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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

そして物語は帰結する

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  1. 1 : : 2014/09/18(木) 17:34:34
    シリーズ四作目。

    http://www.ssnote.net/archives/15769

    ↑『そして繰り返したその先に』の続きです。


    引き続き注意点。

    ※エレクリ、クリエレ
    ※病み、依存要素あり
    ※チート有り
    ※キャラ崩壊有り
    ※オリジナルルート突入

    以上が許せない方はご遠慮ください。

  2. 11 : : 2014/09/25(木) 18:01:41

    《不幸を知らない者は幸せを知らない》


     さて、唐突に始まったこの荒唐無稽で救いもなければ未来もない物語ではあるが、そろそろ幕を下ろす時が近づいてきたのは薄々勘づいてきた者もいるだろう。いや、もしかしたら幕は未だ上がっていないのかもしれないが、そんなことはどうでもいい。我々にとっては些細なことだ。

    しかし、だとすれば、幕を下ろす役は一体誰なのか。はたまた幕を上げる役は何者なのか。

    それもまた、どうでもいいことなのかもしれない。


  3. 12 : : 2014/09/25(木) 18:03:01

              ◆


     ある“赤き英霊”は言った。

    「お前は英雄のなり損ないなのかもしれんな。いや、仮にお前が英雄になったところで、果たして意味があるとは私には思えないが……ふむ、少なくとも、私と同じ轍を踏むことはないだろうよ」


     ──そうだろうな。俺はあんたと違って“九を救い一を切り捨てる”なんて真似はできそうにない。

    俺の両手は、たった一人の為に在る。俺の全ては、あの金色の彼女の為に存在している。あいつの為なら、世界すら捨ててやる。

    そんな当たり前なことが、今この状況で頭に思い浮かんだのはどうしてだろうか。


  4. 13 : : 2014/09/25(木) 18:04:45

    エレン「      !」

     振り返った先の、男と密着したまま動かないクリスタ。

    周囲には唖然と目を見開きながら尻餅をついている『クリスタ』と、何が起きたのか理解できていないコニーの姿がある。……が、今はそんなことはどうでもいい。

     ゾワッ、と身体中の毛が逆立つ感覚が全身を駆け巡る。

    血が、体が、熱い。


     ──ああ、ああ、何を、クリスタ、血、ナイフ、刺殺、クリスタ、男、なんで、殺すか、なにで、クリスタ、クリスタ、クリスタッ! クリスタッ!!


    クリスタ「貴方はっ!!」

     ────あ……。

    クリスタ「貴方は!! 自分の仕事を終わらせなさい!!」

     ──大丈夫、私はこれくらいじゃ死なないわよ──。


     俺の方を振り返り、まるで目の前にいる男のことなど気にも留めない様子で、クリスタは笑っていた。

    エレン「…………」

     急激に、体が冷えていく。さっきまでの高揚が、興奮が、殺意が、嘘のように静まる。不気味なくらいに。

    それでも、俺の体は動かない。それどころか、自然と足はクリスタの方に進もうとする。

    そんな俺の姿に、クリスタはどこか“嬉しそうな苦笑い”を浮かべながら。

    男の眼窩(ガンカ)に指を突き刺し、眼球を抉り出した。


  5. 14 : : 2014/09/25(木) 18:06:10
              ◇

     ──油断した。

    ったく、本当、どこぞの慢心王じゃないけど、私も随分と落ちたものね。

    昔幻想に住む紅白の巫女さんに言われたことを思い出したわ。なんだっけ、「私は油断してるんじゃなくて警戒してないのよ」だっけか。普段はのんびりしてるくせに、私の不意打ち全部避けた上に反撃までしてきて。あのでたらめ巫女め。守銭奴め。

     ……と、それはさておき。

    クリスタ「成る程ね……狙いは初めから“私”だったわけか」

    「…………」

    クリスタ「予想だと『あの子達』を狙ってきたんだと思ってたんだけど……まあ、先に不穏分子を消そうとするのは間違ってないし、やっぱり私の落ち度か……」

     ハァ、とため息をつきつつ、目の前にいる能面みたいな男から視線を下にずらし──右の腕の付け値あたりにナイフが刺さり、上着を赤く染めているのを見て、またため息をつく。


  6. 15 : : 2014/09/25(木) 18:08:00
     エレンが鎧を黙らしに私達から離れた隙を狙い襲い掛かってきたこいつを、私はてっきり『クリスタ』を狙ったものだと判断し、咄嗟に『彼女』を突き飛ばしたんだけど……まさか私狙いとはね。


     ──そこで不意に、別の方から視線を感じた。

    見ると、エレンが怒りだか悲しみだか、感情がぐちゃぐちゃに混ざりあったような表情でこちらを見ていた。

     ……もう、何をあんな……私がこれくらいじゃ死なないってことは、貴方が一番理解してるでしょうに。ていうか貴方を置いて死ぬ筈ないでしょ、ばか。

    今にもこっちに飛び出してきそうな彼に向かって叫び声を上げる。“ついでにナイフを持つ男の手を掴むと、驚いたように男は目を見張ったけど”……何故かしら。

    声が聞こえたのか、エレンから振り撒かれていた殺気やら怒気やらが幾分かマシになったのを確認。それでも、私の方へと足を進めようとする彼に、“堪らず”苦笑いしてしまう。

     ……ああもう、愛されてるなぁ、私。顔がニヤケちゃうじゃない。

    ……だから、ね。

    クリスタ「あの人の物である私に傷を付けたお前を、とりあえず殺すことにするわ」

     必死に私の拘束から逃れようと、掴まれている手を引っ張っている男に静かに告げ。

    ニヤニヤと口元が緩んだまま、空いた方の指を眼ん球ん中に突っ込み。

    グチュリだかニチャリだか、うまく表現できない音を耳にしながら。

    クリスタ「まずは片目、貰うわね?」

     その次は、どこにしようかしら。


  7. 19 : : 2014/09/27(土) 22:33:59
     掴み、引っ張り出した目の前にいる“愚か者”の眼球を躊躇なく握り潰す。

    声にならない悲鳴──おかしな表現だけど、そんな感じに空洞になってしまった自らの右目のあった場所を押さえて狂乱する男に、私は再び手を伸ばす。

    クリスタ「ほら、騒がない。次は左目を貰うんだから」

     クスリと笑い、男の顔を見る。

    普通──そこいらにいる常人なら、眼ん球くり貫かれたらショック死なりなんなりでまともにいられなくなる筈なんだけど……この男は、しっかりと残りの目玉で私を睨み付けてきた。

    クリスタ「あら凄い。よくあの痛みに耐えれるわね……“私だってかなり痛かったんだけど”」

     拷問紛いなものを受けるのに慣れてるのかしら。それとも元から“そういう部分が狂ってるのか”……まあどちらにしろ。

    クリスタ「お前が死ぬことには変わりないか」

     そう私が口にした瞬間。

    男は顔を押さえていた手をどかし、自らの腰のあたりに手を伸ばして──。

    クリスタ「させると思う?」

     中々の速さで突き出してきたナイフを、私は片手で軽く掴む。掴むといっても、刃の部分ではなくて持っている手の方をだけど。

    クリスタ「お前、何か勘違いしてない? お前に選択権はないの。お前に何かを起こす自由なんて、もうないのよ。私が死ねと言ったらお前は死ぬしか道はない。理解しろよ」

     ぐい、と顔を近づけ、まだ空洞になっていない方の目を覗き込む。

    クリスタ「五臓六腑ぶち撒けて脳髄ほじくり出されて眼球潰されて舌引き抜かれて死ねと言ったらお前にはそれしか選択肢はないの。ねえ判る? そこんとこ理解してる? “愚かな暗殺者”さん」


  8. 23 : : 2014/10/01(水) 17:15:23

    「──っ!」

     離れようともがく男だが、両手を私に掴まれていて離れることができないでいる。

    この状態では私もこいつの目玉を取り出すことはできないのだが……別段それにこだわる必要もないのよね。

     どうしようかしら、と私は男の顔へ視線を向けて。

    クリスタ「! ──それは……っ」

     男の──つい先程私自らが抉り出し、潰した筈の眼球が嵌まっていた空洞から“蒸気のようなものが出ているのを見て”、私は柄にもなく驚愕。思わず目を見張ってしまった。

    ……なぜこの二流並の暗殺者紛いの人間が、その現象を引き起こしているのか。それはなんとなく予想できるけど、今は──

    クリスタ「とっとと死んでもらうわ」

     もう一人の相手もしないといけないしね、とは口には出さず。

    脚を振り上げ、爪先で男の顎を蹴りあげる。体の柔らかさには自信があるのよね。180度の開脚も御手の物よ。

  9. 24 : : 2014/10/01(水) 17:16:40
     ガチンッ、と歯が噛み合い、舌を噛まなかったのを少し残念に思いつつ、追撃を行う。

    掴んでいた男の両手を離し、同時に相手の手からナイフを拝借。最初に刺されたナイフはそのままだから動くと“ちょっと痛いけど”、まあこのくらいは気になる程ではない。

    刃渡り十五センチ程の得物を順手に持ち替え、スッと距離を縮める。

    狙うは心臓。肋骨が邪魔をするから、水平になるように刃先を傾け──服を通過したあたりで少し抵抗を感じたけど、遠慮なくその奥へと突き刺す。

    「ガッ──っ、アァッ……!」

    クリスタ「残念。防刃か何かは知らないけど、そんなやわな防具じゃ防げるものも防げないわ──よっ」

     突き刺したまま、ナイフを横に動かし内蔵もろとも体を切り裂く。

    また抵抗があったけど、鎖帷子か何かかしら? まあその程度なら少し力を込めれば紙みたいなものだけど。

    血飛沫が飛び散り、男は崩れ落ちる。

    虚ろな瞳を動かし私を見上げるその顔を踏みつけると、呆気なく破裂した。頭の中身をいろいろとぶち撒けて。

     汚いなぁ。

  10. 25 : : 2014/10/01(水) 17:21:48
    「ッ────!」

     ──不意に、後ろから小さく悲鳴のようなものが聞こえた。

    振り向くと、そこには死体と私を交互に見て顔を青くしている『クリスタ』が。

     ……ああ、『ヒストリア』じゃないし、目の前で人が脳みそ撒き散らして死ぬのは流石に怖かったか。ま、悲鳴を上げて取り乱さないところを見ると、完全に“演じきれてはいないみたいだけど”。

    クリスタ「悪いわね、こんな汚いもの見せちゃって……立てる? 軽く押したつもりだけど、怪我とかしてない?」

    『クリスタ』「は、い……大丈夫で……っ、ア、アリスさん! 肩! 血が! ああっ、早く治療をっ──何か、何か傷に当てるものは──それよりナイフ、ナイフをどうにかしないと──!」

     ……呆れた。

    今貴女が気にするべきは私の傷じゃないでしょうに。

    スカートに手を掛けた『クリスタ』に、「大丈夫だから落ち着きなさい」と声を掛ける。というか、スカートなんて何に使うつもりだったのよこの子は……あ、包帯の代わりか。

     あたふたと慌てる『彼女』を視界の端に入れつつ、刺さったままだったナイフを引き抜く。刺したままの方がいい時もあるけど、今は動くのに邪魔だから抜く。止血は……ま、適当に服を破ればいいか。

    しかし流石は二流。本気で殺る気なら麻痺毒なりなんなり付けとけばいいのに……私の死角の右側から攻めてきた点は評価できるけど、詰めが甘いわね。



     ────さて。

    さっきから姿を見せないもう片方は、果たしてどの程度のものなのか。

    まあ、一流だろうが超一流だろうが。

    “私に敵わないとみて、狙いを彼に移した時点で”

    クリスタ「高が知れるんだけどね」

     問題があるとすれば彼の方だけど。

    …………。

    ま、大丈夫でしょ。


     自然と足が“壁の下に向かった”彼の元へ行こうとする衝動を抑えながら、私はとりあえず、倒れている二流“以下”の死体を漁ることにした。

    さてさて、何か目ぼしいものはあるかしら?


  11. 30 : : 2014/10/07(火) 09:09:06

    《前に進むことが成長に繋がるとは限らない》

     あれはいつの話だっけ。

    「はあ? なんで私が強いのかって? おいおい、おーいおいおい、その質問はさすがにないんじゃないか“えーくん”よ。お前は今まで私の元で一体全体徹頭徹尾なーにを見聞してきたんだよ、お姉さんは悲しいよ、つい泣き真似しちゃうくらい」

     とある世界の“人類最強”は、泣き真似という名の涙を流しつつ、言葉を紡ぐ。

    「私が強いのは私が人類最強だからさ。周りが私より弱いのは私が人類最強だからだ。なーんも特別なことなんてない。いたってありきたりで当たり前で常識的な現実だ。そうだろう?」

     いつものようにシニカルな笑みを浮かべ、俺の師匠は前を向く。

    「ま、えーくんが何を悩んでんのかは知らないフリしてあげるけどさあ。私的には、どこぞの王道バトル漫画みたいに“誰かの為に強くなる”でいいと思うんだけどねえ」

     ──その答えに、俺はなんて答えたっけか。


     確か──…………    。


  12. 31 : : 2014/10/07(火) 09:14:02
              ◆


     クリスタが刺された。

    俺の目の前で、貫かれた。

    死にはしない。そうだ、あの程度で死ぬほど俺達の身体はやわじゃない。それこそ巨人に殴られてもせいぜい軽傷で済むだろう。

     ならどうして。

    どうして俺は、“ああなった”?

