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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

奪う者と奪われる者〜もしもマルコが生きていたら②〜

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  1. 1 : : 2014/10/17(金) 08:44:40


    前作「一角獣を背負う者」

    http://www.ssnote.net/archives/24370

    の続きになります。


    ネタバレは14巻までです。
    最近原作のネタバレを目にしてしまってちょっと書きにくくなってしまいましたが、既に著しく乖離しているので開き直って続けます(笑)

    今回も捏造、キャラ崩壊、ご都合主義が山盛りです。

    ゆっくり更新になりますが、よろしくお付き合い頂けたら幸いです。



    ※頂いたコメントを非表示にするのは偲びないので、執筆終了まで制限させて頂く事をご了承ください※

  2. 2 : : 2014/10/17(金) 09:08:14


    「ヒストリア、そろそろ朝ご飯ですよ」


    声は聞こえているはずだが、窓辺に座り外を見つめる少女に動きはない


    彼女はサシャが目覚めた時にはもう既にここに座っていた


    元々人形のように整った顔立ちなだけに、生気を無くして佇む様子はますます作り物めいて、見る者に魂の存在を忘れさせる


    事実彼女は抜け殻だった


    新リヴァイ班としてこの小屋で生活するようになってからずっと、彼女は殆ど口を開くことが無い


    ユミルが行ってしまったから…


    愛されることを知らずに育った心に絶え間無く注ぎ込まれていた暖かい愛情を失って、彼女は仮初めの笑顔すら作れないほど枯渇していた


    ふわふわと綿菓子のような甘い笑顔を振りまき、請われれば躊躇うことなく手を差し出し、惜しむことなく与えてきた女神は、己の中を満たしていた唯一無二の存在を求めるだけの器になってしまっていた


    彼女の視線はユミルを探し

    唇はユミルの名を呼び

    心はユミルを切望する



    ーーーこっちも空っぽなのに、お前らの事なんか知ったこっちゃない!

    欲しけりゃユミルを出せ!

    ユミルの所に連れて行け!

    他には何もいらないし、寧ろ邪魔!



    ……と言う事だろう


    そしてユミルが自分自身の為に生きる事を選び、ヒストリアと決別した事に思いが至り

    踏み出すべき一歩も、恨み言を叫ぶ事すらも出来なくなって

    空っぽのまま立ち尽くすしか無かったのだ



    そんなヒストリアを見るのはサシャにとっては、少し…いや、大分辛い



    元より自分がユミルの代わりになれるとは思っていないが「クリスタ」はサシャにとって始めての理解者であったし、それが偽りであろうとも確かに自分は彼女に救われたのだから…


    今度は彼女が少しでも救われるように…と、根気強く側に寄り添った


    しかし朝食を摂る間も、ヒストリアはビスクドールのまま


    辛うじて口は動かすが、粗末で量の少ない食事ですら全部食べ切ることはなかった


    食べることは生きる力を得ること


    そう考えるサシャにとって、彼女の様子は生きることへの諦めそのものに見えて、ますます悲しみが増すのだった


  3. 3 : : 2014/10/17(金) 09:29:25



    ーーーその日の午後

    小屋の裏手で薪割りをしていたサシャは、ふとその手を止めて小屋を見た


    いつも通り窓から外を見るヒストリアの白い横顔が見える


    エレンは留守にしている潔癖の兵士長に言い付けられて、ミカサとアルミンと掃除に精を出しているはずだった


    なんとなく疎外感を感じるのは、何故だろう…


    早く薪割りを済ませてヒストリアの側に行かなければ…


    そう思ってはいても、斧を持った腕を持ち上げることが出来なかった


    彼女の力になりたいと、心から思っている

    しかしどんなに寄り添っても、言葉を尽くして声を掛けても、ヒストリアの瞳に自分が映ることはない

    ほの白い彼女の顔に生気が戻ることもない



    サシャは一方通行の毎日に…少しだけ疲れてしまっていた



    ただでさえ三年間ずっと近い所に居た同期のうち5人が巨人能力者だと分かり、そのうち3人が自分達と敵対する勢力だという

    ユミルの立場は謎のままだし、エレンを監視、護る為の新しいリヴァイ班として人里離れた場所に閉じ込められて、いつ襲われるかもわからない緊張感の中で日々を過ごしていた


    せめてマルコ達が居てくれたら…


    そう思うのも一度や二度では無かったのだ



    彼女は溜め息とともに空を仰ぐと、斧を切り株に刺し森の入り口に立つ


    そして馬を呼ぶ時よりも高い、ビブラートの掛かった指笛を吹いた


    何度かそれを繰り返す


    すると

    一羽の鳥がサシャの見上げる木の枝に真っ直ぐに降りてきた


    「ソル!」


    小鳥と呼ぶには少し大きい濃灰色の鳥は、サシャの声に応えるように差し出された腕に止まる


    指先で軽く頭を撫でられ、まるで甘える様に黒目勝ちな目を細めたその鳥は、猛禽類独特の鉤型の嘴と鋭い爪を持っていた


    小さな命の温もりが、ざわつくサシャの心を静かに癒す




    いつしかその唇には慈愛に満ちた微笑みが浮かんでいた





    ーーーーーーーーー

    ーーーーーー

    ーーー

  4. 4 : : 2014/10/17(金) 20:46:13



    二年前、休日のある日、兵站行進に使われる森の中で立ち尽くすマルコを見かけたサシャは、いつもとは違う彼の挙動に首を傾げた


    何をしてるんでしょうか…?


    親しく話したことは無かったが、何かと目立つジャンの側で見かける事の多い彼は、いつも落ち着いた穏やかな空気を纏った大人びた少年のはずだった


    しかし今目に映るマルコは、見知らぬ土地で迷子になった子供の様に、落ち着かない視線を辺りに彷徨わせては、自分の両手を見つめる…という動作を何度も繰り返している


    まぁ…彼の事だから一人でも何とかなるでしょう…


    重大な目的を遂行する為にこの森に来たサシャは、あっさりと挙動不審な少年を見捨て、本来の作業に戻ろうと足を動かしたーーー


    ーーーが…



    「あ……」



    目があってしまった…


    振り返った姿勢のままサシャを見つめるマルコの目は、縋るような必死さで彼女の足を引き留める


    「………」


    「………」



    暫し沈黙のまま見つめ合い…



    サシャは野ウサギ狩りを諦めた…



    「……どうしたんですか?」



    近付いてくるサシャの姿に、あからさまにホッとした顔を見せるマルコの手の中を覗き込むと、そこにはまだ孵化したばかりの鳥の雛が二羽、身を寄せ合って震えていた



    「……これ…どうしたらいいかな?」


    「雛…ですね…鷹でしょうか…」


    「鷹……?」


    「巣は見当たらないんですか?」


    「多分あそこの木の洞なんだけど…」


    木の上を指した視線は、すぐ下に移り、地面を見つめる


    足元には成鳥のものと思われる羽根がかなりの数落ちていた



    「……食べたんですか?」



    サシャの問いにいつもは冷静なマルコが面白いほど狼狽え、取り乱した



    「ばっ…バカなこと言うな!なんで僕が……!」


    「分かってますよ」


    「………からかうなよ…」


    「多分大鷹に襲われたんでしょう。この辺りをテリトリーにしてる子が居ましたから。でも困りましたね…親が居ないなら巣に戻しても意味ないですし…」


    「これは鷹の雛じゃないんだ?」


    「この羽根の大きさだと多分ハヤブサです。森に巣を作るのは珍しいですが…」


    猛禽類は空を飛ぶ生き物の中では食物連鎖ヒエラルキーの頂点に居る

    しかし体格の違いから、ハヤブサのような小さ目の種は、より大きい猛禽類の獲物となり得るのだ

    天敵である大鷹が住む森にハヤブサが巣を作るのは、とても珍しい事だった


    「可哀想ですが、その子達は育ちませんよ」


    「え…?」


    「まだ自分で狩りが出来ない雛は、親が居なくなったら生きて行けませんから」


    「……だよね…」



    マルコは落胆と悲しみの気持ちを抑えることもせず、その瞳は暗く沈んでいた


    「この子達、僕が育てるのは難しいかな?」


    「難しいですね」


    「……そう」


    この世の終わりかというくらい落胆するマルコを、サシャは不思議な気持ちで見つめた


  5. 5 : : 2014/10/17(金) 21:22:33



    サシャの知る彼は、とても賢くて真面目な少年だった

    今日この森に来たのも、明日行われる兵站行進の下見だろう

    踏み荒らされて獲物が逃げる前に捕獲しようと企んでいたサシャとは、精神の造りが違う


    自分の事だけでも手一杯な訓練量を熟す中、彼は憲兵目指して上位の地位を手堅く守る努力もしているのだから、もっとあっさりと諦めると思っていたのだ


    なのでマルコの口から出た言葉に、サシャは自分の耳を疑った


    「こいつらが成鳥になるまでどれ位かかる?」


    「え?……そうですね…狩りで使う鷹しか知りませんが…自分で餌を調達出来るようになるのは2、3ヶ月後ぐらいですね」


    マルコはその答えにホッとした笑顔を浮かべた


    「良かった!あまり長いと流石に僕も辛いからね。2、3ヶ月ならなんとかなりそうだ」


    「育てるんですか?!」


    「うん。見かけただけなら諦めたかもしれない。でもこうして手に取ってしまった命を、助けずに見捨てることは出来ないよ」


    マルコはすっかり覚悟を決めた様子で、晴々とした顔をサシャに向けた

    そして早速連れ帰る事にしたらしい

    そわそわと落ち着かなくなっている



    「取り敢えずこの子達に餌をあげないと…」


    「あの……」


    「ん?なんだい?サシャ」


    「この子達何を食べるか知ってます?」


    サシャの問いに余裕の笑みを返すマルコ


    「小鳥は子供の頃少しだけ育てた事があるんだ。虫は苦手だけど、なんとか頑張るよ!」




    ーーー嗚呼……これだから街の子は!




