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ベルトルト「昨日見た夢の話」
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- 1 : 2014/05/20(火) 22:12:36 :
- ・似非ホラー
・ベルトルト一人語り
・地の文有り
・アニメ派はネタバレ有り
『それは多分、無意味で無価値な物語』
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- 2 : 2014/05/20(火) 22:13:25 :
- 暗い廊下だ。
長い廊下だ。
廊下の先は見えない。
それは暗くて見えないのか、長くて見えないのか、
はたまた、二つが相まって見えないのかは分からない。
僕は一人。
一人でその暗くて長い廊下を歩いている。
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- 3 : 2014/05/20(火) 22:21:23 :
- 「どこだ、ここは…?」
思わず独り言が洩れた。
ギシギシミシミシ、床が鳴る。
普段、人前であまり喋らない分、一人になると途端に口数が増えるのは、僕の悪い癖だ。
耳がいいミカサとか、気配を消せるミカサとかに、独り言を聞かれそうになったことは、まあ多からず有る。
それは、ライナーへの愚痴だったり、何気ない(或いはそう聞こえる)弱音だったりで、
聞かれても問題ないものではあったんだけど。
「ミカサ、怖いなあ…」
また独り言だ。
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- 4 : 2014/05/20(火) 22:23:03 :
- それにしても、本当にここはどこだ?
訓練所でもなければ、演習の時に滞在したトロスト区の本部でもない。
見たことのない場所だ。
壁の中でも、外でも。
木造の暗くて長い廊下の両側に、同じく木造のドアがたくさんたくさん並んでいる。
廊下の先が見えないように、ドアもどこまで続いているのかわからない。
こんな場所、僕は知らない。
でも、感じとしては
「病院…?」
無限に続く廊下がある病院なんてこの世にあるのか知らないけど、
その常識はずれの廊下のことを無視して考えれば、うん、病院の廊下によく似ている。
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- 5 : 2014/05/20(火) 22:27:27 :
- 「気味が悪いな」
床も壁も扉もボロボロだ。
穴が空いてるところもある。
穴の向こう側は見えない。
近くに寄れば見えるのかも知れないけど、そんな勇気は僕にはない。
ギシギシミシミシ、床はずっと鳴っている。
僕が歩く度に。
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- 6 : 2014/05/20(火) 23:19:12 :
- ずっと歩いて、
どれくらい歩いたのかわからないけど、
長い間、ずっとギシギシミシミシ歩いていたら、
曲がり角があった。
十字路でもない、丁字路でもない、ただのL字の曲がり角。
曲がるしかない曲がり角。
僕は迷わず曲がった。
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- 7 : 2014/05/20(火) 23:29:15 :
- そうすると今度は階段があった。
今度はどれくらい歩いたかわかる。
曲がってすぐの所に階段があったから。
階段の為に曲がったようなものだ。
あったのは下に向かう階段だけ。
上に向かう階段はない。
いいんだけどね、ここから出ようと思ったら下に向かうのが定石なんだし。
「あれ?」
僕はここから出たかったんだっけ?
分からないな。
ここがどこかも分からないのに、出たかったり出たくなかったりするのかな?
分からないな。
ここがどこか分からないなら出たいのが普通なのかな?
分からないな。
僕は普通じゃないから。
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- 8 : 2014/05/21(水) 04:08:48 :
- ギシギシミシミシ
僕は階段を降りる。
他に道がないから。
立ち止まるよりはいいはずだ。
長い階段だ。
ここも歩く度に音が鳴る。
ギシギシミシミシ
暗い階段だ。
どこまで続いているんだろう?
終わりは見えない。
暗いから見えないのか、長いから見えないのか、
それとも両方かはやっぱり分からない。
ギシギシミシミシ
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- 9 : 2014/05/21(水) 13:27:39 :
- そういえば僕はなんで歩いているんだろう?
