このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
この作品は執筆を終了しています。
シルマリル ② ~人間の英雄エレンとエルフの乙女ミカサの物語~
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- 1 : 2015/06/08(月) 22:41:40 :
- ロード・オブ・ザ・リング番外編、シルマリルの物語の続きです。
よろしくお願いします<m(__)m>
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- 2 : 2015/06/08(月) 23:07:03 :
轟轟と流れ落ちるシリオンの大瀑布。
流れ落ちては地下へと潜っていくこの滝を見下ろす丘陵で、エレンは一休みすることにした。
エレン「はぁ・・・・・・なんで俺はあの時、ミカサの顔を見なかったんだろうな・・・・・・。」
今更ながら、エレンはミカサに一瞥もくれずにシンゴルの御前を出ていったことを後悔していた。
あの時エレンは、もしミカサの顔を見てしまったら、自分の決断が鈍ってしまうと考えた。
その為、エレンはミカサを見ないようにしていたのであるが、今となっては一目見ておけばよかったとため息を漏らしているのである。
おまけにシンゴルの御前で、堂々とミカサとの婚約を口にし、シルマリルを安い宝玉と言ってのけたのはよかったものの、そこから先はすこぶるまずいことになってきた。
エレン「そもそもアングバンドまではどうやっていけばいいんだろうな?」
要するに彼は、あまり考えもせずにシンゴルの前でシルマリルを取ってきてみせると言い切ってしまったのである。
望みもなく、良い智慧も浮かばず、エレンは丘陵地帯を歩き、そしてタラス・ディアネンの平原へと辿り着いた。
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- 3 : 2015/06/08(月) 23:16:30 :
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この時代のエルフの国は三つあった。
一つはシンダール族エルフの国、ドリアス―――――壮大な地下都市であるメネグロスを中心とする王国であり、エレンが先ほどシルマリルを求めて出発した王国である。
一つはノルドール族エルフの国、ゴンドリン―――――環状山脈エホイアスの中に隠されたトゥムラデンの谷間に築かれた隠れ王国であり、ノルドールの上級王トゥアゴンがその主である。
そして、もう一つがナルゴスロンド―――――ノルドール族の一人であり、ガラドリエルの兄、並びにグリシャの友であったキースの治めるエルフの隠れ王国である。
エレンはナルゴスロンドの領内であるタラス・ディアネンに知らぬ間に足を踏み入れており、境という境には秘密の塔が建てられ、至る所に優れた弓の名手が徘徊していた。
その為エレンは既に彼らに目ざとく見つけられ、弓を向けられていたのである。
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- 4 : 2015/06/10(水) 02:48:11 :
―――――――いるな。
エレン「俺に弓を向けるなッ! 俺は・・・・・・敵じゃねえッ!!!」
エレンは、しかし、用心を怠らなかった。
その為、誰一人として弓を構える兵士を見つけられなかったにもかかわらず、その気配を感じ取ったのである。
エルフ兵1「お前は何者だッ!?」
兵士の一人が姿を現し、エレンに問いかけた。
エレン「俺は・・・・・・グリシャの息子、エレンだッ!!!」
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- 5 : 2015/06/10(水) 02:48:50 :
この名前を聞いたエルフ兵たちは非常に驚いた。
グリシャの親友であるキースは、自分たちが使える主君であったからだ。
他のエルフ兵も出てきて、エレンの元に駆け寄った。
エルフ兵2「この指輪・・・・・・間違いない。ようこそナルゴスロンドへ。エレン殿。」
エレン「なぁ、俺をキースさんのところに案内してもらえねえかな?」
エレンが問うと、エルフたちは互いに顔を見合わせ、それから答えた。
エルフ兵1「勿論だ。今からエレン殿をキース様の御前へとお連れしよう。」
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- 6 : 2015/06/10(水) 02:50:04 :
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こうしてエレンはエルフたちに案内された。
