この作品はオリジナルキャラクターを含みます。
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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの火蓋』
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- 1 : 2015/11/17(火) 12:30:13 :
- 密めき隠れる恋の翼たち~『エルヴィン・スミス暗殺計画』
(http://www.ssnote.net/archives/2247)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスとの1週間』
(http://www.ssnote.net/archives/4960)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの苦悩』
(http://www.ssnote.net/archives/6022)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの審判』
(http://www.ssnote.net/archives/7972)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの否応』
(http://www.ssnote.net/archives/10210)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの溜飲』
(http://www.ssnote.net/archives/11948)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの流転』
(http://www.ssnote.net/archives/14678)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの渇望』
(http://www.ssnote.net/archives/16657)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの血涙』
(http://www.ssnote.net/archives/18334)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの証明』
(http://www.ssnote.net/archives/19889)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの慕情』
(http://www.ssnote.net/archives/21842)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの天命』
(http://www.ssnote.net/archives/23673)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの微睡』
(http://www.ssnote.net/archives/25857)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの再陣』
(http://www.ssnote.net/archives/27154)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの謀反』
(http://www.ssnote.net/archives/29066)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの杞憂』
(http://www.ssnote.net/archives/30692)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの勇敢』
(http://www.ssnote.net/archives/31646)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの挽回』
(http://www.ssnote.net/archives/32962)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの慈愛』
(http://www.ssnote.net/archives/34179)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの青天』
(http://www.ssnote.net/archives/35208)
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- 2 : 2015/11/17(火) 12:31:02 :
- 密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの夢想』
(http://www.ssnote.net/archives/36277)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの愛念』