気づいたときにはここにいて、
そして歩いていた。
なんの疑問も持たずに。
おかしいな。
愚かな人間みたいだな。
壁の中の、虚偽の安寧を貪っている人間みたいだ。
嫌だな。
ライナーが壁の中の人みたいになってしまったことを思い出す。
アニが揺らいでる気持ちを僕らに隠そうとしていることを思い出す。
嫌だな。
何が嫌なのかな?
ギシギシミシミシ
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- 10 : 2014/05/21(水) 13:28:28 :
- 「あ…」
下り階段は唐突に終わった。
一番下まで来ると、扉も廊下もなくて、今度は登り階段があった。
なんだろう?
僕を歩かせることが目的なんだろうか?
分からないけど、僕は目の前の登り階段に足をかけた。
ギシ
また長そうな階段だ。
そして暗い階段だ。
どこまで続くのかは分からない。
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- 11 : 2014/05/21(水) 13:32:27 :
- 超期待!
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- 12 : 2014/05/21(水) 13:56:06 :
- 期待です!
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- 13 : 2014/05/21(水) 14:14:27 :
- 期待です
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- 15 : 2014/05/21(水) 18:20:04 :
- 階段を下って、下りきったところから階段を上っているけど、
どうやら階段を下り始めたところとは違うところに向かって上っているらしい。
どっちの階段もまっすぐの階段立ったけど、
反対の方向に向かって延びている。
でも、こういう真っ暗で狭くて、しかも代わり映えのない場所だから、
少しずつ少しずつ曲がって、感覚とは全然違う方向に向かっていても分からないかもしれない。
分からないけど、僕は階段を登り続けた。
ギシギシミシミシ、登り続けた。
他にすることがなかったから。
他にすることが分からなかったから。
「ギシギシミシミシ」
口に出して言ってみたけど、音は止まなかった。
ギシギシミシミシ
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- 16 : 2014/05/22(木) 05:03:46 :
- 登り階段は唐突には終わらなかった。
ずっと登っていくと、小さな光が見えたから。
その光が段々大きくなってたから、
あそこがゴールなんだなと思った。
ゴールなんてあるのか分からないけど。
光がどんどん大きくなる。
ギシギシ音が鳴る度に、
ミシミシ音が鳴る度に。
光の中に、足を踏み入れる。
その記念すべき第一歩に、床はミシと音を立てた。
ギシの方が好きなんだけどな。
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- 17 : 2014/05/22(木) 05:04:09 :
- そこは部屋だった。
三メートル四方ってところかな?
「見える…」
さっきまでの廊下や階段と違って、ここはどこまで部屋が続いているのかがちゃんと見えた。
よく見えたとは言いがたいけれど。
それは、三メートルと比較的近い距離だからであり、
少ないながら光が指しているからだろう。
部屋には窓があった。
透明じゃない硝子のはめ殺しの窓。
そこに、木製の雨戸が取り付けられている。
雨戸はボロボロで、所々欠けているけれど、
何故か完全に外れているものはなくて、
硝子が透明だったとしても、外の様子は伺えそうになかった。
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- 18 : 2014/05/22(木) 05:04:31 :
- ギシギシミシミシ
音を鳴らしながら、部屋の中心まで歩く。
意味はない。
分からない。
『────…』
「え…!?」
不意に声が聞こえた、気がした。
振り向いた先にはもちろん誰もいない。
『───…!』
また聞こえた。
また振り向く。
また誰もいない。
「なんなんだ…」
何かのいたずらか?
だとしたら、手の込んだことだけど、
全く必要性を感じない。
「──…!──…!」
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- 19 : 2014/05/22(木) 18:26:33 :
- 三度聞こえた声。
声がする、これはもう間違いない。
そして、その声は、何か言っている。
ような気がする。
「─ボ、──ヨ…!」
確信した途端に声は段々と形を持っていく。
なんだ、何て言ってる?
僕はどうしたらいいんだ?
「─ソ、───ボウヨ…!」
君はどうしたいんだ?
僕にどうしてほしいんだ?