    知っていた筈なのに。経験してきた筈なのに。

    刀を持った死神に襲われた時も。

    兆を生きた《悪平等》に見据えられた時も。

    《一喰い》なんて呼ばれてる化け物と丸一日殺り合った時も。

    何度も“死”を体感してきた筈だろう。もう十分慣れたと言ってもいいくらいには、それと対面してきただろうが。



    ならどうして────?

  13. 32 : : 2014/10/07(火) 09:19:01


     気が付くと、俺の足は固い地面を踏んでいた。

    周囲を覆う土埃が邪魔くさい。少し離れた場所から聞こえてくる“大きな足音”が耳障りだ。

    アルミン「ミカサ! しっかりして! ──クソッ、頭を打ってるっ……誰か────!」

     慌ただしく動き回る気配。それにまぎれるようにして俺に明確な殺意を向けてくるのは誰だろうか。


    ああ、ほんとうに。


    目障りだなぁ──…………。





     ──いつの間にか、手が血で濡れていた。

    足元には首のない人間。

    誰が殺した? 俺が殺した。

    何故殺した? クリスタを殺そうとしていた奴の仲間だから。

    どうして殺した? クリスタがそうしたから。

     だから殺した? 

    ああ、そうだ、そうだ、そうだったな。

    他に彼女は何を望んだ? 俺の仕事? 何があったっけ……。


     眼を動かす。

    人類最強がいた。違う、あれは関係ない。

    アルミン・アルレルトがいた。これも違う。

    ハンジ・ゾエがいた。これも違う。

    巨人がいた。遠くに。鎧の巨人だ。

    ……ああ、そうだ。アレだ。

    クリスタはアレを倒せと言ったんだ。確かそうだ。

    なら倒そう。

    理由は? 彼女がそれを望んだから。


     ──さて、やるか。


  14. 37 : : 2014/10/15(水) 10:30:38

     駆ける。

    先に見える巨体の後ろ姿を視界に収めながら、ただひたすらに足を動かす。

    敵の肩に二人程の人影が視認できる。片方は『俺』で、それを担ぐのは倒すべき敵の“一匹”だ。

    慈悲はいらない。遠慮は不要。手加減は無用。

    ■■■■■「…………ッ!?」

     一瞬、肩にいる一匹と目が合った。その表情に浮かんだのは驚愕か、恐怖か、はたまた両方か。

    ■■■■■「ライ    ! ────っ!」

     叫んでいる。なにを? 遠くて聞こえない。

    風を切る音が五月蝿い。

    別になにを喚こうが構わない。俺がやることはアレがなにを叫ぼうが変わらないのだから。

    ブレードを逆手に、さらに走る速度を上げる。

    段々と距離が縮む。後どのくらいだ?

    百メートルか、二百メートルか。……どうでもいいか。どうせいつかは追い付く。

    アレを叩きのめして早くクリスタに会いたい。どんなに自分に“言い聞かせようが”、彼女が心配なことにはかわりない。


  15. 38 : : 2014/10/15(水) 10:32:05

     もう残り数十メートルと言ったところで、唐突に鎧がこちらを振り返り──俺と向き合うように体を反転させた。

    ……もう一度、やることを再確認。アレを倒して『エレン・イェーガー』を回収。うん、さっきよりは幾分か頭が冷えてきてるな。



     どうやら鎧は俺を踏み潰すつもりのようだ。足を振り上げたことにより、俺の周りに影ができる。

    が、そこまで判りやすい一撃を喰らうつもりはない。足を踏み込み、横に飛び退いて落ちてきた巨大な足を避ける。

    衝撃が地面を揺らす最中、試しに鎧の皮膚に一太刀入れたが……見事に刃が折れた。女型に例えるなら常時皮膚の硬質化か。

     面倒臭い。

    鎧の動きはそこまで速くない。攻撃を避けるのは容易いが、こちらの武器が通じないのは厄介だ。

    ……まあ、馬鹿正直に鎧に覆われた箇所を狙う必要もないし、そこまで驚異にはならないが。

    どんなに硬い鎧で覆われようが、人体の関節部分だけは別だ。

    そこだけは鎧で覆われていない。硬くしたら動きに支障が出るからだろうか。

     再び踏み潰そうと上げられる脚。それとは逆の地に着いたままの方へ向かい──脚の裏側に回り込む。

    狙うは膝の裏の窪みの部分。そこは鎧に覆われていない箇所のひとつ。

    刃を取り替え、上で何か喚いている声を聞き流しつつ垂直に立つ脚を駆け上がり──

     ──斬る。


  16. 39 : : 2014/10/15(水) 10:33:07

     一振り、二振り、三、四────。


     赤い液体が飛び散ったのが顔にかかる。

    予想通り刃は通った。他の巨人と比較して刃の通りが悪かったが……筋肉が発達していたからか。それともただ肉厚だっただけか……どちらも大して変わらないか。

    ■■■■■「っ──ライナーッ!?」

     ズシン、と音を立てて膝を付く巨体。

    その隙に太股に飛び乗ると、鎧が腕を伸ばしてくるのを視界に捉えた。

    だが、やはり遅い。

    伸びてくる腕は気にせず、目の前にある鎧の上半身を見据え。

    膝を曲げ、足裏に力を込め──跳躍。

    空中で腰を捻り、回転する力も加え──硬い鎧の上から、思いきり蹴りを叩き込む。


  17. 40 : : 2014/10/15(水) 10:34:21

     到底人間が蹴った時に出すようなものとは思えない音が周囲に響く。

    師匠……あの赤い請負人に比べたらまだまだだが、それなりに威力はあると思う。勢いよく鎧が背中から倒れ、地面が揺れる。蹴り込んだ部位にあった鎧は壊れ、罅か走り、破片が散る。

    エレン「……なあ」

     トンッ、と鎧の巨人の額に立ち、足元を──巨人の顔を見下ろす。

    今の俺はどんな顔をしているだろう。何故かそんな疑問が浮かんできたが、鏡がないから確認の仕様がない。

    エレン「初めてか? 生身の人間に蹴り飛ばされるのは」

     無機質な瞳に刃を突き立てる。次いで逆の眼に突き立て、視界を潰す。

    ■■■■■「ライナー!」

    エレン「…………」

     コレが倒れた時に吹き飛ばされた一匹だが、どうやら多少傷付いた程度で済んだようだ。

    『エレン』は……さっきの衝撃でも起きないか。相当疲弊しているな。

    鎧の上から、奴を見下ろす。まるで化け物を見るような目を俺に向けているが、それはそちらも同じだろうに。


  18. 41 : : 2014/10/15(水) 10:37:26

     ……さて、と。生憎うなじが下を向いてしまっているから中身を殺ることができないが……まあいいか。クリスタは“倒せ”とは言ったが“殺せ”とは言わなかったし。

     ただ────


    ■■■■■「ッ────あ……あ」

     鎧の額から飛び降り、震える超大型の中身の前に立ち。

    腕を振るう。

    ■■■■■「あ……あ? アア、アアアアアアアアッ!!」

     両腕の肘から先と、両足の膝から下を切り落とす。

    ■■■■■「アアッ……うアアッ……ガッ、あ……!」

    エレン「……巨人の再生能力ってやつは、中々どうして、凄まじいな」

     痛みはあるのか、意識はもう殆ど飛んでいるようだが……既に四肢の再生が始まり、“蒸気のような気体が切り口から流れ出ている”。

    ひとまずこれで『エレン』の回収の邪魔はできないだろう。鎧の方はこの死に損ないを他の巨人から守るために暫くは動けないだろうし。

     完全に意識が落ちた超大型の中身を放置し、倒れている『エレン』に近寄る。

    巨人化による戦闘の疲れか、未だ意識は戻っていない。

    肩に担ぎ上げ、この場を後にする。騒ぎを嗅ぎ付けたのか、ちらほらと有象無象共がこちらに近づいてきているのが目に入った。

    長居するのは面倒だ。

     …………。

    去り際に、ふと後ろを振り返る。

    眼の修復が終わったのか、鎧が身を起こしていた。

    そして去ろうとしている俺に──『エレン・イェーガー』に気が付き、ゆっくりとこちらに手を伸ばし──


     その腕が伸びきるのを見る前に、俺は奴に向けている視線を切った。

    その後、あの二匹がどうなったのかは判らない。

    判ろうとする必要もない、か。


  19. 42 : : 2014/10/15(水) 10:39:54

    《心に刻んだはじめての言葉はなんですか?》


    「私にはさ、あんたの気持ちは判らない。私にとって、周りはみんな等価値でしかないから、特別なんてないし、特例なんて作らない。作れない、っていうのが正しいのかもしれないけど」

     紅白の色を身に纏う彼女は、とある幻想に建つ神社の縁側に腰を下ろし、俺の隣で静かに茶を啜る。

    「だから、あんたが知りたいっていう……誰かを好きになることがどういうことなのか、私にはさっぱり理解できないわ。私はこの世界の“法”で、特定の誰かを特別扱いすることは許されない」

     …………。

    「だからかもね。あんたら二人を見てるとさ……ちょっとだけ、羨ましい、なんて気持ちが浮かぶのは。まあ、ほんの少しそう思うだけで、実際にあんたらみたいな関係を作りたいかって言われたら別だけど」

    「なんかいろいろめんどくさそうだし」と、巫女はまたのんびりとぬるくなった茶を口元で傾け。

    「ま、そんな私が言うのは筋違いかもしれないけど、精々大事にしなさいよ。自分のことを特別な目で見てくれる奴なんて、そういるもんじゃないんだから」

     ──そこでふと、疑問が浮かんだ。

    あいつは、クリスタは。

    どうして────



  20. 45 : : 2014/10/19(日) 04:44:47

     鎧の巨人と超大型巨人。

    かつてウォール・マリアの壁を破壊し、人類に巨人の恐ろしさを再認識させた化け物。

    その中身──正体は、『エレン・イェーガー』や『クリスタ・レンズ』と同じ104期訓練兵団の同期であり、尚且つ“女型の巨人”の中身であったアニ・レオンハートと同郷である、ライナー・ブラウン、ベルトルト・フーバーであった。

    人類を窮地に陥れた当人でありながら“人類の側”を演じていた彼らには、皆一様に一人の人物に拘りをみせていた。


     『エレン・イェーガー』


     ウォール・ローゼの穴を塞ぎ、人の身でありながら巨人の力を扱う“英雄”。

    調査兵団団長エルヴィン・スミスは、彼の力が人類には必要だと判断し。

    そして多くの人々も、彼の──英雄の力に人類の希望を見出だした。



    だが、その力を“壁内にいる全ての人間”が必要としているとは限らない。

    “英雄”とは、万人が求めるものでも、受け入れるものでもないのだから。


  21. 48 : : 2014/10/20(月) 15:04:35

              ◆


    エルヴィン「まずは礼を言いたい。エレンを救ってくれてありがとう」

     そう言って、団長さんは俺に頭を下げた。

    それが契約なのだから、むしろ一度拐われた時点で問題にされてもおかしくはないんだがな……。

    エルヴィン「本来なら──“君が一人でエレンを抱えて帰還したあの場で”詳細を聞きたかったんだが……すまないな、こちらも怪我人の手当てや“ウォール・シーナでの問題”があってね」

     「気付けばもう一週間も経ってしまった」と、団長さんは困ったような笑みを浮かべた。



     俺が『エレン・イェーガー』を鎧と超大型から取り返し、ウォール・ローゼに戻ったあの時。

    負傷した兵士が壁の上に並べられ、馬を壁の向こうに運べない、人員が足りない、どうやって『エレン』を助け出すか、などと試行錯誤していた調査兵団の前に、件の人間を担いで平然と目の前を横切った俺を目にした兵士達の反応は……まあ、予想通りだったと言うか、なんと言うか。

     まず初めに詰め寄ってきたのはアルミンだった。単に一番初めに理解が追い付いただけだと思うが、鬼気迫る様子だったのを覚えている。

    来るならミカサあたりだと思ったんだが……当の本人は怪我人の中に混ざって寝かされていた。頭を打って気絶していたらしい。

    “珍しいこともあるものだ”。

    周りが事態を把握してきた頃には、俺はアルミンに『エレン』を任せ、うじゃうじゃとこちらに走ってくる兵士達を全て無視し──クリスタの元へと向かい。

    「お疲れさま」と笑う彼女を、思い切り抱き締めていた。



     その日の夜。

    クリスタの傷のこともあり、“然程”激しくしなかったのは余談だ。


  22. 49 : : 2014/10/20(月) 19:52:54

    エルヴィン「それで、だ。今回君達を呼んだ理由は──」

    エレン「鎧と超大型に関してなら、俺達に訊いても意味はないぞ。『エレン・イェーガー』を取り返した後、奴らがどうなったかまでは知らないからな」

    エルヴィン「──そうか」

     ふう、と肩を下ろした団長さんは、黒く、座り心地の良さげな──見るからに高級そうな椅子の背もたれに体重を預けた。

    調査兵団団長の執務室なだけあって、家具や装飾にもそれなりに金を掛けているようだ。団長さん自身はあまりそっち方面に興味を示すような人には見えないが……上に立つ者としての最低限な体面、ってやつだろうか。

