この作品はオリジナルキャラクターを含みます。
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三つ目の約束
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- 1 : 2015/06/23(火) 19:36:50 :
- どうも皆さんおはこんばんちわ。
私と言う作家では考えられないほどに、恋愛テイストな作品を書いてみたいと思います。
ほぼほぼこういったジャンルは未経験なので拙いところも多いかと思いますが、最後までおつきあいいただければ幸いです。
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- 2 : 2015/06/23(火) 19:39:11 :
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その日は特別に暑かった。
風はあまりなくて、強い日射しの暑さに身悶えする様に、アスファルトと真っ青な空の間がゆらゆらと揺れていた。
そんな凪の様な一日に強い風が吹かなければ、僕らはただすれ違っていたのかもしれない。
でもあの風が背中を押したから、僕らの時間は動き始めたんだ。
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- 3 : 2015/06/23(火) 19:41:17 :
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まだ6月の末だというのに、日差しは真夏の様に猛々しく、厚い雲は熱をはらんでいて空気を湿らせ僕に汗をかかせる。
折角の土曜に汗を流して学校へ行くというのは至極面倒ではあるのだが、金曜提出の課題を家に忘れるなどという失態を犯してしまっては仕方がなかった。
あの先生こわいんだよ。
「ほんと最悪だ」
目の前に現れた帰り道で一番きつい坂に悪態をつきながらも、早く帰りたい一心で足を踏み出す。
だが、すぐに正面から吹く強い風に足止めることになった。
今日は朝から風が弱く、そのせいで余計に暑かったのだが。
違和感を覚えながら坂の上を見上げると、宙空を舞う帽子が目に入る。
どこからともなく、こちらに向けてふわふわと飛んでくる麦わら帽子は、見事に僕の目の前に落ちた。
「どこから飛んで来たんだろう……」
帽子を拾い上げて砂を払い、あたりに持ち主がいないか見まわすと、坂の上から小走りに降りてくる真っ白な美少女に目が止まる。
幻想的な程に白い肌に、白のワンピース。まさに真っ白だった。
その背後では走るたびに、烏の濡れ羽色の髪が渦を捲いてきらきらと震えている。
白と黒のコントラストに目を奪われていると、彼女が僕の前に立ち止まりハッとする。彼女が息を整えるのを少し待ってからか、はたまた自分の心が落ち着いてからか、僕は切り出した。
「あ、あの。これ君の?」
僕の言葉に何やら複雑そうな顔をしている。
どうしたのだろうか。嬉しそうな顔をしたかと思えば、寂しそうな顔になってみたり、何かを考え込んでみたり。
目の前で百面相している彼女をしばらく見守っていると、何か納得したかの様に彼女はこちらを向いた。
「帽子を拾っていただいてありがとうございます」
透き通った鈴の音のような声が響く。しかし、僕は思ったより普通な受け答えに、拍子抜けせずにはいられなかった。じゃあさっき何を考えていたのだろう。そんな疑問が浮かんでくる。
そんなことはおくびにも出さないが、なんとも不思議な少女だ。
「ああ。気にしないで。たまたま僕の前に落ちて来たのを拾っただけだから」
帽子を手渡して、僕は立ち去ろうとする。
しかし、それは少女の手によって阻まれてしまった。
なんで僕を引き止めるんだ。心当たりはない。僕は健全に人に恨まれるようなことなく生きてきたはずだ。
僕のワイシャツの裾を掴んで離さない彼女は、ややうつむき加減になりながら何やら小さな声でつぶやいている様だった。
どうしたんだろう。どこか体調でも悪いのだろうか。
恐る恐る僕が口を開こうとした時、彼女は急に顔を上げる。
「あ、あの!私とお友達になってくれませんか?」
必死に声を震わせなが、発せられた言葉の唐突さに僕は空いた口が塞がらない。
なんで帽子を拾ってくれただけの僕とお友達なのだろうか。
僕が状況を飲み込めず固まっていると、彼女はふるふると肩を震わせながら、目尻に涙を溜めて見上げてくる。
これではまるで僕がいじめているみたいじゃないか。もちろん僕にそんな趣味はない。
「あー。えっと少し事情が飲み込めないんだけど……」
僕が頬をかきながら答えると、彼女はダメですか……?と一言だけ呟いて、そのあとは小さくなって俯いてしまう。
違うんだよ?僕はよくわかってないだけで、嫌とは言ってないんだ。むしろ、美少女とお近づきになれるとか嬉しいよ?
