制空権を奪取され、窮境に立たされた時があった。

    当時米国より少数調達していたVTOL型のF35を用い、当時尉官だった大川が小隊長を務め、敵艦載機を制圧、制空権の奪還をした事があった。


    もちろん多大なる命令違反をし、そしてその殆どの敵艦載機を大川が仕留めた事はいうまでも無いが・・・


    その一件以来、艦娘達から厚い信頼を寄せられ、戦時での人員不足なども在り特進、艦娘を統括する鎮守府付提督となったのであった。


    もちろんそれほどの活躍であれば、そこには嫉妬や保身から来る誤認も起こる。


    結果今回のような『直接手を下さずとも、あわよくば戦闘で華と散ってくれるとありがたい』という画策が発生する結果となる。




    皆一様に長門に詰め寄った。


    何故止めなかったのか?

    これだけの大きな戦闘ともなれば、幾ら腕に覚えの在る提督でも只では済まない可能性が高い。

    現場指揮官が艦隊と行動を共にすることは士気を鼓舞するうえではいいが、戦闘に参加ともなるとそれどころではなくなるぞ・・・


    それぞれがそれぞれの立場で大川の身を案じ、長門にその思いをぶつけた。


    長門自身、皆と全く同じ意見だった。
    彼女も事前にその話を聞いていたら、きっと同じ事を言うだろう。


    しかし彼女は秘書艦でありながら、そのことについて一切相談を受けていない。


    長門を囲み、意見をぶつけてくる艦娘達に落ち着くよう諭し、何か事情があっての事だろうと皆に伝えるだけが精一杯。

    それでもまだ彼女達の中に燻る不安や不満は、長門が大川に事情を聞き、皆の思いを伝えてくると言ってその場を収め解散させた。
  7. 7 : : 2016/04/04(月) 20:25:54
    長門は大川が気になった。

    あれだけ艦娘達からの反対が起きている状況・・・彼も判っている筈だ。

    今の鎮守府は彼への信頼で成り立っている部分が多い。
    そんな彼にもしもの事があれば・・・


    長門は急ぎ足で執務室に戻った。



    執務室のドアをノックし、申告する。
    大川の返事は無い。


    ドアをそっと開けると、窓は開け放たれ、カーテンが風にはためいていた。


    長門は慌てて窓に駆け寄ると、下を見る。
    まぁ・・流石にそれは無いとは思っていたが、窓の下を大井と北上が仲良く話をしながら通り行く姿があるだけだった。


    長門はスカートのポケットに入れていたスマホを取り出すと、大川のスマホへと電話を掛けて見る。

    暫くしてコール音が聞こえたが、同時に執務室内に聞きなれた着メロが流れていた。


    自身の机の上に置きっぱなしにされている彼のスマホ・・・


    長門は電話を切ると、暫し考え込んだ。
    ふっと窓の外に目をやる。


    窓から見える突堤・・・

    良く遠征隊の帰りが遅いと、大川自らがその突堤に赴き、彼女達の帰りを待っていたものだ。
    長門も付き合い、二人でよく江田島の島影を眺めていたっけ・・・


    そう思い立つと、長門は執務室のドアノブに手をかけた。
  8. 8 : : 2016/04/10(日) 14:46:51


    夕焼けを背景に漁船が軽やかな音を立てて目の前を通り過ぎる。
    この辺の近海であれば安心して漁船も通れるのだろう。

    呉は島が入り組んでおり、西には山口県の関門海峡、南には佐多岬、豊後水道と入り口は狭くなっている。
    この近海で深海棲艦が現れれば袋のネズミ状態でそう簡単には入っては来れない。


    また干満差が激しく、温暖で植物プランクトンも豊富で昔から豊かな漁場としても有名だった。


    漁を終え、港に帰ってゆくのだろう。
    大川は、突堤に腰掛けながら漁船のシルエットを見送っていた。


    背中からコツコツと足音が聞こえる。
    なんとなく誰が来たのかはわからないでもなかったが、敢えて振り向かずに居た。

    大川はそのまま視線を落とし、足元の海を見つめていた。



    五月の温暖な瀬戸内海とは言え、流石にこの時間になれば風も冷たく感じる。
    少し強く吹きぬけた風に長い髪を靡かせる様に長門は大川に近づいた。



    「提督・・・そのままでは風邪を引いてしまいます。作戦前の大事な時期に・・・」

    「長門さんも・・僕に説教でもしに来たんですか?」


    長門が掛ける声を遮るように大川がまるで不貞腐れた子供のような口調で答える。


    「そんなつもりは・・・」


    困惑の表情で長門は呟いた。
    今までそんな事を言われた事も無かったし、こんな大川の姿を見るのは初めてだったからだ。

  9. 9 : : 2016/04/10(日) 14:47:30

    得体の知れない『艦娘』と言う存在に対し、有用性は理解していても出来れば関わりを持ちたくないと考え、疎ましく対応したり、高圧的、傲慢に対応する軍上層部の人間や官僚が居る中、彼は艦娘に対し丁寧すぎるほどの接し方をしてきた。


