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赤と黄色の愛言葉
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- 1 : 2015/09/04(金) 23:56:25 :
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いつも、あなたのことを考えてしまう。
あなたの声を聞くと、なぜか安心してしまう。
教室に入るとき、真っ先にあなたの姿を探してしまう。
あなたと話すと、胸がドキドキしてしまう。
人は、この気持ちに何という名前をつけるのだろうか。
いや、そんなことは聞かなくてもわかってる。
これはきっと、恋なんだ。
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- 2 : 2015/09/05(土) 00:05:08 :
『赤と黄色の愛言葉』
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- 3 : 2015/09/16(水) 23:26:08 :
9月1日。二学期の始まりである学生の大半が大嫌いな日付。今日がその日のためか、今朝の気分はいつもより悪かった。
始業式で校長の長い話を聞かなければならない未来を想像し、憂鬱になりながら学校への道をゆっくりと歩いた。
私が通う中学校は、家から歩いて30分の距離にある。強い部活などもない、ものすごい特技を持っているという人もいない。これといった特徴のない普通の中学校だ。
「暑い・・」
久しぶりの外はとても暑い。9月といってもまだ1日。真夏の気温と変わりはしない。手で顔を仰ぎながら、ギラギラと照る太陽を睨みつけた。
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- 4 : 2015/09/16(水) 23:27:01 :
家から歩くこと15分。丁度学校と家の中間地点の部分だ。私はそこに、見覚えのないものがあることに気づいた。夏休みにほとんど外に出ていないといっても、この道は高校に入ってから2年間と数ヶ月ずっと通ってきたのだ。見覚えのないものがあれば気になってしまう。
そこにあったのは、小さな花屋だった。そういえば、ここの土地は夏休み前から工事する音が絶えなくなっていた。まさか花屋ができるとは思いもしなかったが。
中を覗くと、綺麗なたくさんの花が置かれていた。学校に行くのが嫌でしかたなかった私に、その花達は癒しを与えてくれた。
「お、花じゃん。何してんの?」
後ろから聞きなれた声がした。振り向くとそこには、私の友達の女の子───────咲 がいた。咲は頭は悪いが、元気いっぱいの女の子だ。バスケ部に所属していて、キャプテンという肩書きを得ている。
何してんの? と聞いたということは、先程の花という発言は、この綺麗な花達のことではなく私に向けられたものなのだろう。そう。私の名前は花というのだ。
「花見てるの」
「へー、こんなとこに花屋できたんだ」
私の横から花屋の中を咲が覗いた。元気いっぱいと言ってもやはり咲も女の子。花などが目の前にあれば興味を持つ。咲のキラキラした目を見ると、少し楽しくなった。
「綺麗だね。この花達」
「それよりもさ、学校行かなくていいの?」
咲が腕時計をチラと見せてきた。時刻は8時15分。25分には学校についていないといけないため、歩いて15分の距離を10分以内でいかなくてはならない。となると選択肢はただ1つ。
「走ろっか」
花屋に背を向け、学校へ向かい走った。
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- 5 : 2015/09/16(水) 23:27:32 :
◇ ◇ ◇
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- 6 : 2015/09/16(水) 23:28:09 :
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校長の長ったらしい話が終わり、始業式は終了となった。全校生徒が体育館の外へと流れていった。私もその流れに従い、咲と話しながら教室に向かった。
「いやー、危うく遅刻しそうだったね」
「まあ、間に合って良かったね」
