このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
この作品は執筆を終了しています。
シルマリル ~人間の英雄エレンとエルフの乙女ミカサの物語~
-
- 1 : 2015/06/02(火) 05:14:31 :
- こんにちは、進撃のMGSです。
今、私は進撃×ロード・オブ・ザ・リングのコラボを書いているのですが、ロード・オブ・ザ・リング以前の物語として書かれたシルマリルの物語から、二つのストーリーを番外編として書いていきたいと思います。
エレンとミカサを主人公にした物語と、アルミンを主人公とした物語を書く予定です。
ロード・オブ・ザ・リングシリーズの中にも、チラッと登場するストーリーです。
まずは人間であるエレンと、エルフであるミカサの物語から書いていきますので、よろしくお願いします<m(__)m>
-
- 2 : 2015/06/02(火) 05:18:51 :
~4年前~
駆逐・・・・・・してやる・・・・・・一匹残らずッ!!!
怒りに任せ、剣 を振るう――――――彼の剣 は、オークの一党をことごとく切り裂いた。
黒い血の雨が降り注ぎ、エレンはその中から、切り取られて持ち去られた人間の腕を拾い上げた。
エレン「父さん・・・・・・仇は取ったよ・・・・・・。」
父親であるグリシャの手からエメラルドの指輪を抜き取ると、エレンはその指輪を左手の人差指に嵌めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
-
- 3 : 2015/06/02(火) 05:20:38 :
―――――――・・・・・・
俺はまた、あの日の夢を見た。
父の墓の前で復讐を誓ってから早4年。俺の指には変わることなく、父、グリシャの指輪が光を放っている。
父が見捨てず、死ぬまで戦い続けたこのドルソニオンの地で、俺はずっと剣を振るってきた。
エレンは起き上がると、剣の手入れを入念に始めた。
今日もオークどもを駆逐してやる。復讐の念が、エレンを駆り立てていた。
-
- 4 : 2015/06/02(火) 05:22:53 :
中つ国第一紀、ベレリアンド。
――――――今は無きこの地域において、極北からの災いにエルフ達や人間達は悩まされていた。ダゴール・ブラゴルラハ の際、竜の始祖、黄金竜グラウルングの猛威と、破壊的な火砕流によって焦土と化したアンファウグリスの大地。そのさらに北には大要塞が存在した。
地下大要塞、アングバンド。
地上には三層にわたって築かれた、火山の如く巨大なサンゴロドリムの塔があり、その頂上からは、朦々とした黒い煙が上がっている。
ここから生じた暗黒が、ベレリアンド極北を覆い尽くし、第一紀は暗黒時代に鎖されていた。
-
- 5 : 2015/06/02(火) 05:25:17 :
-
かの大要塞の奥深く、最も深き所に彼の玉座は存在した。
大魔王モルゴス。
――――――かつてはメルコールと呼ばれ、ヴァラールの神々の中でも最も力のあるものであった。だが、地上 の支配権を求めて他の神々と対立し、この世の黒き敵と成り果てた。
恐るべきモルゴスは、自身の配下の中で最も力のある召使い、サウロンに命じた――――――のちに自ら冥王を名乗るサウロンであるが、この時はモルゴスの副官として、主人のあらゆる悪事に一役買っていた。
モルゴス「べオル王家の生き残り、グリシャの息子エレンを探し出し、殺害せよ。」
主人の命令に、サウロンは畏まって頷いた。
サウロン「4年前に殺し損ねたグリシャの息子エレンの首を、必ずや晒して見せましょう。」
-
- 6 : 2015/06/02(火) 05:27:33 :
-
暗黒の底において鎮座するモルゴスの頭には、耐え難いほど重い鉄の冠が置かれていた――――――モルゴスが自らのために鍛えし鉄の冠。
その冠の正面に、三つの宝玉が光り輝いていた。
この宝玉こそ、シルマリル――――――太陽と月が昇る以前に世界を照らしていた二本の木、銀の木ラウレリンと金の木テルぺリオンの光を閉じ込めた至高の宝玉。
この中に、地上 の運命が閉じ込められていると予言され、さらに、幾多の忌まわしい流血の惨事を引き起こした聖なる光。
この物語は、モルゴスによって強奪されし三つの宝玉を巡ってその運命を翻弄された人間の英雄エレンと、エルフの乙女ミカサの物語である。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
-
- 7 : 2015/06/03(水) 12:07:05 :