(http://www.ssnote.net/archives/37309)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの咆哮』
(http://www.ssnote.net/archives/38556)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの大望』
(http://www.ssnote.net/archives/39459)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの死闘』
(http://www.ssnote.net/archives/40165)
★巨人に右腕を喰われたエルヴィンと最愛のミケを失うが、エルヴィンに仕えることになった隠密のイブキとの新たなる関係の続編。
『進撃の巨人』の最新話に私の想像(妄想)を書き足したオリジナルストーリー(短編)です。
オリジナル・キャラクター
*イブキ
かつてイヴと名乗りエルヴィンの命を狙っていた隠密の調査兵 。
生前のミケ・ザカリアスと深く愛し合っていた。
ミカサ・アッカーマンの年の近い叔母。
※SSnoteのルールに則り感想等を書いていただくグループコミュニティを作りました。
お手数ですが、コメントがございましたら、こちらまで
お願いします⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2
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- 3 : 2015/11/17(火) 12:32:21 :
- 調査兵団の兵士達はウォール・マリアの朽ち果てる寸前のような壁上で口をつぐみ正面を睨みつけていた。静寂に包まれても50メートルの壁上で吹き荒ぶ風の音にその身が晒される。冷たいのか、生ぬるいのか、感じることもなく、シガンシナ区に向かって半円を描き、等間隔で隊列を組んで立ち尽くす大型巨人たちの姿が兵士達の目に焼きついた。同兵団の団長、エルヴィン・スミスは巨人たちの中心に立つ『獣の巨人』からその意図を探ろうと眼を凝らしていて、静寂を壊す風の音だけでなく、指示を求める部下の声させ耳に入らなかった。
鎧の巨人へ変貌を遂げたライナー・ブラウンが壁面に鋼の爪を立てながら頂上までよじ登る途中、エルヴィンの横顔を眺めていたのは、かつては暗殺者で調査兵として生まれ変わったイブキだった。
『獣の巨人』の左後方では忠犬の如く、四足の巨人が身構える。その不自然に背負う荷物の多さに不穏を感じ、敵の斥候だけでなく、進行する兵団の背後を密かに着いて来た存在とエルヴィンは確信した。
「――あの『四足歩行型の巨人』も知性を持った巨人だ」
「イヤ…もっといてもおかしくない」
エルヴィンの冷徹な声に彼の背後に立つ兵士長のリヴァイはそっけなく応えた。二人の会話を聞きながらアルミン・アルレルトは怯えた顔つきで、二人の背中を見比べた。ちょうどそのとき、獣が突如、右腕を振りかざした。兵士達がその動きに視線を奪われていた刹那、獣の巨人はうなり声を上げながら拳を大地に打ち付けた。
地響きのような轟音が合図となり、背の高い巨人の前で身構えていた2~3メートル級の巨人たちが一斉に壁に向かって走り出す。
小型の巨人だけが動いて、大型は列隊を作ったままの立ち姿である。馬を殺して、退路を閉鎖する策略を敵は立てたのだとエルヴィンは睨んだ――。
「団長、鎧がそこまで! それにまだベルトルトがまだどこにいるか……」
イブキはアルミンの緊迫する声を聞いて、黙って、とは口に出さなくても、彼を制するように手のひらを向けた。肝心なエルヴィンはアルミンの方へ振り向きもせず、わかっている、と落ち着いて応えるだけだ。イブキはただエルヴィンが新たな作戦を熟考する最中、何かで遮られないよう、彼を見守っている。
エルヴィンの脳裏に敵の動きを出し抜ける新たな策が浮かぶと、彼は息を大きく吸って、呼吸を整えた。
「やっと何かしゃべる気になったか…先に朝食を済ませるべきだった――」
リヴァイのどこか棘があるような一言も耳に入らず、エルヴィンは左手のブレードを水平に振り上げ、部下に命ずる。
「ディルク班ならびにマレーネ班は内門のクラース班と共に馬を死守せよ!!」
さらにエルヴィンは声を張り上げ、各班に命令し、真新しい武器の使用を初めて許可した。
「――今、この時!! この一戦に!! 人類存続のすべてが掛かっている!!
今一度、人類に……心臓を捧げよ!!」
本作戦の最高責任者の怒号に兵士達は立体起動を操作し、壁上から飛び立った。すでに壁下で待機していた班長はエルヴィンの声にすぐさま反応し、部下達へ馬を狙うであろう巨人を返り討ちにするよう命じる。いくぶん緊張していても心臓を捧げる兵士達は、『人類存続』という最終目的を果たす使命感は忘れておらず、ブレードをホルダーから抜き出すときに生じる金属音があちらこちらから響いていた。
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- 4 : 2015/11/17(火) 12:35:02 :
- 壁上の兵士達は各々の班の向かうべき地点を確認し、エルヴィンの傍からまた一人と減ってゆく。リヴァイとアルミンも『鎧の巨人を仕留める班』へ合流しようと立体起動を操作しようとしたときだった。
