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宇宙人な彼、屋上にて
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- 1 : 2015/04/15(水) 01:43:04 :
- またまた気まぐれで書いてみました。
今回も雰囲気作品。登場人物以上に天体に関する知識はありません。
なおタイトル、本文共に宇宙人とかいてあるものは全て宇宙人 と読みます。紛らわしくてごめんなさい。
色々書いてありますが実態はただのバカップルです。リア充爆発しろ!
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- 2 : 2015/04/15(水) 01:44:19 :
付き合って早数ヶ月となる私の彼氏には、一つの困った趣味がある。
それは夜中に学校の屋上に忍び込んで空を眺めるという、ロマンチックだけど校則違反な行為。
そう、天体観測だ。
『宇宙人な彼、屋上にて』
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- 3 : 2015/04/15(水) 01:47:20 :
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今夜は晴れていて風もなくて、空を眺めるには良い日だろう。そう意気込んで私を連れ出した彼は今、その私を放ったらかして望遠鏡の前で跳ね回っている。
「ごめん千尋、それとってくれる?」
「はいはい。どうです? 何か特別なものは見えましたかー?」
ゴソゴソと何かをしていた彼はふとこちらを振り返り、ムスッとしている私に向かってものを頼んできた。
とてもムカついたので嫌味で答えてやると、彼――慎也はごめんごめんと頭を掻いて謝る。その仕草はどこかオッサンっぽい。やめてくれ。
「でもほら、千尋も覗けば楽しいと思うよ? 今日は晴天だから」
晴天と言われても昼間でなければ実感がわかない。そう答えようとして、しかし空を見上げたらたくさんの星が輝いているのが見えてやめる。
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- 4 : 2015/04/15(水) 01:51:01 :
「……慎也って昔からこうだったっけ」
頼まれた物を投げてから嫌味の代わりにそう質問すると、慎也は望遠鏡のツマミを弄りながら答える。
「全然。というか今でも星に興味なんてないよ」
「嘘だぁ? こんなに何回も来てるんだからそれなりに詳しいでしょ」
「あれがデネブ、アルタイル、んでそれがベガ」
と言って彼が指さしたのはどう見ても夏の大三角形ではなくオリオン座。というか、
「いや、今冬だし?」
バカにしてるんじゃないだろうか、と怪しんでみると、慎也は何も気にしていないように言う。
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- 5 : 2015/04/15(水) 01:51:38 :
「だから俺何も知らないんだよ。ギリギリこいつの使い方は知ってるけど。まあ、強いて言えば星というか宇宙に興味があるんだよ、俺」
天文部は私たちが入学する前の年に廃部になっていて、慎也の使っている望遠鏡はその頃のものらしい。もちろん先生には内緒で持ち出している。
星が好きなら部を立て直せばいいのにと思っていたけれど、なるほど別に星について知りたいというわけじゃないってことか。納得はしないけど。
「宇宙っていったら星だと思うけど」
「いや、宇宙っていっても色々あるんだよ。知らないけど」
「知らないのかよ」
そっち系を真剣に勉強している人に怒鳴られそうな適当さだ。
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- 6 : 2015/04/15(水) 01:52:18 :
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「んー、宇宙って男のロマンだからなー。やがて辿り着く場所というか帰る場所というか」
「ホームシックのエイリアンかよ」
「いやー、エイリアンというか宇宙に恋い焦がれる宇宙人 って感じ……あー、なんかごめん」
私自身が考える最高レベルの冷たい視線を送ってやると、慎也は困ったような顔で謝ってきた。
「でも憧れるんだよなー。誰も知らない広大な世界ってやつに。まさしく未知との遭遇だよ」
「宇宙ねー……私は興味ないけどな。地球のことすらわからないし」
