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仮面ライダーぼっち18

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  1. 1 : : 2014/04/03(木) 21:22:50
    陽乃によって明かされたリュウガの存在と渡された二枚のサバイブのカード。
    ライダーバトルににどのような波乱を起こすのか……?
    そして、新たに現れるライダー、消えていくライダー。
    八幡達は、狂おしい運命の中で何を思うのか?



  2. 2 : : 2014/04/03(木) 21:40:28
    「こんなのはどうかなっ!?」
    珍しく大きな声でクラスのみんなに語りかけているのは、三浦グループの構成員海老名さんだ。
    季節は秋。今は、文化祭で行うクラスの出し物を決めている。
    そして彼女が提案しているのは、ミュージカル『星の王子様』。
    しかし、問題はその内容だ。
    台本のあらゆる場面にホモホモしい描写がなされている。
    彼女の腐女子っぷりがいかんなく発揮されている。
    ……こんなもんやれるわけねェだろ。
    他のみんなからも戸惑いの声が上がっている。
    「いや、俺はいいと思うぜ!」
    戸部……。お前ってやつは……。
    恋する男子のちょろさは異常。
    「こういうのの方がおもしれぇじゃん!普通に劇やるより受けるって!」
    その甲斐あり、クラスメイト達も考える姿勢に入る。
    こうした文化祭での出し物の状態は、「ウケる」ことと「他とは違う」ということだ。
    この脚本では二つの条件が十分に満たされている。
    「とりあえず、笑いの要素を強めていくっていう方針でいいかな?」
    葉山が意思確認を行うと、誰からも反対の声は上がらない。
    「じゃ、決定ってことで」
    ロングホームルームの時間をすべて費やし、クラスの方向性が決まった。
    文化祭まであと一カ月近く。
    憂鬱な気分で俺は席を立った。
  3. 3 : : 2014/04/03(木) 22:13:48
    何だ、これ……。
    休み時間になり教室に戻り、俺は驚嘆した。
    なんと、文化祭実行委員会の名に比企谷と書かれていたのだ。
    事の発端は、ロングホームルームの時間の前に頭痛がしたので、保健室に行ったことが原因だった。
    なんと、俺がいない間に最も面倒臭い仕事を押し付けられていたのだ。
    仲のいい連中同士でするのはまだいい。
    でもこれを、ぼっちにやったら終わりだ。
    戦争だろうがっ……!ノーカウントっ……!ノーカウントっ……!
    きっと誰かが言いだして、『ざわざわ』ともせずにすんなり決まったのだろう。
    黒板の前で立ち尽くしていると、肩をたたかれた。
    「説明が必要か?」
    振り向くまでもなく声でわかる。
    俺の大嫌いな教師ランキング堂々の第一位、平塚静だ。
    「もう次の授業だというのにまだ決まっていなかったからな、比企谷にしておいたぞ?」
    「こっちの世界ではちゃんと教師やるんじゃなかったのかよ……。思いっきりあっちの世界の確執を持ってきてんじゃねぇか」
    「おいおい、言いがかりはよしてくれよ?これは一教師として君を信用しているからこそだよ」
    「あんたなんかに信用されてもこれっぽちもうれしかねぇンだよ」
    「そういうな、ほら、座りたまえ。これは決定事項だ」
    彼女は汚い笑みを浮かべているが、引くつもりはないらしい。



    放課後の教室は紛糾していた。
    文化祭の係を決めるのだ。
    男子の委員がなかなか決まらず、結局あの極悪ライダー教師のせいで俺に決まった。
    というわけで、女子の委員も決めねばならない。
    「えー、じゃぁ女子の委員やりたい人、挙手してください」
    言われたところで誰も反応しない。視界の男子は諦めたような溜息をつく。
    「このままだと、じゃんけんに……」
    「はぁ?」
    言いかけた彼の言葉を、三浦優美子が無理矢理遮る。
    何こいつ、モンスター出してないのに迫力ありすぎだろ。何ならモンスターより怖いまである。
    「……それって大変なの?」
    ひるんだ視界に、由比ケ浜が優しく尋ねる。

    「普通にやればそんなに大変じゃないけど……、女子は結果的に大変になっちゃうかもしれない」
    何こいつ、失礼すぎじゃない?ドラグレッダーに食わせるよ?
    「ふーん……」
    「正直、由比ケ浜さんがやってくれると助かるな。人望あるし、クラスをちゃんとまとめてくれると思うし、適任だと思うんだけど」
    「いや、あたしは別に……」
    「えー、結衣ちゃんやるんだー」
    耳につく声でそう言ったのは相模南だ。
    「そういうのいいよねー、仲いい同士でイベントとか面白そー」
    「はぁ?」
    先ほど司会に向けられたのと同じ迫力満点の声が再び。
    「結衣はあーしと呼びこみやるから無理っしょ」
    堂々と、それが確定事項であるかのように三浦は言い放つ。
    その言葉に、相模は笑いながら迎合する。
    「そーだよね、呼び込みも大事だよねー」
    「え!?あたしが呼び込みやるの決まってるんだ!?」
    「え?一緒にやんないの……?あーしの早とちり?」
    この世界での三浦は俺と雪ノ下に対する敵意は変わらないものの、由比ケ浜に対しては友人として接している。
    正直何とも言えないのだが、ライダーバトルを最終的に止めたい俺としては、止めることもできない。
    「あ、ううん。一緒にやろっか」
    その後また空間に沈黙が流れる。
  4. 4 : : 2014/04/03(木) 22:13:56
    「つまり、こういうことでいいのかな」
    それまで黙っていた葉山がたちあがる。
    「リーダーシップを発揮してくれそうな人にお願いしたいってことだよね?」
    いや、そんなの誰でもわかってんだろ……。
    しかしそう思ったのは俺だけなのか、周囲の人間は葉山の言葉に熱心に聞き入っている。
    どんなことを言ったのかではなく、誰が言ったのかが問題なのだ。この理不尽な世界は。
    「んー、じゃぁ、相模さんとかいいんじゃね?」
    「いいかもな。相模さんなら、ちゃんとやってくれるだろうし」
    戸部が言うと、葉山もそれに賛同の意を示す。
    クラスの王葉山の発言により、教室内は一気に相模ムードに染まる。
    こいつらマジか……。こんなのに任せたら失敗するのは火を見るより明らかだろう。
    そしてこの葉山、それがわからないほど愚かではない。
    おそらく、意図的にこの状況を作り出している。
    別に文化祭が失敗しようと俺にとってはどうでもいい。
    だが、今俺は実行委員になってしまった。
    彼女の尻拭いをするのは、俺だ。
    ……それが理由か?葉山。
    「えぇ?うちぃ?ぜーっ対無理やってぇ」
    しかしその声は本気でいやがるものではない。
    女子がいやがる時というのは、もっと静かな声をだすものなのだ。
    あれを言われると死にたくなるからなぁ……。
    「相模さん、そこを何とかお願いできないかなぁ?」
    「……まぁほかにやる人いないなら仕方ないけどー。でも、うちかー」
    聞えよがしにぶつぶつつぶやくその声が、果てしなく癪に障る。
    「じゃぁ、うちやるよー」
    その声を合図に、皆銘々に教室を後にした。
  5. 5 : : 2014/04/03(木) 22:41:19
    そして、早速今日から実行委員会が始まる。
    会議室に入ると、すでに半分ほどが集まっていた。
    その中には相模の姿もある。
    もともと友達だったのか、それともこの場で意気投合したのかは定かではないが、三人ほどで集まって話している。
    人が増えるたびに、ざわめきの声は大きくなっていく。
    だが、次に入ってきた人物の時はまるで違った。
    圧倒的な静寂の中、雪ノ下雪乃は音も立てずに歩く。
    誰もが声をひそめてその様子を見つめていた。
    見慣れているはずのおれでさえ視界を奪われる。それは彼女の美しさのせいだろうか、それともこの場所に彼女が現れたという意外さからだろうか。
    時計の針がさらに進み、開始時刻が近くなると、数人の生徒と二人の教師が入ってきた。
    二人のうちの一人は平塚だ。
    目が合うと、彼女はにこりとほほ笑んだ。
    ふざけやがって……。
    そして最後に、一人の女性とが入室して来て、前方の席の中心に行き、すっと息を吸ってから声を出した。
    「それでは、文化祭実行委員会を始めまーす」
    なんだかほんわかした雰囲気の人。それが彼女に抱いた第一印象だった。だが、その下に何か隠している気がするのは、少し前に雪ノ下陽乃とあったからだろうか。