「そういえば知ってる? 今日、転校生くるらしいよ」
「へー、男子? 女子?」
「男子だって。イケメンだったらいいね」
「うちのクラスなの?」
「うん。そうらしいよ」
そうこう話してるうちに、教室についた。自分の席に座ると、先生がすぐに教室に入ってきた。
私の担任の先生は学校でも美人として有名だ。体育教師からいつも飲みに誘われているが、いつも断っているそうだ。
先生が二学期の初日に定番の、宿題はやったかとか夏休みは楽しかったかとかつまらない話を始めた。
大きく欠伸をかきながら、先生の話を聞き流した。
「それと、今日は皆さんに重大なお知らせがあります」
転校生のことだろうと思い、私は視線をドアの方に向けた。
「なんと、今日から転校生がやってきました! 入ってきてください!」
ドアが静かに開けられ、学校指定の制服をしっかりと着こなした男子が入ってきた。
くっきりとした二重に、小さい顔。顔のパーツの1つ1つがとてもかっこいい。つまり相当なイケメンだ。
「菊池 翼 です。よろしくお願いします」
菊池と名乗る男子はニコリと笑った。
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- 7 : 2015/09/16(水) 23:28:39 :
私はその笑顔に釘付けになった。見る者の心を癒すその笑顔はまるで、今朝見た花のようだった。
教室の中がざわつく。そのざわつきから聞こえるものは、かっこいいとか素敵とかそんなものばかりだった。かくいう私も、この菊池という男子をかっこいいと思った。
「えっと、菊池くんの席はあそこの奥の席です」
先生が私の隣の空いた席を指差しながら言った。ということはつまり、菊池くんは私の隣の席になるのだ。
菊池くんが一歩一歩私の方に歩み寄ってくる。誰もが菊池くんの行動に目を奪われていた。
椅子をゆっくりと引き、菊池くんは着席した。私はチラとそっちを向くと、こちらを見ていた菊池くんと目が合った。
「よろしくね」
私にだけ聞こえるように、小さな声で言った。男子にしてはやや高いその声を私の鼓膜をしっかりと聞き取った。
「うん、よろしく」
私は笑顔でそう答え、またつまらない話の続きを始めた先生の方を向いた。
二学期最初の学校も終わり、私を帰る支度を終えた。咲が教室の外で手を振っていた。恐らく、早く帰ろうということだろう。
椅子から立ち上がり、机の横に引っ掛けている鞄を肩にかけた。ドアに向かって歩く途中、菊池くんの席をなんとなく見た。菊池くんは数名の男女に質問攻めにされており、困ったような表情を浮かべていた。
転校生がやってきた初日の教室としてはあたりまえの光景だ。私は咲にお待たせと一声かけ、帰路についた。
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- 8 : 2015/09/16(水) 23:29:15 :
◇ ◇ ◇
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- 9 : 2015/09/16(水) 23:31:57 :
翌日。私は昨日同様にだらだらと学校へ向かった。別に学校が嫌いだというわけではない。友達もそれなりにいるし、勉強もまあできるほうだ。ただ、好きでもない。面白くないのだ。部活や恋をしていたらこの思いも変わるのかもしれないが。
昨日の花屋さんが見えてきた。そこの前では、なぜか咲が立ち止まっていた。私を待ってくれていたのかと思ったが、一緒に登校しようという約束はしていないので不思議に感じた。
「おはよう咲」
咲にそう声をかけたが、返事はない。花屋の中をじっと見つめていた。頬を僅かに朱に染め、その瞳はキラキラと輝いている。まるで、恋する乙女の表情のようだ。
咲の視線の先に何が映ってるのか気になり、私も花屋の方に視線を向けた。
そこには昨日と同じようにたくさんの花があった。ただ、昨日とは違うところが1箇所。店の中には、花に水やりをする人物がいたのだ。しかも、それは私達は知っている人物。菊池くんだった。
これには私も驚いた。菊池くんはここの花屋に住んでいたのか。そういえば、ここの花屋は2階建てになっている。2階に家族で住んだいるのだろう。
「菊池くんってここの花屋の人なんだね」
「え!? 花!?」
ようやく私の存在に気づいたのか、咲が慌てた声をだした。先程までは僅かにしか朱に染まっていなかった頬が、赤みをどんどんと増す。この反応はつまり、そういうことなのだろうか。