とぼとぼと立ち去ろうとする彼女の小さな背中に、哀愁すら漂っている気がして本格的に申し訳なくなって来た。
「あー……わかったよ。僕は夏川 夕 だ。君は?」
僕の言葉に彼女は今までにない程その黒く大きな目を輝かせる。
「私は夢原 七海 です。よろしくお願いします!」
本当に嬉しそうに笑顔を向けてくる彼女にその瞬間僕は疑うなんてこともできなくなっていた。よくわからないけれど、なんだか彼女の笑顔に今は逆らえる気がしなかった。
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- 4 : 2015/06/23(火) 19:43:48 :
それからあまりにも暑すぎるため僕達は涼めるところにでも移動しようということになった。
すぐ近くにあった公園の木陰のベンチに座ると、ひんやりとした爽やかな風が吹き抜けており、火照った体にはちょうど心地よかった。
座るときに気が抜けて、なにやらおっさんくさい声を出して笑われてしまったけど。
「ところで夢原さん。突然友達になって欲しいだなんて、どうして僕なの?」
さっきからずっと気になっていた質問だ。なぜ今日初めて出会ったばかり、しかもただ帽子を拾っただけの僕なのか。
年頃は僕と変わらないだろうし、学校とかそう言うところで友達を作ればいいはずだ。
さっきのが演技と言うにも鬼気迫る様子で、何か企んでいるという様にも思えない。ただ純粋な興味とか関心からでた疑問だった。
しかし彼女は何かが不満なのか、唇を尖らせるようにして、湿り気のある視線を向けて来る。
僕に女性の扱いを考えろとか、デリカシーがないとか言われても恋愛経験など生まれてこのかたまるでないのだから無理な話だ。
だから僕は恐る恐る聞いて見ることにする。
「あ、あの……何か機嫌を損ねるようなことしたかな?」
戦々恐々といった感じでお伺いを立てる僕の様子に、彼女はなにやら満足気に向き直った。
なんとも表情が豊かなことだ。まるで山の天気みたいにころころ変わるもんだから、見ていて飽きそうにない。
「折角お友達になったんですから、七海と呼んでいただけませんか?」
女の子の下の名前を呼ぶなんてことはしたことがない僕にはかなりハードルが高い。思わず挙動不審になりながら「な、七海さん?」と口にしたらまた拗ねられてしまった。
今度は僕にもわかる。きっと彼女は『さん』というのが他人行儀に聞こえて嫌なのだろう。
どんどん僕の女の子に対する呼び名の最高記録が更新されて行く。
なんとか最後の抵抗を試みようと、「七海ちゃん」と呼んでみた。
しかしこちらを向いてはくれそうにない。なんかにやけるのを堪えて口元がぴくぴくしてるみたいなんだけど。
どれだけ友達という概念になれてないんだろう。それにも関わらず、いきなり呼び捨て希望とはなにやらちぐはぐに思えた。少し性急すぎやしないだろうか。
とはいえ、話が進まないのも困りものだ。僕が折れるしかない。
「はぁ……わかったよ。七海、僕の負けだ。」
すんなり呼び捨てにできてしまったことは意外だった。
それにしてもさっき彼女と出会ってからというもの、常に僕が折れている気がする。
僕は彼女には敵わない。そんな予感に頭を抱えたくなったが、頬を朱に染めて花が咲いた様に笑う彼女を見てしまっては、もうどうにでもなれと思うほかなかった。
我ながらちょろい。
「それで、私が夕に友達になって欲しいとお願いしたのは──」
彼女は小さな唇からひとつひとつ確かめる様に言葉を紡ぎ出していく。
結果だけいえば、長かった。校長先生の言葉くらいには。
でも、その華やかに澄み渡るような声はまるで好きな音楽を聞くように、僕の心に染み込む様だった。
話していることは、辛いことなのに。なぜか悲壮を感じさせないのは彼女の話し方のせいだろうか。
ただ僕は黙って聞き入っていたように思う。
話の内容は、病気がちな彼女は学校に行くことができなかったため、居場所がないのだと言う。そんなこんなで高校もやめてしまったのだとか。そんな時に年頃の近い僕に勇気を出してみたそうだ。まったく知らない人なら、違和感なく友達になれると思ったらしい。
要約してしまえば至極簡単なものだ。物語で言えばありきたりなのだろう。
考えてることもちぐはぐで、突飛だ。でもそこには彼女の人生が生き方があった気がした。
話し終えた彼女を見たまま黙っている僕に、彼女はまた少し悲しいような、嬉しいような。なんとも複雑に微笑んだ。
本当に本当に不思議な女の子だ。
僕たちはその後は微妙な気まずさに、あまり言葉を交わすことはできなかった。でもなぜかその沈黙は心地よくて、お互いがそれを望んで受け入れているような感覚すらあった。
日が傾いて来た頃に僕たちは別れた。家まで送ろうかと伝えたけれど、やんわり断られてしまった。
ただ僕と彼女の間に残ったのは、また明日。
そんな小さな約束だけだった。
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- 5 : 2015/06/23(火) 19:47:32 :
