このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
この作品は執筆を終了しています。
進撃のウォーキングデッド season3 ep4 罪と罰
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- 1 : 2015/03/21(土) 19:51:54 :
- 前回の続きです。
http://www.ssnote.net/archives/32509
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- 2 : 2015/03/25(水) 19:26:58 :
「アニ、私と友達になってくれて、ありがとう…」
「ふざけるな!あれは僕の車だ!」
「エレン。ライナーを、みんなを頼む。」
「もうお前とは一緒にいられない!俺は、俺自身のやり方で…」
エレン(やめろ。頼むからやめてくれ…)
エレン(もう、許してくれ…もうこれ以上は…)
ミカサ「エレン!」
エレン「!」
目を開けると心配そうに見つめる妻の姿が。
エレン「…またか。」
ミカサ「最近寝汗が酷くなっている。今日はいくら呼びかけても起きなかった。」
エレン「すまないな、いつも。」
ミカサ「…また例の夢?」
エレン「ああ…これは俺への罰なのかもな。忘れてはいけない事を戒めるための。」
ミカサ「そんな、あなた一人のせいではない。言ったでしょ、私も一緒に背負うって。」
この三ヶ月間、2人の関係は至って良好だった。
夜を共に過ごす時間も増えた。
エレン「ありがとうな。もちろん彼らの事を忘れた事は一日もない。フランツ、ミーナ、アルミン、アニ、ベルトルト…そしてジャン。」
エレン「どんな罰でも受け入れる。俺がそうすることで、みんなも立ち直っていけるはずだ。」
ミカサ「そうね。…あ、今日は午前中ハンネスに呼ばれている。忘れずにね。」
そう言うとミカサも自分の持ち場に戻った。
今日の彼女の当番は、備品のチェックだ。
サシャ「エレン、いい朝ですね。」
エレン「おはようサシャ。ハンネスを見なかったか?」
サシャ「彼なら庭ですよ。今日も野菜を育てています、収穫が楽しみですね。」
彼女は楽しげにその場でヒラヒラ回って見せた。
エレン「サシャはいつも楽しそうだな、特に食の事となると。」
サシャ「ええ、食べることで生きている事を実感できます。特にみんなで取る食事は最高です。しばらくエルドと二人だったので…」
エレン「そういえば、配膳の時はみんなに均等に行き渡るようにしているな。」
自分一人が腹を膨らませるのを良しとせず、皆が必ず口をつけるのを確認してから、自らも食事を済ませている。
サシャ「はい、みんなの食べている顔を見るのが大好きです!」
エレン「よしよし、お前はいい子だな。」
彼女の頭をクシャクシャと撫でる。
サシャ「えへへ。エレンはエルドと歳も近いし、なんだかお兄ちゃんみたいですね。」
エレン(兄…か。)
サシャ「ではこれからユミルと洗濯の仕事があるので、また。」
両手を広げ、風のように去って行った。
ハンネス「…」
黙々と鍬を振るうその姿は、一見すると農夫そのものだ。
彼は実に生き生きとしていた。食物の栽培が、彼の生き甲斐になりつつあったからだ。
エレン「順調か?」
ハンネス「玉ねぎもじゃが芋も育ちが良い。この土壌は本当に条件がいいな、刑務所だってのがもったいないくらいだ。」
エレン「それは何よりだ、よし俺も一仕事…」
手伝おうと腕まくりをしたところで止められた。
ハンネス「そのままでいい、聞いてくれ。」
ハンネス「この三ヶ月で皆に笑顔が戻った。ライナーも笑うようになり、クリスタはまだちっとあれだが…そう、ユミルとコニーの事も喜ばしいニュースだな。」
2人の事をハンネスは心から祝福した。今ではコニーは、息子同然だという。
ハンネス「これも全てお前のおかげだ、感謝しているよ。しかしな、肝心のお前が参っちまってるんじゃないのか?」
エレン「いや、俺は…」
ハンネス「隠さんでいい。俺にはお見通しだぞ、毎晩魘されているのもな。」
エレン「…アンタには本当に敵わないよ。」
ハンネス「いいか、全てを自分一人で処理する必要はないんだ。どんな形でもいい、周りに打ち明けてくれ。」
エレン「俺自身まだわからないんだ。そんな風に救われていいのかどうか。」
ハンネス「救われるべきでない人間などいない。自分がどうありたいかが大事だ、後は自ずとついてくる。」
ハンネス「少なくとも、俺は真っ先にそれを受け止める立場でありたいと思ってるぞ。…おっと、それは嬢ちゃんの役目か。」
そう言うと、彼は快活な笑顔を見せた。おおよそ50代には見えない。
エレン「…ありがとう。」
ハンネスは何も言わず、再び鍬を降り始めた。
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- 3 : 2015/03/25(水) 19:50:19 :
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刀を研ぐ。
その刀身にこびり付いた見えない血も、一緒に落ちてくれればいいのに。
ナナバ「…」
自分の隠し事のせいで命を落とした人間がいる。そのツケは、必ず払わなければならない。
ナナバ(その報いがどんな形で来るかわからない。しかし、どんなものでも受け入れよう。そしてできれば彼らを巻き込まずに、この手で…)
ナナバ「?!」
急に自身の手が真っ赤に染まった。
振り払おうと必死に拭う。
ガタンッ!