    「えっと、生徒会長の城廻めぐりですえ、えっと……、みんなでがんばろー!おーっ!」
    彼女の最後のやっつけとも取れる挨拶を聞くと、皆は一斉に拍手をする。
    当然俺はそれに参加しなかったが。
    その拍手が鎮まると、彼女は再び話しだす。
    「知ってる人も多いと思うけど、例年、文化祭実行委員長は二年生がやることになってます」
    そりゃそうだろうな。三年の秋にこんなことやってるとしたらそいつはよほど余裕のあるやつかただのアホだ。
    「それじゃぁ、誰か立候補者はいますかー?」
    とは言うが、誰も手を上げる者はいない。
    当然だ、皆やる気があったとしても、それを発揮したい場はここではない。
    できればクラスや部活で、といったところだろう。
    「おいおいみんな、どうしたんだよ。こういうことはやってみた方がいいって。失敗なんか恐れなくていいんだよ。明日のパンツさえあればどうにだってなるんだから!ね、アンク?」
    女子の前で平気でパンツとか言い出したのは、体育教師の火野映司だ。若くて男前なのだが、突然『アンク』とか言い出して、何もない空間に話しかけたりするちょっと変わった人だ。
    と、その火野先生が雪ノ下の姿を認めると、一瞬驚き、彼女に話しかける。
    「あっ、君は雪ノ下さんの妹だよね。いやー、あの時はすごかったなー。あの時は明日のパンツがなくても生きていけるって思ったんだー」
    「火野先生、女子生徒の前でパンツパンツと連呼するのはやめた方がいいと思うのですが」
    「あっ、ごめんね?セクハラとかそういうつもりはないんだけどさ……。死んだおじいちゃんがよく言ってたんだ、男はいつ死ぬか分からないから、パンツだけは一張羅をはいとけって」
    よ、よくわからない……。
    「そ、そうですか……。変わった方だったようですね」
    雪ノ下の頬が珍しくひきつっている。
    「せっかくだからやってみない?……手が届くのに、手を伸ばさなかったら、死ぬほど後悔する。それが嫌だから、手を伸ばすんだ」
    「よく、おっしゃることが分からないのですが……」
    「俺、教師になる前、いろいろ世界を回ったんだけどさ。
    貧しい国に募金してたつもりが、悪い人に使われてたり、ひどい時は内戦の資金になってたりする。
    だから、人が助けていいのは、自分の手が伸びる半にまでだって、そう思うんだ。……だから、君のできる範囲でできることがあるんなら、きっとやってみた方がいいと思うんだ」
  6. 6 : : 2014/04/03(木) 22:43:28
    このシーンで出てきた火野映司は、仮面ライダーオーズの主人公です!
    例によって知らなくても物語を読むうえでは問題ありません!
    興味を持った方はぜひ見てみてくださいね!




  7. 7 : : 2014/04/03(木) 23:30:09
    「あ、はるさんの妹なんだ!どうかな、雪ノ下さん?」
    城廻が火野先生の言葉を遮るようにして雪ノ下に話しかける。
    「実行委員として善処します」
    一刀両断!火野先生結構頑張って説得してたのに……。
    ちょっと涙目になってるじゃねぇかよ。
    あっ、また『アンク』とか言ってるし。
    彼女に拒否されて困ったのは城廻だ。
    「うーん……、えっと、そうだ!委員長やると結構お得だよ?ほら、内甲とか、推薦書とか……」
    そんなこと言われてやるやつなんているわけねェだろ……。
    「えーっと……。どう?」
    皆の方を見まわした城廻の視線が、雪ノ下の前でとまる。
    雪ノ下の眉根がピクリと動いた。
    どうやら不機嫌になっているようだ。
    そりゃそうだ、大嫌いな姉に重ねて見られているのだから。
    「あの……」
    と、その時小さな声が室内に響いた。
    「みんながやらないんなら、うち、やってもいいですけど」
    その声の主は、相模南だ。
    申し出を聞いた城廻はうれしそうに手をたたいた。
    「本当?嬉しいな!じゃぁ、早速自己紹介してくれる?」
    「二年F組の相模南です。こういうの、少し興味あって……。打ちもこの文化祭通して成長したいっていうか……、その、前に出るのもあんまり得意じゃないんですけど、そういうとこも変えていけたらなーって……スキルアップのチャンスだと思って頑張ります!」
    ……なんでこっちがお前みたいなやつの成長に協力しなきゃいけないんだよ。
    だが、他の連中は城廻にしたように歓迎の拍手を送っている。
    その中で手を叩いていなかったのは、俺と雪ノ下だけだった。
    「さ、じゃぁ後は残りの役割を決めます。五分ぐらいしたら希望をとるので、議事録の説明を見てください」
    ざっと目を通す。この中で一番楽そうな仕事は何だろうか。楽をするためならどんな努力も惜しまない!
    宣伝広報、食品衛生、会計監査……おっ、これはっ!
    記録雑務の四文字が俺の目にとまった。当日写真撮ったりするくらいでいいらしい。どうせ当日の予定もないので暇つぶしにちょうどいい。
    俺が希望する係を決めるとほぼ同時、またしても耳障りな声が聞こえてくる。
    「ノリで実行委員長になっちゃったー、どうしよー」
    「だいじょぶだよー、さがみンならできるよー」
    「そうかなー、できるかなー。ていうか打ち、さっきめっちゃ恥ずかしいこと言ってなかった?」
    「そんなことないって、よかったよー。ね?」
    「うんうん、よかったよかった」
    ああ、素晴らしい友情だ。
    「うかない顔だね、比企谷君、だったっけ」
    「どうも……」
    俺に話しかけてきたのは火野先生だ。
    「彼女達のことかな?」
    「……ええ、まぁ。なんか、嘘くさいですよね」
    こんなことを言ったことに自分が一番驚いている。俺はそういうことは思っても、決して他人に言ったりはしないのに。
    この人には、そうさせる何かがある。だが、雪ノ下陽乃や平塚静、葉山隼人のような気味の悪さはない。
    裏表を一切感じない、信頼できるような語り口と表情だ。
    いい人なんだな、と直感する。
    「誰かと仲良くしたいっていうのも、欲望だからね……」
    「欲望?」
  8. 8 : : 2014/04/03(木) 23:36:47
    新作期待です(o^^o)
    読んでて楽しいですヾ(@⌒ー⌒@)ノ
  9. 9 : : 2014/04/03(木) 23:43:48
    「うん、欲望。人は、欲望をかなえるために生きる」
    彼の言葉にはとても実感がこもっていて、すんなりと胸の中に入ってきた。
    「だけど、欲望に支配されちゃいけない」
    「……」
    「まぁ、それってすごく難しいことなんだけどね。欲望っていうのは、目標と同じようなものだから。俺は一時期欲望が何もない時期があってさ。その時の人生は、乾いてた気がするんだ。今日を明日にするのだって欲望だから。
    だからそれと、うまく向き合っていかなきゃいけないんだよな……」
    「……先生の今の欲望は何ですか?」
    俺が相当と、火野先生は黙ってポケットから一枚のメダルを取り出した。
    中心にひびが入って二つに割れてしまっている赤いメダルだ。
    鳥の絵が描かれている。
    「これをもとに戻すことが、今の俺の目標かな」
    「……大事な、物なんですね」
    「ああ。とてもとても、大切なものだ」
    最後にもう一度メダルを見つめて、再びポケットの中にしまう。
    「……っと、そろそろ行かないとな。それじゃ比企谷君も頑張ってね。期待してるよ」
    「どうも」
    そう言い残し、火野先生は前に戻って行った。
    何故だろう、ただの社交辞令のはずなのに、この人に言われると本当にそう思ってくれていると実感できる。

    「そろそろいいかなー?」
    城廻の声はなぜか聞き取りやすい。大きくはないが、皆がそちらに自然と注意をひきつけられるような、そんな声だ。
    「みんななんとなく決めたかな?それじゃ、相模さんここからはよろしくね?」
    「えと、うちですか?」
    「うん、ここからは委員長の仕事だと思うし」
    「は、はい……」
    生徒会の一段に紛れるようにして、相模が着席した。
    「それじゃぁ、決めていきます……」
    消え入りそうなその声は、先ほどまで騒いでいた彼女と同じ人物の物とは思えないほどだった。
    そんな声も、静寂の中ではちゃんと聞こえる。
    だがこの静かさは、安定感のある物でもなければ、彼女を歓迎してのものでもない。
    異物を糾弾する冷酷な静かさだ。
  10. 10 : : 2014/04/03(木) 23:50:45
    ⇒⇒⇒六さん
    ありがとうございます!本当に励みになります!
