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春の泥
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- 1 : 2015/06/07(日) 18:42:33 :
- ※注意※
・若干鬱い箇所アリ。
・百合要素アリ。
・若干ヤンデレ要素アリ。
・シスコン要素多々アリ。
・ダルビッシュ有(アリ)。
最後のは関係ないです。
上記注意事項が苦手な方はブラウザバック推奨です。
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- 2 : 2015/06/07(日) 18:48:36 :
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窓の外には大きな桜がゆらゆらと風にそよいでいる姿が見えた。
そんな桜を見ながら、私は頬杖を付いて気だるそうに担任が生徒の名前を呼ぶ声を聞いていた。
今日は高校の入学式。このクラスに限らず、入学者の大半は今日という日を心待ちにしていた人ばかりなのだろうが、私はそうではなかった。
「立山佳菜ー」
「はーい」
私の前の人が呼ばれた。次は私の番だろうが、どうせ読み間違えられるのだろう。
「えー……月谷真冬 ー」
ほらね、言った通り。私の名字を見た人はそこに振り仮名がなければ誰だってこう読むのだ。
もう間違えられるのは慣れっこだし、私は目立つのが嫌いだからここは大人しく返事を───────
「先生!それ、『つきたに』じゃなくて『つくや』です!」
─────返事をするつもりだったが、それを良しとしない奴も居るわけで。
「え?あ、あぁ、そうなのか。すまんな、月谷 ……って、名前で呼んだ方が良いよな。悪いな、真冬」
「………いえ」
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- 3 : 2015/06/07(日) 18:50:32 :
- 何で担任が下の名前で呼んだ方が良いよなと言ったかはすぐに分かる。
「じゃ、次。もう間違えんぞ、月谷莉夏 ー」
「はいっ!」
別に彼女は偶然同性だった……っていう訳じゃない。そもそもこんな名字に同性とか殆どいないだろうし。
まあそれでも偶然同性だった方が良かったと思ったことは数え切れない程ある。
小さい頃は普通に姉さん を慕ってはいたが、次第に彼女の存在が疎ましくなっていった。
その理由は……まあ、その内分かるだろう。
「あの二人、双子なんだ」
「あんまり似てないね……どっちが上なのかな」
「あの前の奴は暗そうだな、地味だし」
あぁ、嫌だ嫌だ。双子ってだけでこうやって騒がれるのが私は死ぬ程嫌いなんだ。
別に珍しい事でもないだろう。それこそ日本中探せば双子なんてアホみたいにいる。
私はますます怠くなって、今にもうつ伏せになりたい気分だった。
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- 4 : 2015/06/07(日) 18:51:29 :
「ねえ、2人って双子なんでしょ?」
入学式当日の長ったらしいHRが終わって、数人の女の子が私…達に話しかけてきた。
私としては姉さんとひと括りにされるのは嫌いなので、彼女らに対する評価も地に落ちる。まあ元から仲良くしたいなんても思わないけど。
「うん。そうだよ、私が姉で冬ちゃんが妹」
「…………」
相変わらず余計な事をする姉だ。聞かれてないことまで教えなくてもいいのに。
「へぇ、そうなんだ。双子でもあんまり似てないのね」
その時の彼女の目は、明らかに私を蔑む目をしていた。後ろにいた連れの女子も同じような目をしている。
……くだらない。私はカバンを持って立ち上がった。
「……冬ちゃん?」
姉さんが心配するように聞いてきた。
「……私、先に帰るから。それと、もう『冬ちゃん』なんて呼ばないで」
そう言い残して私は教室を出た。クラスの女の子たちの私に対する評価はまあ最悪、よくても嫌な奴っぽいくらいになってるだろう。
それで構わない。私は目立つのが嫌いなんだから。
─────何よりも、姉さんと同じ場所に私は居たくない 。