ナナバ「…!」
刀が床に落ちた音で正気に戻った。
コニー「おい、大丈夫か?」
独房でイチャついていたのだろう、コニーとユミルが慌てて顔を出した。
ナナバ「すまないね、お邪魔したかな?」
ユミル「いいや、構わねぇよ。ただ私がここにいた事は黙っててくれ、サシャに15分だけ仕事任せてんだ。」
ナナバ「はいはい。」
二人はまた独房に戻っていった。
ナナバ(どんなに償っても、消えない罪はある。ただそれから逃げずに受け止めることで、見えてくるものもある。…そうだよね?)
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エルド「俺の出身はミルウォーキーだ。だがNBAなら俄然、マジックを応援している。」
ライナー「そいつは聞き捨てならんな、バックスはどうした?俺は地元一筋だぞ。」
広場では屈強な体格を誇る二人が、スポーツ談義に花を咲かせていた。
ライナー「なぁ、エレンもそう思うだろう?」
通りかかったエレンに助け舟を出す。
エレン「残念だったなライナー。ホークスはないぜ、だって開幕12連敗だろ?やっぱりレイカーズこそ至高だ。」
エルド「ほう、コービー信者って訳か。クリスタはどうだ?」
クリスタ「…そうね、ホークスは弱いけどホームチームは見捨てられないわ。」
ライナー「そら見たかお前ら。これこそ地元愛ってもんだ!」
してやったりと大笑いを始める。
エルド「なんなら白黒つけるか?丁度コートもある。」
バスケットボールを人差し指で弄りながら、コートに顎を向ける。
ライナー「言ったなエルド。俺のダンクを喰らっても、同じことが言えるかな?」
二人はお互いを罵りながらも、仲良くコートに消えていった。
クリスタ「安心したわ、ライナーもすっかり元気になった。彼とは体育会系同士、気が合うみたい。」
エレン「そうだな、だが俺はお前の方が気がかりだ。」
クリスタ「冗談はよして。私はいつでも元気よ。」
エレン「…ハンネスに言われたんだ。救われるべきではない人間なんていないって。なぁ、要は自分がどうありたいかじゃないのか?」
クリスタ「私はわからない。少なくとも、自分の行いをまだ許せていない。」
バチン!