その夜、僕はいつにない寝苦しさに布団を抜け出した。ベランダに出るとしっとりとした夜風が火照った体を冷やして、気持ちがいい。
なんだろうか、彼女と会ってからやけに胸騒ぎがする。
恋に落ちたとかそう言うことではない。確かに彼女は可愛くて良い子だけど、そこまで簡単に好きになれるほど僕は現金なやつではないと思っている。
ならこの胸騒ぎはなんだろう。なぜこれほどまでに僕は今日出会ったばかりの彼女を気にかけているんだろう。まるで以前から親しくしていたようなそんな感覚。
普通の人なら守らないであろう、また明日という小さな約束。
でも僕は守りたいと思っている。彼女ともう一度会って話すことを望んでいる。そんな気がした。
「僕はなにをしてるんだか」
整理のつかない自分の心に溜息をひとつして、なんとなく冷えた気がする思考でひとまず布団に戻って眠ることを決めた。
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- 6 : 2015/06/23(火) 19:55:57 :
次の日も同じ時間に公園に行くと、七海がぴょこぴょこと跳ねながら手を振っていた。
まるで子供のようにはしゃぐ彼女に、苦笑しながらも僕は約束が守られたことにどこが喜びを感じていた。
彼女は本当に僕が来るとは思っていなかったらしい。至極当然といえばそうなのだが、そう思っていても来てしまうあたりが彼女なのだろう。
その日も他愛もない世間話をしたり、ちょっと街に出てみたりしただけだったが、なんだかんだ言いながら僕も楽しんでしまった。
今まで僕は他人と関わることを避けて生きてきたし、他人も関わろうとはしなかった。虐められたり、嫌われたりということもなかったが、好かれることもなかった。
そのせいかはわからないけれど、彼女と過ごす時間はまるで特別なもののように思えた。僕にないものを埋めてくれる。そんな気がした。
その日が終わる頃にはもう一度会いたい。そう思わずにはいられなかった。
だから今日も約束をしなくちゃ。また明日って。
「私明日から1週間検査入院するんです。だからしばらく会えません……」
僕の希望は寂しそうに呟く彼女の言葉によって打ち砕かれた。
昨日まであれほど狼狽えて疑ていた僕の頭の中はひどく単純な感情に占有され、整然としているようにすら思えた。
きっと、僕はその時酷い顔をしていたことだろう。おかげで彼女に苦笑されてしまった。
「大丈夫ですよ。ただの検査ですから」
僕はなにをやってるんだ。本当に辛いのは彼女の方なのに。何か声をかけてあげなくちゃ。
必死に頭を回転させて、口を開こうとする。
でもそれは彼女の白く、滑らかな細い指によって塞がれてしまう。
「私は平気です。それより来週は七夕祭りですから、帰ってきたら連れてってくださいね?待ち合わせは最終日の17時。約束ですよ?」
大きな黒曜石のような瞳を片方だけパチリと閉じると、彼女は走り去ってしまう。
度々こちらに手を振りながら、走り去って行く彼女を見つめて僕は立ち尽くすことしかできなかった。
彼女のいなくなった公園にひとり立っている僕の姿は滑稽で、酷く笑えた。
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- 7 : 2015/06/23(火) 20:03:46 :
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彼女と会えなくなった日から一週間。
本当に長く退屈な日々だった。たった2日間、親しく話した程度の仲だというのに、まるでずっと一緒にいた人がすっぽり抜けてしまったようだった。
僕が彼女を思い浮かべなかった日はなかった。なんだか嫌な予感がして、その日が来て欲しくもあり、来ないで欲しくもあった。
僕はなんで彼女ひとりにこんなに揺さぶられているんだろう。どんどん僕のなかでざわつきは大きくなっている。以前から知っているような。そんな既視感。
その感覚は僕の不安を加速させた。もう一度彼女は僕に元気な笑顔を見せてくれるのだろうか。そんな気持ちをを抱えたまま僕は約束の日を迎えた。
何時もの公園のベンチには約束より30分も早く着いた。もちろん彼女は待っていなかったけど、少し気が早かったみたいだ。
ベンチに腰を下ろして、少し傾きはじめている太陽に少し寂しい気持ちになる。以前ならこの場所でふたりで他愛もない話で笑い合えたはずなのに、隣に彼女の姿はない。
この沈んでいく夕日のように彼女も夕闇に溶けて消えてしまうのではないか。そんな気持ちが湧き上がってくる。
その不安は時とともに確信めいたものとなる。日が沈んでも彼女は来ない。既に携帯の時計は18:11を指している。
彼女はいつも僕より先に来て、嬉しそうに笑いながら出迎えてくれた。
彼女が来ないのは────
そんなことはありえないと、馬鹿げた考えを振り払う。冗談にしても笑えない。
彼女がもう来ないなんて。そんなこと。
必死に浮かび上がって来るものを抑えながら僕は彼女を待った。きっとその時。僕は泣いていた。