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- 5 : 2015/06/07(日) 18:52:09 :
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入学から1ヶ月。
桜は散って、若葉が眩しい季節になった。
1ヶ月もすれば他人だらけの教室はある程度のグループに分かれるもので、ここもそのセオリー通りになっていた。
姉さんは明るくて活発で面白くて可愛いから大抵、女子の中でも真っ当な『青春』を謳歌するグループになる。
対して私は────────
「真冬ちゃん?どうしたの?」
……どうも、『友達』というものが出来ていた。いや、私は認めてないけど。
おかしいな……入学式の日に私の評価は最悪になっていた筈なのに……。
普通ならクラスの皆にハブられたり、イジメられたりするものだったが何故かそうはならなかった。
いや確かにそうならないに越した事はない。だがまさか私に寄ってくる人がいるとは思ってなかった。
「……アンタ、何が楽しくて私と昼ご飯なんて食べてるの?」
私が言えた事じゃないが、目の前の地味な女子……『仲原詩乃』にそう尋ねた。
「何が……って、理由が無いとダメかな……?」
私は内心で溜息をついた。
「……別に。気になったから聞いてみただけ」
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- 6 : 2015/06/07(日) 18:52:27 :
- 「ふうん。真冬ちゃんって変わった所もあるんだね」
そんな良く分からない感想を聞き流しつつ、私は彼女を見ていた。
地味な見た目、メガネ、少しボサっとした髪……なるほど、『そっち』か。
どっちだよ、という話だがつまり『無視されたりしていた子』と言う事。まあ、私と同じタイプだと言うわけだ。
恐らく他の連中から無視されている私を見て、彼女は勇気を出して私に話しかけてきたのだろう。
私は1人が好きなので、隣に誰かが居るとどうもむず痒い。
「……私、1人が好きなんだけど」
暗に何処かへ行け、と伝えてみる。
「え!?本当に!?実は私もそうなんだ〜!」
……駄目だ。この子はまるで私に不信感とかマイナスの感情を抱いていない。
まあ、もう既に何度も試みていたから半ば諦めてはいたけれど。
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- 7 : 2015/06/07(日) 18:53:03 :
- 目の前でニコニコと笑顔を浮かべる彼女に、私はただ苦笑いを浮かべる他無かった。
「あの、冬ちゃん?」
……何なんだ一体。私はそう言った意味を込めて、後ろを振り返った。
そこには声の主である姉さんと……取り巻きの女子がいた。
「………何」
「あ、いや、今日午後から雨だったから……傘持って来たんだけど。ほら、冬ちゃん忘れて──────」
私は我慢ならずに立ち上がった。
「………私に構わないで。それと、冬ちゃんは止めて。もう2回目よ。頭が良くて『いい子』の姉さんなら分かるでしょ?」
姉さんの言葉は私に遮られ、そして続く事は無かった。そして姉さんが小さな声で謝ったのを聞いて私は教室を出ようとした。
「ちょっと~真冬ちゃん?」
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- 8 : 2015/06/07(日) 18:53:53 :
- 声の主は取り巻きの女子だった。
良く見るとそれは入学式の日に私達に話しかけてきた女子だった。
「何で莉夏に冷たくするのか知らないけどさぁ、今のは流石に酷いんじゃない?」
いつの間にか近づいていた彼女は私を威圧するようにそう言ってきた。
「あっ、真希ちゃん、良いんだよ。私が悪かったんだから」
姉さんが慌ててフォローに入った。
「莉夏、ゴメンね。でも言わせて。……分かる?アンタがイジメられてないのも全部莉夏のお陰なんだよ?そんなのも知らずにさ、自分は言いたいこと言ってさ。何様のつもり?」
『アンタがイジメられてないのも全部莉夏のお陰なんだよ』
その言葉が私の中で反響する。別にそれに感動したとかそういうんじゃない。
……やめてよ。何で私を助けようとするのよ。姉さんこそ何様のつもりよ。もう放っておいてよ。何でよ。何なのよ。
ならもう、私以外の人と話さないでよ。