    僕はインフィニットストラトス読んだことないのですが、六さんの話は楽しく拝見させていただいています!
    これからも期待してます!



    皆さんへ
    映司は知らなくても支障ないと書いたのに、結構大きなウェイトを占めることになって申し訳ないです(;一_一)
  11. 11 : : 2014/04/04(金) 12:11:06
    「じゃぁまずは、……有志統制」
    有志のバンドなどは文化祭の花形なので、かなりの数の手が上がった。
    「え、えっと……」
    「多い!多いよ!はい、じゃんけんじゃんけん!」
    戸惑う相模に、すかさず城廻がフォローに入る。
    ほんわかとした空気の中でじゃんけんが行われた。
    よくわからない彼女独自のノリであるが、次々に場をさばいていく。
    一年間の生徒会長としての経験か、それとも生まれ持った天性か。
    終始そんな調子で役割が決まっていく。
    ちなみに俺は、きちんと記録雑務に収まっていた。
    この係、俺に似たような奴ばかりが集まった、積極性の墓場とも呼べる体をなしている。
    各担当に分かれての顔合わせなんてもう見ていられない。
    「えっと、どうします?」
    「自己紹介、いりますかね?」
    「一応、やりましょうか」
    「そうですね」
    「じゃぁ、私から……」
    なんだよこれ。今すぐ帰りたいわ。
    当然のように、雪ノ下雪乃もそこにいた。
    自己紹介が終わると、担当部の部長を決めるじゃん剣が始まった。
    負けた人がやる、という先ほどとはまるで意味合いが違う勝負。
    しかもここの三年生がひどく、平気で一年生にもじゃんけんをさせていた。
    何度かあいこが続いたのち、三年生に決まり、即時解散。
    教室を出る前に、ふと炭を見ると、落ち込んだ様子の相模南がいた。
    実行委員長としての仕事がうまくいかなかったことを気にしているのだろうか。
    その傍らにはつるんでいるお友達(笑)二人もいる。
    そしてそんな彼女のもとに火野先生がやってきて、
    「大丈夫、明日のパンツさえあればね」
    と、すっかりお決まりになったセリフを言っていたが、彼の言葉が彼女を救うことはないだろう……。
    不憫だ……。
    そんな光景をしり目に、俺はすたすたと家路についた。
  12. 12 : : 2014/04/04(金) 12:29:42
    文化祭まで一カ月を切った教室内は忙しい。
    只今我がF組では、ミュージカルのキャスト決定が行われていた。
    が、当然海老名さんの台本を見た後ではやりたがろうとする者はいない。
    「えっと、この間の説明は気にしなくていいからな?そういう描写をあからさまにやったりはしない」
    葉山が取りつくろうものの、状況は変わらない。
    「しょうがないなあ、ぐ腐腐腐腐……」
    海老名さんが腐敵な笑みを浮かべ、黒板に勝手に名前を書いていく。
    なんという職権乱用!
    「いやだぁ!」「地理学者だけは勘弁してくれ!」「そんな、なんで俺が阿部さんをっ!」
    ……星の王子様に阿部さん出てないですよね?
    そしてついに、メインキャストの発表である。
    王子様:葉山隼人
    彼の笑顔が固まっていた。
    女子たちからは色めきだった声がわきあがる。
    まぁ、集客に葉山の人気を利用するというのはいい手だろう。
    そして問題は、もう一人の主人公だ。
    ぼく:比企谷八幡
    「え?なんだって?」
    思わず某難聴系のセリフを口にだしてしまった。
    ちなみに彼のモデルは佐村河内らしい。
    「え?なんだってじゃねーよバカ」
    海老名さんが発明変態少女のように帰す。
    「つーか俺、文実だから」
    「そ、そうだな。ヒキタニくんには文実やってもらってるし、けいことかは出られないだろ」
    ナイスフォローだ葉山、初めて役に立ったな!
    「そっか……残念」
    「だから他のキャストももう一回考えた方がいいと思うんだ……特に王子様とか」
    それが目的か。
    海老名さんは葉山の言葉を聞き終わらないうちに、黒板の文字を消して書き直した。
    王子様:戸塚
    ぼく:葉山
    と、戸塚だとっ!?
    「俺は結局出なきゃいけないんだな……」
    戸塚が出るなら俺もやりたかったっ……!
    俺は盛り上がるクラスのみんなをしり目に教室を去る。
    「ヒッキー、部室行くの?」
    由比ケ浜に声をかけられ、少し歩調を緩めて答えた。
    「ああ、委員会までまだ時間あるし、これからしばらく部活出られなさそうだからな」
    「そっか、そだね……。じゃぁ、あたしも行くよ」
    「仕事、いいのか?」
    「忙しくなるのは、実際に動き出してからだと思うから」
    そうか、と短く答え、部室までの廊下を歩いた。
  13. 13 : : 2014/04/04(金) 17:33:12
    「やっはろー!」
    扉を開けると同時、もうすっかりおなじみになった挨拶を由比ケ浜がすると、雪ノ下は静かにこんにちはと返す。
    これも見慣れた光景だ。
    「おう」
    俺もいつも通りの返事をする。
    「そういや、お前も文実なんだな」
    「え?そうなの?」
    「ええ……」
    「ならあたしもやればよかったなー」
    由比ケ浜の何気ないつぶやきに、雪ノ下は少しだけ顔を赤くする。
    何あれ、あんな表情僕向けられたことないよ?どういうことなの?
    ゆるゆりなの?
    コホン、と一息ついて雪ノ下は言葉を紡ぐ。
    「私としては、あなたがいることの方が驚きだったけどね」
    「あ、だよねー。超似合わない」
    「俺は完全に強制だったんだよ。……あのクソ平塚」
    「あの人、普通の生活でもライダーバトルのことを持ちこむのね……」
    「奉仕部の顧問として、だとよ」
    「まともにその責を果たしたことはないというのにね。義務は果たさず権利ばかりを主張する、聞いているこちらまで恥ずかしくなるような生き方だわ……早く消さないと」
    雪ノ下さん、マジパないっす。
    そんな微妙な空気を振り払うように、由比ケ浜が努めて明るい声を出す。
    「えっと……、委員会って今日もあるんでしょ?部活は、どうするの?」
    「あ、俺も出れそうにないわ」
    「そうね、文化祭が終わるまでは休部と形にするべきだと思うわ」
    「ま、妥当だわな」
    「うーん……、そっか、仕方ないね」
    由比ケ浜は少し考えてから、納得したように言う。
    「んじゃ、今日はこれで終わりか」
    鞄を持って立ち上がると、呼びとめるように由比ケ浜に声をかけられた。
    「ヒッキー、時間がある時はクラスの方も手伝ってね?」
    「それは、その……。約束はしかねるな」
    そそくさと歩き出す。ここは逃げるが勝ちだ。
    「って、ちょっとー!」
    「時間があればなー」
    最後はほとんど走るようにして俺は部室を出て行こうとした、その時だ。
    コンコンコン、とドアがノックされる。
    耳を澄ますと、扉の向こうではくすくすと笑うような声が聞こえてくる。
    「どうぞ」
    雪ノ下が返事をすると同時、扉が開かれる。
    「失礼しまーす」
    聴く者を不快にさせる声、この声には聞きおぼえがあった。
    入ってきた人物を見ると、予想通りそいつは相模南だ。
    「あれ?雪ノ下さんと結衣ちゃん?」
    「さがみん?どうしたの?」
    おっと?ここにもう一人いるぜ?少人数の中でもその存在を把握されないとは、流石はステルスヒッキーだぜ!
