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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

―暴走の証明― 分隊長と兵士長の一日

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  1. 1 : : 2015/09/30(水) 01:52:52



    ~まえがきてきな何か~




    どうも、お久しぶりです。



    季節の移り変わりに伴いまして何やら書きたい物が
    またまた膨れ上がってしまった為、やりかけと
    並行しながら書いてしまいました。しかしやはり
    私的にもまだ最後まで書ききっていないものの
    妨げになっても宜しくないので、今回のコレは大分
    短く終わらせる形に落ち着くと思います。
    ・・・またの言い方を中途半端な切り方とも言いますか。

    時間が・・・時間が欲しい・・・!私が思うに、
    時の部屋というのはおそらく全人類が一度は夢に
    思い描く空想であるとは思いますが・・・アレは確実に
    修行の為にある部屋じゃなくて某鳥山先生の
    締め切りに間に合わせたい願望が作り出した
    理想の物件ですよね・・・・

    ・・等とどうでもいい下らなすぎる前置きは
    置いておきまして・・・以下、重要な注意事項と・・


    当SSのような何かの方向性の説明とさせて頂きます。




            ※ジャンルについて※



    リヴァ×ハン または ハン×リヴァ となるものです。


    永らく手が出せなかったカップリング。
    理由は至極単純なものでしてこれまでの・・・最新巻や現行の
    別マガのような段階まで掘り下げられていない段階では
    全くといって良いほど兵長の過去や人間性が判然として
    いなかった為・・・・・

    簡単に言って兵長らしくない兵長を書ける様な
    モチベーションが産まれなかったのが一つの理由でもあります。
    (現パロで7つもやってるじゃねえか..ですって・・?ご尤もです)


  2. 2 : : 2015/09/30(水) 01:54:48


              ※注意点※



    1.著しいネタバレ要素を含みます・・が、創作要素も同様に
      混同される為その辺りの認識がとてもややこしくなります。

      ネタバレ範囲は・・・原作最新巻・・から、珍しく

      “別マガ最新号”まで喰いこみます。之より以下、
       ネタバレ要素満載でお送り致しますので、
      お目を通されていない方には申し訳ありません。



    2.色々と設定に無理があったり、原作と食い違いがあったり。。
     堂々としたキャラ崩壊があったりします。

     とりあえず兵長が兵長らしくないです。設定の相違に関しては
     ・・・まず原作世界でアレだけの濃密出来事が僅か3ヶ月間の
     出来事だったという事と・・・

     “いや。。。!三ヶ月はまあ、まだ良いとして・・・
      膝に矢を受けただけで兵士生命に充分響く一生モノの傷が
      残るであろう現実を無視してハンジさん・・なんかもう普通に
      ギプスも外して“ピョン”とかいう擬音を立てながら
      飛び跳ねてないッスか・・・!?気のせいッスか・・?!?
      普通に団長みたいになってもおかしくない筈ですよね・・?!”

     という・・正に原作そのものが突っ込み要素満載な
     展開でもあるため、そこは多めに見ていただけると助かります。




    3.まず心配ないと思いますが、ご感想などのレスに関して。

     最近全体的に登録ユーザーさんとの邂逅が少ない今、
     恐らく杞憂に終わると思いますが・・・いつも通りレスなど
     頂けるのは私自身大歓迎です。が、お話を書き終えるまでに
     いただけたレス等は読みやすさ重視で、レスを返させて頂いた
     一定時間後に非表示にさせて頂く事になると思います。

     若しくは↓のグループまで。

    http://www.ssnote.net/groups/541/archives/3




    4.改行形態、描写の変化。

     ご覧の通りで、またまた携帯画面幅ではない改行と・・・

     台詞前に発言者の名が入らない仕様です。
     まあ、殆どの発言者の喋り方に特徴があるので
     今回は必要ないと判断しました。





    5.性描写、性的表現の有無。

     毎度の事ですが自重致しません。すみません。

     そういった描写有り有りで・・・いくつもりなのですが、
     正直な話兵長はハードルが高い為私如きが下手に手を
     出しても色々と痛い事になりそうですのであまり
     兵長自体ははっちゃけないかと思います。

     ・・でも、そういった発言はかなり飛び出すと思います。



    6.暴力描写、暴力表現の有無。

     上に同じですが・・兵長と、若干ケニー叔父さんとかが
     絡んで来る為こちらも当然有り有りです。
     要、注意です。





    7.誤字脱字!!!すっごいですね!!最近!!!


     どうにも本文編集機能を充てにするあまりか最近目に余る
     誤字脱字を見つけては自力で駆逐する日々。

     しかし私一人では当然殆ど見落としがちですので、
     もし見つけられてしまいましたら、申し訳有りません。



    8.タイトルについて。

     またもや某サブタイトルとは何の関連性もありません!あしからず。



  3. 3 : : 2015/09/30(水) 01:55:59















    ・・・そこは調査兵団兵員宿舎の最寄りに在りながら
    同宿舎、及び兵団とは関連の無い居住区として
    使われている棟割長屋の一室。




    王政へのクーデター決行に加え壁内に於けるほぼ全ての
    権力構造にメスを入れる執行人となった調査兵団上層部

    (中央憲兵による謀略ともいえる指名手配に
    最後まで抵抗し、これを退けた者達全員が
    現在では一応そのような立場に置かれている。)

    の兵士は・・・例え壁の中で大多数の民に人類の
    救世主と褒め称えられる事があっても、それが
    壁の中に暮らす人類全員の完全な総意ではない以上、


    休養を取ろうにも迂闊に周囲の者にその寝床を知られる訳には
    いかない。彼等がそれを数多の艱難辛苦と計り知れない
    犠牲の末に何とか成し遂げたように・・・



    そうしている内にも新たな王政復権を渇望する者達の
    闇討ちがいつ彼等に牙を剥くとも知れないからだ。




    ・・・ともすれば、当然、中央憲兵対人部隊との
    苛烈な戦闘の最中、片腕をしばらく使えなくなる程の
    負傷を負った“彼女”もまた・・・・・



    療養時にはこうして身元が割れない様に
    配慮された建造物で羽を伸ばす必要があった・・・・・



  4. 4 : : 2015/09/30(水) 01:57:46




    ―新生・特別作戦班・療養宿舎―






    チャッ・・・・・






    「・・・調子はどうだ・・・。

     普段から落ち着きのないテメェの事だ。幾ら安静にしてろと
     言われても流石にこうしてじっとしてる方が堪えるか」





    「調子だって・・・?そんな質問をしなきゃ分らないような軽い怪我じゃないよ・・・。

    普段皆の前に出る時はあれでガンガンに麻酔と鎮痛剤効かせてるんだ。
    それらが切れそうでこうしてじっとしてなきゃいけない今は・・・・・それはもう、
    君風に言えばクソにまみれて尚余りあるような最悪な気分だよ。」




    「・・・・だろうな。」

     ギシッ・・・・




    部屋の中央に位置する寝床には“何故か”負傷していない方の腕と
    胴体を床に縛りつけられる格好で拘束されているハンジの姿が。






    「何たって腕を串刺しにされてそのまま背中から岩壁にポイされたんだ。

     薬効いてない時なんて身動き一つするたびに初めてを失う
     生娘の痛みを味わってるかの様だよ」





    「迂闊に接近したお前が悪ぃ。アンカーを襲撃者に向けて射出するなんざ
     俺達の遠足じゃ基本中の基本だろ・・・何であの場でお前がそれを
     すっかり失念してやがったのか・・・そいつが一番の謎だ。

     ・・・あと、失っても居ねえモノの痛みをお前が知ってるとは
     到底思えねえんだが」






    「それもそうか・・・・(ギシッ・・)なあ、・・・・リヴァイ?」






    「・・・・なんだ。」














    何故彼女が現在このような処遇にあり、



    そしてどういった経緯を経てリヴァイが
    こうしてこの場に居なければならないのか・・・




    話はその前日へと遡る。













    「・・・言われた通りに一日の空きを確保した上で
    こうしてお前の言づてを聞きに来た訳だが・・・」






    自身に課せられる事になる今日一日の予定すら
    現時点では判然としない為、そんな不安要素に対する
    不信感の現れか・・・彼の目には明らかな疑念の光が
    ちらついていた。





    「ああ、済まなかったな。お前に限らず皆
    多忙の限りに動き回らなければならないこの時分に。」





    しかしそうした盟友の刺突感がある視線すらも何という
    事もなく受け流すエルヴィン。





    「・・・そういう前置きはいい。とりあえず本題に入る前に
    一つだけ"こっち"の前置きを聞かせろ。」





    「・・・・・・?」







    「今回俺をこうして呼びだした要件って奴もひょっとして
    ・・・いつものお前お得意のアレじゃねえだろうな・・・」





    徐々に心の奥底に仕舞い込んでいた不満の声で
    詰問を開始するリヴァイ。





    「・・・?お得意のアレとは何のことだ」






    「とぼけるんじゃねえ。今日の俺の服務日程が
    他の奴らに一切関知されてねえ。つまり今日の俺は
    完全な非番扱いになってやがるんだ。・・・その上
    お前がこの後向かってくれと言ってる場所は・・・」





    「まあそう深く勘繰るな。今お前が言ったままだが
    ・・・"非番扱い"ではなく、そのまま非番と受け取って貰って
    大いに結構だ。この所皆疲れが溜まってるからな


    ・・・・如何に一個旅団に差し迫る働きと謳われるお前でも・・
    それは同じ筈だ。・・・・違うか?」




    エルヴィンの言葉が本心に基づくものであることは
    間違いない筈であるが・・・それでも尚疑いのまなざしを
    改めようとしないリヴァイ。



  5. 5 : : 2015/09/30(水) 02:00:34



    「・・・・そいつは嬉しくて涙が出そうな心遣いだな。

    ・・・惜しむらくはその休日が何故か俺の自室の掃除に
    費やす訳にいかねえって所だが・・・さて」





    「・・・・・・」







    「もういいだろう。そろそろ本題に入ってくれ。
    俺は何故・・・今日こうしてお前の所に呼び出されてから
    次に向かう場所に一日中拘束される羽目になるんだ?

    この件について、周囲の奴らには、見事に事情が
    伝わってねえばかりか行き先に関しちゃ守秘義務に近い
    何かが敷かれてやがる。」





    「・・・・・・・・」






    「俺はこんな状況を今までごまんと潜ってきた。
     …主にお前の大好きな博打に付き合わされるその度にな。


     率直に説明しろ。・・・今回のコレは・・・、一体何だ?
     お飾りとはいえ王政のすげ替えも一応は騙し騙し上手くいって
     ・・・今はとりあえずひと段落ってとこじゃ無かったのか・・・?

     まだ何かこそこそとドブネズミみてぇに隠れて地べたを
     這い回りながら片づけなきゃならねえ仕事が
     残ってるってのか・・・・?」






    「それはお前の思っている通りだ。過程はどうあれ
     私は街頭に吊されずに済み・・・お前達特別作戦班、及び
     我々調査兵団と、その意志に応えてくれた者達のお陰で
     ・・・・今この状況がようやく形を成している。

     九死に一生とは正にこのことであり・・・
     我々はやっとの思いで掴んだこの一生を・・・・
     どうあっても棒に振ることはできない。」






    「・・・・立場上士気の低迷にもつながりかねねぇからな。
     普段はコレで愚痴にも相当気を使っている訳だが・・


     お前の言う通りだ。俺も正直疲れてんだよ。
     誰が言い出したか知らねえが俺の命もお前等の
     命も違いなんざ無ぇ。4000個もあるってんなら
     一個くらいくれてやっても良いが・・・・中央憲兵(連中)との
     ドンパチで一体何度脳天を吹き飛ばされかけたと思う・・。

     あいつらは・・・本当に運が良かったし、腕も良かった。
     あの歳で早くも公認前科持ちになっちまったのは
     気の毒で仕方がねえ。」





    「・・・・・・つまり・・?私の要件はともかく・・・・リヴァイ、
     お前は私に対して何が言いたい・・・・?」





    「聞いてて分かんねぇか。少しで良いから羽を伸ばす
     時間をくれって言ってるんだ。このまま今日も
     訳の分からない事に俺の一日を浪費しようってんなら
     ストを起こすぞ。
     
     ・・・・もしくは指示や命令なら分かりやすい内容を言え。
     そうすりゃ何も文句は言わずに従うとな。


     俺が言いたいのはつまりそういう事だ」






    「・・・もとよりそのつもりだ。・・・とはいっても結局
     その内容に関しても・・・表向きはお前の"休暇"と
     いうことになるがな。・・・・望み通り、
     本題に移らせて貰おう。」






    「(溜息)」




    漸く自らの必要とする簡潔な情報を得られる段に
    移ったかとばかりに肩を落としながら息を吐くリヴァイだったが






    「ハンジにはもう会ってきたのか」






    脱力したのも束の間、エルヴィンの唐突な問いかけに一瞬だけ
    その精細な眉根を微動させる。





  6. 6 : : 2015/09/30(水) 02:03:02


    「昨日見舞いに行ってきたばっかだ。哀れにも
     今回の対人戦闘中唯一の重負傷者だが

     ・・・アレは同情の余地がねえ。壁外で自分が当たり前に
     やってる事を相手が思いつかないとタカを括った
     あいつが悪ィ。お陰でテメーらが炊いた煙の中で
     腕を串刺しにされたあげく文字通り薫製にされかける
     散々な目にあったらしいが・・・あれで
     くたばらなかっただけでも大した悪運だ。」 

       




    「そうか・・・・。知っての通り、そして見ての通りの
    重傷な訳だが・・・・・」







    「片腕がアレじゃあ当分戦線への配置は無理だろ。
     誰かと一緒だ。・・奇しくも一番厄介な連中共との
     いざこざに片がついてからで良かった。

     お前の後釜って事で考えていくなら次に控える
     奪還作戦には是が非でも同行してもらわねえと
     色々不都合がある。それまでは絶対安静として・・・」





    「ふむ・・・・。」






    「しかし、実際のところ怪我の程度はどうなんだ。

     俺は俺で急がしかったからな。・・・・あいつの近くまで
     寄って容態をよく確認した訳じゃねえし、
     昨日見舞いにいった時点じゃ麻酔が回って殆ど
     痛みは無かった様だが・・・・・」




    リヴァイの言葉に少々顔を曇らせるエルヴィン。








    「・・・・実はな・・・・その麻酔が問題なのだ」






    「・・・・・・俺はあの手のモンを体に入れようとした事が
     無いから分からねえが・・・まさか」






    「ああ・・・通常投与の麻酔だけではあまりにも痛んで
     仕方がないというのでな・・・」





    ハンジに施されたものは左腕の局所麻酔のみならず、
    半身をひねる度に走る激痛に耐えかねた末に
    沈痛用途にも使用される"ある”中枢興奮作用剤が
    用いられていた。





    ―しかしここで言う"耐えかねた末"という表現は主に・・・





    「まあ、・・無理もねぇ。そんなモンをぶち込まれた
     経験が無いから確かな事は言えねえが・・・

     余裕で石壁に突き立って人間二人分を支えられる
     把持力でもって食い込むアンカーを・・・

     腕に食らっただけでなく、あろう事かそのまま
     ぶん回されてから叩き付けられて不時着だからな。


     ・・・本来なら完治するかどうかすら怪しいモンだが・・・」





    「経過自体は思ったほど悪くない。・・・本人の談だがな。
     それよりやはり身動きの度に走る激痛と、その際の
     断末魔があまりに酷いとのことでな・・・・

     ・・・・・それでだ」




    「・・・・、まさか経口摂取の方は・・・副長(あいつ)が・・・・?」





    ・・・彼女の苦痛に悶える様を見るに見かねた腹心、即ち
    モブリット・バーナー副長にとって耐えられない物、
    といった意味であった。





    「・・・・元々が沈痛用途というより出撃する兵士の
     精神を鼓舞させる、士気のふれ幅を無理矢理引き上げる
     ・・・そんな気付け薬に近い代物だ。

     そもそも本人はその薬自体の効能を正確に把握して
     いたから・・・投与を拒絶していた。
     "性欲をもてあますからイヤだ"・・・・とな。


     ・・・・しかし副長の心配もさることながら・・・
     あの時はロッド・レイスの巨人から壁を死守しなければ
     ならなかったりと・・・とにかく猶予がなかった。


     結果沈痛作用が万全に働いてくれていたお陰で
     彼女のアイディアはあの場で最大限の効力を発揮し・・


     ――我々はオルブド区の防衛に成功した。


     この期に及んでこの事実と功績を軽視する訳にも
     行くはずがない。」





    「・・・つまりお薬の投与は適切であり適用であったと
     ・・・・建前上お前はそう言いたいんだろ・・。しかしだ。

     絹に包まず言っちまえばそんなモン、
     ただのヤクじゃねえか・・・地下街でさんざ見てきたから 断言できるぞ。

     あんな物は人間の餌にしていいもんじゃねえ。
     そもそも元から"ああ"な奴がその上お薬で
     ハイになっちまったら手がつけられねえんじゃねえか」





    大して表情に己の感情を出さないリヴァイではあるが・・・
    その実、この時点であまり内心穏やかでは無かった。




  7. 7 : : 2015/09/30(水) 02:06:40





    「・・・・お前の見立て通りだ。もう既に問題は発生して
     ・・・つい先日内々に処理して彼女の個室を別に
     移したばかりだ」






    リヴァイの懸念が的中した事を淡々と告げるエルヴィン。






    「・・・・分かったぞ。つまりお前は・・・・ただでさえ
     普段から落ちつきが無くて手の付けようがない奴が・・

     更にクスリで自制の利かない狂犬みてぇになった
     のを俺につきっきりで見張れと。

     ・・・・そう言いたい訳だな?」





    「・・・大体そうなる。」






    「~~・・・・・。」






    重く深い溜息が、二人の間に横たわるように流れる。






    「・・・・・それは命令なんだな?」






    「・・・・リヴァイ。私の本心も少しは察して貰えると
     有り難いんだが・・・今回のコレは別段誰に非がある
     と言う訳でもないところに端を発する事案だ。


     ・・・・彼女にもいずれ次期団長として私から
     教えることは山程ある。・・・それこそ今回の様に
     寝たきりで居るはずの人間同士、見張りの任は
     私の方が適役であったはずで・・・私自身そうする
     積もりで居たんだ」






    「・・・・・・だがそれが敵わない様な事になってると」





    口調自体は落ち着いて居るものの、言葉の内容自体は
    やはり直接ふれておかなければいけない部分を遠回り
    しているせいか、若干のもどかしさを隠しきれず
    苦悩する様子のエルヴィン。


    勿論、普段から誰に対しても平静を崩さない
    不動の姿勢と表情である彼から、そんな違和感を
    察する事ができたのは・・・目の前にいるのが
    リヴァイだからであり、他の者にはそこまでの
    心情を汲み取る事は・・・在りし日の調査兵団
    分隊長格の一人、ミケ・ザカリアスでもなければ
    難しかっただろう。




    「・・・・悪いな、見張りの任を一任する前に・・・
     まず先日発生した事案の内容から・・・お前には先に
     説明しなければいけないところだった。

     ・・・・事が起こったのは先日、つまりお前が見舞いに
     行った後の事だろう。彼女とも特に親交が深い
     104期卒の三人が見舞いに行った時だった。」






    「・・・・104期の・・・三人。」





    説明をされずともリヴァイの脳裏に浮き上がる
    その三人の顔。





    「・・・・ああ。エレン、ミカサ、それにアルミン。
     あの三人が見舞いに行った時だ。

     ・・・部屋に入室した時点でミカサは既に彼女の言動が
     所々おかしいことに感づいていた様だが・・・・
     三人が退室する直前になってからだ。

     部屋を後にしようとした三人に向かって、彼女が
     こう言い放ったそうだ」





    「・・・・・・・・・・・」





    「“今どうしても直接伝えたいことがある”、
     一人はこの場に残り、後の二人で私とお前、つまり
     彼女の言ではエルヴィンとリヴァイを呼んできては
     もらえないだろうか・・・・と。」





    「・・・・おい。俺は昨日そんな呼び出しを受けた
     覚えはねぇぞ」






    「・・・だろうな。実際伝えたい用事があるというのは
     ・・・とっさに口を突いて出た文句だったらしい。


     ・・・この発言に一層募っていた不信感を強くした
     ミカサは・・まずこの部屋に一人残す理由を問いただす
     訳だが・・・そこは、

     “傷が痛むあまり一人でじっとしていると
      気が滅入ってしまいそうだから”

     ・・と主張していたそうだ。すると彼女の性格なら
     ・・・どうすると思う」





    「完全に目が血走ってるであろうメガネの変人の前に・・・
     アイツがエレンを置いてく訳がねえな」





    「察する通り。彼女は一旦・・・。
     とりあえず、一旦は自分とエレンで私達2人への
     伝令役を申し出た。退室直前、"何かあったら”
     靴底でできるだけ大きく床を打ち鳴らすように・・・
     残される事になるアルミンにだけ伝えてな・・・・。」






    「・・・・・・・・・・・」





  8. 8 : : 2015/09/30(水) 02:09:26







    「かくしてミカサ(彼女)の懸念は現実の物となって
     アルミン()に牙を剥いてしまう事となってしまった。


     ・・・無論ハンジ(彼女)といえど四六時中鎮痛剤の作用で
     興奮状態にあるわけではない。その時は・・・
     たまたまピークにさしかかってしまっていた
     だけだったのだろうが・・・・・