なんで泣いていたのかはわからない。でも泣いていたんだと思う。
息を荒げた彼女に頭を撫でられるまでは。
「はぁ……はぁ……心配させてごめんなさい。いろいろと手間取ってしまって」
僕はハッとして顔を上げた。目の前には辛そうにしながらも、いつもの彼女の笑顔があった。
走ってきたのか、頬は上気していて吐息は荒く妙に色っぽい。体が弱いというのに僕のために走ってきたのだ。
そう考えると、今までの不安も重なり僕は声を荒げてしまう。
「なんでそんなに息があがるほど走ってきたりしたんだ!体が弱いんだろ!なんでそんな無茶するんだ!」
バカみたいにわけもわからずわめき散らし、必死に叫ぶ僕に彼女はぽかんとしていた。
彼女に怒りをぶつけたことなんてなかったから、きっと驚いたのだろう。
彼女は少しして、くすくすと笑った。
「ごめんなさい。夕なら待ってる気がして、そしたらいてもたってもいられませんでした」
彼女の笑顔は本当にずるい。そんな風に微笑まれたら、僕は怒れないじゃないか。
つくづく彼女には逆らえないことを思い知らされた僕は、ため息をついてベンチから立ち上がる。
「じゃあ行こうか。20:00までに行かないと竹飾り見られないよ」
はい!と元気良く答えを返す彼女はいつもの凄く楽し気な彼女で僕は少し安心した。
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- 8 : 2015/06/23(火) 20:05:33 :
七夕祭りでは、商店街の中が数百メートルに渡って大小様々に趣向を凝らした竹飾りが展示されている。
とはいえ、もうあと20分もしないうちに祭が終わってしまうせいか、人足もまばらだった。
「ほらほら夕。みてください綺麗ですよ!」
ライトアップされた竹飾りをみて、ぴょこぴょこと跳ねて手招きする七海は本当に体が弱いのかと疑いたくなるほどに元気だ。
道端の露店も一部は店仕舞いを始めてしまっていて少しさみしい気もするが、そんなこと以上に1週間ぶりに彼女と過ごす時間は楽しかった。
「もう!遅いです!はやくはやく!」
物思いにふけっていたら怒られてしまった。急いで追いつくと、彼女が次に見つけたのは花火大会のお知らせだ。
もうすぐ始まるらしい。しかし、ちょっと急げば間に合わないということはないだろう。
「すぐ近くだね。行ってみようか」
いつの間にか舞い上がっていた。無意識に彼女の手を引いて花火の会場に急ぐ程度には。
もちろん会場に着いた時にはすぐに手を離したよ?我ながら大胆な真似をしたものだ。女の子の手を握るなんて人生初だよ。
普段はやけに距離感の近い七海ですら顔を真っ赤にしてぶんぶん手を振って、恥ずかしいのをごまかしている。
そんなやり取りをしているうちに花火は打ち上がり始めていた。花火を見たのなんて何年ぶりだろうか。
もう随分と見た記憶がない。花火が上がるたびに横から小さな感嘆の声が聞こえてくるから面白いが、確かに綺麗だ。
僕はなんでこれまであんなにつまらない生き方をしてきたんだろうと思う。
でも今となってはそんなことはどうでもいい。僕は彼女と出会った。その事で僕は色んなことに対して興味を抱けるようになった。
なんとなく、彼女となら僕は楽しく生きていける気がした。
そんな風に思うと、いつの間にか僕の視線は花火ではなく彼女の横顔に吸い寄せられた。
花火の光に反射して黒い瞳がキラキラと輝いている。宵闇に大輪が咲く度に無邪気に喜んでいるようで、本当に微笑ましい。
「参ったなぁ……」
空に目を戻してつぶやいた僕の言葉は、花火の音の中に溶けて消えていった。
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- 9 : 2015/06/23(火) 20:07:17 :
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花火が終わると、僕達はいつもの公園まで歩いてベンチに座った。
ただ帰りは少し静かで、なんとなく初めてあった日の事を思い出す。夜の公園は少し不気味だけれど、ふたりで歩いていると自然とそれも紛れた。
「あー楽しかった。夕、今日はありがとうございまいした。あと、ごめんなさい」
そんな風に口にする彼女はいつもとは違う儚くて触れれば壊れてしまいそうな、そんな笑顔をしていた。
僕はそんな彼女に違和感を覚えがらも、気にしないでといつも通りの答えを返す。
何も変わっていないのに、何かが決定的に違う会話。僕はその違和感を今日ずっと見ないようにしていた。
彼女とのこの心地いい時間を失うのが怖かったから。
「そろそろ両親が心配するので帰りますね。本当にありがとうございました」
そういって歩き出す彼女の背中を僕は見つめていた。
もう。あの小さな約束すらもない。
きっとこのままにすれば僕の夢は覚めてしまう。
そんな感覚が僕を突き動かした。
僕は後ろから、離れていく彼女の手をしっかりと握りしめる。今に繋ぎ止めるように。終わらせないように。
でも彼女は振り返らない。僕の方を見ようとはしなかった。