「リヴァイ、アルミン! 待て!!」
今にも壁下へ飛び出す寸前の二人の背後をエルヴィンは止めに入る。二人が振り返るといささか慌てているようでも、冷静な口ぶりでエルヴィンは命令した。
「リヴァイ班と言ったが、お前だけはこっちだリヴァイ」
リヴァイに命ずるエルヴィンの視線の先が示すのは壁下の仮のきゅう舎の馬たちだった。
「……俺にエレンではなく、馬を守れと?」
「そうだ、そして隙を見てやつを討ち取れ。『獣の巨人』はお前にしか託せない」
エルヴィンが左手のブレードが真正面の空(くう)を射す。その刃先が向かうのは直ぐにでも突き刺したい憎き『猿』だった。
「了解した……さっきの鎧のガキ一匹を殺せなかった失態はそいつの首で埋め合わせるとしよう」
リヴァイの落ち着いていても冷淡な口ぶりは必ず仕留めるという決意の表れだった。ライナーを死に追いやられなかった後悔を口にするリヴァイを見て、イブキは思わず引き止めるように彼に声を掛けた。
「ねぇ、リヴァイ! 心臓と首を確実に狙ったのにあの出血で死なない方がどうかしている。あの身体には普通の人間にはない、仕掛けがあるだろうし、私は『いつも有り得ない力を使う巨人』というのを初めてみた気がした……」
尻目にイブキを見ながら、リヴァイは壁下へ飛ぶため、立体起動装置のグリップに手を添えた。その力はやや強い。見送る背中に向けられた少しばかり早口の声がイブキなりの慰めか、とリヴァイは想像しても、これから起こるであろう最大級の困難に改めて覚悟を決める――。
「エルヴィンを頼んだ、イブキ……」
イブキの方へ振り向きもせず、立体起動装置のガスを勢いよく吹かせ、リヴァイはいち早く壁下へ向かった。続いてエルヴィンはアルミンに対しても新たな作戦を与えた。
「人類の命運を分ける戦局の一つ…その現場指揮はハンジと君に背負ってもらうぞ――」
右腕を巨人に喰われてもなお、その姿勢は変わらない冷酷な団長に向かってアルミンは幼くても、大きく思いがこもる熱い眼差しで敬礼し、右手の拳で左胸を叩いた。その姿を見やって、彼の細い肩に両手を添え、イブキは優しく握った。
「アルミン、あなたなら出来る。大丈夫……」
アルミンは柔らかくても毅然としたイブキの笑顔を眺め、責任の重さから胸に広がりつつあった不安は払拭されるようだった。
その二人の間に立ちながらエルヴィンは、壁下ですでに待機する分隊長のハンジ・ゾエと担ってもらうまた別の指示をアルミンに与えた。アルミンはイブキに触れられた手のひらそっと握って、優しく振りほどいた。
口を一文字に結んで、固い決意の色を浮かべた瞳のまま、アルミンは壁下へ飛び立った。
兵士達を送り出し、壁上ではエルヴィンとイブキは二人だけとなる。壁上で吹き荒れる風が駆け巡ってもエルヴィンは気にせず、最大の敵であろう、『獣』を眺めていた。
「イブキ、君は……兵士達にとって、なくてはならない存在となったが……」
「えっ、うん…」
傍らで軽く返事をするイブキにエルヴィンは苦渋の顔を作り、獣の左後方の『四足の巨人』を睨みつける。
「あの斥候の可能性が高い『四足』に勘付けなかったのは隠密である君の失態だ――」
感情を押し消したようなエルヴィンの声にイブキの鼓動は激しくなる。闇夜において、生物の気配を感じられなく、加えて距離を置いて行動していたであろう斥候の巨人をイブキは勘付けなかった。中央憲兵団に対し、その実力は発揮できても初めて咎められ、胸は痛いほど熱くなり、イブキはエルヴィンに視線を合わせられなかった。そのとき、心臓の激しい鼓動を感じつつ、宛がう手ひらにも温かな空気が染み渡っていく。
(イブキ…気にするな……)
イブキのその心で生きるミケ・ザカリアスの柔らかくても力強い声が彼女の胸に広まって、全身に力が漲っていく。死後もなお、見守っているミケに想いを傾けた。視線は獣に向いていて、失態を指摘され言い訳も反論もせず、悔しさから唇を噛んでため息をついた。
(ミケ…私はエルヴィンの役に立っている……? それから、あなたの仇はリヴァイが討ってくれると思う……)
(あぁ、あいつを信じろ、イブキ)
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- 5 : 2015/11/17(火) 12:37:02 :
- 胸裏で響いたミケの声は再びイブキの心の奥底へ沈んでいく。憎しみこめて眺めていて、ミケを死に追いやった張本人が視線の先にいるため、どうしてもイブキは息を乱してしまい、傍らのエルヴィンに気づかれていた。
「冷静さが勝敗を決めることもある……イブキ、落ち着くんだ――」
表情を変えず、エルヴィンはイブキと同じ目標を眺めていた。引きつっていたイブキの顔の落ち着きを少しずつ取り戻し、声に出さず返事はせずともゆっくりと頷いた。
ちょうどそのとき、吹き荒れる風の音に消されることなく、鋼の爪が壁面を突き刺しながら壁上へ近づいていると、二人は同時に察知した。ライナーはその巨体には似合わず、器用に壁を登り切った。膝をついて、壁下を眺める鋼の巨人を目前にし、イブキはエルヴィンの盾になるため、咄嗟に彼の目前に立ちはだかる。
鋼の鎧を纏って、跪いていたライナーが立ち上がろうとしたとき、生身の身体に突き刺されたブレードを手を使わず、不可思議な力で引き抜いた。命が無事だったことを安堵する間もなく、どうして調査兵団が壁の中を調べようと思いついたのか、という理由を考えていた。
(アルミン、お前か…?)