道を知られないよう夜になるのを待ちながら遠回りをし、日が暮れてからナログ川沿いを北上。
ギングリス川との合流地点では穏やかな流れのナログ川を渡り、川に沿って再び南下した。
こうしてエレンは流れの激しいナログ川の前にあるナルゴスロンドの門の前に到着し、隠れ館に住まうキースの御前へと出た。
玉座に座るキースの首元には、様々なヴァリノールの宝石が嵌め込まれた金の首飾りであるナウグラミアが輝いていた―――――――これぞこの王国の王位を示す品であり、誰が身に着けてもよく似合っているように見えるという魔力が込められたドワーフの傑作である。
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- 7 : 2015/06/10(水) 02:51:59 :
キースは一目で、指輪を見るまでも無く彼がグリシャの息子、エレンであるということが分かった。
キース「久しぶりだな、エレンよ。すこし、やつれたようだが。」
エレン「はい・・・・・・俺も苦労してきましたから。」
エレンのその深緑の瞳の中に宿す光は、強い意志を秘めてはいたが、どこか悲しげだった。
キース「・・・・・・グリシャのことは聞いた。さぞ無念だっただろう。私とてそうだ。」
エレン「父さんが殺されてから四年間・・・・・・俺は、復讐を誓ってドルソニオンの地で戦い続けました。でも、結局俺は逃げる羽目になりました。」
それからエレンはここまで来たいきさつをキースに話し始めた。
キースは目を瞑り、エレンの話に耳を傾け、親友の息子が潜り抜けた困難と、背負った悲しみに想いを馳せた。
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- 8 : 2015/06/10(水) 02:52:44 :
やがて話が終わると、キースはゆっくりと目を開けた。
キース「シンゴルはお前を葬ろうとしていることは間違いないな。」
エレン「分かっています。でも、俺はそれでもミカサと一緒にいたいんです。」
―――――――グリシャよ。お前の息子は、お前に似て無鉄砲もいいところだ。
その正直さゆえに自らを危うくするエレンを、誰が助けずにはいられよう?
キース「お前の想い、あい分かった。私はお前の父グリシャと誓い合った―――――――もし片方が危うければ、片方が助けるとな。」
エレン「父さんが?」
キース「そうだ。だが、私のほかに味方が得られることを期待してくれるな。」
エレン「・・・・・・どういうことですか?」
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- 9 : 2015/06/10(水) 02:55:35 :
キースは一呼吸置くと、その訳を語り始めた。
キース「・・・・・・かのフェアノールの誓いが関わっているように思われるからだ。」
エレン「あぁ、あの誓いですか。」
エレンはうんざりしたように答えた。
キース「そうだ。今この国にはフェアノールの息子であるケレゴルムとクルフィンがいる。彼らは私にいつなんどきでも友情を示しては来たが、この件に関しては慈悲も示さないだろう。
フェアノールの誓約が、彼らの行動を縛っているからだ。シルマリルを持つものを何が何でも殺す。さもなくば永久に闇に呑まれる・・・・・・フェアノールは恐ろしい誓約を息子達に課したものよ。」
キースの表情が曇っていくのを、エレンは見逃さなかった。
キース「この国の領主はフィナルフィンの息子であるこの私だが、ケレゴルムとクルフィンは自分の民をこの領内で多く率いておる。それに、マンドスの呪いのこともある。
進んでエレンに協力してくれるものはほとんど現れないだろうな。」
暗い予感に、エレンの胸は塞がった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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- 10 : 2015/06/13(土) 22:52:17 :
翌日、キースは自分の御前にエルフたちを集めた。
――――――その中には、ケレゴルムとクルフィンも含まれており、彼らは初め何も言わず、静かに座っていた。
キース「皆のもの、聞くのだッ! 私の隣にいるのはエレンッ! あのグリシャの息子だッ!」
エルフたちはどよめいた。
自分たちの窮地を救ってくれた恩人の息子が目の前に現れて、彼らの胸は、一種感嘆の念に満たされたのだ。
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- 11 : 2015/06/13(土) 22:53:39 :
