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仮面ライダーぼっち4

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  1. 1 : : 2013/12/08(日) 11:44:23
    雪ノ下と戦いを終えた俺達は、昨日と同様チャイムと同時に解散した。
    そしてその翌日である。
    俺はしぶしぶ部室へと向かった。しかし、昨日ほど足取りは重くない。何故だろうな。俺にはさっぱり分からない。そういうことにして置いてくれ。
    「よう。」
    「こんにちは。」
    にこりともせずに雪ノ下は挨拶をする。
    「今日は戦おう、なんて言わないのか?」
    「戦いたいの?私は別にいいけど?」
    「勘弁してくれ。まだ体が痛むんだよ。」
    「ま、今日は勘弁してあげるわ。」
    「そりゃどうも。」
    コンコン、と、ドアをノックする音が響く。平塚先生ではないだろう。あの人はノックなんかしないし。
    「どうぞ。」
    「失礼しまーす。」
    緊張しているのか、少し上ずった声だった。
    戸が開かれ、ちょっとだけ隙間が開いた。身を滑り込ませるように彼女は入ってきた。誰かに見られるのを嫌うようなそぶりだ。
    肩までの茶髪に緩くウェーブを当てて、歩くたびにそれが揺れる。ちなみに胸も大きい。雪ノ下とは比べ物にならない。俺と目が合うと、驚いたような声を上げる。
    「なんでヒッキーがここにいるのよ!」
    「いや、俺ここの部員だし。」
    ていうかヒッキーって俺のこと?
    つーかこいつ誰だよ?正直言って全く覚えがない。
    チャラそうな見た目。俺なんかとは全く接点がなさそうな奴だ。まぁほとんどの奴とは接点がないんだけどね!
    「2年F組、由比ケ浜結衣さんね。」
    「あ、私のこと知ってるんだ。」
    由比ケ浜の顔がぱっと明るく輝く。
    雪ノ下に名前を知られているというのは一種のステータスのようだ。
    「お前良く知ってるな。何でも知ってるんじゃねえの?」
    「なんでもは知らないわ。知ってることだけ。」
    お前はどこの委員長だよ?何?猫になっちゃうの?
    「それに、あなたのことなんて知らなかったし。」
    「そうかよ……。」
    「別に落ち込まなくていいのよ。あなたの矮小さに目をそむけた私の心の弱さがいけないの。」
    「なぁ、それって慰めてるつもり?」
    「ただの皮肉よ。」
    「なんか……楽しそうな部活だね!」






  2. 2 : : 2013/12/08(日) 12:21:35
    由比ヶ浜がキラキラした目でこちらを見つめている。
    「全く愉快ではないのだけれど。そう思われたことがむしろ不愉快だわ。」
    雪ノ下は冷たい目をしていた。
    「あ、いや、なんかさ。すごく自然な感じでいいなっておもって。」
    「そういえば、比企谷君もF組だったね。同じクラスなのね。」
    「え、そうなん?」
    「まさか、知らなかったの?」
    雪ノ下の言葉に由比ヶ浜がピクリと反応する。
    「し、知ってますよ?」
    「なんで目そらしたし。」
    由比ヶ浜はジト目で俺を見る。
    「そんなんたまから、ヒッキー、友達いないんじゃないの?」
    腹が立つ馬鹿にしくさった目。リア充グループの一員だろう。つまり、俺の敵だ。
    「……このビッチめ。」
    「はあ?ビッチって何よ!私はまだ処……って、なに言わせるのよっ!」
    由比ヶ浜は顔を真っ赤にして言う。
    「別に恥ずかしいことではないでしょう?この年でヴァージ……」
    「わー!なにいってるの、雪ノ下さん!女子力足りないんじゃない!?」
    「下らない価値観だわ。」
    「つーか、女子力って言葉がもうビッチ臭いな。」
    「またビッチ呼ばわりした!ヒッキーマジキモい!」
    「俺のキモさとお前がビッチであることは関係ないだろ。あと、ヒッキーって言うな。」
    まるで俺が引きこもりみたいじゃねーか。あ、なんだ。これ悪口だったのね。なにそれひどい。陰口は良くない。だから俺は。正直に言ってやるんだ。
    「このビッチめ。犯すぞ。」