    クリスタ「随分とまあ、お疲れみたいね」

    エルヴィン「まあ、な。君の方こそ、怪我をしたとレンズ──ヒストリア・レイスやその周りから報告を受けたが、大丈夫なのか?」

     その問い掛けに、クリスタは“刺された方とは逆の肩を”ぐるぐると回すことで応える。

    クリスタ「もう前置きはいいでしょ? それで、今後私達は何をすればいいのかしら? 引き続き『あの子達』の護衛? それとも──殴り込みにでも行きましょうか?」

    エルヴィン「それも含め話すのはもう少し後にしたい。今他の……ああ、来たようだな」

     ノックの音が鳴り、「入ってくれ」と団長さんが声を掛ける。

    扉を開き、まず初めに部屋に入ってきたのは兵長さん。

    無言で俺達を横目で見、団長さんに一言声を掛けると壁に寄りかかった。

    次いで変人、コニー・スプリンガーと続き──

    最後に姿を現した人物は、俺とクリスタを目にして何故か笑みを浮かべ。

    エルヴィン「わざわざ出向いて頂き感謝します。ピクシス司令」

    ピクシス「なあに、あの缶詰から出る良い口実になっての、むしろこちらが感謝したいくらいじゃよ」

     団長さんはそれに苦笑いで返し、「どうぞ」と己の対面にある椅子に座るよう促す。

    わざとらしく「よっこらせ」と口に出して腰を下ろしたピクシス司令は、俺達の方を振り向き、また口元をニヤつかせる。

    ピクシス「また顔を合わせるとは思っておったよ。しかしまあ、随分と好き勝手やっとるそうじゃのう? “自称一般人”の若者よ」

    エレン「俺はあんたとはもう顔を合わせることはないと思ってたけどな。“ただの老いぼれ”のお爺さん?」

     口角を吊り上げる俺に対し、爺さんは面白そうに口に曲線を描いていた。


  23. 52 : : 2014/10/21(火) 05:03:32

     地味に部屋の中にいた爺さんの付き人の女も入れて、計八人による話し合い。というよりは報告会。

    初めに切り出された話は、ウォール・ローゼの避難民によるウォール・シーナ内部、旧地下都市での事件について。

    これに関しては特に触れる必要はない。

    “一週間もあれば人類は食料の奪い合いで殺し合う”ことが判明したくらいだ。

    これはこの場にいる殆どの人間が既に報告なり口伝てなりで知っていたことなので、確認する程度で次の話題に移された。

    エルヴィン「ハンジ」

     頷き、一歩前に踏み出す変人。

    その隣にはいつになく真面目な表情をしたコニーが、心臓に手を掲げて団長さんと爺さんに敬礼する。

    ハンジ「今回の調査について報告させて頂きます。ピクシス司令、彼は──」

    コニー「104期調査兵団、コニー・スプリンガーです」

    ハンジ「……彼は“例の”ラガコ村出身であり、事件発生当時を知る兵士であるため、調査に同行してもらいました。そして調査の結果ですが……」

     そこで変人は言葉を区切ると、眉を寄せ、どこか言いづらそうな表情を浮かべつつ──口を開く。



    ハンジ「今回出現した巨人の正体は、ラガコ村の住民である可能性が高いと判断します」 


  24. 53 : : 2014/10/21(火) 22:32:26

     ──驚きは、しなかった。

    俺も、クリスタも、それは予想していたことだ。

    『エレン・イェーガー』含む、人間による巨人化現象。

    突然どこからともなく現れた巨人の群れ。破壊された跡のないウォール・ローゼの壁。

    そしてこの間クリスタから聞いた、“誰一人死体を残さずに避難したというコニーの生まれ故郷に住む村人達の話”。

    その避難した村人達は、未だ発見されていない。

    エルヴィン「つまり──巨人は、巨人の正体は、人間であると」

     あくまで表面上は毅然とした態度を崩さない団長さん。

    兵長さんは普段と変わらず仏頂面で壁に背を預け、爺さんは僅かに目を見開いている。付き人の女は明らかな動揺をみせ、その額には一筋の汗が垂れていた。

    ハンジ「すべての……巨人がそうであるという確証はどこにもありませんが───」

     前置きをいれ、変人は己の推測を語る。

    巨人のうなじが弱点という点。『縦一メートル横十センチ』に該当するのは、人体と比較するなら『脳から脊髄にかけての大きさ』だということ。

    だが、変人が言うには巨人のその部分には特にこれといった人の変わったものは無かったそうだ。

    ハンジ「でも、確かにそこには“何か”がある……おそらく同化して姿形が解らなくても、確かに……」

     …………。

    リヴァイ「何言ってんのか判んねぇなクソメガネ」

    ハンジ「──あ、あぁ、そうだね、ごめん……」

    リヴァイ「…………。じゃあ、何か? 俺が必死こいて削ぎまくってた肉は、実は人の肉の一部で。俺は今まで人を殺して飛び回ってた──ってのか?」

     抑揚のない言葉。

    下を向いて話す兵長さんに、変人は目を逸らしながら、小さく「確証はないって言ったろ」と告げる。

     ……別に兵長さんが気に病む必要はないと思うんだがな。

    元が人間だろうと、奴らは人の……自分達の命を奪いに来る敵だ。その時点で“元がどうのこうの言っていられる場合じゃないし”、わざわざそんな奴らに気を遣う理由もない。

    殺人鬼だって人間なんだよ、兵長さん。


  25. 56 : : 2014/10/24(金) 11:20:37

    ピクシス「もしそうだとすれば……何じゃろうな。普通の巨人とエレンのような巨人の違いは。肉体が完全に同化しない所にあるのか……」

    エレン「巨人に“なれるようになったまでの経緯”に違いがあるのか。はたまた意識を保ち行動できるところが“違い”なのか」

    ピクシス「……!」

    クリスタ「もしくは……巨人に“なった後”に、何か変化があったのか。或いは強制的に“された”のか、任意的に“なった”のかも違いとしてはありそうよね」

     唐突に口を挟んだ俺達に視線が集まる。

    正直、クリスタは無言を貫くかと思ってたんだが……少し意外だ。

    ピクシス「……お主らは──」

    エレン「言っておくが、今のはあくまで俺達の推測でしかない。真相も、真実も、何一つ俺は知らないからな」

    ピクシス「…………」

     嘘は言っていない。それを信じるか信じないかは相手次第だが、これ以上何か聞かれても俺はこいつらが欲しい答えを持っていない。

    睨み合う、とまではいかないが、互いに視線を交わす俺と爺さん。

    沈黙が続く中、兵長さんが静かに言葉を発した。

    リヴァイ「オイ、エルヴィン」

    エルヴィン「…………」

    リヴァイ「? エルヴィ──……。お前、何を笑ってやがる」

    エルヴィン「────。ああ、いや、何でもないさ」

    リヴァイ「……。気持ちの悪い奴め」

    エルヴィン「はは……子供の頃にも、よくそう言われたよ」

    リヴァイ「てめぇが調査兵団やってる本当の理由はそれか?」

    ハンジ「……、え?」



    クリスタ「…………」

     …………。


    兵長さんの発した、その意味深な問い掛けに。

    団長さんが答えることは、なかった。


  26. 60 : : 2014/10/26(日) 10:12:40

    《強いだけだと、つらい》

              ●


    アルミン「サシャ、そこにある荷物、その戸棚にしまってくれる?」

    サシャ「ジャン、お願いします」

    ジャン「はあ? お前が頼まれたんだからお前がやれよ芋女」

    サシャ「私はここにある食糧を相手しなければいけませんからね。そちらにある日用品はジャンに任せてあげます」

    ユミル「ハッ、んなこと言って、またさっきみたいにパンをくすねる気じゃねえだろうな。ん?」

    サシャ「し、失礼な……私がそんなことするように見えますか?」

    ジャン「現にさっきしてたじゃねえかお前!」

    『クリスタ』「お、落ち着いてよジャン……あ、ミカサ、そっちにあるの取ってくれる?」

    ミカサ「ん」

    『エレン』「…………」



     ライナーとベルトルトと戦ったあの日から、一週間。

    人里から離れ、周りが山や森に囲まれた一軒家に、俺達104期の面々は集められた。

    俺とクリスタ──ヒストリアを守るという、任務のために。

     “新生リヴァイ班”

    どうしてこの面子が選ばれたのかは判らない。さっきアルミンが言った通り、調査兵団は多くの兵士を失ったにしても、まだ新兵であるアルミン達よりも優秀な人材はいた筈なのに。

    ジャン「おいてめぇ! パンの次は果物かよ!」

    アルミン「……ミカサ、サシャのこと見張っといて。ユミルは代わりに食糧の整理をお願い」

    ミカサ「わかった」

    ユミル「仕方ねえな……オイ芋女、そこどけろ」

    サシャ「ちょっ、何も蹴ることはないでしょう!?」

     ……リヴァイ兵長は、どういう狙いがあってこいつらを……リヴァイ班に入れたんだろうか。

    目の前で騒いでいる同期をボーッと見ていると。

    ふと頭に浮かんできたのは、あの人達と過ごしていた一抹の記憶。

    リヴァイ兵長の率先の下、皆で隅から隅まで部屋の掃除をして。

    笑って。怒られて。呆れて。疲れて。励まされて。たまに喧嘩みたいなこともしたけど──すぐにまた……。

    『エレン』「────」

     駄目だ、やめよう。どんなにあの頃の思い出に浸ろうと、あの人達はもう、帰ってこない。


     ──もう、会えないんだ……。



  27. 63 : : 2014/10/27(月) 20:09:05


    「エレン?」


     ──、声を、掛けられた。

    箒の棒を両手で握り、俺を見て首を傾げるク……ヒストリア。

    ……未だに、こっちの名前で呼ぶのには慣れない。 アルミン達も初めこそぎこちなく呼んでいたが、今はもう普通に“ヒストリア”の方で定着しているみたい……なんだけど。

    どうにも、そっちの方で呼ぶのに抵抗がある──というより、違和感があるというか、なんというか。

    名前だけじゃなくて、こいつ自身にも妙な感じがするし。

     不自然? しっくりこない?

    そんなところだ。

    『クリスタ』「どうかした? ボーッとしてたみたいだけど……もしかして、まだ前の戦いの時の疲れが残ってるの?」

    『エレン』「……いや、それはもう大丈夫だ」

    『クリスタ』「そう? ……あまり無理しちゃダメだよ?」

    『エレン』「ああ、判ってる。ありがとな、クリスタ」

    『クリスタ』「……。別に、わざわざお礼を言われる程じゃないよ」

     一瞬黙り込んだかと思うと、誤魔化すように“笑みを作って”答える“クリスタ”。


     …………。


    『エレン』「ほら」

    『クリスタ』「わっ……なに、コレ?」

    『エレン』「頭、被っとけ。埃とかいろいろ舞うし、リヴァイ兵長が戻ってきたらいろいろ言われるぞ」

     白い三角巾をクリスタの頭にぽふっと置いて、俺は掃除を再開する。

    正直、このまま俺一人だと終わりそうになかったからクリスタが加わってくれるのはありがたい。

    ……多分それでも、隅から隅まで綺麗にするのは無理だろうけど。



  28. 68 : : 2014/11/03(月) 19:09:48

     クリスタと掃除をしながら、この前の……鎧の巨人と戦った時の記憶を、ぼんやりと振り返る。

    あの時、あいつを──ライナーを組み敷いた時。

    もう少しで勝てたんだと、思う。

    “勝てる”と、油断しなければ。


     “勝ちを確信した時ほど、隙は生まれるものだ”


     あの人は、そう言っていた。

    たった一人であいつらを倒して、拐われた俺を助け出した……名前も知らない、俺とクリスタの護衛という、あの人は。

    あの時の記憶は僅ながらに覚えてる。殆ど意識はなかったが、残骸みたいにうっすらと保っていた意識の端で、俺はあの人が戦う背中を見ていた。

     ……かすれた視界の先で捉えたあの人の背中は、“ひとり"じゃなかった。

    赤い屈強な戦士の背中にも見えたし、“紅"をその身に体現したかのように、真っ赤な格好をした女の人にも見えた。

    緑色の変な服を着た、お伽噺に出てきそうな男の子のようにも見えたし、なんの変哲もない、普通の男子のようにも見えた。

    あれは夢だった、と言われても否定できない。むしろあれを見た俺自身が夢だったんじゃないかと肯定してしまいそうなくらい、不可思議な光景。

    あり得ない……世界。


    『クリスタ』「エレン、はたきってどこにあるの?」

    『エレン』「ああ、それなら確か──」


     ……中でも、一番気になるのが。

    いくつもの姿が重なって見えた、あの不思議な光景の──最後。

    最後に重なった人物の後ろ姿“だけ”が、はっきりと思い出せない。

    どこかで見たことがある人だったような気もするんだが……まるで霞みがかったように俺の記憶は曖昧で、ボンヤリとした輪郭くらいしか思い出せない。

     あれは──…………。



     ガチャリ、と音がした。

    振り向くと、そこには二人の人間が立っていて。

    その片方は、今思い返していた、あの人だった。


  29. 69 : : 2014/11/04(火) 04:36:30

              ◆


     頭に三角巾を被った『俺』と目が合う。その隣には同じく三角巾を被ろうとした動きのままこちらを見る『クリスタ』が。

    ……仲良いな、お前ら。

    クリスタ「こんにちは、『クリスタ』ちゃん。掃除中? 私も何か手伝う?」

    『クリスタ』「あ、こ、こんにちは……じゃあ、アリスさんには机拭きを……」

    クリスタ「……、ええ、わかったわ」

     横から「まさか本当に頼まれるとは……」なんて呟きが聞こえたが気にしない。自業自得……とは何か違うか。

    まあ、どうせ後で手伝わされることになるんだろうが。

    雑巾を『クリスタ』から受け取りながら俺を見つめる彼女の視線に気付かないふりをしていたら、俺の側に近寄ってくるのが──三人。

    ミカサ「……あの」

     …………。

    ミカサ「……この前は、エレンを助けてくれてありがとうございます」

     ペコ、と頭を下げるミカサ。

    こと『俺』に関して、ミカサはしっかりしている。

    後ろにいたアルミンにも頭を下げられ、次に前に出てきたのは──『エレン』。

    その瞳にあるのは……憧憬?

