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【865年】夢を紡ぐ者ーアルミン.アルレルトー
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- 1 : 2014/04/28(月) 09:07:06 :
- 残酷な世界を生きた少年兵士たちが、それぞれのトラウマを抱えながら、それを乗り越えて大人になっていく物語の3作目です。
三部作の予定で始めたので、これが最終になります。
第一部ジャン編
http://www.ssnote.net/archives/14764
第二部コニー編
http://www.ssnote.net/archives/15058
今回も私の妄想全開で書かれております。
ジャン編から更に5年後の物語、少し長めになりますのでご了承くださいませm(_ _)m
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- 2 : 2014/04/28(月) 09:44:18 :
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「やっほー!アルミーン!」
アルミンが自室で書類を処理していると、そのドアを勢い良く開けてハンジが飛び込んできた
アルミン「ハンジさん、モブリットさん、こんにちは」
彼女は室内に入ると、挨拶もそこそこにアルミンが座るデスクの前に腰を下ろし、抱えて来た大きな鞄の中からガラクタにしか見えないような得体の知れない物を出し始める
それを後ろで眺めていたモブリットは、心底申し訳なさそうに言った
モブリット「いつも突然でほんとにすまないね…アルミン」
アルミン「いえ、そろそろいらっしゃる頃だと思ってましたし」
にっこりと微笑む
アルミン「それに…ハンジさんの声は廊下の随分手前にいる時から聞こえていましたから」
可笑しそうに拳で口元を押さえるアルミンに、苦笑いを返すモブリット
アルミン「そういえば、今回は西側コロニーの探索でしたね」
ハンジ「そうなんだよー。西側は標高が高いから、今の時期が最後のチャンスだと思ってね。雪が積もったら動けないだろ?」
アルミン「確かに…それでこれがその戦利品ですか?」
ハンジ「うん!正直あまり期待はしてなかったんだけどね、ほら!これ見て!」
2人は頭を突き合わせて、デスクの上のガラクタに目を輝かせている
それを眺めるモブリットは、丁度いい息抜きの時間が出来たとばかり窓辺の椅子に座り、2人の様子を微笑ましい気持ちで眺めていた
かつては少女の身代わりを務めた事があるほど幼く、可愛らしかったアルミンも、歳を重ねて多少背も伸び、顔立ちも大人びてきていた
それでも決して男らしいとは言えない線の細さと柔らかな雰囲気は、無造作に束ねた長髪とあいまってどこか中性的な魅力となって彼を包み込んでいる
しかしモブリットは知っていた
今こうしているとまるで少年に戻ったかのような彼が、その心に強い信念を持ち、恵まれた知力を駆使して智略を巡らせ、時には誰よりも冷酷な判断を下すことが出来る稀有な男だということを
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- 4 : 2014/04/28(月) 10:38:45 :
- 秋晴れの穏やかな日差しを受けて、その暖かさにうとうとしかけたモブリットの耳に、聞きなれない声が飛び込んでくる
「あーちゃ!えんちゃよー!」
見ると、綺麗な黒髪をおかっぱに切り揃えた小さな少女が、エレンに手を引かれて入室する所だった
エレン「あ、ハンジさんたちもいらしてたんですね」
エレンがつないでいた手を離すと、女の子はまるでゼンマイ仕掛けのお人形のようにトテトテと、アルミンに向かって真っ直ぐに歩いて行った
少女「あーちゃ!」
アルミン「いらっしゃい、エンジュ。よく来たねぇ」
アルミンは立ち上がってデスクの前に回り込むと、しゃがんで小さな身体を受け止めた
エンジュ「えんちゃねーおかしゃとおしゃかなたびゆときおかしゃがおとしゃとあーちゃのとこってってね、おかしゃがおしゃながじぇんびゅありあとってね、えんちゃがってってねって!」
アルミン「そかそか、エンジュ、お利口さんだったねぇ」
エンジュ「んふふぅ!」
アルミンに頭を撫でられ、嬉しそうに笑う少女
ハンジ「ねえ…何?これ…」
エレン「へ?」
モブリット「は?」
アルミン「エレンとミカサの娘ですよ。エンジュって言うんです。今日は2人が出掛けてる間、僕が預かることになってたんです」
ハンジの様子がどことなくおかしいのを長年の勘で察知したモブリットは、少女を見つめたまま固まってる彼女の後ろにさりげなく立つ
ハンジ「……アルミンはこの子と意思の疎通が出来るの?」
アルミン「……なんとなくですけど…。今のはたぶん、この前ミカサに魚の燻製をお裾分けしたから、そのお礼じゃないか…と…」
ハンジ「うわぁぁ!」
アルミン「えっ!?」
ハンジ「スゴイよスゴイよアルミン!何なの?何なの⁈この可愛い生き物は!」
エレン「いや…だから俺の娘で…」
ハンジ「どーしてこんなに小さいの⁉︎どんな動力で動いてるの⁈」
後ろからモブリットに羽交い締めにされていなければエンジュを抱えて走りだしそうな勢いのハンジに、びっくりして目を丸くする少女
エレン「ほ…ほらエンジュ、ハンジさんにもご挨拶しなさい」
エンジュ「あいっ」
父親の言葉に素直に頷いた少女は、ハンジの片脚を小さな身体でハグして
エンジュ「は…はしゃ?こんちゃ」
と上目遣いでハンジを見上げた
ハンジ「……‼︎」
その愛らしい仕草に、ハンジはそっと手を伸ばすと、まるで壊れ物を扱うかのように少女を抱き上げた
ハンジ「うわぁ…何これ…こんなに柔らかくていい匂いがする生き物が、この世には存在したんだね…」
エンジュの薔薇色の頬に頬ずりをして、その甘い香りを堪能するかのように大きく息を吸い込むハンジ
エンジュ「はーしゃ?」
ハンジ「うんうん、そうだよー!ハンジさんだよー!」
エンジュ「んふふふ…おくびくくぐったい」
エレン「……ハンジさんは…今まで小さい子を見たことが無かったんですか…?」
モブリット「いや…見てるはずだけど…」
アルミン「たぶん今までは他に興味があったから、視界には入っていても気にしたことが無かったんじゃないかな…こんな風に間近で接することもなかったでしょうしね」
ハンジ「あぁ…可愛いなぁ…可愛いよぉ…ねぇエレン、この子持って帰っていい?」
エレン「だっ、ダメですよ!俺がミカサに殺されます!」
ハンジ「……だよねぇ…」
ハンジは心の底から残念そうに肩を落とした
エンジュ「はーしゃ、いいこいいこよー」
ハンジ「あぁぁぁ!やっぱり欲しいーー!」
3人「ダメですっ!!!」
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- 5 : 2014/04/28(月) 11:21:32 :
