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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの愛念』
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- 1 : 2015/07/18(土) 12:15:22 :
- 密めき隠れる恋の翼たち~『エルヴィン・スミス暗殺計画』
(http://www.ssnote.net/archives/2247)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスとの1週間』
(http://www.ssnote.net/archives/4960)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの苦悩』
(http://www.ssnote.net/archives/6022)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの審判』
(http://www.ssnote.net/archives/7972)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの否応』
(http://www.ssnote.net/archives/10210)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの溜飲』
(http://www.ssnote.net/archives/11948)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの流転』
(http://www.ssnote.net/archives/14678)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの渇望』
(http://www.ssnote.net/archives/16657)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの血涙』
(http://www.ssnote.net/archives/18334)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの証明』
(http://www.ssnote.net/archives/19889)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの慕情』
(http://www.ssnote.net/archives/21842)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの天命』
(http://www.ssnote.net/archives/23673)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの微睡』
(http://www.ssnote.net/archives/25857)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの再陣』
(http://www.ssnote.net/archives/27154)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの謀反』
(http://www.ssnote.net/archives/29066)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの杞憂』
(http://www.ssnote.net/archives/30692)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの勇敢』
(http://www.ssnote.net/archives/31646)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの挽回』
(http://www.ssnote.net/archives/32962)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの慈愛』
(http://www.ssnote.net/archives/34179)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの青天』
(http://www.ssnote.net/archives/35208)
密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの夢想』
(http://www.ssnote.net/archives/36277)
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- 2 : 2015/07/18(土) 12:16:14 :
- ★巨人に右腕を喰われたエルヴィンと最愛のミケを失うが、エルヴィンに仕えることになった隠密のイブキとの新たなる関係の続編。
『進撃の巨人』の最新話に私の想像(妄想)を書き足したオリジナルストーリー(短編)です。
オリジナル・キャラクター
*イブキ
かつてイヴと名乗りエルヴィンの命を狙っていた隠密の調査兵 。
生前のミケ・ザカリアスと深く愛し合っていた。
ミカサ・アッカーマンの年の近い叔母。
※SSnoteのルールに則り感想等を書いていただくグループコミュニティを作りました。
お手数ですが、コメントがございましたら、こちらまで