「あれ? 確か同じクラスの・・」
水やりを終えたのか、菊池くんが私達の方に歩んできた。菊池くんが少しずつ近寄ってくる度に、咲は震えた声をだし、先程赤みを増した頬を更に赤くしていく。これはもうそういうことなのだろう。
「あ、私は千秋 花 。隣の席の」
「ああ、あの隣の」
「ま、前園 咲 です」
「前園さんも同じクラスの人だよね? よろしく」
菊池くんが笑顔で答える。
「学校行かないの?」
菊池くんは制服姿だが、鞄がどこにも見当たらなかった。右手首につけた腕時計をチラと確認すると、時刻は8時7分。今から準備するのでは間に合わないかもしれない。
「今から行こうと思ってたんだけど、水やり頼まれちゃってね」
「花屋の息子って大変なんだね」
「いや、息子じゃないよ。両親が海外で働いてるから僕はこの叔父の家に住んでるだけ。海外で暮らしたくなかったからね」
海外で働いてるといことは菊池くんの両親はお金持ちなのかもとどうでもいい想像をする。咲は菊池くんが話しかけてきてからずっと私の腕を掴んでいる。痛い。
「あ、そうだ。一緒に学校に行かない?」
咲が菊池くんに好意を抱いていると確信した私は、咲の恋の手助けをするつもりでそんな提案をしてみた。
いきなり女子と登校なんて嫌だろうから断られると思っていたのだが、
「いいよ」
あっさり承諾された。これには私も驚いたが咲の驚きはそれ以上だった。
菊池くんは一旦店に入ると、鞄を肩にかけ私達の横に並んだ。
「それじゃ、行こうか」
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- 10 : 2015/09/16(水) 23:32:10 :
◇ ◇ ◇
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- 11 : 2015/09/16(水) 23:33:14 :
それから2ヶ月がたった。木々の葉は色を変え、まだ夏を感じさせていた熱気もおさまり、すっかりと秋一色になっていた。
私達3人はその後も登下校を一緒にするようになり、気づけば誰もが認める仲良し3人組になっていた。
他の女子から嫉妬の目で見られることはあったが、私は学校を楽しいと感じるようになっていた。
2ヶ月も一緒にいると、菊池くんのことにだいぶ詳しくなった。好きなスポーツは野球。好きな教科は英語。社会は大の苦手。梅干しが大嫌いで、甘いものは大好き。そして、菊の花が好き。
菊池くんと過ごす時間は、いつしか私にとってとても大切なものになっていた。
11月4日。その日は咲の誕生日だった。そのため、私と菊池くんは、サプライズで咲の誕生日を祝おうとしていた。
放課後に3人で一緒に下校し、皆で菊池くんの家に集まり、そこでパーティーをするというのが私達が思いついた作戦だった。
しかし、その日は運悪く先生に雑用を頼まれてしまい、放課後に10分ほど残ることになった。咲と菊池くんには、その間教室で待ってもらうことにした。
「失礼しました」
雑用を全てこなしたので、職員室にいる先生に報告しにいった。あとは皆と一緒に帰るだけだ。
階段を上り、菊池くんと咲が待っている教室に急いだ。教室のドアを開けようとしたとき、中から大きな声がした。
「菊池くん!」
咲の声だった。私は驚き、ドアから手を離した。何事かと思い、ドアに耳を寄せる。
「ど、どうした? そんな大きい声で」
菊池くんも咲の大声に驚いたようだった。
「・・菊池くんにね、ずっと言いたかったことがあるの」
それを聞いた瞬間、もう私にはこの先の未来が想像できてしまった。咲が何を言おうとしているのかは考えるまでもなかった。
急に胸が苦しくなった。その場から逃げ出したくなった。だけど、『何か』が私をその場に残そうとした。
「・・なに?」
優しい菊池くんの声が私の鼓膜を刺激する。今教室のドアを開ければ、咲がこれから言うことを阻止できるだろう。しかし、それだけはやっちゃいけないと思った。咲は私の親友だ。親友が勇気を振り絞ってやろうとしていることをぶち壊すなんて私にはできない。
私はただ黙って、胸に手を当てた。
「・・・・ずっと、好きでした」
それを聞いた瞬間、胸の鼓動が早まった。告白の瞬間なんて初めて見るのだ。それもしょうがないだろう。ただ、わからないことが1つだけあった。
なぜ、こんなにも苦しいのだろうか。
「私と付き合ってください」
震えた咲の声が私の頭に響くたび、胸が締め付けられるように痛んだ。