    『エレン』「あの、あの時──」

    エレン「いい。俺はお前の護衛なんだ。本来なら一度拐われた時点で護衛としては失格。謝るのはむしろこちら側だ」

     言葉を遮られ、『エレン』は戸惑う様子を見せる。 開いていた口を閉じ、何やら言い悩む素振りをみせ。

    エレン「……貴方は──」


    サシャ「あー! アリスさんじゃないですか!」

     突然聞こえた大声に、『エレン』は再び口を閉ざす。

    部屋の奥から顔を覗かせたサシャは、クリスタの存在に気がつくと嬉しそうに頬を綻ばせながらドタドタと彼女に駆け寄る。

    サシャ「お久しぶりです!」

    クリスタ「え、ええ、久しぶりね」

    サシャ「今日はまた、どうしてこちらに!?」

    クリスタ「一応、仕事……かしらね」

     興奮した様子で顔を近づけてくるサシャに、流石のあいつも苦笑い。いつのまにあんなにサシャと仲良く──というか懐かれたのか。

    ……ああ、そう言えば前にお茶をしに行ったとか言ってたっけか。

    ジャン「おいこら芋女! お前片付けサボって何してんだ!」

    サシャ「五月蝿いですよジャン。今の私はそんなことよりアリスさんと喋る方が大事なんです」

    クリスタ「いや、あっちの方が大事だと思うわよ」

     ツッコミクリスタ。

     珍しい。


  30. 72 : : 2014/11/05(水) 17:34:27

    アルミン「……ミカサ、お願い」

     ため息混じりのアルミンの言葉に一度頷くと、ミカサはサシャに近づき、首根っこを掴んで奥へと引きずっていく。

    「何するんですかミカサ!」「離してくださいー!」と声をあげるが、それらの抵抗虚しくサシャは奥へと引きずられていった。

    アルミンも付いていき、残ったのは謀らずも同じ者同士。

    『エレン』「……あいつは……掃除中だっつうのに、いいだけ埃立ててきやがって」

    『クリスタ』「あはは……すいません、アリスさん。サシャがご迷惑を……」

     頭を抱える『エレン』に、申し訳なさと恥ずかしさが混ざりあったような表情を浮かべる『クリスタ』。

    奥からサシャを説教する声が聞こえてくるが……あいつら、今の状況を判ってやってるのかね。

    『クリスタ』「あ、そういえば……さっき仕事って言ってましたけど、それって……」

    クリスタ「気になる?」

    『クリスタ』「あ、えっと……言えないことなら、無理に聞くつもりは……」

    クリスタ「別にいいわよ。口止めなんてされてないし。それにどうせ、この後ここに来る兵長さんや変人さんあたりから説明くらいされるだろうしね。多分」

     そこで一旦言葉を区切り、続けて「私達はね」と紡ぐ。

    クリスタ「『クリスタ・レンズ』……つまり貴女と、そこにいる『エレン・イェーガー』を護るように、貴女のところの団長さんに頼まれたのよ」

    『クリスタ』「……わたし達を……護る」

    クリスタ「ええ。貴女がどれくらい状況を把握しているのかは……今の様子を見たら大体判るけど、まあそれはいいわ。だけど後で嫌になるくらい思い知るだろうから、今のうちにそれ相応の覚悟はしておいた方がいいわよ?」

    『クリスタ』「覚悟……ですか?」

    クリスタ「そ。人を殺す覚悟と、殺される覚悟」

     ──え?

    その声は、果たしてどちらのものだったか。

    瞠目し、何を言われたか判らないと言った様子の『クリスタ』の近くには、これまた『彼女』と同じような反応をして固まっている『エレン』の姿が。

    クリスタ「ま、そうならないために私達やリヴァイ班がいるんだけどね」


     「──それにしても汚いわ」と、机の裏を拭いて雑巾に付着した汚れを見て、彼女は僅かに顔を歪めた。




  31. 73 : : 2014/11/08(土) 20:46:52

     ──それに気が付いたのは、当然と言うべきか。

    椅子の背もたれを拭いていた手を止め、彼女は俺と目を合わせてきた。

    互いに小さく頷き、俺は極めて自然な動作を装いつつ、箒で床を掃きながら『エレン』の近くへ移動する。

    同様に、クリスタは窓を拭いていた『クリスタ』の元へ。

    『エレン』「……? あの……」

    エレン「手は止めるな。そのまま掃除をするフリをしろ」

     何がなんだか判っていなさそうだった『エレン』だが、俺の表情を見て何かを察したのか、真面目な顔で口をつぐんだ。

    エレン「確認したい、この場に立体機動装置はいくつある?」

    『エレン』「……一応、俺達──ここにいるリヴァイ班の分はありますが……」

    エレン「場所は? 奥の部屋か?」

    『エレン』「はい」

     ……面倒だな。

    エレン「アリス」

    クリスタ「無理よ。音と気配から距離はそう近くないけど、逆に遠くもない。こちらがアクションを起こせば即座に行動に移すだろうから、“密かに”ってのは厳しいわ。間違いなく悟られる」

     『クリスタ』に次はどこを拭けばいいかと指示を仰ぐフリをしながら、クリスタはこの部屋にある窓の影──つまり“外からの死角”となる場所に移動する。

    そして眉を寄せ、苛立つように意識を外へと向けた。

    クリスタ「どうする? こっちから手を出してもいいけど……その場合、ここが手薄ね」

    エレン「兵長さん達を待つのもひとつの手だが……無しだな」

    クリスタ「ええ。彼らの到着がいつになるか判らないのもあるけど──恐らく武装もしてない彼らが来たところで、戦力になるのは兵長さんくらいね」

    「正直足手まといが増えるだけよ」と彼女は言い捨てた。

     ……さて、どうでるか。

    俺とクリスタは問題ない。が、ここにいる『二人』とリヴァイ班は別だ。

    『二人』に関して、大抵のことなら護りきる自信はあるが──それこそ全方位から銃弾砲弾撃ち込まれたら話は変わる。

    『クリスタ』「あの……一体何が……」

     俺とクリスタの雰囲気の変わりようや会話の内容から、どうやら“よくない事態”が起きていることぐらいは理解したのか。

    不安、困惑。それらを隠すことなく、『クリスタ』が小さな声で尋ねてきた。

    クリスタ「周りを怪しい輩に包囲されてるみたいでね。狙いは──まあ私達の仕事から察せるとは思うけど、十中八九『あなた達』二人よ」

     だから変な行動起こさないでね、と彼女は最後に付け加えた。

    『エレン』「なんで俺とクリスタが……」

    エレン「“巨人化できる人間”に“壁の秘密を握る家系の一端”。邪魔だと思う奴はいくらでもいる」

     ……それにしても奴ら、手を出してこないな。

    こちらが自分達の存在に気が付いたことを察したか……? 所詮穴だらけの演技だ、バレてもおかしいことはない。

    だがそれなら何故来ない。ただの様子見という可能性もあるが……わざわざ包囲できるだけの人数を集める理由はない。

    だとしたら……“リヴァイ班”の存在、か?

    こうしてこそこそ近づいてくる……さらに付け足すなら、『人類の英雄』成り得る人間を消そうとする連中だ。表だって行動できないとしたら、余計な目撃者──証言者になり得る存在は極力少なくしたい筈──

    エレン「…………」

     ──いや、そもそも俺とクリスタは、“わざわざ『この二人』以外を護る必要なんて始めから無いんだよな”。

    なら手っ取り早いのは────!



  32. 76 : : 2014/11/10(月) 21:28:36


     気配を感じ、振り返る。

    アルミン「エレン、こっちはある程度片付いたから、そっちを手伝いに来たんだけど……」

     ……アルミン・アルレルト。

    使えるか? 戦力としては除外。陽動、囮……とりあえず。

    エレン「よく聞けアルミン・アルレルト。非常事態だ、今すぐ他の奴らに立体機動装置を付けさせろ。勿論お前もだ」

    アルミン「え……」

    エレン「細々と説明する時間は無い。生きたいなら今すぐ動──」

    クリスタ「! 動いたっ。来るわよ!」

     互いに舌打ちをひとつ。

    ズボンのベルトに取り付けてある鞘から、この仕事に来る前に団長さんに用意させたファイティングナイフを抜き出す。

    そして未だに動いていないアルミンに向かい、叫ぶ。

    エレン「早くしろ!」

    『エレン』「──アルミンッ!!」

     ハッ、と、俺に続いて叫んだ『エレン』の声に反応して、アルミンは踵を返して奥の部屋へと駆け出した。

    今の俺と『エレン』の声で、確実に奴らにこちらが感付いてることがバレただろう。が、今更それがバレようがどうでもいい。

    エレン「相手の様子は!」

    クリスタ「立体機動“みたいな装置”を付けてるのが見える。他は──マズッ、伏せなさい!」

    『エレン』「──ッ!?」

     咄嗟に『エレン』の服を掴み、床に倒すようにして引っ張る。

    ──直後、いくつかの銃声の音と同時に窓ガラスが盛大に砕け散り、室内にガラスの破片が飛び散った。

    貫通した弾が部屋の中にある家具を盛大にぶち壊し……、ほんの一瞬、音が止んだ。




  33. 77 : : 2014/11/11(火) 04:53:15

     その隙を逃す手はない。

    伏せている『エレン』が無事なのを瞬時に確認すると、近くにあった机を横に倒し、気休めにしかならない即席のバリケードを『こいつ』の前に作る。

    あの銃弾の威力だ。こんな木製の大した厚みもないテーブルだとすぐに破られるだろうが、狙いを定め難くするだけ利用価値はある。

     立ち上がり、視線を走らせる。

    『クリスタ』はクリスタによって『エレン』同様床に伏せ、彼女は奴らからの死角になる位置に身を潜めている。その手には俺と同じくナイフが一本。

    つまり、現状奴らに確実に姿を捉えられてるのは俺だけということ。

    ならやるべきことは……。



     再び銃声。

    それに紛れて、立体機動装置のガスを蒸かした時のような音がした。

    家具を蹴散らし、弾を避ける。やはり敵は唯一目視可能な俺に狙いをつけてきた。目的は『二人』なのだろうが、どうせ目撃者……奥にいる連中含め全て殺すつもりだろうし、後か先かの違いだ。

    ──そう、後か先かの違い。

    なら、“俺が飛び出しても問題ないということだ”。

    エレン「アリス!」

     刹那の合間に視線を交わし合うと、俺は無惨にも割られた窓から外に飛び出した。



  34. 80 : : 2014/11/12(水) 21:15:30

     ──瞬間、打ち合わせたかのように響く銃声。

    視界に映る三つの影から、ほぼ同時に俺目掛けて弾丸が放たれる。

    “普通の一般人”なら蜂の巣だろうが、生憎とこの程度の修羅場は何度もくぐり抜けてきた身だ。

    地に足が着くと同時に爪先に力を込め、その場から横に跳び退く。その勢いを殺さず、狙いを定められないよう不規則な動きで走り回る。

     厄介なことに、この周辺は立体機動もどきを使うあちら側に有利な地形だ。木々は生え、高い位置から銃を乱射されたら面倒なことこの上ない。


    だからまずは、“さっきから俺を見下ろしている奴から仕留めるとしよう”。


     三人のうち二人が空を飛び回る中、一人だけ木の枝から容赦なく乱射してくる奴がいた。

    長い髪を後ろで束ねているところを見ると……女か。まあそんなことはどうでもいいが。

    走りながら、持っていたナイフを前に軽く放る。次いで左足で踏み込むと同時に跳躍。身体を僅かに宙に浮かせ──そのまま右足をナイフの“柄尻”の部分目掛けて振り抜いた。

    「あ」

     狙い通り、女の脳天に蹴り飛ばしたナイフが突き刺さる。最後に一文字声を発した女は、ぐらりと身体を揺らし、地に落ちた。

    ……当たってよかった。

    「なっ───」

    「■■■がやられたっ!?」

     動揺。

    仲間が殺され、一瞬意識が俺から逸れる。

    その隙にもう一本ナイフを取り出し、我が物顔で空を駆る奴らの片方に接近。

    「ちぃ──っ」

     そんな俺に気付き、そいつは銃口をこちらに向け引き金を引く。が、判りやすいほどに当てようとしてくるそれの射線上に、わざわざ身を置く必要はない。

    前後左右、一時停止に急加速を繰り返しながら、俺から距離を置こうと空を逃げる奴を追い回す。

    「しつけえ──よっ!」

     男は両手に構える銃の内、片方を俺へ、もう片方は“次に飛び移る大木へと”向け──。

    「ん──なあっ!?」

    エレン「残念」

     無様にも地面に横っ面をぶつけた男は、己を見下ろす俺に何か言おうと口を開き。

    その何かを発する前に、脳天を俺のナイフに貫かれて絶命した。



  35. 81 : : 2014/11/15(土) 05:12:07


     ……こいつらの身に付ける装置の移動手段は、立体機動と同じく移動先の物体へのアンカーの射出、そしてワイヤーの巻き戻す力を利用したものだ。

    俺は壁を駆け登ることはできるが、空中を駆け回ることはできない。宙にいる敵に対して今の手持ちで有効な手段もない。

    ──だったら、相手を俺が殺り易い“範囲内”まで引き摺り下ろせばいい。

    となると、手っ取り早いのがさっきからバシュバシュと射ちまくってるアンカーを掴んで引っ張ればいいだけの話だ。

    エレン「残るは……ん?」

     首を振るが、先程までいた筈のもう一人の姿がない。

    もう一度周囲へ目を配らせようとした時──最早この数分で聞き慣れた、あの銃声が耳に届いた。

     場所は……クリスタ達の所か。

    焦りはあまりない。たった一人でクリスタを相手に『二人』を殺せるとは思えないし……けれど、何事にもイレギュラー、予想外な出来事ってやつはあるしな……お?