     気分が落ち着いてからは自刃すら厭わないと言うくらい
     後悔の波に苦悩していた」





    「・・・別に説明しなくても大体察することは可能だが・・

     一応聴いてはおくぞ。認識の齟齬があっても
     困るからな・・・・。つまり、ハンジの奴は・・・・


     部屋に残されたアルミンを襲っちまった訳だな?
     結果的に・・・。ミカサの読み通りに。」






    「・・・・ああ。当然すぐに物音を聞きつけて
     突入できる位置に彼女が控えてくれていたおかげで
     未遂で済んだわけだが・・・・」





    「そんな簡単な話で済むか。俺なら一生モンの
     トラウマになってるぞ・・・・」






    「・・・だろうな。かろうじてアルミンも外に
     異変を伝える所までは体の自由が利いていた様だが…

     ミカサが部屋に突入した時点では既にどうやってか
     彼は意識を喪失させられた後だったそうだ。


     ・・・・片腕の使えない状態とは思えないほど
     その動きは迅速だったらしい」





    「薬中と酔っぱらいに基本痛覚はお留守だ。
     ・・・・おまけに理性もな。あいつじゃ・・・

     例え両腕使えないハンジ相手でもどうにも
     なりゃしねえだろうな・・・・・」






    「・・・・ともかくそう言うことだ。彼らに対しては
     ハンジが泣いて平謝りしていたのでそういった
     確執はおおよそ払拭されているが・・・・

     当然そんな事では他の面子にうかつに見張りを
     任せるわけにもいかない。最初は話も合いそうな
    “エレン”あたりにこの任を請け負ってもらいたかった
     訳だが・・・ミカサによってその案は当然却下された。」





    「・・・・で、片腕無いお前では同じ条件でも
     簡単に組み伏せられちまいそうでおっかねぇから・・・

     ・・・・俺に見張りを頼みたいと・・・・これが
     今日の俺を笑い殺そうって算段のお題か・・?」






    「笑い話で済むならこうして呼び出しなどしない」





    至って冗談を口にする様子もないエルヴィンを
    至って辛辣な目つきでなじるように見下げるリヴァイ。


    その眼に宿る光は・・・まだ何か。何か目の前の男に
    自分の与り知らない何かを警戒している証か。






    「・・・・・本当にそれだけか???」






    「・・・・何が言いたい」






    「何ってそれはお前・・・。そのままだ。

     俺ならいくら薬中に陥って尋常ならざる力を
     発揮できるクソメガネでも難なく拘束できるから。

     ・・・なんていうクソ詰まらない結論だけで
     俺をこの役どころに落とし込む事に決めたのかと・・・


     俺はお前に・・今そう訊いてるんだ」






    「・・・・他に何か理由があるように思えたか?」




    質問に対して首を傾げる旧知の盟友であり
    戦友であり、上官でもある目の前の男を睨むリヴァイの
    三白眼が、瞬間的に更にその幅を細める。







    「俺がお前に訊いてんだぞ・・・・なあ、お前今・・・

     俺の前には"エレン"を当て馬にしようとしてたと。
     確かにそんなボロを出した気がするんだが」





  9. 9 : : 2015/09/30(水) 02:14:33






    ――当て馬。





    以上の言い回しに若干表情を曇らせるエルヴィンの
    隙を・・・リヴァイの眼光は確実に見逃さなかった。





    「・・・・やっぱりか。一言言わせてもらおう。

     俺は・・そんな理由であいつのお守りを任されるのなんざ
     更々御免だ。まさかとは思ったが・・・そりゃお前、
     ミカサ(ヤツ)が見過ごす訳があるか。

     ストレートに頭を下げてお願いでもしてみろ。
     確実に顔面に拳骨が飛んでくるぞ。審議所で奴が
     俺にそうしようとした様にな」





    「・・・・・・・」





    無言にてリヴァイの遠回しな説教を聞き流すエルヴィン。
    しかし無表情に見えてリヴァイの言いたいことは
    確実に彼には伝わっている様子だ。



    つまりリヴァイの考えていた自らの役所というのは・・・





    「壁の外からの血筋・・・・いや、アッカーマン(おれたち)の血か・・・・。
     お前がこの期にあわよくば株分けしときてえと、
     そんな風に考えてやがるのは。」




    「・・・・ぁあ。この際変な隠し立てはするまい。

     正直に言ってしまおう。“王の記憶改竄”とやらに
     現状分かっているだけで太刀打ちできるのは・・・

     壁の内側の大多数である我々を除いて、
     お前達のような、限られた人種だけだ。

     ・・・・本来なら時間の許す限り子孫を残す働きに
     尽力して貰いたい所なのだが」




    「・・・・・悪ぃ、冗談で言ってるわけでもないのは
     汲んでやるしお前がそういう人間じゃないってのも
     分かっちゃいるが・・・もう片方の腕も折っていいか」

     ピキッ・・・・






    響き渡る快音は、彼の頭部から鳴り響いた。
    その両顎に、相当な負荷がかかる歯軋りを行った
    証であろう事が伺える。






    「真面目に言っていると理解してくれるならそこまで
     怒りを露わにすることも無いだろう。こればかりは
     我々にはもはやどうすることも出来ない問題だ。

     ・・・・何か間違っているか?」






    「・・・・・・・・・」







    「お前とて全く考えが及ばない訳ではないだろう。
     いくらその危機が一時的に去ったとはいえ・・・

     "王による記憶の改竄"を前にしては我々がいかに
     身を粉にして成し遂げた国崩しも・・・・全く
     意味の無かった物になってしまうのだ。


     いくら途方がない話とは言え・・・リヴァイ。」






    「・・・・・・チッ」





    まるで我が子の婚期を本気で心配する親のように・・
    その顔に張り付く表情が困り果てたものに変わる
    エルヴィン。


    そしてその顔を直視出来ず忌々しげに舌打ちしながら
    そっぽを向くリヴァイ。





    「お前にもそろそろ伴侶を見つけるなり愛人を捜すなり
     して貰わないことには正直困る。

     ・・・お前の事だ。流石に娼館に足を運べ等と私から
     命令する訳にもいかないしな」





    「・・・・そんな命令を冗談でも下してみろ。
     俺は迷わず誰かさんの()体をバラして畑の肥やしとして
     新たな人生を与えてやるだろうな。・・・それとも
     壁の外の方がいいか。」





    「冗談でも言えるものか。お前が衛生面を殊更気にする
     理由くらいは・・おおよそ把握している。

     娼館という言葉を例え冗談半分でも持ち出したのは
     悪かったな。許してくれると有り難いが」





    「100歩譲って許してやる。・・・・で、どうするんだ。
     見張りが必要って事は・・メガネは今も拘束されてる
     訳だろう。拘束したままにしておけないのは色々と
     下の世話の観点から考えても納得できるが・・・・

     何か間違いが起こらない様にするなら
     別に女の見張りを付けりゃそれで済む話じゃねえのか。」





    「・・・そうなると体力的な面で適任が居なくなる。
     如何に手負いとはいえ自制心と抑えを失った彼女を
     取り押さえられる女性兵士と言ったら・・・・

     ミカサ位しか現状候補は居ないからな」





    「・・・・・じゃあ何故そうしねえ」






    「・・・・・・・」






    「・・・まさかとは思うがさっきの話・・・割とお前としては
     真面目に画策した上での謀だったってんじゃ
     ねえだろうな・・・・・」





  10. 10 : : 2015/09/30(水) 02:18:06



    「・・・現状彼女へ団長職を一任するにはあまりにも
     本人の落ち着きが不足しているという懸念は有るにはあった。
     これで子宝の一つにでも恵まれれば多少躁々しさに
     下方修正が入るかといった打算も・・・・」





    「お前、割とえげつねえ事をさらっと言いやがったな今」






    「これで色々と真面目に悩んでるんだが」




    「・・・・・分かった。もういい。根競べは俺の負けだ。


     これ以上お前の画策するアホみたいなメガネの家族計画に
     ついて話し合ってても何の実りも無ぇ。俺が折れれば
     一先ずこの場の面倒は去る訳だ・・・。

     要はアイツの痛み止めが効力を失くすまで見張ってればいい。

     そう言う事だろう?今日一日の間で大凡落ち着く
     目途も立っていると。」




    「理解が早くて助かる」




    「だが言って置くぞ。俺はあくまで奴の見張りを買って出た、
     それだけだ。奴を身重にさせて行動に制限を設けようとする
     企みに加担する気はさらさら無ぇ。・・・いいな。」





    「行動を抑制するのみならず、片腕の完治まで
     負傷兵としてじっとしていなければならない期間をせめて
     出産の期間として有効活用できないか、という狙いも
     あるにはあったのだが・・・・」




    「色々と隠し立てする必要が無くなって発言が
     ストレートになってきたな」





    「本当ならば最も確実な株分けとしてはお前とミカサが
     結ばれてくれるなら間違いなく,,
    「おい、それ以上先を言うな。本当にバランスよく立てる様に
     もう一本削いでやってもいいんだぞ」




    「・・・・これはこれで真面目に考えるべき事だからな。
     だからこうしてしつこく口にしている。・・・ともかく
     真面目に考えておいてくれ。常に戦いに身を投じなければ
     いけない以上・・如何にお前でも何時その生涯に幕を
     下すことになるか・・・そんな事は誰にも想像できない」



    「・・・・・・」






    「ミカサにはエレンが居る。あの二人なら・・・
     エレンの実の親が壁外からの来訪者との疑いが強い
     彼のグリシャ・イエーガーだというのなら・・・

     アッカーマンの血筋と併せても相違なく
     支配の影響を受けない子を残せるだろう。」




    「・・・そんなモン、俺ら一代の間でどれだけ種馬宜しく
    奮闘した所でどうにもなるとは思い難い限りだが」





    「しかし直視を避けて通れる問題でも無い。
     ・・・・つまり私がお前に言いたい事はこうだ。

     “孫の顔を見せられるくらいには頑張ってくれ”」




    「・・・お前はいつ俺のオヤジになったんだ」
















    ――こうして時は今に至る








  11. 11 : : 2015/09/30(水) 18:41:10






    「ねぇ・・・・リヴァイ?」




    「・・・何だ」シャリ・・シャリ・・




    傍らで餞別にと持ち寄ったリンゴの皮を剥くリヴァイに
    寝床に縛り付けられたままの格好でハンジが呼びかける。


    完全に視線と意識は自身の手の中で外皮を失っていくリンゴと
    その表面を滑らかに這う様にして滑っていく銀色の刃先に
    向けているかのように見せるリヴァイだったが、

    その実自身に向けられた声色のトーンが
    一段落とされている事に気付く。




    拘束帯(これ)さぁ・・・はずしてくれない?窮屈で仕方ないんだ。」





    「コイツを剥き終えたらな。・・・今見ての通り刃物を
     扱ってる最中だ。・・・何か間違いが起こっても困る」
     シャリ・・シャリ・・・




    「・・・・あんたがそんな事言うなんて珍しいじゃないか。
     今私を野放しにしたらその刃物が何かこの場で危ない
     用途に使用されると・・・そういう心配をよりによって
     あんたがするんだ?」




    「・・・・・」





    「・・・・悪い、なんか・・・ちょっと私、
     昨日辺りからたまにおかしくなってるみたいなんだ・・・

     変な事言ってたらごめん。それに・・・これお願いしたの
     考えてみれば・・・私だったわ・・・。」






    「少し待ってろ。もう剥き終わる」
     シャッ・・・・ コトン・・・





    「いや・・いいんだもう。さっき言ったの・・・
     忘れてくれるかな。私がこの後何言っても・・・、、
     あ、いや・・・
     
     流石にトイレくらいには行かせて貰いたいけど
     それ以外の時にこれを外すのは・・・本当に・・・」





    言葉を発する度にその表情に影を落としていくハンジ。
    しかしそんな彼女の事などお構いなしに・・・





    「エルヴィンから訊いたぞ。収まりが利かなくなって
     アルミンの奴を襲っちまったんだってな」ズッ・・


     パラッ・・・・




    剥き終えて4等分に切り分けたリンゴをテーブルに
    置いたリヴァイは・・・一切の迷い無くハンジの胴体と
    片腕をキツく拘束していた帯と綱をナイフで切断して
    取り払ってしまう。





    「あれ・・・・?オイ切っちゃったの!?
     どうすんのさ、これじゃもう縛れないじゃないか!?」





    「・・・・意外だな・・お前にそういう趣味があったとは
     初耳だが。この際だから訊いておくが・・・

     縛られるのがいいと言う奴は・・・一体何が
     良くてそれを望んでやがるんだ?
     流石に単純な痛みや苦痛だけを楽しんでるって
     訳でもないんだろ」



    「・・・ここは顔を真っ赤にして私にはそういう
     趣味がないと猛反発するべき所なんだろうけど・・・

     最近気づいた事だけど私にはどうにも
     相手をいたぶる事といたぶられる事のどちらに
     対しても興奮する性分を持ち合わせているって事が
     分かった訳で・・・。冷静にその意見に言葉を
     返させて貰うとだね・・・被虐趣味がある人って言うのは
     縛られることそのものだけを楽しんで居るにとどまらず
     そんな自分の姿が衆目に晒されることにも同時に
     快感を見...
    「・・・・・・・それだけ言が回るなら具合の方は心配無さそうだな。
     もう充分分かった。お前独自のマゾ考察はその辺にして
     食欲があるなら早いところ食っちまってくれ。
     折角形まで拘って切り揃えてやったんだ。
     
     置いといたら茶色くなっちまうだろうが」




    机に置いた皿を顎で示し、再び椅子に腰を落とす
    リヴァイとその皿を認めるなり、、、




    「おわっ!可愛いなこれ!!ウサぴょんか!?
     4羽並んでこんなに綺麗に!!くっそーー、
     食べちゃうのが勿体無いくらいだ!モブリットが
     この場にいればスケッチして貰うのに!!!」




    ・・・・といった様子でこの場に最も居て欲しい
    部下の不在を本気で悔やむハンジ。



    「・・・・あいつはお前のこなすべき雑務まで率先して買って出てるんだ。
     もしこの場にいてもそんな下らない事に労力を割かせてやるなよ」




    「・・・そう・・・だな・・・うん。あいつにも大きな苦労を
     掛けてるんだ・・・。。ただでさえ対人部隊とのあれこれで
     皆居なくなって辛い時だってのに・・・私は・・本当・・・バカだな,,,,」

  12. 12 : : 2015/09/30(水) 18:42:10





    「・・・・おい、そっちの方向にあまり頭を抱えるな。

     ・・・・変だな。エルヴィンの話じゃお前が盛られたのは
     上り調子に働きかける類のモンだと聞いてたんだが」





    いつも以上に張り合いが無く、言動に関しても妙に
    マイナス寄りの思考に傾いているハンジを見て、

    次第に鬱屈に縮こまろうとする彼女を制するリヴァイ。




    「・・・なのかもね・・・だから・・・極力気持ちが明るく

     ならない方に考えてないと・・・怖くて・・・

     仕方ない・・・んだ・・・・」





    「・・・・・・・」





    「一度気分が昂ぶり始めると・・・藁に火を放ったように
     一気に目の前が見えなくなってしまうんだ

     もう・・・もう嫌だよ・・・早く抜けて欲しい・・・・・

     こんな怖さを味わうくらいならまだ痛みに寝汗をかいて
     跳び起きたりしてる方がずっといい・・・・!」ガタガタ・・





    本気で苦悩する彼女を前に暫し無言の逡巡を続けた
    リヴァイが・・・静寂を破るのに用いた言葉は。




    「言ったろう。妙な事に頭を抱えるな。
     
     何故俺がお前の縄を解いたか、少しは考えろ。
     ・・・そして理解できたならそれ以上余計な事を
     考えるのは止せ。元々お前のお(つむ)は寝ても覚めても
     巨人共の事を考えるために出来てるようなモンだろ。」





    「簡単にッ・・・・簡単に言うなよお前っっ!!!昨日の話
     ・・・聞いたんだろエルヴィンに!!?私はウソを
     ついてまであの歳の子らに手を出したんだぞ!!?

     未遂だとかそんな甘っちょろい問題じゃない!!
     アルミンにはっ・・・本当に済まない事をしてしまった
     ・・・・!!かわいそうに・・・きっと一生物の心の傷に
     なった事だろう!!」



    ――しかし彼女の激情を誘う一言にしか成り得なかった。




    「ああ、ちゃっかりしっかり聞いた。

     その腕で相手が“あの”アルミンとはいえ・・・
     よくそんな素早く落とせたもんだな。大したモンだ。

     ・・・本当に意識がなかったのかお前」





    「意識ならしっかりあった!!しかしそこが本当に
     薬の怖い所なんだ!!意識が朦朧とする事もなく
     はっきりと見通せる視界の中で時間の流れは
     恐ろしく長く感じる・・・!しかし理性と呼べる物は
     そこに一切持ち込むことが出来ない!!!

     アルミンに変則三角締めを決めようとした時だって
     体の組み方まで全て自分の頭で理解しながら
     動いてた・・・・!今すぐやめるべきだという言葉すら
     頭の外に追いやってね・・・・・・!

     私の頭の中には・・・とかく経験の無い“それ”に
     対する好奇心と渇望だけしか無かった・・・・!!
     思い出しただけで吐き気がするんだ・・・・」





    「貴重な体験談だな。参考になった。なら尚更
     俺がお前と同じくらいの重傷を負ってもそいつを
     煽るのは遠慮するとしよう・・・・正気に戻ったときには
     俺は斬り裂きケニー2世とか呼ばれてるかもしれねぇ」





    多少無理のある内容ではあるが、かろうじて現在
    平静さを失った彼女の頭でもリヴァイの言葉が冗句の
    一種であると理解する事が出来た。



    ・・・・しかし当然その程度の冗句が今の彼女にとって
    気を紛らわす緩衝材と成り得るハズもなく・・・・






    「そうかい・・・。参考になってよかった。

     ・・・ならもう充分わかったろ・・・コレ以上なにをするか
     分からない危ない人間を野放しにするのは
     止して・・・新しい縄を貰いに行ってきてくれ。
     大丈夫・・・その間くらいはおとなしくしていられる
     自信もある。」





    「いや。その必要はない」





  13. 13 : : 2015/09/30(水) 18:46:34




    「・・・・だから!!もういいだろ?!!嫌なんだよ私は!!!

     モブリットが余りに酷い私の苦しみ方を気に掛けて
     投与してくれたものだってのは理解してる!!

     それに関して怒ったりもしていない!お陰で
     オルブド区防衛作戦の間だけは何とか
     持ち堪えられたんだからな!!

     けどもうこんな・・!頭で分かってるのに仲間に
     乱暴働いてでも自分の我儘を通そうとする自分には
     耐えられないんだよ良い加減っっ・・・」





    「ほう・・・すると何か。ちょっと痛みが消えて
     自制が利かなくなった程度で・・・片腕が使えない
     お前が俺に何かできると・・・そう思ってるのか?

     お前は・・・・」ジロリ・・・・





    「っ・・・;出来る出来ないの問題じゃない!!
     気持ちの問題だって言ってるんだ!!私とリヴァイじゃ
     例え条件が逆だったとしても取っ組み合いで
     勝ち目があるとは思えないさ・・・・!けど、
     
     危害さえ与えずに済めばそれでいいなんて・・・
     簡単な事じゃ・・・無いんだよ・・・・
     アルミン・・・には本当・・可哀想ッ・・事をしてしまった・・

     幾ら謝ったって・・こん・・・・なの・・・っ・・・・ぅっ・・・」




    激高しながら叫んでいた声のトーンは・・・
    次第に自身の過去の失態へと意識が向いていくのと
    同時に落ち込んでいく。




    感極まった所で涙をこぼしながら床へと
    ヘたり込むハンジ。











    「・・・どうやら相当参ってるみてーだな・・・オイ、メガネ・・」



    ザッ・・・・・





    開脚した足を折ったまま、床へと泣き崩れて
    止まないハンジの様子を近くまで寄り、
    しゃがみ込んで観察するリヴァイ。



    口調は平時の彼そのものでぶっきらぼうな雰囲気を
    崩しては居ないのだが・・・・





    「(さて・・・ここまでヘタレてるとは正直予想すら
     できなかった。ここからどうテンションを
     上げてやればいい・・?・・・・いや、本当に参ったな)」





    その物言わぬ三白眼の奥で、彼は最大限に頭を回して
    悩み抜いていた。




    ここまで次手をどのように放てば良いのか悩んだのは
    何時以来だろうか。




    知性を持ち、兵士と同じ思考でこちらの動きを
    先読みして襲いかかってくる15メートル級の巨人以来か。


    ・・・いや、この時彼の脳裏に駆け巡り、錯綜していた
    情報量は・・そんなものの比ではなかった。




     ーー経験がまるでない。




     どうやればいい・・・・・・?




     いや・・・そもそも俺にできるのか・・・・?




     一切の落ち着きを、平常心を失った目先の女を・・




     暴力に頼らず黙らせるなんて事が。
     



     ・・・・この俺に・・・・・?