静寂が続く。今2人がどんな状況なのかまったくわからなかった。
「ありがとう。前園がそんな風に思っててくれたなんて知らなかった。素直に嬉しいよ」
「でも、ごめん。前園の気持ちには応えられない」
咲がふられた。ということだろうか。そうだとしたら、なぜ私は今こんな気持ちになっているのだろうか。
親友がふられて悲しいはずなのに、どうして私は、こんなにも安心しているのだろうか。
「・・他に、好きな人がいるの?」
「・・うん。その人は、俺のことなんか多分気にもしてないんだけどね。だからごめん。嬉しいけど、付き合えない」
「そっか・・うん、ありがとう。これからも友達として仲良くしようね」
「うん」
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- 12 : 2015/09/16(水) 23:33:52 :
静寂がその場を包み込む。私が教室に入ればこの空気も変わるのだろうが、今入ったら告白を聞いていたことがバレるかもしれないし、普通の態度で接する自信がなかった。
きっと顔は赤くなり目は泳ぎまくってしまうだろう。それは避けたかったため、私はその場でしばらく心が落ち着くのを待つことにした。
それからどれくらい経過しただろうか。心臓は大きく音をたてるだけでいっこうに落ち着かなかった。
「花、遅いね」
花はいつもの声色でそう言った。
「本当だな」
腕時計に視線を落とすと、合流するはずだった予定の時間より15分遅れていた。
さすがにこれはまずいと思い、私は意を決して教室の中に入ることにした。
手を胸に当て、ゆっくりと息を吐く。唾で喉を湿らせ、ドアをガラリと勢いよく開けた。
「ごめん! 遅くなった!」
できるだけいつも通りに言ったつもりなのだが、変だったらどうしようと不安になり2人の顔を確認した。
2人は先程の告白なんてなかったような雰囲気だった。
「お、じゃあ帰るか」
「花遅いよー」
それを見て私も安心し、私達は菊池くんの家に向かった。
菊池くんの部屋で咲の誕生日を祝った。咲はどうやら私達が誕生日だということを忘れていると思っていたらしく、とても驚いていた。
誕生日プレゼントを渡し、ケーキを食べた。
それからしばらく談笑したあと、帰ることになった。
帰り際、咲が菊池くんになぜか黄色の菊を頂戴と言っていた。菊池くんはそれを聞いたとき一瞬バツが悪そうな顔して、黄色の菊をあげていた。
私にはその意味がよくわからなかったが、咲が持つ黄色の菊は、美しくもどこか悲しげだった。
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- 13 : 2015/09/16(水) 23:34:12 :
◇ ◇ ◇
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- 14 : 2015/09/16(水) 23:34:40 :
咲の誕生日から数週間がたった。
11月も終わりに近づき、肌寒くなってきた。秋一色だった木々もだんだんと葉を落とし、道に色とりどりの絨毯を敷いていた。
冬の訪れを感じさせるこの頃。衝撃的なことを私は聞いた。
ある日の下校前のHR。先生は悲しそうな顔をして言った。
「菊池くんが、転校することになりました」
それを聞いた瞬間、私の中の何かが音をたてて崩れた。ただ信じられなかった。
教室中がざわめいた。転校の理由は、親の仕事の都合だそうだ。菊池くんも海外に住まなければならなくなったらしい。
出発は一週間後。あまりにも急な出来事だった。
その日、私達は一緒に帰った。しかし、なにか気まずい空気が流れ、会話が弾むことはなかった。
翌日。教室に入ると咲が真っ先に私のもとへ寄ってきた。
「菊池くんが転校するまでのあと一週間、全力で楽しもう!」
咲のその言葉を受け、私は確かにそうだと思った。これから会えなくなるのは寂しいが、別れを惜しんだって、菊池くんの転校を止められるわけではないのだ。
それなら、残り一週間を全力で楽しんだ方がいいに決まってる。私は笑顔で首を縦に振った。
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- 15 : 2015/09/16(水) 23:34:57 :
◇ ◇ ◇
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- 16 : 2015/09/16(水) 23:35:20 :