私だけを見てよ。中途半端に構わないでよ。
私は震える声を抑えるように言葉を紡いだ。
「……それこそ………」
「え?聞こえないんだけど」
「………それこそ、余計なお世話だって言ってるのよっ!」
「………っ」
彼女は気圧されたように黙った。
私はそのままカバンを持って、教室を出た。
……姉さんの顔は見えなかった。
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- 9 : 2015/06/07(日) 18:54:37 :
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- 10 : 2015/06/07(日) 18:56:00 :
真冬の居なくなった教室は静寂に包まれていた。
しばらく誰も口を開かなかった。
だが、程なくして誰かが言った。
「なっ、何なのよアイツ。気分わっるー……」
それが口火を切ったのか、教室は真冬を責める悪口と莉夏を慰める言葉で溢れ返った。
莉夏は気丈に大丈夫だよ、と言っていた。
「……傘、2本持って帰らないとね」
彼女は少し寂しそうにそう言った。
程なくして教室の外は、大雨になっていた。
まるで誰かが大声で泣き喚いてるかのように雨は勢いを強めていった。
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- 11 : 2015/06/07(日) 18:56:30 :
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- 12 : 2015/06/07(日) 18:57:39 :
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ここで、少し昔の話をしようと思う。
まだ私が姉さんと仲良くしていた頃の話だ。
姉さんは凄く頭が良かった。特に算数は得意で、計算が苦手だった私はいつも姉さんに教えてもらっていた。
それに姉さんは凄く足が速かった。かけっこではいつも1番、どん臭い私はそれが羨ましくて、同時に妬ましくて。でもそんな感情より、姉さんは凄いと素直に思える気持ちが大きかった。
当時は私はいつも姉さんの袖に掴まって一緒にいた。そうする事で私のダメな部分がよりダメに映るのなんて気にしてなかったし、そもそも思いもしなかった。
何より、姉さんが好きだった。何でも出来て可愛くて誰とでも仲良く出来る姉さんが何よりも美しく、格好良く見えていた。
それは男が女に、女が男に抱く感情とまるで違わなかった。女同士で、ましてや姉妹として抱いて良い感情ではなかった。
私がその異常に気付いたのは小学5年生の頃だった。少しづつ男女という比較意識が生まれ始める頃に私は気付いた。自分がおかしいのだと。
「りかちゃん!手、つなごー!」
「ふゆちゃん、知ってる?手っていうのはね、好きなひと同士でつなぐんだって。わたし達は女の子だし、家族だから手はつなげないんだよ?」
「……そ、そっか……。う、うん、そうだね!私だってしってたもん!」
姉さんの言っていたことはあれくらいの歳の子ならよくある勘違いである。
だけど、その時の姉さんの言葉が、私の胸に『おかしいんだ』という自覚の刃を向ける事になったのは言うまでもない。
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- 13 : 2015/06/08(月) 00:04:26 :
- それからだった。私が姉さんを避けるようになっていったのは。
それは今まで通りに居ると、私がおかしいのがバレるとか周りに気付かれないようにできるか心配だとかもあったけど、それより根本的な事だった。
単純な話だ。姉さんと居ると、私はより駄目に見えると気付いただけだった。
月並みな比較表現だが、姉さんを太陽だと表そう。
すると私は必然的に月と表されるのだが、月は太陽から光を受けて輝くものだ。
しかし、私は太陽から光を受けてもその姿は美しくいれなかった。より、その醜さを際立たせるだけだった。
だから私は私を隠した。嘘という雲で私は私を見えなくなるように固めた。
いつしかその月は美しいだけの月ではなく、全てを隠した見えない朧月になっていた。
そんな私は薄暗い部屋で、濡れた体を毛布で包みながらケータイを弄っていた。