     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




    「おいメガネ・・・・とりあえずだ・・・顔を上げろ。

     泣いてたんじゃ話も成り立たねえ。いい大人なら
     それくらい何とかしろ・・・・」





    「ッ・・・・・グズ゙ッ・・・ウグゥッ・・・ヒッ・・・・」






    「・・・・・・・・・・・・」






     ・・・・だろうな。





     今までそれ(▪▪)で全て片付けて来た。




     俺がアイツに教わった処世術はすべて暴力(それ)だ。



     畜生が・・・・。地下街での礼節なんざここじゃ
     屁の役にも立ちゃしねえ・・・・奴にはあの世でタップリ
     愚痴を言い聞かせてやる。



     女の扱いの一つ二つくらいついでに教えておけとな・・・・





     ケニー・・・お前が教えなかったのが全て悪い。




     だから俺は今こうして・・・・・全てを手探りしながら
     メガネ一匹黙らせるのに試行錯誤する羽目に陥ってる。





     俺の脳裏に思い出されるのは・・・今思い出すことに
     何の理も産まれはしない在りし日の記憶・・・・

     何故こんな時に思い出すのか・・・考えるのすら
     馬鹿馬鹿しくなってくる・・・アイツとの記憶だった。







  14. 16 : : 2015/09/30(水) 19:00:44






     ・

     ・・

     ・・・

     ・・・・

     ・・・・・






    「いいかリヴァイ・・・大切なのは“誠意”だ。御覧の通り・・・
     地下にゃ礼儀のなってねえ奴らがクソ程溢れてやがる。

     周りをブンブン煩く飛び回ってるハエをどうにかしねぇ
     事には・・・新たに見つけたクソを寝床にされて
     どんどん生やけられるのがオチだ。

     ・・・・いいか、たかってくるハエは全て叩け。
     放っておくとクソにたかったそのままの姿で
     お洋服を汚されちまうからな。汚ぇったらありゃしねぇ」
     パンパン。。。



    「・・・・・・・・」



     これは何時の事だったか・・・等と思い出す程の事でも無く・・
     瞼の裏側に焼きついた記憶の様に直ぐに思い出せるあの日の記憶。


     そう、ケニーの奴が俺の前に現れてすぐの事だ。


     無言でその様子を見て居た俺の目の前には・・・
     外を出歩くなり普段見慣れぬケニーを目にして
     早速因縁をつけて来たゴロツキが纏めて返り討ちに遭い、
     
     3~4人くらいは地べたを這い回るウジ虫のように
     腹を抑えてのたうち回っていた。



     帽子で服に纏わりついた埃を払いながら
     事もなげに言うケニーであったが・・・・




    「おい手前ぇ・・・・・。一応聞くがこいつら・・・・」


     訝しげな顔をしてそう尋ねながらも
     奥の路地から続々と現れるゴロツキの連れ。
     ・・・一応聞くと言いつつも既にその手は
     懐の光り物へと伸ばされている。 




    「やぁ・・・何。大した事はしてねぇさ。お辞儀の仕方すら
     親から教わった事が無ぇみてぇだったから…俺が教えてやった。

     それだけだ。・・礼は要らんぜ。


     ・・・・・・・どうせ大したモノも持って無いんだろ?」

     ニカッ・・・





    「ふざけた事を抜かす奴だな。まあとりあえず
     持ってる物すべて地面に投げろ。話はそれからだ」






     「お前はそこで泥メンチになってる連中とは違って、お辞儀すら
     すっ飛ばしてその懐に仕舞った何かを俺にプレゼントしてくれるってのか・・・?」





    「っっ!!!!お望みなら好きなだけブチ込んでやるがな!!!!!」
     ドドッ・・・・  ズォッ・・・・!!!



     唐突に歩を進めながら勢いよくケニーの腹の辺り目がけて
     突きを繰り出すゴロツキの1人。その手にはやはりナイフ。

     懐に仕舞い込むには若干窮屈であっただろうという
     くらいの刃渡りがある・・・ボウイーナイフ。


     しかしやはりその刀身がケニーの胴体に
     沈み込む事は無かった。
     



     パシン!




     「・・・・っ・・??!!」



     バゴキッ・・・




     その場に鳴り響いたのは実にシンプルな二つの音。



     先の一つは、ケニーがハエを叩き落すかのような勢いで
     振り下ろした平手で・・・真上からナイフの峰、鍔、柄を
     纏めて相手の指ごと掴み取る音。



     後の二つ目がそのまま蹴り上げた膝の通り道にあった
     手首を破壊する音。




    「あがっっ!??!?・・・ぐぇぁ・・・・・!!!!」




    「おー・・・おー・・刃渡りはやったら目立つ癖に目釘も既に
     ガタついてて安っぽちいしオマケにフルタングですらねぇ。

     こんなモン金積まれても要らねえや」



     ポイッ
     



     当然一人では終わらない後続のゴロツキも
     先の一人目同様に得物を抜き出し、ケニーに斬りかかる。




    「さてリヴァイ。お出かけの第一歩。まずは
     "あいさつ"のおさらいだ。コレが出来ればまずは
     出先で恥ずかしい思いをすることもねえ。

     ・・・・・・しっかり見とけよ。」
     

     ブンッ!!!  バギッ




     よそ見をしながら、つまり凶器を手に自らめがけて
     詰め寄る相手ではなく俺を見ながら軸足を中心に、
     踊るようにしてその場で回るケニー。


     真っ先に斬りかかっていったそいつが
     自身の足下に放たれたものを下段の足払いと
     認識する頃には・・・・ケニーの革靴の爪先は容赦なく
     その膝側面に食い込んでいた。

     随分といい音がした。きっと左膝関節が使い物に
     ならなくなった音だろう。
  15. 17 : : 2015/09/30(水) 19:03:41




    「ガッ・・・・うぐぅっ・・・・・!!!!」

     カラッカラン・・




    「さっきは手っとり早く済んじまったから
     レクチャーは無し。・・・・それに、こいつも
     お手本にはならねえ。

     俺は見ての通り立派な長ぇ足があるが・・・・
     お前はちょっとこの先伸びない限りは厳しい
     だろうからな。・・・・まあしかし、基本は一緒だ。」



     武器を手にしていないとはいえまだ3人程すぐそこに
     駆け寄ってきている状況で尚ものんびりと俺に
     語り掛けてくるケニー。


     その余裕っぷりたるや全く自らが地べたに
     這う結果が思い浮かびすらしていないのではないか、
     というほど。



    「基本は、まずっ」




    「くそがっ・・・!!死nっ・・・・」




    ドグッッ!!!!!




    「ヴッ・・・・・・・!!!!!!」



    「――腹に一撃。これが挨拶の基本だ。


     するとどうだ・・・ほれ、こちらの誠意が伝われば
     相手もこうしてお辞儀を返してくれる。」



     大振りな殴りかかる動作を頬で往なすように
     避けてみせると、無駄のない動作から、瞬時


     がら空きとなった相手のドテッ腹に前蹴りを押し込むケニー。


     当然胃の中身やら肺の中の空気やらに
     急激な圧迫を受けるだけでなく、

     本気ではなさそうとはいえそれなりに体重の乗った
     蹴りのダメージを受けているので無理も無いが・・・


     ケニーの言の如くさながらお辞儀をするように
     うずくまるゴロツキその3。



    「さあ、これで殴りやすい位置に頭が降りてきた。
     後する事といえばもういくつもありゃしねえ。

     自分に不作法をはたらいた結果待ち受ける
     痛みって奴を徹底的に教えてやるだけだ。


     人付き合いで身につけるべき挨拶の基本はひとまず
     この二つのみ!ああ、あくまでお前の場合はまだ
     これは相手が光り物を出さない場合だけの挨拶な。」



     平然と笑い声混じりに言っているが、
     この時実に残った二人を相手取りながら、
     先ほど前蹴りを叩き込んだゴロツキの頭部を
     タコ殴りにしている真っ最中である。


     

    「そいつが出てきた場合は基本お前も
     相手の誠意に応えて素敵な光り物をちらつかせるんだ。

     ・・・まずお前はこっちを先に覚えとくべきかな」






     ・



     ・


     ・



    「っ・・・・・っ・・・・」

     ブンッ・・・ シュッ・・・・




     時は移ってこれは何時頃の事だったか・・・



     ケニー監修の元、まるで球技の素振りの型でも
     見て貰うかのように毎日刃物を振り回させられた
     記憶が・・・俺の中に蘇る。



     とにかくケニーに教わった技術の中で最も指導が
     熱心だったのはこいつだった気がする




    「・・・・~んん~・・・違う違う。そうじゃぁねーんだ・・・

     なんて言ったらいいのかな。ナイフで大切なのは・・・
     単純な"迅さ"じゃねーんだ・・・。

     緩急・・・って難しい言葉じゃアレか・・・

     こう・・・、"揺さぶり”が大事なんだぜ」




    「?」





     流石にこの時分の俺では奴の言葉の意味するところ
     までは把握できていなかった。

     しかし考えてみれば単純なことだ。

     
     幾らこちらが速く動こうと、素早く得物を
     相手の間合いに届けようと。


     相手がその速さに慣れた熟練者であったりした
     場合には・・・こちらが返り討ちに遭う時間を
     自ら早めるだけに過ぎない。


     大事なのは・・・・こちらの動き、そして得物の軌跡を
     ・・・相手の意識からいかにして"ずらす”か。


     そして、一旦相手の意識からずらす事に成功した
     その刃を・・・如何に迅く振り抜くか。



     互いに矛盾する、"迅さと遅さを同時に見せる"
     太刀筋。それが肉薄状態における短刀での競り合いで
     生き死にを左右する要素の一つとなる。



     ・・・・などというご大層な口上を奴自身の口から
     聞いた訳では無いが・・・



    ・・・・・・

    ・・・・・

    ・・・・

    ・・・

    ・・




  16. 18 : : 2015/09/30(水) 19:07:21








    「(なんてことだ・・・・)」





     噂に聞く走馬燈のような勢いで、過去学習した
     知識の中から少しでもこの状況を打開しうるものを
     探しだそうとした結果・・・・


     地下街で道を尋ねる位の役にしか立たない
     知識だけが俺の脳内をめまぐるしく駆け巡った。


     幾ら仲間を大勢殺した大逆の怨敵とはいえ、
     一応は唯一身内と認識できる人間を失ったのが
     ついこないだの話だ。




     ・・・だからまだ何か思い出そうとする度に
     アイツの顔が浮かんじまうのは仕方が無い。




     しかしこれは中々精神的ダメージもデカい。




    「(俺の本質的な人格ってのは・・・結局
     奴とのあんな殺伐とした日々のみで形を
     成しちまったモンだってのか・・・・?)」





    「うっっ・・・・グスっ・・・・ウェ・・・」





     メガネはまだまだ年甲斐もなくだらしねえ嗚咽を
     垂らしてすすり泣いてやがる。




    「(まだだ・・・、まだ俺には奴との記憶以外にだって)」





     そうして自らの記憶を再び紐解いていく。


     ・・・今度は自発的にあまり触れようとしなかった
     部分にまで掘り下げて。


     ・・・・しかしその記憶の先で現れた顔すら、
     またしても・・・・・




    ・・

    ・・・

    ・・・・

    ・・・・・・





    「おい・・・・リヴァイ・・・お前はよ・・・・」





    「・・・?」





    「お前の母ちゃんがどうしてあんなんなっちまった
     か・・・・ちゃんと知ってんのか・・・?」





    「・・・・・・・。」






    「悪いな。変に思い出させるのも悪いと思って
     今まで聞かずに居たんだが・・・そうか。

     
     分からねえなら今の言葉は忘れてくれ・・・・・」






    「・・・・よくは知らない。・・・・ただ・・・・
     ケニーが・・・来る少し前まで・・・・・

     まだ母さんは喋れてた・・・・」





    「・・・・・なんつってたんだ・・・クシェル(あいつ)は・・・・・?」




    「"近くに来ちゃだめ"って・・・。息をしなくなるまで
     ずっとそれしか・・・言わなかった。」





    「・・・・・・」







    「もし声がしなくなっても・・絶対に近くに来ちゃ
     だめだって言われてた・・・だから、いつ母さんの息が
     止まったかはわからない・・・・」





    「・・・・そうか。悪いな思い出さなくて良いような事を」



     それだけ言って少し帽子を目深に被り直したケニーが
     一体どんな気分だったか・・・その時は勿論、
     今になってもそいつは分からず仕舞いだ。


     今となっては本人の証言で明らかになった事だが・・
     当然この時俺はケニーの心情などよりももっと
     根本的に気になってる事があった。



    「・・・・、ケニーは、、母さんn...
    「リヴァイ。挨拶より大事な習慣でお前には是非とも
     頭に入れておいて貰いてぇ事がある。いいか・・?
     そんなに難しい事じゃねえ・・・しっかり聞いてくれ」



     計らずか、それとも意図的にかは知れないが・・・
     やはりケニーは俺の質問を途中で遮る形で語り出す。




    「・・・・。」




     外の歩き方をレクチャーする時のそいつと比べて
     明らかに真面目さが際だった顔だったので俺も
     自然と自分がどうしても目の前のそいつに
     聞きたかった事実を喉奥に押し込んで聞き入った。







  17. 19 : : 2015/09/30(水) 19:11:11








    「お前にもわかるように出来るだけ簡単に説明するぞ。

     お前の母ちゃんはな・・・キレイにしてねー奴と
     寝たからああなった。病気・・・・って言葉くらいは
     ・・・・・知ってるかリヴァイよ」





    「・・・・知ってる。母さんが自分でそう言ってたから」





    「なら話は早ぇ・・・お前の母ちゃんはな、まあお前と
     自分の食いぶちを稼ぐ為・・・っていう極々当たり前の
     理由で・・・いろんなおっさんとかジジイとかが
     素っ裸でくつろぐ為のお館で頑張ってた訳だが・・・」





    「・・・・・・・」






    「そこにある時こんな地下街の中でもそうそう
     いねーってくらい体をキレイに拭かずにやってきた
     客がいたわけだ・・・。体をキレイにしてねー奴は
     病気ってやつにかかってるのが殆どだ。


     ・・・・だから・・・・な。」





    「・・・・・・・・・」






    「お前はこの先・・・その現状で出来る限りでいい。
     お部屋や自分(テメー)の体くらいは・・・
     普段からキレイにしてなきゃいけねーぞ。

     具体的にはハエが寄ってこないくらいにはな。
     ・・・・ほれ、お外を歩く時と同じだ。
     きちんと整理整頓がなっていて清潔に
     保てていれば・・・五月蝿い蝿も寄っちゃこねぇ」





    「せいり・・・・せいとん?・・・・」





    「ぁあ・・・・まずはそこもだな・・・・うむ、
     まずはじゃあ・・・・整理・・・・そして整頓からだな」




    ・・・・・・

    ・・・・・

    ・・・・

    ・・・

    ・・











    「(ダメだ・・・・・・!)」





     やっぱりと言うべきか・・・俺の根源に迫ろうとする
     その度にどう足掻こうとも・・・奴との記憶が
     ちらついてきやがる・・・・!!!




    「(こいつはもう呪いの類と言っていいな・・・・)」




     これだけ長い間思案したように感じても
     実際の経過時間はそれほどでもないようで・・・・




     相も変わらず小泣きメガネの嗚咽は止む気配を見せない






    「(いや・・・・待て・・・あったじゃねえか・・・!
     この状況を最大限活かせそうな・・・・お誂え向きの
     記憶が・・・・!)」




     なぜこれを真っ先に思い出せなかったのか。


     それは恐らく無自覚の内に自分で記憶に
     蓋をしていた中でもそいつが一等・・・重い蓋だった
     からだろう。・・・・そのように確信しながらも
     俺は・・・・またも"あの日の記憶"に遡る。





  18. 20 : : 2015/09/30(水) 19:12:54





    ・・

    ・・・

    ・・・・

    ・・・・・

    ・・・・・・





    「ぅっ・・・ぇっ・・・ヒクッ・・・・ヒッ・・クス・・・・」

     ズビッ・・  グズズ




     この場所は・・・まだ俺達が調査兵団・・・もとい
     エルヴィンの元へと下ることになる前に

     ファーラン、イザベルと共に不良共と結託して
     荷馬車のかっさらいに精を出してた頃に使っていた
     根城の一室だ。


     困り果てたファーランとナイフを磨き上げる
     俺の前で神経に障る泣き声をひきずり続けて
     やがるのは・・・言うまでもなくイザベル。


     引きずってやがるのは泣き声だけでなく
     鼻水も同様なので五月蝿ぇことこの上無ぇ。



     ・・・というか汚ぇ。




    「おい・・・・泣くのはいいがお前・・・
     部屋を汚すのだけは勘弁しろよ。折角さっき
     モップ掛けしたばかりなんだ。鼻水でも
     垂らしやがったらテメーで拭けよ・・・・・」
     キュッ・・・キュ・・・・・・





    「・・おいリヴァイ・・・・。せめて泣いてる理由くらい
     聞いてやったらどうなんだ・・・」






    「ぅう゛ん・・・・、いいんだ・・・ ごベん兄貴ぃ・・・・
     グズッ・・・ 止むまで・・・外・・・行ってるから・・・・」
     グシグシ・・・・・




    「・・・だとよ。大体おまえが何度その理由とやらを
     問いただしてもそいつが口を割らねえから
     こうなってるんだろうが・・・・」




    「イザベルにだって色々あるだろ。泣きたいほどの
     事はあったがその内容についちゃ話したくない・・

     そう言うことだろ?それを何も表に閉め出すまで
     しなくたってお前・・・・」



     溜息混じりにそう言うファーランだったが・・・
     正直その時の俺には奴の言いたい事も
     イザベルの心境って奴も・・・やはり到底理解できて
     いなかった。・・・というよりしようとすら
     していなかった。




    「・・・・・・・・」
     スゴスゴ・・・




    「・・・・・」ガコッ・・・




     理解しようとはしていなかったが・・・・





    「おい待て・・・・・」





     ポン.....、




    「・・・・・・!」





     そんな音が鳴りもしなかったのは言うまでもない
     として・・・・俺は何を考えるでもなく、
     犬猫や馬を人があやすように・・・

     自分の掌をイザベルの頭に載せる。



    「・・・・そんなんで表に出るな。それに根城の周りで
     目に付く物音を立てられるのもあまり宜しくねぇ


     ・・・悪かったな。理由は聞かねえが・・・


     まあそう泣くんじゃねえ。喉が乾けば水が
     勿体ねえだろ・・・・・」
     
     グシグシ・・・・





    「・・・・・・ぁ、ぁあ・・・ゴメンな兄貴///」




     俺がイザベルの髪を少々乱暴に撫でている内に・・
     いつの間にか涙も鼻水もキレイに引いていた・・・



    ・・・・・・

    ・・・・・

    ・・・

    ・・





  19. 21 : : 2015/09/30(水) 19:15:01









    「( こ れ か )」







     ついに捜し求めた答えに辿り着いた・・・・!

     
     つまり今俺がこの場で取るべき行動は・・・・!!!


     悔いの残らない選択と成り得るのは・・・・・・!!!!





    ガシ





    「・・・・・・?」




    不意にリヴァイの胴体に走る衝撃。それは・・・・




    「グすっ・・・・うぐ゙ッ・・・・」




    未だ泣き止まないハンジが彼の膝元に抱きついて来た際に
    かかった力であった。彼にとっては非常に気の毒な事に・・

    その姿勢と体の向き。そして抱擁力では・・・
    間違いなくリヴァイのズボンは涙と鼻水まみれである。







    「・・・・・・・・・」




     おっと、いけねえ。鏡を見なくても分かる事だが・・
     今一瞬だけマジでこいつを蹴っ飛ばす事すら
     やりかねない顔になっちまってた・・・。


     こいつもいわば傷病人として苦悩しつつ、
     なんとか今この時を必死に耐え抜こうとしている訳だ。

     ここは何とか気持ちを抑え・・・そしてイザベルを同様に
     静めたように・・・・メガネの頭を・・・・・




    「なぁ・・・・リヴァイ・・・・・・ (ぐすっ)」





     おっと、何だいきなり・・・・




    「・・・・っ・・・・何だ、どうしたハン・・・メガネ?」




    「今なんで言いかけてから態々無理にメガネって
     言い直したんだ・・・・;」





    「・・・・何か問題でもあるか。」




    「ないけどさ・・・・無いけどさ・・・・!でもやっぱり
     名前で呼んでおくれよ・・・・!」グズッ・・・





     ・・・・ダメだなこれは。今の状態じゃ何が
     引き鉄になって泣き上戸になるか。危なっかしくて
     下手につつく訳にも行かねえ。




    「わかった・・・・・。  どうした・・・?
     
     今俺に何を聞こうとした?・・・・ハンジ。」




    「ああ・・・・うん。やっぱり名前で呼ばれるのはイイ。」





    「おい、聞いてるのか」





    「う,うん;、聞いてるよ!!!え、えっと・・//」




     そうして慌てて抱きついていた腕を放し・・・
     俺の方へ向き直るハンジだが。。
     

     俺はそいつの眼鏡越しに一つの異常を確認する。




    「(こいつ・・・・・・・・)」






    「リヴァイはさ、今までに・・こ
    「ちょっと待て。そこで一旦止めろ」




    「・・・・?」





     一息の間を設けて・・・俺は問いかけた。






    「俺が自分で聞いておきながら悪いな。ここで
     お前に一つ質問だ。こいつに問題なく答えられたら
     今の非礼を詫びてやる。・・・いいか?」






    「・・???いいけど・・・・何だい・・?一体」






    「(なるほど・・・アルミンの奴が一瞬で
     落とされる訳だ・・・・・)」






    「“人間の器官”の中で・・・特定の条件下で2倍近く
     膨張するのはどこだか言ってみろ」






    「っ」





    この問いを耳にした瞬間、何かに両肩を
    突っ撥ねられたかのようにその身を震わせるハンジ。




  20. 22 : : 2015/09/30(水) 19:17:27








    「りッ・・・リヴァイさ・・・あんたソレさ・・・さっ・・・・」
     ガタガタ・・・・・








    「・・・・・・」スッ・・・





    「明らかにお前ソレ誘ってんだろォォおおお!!!!/////」






     ダダッ ...