そして、声は明瞭になり、
その意思は明確になる。
「アソボ、アソボウヨ…!」
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- 20 : 2014/05/22(木) 18:27:31 :
- そうはっきりと知覚した瞬間、ずしりと体が重くなった。
「!?」
何かにのし掛かられている?
何かにすがり付かれている?
もちろん「何か」ではない。
あの「声」だ。
「アソボ、アソボウヨ…!」
「アソボ、アソボウヨ…!」
「アソボ、アソボウヨ…!」
子供の声だ。
一つや二つではない。
けれど、百とか二百ではない。
一人の人が無理矢理違う声音を使っているような、
多くの人が無理矢理同じ声音を真似しているような、
不自然なユニゾン。
でも、なんでだろう?
嫌な感じはしない。
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- 21 : 2014/05/22(木) 18:28:24 :
- 「君たちは、幽霊かい?」
これは独り言ではない。
だって、僕は「声」に向かって話しかけているのだから。
見えない相手に話しかけているのだから、周りから見れば一緒かもしれない。
むしろこっちの方が痛いかもしれない。
でも、僕の主観としては、これは会話だ。
少なくとも、会話を試みている。
「アソボ、アソボウヨ…!」
「アソボ、アソボウヨ…!」
試みは失敗だった。
「声」は答えてくれない。
「困ったな…」
遊んであげたいのはやまやまなんだけど、こんな何もないところで、何をしたらいいんだろう?
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- 22 : 2014/05/22(木) 18:29:05 :
- 「アッチノハシマデハシッテ…!」
「コッチノハシマデハシッテ…!」
「アッチノハシマデハシッテ…!」
「コッチノハシマデハシッテ…!」
「声」は答えてくれた。
「なるほど、君たちを乗せたまま、部屋を往復すればいいんだね?」
確認したけど、答えは返ってこなかった。
まあ、いいや。
僕は部屋の端まで移動する。
心なし、ギシギシミシミシが大きくなった気がする。
でも、心なし。
体に感じる重みも、最初の衝撃が大きかっただけで、
重さそれ自体は大したことない。
全力疾走は無理でも、ちょっと駆け足で行ったり来たりはできそうだ。
この狭さじゃ、二三歩で端まで辿り着いちゃうしね。
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- 23 : 2014/05/22(木) 18:41:47 :
- 期待です!
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- 24 : 2014/05/22(木) 19:17:40 :
- >>23
ありがとうございます!ご期待に添えると良いのですが。
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- 25 : 2014/05/22(木) 19:18:46 :
- そこまで考えて顔を上げると、反対側の壁に扉があるのに気づいた。
正確には、反対側の壁が扉だったこと、だけど。
木の板が四枚はまった引き戸だ。
二枚ずつ互い違いになってる。
あれは開けていいのかな?
「アッチノハシマデハシッテ…!」
「コッチノハシマデハシッテ…!」
「トビラノムコウモ…!」
「トビラノムコウモ…!」
なるほど。
あっちの端というのは、引き戸の向こう側のことらしい。
たぶん、あちら側にも同じような部屋があるんだろう。
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- 26 : 2014/05/22(木) 19:19:14 :
- かくして、引き戸の向こうは想像通り、こちら側と同じ構造の部屋だった。
ボロボロの床と壁と窓。
でも、外の様子は分からない。
僕は引き戸の真ん中の二枚を、それぞれ端にずらして、通路を確保して、
もう一度部屋の端まで戻った。
引き戸は音が鳴らなかった。
「じゃあ、行くよ?」
姿無き声にそう声をかけて、
僕は走り出す。
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- 27 : 2014/05/22(木) 20:55:03 :
- 足の速さには自信がある、というほどではないけど、
人並み以上ではあるはずだ。
ギシギシギシギシッ!
ミシミシミシミシッ!