その後、自分が居なくなった後が心配だからと、エレンがモブリットと2人がかりでハンジを引きずって外に連れ出し、ようやく執務室内に平和が戻った
アルミン「さぁ、今日はたくさん遊ぼうね」
エンジュ「あいっ!」
その日一日、アルミンは一切の仕事をせずに少女と過ごした
夕食も終わり、遊び疲れて眠ってしまったエンジュの隣で、昔良く読んだ物語の本を開いてみる
しばらく読み進めていると、夜半に近い頃少女の両親が揃って彼女を迎えに来た
ミカサ「アルミン、今日はどうもありがとう。とても助かった」
アルミン「いや、僕も久しぶりにゆっくり出来たよ」
エレン「こいつはアルミンが大好きだからな、きっと楽しかっただろう」
ミカサとエレンはすっかり眠りに落ちてしまっている愛娘の頭を優しく撫でる
アルミン「ただ…彼女を僕に預けるのは、もうやめた方がいいと思う」
エレン「どうした?何かあったのか?」
アルミン「ミカサが僕を休ませる為に、こうしてエンジュを貸してくれてるのはわかっていたよ。お蔭で僕もその日を楽しみに毎日集中して働けた」
ミカサ「ええ、アルミンは口で言っても聞かないから」
アルミンは母親のような心配をしてくれるミカサに微笑みを返した後、真顔に戻って言った
アルミン「今日ね、僕でも気がつくぐらい近い所で彼らの気配を感じたんだ」
エレン「アルミン…それって…」
アルミン「うん、彼らも僕の事だいぶ鬱陶しく思い始めたみたいだね」
ミカサ「わかった。しばらくはあの子を預けるのはやめておこう」
アルミン「うん、それがいいよ」
エレン「でもよアルミン、お前は大丈夫なのか?」
アルミン「僕は大丈夫。今僕に手を出しても、裁かれるのは彼らの方だ。だからこそ僕が少しでも余計な事をしたら、喜んで行動に出るだろうけどね」
エレン「ちっとも大丈夫じゃないだろ…それ」
エレンの言葉にアルミンは笑った
アルミン「だって僕は何もしてないし、するつもりもないからね」
ミカサ「アルミン、何かあったらいつでも私たちを頼って欲しい」
エレン「そうだぞ、お前、変なところで意地張るからな」
アルミン「はは、僕だってもうそんな子供じみた意地は張らないよ。」
アルミン「ありがとう。エレン、ミカサ」
2人が帰った後、ベッドの中でアルミンは、明日行われる何度目かの審議会の事に思案を巡らせていた
アルミン(多分明日も今までと同じ結果が出るだけだろう…何度繰り返しても無駄なのはわかっている。でも僕は彼らに付き合ってあんな茶番を繰り返すほど暇じゃないんだ。明日はちょっとだけ痛い目を見てもらうよ…)
久しぶりにベッドに横になったせいもあるだろう
程なくアルミンは深い眠りの中に落ちていった
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- 6 : 2014/04/28(月) 13:07:15 :
ー翌日
今まで何度繰り返されたかわからない不毛な水掛け論が、その日も審議所の議会場で行われていた
議題は『外洋への調査兵団の派遣について』
表向きは調査兵団からの申請という形だが、立案者であるアルミンがどれだけ言葉を尽くしても、その申請が認められる見込みは今の所皆無だった
旧王政から続く保守派の貴族たちは、口を揃えて外洋調査の危険性を主張し、双方の意見は交わる事なく、ただただ時間を浪費するばかりだった
そもそもの始まりは東側コロニーを増設 する為に川沿いの探索を行っていた調査兵団が、川の出口に海を発見した事だった
長い間停滞していた人類の歴史がようやく動き出す時が来たかと思われたが、報告を受けた中央は発見の事実を隠蔽し、自分たちの息のかかった商人に塩を調達させる以外は一切の情報を漏らさぬよう、それを知る兵士たちに厳戒令を敷いたのだった
彼らの大義名分はただひとつ
「外国からの侵略を阻止し、国民を守るため」
旧王政派の貴族は言う
「巨人が壁外を跋扈していた時であれば、壁まで辿り着く事さえ困難な為、そうやすやすと侵略を許すことはなかっただろう。しかし、巨人の絶対数が減った今、我らには外国からの侵攻を防ぐ術が無い。国民の安全を思うなら、そのような脅威は水際で防ぐべきであり、外洋に赴いてみすみすその者達にこちらの存在を知らしめるなど、到底理解し難い」
巨人に怯えていた時は巨人を殺せと言い
巨人が居なくなると、お前らのせいだと言わんばかりの無責任な主張
「とにかく、何度申請しても結果は同じだ。諦めたまえ、アルレルト君」
この後に控える夜会の時間が気になり始めたのか、いい加減な言葉で会議を締めくくろうとした彼らに向かってアルミンは言った
アルミン「分かりました。調査兵団からの申請は取り下げます。」
いつもと違うアルミンの言葉に顔を見合わせる貴族たち
アルミン「あなた方は何度申請しても結果は同じと仰いました。私も馬鹿ではありません、ちゃんと理解した上で、申請を取り下げると申し上げているのです」
「んむ…そうか。分かって貰えたなら何よりだ」
アルミンは、何処か釈然としない表情の彼らに向かって一礼すると、迷いのない様子で部屋を出て行った
ジャン「では、私も失礼します」
審議中はほとんど口を開く事なく、黙って成り行きを見ていたジャンも席を立つ
「キルシュタイン団長、本当にいいのかね?」
ジャン「元々彼の立案で計画された案件です。彼が居なくては、計画の遂行は不可能ですから」
そしてアルミン同様、あっさりと部屋から出て行った
残された者たちは彼らの態度の変わりように、言い様のない不信感を抱いて、その姿を見送ったのだった
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- 7 : 2014/04/28(月) 13:25:57 :
- ジャン「おいアルミン、お前に言われた通り言ってきたぞ」
アルミン「ありがとう、ジャン」
ジャン「お前、また何を考えているのか分からなくなってきたな」
アルミン「そうかな?」
ジャン「何かあるなら俺に言えよ?」
アルミン「ふふ、ミカサやエレンと同じ事言うんだね」
ジャン「笑ってるんじゃねぇよ。みんなお前の事心配してんだ」
アルミン「分かってるよ。それに、ジャンには少しお願いがあるんだ」
ジャン「おぅ、何だ?」
アルミン「ここではちょっと…明後日の夜空けておいて。時間と場所はここに書いてあるから」
そう言うと、ジャンの手に小さなメモを握らせた
ジャン「分かった。俺はこれからヒストリアに顔見せに行くが、お前も来るか?」
アルミン「いや、僕はいいよ。彼女によろしく伝えておいて」
ジャン「そっか、あんまり無理すんなよ」
アルミン「分かってるよ、ジャン」
軽く手を上げ、王宮へと向かうジャンを見送る
後方の物陰から自分を見つめる剣呑な視線を、痛いほど感じていた
アルミン(まだだよ、まだ僕は何もしちゃいないよ…いつだって僕は君たちに受け入れられてこなかった…子供の頃からずっと…)