クリスタ「痛っ!」
クリスタのおでこにデコピンをかました。
エレン「許せないことなんてないだろ?そう思いたいじゃないか、俺もまだわかってないがな。」
クリスタ「…ふふ。」
エレン「なんだよ?」
クリスタ「ここにきた時にね、ライナーに同じ事言ったの。まさかエレンにそれを言われるとは、思ってもみなかったよ。」
エレン「俺も思っても見なかったよ、こんなに穏やかに談笑できる時が来るなんて。…もっと早くに気付いてりゃ…」
クリスタ「その先は言わない。やめましょう。」
エレン「ああ…そうだな。」
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- 4 : 2015/03/31(火) 20:54:03 :
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ハンネス「ん…?あれは…」
忘れもしない、金髪の独眼。
何を思ったか、単身こちらに向かってくる。
ハンネス「それ以上近寄るな!何の用だ?」
ガバナー「君達と話し合いがしたいんだ。そう警戒しないでくれ、武器は持っていないよ。」
両手を挙げ、クルリとその場で回ってみせる。
ハンネス「正気か?周りにはウォーカーがうじゃうじゃ…」
言いかけて気付いた。フェンスの周りに一体もいない、気配すらなかった。
ガバナー「心配には及ばないよ、周辺2kmにバイターはいない。つまり、ここには君達と私だけという事だ。」
ハンネス「…そこを動くな、今リーダーを呼んでくる。」
エレンを呼ぼうと振り向いたが、既にその必要はないと言わんばかりの表情の彼がいた。
エレン「何のつもりだ?」
ガバナー「やぁ、君が代表か。少し話をしようじゃないか。」
エレン「話すことなんてない、お前らはベルトルトを殺した。」
ガバナー「やれやれ、手厳しいね。その事についてはお悔やみを言うよ。」
エレン「…死にたいのか?」
ガバナー「よく考えてみたまえ、君が三ヶ月かかって手に入れたものは何だ?」
皆の笑顔が脳裏に浮かぶ。
ガバナー「私はそれらを一瞬で壊せる”用意”がある。」
エレン「それは脅しか?」
ガバナー「どのようにとってもらっても構わない。ただ私としては、できる限り平和に終わらせたいんだ。」
ガバナー「どうだ、話くらい聞いてもらえないか?」
エレン「…」
握られた拳がゆっくり開いていく。
ガバナー(さぁどうする?どちらに転んでも同じこと、早いか遅いかだ。)
エレン「…いいだろう。但し、中に入るのはお前一人だ。」
ガバナー(そう来たか…)
ガバナー「それはフェアではないな。せめて護衛の一人でくらい…」
エレンは右手を上げた。
エレン「お前はお願いする立場だろ?ならこのくらいの条件は飲めよ。全面戦争するってんならそれもいい、こっちはとっくに準備ができている。」
チラッと監視棟を見やる。すると、既にライフルがこちらに向けられていた。
クリスタ「…」
エレン「彼女は凄腕だ、俺がこの手を下せばすぐにお前の頭が飛ぶ。」
ガバナー「それは諦めた方がいい。こちらはまだ戦力すらみせていない。」
エレン「俺が諦めるのを、お前が諦めろ。うちの連中にお前を許している奴は一人もいない。」
ライナー「そういうこった、ヒトラーさんよ。」
一番の遺恨を持つ彼が、フェンス越しにガバナーを睨みつける。
ガバナー「…わかった、私の負けだ。条件を飲もう。」
ポケットからトランシーバーを取り出すと、どこかに呼びかけた。
ガバナー「そのまま現状待機。以後は指示を待て。」
ライナー「ゲートを開ける。両手を頭の後ろで組み、ゆっくりと歩け。」
入ってきたガバナーの体を探る。
武器がない事を確認すると、エレンに相槌をうった。
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- 5 : 2015/03/31(火) 21:11:07 :
- 連れて行った先は看守室。縦長のテーブルを囲むように、ユミル・コニー・ナナバ・ライナーが陣取った。
エレンの真向かいにガバナーも腰を下ろす。
エレン「手短に行こう、話の内容は?」
エルヴィン「そうだね、要求はシンプルだ。…その女をこちらに渡せ。」
一変して表情を変えると、ナナバを睨みつけた。
エルヴィン「やあナナバ、元気かい?」
ナナバ「…」
彼女は何も言わず、ガバナーを睨みつけた。
エレン「仮にだ、ナナバを引き渡した後はどうなる?」
ガバナー「君達には二度と関わらない。全てを見なかったことにしよう。」
エレン「そうか…」
ジャキ!