    大きく溜め息をついたサシャは、街生まれの初心者お母さんに真実を告げた


    結果…


    得意気なマルコ母さんの顔は、再び絶望で沈んでしまったのだった…






  6. 6 : : 2014/10/17(金) 22:14:14


    ーーーーーー


    「ほんとにごめん…サシャまで巻き込んじゃって…」


    スズメのすり身を無事雛に食べさせ、その後片付けをしながら、マルコはしきりに詫びていた


    「構いませんよ。これはまだ弓が扱えない子供のうちから持たされてたオモチャみたいなものですし」


    サシャがスリングショットで仕留めたスズメの解体作業中、青い顔をしながら震える手で、それでも最後まで一人で食事の支度をしたマルコお母さん


    「餌を捕まえるのは僕には無理そうだから…サシャが手伝ってくれて助かったよ…」


    「餌の調達ぐらいならお手伝いします。もう少ししたら餌もぶつ切りで大丈夫ですから、解体も楽になりますよ」


    「羽根や内臓もそのままでいいの?」


    「はい。骨もそのままです。この子達は生き物しか食べません。
    餌を丸ごと全部食べることで、全ての栄養をそのまま自分に取り込むんです」


    「そうか…」


    餌として使われなかった残骸を丁寧に土に埋めてから、マルコは感慨深げに呟いた


    「他者の命を奪う行為は、自分の糧として取り込む為の行為でなければいけないんだ…
    僕達も肉は食べるし、当たり前の事だけど…改めて思い知らされたよ」


    真摯な眼差しで語るマルコはサシャの目にはとても好ましく映った


    狩猟の村で生まれたサシャにとっては呼吸をするのと同じ感覚で身についている「命を奪う者が持つ覚悟と奪われる者への感謝」


    これを街で生まれ自分の手を汚す事無く糧を得ることが出来たマルコが、ほんの一部でも理解し、実感してくれたのは、何だか自分の今までの生き方を肯定されているようで嬉しくもあった



    「サシャ、君とこうして話すことが出来て本当に良かった。ありがとう」



    「ーーー!」



    ーーーな、なんですか…マルコって意外と人たらしなんですね…



    街に出て来てから馬鹿にされることの多かったサシャは、マルコの手放しの賞賛に、くすぐったいようないたたまれないような気持ちになり、モジモジと身を捩った


    「ま、まぁ、2、3ヶ月で獲物が捕まえられるほど狩りは甘くないです。そこは私に任せて下さい」


    そう言ったサシャに向けられた、純粋な尊敬と感謝の眼差し



    眩しい!

    眩し過ぎますマルコ!




    「ありがとう!サシャ!」




    屈託の無い笑顔でサシャの両手を取り、硬く握ったそれをブンブンと振るマルコは、山から降りて来て一年余りしか経っていない純朴な少女が、慣れない異性とのスキンシップにほんのり頬を染めている事には全く気付いていなかった



  7. 7 : : 2014/10/18(土) 21:07:01


    ーーーーーーーーー

    ーーーーーー

    ーーー



    サシャとマルコが協力して育んだ命は立派に育ち、今はこうして育ての親の悲哀を癒す拠り所ともなっている


    「いい子ね…」


    命の温もりに触れ、気持ちも落ち着いて来たサシャは、薪割りに戻ろうと振り返った


    「あ…ヒストリア…?」


    そこには無表情に佇むヒストリアの姿があった


    サシャの腕に止まるハヤブサをじっと見つめている


    「その子…」


    「はい。ハヤブサです。ソルって名前なんですよ」


    「サシャが育てたの…?」


    「私とマルコで育てました。この子は双子で、もう一羽はマルコの所に居るんです」


    ヒストリアに興味を持って貰えたのが嬉しくて、サシャは笑顔で答えた



    そうだ…彼女は馬術も得意だった

    小さい頃は牧場で暮らしていたらしいし、動物が好きなのだろう



    「ヒストリア、腕に乗せてみます?」


    コクリと頷くヒストリア


    「爪で傷がつくといけませんから…これを巻いて下さい」


    腰に掛けていた手縫いをヒストリアに渡す


    そして私服の上から手縫いを巻いた腕に、そっとハヤブサを止まらせた


    「……かわいい」


    ソルはヒストリアの腕に移っても、暴れる事無く大人しく、漆黒の瞳をクルクルと動かしている


    「生まれてから丁度二年ですから、やっと大人になる頃ですね」


    「どうして二羽を別々にしてるの?」


    言外にサシャを咎めるような響きが感じられる

    自分とユミルに見立てたのだろうか



    「本当なら巣立ちと同時に離れ離れになるはずなんですが、この子達はそれからもずっと同じテリトリー内で仲良く暮らしていたんです。
    この子の妹、ルナっていうんですけどね、彼女は雛の時に負った傷が原因で翼がちょっと不自由で、長距離飛ぶのも餌を狩るのも苦手だったので…」


    「なら尚更一緒に居させてあげればいいのに…」


    「ルナも今では普通に狩りが出来ますし…この子達はもう大人です。
    自分のテリトリーを持って、つがいを見つけて新しい家族を作らなきゃいけません。
    ソルはそれでも時々彼女の所まで様子を見に行ってるんですよ?」


    「マルコって…ストヘス区に居るのよね?」


    「そうです。鷹はあまり帰巣本能がありませんが、ハヤブサは強いみたいですね。
    100キロ以上離れていても、ちゃんと彼女の元に辿り着きます」


    「……偉いのね」


    ヒストリアの指先がソルの頭を優しく撫でた



  8. 8 : : 2014/10/18(土) 21:50:16



    「ヒストリアはどうなんですか?」


    「……私?」


    「貴女は子供みたいに拗ねたまま、何もせずにユミルとの思い出に逃げ続けるんですか?」


    サシャにもわかっている

    これは逃げるとか逃げないとかいう問題では無い

    どうしようもないのだ

    ヒストリアは調査兵団にとってはエレンと並ぶ切り札である

    彼女の意思で何とかなる事など何も無い


    繰り返しユミルを想うことぐらいしか、今のヒストリアには許されていないのだ


    でも言わずにはいられなかった

    動けないから仕方ないと自分に言い訳して、欲しいものが得られないからと全てを放棄して欲しくなかった


    「ヒストリア、貴女の本当の姿はこんなしょぼくれた女の子だったんですか?」


    ヒストリアの身体が硬く強張る


    それを感じたのか、腕に止まっていたソルがバタバタと飛び立ち、近くの枝に移動した


    「自由に動けないから?だからなんだって言うんです?思い出じゃお腹は膨れません。
    貴女はユミルが居なくなって空っぽになってしまったって言う。
    なら何故ユミルを求めないんですか?
    まさかぼんやり待ってるだけでユミルが手に入ると思ってる訳じゃないですよね?」


    「ユミルは…自分らしく生きる為に行ってしまったんだもの…」


    「ユミルがどう思ってようと、貴女がユミルを必要としているなら全力で求めるべきです。
    その権利は誰にも奪えません。
    ただ…求めるならそれなりの準備をして下さい。
    身体も心も完全な状態でなきゃ、何もはじまりませんから。
    貴女がその気なら、私はいくらでも貴女の力になります。
    なんなら全部捨ててユミルを探しに行きますか?」


    自分でも実現が難しい荒唐無稽な提案なのは分かっていた


    そもそもこの先ヒストリアが壁外への遠征に同行させてもらえる可能性は限りなく低い

    どんなに彼女が願っても、ヒストリアがユミルと再会出来る可能性はほぼ絶望的と言えた


    でもサシャは本気だった


    ヒストリアが望むなら、どこにだってついて行こう


    何だかよく分からない大儀に身を捧げるより、彼女の為に力を尽くして命を落とす方がずっとしっくりくる


    人より勘が鋭く臆病なのに、どんなに逃げ出したい局面でも、大切に思う人を見捨てる事は出来ない

    目の前にいる弱者を救う為なら、恐怖心を越える本能が彼女を動かす


    それがサシャという少女だった


    サシャの言葉に本気の色を感じ取ったヒストリアは、硝子玉のような瞳に小さな光を灯した



    「ユミルは…私を受け入れてくれるかな…?」



    「きっと受け入れてくれますよ。
    もし違っても、それなら追いかけて自分から抱きついてやればいいんです。
    貴女がユミルを求めている事をガッツリ思い知らせてやりましょう。
    こんなに小さな鳥だって大切に思う相手の元に飛んで行くんです。
    ヒストリア、貴女に出来ないわけがない」



    「うん…私はユミルに会いたい。
    彼女に触れたい。
    彼女と一緒に生きていきたい…
    ユミルじゃないとダメなの…
    彼女が居なきゃ私は私で居られないの…!」



    「ならぼんやりしてちゃダメです。
    どんな状況に置かれても、チャンスを逃さないように、しっかり準備しましょう?」


    小さく柔らかな手を取るサシャの、女性にしては大きくて硬い手をヒストリアは力強く握り返す



    「私、ユミルを取り戻すまで諦めない」



    まだあの頃のような女神の笑顔は見られなかったが、その頬に血が通い、瞳が輝くのを見て、サシャは心から嬉しく思った




    ーーーそうです

    そうやって前を向いて下さい

    貴女が私を助けてくれたように、私も貴女を支えます

    だからどんな時も

    希望を捨てないで下さい

    空っぽな中身を貴方自身で満たして下さい…




    祈るような想いで、サシャはヒストリアの手を握り続けていた



  9. 9 : : 2014/10/18(土) 22:42:28



    その日の夕食では、食堂にいた全員が驚くような光景を目にした


    いつもと同じ粗末な食事に、いつもと同じ無表情のヒストリア


    彼女はまるで親の仇を見るような目で目の前の食事を睨み付けていた


    そして決意を込めた瞳でスプーンを握る


    彼女は以前のようなお淑やかな食べ方はしなかった


    かといって、サシャのように口に入るものならどんな物でも美味しそうに、この世の幸せを味わっているかの如く食べるわけでもない



    ただ口に運ぶ

    味わうことも無く、黙々と

    パンを噛みちぎり、スープを飲み干す

    血となり、肉となり、それを動かす力となる糧を、ただただ摂取する



    それはつまり

    ユミルを諦めていないということだった


    生きる事を諦めていない証拠だった




    ーーー私ね、ユミルのお荷物にはなりたく無いの

    ちゃんと自分らしく生きて、強くなって貴女の隣を歩きたいの

    今はまだ空っぽだけど…

    どうすればいいのか何も分からないけど…


    一歩づつ、出来ることをクリアして行って、きっと貴女を迎えに行くから


    だから待っていてね…




    ねぇユミル…

    私食べてばっかりでちっとも外に出してもらえなかったら、ちょっと太っちゃうかもしれない

    でも大丈夫よね?