    「こんのぉっ!またいったな!ていうか犯すってなによ!最低!死ね!」
    「……簡単に死ねとか言うな。殺すぞ?」
    「あ、ごめん。そういうつもりじゃ……。えっ!?今言ったよ?殺すって言ったよ!?」











  3. 3 : : 2013/12/08(日) 12:30:11
    「それで、あなたは何をしにきたの?」
    「あ、うん。実はね、助けて欲しいんだ。私の占いで、ここに来たらいいって出たから。」
    「占い?」
    「私の占いは当たるんだー。」
    「まあ、いいけど。で、何をすればいいの?」
  4. 4 : : 2013/12/10(火) 09:08:53
    「うん、あのね、クッキーを……。」
    言いかけて、ちらりと俺の方を見る。
    ああ、俺がいたらまずいのか。
    「比企谷君。」
    雪ノ下が顎で廊下の方を示す。
    失せろという合図だ。
    ま、女子同士で話した方がいいこともあるのだろう。
    「ちょっとマックスコーヒー買ってくるわ。」
    さりげなく行動するとか俺優しすぎる。
    俺が女子なら絶対惚れてるね。すると、雪ノ下も思うところがあったらしく、俺に声をかける。
    「私はいちごミルクでいいわ。」
    「……黙れよ。」
    ナチュラルに人をパシるとか雪ノ下さん半端ねぇ。
  5. 5 : : 2013/12/10(火) 09:35:18
    特別棟の四階から一階までは、だらだら歩けば十分ほどはかかる。その間には彼女たちの話も終わるだろう。
    どんな人間だろうが、これが初の依頼人だ。つまり、俺と雪ノ下の初の勝負だ。ま、あいつに死んでもらうとかは冗談だが、やるからには勝たせてもらおう。
    購買の前にある怪しげな自販機には、そこいらのコンビニでは見かけられない怪しげなジュースがある。限りなく何かに似たそれらは、これでなかなかうまいから侮れない。
    不気味な音を立てる自販機に俺は百円玉を入れる。マックスコーヒー、……あいつの分も買ってやるか。
    三人中二人だけってのもあれだな。ボッチは俺のポジションだ。簡単に譲る気はない。
    さらに百円入れて、スポーツドリンクを購入する。
    しめて三百円。俺の所持金の半分が失われた。
    俺金持ってなさすぎだろ。


  6. 6 : : 2013/12/10(火) 10:30:17
    「遅い。」
    開口一番、雪ノ下が放った言葉がそれだった。
    俺の手からいちごミルクをひったくる。この野郎……。
    「おい、二百円。」
    「は?」
    「おい、お前自然に踏み倒す気かよ。」
    「これは百円だったと思うけれど。」
    「やられたらやり返す!倍返し!だろ?」
    「はぁ……。みみっちい男ね。」
    そう言って雪ノ下は俺に百円玉を渡す。どうやらパシった分の料金はくれないらしい。まぁ冗談だったからいいんだけど。
    俺の手に残ったのはマックスコーヒーとカフェオレ。
    それが誰の為のものなのか由比ケ浜も気づいたらしい。
    俺は黙ってカフェオレを由比ケ浜に渡す。
    「はい。」
    由比ケ浜は俺に百円を差し出す。
    「ああ、別にいいよ。」
    「そ、そういうわけにはっ!」
    雪ノ下はともかく、由比ケ浜の文は俺が勝手に買ってきたものだ。その分の金をもらうわけにはいかない。
    かたくなに金を渡そうとする由比ケ浜だったが、俺が雪ノ下の方に歩いて行くのを見てあきらめたらしい。
    「……ありがとう。」
    小さな声で笑うと、由比ケ浜は微笑んだ。俺史最高の感謝の言葉だった。
    満足して、俺は雪ノ下に話しかける。
    「話は終わったのか?」
    「ええ、あなたがいないおかげでスムーズに話が進んだわ。ありがとう。」
    俺史最低の感謝の言葉だった。
    「……そいつはよかった。」
    「家庭科室に行くわ。比企谷君も一緒にね。」
    「家庭科室?」
    「なにすんの?」
    「クッキー……。クッキーを焼くの。」
    「はぁ、クッキーを。」
    さっぱり話が読めん。
    「由比ケ浜さんは手作りクッキーを食べてほしい人がいるそうよ。でも、自信がないから手伝ってほしい、と。」