だが、上手くいったのはここまでで、そこから先はやはり、キースの予想した通りの展開となった。
キースが、エレンのシルマリル捜索の経緯を話すと、マンドスの呪いを恐れ、積極的にかかわろうとするものは現れなかった、
すると、今まで話を聞いていたケレゴルムが立ち上がった。
ケレゴルム「とんでもないことだッ! シルマリルは、それを持つものがいかなるものであれ、フェアノールの息子たちの憎しみから逃れることは出来んッ! シルマリルは我々フェアノールの兄弟たちのものだッ!」
つまるところ、エレンがシルマリルを手にすれば、彼を殺すと脅したのである。
他にもケレゴルムはいろいろなことを語った。その言葉には力が籠り、かつてフェアノールがノルドール族を煽動したときのように、他のエルフたちを動かした。
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- 12 : 2015/06/13(土) 22:54:54 :
ついでクルフィンも語りだす――――語り口は穏やかだったが、力が籠っているのは同じで、やはり他のエルフたちの意識を動かしたのだった。
かられの言葉はエルフの心に、ナルゴスロンド滅亡の恐怖を植え付け、シルマリル捜索を妨害するのには十分だった。
その結果として、エレンのシルマリル捜索の旅に積極的についていこうとするものはほとんどいなくなってしまった。
ナルゴスロンドの民心は二人に傾き、義理からエレンを助けようとするキースは、民から見捨てられてしまったのである。
その時、彼ら兄弟の心に、悪しき考えが萌した―――――このままキースをエレンと共に旅立たせ、あわよくば自分たちがその王位を簒奪せんとの企みが浮かんだのだ。
マンドスの呪いがここでも働き、彼ら兄弟に裏切りを成さしめていた。
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- 13 : 2015/06/13(土) 22:55:43 :
キース「もうよいッ!!!」
自分が見捨てられたことを知ったキースは、王位の証であるナウグラミアを外すと、弟のオロドレスにこれを預けた。
キース「私はグリシャに、危急の際は助けると誓ったッ! それゆえ私はその息子であるエレンを助けることとするッ! そのために私はナルゴスロンドの王位を降りようッ! 次の王は弟であるオロドレスだ・・・・・・疑問はないな?」
キースの決意を聞き、心を動かした10人のエルフが一緒に旅をすることを申し出たほかは、誰も言葉を発さなかった。
ケレゴルムとクルフィンも何も言わなかったが、内心はほくそ笑んでいた。何故なら民心は彼らにあり、従ってこの国の実権を握ったも同然だったからだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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- 14 : 2015/06/13(土) 22:56:53 :
キース「すまぬ、エレン。私は・・・・・・お前の役には立てなかった。」
命の恩人の息子であるエレンに対し、僅かばかりの手勢しか引き連れることの出来なかったことを、キースは詫びた。
エレン「止めてください、キースさん。これは元々俺のわがままから始まったことなんですから。」
エレンもこうなることは覚悟していた。
フェアノールの誓言やマンドスの呪いがある中にあって、これでも十分仲間は集まったほうだ。
エレン「危険な旅になると思うんだけどよ、よろしくな、お前らッ!」
エルフ達「「はいッ!!!」」
―――――エレンと同行する10人のエルフ達は、みなキースの忠臣であった。
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- 15 : 2015/06/13(土) 22:57:39 :
キース「それではこれから私たちはアングバンドへと向かうこととする。アングバンドへはまずシリオンの大河を川伝いに移動する。だが気を付けろ。」
キースの顔が俄かに険しくなる。
エレン「いったい、何をですか?」
生唾を飲み込むエレンに、キースは静かに語りだした。
キース「我々は、トル=イン=ガウアホスの近くをどうしても通過しなければならぬのだ。」
全員が沈黙する。
トル=イン=ガウアホス――――――――以前はキースが支配していた大河シリオンの川中島であり、弟のオロドレスがこの島の防衛に当たっていたが、敵の手に落ちてからは巨狼と吸血蝙蝠の住まう恐怖の島。
だが、真の問題はそこではなく、この島の統治者であった。
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- 16 : 2015/06/13(土) 22:59:37 :