    「へぇ~、奉仕部って雪ノ下さん達の部活なんだ~」
    その汚い声をこれ以上発するな、という思いを込めて睨むが、彼女は歯牙にもかけていない様子だ。
    「何の御用かしら?」
    いつもながら、まったく知らない相手に対してもあたりの強い雪ノ下の声音。
    彼女のそれはどこまでも冷たさを連想させるが、相模の物とは対極的にいつまでも聞いていたい心地よさを内包している。
    「あ……、ごめんなさい」
    相模の勢いがそがれる。
    「ちょっと相談ごとがあって、来たんだけど……」
    雪ノ下とは視線を合わせようとせず、傍らの仲間たちと目くばせしながら彼女は言葉をつづけた。
    「うち、実行委員をやることになったんだけどさ、なんて言うのかな……。自信がなくて。だから、助けてほしいんだ」
  14. 14 : : 2014/04/04(金) 17:56:31
    昨日の委員会の後、相模は火野先生と話していたが、もしかするとあのあと彼がアドバイスしたのかもしれない。
    余計なことを・……。
    しかし恨むにうらめないのは、きっと彼の人格がなすものだろう。
    まぁ、彼女の言うこともわからないではない。誰だって始めてやることというのは緊張するものだ。まして相模は、そういうことをするタイプではない。責任があることは他人になすりつける。それが彼女という人間の生き方だったはずだ。
    相模のことはよく知らないが、その程度のくだらない人間ということくらいはわかる。
    こいつは、救うべき人間なのか?
    そんな思いも込めて、俺は雪ノ下の目をじっと見る。
    「自身の成長、といったあなたの掲げた目標からは外れると思うのだけれど」
    「そうなんだけどぉ、やっぱりみんなに迷惑かけるのはまずいっていうかぁ。それに、誰かと協力して何かを成し遂げるっていうのも成長だと思うし」
    みんなに迷惑?テメェが恥をかくのが嫌なだけだろうが。
    それにお前が言う協力は、ただの依存だ。
    「それに、うちもクラスの一員だしー。やっぱりクラスの方にも協力したいっていうか?ね?」
    「……うん、そだね」
    言葉を投げかけられた由比ケ浜は、少し考えてから小さく言った。
    協力の前に自分の仕事を一人でやる努力をしろよ。
    こいつが言っていることはとどのつまり、自分が調子に乗ってやってしまったことの尻拭いを雪ノ下にさせようとしているだけだ。
    相模が欲しがっているのは、『文化祭実行委員長』という肩書だけ。
    それに伴う努力や責任などはいっさいするつもりもなければ背負う気もない。
    こんなやつに手を貸す必要はない、それに、きっとゆくゆくは彼女の為にもなるはずだ。こいつがどうなろうと知ったことではないが。
    「……要約すると、あなたの補佐をしろということかしら」
    「うん、そうそう!」
    「なぁ雪ノ下」
    「わかったわ。私自身、実行委員だし」
    俺の言葉をさえぎって、彼女は依頼を引き受けた。
    ……何故だ?
    そう問いかける俺の視線を、しかし彼女ははねのける。
    「本当に!?ありがとー!」
    相模は一気に喜びをあらわにする。
    それと対照的だったのは由比ケ浜だった。驚きを内包した表情で雪ノ下を見つめている。
    「じゃ、よろしくねー」
    相模は軽いノリで言うと、さっさと部室を出て行った。
    「……部活、中止じゃなかったの?」
    由比ケ浜が少しだけ咎めるような声を出す。
    「……私個人でやることだから、問題ないわ」
    「でも、いつもなら」
    「……相模さんだけでやらせたら、十中八九、いえ、100%失敗するでしょう。学校行事なんてどうでもいいと思っているけどね、失敗するというのがわかっているものを放置することはできない」
    「……それだけじゃねぇだろ」
    「何のことかしら?」
    「お前は、今のこの状況をあの姉と比べてんじゃねぇか?あいつの時の文化祭は大成功だった、それが自分の時に失敗では、あいつに負い目を感じる……そんなとこか?」
    「黙りなさい」
    そういった彼女の声は今まで聞いた中で最も冷たかったかもしれない。
    「お前とあいつは違うだろ?」
    「黙ってと言ったはずよ。……そんなことわかってるわ」
    最後の声は先ほどとは打って変わって消えそうな小ささで。
    「で、でもさぁ、みんなでやった方がいいんじゃないかな」
    由比ケ浜はその場の空気を何とかしたかったのか、声を出した。
    「結構よ。私一人でやった方が効率がいいし」
    「効率って……。そりゃ、そうかもしれないけど……」
    由比ケ浜は少しだけ悲しそうな顔をして、
    「でも、それっておかしいと思う」
    そう言って、踵を返す。
    「……あたし、教室戻るね」
    「俺も、行くわ」
    俺と由比ケ浜が教室を出て、雪ノ下一人だけが残った。
    差し込む夕日に移った彼女の姿はどこまでも美しく、そしてどこまでも物哀しい光景だった。
  15. 15 : : 2014/04/04(金) 18:13:38
    「なんかもう!なんかもう!なんかもうっ!」
    部室から十分離れた廊下で、突然由比ケ浜は声を上げた。
    「おい、いきなりどうしたんだ、お前」
    「……なんかさ、ゆきのん、いつもと違ったよ。ヒッキーの行った理由があったとしても、あたしを頼ってほしかった……」
    「そうか……」
    「ねぇ、ちょっと嫌な話していい?」
    「なんだ?」
    「……嫌いに、ならないでね?」
    「心配すんな、もう嫌いだから」
    「え!?ええええええっ!?ヒッキーあたしのこと嫌いなの!?」
    「冗談だ、真に受けんな」
    「そ、そっか……よかったぁ」
    「で、なんなんだよ」
    「その、ね。あたし、ゆきのんにさがみんの依頼受けてほしくなかったの。もしあたし達が協力してやる依頼だったとしても」
    「え?あ、ああ」
    「あ、あの、さ。その理由っていうのが、あたしが、相模んのこと苦手だからなんだ……。だから、ゆきのんの近くにいてほしくないっていうか……」
    「そう、で、嫌な話って何?」
    「え?い、今のがそうなんだけど」
    「それのどこが嫌な話なんだ?」
    「え?だ、だって、嫌じゃない?女の子同士でいざこざしてるのって」
    「はぁ、お前アホか?ああ、あほの子だったな、そういえば」
    「あ、アホじゃないしっ!」
    「あのなぁ、人間、苦手な奴がいるのなんて当然じゃねぇか。むしろいないっていう奴がいたら、俺はそんな奴のこととても信頼できないね」
    「で、でも、いいことじゃないよね。……そういうとこ、見せたくなかったっていうか」
    「ほんとアホだな、お前……。つーか、俺だってあいつのこと嫌いだ。死んでほしいとすら思ってる」
    「そ、それは言いすぎじゃ……。あたし、さがみんのこと好きじゃないんだよね。でも、友達だからさ……」
    「はぁ?好きじゃないのに友達?お前それマジでいってんのかよ」
    「あ、あたしは、思ってるよ?相手はそうじゃないと思うけど……」
    「そりゃそうだろうな。見てりゃわかる。あいつはお前のこと確実に嫌いだよ」
    「え?み、みてるの?」
    「見てるっつーか、花火大会の時、実行委員会決めの時、んで、さっきの態度。その三つだけで判断しても十分なほど、あいつはお前のこと嫌ってる」