    「そんなこと友達に頼めよ。」
    「う……、そんなこと、あんまり知られたくないし、占いでもやめた方がいいって出たし……。」
    また占いかよ。最近の女子高生ってのはそんなもんなんかね。
    由比ケ浜は視線を泳がせながら言う。正直言って他人の恋路なんてどうでもいい。
    「はっ!」
    「うう……。」
    「へ、変だよね。私みたいなのがクッキーなんて……。」
    「いや、変っていうか純粋に興味がないんだよ。」
    「ひどい!ヒッキーまじきもい!あー、腹立ってきた。私だってやればできる子なんだからね!」
    由比ケ浜が言ったその時だ。キーン、と、つんざくような高音が俺の頭に響く。
    「由比ケ浜さん、では、先に家庭科室に行っててくれるかしら。私達は用意があるから。」
    「うん、わかった。」
    そう言って由比ケ浜は、教室を去った。
    「雪ノ下?」
    「モンスターが、来たわ。」
    なるほど、あの音はモンスター襲来の合図ってわけか。
    「「変身!」」
  7. 7 : : 2013/12/10(火) 10:50:45
    俺達が鏡の世界に着くと、すでに戦闘は始まっていた。
    「……ライダー?」
    モンスターと、別のライダーが戦っている。
    赤とピンクの中間色のライダー。どこかエイを思わせる。
    「Advent」
    そのライダーが契約モンスターを呼び出すアドベントカードを使うと、予想通り赤いエイのモンスターが出現した。
    エイはそのままモンスターに突進していく。
    「グギャァァァッッ!」
    断末魔を上げて、モンスターは消滅した。
    「Sword Vent」
    「はああああぁぁっっ!」
    「ゆ、雪ノ下?」
    槍を持った雪ノ下が、件のライダーに襲いかかる。
    「え!?」
    意表を突かれたライダーは、驚きの声を挙げる。
    「ま、待って!私は戦う気はっ!」
    その言葉を聞かず、雪ノ下は思い切り斬りつける。
    「も、もう!待ってってば!」
    しかし雪ノ下の攻撃の手が休まることはない。
    「うう……もうっ!」
    「Coppy Vent」
    そのカードをライダーがスキャンすると、そいつの手に、雪ノ下が持つ槍と全く同じものが現れる。
    「もうっ!人の話は聞いてよねっ!」
    そう言い、ライダーが雪ノ下に斬りかかる。
    「くっっ!」
    「えいっっ!」
    ライダーが突き出した槍に、雪ノ下の体が吹き飛ばされる。
    「Final Vent」
    え?これってまずいんじゃ……。
    契約モンスターのエイに乗ったライダーが、すごい勢いで突進をかます。
    「ああああああっっ!」
    再び吹き飛ばされる雪ノ下。
    しかし、根性でかすぐに立ち上がる。
    「……あなた、わざと急所を外したわね。」
    「だから、戦うつもりはないって言ってるでしょ!」
    「こっちにはあるのよ!」
    「Final Vent」
    「む、無茶だよ!そんな状態じゃ……。」
    そのライダーの言う通り、雪ノ下の走るフォームはめちゃくちゃだ。
    「はぁぁっ!飛翔斬っ!」
    放ったその一撃も、軽々とよけられてしまう。
    「もう、やめてよねっ!」
    そう言ってそのライダーは後ろを向いて走りだす。元の世界に戻るのだろう。
    「おい、雪ノ下、大丈夫か?」
    この状態で大丈夫もくそもあったもんじゃないだろうが。
    「ほら、戻らねぇと。」
    肩を貸そうとするが、彼女の意地なのか、よろめきながらも自分の足で歩いた。
  8. 8 : : 2013/12/10(火) 11:10:02
    俺達が家庭科室に着くと、当然だが由比ケ浜はすでにいた。
    「ごめんなさいね、遅くなって。」
    「ううん、私も今来たところ。」
    そんなはずはないのだが。俺達は鏡の世界にきてからここに来たんだから。まぁ由比ケ浜はそういう奴なんだろう。
    「そう、では、始めましょうか。」
    「で、俺は何すればいいの?」
    「あなたは味見をしてくれればいいわ。」
    ……それ絶対俺必要なかっただろ。
    まぁいいか。働かなくていいんなら働かない。働いたら負けだ!