    エレン「……心配する必要もなかったか」

     家の壁をぶち破って、さっきの三人の内最後のひとりが外へとすっ飛んだのが見えた。

    離れていて少々見辛いが、まあ倒れたまま動かない様子を見ると、恐らく死んでいるんだろう。

     相変わらず容赦ない、と、内心苦笑いを浮かべ──

    エレン「ッ──」

     ──咄嗟に、その場から横に跳び退く。

    次の瞬間、先程まで俺が立っていた地面は爆発し、周りに小石や砂が飛び散った。

    「オイオイ、今のを避けんのかよ」

    エレン「…………」

     軽薄な笑みを浮かべて現れたのは、なんと言うか、奇抜な格好をした男だった。

    頭には──テンガロンハット、だっけか。カウボーイが被るような帽子を着け、よくよく見れば全身カウボーイっぽい格好をしている。



    「おーおー、見事なまでに脳ミソぶっ刺されちゃってまあ。こいつ“も”あんたがやったのか、おにーさん?」



  36. 82 : : 2014/11/19(水) 14:19:03

     …………。

    「だんまりか。まぁさっきの動きといい、こうして死体の横に突っ立ってたんだ。お前さん以外にあり得──っとお!」

     「チッ」と舌打ちをひとつ。

    ペラペラ喋ってる間に仕留めようと、一気に接近してナイフを脇の下目掛けて突き出したんだが……避けられた。

    「こりゃあ意外だ! 調査兵団側に“あのドチビ”以外に人殺しを平然とやってのけようなんて奴がいるとはなぁ」

     ……こいつ、ふざけた言動のわりに油断なく俺を見定めてやがる。

    さっきまで相手していた奴らとは“文字通り”格が違うか……それよりドチビって誰だ。

    「……ん? ああ、そういや確か……そんな報告があったな。なぁあんた、先日俺の“部下二人”がどこぞの誰かさんに殺されたんだがよ、もしかしなくてもお前さんの仕業か?」

    エレン「…………」

    「まぁただんまりかよ。少しは会話のやり取りもしてくれねぇか──ねえ!」

     銃口を俺に向け、発砲。

    ただの弾だったら“後ろ向きだろうと”はじくくらいはできるんだが、あれは散弾。そんなことしてたら身体中穴だらけになる。

    「ハーッハアッ! この距離で避けるか! とんだバケモンだなおい!」

     どういうわけか喜色染みた笑みを浮かべながら、カウボーイ男は銃を撃つ度「バキューン!」などとガキみたいな大声をあげている。

    そんなふざけた行動とは裏腹に、銃の狙いは的確だ。

    動いた先を予測し、わざとタイミングをずらして俺を撃ち抜こうとしてくる。しかも立体機動の動きの最中でだ。これだとあのイカれた“風”の言動も本質かどうか怪しいな。

    こちとら武器は今手に持つナイフが一本。予備で後二つ小さめのナイフがあるが……。


  37. 83 : : 2014/11/19(水) 14:20:26


    「どうしたどうした! 避けてばかりじゃ死んじまうぞ!」

     避けてたら死なねえよ、とは口に出さない。

    試しに走りながら地面に落ちていた石ころを数個拾って投げてみる。そこまで強く投げてないから、精々当たっても“身体を貫通する”くらいだが……まあ、避けるわな。

    イカれハリウッドの腰に付いている──恐らく弾丸のストックだろうが、その容器がまだいくつか残っているのを確認…………。

    エレン「ん?」

     ふと、違和感を抱く。

    あのハリウッド男、さも俺を殺すつもりで銃を撃っているように見えるが……そう見えるだけで、どこか積極性に欠けているように感じる。

    「ヒャハハーッ!」

     ……あれもその一つ。

    おかしな言動で俺の気を引こうとしている……?

    仮にそうだとして、だとしたら狙いは──



     視線を男から外し、ある場所に移す。

    これも狙いだったのか、いつの間にか“向こうと距離が離れてしまっていたが”──見えた。

     クリスタ達のいた家が、まるで爆発したかのように吹き飛んだのを。


  38. 84 : : 2014/11/24(月) 04:47:29

    エレン「────」

     “まずい”と、直感した。

    向こうにはクリスタがいる。余程のことがない限り窮地に陥るなんてことはないと頭では判っている。

    ──だというのに、俺の心臓は、再度大きく高鳴った。

    記憶に甦るのは、ついこの前の──彼女が刺された瞬間の光景。

    これは“あの時”と似ている。一瞬にして胸が締め付けられるような、首筋に鋭利な刃物を添えられた時のような……“何か大切なものを奪われた時のような”、そんな不安感。

    エレン「──ッ!」

    「おおっと、どこに行くつもりだ?」

     進路を塞ぐように宙を舞って移動してきた男は、ニヤニヤと──今すぐ顔面を捻り潰して脳髄ぶち撒けさせてやりたくなる衝動を沸き上がらせる表情を浮かべながら、銃口を俺に向け──。

    「──な──おいおいマジかよクソッタレ!」

     唖然、次いで激昂した男の下を駆け抜ける。

    どうやらさっきの大きな音は壁が吹き飛んだ際のものだったようだ。壁に大穴が空き、粉塵が舞っているのを視界に捉えた。

     ……一体何が……。

    そこで、気付く。

    あのイカれ男に襲われる前、恐らく彼女に吹き飛ばされたであろう、“壁をぶち破って外に放り出された男の姿がどこにもないことに”。

     死んでなかった? いや、あいつが敵の生死の確認を怠るなんてミスを犯す筈が……。

    エレン「あ──」

     もう残り二十メートルといった所で、再度響き渡る爆音。

    だが、今度のそれは先程とは少し違った。音と共に、何かが外へと吹き飛んできたのだ。

    エレン「──!」

     それが“誰か”を理解した時には、俺の体は自然と吹き飛んできた“彼女”に向かって全力で駆け出していた。



    エレン「クリスタ……ッ!」

     落下地点へ先回りし、飛んできた彼女を受け止める。

    エレン「クリスタッ、おい、クリスタ!」

     表情は髪に隠れて見えないが、一目見た限りでは特にこれといった傷は見当たらない。

    強いて言えば上着の袖の部分が裂けて無くなっているが、その下の肌はいつもの白くて綺麗なままだ。

    クリスタ「 あ、 う  るの。──けんな、あの────ぶち──」

    エレン「……クリスタ?」

     呟く彼女。

    髪を手で払い、覗き込んだクリスタの瞳にあったのは──憤怒。

    無表情ながら怒気を纏うその雰囲気に、無意識のうちに俺の体は固まる。

    クリスタ「──。…………」

    エレン「…………」

    クリスタ「ああ、エレン。エレン、か。……もしかして、受け止めてくれたの? ありがと」

     ニコリと笑うクリスタだが、それは普段の可愛らしい笑顔とは程遠い……敢えて言葉で表すなら、“いろいろと振り切っちゃって一回りしたら笑顔になりました”みたいな。

    笑顔には攻撃的な意味合いも含まれる、という話をどこかで聞いたことがある。今の彼女の笑みが自分に向けられていないのは判っているが……。


     立ち上がり、軽く腕を振って何かを確かめる素振りをみせるクリスタ。

    コキコキと首を鳴らし、鋭利な刃のような視線を『エレン』達のいる家へと向ける彼女に、俺は「何があった」と問い掛けた。




  39. 88 : : 2014/12/03(水) 10:16:17

     ──簡略化する。

    『エレン・イェーガー』と『クリスタ・レンズ』は“拐われた”。殺されるではなく、拐われた。果たしてそこにどんな意図があるのか。

    詳細は省くが、彼女が言うには“自分のミス”らしい。

    「今のあの子の性格を考えたら、ああするのは当たり前だわ」と、クリスタはどこか疲れた様子でため息をついた。


    なお、あの爆音の際の死傷者はゼロ。負傷者は数名。アルミンとユミルが巻き込まれたそうだが、生きてはいるそうなので今は置いておく。


    そして肝心の『二人』を拐った人物だが……。


    クリスタ「まあ、可能性としては前々から思い付いてはいたのよ。ただ……いや、何でもないわ。結果何を言っても言い訳にしかならないだろうし」

    エレン「…………」

    クリスタ「貴方が飛び出した後、こっちに来た一人をぶっ飛ばしたんだけどね」

     ──そいつ、『エレン』と同類だったみたい。




             ◎


    「…………っはー、マジかよオイ」

     遠くなる背中を見据え、男は半ば呆れを含んだ声を洩らす。

    残りの半分は称賛か、はたまた畏怖か。

    「どこぞの子猫かと思ってたが……とんだ薮蛇だ、クソッタレ」

     銃口から“生えた”刃を指先でなぞる。

    よく暴発しなかったなー、と他人事のように思いながら、男は踵を返した。

    「ハッ、世の中せめぇもんだと思ってたが、どうやらそうでもなかったらしい」

     どこか嬉しそうに口許を緩め、男は「くはっ」と声を出す。


    そして近づいてくる馬の蹄が地を叩く音を耳にしながら、その場を後にした。




  40. 89 : : 2014/12/03(水) 10:17:24


     それから数分後。

    リヴァイ兵士長含む調査兵団の一部が到着。

    荒れた家屋に、負傷した新リヴァイ班の一部を目にし、皆一様に驚愕を顕にし。

    だめ押しに今後の作戦の要となる予定だった『エレン』と『ヒストリア』が連れ去られたことを知り、顔面蒼白になった眼鏡をかけた変人がいたそうだが、まあわざわざ掘り下げて描写する必要もないので割愛する。


     混乱が場を支配する中、リヴァイがあることに気が付いた。

    普段の彼ならばいの一番に気付くのだろうが、どうやら表面上はすまし顔を装っていても内心は違ったのだろう。

    彼らを率いるエルヴィン・スミスが、“王政による突然の呼び出しを受けこの場にいないのも”、ひとつの要因かもしれない。



  41. 90 : : 2014/12/03(水) 10:18:38


     ともかく、彼は気が付いたのだ。

    自分と同等、もしかしたらそれ以上かもしれない実力を、強さを持った“あの二人”の姿が、今この場にないことに。

    出生不明。年齢不詳。巨人を容易く葬り、馬よりも速く走り、垂直な壁をその身のみで駆け上がる、もういろいろと意味が判らないあの男女。

    今思うと片方は名前すら知らない、怪しさ満点の若い二人組だ。

    何を血迷ったのか、そんな二人組をエルヴィンは『エレン』の護衛として雇った。あの理不尽とも言える強さを持つ二人を野放しにはできない、監視する必要がある、とかなんとか口には出していたが、それも本心かどうか。

     エルヴィンが決めたことだから、別に俺が口を出すことはない。使えるものは使う。

    リヴァイ自身はそう考えていた。

    結果、あの二人組は予想以上の働きをみせた。

    壁外調査での女型戦、及びそれの捕獲作戦での立ち回り。

    ウトガルド城での活躍。

    つい最近では、鎧の巨人から『エレン』を救い出した。

    一護衛の域を越えている。最早意味不明なレベルだ。なんなのあいつら。


  42. 93 : : 2014/12/03(水) 20:39:37

     とにかく、そんな二人がいないのだ。

    負傷していたアルミンによれば、突然何者かによる襲撃を受け、二人がそれに対応。

    アルミンも初めから最後まで十全に理解できている訳ではないそうだ。最後に見た光景は“『ヒストリア』が敵の攻撃から『エレン』を庇おうとした”ところまでで、そこから先は何が起きたのかは判らないらしい。

     話を聞き、リヴァイは何通りかの予測を立てる。

    が、どれも確証の持てるものではない。

    せめて『エレン』と『ヒストリア』がどこに連れていかれたのか判れば──。


  43. 94 : : 2014/12/03(水) 20:41:04

     思考を巡らすリヴァイの隣で、先程まで顔を青くしていたハンジが「もしかしたら」と、何やら思い付いたように声を出した。

    ハンジ「いや、そうかもしれない……けど……」

     何でもいいから早く言え、と急かすリヴァイ。

    それでも言い淀むハンジだったが、幾分か悩んだ末話し出した。

    ハンジ「あくまで、あくまで推測だけど」

     前置き、言葉を紡ぐ。

    ハンジ「今朝方、トロスト区でニック司祭が殺されたんだ」

    リヴァイ「…………あ?」

    ハンジ「そして彼が殺された現場には、憲兵がいた」

    リヴァイ「……別におかしくはねぇだろ。奴等はそれが仕事だ」

    ハンジ「いたのは中央第一憲兵団。本来なら王都で活動している筈の憲兵が、わざわざ端のトロスト区まで出張るのは普通じゃない」

    リヴァイ「…………」

    ハンジ「そしてその内のひとりの拳の皮が捲れてた。多分、ニックを殴打した時にそうなったんだと思う。チラッとしか見えなかったけど、ニックの体、いろいろと“そういう”痕が残ってたからね」