    重巡組や空母組、戦艦組等からは『丁寧に接してくれるのは嬉しいが、もっと威厳を持って対応してもいいのではないか?』とか軽巡組、駆逐艦組等からは『優しくて丁寧。以前の提督は怖くて近づけなかった』など、感想は様々だが概ね好意的に受け止められてきた。


    またそうした事の一つ一つが彼への信頼に繋がっていた。


    だからこそ先ほどの会議で大川の出撃に対しては反対意見以外は出てこなかったのだ。

    それだけ皆は大川の事を心配しているのに・・・


    長門はつい今しがたの大川の言葉に少し悲しくなってしまった。
    心の内を言葉に出す事が出来ず、大川の見ている江田島の島影を共に見つめ続ける事しか出来なかった。



    赤く染まる夕焼け空にカモメが数羽舞っている。
    そろそろ寝床にでも帰るのだろう。


    対岸の家々に明かりが灯り始め、人々の生活の匂いが感じられた。
    大川はそんな景色を郷愁の表情で眺めていた。



  10. 10 : : 2016/04/10(日) 14:48:32






    「少し外洋に出れば、それこそ命がけの世界なのに・・・此処は変わらず静かですね」


    どれだけの時間、そこに居続けたのだろう。

    お互いに言葉を発する事も無く、ただ暮れて行く海を、島影を見つめ続けた後大川が口を開いた。


    長門は目線を彼の背中に注ぐ。


    大川はすっくと立ち上がると、背中を大きくそらし伸びをする。
    帽子を取ると、指でくるくると回し始めた。


    「皆さんが命を掛けて守っているこの景色を・・・一体どれだけの人がその事を理解しているんでしょうね?」

    「・・・決して理解されなくても、私達は戦います。それが艦娘としての・・・」

    「矜持ですか?」


    長門の言葉に、大川は振り向きながら続けた。
    長門はびっくりしながら大川を見つめる。


    「その通りです」

    「では私も同じです。その思いに階級は関係ない。ちがいますか?」

    「確かにそうですが・・・しかし・・・我々にとって、提督は無くてはならない人だという事も理解して欲しい・・・」


    長門は真直ぐに大川を見つめる。

    それまで真剣な眼差しで長門を見つめていた大川だったが、軽い溜め息を吐くと口元を緩めた。


    「確かに皆さんに相談無しに決めたことは反省しています。でも相談したらさっきみたいに止めたでしょ?」

    「当たり前です」

    「それにね・・・つい先日の南シナ海での作戦行動で、一体どれだけの犠牲がでたのでしょう・・・軍人や艦娘の幾多の命が失われたのでしょう・・・・」


    大川は瞳を伏せ、眉間に皺を寄せる。
    長門にも判っていた。


    先日の作戦行動でも、決して少なくは無い犠牲が出ていた。
    佐世保や呉の艦娘も何隻か轟沈している。


    大川を慕っていたそれらの艦娘の最後に、大川はなんら手を打つことすら出来なかった。
    彼はそのことに人一倍の責任を感じていたのだ。
  11. 11 : : 2016/04/10(日) 14:49:08

    「皆さんは命令一つで激戦の最中に身を置きます。でもね・・・その命令を出すのは僕・・・」

    「我々は提督を信頼しています。たとえどのような作戦でも、その達成を誉れとし、喜んでこの身を捧げるでしょう」

    「僕はね、そんな皆さんの信頼を痛いほど判っています。だから僕もその信頼に答えたい。もうこれ以上・・誰も失いたくないですからね」



    大川は長門に歩み寄ると、長門の目を見つめる。
    大川より少し低い目線に在る長門の赤く美しい瞳は、真直ぐに彼を見つめていた。


    「もう・・失いたくないんです。貴女が今、僕に言ってくれたように、皆も僕にとっては無くてはならない存在です」


    大川はそこで一旦言葉を切り、少し瞳を伏せる。
    そして意を決する様に改めて長門を見つめた。

    その瞳には強い決意を感じる。

    長門は瞳を逸らすことも許されないほどの空気に身動きが出来ずに居た。
  12. 12 : : 2016/04/10(日) 14:50:00

    「その中でも・・僕は貴女を失う事が一番怖い・・・・」


    長門はその一言を聞くと、心臓が跳ね上がるように高鳴った。
    顔は一気に熱を帯び、自分でも赤くなっているだろう事は想像できた。

    長門はそんな姿を彼に見られたくないと顔を俯ける。
    大川は長門の両の肩に手を置くと、真剣な表情でなおも長門を見つめる。



    きっと提督に他意は無い。
    この前の作戦の時に多くの戦力を失ったから・・・
    これ以上はと・・・そう思っているだけだ。


    長門は必死に自分に言い聞かせた。
    少しでも落ち着いていつもの平静な自分を取り戻さなければ・・・
    こんなところを誰かに見られてはビック7としての誇りが・・・