    手早く準備を終えると、雪ノ下はエプロンをつける。
    「曲がっているわ。あなた、エプロンもまともに着れないの?」
    どうでもいいけど、エプロンってなんか響きがエロいよね。エロロン、みたいな。
    「え、エプロンくらいきれるもんっ!」
    しかし、由比ケ浜はなかなかに苦戦しているようだった。
    「ほら、やってあげるからこっちに来なさい。」
    「いいの、かな。」
    「早く。」
    逡巡した由比ケ浜の態度を雪ノ下がぶち壊す。想像はしてたけど、こいつ誰にでもこんななんだな。
    「ごごごごめんなさい!」
    ごごごってお前語ゴゴゴゴーレムかよ。なかなか堅いよね。
    「なんか、雪ノ下さんってお姉ちゃんみたいだね。」
    「私の妹がこんなできの悪いわけないけどね。」
    ため息をつく雪ノ下。
    「ムーーー、失礼なっ!見返してやるんだからぁっ!」
    いよいよ調理が始まった。由比ケ浜の作業ペースは意外に早い。
    「さて、と……」
    ある程度作業が進んだところで、由比ケ浜がインスタントコーヒーを取り出す。
    「コーヒーか。確かに飲み物はあったほうがいいよな。気が利いてんじゃん。」
    「はあ?違うよ。これは隠し味。男子って甘いもの苦手でしょ?」
    そうでもないと思うが。それに仮にそうだとしても、クッキーにコーヒーを入れるのは違うだろ。
    そんなこんなで、由比ケ浜の調理方法はめちゃくちゃだった。
    結論というか、今回のオチ。由比ケ浜には圧倒的に料理のスキルが欠如していた。できるできないの問題ではない。最初から存在していない。SAOで魔法を使おうとするとかそういうレベル。
    不器用なくせに大雑把。下手くそなくせに独創的。どこかのラノベで「下手の一念」という造語があったが、料理は思いでどうこうなるものではない。
    「理解できないわ。どうしてこんなことになるのかしら。」
    「……見た目はちょっと残念だけど、食べてみなきゃ分からないよねっ!」
    ちょっと?これをちょっとと言うのか?なんか炭みたいになってんだけど。あと、これを食うの?うわー、俺には無理だわー。
    「そうね。味見役もいることだし。」
    えー、これを俺が食うんですか?ちょっとひどすぎるでしょう。これもう毒味のレベルじゃん。しかも、最初から毒ってわかりきってるじゃん。
    「ほら、早く。」
    俺が逡巡していると、雪ノ下がせかしてくる。
    「一個だけだぞ?一個だけだからな!」
    迷いながらも、俺はそれを口に入れ、咀嚼する。
    「……どうだった?」
    由比ケ浜が不安そうに見つめてくる。
    「……ちょっとしたウンコよりまずい。」
    「はぁ!?何よそれっ!ていうかちょっとしたウンコってなんだし……。」
    そう言って、由比ケ浜もそれを口に運ぶ。
    「……うーん、ヒッキーのいうこと、ちょっとわかるかも。」
    わかっちゃうんだ。自分が作ったのに。
    ちなみに雪ノ下はさっきからおれたちに背を向けて窓の方を見ていた。
    こいつ、自分だけ食べないつもりだ!