床が鳴る。
さっきまでとは比べ物にならないくらい激しく。
「──!──!」
「──!──!」
声が聞こえる。
きちんと音になっていないけど、分かる。
笑ってるんだ。
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- 28 : 2014/05/22(木) 20:55:52 :
- 二つの部屋を走り抜けて、「あっちの端」まで辿り着いたら方向転換。
軸足に体重をかけて、勢いを殺す。
ミシ、と床が大きく鳴る。
今度は来た道を、反対に向かって「こっちの端」へ。
「キャ!キャ!キャ!」
「キャ!キャ!キャ!」
ほら、笑ってる。
「あはははははは!」
みんなが笑ってくれたから、僕も笑顔になる。
僕も笑う。
ギシギシギシギシッ!
ミシミシミシミシッ!
床が鳴る音まで、笑い声に聞こえる。
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- 29 : 2014/05/22(木) 21:05:04 :
- 「あはははははは!」
「キャ!キャ!キャ!」
ギシギシギシギシッ!
「キャ!キャ!キャ!」
ミシミシミシミシッ!
笑い声の大合唱だ。
「楽しいね」
僕が言う。
「タノシイネ」
「声」が答える。
「タノシイネ」
「声」が言う。
「楽しいね」
僕が答える。
何が楽しいのかは、分からない。
なんで泣いてるのかも。
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- 30 : 2014/05/22(木) 21:09:59 :
- 次の日、僕は同じ廊下に立っていた。
時計はなかったけど、前の日と同じ時間なのは分かった。
前の日、走って走って、ずっと走って、いつまで走っていたのか分からない。
いつ走るのをやめて、いつ帰ってきたのか分からない。
そもそもどこに帰るんだっけ?
帰る場所なんかあるんだっけ?
帰ってから今まで何してたんだっけ?
分からない。
でも、今からまたあそこに行かなきゃいけないことは分かった。
なぜ行かなきゃいけないのかは分からない。
なぜそれが分かったのかも分からない。
僕には何も分からないんだ。
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- 31 : 2014/05/22(木) 21:15:23 :
- 分からないから、僕は歩く。
歩かないといけないことだけは分かったから。
今日も歩く度に廊下が音をたてる。
ギシギシミシミシ
廊下はやっぱり暗くて長くて、
どこまで続いているのか分からない。
昨日と同じ場所に、同じ穴が開いている。
そこに近づく勇気はやっぱりない。
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- 32 : 2014/05/22(木) 21:20:20 :
- 中ほどまで歩いて、
正確な距離も分からないのに、中ほども何もないだろうとは思うけど、
それでも、まあ、昨日の記憶から考えて、おおよそ中間辺りまで歩いて、
僕は、昨日は全く気にならなかったことが気になった。
つまり、この廊下の両端に続く扉のことだ。
廊下の床同様にボロボロで穴が開いていて、
でも、その向こう側は真っ暗で見えない。
無数に続くかのような扉の列。
もちろん、廊下と一緒に扉も終わることを僕は知っているけど、
知っていてもなおそういう印象を抱いてしまう、
「うん…」
確認するように、一言呟いて、
僕は手近な扉に向かった。
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- 33 : 2014/05/22(木) 21:26:11 :
- 扉の前に立って、ノブに手をかける。
ギシ、と音がする。
廊下と同じ音だ。
手に力を入れて、ノブを回す。
扉を開ける。
つもりだった。
「開かない…?」
扉は開かない。
動かない。
ドアノブからはギシギシミシミシと、
僕が加えた力に応えるように音がするけど、
扉からはその音すらしない。
扉が取り付けられているというよりは、
壁の一部が扉のような装飾をされている感じだ。
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- 34 : 2014/05/22(木) 21:26:34 :
- 期待!!