    リヴァイ「……つまり、お前は今回の件には中央が関わってると言いたい訳か」

    ハンジ「だって、あまりにも都合が良すぎるじゃないか。エルヴィンの中央への呼び出し。ニックの死亡。そしてエレンとヒストリアの誘拐」

     重なりすぎだ。と、ハンジは顔を歪める。

    ハンジ「それに、もしかしたら身内にも奴等の手先が紛れ込んでるかもしれないんだから……どうしたものかな」

     壁の秘密を語ったニック司祭の所在は、一部の者にのみ伝えられていた、いわば“極秘”だったのだ。

    その情報が、漏れた。

    となると、疑いたくはないが、調査兵団の誰かが漏らした可能性も出てくる。

    もしくは。



  44. 95 : : 2014/12/04(木) 02:53:01

    ハンジ「あの護衛の二人が、って可能性もある」

    リヴァイ「…………」

     ハンジがそう考えるのは別段おかしなことではない。むしろ当然と言っていい。

    今の彼らには圧倒的に情報が足りなすぎる。もしこの二人の対話の場に襲撃の現場に居合わせたアルミンやユミルがいれば、彼女の考えに反論の一言でも口に出しただろうが、彼らは今治療のため離れた位置にいる。

    まあ、例えこの場にいて反論したところで、それもまた護衛の二人が敵ではないという結論には至らないのだが。

    ハンジ「確かに、彼らは何度も手助けしてくれた。けれど、それらも含めて今回の為の“仕掛け”だとしたら」

     巨人を殺し、女型の捕獲に貢献し、鎧と超大型巨人からエレンを救う。

    これらを通して、調査兵団は──リヴァイ含む一部を除き、殆どは彼らを信頼し、そこまではいかないまでもある程度の安心感というか、“仲間意識”のようなものは抱いている。

     ──それが、狙いだとしたら?

     ──連れ去られた際にした抵抗、迎撃も、全て演技で。敵と共謀し、初めからエレンとヒストリアを拉致するのが目的だとしたら?


     したら、したら、したら──。


     思考はどんどんと、暗く、悪い方へと進む。

    頭が優れている分、ハンジはいくつもの“もしも”を思い付く。

    今の彼女は追い詰められていた。巨人の正体が元人間なのかもしれないという可能性が、かつて自らが行ってきた実験への罪悪感を芽生えさせ、その感情の整理がつかないままニックが死に、息つく暇もなく今度はエレンとヒストリアの誘拐だ。

    エルヴィンが不在というのも、それに拍車をかけていた。

    頼れる戦友がいない。今までの戦いで、長年共にいた同僚も多く死んでいった。


     ──どうにかしなければ。

    自分が、この現状をどうにかしないと。

    どうすれば、どうやれば、どういけば、どうしたら──。

    どうする、どうする、どうする。


    どうする────。



  45. 96 : : 2014/12/05(金) 02:49:55

    リヴァイ「オイ」

    ハンジ「────」

     嫌な思考の循環は、彼の一言で停止した。

    ハンジ「…………」

    リヴァイ「何を呆けてやがる」

    ハンジ「あ、いや……」

    リヴァイ「……。あいつらの治療が終わったらしい。とっとと行くぞクソメガネ」

     踵を返し、アルミンらがいる場へ進むリヴァイ。


     ──あ。


     その後ろ姿を目にし、ハンジは少しだけ、肩が軽くなったような気がした。

    理由は判らない。ただ漠然と、先程まで感じていた筈の重圧がふっと霧散したかのような、そんな感覚がしたのだ。

    ハンジ「……ああ」

     そうか、そうだったよね。

     自らに囁くようにして発せられた言葉は、やはり誰の耳にも届くことはなく。

    彼女は前を行く、あの見慣れた小さくとも大きな背中を追って、一歩足を踏み出した。



     彼らは前に踏み出した。

    真実を見極めるために。この残酷な世界に抗う、たった一握りの可能性を取り戻すために。


    しかし、彼らが真実に辿り着けるとは限らない。

    もしかしたら。

    その踏み出す一歩を、もう少し、ほんの早く動かしていれば。

    可能性は、あったのかもしれない。


  46. 99 : : 2014/12/20(土) 17:16:42
    ↑初コメだったけど簡単に投稿できるのね
  47. 100 : : 2014/12/23(火) 13:41:51
    期待
  48. 101 : : 2014/12/29(月) 18:34:34
    きたい!
  49. 102 : : 2015/01/06(火) 11:40:09
    放置はしないで
  50. 104 : : 2015/01/25(日) 13:44:32
    (´・ω・`)
  51. 106 : : 2015/02/03(火) 05:21:04
    お待たせして申し訳ない。

    やっと時間取れたよ……お正月も何もあったもんじゃなかったよ(´・ω・`)

  52. 107 : : 2015/02/03(火) 05:22:47

    《エレン・イェーガー》


     エレン・イェーガーは主人公だ。

    ■■の■■という、とある世界線のとある作品。

    彼を中心に世界が描かれ、主役として扱われる。

    特異な立ち位置。事有るごとに彼の周りでは何かが起き、時には巻き込まれ、時には自ら飛び込み、それらの経験を得てエレン・イェーガーは成長し、物語は進んでいく。


     まさに主役。

     まさしく主人公。


     彼が世界の中心ではなく、世界が彼を中心に回っていると言っても過言ではないだろう。

     ──さて。

    確かに、エレン・イェーガーは主人公なのだろう。

    では、“彼”はどうなのだろうか。


    “彼”もまた“エレン・イェーガー”として生まれた。


    “エレン”として生き、“エレン”として成長し、“エレン”として死んだ。

    そう、“彼”は死んだのだ。

    本来とは全く違う道筋で、■■の■■という『原典の世界』とは似て非なる世界で、“彼”は無惨な最期を遂げた。

    しかし、“彼”の物語はそこで終わりではなかった。

    全く別の、■■の■■とは何から何までも別物の世界で、“彼”の物語は再び始まった。

    それが“彼”にとって善かった事なのかというと一概にそうとは言えないが、本人の意思など関係なく、世界は“エレン”を取り込んだ。


     ──が、その世界にとって、“エレン・イェーガー”は本来なら存在し得ない人物──謂わば異物なのだ。

    脇役ならまだしも、主人公には何がどうあっても成り得ない。

    既にその世界には主人公がいるのだから当然だろう。


     …………。

    長々と面白味もない、有ること無いこと支離滅裂に綴ってしまっている訳だが。

    結局のところ、この物語はいったい誰のために作られた舞台なのだろうか。喜劇にも悲劇にも成れない、世界すら巻き込んだどっちつかずの優柔不断な人形劇。


    まあなんにせよ、もうじき幕は降りる。

    幕が降りて、それが終わりであるとは限らないが。


  53. 108 : : 2015/02/03(火) 18:17:54

              ●


     瞼を上げる。

    ぼんやりとした明かりが視界に映り込んだ。

    『エレン』「…………」

     くらくらする。意識がはっきりとしない。

    ここは何処だ?

    体を動かそうとして──そこで初めて、自分の手足が縛られていることに気づく。

    両手は後ろに回され、両足首は縄できつく結ばれていて動かすことができない。

    「エレン……ッ」

     ……、……!

    声。

    同時に、もそり、と隣で何かが動いた気配。

    首を振り、そちらを見ると……最初に視界に飛び込んできたのは、大きな瞳。

    『エレン』「……、クリスタ……?」

    『クリスタ』「! エレンッ……よかった、気が付いたんだ」

     安堵したように息を吐くクリスタ。

    ……何でクリスタ?

    クリスタ「何度声掛けても起きないかったから……体、変なところない?」

     …………。

    あ──。

    『エレン』「ああっ!」

    『クリスタ』「っ!?」

     思い出した。

    俺、あの人に──それから──!

    『エレン』「痛っ……」

    『クリスタ』「だ、大丈夫!?」

    『エレン』「っ……大丈夫だ。それより、ここは……」

     ズキズキと痛む頭を我慢しながら、目を動かして周りを確認する。

  54. 109 : : 2015/02/04(水) 04:40:35

     広い空間。いくつかに区分けするように大きな箱が置いてある……どこかの倉庫か?

    もっと周りを見ようと、無理矢理拘束されている体をよじるように動かそうとしたが──駄目だった。動けない。

    そこで隣を見ると、クリスタの方も同じように縛られているのか、背中に回された腕を動かしてはため息をついていた。

    ……そういえば、前にもこんな風に後ろ手で縛られたことあったな、といつかの出来事を思い起こしたが、今はそんなことをしてる場合ではないと浮かんできた記憶を振り払う。

    『エレン』「なあ、あの後……何がどうなったんだ?」

    『クリスタ』「──判らない。私は……気絶して、気付いたら、こうなってたから」

     でも。と、クリスタは続ける。

    『クリスタ』「私のせいだ……私が、勝手に飛び出したせいで……」

     俯くクリスタ。

    そこから先を彼女は話さなかったけど、朧気ながらあの時に起こったことを思い出していた俺には、何となくだが察しがついていた。

    迫る巨大な手。倒れたアルミンとユミルの前に立つ俺。

    割り込むように現れた、金色の背中。そして──それすらも守るようにして飛び込んできた、小さな背中。

    …………。

    『エレン』「クリスタ、怪我、してないか」

    『クリスタ』「うん、大丈夫……アリスさんが、庇って、くれたから」

    『エレン』「……そうか」

    『クリスタ』「……うん」

     よかった、とは、言わなかった。

    それは、言ったらいけないと思ったから。

    ──切り替えよう。

    今はこの状況をどうにかするのが先だ。

    両手は後ろ手で柱に繋がれて使えない。足は縄で結ばれ……幸いなのは目や口が塞がれていないことか。


  55. 110 : : 2015/02/10(火) 17:58:44
    やぁっときたかぁ(*´∀`)♪
  56. 111 : : 2015/02/11(水) 12:55:27
    >>110
    待たせて申し訳ないm(__)m

  57. 112 : : 2015/02/11(水) 12:57:42

    『エレン』「……?」

     疑問。

    どうしてそこだけ自由なんだろうか。

    なにか理由があるのか…………、駄目だ、思い付かない。

    というか、思い付いたところで意味があるとは思えない。考えるだけ無駄か。

    こんな時にアルミンやミカサがいれば……ミカサとか、自力でこんな拘束引きちぎるくらいはやってのけそうだな。俺は無理だ。巨人化でもしない限り。

    いっそ舌噛みきって巨人化するか……と無謀なことを考え付いた矢先。

    ギイィ……ッ、と、扉が開くような音がした。

    『クリスタ』「……っ」

     隣でクリスタが息を呑む気配がした。

    『エレン』「…………」

    「…………」

     無言で俺たちを見下ろす男。

    顔は痩せこけていて、身体も全体的に細い。骸骨みたいだ。

    憲兵団の服を着てはいるが、わざと着崩しているのか、シャツや襟口がしわしわでひどくだらしない。

    一番気になるのが、上着の肩から先が無いことだ。初めから無いようには見えない。肩口のあたりが引きちぎられたようにボロボロだから。

    「エレン・イェーガー」

     俺の名前。

    指先を俺に向け、流すようにその先端を隣に移す。

    「ヒストリア・レイス」

    『エレン』「…………」

    『クリスタ』「……、……」

     ……不気味。

    巨人のふざけた顔を見た時とはまた違う、不気味さ。

    『クリスタ』「……あなたは、なに……?」

    「……、ヒストリア・レイス。王族の血を引く者。モノ? 者。利用価値あり。無し、有リ……」

     どこか虚ろな瞳でぶつぶつと呟く男に、先程まで抱いていた嫌悪感がさらに増していく。

    隣のクリスタもそれは同じなのか、口元をきつく結び、眉を寄せていた。

    「…………」

     そして、沈黙。

    何がしたいのか、この男は。


  58. 113 : : 2015/02/11(水) 12:59:20

    『エレン』「……俺達をどうするつもりだ。何が目的なんだよ、お前……」

    「……、エレン・イェーガー。巨人、適応者。成功者。人類の奇ボウ。……そんなモのは不必要」

    『エレン』「は──?」

     ──まばたきを一度した、その直後。

    何かが横っ面にぶつかったと思うと、俺の首は勢いよく横に振り向いていた。

    『クリスタ』「ッ────!」

     視界の端で、何か小さな物が宙を飛んでいった。

    それが俺の歯だというのに気がついたのは、つい数秒前。

    そして、その数秒前に目の前にいる不気味な野郎に俺が蹴られたということに気がついたのが、今。

    『エレン』「ィッ──グ、ウッ…」

     左頬を襲う激痛に、自然と顔が歪む。

    舌を噛まなくて良かった、なんていう呑気なことを思ったのは、ほんの一瞬で。

    次に痛みが襲ってきたのは、鳩尾。

    『エレン』「ガッ──ハッ……!」

     口が開き、呼吸を忘れる。

    涎が下唇を伝う。

    一緒に赤い液体も流れ落ちたから、もしかしたら最初の蹴りで口の中を切ったかもしれない。

    『クリスタ』「やめ──    !」

     クリスタの声がした。もしかしたら今も発しているのかもしれない。

    が、俺の耳には届かない。聞こえるのは、人体をいたぶる鈍い音と、俺の口から洩れる言葉にならない呻き声のみ。


     ──あ──。


     …………。



  59. 114 : : 2015/02/12(木) 05:22:44

              〇


    『クリスタ』「やめて! お願いっ、やめて!」

     声を張り上げ訴えかけても、目の前にいる男はその行為をやめない。

    ただ一方的に、意識を失ったのか途中から反応しなくなったエレンを無言で蹴りつけ、暴行を加える。

    『クリスタ』「ううっ──うううっ……!」

     鮮血が、頬に当たる。

    どんなに体を動かそうと、運良く拘束がゆるむわけもなく。

    ただじっと、目の前で大切な仲間がいたぶられるのを眺めるしか、今の私にできることはない。

    『クリスタ』「やめてッ! お願いだからやめてよ……っ! それ以上やったら──エレンが──」

     “死ぬ”

    その言葉が頭に浮かんだ途端、一気に体から熱が引いたような気がした。

     死ぬ? 誰が? エレンが。


     ──いやだ。


    はっきりと、そう、自分でも驚くほどに明確に、私はこのままだと起こりうる現実を否定した。

    “クリスタ”としての私なら、そう考えるのは当たり前だ。誰にでも優しい“クリスタ”なら、仲間が死ぬのはつらく悲しいと、きっと涙を浮かばせながら心を痛めるだろう。“わざとらしいほどに”。

    けれど。

    けれど、今の私は“ヒストリア”だ。

    何も無い、空っぽで虚しい、“ヒストリア”だった筈だ。

    それなのに、なぜ?