  9. 9 : : 2013/12/10(火) 11:31:14
    由比ケ浜のクッキーは何とか食べ終わった。ちなみに雪ノ下は食べようとしなかったが、無理矢理食わせた。あの時のうらみがましい目は忘れられない。言っとくけど同じことをお前は俺にしたんだからな!?
    「さて、ではこれからの方針を考えましょう。」
    「由比ケ浜がニ度と料理をしなければいいと思いまーす。」
    「それで解決しちゃうの!?」
    「それは最後の方法よ。」
    「雪ノ下さんまでっ!?」
    「やっぱり才能ないのかな……。占いでもうまくいかないって……。」
    「なるほど。解決方法がわかったわ。」
    「え?」
    「あなた、まずその認識を改めなさい。才能がない?ろくに努力もしていないのにそんなことを言わないでほしいわね。それに、占い?そんなものが何になるの?何の科学的根拠もないわ。」
    まぁ、科学万能主義者ではないが、今の意見にはおおむね賛成だ。占いでどうこうとか、俺にはちょっと信じられない。
    「うう、でも、私の占いは当たるんだよー。それに、みんなこういうのやらないっていうし……。向いてないんだよ。」
    へへっ、と、由比ケ浜は愛想笑いを浮かべる。
    「……その周囲に合わせようとするのやめてくれないかしら。ひどく不快だわ。自分ができない原因を人に求めるなんて、恥ずかしくないの?」
    雪ノ下の語調は強かった。正論だ。まごうことなき正論。しかしもう少し言い方というのがあってもいいと思う。
    正しいからというだけで納得できる人間などほとんどいない。人は、感情で生きる生き物なんだから。
    「……。」
    由比ケ浜は黙りこむ。ここまで否定されたのだ。その心境は押しはかれば簡単にわかる。
    それに、彼女はコミュニケーション能力が高いのだろう。だから、今まで人にここまで否定されることなんてなかったはずだ。
    自分に迎合しようとする人間などめったにいない。
    しかし雪ノ下はそんなことお構いなしだ。味方を作らず、しかもそれでいて、一人で乗り切れる能力を持った彼女は、人の痛みなどわからない。いや、わかっても気にしないというのが正しいのかな。だから彼女には、人が救えない。
    彼女たちは、まったく正反対の存在なのだ。相入れなくて当然だろう。
    俺には、由比ケ浜が怒って帰る未来が見えていた。
    「か……。」
    ほらね、やっぱり。帰るっていい出すんだろ?そのくらいわかってるわかって
    「かっこいい……。」
    「「は?」」
    俺と雪の下の声が重なる。
    「建前とかそういうの全然言わないんだ。そういうのって、すごくかっこいい!」
    由比ケ浜が熱い目線で雪ノ下を見つめる。
    雪ノ下は若干、いやかなり戸惑っていた。
    「な、何を言っているのかしら。私、結構きついこと言ったと思うのだけれど……。」
    「ううん!そんなことない!確かに言葉はひどかった。でも、本音って気がするの。」
    違う。こいつは言葉をオブラートに包めないだけだ。
    「ごめんなさい。ちゃんとやるから、力を貸してください。」
    由比ケ浜は逃げなかった。どころか、あの雪ノ下が押されている。
    雪ノ下にとっては初めての経験だっただろう。本音を言われてちゃんと謝るやつなんていない。少なくとも、今まで俺があった中ではいなかった。
    「正しいやり方を教えてやれよ。」
    「一度手本を見せるから、その通りにやってみて。」
    「うん!」
    彼女たちの表情は一様に明るかった。
    ま、料理がうまくいくかどうかは別だけどな。
  10. 10 : : 2013/12/10(火) 11:41:08
    出来上がった雪ノ下のクッキーはとてもうまかった。
    「もうこれを渡せばいいんじゃねぇの?」
    「それじゃ意味ないじゃない。さ、由比ケ浜さん、やってみて。」
    「うん!」
    そして、二回目の彼女の挑戦が始まった。
    「そうじゃないわ、もっと円を描くように……。」
    「違う、違うのよ、それじゃ生地が死んじゃう。」
    「由比ケ浜さん、いいから。そういうのはいいから。レシピ以外の物を入れるのは今度にしましょう。」
    「うん、だからね、それは……。」
    あの雪ノ下が困惑し、疲弊していた。額に汗が浮かんでいる。
    何とかオーブンに入れた時には、肩で息をしていた。
    「なんか違う……。」
    焼きあがったクッキーを見て由比ケ浜が言う。食べてみると、雪ノ下が作ったものとは明らかにレベルが違う。
    「どうすれば伝わるのかしら……。」
    雪ノ下は持つ者ゆえに、持たざる者の気持ちがわからない。優秀な人間は教えるのもうまいというのはただのまやかしだ。あやかしだ。あやかしがたりだ。みんな買ってね!
