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やはり比企谷八幡は本物に気づく
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- 1 : 2023/05/29(月) 10:36:00 :
- 今更とは思うかもしれませんが、この前「やはりゲームでも俺の青春ラブコメはまちがっている。完」をクリアして物足りないというか納得いかないなと感じました。(特にあの子のルート)
で、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」の結末はやはりどうしても受け入れられなくて、「なら自分で書くしかない!」と自分を奮い立たせて今に至る。
というわけで、これは「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」のif的な別の結末です。「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。14巻」の「⑦想いは、触れた熱だけが確かに伝えている。」の途中から始まる二次創作になります。(冒頭はその抜粋が含まれています)現実だったら絶対にこうなっていた!という私の観点です。どうも渡航さんは今「結」というのを書いていると最近知って、私が書いてこれは不要かもしれませんが、ま、そっちは全巻出たら一気に読ませて頂こうかな。
あ、因みに母語は日本語ではありませんので、多少拙い言い回しなどがあっても優しく多めに見て頂けると嬉しいです。
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- 2 : 2023/05/29(月) 10:41:26 :
- 「……手放したら二度とつかめねぇんだよ」
自分に言い聞かせるように、否、自分に言い聞かせる為にそう言って、俺は手を伸ばした。片手で自転車を押しているせいで不恰好だし、どれくらい力を籠めたらいいのかもわからないけれど。
それでも、俺は雪ノ下の袖口を握った。
ここから先は俺の言うことはこの陸橋に来るまでに考える時間がなかったら大分違う内容になっていただろう。お陰で緊張はしているものの、本来言おうとしていたことに伴うはずの緊張に比べたらその比ではない。その緊張は、明日にとっておくことになる。
* * *
先ほど校門で雪ノ下を見かけてここまで一緒に歩く羽目になった。その間は応接室でのやり取りが重く心にのしかかってお互い全くの無言で歩いていた。だが、俺クラスともなると無言なんて状況は思考を走らせる機会でしかない。自分自身との会話は超が付くほどに得意なもんで、今のうちにこの時間をこれから雪ノ下に話すことの脳内横演習に有り難くあてがおう。ここで見事に噛んだり、説得となるカードを出し忘れたりしようものなら折角背中を押してくれた由比ヶ浜に申し訳が立たない。俺はこれからも雪ノ下と関わり続けたい。それは紛れもない俺の本心だ。玉砕覚悟でこれから雪ノ下にその気持ちを打ち明けるわけだが、万が一にでも雪ノ下を説得して俺の気持ちを受け取ってくれたらどうしよう。そこで幸せで死ぬか。いや、そこで死んだら流石に勿体無いんだよなぁ。今以上に雪ノ下と時間を過ごすことになるし、それを少し堪能してから死んでも遅くはないんじゃない?ってかなんで死ぬ前提なんだよ。告白ってこんな心境にさせるならやらない方が良くない?告白という過程を飛ばして結ばれるってなんで皆出来ないの?こんなことをする人の気、マジで知らない。どうかしている。うん、俺もだけど。
ま、どう転ぶか知らないけど、俺の気持ちがちゃんと伝わってより親密になれたらもう本当にそれ以上何も望めない。真人間になると誓ってもいい。家にこもらずにたまに雪ノ下の用事とかに付き合おう。彼女も買い物とか色々な所に行きたい気分になるだろう。雪ノ下なら家絡みの行事とかもあるのかな。ああいうのに繰り出されるのはちょっといやだなぁ。陽乃さんとか居合わせたら特にだ。真人間になる代償が高過ぎだろう。やっぱ他人と関わるの面倒くせぇ。雪ノ下が学校関係とかで忙し過ぎてそういうことが出来ないってことにならないかな。そこは学友優先でいこう。雪ノ下の友達って由比ヶ浜くらいだよなぁ。その由比ヶ浜のことだから気を遣って俺と雪ノ下が二人の時間をもっと出来るように色々と遠慮するだろうし。放課後は用事があるとか言って二人きりにさせる展開が容易に想像出来る。部活以外で三人で何かするのはもうそうそうないだろうな、雪ノ下と二人なら。
そこでふっと思う。俺はこれからも雪ノ下と関わりたい。それは確かにそうだけど…でも…これからは由比ヶ浜とは関わらなくてもいいのか。ま、コミュ力の高いあいつならむしろ切っても切れない縁というか、向こうから色々と絡んでくるだろう。前とそんなに変わらないのでは?