     思考は泥沼に嵌まりながらも、私の口は必死に「やめて」と紡ぐ。

    『クリスタ』「やめ──て! お願い、だから……!」

     喉が痛い。声がかすれる。

    何度も何度も無理矢理動こうとしたから、手首からもじんじんと染みるような痛みが走ってきた。


     ……ああ、私は……。

    悔しさから、瞳を閉じ、歯をくいしばる。

    『クリスタ』「────」



     なんて、無力。



  60. 115 : : 2015/02/13(金) 15:00:01
    《秘密とは、暴かれないからこそ惹かれるものだ》

              〇


     ────。

    あ、れ?

    唐突に、音が消えた。

    ハッ、と目を開けると、視界に映り込んだのは、やはり先程までエレンをいたぶっていた男の姿で。

    けどさっきまでと違うのは、男がエレンに対しての暴行をやめていたこと。

     ──そこで一瞬、最悪な未来を想像した。

    『クリスタ』「っ……!!」

     即座に振り向き、隣の彼の様子を見る。

    『クリスタ』「エレンッ! エレッ──」

     動かない体。赤く染まったシャツに、痛々しい程にいたるところが腫れ、血を流す肌。

    思わず眼を逸らしそうになるのをぐっと我慢して、私はエレンの様子を探る。

     ……あ……。

    胸が、微かに膨らみ、萎んだ。

    呼吸……。動いてるっ。生きてる!

    『クリスタ』「……、……」

     自然と、肩の力が抜ける。

    安堵。けれど、それに浸っていられた時間は短く。

    意識はすぐに、目の前に立つ男へと移る。

    『クリスタ』「あなた、何がしたいの……私とエレンを捕まえて……こんなことまでしてっ」

    「…………」

     無言。

    こちらの質問に答えるつもりはないということなのか。

    『クリスタ』「…………」

     この男は、さっき私をヒストリア・レイスと呼んだ。

    ──レイス家の“壁の秘密”が関係しているのか。だが私はそんなもの知らない。知らされていない……筈だ。

    なら、エレンの巨人の力か。そういえば、こいつはエレンのことを“巨人の適応者”と言っていた。“成功者”、とも。

    成功──つまり、失敗した者もいたということなのか。


    ……判らない。

    何も、わからない。


  61. 116 : : 2015/02/14(土) 08:23:36

    『エレン』「……ぅ……ぁ……」

    『クリスタ』「! エレン!?」

     ──そうだ、考えたところで、私には何も判らない。

    ただ一刻も早く彼を治療しなきゃいけない。それだけは確かなことで、私がやるべきことだ。

    巨人化の影響か、エレンは傷の治りが早いと聞いた。けど、それはあくまで早いだけ。その時は抜けた歯がすぐに生えた程度だったみたいだから、今みたいに重傷を負った場合、その再生力がどこまで発揮されるか……。

     ぐっ、と奥歯を噛みしめる。

    まずはこの拘束をどうにかしないと。治療以前に何をしようにも動くことすらできない。

    だけど──。

    『クリスタ』「っ……ふっ、く、うっ……!」

     ……ダメだ、やっぱりほどけない。 

    いくら強引に、力任せにもがいても僅かにゆるみすらしない。どれだけ固く結んだんだと声を張り上げたい。喉が痛くてそれどころではないけど。

    ……、いけない、どんどん思考が逸れていってる。

    幸いなことに、男はあれから動きをみせていない。

    一度落ち着こうと、深く息を吐こうとした矢先、隣から苦しそうに咳き込む音がした。

    『クリスタ』「! ──エレン、しっかりしてっ」

     荒い呼吸を繰り返す彼を目にし、焦燥感が募る。

    一刻も早くこの状況をどうにかしないと。

    そう思い、何度目かになる力任せを決行しようとした、その時。

    コツッ、と、固い床に何かが当たる音がした。

    それは、コツッ、コツッ、と連続で周囲に音を鳴らしながら。

    段々と、私達の所に近づいてきた。

    「お初に御目にかかります、ヒストリア様」

    『クリスタ』「…………」


  62. 117 : : 2015/02/14(土) 12:46:52

     男。

    依然としてそこにいる気色の悪い奴とは違う。

    まるで上流階級……中央の権力者達が着るような上質な服を着た、見た感じ30代くらいだろうか。

    この殺伐とした場には似つかわしくない爽やかな笑みを浮かべる男は、一見すると紳士的に見えなくもない──けど、私には胡散臭い男にしか見えなかった。

    着ている服も、ただ着ているだけって感じだ。着こなしている風を装っているだけに見える。

    「手荒なまねをして申し訳ない。いやはや、私もこのような“悪人の真似事”はしたくなかったのですが……上に立つ者というのもまた、世知辛いものです」

     大袈裟に額に手を宛て、あたかも心痛めてます、みたいな動作をする男。

    言葉の端々から、私を見下すような“愉悦感”のようなものがにじみ出ている。

    『クリスタ』「……生憎、私は上に立ったことなんてないから、解らない心境ね」

    「おや、お気に障りましたか? ……そういえば、貴女はレイス家であってレイスではありませんでしたね。これは失礼しました」

     言って、嘲笑。

    この場において圧倒的上位に立つ者としての、絶対的な安心感。

    何故だか最初にいた気色悪い方の男は、目の前の貴族風な男が現れた途端身動きひとつしなくなった。それどころか、男の半歩後ろで控えるように静かに立っている。さっきまでエレンを痛め付けていたとは思えない程に。

    ……薄気味悪い。

    『エレン』「……う──あ」

    『クリスタ』「! エレンッ」

    「……生きていましたか。流石は巨人化の成功者。生命力も回復力も紛い物とは比べ物にならないようで」

    『クリスタ』「──成、功者?」

     ついさっきも、似たような内容を耳にした。

    適応者。成功者。

    ──紛い物?

    意味がわからない。

    「ああ、貴女は知らないのですか。まあ知らないのが普通ですが」

     …………。

    『クリスタ』「どういう意味」

    「教えません。口を滑らしたら私の身が危ういので」

     「そもそも」と、男は口元を緩ませながら言葉を紡ぐ。

    「私なんかより“貴女のお父様”にでも聞いた方が、よっぽど詳しく、より鮮明に教えてもらえるかと」


  63. 118 : : 2015/02/17(火) 05:18:53

    《なまえ》

     ────。

    一瞬、息をするのを忘れていた。


    「おっと失礼。“元”お父様でしたね。今は縁を切られているとか。ふはっ、聞きましたよ、貴女の過去」

    『クリスタ』「……な、にを……」

    「妾の子。周りに愛されず、必要とされず、実の父に目の前で母親を殺され、挙げ句の果てには名前を偽って訓練兵団に入れさせられるとは。ああいや、その前に開拓地でしたっけ」

     蔑み、憐れみ。

    そんな視線を向けてくる男を視界に収めながら、私の頭は思考を進める。

    どうして、なんで、知っている。誰から聞いた。何から知った。

    私が──父、に、会った日のことを知る人は少ない。

    ただ、あれは。

    あの日、あそこで起きたことは。

    『クリスタ』「どうして」

     この男もあの場にいたのか。

    ……いや、違う。

    この男は“聞きました”と言った。つまり誰かに言葉で教えられただけで、実際にあの場にいたわけではない……筈、だ。

    ……ちがうちがう、そういう問題じゃない。

    「相当困惑されているようですが……そろそろ私の用事を済ませてもいいでしょうか?」

    『クリスタ』「…………」

    「ヒストリア・レイス。こちら側に来ませんか?」

     ──は?

    『クリスタ』「それは……どういう……」

    「中央につかないかと訊いてるんですよ。つまり調査兵団を裏切れということです」

     ────。


  64. 119 : : 2015/02/19(木) 04:24:58

    「貴女は“少々”特別な立ち場に身を置いている。こちら側としても、貴女が調査兵団にいるのは些か都合が悪くてね」

     都合が悪い?

    「そうですねえ……素直に要求に応えてくれるなら、そこにいる死に損ないを逃がしてあげてもいいですよ」

    『クリスタ』「……」

     エレンを……?

    『クリスタ』「っ」

     一瞬頭に浮かんだある考えを、私は即座に否定する。

    仮に、仮にこの奇妙な要求をのんだとして、男がエレンを助けてくれる保証はどこにもない。

    ──でも──。

    「さあ、ヒストリア様。御答えを」


     …………ヒストリア。


     私は。

    エレン。私は。ヒストリア。で。

    ……そうだ。そうだよね。

    私がいなくなったところで、『     』。

    だって私はヒストリアだから。


    『ヒストリア』「──本当に、彼を……エレンは、助けてくれる?」

     その問いに、男は笑みを浮かべた。

    半月状に、口元を吊り上げて。

    『ヒストリア』「────。わ──」

     “──わかった”

    そう口に出そうとした直前。

    縛られた私の、手首の先。


    『ヒストリア』「──、え?」


     指先に、何かが触れた。

    掴むように。摘まむように。私の人差し指を挟み込む、温かい何か。

    「    」

     そして、微かに聞こえた小さな声。

    かすれていて、少し聞き取りずらかったけど。

    確かに、聞こえたんだ。


     私の名前。



  65. 120 : : 2015/03/21(土) 09:43:26
    期待です。(*^^*)
    頑張ってください。(〃⌒ー⌒〃)ゞ
  66. 121 : : 2015/04/09(木) 21:00:01
    イヤッフー!
  67. 122 : : 2015/04/14(火) 18:56:44
    続きお願いします 期待!!
  68. 123 : : 2015/04/14(火) 23:12:13
    早めに書いてほしいっぽい!
  69. 124 : : 2015/05/01(金) 23:06:23
    投稿してくれー!
  70. 125 : : 2015/06/01(月) 17:06:11



























    はよかけ
    カス





















    wwwwwwwwwwwwwwwwwwww
    wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww









    死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね


























































    放置すんなら書くな















































































  71. 126 : : 2015/06/01(月) 17:06:21






















  72. 127 : : 2015/06/01(月) 17:06:27



















  73. 128 : : 2015/06/01(月) 17:06:34






















  74. 129 : : 2015/06/01(月) 17:06:45
















































  75. 130 : : 2015/06/01(月) 17:06:59











































  76. 131 : : 2015/06/01(月) 17:07:28

    「貴女は“少々”特別な立ち場に身を置いている。こちら側としても、貴女が調査兵団にいるのは些か都合が悪くてね」

     都合が悪い?

    「そうですねえ……素直に要求に応えてくれるなら、そこにいる死に損ないを逃がしてあげてもいいですよ」

    『クリスタ』「……」

     エレンを……?

    『クリスタ』「っ」

     一瞬頭に浮かんだある考えを、私は即座に否定する。

    仮に、仮にこの奇妙な要求をのんだとして、男がエレンを助けてくれる保証はどこにもない。

    ──でも──。

    「さあ、ヒストリア様。御答えを」


     …………ヒストリア。


     私は。

    エレン。私は。ヒストリア。で。

    ……そうだ。そうだよね。

    私がいなくなったところで、『     』。

    だって私はヒストリアだから。


    『ヒストリア』「──本当に、彼を……エレンは、助けてくれる?」

     その問いに、男は笑みを浮かべた。

    半月状に、口元を吊り上げて。

    『ヒストリア』「────。わ──」

     “──わかった”

    そう口に出そうとした直前。

    縛られた私の、手首の先。


    『ヒストリア』「──、え?」


     指先に、何かが触れた。

    掴むように。摘まむように。私の人差し指を挟み込む、温かい何か。

    「    」

     そして、微かに聞こえた小さな声。

    かすれていて、少し聞き取りずらかったけど。

    確かに、聞こえたんだ。


     私の名前。

  77. 132 : : 2015/06/01(月) 17:07:36

    「貴女は“少々”特別な立ち場に身を置いている。こちら側としても、貴女が調査兵団にいるのは些か都合が悪くてね」

     都合が悪い?