アルミン(君たちにとって僕はは筋金入りの異端者だね。邪魔ならその力で握り潰せばいい…)
アルミン(でも僕は黙って潰されたりはしない。僕は僕なりの戦い方で、自分の夢を守ってみせる…)
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- 9 : 2014/04/28(月) 14:13:20 :
ー2日後
花街にある小さな娼館で、ジャンは一人、手酌で酒を飲んでいた
もう小一時間はこうしていただろう
時間を間違えたかと不安になった頃、部屋のドアが開き、アルミンが姿を現した
アルミン「やぁジャン、お待たせ」
ジャン「ああ、待ったよ。お前、真面目なクセに時間にルーズなんだな」
アルミン「はは、ごめんね。でも時間はわざとずらしたんだ。僕に付いてきてる奴らに、ジャンと一緒なことが分かると厄介だからね」
ジャン「ち…そういう事なら先に言っとけよ。1時間もあれば……いや…なんでもねぇ」
クスクス笑うアルミンを恨めしそうに見るジャン
ジャン「この前ヒストリアに会った時、お前の事随分心配してたぞ。もしお前が受けてくれるなら、ヒストリアからの勅令ということで外洋調査を許可すると言っていた」
アルミン「いや、ダメだよ。彼女はまだ危うい立場にいる。即位出来たからといって、中央の全てが彼女に忠誠を誓っているわけでは無いことはジャンも知ってるだろう?いつひっくり返るかも分からない吊り橋の上にいる彼女に、さらに向い風を吹かせる訳にはいかない」
ジャン「お前ならそう言うだろうと思って断わっておいたよ」
アルミン「さすがだね、ジャン」
ジャン「おだてても何も出ないぞ」
アルミン「それは困ったな…ジャンにお願いしたい事があって、ここに来て貰ったんだけど…」
ジャン「それも分かってるさ。一体何だ?さっさと言ってみろ」
アルミン「うん」
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- 10 : 2014/04/28(月) 14:43:11 :
- そしてアルミンは自分の計画の全てをジャンに話した
それを聞いたジャンの顔は険しく歪み、今まで一番の信頼を置いていた参謀の言葉が本気なのかどうか推し量るように、アルミンの瞳をじっと見つめた
アルミン「僕は本気だよ。ジャン」
アルミンはその視線を真っ直ぐに受け止めて言った
アルミン「コニーやサシャ、そして何よりジャン、君にはとても苦労をかけてしまうと思う。だから無理強いするつもりは無いんだ。」
アルミン「この計画は、誰か1人でも欠けたら失敗する。その時は僕も潔く諦めるよ」
ジャン「そうか…本気なんだな?」
アルミン「うん」
ジャン「あいつはどうする?」
アルミン「エレンとミカサには…」
そこで初めてアルミンの顔に苦渋の色が浮かんだ
アルミン「あの2人には、何も伝えないで欲しい」
ジャン「…………いいんだな?」
アルミン「何度も念を押さないでよ…今まで僕はあの2人に何度も助けられて来たんだ。だから今回は彼らは巻き込まない」
ジャン「はぁ…俺が一番大変な役回りじゃねぇか……」
アルミン「ごめんね、ジャン。でも僕は以前言ったと思う。君は苦労人だって」
ジャン「苦労させる張本人が、偉そうに言うな」
アルミン「はは、だからごめんて」
アルミンは、鞄の中から書類の束を出すと、ジャンに差し出した
アルミン「じゃあ僕は行くね。申し訳ないけど、ジャンは僕が出てから時間を空けて帰って欲しい」
ジャン「分かってるよ。そこに置いておけ」
アルミン「うん。なんなら女の子を部屋に呼んでおこうか?」
ジャン「いらねぇ…そんな気分じゃねぇよ」
アルミン「そっか…おやすみ、ジャン」
アルミンが退室するのを見送った後、ジャンはグラスに残っていた酒を一気に喉に流し込んだ
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- 12 : 2014/04/28(月) 20:13:16 :
- 翌日、1日の仕事をあらかた片付けたアルミンは、乗り込んだ馬車の御者に声を掛けた
アルミン「ごめん、本部に戻る前にちょっと寄って欲しい所があるんだ」
そこは一部の者にしか知らされていない、結晶化したアニが保管されている場所だった
かつてはあらゆる兵団のトップや研究者が、幾度となくここに足を運んでいた
しかしアニから情報を得る必要がなくなると、ここに訪れる人は減り、申し訳程度の見張りが付いたまま放置されていた
結果として、彼女の結晶化を解く術は今も見つかっていない
アルミン「アニ、久しぶりだね」
見張りの兵士に銀貨を握らせ、一人そこに残ったアルミンは、旧知の友人に会った時のような笑顔で結晶の中のアニに話しかけた
彼女は少女の姿のまま、ひっそりとほの暗い地下で眠っている
自分が彼女を罠にかけ、ここに閉じ込めてしまう結果を導いた
それがその時考え得る最良の計画だと思って実行に移したことは間違いないが、もしかしたら別の方法があったのではないか…と、ここを訪れる度にアルミンは思ってしまう
アルミン「アニ、君は優しい人だった。使命を与えられ、いずれ殺さなければならない僕らと生活を共にしていく日々は、君にとってこうして結晶の中に閉じ籠ってしまうより苦痛なことだったかも知れないね」
アルミン「君が耐えなければいけなかった孤独と葛藤…それを君たちに与えたのも、やっぱり身勝手な大人たちだった」
アルミンは拳を固く握った
アルミン「今考えても分からないんだ。あんな形で君を追い詰める以外の道が…」
アルミン「ごめんね、アニ。君を一人にしてしまって…みんなが君を忘れてしまっても、僕は絶対に忘れないよ。僕か必ずその冷たい結晶から出してあげる。そして君が笑顔で生きていける方法を見つけてみせる」
アルミン「だから待っててね、アニ」
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- 13 : 2014/04/28(月) 20:35:18 :
- その時、入り口で大きな物音がしたかと思うと、憲兵たちが5、6人、階段を駆け下りて来た
憲兵「アルミン.アルレルト調査兵、国家への反逆罪の疑いで身柄を拘束する!」
アルミン「……どういう事ですか?」
アルミンの問いに応えたのは、憲兵たちの後ろにいた、とても聞き慣れた男の声だった
ジャン「こういうことだ。アルミン、諦めろ」
アルミン「ジャン!」
ジャンの手には、昨夜アルミンが彼に渡した書類の束が握られていた
アルミン「ジャン…なぜだ…どうして!」
ジャン「せっかく注意深く時間までずらして会ったのに、全く無意味だったってことだ。俺にも見張りが付いてたみたいでね。朝っぱらから憲兵に叩き起こされて、えらい目に遭ったよ」
アルミン「彼等の圧力に屈したってことだね?」
ジャン「悪く思うなよ。俺はお前とは違って、守っていかなきゃいけない組織を背負ってるんだ。お前も言ってただろ?この計画が失敗したら大人しく諦めるって。」