    。。。。。ガバッ






    一気に何かの糸が切れたように平静さを消失させて
    リヴァイに渾身のタックルを仕掛けるハンジ。


    しかし、事前に体当たりが来ると予知していたリヴァイは
    これを難なく半身翻して往なし、襟元を掴んで
    ベッドに背中から抑え込む。



    後ろ手にはいつの間にか取り出したリンゴ剝き用とは別の
    磨き上げられたナイフが握られていた。






    「グフッ・・・  うぐぅぅ・・・やっぱ・・・フッ・・・///

     フッ・・///やっぱリヴァイじゃ駄目か・・・クッソウ・・・////」





    「・・・・チッ。・・・・こんな古典的な引っ掛けにまんまと
     掛かりやがって・・・もう見事にソッチの事しか
     頭にねえじゃねえか・・・・!!!手元に鏡が無いから仕方なく
     物騒なもので代用するがな・・・・!見ろ。

     答えはソレ(▪▪)だ・・・・・!」グググ・・・・




    汗を浮かべながら、取り抑えるハンジにかける力を
    一切緩めず鏡面のようなナイフの刀身を彼女の
    目の前にかざすリヴァイ。





    「・・・・・・・っ・・・わかッ・・・っ///頭じゃ・・・
     理解できてるって・・・言ってるだろ・・・・!!!///

    分かってるんだよそれくらいは・・・・!!」




    ・・・・そこに写っていたのは・・・異常なまでに開ききった・・
    彼女自身の“瞳孔”だった。メガネをしていなければ
    流石にそこまで確認は出来なかっただろう。




    「あんなリアクションを理性で抑えきれない時点でそれは
     既に正気とは言わねえんだよ・・・!

     ・・・・・しかし成る程。こりゃ確かに厄介だな・・・

     (全く・・・雰囲気にも態度にも変調が見えなかった。
     良くミカサの奴は気付いたな・・・・)」

     俺でもお前のそれに目が行かなかったら恐らく
     背後を取られるくらいはしてたかもしれねえ。
     どっちにしても腹に一撃入れて抜け出す事は
     可能だが。」





    「駄目だ・・・収まりつかねぇ――――っ・・・・////

     なあリヴァイっ・・・!!本ッ当お願いだ!!マジで抱いて!!
     いいだろ!!!なあ!!?抱くだけだからさ!!////」

     ギッ・・・ギッ・・・・ バタバタ・・・・




    「チッ・・・・!!!!」




     リヴァイが渾身の力と、その身長に似つかわしくない
     全体重で抑え込んではいるものの、そんな事は
     お構いなしとばかりに自らの腰部を前後させて
     寝具を激しく揺するハンジ。

     既に理性のタガは一瞬で外れてしまっているらしく、
     その言動は全て性的な衝動にのみ突き動かされている。





    「オイ・・・・!!!!暴れんじゃねえ・・・・・!自分(テメェ)の腕が今どうなってんのか
     それすらもう忘れちまったのかこのニワトリ野郎が・・・・!」




    「残念!!野郎じゃないんだな!!!ニワトリってのはっ・・//まぁ・・・

     言い得てっ...myo..ぉぁあぁアア!!!もう無理ッ!!!我慢してたら
     死んじゃう!!!もういい!!一人でスるから離せってオイ!!!!」

     バタン・・・!バタバタッ・・・!!!




    「っッ・・・・・・!!!!!!」





    ・・・凄まじい力で尚も抵抗を止めようとしないハンジ。

    襲い来る性衝動に早くも自我は崩壊寸前である。




    口調も徐々に乱暴な物に、表情も一見して近寄るのは
    非常に危険と断ずる事ができるくらいの激情に彩られていた。




  21. 23 : : 2015/09/30(水) 19:22:44







    「っ・・・・仕方がねえ・・・一番やりたくなかった荒療治だが」




     グイッ





    「っぁ・・・・・・ッ??!?!!」




    一際大きな舌打ちを合図にリヴァイはとうとう最後の手段に出た。



    キツく抑えられていた筈の肩に掛かっていた重圧から
    一気に解放される違和感に一瞬戸惑うハンジの身体が・・・



    リヴァイの強引な腕の引き寄せによって一瞬で反転させられる。



    そこからリヴァイが強行した鎮圧手段・・・・それは・・・




    「動くな・・・そうすりゃ一瞬だ・・・・!!!!我慢しろよ・・・・!!!!」


     パシッ!!!


    「グムッ・・・??!!!!!」




    有無を言わさぬ強制的な口付け・・・・・





    「カッッッ・・・・・////!!!!」




    ..ではなかった。その様な王道的な場の収め方を・・・


    彼はこの歳に至るまで誰かに教わりもしなかったし、
    また、そんな解決策が役立つ場面にも立ち会った事が無かった。




    ・・・では発奮にのたうち回るハンジを一瞬にして沈黙させた
    その最終手段とは。



    「・・・・・・・っ」

     ギリギリギリギリ・・・・・・!!!!!



    一切の容赦もない“喉輪”。



    ・・・つまり簡略的に述べるなら単なる首絞めである。



    しかしその強硬手段は・・・単純な頸部圧迫とは
    まるで働きかける力の加減が違っていた。




    「っぁッ・・・・・///////」



    強烈に首を抑えられてはいるものの、堰き止められていたのは
    ハンジの呼吸ではなく・・・・・

    頸動脈を流れる血流だった。



    局所麻酔が効き始めた時の様な心地良さと寝起きのまどろみが
    同時に押し寄せてくるかのような感覚を一瞬で
    味わう事になったハンジは・・・・






    「・・・、、、、、..」スウッ...

     カクン・・・・・





    文字通り、恍惚の表情を浮かべて意識喪失の海へと墜落した。







    「(頼む・・・・!!!!!来るな・・・!!!来るなよ・・・・!!!)」






    目の前のハンジの全身から一気に緊張が脱力したのを確認し、
    恐る恐る喉輪を外しながらその身を起こして後ずさりする
    リヴァイ。同時に心の中で必死に何度も祈りを捧げる。


    最終手段の決行に際して最も危ぶまれる弊害の証が
    その眼下に現れない事を願って。




    ジワッ・・・



    「↓↓↓......」





    ―――しかし現実は非情。。。。




    ガバッ・・・・・




    「ハァ・・・・・・・・・・・↓↓」



    部屋の空気を吸い尽くしてしまいそうな程大きく吸った後、
    本日一番の溜息で自身の幸福を放牧するリヴァイ。



    凝視していたハンジのズボン、その局部に一瞬で染みが
    浮かび上がったのを皮切りに、落ち込みながらも手早く
    彼女の全身を抱え上げ、せめて後始末が厄介な事になる
    ベッドよりもと、出来るだけ戸口に近い位置の床上に
    その身を横たわらせる。





    「しくじった・・・!!!!畜生・・・・!袖が・・・・ッ・・・・クソッ・・・!!!!」

     ビチャビチャ・・・




    動脈圧迫による血流の遮断。それによる瞬間的な意識の喪失。

    尿道括約筋などを制御する筈の中枢神経が正常に
    動作しない方の気絶に運悪く陥ってしまったハンジの失禁で
    不覚にも濡らしてしまったリヴァイのシャツの両袖、
    そして戸口付近に出来上がった水溜りから湯気が立ち昇る。




    「(最悪の一日だ・・・・・・・・・・・!!!!!!この部屋でまだ半日以上
     過ごさなきゃならねえってのか・・・・俺は・・・・・・!!!?)」




    後悔など幾らしても足りないという程の悔恨が、リヴァイの双肩に
    重く、重くのしかかる。・・・しかしその怒りと悲しみは、
    決してこれらの黄金水を放り出してしまった本人には
    向けられておらず、





    「(暫くコイツはやってなかったからな・・・つい加減を・・・・
     見誤っちまった・・・しかし最も悪い一日と言いながらも
     ・・・何とかメガネの暴走だけは止められたんだ。

     そこだけはケニーの教育指導に感謝だな・・;)」チッ・・・・・!!!!!




    それらは主に完璧な意識喪失のみに留める事ができなかった
    自らの不手際だと、潔く自責していた。




    「まずは・・・換気か・・・(溜息..)

     モップとバケツは・・・クソッ・・・取りに行くにもあの水溜りを
     一度跨がなきゃならねえんじゃねえか・・・・・!」




  22. 24 : : 2015/09/30(水) 19:24:49












    ~小一時間後~







    「・・・・ん・・・・ぁっっ?・・・・・・・」








    「・・・・よう・・・随分長い事戻って来なかったが・・・。

     気分はどうだ。・・・どこか違和感はあるか。


     ・・・・特に手足の痺れとかな」





    突然の意識喪失から・・・それは凡そ一時間後。
    落ちた瞬間とは正反対にその身を縛り付けるような
    重苦しい感覚の中、ゆっくりと水底から水面に
    引き揚げられる様に覚醒していくハンジの意識。


    自身が横たわるベッドの真横で椅子の背もたれを
    此方に向けてその上に寄りかかるような姿勢で
    腰掛けているリヴァイを認めた彼女の視線は・・・


    意識こそ覚醒しているものの、やはりどこか
    未だ自分が夢の中にいるのか現実に目を覚まして
    いるのか分からないと言うような・・朦朧とした動きで
    揺れていた。




    「やぁ・・・・おはよう。・・・気分かい・・・・?それはまあ・・・
     
     あまり芳しくないかな。リヴァイ王子のキスで
     目覚める事ができたって訳でも無さそうだし・・・

     何よりやっぱりまだ目が覚めきってないのかな・・・・
     若しくは君が言ったようにコレは体の感覚を
     正確に把握できない不具合なのかもしれない。


     ・・・なんだか下半身が妙にスースーするんだ。
     まるで何も履いていないかの様に。」





    「・・・・・その感覚は正常だ。何故ならその布団一枚下に
     埋まってんのはテメーの半裸だからな。恥ずかしい思いを
     するのがイヤなら、洗濯物が乾ききるまでうっかり
     起き上がるなよ。・・・先に忠告しておいてやるが」





    「やっぱりか・・・・まさかリヴァイにおねしょの後始末を
     される羽目になるとはね・・・やれやれだ。(ムクッ・・)

     ・・・というか素直に済まないね。綺麗が一番な
     あんたにこんな汚れ仕事をさせてしまうなんて・・・
     どう謝っていいか見当もつかないよ」バサバサ・・

     パサッ・・・




    「・・・・・・・・・」




    そう呟きながらリヴァイによって外されたメガネを
    探しつつ半身を起き上がらせるハンジ。


    下半身に何も纏っていないと聞かされていながらも
    そちらの露出は全く気にしていないようで、掛けられて
    いた布団を取り払って自らの頭を掻き毟っている。





    「おい・・・・。まだ寝てろ。お前の履物もまだ乾いちゃ
     いねーと言った筈だ。あまり見苦しい格好でうろつくな」




    一応顔を逸らしながらも外したメガネをハンジに手渡し、
    そう言い放つリヴァイ。



    「ああ・・・有難う。・・・・・っ・・ふう・・・・うん、
     ヨシヨシ。視界良好。・・・・いや、本当に悪かったね。

     言ったろう?お酒で酔いが回ってる状態と違ってさ・・・
     意識自体はしっかりしてるってさ。

     
     君にオトされる直前までの記憶は・・・残念ながら
     しっかり残ってるんだよ。・・・正直意識が無かったと
     言いたいくらい恥ずかしい記憶しか残っては
     いないけれどね。」






    「・・・そうか。そりゃ御愁傷様だったな。

     ・・いいか、もう一度言うが…テメーは今半裸の状態で・・・・

     一応生物学上の括りじゃ女って事になってるんだ。
     恥じらいとかそういうモンが欠片程でもその鳥頭に
     備わってやがるならそのままもう一度
     布団を被って寝込んでろ。

     ・・・三度目は言わねえぞ」




    逸らしていた首を今度はきちんとそちらへ向けて言うリヴァイ。



  23. 25 : : 2015/09/30(水) 19:27:57





    「ハハ・・・。有難う。でもどうせズボンを洗って
     貰っちゃってる時に見られてるんだし今更気にしても
     しょうがないかなって・・・そう思ってね。

     ・・・それにここにはリヴァイしか居ないんだし。

     ・・・・いや、もしリヴァイが私の格好にムラムラ
     しちゃって落ち着かないっていうのなら喜んで
     アタックを仕掛けちゃうかもしれないけどな」
     



    「・・・・まだ薬が抜けてねえのかその様子じゃ・・・」



    溜息混じりにそう吐き出すリヴァイ。悪ければやはり
    先ほどと同じ様な状態に陥った彼女を再び拘束しなければ
    いけないのかと、片手で頭を抱えて視線を床へと落とす。




    「・・・なんか・・ゴメン。でも安心してくれよ。
     あまりこういうと嬉しくないけれど、腕の方にも
     ジクジクとした痛みが徐々に戻ってきた。

     つまり飲み薬の方はもう大分抜けてきてるんじゃないかな」




    「・・・そうだといいがな。元々お前にはヤクの助けが
     無くてもソッチの素質がありすぎる。

     だからあんまりはしゃぎ過ぎるなよ。また収まりが
     利かなくなったら同じ手段で止めるしかねえんだ。

     ・・・今も折角茶を沸かしている所だが、次があると
     考えると怖くてそれすらお前に出すのを躊躇っちまう」





    「ゴメンよ本当に・・・。この埋め合わせはいつか必ず
     するからさ。掃除でも何でも手伝うよ。」




    その様に力なく笑うハンジの顔を凝視しながら・・・
    若干の張り合い無さに落胆しながら、ふと思い出した疑問を
    投げかけるリヴァイ。




    「・・・そういやメガネ・・・お前、正気を失ってる最中も
     しっかり記憶だけはあるって言ってたよな。」






    「・・・・ああ。恥ずかしながらね。
     しっかりばっちり覚えてるよ。いや・・・実を言うとテンションが
     あそこまで上がってないだけで今こうしていながらも・・・

     実は結構まだ同じような感情が頭の中を行ったり来たり
     してる中、落ち着き払って見せてるだけなんだけど」





    「・・・・まだ収まってやがらねえのか。」





    「ぁあ。まだ収まってない。

     ・・・・今襲ってくれれば大歓迎だよ。」






    「―――話を戻そう。質問の続きだが」






    「真顔でスルーすんなよ!!!!すっごく勇気出して
     言ったのに!!!!少しは冗句でもいいからノッてきてくれよ!?」





    「・・・・・お前、本当に持て余し過ぎだろ・・・・・。

     そりゃ本当に薬の副作用か?・・元々持ってる
     淫売気質じゃねえだろうな・・・・?」





    「・・・・その質問には即答しかねるね・・・・自覚はしてるけど
     元々私自身アレが不順気味だってのはあるから・・・
     そういう感情にムラはあるけど。

     ・・・大体さ、年齢を察してくれよ。ジャスト適齢期も
     過ぎようとして・・・焦ってんだよきっと。


     あ~~~・・・  子供作りてぇ~~~~....」

     ポフン





    自堕落な唸り声を上げながら枕へと顔を沈ませるハンジ。





    「お前がそんな事を考えていたとはな。

     ・・・・この上なく意外な事実だ。・・・で、いいか?」





    「・・・ああ、聞きたいことがあるんだっけ。何でもどうぞ。」

     チャッ・・・



    枕から顔を上げ、ズレたメガネを掛けなおすハンジ。
    その顔は若干の薄紅色へと変じていた。





    「覚えてたらでいいんだが。お前・・・・・俺が取り抑えて
     オトす前に何か聞いて来ただろ・・・・。

     あの時何を聞こうとしてたんだ」



  24. 26 : : 2015/09/30(水) 19:32:45




    「・・・・・・・・・ああ・・それか。でももういいよ。

     考えてみれば聞かなくってもなんか分かるし。


     ・・・・でも有難うね。そんな風に気に掛けてくれて。
     リヴァイがそうして私の疑問に投げかけた言葉を
     覚えてくれてるだけで嬉しいよ」





    「いや。覚えてるなら言えよ」







    「・・・・・?え、えっと・・・・?」






    「・・・・俺は気になったからお前にこうして質問してるんだぞ。
     
     ・・・・ソレを勝手に自己完結して終わらせるんじゃねえ。

     ・・・気になって眠れなくなっちまうだろうが」





    「ぶはっ・・・・・・?!いやいやいや・・・リヴァイwww
     
     そんな乙女チックな一面があんたにもあるのかw」





    「何でもいい。質問に答えろ」






    「ぁあもう全く・・・。つつき甲斐のない奴。

     ・・・別に何てことない質問さ。今私も言ってただろ・・。
     それと同じ事さ。・・・訊くまでも無くあんたが何て
     答えるか・・・内心分かってたけど。

     それでも何で私があの時・・・あんたにこんな質問を
     しようとしたのか…正直今私はそれが気になって
     仕方ないけど」




    「・・・・???」





    「リヴァイ・・・あんたはさぁ・・・・」





    一瞬の溜めを間に置いてから神妙な顔を向けて
    次なる一言をリヴァイに投げかけるハンジ。







    「自分の子供を残したいとか…1度も思ったことないの?」






    「――――」






    その問いを掲げるハンジの顔には・・・全く茶化したり
    ふざけたりと言った様子は無かった。その無表情に
    近い真顔には、まるで我が子の今後を案じるかのような
    疑問の色だけが・・・静かに漂っていた。




    「・・・・・・・・・」




    暫く続く無言の間。



    しかし、当の本人は答えに詰まっているわけではない。



    返答に迷う訳でもなく物言わぬ案山子となっている
    リヴァイのその心は・・・・・、 、  、




    「(子供・・・・・か・・・・・・)」




     ああ・・・畜生・・・。 成る程そういう事か・・・・



     あんたの言いたかった事が・・・今なら判る気がする。



     ・・・いや、状況も立場も全く違うのかもしれないが。





     ―――それでもやはり。




    重苦しく続いた静寂を…彼はたった一言、短く打ち切る。






    「俺は・・・人の親には・・・・なれねぇよ。」






    「・・・・・・・・――-。」





    その返答を聞いてから、今度は反対に顎に手を
    持っていきながらも無言で考え込むハンジ。





    「それは・・・・どういった意味でかな。

     いや、答えたくなければいいんだけど・・・。」







    「想像に任せる。・・・・ただ言葉にするにはそうとしか
     言いようがねえ。・・・・・悪いな。口下手で」




    「・・・・・、、」



    珍しく語気に力が感じられないリヴァイを見て
    溜息を漏らすハンジ。




    「・・・や、悪い。私だってあんたに負けず劣らず・・
     大勢の仲間を失ってきたって言うのにね。そんな事を
     察してあげる事もできないなんて。

     ・・・まあ無理も無いか・・・これだけ多く失うと・・・
     成る程、そりゃまあ家族を作るのも・・・
     怖くなる気持ちは分かる・・・・・。」




    「・・・・・・・・・・・・・・・・」






    「でもさ、リヴァイ。あんたも一応エルヴィンから話を
     聞いてると思うけど・・・記憶の改竄や・・・“王族の血”と
     “一部の血族”の話はもうされてるだろ?」






    「・・・・ああ。元々俺は・・・そいつが理由で
     種馬宜しくお前と同じ檻にぶち込まれるのかと危惧して
     ここに向うのを最初は渋ってたんだが」




  25. 27 : : 2015/09/30(水) 19:35:56






    「・・・・そこまでの話になってたの・・・・;

     いや、正直言うと私もそういう展開を全く期待して
     無かった訳じゃないんだけどね。・・主に性的な意味で」






    「・・・・話が拗れる。真面目な話をしてるうちは
     そっちの事情を持ち込むな。」





    「・・・・分かった分かった。

     ・・・でもね、リヴァイ。エルヴィンの考えも尤もなんだ。
     幾ら君が気乗りしないといっても・・・君の血は
     この壁に囲まれる全人類にとって・・・この先絶対に
     無くてはならない未来への架け橋となる、言わば血脈だ。」





    「・・・・・・・」





    「それはヒストリアにしても・・・エレンやミカサにしても
     同様だ。・・・特に君はあのミカサと同じ、
     アッカーマンの血筋である疑いが強く持たれていて・・

     しかもどんなに早くとも一年に一人しか子を授かれない
     ミカサと違い、後世に引き継がれる血筋の判定は
     どうなるかわからないけれど、・・・ともかく君は雄性だ。

     その気になれば一日5人や10人だって産めや増やせで
     いける訳なんだし・・・本来ならそんな感じでもっともっと
     頑張って貰わないといけない所なんだ」 





    「血も涙もねえ話だ。


     ・・・・まるで家畜の交配じゃねえか。


     俺から言わせりゃ・・・そんなことまでしなきゃ
     守り抜けない平和なら・・・そんなものは元王政(やつら)のやり方と
     さして大差はねえように思えるが」




    「・・・勿論それは極端な話の例えだ。


     ・・・でもね、君の体に流れるその血が・・・・・

     既に君だけの物でなく全人類にとっての希望である
     事実に・・・なんら変わりは無い。」





    「・・・・・・」







    「・・・・・・その希望を、ほんの1つでもいいから
     後の世に残してみようと思った事は無いか?って・・・・・。


     私がリヴァイに聞きたかったのは・・・そういう事だよ」







    「先に言った通りだ。悪いが一度もそれを考えた事は無いな…。」






    「・・・・・・」





    「・・・ああ、だがな。誤解が無いように言っておくが・・・

     別に変な趣味がある訳でも無ければそういった機能に
     障りがある訳でもないからな」





    「・・・・っ!」 




    無言で彼の言い分を聞いていたハンジだが、
    そのようにとって付けられた冗談半分にも聞こえるような
    補足を聞いた途端・・・意を決したようにリヴァイに
    詰め寄り、いつもの彼女同様、嬉々とした態度で
    こう続ける。