お願いします⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2
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- 3 : 2015/07/18(土) 12:18:15 :
- 調査兵団団長のエルヴィン・スミスは兵士として本来なら「公」を優先すべきものを水面下において、それは夢という「私」だった。さらには元暗殺者の隠密から調査兵に生まれ変わったイブキにその夢の向こう側で傍にいて欲しいと胸に秘めていた。
ヒストリア・レイスが女王に就任して以来、エルヴィンとイブキは二人だけで過ごす時間も自然と増えていく。イブキは女としての幸福感だけでなく、怖さを多く含む心細さも味わう。また失うのではないかと――。
イブキはエルヴィンに大切にされている、と感じながら、貴重な東洋人だからそばに置きたいのか、とふと過ぎることもある。かつての育ての親であった隠密の頭(かしら)で、また別の顔を持つケニー・アッカーマンが率いていた隠密の仲間たちは死んでしまった。そのため、この狭い壁の中で隠密の術(すべ)を操れるのはイブキだけになってしまったからだ。
エレン・イェーガーがレイス家地下洞窟で巨人の力を通し、見せ付けられた父であるグリシャ・イェーガーの記憶で、どうしても思い出せなかった自由の翼を背負う男の面影は前調査兵団団長、現在は訓練兵団の教官であるキース・シャーディスだとようやく気づく。104期の皆の冗談めいた一言一言がヒントとなり、その正体であるキースを突き止めていた。
思い出した男を調査兵団分隊長であるハンジ・ゾエに伝えると、興味を持たれ、同兵団兵士長、リヴァイを伴い、104期の面々はかつての学び舎、訓練兵団施設に向かうことになる。
キースに会いに行く前夜、エルヴィンを始め、調査兵団や他の兵団幹部は旧王政施設内の会議棟でウォール・マリア奪還の作戦を詰めていた。ハンジは時間を確認しては、翌朝からキースに会いに行くため、会議の時間を早めに切り上げることを提案した。
「エレンが中心となって、シャーディス団長、いや教官の話を伺おうと思うんだ。だから、私も聞きたいことが山ほどあるし、今日はこの辺で――」
「そうか、ハンジ…。私も行こう」
「シャーディス教官が属するウォール・ローゼ南方の施設までの道のりって、山道ばかりでさ、アップダウンが激しくて、距離もあって、ね…」
エルヴィンは自らも同行しようとハンジに意思表示した。だが、ハンジはエルヴィンの失った右腕を何気なく見やった。職務に問題はなくても、馬に跨り、足場の悪い長距離の移動が古傷に影響を与えないか、とハンジなりに気遣い、言葉を選ぶと、歯切れが悪くなっていく。
「それでは、イ…」
エルヴィンはイブキにも同行してもらい、彼女が手綱を引く馬の後ろに乗って長距離の移動も可能と、咄嗟に提案しようとしても、公私混同していると思え、途中で止めていた。
「エルヴィン、言いたいことはわかった!」
ハンジは言いながら、両手を目の前に差し出し、エルヴィンの言おうとしていることをやんわりと制する。ハンジは普段、『公に心臓を捧げる兵士』として、私的を優先することに手厳しいが、エルヴィンが腕を失ってなお、前に突き進む姿は多くの部下に見習って欲しいとも願う。表に出さなくても、それがイブキという『私』を優先することが、今の彼の支えになるのなら、ハンジは目をつぶることにしていた。また知略に長けたエルヴィンに団長を任せたキースの判断は間違ってはないが、兵士としての手負いの姿をハンジはなんとなく元団長には見せたくなかった。
「エルヴィン、明日は予算の最終調整と商会への挨拶もあるのだが…」
「それもそうでしたね…」
他の兵団幹部から予算に関わる支援団体の挨拶回りの予定を言われ、エルヴィンは軽くため息をついた。キースからどんな話が聞けるか興味はあっても、現在の優先事項がそれを許さなかった。
「とにかく! 話を聞き終えたら、すぐにあなたの執務室に行くからさ!」
「あぁ…よろしく頼む」
ハンジの朗らかな声にエルヴィンは低く通る声で返事をした。続いてリヴァイの冷めた声が響く。
「エルヴィン…そのときは、イブキに…女王の護衛をさせることだな――」
「えっ!?」
ハンジは少し上ずった声を上げ、二人を交互に見やった。エルヴィンはリヴァイに言われても、鼻を鳴らして薄ら笑みを唇に宿し、手元の資料を眺めていた。リヴァイは数日前、執務室のドアを開けたとき、エルヴィンとイブキが素肌を重ねようとする瞬間を目撃してしまい、ただイブキに再び恥ずかしい思いをさせるな、という警告をしていただけだった。
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- 4 : 2015/07/18(土) 12:20:00 :
- 翌日、エルヴィンが支持団体への挨拶を終え、安堵感よりも、いよいよウォール・マリア奪還に近づいた、と気持ちを引き締め、旧王政の宮殿廊下を歩いているときだった。回廊の曲がり角から、ヒストリアが姿を現し、エルヴィンは無意識にイブキの存在をその視線で探していた。だがエルヴィンの願いに反し、ヒストリアの護衛は女性の憲兵二人だけである。ヒストリアがエルヴィンに近づくにつれ、会釈をするも、彼女もイブキの姿を探していた。
「あれ? イブキさんと一緒じゃないんですか、エルヴィン団長?」
「女王…どういうことでしょうか?」
二人はすれ違いざま、軽く会話を交わすが、特にエルヴィンは怪訝に眉根を寄せていた。
「イブキさんは急用が出来たから、って出かけて行ったので…てっきり、団長の仕事を頼まれたのかと思っていたので…」
ヒストリアの言うとおり、これまでも何度かエルヴィンから早急の任務を頼まれ、隠密の力を頼ることがあり、その際の女王の護衛を他の兵士に任せ、代理を立てることもあった。
エルヴィンはヒストリアに言われ、少しだけ目を泳がしていた。またヒストリアは聞いてはいけないことかと思い、微笑をエルヴィンに向けながら品よく頭を下げ、その場を通り過ぎた。
(イブキ…どこへ行った?)