「ねえ七海。僕達は明日も会えるよね?」
僕が本当に聞きたいこと。それはまた明日の言葉だった。
いつも通り何事もなく彼女が笑って、「ええ、また明日」そういってくれる事を期待していた。
「何をいってるのですか?もちろんです」
必死に震えを押し殺した声。こんなのバカな僕にだってわかってしまう。わかってしまった。
「じゃあなんで七海は泣いてるの?」
彼女はきっと。いつかに出そうとした答えが僕の中に流れ込んで来る。
「泣いてなんかいません。早く帰らないと怒られてしまいます」
必死に逃げようとする彼女の手を僕は離さない。
彼女の優しさに気づいているのに、僕はきっと残酷な男だろう。でも、それでも。そう思った。
「いいかげんにしてください!!」
彼女の目一杯の声だろう。今までに聞いたことのない種類の声音だった。
僕はその声に怯んで、掴んだ手を緩めてしまった。
その隙に彼女は走りだしてしまう。
僕はまるで石にでもなったように動けなかった。走り去る彼女にことばもかけられぬまま見送り、また僕は道化になってしまった。
彼女の最後の一言がなければ、僕は追いかけることができたかもしれない。でもそんな事は言い訳になりはしないだろう。
彼女は最後にこういった。
「ごめんなさい。夕くん 」
僕にとって良くも悪くも聞き覚えのあるフレーズだった。僕はその一言で今まで忘れていた大切な事を思い出した。
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- 10 : 2015/06/23(火) 20:09:19 :
それから毎日僕はあの公園に通った。また笑顔で彼女が迎えてくれるんじゃないか。そんな淡い期待を胸にして。
でも彼女は現れなかった。公園のベンチの広さは今の僕には寂し過ぎる。
そしてそんな日が過ぎて6日目の事だった。
僕に宛てた手紙が届いた。可愛らしい封筒に、小さく丸い文字で宛名の書かれた手紙。
僕はすぐにそれが彼女の書いたものだと確信して急いで目を通した。
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- 11 : 2015/06/23(火) 20:10:15 :
- 拝啓
夕くん。お元気ですか?きっとこの手紙を読んでいる頃にはもう私はあなたとは会えなくなってしまっていることだと思います。
こんな時に言うのはずるいのかもしれないけど、私は初めて会った時から、夕くんのことが大好きです。9年前私を助けてくれて、笑いかけてくれたあの時から。
だから、私の命が短いとわかった時にはいてもたってもいられず帰ってきてしまいました。
突然引っ越してしまった私が、夕くんと七夕祭りに行く約束をすっぽかしてしまったのがずっと心残りで、せめて最後に約束を果たしたいと思ったんです。
でもいざ話しかけよう思っても夕くんは成長してかっこよくなってて、緊張してなかなか話せませんでした。
最初に会った日も待ち伏せしたりとかしたけど、多分夕くんに帽子を拾ってもらってなければ話しかけられなかったと思います。でも会えて嬉しいのに、夕くんは私を覚えてなくて寂しくて、もうどうしていいのかもわかりませんでした。
だから私は昔の私じゃなくて、新しい今の私として夕くんと話そうって決めたんです。最後は我慢できなくて、バレちゃったけど。
その次の日も夕くんとデートも楽しくて、七夕祭りも夕くんと一緒に行けてすごくすごく幸せでした。七夕祭りの約束を守れて本当に良かったです。
夕くん。私に幸せをいっぱいくれてありがとう。これからは、夕くんがいっぱい幸せになってください。幸せになるまで、こっち来ちゃダメだからね。約束ね。そしてまたいつか天国で素敵な笑顔を見せてください。
七海より
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- 12 : 2015/06/23(火) 20:10:50 :
- その手紙はところどころインクが涙で滲んでいて、彼女の思いが詰まっているようだった。
それを見ているだけで、僕は彼女が目の前にいるようなそんな感覚を覚えた。彼女の温もりがそこにあった気がしたから。
手紙には一緒に短冊も同封されていた。彼女のものだと思われる小さな丸い文字で『夕くんが幸せでありますように』と書かれていて、震える手で書いたのか少しゆがんでいる。
「ずるいじゃないか……自分だけ言いたいこと言って。僕の気持ちはどうなるんだ……」
その日僕は泣いた。彼女と最後に別れてから初めてだった。僕の中に溜まった何かがはじけるように溢れ出して、僕にも止められなかった。
だけど、僕はこの手紙のおかげで前に進めたと思う。この手紙がなければ彼女と出会う以前に逆戻りしていたことだろう。
最期のその一瞬まで僕の幸せを願ってくれた人がいるとわかったから。
僕にはみんなの願いを叶えることはできないけど、彼女との約束や小さな願いを叶えることはできる。
手紙と短冊を机の中に大切にしまって僕は外に出る。
きっと僕は一生忘れないだろう。