思った瞬間、違和感を覚えた。無理して自分に言い聞かせているのが否めない。実際のところ、他人を気遣っているばかりのあいつは何かと遠慮するだろう。それに、俺だってそこまで鈍感ではない。由比ヶ浜の俺に対する気持ちに気付いている。ま、今までの俺の女運を鑑みれば単に俺の勘違いという可能性はなくもないが…いや、流石に今回はそういうことだよな?9割くらいの確率で?ん〜、8割が妥当かな。現実を見ろ。俺のことだぞ。7割でフィナルアンサーだ。考えれば考えるほど自信が崩れ落ちて行く俺は絵心甚八が望むエゴイストにはなれねぇ。
そも、由比ヶ浜が俺に気があると思った根拠はなんだ?今まで由比ヶ浜と過ごした時間を振り返る。
一緒に見た花火。文化祭で食べたハニートースト。修学旅行で俺のやり方を諭す由比ヶ浜。ディスティニーランドで交わした約束。水族館を回った後の由比ヶ浜の態度。小町の誕生日の為に一緒に作ったフルーツタート。プロムでのダンス。その他諸々の会話の裏を読めば匂わせるヒントはいくらでもあった。
これで俺の思い違いならマジで女って奴がわっかんねぇ。もう女子は諦める。
しかし、こうやって考えてみれば俺は随分と由比ヶ浜にハートを擽られているな。だというのに今まで応じていないのは…
隣を歩く雪ノ下を横目でちらっと見る。相変わらず沈黙を貫いて目線を若干下の方に向けて歩いている。
強いて言えば答えはこの人なのでは?出会った時から気になると言えば気になるし、存在感が大き過ぎて無視出来ない。俺の中で雪ノ下はそれだけ大きくて由比ヶ浜が入り込む隙間なんてない。
先ほどと同じ違和感を感じる。
なぜだ
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- 3 : 2023/05/29(月) 10:45:44 :
- それだけのことでしかないなら問題はない。というかどうしようもない。由比ヶ浜に対して何も感じないわけじゃないけど…
今し方想起した由比ヶ浜との思い出、それに伴った感情が遠退いていく気がして、最後に「待たなくていい」と伝えた時の由比ヶ浜の表情が浮かんで胸にじんと痛みが走った。
だってこの前あいつに言ったように、雪ノ下が何かを諦めた代償行為として選んだのなら、それを認めることが出来ない。もし雪ノ下が諦めているのは…
そこで引っ掛かった。
代償行為。
目から鱗よろしく思わず足が止まりそうになり、雪ノ下に置いていかれないように努めて徒を進める。
陽乃さんが言ったこの言葉、案外、俺にも適用しているかも。いや、正直に言おう。確実に適用している。だとすると…こっちも妥協するべきではない…か。
新たに覚悟を決めて自転車を握る手に力が籠る。
* * *
袖口を掴まれた雪ノ下は当惑を示していたが、抵抗することなく話を聞いてくれる体勢に入っているらしい。
「折角掴んだ関係なんだ。手放すのは惜しいというか、維持する為に少しは努力をしても悪くない気がするんだが」
「努力?」
「た、例えばだな、来年は受験で忙しくて部活がなくなっても、部室じゃなくてもいいから三人でどこか落ち着ける場所を見つけて一緒に昼を食べるとか。周りに他の奴らが多少いても気にせずにさ」
雪ノ下が俺を見て二回ほど瞬きする。
「あなたにそんな芸当が出来るとでも?」
「だから努力するって話だ」と、雪ノ下の袖を放す。
「別に部活がなくても由比ヶ浜と仲良く出来る自信があるわ。し、親友だもの」
「そこは由比ヶ浜だけですね」
「あなただってさっき言ったじゃない。そういう関係をうまく保てる自信がないとか、距離を置いたらもっと離れていく自信があるとか。あなたが相手の場合は実際そうなるでしょうね」
流石虚言を言わない雪ノ下。お構いなしで事実を突きつける。最初に突きつけたのは俺だけど。
「そこは、ほら、先刻言った努力でなるべくカバーをだな」
「あなたに似合わない言い草ね。大体なんでそこまで拘るの」
雪ノ下は腕を組み、ともすれば訝しむような目で俺を見て来る。
「あまり認めたくはないが、お前と過ごす時間が割と気に入っている。あまりプレッシャーを感じないというか、思う存分ダメ人間でいてもある程度理解してくれるというか」
「理解しても良しとしているわけではないけれど」
「ですよねぇ。それは俺も理解している。ほら、お互い結構理解し合っているじゃん」
雪ノ下が向けてくる胡乱な目は胸に刺さる。ちょっと大袈裟でもいい事を言ったつもりだけどな。咳払いをして仕切り直す。
「と、とにかくだ、お前と過ごすのはそんなに悪にもんじゃない。俺の傲りの産物でなければ、お前もそういう時間は嫌いではないと思いたい。マジで思いたい。嫌いじゃないよね?せめて億劫とか思っていないと言ってくれ!ずっとキモかったとか言われたら今すぐ死ねる自信がある」