    「そうですねえ……素直に要求に応えてくれるなら、そこにいる死に損ないを逃がしてあげてもいいですよ」

    『クリスタ』「……」

     エレンを……?

    『クリスタ』「っ」

     一瞬頭に浮かんだある考えを、私は即座に否定する。

    仮に、仮にこの奇妙な要求をのんだとして、男がエレンを助けてくれる保証はどこにもない。

    ──でも──。

    「さあ、ヒストリア様。御答えを」


     …………ヒストリア。


     私は。

    エレン。私は。ヒストリア。で。

    ……そうだ。そうだよね。

    私がいなくなったところで、『     』。

    だって私はヒストリアだから。


    『ヒストリア』「──本当に、彼を……エレンは、助けてくれる?」

     その問いに、男は笑みを浮かべた。

    半月状に、口元を吊り上げて。

    『ヒストリア』「────。わ──」

     “──わかった”

    そう口に出そうとした直前。

    縛られた私の、手首の先。


    『ヒストリア』「──、え?」


     指先に、何かが触れた。

    掴むように。摘まむように。私の人差し指を挟み込む、温かい何か。

    「    」

     そして、微かに聞こえた小さな声。

    かすれていて、少し聞き取りずらかったけど。

    確かに、聞こえたんだ。


     私の名前。

  78. 133 : : 2015/06/01(月) 17:07:43

    「貴女は“少々”特別な立ち場に身を置いている。こちら側としても、貴女が調査兵団にいるのは些か都合が悪くてね」

     都合が悪い?

    「そうですねえ……素直に要求に応えてくれるなら、そこにいる死に損ないを逃がしてあげてもいいですよ」

    『クリスタ』「……」

     エレンを……?

    『クリスタ』「っ」

     一瞬頭に浮かんだある考えを、私は即座に否定する。

    仮に、仮にこの奇妙な要求をのんだとして、男がエレンを助けてくれる保証はどこにもない。

    ──でも──。

    「さあ、ヒストリア様。御答えを」


     …………ヒストリア。


     私は。

    エレン。私は。ヒストリア。で。

    ……そうだ。そうだよね。

    私がいなくなったところで、『     』。

    だって私はヒストリアだから。


    『ヒストリア』「──本当に、彼を……エレンは、助けてくれる?」

     その問いに、男は笑みを浮かべた。

    半月状に、口元を吊り上げて。

    『ヒストリア』「────。わ──」

     “──わかった”

    そう口に出そうとした直前。

    縛られた私の、手首の先。


    『ヒストリア』「──、え?」


     指先に、何かが触れた。

    掴むように。摘まむように。私の人差し指を挟み込む、温かい何か。

    「    」

     そして、微かに聞こえた小さな声。

    かすれていて、少し聞き取りずらかったけど。

    確かに、聞こえたんだ。


     私の名前。

  79. 134 : : 2015/06/01(月) 17:08:26
    《エレン・イェーガー》


     エレン・イェーガーは主人公だ。

    ■■の■■という、とある世界線のとある作品。

    彼を中心に世界が描かれ、主役として扱われる。

    特異な立ち位置。事有るごとに彼の周りでは何かが起き、時には巻き込まれ、時には自ら飛び込み、それらの経験を得てエレン・イェーガーは成長し、物語は進んでいく。


     まさに主役。

     まさしく主人公。


     彼が世界の中心ではなく、世界が彼を中心に回っていると言っても過言ではないだろう。

     ──さて。

    確かに、エレン・イェーガーは主人公なのだろう。

    では、“彼”はどうなのだろうか。


    “彼”もまた“エレン・イェーガー”として生まれた。


    “エレン”として生き、“エレン”として成長し、“エレン”として死んだ。

    そう、“彼”は死んだのだ。

    本来とは全く違う道筋で、■■の■■という『原典の世界』とは似て非なる世界で、“彼”は無惨な最期を遂げた。

    しかし、“彼”の物語はそこで終わりではなかった。

    全く別の、■■の■■とは何から何までも別物の世界で、“彼”の物語は再び始まった。

    それが“彼”にとって善かった事なのかというと一概にそうとは言えないが、本人の意思など関係なく、世界は“エレン”を取り込んだ。


     ──が、その世界にとって、“エレン・イェーガー”は本来なら存在し得ない人物──謂わば異物なのだ。

    脇役ならまだしも、主人公には何がどうあっても成り得ない。

    既にその世界には主人公がいるのだから当然だろう。


     …………。

    長々と面白味もない、有ること無いこと支離滅裂に綴ってしまっている訳だが。

    結局のところ、この物語はいったい誰のために作られた舞台なのだろうか。喜劇にも悲劇にも成れない、世界すら巻き込んだどっちつかずの優柔不断な人形劇。


    まあなんにせよ、もうじき幕は降りる。

    幕が降りて、それが終わりであるとは
  80. 135 : : 2015/06/01(月) 17:08:33
    《エレン・イェーガー》


     エレン・イェーガーは主人公だ。

    ■■の■■という、とある世界線のとある作品。

    彼を中心に世界が描かれ、主役として扱われる。

    特異な立ち位置。事有るごとに彼の周りでは何かが起き、時には巻き込まれ、時には自ら飛び込み、それらの経験を得てエレン・イェーガーは成長し、物語は進んでいく。


     まさに主役。

     まさしく主人公。


     彼が世界の中心ではなく、世界が彼を中心に回っていると言っても過言ではないだろう。

     ──さて。

    確かに、エレン・イェーガーは主人公なのだろう。

    では、“彼”はどうなのだろうか。


    “彼”もまた“エレン・イェーガー”として生まれた。


    “エレン”として生き、“エレン”として成長し、“エレン”として死んだ。

    そう、“彼”は死んだのだ。

    本来とは全く違う道筋で、■■の■■という『原典の世界』とは似て非なる世界で、“彼”は無惨な最期を遂げた。

    しかし、“彼”の物語はそこで終わりではなかった。

    全く別の、■■の■■とは何から何までも別物の世界で、“彼”の物語は再び始まった。

    それが“彼”にとって善かった事なのかというと一概にそうとは言えないが、本人の意思など関係なく、世界は“エレン”を取り込んだ。


     ──が、その世界にとって、“エレン・イェーガー”は本来なら存在し得ない人物──謂わば異物なのだ。

    脇役ならまだしも、主人公には何がどうあっても成り得ない。

    既にその世界には主人公がいるのだから当然だろう。


     …………。

    長々と面白味もない、有ること無いこと支離滅裂に綴ってしまっている訳だが。

    結局のところ、この物語はいったい誰のために作られた舞台なのだろうか。喜劇にも悲劇にも成れない、世界すら巻き込んだどっちつかずの優柔不断な人形劇。


    まあなんにせよ、もうじき幕は降りる。

    幕が降りて、それが終わりであるとは
  81. 136 : : 2015/06/01(月) 17:08:45
















    《エレン・イェーガー》


     エレン・イェーガーは主人公だ。

    ■■の■■という、とある世界線のとある作品。

    彼を中心に世界が描かれ、主役として扱われる。

    特異な立ち位置。事有るごとに彼の周りでは何かが起き、時には巻き込まれ、時には自ら飛び込み、それらの経験を得てエレン・イェーガーは成長し、物語は進んでいく。


     まさに主役。

     まさしく主人公。


     彼が世界の中心ではなく、世界が彼を中心に回っていると言っても過言ではないだろう。

     ──さて。

    確かに、エレン・イェーガーは主人公なのだろう。

    では、“彼”はどうなのだろうか。


    “彼”もまた“エレン・イェーガー”として生まれた。


    “エレン”として生き、“エレン”として成長し、“エレン”として死んだ。

    そう、“彼”は死んだのだ。

    本来とは全く違う道筋で、■■の■■という『原典の世界』とは似て非なる世界で、“彼”は無惨な最期を遂げた。

    しかし、“彼”の物語はそこで終わりではなかった。

    全く別の、■■の■■とは何から何までも別物の世界で、“彼”の物語は再び始まった。

    それが“彼”にとって善かった事なのかというと一概にそうとは言えないが、本人の意思など関係なく、世界は“エレン”を取り込んだ。


     ──が、その世界にとって、“エレン・イェーガー”は本来なら存在し得ない人物──謂わば異物なのだ。

    脇役ならまだしも、主人公には何がどうあっても成り得ない。

    既にその世界には主人公がいるのだから当然だろう。


     …………。

    長々と面白味もない、有ること無いこと支離滅裂に綴ってしまっている訳だが。

    結局のところ、この物語はいったい誰のために作られた舞台なのだろうか。喜劇にも悲劇にも成れない、世界すら巻き込んだどっちつかずの優柔不断な人形劇。


    まあなんにせよ、もうじき幕は降りる。

    幕が降りて、それが終わりであるとは









  82. 137 : : 2015/06/01(月) 17:08:55
    荒らし
  83. 138 : : 2015/06/01(月) 17:09:00
    バカ
  84. 139 : : 2015/06/01(月) 17:09:05
    カス
  85. 140 : : 2015/06/01(月) 17:09:11
    クズ
  86. 141 : : 2015/06/01(月) 17:09:16
    アホ
  87. 142 : : 2015/06/01(月) 17:09:21
    荒らし
  88. 143 : : 2015/06/01(月) 17:09:31
















































  89. 144 : : 2015/06/23(火) 01:59:50
    期待です
  90. 145 : : 2015/10/18(日) 15:23:21
    期待
  91. 146 : : 2016/04/09(土) 09:55:00
    まってます
  92. 147 : : 2016/06/20(月) 21:12:20
    いい話ですね。
    頑張ってください
  93. 148 : : 2016/12/13(火) 21:35:35
    期待てかはよ描いて~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
  94. 149 : : 2017/08/02(水) 11:20:52
    期待
  95. 150 : : 2017/08/02(水) 14:25:50
    荒らすなよ。だから書かないンだよ
  96. 151 : : 2017/08/02(水) 14:26:14
    期待
  97. 152 : : 2017/08/05(土) 00:46:15
    124~143要らないよ本当
  98. 153 : : 2017/08/07(月) 22:08:28
    クリスタ「書いてほしい無理かもしれないけど」ポロポロ
  99. 154 : : 2017/08/07(月) 22:40:03
    自分もこの続きが読みたい
  100. 155 : : 2017/09/03(日) 16:43:10
    荒らしはすぐ書けや死ねといっていますが貴方達のせいで作者のやる気が阻害されているんですよ?分かっていますか?また死ねという意味をしっかり理解しておりますか?最近の人はすぐ死ねなどいう人が多いですが本当に死んだら責任とれるんですか?そもそも思っていても口に出さない方がいいことも多いのに。長文失礼
  101. 156 : : 2017/10/02(月) 19:58:40
    残念。
  102. 157 : : 2018/05/22(火) 12:50:06
    自分はいつまでも待ってます。
  103. 158 : : 2018/07/25(水) 00:06:55

    ずっと期待してるよ!!
  104. 159 : : 2018/08/16(木) 02:00:18
    ずっとずっと期待しています‼︎
  105. 160 : : 2018/08/16(木) 13:03:32
    未完の名作…
  106. 161 : : 2018/09/23(日) 00:11:07
    今までで一番面白かったので続きを待ってます。
    応援してるので頑張って下さい!!!!!
  107. 162 : : 2020/05/07(木) 00:30:03
    今まで見たループ物の中で一番好きです。どうか続きを私に恵んで下さい、、、、、
    ssnoteだとこの小説のような素晴らしい作品でも途中で荒らされるのが目に見えているのでどうか別のもっとちゃんとした小説サイトでもう一度投稿してほしいです
    いつまでも待っています
    もう一度言いますが、いつまでも待っています
  108. 163 : : 2020/10/06(火) 13:18:00
    高身長イケメン偏差値70代の生まれた時からnote民とは格が違って、黒帯で力も強くて身体能力も高いが、noteに個人情報を公開して引退まで追い込まれたラーメンマンの冒険
    http://www.ssnote.net/archives/80410

    恋中騒動 提督 みかぱん 絶賛恋仲 神威団
    http://www.ssnote.net/archives/86931

    害悪ユーザーカグラ
    http://www.ssnote.net/archives/78041

    害悪ユーザースルメ わたあめ
    http://www.ssnote.net/archives/78042

    害悪ユーザーエルドカエサル (カエサル)
    http://www.ssnote.net/archives/80906

    害悪ユーザー提督、にゃる、墓場
    http://www.ssnote.net/archives/81672

    害悪ユーザー墓場、提督の別アカ
    http://www.ssnote.net/archives/81774

    害悪ユーザー筋力
    http://www.ssnote.net/archives/84057

    害悪ユーザースルメ、カグラ、提督謝罪
    http://www.ssnote.net/archives/85091

    害悪ユーザー空山
    http://www.ssnote.net/archives/81038

    【キャロル様教団】
    http://www.ssnote.net/archives/86972

    何故、登録ユーザーは自演をするのだろうか??
    コソコソ隠れて見てるのも知ってるぞ?
    http://www.ssnote.net/archives/86986

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