オーク1「!!! 逃げろッ!!!」
オーク2「逃げるんだぁッ!!!狩人 が来たぞッ!!!」
エレン「ちっ、逃げんじゃねぇよッ!!!」
モルゴスはエレンの活躍に業を煮やし、ノルドール族の上級王トゥアゴンに劣らぬほどの懸賞金をかけた。その理由がこれである。
エレンはあまりに強く、オークすらその名を聞いて恐れおののき、姿を見れば逃げ出す始末だったのだ。
そのため、エレンはイェーガーという二つ名を持ち、エルフからは畏れと敬意を込めて、エレン・イェーガーと呼ばれるようになっていた。
-
- 8 : 2015/06/03(水) 12:08:14 :
-
ドスッ! オーク1「グオッ!」
ザシュ! オーク2「ギャウッ!」
エレンは森の中に逃げていったオークに追いつくと、二人を簡単に斬って捨てた。
エレン「くそッ! どいつもこいつも逃げ出しやがって・・・・・・。」
すると、周りから角笛の音が聞こえてきた。
北から南から、西から東から、オークの大軍勢が迫ってきた。
エレン「!!! しまった・・・・・・罠だったのかッ!!!」
サウロンによって放たれたオークの軍勢は、エレンを罠に嵌めるよう、命令を下されていた。
エレンはサウロンの罠にはまり、森の中でオークどもに包囲されてしまったのである。
-
- 9 : 2015/06/03(水) 18:15:43 :
エレン「うおぉぉおぉおぉぉッ!」
ドシュッ! オーク「ギャアウゥゥッ!」
エレンの体は、オークの黒い返り血と、自らの血で赤黒く濡れていた。
エレンは優れた武人であったが、多勢に無勢。敵があまりにも多すぎた。
エレン「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・くそ・・・・・・父さん・・・・・・。」
――――ごめん、俺は、この地を守れなかったよ・・・・・・。
傷を数創負ったエレンは、オークの包囲網を何とか突破し、ドルソニオンの地から逃げ出した。
追って来るオークたちによって、更に数創、傷を負った。
走って逃げること数時間、エレンはナン・ドゥンゴルセブへと迷い込んでしまった。
-
- 10 : 2015/06/03(水) 18:16:38 :
エレン「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・あいつら、追ってこなくなったな・・・・・・。追跡を・・・・・・諦めたのか?」
なぜか追ってこなくなったオークたちを不審に思いつつ、エレンはこの谷を進んでいった。
エレン「・・・・・・なんだよ、これ?」
エレンの目の前に広がった光景―――――それは、あまりに凄惨なものだった。
いたるところに蜘蛛の巣が張り巡らされ、様々な恐ろしい獣が死体となって、その巣にかかっていた。
しかも―――――・・・・・・
大蜘蛛「ギャアァアァァァッ!!!」
エレン「く、このやろッ!!!」
信じられないほど大きな蜘蛛が、穴という穴から這い出してきたのだ。
-
- 11 : 2015/06/03(水) 18:17:28 :
-
大蜘蛛の悪霊ウンゴリアントの子孫である大蜘蛛が住み着き、糸と暗黒を紡ぐここは、オークすら近寄らない死の谷。
サウロンの悪しき力と、のちに出てくるメリアンの守りの力が出会う場所であり、住み着くものは死であった。
エレンは必死になって剣を振るい、群がる蜘蛛を駆逐した。
すると、奥からひときわ巨大な蜘蛛が這い出てきた―――――この谷の主であり、蜘蛛たちの親玉であるシェロブ。
後にキリス・ウンゴルに住み着くこの悪霊が、エレンに猛然と襲い掛かった。
エレン「うおッ!」
相手にしようにも、他の大蜘蛛に邪魔されて、思うように剣が振るえない。
しかも、シェロブの紡ぐ暗黒によって、戦う気力さえ殺がれていく・・・・・・。
戦うことを諦めて、エレンは命からがら逃げていった。
―――――誰も通り抜けることはおろか、近づくことさえしないこの死の谷を、エレンは単身で突破した。
オークの血と自らの血、そして蜘蛛の血を全身に浴びて、エレンは目も当てられないほどボロボロになった。
後に語ることを拒むほどの凄惨な恐怖を、エレンはここで味わった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
-
- 12 : 2015/06/04(木) 19:03:05 :
漸くナン・ドゥルゴルセブを抜けたエレンを待っていたのは、荒涼として、切り立った岩山の迷路であった。
エレン「くそ・・・・・・どうなってんだよ・・・・・・。」