何となくこの間の地学のテストのことを思い出す。地球のことすら習っても意味わからないのに宇宙になんて目を向ける余裕もない。
まあ、それでもこうして見上げる夜空はロマンチックだから、その意味では宇宙の神秘も魅力的だけど。
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- 7 : 2015/04/15(水) 01:54:48 :
「ほら千尋、これで見れる。今日は本当にすごい眺めだよ」
望遠鏡の準備を終えた慎也が楽しそうに手招きする。渋々私は望遠鏡に近付き、言われた通りに星を見上げた。
「おおー……綺麗」
「だろ?」
小さな視界に映った光景は身近なもので言えば万華鏡。キラキラと宝石のような星屑が瞬いていて綺麗だった。
「星の名前なんてわからなくても十分だろ?」
「んー、まあそれはわかる」
赤い星、茶色い星、青い星。私はその輝きに夢中になった。星に興味なんて湧かないけれど、綺麗なものは単純に好きだったから。
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- 8 : 2015/04/15(水) 01:56:30 :
「俺はもう宇宙人だ。こいつらにすっかり虜になったんだよ。いつか地球も見てみたい」
ふと望遠鏡から目を離せば、地面に大の字になって空を見上げる慎也がいる。その目は星空を映して優しく光っていた。
「……宇宙旅行とかいつか出来るようになるらしいね」
「そうしたら一緒に行こう」
「でも地球に帰れなくなったら怖くない? ライカみたいに」
「ライカか……」
宇宙へ旅をした犬の名を出す。地球へ帰れない設計のロケットに乗せられたその犬の話は有名だ。まあ、慎也はバカだから知らないかもしれないけど。
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- 9 : 2015/04/15(水) 01:57:31 :
「大丈夫さ。俺たちはきっとベルカとストレルカの方だから」
「なんだ、知ってるんだこの話。バカなのに」
「ロマンだからな。初めて宇宙に旅立った犬なんてかっこいいだろう?」
「ライカは死んじゃったのに?」
びっくりして訊く。すると慎也はこちらを見て笑った。
「俺なら死んでも行ってみたいな。誰も飛び出したことのない場所に行くなんてことそうそう出来ることじゃない」
「私なら無理かな。怖くて仕方ない」
知らない場所にひとりぼっちにされて、その上帰れないなんてとてもロマンチックとは思えない。
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- 10 : 2015/04/15(水) 01:58:21 :
「帰れないのは嫌だけど。結果的にそうなってしまうなら諦めがつくかなって。だから宇宙飛行士とか一時期は憧れたよ」
「目指してみなかったの? まあ、もう高校生だし無理だろうけど」
そういう夢を叶えるのはとても大変だ。間違ってもこんな田舎の高校生が今から目指せるものではない。
「んー、千尋がいたからね」
「私?」
また望遠鏡で星を見ていたのに突然名前を出され、驚いて振り向いた。
「言っただろう? 最近の趣味だって。その時には千尋がいたから夢にはならなかったんだ」
穏やかに微笑む慎也はこう続いた。――千尋の方が結局は大事だから、と。
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- 11 : 2015/04/15(水) 02:00:38 :
「バカ。そんなこと言って私が喜ぶと思った?」
「バレたか。んー、でも今は千尋がいればいいかな」
意外と手がかかるからね、と笑う。私の顔が赤いのは気付いてないらしい。よかった。こういうところは意地悪だから。
「子ども扱いしないでよ……」
「ごめんごめん、そういうつもりはないんだ。ただ千尋といるとなんだか甘やかしたくなる」
そう言いつつ、いつも何かと頼ってくる人は誰だっただろう。
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- 12 : 2015/04/15(水) 02:01:54 :
「ああ、ほら千尋。すごい星があるよ」
その場で拗ねていると、そんな私を無視して望遠鏡を覗き出した慎也が手招きする。
「ほら、見てみなよこの星。真っ赤だ」
「なんだベテルギウスじゃん」
「な、なんで千尋そんなに星の名前を……」
「オリオン座の有名な星だよ。それにこの星は――」
この星、確か爆発してなくなるんだったっけか。 そんなことをこの間テレビで知った気がする。