ナナバ「なっ…」
エレンとナナバ以外の三人がガバナーに銃を向けた。
ガバナー「これはどういう事かな?」
ライナー「交渉は決裂だよ、クソ野郎。」
エレン「そんなできた話に乗ると思うか?お前の魂胆はわかっている。」
ガバナー「一時の情に判断を任せるのはよくないな、もう一度良く考えて…」
ライナー「ヨタ話は終わりだってんだ!」
構えたボウガンをさらに頭に近づける。仮に彼が弓を射っても、誰も止めやしない、そんな表情をコニーもユミルもしていた。
ガバナー(チェックメイトだ、これで…)
ガバナー「仕方ないね、では。」
バタンッ!
エルド「おい、どういう事だ?!手荒な真似はやめるんだ!」
エレン「口を出さないでくれ、こればかりは引けない。」
エルド「とにかくみんな銃を下せ!」
ライナー「黙ってろエルド!」
怒声が部屋中に飛び交う。
ガバナー「…」
その混乱に乗じるように、ガバナーは懐から…
「やめて!!」
ガバナー「…?」
ユミル「サシャ、お前は入って来るなって言ったろ!」
サシャ「やめて下さい、人間同士争うなんて馬鹿げてますよ!」
ガバナー(…何だ、体が動かない。それよりもこの娘は…)
ガバナー「君は…」
サシャ「え?」
ガバナー「君は、誰だ?」
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事態は思わぬ方向に進んだ。
ガバナーは何を思ったか、無言で帰って行った。ゲートを抜ける際も、心ここに在らずといった様子であった。
コニー「あいつ、サシャを見てから様子が変だったな。」
エルド「なんにせよ良かった。俺は人殺しなんて反対だ。」
ライナー「あいつを知らないから、そんな生易しい事が言えるんだ。奴に生きる資格などない。」
サシャ「あの人…」
エレン「何だ、知っているのか?」
サシャ「いえ、でも…なんだか悲しそうな目をしていましたね。」
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- 6 : 2015/03/31(火) 21:29:18 :
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〜刑務所付近の森林部〜
ゲルガー「何だよ、話が違うぞ。一体どうしたってんだよ。」
ガバナー「…」
ゲルガー「おいガバナー。」
ガバナー「少し、一人にしてくれないか?」
様子のおかしさに皆が首をかしげる。
ガバナー(私は彼女を知っているのか?…いや、初見のはずだ。サシャという名前に聞き覚えはない。)
ガバナー(だがこのモヤモヤしたものは何だ?そこにいるのは、誰なんだ?)
ガバナー「…ッ。」
ハンジ「ちぇっ、秘密兵器は使わずじまいかぁ。この日のために、寝る間も惜しんで調整を重ねたのに。」
ゲルガー「お前が寝ている所なんて見たことねぇよ。…しかし、ご丁寧に付近のバイター片付けて、こんなもんまで持ち込んで…一体ガバナーは何がしたかったのかねぇ。」
トラックに積まれたコンテナをトントンと叩いた。
ハンジ「やめてくれよ、”彼”は気性が荒いんだ。今日だって落ち着かせるのに、何人食わせたと…」
ゲルガー「…狂ってやがるな。」
ハンジ「ははん、私のことかな?」
ゲルガー「世界が、だよ。時々わからなくなるよ、俺は何がしてぇんだって。」
ハンジ「壊すって言ったろ。それが約束だ。」
ゲルガー「ああ、エルヴィンとお前とのな。」
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刑務所では先程の件に対する話し合いが進められていた。
当然のことながら、穏健派のエルドと意見がかち合う。
エルド「状況は知らない。しかし今日のようなやり方には反対だ。」
コニー「俺らはあいつに仲間を殺されたばっかりでな。どうしようもない、因縁があるんだ。」
エルド「その事に対しては同情するよ。だが、武力による支配はどうだろうか?」
エレン「武力だって?…俺はただ仲間を守りたいだけなんだ・」
ハンネス「まぁ落ち着け。その意気はわかるが、俺たちは俺たちだ。奴らのようになってはいけない。」