半分握りしめた両手を横腹まで上げて懇願する俺に対して雪の下は自分の右腕を掴み、目を逸らして斜め下を向いた。
「…私も…それほど悪くないと思っている」
「ああ、よかった〜」
体から力が抜け、肩を落とす。
「普通に分かるでしょう。そんなに嫌がっている素振りを見せていないと思うけれど」
半ば拗ねるように言って仄かに赤面しているところを見ると本心と取っていいだろう。
「しかし、あれだよな。俺達の出会いからしてこうなると誰が想像出来ただろう。平塚先生にあの部室に連れてこられて出会い頭に悪口言われた気がする」
「奇遇ね。私も言われた気がする」
「ま、最近はお前とのやり取りは結構楽しいけどな。むしろお前としか出来ないだろう、ああいうの。その大部分は俺がボロクソ言われる気がしなくもないが、ま、それも含めて楽しいっちゃ楽しいけど」
「こんな時に自分はMですと暴露するのはどうかと思うわ」
「そうそう、それ。変わってくれるなよ」
俺の苦笑に対して雪ノ下は優しめな微笑を浮かぶ。
「でも本当、あの時と比べたら大分変わりましたわね、私達」
「…大きな原因となったのは由比ヶ浜だと思う。事あるごとに俺達の間に入って仲裁役をやってくれる」
「そうね。あの子は私が仲悪くなるのを絶対に許さない。由比ヶ浜がいなければ私達は今でもあの部室で睨み合っていたかもしれませんね。むしろ、必要以上に私とあなたがちゃんと向き合うように背中を押してくれる…」
雪ノ下が視線を下げてその表情が知り得ないが、雪ノ下がそういうならきっとそうだろう。私がいないところでこの二人はどこまで核心に触れているのだろう。はっきり言葉にしなくてもある程度の暗黙の了解はしているのだろうか。
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- 4 : 2023/05/29(月) 10:46:43 :
- 「色んな意味で由比ヶ浜に感謝しないといけないな。奉仕部の為にあいつが生徒会長選挙でお前に勝つと言い張って覚悟した時、奉仕部が、俺達があいつの中でどれほど大切なのか痛感した。特にあいつは…本当にお前のことが好きで…お前無しの学園生活は多分、あいつにとって耐え難いものになると思う。そんな由比ヶ浜は見たくないから、俺の為だけじゃなくて、あいつの為にも、俺達三人の関係を続けたい」
雪ノ下は口を開き掛けたが、結局その口をつぐんで沈黙が生まれる。何かを考えているようだったが決心したのか首を垂れながらも再度口を開く。
「…そんな私達の関係に歪さがあるのは感じているでしょう?それがもどかしいと思わないの?」
今度は俺が唇を引き結ぶ番だ。ここまで来たらお茶の濁す道理はないな。本音をそのまま言えばいいか。
一回だけ大きく深呼吸する。
「思うところは….ある。このままでいいのかは正直分からない。静観して成り行きを見てもバチは当たらないんじゃないかなって思う自分もいる。案外、時間が解決してくれるってやつが如何にかくれる。でも、どの道それに賭ける必要はないのかも。お前の望み通り、今は由比ヶ浜の最後の願いを叶えそうだ。そうしたら…何か進展はあるかもしれない」
雪ノ下の目が驚きで大きく開いたのは一瞬。それから俺達が立っている陸橋の高欄に両手を乗せ、下を通る車を見て寂しさとも安堵とも取れる微笑を浮かべた。
「そう。何よりだわ」
本当に他人を完全に理解するのは難しい。その表情の意味するところは気になって仕方がないが、どこまで踏み入って良いのか判断しかねる。判断出来ない以上、一歩だって半歩だって進めやしない。いずれ分かる日が来るかもしれないけど、少なくともその時は今ではない。
「確かに進展はあるでしょうけれど、それが良い方に転ぶか悪い方に転ぶかはちょっと分からないわね。本当に、色々分からない、自分自身のことだって」
一番最後の方は声になれない声で囁かれて聞き取れなかったが、俺の耳に届けるつもりはなかったということなのだろう。
「当たって砕けようじゃないか。それで壊れるならそれでしかなかったってことだ。しかし、俺達三人なら何とかなると俺の勘が言っている」
五メートルかそこら下の道路を見る雪ノ下とは対照的に俺は遥か遠い暗くなってきた空の方を仰いだ。
「そして、もし壊れなかったら…それは本物と思っていいんじゃないかな。本物なら…試しみる価値はある」
「そうね。少し怖いけれど、私もそれに興味がある。それにもし本物だったら、あなたの依頼は達成されると言って良いでしょう。あなたの願いだけ叶わないのは不憫過ぎるもの」
雪ノ下は俺と同じく空を見上げる。そして俺達が月がまだ出ていない空を少しだけ眺めてから雪ノ下は身体ごと俺に向き直って吐息をつく。
「認めるわ。最近の私達の関係はぬるま湯に浸かっている感じだったけれど、悔しいながらもそれが湯加減が快適で甘んじる気持ちもあった。でも、そろそろお湯を沸き直しますか。まぁ、比企谷君との関係辺り、ぬるま湯というよりは沼という感じかしら」