    いつも私の事軽々と持ち上げてたし…

    なにより巨人になったユミルは力持ちだもの!







    表情を無くした女神の心は、最愛の人と一緒に生きる準備で忙しかった


    限りなく危うい綱の上に辛うじて立っている彼女に怯えや恐怖は無い


    彼女が見つめるものは、自分より頭一つ上にある、強くて美しい鳶色の瞳だけだったのだから…




  10. 10 : : 2014/10/18(土) 23:40:12


    ーーーーーー


    その日からサシャとヒストリアは時間を見つけては体力作りの為の修練をするようになった


    食事をしっかり摂り、身体を動かすようになって、ヒストリアの頬は健康的な赤味を取り戻し、それに連れて心も前向きになったのか、以前よりは口を開く事も多くなっていた




    ーーーしかし

    大きな流れはささやかな想いを胸に必死で前に進もうとする少女にも、容赦なく訪れ、牙を剥く


    ハンジ班の一人、二ファがもたらした報せは、ヒストリアが大切に育んでいこうとしている小さな「希望」をあっさりと奪ってしまった


    人類最強と謳われている兵士長に選択を迫られ、激しい恫喝を受け…



    ヒストリアは自分の中にあったそれを手放すことしか出来なかった



    「私の…次の役は女王ですね…?
    やります。任せてください」



    そしてサシャは青ざめた顔でそう答えるヒストリアに、声を掛けることすら出来ないでいた



    外へ行きたい

    ユミルの元に行きたい


    いつか必ず…



    そう願うヒストリアは、求める場所から更に遠ざかる、高い壁の内側に閉じ込められようとしていた


    万人の幸せの為には一人の少女の希望など、取るに足りないものなのだ…と、残酷な運命が嗤う


    それが彼女の背負うべき宿命だったとしても、こんな風に人を従わせるやり方はサシャの中の正義が許さなかった




    ふざけるな…


    大層な御託並べても、最後は脅して奪って行く


    人を拷問にかける事も、命を奪う事も厭わない殺人集団…


    巨人と何も変わらないじゃないか…


    あんたは強いかも知れない


    なら弱い者はいつまでも奪われ続けんといかんの?



    ミカサもエレンもアルミンも…

    これが正しいと思って

    これは仕方の無い事だと思って

    こんな奴に着いて行くつもりなん?



    私はイヤだ…



    例えこれが人類の為の正義だとしても


    こんなやり方は許せん…絶対に…




    作戦内容を一通り聞いた後、メンバーは実行まで待機を言い渡された


    サシャはまだ足元がふらつくヒストリアに付き添い、我が身に訪れた重圧と先の見えない不安に身体を震わせる彼女の肩を抱いた


    「ヒストリア…」


    呼びかけても答えは無い


    ゆっくり優しく背中を撫で、気持ちが落ち着くように促す


    やがて準備が整ったとの報せを受け、ヒストリアはエレンと共に馬車に乗せられた


    サシャの腕の中を離れる時、彼女はもう震えてはいなかった

    しかし虚ろな瞳は何も映さず

    青白い顔に生気は無い


    それはサシャが実家の村の近くで助けた少女を思い起こさせた




    ヒストリアが行ってしまった後サシャは、部屋に置かれていた小さな文机の前に座り、手紙を書き始めた



    出来る限り簡潔に

    前線で戦った者しか知り得ない、口外禁止の全てをそこに綴る



    この手紙に自分の主観は要らない

    これを読んだ相手がどう思うかが大切だった



    まるで報告書のような無駄の無い文章を、祈りを込めて書いた




    ーーー貴方はこれを読んで何を思いますか?




    どうか…

    私の知る貴方であって下さい…






    サシャは外に出ると、彼女と少年を繋ぐメッセージバードを呼び、その足に宛名も差出人名も無い手紙を結んだ





    そしてソルが空高く舞い上がり、その姿が見えなくなるまでそこにじっと立ち尽くしていた











  11. 11 : : 2014/10/19(日) 00:07:58


    ーーー


    「では準備が整い次第連絡がありますので」


    「ああ」


    新兵達が解散した後、部屋に残ったリヴァイとの詳細な打ち合わせを済ませた二ファは、長椅子に深く腰を沈め目を閉じる兵士長に、物怖じした様子も無く尋ねた


    「あんなやり方で大丈夫なんですか?」


    「何のことだ?」


    「ヒストリアですよ」


    「自分からやると言ったんだ。問題無いだろう」


    リヴァイの答えに溜め息をつく二ファ


    「茶色の髪の子、すごい目で兵長のこと睨んでましたよ?」


    「だからなんだ?どれだけ恨んだ所で、あの場で戦う事を選ばなかったなら認めたのと同じだ」


    「兵長に喧嘩が売れるのはうちの分隊長ぐらいなものです」


    リヴァイの脳裏に飄々とした様子で笑う眼鏡の奇行種の顔が浮かび、小さく舌打ちをした



    「二ファ、お前に迷いは無いのか?」


    リヴァイの問いに二ファは彼女の上官に良く似た、軽い口調ではっきりと答えた




    「迷いまくりですよ。
    でも私には信じるものがありますから。
    迷った時は彼女の背中を追いかけます。
    これは天と地がひっくり返っても変わらない真実ですから」





    「……そうか」




    かつては同じ思いで居てくれたであろう今は亡き部下達を思ったのか…


    それとも彼もまた、自分が信じる者の強靭な意思を持つ碧眼を思ったのか…




    リヴァイの無表情なその口元が一層固く引き結ばれた






  12. 12 : : 2014/10/20(月) 22:03:29



    ーーーその頃

    ストヘス区では坊主頭の憲兵が、元気に街を走り回っていた



    「おい憲兵の兄ちゃん!今日は何処まで行くんだ?」


    店先から大きな声で呼び止められたコニーは、小走りだった足を止め、恰幅の良い店主に笑顔を向けた


    「おっちゃんおはよ!今日は南区のパトロールだ!」


    「丁度良かった、途中にある診療所で婆さんの薬受け取って来てくれ。届けるのは帰りでいいから」


    「おう!分かった!婆ちゃんまだ良くならねぇのか?」


    「歳が歳だからなぁ…最近じゃ気持ちまで弱ってるみたいで、この前巨人が出た時も『私みたいな役立たずが生き残っちゃって申し訳ない』とか言ってたよ…」


    「なんだよそれ!
    大丈夫だ。もう二度とあんな事ねぇようにしっかり護ってやるから安心しろ、って婆ちゃんに言っといて!」


    巨人どころか標準的な少年よりも身体が小さいイガグリ坊主の新兵が、自信満々にそう言うのを、店主は頼もしくも微笑ましい気持ちで見つめた


    「ああ、伝えとく。兄ちゃん、よろしく頼むよ!」


    「任せとけ!」


    「薬代と……これ、持ってってくれ」


    コニーの手に、銅貨と小振りのリンゴ二つを手渡す


    「……おっちゃんー…憲兵はこういうの貰っちゃダメなんだぞ?」


    上目遣いに口を尖らせる仕草が、無邪気な幼児の様で可愛らしい


    「分かってるよ、兄ちゃんにあげたわけじゃない。
    傷んじまってるから、途中で処分してもらおうと思ってな」


    ニヤリと笑う店主に、コニーもそれ以上は何も言わない


    「仕方ねぇなぁ…責任持って片付けてやるよ!」


    言葉とは裏腹に嬉しそうな笑みを浮かべたコニーは、リンゴを齧りながら再び小走りで裏道を駆けて行った




  13. 13 : : 2014/10/20(月) 22:39:47




    「……何やってんだ?あいつ…」


    「今度はおつかいじゃない?」


    「それは見れば分かるけどよ…」


    通りからは死角になる建物の陰に身を潜めたマルコとジャンは、これ以上彼を追っても意味が無いと判断して、早々に追跡を終了させる事にした


    憲兵団支部を出てからここまで、コニーは何度も街の住人から声をかけられていた


    普通に挨拶だけの時もあれば、瓶の蓋が開かないから手伝って、というどうでもいいような小さな依頼まであり、その度にコニーは、朗らかな笑顔でそれに応る


    そして「ちょっと味見して欲しい」とか「沢山あって食べ切れ無いから何とかして」などと言われて渡される果物や菓子類を、次々とその胃袋に廃棄していった



    「あんだけ食ってりゃメシが食えなくなるはずだよ…」


    「確かに…でも僕は言ったはずだよ?顔色も悪く無いし、痩せてきてもいないから、心配すること無いって」


    「チッ……それならそうと、ちゃんと答えりゃいいのに…
    なんでもないとか大丈夫だとか言って挙動不審になるから心配するんだろうが」


    「正直に話したらお前に怒られると思ったんだろ。
    差し入れと収賄の線引きって微妙だからね」


    「食いもん貰ったぐらいじゃ収賄とは言えねぇよ」


    「そんなことは無い。岩塩や香辛料なら立派な賄賂だ」


    「そりゃ貴重品だからな」


    「ならリンゴは?」


    「差し入れだろ」


    「荷馬車いっぱいでも?」


    「それは……ダメだな」


    「一個や二個なら差し入れ、荷馬車いっぱいなら賄賂。
    ならその中間は?一体いくつ目からダメになるんだ?」


    ジャンは暫し考え


    「んー……アレだ、その場で食い切れる量ならOKだ」


    その答えにマルコはにこやかに頷く


    「うん、だから僕もコニーにそう答えたのさ」


    「答えたって…お前!最初から知ってたのかよ?」


    「知らないよ?コニーに収賄って何だ?どれくらい物を貰ったら罪になるんだ?って聞かれたからそう答えただけだ。
    たまに何か貰ったりするのかな…とは思ったけど、まさかここまでだったとは僕も思ってなかったよ…」


    「……いつか腹壊すぞ…あいつ」


    眉間に皺を寄せ、母親のような心配をいつまでもしているジャン



    ーーーこういう所も彼の良さだけど…

    ちょっと過保護かな


    後でコニーが小言を言われるのも可哀想だ…



    「育ち盛りだから大丈夫だろ。
    それより折角一緒に非番取ったんだから、二人でゆっくりしよう。
    コニーから教わった、美味しい肉料理の店にも行きたいし」


    マルコの提案に、ジャンの眉間に寄っていた縦皺は一瞬のうちに綺麗に消えた



    気の置けない親友との美味しい食事



    しかも肉!