流石のエレンも弱気になって、自分の運命を呪わずにはいられなかった。
この一帯には、先にあるシンダール族エルフの王国、ドリアスを守る魔方陣が張られていた―――――国王シンゴルの妻であり、ヴァラールの神々に使えし下級神マイアールのメリアンによる魔法陣。
彼女の力は強力であり、かのサウロンに匹敵するほどの力でもって、敵の侵入を阻んでいた。
-
- 13 : 2015/06/04(木) 19:04:00 :
エレン「やべ・・・・・・もう・・・・・・限界だ・・・・・・。」
疲れがエレンを襲い、視界が霞み始める。
―――――ここに来て、エレンは漸く、今日の出来事を振り返る時間が出来た。
・・・・・・情けなかった。
オークの大軍に囲まれて、蜘蛛の大軍に囲まれて、逃げることしかできなかった自分自身が・・・・・・。
復讐を誓ったはずなのに、オークすら駆逐できなかった。
涙を流しながら、エレンは再び歩き出した。
自分の後ろにも前にも、血の道しか見えない・・・・・・ただ復讐の念だけが、エレンの足を動かした。
本来この魔方陣は、シンゴル王と王妃メリアンの認めた者のみを通すはずであった。
だが、エレンは運命に守られて、この魔方陣を突破したのである。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
-
- 14 : 2015/06/04(木) 19:04:48 :
やがてエレンは、シンダール族エルフの国、ドリアスのネルドレスの森へと入った。
エレン「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。」
ここに来てエレンは遂に緑なす芝生の上に倒れ込んだ―――――あまりにも過酷な旅がエレンを極限まで痛めつけ、心の中に湧き上がる復讐の念も、もはや彼の体を動かしえなかった。
―――――鳥のような歌声が聞こえてくる。
まるで、音に聞く至福の地に来たかのような、どこまでも透き通った歌声だ・・・・・・。
あぁ・・・・・・俺は・・・・・・死んだのか・・・・・・。
-
- 15 : 2015/06/04(木) 19:05:49 :
-
エレンはしばらくその歌声に耳を傾けていた。
心の奥底にしまい込んだ悲しみが取り除かれ、彼を支配していた復讐の念がやわらげられていくのを感じた。
―――――体に力が、入り始める。
エレン「あれ? 俺・・・・・・死んでない?」
エレンは再び顔を上げ、その不思議な歌声のする方を覗いてみた。
-
- 16 : 2015/06/04(木) 19:09:30 :
-
その時の光景を、俺は今でも忘れることが出来ない―――・・・・・・
夕暮れになり、月が昇った草原の上、エスガルドヴィン川のほとりで、彼女は歌を歌っていた。
その髪は宵闇のように黒く、
その瞳は星あかりの夕空のごとく、
その衣は曇りなき蒼穹のように青く、
その美しさは木々の葉に煌めく光、清冽な水のせせらぎ、夜霧の上に輝く星々――――・・・・・・
-
- 17 : 2015/06/04(木) 19:15:24 :
盲いた目に突然光が当たったかのごとく俺はその女性に目を奪われ、魂を奪われたかのように茫然自失した・・・・・・。
「貴方は・・・・・・誰?」
突然話しかけられて、俺はさらに困惑した。
こっちに気が付いた彼女が、俺のところにゆっくりと歩いて来るのに見とれ、自分の名前すら暫時は忘れ果てたのだ。
エレン「お、俺は・・・・・・グリシャの息子・・・・・・・・・・・・エレン、エレンだッ!」
-
- 18 : 2015/06/04(木) 21:05:26 :
「そう、貴方が・・・・・・エレン。」
―――――傷ついて倒れた男を見て、この男が只者ではないことは分かった。
酷く傷つき、全身がオークの血や自らの血で汚れていたから。
名前を聞いて、ハッとした。
この男が、かのモルゴスの軍勢に、たった一人、立ち向かい続ける人間。
私は・・・・・・この男に、心を奪われた。
「私は・・・・・・ミカサ。ドリアスの王、シンゴルの、娘。」
エレン「ミカサ・・・・・・。」
―――――俺の意識はここで途切れた。
-
- 19 : 2015/06/04(木) 21:06:17 :
エレン「う~ん・・・・・・。」
目を覚ますと、いつの間にか俺は草原の上に仰向けに横たえられていた。
―――――いつの間にか体の汚れが取り除かれて、着ているものも新しくなっている
今にも火傷しそうなほど顔を真っ赤にしていると、ミカサが覗き込んできた。