一行全体を取り巻くガバナーへの執着に、エルドは少し違和感を覚えていた。
エルド「…俺たちはあんたらに拾ってもらった身だ。しかし覚えておいてくれ、超えてはいけない一線あると。」
ユミル「はいはい、そこまでな。午後の当番を振り分けるぞ。」
ユミル「武器庫先エリアの探索が、ライナー・ミカサ・ナナバ。物資調達がエレンと…コニーだな。」
コニー「あ?いや、俺は見張りがあるぞ。」
ユミル「そうだっけか?じゃあ、えっと…」
クリスタ「私が行くわ。」
真っ先に手を上げたのはクリスタだった。
心なしか、どこか思い詰めた顔をしている。
ユミル「助かるわ、頼むぜクリスタ。」
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- 7 : 2015/03/31(火) 22:04:38 :
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〜探索組〜
ライナー「チッ、いつ来ても気味の悪い場所だ。それだけにちっとも探索が進まん。」
ライトで辺りを照らしながらぼやく。
エルドと揉めたのがカンにさわったのか、機嫌が悪そうだ。
ミカサ「注意しながら進んで。」
ライナー「わかってると、ヘマはやらん。」
ナナバ「…いいかな、どうしてもわからない事がある。」
ナナバ「どうしてエレンは、私を引き渡さなかったのかな?そうすれば、少なくともその場は事が済んだはずだ。」
彼女自身覚悟はできていた、ツケを払う時だと。
ミカサ「事情がどうであれ、仲間を売るような真似はしない。それだけの事。」
ナナバ「仲間…私が?今回の件も、元を辿れば私が原因だ。私は死神のようなものだよ。」
ライナー「そうだ、よくわかってるじゃないか。だからこそお前には、あいつの分まで生きる義務がある。そして、その意思を継ぎ続ける限りお前は仲間だ。」
ナナバ「…」
ライナー「…と、お人好しのリーダーなら言うだろうな。なぁ奥様?」
ミカサ「その呼び方やめて、むかつく。」
彼女も”迷っている”人間の一人だ。
自分が生き永らえるべきなのか、何度も自問自答した。
ライナー「おっと到着だ、気を抜くなよ。」
未探索エリアに入り、臨戦モードにかかる。
気配に敏感なミカサが、ドアに耳を当て様子を探る。
ミカサ「…いる。それも複数。」
ナナバ「いつも通り私が。ミカサはフォローに回って。」
ミカサ「了解。」
ライナーがドアノブに手をかけ、目でこちらに合図する。
ナナバは刀を高く構え、神経を研ぎ澄ました。
ガチャ
ゲアァァッ!
ナナバ「…ハッ!」
対象視認からウォーカーの首が落ちるまで、わずか1秒足らず。
すぐさま屍を乗り越えて、部屋に侵入する。
ナナバ「…」
アァァァ…
ハァァァァ…
ナナバ「まずい、退くんだ!対応できる数じゃない!」
部屋の奥にいたのは、優に10を超えるウォーカー。
ナナバは踵を返すと、すぐさまドアを閉め二人と共にドアを押さえつけた。
ガンッ!
ライナー「ぐおっ、ちくしょう!ついてねぇな今日は!」
ミカサ「このままでは保たない!どうにかしないと…」
ドクン…
ツケを払う時、罰を受ける時。
ナナバ「…合図をしたら二人は走って。私が時間を稼ぐ。」
ライナー「おいおい、こんな時に冗談はよせ。」
ナナバ「私が素早いのは知ってるだろ?コニーの自称ジョージア州No.1RB説よりかは、よっぽど信憑性があると思うよ。」
ミカサ「…あなた、死ぬ気じゃないでしょうね?」
ドクン…
ナナバ「ああ、信じてくれ。仲間をさ。」
ライナー「…よし、わかった。」
ナナバ「じゃあ行くよ。1…2…今だ!」
2人が走り出すと同時に、体が全体で扉を押さえつける。
ガンッ、ガンッ!
ナナバ「ぐぅ…!」
二人に目をやると、もう既にシャッター付近まで退避していた。
ナナバ(よし…)
扉から体を離すと、数歩下がり刀を構えた。
ナナバ「払ってやるよ、溜まったツケを。」
ミカサ「はぁ、はぁ…ライナー!」
ライナー「ああ、わかってるさ。あいつ、とんだハッタリかましやがって。」
ミカサ「どうする?」
ライナー「決まってるだろ、行くぞ!」
ミカサ「ええ!」
ザンッ!ザシュ!