    「なんだ、いつも見てるのかと思った……」
    「お前も雪ノ下の自信過剰が移ったか?」
    「ゆ、ゆきのんは自信過剰じゃないよっ!本当にかわいいもん!そ、それにヒッキー、結構あたしの胸見てるよね!?」
    「見、見てないけど?」
    うっそ、ばれてたのかよ。
    「女の子って結構視線に敏感なんだからね、気をつけた方がいいよ?」
    「ま、もとからくそみたいな好感度だ、今さら嫌われたってどうってことねーよ」
    「なにそのじめじめしたポジティブ……」
    少し笑った後に、由比ケ浜は言葉を続ける。
    「さがみんとは、一年の時も同じクラスだったんだ」
    「ふーん、仲良かったのか?」
    「まぁ、そこそこ、かな?」
    「……つまり仲良くなかった、と」
  16. 16 : : 2014/04/04(金) 18:37:32
    「なんでそうなるのっ!」
    「じゃぁ、仲良かったんだな?」
    「うん、まぁ、結構……」
    また微妙な顔で言うよな、こいつも。
    「つまりは仲良くなかったんだろ?」
    すると、由比ケ浜は諦めたようにして言う。
    「……もうそれでいい」
    それでもいいっていうかまさしくそうだろ。
    「その時はあたしもさがみんも、わりと目立つグループでさ……。なんか結構そのことに自信持ってたみたいなんだよね」
    相模と由比ケ浜。二人がクラスの中心的グループに属していたというのは想像に難くない。
    由比ケ浜はその容姿もさることながら、人とうまくやる、合わせるのが得意だ。だから、どんなノリにもある程度ついていける。
    一方の相模も、同類と仲良くなる能力には目を見張るものがある。それが彼女の人生でプラスになるのかは分からないが、高カーストを狙うことは可能なはずだ。
    そしてそれは、二年になって変わった。
    最大の違いは、三浦優美子だろう。
    二年F組になった時から、クラスの女王は彼女に決まっていた。
    後は彼女の大臣役の選出だ。
    そして、彼女のその選考基準は「かわいさ」だった。
    女子間の人間関係など一切無視して、自分の都合だけで女子のカーストを一人で決めてのけた。
    良くも悪くも、どこまでも女王様だ。
    その女王と相模の相性はお世辞にもいいとは言えない。
    女王に選ばれなかった彼女は、カーストニ軍グループのトップとなった。
    それは、カーストに重きを置く彼女にとって耐えがたいことだったはずだ。
    それでも、それだけなら、二軍になっただけならまだ耐えられたのかもしれない。
    しかし、自分と同列だった由比ケ浜は一軍になった。
    それが、彼女が由比ケ浜を嫌う理由だろう。
    「だから、かな。なんかさがみんのこと嫌で、だから、そのお願いをゆきのんが聞くのも嫌で……」
    言った後で、由比ケ浜は納得したようにうなずいた。
    「あたし、思ってたよりもずっとゆきのんのこと好きなんだ……」
    「お前、何言ってんだ……」
    ゆるゆりはともかくガチゆりは、いや、それはそれで見たい気もする。
    「そ、そういう意味じゃなくってっ!」
    少し顔をうつむかせてから、彼女は言った。
    「女の子って面倒臭いからさ、いろいろあるんだよ」
    「おいおい、めんどくさいのは男子だって同じだぜ?まぁ俺には友達いないから関係ないけど」
    「出た、じめじめポジティブ」
    また少しだけ彼女は笑って、
    「ゆきのんが困ってたら、助けてあげること!」
    「お前、前もそんなこと言ってたよな」
    「うん、改めて、お願い」
    「……できる範囲で、な」
    「そっか、なら、安心だ」
    そう言って満面の笑みを浮かべる。
    言葉を尽くさない方が効果があることもあるらしい。
    彼女のそんな表情を見た後では、打算も何も見出すことができない。
    それは、ずるいだろ……。
    「じゃ、あたし教室戻るから。文実、頑張ってね!」
    駆けだす由比ケ浜に手を挙げてこたえて、俺はまた歩き始めた。
  17. 17 : : 2014/04/05(土) 21:15:25
    雪ノ下雪乃が文化祭副委員長に就任するとの伝達があったのは、相模が奉仕部を訪れてから数日後のことだった。
    定例ミーティングの席で、彼女は自慢げに発表した。お前の手柄でもなんでもないというのに……。
    火野先生、城廻が一目置いていた存在として、文実メンバーはおおむね肯定的だった。
    特に火野先生は、『アンクーっ!』と叫び、平塚にたしなめられていた。
    見ていて飽きない人だ。
    そう、まさに満を持しての登場といっていい。
    俺の担当部署からは一人人員が減ってしまうことになるが、そもそも大した仕事量ではないので、問題はないだろう。
    就任するや、彼女は早速仕事に取り掛かった。
    スケジュールを切り直し、各部署の進捗状況を日報で提出させるようにした。
    業務は滞りなく進んでいった。

    そうした中で、何度目かの定例ミーティングを迎えた。
    集まったメンバーを見渡して、相模が号令をかける。
    「それでは、定例ミーティングを始めます」
    まずは各部署からの報告からだ。
    「宣伝部長、お願いします」
    「提示予定の七割を消化し、ポスター制作も半分ほど終わっています」
    「そうですか、いい感じですね」
    相模が満足げにうなずく。しかし、それに異を唱える者がいた。言わずもがな、雪ノ下雪乃だ。
    「いいえ。少し遅い」
    予期せぬ声に、室内がざわめく。
    「文化祭まであと三週間。来客がスケジュール調整する時間を考慮するなら、この時点で終わっていないといけない。提示か所への交渉、ホームページのアップは既に済んでいますか?」
    「まだです……」
    「急いでください。社会人はともかく、受験予定の中学生や保護者はホームページを頻繁に確認しますから」
    「は、はい。わかりました」
    その場に沈黙が訪れる。みなぽかんとして雪ノ下を見つめている。
    「すごいよ!流石は雪ノ下さんだ!」
    「大したことではありません。相模さん、続けて」
    火野先生の賞賛の声を軽く受け流す。
    しかし、その大したことでもないことすらできなかった彼女はどのように感じるだろうか。
    雪ノ下は強者ゆえにそれがわからない。いや、わかったとしてもそれを考慮しない。それが、雪ノ下雪乃を彼女たらしめている要素であるのかもしれないが。
    「じゃぁ、有志統制お願いします」
    「はい。参加団体は現在十団体」
    「わぁ、増えたね!地域賞のおかげかな」
    ちなみにその地域賞も雪ノ下の提案である。
    「それは校内のみですか?地域の方々への打診はしましたか?去年までの実績を洗い出して連絡を取ってみてください。地域とのつながり、とうたっている以上参加団体の減少は避けたい。それから、ステージの割り振りはすんでいますか?タイムテーブルを一覧にして提出してください」
    先へ移ろうとするや否や手厳しい追撃が来る。なぁなぁで進めることを決して彼女は許さない。
    終始そんな感じでミーティングは進んでいく。
    「次、記録雑務」
    気づけば、議事進行も雪ノ下が行っている。
    「とくにないです」
    記録担当はごく簡潔に述べた。