ジャン「良かったじゃねぇか、まだ計画段階で。事を起こしてからだったら、命の保証は無かったぞ。」
アルミン「黙れ!裏切り者!」
ジャン「アルミン…言っとくが俺は昨夜、計画に協力するとは一言も言って無い。その言われ様は心外だな」
アルミン「……くそぉ!」
どれだけ暴れようと無駄だった
屈強な憲兵達に取り押さえられ、半ば抱えられるような形でアルミンはそのまま馬車に乗せられた
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- 14 : 2014/04/28(月) 21:13:21 :
- 憲兵「よし、連行する」
ジャン「ちょっと待ってくれ。こいつは政治犯専用の拘留施設に連れて行かれるのか?」
憲兵「申し訳ありません、キルシュタイン団長。例え貴方であっても、拘留場所に関しては申し上げられません」
ジャン「ん…まぁそうだろう。だが、どこだとしてもシーナ内という事は間違いない。それは得策とは言えないだろうな」
憲兵「どういう事でありますか?」
ジャン「こいつはエレンとミカサの家族みたいなもんだ」
憲兵「!!」
ジャン「お前らもあの二人の事は知ってるだろう?まぁ、あいつらに暴れられたら俺も困るから、この件は伏せておくつもりだが…何かのきっかけでこの事を知ったら…」
憲兵「……いや…しかし、さすがに一人の為に中央を敵に回すような事は…」
ジャン「あいつらの絆の深さを知らないからそんな事が言えるんだ。身寄りの無い三人が、ガキの頃から一緒に生きて来たんだぞ?可能性は少ないが、ゼロでは無い以上、万全を期すべきだと思うが?」
憲兵「……しかし、私の一存で決められる事では無いので…報告はしておきます」
ジャン「報告ついでにもう一つ。俺なら旧調査兵団本部にあいつを拘留するね」
憲兵「旧調査兵団本部ですか?」
ジャン「ああ。以前エレンが巨人化して調査兵団預かりになった時に隔離された場所だ」
ジャン「元々エレンが巨人化しても影響が出ないようにと選ばれた場所だからな。あいつを隠すのには丁度いいと思うぞ」
憲兵「……分かりました。それも報告しておきます」
ジャン「じゃあ俺は本部に戻る」
ジャンはそれだけ言うと、一人今に跨り調査兵団本部に帰って行った
憲兵「どう思う?」
兵士「キルシュタイン団長がアルレルトを売ったのは、計画より彼の命を選んだと思うのが自然ですね」
憲兵「やはりそうだろうな…彼無しでは計画の実行は無いと言ったらしいし…」
兵士「とりあえず私は、上に先ほどの話しを報告してきます」
憲兵「分かった。アルレルトはここから動かさない方が良さそうだな。旧調査兵団本部ならここからの方が近い」
彼等は今乗せたばかりのアルミンを馬車から降ろすと、再び地下に連れて行き、そこに拘留したのだった
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- 15 : 2014/04/28(月) 21:42:08 :
ー調査兵団本部ー
エレン「どういう事だ?ジャン」
その夜、調査兵団本部で幹部会が開かれた。幹部とは言っても、現在本部にいるのは兵士長のミカサと東側コロニーを統括するエレン分隊長だけである
ミカサはエンジュを授かって以降、前線に出る事は無く、本部にいる兵士たちの訓練指導を行っている
エレンと同じ分隊長のコニーは南側コロニーを統括してる為、現在最南端のコロニーに詰めたまま、ほとんど本部に戻ってくることは無かった
ジャン「そのままだ。アルミンはシーナの工業地帯に長期の視察に向かってもらっている」
エレン「なんで今頃…」
ジャン「さぁな。外洋調査の計画が通る見込みが薄いから、何か説得の決め手になりそうな物でも探しに行ったんじゃないのか?」
エレン「そうか…」
ミカサ「でも、アルミンが居なくて本部の仕事の方は大丈夫なの?」
ジャン「しばらくは新しいコロニーに着手する予定は無いしな。あいつが居ない間ぐらい、なんとかなるだろう」
ことさらになんでもない風を装ってそう言ったジャンを、ミカサは鋭い視線で見つめた
ミカサ「ジャン、あなた何か隠してない?」
ジャン「俺が何を隠すって言うんだ。元々あいつは自由が効かなくなるのは困ると我儘を言って、部下を持つ役職には一切就こうとはしなかった。そんなあいつがまた我儘を言って来たから許可を出しただけだ」
かつての思い人の刺すような視線を受け、それでもその瞳を真っ直ぐに見つめ返して決して目を逸らさないジャン
しばらく二人は睨み合っていたが、やがてミカサの方から視線を逸らした
ミカサ「……分かった。エレン、行こう」
エレン「お、おい、ミカサ!」
ミカサ「ジャンは何かを隠している」
エレン「アルミンの事か?」
ミカサ「多分そう」
エレン「一体何を知ってるんだ?あいつは」
ミカサ「それは私にもわからない。でも今のジャンには、何を言っても無駄」
エレン「まぁ、アルミンが帰ってくれば分かることだ。長期って言っても長くて一ヶ月だろう」
しかし、彼らが帰りを待つ幼馴染は、その後二ヶ月経っても三ヶ月経っても戻っては来なかった
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- 16 : 2014/04/28(月) 23:02:32 :
- ー更に二ヶ月後ー
ハンジ「エンジュー!ハンジさんだよー!」
エンジュ「はんじしゃん!こんちゃ」
アルミンが居なくなってからも、ハンジはエンジュ会いたさに度々本部を訪れていた
ハンジ「今日のお土産は……じゃじゃーん!チョコだよー!」
エンジュ「じゃーん!」
ミカサ「……ハンジさん、この子にチョコはまだ早い…」
ハンジ「ええぇぇぇぇ⁈こんなに美味しいのに食べられないの?せっかく持って来たのに?ちょっとでもダメ?」
エンジュ「おかぁしゃん、ダメ?」
ミカサ「………」
ハンジ「………」
エンジュ「………」
ミカサ「………少しなら…」
ハンジ「やったぁ!良かったねー!エンジュ!」
エンジュ「やったー!」
ハンジ「ハンジさんがあーんしてあげるからねー」
ミカサ「……今日はモブリットさんは一緒じゃないんですね」
ハンジ「うん!巨人相手じゃ無いから、私が食べられる心配は無いしね。今日はお留守番」
そう言いながらニコニコ笑うハンジは、チョコを頬張る天使の頬に鼻を擦り付けていた
ハンジ「あーいい匂い!食べちゃいたいよぉ!」
ミカサ「エレン……うちの子が奇行種に食べられそう……」
ひとしきり小さな天使を堪能した後、膝の上で寝てしまった彼女を愛おしそうに眺めるハンジに、ミカサは尋ねた
ミカサ「ハンジさん、アルミンがまだ戻らない。何か知りませんか?」
ハンジは視線をミカサに向ける
ミカサ「さすがに長すぎる…視察に時間をかけているにしても、一度もここに戻らないのはおかしい」
心配そうに眉を寄せるミカサに、ハンジは柔らかい笑みを浮かべた
ハンジ「アルミンは強い子だ。きっと何か考えがあってそこに留まっているんだと思うよ」