『3/18:無題: 今日も無視されちゃった……。私、何かしちゃったのかな。でもあの子、少しシャイだからなあ。あんまり人と話したがらないし、結局何で無視されるのかは自分で確かめないといけないなぁ……うーん、どうやろう。悩みどころ』
カチカチと機械的な音だけが部屋に響いた。
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- 14 : 2015/06/08(月) 00:05:08 :
姉さんは私が一方的に突き放しはじめた辺りからブログに私の事を書き始めた。
私は偶然見つけたそのブログを見て、私の事が書かれているのを見た時、凄く高揚した。
まるで私が姉さんの心の隙間に入っていってるようで、姉さんの心を独り占めしているようで嬉しかった。
だから、私はそれまで以上に姉さんに冷たく当たるようになっていった。
でも、姉さんのブログに出るのは私だけじゃない。あの姉さんの取り巻きの女子も度々出るようになった。
遊びに行った時の写真や家で勉強している時の写真、私の知らない姉さんの姿がそこにあった。
その度に私は私だけを見て、と思い、そして自己嫌悪に陥った。
薄汚い感情に塗れた私はますます姉さんに合わせる顔がなくなっていった。
でも、姉さんはどうあっても私を気にかけようとしてくれた。
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- 15 : 2015/06/08(月) 00:05:35 :
何で姉さんが私を庇ってくれるのか、そんな事は分かりきっていた。
それは姉さんが良い人だから。優しくて何処までも出来た人間だから。
あるいは私が大切な家族だからかも知れない。あの姉さんなら血を分けた大切な家族が周りから疎まれるのは我慢ならないだろう。
でも、それだけ。
私みたいに姉さんは『おかしく』ない。
これは私の一方的な感情の押し付け。
じゃあ、私はこの気持ちをどうすればいい?
捨てる?何処に。諦める?如何に。
そう考えた私が取った行動が、姉さんを嫌う事だった。
嫌いになる動機は嫉妬。出来た姉さんを妬むことなんて非常に容易いことだった。
同時に私は姉さんを突き放した。以前までは私が一方的に離れていたが、より姉さんと遠くなるように。
でも、何も変わらなかった。
私は変わらず姉さんを想っているし、姉さんは私に構ってくれる。
もう意地だった。くだらないプライドだった。
半ば自棄に姉さんを突き放したが、遂に今日、取り返しの付かない所まで行った。
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- 16 : 2015/06/08(月) 00:06:03 :
私はケータイから目を離して、天井を見上げた。
もう、何も気にすることはない。姉さんは間違いなく私に愛想を尽かしただろうし、クラスも私の悪口で溢れかえってるだろう。
「……学校、もう行きたくないな」
私の口から零れたそれを聞いて、我ながら驚いた。
今までは無視されてもハブられても学校に行きたくないとまでは思わなかったのに。
何でだろうか、と考えると答えはすぐに分かった。
……もう姉さんも私に構ってくれないからだ。
そして自嘲気味に笑った。
あれだけ突き放しておいて結局、それが無くなると学校に行く意味すら失ってしまう。
結局、私にとって姉さんは文字通りの意味で『掛け替えのない存在』だった、という訳だ。
「……バッカみたい」
その時、ピリリリとケータイが鳴った。
「……誰からよ……知らないアドレスだし………」
『無題:急に雨降り出したけど大丈夫?寒くない?
あの後、先生には具合が悪いから早退したって言ったよ。
いきなりメールしてごめんね。あの詩乃ちゃんから教えてもらったよ。アドレス変えてたんだね。前のアドレスに送っても届かないから焦っちゃったよ(笑)』
もう誰から届いたかなんて明白だった。
だけど私はそれを心のどこかで認めまいと確信付けずに読み進めていった。
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- 17 : 2015/06/08(月) 00:07:40 :
『最近、真冬が元気にないのが姉さんはとても心配です。何か悩みとかがあるのかな?