最後の方は人差し指を頤に当てて考える仕草で言い退ける。
「俺からしてみればグルシン水風呂のようだった時もあった。いや、もう雪風呂だ。流石雪ノ風呂」
「正しくは雪見風呂というんですよ。千葉で出来ないからってそれくらい知らないでどうするの」
「そんな心地いいもんじゃない。俺に対する扱いが冷たいって言いたかったの。そして千葉は別に雪見風呂がなくても悲観することはない。雪は見えなくても浸かりながら海が見えるからな」
数秒の沈黙の中で視線を交わした後、お互いぷっと笑った。
「ま、誰もが火傷しない程度にゆっくりお湯を足していけばいい」
「湯加減の調整は任せるわ。一気に上げても構わないけれど、居たたまれない状況になったら先に上がるのはそっちの方よ?」
「流石の負けず嫌い。でもサウナーのプライドに賭けて耐えて見せる」
これだ。本当に手放すには惜しい。雪ノ下は穏やかな微笑を俺に向け、俺も恐らく似たような笑みを湛えているのだろう。
「目下の問題は海浜総合高校との合同プロムね。それにしてもとんでもないことしてくれたわね」
「これくらいやんないと関わらせてくれないだろう、お前。それに、もしこれが上手く出来たら俺達の関係だってきっと上手く出来る」
「不安を煽るようなこと言わないで。どれほどの無茶振りなのかちゃんと分かっている?私達の関係の方が幾らか簡単に何とかなると思えてくる」
雪ノ下は片手を脇腹に預かり、もう片手でこめかみを摩った。
「大丈夫だ。俺達三人で掛かれば負ける気がしない。」
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- 5 : 2023/05/29(月) 10:47:53 :
- 「取り敢えず、明日から具体的な対策を練りましょう。合同プロムの企画書を放課後に読ませてもらうわ」
「ああ…実は明日だけはちょっと。用事があるんだ。明後日からなら幾らでも付き合える」
「状況を理解している?一日でも惜しいくらい程切羽詰まっているのよ」
「分かってる。ただ、凄く大事な用事だ。これ以上先送りに出来ないから部活は明後日からでいい?由比ヶ浜には俺から伝える」
雪ノ下は溜息を漏らす。
「分かったわ。明後日からは死ぬほど働く気でいなさい」
「了解。ま、その、なんだ、これからもよろしくお願いします」
多少の恥ずかしさで最初は目を逸らしていたが、襟足を引っ張りながら最後はそれなりの誠意を込めて雪ノ下の目を見る。
「ええ。ではまた学校で」
雪ノ下は踵を返して陸橋の向こう側へと歩いていく。階段に差し掛かるとマフラーを締め直す姿を一段降りる毎に消えていくのを最後まで見送った。
もう一度自転車のハンドルを握って押しながら来た道を戻る。
今日、本来言おうと思ったことを雪ノ下に言っていたらどうなったのだろう。考えても詮無きことだが気にはなる。万が一俺と雪ノ下が結ばれる未来が存在し得たのならそれを見てみたい気持ちはある。だが、それよりも優先したい未来がある。それだけのことだ。
⑧もう一度、そのベンチに座る。
寒い朝の中自転車を漕ぐ。よもや二日連続でこんな心境で通学する羽目になるとはな。ノイローゼになっていないところを見ると俺は結構メンタルが強い方なのでは?肝が据わっているっていうか、俺の腎臓超強ぇ。いや、それはノイローゼじゃなくてネフローゼだった。腎臓は知らないけど胃の方は少し痛いかも。やっぱ長続きにわたる緊張感は良くないよなぁ。いつにも増して無口の俺が上の空で小町が心配してたしな。鋭過ぎるだろう、俺の妹。二事三事で会話を済ませる俺が一言で済ませるからってあんま気づかないよ、普通。
「はー、今日は学校を休みたい」
でもそれだともっと心配かけるんだよな。それに合同プロムの準備が控えているからそんなことは言ってられないのは分かっている。しかしその前にこの件をどうしても先に片付けたい。ならば漕ぎ続けるのみ。
学校自体は休まなくても教室内はまた別の話。こんな精神状態で寝れるはずもなく、例によっての机に突っ伏して寝たふりだがな。そうやって放課後が来るのを待っているとやがてショートホームルームが終了して意識を葉山達がいる教室の後ろの方へ行かせる。放課後の予定を話し合っている中、三浦は指で髪をぐるぐるしながら由比ヶ浜に一瞥する。
「結衣さ、ここんところちょっと元気なくない?何かあった?」
あまり話に乗ってこないことが気になったのだろうか。流石三浦ママ。自分の子達の微妙な変化に敏感でいらっしゃる。
「え?なに、なに?なんか悩み事?そういうことなら話に乗るべ。遠慮なんていらないっしょ」
自分で自分に親指を指す戸部。
偉いよ、戸部。その心意気は買う。けど先ずは悩んでいることに気づけ。そこは三浦に倣え。