「超新星爆発とかいうんだっけな。そんなんでなくなるみたいだよ。昼間にもはっきり見えるくらい明るくなるって」
「爆発? じゃあオリオン座はオリオン座じゃなくなるんだな。でもそんな爆発があっても地球は大丈夫なのかな」
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- 13 : 2015/04/15(水) 02:02:48 :
星なんてそれこそ気が遠くなるくらい距離が離れてるし、ここからあんな大きさにしか見えない星が爆発したって何も起こらないと私は思うけど。
「とりあえず地球がなくなるとは聞いてないよ」
「そっか……なら安心だな」
「でもいつか地球とか太陽が消えてなくなる時が来るんだよね。とっくに私たち死んでるけど」
その時にもし子孫が生きていたら、ものすごい騒ぎになるんだろうな。
あ、でもその頃には地球にはいないかもしれないのか。
「きっと人類は宇宙船に乗って新しい太陽系を探すんだろうな。地球に似た星を探してさ」
「漫画とかアニメの世界だね、それだと」
「でも宇宙開発って多分そういう目的もあるんだろう?」
そういう状況になったら地球に残って運命を共にする派とか出てきて面倒なことになりそうだ。
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- 14 : 2015/04/15(水) 02:03:33 :
「途中でイカみたいな怪物が襲ってきてホラー映画みたいになったら私なら嫌だなぁ」
「まあそういうことも頭にいれて脱出するんだろうな。俺なら応戦する。エイリアンとやり合うのもかっこいいし」
「慎也はそういう時すぐ死にそう」
ホラー映画とかで「なんだお前ら怖がりだな、俺が様子を見てくるよ」とか言って失踪するタイプだ。
「千尋は中盤まで生き残るのに慎重すぎて逃げ遅れるタイプだな」
「……二人とも主人公とヒロインにはなれないじゃん」
「まあ、俺らだしお察しだよな」
二人して笑う。そうならない為に少なくとも私たちが死ぬまでは地球には平穏でいてもらいたいものだ。SFに付き物の正体不明な恐怖感は苦手だし。
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- 15 : 2015/04/15(水) 02:04:30 :
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「宇宙旅行程度なら行ってもいいけどそれ以上は嫌だな」
「千尋は未知との遭遇には憧れないか、残念」
「爆発するかもしれない星とか地球外生命体より地球の中の方が大事なこと多いし」
「たとえば俺とか?」
そう、と言いかけて赤面する。ひどい、意地が悪い。
「アホっ」
自分のカバンを投げつけてやる。見事顔に直撃。ついでに距離もとる。
「ってぇ……ごめん」
「自惚れんなっ――バカ」
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- 16 : 2015/04/15(水) 02:06:34 :
付き合って半年になる。確かにそういう惚気とかもその間結構やってたわけで……今になって考えると恥ずかしいというか、ほんとバカ。
「べ、別に慎也のことだけ大事じゃないし」
「大事にしていただけるだけでも俺はもう嬉しいのですが」
「そりゃ好きで付き合ってるんだし――ああもうっ! 顔に缶コーヒー投げるよッ!?」
さっき投げたカバンと一緒に置いていた缶コーヒー(中見入り)を手に持って凄む。
「あああッ! それシミになるから真面目に勘弁してくれ! ゴメンッ」
慌てて土下座してきたから流石に止める。でも顔を見られるのが嫌で慎也に背を向けて体育座りした。
「もうっ――ベテルギウスより先に爆発するつもり?」
「お、俺としてはそれより末永く爆発したい所存であります」
「何言ってるつもりかさっぱりだけど。慎也のバカ」
背中を向けていても慎也が何故か正座でこちらを向いていることは雰囲気でわかる。
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- 17 : 2015/04/15(水) 02:07:44 :
「――星、綺麗だね」
一呼吸おいて空を見上げた。どこまでも続く満天の星空。望遠鏡なんてなくてもこんなにたくさんが間近に煌めいていて、綺麗で。
空に向かって手のひらをかざしてみる。絶対に交わらないはずの私と夜空の星々もこうすれば何だが近付ける気がした。
「宇宙、か……。なんでこんなに身近なところにあるのにこんなにも知られてないんだろう」