ややあって、エレンが口を開いた。
エレン「・・・・・・俺たちは、サウロンのそばを通過しなきゃならないってことですか!?」
冥王サウロン――――――――のちにこう呼ばれるようになるこの悪霊は、モルゴスに次ぐ力を持ち、邪悪で狡知に長け、手に触れるものを全て捻じ曲げた。
巨狼や吸血蝙蝠の主であり、彼の統治は責め苦に等しかった。
キース「ああ、奴に気取られないように、細心の注意を払う必要がある。」
キースは真剣に、エレンに注意を促した。
――――――――まったく、どうしてこう俺は運が悪いんだかなぁ。
やがて日も暮れて、あたりは夜の帳に覆われた。
エレン達はアングバンドへ向けて、隠れるように旅立った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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- 17 : 2015/06/14(日) 21:58:31 :
シンゴル「何ッ!? ミカサが居なくなったじゃとッ!?」
ドリアスの王は気が動転した。
我が非常に強く、脱走を図るだろうことを予想していたシンゴルは、ミカサをネルドレスの森にあるブナの木の上に作った家に閉じ込め、下に降りるためのはしごもはずし、さらに見張りも置いていたはずだった。
シンゴル「なぜじゃ・・・・・・なぜミカサは脱出できたのじゃッ!?」
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- 18 : 2015/06/14(日) 22:00:00 :
~数時間前~
「まったく、王も大げさだよな。」
「全くだ・・・・・・木の上の家にミカサ様を閉じ込めて、しかもはしごまでないのに、俺たち見張りまで置くなんてな。」
兵士たちは王の、ミカサへの溺愛ぶりにほとほと呆れていた。彼らはミカサの我の強さをまるで承知していなかったのである。
すると、小屋の窓から黒い縄のようなものが降りてきた。
「ん? なんだこ・・・・・・はれ・・・・・・ほにゃ・・・・・・・・・・・・。」ドサッ!
迂闊にもそれに触れた見張りの一人が眠りに落ちてしまった。
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- 19 : 2015/06/14(日) 22:03:40 :
「な、何だよこれ!?」
その黒い縄が見張りを倒したように見えて、もう一人の見張りは気が動転した。
すると、その黒い縄のようなものを伝って、ミカサが降りてきた。
ミカサは持てる魔力を使って髪を伸ばし、地面に降り立ったのだ。
しかも、その髪の毛に、ミカサは眠りのまじないをかけていた。
ミカサ「・・・・・・眠って。」
「う、うわあぁああぁあぁぁぁッ!!!」
もう一人の見張りも、有無を言わさず深い眠りにつかされた。
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- 20 : 2015/06/14(日) 22:06:07 :
ミカサ「やれやれ・・・・・・少し魔力を使ってしまった。」
エルフである父と、下級神である母の血は、ミカサに強力な魔力を与えていた。
伸ばした髪を元に、ミカサは黒い衣を編んだ――――――これには強力な眠りのまじないが込められ、触れるものをたちまち深い眠りに引きずり込む力が宿った。
ミカサはその黒衣を身に纏い、フードを被って出発した。
ミカサ「待ってて、エレン・・・・・・あなたは、私が守る。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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- 21 : 2015/06/14(日) 22:07:38 :
「よし、準備はいいか?」
「ばっちりですッ!」
エレキース「「おおぉおおぉぉぉッ!!!」」
――――――エレン達一行は、道の途中でオークの一団を発見した。
キース『敵は数でこちらに勝っている。ゆえに、奇襲によって一気に殲滅するのが得策だろう。』
エレン『・・・・・・駆逐・・・・・・してやる・・・・・・。』
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- 22 : 2015/06/14(日) 22:08:07 :
不意を突かれたオーク達は、なすすべもなく数で劣るエレン達に斬り伏せられた。
エレン「っし、こんなもんか・・・・・・。」
キース「よし、このまま私たちはオークに変装するとしよう。」
エレン「なるほど、こいつらの服を・・・・・・奪うんですね。」