もし、姉さんが真冬の気に障るような事をしていたらごめんなさい。もしそうなのであれば今日みたいに遠慮せずに言ってください。』
……そうだよ、姉さん 。姉さんが全部悪いんだよ 。姉さんが庇うから私がまた浮いちゃうんだよ 。
『でも、姉さんは真冬がイジメられたり、無視されるのを見るのは凄く辛いです。だから、真冬のお願いでも今日のは聞けません。ごめんなさい。』
「何で……姉さんが謝るの……」
止めてよ、謝らないでよ。
悪い事をしたのは私の方なのに……。
やめてよ。
『長くなっちゃったけど最後に。姉さんは真冬が大好きです。真冬は姉さんの事が嫌いかもしれないけど、もし困ったことがあったらいつでも姉さんに言ってください。絶対に姉さんは真冬の味方だからね。
あと、ご飯は台所に置いときます。後であっためて食べてね。 莉夏』
「姉さん……」
私は部屋を出て、台所に向かった。
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- 18 : 2015/06/08(月) 00:08:12 :
台所に向かうと、姉さんが驚いた顔で私を見ていた。
作りたてのカレーが湯気を立てて、良い匂いを漂わせている。
「姉さん……あの……」
久しぶりに姉さんと話した気がする。
そのせいか何を言っていいか分からなくて、口ごもってしまう。
姉さんは私が話しかけたのを聞いて、ますます驚いている。
私は気の利いた言葉が言えそうになくて、とりあえず思いつくままに口を動かした。
「……一緒に、ご飯食べていいかな……?」
我ながらアホみたいな事を言ってしまった。顔が赤くなっていくのが分かる。
姉さんは驚いたようにしていたが、直ぐに私の分のカレーをよそおいながら言った。
「もちろん。さ、冷めないうちに召し上がれ」
私は姉さんの向かい側に座って、作りたてのカレーを口に運んだ。
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- 19 : 2015/06/08(月) 00:08:30 :
しばらく無言の食事が続いた。
改めて話そうと思うと何も話せなくて、自分の度胸の無さが恨めしく思えた。
そんな風に思っていると、ふと姉さんが口を動かした。
「冬ちゃ……真冬はさ、何か悩みとかあるの?」
姉さんは表情を崩さずに、何でもないふうにそう私に尋ねてきた。
私は、口下手で人前で話すのが苦手で、今だって姉さんと何を話していいか分からない。
でも1つだけ決めてたことがあって、それは私の『悩み』を姉さんに伝えること。
……大丈夫、覚悟は出来た。
きっと、これが最後のチャンスだから。
しっかり、伝えなきゃ。
「……あのね、姉さん。私、好きな人がいるんだ」
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- 20 : 2015/06/08(月) 00:09:01 :
姉さんは一瞬、呆気に取られたような顔をした。
でも直ぐに笑顔になって、手に持っていたスプーンを置いた。
「へぇ!真冬もそう言う事に興味あったんだね。姉さんに話してみてよ」
姉さんが努めて明るく話そうとしてくれてるのが伝わる。
違うんだよ姉さん。そんな明るい話じゃないんだ。
「………私の好きな人はね。誰にでも優しくて、明るくて、皆に慕われてるの。それに頭も良くて、運動も出来る。しかも凄い美形なの。私とはまるで対照的で、例えるなら太陽みたいな人なの」
姉さんは私の話をうんうんと楽しそうに相槌を打ちながら聞いてくれた。
私はそれを見る度に、私の話を楽しんでくれてるという嬉しさとそんな楽しい話じゃないんだという申し訳なさに襲われた。
「あ、それってもしかして隣のクラスの大浦くんじゃない?今、言ってた特徴にピッタリ───────」
「違うよ!」
姉さんがビクッと体をこわばらせた。
「あっ、ご、ごめん……」
私は思わず謝ってしまった。姉さんは気にしてないよと言ったふうに首を振って、こう言った。
「ううん、大丈夫。私こそごめんね。勝手に決めつけちゃって」
まただ。また姉さんは私なんかに謝る。
良いんだよ、姉さん。私が全部悪いんだよ。
だから姉さん、謝らないで。
謝らなくちゃいけないのは私なんだよ。
だから……えっと……謝らなくちゃ……私が……。
あれ……?何で……私、泣いてるんだろう……?