-
- 35 : 2014/05/22(木) 21:30:12 :
- 諦めて、僕は隣の扉を目指す。
ギシギシミシミシ、歩いて
ギシと音をたててドアノブを握り、
そしてやっぱり扉は開かない。
ピクリともしない。
ギシともミシともいわない。
「鍵…じゃないなあ」
そもそも鍵穴なんて存在していない。
もういいや。
別にここを開けなきゃいけないわけじゃない。
「もう行こう」
僕がしなきゃいけないのは、
昨日のあの部屋に行って、あの声の子供たちと遊ぶことだ。
あの子たちは、きっと僕を待っているはずだから。
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- 36 : 2014/05/22(木) 22:24:07 :
- >>34
ありがとうございます!
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- 37 : 2014/05/22(木) 22:24:59 :
- 暗くて長い廊下の先には、昨日と同じように階段があった。
昨日は、そういえば、階段しかないと思っていたけど、本当にそうだろうか?
角を曲がってすぐ階段が目に飛び込んできたから、そう思っただけなんじゃないだろうか?
なんて思って、辺りを見回して見たけど、
やっぱりそこには階段しかなかった。
三方は壁。
振り向けば、今しがた曲がってきたばかりの曲がり角。
その向こうにも、廊下の壁が見えた。
「階段室っていうのかな…?部屋じゃないけど」
図らずも、その言葉は僕にあの部屋に行かなければいけないという気持ちを思い出させたのであった。
「なんてね」
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- 38 : 2014/05/23(金) 02:01:49 :
- その後は特に何もない。
階段を下って、
下りきったところから、今度は階段を上って、
ギシギシミシミシ下って、
ギシギシミシミシ上って、
そして、あの部屋に辿り着いた。
部屋の床がギシと鳴る。
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- 39 : 2014/05/23(金) 02:03:07 :
- 「やあ、今日も来たよ」
姿無き声に、声をかける。
「アソボ、アソボウヨ…!」
「アソボ、アソボウヨ…!」
「うん、そのつもりで来たんだ」
先に部屋の端に移動して、両手を広げる。
「おいで」
また、昨日と同じ。
ズシリと体に重さが加わる。
何かにのし掛かられているような、
何かにすがり付かれているような。
でも、不思議だな。
嫌じゃない。
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- 40 : 2014/05/23(金) 02:03:33 :
- 「よし、みんな乗ったかい?」
「アッチノハシマデハシッテ…!」
「コッチノハシマデハシッテ…!」
「…」
どうやら、この子たちは、色んな言葉を話せる訳じゃないらしい。
人の物真似をする鳥みたいだ。
「うん、わかってるよ」
でも、いいんだ。
僕がしなきゃいけないことは分かってるから。
足腰に力を入れて、少しだけ重心を下げ、地面を蹴る。
僕は走る。
反対の壁まで約6メートル。
走り抜けるのに5秒もいらない。
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- 41 : 2014/05/23(金) 02:04:10 :
- 「キャ!キャ!キャ!」
「あはははははは!」
ギシギシギシギシ!
ミシミシミシミシ!
これも昨日と同じ。
笑い声の大合唱。
「楽しいね」
「タノシイネ」
「タノシイネ」
「楽しいね」
ああ、楽しいなあ…。
このまま、
夢が覚めなければいいのに。
-
- 42 : 2014/05/23(金) 02:04:40 :
- そう。
これは夢だ。
分かってる。
こんな変な建物、現実にあるわけないし。
気づいたら廊下に立ってたとか、気づいたら一日経ってたとか、あり得ないし。
姿の見えない声だって、もっとあり得ない。
幽霊?
ないない。
巨人はいるけど、幽霊なんていないよ?
人は死んだらそこでおしまい。
巨人も死んだらそこでおしまい。
だから、これは夢だ。
なにより、この声。
この声の主を、
僕は知っている。
-
- 43 : 2014/05/23(金) 02:15:30 :
- オモロイデスネー
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- 44 : 2014/05/23(金) 13:21:12 :
- >>43
アリガトウゴザイマスー!