僕の初恋。あの不思議な女の子を。
僕はただ想いをぶつけるところがなくて、がむしゃらに走り出した。
fin
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- 13 : 2015/06/25(木) 18:01:25 :
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少し間を開けてしまいましたが、完結となります。最後まで目を通して頂いた方ありがとうございます。
初めてでよくわからないジャンルですが、書いてみると案外楽しかったです。
今後こう言ったものにも手を出してみたいなぁと不覚にも思ってしまったのでもしよければアドバイスや批評なんかも頂ければ幸いです。
面白いと思って頂けたなら、コメントやGOODで意思表示していただけるとそちらも嬉しいです。
作品はここで終了となりますが、この先にも夕の人生は続いています。そんな事に思いを馳せて頂ければと思います。
では私も彼らに倣って小さな約束を残して行くことにしましょう。
また次の作品でお会いしましょう。
さよなら!
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- 14 : 2020/10/27(火) 10:19:39 :
- http://www.ssnote.net/users/homo
↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️
http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️
⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
今回は誠にすみませんでした。
13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
>>12
みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました
私自身の謝罪を忘れていました。すいません
改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
本当に今回はすみませんでした。
⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️
http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi
⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
ごめんなさい。
58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
ずっとここ見てました。
怖くて怖くてたまらないんです。
61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
お願いです、やめてください。
65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
元はといえば私の責任なんです。
お願いです、許してください
67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
アカウントは消します。サブ垢もです。
もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
どうかお許しください…
68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
これは嘘じゃないです。
本当にお願いします…
79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
ホントにやめてください…お願いします…
85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
それに関しては本当に申し訳ありません。
若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
お願いですから今回だけはお慈悲をください
89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
もう二度としませんから…
お願いです、許してください…
5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
本当に申し訳ございませんでした。
元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。
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