ナナバ「ハッ!…くっ、そ…」
斬っても斬ってもキリがない。
既に床は真っ赤に染まっていた。
ナナバ(そろそろか、時間だね…)
ナナバ(ねぇ、私は許されるのかな?)
もはや逃げ場がない事を悟ると、ナナバは刀を下ろし目を閉じた。
ミカサ「このっ!」
ガッ!
ナナバ「ミカサ…?あんた、なんでまだ?!」
ミカサ「馬鹿なこと言ってないで戦いなさい!」
ナイフをウォーカーの頭から引く抜くと、四方にベレッタを発砲した。
ライナー「そういう事だ、ご精算にはまだ早ぇよ!これからもっとツケてやるからな、覚悟しておけ!!」
この状況で軽口を叩きながらも、的確にウォーカーを撃ち抜く。
ナナバ「…!」
(お前には、あいつの分まで生きる義務がある。)
ナナバ(わかったよ、これが私への罪だ。…そうでしょ?)
ザンッ!
振り下ろされた刀は、再び輝きを取り戻した。
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- 8 : 2015/04/04(土) 09:43:11 :
- 〜物資調達組〜
刑務所から西に10km行った住宅街。
乗り捨てられた車が多数あり、どの一軒家も頑丈に補強がしてある事から、比較的最近に見放された集落である事が伺える。
エレン「近場から順に調べていこう。俺は左、クリスタは右からだ。そんなに距離はないから、何かあったら叫べばいい。」
クリスタ「…そうね。」
未だに彼女の具合が気掛かりではあった。
しかしそこには触れず、目の前の状況に集中することにした。
ガンガン!
ドアを数回強く叩く。
これは音に敏感なウォーカーの習性を利用したものである。
クリスタ(足音もしない…空家かしら?)
スナイパーライフルを肩にかけると、ハンドガンを構え慎重に侵入した。
クリスタ「…」
まずはキッチンを調べる。
調達の優先順位は、食料>電池>衣類である。
クリスタ(ここはハズレね、パンのかけら一つない。)
特に荒らされた形跡はなかったが、一階からは何も見つからなかった。
ギシッ…
上からの奇襲を警戒しながら、ゆっくりと階段を上っていく。
まだ気を許してはいけない、二階の部屋に隠れていた、なんてことはよくある。
クリスタ(…中にいる。)
そのうちうめき声がする部屋にたどり着いた。
一回深呼吸をすると、一息にドアを開け放ち中に入った。
クリスタ「……」
銃を構えた先にいたのは、自力では移動ができないほどやせ細ったウォーカー。
餓死して転位したのだろう、その場で呻きことしかできない。
アァ…ガ…ァ
クリスタ(これは…)
彼女には一目でわかった。体のあちこちに虐待の跡が見られたのだ。
(お前相談所に行きやがったな?!誰のお陰で飯が食えると思ってるんだ!!)
(…ッ!う…)
暴力に怯える日々、忘れたはずの記憶が鮮明に蘇る。
クリスタ「辛かったね…今、楽にしてあげるから。」
タンッ!
偽善だとわかっている。
そう、こんな事で心を痛めて自分を許したつもりか?
(許せないことなんてないだろ?)
拳をぐっと握りしめた。
一筋の血が、滴り落ちるまで。
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- 9 : 2015/04/07(火) 06:26:11 :
- 期待です
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- 10 : 2015/04/07(火) 14:56:52 :
- エレクリさん
ありがとうございます!