    万人共通の魅力的な誘惑に、ジャンの頭はすっかりコニーから肉料理へとシフトした



    ーーージャン、ちょろ過ぎだよ…




    自分が仕掛けたとは言え、そのあっけなさに思わず苦笑してしまうマルコだった





  14. 14 : : 2014/10/25(土) 22:52:08



    「あー食ったぁー!」


    ご機嫌で店から出たジャンは、大きく伸びをするとそのままマルコの背中に覆い被さった


    「こらジャン、重い!」


    「もう食えねぇ…こんなに美味い肉、久しぶりに食ったよ」


    「ここだけの話、店主のお兄さんが王都にも肉を卸してる有名店だから、良い肉が安く手に入るらしいよ」


    「マジか…それもコニーのメモに書いてあったのか?」


    「うん、商会にバレたら吊るし上げ喰らいそうなネタなのに、良く聞き出したよね……って…重いってば!いつまで乗っかってんだ」



    「マルコのケチ」

    ジャンは不承不承背中から離れた



    「まぁ…コニーは良くも悪くも素直だから、人の警戒心を緩めるんだろうね」



    「要するに馬鹿って事だろ?」




    そうかもしれないけど…もう少し言い方が…

    いつもの事ながら、ジャンは口が悪すぎる…

    そう言おうと口を開きかけたマルコに、ジャンは言葉を重ねる



    「でもよ、気をつけてやらないと、おかしな事考える奴にいいように騙されそうだよな。
    今までは好き勝手させてたけど、そろそろちゃんと組織でやって行く上での考え方とか分からせねぇと…」


    「ジャン…」


    驚いたように目を見開いた後、優しい慈愛に満ちた瞳で自分を見るマルコに、ジャンの頬が赤くなった


    「な、なんだよ!初めてお使い出来た時の母ちゃんみたいな顔すんなよ!」


    「いや…やっぱりうちの子は最高だ…」


    「意味わかんねぇよ!てか、頭撫でんな!」


    「ふふふ、お母さんは嬉しいんだよ?ジャンボ」


    「うわぁ!その名前で呼ぶんじゃねぇ!バカマルコ!」



    二人はじゃれ合いながら、復興途中とはいえ以前と変わらず賑やかな通りを、ゆったりとした早さで歩いて行った



  15. 15 : : 2014/10/25(土) 23:09:16


    「あ、ジャン。ちょっと教会に寄ってもいい?」


    恐らくは一番被害が大きかった地下道入り口周辺に差し掛かった時、マルコがジャンの肩を引いた


    「お?ああ…構わねぇけど…」


    マルコの母と姉がそこで亡くなっていたことはジャンも聞いていた


    あの日からマルコは時間を見つけては教会に足を運んでいるらしい
    と、コニーやマルコと同じ班の班員は言っていた


    ジャン自身も巡回警備の時に、ここに立つマルコを何度か見かけた事がある


    「俺、先に帰ってようか?ゆっくりしてこいよ」


    雑務の途中で立ち寄るのでは、落ち着いて故人を偲ぶ事も叶わなかっただろう

    せっかくの非番、ゆっくりと家族水入らずで話させてやりたいとジャンは思った


    しかしマルコは笑顔で首を振った


    「いいんだよ。ちょっと鳩小屋に用があるだけだから」


    「鳩小屋?」


    マルコの口から出た意外な言葉に、ジャンは首を傾げる



    王政の庇護の元、絶対的権力を持つウォール教は、独自の情報伝達網を持っていた

    数こそ少ないが僧兵を備える施設も擁しており、教団内の連絡や施設間の情報伝達の為の伝書鳩は、三兵団以外では教団が持つものが主であった


    「ちょっとここで待ってて」


    マルコは教団施設の入り口でジャンを待たせ、未だ瓦礫の撤去が全て終わっていない施設内に入ると、作業を進めている人夫達の間を縫って鳩小屋のある塔へ向かう


    塔もまた半ば程まで崩れていたが、鳩達は隣接して作られた仮設小屋に移されているようだった


    マルコが信者だったというのは今まで聞いたことは無かったが、母親と姉がここで亡くなったというなら、そういうことなんだろう…


    ジャンはいつも近いところにいる親友の、知らなかった部分を思って少し寂しい思いがした



    「お待たせ、ジャン」


    「おう、用は済んだのか?」


    程なくして戻ったマルコは、入る前と変わらぬ様子で先に立って歩き始める


    「うん。これからどうする?支部に戻ってゆっくりするかい?」


    背中越しにそう尋ねられ、何故か軽い違和感を覚えたジャンだったが



    「んー…そうだな…別にやりたい事もねぇし、戻るか」



    二人は崩れた教会を後にして、真っ直ぐ支部へと向かった




  16. 16 : : 2014/10/25(土) 23:26:43



    憲兵団支部の外門をくぐると、風を切る羽音と共に一羽の鳥が石造りの塀の上に止まった


    「ルナ?」


    濃灰色の羽を持つ小型の猛禽類は、マルコが訓練兵時代から育ててきた愛鳥だと、ジャンも承知している


    「なんだ?ここまで降りて来るなんて珍しいな」


    巣を作らず、岩壁や木の洞を利用して生活するハヤブサは、石造りの支部の高い見張り台の上部にある横穴に住まい、滅多に下には降りてこない


    ルナは差し出されたマルコの腕に一瞬止まると、直ぐに近くに植えられた木々の一枝に移動した


    「ソルも来てるみたいだ…」


    二人が近づくと、二羽のハヤブサが並んでこちらを見下ろしていた



    「足になんかついてるぞ?」


    「うん、サシャからの手紙かな?
    ソル、おいで」



    再びマルコが腕を差し出すと、今度は手紙を付けたソルの方がその腕に降りて来た



    「いい子だね…お疲れ様」


    マルコはそう労い、足に結ばれた紙を解く

    小さな紙にびっしりと書かれた細かい文字は、ジャンの位置からは何が書いてあるのか読み取ることは出来なかった


    「サシャの奴何だって?食いもんが貧しいとか愚痴ってんのか?」


    戯けた口調でそう言って、マルコの肩を抱くようにして覗き込んだジャンは、そこに書かれている内容を見て愕然とする



    「……おいマルコ…これ…」



    マルコもまた険しい顔でサシャからの告発文を見つめていた



    「あいつ…こんなもんマルコに送り付けて来て…どういうつもりだ」



    何度も読み返してその内容を噛み締めているのか、マルコに動きは無い



    「マルコ?」



    ジャンの呼びかけに、ようやく顔を上げた彼は、緊張しながらも決意を滲ませた声音でジャンに言った



    「ジャン、コニーを探して来て。
    出来るだけ急いで」



    「おう…お前はどうするんだ?」



    「僕には…やらなきゃならない事がある。済んだら君たちの部屋へ行くから、コニーにはジャンから説明しておいてくれ」




    そう呟く彼の瞳は声の緊迫感とは裏腹に酷く落ち着いており、再び感じたその違和感にジャンの胸は不吉な予感にざわめいた




    ーーーマルコ…俺はお前の事何も知らなかったのかもしれねぇ…



    出来ることなら彼がこれから行く場所について行って確かめたかったが、マルコはそれを許さないだろう



    ーーーとりあえずはコニーだ


    ジャンは後ろ髪を引かれつつも、今来たばかりの通りを駆け戻って行った



  17. 17 : : 2014/10/26(日) 00:10:03




    ーーー翌日

    いつもと変わらぬ朝を迎えたストヘス区


    早朝にも拘らず既に一日の活動を始めた人々によって街はゆっくりと目覚め始め、平和で穏やかな生活音に満たされて行く


    昨夜から一睡もしていないジャンは、その様子を横目で眺めながら、冴え冴えとした意識のまま壁の内門へ向かって歩いていた



    『それほど緻密な計画じゃないから、そんなに緊張しなくてもいい。
    むしろ計画通りに行かない事を前提に、その場でお前自身が判断してくれ』



    昨夜マルコが最後に言った言葉が、ジャンの頭を何度もリフレインする




    ーーーお前は俺に何をさせようとしてるんだ…



    答えは分かっている



    計画が成功しても失敗しても、マルコが求める判断は一つだけだった



    本当なら殴りつけてでも彼をこちらに引き留めるべきだったのかもしれない…


    それでも出来なかったのは、既にジャンの奥深くにまでマルコの存在が入り込んでいたからだった

    彼が望む判断が正しいと、ジャンの中の深い所では理解してしまっていたから…




    ーーー残念だが俺はお前が思うような『いい子』じゃねぇぞ


    お前がどう思おうと、俺は最後まで諦めない





    無意識にその拳を固く握りしめ


    どれだけ自分を鼓舞しても


    大切なものを失う恐怖に怯える本能が、ジャンの身体を小さく震わせた






  18. 18 : : 2014/10/28(火) 11:22:46

    ーーーーーー



    「アルミン?」


    黒曜石のように深く落ち着いたミカサの瞳に覗き込まれ、アルミンは思考の世界から現実へと意識を戻した


    緊張すればするほど彼の頭はくるくると良く回り、無意識のうちに膨大な量の情報処理と仮説、推論を組み立て続ける


    ミカサやサシャのように反射的に行動出来るという兵士としての資質が弱いアルミンにとって、考えることこそがそれを補う唯一の武器だった


    「あ…ミカサ…」


    「考えることは大切だけど、今はしっかり状況を見て」


    「……分かってる。ごめんね…」


    荷馬車の御者台に乗り手綱を握るその手に、思いの外強い力が籠っていた事に気付き、息を吐いて緊張を逃がす


    「サシャ、貴女は大丈夫ね?」


    「はい」


    ミカサの問いに短く答えるサシャ




    これからここをエレンとヒストリアを乗せた霊柩馬車が通過する



    中央憲兵による妨害の為、当初の計画通りには行かなかったものの、なんとか目標を見失う事無くここまで来た


    ーーー後少し…


    エルヴィン団長が民間人殺害の冤罪で捕らえられ、調査兵団はこの世界にとって義賊に成り下がってしまった

    それでもそれを乗り越えて前に進んで行く以外、自分達にとっても、そして壁内の人類にとっても未来は無い

    そう信じて茨の道を走る


    例え共に戦う仲間を喪っても


    自らがその手を血で染めても…



    アルミンの任務はウォールシーナ内に入った霊柩馬車の追跡だった


    ミカサとサシャはリヴァイ達の馬を引き、立体機動で壁を越えて来る彼らと合流する


    中央憲兵にこちらの動きが読まれている確率は五分五分


    その可能性を考慮して、幾つかの作戦が臨機応変に選択される予定となっていた


    「サシャ、そろそろ移動しよう」


    ミカサとサシャが待機場所へ向かおうと馬を回した



    ーーーその時



    鳴動に良く似た重い音が三人の耳に届き



    「!!」



    ストヘス区とシーナを繋ぐ門扉が彼らの前でゆっくりと閉じていった



    「どういう事?!」



    ミカサが馬から飛び降りると、開閉を操作する為の小部屋へと走る



    「ミカサ!」



    パンッ!!