それからの一週間は、すぐに過ぎていった。帰りに寄り道をしたり、日曜日には3人で出かけたりと、たくさんの思い出を作った。
しかし、転校当日が近づくたびに、私の胸はどんどんと苦しくなっていった。
菊池くんともう会えなくなると思うと、心にポッカリと穴があいたように悲しくなり、自然と涙がでた。
そして、ついにその日はやってきた。
菊池くんの転校当日。その日は厚い雲に覆われていた。今にでも雨が降りだしそうだった。
朝のHR。菊池くんは私達に別れの挨拶をした。
それが終わると、皆が一斉に菊池くんのもとに駆け寄った。
ある者は菊池くんに抱きつき、ある者は菊池くんの手を握り、ある者は目にうっすらと涙を浮かべていた。
咲は菊池くんの目を真っ直ぐと見つめ、ニコリと笑っていた。
私も咲の横に立ち、菊池くんを笑顔で見送った。外はいつのまにか大雨が降っており、その中を校門に向かい1人でゆっくりと歩いていく菊池くんの背中を見て、私の胸は締め付けられた。
授業が始まったが、私はそれを上の空で聞いていた。途中、先生に何度も注意された。
授業はいつも真面目に聞いているのだが、今日はなぜか内容が頭に入ってこなかった。
授業が終わり、10分間の休み時間がとなった。私は窓から校門を見つめていた。そこに、咲が来た。
「ねえ、花」
咲はゆっくりとそう言った。
「あんたさ、このままでいいの?」
「え?」
質問の意味は、なんとなくわかった。
「・・菊池くんのこと、好きだったんでしょ?」
落ち着いた咲の声が、私の鼓膜を刺激する。それを聞いた瞬間、私の心臓は大きく鳴った。
先程まで聞こえていた雨の音が少し弱くなった。
「・・・・」
私はその質問に答えられなかった。
咲の大きな瞳が私の瞳を大きく映し出す。咲はどこか怒っているようだった。
私はうつむき、ポツリと言った。
「好きなんかじゃ、ないよ」
そう言った刹那、教室の中に大きな音が響いた。
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- 17 : 2015/09/16(水) 23:36:03 :
頬に痛みを感じ、手で抑える。
教室にいた誰もが私達の方を向いていた。
咲は歯をギリと噛み締め、先程私の頬を平手打ちした右手を下にした。
「ふざけんな!!」
咲の大きな声が響く。
「菊池くんは、あんたのことが好きだったんだよ!?」
───────────────え?
信じられない言葉が私の頭を何度も往復した。
「私ね、誕生日のとき、菊池くんに告白したの。菊池くんが好きだって。でも、菊池くんには断られた。好きな人がいるからって。そう言ったときの菊池くんは、あなたの机を見ていたの。これの意味わかるでしょ!? 菊池くんは、あんたのことが好きなのよ!」
「あんたも、菊池くんが好きだったんでしょ!? 菊池くんと一緒にいるときのあんたは、いつもと違ってとても楽しそうだった。菊池くんと一緒に登下校するようになってから、あんたは学校に来るのが毎日楽しそうだった! それってさ、好きってことじゃないの?」
そんなこと、言われなくてもわかっていた。
「・・わかってるよ。そんなこと。でも。咲が菊池くんのこと好きってわかってたから、認めちゃいけないって思って、2人の恋を応援しようって思って、だから・・・・」
咲には言わないでおこうって決めていたことなのに、言ってしまった。咲は驚いたようで、目をまん丸と見開いていた。
「バカ!!」
咲が私の胸に顔をうずめた。両手を背中に回し、体を寄せる。
「なんで・・そんなこと・・気にすんなよ・・・・私のせいで・・ごめんね・・」
咲の涙でかすれた声が私の心を震わせる。咲のせいなんかじゃない。咲の優しさが私の涙を誘い、大粒の涙がいくつも流れ落ちた。
「・・いつも、菊池くんのことを考えてしまうのって、恋なのかな」
そんなこと、聞かなくてもとっくにわかっている。
「・・うん、そうだね」
「・・菊池くんの声を聞くと、なぜか安心しちゃうのって、恋なのかな」
わかってたけど、認めたくなかった。
「・・そうだろうね」
「教室に入るとき、真っ先に菊池くんの姿を探しちゃうのって、恋なのかな」
認めちゃいけないって、ずっと思っていた。
「・・うん、きっとそうだよ」
「・・菊池くんと話すと、胸がドキドキしちゃうのって、恋なのかな」
だけど、そろそろ認めなきゃいけない。
「・・うん、きっと、それは恋だよ」
この気持ちは、恋なんだ。