    実際俺達の仕事は当日の記録が最大の仕事で、この時点での仕事はほとんどない。
    それは相模も理解するところであり、軽くうなずくと周囲を見渡して会議を終えようとする。
    「じゃぁ、今日はこんなところで……」
    「記録は、当日のタイムスケジュールと機材申請、だしておくように。有志団体も撮影するつもりなら、バッティングする可能性も考慮して機材受け渡しまで話して置いてください」
    相手が三年生であろうと雪ノ下の態度は一切変わらない。
    そのせいで雰囲気は微妙だ。
    「それから……、来賓対応は生徒会でいいですか?」
    「うん、大丈夫だよ」
    城廻は気を抜いておらず、即座に答える。
    「では、そちらはお願いします」
    「うん、わかったよ」
    城廻は快くうなずく。
    それからポツリと感想を漏らした。
    「いやぁ、雪ノ下さんすごいねぇ。流石はるさんの妹だ」
    彼女は気づいているだろうか、そう言われた時の雪ノ下の表情がどうしようもなく苦り切っていることに。
    そして、懸念すべき点もある。
    確かに雪ノ下の手腕はすごい。
    大したもんだ。だが、このやり方は、どこか危うさを孕んでいる。
    「では委員長」
    最後に雪ノ下が相模に声をかける。「あ、うん……。じゃぁ、明日からもお願いします」
    みな背筋を伸ばし、そして次々に雪ノ下の辣腕をほめたたえた。
    あまりに鮮烈だったからか、どちらが委員長かわからないという者さえいた。事実、その通りではあるのだが。
    流石は雪ノ下。生徒会メンバーの中には、次の生徒会長は彼女だという者もいた。
    その中で一番いたたまれなかったのは間違いなく相模南だったはずだ。
    条件は寸分たがわず同じだった。
    同じ二年生で、突然議事進行をやる。
    一方は後れをとり、もう一方はその遅れさえ十分すぎるほどに取り戻した。
  18. 18 : : 2014/04/05(土) 22:20:02
    雪ノ下一人が辣腕をふるうのであれば何の問題もなかった。
    しかし、相模と雪ノ下。比較対象が存在することで、両者の差は浮き彫りになる。
    雪ノ下を褒めるということは、そのまま相模を蔑むことになる。
    と、あらかた人が出て行ったそんな時だ。
    近くにあった鏡から、突如としてサメ型のモンスターが雪ノ下を強襲した。
    「っ!!」
    雪ノ下はとっさに横に転がりその攻撃をかわす。
    今ここに残っているのは、俺と雪ノ下、相模に火野先生、平塚と城廻だ。
    その光景を見た相模は、そそくさと教室を出ていった。騒いだり慌てふためいた様子はない。
    平塚は静かに笑い、火野先生も驚いているが、普通の反応がするような反応ではない。
    「見たことないヤミーだな……」
    まるで、モンスターに似たものを見たことがあるかのような口ぶりだ。
    そう言って、三つの穴が開いたベルトを取り出した。
    「変身!」
    雪ノ下は、周りにライダーバトルに関係がないものがいるのも気にせずに変身した。
    「おいおい雪ノ下、それをここでやるかよ……」
    平塚がため息をつく。
    火野先生は三つのメダルを取り出してベルトに入れた。そして、右手にばれんのような円型の物を持つ。
    と、そこでその動きを止めた。
    「いや、この世界には、この世界のライダーがいる、俺の出る幕じゃないか……」
    ぼそりとつぶやいて、彼はそのままベルトを外した。
    そして次の瞬間、驚くべき事態が起きた。
    「ミラーワールドは、私が閉じる……変身っ!」
    そう言って、城廻めぐりが鏡に向かって立ち、ベルトを装着したのだ。
    しかしそのベルト、俺達の物とは若干作りが違う。
    俺達がカードデッキを入れるはずの四角の部分は、円型になっていて、象徴となるエンブレムが刻まれていないのだ。
    だが、次の瞬間彼女の姿がライダーになったことから、彼女も仮面ライダーであるということを否応なく知らされる。
    そしてそのままミラーワールドへ向かう。
    俺もこうしてはいられない。
    先ほどのモンスターは明らかに雪ノ下を狙っていた。
    誰か新たなライダーの契約モンスターである可能性が高い。
    「変身!」
    「比企谷君」
    変身しようとカードデッキを前に突き出したその時、火野先生に声をかけられた。
    「なんですか?」
    「がんばってね。彼女を、守ってあげて」
    「火野先生、先生は、何か知っているんですか?」
    「そう、だね……。俺も仮面ライダーだ。ただ、また別の世界のライダーだ。ライダーバトルには関係ない。まぁいつか、話す日は来ると思う。とにかく、気をつけて」
    「心配してくれてありがとうございます。それじゃ俺、行きます」
    「うん」
    「変身!」
    現実世界を後にする際、平塚の方を見たが、にやにやと笑っているだけだった。

  19. 19 : : 2014/04/05(土) 22:20:08
    ミラーワールドについて周囲を見渡すと、雪ノ下を襲ったサメのモンスターと戦っているのは城廻の変身したライダーで、雪ノ下の姿は見えない。
    「あいつ、どこにいる……?」
    と、しばらく進んでいくと、見慣れた藍色のマントが目に入る。
    と、その先。雪ノ下の前方には、初めてみる水色のライダーがいた。そのフェイス部分はサメの面影を残しており、彼(彼女?)が雪ノ下を襲わせた犯人なのだと判断する。
    「あなたね、私を襲わせたのは」
    「あんたもライダーだったのか……邪魔なんだよ、あんたっ!」
    「Sword Vent」
    「Nasty Vent」
    勢いよく襲いかかったそのライダーに対し、雪ノ下は超音波攻撃で冷静に対処する。
    「くぅっっ」
    「Sword Vent」
    うろたえる敵に対し、雪ノ下は鋭い突き攻撃を放つ。
    たじろいだ敵に、連続攻撃を仕掛ける雪ノ下。
    「Strike Vent」
    攻撃を受けつつ、敵はサメの頭型の武器を右手に装着する。
    その口の部分から勢いよく水が噴出された。
    その勢いと大量の量に雪ノ下は大きく後退する。
    そして水は、ある一定の勢いを越せば刃物をはるかに上回る鋭利さを持つ。
    彼女が受けている痛みは尋常のものではないだろう。
    雪ノ下の援護に入ろうとしたその時、視界の隅に緑色が移った。
    急いで周囲を見渡すと、周りより少し高くなった階段の上に平塚、仮面ライダーゾルダがいた。
    大砲をこちらに向けて照準を合わせている。
    「やらせるかよっ!」
    「Advent」
    ドラグレッダーを呼び出し、彼女に強襲させる。
    大砲を持って防御態勢が取れなかった彼女は攻撃を受け、階段の上から勢いよく落下する。
    急いで彼女のもとへと駆け寄る。
    「Sword Vent」
    「材木座が受けた痛み、あんたにも受けてもらうぞっ!」
    「人を殺した貴様が言うか……。笑わせるなよ、比企谷ぃぃっ!」
    「Guard Vent Strike Vent」
    左手に大型の盾を、右手に牛の角を模した武器を持ち、ゾルダも応戦する。
    「ウオオォォォォォッッ!」
    憎しみをこめて、全力で攻撃する。
    殺す気はない、だが、死の恐怖は味わわせるっ!