エレン「う、うわぁあぁぁぁッ!!!」
ミカサ「どうしたの? エレン?」
全く人間というのはどうしようもない種族だ。
一糸纏わぬミカサの四肢、二つの丘、そして―――――・・・・・・
エレン「ふ、服・・・・・・着ろよ・・・・・・。」
さっきの恥ずかしさを火傷だとすると、もうすでに燃え尽きて灰になっちまいそうだ・・・・・・。
-
- 20 : 2015/06/04(木) 21:07:05 :
-
それからというもの、俺たちは春から夏にかけて、この森の中を逍遥した。
森の中に包まれていたのは、至福の時間。
様々な生き物達の愛らしさを、俺はミカサに教えられた。
血まみれだった俺の道に、そっと水を注ぎ、飢えた心を癒してくれた。
久しく俺が忘れていた生けるものへの愛情、人を好きになる気持ち。
俺たちは手を取って、今だ味わったことの無かった大きな喜びの中に、身をうずめた。
―――――人間 とエルフ 。
異なる種族同士の、おおよそ報われることの無い情愛。
束の間の時間は、夢のように儚く、だが、その喜びは何よりも大きく、移ろうままに過ぎ去っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
-
- 21 : 2015/06/05(金) 22:17:25 :
シンダール族エルフの国、ドリアス。
その壮麗な地下都市、メネグロスにおいて、国王であるシンゴルは激怒した。
シンゴル「なに!? ミカサがよりによって人間の男に誑かされておるじゃとッ!?」
シンゴル――――すべてのエルフや人間の間で、最も背の高かったといわれているこのエルフは、一人娘であるミカサをこの上なく溺愛していた。
どんなエルフの貴公子も物足りないと考えていたシンゴルは、まして下賤な人間の男など認めるはずもなかったのである。
-
- 22 : 2015/06/05(金) 22:18:00 :
即刻シンゴルはミカサを呼び出し、事の真相を問うた。
シンゴル「どういうことなのじゃ、ミカサ? お前ともあろうものが、人間の男なんぞにその身を許したのかッ!?」
すると、ミカサは実に冷ややかな目線でシンゴルを見た。
ミカサ「私はエレンを好いている。ので、その感情に従っただけ。」
シンゴルは面食らい、言葉に詰まった。
シンゴル「なぜ、なぜ人間なのじゃ・・・・・・お前には、もっとふさわしきものが―――「人間だろうがエルフだろうが関係ない。私は、エレンが好き。それ以外に理由は必要ない。」
強情さにかけてはミカサは父のシンゴルにも引けを取らず、シンゴルはミカサの説得を諦めるほかなかった。
その為シンゴルは別の方法を考えた。
エレンを捕え、これを亡き者にしようと考えたのである。
直ちにネルドレスの森へ軍勢が差し向けられ、エレンは捕えられた。
そして、メネグロスの地下宮殿へ罪人として連れてこられたのである。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
-
- 23 : 2015/06/05(金) 22:28:39 :
-
「そこに座れッ!」
シンゴルの御前に座らされたエレンは、手錠の鎖に鉄の棒を差し込まれ、動けないように拘束された。
ミカサはシンゴルのそばには座らず、その対角線上である広間の入り口付近に立っていた。
ミカサの内心は怒りで煮えくり返っていたので、その殺気に誰も近づけない有様であった。
シンゴルのそばにはメリアンが座っている―――――彼女はエレンが何者であるのかを見抜いたのであるが、何も言わず、ただ沈黙していた。
そして、廷臣たちに交じり、ノルドール族のエルフの一人であり、シンゴルの縁者であるガラドリエルもまた、エレンの瞳から、彼が何を見てきたのか、その苦悩を感じ取った。
-
- 24 : 2015/06/06(土) 19:25:10 :
シンゴルはエレンを軽蔑しきった目で見つめ、次のことを問うた。
シンゴル「有限の命を持つ哀れなる人間よ。なぜお前がここに連れてこられたか、分かっておるのか?」
エレンはことさら反抗的に答えた。
エレン「分かりません。俺は何一つ悪いことはしてないです。」
悪びれないエレンの態度にシンゴルはますます態度を硬化させた。
シンゴル「よくもそのようなことを申したな? わが娘に盗人のように近づく下賤のやからよ。」
すると、エレンはその深緑の瞳に炎を宿した。
エレン「俺が、盗人で下賤だと・・・・・・ふざけるなッ!」
シンゴル「何ッ!?」
-
- 25 : 2015/06/06(土) 19:26:09 :
-
バキッ!
