この作品はオリジナルキャラクターを含みます。
この作品は執筆を終了しています。
未来の彼女
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- 1 : 2015/01/06(火) 22:09:32 :
- こういうの慣れてないけど読んでくれたら嬉しいです
よかったらコメント下さい
てか投稿の仕方これでいいのかな?
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- 2 : 2015/01/06(火) 22:10:28 :
幽霊にしてはなんだか子供っぽくて明るくて、存在感のありすぎる彼女。
受験生である俺の前に突然現れ「私は君の未来の彼女なの」と言って笑った彼女。
トラックに突っ込まれて自分は死んだから、神様が最後のプレゼントとして過去に行って彼氏と会うことが出来たんだと信じる彼女。
大学生くらいの清楚な感じがする女の子だった。
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- 3 : 2015/01/06(火) 22:13:39 :
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「へぇ、こんな頃から理数得意だったんだ」
そう言ってノートを覗きこみ、適当な数字を言って俺を混乱させようとする少し迷惑な彼女。
そんな彼女が部屋に現れて一週間が過ぎた頃、俺はふと訊いた。
「なんで俺はお前が死ぬことを知っていて、それを止めることが出来なかった?」
彼女は柔らかい表情を浮かべたまま答えない。俺は続けて尋ねる。
「大体の死期はこうしてわかっていたことだし、ずっと一緒にいればお前が死ぬこともなかったんじゃないか」
彼女はただ黙って微笑んだ。
「それは、全部君が決めることだから」
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- 4 : 2015/01/06(火) 22:14:44 :
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そんな彼女が、現れた時と同じくらい唐突な去り際に言った。
「私と出会いたくないなら、それでも構わないよ。私死んじゃうし、きっと君の人生を狂わせるから」
なら、なんで会いに来たんだと問うと、彼女は人指し指を唇に当ててイタズラっぽく笑う。
「私はもう、君と会っちゃったから」
なるほどと思った。正直、彼女は元気っ子好きな俺の好みのタイプとは言いがたかったし、話も合うことがない。
未来の恋人という不思議な繋がりだけが唯一の絆だった。
しかしそれも自分次第で変えられる。俺は今すぐにでも志望校を変え、進学したら適当に彼女をつくればいい。それだけでこの繋がりは容易く切れてしまうのだ。
それが未来というあやふやなモノ 。
「私、君と出会えたこと、幸せだって思うよ」
「俺も」
「……ありがとう。ねぇ、大好きだよ。だから、お願いがあるんだ」
俺はゆっくりと頷く。彼女は嬉しそうな、それでいて悲しそうな顔をする。その表情で散々言葉を選んだ後、彼女は一言だけ呟いて消えた。
「 」
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- 5 : 2015/01/06(火) 22:16:07 :
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数年後。俺は地味な女子生徒と教室に居残っていた。
何てことない課題の仕上げに時間を取られただけだったが、苛々していたのだろう。目の前で同じ課題を仕上げる女子生徒が立てる少しの音にも反応し、その度に彼女を怯えさせてしまった。
「悪い。ちょっと疲れてて」
「うん……ごめんなさい」
女子生徒は暫く怯えていたが、本当に俺が疲れているとわかってくれ、話し相手になってくれた上に飲み物まで奢ってくれた。
「悪いな。俺怖がらせてたっていうのに、こんなことまで」
「ううん。私だって正直疲れてたし。それに話が出来て楽しかったよ」
眼鏡の奥に隠された綺麗な瞳は、結果だけ言うと、“彼女”と同じだった。
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- 6 : 2015/01/06(火) 22:18:00 :
いつしか二人で一緒にいるようになり、それが当たり前になった頃、いつの間にか付き合っていた。
“彼女”のことを忘れたわけではなかったが、あの時と違い色気もないくらい地味な彼女を見ていると、自然と彼女がいずれ死ぬということを忘れていった。
「数学って苦手。なんであるのかわかんない」
「そりゃ便利だからだろう」
彼女は数学が苦手だったが、そのかわりイタズラが好きらしい。
近頃はよく俺の傍に来ては耳元で適当な数字を呟き、俺を混乱させて笑うのが彼女のマイブームだそうだ。俺が怒ると嬉しそうに笑い、軽い口調で謝る。
「君を怒らせるのに便利なんだもん」
そう言って笑う。それが彼女なりの冗談だった。
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- 7 : 2015/01/06(火) 22:19:48 :
付き合って五年程が経ったある日、彼女が珍しく、自分からデートに誘ってきた。俺も彼女も別々の環境でそれぞれやっていて、最近はメールや電話での会話が主だった。