「まぁ、本当に何か悩みがあって話したいと思っているならね。なるべく力になるよ」
はい、原因は俺かなぁ。ごめんね、葉山、気を使わせちゃって。そっちのグループの輪を乱すつもりはなかった。今度またカラオケに行ったら何か奢るから。もう二度と行かないけど。
「え?あ、ううん!何もないよ!あたしも今日どうしようかなって考えてただけだから」
胸の前でぶんぶん両手を振って笑う由比ヶ浜。
「今日は部活ないわけ?だったらあーしと海老名と一緒にどっか行かない?」
由比ヶ浜は一瞬こっちを気にするような素振りを見せたと思うがぎりぎり横目で見ているからよく分からない。
「あ、あると思うけど、今日はちょっと疲れてるから行くかどうかちょっと悩んでて…」
声を小さくしたつもりだろうけど、生憎ばっちり聞こえている。ま、急に声を下げ過ぎたら周りに怪しまれるもんな。
俺は携帯を出して「今日、時間あるか?」と一文だけ打ち込まれたメールを作成する。指を送信ボタンの上に翳して…やめた。メールを削除して携帯をポケットに戻してから大きく深呼吸する。それで重い腰を上げてクラスの後ろの方へのろのろと歩く。俺に背を向けて座っている由比ヶ浜はもちろんのこと、隣まで来ても誰も俺に気付いたような反応はしない。声を出したら流石に全員の注目を浴びるだろうけど。では。
「由比ヶ浜、きょ」
「うわ!!」
由比ヶ浜が悲鳴を上げて思いっきりビクッとした。
「び、びっくりした〜。驚かせないでよ、ヒッキー」
いや、普通に声を掛けただけなんだけど。お前の要望通りに。普通に声を掛けるのって斯くも難しいものなんだな。やっぱ俺にはハードルが高い。
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- 6 : 2023/05/29(月) 10:49:26 :
- 「それにしても驚き過ぎだろう」と葉山が笑う。
うん、俺もそう思う。やっぱ二つも奢るよ。あくまでまた一緒にカラオケに行った時限定で。
「ああ、すまん。えっと、今日、時間あるのかって聞きたかったけど」
「え?部活の話?」
「ま、そんなところ」
別にそうではないが、早目に話を切り上げることに越したことはない。一刻も早くここから離れたい〜!
「う、うん。時間はあるけど、今から行く?」
「そうだな」
「分かった。支度する」
俺は自分の机に置いてある鞄を取って教室の外で待つ。間もなく支度を終えた由比ヶ浜も出てくる。
「お待たせ」
「おう。じゃ、ちょっと歩いていい?」
由比ヶ浜は少し首を傾げて不審に思ったようだが俺の後についてきてくれる。ただ、いつもみたいに並んで歩くよりは一歩遅れて俺特有の後からついていくスタイルに少し似ている。由比ヶ浜にもその高度な芸当が出来るのか。俺達ぼっちの専売特許じゃないの?ガハマ版は横目を見やれば一応ギリギリ視界に入るから技として未熟だが、その技を盗む技術はロックマンばりだ。ボスキャラが使うやつと比べると劣化しているよな。やっぱ俺ボス級のぼっちだったわ。
背負っているリュックの両ストラップを握る由比ヶ浜はずっと無言だったが、流石に特別棟に向かう廊下を通り過ぎると疑問を口に出さずにはいられない。
「部室には行かないの?」
「ああ、実は今日は部活がないんだ。」
「そうなんだ。…え?!話ってそれだけ?!」
「いや、他にも話すことはあるが、まぁ、着いたら話す」
「どこに行くの?」
「ちょっと落ち着ける場所。お前んちに近いから手間にはならない」
返答はないがそれで納得してくれたらしい。
一旦駐輪場で俺の自転車を取りに行く。鍵を開けて前カゴを由比ヶ浜に向けた。
「リュックを入れたら?」
「あ、ありがとう」
自分の鞄を肩に掛けたまま由比ヶ浜のリュックが積んだ自転車を押して校門へ向かう。校門を出ても特に会話は生まれない。俺は別に気にしないが、目的地に着くまで無言というのは由比ヶ浜が可哀想だから何か話題を振ろう。
「…」
「…」
うん、超苦手な分野だ!えーと、由比ヶ浜が話したそうな話題…。ファッション?俺に出来るわけないんだ。他に好きなものは…スイーツ?お洒落な店とか紹介する?うん、同じ壁にぶつかったな。後は…犬?でも俺、どっちかというと猫派なんだよなぁ。討論に発展するようなことは今避けないかな。何か共通点は…お互いよく知っている何か…そうだ!究極の解があった!小町だ!小町が好きじゃないやつなんてこの世に存在するはずがない!由比ヶ浜も決して例外ではない。というか普通に仲良いいし。これなら幾らでも熱弁出来る!あ、でも逆にそれが問題なんだよな。シスコンってキモがられるパターンになるのは想像に難くない。小町、両刃の剣すぎる。
「…」
「…」
こうなったらあの手で行こう。謝罪であれば自然だし無難だ。別の何かに発展する可能性も十二分ある。強引にでも持って行かせてみせる!