キース「そういうことだ、エレン。後は私の魔力があれば完璧だ。」
エレン「魔力?」
キース「うむ、まずはオークの服を着て見ろ。」
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- 23 : 2015/06/14(日) 22:09:19 :
エレンはいやいやながら、オークの服を着始める――――――父親をオークに殺されたエレンからしてみれば、彼らの服を着ることは屈辱だったのだ。
エレン「ちっ、汚い服だな・・・・・・。」
少し毒づきながらも、エレンはオークの服を着た。
キース「よし、これから完璧な変装の術を施すとしよう。」
キースが呪文を唱え始める。すると、エレンの見た目がみるみる醜いオークへと変わっていった。
エレン「ま、マジかよッ!?」
「流石はキース様だ。」
「どこからどう見てもオークだ。」
キースの魔法に、皆が感嘆の声を上げる。エレンは心底嫌いなオークに変身させられて少しぶすくれたのであるが。
やがて12人全員がキースの魔法でオークに変装し終えると、キースが仲間のオーク達、もといエレン達に警告した。
キース「我々はこれから、トル=イン=ガウアホスの近くを通過する。気取られるなよ。」
キースの言葉に緊張を覚えつつ、一行はシリオンの大河のそばを再び進み始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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- 24 : 2015/06/16(火) 02:53:56 :
トル=イン=ガウアホスに建てられた物見の塔の頂上。一番高いところにある部屋に、サウロンは座していた。
シンダール語で身の毛のよだつ者と言う意味を持つサウロンは、黒い甲冑に身をくるみ、自らが支配するこの川中島のそばを通るオーク達にさえ、怠りなく経過網を張っていた。
サウロン「さて、あのオークの一行ども、このわしに連絡もせずに通過しようとしておるな。」
ここを通るオーク達には、モルゴスの命によってサウロンへの通過報告が義務付けられていた。
それゆえ、サウロンはこれを怪しんだのである。
サウロン「スリングウェシル。」
サウロンは自分の伝令役である女吸血蝙蝠を呼んだ。
スリングウェシル「はッ!」
サウロン「あそこを通過しようとしているオークどもをわしの前に連れてくるのだ。」
スリングウェシル「仰せのままに。」
主人の命を受けたスリングウェシルは、風よりも早く主人の元を飛び去って行った。
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- 25 : 2015/06/17(水) 08:43:12 :
エレン「何とか抜けられそうだな。」
トル=イン=ガウアホスの脇を通過し終えたエレン達一行は安堵し始めていた。
キース「うむ、どうやらオークに変装したことが功を奏したようだ。」
エレン「それはいいんだが、早くこの術を解いてくれねぇかな? これ以上オークでいたくはねぇしな。」
キース「もう少しの辛抱だ、エレンよ。」
すると、彼らの目の前に突然、黒い影が現れた。
サウロンの命を受けたスリングウェシルが立ちふさがったのだ。
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- 26 : 2015/06/17(水) 08:43:46 :
スリングウェシル「止まりな、そこのオーク達。サウロン様の御前を通っていくのに、許可も得ないとは、あなたたち、随分と図が高いわねぇ?」
エレン(しまったッ! サウロンに報告することになっていたのか!)
エレンはキースと目を合わせた。
キースも止むを得ないといった顔をしている。
エレン「申し訳ありません。ただいま向かいます。」
エレンは後ろを向いて、トル=イン=ガウアホスの物見の塔へ歩みだした。
と、次の瞬間。エレンが剣を抜いた。
咄嗟の斬撃を躱しきれず、傷を負うスリングウェシル。
スリングウェシル「ぐ、私に傷を負わせるとは・・・・・・たいした度胸じゃないか。」
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- 27 : 2015/06/17(水) 08:44:19 :
エレンの斬撃を合図に、キース含む全員が剣を抜く。
スリングウェシル「お前たち、やっちまいなッ! 裏切り者を始末するんだよッ!!!」
道のあちこちからオークが這い出して来る。
キース「そううまくはいかんな。力ずくで突破するぞッ!」
エレンとキースが先陣を切り、オークの首を斬り、胴体を薙いでいく。
文字通り血路を開き、大地をオークの血で染め上げていく。
エレン「はぁッ!」ズバァッ!