    アルミンの声に被るようにライフル銃の乾いた音が響いたーーー




  19. 19 : : 2014/10/28(火) 11:59:21




    ーーー時が止まったかのような静寂の中


    アルミンは信じられない人物の姿をそこに見た


    記憶の中の彼と全く変らぬ穏やかな表情に、手に持つライフル銃が異様な禍々しさを感じさせる


    「ミカサ、サシャと一緒に荷馬車まで下がってくれるかな?」


    銃口をミカサに向け、操作部屋から現れた少年は、落ち着き払った口調でそう言った


    「どいて、マルコ…」


    ミカサがブレードを抜き、強行突破の姿勢を見せても、彼は怯む事無くこちらを見据えている


    「無駄だよミカサ。こちらを操作しても、ストヘス区側の操作盤はジャンがロックを掛けている」


    「……一体…何がしたいの?」


    その問いかけに、マルコは微かに笑った


    「アルミンと少し話しがしたかったんだ」



    ーーー僕と…?



    アルミンにはこの状況の中で彼が自分に何を伝えたいのか、思い当たる事は何も無い



    「あまり時間が無いんだよ。恐らくもうじき君たちの上官と中央憲兵の銃撃戦が始まる。
    夕べから街のあちこちに物騒な方々が滞在していたからね」



    中央憲兵と調査兵団の精鋭が居ることを知りながら、両者の妨害を仕掛けたっていうのか…?


    それほどの危険を冒してまで僕に伝えたいことって…


    彼の性格から考えても、激情に駆られて暴挙に出るとは考えにくい

    いや

    激情を煽るような事をした覚えも無いのだけれど…



    とにかく自分に何か用があるのは明らかだ

    アルミンは荷馬車から降りるとミカサの隣まで行き、彼女の前に立った



    「時間が無いんでしょ?」



    「アルミン!」



    「ミカサ、少しだけ下がっていて。大丈夫だから」



    『アルミンには正解を導く力がある』

    そう信じてこれ迄の危機を幾度と無く彼の判断に委ねて来たミカサは、その言葉に静かに後ずさる


    しかし鋭い視線はマルコから逸らさず、ブレードを持つ手も緊張を緩めることは無かった



    「ごめんねアルミン、銃はこのまま構えさせてもらうよ。
    君の一声で僕の首は一瞬にして身体から離れるだろうからね」


    「構わないよ。で、僕に話って?」



    マルコは銃口をアルミンに突きつけたまま、静かな口調で話し始めた



    「ねぇアルミン、エレンがあんな風に巨人に憎しみを持つようになったのは、お母さんを目の前で巨人に殺されたからだったね?」


    「うん…そうだよ。でも彼は壁の外の世界に憧れていた。
    だから巨人と戦う事は彼にとって母親の死よりも前に決まっていたんだ…」


    「素晴らしいね。勇敢で強い意志を持つ、人類にとっての英雄だ。
    そしてアルミン、君も後ろに控える軍神と一緒に彼に寄り添い、その稀有な知力を駆使して彼を助けて来たんだね」


    「……エレンがどうかしたの?」


    「うん。彼が人類の敵、親の仇を倒す事が正義だというなら…」





    背中でミカサの気が強くなるのを感じる






    「僕がここでエレンを倒しても、それは正義だよね?」







  20. 20 : : 2014/10/28(火) 12:41:15



    マルコがエレンを傷付ける意志を持つと分かり、ミカサの纏っていた攻撃の気ははっきりとした殺気に変わった



    「……どういう事?エレンが君の親の仇だと?」



    混乱するアルミンとは裏腹に、マルコは昔話でもしているかのような穏やかな口調で答えた



    「ストヘス区に突然現れた二体の巨人は、街を破壊し、多くの命を奪っていった。
    壁が壊されなければ平和な暮らしを続けて行けると信じ、ただ護られているだけの人々にどんな罪があったんだろうね?
    君のようにいつかはこうなると予想し、危機感を持たなかった罪なのかな。
    多分僕の母と姉もそんな罪深い人間の一人だったんだ。
    だから奪われたんだよ。
    息子が三年間寝食を共にして来た仲間が掲げる正義に、あっけなく奪われてしまった」



    「!!」



    「アルミン…どいて…もう話す必要は無い」



    背後からミカサの低い声が聞こえてくるが、アルミンはマルコの言霊に縛られ動くことが出来なかった


    元々社交的とは言えない性格のアルミンは、限られた友人達との交流によって狭くて深い人間関係を構築していた

    異端思考だと幼い頃から責められ、万人に受け入れられる事を早くから諦めていた彼は、広く浅くコミュニケーションを取る努力をはなから放棄し、煩わしいとさえ思っていた


    そんな彼は自分の導いた結果が友人の家族の命を奪ったと知り、それでも上手く言葉を紡げるだけの術を持たない


    昔から信じ続け、とめどなく溢れ出ていた彼の持論は、人の命を奪ったという残酷な現実の前では子供の戯言のように薄っぺらく思えた



    「……僕達が…君の家族を…?」



    「アルミン!貴方の判断は間違っていなかった!
    あの時はああするしか無かった…
    戦わなければ奪われるのだから!
    私たちが護るものの為には仕方が無かった…
    どいて!今すぐ彼を排除して、門を開ける!」



    ミカサが呆然と立ち尽くす幼馴染の背に向かって声を張る

    それでも動かないアルミンに、マルコは更に言葉を重ねた



    「うん、そうだね。
    大きなものを護る為には小さな犠牲は必要なんだろう。
    でも君は王政が壁内全土の人類を護る為に二万人の口減らしをした事に憤慨していたね?
    二万人はダメだけど、100人なら構わないって事かい?
    今までに一体何人の命が彼の為に奪われたんだろうね…
    彼を護る為に…
    彼を人類の希望として掲げる君たちの為に…」


    そう言いながら、昨日の昼にはジャンとそんな話をしていたな…
    と、マルコは穏やかな気持ちで思い出していた



    「犠牲は小さければ小さいほどいいに決まってる」



    マルコはアルミンがよく知る、彼独特の少し秘密めかした声音で続けた



    「だから提案するよ、アルミン。
    たった一人が犠牲になれば、壁内から脅威が去る、その方法を…」



    「たった一人…それがエレンだって言うの…?」



    「彼がライナー達と一緒に行けば、人類は再び安寧の時を得られるらしい」



    「そんな!誰がそんな事…!」



    「聞いたんだ。本人から。だから間違いは無いよ。
    大義の前には小さな犠牲は仕方のないことなんだろう?
    ならば君の大切な英雄を差し出せばいい!」




    その時

    アルミンにとっては耳慣れた、激しい爆音と稲光が壁の向こうで起き、微かに地面が揺れるのを感じた



    「時間だ、アルミン。
    今ストヘス区に再び巨人が現れた。
    でも大丈夫、今度は誰も傷付かない」


    「エレン!」


    対峙する二人を避けて壁に走るミカサを、もうマルコは止めなかった





    「一体誰がこの壁内での安寧を厭わしいと思ったんだい?
    外の世界へ飛び立つのは君たちの自由だ。
    けれどここに住む大多数の人々は自分の周りにある小さな平安を護って生き、そして小さな幸せの中で死んで行くんだ。
    その権利を奪い取る正義を誰も求めてはいない!」






    マルコの叫びに応える言葉をアルミンは見つけられなかった





    突然現れたかつての友人に『奪う者の覚悟』を突き付けられ、まだ若く迷いを包括している彼の正義は、土台部分から危うく揺らいでしまっていた






  21. 21 : : 2014/10/31(金) 19:58:53


    ーーーーーー



    その少し前


    ストヘス区側では、アルミン達がシーナへ入った事を確認した後、ジャンとコニーが壁門周辺の完全閉鎖を行っていた


    小さな支部の中では、一ヶ月も経てば大体の兵と見知った顔になる

    開閉操作小屋の見張りは酒と金で簡単に交代出来た


    問題は門を閉ざす事でそこに留まってしまう市民達の誘導だったが、街の住民に広く顔が知られているコニーが「ごめんなー、ほんの半刻ぐらいで点検済ますから、ちょっとだけ近づかないで待っててくれ」といつもの無邪気な様子でお願いすれば、人々も仕方ないと苦笑しながら応えるしかなかった



    ほんとにあいつら巨人だったのか?



    昨日ジャンからその話を聞いた時は下手な冗談だと笑ってしまったが、その後戻ってきたマルコの計画を聞き、こうして実際に大それた規則違反を犯してしまった今では、それが正しいと思わざるを得なかった



    『巨人の中にいる人物は自分から外に出てくる。
    項に近い部分に軽く傷をつける程度にしてくれ。
    また生えてくるとはいえ、逃げられなくなるから手足を切り落とすなよ?
    その後は項以外の脚や腕、身体にもブレードで傷を付けるんだ。
    蒸気がなるべく多く辺りに広がるようにね』



    なるべく浅く…なるべく沢山の傷を…



    相手も共犯で知性を持ったままとはいえ、巨人に取り付き身体を削ぐという行為は、慣れることの無い緊張感を彼に与えていた



    ジャンは門を塞ぎ続ける為に操作小屋から離れられない


    やっぱり俺よりジャンに任せた方が良かったんじゃね?