ミカサ「そう…だろうか…」
ハンジ「ミカサはアルミンが信じられないのかい?」
そう問いかけられて俯いて首を振るミカサ
ミカサ「でも…ジャンは何かを隠している。そして彼は、アルミンが居なくなってから、貴族の夜会や憲兵達との食事会へ頻繁に出掛けるようになった…」
ハンジ「んー私はエルヴィンを知ってるからねぇ」
ミカサ「上に立つ指揮官というものは、そういうものなのだろうか…」
ハンジ「私はそんな事は無かったけどね。ははは」
明るく笑うハンジに、少しだけ心の不安が和らぐ
ハンジ「ねぇ、この子のエンジュって名前、不思議な響きだよね」
ミカサ「エンジュは私の母の国で、薬を作るのに使われていた木の名前です」
ハンジ「へぇー、木の名前なんだ」
ミカサ「木全体が薬の材料として利用出来ると聞いています。うちにも昔、エンジュの花から作った薬が置いてありました」
ハンジ「東洋の医学は、自然に有る物を利用して治癒力を高めて治す、人の身体に優しい医療だと聞いたことがあるよ。凄く興味深いよね」
ミカサ「……アルミンにこの話しをした時も、同じ事を言っていた…」
ハンジ「ミカサ…」
ミカサ「アルミンが…遠くへ行ってしまうような気がして仕方がない…」
ミカサはハンジにも聞き取れないくらい小さな声でそう呟くと、愛娘の小さな手をそっと握った
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- 17 : 2014/04/29(火) 20:25:31 :
- ー旧調査兵団本部地下ー
兵士1「食事だ」
鉄格子に開けられた小さな小窓から、冷め切った粗末な食事が差し入れられる
それを無言で受け取ったアルミンの顔は、もう何ヶ月も陽の光を受けていない為、青白く生気を失っていた
ここに幽閉されて半年
細部まで書き込まれた計画書が彼等の手元にある為、情報を引き出す目的での厳しい取調べや拷問が行なわれる事は無かったが、一日二度の食事以外の物を一切与えられず、この薄暗い地下にただ閉じ込められたままの生活は、常人の精神をおかしくするには充分だった
虚ろな瞳で、何かをブツブツ呟きながら食事を摂るアルミン
上に戻った兵士は、食堂でカード賭博に興じている同僚に、ため息混じりの愚痴を吐いた
兵士1「全く、気味が悪いったらないぜ」
兵士2「お前が負けたんだから、仕方ない」
兵士3「しかし…いつまでこうしてるつもりなのかねぇ」
兵士2「いい加減処分しちまえばいいのにな。どうせ外に出ても使いものにならない位壊れちまってるのに」
兵士1「ここに詰める兵士も俺たち三人だけになっちまったし、次の交代まで一週間もこんなシケた所に居なきゃならないなんて、ウンザリするぜ」
兵士3「もっともだ」
その時……
食堂のランプが、窓を突き破って飛んで来た一本の矢によって射落とされた
兵士1「な、何だ?!」
月のない夜
暗がりの中で、光を失い慌てふためく兵士たち
兵士3「誰だっ!」
その声に応えるように、もう一本の矢が食堂の壁に突き刺さる
兵士たち「ひっ!」
頭を押さえて蹲り、動く事が出来なくなってしまった兵士たちの後頭部を、まるで見えているかの様な正確さで叩き、気絶させていく黒い影
一本目の矢が放たれてから数分後には、アルミンの目の前にはその侵入者の笑顔があった
「お待たせしました。アルミン」
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- 18 : 2014/04/29(火) 20:26:45 :
- アルミン「思ったより早かったね。久しぶり、サシャ」
サシャは兵士から奪った鍵を使って手際良く牢を開けると、アルミンに手を差し出した
サシャ「大丈夫ですか?」
アルミン「うん。規則正しい生活のお蔭で、前より健康的になったぐらいだよ」
そう言って笑うアルミンの瞳は、先程までの狂気の色が微塵もなく、強い意志を宿した本来の彼のものになっている
サシャ「良かったです。でも上は暗いので気を付けて」
アルミン「ありがとう」
サシャに手を引かれて外に出ると、繋いであった兵士たちの馬を放す
アルミン「少しは時間稼ぎになるだろう」
そして二人はサシャの連れて来た馬に跨ると、目的地に向かって走り出した
アルミン「たった半年外に出てなかっただけなのに、やっぱり少し感覚がおかしいな…」
サシャ「当たり前ですよ。落馬しないように気を付けて下さいね」
アルミン「うん。最近は気味悪がって食事を運ぶ以外は見張りも下りて来なかったから、トレーニングしてたんだけどね…」
アルミンは注意深く手綱を捌きながら、それでも口は動かし続けた
そんなアルミンの様子を見て、彼にとって一番辛かったのは、誰とも会話する事無くただひたすら黙っていなければいけない事だったのではないだろうか…と、サシャは少し微笑ましく思った
アルミン「みんなは変わりない?エンジュは大きくなった?」
サシャ「ええ、みんな元気ですよ。エンジュはオムツも取れたし、お喋りもずいぶん上手になりました」
アルミン「そうか…僕にとってはたった半年だけど、彼女にとっては長い長い半年だったんだね」
サシャ「エレンやミカサの事は聞かないんですか?」
アルミン「んー…きっとあの二人は今は僕の事を凄く心配してると思う。でも、この事が全て知れたら…もう友達には戻れなくなってしまうかもね…」
彼なりに二人の事については幾度となく考えたのだろう
自分に言い聞かせるように呟くその声は、諦め混じりの寂しい響きを含んでいた
サシャ「そんな事は無いと思いますよ?」
サシャは明るく言った
サシャ「三人は家族みたいなものじゃないですか。家族って…そんなに簡単に絆が切れるものじゃないです」
アルミン「そうだといいな…」
サシャ「大丈夫ですよ!エレンに2、3発殴られて、ミカサに投げられるぐらいは覚悟しておいた方がいいと思いますが…」
アルミン「ははは、それぐらいで済むなら」
ほどなく二人は森を抜け、街外れにある、サシャが計画の為に使用していた空き家に辿り着いた
-
- 19 : 2014/04/29(火) 20:27:33 :
- サシャ「ここからは馬だと目立つので馬車に乗り換えます。準備してくるので、お風呂使ってきて下さい」
アルミン「うん。ごめんね、サシャ。君をこんな事に巻き込んじゃって」
するとサシャは心底呆れたというような表情を浮かべ、あっさりと言った
サシャ「アルミン、私は何もしてませんよ?あの平和ボケした兵士たちも自分たちに何が起きたか分かって無いでしょうし、何より今私は休暇を利用した里帰り中ですから」
悪戯っ子のように笑うサシャに、アルミンは心からの感謝の言葉を伝えた
アルミン「そうだったね。ありがとう、サシャ」
その後、半年ぶりにお湯を使ってさっぱりしたアルミンは、用意されていた服に着替えると、長い間切らずにいた髪をバッサリと切り落とした
サシャ「おぉ!アルミン、男前になりましたね!」
サシャにからかわれながら、準備の済んだ馬車に乗り込む