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- 21 : 2015/06/08(月) 00:09:29 :
姉さんが急に泣き出した私を見て、慌てて近付いてきた。
「ま、真冬!?どうしたの?また姉さんが何かした?……ごめんね、真冬。私がダメな姉だから……」
「ちっ、ちが……ちがうよっ……!」
私は止まらない涙を拭いながら、震えた声で否定した。
そして、私は溜めていた涙を吐き出すように、私の心に渦巻いていた想いも吐き出した。
「姉さんはっ……悪くないよっ……!全部、ぜんぶ、私が悪いの……っ」
うまく言葉にならなかった。今の私は泣きじゃくる小さな子供のように拙い言葉を羅列するだけだった。
姉さんはそんな私を見て、静かに頭を撫でた。
「……真冬は、泣き虫ね………」
私は泣いた。何時ぶりか分からないくらいに、今まで溜め込んでいた物を全部出すかのように泣いた。
昔はすぐ泣いていた私は、いつも姉さんに慰められていたことを思い出した。
何にも成長してないんだなと、実感した。
食べかけのカレーに落ちた数滴の涙は、いつの間にか溶けてなくなっていた。
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- 22 : 2015/06/08(月) 00:09:56 :
しばらく泣いて、漸く落ち着いた頃にはカレーはもう冷め始めていた。
姉さんは泣きやんだ私を見て、急いで食べなきゃね、と言って席に戻り食事を再開した。
私もそれに倣って急いで冷めたカレーを食べた。冷めていても姉さんのカレーは何よりも美味しかった。
そして、食べ終わって一段落ついた辺りで私はさっきの続きを切り出した。
「……さっき、好きな人がいるって言ったでしょ」
「うん、聞いた」
姉さんは静かにそう言った。
「私は不器用で……好きな人に好きって言えなくて、それでも好きで……でも何でも出来るその人と一緒にいると私のダメな部分が浮き彫りになって、それがその人と対等で居られないって言われてるみたいですごく嫌で……」
我ながら支離滅裂な言葉だった。
でも姉さんは真剣な顔つきで、言葉の一つ一つに相槌を打ってくれた。
「でも、私はその人に見ていてもらいたくて……だから私はその人の気を引こうとわざと冷たく当たって、酷いこともいっぱいして……。もう好きって言っても遅いし、多分私は嫌われてるから……どうしたらいいんだろうって悩んで、自棄になってますます冷たくしちゃって……取り返しのつかない事まで言っちゃった。……私ってバカだよね。本当に、本当にバカみたい……」
そこまで言うと私の目にまた涙が溜まり始めた。
でもそんな私を見て姉さんが静かに抱き締めてくれた。
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- 23 : 2015/06/08(月) 00:10:21 :
姉さんは私を抱き締めながら言った。
「確かに真冬はバカね。だから姉さんがその悩みを一発で解決する方法を教えてあげるよ」
「……一発で?」
私はその言葉に惹かれるように姉さんの顔を見上げた。
その顔は太陽のような笑顔だった。
「そう、一発で。方法は簡単、その人にちゃんと面と向かって『ごめんね』って謝ること。謝ればきっとまだやり直せるよ」
姉さんはそう言いながらガッツポーズをして、私を励ましてくれた。
……ありがとう、姉さん。
私、頑張るよ。
「……………ね」
「ん?真冬、なんて言った?」
「……ごめんね」
「え────────」
言った。私は言えた。
それは凄く遠回りな言い方かも知れないけど、私は好きな人に好きだよって言えたんだ。
だから、今から言うことは私のケジメ。
遠回りで伝えても、踏ん切りはまだつかないから。
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- 24 : 2015/06/08(月) 00:10:54 :
「ありがとう、姉さん。────大好きだよ」
姉さんは口をぽかんと開けて、呆然としている。
それも無理は無いか。何せ実の妹から告白されちゃってるんだから。
思わず私が苦笑すると、姉さんはハッとしたように意識を取り戻した。
「えっ、あ、あー、わた、私も真冬のことは好きだよ?」
こんなに焦っている姉さんも珍しい。
私は思わず笑ってしまった。そして笑いながら言った。
「違うよ姉さん。姉さんの好きと私の好きは全然違う。姉さんの好きは家族として……でしょ?」
姉さんはその顔に再び驚きを滲ませながら私の言葉を聞いていた。
「私のは……違う。手を繋ぎたいとかキスしたいとか、そういう好きなんだ。……分かる?私は本気で姉さんが好きなんだ」