    「フッ!」
    「あら、何かしら比企谷君。喧嘩を売っているの?」
    「いやいや、お前らのやってることがあまりにもバカらしくてなぁ。思わず笑っちまったんだ。わりい。」
    「なんかムカつく!」
    「まぁ見てろよ。俺が本物ってやつを教えてやる。」
    「そこまで言うからには、たいそうなものができるんでしょうね。楽しみだわ。」
    雪ノ下が完全に冷たい目をしていた。
    「ああ、十分後にここにきてくれ。格の違いを教えてやるよ。」








  11. 11 : : 2013/12/10(火) 12:09:45
    そして十分後、彼女たちが戻ってきた。
    「ほら、由比ケ浜。食ってみろ。」
    「ええ?あんだけ言ってたわりにはしょぼくない?形も悪いし色も変だし……。」
    「ま、そう言うなって。」
    「そこまで言うなら……。」
    由比ケ浜は恐る恐るという感じでクッキーを口に運ぶ。雪ノ下もそれに倣う。
    すると、雪ノ下の表情が変わった。どうやら彼女は察したようだ。
    「別にあんまりおいしくないし、焦げててジャリってする!はっきり言っておいしくない!」
    「そっ…か、おいしくないか。わりい、捨てるわ。」
    「べ、別に捨てなくても。」
    その言葉を無視して、俺はゴミ箱の方に向かっていく。
    「まってったら!」
    由比ケ浜が俺からクッキーをひったくる。
    「捨てなくてもいいでしょ!言うほどまずくないし……。」
    「そうか?なら、満足してくれたか?」
    「うん。」
    「ま、お前が作った奴なんだがな。」
    「……へ?」
    「比企谷君。説明してくれる?」
    「男ってのはな……お前らが思ってる以上に単純なんだよ。自分のために女の子が頑張ってお菓子を作ってくれた、それだけで舞い上がっちまうもんさ。だから、手作りの部分を残しとかないと意味がない。雪ノ下が作ったような完璧な奴より、少しくらい汚くても、気持ちがこもってるってわかる物の方が、もらう側としてはうれしいもんだぜ?」
    「今までは、目的と手段を取り違えてたってことね。」
    「そういうこった。だから、あんまりうまくなくてときどきジャリってするクッキーでも、それでいいんだよ。」
    「~~っ!うっさい!ヒッキー腹立つ!もう帰る!」
    由比ケ浜が鞄を手に持つ。
    「由比ケ浜さん、依頼の方はどうするの?」
    「あ、ごめん。それはもういいや。ありがとね、雪ノ下さん。」
    「またね。ばいばい。」
    そう言って由比ケ浜は去って行った。
    「……あれでよかったのかしら?自分ができるところまで、力をのばすべきだと私は思うけど。」
    「それは違うだろ。あいつの目的は、うまいクッキーを作ることじゃなくて、相手に喜んでもらうことだろ?ならこれでいいんだよ。」
    「そうかしらね。」
    「ああ、そうさ。」
    そう言って、俺は笑った。






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