サシャ「他に何か必要な物はあります?」
アルミン「そうだな…ペンと紙をお願い出来るかな?」
サシャ「分かりました。取ってくるので、少し待ってて下さいね。……あ、後これも…」
サシャから手渡された布袋の中には、真新しい調査兵団の制服が一揃い入っていた
半年前に脱がされたまま、背負うことが出来なかった自由の翼…
アルミン「サシャ…これは…」
サシャ「今は着られませんが、帰って来る時はこの翼を着けて戻ってきて下さい。待ってますから」
サシャのひまわりの花のような暖かい笑顔に、心の中の不安が溶けていく
アルミン「うん。必ず。約束するよ」
-
- 20 : 2014/04/29(火) 20:28:50 :
- 二人は途中馬を交換しながら、休みなく馬車を走らせ、丸一日かけてトロスト区の外れに停泊している貨物船に到着した
そこにはコニーが待っていて、アルミンとの再会を喜びあった
サシャ「ここからはコニーが一緒に行きます」
コニー「俺は途中のコロニーで情報を集めながら行くが、アルミンは貨物の中に隠れていてくれ」
アルミン「うん。後少しだね」
サシャ「実は計画が早まったのは、コニーのせいなんですよ」
アルミン「どういうこと?」
サシャ「ふふふ、それは本人に聞いて下さい」
コニー「ちぇ…余計な事言うなよな…」
バツが悪そうにそっぽを向くコニー
アルミン「ここからは貨物船でも3日はかかるから、ゆっくり聞くことにするよ」
サシャ「はい、そうして下さい。ついでに計算の仕方も一から教えてあげて下さいな」
コニー「こらサシャ!余計な事言うなって言っただろ!」
アルミン「?」
サシャ「ふふ、それでは私は本部に戻ります」
アルミン「うん、ありがとうサシャ。戻ったら、これをエレンに渡してくれるかな?」
アルミンは馬車の中で書いた、親友への手紙をサシャに渡した
サシャ「分かりました。これを読んで、3発が1発になるといいですね…」
サシャは小さい声でアルミンに囁くと、馬車を駆って本部へと戻っていった
コニー「さぁ、俺たちも行くか」
アルミン「うん」
そして彼らは南側コロニーへ物資を運ぶ貨物船に乗り込んだのだった
-
- 21 : 2014/04/29(火) 20:29:33 :
- その頃…調査兵団本部では、殺気立ったエレンがジャンの執務室に押しかけ、その胸倉を掴んで今にも殴りかかろうとしていた
エレン「おい、ジャン、てめぇアルミンに何をしやがった?」
ジャン「手を離せエレン。いきなり人の部屋に押しかけて、最初に言う言葉がそれか?」
ジャンの元にも、アルミンが逃亡したという情報は入って来ていた
大方、エレンやミカサが彼を取り返したのだと勘違いした憲兵が、勝手に二人の元へ行って今までの経緯を全て話してしまったのだろう
エレン「うるせぇ!グダグダ言ってないで質問に答えろ!ほんとにアルミンを売ったのか?!」
怒りに我を忘れ、力任せに締め上げてくるエレンに、本気で苛立ちを覚えたジャンは、その手を振り払って言った
ジャン「手を離せって言ってるだろうが!このクソ野郎!ガキみてぇに喚くんじゃねぇよ!」
エレン「んだとぉ?!」
ミカサ「エレン!!!」
ミカサの制止で、かろうじて感情を押し留めるエレン
ミカサ「ジャンの言う通り、話しを聞こう。ただ…私も正直混乱している。話しの内容によっては…ジャン、あなたを許さない」
ジャンは溜め息をつくと、倒れ込むように椅子に座った
ジャン「言っとくがな、あいつの計画は今のところ何一つ失敗しちゃいねぇ」
エレン「どういうことだよ」
ジャン「焦るなよ。最初から話してやるから」
そしてジャンは、アルミンの計画の全てを二人に明かした
-
- 22 : 2014/04/29(火) 20:30:28 :
- 今では憲兵が独占、監視して自由には近付けないようになっている東の海岸だが、彼らが手を出す前にアルミンは、東から南までの海岸線を一人で調査していた
そして表向きは南側コロニー専用の貨物船という名目で、南の海岸線に近い入り江に大き目の商船を運び込んだ
運び込まれた商船は、ハンジの協力で集められた兵役を引退した技工士や兵士たちによって、外洋航海にも耐えられる帆船に造り変えられる作業が行われていた
彼は外洋調査の許可をしつこく中央に申請していたが、そんな要求が通るとは、少しも思っていなかったのだ
ジャン「最近あいつに尾行が付いていたのは知ってるだろ?」
ジャン「計画はもう大詰めにきていた。奴等はまだ気付いていなかったが、疑いを持ち始めたということは、いずれ船が見つかってしまうかもしれない。今ここで頓挫しちまったら、ハンジさんや協力してくれた兵士たちにも迷惑がかかる。そう思ったあいつは、自分がスケープゴートになったんだ」
アルミン『僕が手の内にいれば、彼らは安心するだろう』
ジャン「あいつは偽の計画書を俺に渡して、自分を売るように言った」
アルミン『サシャには脱出の実行を、コニーには南コロニーの統括としての権利をちょっと使って欲しい。少しづつコロニーへの物資を水増しして、船へと運び込んで貰いたいんだ』
ジャン「アルミンにしてはずいぶん雑な計画だよな。俺たちの判断に丸投げなんだから。」
ジャン「でもあいつはそんな事はどうでも良かったみたいだぜ。準備が出来てから一ヶ月しても戻らなかったら、出航して欲しいとハンジさんに伝えてあったみたいだしな」
ジャン「あいつにとって重要だったのは、人類が外の世界へ進んで行く歴史を作る事だったんだ。」
ジャン「たとえ自分は一生地下から出られなかったとしても」
ミカサ「アルミン…」
幼い頃から彼と一緒に生きて、その夢を共有してきたミカサは、彼の決意の強さを思って胸が締め付けられるように痛んだ
-
- 23 : 2014/04/29(火) 20:31:05 :
- エレン「……んだよ……納得出来ねぇよ………」
ミカサ「エレン……!」
エレン「なんであいつは俺たちには何も言ってくれなかったんだ…」
ジャン「言ってたらお前はどうしてたんだ?」
エレン「あいつの夢は、ガキの頃から俺と二人のだったんだ!あいつが一言言ってくれれば、俺だって…!」
ジャン「アルミンと一緒に、犯罪者の汚名を被ったか?」
エレン「そんなもん、いくらでも被ってやるさ。俺たちが…どれだけ外の世界に憧れてたのかも知らねぇくせに…分かったような事言うんじゃねぇ!」
その言葉に、ジャンは込み上げてくる怒りを隠そうともせず、エレンの襟元を掴むと、吐き捨てるように言った
ジャン「おい…良く聞けよ、死に急ぎ。お前が犯罪者になって追われようが、どこかで野垂れ死しようが、それはお前の勝手だ。だがな…ミカサとエンジュはどうするつもりだ?」
エレン「……!」
ジャン「こいつら置いて、一人で無責任に夢追いかけるのか?それとも安全性も分からない航海に、こいつら連れて行くつもりだったのか?」
エレン「………」
ジャン「たくさんの兵を巻き込んで、中央に反抗して強行手段に出るのは簡単だ。だがそうなれば必ず犠牲が出る。あいつはもう誰も犠牲にしたくはなかったんだ」