    昨日からそう提案してはマルコにやんわりと否定されて来た


    『これはコニーがやるから意味があるんだ。
    大丈夫、お前なら絶対上手くやれる』



    計画が動き始めた今となっては、その言葉を信じるしかない



    「ちくしょう…もし失敗しても、恨むなよ?」


    コニーはこれから自分が項を削ぐ相手の顔を思い浮かべると小声で呟いた


    先程からひっきりなしに銃声のような破裂音がコニーの耳に届いている


    そろそろ来る…


    トリガーに掛けた指に軽く力を込めたその時

    一台の霊柩馬車がこちらに向かって疾走して来るのが見えた





    ーーー来た!





    かなり速い速度で走って来た馬車は、閉ざされた門を確認して咄嗟に減速を試みるが、興奮状態の馬は高く嘶き足元を乱す


    辛うじて静止した馬車の前に人影が飛び出るのと、轟音が辺りに響き渡るのはほぼ同時だった




    ドオォォォォォォ!!




    ーーーやべぇ!本物だ!





    巨人の身体はそれほど大きくはない


    巨人化したエレンの半分ほどだが、それでもこの街中に7メートルもの異形の姿があることは、まるで悪夢のような光景だった


    巨人は逃げる市民には目もくれず、真っ直ぐに馬車に手を伸ばすと御者と馬を掴んでそのまま握り潰した


    ジャンが馬車に向かって走り、コニーは近くの民家の屋根に取り付く


    そして衝撃で蓋が開いた棺桶の中から、巨人の手がヒストリアを摘み上げ、それを合図にコニーは屋根から飛び降りた


    「うわぁぁぁぁぁ!」


    派手な掛け声と共に、出来る限り項に近い部分に軽くブレードを当てる


    刃が当たる前から微かに上がっていた蒸気が、傷付けられることによって更に激しい熱風となってコニーを襲った


    討伐ならばここで距離を取れるが、更に身体を傷つけなければならない為、熱気から逃れるように肩から腕、体躯へとブレードを走らせる


    吹き上がる蒸気はコニーの小さな身体を包み込んだまま、あっという間に辺り一帯を真っ白に染めた



    ーーークソあちぃ…



    息をするのも困難な蒸気の中、巨人の身体を斬りつけながら地面まで降りたコニーは、熱風に当てられてひりつく頬を冷たい石畳に付け、そのまま意識を失った





  22. 22 : : 2014/10/31(金) 20:24:12



    ーーーーーー




    「ユミル!ユミル!ユミル!ユミル!」


    「あ、ああ、うん、ユミルだ…間違いない…だからヒストリア、ちょっと落ち着け…な?」



    縛られたままのヒストリアを抱え、ここ、地下道の奥へと逃げ込んだユミルは、口枷を外した途端、狂ったように自分の名を呼び身体を押し付けて来るヒストリアを抱きとめたまま、その勢いにすっかり圧倒されてしまっていた


    「な?ちょっと離れろ。このままじゃ縄が解けねぇから…」


    しかしヒストリアはイヤイヤをするように大きく首を振りながら頭をユミルに押し付けて来る


    このままじゃ芋虫状態のヒストリアに押し倒されて身動きが取れなくなる

    仕方なくユミルは禁句を口にした




    「なぁヒストリア、お前太ったか?」




    その効果は絶大だった

    さっきまでベッタリと身体を押し付けていたヒストリアが一瞬で離れる

    よくもまぁ、両手両足縛られた状態でそんなに機敏に動けるものだ…


    「……だってサシャがちゃんとご飯食べないとダメって言うし…だからなるべく身体を動かすようにはしてたけど…でもどうしても筋トレ中心になっちゃうから…やっぱり筋肉って重いんだよきっと…ほら、ミカサだってすらっとしてるけど結構重いでしょ?…」



    「うんうん」



    モゴモゴ言い募るヒストリアに適当に相槌を打ちながら、ユミルは手際良く縄を切っていく



    「よし!もういいぞヒストリア。
    ちなみにさっきのは冗談だ。
    相変わらずお前は羽が生えた天使みたいに軽かった!」



    「!!」



    「ごめんな、ヒストリア」



    ヒストリアは笑顔で両手を広げるユミルの胸に再び飛び込んだ




    ーーー誰も自分を愛してくれないと思っていた

    それが当たり前すぎて、周りの好意は全て自分に利用価値があるせいだと思い込んでいた

    だからクリスタは人々に与え続けた

    対価としてささやかな愛情と居場所を確保する為に




    幻が消えてしまうのを恐れるかのように、必死でしがみつくヒストリアの背中をユミルは優しく撫で続けた



    ーーー自分の為の人生をやり直すつもりだった

    もう人の為に生きるのはうんざりだ、そう心から思っていた

    なのに愛情に飢え、空腹な事にすら気づいていない少女に、生きる糧を与え続けてしまった

    いつしか彼女の幸せを自分の幸せと錯覚してしまうほどに




    「ねぇユミル?」


    「なんだ?」



    「次はもう無いからね?」



    「…………………ハイ」





    惜しみなく与える女神は、実はとんでもなく強欲な肉食女子だった


    そして


    一見独善的で利己主義者に見える巨人能力者の少女は、実は愛情深い人情家であった




    二人は薄暗い地下道で、いつまでも……






    「おい、傷心の青少年の前で、イチャイチャしてんじゃねぇよ」







  23. 23 : : 2014/10/31(金) 21:24:08




    突然掛けられた無粋な声に、それでも二人の身体は離れない


    「うるせぇ馬野郎。今取り込み中だ。
    エレンだけ置いてとっとと失せろ」


    振り向きさえもしないでそう言い放ったユミルは、次の言葉を聞いて愛する少女を突き放し立ち上がった




    「残念だが死に急ぎはここに連れて来てねぇよ」



    「んだと?!」



    「お前らにはそいつだけ渡す」



    「どういう事だ!約束が違うだろう!」



    激昂するユミルを見て、ジャンは冷笑を浮かべた


    「マルコがお前らとどんな約束をしたのか知らねぇが、切り札二人とも手に入れようなんて虫がよすぎるとは思わねぇのか?」


    「知るかよ!大体ヒストリアはお前らにとっての切り札で、エレンがこっちにとっての切り札だろう!」




    「あー…ユミル?チェンジはしないよ?」


    ヒストリアの上目遣いに、殺気が籠る



    ーーーやだ…この子コワイ…



    ユミルは吹き出る冷汗を手のひらで拭った




    「なぁ、お前らいつまでコソコソと逃げ回るつもりなんだ?
    もう正体もばれちまってるんだ、いい加減表に出て、腹割って交渉する気はねぇのかよ」



    「さぁな。私は偶々あいつらについて行っちまっただけで、あいつらの事情は正直関係ない」



    「なら裏切り者の兄貴に伝えてくれ。俺たちがお前らにとって必要な切り札を預かる。担保にこっちの切り札の女神を預けるってな。
    後は交渉次第だ。
    大体なんの理由も明かさねぇでいきなり奇襲仕掛けてくるなんて、全力で抵抗されるに決まってるだろ。
    人類舐めんなよ、このホモゴリラ!」



    「あー…うん、最後の言葉までしっかり伝えとくよ。
    ってか…別にお前ら憲兵は素直にエレンを渡して、揃ってゴリラの国に帰ってもらった方が都合がいいんじゃないのか?
    あいつを後生大事に護ってんのは、調査兵団とミカサぐらいだろう」


    ユミルの言葉をジャンははっきりと否定した





    「それじゃ大事なもんが護れねぇんだよ」






    「……ほぉ…お前もゴリラの仲間だったか」


    「うるせぇ、一緒にすんな」


    「まぁ、せいぜい命は大事にするんだな」


    「どういう意味だ」


    「お前らの敵は巨人だけじゃないって事だ」


    「上等じゃねぇか。
    壁外にも内地にも楽園なんかどこにもねぇ。
    誰かにとっての楽園は、別の奴にとっての地獄だ。
    なら地獄の中で最期まで足掻いてやるよ」


    「へぇ…ずいぶん勇敢になっちまったなぁ?」


    「大事なもんを無くす怖さに比べたら屁でもねぇな」



    ジャンは自分が言った言葉に怯える気持ちを悟られないよう、無理矢理口の端を持ち上げた




    ーーーなぁ、マルコ…

    俺はお前の事全部分かってなかったかもしれない

    だけどお前が俺に語りかけてくれた言葉の一つ一つに嘘は無かった


    自分らしく有れ

    たとえ結果がどうであったとしても


    反省はしても後悔はするな

    弱さを認め、それでも最善を尽くす事を諦めるな



    お前は俺に言った

    『ジャンは強い人ではないから、弱い人の気持ちがよく理解できる。
    それでいて現状を正しく認識することに長けているから、今何をすべきかが明確にわかるだろ?』


    ああ…わかる


    誰かを切り捨てるくらいなら自分が犠牲になるような馬鹿野郎は、俺みたいな大馬鹿野郎がついてなきゃダメなんだって事がな


    エレンを奪う代償に自分の身を捧げる覚悟だったんだろうが、恐らくお前じゃ役不足だ



    だから俺は最善を尽くす


    お前の為じゃ無い


    弱い俺が、それでも俺らしく生きて行く為に勝手にお前を護る



    文句があるならいつでも聞いてやる



    だからーーー





    必ず戻って来いよ、マルコ…






  24. 24 : : 2014/10/31(金) 22:21:29




    ーーーーーー



    ーーー3日後

    調査兵団トロスト区支部


    「おい、やっとあのガキが目を覚ましたらしい」


    そうリヴァイに言われ、ハンジは小さく安堵のため息をついた


    「良かったよ…このまま目覚めなかったら、私達は本当に全てを失う所だった…」


    「チッ…あの程度の躾で死んじまうようなら、どうせ大した情報は引き出せねぇ」


    「どんな根性論だよ。
    あの子は折れた歯がすぐ生えて来るようなエレンとは違う。
    なんの変哲もない普通の少年兵だ」


    「その普通のガキに、俺たちも中央憲兵も出し抜かれたんだがな」


    「巨人能力者が2位から5位までを占める104期生の中で7位の成績だったんだ。
    まぁ、それなりの人物なんだろう。
    そう考えると…うちのミカサの首位は化け物越えだね」