回廊を歩きながら振り向きもせず、エルヴィンは私情を見せてはならぬ、と思うほど左手の拳は強く握られた。
イブキがひとりで向かっていた場所はミケ・ザカリアスが命を落としたウォール・ローゼ南区の
旧隔離施設だった。ヒストリアが女王に就任して過ごしてきたこの2ヶ月が、嵐の前の静けさのようで、兵士として胸騒ぎを覚え、不安を拭いきれなかった。ミケが命を落とした場所で自分が命を掛けることを改めて誓うため、その地に向かって馬を走らせていた。
「やっと、ついた…ミケ」
イブキが馬を降り、草木を掻き分け、どうにかたどり着いた旧施設を眺めていた。
ウォール・ローゼ内で巨人が出現して数ヶ月過ぎており、雨風にさらされ、建物は朽ち果て、更には痛々しく色あせた材木の骨組みは廃墟にしか見えない。
もちろん、ミケの血の痕もすでに消えていた。
「ミケ…」
イブキはミケが戦いに敗れ、最期に血を流したであろう場所を覚えている。その場所にしゃがんで懐から一輪の薄紫の花を取り出して手向けた。出発前に摘んだ花はまだ瑞々しさを残していて、乾いた大地の上で微風に吹かれ、その僅かな動きはまるでミケが優しく撫でているようだ。
イブキにとって、その場所はミケの墓地のような感覚で、短くても、共に過ごした日々に想いを馳せていた。
平和な日々が長いとその反動で大嵐がやってくるのではないか、と想像しただけで恐ろしく、イブキは祈っていた両手を握り、胸に充て、ごくりと唾を呑み込んだ。
「私たちを…見守っていてね…ミケ」
ミケに改めて誓いと願いを込め、温かくても力強い口調と共に大地を片手で撫でる。続いてすくっと立ち上がるイブキは殺気立っている。朽ち果てた旧施設の一定方向を睨みつけると、すぐに視線を逸らす。また素早く踵を返し、乗ってきた馬の傍に早足で向かった。馬に跨ぎ横腹を蹴って、その場からいち早く離れるよう扶助を送った。
そのとき、イブキの視線の先にいた存在が遠く離れゆく馬を眺めていた――。
「なんか、勘の鋭いねーちゃんだな…! 姿を隠しているつもりだったが…俺を睨みやがった。久しぶりに生身の女を見かけたと思ったんだが……しかも、かなりいい女で…覚えておこう」
舌なめずりをして、イブキが去っていく背後を見送ったのはあの獣の巨人の中身だった。あごひげを指先でかきながら、小首をかしげ、今度はイブキが立っていた方向に視線を送り、渋い顔になった。
「『ミケ』とは…あの装置を付けていた兵士か…? まぁ、どーでもいいが。さてと、もう時間もねぇし、戻ろっか」
数ヶ月前のこの場所での出来事が脳裏に浮かんでも、同時に思い返したミケの叫び声に何も感じず、男は静かにその廃墟化とした旧施設から姿を消した。男はシガンシナ区で調査兵団を待ち構えていたが、時間をもてあますよりも、この近辺まで彼らの進み具合を確かめに来ていたが、途中で馬で駆ける女の姿を見つけると偵察の対象を急遽、変更していた。
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- 5 : 2015/07/18(土) 12:22:49 :
- イブキは馬で駆けながら、驚きと戸惑いで、背中で流れる冷や汗を感じていた。
「今、誰かいた! いったい誰なの!?」
手綱を打ちながら、馬のスピードは上がり、イブキは正面だけを見ていた。同時にイブキの気持ちを和らげるようにミケの温もりが背中から伝わった。
「もしかして…あの視線の正体がミケを殺した?」
スピードを上げていたはずだが、馬首を巡らそうとする突然の扶助に馬は大きくいなないた。
「ミケの仇を…今だったら…! 討てる!!」
殺意を持って、再び元の場所に戻ろうとするが、今度は手綱を握る手の甲に熱がこもった。
(イブキ、ダメだ…今のおまえはエルヴィンの支えになれ)
「ミケ…?」
イブキのその胸にミケの力強く優しげな声が染み渡り、次第に冷静さを取り戻していく。
「ようやく…あなたを死に追いやったヤツが現れたと思ったのに…」
無理やり方向変換をし、詫びの意味も含めイブキは優しく馬の首を撫で、蹄鉄が柔らかく大地を蹴る音と共に再び帰路に着く。
「だけど、あなたは…私がエルヴィンと一緒に過ごしても見守ってくれるのね……」
イブキの背中は温かい。忘れられないミケの温もりが体中を駆け巡り、馬を走らせながらあふれる涙は風に吹かれて大地に染みていく。
ミケへの儚い気持ちとエルヴィンと生きる誓いに揺れ動くも、イブキはただ一心に前を向いていた。
兵団管轄の牧場にイブキが到着した頃、西日が大地に沈みかけ、辺りは仄かなオレンジが包み、昼間は瑞々しい牧草も夜の時間に向かい、眠りの準備に入っているようだ。
「さすがに…みんな、帰っちゃったか…」