その時ノックの音がして、サシャが部屋へと入って来た
サシャ「やっぱりエレンたちここでしたね。部屋の前を通ったら、エンジュの泣き声が聞こえたので連れて来ましたよ」
ミカサ「あぁ…ありがとう、サシャ」
ミカサはサシャから娘を受け取ると、むずがる背中を優しく叩いた
サシャ「後、エレンにはこれを。アルミンから預かりました」
エレンが震える手でそれを受け取ると、そこにはアルミンらしい几帳面な文字で、彼の幼馴染に宛てた言葉が綴られていた
『エレン、勝手な事をしてごめん。
許してもらえるとは思えないけど、僕はどうしてもエンジュに僕たちと同じ思いはさせたくなかったんだ。
大人たちの勝手な理由で、彼女を悲しませたくなかった。
君は僕にたくさんの幸せな時間をくれた。
だから今度は僕が君たちにお礼をする番だ。
今はまだ危険な航海だけど、必ずミカサやエンジュも一緒に行ける道を見つけるから。
それまで僕たちの天使を守って、待っていて欲しい。
エレン、僕の友達になってくれてありがとう。
僕の最初の友達。
大切な家族。
一緒に外の世界を見る夢、僕はまだ諦めてないから』
アルミンからの手紙を握り締め、歯を食いしばって何かに耐えるエレンの姿を見て、彼の娘は母親の手から抜け出すと、そっと父親に寄り添った
エンジュ「おとぉしゃん、いいこいいこよー」
エレンはエンジュを抱きしめると、感情を殺した低い声で言った
エレン「アルミンの野郎…一度ぶん殴ってやらなきゃ気がすまねぇ…」
そして絞り出すように続けた
エレン「だから……絶対生きて帰って来いよ……」
-
- 24 : 2014/04/29(火) 20:33:00 :
- ー3日後
アルミンとコニーを乗せた貨物船は、大きなトラブルもなく最南端のコロニーに着いた
ここからは川から離れて馬で南東に向かって進む
コニー「一番近いルートを使えば、後半日だぞ」
アルミン「そんなに早い道を見つけたのかい?」
コニー「おぅ、飽きるほど往復したからな!」
アルミン「ごめんね、コニー。僕の為に…」
コニー「いや、いいんだよ。実は最初ジャンから話しを聞いた時は、オレも正直迷ってたんだ」
アルミン「うん、当然だよ」
コニー「上手くいかなかったら反逆罪だもんな。オレの部下たちだってどうなるかわからねぇ。オレは…どんな事があってもあいつらを守ってやらなきゃいけなかったからな」
コニー「だけど迷ってた時、サシャに言われたんだ。『同じパン焼き窯のパンを食べた仲間を見捨てるような小さい男には、仔牛一頭だって守れませんよ!』ってな」
アルミン「色々間違えてるけど…サシャらしいね」
コニー「だよな。それ聞いてオレ、なるほどって思ったんだ。失敗しなきゃいいんじゃないかって。……まぁ…水増しの数は間違えて、計画早めちまったけどな…」
アルミン「ふふ、大丈夫さ、彼らが怪しむほどの数じゃないから」
コニー「そうか?!良かったよ……」
心から安心したように笑うコニー
アルミン「コニー、ありがとう」
コニー「いいって!照れるだろ。そんな事より、サシャに外国の美味いもんでも持って帰ってきてやってくれ」
アルミン「うん、そうだね約束するよ。コニーの分もね。」
コニー「おう!」
コニーの先導で馬を飛ばし、入り江に着いた頃には丁度日が登りかけていた
コニー「ここから先は一人で大丈夫だな?しばらくコロニーを留守にしてたから、あいつらの事が気になる」
アルミン「大丈夫だよ。ありがとう、コニー」
-
- 25 : 2014/04/29(火) 20:34:01 :
アルミン「やっと着いた……」
半年以上前にここを訪れた時は、まだ未完成だった帆船だが、今は細かい部分までしっかり作り込まれて、長い航海にも耐えられそうに見えた
ハンジ「アルミーン!久しぶりー!」
見上げると、ハンジが甲板から身を乗り出すようにして手を振っている
落ちないように、後ろで支えているモブリット
縄梯子を使ってアルミンが上に上がると、そこには協力してくれていた元兵士や技工士たちが、揃って笑顔で彼を迎えてくれた
アルミン「みなさん、ありがとうございます」
頭を下げるアルミンに、モブリットが言った
モブリット「彼らも色々な事情で兵団を引退した子たちだからね。内地に戻ってもやる事があるわけではないし、自分たちが役に立つならと、喜んで船に乗ってくれたよ」
アルミン「みなさんの気持ちが無駄にならないように、僕に出来る事は精一杯頑張ります」
ハンジ「でもさ、アルミンが戻って来てくれて、ほんとに良かったよ!」
ハンジ「君が私に預けていった調査計画書、調査項目がやたら細かくて山ほどあったから、私に全部出来るか不安だったんだ」
そう言って笑うハンジに
モブリット「この人は自分に興味の無いものには、全く関心を示しませんからね…」
と、苦笑いのモブリット
ハンジ「ところで、その袋は何?」
アルミンはサシャから貰った布袋の中身を出して、開いて見せた
ハンジ「あぁ…自由の翼だ…」
元団長は懐かしむように目を細めた
アルミン「必ず成果をあげて、これを着て帰ると、サシャと約束したんです」
ハンジ「そうか。実は私も預かり物があるんだよ」
ハンジは作りの良さを感じさせる木箱をアルミンに差し出した
その中には、ヒストリアのサインと王印が押された正式な信任状と、他国に宛てた親書が入っていた
アルミン「ヒストリア…」
ハンジ「一度は断られたけど、自分に出来ることはこれくらいだからって。使うかどうかはアルミンに任せるけど、困った時に役に立てたら嬉しいって言ってたよ」
アルミン「うん…ありがとう、ヒストリア」
モブリット「ジャンは君が帰って来た時、何の問題も無く上陸出来るように、中央に入り込んで根回しをしています。最終的には、兵団組織全体の改革を目指してるみたいですね」
アルミン「………」
多くの人の、暖かい支援に対する感謝の気持ちが溢れて、アルミンの頬を濡らした
アルミン「みんな…ありがとう…」
ハンジ「さぁ、泣いてる暇は無いよ!出航の準備だ!」
「はいっ!」
慌ただしく動き始めるクルーたち
アルミンは涙を拭うと、晴れやかな笑顔で目前に広がる海を見た
-
- 26 : 2014/04/29(火) 20:34:53 :
ー調査兵団本部 団長執務室ー
サシャ「今日もこれから食事会ですか?」
ジャン「あぁ、あいつが帰って来る前に片付けなきゃならない事が、山ほどあるからな」
サシャ「美味しいもの、たくさん出るんでしょうね…」
ジャン「代わるか?」
サシャ「遠慮します」
ジャン「で?何でお前がここにいる?」
サシャ「今回頑張ったので、兵舎の食事を一品増やしてもらおうかとおも…」
ジャン「却下だ」
サシャ「そんなに食い気味に言わなくても!」
ジャン「どうせアルミンには、助けたお礼とか言って外国の美味いもんでもねだったんだろ?」
サシャ「……!!」
ジャン「図星かよ!この芋女!」
サシャ「………いえ……」
ジャン「?」
サシャ「………頼むの忘れましたぁ!!」