-
- 45 : 2014/05/23(金) 13:22:08 :
- 「あ、また、廊下…」
また、時間が経った。
気づいたら一日。
なんで時計もないのにそんなことが分かったのかって、
それも夢だからだ。
「明晰夢…だっけ?」
アルミンに教えてもらった言葉だ。
「どうやったら、目が覚めるのかな?」
いや、目を覚ましたくはないんだけど。
目を覚ます方法を知るってことは、
目を覚まさない方法を知るってことでもあるはずだ。
「頬、つねるんだっけ?」
違うな、これはどちらかというと目が覚めている時にやることだ。
「ま、いいか」
分からないことは分からないままでいい。
僕にはやるべきことがある。
やりたいことともいうけどね。
-
- 46 : 2014/05/23(金) 13:23:01 :
- 僕は迷わず歩き出す。
ギシギシミシミシ
今までより少しだけ速いテンポで床が鳴る。
壁のような扉には興味もない。
壁に空いた穴には見向きもしない。
ともすれば、走り出しそうになるのを、抑えて。
抑え切れずに走り出した。
「はやく、はやく…」
早くみんなに会いたい。
あそこに行けば会えるんだ、みんなに。
「みんな…マルセル…」
あそこにいたのは、「みんな」だった。
懐かしい、故郷のみんな。
幼い時間を一緒に過ごした、
僕らの帰りを待っているみんな。
そして、一緒に故郷を出た、
僕らを庇って、巨人に食われた、マルセル。
-
- 47 : 2014/05/23(金) 13:23:53 :
- 彼らの声だと気づいたのは、昨日、廊下に立っていた時だ。
声を聞いている時は何も思わなかったのに。
廊下に戻った、あの瞬間、唐突に理解した。
それが分かって、意識して聞いてみれば、
何故すぐに分からなかったのか、
それらは間違いなくみんなの声だった。
懐かしい声。
記憶にある顔と、昨日聞いた声を重ね合わせながら、一人ずつ名前を呼んでみた。
もちろん、彼の名前も。
「マルセル…」
-
- 48 : 2014/05/23(金) 15:54:40 :
- 自然と足は早くなる。
あの部屋では狭すぎて全力疾走なんて出来なかったけど、この長い廊下なら、いくらでも走ることができる。
訓練で鍛えた僕の体は、びっくりするほど軽くて、
全然苦しくならない。
もしかすると、夢だからかもしれないけど。
走って、走って、あっという間に曲がり角。
左足を軸に、体を傾けて一気に角を曲がる。
すぐに階段。
これも駆け下りる。
下る、下る。
走る、走る。
ギシギシギシギシ!
ミシミシミシミシ!
みんなの笑い声が聞こえるようだった。
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- 49 : 2014/05/26(月) 12:10:22 :
- 下り階段もあっという間に過ぎ去って、
狭い踊り場にたどり着いたところで、
ようやく僕は息を吐いた。
勢いのまま駆け上るには、この階段は少し長すぎる。
一度落ち着こう。
と、何気なく今自分が下りてきた階段を振り向いた。
なんで、そんなことをしたのか分からないけど、
特に意味なんてなかったんだと思うけど、
でも、振り向いて、
そして、気付いたんだ。
下り階段とか、上り階段とか呼んでたけど、
ここに立ってみると、どっちも上り階段なんだ。
なんて、当たり前のことを、悟ったみたいに思ったんだ。
-
- 50 : 2014/05/26(月) 12:20:18 :
- 捻って後ろを見ていた上体を戻して、
登り階段を見つめる。
もちろん、今下りてきた方じゃなくて、今から登る方だ。
「行かなきゃ…」
ギシ
一歩目は、最初の日と同じ音がした。
-
- 51 : 2014/05/26(月) 12:20:54 :
- 「やあ、みんな、会いたかったよ」
ギシと音をたてて、部屋に駆け込んだ。
「べるとると…!」
「アソボ、アソボウヨ…!」
「べるとると…!」
きっと僕がみんなに気が付いたからだ。
みんなも僕の名前を呼んでくれた。
「うん、遊ぼう」
懐かしい。
「みんなで、一緒に」
楽しい。
「ずぅっと…」
嬉しい。
ここでは、僕は、
みんなと一緒だ。
余所者じゃない。
異端者じゃない。
一人じゃ、ない。
-
- 52 : 2014/05/26(月) 17:06:42 :
- 「べるとると…!」
「アソボ、アソボウヨ…!」
「うん、遊ぼう」
「アッチノハシマデハシッテ…!」
「コッチノハシマデハシッテ…!」
「うん、走るよ」
「トビラノムコウモ…!」
「うん、分かってるよ」
「べるとると…!」
「うん、いくよ?」
ギシギシギシギシ!