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- 11 : 2015/04/08(水) 00:57:17 :
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エレン「無事だったかクリスタ。どうだ、収穫はあったか?」
エレンは一足先に探索を終え、リュック一杯に物資を詰め込んでいた。
クリスタ「…いえ、何もなかったわ。荒らされた後だった。」
エレン「まぁいいさ。こっちは大漁だったんだ、気にするな。」
本当はあの部屋にずっといたのだ。
何を考えるでもない、虚空を見つめて。
エレン「さぁ帰ろう、もうここには用はない。」
クリスタ「…」
エレン「クリスタ?」
車まで来て振り向くと、彼女はまだ遠くにいた。
クリスタ「エレン、私ね。あの時あなたの指示が無くても、ガバナーを撃つところだったの。」
エレン「おい、何を言って…」
クリスタ「自分への負い目や、ベルトルトの仇というのもあったのかもしれない。でも結局は、私がただそうしたいだけだった。理由なんてきっとない。」
彼女の目は真っ直ぐであった。
いつかの親友と同じように。
クリスタ「あの時撃っていたら、誰かが死んだかもしれない。…フランツ、ミーナ、ベルトルト。みんな私のせいで死んだ。」
クリスタ「だから私はもう…」
エレン「お前一人のせいじゃない、何度も言っただろう。」
クリスタ「エレンは言ったよね、許されるべきじゃない人間なんていないって。でも私は許してもらっても、きっとまた同じ過ちを繰り返す。」
エレン「人間とはそういうものじゃないか。だから支え合うんだろ?」
クリスタ「私は気付いてしまったの、自分の中の激情に。」
クリスタ「…だから、言いなさいよ。」
まだ自分を肯定しようとするエレンに、クリスタは感情を露わにした。
クリスタ「出て行けって言いなさいよ!!その一言だけでいいから!」
もう彼女は今までの彼女じゃなかった。
エレン「…仮にに俺がそう言ったら、お前は全て納得がいくのか?それでお前は救われるのか?」
クリスタ「あなたには関係ないわ、私個人の問題。」
引き止めたかった。
それは同情としてではなく、自らの矜持のため。
そう、守ると決めたあの時から。
エレン「出て行ってくれ、俺たちはもう一緒にはいられない。」
クリスタ「…エレン、いままでありがとう。貴方達に出会わなければ、私はきっと今生きてはいないわ。」
クリスタ「ライナーや、みんなにもよろしく。」
先程までとはうってかわり、いつもの笑顔でそう言った。
エレン(やめろよ、そんな見え見えの無理をするなよ。)
エレン(止めろ、止めるんだ。今ならきっと間に合う。)
クリスタ「大丈夫、もう私は弱くない。ライナーの教えで生きていける、きっと。」
エレン「…ッ。」
エレンは何も言わず、クリスタと抱き合うと車でその場を去っていった。
そうすることしかできなかった。
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- 12 : 2015/04/08(水) 01:08:39 :
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〜理想郷〜
机の上の写真立てを手に取る。
しかし彼の顔は冷静でもなく、忘却でもなく、”虚無”だった。
ハンジ「いつまでそうしているの?」
ガバナー「珍しいな、君が研究室から出てくるなんて。」
ハンジ「二人が懐かしくなったのかい?」
ガバナー「おかしな事を言うな、ついに頭までやられたか。私は天涯孤独の身だ。」
ハンジ「…えっ?」
この男はその手のジョークは言わない。
忘れたのは記憶ではなく、存在なのだから。どうも様子がおかしい。
ハンジ「まさか、◯◯と◯◯だよ。あなたの妻と娘じゃないか。」
ガバナー「…誰だ、それは?」
ガバナー「所で君は、この写真に写っている彼女達を知っているか?これは間違いなく私だと思うんだが、どうもこの女性たちに覚えがない。」
本当に知らない、彼の反応はそのものだった。
ガバナー「まぁいい。それよりもだ、私はまたサシャという少女に会いたい。」
ハンジ「はぁ?何言ってるんだ、あなたはあそこを壊すって…」
ガバナー「会いたいんだ、サシャに。」
ハンジ「…」
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- 13 : 2015/04/09(木) 19:13:25 :
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コニー「おぉ、これは大量だな。特に電池はありがてぇ。」
エレンが持ち帰った物資に皆が群がる。
ライナー「なぁエレン、クリスタはどこだ?今日は接近戦を教える約束をしているんだが…」
エレン「あ、あぁ。具合が良くないって、先に棟に戻ったぞ。」
ライナー「そうか、なら今日はお預けだな。」
エレン「…ライナー、ちょっと来てくれ。」
皆の注意を引かぬよう、彼の腕を引っ張りそそくさと庭の隅に向かう。
ライナー「おいおい、どうしたんだ?積極的なのは結構だが、相手を選べよ。」
彼の軽口には反応せず、黙って向き合った。
エレン「クリスタは出て行った。」
ライナー「…あ?具合が悪いんじゃなかったのか?街に忘れ物でもしたのか。」
まだ現状を把握できていないライナーの笑顔が酷く眩しい。
エレン「彼女はもういない、自分の意思で俺たちから離れた。」
ライナー「…お前は何も言わず許可したってのか?」
エレン「ああ…俺が追い出した。」
ガシャン!