私は、菊池くんのことが好きなんだ。
「ねえ、咲」
それなら、ちゃんと伝えなきゃいけない。ちゃんと認めて、伝えに行こう。
「私ね、菊池くんが好きだよ」
ずっと言えなかった言葉。菊池くんにずっと言いたかった言葉。私の思いを、咲は笑顔で聞いてくれた。
「出発時間まではあと2時間! 行ってこい! 花!」
涙まじりのその声。私の親友の声。その声に押され、私は勢いよく教室を飛び出した。
私の愛を、伝えるために。
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- 18 : 2015/09/16(水) 23:36:24 :
◇ ◇ ◇
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- 19 : 2015/09/16(水) 23:36:43 :
目の前の大きなガラスに手を当てた。
そのガラスの先には、飛行機がある。菊池くん、私の好きな人を乗せた飛行機が。
もう、悔いはなかった。自分の思いはしっかりと伝えた。あとは、笑顔で菊池くんを見送るだけだ。それなのに、涙は止まらなかった。
空を覆っていた厚い雲はいつのまにか消え去り、青い空が澄み渡っていた。
飛行機の扉が閉まった。そろそろ出発するのだろう。しっかりと目に焼き付けようと思っていたのに、その飛行機は涙で歪んでしまっていた。
飛行機がゆっくりと進みだした。徐々に飛行機は、菊池くんは離れていった。
スピードが上がり、やがて地を滑っていたタイヤは地を離れ、飛行機の中に収まった。
「・・じゃあね、菊池くん。大好きだよ」
声を振り絞り、ポツリとそう言った。
しゃがみこみ、飛行機をじっと見守る私の手には、出発前に菊池くんからもらった一輪の赤い菊の花があった。
その赤い菊は、私がこれまでに見たどの花よりも美しかった。
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- 20 : 2015/09/16(水) 23:36:55 :
『赤と黄色の愛言葉』 完
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- 21 : 2015/09/16(水) 23:43:33 :
あとがき
どうも皆様。おっさんです。ただのおっさんです。
今回はですね、『秋』というお題で執筆することになったんですね。
それで、秋といえば菊だろうと思い、菊がメインのお話を書こうと思ったんですがなんかこんなんになっちゃいましたね。
タイトルからわかった方もいると思いますが、今作は菊の花言葉がお話に関わっております。
黄色の菊の花言葉は、『破れた恋』
赤の菊の花言葉は、『真実の愛』
つまりそういうことなんですね。菊の花言葉素敵ですよね。
自分は純愛系が好きなんですけど、黄色と赤の菊2つ使いたいなと思って三角関係にしてみました。菊池くんがうわやましい限りです。
ということで、この作品は終了ですね。最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました!
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- 22 : 2015/09/18(金) 19:54:09 :
- お疲れ様でした
花言葉にちなんだ物語、わくわくしながら読ませて頂きました
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- 23 : 2015/09/18(金) 20:13:19 :
- お疲れ様です
三角関係は心が弾みますね
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- 24 : 2015/09/18(金) 21:43:39 :
- >>22
コメントありがとうございます。花言葉にちなんだというよりちょっと関わっただけなんですけどねw
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- 25 : 2015/09/18(金) 21:44:34 :
- >>23
ダイチンさんではないですかコメントありがとうございます。三角関係はいいですね。とても書きやすいです。
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