    ハンジは手元に広げていた資料をまとめると、席を立った


    「昨夜届いた彼の身辺調査書を見たんだけど…もしかしたら有益な情報が得られるかもしれない」


    「ほぉ…そりゃあ楽しみだ」



    二人は連れ立って少年兵が収容されている地下牢へと向かった






    暗く湿った地下牢には、普段なら排泄物を処理する為の穴が有る以外何も無い空間だったが、今回に限っては粗末な寝台が一台、部屋の中央に置かれていた


    そこに身体を横たえる人物は、未だ朦朧とした意識の中、全身を包む痛みにまだ自分が生きているのだと感じ、己の役目が終わってはいない事を悟った


    意識が覚醒するにつれて次第に激しくなる痛みは、寧ろ思考をクリアにする



    ーーーぼんやりして下手な事を言わないようにしないと…



    気力を振り絞り身体を動かすと、脇腹と右腕に激痛が走る


    骨までいってるな…


    冷静にそう判断した彼は、なるべく患部に負担がかからないよう、再び身体を弛緩させ、その時を待った





    「やぁ、お寝坊さん、おはよう!」


    半刻後、この場には相応しく無い賑やかな声と共に現れた女性兵士は、なんの反応も見せない彼を見て、訝しげに眉を顰める


    「なんだよモブリット、彼まだ寝てるんじゃ無いの?」


    「いや…確かに意識は戻っていました」


    「寝てるだけなら無理やり起こせばいい」


    「やめてくれリヴァイ。
    これ以上待つのはもう勘弁だ」


    「起きてますよ…ハンジ・ゾエ分隊長」


    久しぶりに出す声は掠れて聞き取りにくかったが、女性兵士はその反応を見て大袈裟に喜んだ


    「おお!改めておはよう!ちなみに今の私の役職名は調査兵団団長だ。
    どうでもいいけどね」


    「失礼しました。団長…おはようございます。
    すみません、身体を起こしたいので…どなたか手を貸して頂けませんか?」


    「別にそのままでも構わないよ?まだかなり身体が痛むだろう?」


    ハンジの気遣いを彼ははっきりと断わった


    「いえ。会話をする時は視線を合わせるものだと教えられました」


    「ふーん…そう…
    それも君のお祖父様に教わったのかな?
    それは後でゆっくりと聞かせてもらうとしよう。
    モブリット、彼を起こしてあげて」


    「はい」



    中に入って来た兵士に手を添えられ身体を起こした彼は、腫れた瞼の隙間から、鉄格子越しに自分が出し抜いた組織の長と対面した





    「ずっと君と話したくてうずうずしてたんだよ?マルコ・ボット君」






    「光栄です」






    調査兵団の切り札二人を奪った少年の事情聴取は、陰惨な空気が漂う地下牢の中、穏やかな口調で始まった




  25. 25 : : 2014/10/31(金) 23:01:49



    「さて…先ずは君が巨人能力者と通じていた事情から聞かせてもらおうかな。
    あ、最初に確認しておくけど、本当の事を包み隠さず話してね?
    君のような未来ある若者の身体を再起不能になるまで痛めつけるような事は、私達もしたくないんでね」


    「わかってます。僕が知る範囲の事は全てお話しすると誓いますよ。
    ただ一つ…正直な少年にはご褒美を下さい」


    「……そうだね…多分そう言われると思って用意はしてある。
    君の話が私達にとって有益なら、それを君にあげよう」


    「ありがとうございます」


    「で?君はどうやって彼らと接触を持ったんだ?」



    マルコはアニが外泊した件と、その後ストヘス区で起こった調査兵団の捕獲作戦から、彼女が巨人能力者だと確信した


    「僕は彼女の部屋を調べさせて貰いました。憲兵として内地にいる彼女がどうやって壁外遠征の日程を知ったのか、僅かな手掛かりでも無いかと思って…」


    郵便でのやり取りは無いだろうと予想していた

    兵役者専用郵便は日にちが掛かりすぎるし、民間のものは検閲が入る

    念のため支部の郵便記録を見たが、アニ宛のものは一通も無かった


    早馬は論外だとして、後考えられるのは鳩しかない


    そして軍用鳩以外に鳩を飛ばすとしたら教会しかなかった


    そこまでの当たりを付けてアニの部屋を調べたマルコは、彼女の私物が入った衣装行李の中に、ウォール教信者の証である念珠と、鳩の足に付け差出人を特定する為のリングを見つけた



    「後は彼女の代理人と称して鳩を飛ばしただけです。
    教団の鳩を一般市民が利用することは本来出来ませんが、教団信者であれば袖の下次第で簡単に使えるようですね」



    「手紙にはなんて?」



    「彼女から預かっているものがあると。
    それからストヘス区に一番近いローゼ内の森を指定した地図だけです。
    余計な事は書きませんでした。
    相手が調査兵団に近しい人物だとは思っていましたが、組織の規模も構成も全く分からなかったので…」


    「君は自分の名を明かしたのかい?」


    「はい。鳩は数日後に戻って来ました。返信はありませんでしたが相手が手紙を受け取ったのは確実です。だから僕はその日からなるべく一人になる時間を作り、教会の跡地に立つようにしたんです」


    「組織が大きなものなら君を特定して接触を試みるだろうからね。
    でも接触は無かった…そうだね?」


    マルコは頷き、だから彼女の仲間は少人数か、もしくは自由に動ける機動力を持たないと思ったのだと言った


    「結果はその両方でしたけどね」



    「成る程ね…いつからライナー・ブラウンとベルトルト・フーバーが仲間だと知ったんだ?」



    「エレンとヒストリアが移送される前日ですよ」



    ーーーここからが本番だ…


    サシャの告発を隠し、ジャンとコニーを護らなければならない

    上手く働いてくれ…僕の頭…



    薄暗く、しかも表情が分からないくらい顔が腫れているのは、寧ろ好都合だった


    マルコは注意深く言葉を選んで続けた



  26. 26 : : 2014/11/03(月) 08:56:28



    「その日、僕は鳩小屋に返信が来ていないか確認に行きました。
    期待はしていなかったのですが、習慣のようになっていたので」


    そしてライナーたちからの返信を受け取った

    指定された場所に向かうと一言だけ書かれた手紙に、彼らの名前は無かった

    マルコが彼らの名前を知ったのは、ソルが運んで来たサシャからの告発文を見た時だ



    「その手紙には連名で彼らの名前が記されていました。
    僕が名を明かしていた事で、アニからの預かり物という口実に信憑性を感じたのかもしれません」



    「それで君は彼らに会いに行ったんだね?」



    「はい」



    「さて、ここからが肝心な所なんだけど…彼らと何を話したんだ?」



    「僕は彼らと……」



    マルコの視線が一瞬逡巡するように彷徨ったのを、ハンジとリヴァイは見逃さなかった



    「……何も話していません」



    「クソガキが…やっぱり身体に聞かねぇとダメらしいな」


    「ここまで話しておいて、それは無いよね…」


    二人の声に苛立ちと恫喝めいた響きが混じるのを聞いて、寝台の上の少年兵は明らかに動揺した


    「本当です…信じて頂けないだろうと思って正直に話すのを躊躇いましたが…
    指定した場所にはユミルしかいなかった。これが事実です」


    「ふーん…」


    まだ疑惑は晴れていない

    二人の視線はそれを雄弁に語っていた


    「ユミルの話では、今自由に壁内を動けるのは彼女だけだという事でした。
    彼女は彼らの代理で現れたんです」


    「続けて」


    「アニからの預かり物を渡すように言われ、僕は彼女をストヘス区へと招き入れました」


    「何故彼女を?」


    「彼女には預かり物を手に入れる以外にも目的がありました。
    彼女はヒストリアとエレンを奪う為に憲兵である僕と接触を持ったのです。
    だから僕はそれに協力した。
    理由は…アルミンから聞いていますよね?」



    先ほどまでは怯えの色が濃かった少年兵の言葉が、そこだけは強い意志を感じさせるものに変わった


    「なんであいつがあの二人の移送を知ってやがった?」


    リヴァイの目が細められる


    「さぁ…それは僕にも分かりません。僕は壁内にとって禍根となるエレンを彼らに渡せるなら、他の事はどうでも良かった…」


    「チッ…腐った野郎だ…」


    「あなた方の様に自分の私利私欲とは無縁の、崇高な使命に命を掛けられる人から見たら僕は腐り切っているでしょう…
    でも…この世界に生きる人々の大部分は僕のようにちっぽけで、他人から見たら滑稽なほど些細で下らない事の為に生きているんです」



    「この世界がクソだって事はお前に言われなくても良く知ってる」


    うんざりしたように呟いたリヴァイは、そのまま口を閉ざした


    「アルミンにも同じような事を言ったらしいね?
    君のせいでアルミンは可哀想なぐらい落ち込んでいるよ。
    まぁ、あのままエレンが巨人側に奪われていたら、ミカサが君を削ぐのを彼も止められなかっただろうね」



    「え…?」



    聞き違いだろうか…



    今なんて?