胸倉を掴み、エレンをフェンスに押し付ける。
ライナー「出て行きたいだって?お前は、はいそうですか、と流されるままだったのかよ?!」
エレン「彼女自身が望んだ事だ、俺にはどうしようもなかった!」
ライナー「…くそ!」
彼はエレンから手を離すと、両手で顔を覆いその場を行ったり来たりした。
ライナー「わかってる、わかってるよ。お前の事だ、必死に引き留めたんだろ?」
エレン「すまない、俺の力不足だ。」
ライナー「なぜ、現実と向き合う事から逃げようとするんだ。立ち向かう勇気と度胸だって、クリスタにはあった。」
エレン「…それは違うぞ。」
エレン「彼女は全てを分かった上で、別の道を行く決心をしたんだ。それがどれだけ勇気の要る事か、お前ならわかるだろう?」
ライナーは必死に自らに何かを言い聞かせ、やがて呼吸を整えた。
ライナー「大丈夫だ、クリスタは一人でもきっと生きていける。戦う術を教えた、ベルトルトだって見守ってくれている。」
ライナー「そうだろ、エレン。」
エレン「…」
ライナー「頼むよ…そうだって言ってくれよ…」
静かに涙が頬を流れ落ちる。
それが地面に落ちてから、エレンはようやく言った。
エレン「クリスタは大丈夫だ。きっと…」
許せないことなんてないよ、それはきっとライナーが許したくないだけ。
罪を償う。きっとその先に、またお互いの道が交わることを信じて。
クリスタ「行ってきます。」
小さい体に大きな業を背負い、彼女は歩き出した。
自らを許せた人間、許せなかった人間、逆に自らを罰した人間。
どんな形であれ、行き着く先は同じだろうか?
彼らは人間らしくあろうとする。
この秩序も規律もない世界で。
season3 ep4 end
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- 14 : 2015/04/09(木) 19:34:58 :
次回予告
「で、私達の天使はどこだい?」
「自分の事くらい、自分で決めたい。」
「毒に蝕まれていく。知らず知らずの内に、真っ黒に染まる。」
season3 ep5 孤独な王
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- 15 : 2015/04/09(木) 19:39:07 :
- 今回は珍しく一つのエピソードで、一つのテーマに沿って書いてみました。
個人的に大好きなナナバに、意味を持たせたくて書いたシーンはかなり試行錯誤しました。
クリスタの選択は正しかったのか、間違っていたのか。それは本人のみ知るところです。
感想などよろしくお願いします。
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- 16 : 2015/04/10(金) 15:19:55 :
- 頑張ってください‼︎
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- 17 : 2015/04/11(土) 15:15:38 :
- 面白すぎです!
これからも頑張ってください!
期待です!
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- 18 : 2015/04/11(土) 16:29:48 :
- 名無しさん
ありがとうございます!
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- 19 : 2015/04/11(土) 16:30:16 :
- 名無しさん
ありがとうございます!
そう言ってもらえると嬉しいです!
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- 20 : 2015/04/14(火) 21:43:21 :
- 次作です。
http://www.ssnote.net/archives/33937
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- 21 : 2015/04/24(金) 16:21:35 :
- 面白かったです!! 私もナナバ大好きなんですよ!あっ、後エルヴィンも大好きです♪ 次も頑張ってくださいね(私もSS書いているので、ぜひ読んでください。面白いかどうかわかんないですけど…)
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- 22 : 2015/04/25(土) 05:31:43 :
- 快さん
ナナバ好きとは気が合いますね。
ありがとうございます。大分長編の作品ですが、是非見守ってやってください。
ユーザー登録はされていないのですね。
よければ私のグループにいらっしゃって下さい。そこにURLなど貼っていただければ、ぜひ拝見させていただきます。
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