ミシミシミシミシ!
「キャ!キャ!キャ!」
「あはははははは!」
「楽しいね」
「タノシイネ」
「タノシイネ」
「楽しいね」
「べるとると…!」
-
- 53 : 2014/05/26(月) 17:24:14 :
- 怖いのと、不思議なのとが混ざり合って面白い…‼︎
期待でーす♬
-
- 54 : 2014/05/26(月) 17:31:13 :
- >>53
ありがとうございます!
もうじき完走です。
-
- 55 : 2014/05/26(月) 17:32:33 :
- 走って、走って、何往復したのか分からないくらい走った頃、
おかしいな、と思った。
そろそろ、今日も廊下に戻る時間じゃないかな。
もちろん正確な時間なんて分かるわけないんだけど、
廊下の長さと一緒で、体感でなんとなくそう思った。
「べるとると…」
「!その声は、マルセル…?」
「べるとると…」
「分かってる、大丈夫だよ」
ああ、夢が覚めるんだな、って分かった。
夢が覚める前の最後の会話なんだ、これが。
多くの言葉を話せない彼らは、
僕の名前を呼ぶことで、その意思を伝えようとしてくれている。
「べるとると…」
「うん、心配してくれてるんだよね」
「べる、とると…」
「だから、みんなは…」
「べる、と、る、と…」
「マルセル?どうしたの、大丈夫?」
-
- 56 : 2014/05/26(月) 17:38:41 :
- 急にどうしたんだろう?
今までは片言ではあったけど、滑らかに喋っていたのに。
「べ、るとる、と…」
「ア、ソボ、アソボ、ウヨ…」
「アソ、ボ…」
「べる、とる、と…」
マルセルだけじゃない。
みんな、どの声も、言葉が途切れがちだ。
「みんな、大丈夫?」
僕がいけなかったんだろうか?
僕がいつもより長くここにいたから?
さっさと目を覚まさなかったから?
でも、だからといって僕にどうしろって言うんだ?
僕にはここから立ち去る方法が分からないんだ。
分からないものは、仕方ないじゃないか。
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- 57 : 2014/05/26(月) 18:15:16 :
- 「べ、る、と、る、とぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ひぃっ!?」
いきなりだった。
マルセルの声が爆発したかと思ったら、いきなり体が重くなった。
最初の日みたいなズシリなんてものじゃない。
ミシ、と床ではなく僕の体が鳴った。
それだけでは終わらない。
「べるとると「べるとる「べるとると「べると「べるとると「べる「べるとると」
狭い空間で大きな音を出したように、
何重にも何重にも声が谺して、僕の名前を呼ぶ。
その度に、体に重さが加わる。
ミシミシと体が鳴る。
ギシギシと骨が鳴る。
なんで?
どうして?
どうしたんだよ、みんな。
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- 58 : 2014/05/26(月) 19:20:19 :
- いやだ、やめて。
ごめん。
やめてよ。
助けてよ、
ライナー…。
何か気に障ったのなら謝るよ。
だから。
お願い。
やめてよ。
声は止まない。
体はどんどん重くなって、
ギシギシミシミシと音を立てる。
分かってる。
ごめん。
分かったようなこと言って、ごめん。
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- 59 : 2014/05/26(月) 19:29:21 :
- これからはもっとちゃんとするから。
戦士としての責任を果たすから。
ライナーのことも、アニのこともちゃんとする。
もう馴れ合ったりしないから。
叶わない夢なんて見ないから。
下らない希望なんて持たないから。
みんなのことだって忘れないから。
だから、
もう、
やめてよ…!