    「・・・・なら丁度良い!!!これは結構落ち着いた意識の元に
     真面目な話で言ってるんだけど!やっぱり・・・・
     リヴァイ、私、、、あんたの子供が欲しいな!!!」




    「・・・・お前、人の話を聞いてたか?正気じゃねえなら
     もう一遍花畑にぶち込んでやるぞ。

     万全を期して・・・今度は表でやる。

     そのまま放置すれば垂れ流されたモノにしても・・
     掃除の手間も掛からず大地に還るだけだからな」





    「言ったろ、真面目な話だって!!!!・・・・ま、まあ、
     あの・・・リヴァイの首絞めも・・・なんだかオチるまでの
     瞬間が癖になりそうなくらい心地よかったから、

     相応の備えをしてからなら・・・もう一度して欲しいと
     思わなくは無いけどね・・・・////」





    「チッ・・・・、、 愉しんでんじゃねえぞ変態メガネが。
     大体下の蛇口が緩んじまったって事はありゃ
     脳の方にダメージが行きかねない、あまり良くない方の
     落ち方だ・・本音としちゃ二度とやりたくも無えんだ。

     ・・・おとなしくしててくれマジで。」




    「じゃあ、おとなしく真面目にお願いしようかな。
     リヴァイ、私と是非ともこの機会に・・・」




    「却下だ。」




    「せめて最後まで言わせてくれよ!!!」



     何度突き放そうと性懲りも無く詰め寄ってきやがる。
     どうにもこれらを本気で口にしてやがるらしい。



    「・・・言っただろ。俺にはどうせそんなものが
     出来たところで・・・傍に居てやれる保障もなければ
     面倒を見切れる暇もねえ。

     ・・・・いつか失うかもしれない恐怖を抱えながら
     戦わなきゃいけねぇくらいなら・・・・・」





    「っ・・・・」






    「そんなモン・・・最初から無くて良い。」







    一瞬。彼が見せたその表情がハンジの目に写ったのは
    ほんの一瞬だった。・・・・しかし・・・今まで見たこともない
    リヴァイの“弱さ”が・・・そして“人間らしさ”が
    滲み出たその一瞬を確実に見逃さなかったハンジ。



  26. 28 : : 2015/09/30(水) 19:40:20






    「リヴァイ・・・。しつこいのも良くないし
     私もこれ以上困るあんたの顔を見たくない。
     これで最後にしよう。

     酒に突っ走った勢いでも、一時の気の迷いでも・・・
     理由は何だって良い・・・。


     だから・・・お願いだよ。私と今此処で・・・・子作り的な事(そういうこと)をしてくれないか」






    「・・・なんっっつう風情も誠意も感じられない口説き文句だ」






    最早呆れ果ててしまった末に否定も肯定も忘れて
    目頭を押さえるリヴァイ。しかしソレまで通り一思いに
    その提案を一刀両断できないのは・・その目に宿る
    極めて真面目な彼女の眼光と・・・今しがた自身の心に
    差し込んだ一縷の心の弱さに気を取られた故の不覚か。






    「冗談で言ってる事じゃないってのは理解してるよな。

     だからここからも真顔で幾らでも恥ずかしい事を
     くっ喋ってやる。あんたが私の要求に・・・その首を
     縦に振ってくれるまで、とことんだ」




    「しつこいのも良くないって言ったのはどの口だ」





    「悪いけどもう忘れた」





    「~~・・・・・・・、、」





     こいつにここまで真面目な顔を向けられたのが
     何時以来だったかは思い出せねえが・・・少し俺も
     色々あって疲れてたんだろう。

     
     今までの俺なら何がどうまかり間違っても目の前のコイツに対して
     こんな言葉を放つ気になったりなんてしなかっただろう。




    「おい・・・本気で言ってんのか・・・?お前が俺とそういった
     事に及びたいと思っている理由の中には・・・エルヴィンの奴が
     言ってた様なくだらねぇ動機も含まれてたりとか・・・
     
     そんなんじゃなく、お前自身が本心でそれを望んでやがるのか?」




    「・・・・私の本心はともかくとして・・・別に下らないって事は
     無いだろ・・・;ソレだって立派な理由の一つにはなり得るさ」




    「いいや・・・くだらねぇな。大体そんな理由で作られるガキの
     気持ちにもなってみろ。いいか・・・先に言っといてやるが
     そんな理由でだけは絶対に俺は...


    「っ」


     ガバッ・・・・


     その先は・・・不意に飛び掛ってきたハンジの口が邪魔をして、
     言葉に出来なかった。奴が再び正気を失った可能性を考慮して・・・
     口を塞がれながらも俺は奴が自ら身を引くその時を待つ。




    「っ・・・・  フゥ・・・・・  ぷはっ・・・・・」 




    「・・・・良い度胸だ・・・ちゃんと歯は磨いてるんだろうな」



    「・・勿論さ。おまけに風呂にも入ってる。綺麗にしてないと
     傷の治りも良くないからね・・・お陰様で此処毎日は綺麗さっぱりさ」



    「当たり前の事だろうが・・・毎日風呂入るのは・・・;」




     ここまで会話を交わして・・・目の前のコイツの正気が
     未だ保たれていると確認できた俺は一先ず二度目の
     強行制圧に備える警戒を緩める。
     




    「・・・うん、話の続きをしようじゃないか。私がこうして
     ・・・・リヴァイ、あんたに迫ってる動機についてか。

     勿論そこには私情しか存在しないよ。エルヴィンが君に
     言ったような事やそれらの建前なんていうのは・・・結局の所は
     おまけみたいな物かな。」




    「・・・・・・・」





    「私だってこんなんでも一応調査兵団じゃあんたより先輩なんだ。
     仲間を失う悲しみも、それに付きまとう恐怖もあんた以上に・・・

     充分知ってるさ。しかしだからこそ・・・あんたっていう存在は
     私にとって何より大きい。何せあんたが私より先にお亡くなりに
     なる未来なんてものがまず思い浮かばないんだから。

     ・・・それにさ、失うのが怖いとかそんな言い訳は・・・・
     私等の世界じゃ一等の禁止ワードじゃないか。それくらい・・・
     あんたが一番良く分かってると思ってたんだけどなぁ・・・・」




    「何度も言ってると思うがな・・・俺達全員、何時何処で
     野垂れ死んでもおかしくない綱渡りの真っ最中なんだ。

     あまりあてにならない期待の目を自分以外に向けるんじゃねえ。」





  27. 29 : : 2015/09/30(水) 19:43:20






    「・・・・まったく、理屈で何とか説き伏せようとかしてもやっぱり
     駄目か・・なら飾り立ても何もしていない言葉で言わせて貰うけど」





     その言葉を境に・・・ハンジの目が変わった。・・・・いや、
     “変わった”というより・・・“戻った”といった方がいいか。


     奴がもっとも自分を曝け出し、そして自分を失って語り捲る
     事しか出来ない位に盲目な様をあらわにする・・・・



     “巨人について夢中に語っている時”の・・いつものこいつの目だ。





    「私は・・・本心からあんたが欲しくて仕方が無いんだ。」


    「あんたがどうしてもくれないって言うなら私が勝手に貰う」


    「例えそこに愛とかってモノがなくても」


    「例えあんたが親になってくれなくても」


    「酒の勢いだとか・・・一時の気の迷いだとかそんなんでもいい」


    「周囲にはそんな感じで何とでも言ってくれればそれでいい。」


    「私とあんたがこういう形で出遭えた証になるなら・・・・」


    「それがたとえ暴走の末に残された証でも何でもいい」


    「だからリヴァイ、どうか私を」



     これ以上近くに寄られたら顔がぶつかって満足に喋る事も
     出来ないであろうという至近距離で・・・息つく暇も置かずに
     捲くし立ててくるハンジ。

     ・・流石の俺もここまでの事を女に言われて置きながら
     建前上の返事しか寄越せないというのでは・・それは余りにも
     甲斐性ってヤツに欠ける対応だと思い至った。



    「・・・・本当にそれで良いんだな・・・?お前は・・・・俺で」





    「・・・・・・・!!!!!」




     俺がここで初めて否定以外の意思を見せた事がどれほど
     意外だったのか知らないが・・・大袈裟に身を引いて驚きに
     メガネの奥の目を丸めるハンジ。




    「・・・・何をそんなに驚く・・・・・・?」




    「い・・・いや・・・・・まあ・・・・あの・・・なあ・・・・;」




     先ほどまでの勢いも何処へやら今度は別の生き物に
     寄生されたんじゃねえかと見紛う程にその両目を泳がせまくっている。


     ・・・・・・・・気味が悪ィ。





    「あんたと本気でしたいと思ってたのには偽りなんか無いよ。
     ・・・・ただ・・・ただ、まさか本当にOKっぽい返答が
     返ってくるなんて・・・・夢にも思ってなかったから・・・」




    「・・・じゃあそのまま夢で終わらせてやろうか」





    「めっ・・・・・滅相も無い!!!!!ぜっ・・是非ともお相手を
     お願いしたく存じます!!!??どうかこの通り!!!!!お願いします!!」

     ババッ!!!



     冗談半分で言ってやったんだが、必死で土下座を行い、
     頭を床に擦り付けるハンジ。今のこいつには一切プライドとか
     そう言ったものは無い様だ。・・・ほんの少しではあるが、
     悪い冗談を言ってしまったと思った。





    「・・・・こんな時だから言うが・・・俺もな」




    「・・・・・???」チラッ




     俺が何か言い出したのを察知し、未だに床へと密着させた額を
     僅かに浮かせて此方を伺っている。訳も無く焦らせてしまった
     事に対する幾らかの罪滅ぼしに成るかは解らないが
     ・・・少しは表に出さない私情を口にしてみるのも一興だろう。





  28. 30 : : 2015/09/30(水) 19:54:55





    「お前なら、相手になってやってもいいと思う」





    「      」




     跪いたまま、その表情を固まらせるハンジ。どうやらこれは
     ヤツにとって先程の返答を遥かに超える驚きの発言だったらしい。
     しかし、別にこれは俺の独り言のようなものだ。返答が無い事を
     一々気遣ってやる必要は無い。



    「実質俺がここに身をおくことになってから・・・今日まで巨人の
     腹に遠征してねえ古参の女はお前位のもんだからな。

     ・・・・お前に託せるってんなら・・・少しは先行きが明るくも感じられる」




    「っじゃ・・・・、っじゃあ早速・・・・!」



     漸く固まった状態から復帰して目を輝かせるハンジだが・・・
     そうは問屋がおろさねえ。そういう事になるなら俺には・・・
     こいつに言わなければいけない事が・・・・いや、
     もう一つ確認しなければいけない事がある。

     飛びついて来たそいつを制して俺が訊かなければいけないのは・・・



    「しかしもう一度確認するぞ。・・・・本当に俺でいいのか」



    「・・・・・?」



     やはり得心がいかないと言った目をしている。




    「・・・・?いや、いいにきまってるって言ったじゃないか。
     何・・・?やけに引っ張るじゃないか・・・もしかして実はリヴァイ、
     子々孫々に渡って寿命と身長が一定の値を超える事が無い
     呪いでも掛けられてるとかそういう・・・」




    「対人部隊のケニー・アッカーマンについては・・・・どこまで聞いた。
     エルヴィンの奴からは。」




    「あんたの・・・叔父にあたる人かもしれないって話だろ。
     アッカーマン性で・・・その人はあんたに対してお母さんの
     “兄”だって言ったんでしょ。私はそこまでよく見て無かった
     けど・・・・まさかリヴァイの親族が敵方に回ってたなんてね。

     もっとよく観察しておくんだったよ」




    「・・・話を逸らすんじゃねえ。その事実を把握してるってんなら・・・」





    「・・・・???」





    「お前の班の奴等を・・・いや、ニファの頭を吹っ飛ばしたのは・・・
     その、俺の実の叔父だって事になるんだぞ。」





    「・・・・・・それが?」





    「結局のところが・・・今ここに居る俺という人間はだ。
     根っこの部分は殆どヤツの影響だけで形成されてると言っても
     言い過ぎじゃねえ。・・つまり・・・路傍の石ころを蹴飛ばす位の頻度で
     そこいらの憲兵の喉笛を掻っ切るのが日々を生きる唯一の楽しみ
     とかのたまう様な・・・・割とそういった人間のクズみてーなヤツの
     血が・・・その思考パターンが・・・この俺の中にも少しは流れてる訳だ」





    「・・・・・・・・・」




    「俺らでエレンとクリスタの棺を監視してる最中の事にしたって・・

     俺があと2秒でも早く奴の教育指導内容を思い出してれば一先ずニファは
     顔を失わずに済んだんだ・・・・・」





    「言ったろ。私らの世界で、そういった“たられば”は禁句だ。
     急に何なんだ一体・・・・あんたらしくも無いじゃないか」





    「・・・・なら更に分かり易く言ってやる。お前は・・・
     お前の班の仲間を“ほぼ皆殺し”に追いやった連中の・・・

     その頭目と同じ穴の狢ともいえる位“まともじゃねえ”奴の
     子供を・・・率先して身篭りたいと言えるのか?」




    「・・・・・・・・・」






     俺は少なくとも以上の言葉を本気で苦悩しながら口にしていたが・・・





    「それこそあんたの言葉を借りてこう言いたいよ・・・
     “くだらねぇ”な・・・・いや、本当に・・・・くだらない」




    「・・・・・・・・・・・・・・・」






    リヴァイ(あんた)リヴァイ(あんた)だろ。それ以外なにもないよ。

     アッカーマンも・・・仇も何も関係ない。調査兵団で最も古い仲だからとか
     ・・・・・身体が頑丈そうだとかっていうのも実際あんまり重要じゃない。」




    「あんたの叔父さんとやらがその昔どんだけ大勢の憲兵の喉笛を
     掻っ切るのに夢中になってたかなんてのはもっとどうでもいい。

     おまけにもう一つ・・・。まともじゃないなんて事を言うなら・・・
     そんなのお互い様じゃないか。私だって・・まともなんかじゃない。


     まともじゃない者同士・・・・仲良くしようじゃないか」


     ギュッ・・・・

  29. 31 : : 2015/10/02(金) 01:42:58




    「(参ったな・・・・・・。これ以上無い程に参った。)」




     ここまで言ってこの答えが返って来てしまったら・・・・もう俺には
     何も返す言葉が無え。・・・・いや、別にもう事の成り行きに関しては
     成るようになればいいと思ってる。



     つまりハンジがそこまでしたいというならもうこの際
     別に何も拒みはするまい。それでもいい。




     しかし・・・・・





    「(ここでどう返せば妙な空気を作らずにサラッといける・・・・・?)」




    リヴァイ・アッカーマン(仮称)三十余年を孤高の男として
    歩むも・・・未だにその女性遍歴・・・・皆無である。


    彼の表情は一見していつもと変わらない様に見えたが・・・・

    その内心はやはり現状打開の一手を導き出す為、思考回路フル回転の

    真っ只中であった・・・・。




    「・・・・・・?おいリヴァイ・・・・・」




    「何だ・・・・・」






    「何だじゃないよ・・・・それで・・・話はそれだけ?」





    「ああ・・・・。俺から言う事は一先ず・・・それだけだが」





    「!・・・・なんだリヴァイっ・・・・ひょっとして!!!

     ひょっとしてお前、   焦 っ て ん の か ! ! ! ? ? ? ?」




     先程までのクソ真面目な面を破壊して・・クソメガネの不快な笑い声が
     部屋の窓を震わせる。





    「・・・・悪いか。人からこんな形でぶつかられたのは・・・生憎だが
     今日この時が初めてなんだ。

     人生初めての経験にタダでさえ躊躇っちまう所を・・・
     よりによって相手が“お前”なんだ。・・・そりゃ焦りもする」





    「   」





    「・・・・リヴァイ、ごめん、今あんた何て言った・・・・?」





    「人生で初めてだっつったが。そいつの事で合ってるのか」





    「・・・はじめて?」





    「・・・・・ああ。」





    「・・・・それって・・経験が無いって事・・・?」




    「・・・そう言ってんだろうが。しつこく聞かれる意味が分からねえ。

     お前だって人のことをとやかく言う筋合いが....


    「・・・・・?私はあるよ?」







    「・・・・・・・・・・・・





     ・・・・・・・・なんだと」









    「まあ実を言うとこれが初めてじゃないんだよ。
     
     ・・・意識の有る無しを踏まえずに言うと。」







    「・・・・どういう意味だ?」







    「・・・いや、その・・・ね。こういった経験が、だよ」





    「・・・・どいつとやったんだ」





    「そんなの別にリヴァイに関係ないだろ?」







    「関係無い訳があるか。 ・・・・猛烈に気になるだろうが」






    「・・・・私がその相手を言ったら嫉妬でもしてくれる?」






    「・・・・そういう事はまず無いが・・・もしそいつが
     病気でも持ってそうな奴だったらどうするつもりだ。」





     そこで短く、呆れるように深いため息を吐くハンジ。




    「・・・言ったでしょ。記憶に・・有る無しを踏まえたら..ってさ。
     
     私その時の事殆ど覚えてないんだよ。


     訓練兵団卒業式の晩に同期全員で酒盛りしてたと思ったら
     いつの間にか酒が回って寝ちゃってて。

     ・・・で、起きた時には外の茂みでズボンだけ迷子になった状態で
     大の字になってた。」




    「・・・・・・」




  30. 32 : : 2015/10/02(金) 01:46:20






    「いやあ、しかし よかったよかった。

     その日が割と危なくない日で。起きた時の私の状態から考えても・・・
     相手が一人だったかどうか、実はよく分からないんだ。

     しっかりやることやられてたからね。後始末が
     億劫で仕方がなかった。・・・けれど考えてもごらんよ」



    「・・・・?」




    「こんな私で初めてを捨てたって構わないような
     奴だって事は・・・・・だ。

     よっぽど女運のない、この先もそういった機会に恵まれない様な、
     そんな奴らだったって事だ。つまりあんたが怖がる様なお土産を
     どこかからこさえて来る機会すらそいつらには無かった筈さ」





    「どの兵科に進んだどいつかも分からないのに何故
     そいつが初めてだって決めつけられる?」





    「・・・・行方不明になった私のズボンと下着はね、ついぞその消息を
     掴めず仕舞いだったんだ。・・・・つまりそいつはこんな私なんかの
     履き物を嬉々として持ち帰ったって事だよ。


     そして・・・酒に酔いつぶれた相手にぶつかる度胸しか無い割には
     後先考えずにやるだけのことはやって・・・



     やったら やりっぱなし。



     ・・・・こりゃどう考えても経験の有る奴の所行じゃない。

     ・・・・普通そうは考えないか?あんただってさ。」






    「・・・・・・・」





    「・・・・なるほど。それもそうだな・・・・」







    「だがお前それじゃあ・・・覚えてねえなら経験がある
     内にゃ入らねえだろうが」





    「しっ・・・身体的には経験済みなんだから一緒だろ!?」





    「一緒じゃねぇよ。」
     キッパリ




     ・・・・しかし少し安心した。このまま事が進めば
     ハンジの奴に先輩風を吹かされながら、この俺が
     手取り足取りといった格好でこいつに人生初の試みを
     教授される事になってたかもしれないんだからな・・・

     
     ・・・あまり想像したくねえ光景ではある。





    「・・・・、」







     ここで俺はこれから衣服を脱ぎ払って目の前のコイツと
     コトに及ぶ上で気に掛けるべき重要な事柄を思い出す。






    「おいメガネ・・・・」





    「・・・・・・・・・・・・」
     ツーン・・・・・




    「おい聞いてんのか」




    「・・・・・・・・・・・・・」




    「おい・・・・・ハンジ。」

    「何だい??」ニッコリ









    「酒はあるか。」





    「・・・・え?」




    「この部屋に酒はあるかって聞いてんだ。あるなら
     仕舞ってある場所を言え。」




    「向こうにある戸棚の一番下だけど・・・何だ?w意外だな
     あんたが酒を飲みたがる所なんて一度も見たことが
     無い気がするけど・・・アレか?本当に酔った
     勢いでもないと照れくさいとか・・・・?」




     勝手な憶測に頬を緩ませるメガネのアホを差し置いて
     言われた通りの戸棚を開ける。

     ・・・そこには確かに酒瓶が入っていたが・・・




    「おい。こいつじゃ度数が足りねえぞ。普通
     消毒用も兼ねてもっと高いのを常備しとく筈だろうが」






    「贅沢言うなよ!っつか私に言われても知った事じゃ
     ないって!!この部屋はエルヴィンに手配されて昨日
     移ったばかりなんだからさ。


     ・・だいたいそれで足りないってお前・・・
     必要十分じゃないか。・・私ならそんなの一杯で
     出来上がりだよ」





    「テメェの肝臓がどれくらい安上がりかなんざ聞いてねえ。

     チッ・・・・・  仕方がねえ。まあ無いよりゃマシか・・・」

     ズッ・・・・  パサッ・・・





    「ッ・・・・・//////」 





     衣服を取り払った俺の胴体を穴が空きそうな程
     見つめるハンジ。・・・・別に人前で服を脱ぐのは
     これが初めてでは無いはずだが・・・・・




    「・・・・どうした。そんなに珍しいか。俺が人前で
     着替えるのが」





    「いや・・・それも確かに珍しいけどさ・・・傷・・・・スッゴく
     ないか・・・?痛くないのそれ・・・??;」





     ー傷。・・・・・ああ。そりゃ増えてなきゃおかしいな。



     先だって両手に持った散弾銃をパカスカとクラッカーの如く
     景気良くぶっ放してくる奴らとの一悶着があったばかりだ。


     当たったら一巻の終わりとなる頭部を庇いながらの
     逃走劇を強いられたんだ。・・・せめて事前に僅かでも
     情報が入っていれば少しは違ってたかもしれないが