シンゴル「なっ!?」
手錠の鎖を力づくで引きちぎって立ち上がり、エレンは左手にしている指輪を掲げた。
エレン「この指輪がなんだか分かりますか?」
エレンの左手にあるのはグリシャの指輪――――――――エメラルドの目を持つ双生の蛇を象り、二つの頭部が金の花冠の下で出会い、一つがそれを持上げ、もう一つが貪り喰う、繊細な細工の施された指輪だった。
この指輪を見たガラドリエルは、思わず言葉を漏らした。
ガラドリエル「それは・・・・・・私の一族、フィナルフィン王家の指輪。」
エレン「そうです。この指輪は父グリシャが、キースから友情の証に貰った指輪です。」
-
- 26 : 2015/06/06(土) 19:46:59 :
キース―――――――フィナルフィン王家の長男であり、フィナルフィンの五人兄弟の中でも最も力のあるものだった。
そのキースがグリシャに命を救われた際、変わらぬ友情の証として送ったのが、このグリシャの指輪だったのである。
五人兄弟の末っ子であるガラドリエルは、エレンの中に、自分の出自に関する誇りがあるのを認めた。
自分が慕う兄の恩人の息子に、畏敬の念を禁じえなかった。
シンゴルもこれには驚いた。
だが、所詮は下郎・・・・・・たかが人間に過ぎないと思いなおした。
シンゴル「ふふ、お前の父が偉大だろうと、お前自身がそうであるとは限らぬ。ミカサに近づく下郎め。」
-
- 27 : 2015/06/06(土) 19:48:35 :
すると、エレンは予想だにしないことを言いだした。
エレン「俺は・・・・・・ミカサに心を奪われました。俺の悲惨な人生の中で、ミカサだけが、大きな喜びを与えてくれました。だから、俺は、ミカサを俺の妻にしたいんですッ!!!」
並み居る廷臣は肝をつぶした。
こいつ・・・・・・自分の置かれている立場が分かっているのかと、正気を疑った。
そして、恐る恐るシンゴルの顔色を窺った。
-
- 28 : 2015/06/06(土) 20:25:21 :
シンゴルの顔には、これ以上ないくらいの怒りが現れ、眉間に鋭い皺が何本も寄っていた。
シンゴル「貴様・・・・・・ここにミカサがおらなかったら、今すぐここで首を刎ねてやるところだったわ。」
怒りに震える手を押さえ、シンゴルは、エレンをどう処分するかを考え始めた。
――――――――その時、シンゴルの頭の中に、一つの考えが浮かんだ。
シンゴル「・・・・・・それほどに自らに誇りがあり、しかもミカサを娶りたいと願うのであれば、自らその偉大さを証明するが良い。」
-
- 29 : 2015/06/06(土) 20:26:16 :
そして、シンゴルは、ミカサを娶るための条件を言い出した。
シンゴル「お前に課せられた条件は、エルフが長年取り戻したいと切に願い、しかもそれが敵わなかったものじゃ。
その宝玉は、かの大魔王の鉄の王冠に嵌められておる。
わが娘、ミカサを娶りたくば、大宝玉シルマリルの一つを、余の前に持って参れ。」
廷臣たちは、エレンを暗に葬ろうとしていることに気が付いた。
―――――地下大要塞アングバンド。その最下層に座る大魔王モルゴスの鉄の冠から、シルマリルを取ってくることなど、どう考えても不可能だった。
-
- 30 : 2015/06/06(土) 20:29:57 :
だが、エレンはこれに笑って答えた。
エレン「そんな安い宝玉と引き換えでいいのかよ?」
廷臣たちはまたしても度肝を抜かれた。
本当にこの男は、何を言い出すか分からない・・・・・・死に急ぎ野郎だッ!