同期として共に鍛練した日々がライナーのまぶたの裏に一瞬だけ過ぎった。目元は久方ぶりの人間らしい憂いの色に変わる。だが、その想いを振り切るようにライナーの目の奥底から獣のような鋭さを宿らせた。
(長かった俺達の旅も、ようやくこれで終わる……)
アルミンや同期たちと重ねた友情よりも、これまで背負ってきた本来の目的をライナーは選んだ――。
調査兵団の馬を殺そうと、その腰を上げようとした瞬間、ライナーの視界にエルヴィンをかばうイブキが入り込んだ。
鋼の巨人から数十メートル先に立つイブキはグリップを握り、ブレードの刃先をライナーに向けた。
その肩越しのエルヴィンの横顔とイブキの険しい顔をライナーは見比べた。
(エルヴィン・スミスの手前の女……確か、この前の壁外調査の数日前の食堂で見かけた覚えが?)
ライナーはイブキに訝しい視線を送り続けるも、エルヴィンの凍てつくような尻目にも勘付いていた。しかし、顔は正面の『獣の巨人』に向いたままだ。
(どうやら、団長は俺たちの戦士長が気になってしょうがないらしいが……。そういえば、戦士長はトロスト区に下見に行ったはいいが収穫がない、とかボヤいていたのに『いい女だけは見つけた』ってのんきに鼻歌を歌っていたが、まさか、この女のことか? エルヴィンを殺して、戦士長のご機嫌とりにこの女もさらうべきか……)
ライナーの脳裏に迷いや新たな考えが生じたとき、聞き覚えのある爆音が劈いた。振り返ると、エレンが壁の内側で巨人に変貌し、絡み付いていた白い蒸気が上空に登り始めていた。加えてエレンが壁から離れ駆けてゆく背後を見ながら、目的である馬のせん滅を見抜いて、エレンと直接、拳を交える作戦を調査兵団が立てたのだと踏んだ。
エルヴィンにとって、鎧の巨人に変貌を遂げた後とはいえ、ライナーとの再会は新兵勧誘式以来だった。そのとき、壇上から見つけた他の新兵達と違う不穏な眼差しを思い返し、左手でブレードを握ったままフードを下ろして顔を晒した。団長としてかつての部下を眺める横顔に凄みが増してゆく。自分の父親が巨人が存在する世界の真相に迫ったことで死に追いやられ、何十年も経て辿り着いたこの瞬間、真実を掴む戦いの火蓋はすでに切られているとエルヴィンは確信した。
ライナーはエルヴィンが右腕を巨人に喰われてなお、挑み続ける姿勢に気圧されたようで、その鋼の顔を俯かせた。
(……考える時間もくれねぇってわけですか……ったく、団長、せっかく登ったのによぉ)
ライナーは鋼の中で嫌味っぽく嘆息し、やや慌てながら全身を使い、エレンを追いかけるように壁下に降りた。
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- 6 : 2015/11/17(火) 12:39:08 :
- 鋼の巨人が壁上から姿を消した直後、イブキは深いため息をついて、肩が上下に軽く揺れた。
「どうやら、敵はあなたの作戦に食いついたようね」
「あぁ、さらに戦局は厳しくなるだろう。けれど、俺は明日も君に会いたい。だから――」
イブキの背中にほとばしる様な熱い視線をエルヴィンは投げた。その視線を感じ、イブキは振り向いた。
「えぇ…もちろん、私はあなたから離れない」
エルヴィンに向けられた微笑は恐れを知らない美しさが宿っていた。そのとき、イブキは壁上から遠く離れた丘陵のふもとから、磨かれたばかりの鋭い鏃のような視線に気づいた。すぐさまその視線の主は『獣の巨人』であると嗅ぎつけ、イブキは睨み返した。改めてエルヴィンの盾になるため、彼の正面に立ちふさがった。
「イブキ、今は問題ない。俺の横で構えていろ」
エルヴィンがイブキの耳元に近づいて囁いたとき、大地に両膝を着いて座る獣は微かに前のめりに動く。
「もしかして……?」
今度は女としての別の鋭い勘が働く。エルヴィンの言うとおり、イブキが彼の横に並ぶと、獣の肩の動きがやや落ち着いた。
「まぁ、試してみてもいいかも」