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- 60 : 2014/05/26(月) 19:46:52 :
- 『ベルトルト…!』
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- 61 : 2014/05/26(月) 19:47:45 :
- 聞こえた声は誰よりも安心できる、僕の親友の声。
響き渡る無数の声の中でも、
はっきり聞こえた。
『ベルトルト、起きろ…!』
ああ、そうだ。
これは夢なんだ。
そして現実ではもう朝なんだ。
ライナーが僕を起こそうとしてくれてるんだ。
起きなきゃ。
行かなきゃ。
戻らなきゃ。
「ベルトル「ベルトルト「ベル「ベルトル「ベルトルト」
向こう側でもたくさんの声が僕を呼んでる。
でも、最後に一言だけ、ちゃんと声に出して言わなきゃ。
独り言じゃなくて、
ちゃんと相手に伝えるための言葉を。
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- 62 : 2014/05/26(月) 20:44:37 :
- 「ベルトルト!起きろ!」
ライナーの声は、何故かお尻の方から聞こえた。
「ケツ突き出してる時は、強風注意だったな」
「ゲッ、今日の立体機動危ねえじゃん!勘弁してくれよ、ベルトルト!」
ジャンとコニーだ。
どうやら、僕はうつ伏せの状態からお尻を突き上げるような体制で寝ていたらしい。
勘弁してくれ、と言われても、寝相は僕の意思でどうにかできることじゃない。
「おい、ベルトルト、起きたか?」
首だけ動かして、背中の後ろを見ると、
変な顔をしたライナーがいた。
「うん、おはよう、ライナー」
「ああ、おはよう。うなされてたみたいだが、大丈夫か?」
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- 63 : 2014/05/26(月) 20:48:37 :
- 「うなされてた?僕が?」
両腕を突っ張って、起き上がりながら聞き返す。
何か、うなされるような夢でも見たんだろうか?
「あ、あぁー…」
「なんだ、どうかしたのか?」
ライナーが聞く。
さっき変な顔してたのは、どうやら心配してくれてたらしい。
「変な夢、見た気がする」
「変な夢?」
「けど、ダメだ、これもう思い出せないやつだ」
指の間から、水が零れ落ちるように。
その水が、瓶の中の水と混じるように。
記憶は零れ、うやむやに霧散していく。
「怖い夢だったのか?」
「うーん、でもやっぱり良い夢だったかもしれない」
「良い夢見ながらうなされるのか、お前は?」
「どうだろう?」
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- 64 : 2014/05/26(月) 20:50:55 :
- 良い夢か悪い夢かはさておいて、変な夢を見たのは確かだろう。
頭の隅っこにモヤが掛かってて、
なんだか胸がつっかえる感じがする。
「さあ、飯だ飯。今日も厳しい訓練が待ってるんだからな」
まるで真面目に兵士を目指しているようなことを言うライナーに、
いつもならため息を吐くだけだけど、
今日はちゃんと言葉にして注意しようと思った。
なんでか分からないけど、そうしないといけない気がしたから。
「ライナー、僕たちは戦士だ」
完
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- 65 : 2014/05/26(月) 20:51:30 :
- 長い廊下を歩いて、階段を下って登って、大して広くない部屋を走り回る夢は本当に見ました。
それっぽい文章でベルトルトに追体験してもらいましたが、それっぽいだけなので特に意味とかはありません。
本当はもっとちゃんとホラーっぽくしたかったんですが、全然ホラーになりませんでした。起きたら体中に手の跡がビッシリみたいな。でも、忘れちゃうっていうのは怖いことですよね、とか言ってみたり。精進します。
ベルトルトは自我を保つために、時おり妄想や夢で自分で自分を追い込んでるって設定は有りかもしれない。
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