「なんか、急で悪いな。三浦達とどっか行く予定を立てていた見たいし」
「ううん、大丈夫。…正直あまり遊びに行く気分じゃないかも」
「そうか。でも、この前はいきなり予定を決められるのは嫌って言ったし、また直ぐにやっちまったみたいで申し訳ない」
「覚えてたんだ」
「覚えてるよ。ついでに自然に声を掛けて欲しいって言ったのも覚えている。なのにいざやるとなるとあの驚きよう。マジで凹んだよ」
「あ、ああ、あれはタイミングが悪かったっていうか、ヒッキーじゃなかったら多分そんなに驚かなかったと思うっていうか、はは」と由比ヶ浜は誤魔化し笑いをする。
「え?俺の存在がそんなに怖いの?ま、黴菌だらけとして呼び声が高い俺を女子が怖がって逃げ出すことは今までに何度かあったから薄々気付いたけど」
「あたし別に逃げてないでしょう!ちょっと驚いただけだから!」
「ってことはあれだな?やっぱメールを送った方がいいか?メールの方がいいよね?今後はメールにするね?由比ヶ浜の心臓に悪いようなことをするのは忍びないから」
「それはダメ!さっきみたいに普通に声かけて!」
言いながら由比ヶ浜は隣まで追いついてきて俺の顔を覗き込んだ。
「お、おう。善処する」
そのままの歩調をキープして由比ヶ浜は溜息をついて独り言のように言う。
「そうやってたまに期待に応えるから困る」
「なんかごめんね。 百パー駄目人間になれなくて」
「本当だよ。それだったらずっと楽だったのに」
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- 7 : 2023/05/29(月) 10:50:45 :
- 由比ヶ浜は視線を落とす。言わんとすることは分かる。俺は色々と中途半端をやってきた。期待する側の役回りは何度となく辞任してはその期待は傷となった。その痛みはよく分かる。俺のせいで由比ヶ浜にはそういう傷をこれ以上負って欲しくない。
「他の願い事もちゃんと覚えてる。ま、多分なんとか出来ると思う」
「本当に〜?」
由比ヶ浜の半目と声に明らかな疑いが滲み出ている。
「多分。時間を掛けたら。ちゃんと出来てもぶり返す可能性はあるが。そもそも由比ヶ浜が気にしなくなる可能性だってあるよ」
「見込みがどんどんなくなってる!」
「冗談だ」
全然冗談じゃないんだよなぁ。
由比ヶ浜の住むマンションに大分近づいて来ると由比ヶ浜はその事実を提示する。
「もう殆ど家に着いたけどどこに行くの?」
「あそこだ」
俺は自転車を押して先導する。
「公園?」
あの日同様、子供達が追いかけっ子やらなんとか戦隊ごっこやらに勤しんでいる。空はオレンジ色な色相を帯び始め、そよ風によってヒナギクが僅かに揺れる。由比ヶ浜は俺の後ろで五歩ほど遅れて少しおどおどしながらその光景を見て胸の前で自分の手の甲を握り締めている。
もう少し歩いたところでベンチに差し掛かる。
「ここでいいか」
自転車をベンチの向こう端の隣に止めて白々しく腰を下ろす。由比ヶ浜はいつの間にか自分の手の甲を放し、今は握り締めた片手のみを胸に当ていて俺の隣の空いている席を、あの日と同じベンチを恐ろしいものでも見るように立ち尽くして見下ろしている。しれっとした顔で前を見ながら由比ヶ浜が座るのを待って、やがて彼女も向き直って腰を下ろす。そしてどうにか落ち着いたところを確認すると俺は話を切り出す。
「昨日はさ、雪ノ下と話した。これからも関わりたいって伝えた」
「へ、へ〜。やれば出来るじゃん。ゆきのんはなんって」
「まぁ、向こうは了承してくれた」
「そうなんだ。よかった。これで全て解決だね。全てが…丸く収まる」
由比ヶ浜は自分の膝を見て微笑んだ。実に満足そうな笑みだ。
「そして自分の中で何度も言っている内に気付いた。俺は由比ヶ浜とも関わりたい」
「ほぇ?関わるよ?関わらない理由なんてないよ」
由比ヶ浜はさも当然のようにそう言って俺を見た。
「そう…だな。だが」
俺は立って由比ヶ浜の前に回り込んだ。それを由比ヶ浜が目で追って何事かという顔をしている。
「俺の関わりたいという気持ちは由比ヶ浜に対してもっと強い」
「え?」
「だから、その、由比ヶ浜さえ良ければ…これからはより深く関わりたい。それも、長期間で」
「…どう…いう意味?」
「そのままの意味、なんだけどな。今までその気はあまり見せていないのは承知しているが」
「ちょっと待って!」
由比ヶ浜は勢いよく立ち上がって真っ直ぐに俺の目を見る。