    「お前みたいなやつがっ!」
    「私がなんだぁ!?」
    敵の武器が、勢いよく俺の胸をついた。
    「くぉっ、まだだぁっ!」
    「Strike Vent」
    剣を持っていない左手に新たな武器を装着し、そのまま火炎放射攻撃を放つ。
    しかし平塚は、大型の盾で見事にそれを防いでみせる。
    と、その時だ。
    「Advent」
    突如物陰から現れたサイのモンスターが背後から平塚に思い切り突進した。
    直後、右手に剣を携えた三浦が飛び降りてくる。
    「おっらぁ!行くよぉっ!」
    「三浦、お前もぉぉっ!」
    龍のあぎとの部分で突き攻撃を放つ。
    「Steal Vent」
    三浦がそのカードをスキャンすると、俺の手元から龍頭の武器がなくなり、かわりにそれは三浦の左手に装備されていた。
    「はぁっ!」
    俺はとっさのことに対応できず、自らの武器による攻撃を思い切り受けてしまった。
    攻撃を受けて転がりながら立ち上がる際に周囲を確認すると、雪ノ下と新たなライダー、それから城廻とモンスターとの距離がずいぶんと近くなっていた。
    俺の体を緊張が走る。
    と、それは唐突に起きた。
    俺達のほぼ中心に位置する場所から、まばゆい場からの金色の光が放たれた。
    俺が思わず閉じてしまった目を開けると、そこには全身金色の、神々しく荘厳ないで立ちの一人のライダーがいた。
    「わたしは、14人目のライダー、仮面ライダーオーディン」
  20. 20 : : 2014/04/05(土) 22:38:05
    「なに、あんた?調子に乗ってんの?死ねっ!」
    三浦が剣を携えて勢いよく襲いかかる。
    「無駄よ」
    三浦の攻撃が到達しようとしたまさにその瞬間、オーディンの体がその場から消え、かわりに金色の羽がその場に舞った。
    直後、三浦の背後にオーディンが現れ、その背に蹴りを放つ。
    それほど勢いがあったようには見えないが、彼女の体はとてつもない勢いで飛ばされていった。
    「ハァッ!」
    雪ノ下も手に槍を持って突き攻撃を放つ。
    オーディンはそれを、素手でたやすく受け止める。そしてその状態のまま言葉を紡いだ。
    「最後に生き残ったライダーは私と戦う。今はまだその時ではない。このまま、戦い続けろ」
    そう言い残すと、来た時と同じように金色の光を放ってオーディンは消えていった。
    「なんだったんだ……」
    俺がつぶやくと同時、その場にいる全員の体から砂粒のようなものが流れ出す。
    「ここまでか」
    平塚をはじめとして、俺達はもとの世界へと向かう。

    それにしてもまた厄介事が増えた。
    雪ノ下を襲った新たなライダー、城廻めぐりが変身した俺達とはまた少し違ったタイプのライダー。そして、14人目を名乗る仮面ライダーオーディン。
    「はぁ……」
    俺がため息をつくと、雪ノ下は何事もなかったかのように部屋を後にしようとしていた。
    器量が違うのかね……。
    俺もそんな彼女を追うようにして部屋を出た。
    と、そんな俺達を待ちかまえていた人物がいた。
    由比ケ浜結衣である。
    「由比ケ浜さん……」
    「ゆきのん、今日契約モンスターに襲われたんだって?」
    「ええ、まぁね。でも、ライダーバトルの中でなら当然起こりうる事態よ」
    「……」
    由比ケ浜はしばらく沈黙する。
    「どうしたの?私のことなら心配いらないわよ」
    雪ノ下がいつくしむような声をかける。
    「ねぇゆきのん、これ、使って?」
    由比ケ浜が差し出したのは、俺達がこの間雪ノ下陽乃に渡された「Survive」のカードだった。
    彼女が持つのは、蒼の翼のカード、サバイブ『疾風』だ。
    「由比ケ浜さん、これ……」
    「あたし、ゆきのんに戦ってほしくない。だけど、それでもきっとゆきのんは戦うから……。だから、負けないで?」
    雪ノ下は黙ってカードを受け取り、それから力強く由比ケ浜を抱きしめた。
    「ありがとう……」
    「絶対生きてね?約束だよ」
    「ええ、あなたとの、友情に誓って……」
    最後の声が小さくなったのは、実に彼女らしい。
    「だからあなたも、生き抜いて」
    「うん!」
    二人は笑って手をつなぎ、そのまま去って行ってしまった。
    あの、俺は……?
    立ち尽くしていると、唐突に由比ケ浜が振り返った。
    「ヒッキー、何してるの?一緒にかえろーよ!」
    俺は苦笑して、二人のもとに駆け寄った。
    雪ノ下にストーカー呼ばわりされたが、それすら心地よかった。
    こんな日々がいつまでも続いてほしいと、俺は心から願った。
  21. 21 : : 2014/04/06(日) 13:30:28
    「なにかあったの?」
    あの襲撃から数日後、文実の会議室に入ってきた葉山が俺に尋ねた。
    俺は黙ったまま顎を動かす。
    会議室には、ピリピリとした緊張感が走っている。
    避けるようにして隅にいるギャラリーがそこそこいて、中央に立つのは三人。
    雪ノ下雪乃、城廻めぐり、そして、雪ノ下陽乃。
    雪ノ下と陽乃は、三歩ほど離れた位置で対峙している。
    城廻は陽乃の後ろでおろおろとしている。
    「姉さん、何をしに来たの」
    雪ノ下の声音は冷たい。
    「有志団体募集のお知らせを受けたから来たんだよー。管弦楽部のOGとしてね」
    そう答えた陽乃を雪ノ下はきつく睨む。
    しかし睨まれた彼女は、そんなもの歯牙にもかけない。
    すると、いづらそうにしていた城廻が間に割って入る。
    「ごめんね、私が呼んだんだ。たまたま街で会って、有志団体が足りてなかったからどうかなーと思って……」
    余計な事をしたな、生徒会長。……いや、そうでなくても何らかの手段で彼女はここに来たのだろうが。そう思わせるところが、雪ノ下陽乃の恐ろしいところだ。
    「雪ノ下さんは知らないと思うけど、はるさん、三年生の時に有志でバンドやったの。それがすごくってね、で、どうかなーって」
    それが、火野先生が言っていた奴か。
    城廻が「どうかな?」と、雪ノ下を遠慮がちに見る。
    すると陽乃が、恥ずかしそうに話に割って入る。
    「駄目だよめぐり、あれは遊びみたいなものなんだから。けど、今年はもう少しちゃんとやるつもりだから、ちょくちょく学校で練習させてもらってもいいかな?ねぇ、雪乃ちゃん、どう?有志も足りないし、悪い話じゃないと思うんだけど?」
    そういう彼女の口調はどこか挑発的だ。
    それからダメ押しとばかりに、雪ノ下の肩を抱く。
    「かわいい妹の為に、してあげられることはしてあげたいんだよ~」
    「ふざけないで。だいたい姉さんが……」
    「私が、何かな?」
    雪ノ下の冷たい視線を一切そらさず、逆に陽乃は一歩距離を詰める。
    怖い。ただ純粋に、そう感じている自分に気付いた。
    「ッッ、また、あなたはそうやって……」
    雪ノ下は悔しそうに唇をかむ。そらした視線が俺とぶつかった。
    そんな雪ノ下の視線で気付いたのか、それとも最初から気づいていたのかは定かではないが、
    「あれ、比企谷君だ、ひゃっはろ~!」
    俺の方に陽乃が歩み寄ってくる。
    ここで逃げてはいけないと思い、背筋を伸ばして対峙しようと身構える。
    右手でポケットの中のカードデッキを握る。
    と、その時だ。俺の後ろにいた葉山がすっと前に出た。
    「陽乃さん……」
    「あ、隼人~!」
    「どうしたのかな?」
    「有志で管弦楽でもやろうかと思ってさ~。OB、OG集めたら面白そうじゃな~い?」
    「また、そうやって思いつきで……振りまわされる方の身にもなったら」
    「ん、な~に?」
    彼女のその言葉で、彼の言葉は遮られる。
    軽く舌打ちし、葉山は視線をそらす。
    俺が葉山と陽乃を交互に見ていると、それに気付いた陽乃がにやりと笑った。
    「あー、隼人は弟みたいなものなのよ。比企谷君もため口でいいよ~?あ、八幡って呼んだ方がいいかなぁ?はちま~ん」