     完全な不意打ちであの数を寄越されたらこうなるのは
     当たり前のことだ。





  31. 33 : : 2015/10/02(金) 01:51:07




    「相手の得物は散弾だったんだぞ。この程度は
     当たり前だろうが。鉛が残るのも気分が悪ぃ。
     それ自体は大した数でも無かったし・・・

     手先が器用な奴が居たからな。摘出と縫合は全て
     そいつに任せた。」






    「ああ・・・・ダウパー村出身の子だね。一時は随分と
     君に苦手意識が芽生えてたみたいだけど・・・大丈夫だった?」





    「何がだ」





    「イヤ・・・新入りをどつき回したりして
     戦意喪失させたりしてないかな・・・と」





    「お前は俺を一体どういう人間だと思ってんだ」





    「だって、エレンのときはボッコボコだったじゃないか」





    「アレはそういう状況だったんだ。本人の了承も
     後付けとはいえ取ったし結果オーライで済んだ。

     ・・・・・何の問題もねえ。」




    「でも奥歯ポロリはやり過ぎだって・・・・。。
     治ったからいいようなものだけど」





    「・・・まあ、手当をさせてる間も相当嫌な面して
     やがったからな・・・奴には悪い事をしちまった。

     ・・・たしかあいつは糧食から平気で芋やパンを
     ちょろまかす程の悪食らしいな」





    「・・・・らしいね。エレンやミカサの話では。

     まあ、そういうアホっぽいキャラもムードメーカーとして
     必要でしょ。新生リヴァイ班、いいんじゃない。」





    「阿呆で馬鹿なのは事実かもしれねぇが・・・無能じゃねえ。


     ・・・・せめてそん時の見返りに芋くらいくれてやるか。
     あんまり志気を低下させるのも考え物だ・・・」






    「(あのリヴァイが・・新入りに気を遣ってる・・??;)
     いや・・・もうだいたいその辺の不信感は皆払拭
     されたんじゃないかな。・・・彼らの歳では・・・あれらの
     修羅場は早すぎたんだ。そりゃ上官のやり方に
     不信感を募らせるくらい当然の事さ。」






    「まったくブレのない奴も一人いたがな・・・・」





    「・・・今になってもし彼女があんたの親戚かもって
     言われるなら・・・成る程、納得だよ。例えマジで
     人を卸すのを避けられない状況に陥っても・・・

     彼女だけは一切の迷いも気後れも無かったからな・・・

     ・・・ほんと、すっげぇよ・・・・」





    「話に聞いただけだが・・・エレンとあいつは
     ガキの頃既に人攫いを返り討ちにしてるって
     話だからな・・・奴等だけは104期の中でも
     肝の据わり方が異なる。

     まあ・・・・俺は審議所の一件がある以上この先どうやっても
     ミカサの奴から気を許されることはねえだろうが・・・

     兵団に利する存在として奴を繋いで置きてぇなら・・・
     お前等本当に気をつけろよ。奴の扱いにだけは。」






    「わかってるよもう。っていうかその辺は一番
     エルヴィンが気を遣ってそうだしね。」





    「・・・・・・」






    よし・・・・。うまい具合に話をずらす事で大分
     こちらのペースを持ち直す事ができた。


     後はコイツで先に行うべき衛生対策を済ませて・・・
     とっととコトに持ち込んでしまうとするか。
     妙な間を作って変な空気が流れ始めても
     正直やり辛ぇ。





    「(ゴプッ・・・)」




    「・・・お?!」



    「~~~~~、、~~~~・・・・(ビシャッ)」




     俺は一口に含んだ(そいつ)を吞み込まずに
     よく(うがい)してから窓の外へと吐き捨てる。





    「おっオイオイ!!何勿体無い事してんのさリヴァイ!?

     幾ら度数がそこまで高くないからって、それだって
     立派な趣向品だぞ!?もしも今は亡きゲルガーが
     今のお前を草間の影から見ていたら、間違いなく
     化けて出てくるぞ!!!!??」

     ガバッ・・・





    「・・・・・ブッ!!!」





    「うわっ!!??!こ、今度は一体・・・っ!!ッッああ;//酒臭ッ・・・!!」





     詰め寄るハンジを無視し、うがいで口内の消毒を
     済ませた俺は、口に含ませた酒を自分の体に
     吹き掛ける。




  32. 34 : : 2015/10/02(金) 01:56:38





    「これから汗もかく上にお前と密着したりするんだ。
     まずはこれらを消毒しとかねえとお互いに
     不衛生だろうが。おまけに人間の体の中で最も
     雑菌がうようよしてやがんのは口だって話だ。

     だから最初にまず(うがい)で洗い流した。

     ・・・お前もやっとけ」

     コトン・・・・









    「うう・・・、、私、これで口濯いだだけで
     酔っ払っちゃうかもしれないんだけど・・・」





    「そんなんで酒盛りに参加すりゃ襲われるに
     決まってんだろ。少しは自分の身体を把握して
     行動しろよ・・・・・。いいからうがいだけでもしろ。

     体の方は俺がやってやる。(コポッ)」





    「おっ・・・!?おお、おいオイ!!なあ!?まさかそれ・・・
     私にもやるつもりじゃないだろうね!?!そっ・・

     それは幾らなんでもちょっと・・・・!!」



     ズルッ・・・・



    「   」





    「・・・・・ブフッ!!!!!...」




     何かを必死に訴えかけるハンジを他所に・・・
     俺はさっさと自らの下穿きを脱いで椅子の上に
     折り畳んで上着と重ねると・・・・恐らくこの後
     もっともハンジのヤツと密接に触れ合う事になる
     部位を含めて、広範囲に浄化の毒霧を噴霧する。


     ・・・多少度数が足りないとはいえやはり
     局部周辺には若干の焼け付くような感覚はある。

     ・・・・しかしそれこそが多少なりとも滅菌が
     行われている証でもある。




    「ちょっ・・///リヴァイお前っ///うっそ・・・♥;

     躊躇い無さすぎだよっ・・・・もっと、なんていうか
     ・・・・雰囲気を考えろよ!!!!!;」

     チラッ・・・チラッ・・・・




     俺が下まで先に脱いだのが余程驚きだったのか
     いてもたっても居られないという様子で
     チラ見を繰り返すハンジ。




    「雰囲気なんざ知った事じゃない。お前が言ったんだろ?
     勢いだけで結構だとな。今更贅沢を言うな」




    「!!言ったけどなんかさ!!!/////
     やっぱりいざ突然マッパになられるとこっちも
     恥ずかしいって!!!」




     珍しい光景もあったものだ。その頭の中身に・・・
     恥じらいなんて感情が有るのかどうかすら
     怪しかったこいつが。


     今俺の目の前で顔を真っ赤にして視線を泳がせている。


     この場には第三者の目も無いというのに。






    「・・・ならお前もとっととこっちに来い。・・・ああ。
     腕は怪我してんだ。そっちは無理して脱がなくて
     いい。胸周りもあまり露出したくは無ぇんだろ。
     それくらいは俺だって気遣ってやる」





    「そりゃどういッた意味での気遣いかなッ!?!?ꐦ

     久々にあんたの気遣いに与ってもそんな気遣い
     全然嬉しくねえよ!!!!;」





    「・・・・お前、気にしてるんだろ。この辺の厚みが
     他のヤツに比べて何となく足りないのを。
     最近は随分とマシになったモンだが・・・・、
     原作初期はマジで"ジジイかババアか判らない"
     の、若年者状態だったからな・・・・


     ・・・だが気にする事はねえ。

     大体のヤツはガキをこさえてる間だけは独りでに
     膨らんでくるらしい。今日頑張って何とかなるといいな・・・」



     精一杯の気遣いをもってメガネの鳩胸を
     一瞥してやる。こういう気遣いで気を悪くする
     奴も居ないだろう。
     





    「人事かよ!!!!ある意味あんたの頑張りに全て
     掛かってるんだぞ!!!?精々頑張って私を揺すれよ!!!!!

     ・・・けどな、悪いが一秒だ!!!一秒で絞ってやる!!!!
     経験の無いリヴァイなんてあっという間だからな!!

     涼しい顔しやがって畜生めッッ!!!!ꐦ今に見てろよ!!!!」




     怒りを露にして拳を握るクソメガネ。

     さっきから自分が下半身に何も履いてない事実を
     完全に失念してんじゃねえかってくらいに
     その行動に慎みと呼べるものは無い。




    「・・・・ほう。そうまで言われると少し楽しみすら
     覚えちまうな。・・・だが、“悪いが”は余計だな」





    「~~~~・・・・!!!!/////ꐦ初めてのクセに
     調子に乗ってからに・・・・・!」



  33. 35 : : 2015/10/02(金) 02:03:32




    「(溜息)・・・いいからとっととこっちに来い・・・」




     グイッ・・・




     そう言うと俺はハンジの右手を掴み、ベッドから
     引き離すと・・・・・





    「あっ・・・・・!!!!!!!おい!!ちょっと・・・・待ッッ




     ブフォッッ!!!



     肺活量の限り、そいつの下半身にも同じように
     酒を浴びせた。いくらここ連日風呂に入っていると
     いう話ではあっても・・・一日中寝たきりな上に、
     正にこれから俺が邪魔する事になる部分は、先程
     盛大な粗相をやらかしたばかりだ。


     この場でまず最も殺菌消毒を行うべきはヤツの
     局部・・・・




    「アギャッァアアアアアアアアアア!!!!!!」
     



     そこまで脳裏で現状確認を行っていた最中・・・
     ハンジの汚い悲鳴が俺の回想枠を引き裂いた。





    「・・・・おい、何て声上げやがる。どうした・・、どこか
     怪我でもしてたのか」





    「違ッ・・・・ちっが・・・う・・よ・・・馬鹿ッ・・・莫迦ッ。。。

     ぁあっつ!!!!!!!熱ッッ!!!!熱ッちィィ!!!!!!!
     モロに入った!!!!!! 

     ヤバイヤバイ!!!!焼ける!!!焼けちまうってこれ!!!
     水!!!!水くれ!!!!!!水ぅぅうううう!!!!!」

     バッタン・・・バッタン!!!!! バタバタ・・・・!!!




     ・・・・どうやらこいつの反応を見るに、
     若干その辺のアルコールに対する反応や感じ方が野郎共(おれたち)とは
     異なる様だ。





    「・・・・・ッッ若干とかじゃねーーーよッ!!!!!;;;;
     (トポトポトポ・・・・、、、、バシャバシャ)

     お前これッ・・・例えるなら目ン中に酒注がれるような
     モンなんだよ!!!??畜生!!!今夜生霊になって
     枕元に化けて出てやる!!!!!!」

     ※※どっちも絶対に真似しないで下さい※※




    「・・・・いや・・・それは済まなかったが・・・そこはまだ
     口に出して言って無ぇ・・・・。」





    「くっそ・・・・;痛ぇぇえ・・・・・;;;
     この位の度数でまだ助かったけどさぁ・・・!!;

     これ・・・消毒もできる度数でもっと奥まで塗ったりした日には・・・・;;;;」
     




    「・・・・・・・」






     最初は少々やかましいくらいにしか思わなかったが。
     水袋から滴下した井戸水で必死にそこを洗い流す
     そいつの様子を見ていると・・・・・・
     

     ・・・成る程、別段誇張という訳でもなさそうだ。
     凝視してみればヤツのそういった部分が確かに若干
     肥大化している。・・・・これはどうやら己の無知を
     いい事にヤツの制止を聞き入れなかった俺に非がある。








    「・・・・・悪い。お前が止めろといった時点で
     止めなかった俺が悪かった。・・・済まねぇが・・
     痛み分けって事で・・・・許せ」

     グイッ・・・




    ドンッ・・




    「・・・・?!ちょ、っちょっと何して・・・」



     
     こんな事をして何の埋め合わせになる訳でも無いが・・

     
     せめて無為な苦痛に見舞われる事になったコイツの
     怒りが少しでも紛れるならと・・・俺は縫合跡の中でも
     抜糸が済んでいない、一際深い切創が残る右肩へと
     その右手を取って押し付ける。




    「っ・・・・・、」



     まあ・・こんな事をしようが別に俺自身が
     今目の前で悶絶していたハンジと同程度の苦痛を
     享受出来るわけではない。痛みに耳を貸さない癖は・・
     既にガキの頃から習得済みだ。

     今では意識せずとも自然と脳が痛みの信号を
     閉ざすように出来ちまってる。




    「・・・リヴァイ・・・あんたっ・・・これ・・・痛くないのかよ
     ・・・・!!!っていうか離せってもう!!!

     いきなり酒ぶっかけられて酷い目に遭わされたのは
     確かにおこだけど!!!!こんな事したって不毛なだけだ!」





    「・・・・本当は痛くねえとお前に対する罪滅ぼしに
     ならねぇんだがな・・・これがそれほど痛みはしねえ。

     ・・・悪いな。」




  34. 36 : : 2015/10/02(金) 02:07:46





    「もういい・・・・もういいって....お前が三回も
     “悪い”なんて言って謝るのはかなり珍しい
     事だし・・・その言葉だけで充分悪い事をしたと
     思ってくれてるのは解ったからさ。」





     右手に掛かる抵抗の力が思いの他強いので・・・
     俺もハンジがそれ以上の自傷行為を望んでいない
     意図を汲んで自らの腕の力を解く。





    「しっかしあんたって本当にさ・・・色々と普通じゃない
     というか・・悪い意味抜きにしても“まともじゃない”んだな・・・?」





    「・・・だからそう言っただろ。・・・未だ痛むか・・?」





    「・・・いや、大丈夫だ。っていうかもう止めてくれ。

     それ以上謝ったり申し訳の立たなさそうなお前の
     顔を見てると・・・まるで知らない人が目の前に
     いるんじゃないかって気がしてくる・・・」





     ・・・俺は今昔馴染みを前にしてそんな顔をしてるらしい。





    「・・・・・・・・・・・」




     折角どさくさに紛れてこのまま済ませてしまおうと
     していた俺だが・・・思わぬところで、その流れは
     頓挫してしまった。こうなった以上は
     俺の方からハンジに当たっていく訳には行かない。


     そもそも、それほど痛むのなら今日は一先ず
     そういった接触は見合わせて後日改めて・・・・




    「なあリヴァイ・・・今あんたの肩触って思ったんだけど」




    「・・・・何だ?」




    「それ・・本当の本当に痛くないのか...?」




    「・・・・ああ。瞬間的に痛みを感じる事はあっても・・・
     一定以上の痛みには向き合わないように・・・
     
     そういうふうに(▪▪▪▪▪▪▪)できてる」





    「今更だけど・・・・やっぱりお前少しおかしいって・・・・

     だってそれ・・・切創とかだけでなく、肩の痣といい
     触った感触から言っても・・・最近何度か脱臼して
     クセがついてるだろ・・・・」




    「・・・大したモンだな・・・そんな事まで解るのか」





    「・・・まあね。私自身何度もそういう無茶はやってるし」






    「・・・・・・・お前と俺じゃ身体の形も作りも大分違う気がするが」






    「そんなの・・・不調の来し方や壊れ方なんてのは
     同じような動きをしてる以上大して変わらないよ。

     ・・・・でもまあ今更か・・・。たしかあんた、エレンが女型に
     喰われてそこから奪還する時も・・・既に片脚折ってたんだって?」





    「足が痛ぇとか言ってる場合じゃ無かったからな」





    「いや、痛みがどうとかじゃないから。そこがもう既に
     おかしいんだよあんた。」





    「さっきから黙ってりゃ随分なもんだな。・・・言っておくが・・・
     当然俺だって元々こう(▪▪)だった訳じゃねえ。目の前の事象や物事にはな・・・
     ちゃんと全てに理由が在んだよ。コレだって結局はあいつが・・・・」






  35. 37 : : 2015/10/02(金) 02:10:16




    ・・・・・・

    ・・・・・

    ・・・・

    ・・・

    ・・







     今度のコレは俺だけが思い起す回想とは違い・・・
     口頭でハンジにも説明しながらの思い出話。



     何時の事だったか・・・まだ俺がナイフの振り方や扱い方に
     四苦八苦していた頃の話だ。






    「っ・・・・・ッ!!!」





     手の中で扱うには多少持て余すその鈍色の刃を・・・
     ほんの一瞬の不注意で取り落としかける俺の両手。


     地面に落とさぬようにと咄嗟に伸ばした手と指に・・・

     
     何とも言い表すのが難しい緊張感と、鋭い摩擦感が一閃した。

     同時に・・・・遅れてジクジクと血の流れに呼応した痛みを
     訴える自らの掌を・・・俺は暫く眺めていた。





    「おおう。やったかついに。」




     傍らでそのヘマをしっかり見ていたケニーが
     焦るでもなく、怒るでもなく、それでいて
     妙に明るい声色でそう言いながら俺に寄ってくる。





    「・・・・ゴメン。うまく握れてなかった・・・血が止まらない」

     ボタボタ・・・・





    「・・・・・・・・何故謝る?」






    「・・・・・・・・」






     その時のケニーといえば・・・これ以上無い程
     平静な真顔で、それこそ何言ってんだお前は?
     とでも言いたいような・・・そんな表情だった。





    「~~~、、ああ~、お利口さんのリヴァイ君に今日は
     もう一つ教えてやんなきゃな。ここが地下だからってのも
     理由としちゃ大きいが・・・。それだけでなく・・・・こりゃ結構大事な事だ。


     いいか、しっかり憶えとくんだぞ。・・・・“男なら簡単には謝るな”」





    「・・・・・・?」

     ボタボタ....




    「大人の男は謝らない。・・・・魂の価値が下がるからな」




    「???、、・・・・」

     ピチャ・・・・



     ぶっちゃけた話、“コイツ頭大丈夫か”と
     思ったのは今考えても間違った判断じゃなかったと思う。




    「勿論お前にいつか仲が良い友達でもできたなら、そいつとやってく上で
     間違いなく自分の非を認めねえ訳に行かない場面もあるだろ、・・だがな、
     あまり謝る事に慣れちまうと謝れば何でも解決すると思っちまう。

     そんなんじゃ舐められるだけだ。本当に悪いと思った時だけ
     とことん謝るのはいいが・・・それはあくまでお前が気を許せる位
     仲のいい奴だけにしておけ。いいな。

     地下街(ここ)で最も赦してはいけない失態・・それは舐められる事だ。」





  36. 38 : : 2015/10/02(金) 02:13:28






    「・・・・分かった。これからは謝らない様にする」

     ボタ...





    「・・・それはそうとこりゃ随分深くイッたな!!えぇ?!リヴァイよ

     ・・・・痛ぇか!?」





    「・・・痛い。じわじわとした感じが止まらないし
     血も止まらない。早く止めたいけど」





    「そうか・・・・!そいつは結構な事だ!!!!!」

     ニカッ・・・




    「ケニー・・・・。何でうれしそうにしてるの?」

     ポタポタ...