    驚いているマルコに、ハンジはまるで彼を失望させるかのようにワザとゆっくり、噛み締めるように言った



    「ああ、君は眠っていたから知らないのか。
    君が壁内の禍いと認識して、追い出したがっているエレンは今、内地中の内地、憲兵団本部に拘束されているんだよ」





  27. 27 : : 2014/11/03(月) 09:22:39




    ーーーそうだったのか…


    マルコは驚くと共に、妙に納得もしていた


    だから僕はまだ生かされていたんだ…


    エレンが巨人側の手に渡っていたら、こんな風に何日も待って事情聴取する時間も意味も無い


    彼らはマルコを切り捨て、すぐに奪還の為の作戦に動くだろう


    壁内にいるうちに捕らえようと躍起になるはずだ…

    壁外であっても死を恐れず、エレンを奪い返す為に動く組織なのだから…



    僕はジャンに言った


    『お前の判断で動け』と…


    彼がその意味を理解していないはずは無いのに…



    「それでもエレンとヒストリア、二人の切り札を君が私達から奪った事には変わりが無い。
    まさか今更あれはユミルに脅されてやりましたなんて都合のいい事は言わないだろう?」


    「……言いません。
    僕は僕の意思で彼女に協力しました」




    ーーージャン…馬鹿だな…お前は…


    これで僕は彼らに代償となる情報を与えなければならなくなった…


    そう思うのとは裏腹に、マルコの胸が暖かいもので満たされていく



    どこまで出来るか分からないけど…


    お前に生かされた命だ


    最後まで諦めないで最善を尽くそう…




    「僕が持つ情報があなた方のお役に立つかはわかりませんが…こうして捕らえられた以上、僕が知り得る事は全てお話しします」



    マルコの言葉に、ハンジは出来の良い生徒を見る教師のような目で彼を見た



    「時間はたっぷりある。
    ゆっくりきかせてもらおうか。
    君の曾祖父さんから伝わっている、王政と巨人の真実を」






  28. 28 : : 2014/11/03(月) 09:56:10




    ハンジとリヴァイが地下牢を後にしたのは、それから数刻が経った頃だった


    流石にマルコの疲労も限界に近かったが、ハンジが残していった『ご褒美』を確認するまでは休めない


    彼は手元に置かれた新聞記事を松明の光が届く所にかざし、視力の狭まった瞼を無理矢理開いて内容を確かめた


    そこにはストヘス区を巨人の脅威から救った、二人の若き英雄を讃える記事が載せられていた




    ーーーよし…



    安堵感からか急激な眠気に襲われたマルコは、意識を失う直前まで大切に思う彼らに心の中で語りかけていた



    突然現れた巨人を迅速に討伐し、ストヘス区を巨人から救ったコニー・スプリンガー…

    壁門を閉じ、シーナへ巨人の脅威が入り込むのを防いだジャン・キルシュタイン…


    巨人出現による人的被害、物的被害共に無し



    これでお前たちは自らが護る市民によって護られる


    どこにいても誰かが善意の目でお前たちを見ていてくれる


    恐らく剣呑な奴らも簡単には手を出せないだろう




    コニー…

    カカシ頭から英雄に変身だな

    もう誰もお前の事を馬鹿になんかしない

    プロモーション大成功だ

    おめでとう





    ジャン…

    お前は色んなものが見えすぎる

    だから迷うし、傷つきやすい

    僕が側にいなくても、その瞳を絶望で曇らせないで…

    正しいと思った選択を、曇った心に閉じ込めないで…




    そして朦朧とした意識の中、マルコは暖かなぬくもりと、柔らかな女性の声を聞いた


    耳に心地よく届くその声は幼い頃に聞いた母の子守唄に似て、彼を穏やかな眠りへと誘っていく





    ーーーどうか…

    二人の上にも優しい夜が訪れますように……





    その思いを最後に、マルコは意識を手放した






  29. 29 : : 2014/11/03(月) 10:18:35




    ーーー翌日


    ハンジから聴取の内容を聞いていたアルミンは、次第にその眉を顰めていった


    「おかしい…」


    「何か不審な点があったかい?」


    ここのところ、ボンヤリと考え込んでは塞ぎ込んでいた彼の表情に生気が戻る


    「……マルコが僕に『本人から聞いた』と言っていた情報…エレンを故郷に連れて行けば人類を滅亡させなくて済むという言葉は、僕たちしか知り得ないものです…」


    「ユミルから聞いたんじゃない?」


    「そのユミルもどうやってエレンとヒストリアの移送の情報を得たのか分からないんですよね?」


    「そうだね…それは彼も聞いていないらしい」


    「マルコはそんな根拠の無い情報に躍らされて動くような浅はかな人間じゃ無い…」


    「確実な情報が彼の元にあったってことか…」



    暫し遠い目をして記憶を探っていたアルミンは、一つの可能性に思い至り、呟いた



    「……鳥だ」


    「鳥って…鳩かい?」


    「マルコとサシャが訓練兵時代に育てていたハヤブサです…
    ハンジさん、サシャは今どこに?」


    「彼女ならマルコに薬草を渡したいからって……まさか……」






    二人は地下牢へ駆け付け、自分たちの予想が正しかった事を知る






    陽光の届かない湿った空間にマルコの姿はなく


    サシャもまたその日から支部に戻ることは無かった













    ーーーーーー




    その日から

    壁内は一見穏やかで平和な日々を取り戻していた



    巨人勢力が欲して止まない叫びの力を持つ巨人能力者エレンは中央へ



    王政の中心、壁の秘密を継承すると思われるレイス家の非嫡子ヒストリアは巨人勢力の手に



    二つの勢力は完全な硬直状態に入り



    前団長エルヴィンの処刑は保留になったものの、未だ兵団に掛けられた嫌疑が晴れない調査兵団は

    限られた兵を余すところなく使い、前時代から伝わる情報を元に、二勢力の真実を明るみにせんと水面下で暗躍していた












    to be continued









  30. 30 : : 2014/11/03(月) 10:27:38



    以上で『奪う者と奪われる者』編終了です。



    次回は…


    ーーー森の賢者サシャに洗脳され、すっかりロハスの民となって野生化したマルコは、ある日一匹の『猿』と出会う


    「アメディオ!」


    とても肩の上には乗りそうも無い大猿は、つぶらな瞳でマルコを見つめ、その巨大な手で彼を母の元へと導くのだった……



    『母をたずねて』編

    ーーーComing Soon







    ーーー流石にこれほど酷くはないと思いますが…

    次回は寄り道して全く別作品を書きたいと思っております。


    リーディングリストに溜まった作品をゆっくり楽しみながら、進撃キャラの中で二番目に好きなアルミンのお誕生日を11月中に祝いたいので…



    今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。

    執筆途中にも関わらず期待の星を下さった方々にも重ねて感謝致します。
    とても励みになりました。

    本当にありがとうございました(o*。_。)o


  31. 31 : : 2014/11/03(月) 11:18:24
    凄いの一言です…
    彼が生きてれば本当にこうするような気がします。自分はアニ達が好きだから思うのですが、エレンとアニが戦った時に沢山の人が死んでしまったのはエレン達の作戦の失敗?な様な気もしてましたし、12巻のアルミンがベルトルトに言った嘘の言葉も罪と言えば罪な気がしてます、ですのでマルコとアルミンの会話は読んでいて本当に凄く、凄いと思いました(笑)
    マルコとサシャの関係もですが、サシャとヒストリアの関係も素敵でした!!
    何が言いたいか自分でもわからなくなってる私ですが(笑)本当に素敵な作品を読ませて貰えて嬉しいです!本当にありがとうございます!
    次のアルミンの誕生日の作品も期待してます!
  32. 32 : : 2014/11/03(月) 11:41:41
    執筆お疲れさまです。

    月子さんの圧倒的な筆力とストーリー性には毎度感嘆のため息が出てしまいます。
    動物の描写や知識も素晴らしいですし。

    今後の展開も気になりますが、あとがきの予告ネタに悶絶しました。
    そっちのマルコ来たー!!!って(笑)
    しかもアメディオ(大笑)

    センスに完敗です。

    アルミンのお誕生日作も期待しておりますね!
  33. 33 : : 2014/11/03(月) 13:30:58
    執筆お疲れさまです。


    次回予告に吹きました。

    やっぱりこのシリーズの最終回は30代になり、人間社会に嫌気がさしたマルコが電話でサシャに呟くのでしょうか、『飛ばねえ豚はただの豚さ』と。

    毎度ながら、圧倒的な筆力と緻密な構成に引き込まれてしまいました。

    巷で噂されるマルコ黒幕説やサシャ裏切り説も綺麗に回収されていて、感嘆しました。

    そしてかっこいいジャン。

    続きも別作品も楽しみにしています。
  34. 34 : : 2014/11/03(月) 22:57:39

    EreAniさん、とても共感して頂けて私の方が感激しております。
    ストヘス区の捕獲作戦を見て感じたままをマルコに代弁させたので、書いて良かったと、安心しました。
    あの作戦は最後までアニを信じたいという思いもあったからなのでしょうが…犠牲者は何も言えないので…(´・_・`)
    次回も英雄達の活躍の陰で傷ついたり悩んだりする人々を、マルコを絡めて書けたらな…と思いますので、今後も見守って頂けたら嬉しいです。
    ありがとうございました(o*。_。)o



    なすたまさん、分かる人にしか分からない敢えてのアメディオです(笑)
    眉間に皺が寄りそうな話を書いていたので、解放感からおかしくなりました。
    今回は鳩とハヤブサでしたが、私のスマホの検索履歴が一時期凄い事になったのは言うまでもありません…
    そのうちムツゴロウさんになりそうです…
    ありがとうございました。次回も頑張ります(^-^)



    ありゃりゃぎさん、ありがとうございます(。-_-。)
    そうでした…彼もマルコでした!
    アメディオ以外は友蔵しか思い浮かばなかった…orz
    今回の話を書くにあたって原作を見返したのですが、サシャの表情はどっち付かずの微妙なものが多かったので、原作との齟齬にあまり悩まずに済みました。
    そしてジャンも今回は頑張ったので、ありゃりゃぎさんに褒めて頂きドヤ顔だと思います(笑)
    次回もジャン共々頑張りますのでよろしくお願い致します。

  35. 35 : : 2014/11/04(火) 14:30:44
    執筆お疲れ様です!
    すごい!おもしろい!です!
    次作も楽しみにしています!
  36. 36 : : 2014/11/04(火) 20:56:43

    名無しさん、ありがとうございます。
    やっぱり面白かったと思って貰えると素直に嬉しいです(^-^)
    続きも頑張ります♪
  37. 37 : : 2014/11/06(木) 13:29:27
    執筆お疲れ様でした。

    13、14巻あたりを思い出しながら読ませていただきました。

    こうしたifストーリーは原作との辻褄あわせと、もう一方を選択したことによっての変化を書くのが難しいと思いますが、流石です。バッチリ脳内で諫山絵で再生されました。

    原作ではどうしても調査兵団側を応援してしまいますがこちらではどちら寄りに見たらいいか困ります。だってマルコ格好いいし。

    引き続きお話期待してます。
    アルミンのも読ませていただきます。
  38. 38 : : 2014/11/06(木) 21:01:30

    キミドリさん、原作の世界観をなるべく壊さないように摺り合わせしつつ書くのが結構なストレスだったので、報われた気持ちです。ありがとうございます(/ _ ; )
    この先は今までよりは好き勝手書けるので、調査兵団の大人組の方々なりの正義も含めて両方応援して頂けるように頑張りますので、よろしくお付き合い下さいませm(_ _)m

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著者情報
Tukiko_moon

月子

@Tukiko_moon

この作品はシリーズ作品です

もしもマルコが生きていたら シリーズ

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