「ついこの間あたしがここでヒッキーに告白しようとしてたのよ!気付いた?!」
「気付いた。というか、だからこそここでこんな話をしているわけで、やり直しというか」
由比ヶ浜は両手で頭を抱えて下の草辺りを混乱した目で見ている。それも無理からぬこと。俺のへたれが招いた状況だ。理解しかねて頭を抱えたまま俺に答えを求める。
「数日の間に何が変わった?なんでこうなるの?」
上手く言葉で伝えるかは分からない。分からないが、由比ヶ浜はその分自分がわかろうとするって言ってくれた。ならば、全力で言葉を尽くさない道理はどこにあろう。
「厳密に言えば何も変わっていない。変わったといえば、俺が自分の気持ちに気づいたってこと…いや、違う。自分の気持ちにはずっと気付いていた。ただ、正直逃げていただけなんだ」
本当に俺はバカなんだ。自分が情けなくて悔しさで拳を握る。
「何から?」
「何もかもだ。現実から。お前から。幸せから。俺はバカだけどそこまで鈍感ではない。お前の好意にはちゃんと気付いていた。でも、どうしても受け入れられなくて。俺のトラウマ話はお前に散々話してきたから分かると思うけど、俺は本当に他人と上手く出来なくて誰かと親密な関係になるのを遠に諦めた。例えお前の好意が偽りでなくてもお前みたいな高次元の陽キャラと俺みたいな究極な陰キャラが上手くいくわけがないと、長続きしないと自分に言い聞かせていた。正直今でもその辺は結構不安で、その線を越える勇気が中々湧いてこなくて。だって違い過ぎるだろう、俺達は!正反対の者同士は引かれ合うと言うけどさ、俺は疑問に思うね。趣味も性格も考え方もバラバラで、愛想を尽かされるのが落ちだろう。その点、俺と雪ノ下はある意味似たもの同士で、その分幾らか釣り合うんじゃないかと思って。
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- 8 : 2023/05/29(月) 10:52:02 :
- でも、釣り合うだけじゃ、足りない。由比ヶ浜はいつだって俺に真摯に向き合ってくれて、叱ってくれて、庇ってくれて、笑ってくれて、引っ張ってくれて、歩み寄ってくれて、お前の優しさに何度救われたか分からない。はっきり言ってお前は今までの俺の人生に欠けていた優しさの権化そのものだ。そんなの…俺が揺れないはずがない。...それでも、そんなお前と仲違いして、袂を分つのが怖くて、雪ノ下の方に依っていた。それが…俺の代償行為だ」
心臓がバクバクしている。涼しいはずなのに嫌に暑苦しい。少し震えてもいる。 でも何とか言い切れた。物凄く捲し立てて、取り止めのない内容になったかもしれないけど、伝えるべきことを伝えたはずだ。
「あたしだって不安だよ?だってヒッキーはいつも乗り気あまり見せないないし、多く言わないし、何もかも面倒くさがるし、目が死んでいるし」
それ、不安だと言うより俺に不安にさせられているんだよなぁ。ごめんね。
「それに…ヒッキーはゆきのんと二人きりの世界に入っている感じがよくあって、あたしが入り込む隙なんてない感じがして…」
由比ヶ浜は項垂れていた顔を上げて一気に距離を詰め、もうほぼ触れている。実際、俺が咄嗟に上半身を後ろに反らさなかったら触れていた。
「あたしにはゆきのんに勝てるところあるの?!」
ある。今俺の目の前に、正確には鼻の下に迫ってきている部分が。別に鼻の下は伸ばしていないけどね!
「凄く美人で」
「確かに」
「あたしよりずっと頭良くて」
「否定はせん」
「誰もが憧れるような存在」
「言い得て妙」
「何でゆきのんよりあたしを選ぶの?!」
顔が赤くなるの感じて俺は目を逸らし斜め上の方を見る。
「由比ヶ浜が俺にさせる気持ちで確実に勝っている。その気持ちは…本物だと思う」
「...そうなの?」
気恥ずかしくてまだ目を逸らしたまま無言で首を一回縦に振る。
「そんなに不安なら、なんであたしにこんなこと打ち明けてくれたの?」
思わず目が由比ヶ浜の顔に戻る。
「めっちゃ不安だけど、この機会を逃すのがもっと怖い。お前みたいな人に二度と会うとは思えない」
それを聞いて納得したのか由比ヶ浜は三歩後ろに下がって元の位置に戻る。そして何も言わずそのまま読み辛いほぼ無表な情顔で俺を見つめる。
えっと、これからどうするの。俺は他に言いたいことそんなにないけど。由比ヶ浜は俺の気持ちを受け入れたってっことでいいの?飽きられてない?