    「何ってそりゃお前・・・男児たるもの指をナイフでウッカリ切りながら
     成長してくもんだろう。お前が今日もまた一つお利口になって
     喜んでるんだよ。」

     ガッ・・ グシャグシャ




     そんな訳の分かんねー事を言いながら、本気で嬉しそうな顔をして
     俺の頭を掻き毟るケニー。真っ先に傷の手当てをしてくれるのかと
     思っていただけにこの時は流石に多くを学んでいない俺でも、
     こいつが大分まともじゃねえんだって事くらい何となく頭で理解できた。




    「さて・・・それじゃあまず・・・・普通ならここで
     慌てて手当と行くところなんだが・・・・今お前、
     ・・・・確かに痛ぇって言ったな?」




    「痛い。だんだん凄く痛くなってきた」




     正直本気でこの傷をどうにかして欲しかったが。
     相手がまともじゃないと分りはじめた以上、俺が焦っても
     仕方がないと・・・その時は考えていた。

     なので一応口頭でだけでも、俺が今どれだけ必死になって
     切り口を抑えているのか、痛みの度合いを述べる事で
     正確に伝えようと試みた。




    「・・・・そうか、よし、じゃあ先ずはその、切った右掌を頭より上に上げて・・
     手首を左手で強く握れ。痛ぇかもしれねえが・・・・・・」




    「っ・・・・・・」




     俺は直ぐケニーの言う通りにした。





    「・・・・とりあえずそれで一旦・・・・あんまり血が垂れて来なくなるだろ。」




     確かにケニーの言う通り血の流出その物は大分弱まった。
     だが、当然痛いのも傷が塞がらずにいるのも変わりは無い。




  37. 39 : : 2015/10/02(金) 02:15:08




    「さて・・・・・・ここからが今日の大事なもう一つの授業だ。
     そのまま真面目に聞く事。」




     ・・・・しかしやはり肝心の傷に施す処置などを行う気は
     皆無らしい。万歳の格好をしながらも俺は内心盛大に落ち込んだ。




    「・・・いいか、“痛み”ってのは・・・脳が言い聞かせてくる、一種の幻聴だ。
     ああ、、、、えっとだな・・・“まぼろし”って奴だな。言ってしまえば。」




    「まぼろし?」





    「・・・・ナぁそうだ。今もお前はその右手が痛んで痛んで仕方ねえと
     思うが・・・そいつも結局はありもしない“幻”なんだ。」





    「・・・・・・・」





    「実際その、“痛み”ってのはな、今お前が切った右手"そのもの"
     から伝わってるのではなく・・・脳がそう判断してお前に向かって、
     
     “右手がやべえぞ!”って言ってる訳だ。あまり血を流し過ぎると
     死んじまうし、切り傷から何かばっちいモノが入っても
     宜しくねえ。痛みってのは・・・そいつを教える為の“信号”に過ぎない」





    「・・・・・・・」




     黙って聞き入ってはいたが、当然奴の言いたい事、その全てを
     理解できてた訳じゃねえ。勿論この瞬間も、目の前の
     いかれたオッサンは何時になったら包帯を持ってきて
     くれるのかと内心ハラハラもんだったしな。




    「・・・ともすればだ、ただケガの箇所を識れるだけなら未だしも・・・
     有事の際に襲い掛かってくる痛みなんてものはハッキリ言って
     邪魔にしかならない。お前はまず・・・・


     “その痛みを聞き入れない癖”を付けろ。もっと分かりやすく
     言うなら・・・見て見ぬフリ・・・・いや、何て言えばいいかな・・・」
     
     ウ~~ン・・・・


     暫く蹲ったケニーはこれだ、とばかりに手を打って俺に
     こう言いながら向き直る。




    「痛くて痛くてどうしようもない、しかしそんなときってのは大体
     痛いなんて言ってる場合じゃねえのが殆どな訳だ。つまりそういう時は・・・

     “死ぬほど痛ぇが・・・・痛ぇハズがねぇ(、、、、、、、)”こう唱えろ。心の中でな。
     無理なうちは・・・口に出してそう言え。それで・・・大体は何とかなる。



     いや・・・・」




    「・・・・・・・?」




     こいつは一体何を言ってるんだ・・?と言う目で見つめる俺に対して尚も
     至って真面目な様子でこう続けるケニー。




    「お前ならソレが出来る筈だ。何たってお前は俺の・・・・」





    ・・・・・・・・・

    ・・・・・・・・

    ・・・・・・

    ・・・・

    ・・・

    ・・




  38. 40 : : 2015/10/02(金) 02:18:05










    「・・・・・そんな訳でな。勿論そんな精神論でどうにかなって堪るか
     クソッタレが・・・と、その時ばかりは悪態を付いてみたモノの・・・・
     意外な事に、本当に痛みだけはそれで充分引いちまう事実が判明した。」






    「いや、チョットマテ。」

     ビシッ





    「・・・・何だ。いや、本当に効くぞ。・・・というか普通に皆そうしてるんじゃ
     ねえのかと今迄散々疑問に思って来たんだが・・・まさか」





    「まさかも何もねーよ。それ アッカーマン(おまえん家)限定のおまじないだから。
     
     私がやっても多分、いや間違いなく意味ねーから。。」

     ヒリヒリ・・・・////






    「そうか・・・・」






    「なあ・・・リヴァイ・・そろそろ・・・痛みと言うか熱さというか・・・
     刺激も引いて来たんだけど・・・・・」




    「・・・・・・・・・・・・」




     ・・・・とうとう来たか。・・・だがまあ上々だ。


     特にハンジも今この状況を意識しすぎている
     様子も無い。・・・・頃合だな。










    「じゃあ、とっとと始めるか・・・」






    「あんた、ほんっと淡々と来るな。もっとこう・・・

     雰囲気とかさ・・・なんか無いのかな・・・後ほら、
     こういうのってさ、お互い始める前に済ませる
     準備って物があるわけだけど」ソワソワ・・・・





    「・・・・?雰囲気なんて必要じゃねえし・・・・

     準備ってお前。そっちは既に準備万端だろうが。
     どうせもう濡れ雑巾みてえな事になってんだろ」





    「何でわかるんだよ!!!!///直接見ても居ない上に
     経験も無いはずのお前が何でそんな事が
     わかるんだよ!!!!?」




    「さっきからもぞもぞと落ち着きのねえお前の
     素振りを見てりゃ直ぐに分かる。
     まさかとは思うが虫とかじゃねえだろうな・・・?」





    「そんなことは断じてありません!!!
     なので是非いきなりでもいいのでお願いします!?」





    「必死に即答すんじゃねえよ。
     同年代として恥ずかしくなってくるだろうが」





    「そりゃ必死にもなるさ・・・・!この歳になるまで
     出会いにも経験にも恵まれない、おまけにそんな
     身空のままいつ壁外で男より先に巨人に喰われるか
     知れたもんじゃない・・・そういう半生だったんだぞ
     私の今までは・・・・」






    「そりゃごもっともだな。」






    「とにかくあんたの気が変わる前に済ませて
     しまいたいって気持ちが先行してしまって・・・;

     風情もなにもなくて見苦しく感じさせてしまったなら
     非常に申し訳ないけど・・・・」






    「・・・いや・・・・イイ。寧ろいつも通りで居て貰った方が
     こっちもやりやすい。妙な意識をされても
     ・・・正直リアクションに困るからな」





  39. 41 : : 2015/10/04(日) 09:18:58






    「しっかし・・・未だに実感沸かないなぁ・・・
     まさか潔癖性極まる衛生意識の化身みたいな
     リヴァイと・・・こうなる日が来るなんて・・・・;////」






    「・・・・・お前が希望してたんじゃねえのか・・・?
     嫌ならやめておいても・・・・
    「嫌じゃないッ!!!断じて嫌とかじゃないから!!!!」
     
     ガバッ・・・




    「・・・冗談だ。そんなに焦るな.....」





    「~~~~、;勘弁してくれよもうぉ・・・・


     これ以上私を虐めるとストレスで誰かさんみたいに
     禿げ上がっちゃうよ・・・」





    「悪いな。焦らせちまって」




    「・・・・・///////」

     ニヤニヤ





    「焦ったりニヤニヤしてみたり忙しい奴だな」






    「・・・だってさ、ほら・・・今あんたが話してくれた
     昔話通りならさ・・・あんたはその叔父さんに、
     よっぽど気を許せる奴にしか謝るなって
     教わったんだろ・・・???それってなんか・・・・

     ・・・・嬉しいじゃないか////」




    「奴の言い回しが回りくど過ぎたから
     当時は殆ど意味なんざ理解しちゃいなかった。


     大体何だよ“魂の価値”って・・・。」





    「~~・・・でも何だかんだで妙にその叔父さんが
     リヴァイに教えてくれた事ってのは・・・

     一応タメになってるんだなぁ・・・・」




    「・・・・まぁまぁな。・・・実際地下では舐められたら
     お終いだってのは言えてるし、それは何も
     間違っちゃいなかった」


     グッ・・・・




    「おッ・・・・」





    「さて、話を続けながらでも構わないか」




    「えッ・・?!?  ああ、うん!?お、おねがいしちゃおうかな!??」

     ギクシャク....



     会話の途中からベッドの枕に頭を乗せ、
     仰向けになっていたハンジの上半身を抱き起こし、
     枕を背もたれにさせて重なり合いやすい姿勢に
     移行させる。

     全く関係の無い話の途中でこの格好をとらせた為
     流石のコイツも今の自分と俺がどういった格好で
     いるのかを再認識して、焦りまくっている。




     ―ハンジは上半身のシャツとギプスをそのままに
     半裸の格好で・・・俺は既に何も身に纏っていない。




    「・・・・・あ、そ、そうだそういえば私はもう全然
     いつだってバッチ来い!!なんだけどね!?
     
     先ずはあんたのその・・・例のアレをたっ・・・


     ・・・・・・・・・・・・・


     言いかけた瞬間ハンジのメガネが窓からの
     陽光を反射し、一瞬その両目を完全に俺の
     視界から覆い隠す。
     
     ・・・同時に時を止められたかのように
     固まって大口を空けている・・・。その視線の
     矛先は・・・・・




    「・・・な ん っ だ よ ソレぇ・・・;;;」
     ブルブル・・・ガタガタガタガタ・・・・・・・






    「・・・・?」




     男のこういった部位を見るのが初めてとは言え
     その慄き様は少し行き過ぎな気がするが・・・・





  40. 42 : : 2015/10/04(日) 09:21:27






    「・・・・ああ、初めて見るのかお前は・・・??


     そのままで入るワケねーだろ。」




    「そうじゃない!私が言いたいのはその・・!!!
     (なんだあのでっかいもの・・・・・!!!)」





    「・・・安心しろ、こうなってるって事は一応俺は
     お前をそういう目で見て意識もできるし、そこまで不快にも
     思ってないという事だ。・・・これはそういう証拠にもなる」





    「いつの間に立体()動に移ったんだよ・・・;

     っつうか・・・・・ぜんッッッ然さっきまでの
     フォルムと違うじゃないか!!!!何だその
     超大型巨○○は!!?


     そんなの入るワケあるか!!!なんか端っことか
     ビリッとイっちゃう気がして怖い!!!!!」






    「・・・・・そう言われてもな・・・・・・



     どうする。・・・・・・・・やめておくか?」





     ハンジの畏怖の表情には曲がりなりにも
     本当の恐怖が浮かび上がっていたし、
     そこまで怖気づいているのに無理矢理コトに及ぼうなんざ
     ・・・そんなのは強姦魔のする事だ。


     俺は今度こそハンジを焦らせる等といった
     悪戯半分の気持ちでなく真面目にそう提案を持ちかけたが・・

     




    「・・・・グッ・・・ぐぅ・・・・!!うぉおお・・・・;



     どんな試練だよコレぇ・・・・...うわぁ・・・怖いなぁ」

     シクシク・・・・・ ブルブル・・・・・





     半泣きになりながらそのまま開いた足を投げ出すハンジ。


     そこまで怖いのにそれでもこの期を逃す気は
     更々無いらしい・・・どんな使命感だ・・・・。。





    「・・・・ゆっくりする方が良いか・・・?それとも。」





    「・・・・ゆっくりしていってね!☆・・・・って
     お願いする積もりだったし本来そうして
     貰う所だけどね・・・!;


     あんたのソレ見て気が変わったよ・・・・。。


     そんなのでゆっくりされたら恐らく死ねる」







    「・・・・そこまで言われると余計に気が重くなるな」






    「・・・の割に、カッチカチじゃないか。」






    「最近一人でも片付けて無かったからな。だが喜べ。
     回数を望んでるなら今日はうってつけだぞ」






    「・・・・超大型でおまけに硬化の力まで持ってるのか・・・・;

     どうか私が今日の夕刻まで生きてます様に・・;!」





    「拝むんじゃねえ。縁起でもねえ」



  41. 43 : : 2015/10/04(日) 09:24:38








    「とっ・・・とにかく早くやっちゃってくれ!!

     一思いにな!!! 幸いまだ麻酔が完全には
     抜け切ってないこの状況が・・・少しは活かされる
     局面が・・・・こうして出来あがッッ↑↑↑・・・・

     


     ズヌッ・・・・・ ググググ,,,,,,,




    「・・・・ぁぇ???;;;;」

     ブルブルブルブル・・・・





    「・・・・悪い、もう挿入(はい)った。」







    「っ・・・・!!・・・・・・!!!  !!!!!」

     パクパクパク





     生簀から取り出して捌かれるまでの間、
     まな板上で最後の瞬間を拒絶し続ける魚のような
     身動きをとるハンジ。・・・口もまるでそれと同じように
     パクつかせている。

     ・・・・これは本当に一思いに動いちまっていいのか。





    「..あぐッ・・・・カっ、、。。//////;」




     今は先程のように首を抑えてもいないし、
     俺自身全くハンジに体重を掛けたりは
     していないのだが・・・・・まるで喉輪を
     見舞ってやった時と同じ表情で震えている。


     ・・・これは流石に再三の確認を取っておかないと
     後が面倒そうだ。



    「・・・・オイ。メガネ・・・大丈夫かお前。このまま何も
     返事を返せないほど辛い状態が続くなら流石に止めるぞ」


     ガシッ・・・


    「・・・・・・?!」




     しかし俺の言葉を耳にした瞬間、ハンジは
     怪我をしていない方掌を俺の頬に添えると




    「~~~!!!、、」
     
     フルフルフル・・・・・!!!




     声を放てない状態で強い拒絶の色を表した顔を
     左右に振った。・・・この様な状況でも
     活かされるというのは非常に驚きだが・・・

     俺達調査兵団の・・・特に壁外遠征に場慣れする位の
     練度がある者同士は・・・・言葉を用いなくとも

     身振り、手振り、若しくは視線だけである程度の
     意思疎通が行えるようになっていたりする。



     それは俺とこのメガネに関しても例外ではない。

     
     例え陣形の上では行動する範囲が大きく違う
     班員同士であっても・・・・・




    「い・・・・ぃ・・・・!や・・っ って・・・!!!」



     その眼を見ただけで、“今止めたらただではおかない”
     と言う位の気迫を感じ取る事はできる。


     言われなくても解ってるが....。





  42. 44 : : 2015/10/04(日) 09:27:24







     「(さて・・・とうとう俺も初めての経験にこの身を
      晒す日が来た訳だが・・・・)」






     先程のハンジの言葉をソックリ借りる事になるが・・・

     まさか俺が巨人を絶滅させてからおっ死ぬまでに
     こうして肉体関係を持つ相手を見つけただけでなく・・・


     それがまさかよりにもよって(▪▪▪▪▪▪▪)こいつだとはな。


     こうして今、その体内にすっかり入り込んでいる
     自分を意識してみるが・・・成る程・・・これは・・・・





    「っぉ・・・・・・い・・・・!そんなっ・・・・コトより・・・

     リ・・・・ァイ・・・?!?   ンタは・・・・・・・・・」





    「・・・・なんだ、どうした・・・・?よく聞こえねえ」





    「ぁンたは・・・・  ハッ・・・!!!///どうっ・・・・//

     どうなんだよ・・・??!!////・・・・少しは・・・イイのか?!」




    「・・・・・ぁあ?」





    「・・・・・っ・・・キ・・・気持ち...イイのかって!!

    ・・・・・・・聞いてん....ッだよ!!これは私のッ・・・・

     私・・一人の・・・苦しみッ・・・損・・・なのか・・・・!?」




    「・・・・やっぱり苦痛なんじゃねえか・・・。おい、

     お前がどれだけ強い意志で俺にソレを望んでるか・・

     そんな事は知らねえがな・・・別に今しなきゃそれで終わりって
     訳でも無いんだ。・・・・お前の怪我に響くくらいなら
     俺はここでお前の怒りを買ってでも大事を取るぞ」





    「・・・・質問に...答えろって ・・!!!なぁ・・・!!」
     ビクビク・・・・・




    「・・・・・さあな。入れただけでまだ動いてねぇんだ。

     ・・・ただこうしてるだけではお前の体の中が
     思いの他茹ってやがるってコトくらいしか感じる事は無い」



    「!!!」



    「・・・・?」



    「....(ブツブツブツ)・・・・....~~...」





     俺の返答を聞いた瞬間、一際大きく眼を見開いた
     ハンジは・・・そのまま俯くと、これだけ密接な
     距離にいる俺にすら届かない声量で何かを
     ブツブツと口篭り始める。

     それは・・・明らかに何か俺に伝えようと口にして
     発している声ではない。




    「・・・・・?おい・・・・ハンジお前・・・・」





    「....ない・・・・  のが・・・・・

        け・・・・・無い・・・・・・!!...のが・・・・訳が・・・」

     ガタガタガタ・・・・・





    「オイ・・・・・!もういい加減に抜っ・・・

     ガシッ



    「!?」



     言いかけた俺の「右肩」に圧し掛かる重み。
     



    「・・・ッん然痛く・・・・無い!!!!!痛くない!!!!」



     ハンジの手が届くはずの無い部位に圧し掛かって
     来たのは言うまでもなく・・・現在重傷を負っている為
     ギプスでの固定と医者から絶対安静をキツく言い付けられている・・・


     そいつの左腕だった。
     




    「・・・・・・.......」





    「へへ・・・・・!!;成る程・・・・・!!こいつは本当に・・

     効くもんだな・・・・?!!随分楽に…なってきた・・・・!!」




     本来心を鬼にしてでも負傷部位を無理矢理
     動かして相手の意識に訴えかけよう等という
     行いは戒めるべきだが・・・・



    「どうだ・・・リヴァイ・・・・!!?大分私も余裕が
     出てきた・・・・!!!っていうか段々これは気持ちが
     良くなって来たんじゃないか・・・?!

     動きたきゃ動けって・・・・・!・・・・な!!!
     
     そうしたほうが・・・あんただってイイんだろ!?」



     自分の発言が自らに向けた疑問形と成っている
     事実にもロクに頭を回せず・・・それでも尚
     俺の事を何より気にかけているような・・・


     必死なそいつの顔を見て、そんな叱咤を振るえる
     筈も・・・無い。


  43. 45 : : 2015/10/04(日) 09:34:18





    「・・・・・・。お前の言いたい事は解った。



     ・・・・だからまずこっちの腕は退けろ。俺が動き辛いからな・・・・・」

     グッ・・・・・




    「ッ・・・・ぁッ・・・・・」




     そうしてついに・・・ハンジの様子を危惧して
     行わないでいた前後の抽送を始める。





    「ッ・・・・   ぁッ・・・ぁ"ッ・・・・・////」




     此方の動きに合わせて一突き毎に肺の中の空気を
     全て引きずり出されているかのように・・・

     顎を、口を、舌先を引き攣らせるハンジ。



     ・・・・・まだ丸っきりというワケではないが・・・


     その表情には確かに失神落ちの時に見せたのと
     同じ様な・・・悦に入った色も混ざり始めて来た。





    「どう・・・・だよッ・・・!リヴァイ・・!!///

     無言で励んでないでさッ・・・・・,,私に初めての
     
     お前の貴重な感想を聞かせてッ・・・くれよ・・・・!!」





    「・・・・・・・・・」





    「人類ッ・・・・最強のアレを・・・やっとの思いで受けきった私に
     それくらいの・・・ご褒美があったって・・・

     悪く・・・無いと思うんだ・・・・ッぁ!!!!」





    「・・・ぁあ、悪くね....」

     ピタッ・・・




    「・・・・・・・・・・。。。」





     俺の動きに揺られながら、閉ざした口で。

     一切の喘ぎも漏らさずにその言葉の先を睨み殺そうとする
     ハンジの顔・・・   貌・・・   .....






     ・・・・こいつはおっかねぇ。







     すっかり忘れていた・・・こいつは・・・



     コイツを差し置いて・・・・



     調査兵団で激昂した際にコイツ以上に
     危険な生物はいなかったのだという事を・・・



     久々に思い出させてくれた。





    「・・・・・・ああ、こいつは・・・・・まあまあ心地いい。

     これだけイイなら・・・娼館って商いが干上がらずに
     続いている理由も大体頷ける。。」






    「ん。・・・・宜しい。。。。私も・・・・・////」





    「・・・・ああ?」






    「私もやっとお前の形が感じられるように
     なってきた・・・・///片腕が上がらないのが
     残念で仕方が無い・・・・せめてこっちも動けば

     ・・・・・・ね。」





    「動いたらそれでどうする積りだった。・・・
     どっちにしてもそんだけ一杯一杯じゃ何も他にする事なんて」 






    「ばっか、そりゃお前・・・力一杯抱きしめて
     やったさ・・・・。初めてで色々不安なリヴァイ君をね。


     片腕だけで申し訳ないけど・・・ほら、」

     ギュッ・・・




    「ッ・・・・あまり抱きつかれるとかえって動き辛いんだが。」






    「・・・ッそれくらい・・・・ッ我慢してくれよ。リヴァイが
     雰囲気を全くッ・・・・・///考慮してくれないから私がこうして
     自分で・・ハァ・・・//雰囲気作りに行かなきゃいけなくなってんだろ、、?;


     ・・ソッチが無理なら・・・んっ////リヴァイは動き辛い姿勢でも
     頑張って腰振る事に専念してなさい」

     キッパリ





    「・・・・これじゃ結局種馬と対して違わない扱いだな・・・」






  44. 46 : : 2015/10/04(日) 09:38:16



    「じゃぁ・・・・はいッ・・・♥////・・・・ッ」

     ン~~・・・・・





    「なんだ、その口は・・・」






    「見て分かんないかよ!!!あんた本当にビョーキだな!!

     この状況でお互い口を用いて行うスキンシップなんて
     一つしかないだろ・・・・・・。もしかしてそのボケ
     ワザとやってんの・・・??;」







    「いや、それは流石に分かるが・・・なんで俺がお前と・・・・・」






    「わ た しが したいからだよ・・・・駄目か?」

     ズイッ・・・・





     別にその時のハンジにそこまで気圧されたわけでも
     なかったが・・・・・・顔を迫らせるそいつの目を見た
     その瞬間に・・・・何となく、そう、本当に何となくだが






    「・・・・かまわないが・・・お前さっき酒で嗽して
     ねーだろ・・・・。そいつを済ませたらだ。いいな」





    「ちぇーー・・・・・。。雰囲気優先しろよ・・・・ここで嗽の
     ワンクッション置いちゃったらさ・・・少し熱下がっちゃう
     だろって・・・・・・」 






    「・・・なら丁度良い機会だ。その熱とやらを
     一気に落としちまってくれ。」





     ・・・・・本当に何となく・・・漠然と。




     ――懐かしい感じがした。





    「ったく・・・本当にブレないんだからな・・・あんたは
     ・・・・少しは初めてに戸惑ってみたりとか
     そういうのがあったって良いんじゃないの・・・」





    「無茶言うな・・・・」






    「大体リヴァイ、あんたさ~・・・」





    「お前もお前だ・・・少しはされるがままに
     黙ってじっとしてられねえのか。」






    「察してくれって。喋って喋って、
     喋り続けてないとさ・・・結構ヤバイんだこれが」





    「・・・・・大した執着だなオイ・・・・。そこまでして
     別に今この時限定でやり遂げようと
     しなくても良いだろうが・・・・」





    「・・・???あんたらしくない。それはまるで・・・

     明日も私とあんたがこうして共にいられると
     ・・・そう思ってるみたいな口ぶりだね?