「この間友達と新しい服を買いに行ったから」
弾んだ声でそう言う彼女は、地味だったあの頃の影も薄れ、ごく普通にお洒落を楽しむ女の子になっていた。
俺はそんな彼女の変化が嬉しくて、すぐに映画を観に行く約束をする。お互いが終始浮かれた状態で電話は切れた。
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- 8 : 2015/01/06(火) 22:20:25 :
そして約束の日。俺は朝早くに起き、支度をして早めに家を出た。そして待ち合わせ場所に二十分も前に到着し、久しぶりに会う彼女を待つ。
まるで初デートだと、自分で自分を笑った。そもそも俺は彼女のような子なんてタイプじゃないのに。地味な子のほうが実はタイプなのかもしれないと、俺は人目を気にせずニヤついていた。
電話が鳴る。どうやら彼女は待ち時間が長いことで有名な信号に捕まっているらしい。
今そっち向かう。そう短く言って電話を切った。迎えに行くことに意味はない。何となく、その場に居続けるよりは彼女の顔を早く見たいと思ったからそうしただけだ。
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- 9 : 2015/01/06(火) 22:21:41 :
その信号は国道に繋がる大通りにあり、時間によっては物凄く赤信号が長い。彼女は細い道から細い道に入る所を横断するため、赤信号の時間はとても長く、青信号の時間はとても短い。
俺がやっと彼女の姿を認めた時、既に五分は経っているように感じられたのにまだ信号は赤だった。
彼女が嬉しそうな顔でこちらに手を振った。その様子が可愛らしく、俺は思わず小さい子に手を振り返すように手を上げ、恥ずかしくなって引っ込めた。
そしてそのまま笑い返すと、いきなり悪寒が背中を駆け巡るのを感じた。
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- 10 : 2015/01/06(火) 22:22:41 :
向こう側に立つ笑顔の彼女。その姿が何時かの“彼女”と被る。そして俺は今まですっかり忘れていた彼女の死の予告を一瞬で思い出していた。
(違う。まだ違う)
混乱している筈の頭が、記憶の奥に追いやられている“彼女”の服装を思い出す。
小洒落た花柄のワンピースは、背の低い彼女が着ると、少し背伸びしたように見えていた。着ていた彼女自身がぎこちなくてこっちが気まずかったような、そんな気すらする。
(いや違う。俺はあの時“彼女”を大学生だと正しく認識していたじゃないか)
だから、実際はぎこちないなんてあり得ない。そう自分に言い聞かせる。
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- 11 : 2015/01/06(火) 22:23:55 :
俺は嫌な予感を押し込め、不思議そうな顔をする彼女に精一杯の笑顔を向ける。
――今日は久しぶりのデートなのだ。小さな不安なんて忘れるくらい彼女と楽しめばいいじゃないか。
そう思い、信号をちらちら気にしている彼女に声を掛ける。
「早くしないと映画遅れそうだな」
その時、今まで赤だった信号が変わる。
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- 12 : 2015/01/06(火) 22:25:02 :
「もっと早く家を出ればよかったよ」
そう言ってこちらにやってくる彼女を笑顔で待つ。彼女が横断歩道の真ん中に差し掛かろうとした時、俺は彼女を覆い隠す大きな影を見た。
(あ……)
声すら出なかった。よくあるキキーというブレーキを踏んだ時の音もなく、大きな影は彼女を飲み込む。俺はその場で立ち尽くし、救急車やら警察やらがやってくるまで呆然としていた。
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- 13 : 2015/01/06(火) 22:25:35 :
(笑った……?)
彼女は自分が飲み込まれる瞬間、優しい笑みを浮かべたような気がする。しかし、それは俺が見慣れていたイタズラばかりしている彼女の笑みではない。
あれは、あの笑顔は――あの日、本当の意味で初めて“彼女”に会った時に見せられた慈愛に満ちた笑みだった。
それが何を意味するのかは知らない。けれど俺は自分でも無意識の内に頬に一筋の涙を流し、あの日の自分に向けられた“彼女”の優しさを思った。
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- 14 : 2015/01/06(火) 22:27:23 :
「 」
別れ際に彼女が呟いた言葉。本当に長い間靄がかかって思い出せなかった言葉をようやく思い出す。
そして、俺はその言葉に確かに返事をしていたのだ。確かこう“彼女”は言った。
「これから死ぬ人間だから、私のことは忘れて生きて」
その言葉に、俺はこう返事をしたんだ。
「忘れるのはお前じゃない。お前が楽しく生きられるように、俺はお前が死ぬことを忘れてやる」
と。
【了】
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- 15 : 2015/01/06(火) 22:28:14 :
- これで終わりです
短いですが読んでくれた方ありがとうございました
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