馬上から柵を隔て、牧場を見渡してもすでにヒストリアを始め子供たちは新たな帰るべき場所へ戻っていた。
時折、駆けて巡る風が牧草の眠りの邪魔をし、草木の香りを運ぶそよ風となってイブキの鼻先をくすぐる。
手綱を強く握りながら、馬首を翻し、ヒストリアが築いた安息の地に笑みを湛え、その場を後にした。
「――女王の護衛に戻ろう…」
旧王政施設のきゅう舎に馬を返し、えさと水をやると、イブキはヒストリアの部屋に足早に向かった。
(あの怪しい視線…いったい何だったんだろう…)
イブキはその感じた視線を思い出しただけで、身震いしそうになる。身体を軽くさすりながら、宮殿のヒストリアの部屋に向けて歩いていた。すでに日は落ちていても、回廊はレイス家地下空間で採掘された光る石を利用したランプが灯され、昼間のような明るさはなくても、宮殿は淡い色調に包まれているようだ。
イブキがヒストリアが所有する旧王政の部屋のドアを開けると、二人の憲兵が出入り口前に立っていて、女王は壁内の地図を眺め、貧困者の住まいの見落としがないか隈なく確認している最中だった。
「イブキさん、お帰りなさい…!」
「ただいま…」
イブキがヒストリアのデスクの前で敬礼すると、女王は二人の憲兵に視線を向けた。
「お二人ともありがとう! 室内はイブキさんに任せるから…」
二人の女性憲兵はヒストリアに敬礼すると、女王の部屋から出て、出入り口の外側で護衛することになる。
ヒストリアはドアが閉まると同時に地図を畳みながら、イブキに茶目っ気あふれる視線で眺めた。
「もう、イブキさん…! どこに行っていたの? 団長に内緒で…!」
「えっ! どうしてそれを…」
イブキは驚き軽くのけぞって、落ち着きなく、目を泳がせた。ヒストリアは頬杖をついて、イブキをイタズラっぽく見つめていた。
「団長命令の任務かと思っていたのに違っていたみたいね…! まぁ、エルヴィン団長は私とイブキさんが一緒じゃない、ってことを知って心配そうな顔をしていたよ!」
「そう…なんだ…。でも、私は大丈夫だし…」
「今からでも、団長のところに行って、安心させてあげて!」
「…でも、護衛が」
「いいえ! これは女王命令です」
今度は姿勢を正して、ヒストリアは落ち着き払ったような声で言うが、次第にらしからぬ声と自ら気づき、目じりに涙の粒が浮かぶほど、笑い声を上げた。
「もう、笑い上戸の女王様! わかったわ…!」
互いに笑いあって、イブキは改めて敬礼し、エルヴィンが旧王政施設で執務室代わりに使うある一室に向かった。
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- 6 : 2015/07/18(土) 12:24:50 :
- 緊張の面持ちでエルヴィンの執務室のドアをノックし、入室を許可されると、彼は予算に関する資料に目を通していた。イブキだと気づいても、しばらく顔を上げず、綴られた文字を眺めていた。
「どこに行っていた…イブキ?」
デスクの前に近づいてきたイブキが視界に入り込み、ようやく顔を上げたエルヴィンの声は苛立ちから少しだけ棘があるようだ。エルヴィンはイブキを心配するだけでなく、内緒にする行動を快く感じていない。
「エルヴィン、お茶にしよう…」
「だから、どこに行って…!」
「一息ついて、話すから…」
イブキがすぐに答えないことが更にエルヴィンを苛立たせ、眉間に深いしわが寄った。だが、穏やかな眼差しを注がれ、イブキが無事に帰ってきたこともあり、エルヴィンは軽くため息をついて、彼女がお茶を入れるソファーに移ることにした。
横長の座り心地のいいソファに隣同士に座って、イブキが紅茶を一口含み、喉の潤いを感じ、温かなため息をつく。
「あの…ミケが命を落としたあの場所に…行っていたの…」
「ひとりで行ったのか!?」
イブキのため息交じりの語尾にエルヴィンは少しばかり冷静さを失い、彼女に身体を向け、互いのひざは擦れあう。エルヴィンの戸惑う声にイブキは空ろにソーサーの上に置いた紅茶のカップを眺めていた。
「どうして…ひとりで…そんな、危険な場所に…?」
「そうね、危険だったわ…」
「何があった?」
イブキの空ろな眼差しと言いよどむ声を聞いて、更にエルヴィンは身を寄せる。
「あの場所で…私しかいないはずなのに…鋭い視線を感じた…。エルヴィン、私たちは…覚悟に覚悟を重ね…ウォール・マリア奪還に挑まなきゃ…。私に出来ること、何だってするから…」
イブキは緊張感からか、微かに息を乱していて、落ち着かせるために、エルヴィンは自分に身体を預けるよう、もたれさせた。イブキはエルヴィンの右腕側に座っていて、ゆっくりと彼の首に自分の腕を巻きつけた。イブキの乾いた吐息を胸元で感じ、彼女の背中を左手で柔らかく摩る。