ジャン「………………」
-
- 27 : 2014/04/29(火) 20:35:59 :
ー最南端コロニーー
兵士「コニーさん、おかえりなさい!」
コニー「おぅ、忙しい時期に留守にして悪かった。かわりは無かったか?」
兵士「はいっ!お留守の間に、仔牛が一頭産まれました」
コニー「そうかー。お前らも、だいぶ慣れてきたな」
兵士「最初はビビって何も出来ませんでしたけどね」
コニー「ここじゃ立体起動の技術だけじゃなくて、畜産の技術も必要だからなぁ」
コニー「よし、もう少し暇になったら、久しぶりに本部に戻ってジャンに会ってこよう。今のままじゃ、中途半端な知識と技術で、お前らが苦労するだけだからな」
兵士「お願いしますね。分隊長!」
コニー「ああ、任せとけ」
-
- 28 : 2014/04/29(火) 20:37:02 :
ーウォールマリア壁の上ー
エレン「なぁ、アルミンはもう出航したかな?」
ミカサ「たぶん…」
エレン「そっか…俺さ、今思えば、あいつと外の世界を見て回るって夢、自分の中じゃ全然現実的に考えてなかったんだ。なんとなくあいつが何とかしてくれるかなって思ってたのかもしれない。夢なんて、ただ思ってるだけじゃ叶わないのにな」
ミカサ「アルミンはその夢を叶える為に、一人でも少しづつ前に進んでいた」
エレン「おう、だから俺もあいつの隣に並べるように、夢を叶える為に今できる事をしていこうと思ってる」
ミカサ「ええ、私も」
エンジュ「おとぉしゃん、おかぁしゃん、おっきいねー!」
ミカサ「そうね。あなたの大好きなアルミンは、もっと大きな所に行くのよ」
エンジュ「あーちゃん!」
エレン「そうだ。俺たちの大切な家族だよ」
エンジュ「えんじゅ、あーちゃんだいしゅき!」
エレン「アルミンも、エンジュのこと大好きだってさ」
エンジュ「んふふふふ!」
エンジュ「おーーーい!あーーーちゃーーん!!!」
エレン「ははは、アルミンに届いたかな?」
ミカサ「きっと…届いたはず」
-
- 29 : 2014/04/29(火) 20:38:01 :
アルミン「出航!」
アルミンの号令に、帆船の帆がピンと張られる
暖かい春の海風は、追い風となって彼らの船を沖へと運んで行く
シガンシナ区の小さな町で、たった一人、誰からも理解されなかった少年の夢
その夢は、たくさんの人の思いを繋いで大きく育っていた
ーーーーそして今
少年はようやく夢のスタートラインに立った
fin
-
- 30 : 2014/04/29(火) 20:51:22 :
やっと終わりました…相変わらずの入力ミスや誤字脱字誤変換、重ねてお詫びいたします(´・_・`)
コメント下さった名無しさん、蘭々さん、ゲスミンさん、本当にありがとうございましたm(_ _)m
とりあえず一区切り付いたので、しばらくは皆様のSSを楽しみながらまったりしたいと思います。
読んで下さった方々、ありがとうございました(。-_-。)
-
- 31 : 2014/04/29(火) 20:59:34 :
- 感動の一言に尽きる‼︎
-
- 32 : 2014/04/29(火) 20:59:47 :
- 三部作読ませて頂きました。
面白かったです。いい話ですね。
私も未来の話を書いているので、興味深かったです。
月子さんの書く104期はみんな素敵なかっこいい大人になってて、ドキドキしちゃいます。
うちの104期は、基本みんな駄目な大人なので(笑)
これからも新作待ってます。
-
- 33 : 2014/04/29(火) 21:24:26 :
- 続きが見たくてむずかゆいいいいいい
-
- 34 : 2014/04/30(水) 08:19:32 :
- 女神クリスタ教信者さん、共感頂けて嬉しいです♪ありがとうございます(。-_-。)
ありゃりゃぎさん、元の性格のいいとこ取りで想像したので、みんないい子に育ちました(笑)ありがたいご感想ありがとうございました(^-^)
ゲスミンさん、申し訳ない…ここまでが私の妄想力の限界です(´・_・`)
続きを書くと、アルミンが海賊王目指したり、ジャンが半沢○樹になったりしそうなので…wありがとうございましたm(_ _)m
-
- 35 : 2014/04/30(水) 20:58:36 :
- お疲れ様でした。シリーズを通して読ませていただきましたが、いままでにない着眼点でとても面白かったです。
-
- 36 : 2014/04/30(水) 23:02:24 :
- 星月夜さん、そう言って頂けると最後まで書ききれて良かったと思えます。
ありがとうございました(。-_-。)
-
- 37 : 2014/05/01(木) 19:10:06 :
- 執筆お疲れ様でした。今作も、前二作に負けないくらい非常に素晴らしかったです!
三部作の集大成らしく今までの話に少し絡めた部分もあったりして、じっくりじっくり考えられたのだろうなと、同じ書き手としてとても勉強になりました。
次の活動再開を見逃さぬよう、フォローさせていただきますね。心より執筆再開をお待ちしております。
ひとまず、素敵な作品を届けてくださってありがとうございました(* 'ω')ノ!
-
- 38 : 2014/05/01(木) 23:19:05 :
- submarineさん、今までずっと絵を描いて来ていたので、イメージを言葉にする難しさに脳みそが追いついていない感じでした(笑)
それでも暖かいご支援のお蔭でなんとか書き上げることが出来ました。
本当にありがとうございますm(_ _)m
-
- 39 : 2014/05/02(金) 20:11:22 :
- 三部作とも読ませていただきました。ジャン編もコニー編もそれぞれの面白さがあったのですが、今作は特に面白かったです。特に、アルミンの計画が明らかになった所。鳥肌が立ちました。最後までスラスラと読むことのできる、良ssでした。ありがとうございました!
-
- 40 : 2014/05/02(金) 22:47:03 :
- うああっ、感動です!!!
ジャン編といい、コニー編といい、もう涙が……。
文章もとても読みやすくてssの域を超えてます!
もし出来たら、続きも見てみたいですっ。
素敵な作品をありがとうございました!!
-
- 41 : 2014/05/02(金) 23:48:56 :
- Noiseさん、ありがとうございます。
無い知恵絞って書いた甲斐がありました(/ _ ; )
1番心配だったのが読み辛くないかという部分だったので、そう言って頂けて本当に嬉しいです(。-_-。)
砂糖楽夢音さん、カテゴリーが変わったのに見つけて下さったんですね(>_<)
1話目から、ほぼリアルタイムで感想頂けて、とても励みになりました。
ありがとうございますm(_ _)m
続きになるかは分かりませんが、少しお休みしたらまた書きたいと思います(^-^)
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