まるで私と慎也みたいだ。お互いを好きになって付き合っているのに、私は慎也についてまだまだ知らないことが多すぎる。何で急に宇宙に興味を持ったのかとか、どこで望遠鏡の扱いを覚えたのか、とか。
慎也が私を好きになってくれた理由さえ、私はまだ知らない。それを聞くのはなんだか怖かった。見た目が好みなだけとか、そんなことを言われたら立ち直れる気がしなかったから。
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- 18 : 2015/04/15(水) 02:08:28 :
「今までずっと人は宇宙に恋してたんだ。気が遠くなりそうなくらい長い片想いを、ただ一方的に募らせていた。それでやっと手が届いたばかりなんだよ」
「片想いか……。何だがロマンチックな言い方」
「だろ? でもさ、千尋も同じだと思わないか? 俺たちと宇宙」
同じだな、と思う。こうやってまだ何もわかっていないところとか、中々届かないところとか。そっくりだ。
「似てるね」
でも一つだけ違う。私たちはきっと最初から両想いだった。初めて話した時からずっと惹かれていた。
この人なら気が合うなってわかった瞬間から恋していたんだ。だからこうして付き合うまでに時間はそうかからなかった。
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- 19 : 2015/04/15(水) 02:09:12 :
「俺さ、こんな性格だから恋愛なんて自分には遠いものだって中学の頃は思ってた」
背中の向こうから慎也の声が聞こえる。私は膝を抱いたまま、その声に耳を傾けた。
「女の子と手を繋いだりキスしたり……そういうことには確かに興味あったけどさ、でも何だか俺らしくないっていうか。だから千尋と付き合った時、正直どうすればいいのか迷った」
告白は慎也からだった。一年の秋、ちょうど文化祭が終わった直後の話。ひどくぎこちない様子の慎也の告白を受けているうちに笑えてきてしまって、その場でオーケーしたことをはっきり覚えている。
「付き合って最初の頃の慎也ってすごく慎也っぽくなかったけど、そういう理由だったんだ」
今の状態からは信じられないくらいバカップルだったように思う。一通りのことはしたし、一通りのところに行った。それは確かに嬉しかったけど、慎也から感じるぎこちなさを不安に思っていた。
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- 20 : 2015/04/15(水) 02:11:00 :
「千尋がどんな俺を好きになってくれたのか考えたんだ。それで導きだした結論がこれ」
カン、と軽い金属音。振り返れば慎也が望遠鏡を指で弾いていた。
「望遠鏡?」
「違うちがう。好きなことをする俺ってこと。好きなことをして好きな子と一緒にいる。そんな俺だから千尋がこうやって文句言いつつもずっと一緒にいてくれるんだなっていうのが俺のだした結論」
そう言ってこちらに向かってきた慎也は私の手を引いた。つられるようにして立ち上がった私をあまり筋肉がついていない腕で抱きしめる。
「ちょ……何してるの?」
「千尋。好きだ」
とくん、と心臓が小さく跳ねた。こんな時にこんな言葉は反則だ。
「恥ずかしいからやめて」
「ごめんごめん。でもさ、ずっと俺の傍にいてくれよ?」
「ずっとってどれくらいさ」
不貞腐れて横を向いて呟く。私を解放した慎也は少し考えるとこう答えた。
「んー、少なくとも宇宙が爆発してなくなるまでかな」
「死んでからもかよ……バカ」
「もちろん。死んでからも、地球がなくなっても一緒だ」
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- 21 : 2015/04/15(水) 02:12:06 :
ああわかった。慎也は確かに宇宙人だ。
それもとびきりタチが悪くてこっそり意地悪で、それでいてロマンチックな奴。
でも、だからこそきっと私は彼を好きになったのだろう。
「……そう言われたら仕方ないから。一緒にいる」
私は少しだけ背伸びをして、彼の唇にキスをした。
宇宙人な彼、屋上にて今日も活動中。
《了》
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- 22 : 2015/07/27(月) 08:10:31 :
とても素敵なカップルのお話に、感動しました
特に男の子が素敵でした
執筆お疲れ様です
これからも応援しております
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