シンゴル「いいじゃろう・・・・・・さぁ、もう余はお前を苦しめたりはせぬ。行くが良い。」
その言葉を聞いて、エレンはシンゴルに背を向けた。
ミカサ「・・・・・・エレン。」
心配そうに見つめるミカサに、しかし、エレンは一瞥もくれずに王の御前を後にした。
-
- 31 : 2015/06/06(土) 20:30:38 :
すると、ここでメリアンは暗い顔をして、初めて言葉を発した。
メリアン「あぁ、殿は・・・・・・よくその御姦計でもって、ドリアスを暗い運命に結び付けられました。彼がその使命に成功するにしても、失敗するにしてもです。」
大宝玉シルマリル――――――この宝玉には呪いがかけられていた。
その名を欲望をもって所有したいと口にしようものなら、たちまち取り込まれてしまうほどに強力な呪い。
マンドスの呪いである。
-
- 32 : 2015/06/06(土) 20:37:29 :
マンドスの呪い―――――ノルドール族から大宝玉シルマリルが盗まれた時、ノルドール族の長であり、大宝玉の製作者フェアノールはモルゴスに父親を殺され、激しい復讐心に駆られた。
そして、聞くだに恐ろしい誓いを立てた。
フェアノール「たとえイルーヴァタールの御名によろうと、何人もこれを破ること、あるいは取り消すことのできぬ。
これを守らぬようなことがあれば常闇に呑まれるべし。
ヴァラであれ、鬼神であれ、エルフであれ、まだ生まれておらぬ人間であれ、あるいは、偉大なると卑小なるとを問わず、善なると悪なるとを問わず、世の終わりの日まで時が世界にもたらすべきいかなる被造物であれ、かれらからシルマリルの一つを奪う者、手許に置く者、所有する者は誰であれ、この世の果てまで、復讐と憎悪をもって追跡するであろう。」
この誓約に縛られたノルドール族は、至福の地アマンから、モルゴスのいる中つ国へ出撃しようとし、船を出すことを拒んだテレリ族のエルフを虐殺して船を奪った。
恐るべきエルフの同族殺害が、ここに初めて行われ、至福の地は血で穢された。
そのことは、ヴァラールの神々の怒りを買った。
そして、神々の一人である予言者マンドスが姿を現し、ノルドール族へ向けて宣告を下した。
-
- 33 : 2015/06/06(土) 20:38:24 :
-
マンドス「尽きぬ涙を汝らは流すであろう。ヴァラールは、ヴァリノールに汝らの入るのを拒み、汝らを閉め出すであろう。汝らの嘆きの声の谺すら、アマンの山並みを越えて聞こえてくることはないであろう。
フェアノール一族に対しては、ヴァラールの怒りがこれなる西方の地より、最果ての東の地に至るまで向けられるであろう。彼らに従う者にもその怒りは向けられるであろう。
彼らの誓言は彼らを駆り立て、しかも彼らを裏切り、彼らが追跡を誓った宝物そのものを常に彼らの前から奪い去るであろう。
初め良きものも全て悪しき結末に至るであろう。この悪しき結末は、血に繋がる者の裏切りにより、また裏切りへの恐れによりもたらされるであろう。
彼らはとこしえに奪われたる者となるであろう。
汝らは不当にも同族の血を流して、アマンの地を汚した。汝らは血には血を支払い、アマンを過ぎれば、死の影の元に住まうであろう。
エルは汝らがエアでは死なぬように定め給うたが故に、汝らは病魔に襲われることはないであろうが、非業の死を遂げることはあるかも知れぬ。そして非業の死を遂げるであろう。
武器により、拷問により、嘆きによって命を落とすであろう。
そこに汝らの霊魂は久しく留まり、汝らの肉体に切に焦がれるであろうが、汝らが命を奪った者達全員が汝らのために嘆願してくれようとも、慈悲を見出すことは殆ど無いであろう。
中つ国で命を長らえ、マンドスの許に来ぬ者は、あたかも重き荷を負うているが如く、この世に倦み果て、次第に衰え、後に来るより若き種族の前に、悔恨の影の如き者となり果てるであろう。
以上ヴァラールの言である。」
こうして、シンゴルはそれとは知らぬうちにドリアスの滅びを生ぜしめ、マンドスの呪いに取り込まれたのである。
この日を境に王妃メリアンは最早歌わず、憂鬱に過ごす日々が多くなった。
繁栄の極みにあったドリアスに、不吉な黒い影が差し始めた。
-
- 34 : 2015/06/06(土) 20:46:14 :
- こちらも予想以上に長引きましたので、いったん区切ります。
次回は中ボス、サウロンとのお話になる予定です。
- 著者情報
- この作品はシリーズ作品です
- 「進撃の巨人」カテゴリの人気記事
- 「進撃の巨人」カテゴリの最新記事
- 「進撃の巨人」SSの交流広場
- 進撃の巨人 交流広場