キース「うおおおッ!」ザシュッ!
二人の殺気に気圧され、オーク達は後退。
正面切って立ち向かえる者はいなかった。
エレン「よし、もう少しで突破できるッ!!!」
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- 28 : 2015/06/17(水) 08:45:21 :
ここを抜ければアンファウグリス――――――息つまる灰色の土地と呼ばれる不毛の土地が広がり、その先にモルゴスの本拠地。アングバンドの上にあるサンゴロドリムの塔が見える。
エレン達がサンゴロドリムの塔を視界にとらえたその時だった。
――――――ここから先は、進むことなどできぬ。
恐ろしい声と共に、エレン達の目の前に黒瞑々たる影が現れた。
やがてその影が、黒い鎧を着た恐るべき形をとる。
キース「く・・・・・・サウロンめッ!!!」
彼らの前に、巨狼の主が自ら立ちふさがったのである。
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- 29 : 2015/06/17(水) 08:45:54 :
すると、サウロンが強力な呪力のこもった歌を歌い始めた。
友を裏切れ、売ってしまえと、強大な力のこもった歌はたちまちにエレンや仲間のエルフ達を束縛した。
エレン「ぐ、くそ・・・・・・。」フラッ
仲間のエルフ達が倒れ始め、エレンも意識を支えるので精いっぱいだった。
これに対し、キースも負けじと呪力のこもった歌を歌う。
誠実であれ、城のように堅固であれと、持てるエルフの呪力をそこに注ぎ込む。
二人の力が拮抗し、強力な歌の競い合いは、周りのものを揺るがし、震え上がらせる。
つとに有名なキースとサウロンの歌合戦がここに行われた。
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- 30 : 2015/06/17(水) 08:47:03 :
だが、魔力において優るサウロンが徐々に押し始める。
負けじとキースも、エルフの栄光の歴史を歌に織り込み、その力を増そうと試みる。
だがそこに、フェアノールの誓言と、そこにおいて行われた悲劇。
そして、マンドスの呪いの影が差し込み、エルフの悲劇が流れ込んだ。
遂にキースはくずおれて、エレン達はサウロンの呪文に屈した。
彼らは身ぐるみを全て剥がされ、全裸のまま鎖に括られ、トル=イン=ガウアホスの、光すら差さない地下牢に投獄されてしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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- 31 : 2015/06/19(金) 09:34:22 :
ケレゴルム「おい、あれを見ろ。」
クルフィン「ああ、間違いない・・・・・・ミカサだ。」
エレンの後を追い、ドリアスを抜け出したミカサは、丁度オオカミ狩りをしていたケレゴルムとクルフィンによって発見された。
ちなみに、ケレゴルムは巨大な猟犬を飼っていた。
史上最強の猟犬、フアン――――――もともとこの猟犬はヴァラールの神々の偉大な狩人、オロメの猟犬であったのだが、ケレゴルムに譲られてからは、彼がその主になっていた。
勿論今はこの猟犬すらマンドスの呪いの元にあり、滅びの運命の元にある。
未だかつて存在しなかった狼と戦いし時に滅びる・・・・・・それが彼に課せられた運命である。
そして、生涯に三度、口を利くことを許されていた。
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- 32 : 2015/06/19(金) 09:35:00 :
ミカサのほうも、も彼ら二人とその猟犬に気が付いた。
ミカサ「あなたたちは、誰?」
その問いに、ケレゴルムとクルフィンは偽りなく答えた。
偽る必要などなかった。何故なら彼らはフェアノールの息子達であり、当然モルゴスの敵だからである。
ただし、敵の敵は味方であるとは限らなかった。
ミカサ「そう、あなたたちが、ケレゴルムとクルフィン。モルゴスの、敵。」
ミカサは彼らをにべもなく信頼してしまった。
ケレゴルムには下心があった。
その美しい黒髪に心奪われたケレゴルムは、あわよくばシンゴルの娘ミカサを自分のものにしようとしたのである。
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- 33 : 2015/06/19(金) 09:35:46 :
ケレゴルム「しばし、旅の疲れを癒されよ。私の館はここからそう遠くはない。」
ミカサ「それは出来ない。私は、エレンを助けに行かなければならない。」