続いてイブキは獣の働きを探る糸口になれば、とエルヴィンの胸元に寄り添い、彼の頬に手のひらを添えた。エルヴィンはイブキの不意を突く行動であっても、無意識にブレードを持つ左手で彼女の腰を支えた。
すると、穏やかではなくなったのか、明らかに獣の巨体は少し前よりも大きく揺れた。イブキは肩越しに獣を見やって、その動きを女の直感が見逃さなかった。
「イブキ、こんなときに何をしているんだ?」
冷静な口調でも、エルヴィンは正面の獣から視線を外さない。二人の背後ではエレンとライナーが殴り合い、大地が揺れる地響きが壁上に立つ二人の足元に僅かながら伝わった。
「どうやら、あいつ……私のこと、気に入っているみたいなの。私があなたに近づくと、何らかの反応を示すみたい」
「……なるほど」
艶っぽいイブキの声を聞いて、エルヴィンは口元だけで笑い、イブキをさらに抱き寄せた。
「ここで口付けでも交わせば、また投石があるかもな……」
「そうね、今度は直にあなたを狙って」
獣を眺めるエルヴィンの視界に妖しく美しい隠密のイヴの微笑が入り込んだ。その妖しさが本気でイブキの唇に口付けを落としたくなる衝動に駆られても、エルヴィンは堪えていた。腰に添える左手の力は強く、イブキにはその本心が伝わった。
そのとき、丘陵近くで膝をつく獣の中身の男は、イブキの動きを見ながら苛立っていた。
(クソッ! あの女、俺の気持ちに気づいてやがる……! ったく、ライナーは何やってんだよ、作戦通りに馬をぶっ殺しているのか?)
久しぶりに見かけた生身のいい女の思わせぶりな動きを睨みつけ、獣の中身の男は面白くなさそうに苦虫を噛んだ。
イブキはエルヴィンの胸元で更に囁く。
「斥候を見つけられなかった穴埋めってわけじゃないけど……必要ならば、あいつを仕留めるため、私が囮になるから――」
イブキに言われても、エルヴィンは眉間にしわを寄せ、直ぐに答えられない。
(イブキ、ダメだ……)
エルヴィンの代わりとして答えるように、密接する二人の胸元にはミケの声が沸きあがった。
「悪いが、ミケ……俺はその通りにする」
ブレードを左手に握る手のひらには更に力が入り、イブキの身体はエルヴィンに強く引き寄せられた。
互いの温もりはひとつになる。イブキが囮になったとしても、必ず連れ戻すと確信していた。人類が勝利したその暁にも、イブキと共に生きるエルヴィンの気持ちに変わりはなかった。
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- 7 : 2015/11/17(火) 12:39:22 :
- ★あとがき★
皆様、いつもありがとうございます。今回は少し時間をかけ、少しずつ降りてきたネタを
吟味していました。エルヴィン大好きな私は色んなエルヴィンの表情を堪能できて
満足でもありましたが、ライナーとエレンの戦いは少しやりきれないものがありますね。
同期であると同時に裏切り者である。ライナーやベルトルトの心境を知りたいものです。
あと、獣の中身はまだ名前さえ知らない。どんな人物なのだろうか?と色々妄想が働きますが、
進撃の世界では珍しい年齢は高い方なのではないでしょうか。
それで、大人の女であるイブキを見かけ、自分達の目的とは別の興味がわいてくる、
ということも有り得るのか?と妄想しました。イブキは妖しく美しい隠密ゆえ、大人の男の好奇心を
くすぐる。今のところ、それを独占しているのはエルヴィンだけです。
あくまでも私の妄想の進撃ですが…。
また次回はどうなっていくのでしょうか?
私の妄想力も発揮させ創作に鍛練していきます。
来月もよろしくお願いします!
お手数ですが、コメントがございましたら、こちらまでお願いいたします!
⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2
★Special thanks to 泪飴ちゃん(•ㅂ•)/♡love*
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