「君は…強いな…」
「ううん、あなたの方がもっと…」
ごくりと唾を呑み込むイブキの唇は艶やかでも微かに震える。
「得たいの…知れない何かがいる…そいつがミケを…」
「可能性は高いな…。ミケが生きていたら、あの鋭い嗅覚で…正体を…」
「そうね…ミケ…生きて…いたら」
互いにミケの名前を出し、イブキは彼の温かさを思い返し、張り詰めていた気持ちが和んでいくと、次第に涙声になっていた。
「…見えないミケの仇が…とても怖い…」
得たいの知れない、また初めて味わうであろう恐怖にイブキは涙を流す。震える身体を抱きしめ、これから立ち向かうであろう、恐らく想定以上の困難を直前にしても、エルヴィンはイブキへの愛念がさらに深くなるのを気がしていた。イブキはゆっくりと顔を上げるが、辛そうでも、ようやく微笑を注ぐ。
「調査兵団は…公に心臓を捧げる強い兵士であるはずなのに…」
「あぁ…だが、俺は君を目の前にすると、すでにそれを破っている」
「もちろん、それは私の前だけでね…」
「それは…当然――」
イブキが妖しく美しい笑み口元に取り戻すにつれ、エルヴィンは言い終える前に自ら唇で塞ぎ、互いの柔らかい熱を確かめ合った。愛しむ合わさった唇が離れても、二人の熱が帯びるため息は重なったままだ。
「イブキ…そろそろ、ハンジたちが帰ってきて…大事な報告があるはずなんだが……」
「うん、わかった…」
火照って少し開いたイブキの唇が返事をした。互いに視線を逸らさず、ゆっくりと身体から離れるもエルヴィンは名残惜しそうに左手でイブキの指先を握り、甲には優しく唇を寄せた。
改めて執務室のデスクに座ると、エルヴィンは気を引き締め、引き続きウォール・マリア奪還に関わる作戦会議の資料を読み返す。イブキはエルヴィンが団長として事務的な仕事をしやすいよう、身の回りを整え、集中して彼が読みふける姿を尻目に、静かに執務室のドアを閉め、ヒストリアの元へ戻った。そのほんの少し間を置いて、何人もの兵士たちが歩むブーツの音が執務室のドア付近に近づいてきた。
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- 7 : 2015/07/18(土) 12:25:05 :
- 「エルヴィン、お待たせ! やっぱり、南方の訓練施設って遠かった!」
ハンジはエルヴィンにいち早く報告したいがためにノックをせず、ドアを開けていた。すぐさま伴って入ってきたリヴァイの冷めた眼差しが執務室内を見渡していた。
「おい…ハンジ、ノックぐらいしろ…てめーの挨拶は巨人限定か…」
リヴァイに続いて、104期の面々が執務室に顔を出した。リヴァイが冷めた声でハンジに話しかけても彼女は意に介さない。もし、イブキがその場にいたとして、今度は大勢の前で恥をかかせたくない、というその気遣いから出た嫌味だった。
エレンはこの数日、硬質化能力の実験が重なり、疲れきっていたはずだが、キースから聞いた話を通し、久方ぶりの母の愛情に触れ、その心は和む。デスクの前で心臓を捧げる敬礼をしても、穏やかな眼差しをエルヴィンに向けていた。
一方のエルヴィンはハンジの話に耳を傾け、イブキに見せていた甘くて優しい眼差しを封じ、ただ真剣に公に心臓を捧ぐ決意で皆の顔を見渡していた。
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- 8 : 2015/07/18(土) 12:29:18 :
- ★あとがき★
皆様、いつもありがとうございます。
この数ヶ月は本当に原作では衝撃的な内容が多いですね。
キースがまさか、あんなことを…って感じですが、まさかグリシャとの出会いに
カルラが関わり、もしかして、キースがカルラを好きだったのか?
というような、これまでの進撃ではあまり見られないような愛憎劇(?)っぽいこともあって
個人的には面白かったです。どんな困難が待ち構えているのか想像できませんが、
エレンたちには平和を奪還してほしいものですね…。
エルヴィンは手負いの身、って原作では言うけれど、私の書く作品の中では
イブキの支えで、前進する、そんな姿を書いてきたいです。
また次回もよろしくお願い致します。
お手数ですが、コメントがございましたら、こちらまでお願いいたします!
⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2
★Special thanks to 泪飴ちゃん(•ㅂ•)/♡love*
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