すると、クルフィンが横から口を挟んだ。
クルフィン「エレンは、トル=イン=ガウアホスにおいて、サウロンに捕えられたと聞きました。」
ミカサ「!!!」
クルフィン「我らが国、ナルゴスロンドにおいて兵を募り、それから行くべきです。あなただけでは犬死してしまいます。」
勿論、エレンを死地に送り出したのは自分たちだとは言わないのである。
ミカサ「・・・・・・分かった。一緒に兵を募ろう。」
ケレゴルムとクルフィンは、内心ほくそ笑んだ。
こうして、彼らの屋敷に連れて行かれたミカサは、彼らの部屋の一室に閉じ込められてしまったのである。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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- 34 : 2015/06/19(金) 09:36:31 :
ミカサ「・・・・・・モルゴスの敵と聞いて期待したのに、残念だ。」
さて、ミカサを捕えたのはいいものの、その尋常じゃない殺気にあてられ、ケレゴルムとクルフィンは困惑していた。
彼らは、兄弟以外のものと接触するのを禁じ、ミカサを何とか手籠めにしようとしたのであるが、ことごとく失敗していた。
夜になり、部屋の中に閉じ込められたミカサは、同じく閉じ込められているエレンのことを想った。
ミカサ「エレン・・・・・・あなたは今、無事なの?」
ミカサの脳裏には、ネルドレスの森を楽しく歩き回った記憶が蘇った。
強い意志を秘めた深緑の瞳。
私と似ているけど、やっぱり違う黒髪。
緑なす草むらの上を一緒に歩き回り、森の中の動物たちと戯れ合った記憶は・・・・・・もう遠い昔のことのように感じられた。
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- 35 : 2015/06/19(金) 09:37:06 :
「・・・・・・済まないな、私の主人は傲慢なのだ。」
ミカサ「!!!」
暗闇の中から二つの光が覗いた。
その巨大な獣は、ゆっくりとこっちに向かって歩いてくる。
やがて、窓の月明かりにその巨体が照らされた――――――ケレゴルムが飼っている猟犬であるフアンであった。
ミカサ「今更、何をしに来た?」
フアン「・・・・・・エレンを、助けには行きたくないのか?」
――――――ここでファンは一度目の口を利き、ミカサに問うた。
彼は真実の心を持ち、おのが主人によって囚われたミカサを憐れんでいたのだ。
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- 36 : 2015/06/19(金) 09:40:50 :
ミカサ「あなたの助けなんか、いらない。」
フアン「ふん、お前ではここからは逃げられない・・・・・・だが、私ならお前を乗せてトル=イン=ガウアホスまで連れていくことが出来る。」
ミカサ「!!!」
フアン「後はお前が選べ。」
ミカサは選択を迫られた。
けれど、答えは初めから決まっている。
ミカサ「・・・・・・私は、エレンを助けに行く。」
ミカサはフアンに跨り、フアンは風よりも早く駆けだした。
――――――待っていて、エレン。私はあなたのそばへ行くから。
トル=イン=ガウアホスに囚われたエレンの元へ、ミカサは向かっていく。
残酷なるゴルサウア、冥王サウロンとの対決の時が迫っていた。
-
- 37 : 2015/06/19(金) 09:42:35 :
- 以上で②が終了になります。
次回は冥王サウロンとの対決から始まります。
完全に趣味に走った作品ですが、よろしくお願いします<m(__)m>
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- 38 : 2015/08/11(火) 10:54:45 :
- スランドゥイルは?
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- 39 : 2015/08/12(水) 18:59:30 :
- この作品ではでてこないです。
ただ、ドリアスのケレボルンは、シンゴルの縁者ですので、出せばよかったと思っています。
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- 40 : 2016/06/23(木) 15:32:57 :
- ミカサって怪物じゃないの?乙女って言ったら普通クリスタかペトラかリコじゃね?多分ミカサと結婚したらエレン尻に敷かれるWWW
- 著者情報
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