    そんな混乱状態の中、気が付けば大川が自分に近づいてきている。


    天頂からは藍色の空が舞い降りようとしている黄昏の時、海から吹く風は少し冷たく感じられた。

    でも今は優しく包まれるような温もりを体全体で感じている。

    大川に抱きしめられた長門は、彼の胸に包まれた時に、その鼓動の高鳴りを聞いた。
    自分と同じくらいに早鐘を打つその音は長門を包み込み、そして鼓動が落ち着くに従い、彼女に安らぎを与えた。



    長門は瞳を閉じた。


    このまま時が止まって欲しいと願った。
    宵の明星が瞬きだし、島影ギリギリに残った茜色はもう消え行こうとしている。


    大川は長門の優しい香りを感じながら、ずっと渡せずに居た大事なものを渡そうと決意を固めていた。
  13. 13 : : 2016/04/10(日) 16:44:47



















    一升瓶の中の酒も残りわずかとなってきた。


    隼鷹は一升瓶の軽さに思わず振ってみるが、自分が酔ったせいで軽く感じているのではない事を確認しただけだった。

    長門は相変わらず水面に浮かぶ月を肴に、思い出に浸っているのだろう。


    時折ぐい飲みの酒を飲んでは溜め息を吐いていた。


    「・・・酒も尽きてきたね・・・新しいのもってくるよ」

    「明日も在るのだろう?もう寝ろ。隼鷹」


    長門は少し赤ら顔になっている隼鷹に寝るように促す。
    隼鷹はその言葉を聴いて、泣きそうな表情を長門に向けた。


    「・・・明日目が覚めたら、長門は居てくれるの?」


    隼鷹の問いに長門は無言のまま杯を空ける。


    「ねぇ・・・居てくれるの?」

    「私は・・・」


    隼鷹の執拗な問いに長門は言葉を詰まらせた。
    彼女は明日、解体される。


    明日になれば、世の中から『戦艦長門』と言う存在は消えるのだ。
    子供騙しの嘘をつく気も無い。
    長門はもうこれ以上、その話に触れることをやめた。


    「隼鷹・・・もう寝ろ」

    「嫌だよ・・長門・・・」

    「寝るんだ・・貴様には明日が在る」

    「長門・・・・」


    長門は立ち上がると手に持っているぐい飲みを海に向かって放り投げた。
    隼鷹はその姿が永遠の別れに感じられた。


    「私は・・・十分に生きた。全てを焦がすかの如く・・・もうこれ以上何もいらぬ」


    長門は胸元からいつも下げているネックレスを摘み上げると、その先に通してあるプラチナの指輪を掌に載せる。

    月明かりに輝いたその指輪は、ところどころに傷がついていたが、輝きはあの頃のままだった。


    「それ・・・提督が長門に・・・」

    「ああ・・・彼の形見みたいな物だ。いつでも肌身離さず持っている」


    その指輪を見た途端、隼鷹は堰を切ったように涙を流した。
    心にずっと溜め込んでいた思いを、抑えることが出来なくなっていた。


    「長門ぉ・・・お願いだよ・・・提督の分まで・・・」


    隼鷹は皆を代表するように膝を抱えて子供のように泣きじゃくる
    長門はそんな隼鷹の姿を見て微笑むと、掌に載せていた指輪を握り締め、額にあてた。


    「私は・・あれからいつも死に場所を求めていた・・・ついぞ戦の中ではそれも叶わなかったが・・・」


    遠くで砕ける波の音が響く。
    突堤にぶつかり、軽い水しぶきが上がる。

    隼鷹は膝を抱えて肩を震わせている。
    長門は指輪を胸元に戻すと、隼鷹に向き直る。


    「もう寝ろ・・・隼鷹」

    「長門ぉ~・・」

    「隼鷹・・・今までありがとう」

    「ながとぉ~!!!」



    隼鷹は長門に抱きつくと、大声を上げて泣いた。
    誰に見られようともかまわないと言わんばかりに、涙を流し、大声を上げた。


    長門はそんな隼鷹を優しく抱きとめると、子供を落ち着かせるように隼鷹の背中を撫でた。
  14. 14 : : 2016/04/10(日) 16:47:48
    新しいスレです。
    興味のある方はどうぞ

    http://www.ssnote.net/archives/45058

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