その時、由比ヶ浜の片方の目から雫が溢れ、頬を伝ってから地に落ちた。
「あれ?」
自分でも驚いたらしい。
「告白した相手を泣かせるなんて真似はこれで二回目なんだけど?あの子はクラスの女子ほぼ全員に慰められて俺は無神経野郎のレッテルを張られた。俺、こういうの下手過ぎるだろう」
「あ、違う、これは嬉し泣きだから。なんか、実感したら、つい」
由比ヶ浜は手の甲で涙の跡を拭いて笑て見せた。
「あ〜よかった〜。気持ち悪がられていたら死ぬとこだった。この前言ってた女子あるあるってやつ?」
「うん、それ」と由比ヶ浜が鼻をすすった。
「悪かったな。待たせちまって。不安にさせちゃって」
「ううん。待たないって言ったのはあたしだし」
「うん、二回も言われた」
初めて言われた時は不意をつかれてどう反応すればいいか分からなかった。二回目は胸が刺された気持ちで自分をぶん殴りたかった。もう待たせる必要がなくて、本当に良かった。
「でも、ちゃんと、届いていたんだなぁ、無駄じゃなかったって嬉しくて。なんか、今ヒッキーを凄くぎゅっとしたい気持ちで一杯なんだけど、そういうの嫌なんだよね」
「いや、それはない」
由比ヶ浜が完全に言い終える前に既にきっぱりと答えていた。
「即答!...まぁ、この場合即答はいいか。本当に嫌じゃないの?」
今度は顔毎逸らして襟足を引っ張りながら言う。
「嫌じゃなくて、そういうスキンシップには慣れてないだけだ。ま、要は恥ずかしいんだよ」
「じゃあ…今ぎゅっとしていい?」
そんな上目遣いで頼まれて断れるはずなかろう。
「お、おう。バッチ来い」
由比ヶ浜は下を向きながら俺に歩み寄るなり俺の両脇にその腕を通して横顔を俺の胸に乗せる。なんて充実してそうな顔をするんだ、こいつ。可愛過ぎるだろう。わざとなの?わざと俺を可愛さで殺そうとしているの?
「い、言っとくけど、見た目に関してはお前は別に雪ノ下に負けてないぞ」
特に反応はない。まぁ、この距離だ。聞こえたんだろう。でも「見た目だけ?」とか言わないのはマジで助かる。本当に空気が読める子。俺も見習わなくちゃ。
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- 9 : 2023/05/29(月) 10:52:19 :
- 流石にただ一方的に抱き締められるほど甲斐性なしではない。お返しするとしよう。俺も両腕を由比ヶ浜の背中に回す。
ああ。
これ、なんか、凄く合っている。
体の強張りが解けていくのが分かる。
うん、いい。
「一方的にされるのはこそばゆいが、やり返すとなんかしっくりくるな」
「ふふ、それは良かった」
十五秒くらいその体制を保つと由比ヶ浜が急に言い出した。
「あたし達、ヒッキーが言うほど合わないかな。共通点あるんじゃない?」
「たとえば?」
「え?え、えっと…」
なんか必死に考えている。何か思いついたらしくて、ぱっと顔を上げて真顔で言い退ける。
「あたし、マッ缶結構好きだし!千葉も好きだし!」
「...これ、なんとか行けそうな気がしてきた」
「そうだよ。そう簡単に諦めないで」
俺が冗談言っているの分かっているはずなのに安心したようにまた横顔を俺の胸に預けて目を閉じる。
「この抱擁、落ち着きはしますが、なんか、俺達目立てきていない?」
「ん?」
俺達は一応公然の場にいることを由比ヶ浜が忘れていたらしい。目を開けると数は全体的に少ないではあれど、何人かの子供がこっちに興味を持たせているのに気づく。由比ヶ浜がささっと離れ、俺に背を向けて両手を後ろで組んだ。赤面しているところを隠しているつもりなら大分手遅れだぞ。
俺は周りを一通り見て一度咳払いをした。
「俺達のことは別に言いふらさなくてもいいよね?」
「え?何で?」
「いや、なんか、色々ちやほやされるのは面倒臭くない?」
「そんなにされなくない?」
「されるだろう。というか三浦辺りとかちょっと怖い。過保護の母親みたいに俺のこと超睨みそう」
「そんな気にしなくてもいいと思うけどな。あ、でもゆきのんには教えないと。ゆきのん、どう思うのかな」
「雪ノ下ならもう知っているかもしれない。ま、先ほども言ったけど、雪ノ下とも関わり続けられるはず。三人で」
由比ヶ浜は頷いて、後ろで組んでいる手をより強く組むのが見えた。
「あ、でも明日から奉仕部はかなり忙しくなるから雪ノ下に話すのはそれが終わってからでいい?」
「分かった。え?忙しくなるって?」
「俺達が企画したダミープロムなんだけど、それを実行することになった」
「そっか。…え?!何で?!」
「強いて言うなら…お前の欲しいものを全部あげる為に」
「そっか。なら頑張る」
両拳を胸の前に挙げる由比ヶ浜。
「ああ、頼りにしてる」
俺は自転車のスタンドを蹴り上げて由比ヶ浜と一緒に公園を出る道を歩く。
「あ!小町ちゃんは?!小町ちゃんなら言っていい?」
「小町か」
口止めさせれば誰にも言わないだろう。別に問題ないと思うが…もう少し兄を心配してくれる小町でいて欲しいかな。
「小町も後でいいんじゃないかな」
「え〜」
許せ、我が妹。でもお前好みの念願のお姉ちゃんがやっと出来るかもしれないからそんなに怒らないよね?
<完>
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