長い沈黙だった。
私はもう言いたい事も言えたし、満足だった。
多分姉さんには引かれるだろうけど、それでも良かった。
そして姉さんがゆっくりと口を開いた。
「………そっか。真冬は……そうだったんだね。ごめんね、気付いてあげられなくて」
また姉さんは私に謝った。
そして何かを覚悟したかのように姉さんは私の方を向いて、しっかりとした顔付きで言った。
「真冬。………ごめんなさい」
姉さんは深々とお辞儀をしながらそう言った。
誰かを振る度にそんなことしてちゃ駄目だよ姉さん。
それはもう、これっきりにしないとね。
───────その日。私は、初めて失恋を経験した。
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- 25 : 2015/06/08(月) 00:11:30 :
数日後。学校にて。
「真冬ちゃんさあ、最近調子良いね」
隣にいた詩乃がそんなことを言った。
まあ実際、そうだろうなと自分でも思った。
今まで自分を縛っていた鎖から解放されたんだから。
「ま、そう見えるならそうなんじゃない?」
私は弁当を食べながら適当に答えた。
詩乃が嬉しそうに笑っていたのはどうしてか分からないけど、私も悪い気はしなかった。
私は振られたその日、姉さんとベランダで空を見上げた。
その日は雲が多くて、星も月もよく見えなかったけど。
雲に隠れた月を見て、私は呟いた。
「朧月だねー……」
姉さんはふと私を見て、その後笑った。
なんで笑ったのか聞くと、私が勘違いをしているとの事だった。
「真冬は知らなかったかもしれないけど、朧月っていうのは雲間から見え隠れする月の事だよ?」
衝撃の事実だった。今の今まで雲に隠れた月の事だとばかり思っていたのだから。
でもまあ……朧月は雲間から見え隠れする月の事か……。
「……やっぱ、朧月のままでいいかな」
「……?何の事?」
姉さんが不思議そうに首を傾げながら聞いてきた。
「秘密だよ。……莉夏姉さん」
今の笑顔は、ちゃんと雲間から見える月らしく光っていたかな?
fin.
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- 26 : 2015/06/08(月) 00:18:43 :
- あとがき
過去にこれ程まで無理矢理で適当な終わらせ方のSSがあったか、いや無い(確信)。
どうもべるです。初めてssで(笑)とか使いました。
私は100%男の子ですから、女の子の気持ちは想像で書く他ありません。
なのに女の子以外出てこないSSを書いたのは間違いだと深く反省しています。オンナノコダイスキー!
少し中身の話をすると、こう言ったネタは前々から考えてたんですが機会も無かったので書いてませんでした。
でもまあ何とか書きました。疲れた。
まあ恋愛の形は人それぞれであり、誰かが横槍を入れる真似は好ましくないのです。
例えそれが同性愛でもその原型は普通の恋愛と相違ないのです。
ただ好きになったのが偶然姉であっただけなのです。
もしそういった方がこれを見ていましたら気にしないでください。あなたは可笑しくないです。べるはあなたの味方です。何もしませんけどね。
長くなったのでそろそろ終わります。
余談ですが冷めたカレーも私は好きです。
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- 27 : 2015/06/09(火) 19:23:46 :
- 大浦君が出るじゃないか((すみません嘘です
感想から言うととても素晴らしく読みやすいssでした
一度読んで見たところどんどん先が読みたくなるような書き方ですね、尊敬します
乙です
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- 28 : 2015/06/09(火) 20:09:29 :
- >>27
ありがとうございます。
途中から会話が少なくなって読みにくくなったかと心配していたんですが良かったです。
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- 29 : 2015/06/13(土) 21:27:54 :
- 面白い
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- 30 : 2016/04/06(水) 03:21:19 :
- 文章の参考にでもするつもりで読もうとしたら記憶してた以上に面白いから普通に読んでしまった時間なくなった起訴
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