     新入り達には自分達もいつ死ぬか分からない・・
     なんていって発破を掛けてたお方が・・・ねえw」

     ニヤニヤ・・






    「・・・・チッ・・・」





    「・・・・なあなぁ、それよかリヴァイさ、
     動きながらで良いから聞かせてよ」




    「何だ・・・・」 





    「あんた・・・うちに来る時中途入団だったじゃん、。
     あの二人と一緒にさ・・・?」






    「・・・・そうだな。・・・で?」






    「その前は普通に地下街でやんちゃしてたんだろ?
     訓練兵団も何も通らずに・・・・いきなり調査兵団に
     入った訳だろ??」





    「その通りだが」







    「じゃあリヴァイはさ・・・・一体こういった知識を
     ・・・どこから仕入れたんだい?」







    「・・・・・・・・・・・」







    「・・・・答えに詰まってるって事は私が言ってる
     “こういった知識”って言うものについて
     心当たりがあるって事だよね」






    「・・・・詰まるところ俺達がたった今興じてるコレの事を
     言ってんだろ・・お前は・・・・」






    「そうそう!大正解!!よく当てられたじゃないか!
     ・・・じゃあ、その調子で回答の方も言ってみようか。

     リヴァイ・・あんたはこの知識を一体何処で・・?」




    「・・・・・・・・・」

  45. 47 : : 2015/10/04(日) 09:41:33






    ・・

    ・・・

    ・・・・

    ・・・・・

    ・・・・・・








    「見ろ、リヴァイ」






    「・・・・・?」






     ケニーが顎で指し示す先にあったのは・・・・

     
     放し飼いか、はたまた野良か・・・二頭の犬が
     組み合う姿であった。この姿勢に至るまでに
     一悶着あったのは俺も気がついていたが、

     現在制圧されている方が抵抗をやめてからは
     特にそちらに注意を向けては居なかった。






    「・・・・・・野良犬のケンカ・・?別にここじゃ珍しくも・・・」





    「いいや。違う。ありゃぁな、子を残そうとしてんのさ。」





    「・・・・子?」




    「ぁあ、そうだ。・・・何を隠そうリヴァイ、お前も
     母ちゃんがどこぞのおっさんだかジジイだかと
     ああする事でこの世に生を受けた。

     ・・・・まあ、色々と大人の都合があってな。

     母ちゃんがお前を産んだのは間違いねえんだが
     肝心の父方が何処のどいつかは解らず仕舞いって訳さ。

     ・・・ほれ、あの犬でいうとこの…今上でマヌケな動き方してる方な」





    「・・・・」






    「リヴァイ・・・お前は・・・・」





    「?」




     ケニーの顔が、一際真面目なものに変わった。
     コイツがこういう顔をしてる時は、わりと真面目に話を
     聞いとくべきだというのを・・この頃では俺も何となく
     学習できていた。




    「・・・母ちゃんを・・・クシェル(あいつ)を憎いと思った事があるか?」





    「・・・・・・憎い・・・・・?何で・・・?」





    「そりゃお前・・・こんな薄暗ぇ、汚ぇ、おまけに悪臭漂う
     地下の穴倉によ・・・有無を言わさず産み落とされた挙句・・・

     自分は具合が悪いっつって先に逝っちまったんだぜ。

     ・・・こう・・・少しは・・・・、

     “面倒くせぇ人生を押し付けやがって”・・・とか

     思った事くらいはねえのかって・・そう聞いたんだ」







    「・・・・・・・ケニー・・・」






    「・・・・何だ?」






    「ケニーがたまに話してくれる“上”というところは・・
     
     ここよりもっと明るくてきれいな所なの?」







    「・・・・・・・・・・・・」






     僅かな沈黙。・・だが、直ぐにこれは迂闊だったと
     自分の浅慮な思考に気付いたケニーは笑いながら言った。





    「・・・・・成る程、成る程成る程・・・・そりゃあ・・・


     そりゃそうだったな・・・・!

     ぁあ、お前の言う通り・・・今俺らが居るとこよりゃ
     幾らかマシなとこだぜ・・・。ホレ、灯りだけでなく
     吹き抜けから光が差し込んでる時があるだろ・・
     やたら眩しい・・・お日様の光って奴だ。


     地下でなきゃあの光が大体いつも上一杯に広がってんのさ。」






  46. 48 : : 2015/10/04(日) 09:44:24





    「・・・・見てみたい。」





    「・・・俺もそう思う気持ちは理解できるがな。

     ・・・だが上には上で今度はここみたいな地下に居るのとは
     別種のクソ共が幅を利かせてやがる。

     上に行く事自体は俺がいつもそうしてる様に
     “階段”を適当に脅して素通りすりゃいいだけ
     だが・・・・」





    「・・・・、」





    地上(うえ)に住むには“許し”が要る。

     それを町中ぐるぐる回って見張ってやがる・・・
     兵隊がいやがるのさ。おっかない鉄砲をぶら下げて、
     物騒な機械を腰に着けた・・豚共の下僕(しもべ)がな。」





    「・・・・たまに見かける事はある。“けんぺい”と・・・皆呼んでいる」






    「知ってるのか。お利口さんだな。・・・ともかくそいつらが
     うようよいる中で・・・俺一人ならともかく
     お前まで引き連れてとなると正直あまり自由が利かないのさ。

     たかってくるハエは少しずつ減らしちゃいるんだが・・・

     何せ連中は地下のゴミにたかるハエ共と異なり、
     上質な蜜と上質なクソから沸いて出た(はえ)あるエリートの中でも
     一等育ちのいい・・・所謂“銀蠅”共だ。

     装備も良けりゃ腕もいい。」





    「・・・・・・・・・」





    「おまけに本当にブンブン空を飛ぶ。追いかけっこじゃ
     流石に分が悪いし、玉を飛ばす凶悪な長物と
    “居るのか居ねぇのか分からねぇ”連中を殺す為の・・・
     クソ長ぇ野菜包丁を常に二本差ししてやがる。

     こいつ等に多対一で遭遇して距離を取られたら
     ・・・お前は流石にお荷物になる。だからまあ、

     そいつに関しちゃあきらめて貰う他ねえな・・・」





    「・・・・・そう。」






    「・・・・まあそうがっかりすんな。いずれ
     見せてやるくらいならしてやってもいい。


     ・・・・・と、おう。終わったな。畜生のワリに
     随分と長くお楽しみになりがって・・・水でもひっかけて
     邪魔してやったら面白かったかな」




     その身を離して、まるで何事も無かったかの様に
     離れ離れに歩き出す二頭の犬。

     その様子を目にして思い出したように・・・ケニーは
     またも真面目な声で俺に言い聞かせてくる。




    「・・・・リヴァイ、もしもの話だが・・・。

     何れお前にも今の犬コロ共と同じように、自分の
     身代わりを後世に残そうなんて日が訪れるようなら・・・・」





    「・・・・・・、」





    「その時は良く考えて事にあたれよ。そいつが
     どれだけ自分にとって大事だと言える人間であるのか・・・
     とか・・・、そういう事も大事ではあるんだが」





    「・・・よく考えればいいの?」






    「第一に・・・・、さっきのアレだけどな。

     人間同士で最も病気が感染りやすい行為でもあり・・・
     何を隠そう、お前の母ちゃんが結局干物みたいになって
     おっ死んじまったのはアレをした事が原因なんだ。

     ・・・ほら、言っただろ、汚ぇオッサンも来る場所で
     働いてたってな・・・・」





    「・・・・・・・・・・・」




    「ああ、そんな複雑な顔をするな。

     お前を産んだ時はまだ大丈夫だったんだろ。
     日の経過を考えれば・・・母ちゃんが病気になったのは
     それよりずっと後の事だ。・・・多分な」




    「・・・・つまりだ・・・・これから何年先になるかも分からねぇ。
     ・・そもそも本当にそんな日が来るかも知れた事じゃねえが。


     ・・・・もしお前にそう思えるくらい大事な奴が
     傍に寄って来たら・・・・。よく考えてからにしろ。

     やる事やるのはな。」






    「その・・・・、“よく考える”っていうのが
     むずかしい・・・・。どう考えればいい・・・・?」





    「何・・・簡単な事さ。目の前のそいつが・・・

    “自分の命と天秤に掛けられる位の奴か、そうでないか”

     それだけ考えてみて、よし、病気になっても別にいいや。
     ・・・と思えるならさっきの犬共と同じように
     襲ってやりゃいい。クシェルの面の良さを受け継いでる
     お前の事だ・・・相手も別に嫌がりはしねーだろ」





    「・・・・・・・・・・」






    ・・・・・・

    ・・・・・

    ・・・・

    ・・・

    ・・






  47. 49 : : 2015/10/04(日) 09:48:10







     昔話を語りながら、割と動きっぱなしの
     それらをやり終えたのは・・・既に西日も傾く
     夕方前といった時刻だった。


     疲れたとまでは言わないが・・・何分通常と異なる
     運動をしたことで流石に気だるい倦怠感が、
     俺の全身にも纏わり付いている。



     ・・・・尤も・・・・






    「~・・・・~・・・・・ヒッ・・・ひぃ・・・・;;;

     人類最強の性欲を・・・甘く見てたァ・・・・・・;

     腰が・・・・!!太腿の内側がぁぁぁァ・・・・!!!」

     ピクピク・・・・ピクン・・・・




     叩き殺した後のゴキブリが神経節によって
     その足を動かすのと同じように・・・遠く離れた
     枕に手を伸べながらピクピク足を引き攣らせるコイツ程では
     なかったが。




    「俺が腰を抑えるならともかく・・・何故殆ど
     動いてなかったお前がそこまで苦しみ悶えてやがるんだ」






    「バッか・・・・!!お前な、動きが乱暴すぎるんだよ!!

     こっちはほぼ前後運動の数だけあんたの体当たりを
     腰に喰らってたようなもんなんだぞ!!」

     





    「・・・お前がゆっくりでなくていいと言ったからな」







    「(溜息)....ハイハイ、そうでした。私が悪かった・・・;


     しっかしアレだ・・・やったねぇ・・・もうとことんまでに。

     ・・・・・・全部で何回くらいだ?」







    「・・・・・そりゃお前・・・・どういう方法で算出すればいいんだ」






    「勿論回数っていうんだから一定の状態に達した
     回数の事以外ないだろ。一定の状態といえば勿論・・・・」





    「お前が白目を剝いたりして跳ね上がった回数なら大体10回以上だったが」






    「・・・ッ!!!違うだろ///!!!この場合やっぱりやってる事の
     目的から言っても・・・リヴァイの方の回数だよ!!!!」





    「・・・・ならその半分くらいだな」




    「・・・半分にしたって異常だよ・・・・!そもそも一回ずつの間隔が
     滅茶苦茶長かったし・・・・・;


     いや・・・・経験がないから一般的なそういった回数の
     平均なんて知った事じゃないけどさ・・・それでも
     普通、1回とか2回だと思うんだ・・・・!」






    「そんな事を俺に言われてもどうしようもないが。

     ・・・しかし結構な事なんだろ。少なく早く終わるよりは」






    「う・・・・///うん、。そうだな。沢山して貰ったのは・・・・
     なんとなく嬉しい感じがしないでもない。」





     そう言って俯くと、ガラにも無く目を逸らすハンジ。

     互いの格好と今しがたまでやってた事を考えれば
     今更この反応を見せるのはどうにも腑に落ちない。


  48. 50 : : 2015/10/04(日) 09:50:41







    「今になって萎縮してんのか・・・・」






    「いや・・・さっきリヴァイがしてくれた昔の話ってのを
     思い出してね・・・・。その・・・、ホラ・・・、、、、

     お前は何だかんだいってこんな私でも・・・・・///」






    「・・・・・おいメガネ、そろそろ夕飯を考える時間だ。
     何が食いたいのか言え。俺も腹が減ったからな・・

     兵員宿舎まで取りに行ってやる」






    「・・・・おい!!!何故話を逸らすんだ!!!?!??

     すっごい真面目な話をしてたのに!!!!!;

     しかもついでのメガネだよ!!!それはつまり
     リヴァイ的ツンデレサービスと受け取ってしまって
     いいって言うんだな?!照れ隠しで話を逸らしたんだな!!!!?」






    「・・・・好きに考えろ。」






    「じゃあ、じゃあ私・・・!!!肉がいい!!がっつりとした
     出来るだけ量の多い肉を・・・・!!」 

     コロッ・・・






    「・・・変り身早ぇな・・・・」






    「好きに考えていいってんならそりゃ好きにさせて貰うさ!
     それより、な!!肉!!肉だよ!!」





    「・・・悪いが肉は・・・少しなら許可も下りると思うが
     大量には恐らく無理だぞ・・・。どうもマリア奪還に向けて
     前日に大掛かりな前祝を画策してるって話だ・・・

     ここで俺らがその備蓄分に不当に手を出せる筈も無ぇ」







    「まあ・・・・それじゃあ・・・・仕方が無いかぁ・・・」

     ガクッ・・・・





     一瞬肩を落としたハンジだったが、
     気を取り直していきなりこちらに向き直ると・・・





    「じゃ、じゃあリヴァイッ!!!一個だけ私のお願いを
     訊いてくれないか!?肉を思う存分食べられない私を

     元気付ける為だと思って・・・。。簡単な事だからさ!!!」









    「・・・・・なんだそのお願いってのは。試しに言ってみろ。」







    「何だよ試しって!!;試しなんていらないだろ!そこはそのまま
     すんなり聞いてくれたっていい所なんじゃないかな!?」






    「・・・もしその内容が突拍子も無いモンなら
     うっかり快諾なんて事も出来ないしな。・・・保険だ」





    「うう・・・、、これだけの事をした間柄になっても
     まだそういう・・・心の壁は崩せないか・・!

     ・・・・一体全体、この私にウォール・リヴァイを陥落出来る日なんて
     本当にやってくるんだろうか・・・・」





     肩を落として泣き真似をしてみせるハンジ。

     これだけの元気があれば・・・まあ心身共に問題は
     無いだろう・・・・。



  49. 51 : : 2015/10/04(日) 09:53:03




    「・・で、何なんだ、そのお願いってのは。」





    「う・・・、うん、その・・お願いなんだけど・・・
     それを言う前にさ・・・・一ついいかな。あんたに・・
     その、い、言い忘れてた事があってさ・・・」




     随分としどろもどろした歯切れの悪い言い方をする。

     この期に及んで何を言いづらいと躊躇うほどの
     事があるのかと・・・俺が思考を巡らす先を遮るように
     



    「散々盛り上げちゃっといて悪いんだけど・・・・」
     
     ポリポリ




     不発に終わったイタズラを詫びる悪ガキの様な笑顔で・・・
     舌を出しながらこう言った。
     





    「私、今日別にやったら出来そうな日とか、特にそんな感じの
     日取りでは無いんだよね・・・・///あの・・俗に言う安全日というか」






    「・・・・・・安全なのか、そりゃ結構な事じゃねえか。
     危険なんて聞かされるよりよっぽど心休まる響きだな・・?」




     ――鼻で笑ってやる俺だが...




    「ねw;ご、ゴメンよ。私もそんな日取りに気がいくまでの
     冷静さは無かったし・・・・そもそも分かってても
     この機会を逃したいとは思わなかっただろうから・・・

     どっちにしたって結果は同じ事になってたと思うけど・・・」



     一体どれだけの焦燥が奴の中で渦巻いているのか・・・俺の皮肉は一切
     奴の耳には届いていない様だ。






    「だっ・・・・だからさっ・・・・あのっ!!!リヴァイの気が
     向いたらで良いんだ!!向かなければそれでいいし、
     
     なんていうか・・・・ううん・・・、、ま、また・・・・

     また・・・、、、、、」






    「ーーーー・・・・・・」





     こいつが改まってしてくるお願い等と言うものが
     果たして何なのか・・一瞬でも真面目に考えた俺が
     阿呆だった。結局・・・・





    「結局ソレじゃねぇか・・・馬鹿馬鹿しい。何発ヤりゃあ気が済む......」






    「ぅう・・・・・、面目ない・・・や・・、うん、でもいいんだ。

     ・・・ごめんな、例え聞くだけにしても変なお願いを
     聞かせてしまって・・・・。本当、今日一日だけでも
     あんたと一緒に寝られて・・その、楽しかったし・・・・」





    「・・・・・嬉しかったよ」





    「・・・・・・・・」





     このタイミングで一旦言葉を切ってからの
     笑顔ってのは・・・・・・・・・



     ・・・・・・・・・色々と卑怯だな。




     それに何より・・・眼鏡をかけた人間が殊勝な態度で
     接してきやがると・・・どうしてもまともな事を
     言ってるようにしか聞こえてこない。




     ・・・・だからこれはまあ・・・妥協点だろう。










    「・・・・・酔った勢いでいいなら・・・そのうちな・・・・。」






    「・・・・・・・・・・・・・・・!!」







     ・


     ・

  50. 52 : : 2015/10/04(日) 10:00:43





     まぁ・・・此処に至るまで
     失うモンは数え切れないほどあった。


     
     
     その度に一々ヘコんでたんじゃ心身共に
     キリがねえからと・・・他人に情を向ける事すら
     躊躇うのが殆どだった。意識すらしてはいなかったが・・・、

     ハンジやエルヴィンの言う事が正しいなら。




     ・・・いつからか俺は殆ど人前で笑ってはいなかったらしい・・・・。




     此間さんざ嫌な思いをさせてまで無理矢理
     王位を継いでもらった後輩に笑顔で礼を言った時なんざ・・・

     その場にいた全員がこの世の終わりを告げられた様な
     顔で固まっちまってたからな。



     あの時は殊更解せねえ連中だと思ったが・・・

     



     何て事はねぇ。




     そりゃ・・・考えてみりゃ一度も笑った所を
     見たことのない様な奴が、
     突然笑いながら礼を言ってきたりしたら・・・




     俺なら先ず目の前に居るそいつの正気を疑う。




     しかしこうなってしまうのも無理のない話だ。
     壁の外という世界を知ってからの俺の半生は・・・・



     俺という人間からそういった感情を奪い取るには
     十分な地獄の連続でもあったし、



     仲間が次々裸の阿呆共に喰われていくその光景に
     目が慣れちまうほど・・・・




     心の磨耗に対する鈍感さも・・同時に強くなる一方だった。




     しかし....そんな地獄の中でもコイツは。




     ・・・体力的に大きなアドバンテージを否応なしに
     強いられる立場で居ながら、尋常ならざる悪運で
     ここまで生き延びてきた。



     俺にとって最も古い友をこの兵団に迎えいれてくれた
     その時のままのこの笑顔で・・・こうして俺を必要としてくれた。



     あの頃から変わらないコイツの、たった一つの笑顔が俺を
     支えた事も・・・不本意ながら幾度かはあった。



     ・・なら、ほんの少しくらいの我侭は・・・聞いてやるべきなんだろう。
     




     こいつのこの顔が見られる内は・・・・





     まだまだ俺が頑張らないといけないらしい。








     ―――俺の暴走が奴の身を以て証明される....その日まで。











                 ―end―




  51. 53 : : 2015/10/04(日) 10:01:10







    ~あとがきてきななにか~





    はい、お久しぶりです。ええ、あまり人によっては
    全然久しくは無いのかもしれませんが。


    とにもかくにも・・・やっとリヴァハンですよ~(;´Д`)

    いえいえ、とにかくssnote、それも進撃の巨人最盛期、
    その真っ只中と言えましょうか・・・物凄く目にする機会が多かった
    ジャンルでもあると記憶していて、まず自分で書くならば
    正気と人間性とモラルを疑われるくらいのモノを書くつもりで
    臨んだのですが。結構楽しんで書いてた割にはフツ―~・・の話で
    終ってしまいました。


    ・・・ではでは、下らない感想もこのくらいにして・・・・
    この度もこんな訳わからなすぎてどうしようもないモノを
    ご覧になって下さった方々に感謝の礼拝を捧げつつ・・・<(_ _)>



    ・・・未完の方に着手したいと思います。


    御拝読、有難うございます(ノД`)・゜・。




    追伸。。

    最近成分表に“乳化剤”及び“ショートニング”が
    表示されているものを食べないように徹底した食生活を
    送っていたら・・・・・いつのまにかマクロビっぽい人に
    なってしまっていた夢馬でした。
  52. 54 : : 2015/10/05(月) 01:45:41
    執筆お疲れ様でした!

    ガッツリヴァハン、ゴチになりやした!
    夢馬さんの書かれる色々考えすぎてるリヴァイと本能のままに生きてるハンジは大好きなのでとても嬉しいです。
    相変わらずエロは格闘技のようでカッコいいし(怪我人相手だったので、大人し目?でしたが)。
    ああ、この人たちならやりかねないなってコトを散々やってくれてお腹いっぱいです。

    今日はよい夢見れそうです。
    ありがとうございました。
  53. 55 : : 2015/10/05(月) 08:39:29
    >>キミドリさん

    御丁寧に御感想までありがとうございます!!((((;゚Д゚)))))))

    リヴァイとハンジと仰いますと私の中ではどうしてもキミドリさんの存在が大きいので、
    そんな御言葉をいただける事自体筆舌に尽くしがたい喜びです。。

    兵長は、基本無口なのに本当はよく喋りますから、
    黙ってじっとしてる時もひょっとしてこんな感じだったりして,,,
    なんていうのも面白いと思ってこうなってしまいました(笑)


    良い夢を見ていただければそれ以上の事は御座いませぬヽ(;▽;)ノ
    重ねて、有難うございます

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著者情報
ne5716

夢馬

@ne5716

この作品はシリーズ作品です

リヴァイ×ハンジ エレ×ミカ シリーズ

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