    「黙れ。くだらないことを言うな。いい加減にしろよ、次はこの場も乱しに来たのか?」
    「うわ~ん、比企谷君が冷たいよ~。雪乃ちゃ~ん」
    俺が陽乃にそのような態度をとったのが意外だったのか、雪ノ下と葉山は驚くような目で俺達を見ている。
    陽乃はひとしきりからかった後で、新手めて雪ノ下と対峙する。
    「ね、雪乃ちゃん、いいでしょ~?」
    「好きにしたら?私に決定権はないわ」
    「あれ?そうなの?てっきり委員長やってるうかと思ったよ~。だって私がやったことだからね」
    その言葉には、隠すつもりもさらさらない悪意が多分に含まれていた。
  22. 22 : : 2014/04/06(日) 13:30:36
    「どういう、意味かしら?」
    怒りをその体に必死に抑えて雪ノ下は努めて冷静に言った。
    「そのままの意味だよ~。雪乃ちゃんってば、いっつも私のまねばっかりしてさ~。ずっとお下がりで、ずっと負けっぱなしで」
    その時、俺の中で何かが切れた。
    「黙れぇぇッ!」
    鏡から出現したドラグレッダーが陽乃を襲う。
    しかしそんな状況でも彼女は一切動じない。
    龍が彼女を飲み込もうとしたその時、ドラグレッダーの体を黒くしたような、どこまでも不気味な暗黒龍が鏡から現れ、陽乃を守る。
    「「ググガァァァアアッ!」」
    ニ頭の龍が激しく咆哮する。
    「駄目だよ比企谷く~ん、女性をいきなり襲うなんて~。お姉さん怖かったぞ?」
    彼女はへらへらと俺に笑いかける。
    その後ろの鏡の中では、例のライダーリュウガがたたずんでいる。
    「姉さん、あなたも……」
    「もぉ、こんなとこじゃぁ騒ぎになっちゃうでしょ?そんなにしたいんなら後でたっぷりやってあげるから、ね?」
    艶やかな声で彼女は言うが、状況を知る者にとっては死刑宣告にしか聞こえない。
    「陽乃さん、やっぱりあんた……」
    葉山が小さくつぶやく。
    そんな中、ニ頭の龍は鏡の中へと帰っていく。
    「あれれー?ところで、雪乃ちゃんがやってないなら誰が委員長なのかな~?もしかして比企谷君?」
    彼女の言葉にはとりあわない。それがくだらないものであるならばなおさらだ。
    極度の緊張が張り詰める中、唐突に教室のドアが開いた。
    「ごっめんなさ~い、クラスの方に顔出してたら遅れちゃいました~」
    どこも悪びれているふうがなく言うのは相模南。
    「春さん、この子が委員長ですよ」
    城廻に言われ、陽乃が相模に視線を向ける。
    価値を推し量るような、底冷えのする目。
    「……あ、相模南です」
    陽乃の眼光に圧倒されて、彼女の声はしぼんでいく。
    「ふぅん……」
    一息ついて彼女は相模に歩み寄る。
    「文化祭実行委員長が遅刻?それもクラスに顔を出してて?へぇ……」
    身体の芯から捻り出されるような低く威圧的な声が相模に襲いかかる。
    雪ノ下陽乃の恐ろしいところだ。普段は明るくふるまうくせに、突如として凍てつくような表情を浮かべる。
    恋愛はギャップだというのはすっかり当たり前のように定着しているが、恐怖というのもまた同じなのだろう。
    従順である限りは友好的に接するが、刃向かおうものなら容赦なくたたきつぶす。
    「あ、その……」
    相模は必死にいいわけを探そうとする。
    「いいねー。委員長はそうでなきゃねー。文化祭を最大限に楽しめる素質顔そ大切だよね~」
    「あ、ありがとうございます……」
    おそらく相模はこの数十秒で雪ノ下陽乃との格の違いを思い知らされたはずだ。そして彼女のようなものにできるのは、ただひたすらに相手を肯定するだけ。
    「で、委員長ちゃんに相談なんだけど、私有志団体として出たいんだよね。雪乃ちゃんに相談したんだけど、私嫌われてるからさー……。どうかな?」
    気持ち悪い。そのクスンとしたしおらしい態度は、あざとくも可愛い。誰もがそう感じるような仕草だ。だからこそ、それに気付いた時、どうしようもなく気持ちわる感じるのだ。
  23. 23 : : 2014/04/06(日) 14:13:04
    「いいですよ。有志団体足りてないし、OGの人が出てくれれば、地域とのつながりもアピールできるし」
    それは誰が言った言葉だったかな。
    「ありがとー!委員長ちゃん話せるー!」
    わざとらしく陽乃が相模に抱きつく。
    「うんうん、卒業しても戻れる母校って素敵だなー。友達にも教えてあげよーっと」
    葉山と雪ノ下が諦めたような溜息をつく。
    陽乃の友人というだけで恐ろしく感じてしまうのは俺だけだっただろうか。
    「あ、じゃぁそのお友達の方とかも誘ったらどうですか?」
    「お、いいねいいねー!さっそく連絡してもいい?」
    「どうぞどうぞ」
    「ちょっと、相模さん」
    相模の暴走を雪ノ下が止めようとする。しかし彼女はあっけらかんと言ってのけた。
    「いいじゃん。有志団体足りてないんだし。これで地域とのつながりもクリアでしょ?」
    手柄顔の相模だが、気づいているだろうか。ここまで、彼女自身が成し遂げた功績などただの一つもないということ。
    「それにぃ~、お姉さんと何があったかは知らないけどぉ、それとこれとは別でしょ~?」
    彼女がそう言った時、葉山の表情が苦り切った。
    「っ……」
    このしまいのやり取りを見ていれば仲が悪いのは誰の目にも一目瞭然だ。これまで雪ノ下に負い目を感じていた相模にとって、これを利用しない手はない。
    「やはり、こうなるか……。どこまで人を不幸にすれば……」
    葉山はそっと目を伏せて、どこかへ行ってしまった。
    陽乃はその場にとどまり、城廻や相模達と話し続けていた。
    雪ノ下雪乃は、決してそちらを向こうとはしなかった。
    俺も不快さを紛らわすため、自分の仕事に取り組むことにした。俺が自ら仕事をしようとするなんて、この世も末だな。
    するとそんな俺のもとに彼女はやってきた。
    「ちゃんと働いてるかい、小年よ」
    「……何のようだ」
    俺の言葉には答えず、陽乃は続ける。
    「お姉さん意外だな~。比企谷君はこういうことしない子だと思ってたよ~」
    「あんたは人を不快にする天才だな。あんたに知ったような口をきかれると本当に殺したくなってくるよ」
    「そうしようとした君が言うと笑えないな~」
    「もうどこか行ってくれないか?本当に我慢ならないんだ、あんたみたいな人間の顔を拝み続けるってのは」
    「ひどいよ~。お姉さんはこんなに比企谷君のこと好きだっていうのに~」
    言って、彼女は俺の手を胸に当ててくる。
    即座に振り払おうとするが、思ったよりはるかに彼女の力は強い。
    お前はエレンに迫るミカサかなんかかよ。
    「なんのつもりだ」
    俺はこの短期間で同じ質問をした。
    「またまた~、本当はうれしいくせに~」
    「……あまり人をなめるな」
    「舐めるな?あはは、チューしちゃおっかな~」
    イライラが極限に近づき彼女を睨むと、そこにはどこまでも冷酷な彼女の瞳があった。しかし、決してそらすことはしない。
    こんな人間に、屈してなるものか。
    そう自分を鼓舞するものの、先ほどから膝はずっと笑っている。
    と、その時だ。
    「みなさ~ん、ちょっといいですか~?」
    相模が立ち上がり、室内を見渡していた。
    「少し考えたんですけどぉ、文実は、自分達が文化祭楽しんでこそかなって思って」
    また、誰かさんの受け売りか。
    「文化祭を最大限楽しむためには、クラスの方も大事だと思います。予定も順調ですし、少し仕事のペースを落としませんか?」
    相模の提案に、皆肯定的な声を挙げる。
    しかしその案に、雪ノ下雪乃だけが異を唱える。
    「相模さん、それは考え違いというものよ。バッファを持たせるために……」
    バッファ!ゴー!バッファ!ババババッファ!
    っといけない、ふざけている場合じゃないな。
  24. 24 : : 2014/04/06(日) 14:13:10
    そしてそんな雪ノ下の声を、無遠慮なまでに明るい声が遮った。
    「いやー、いいこと言うねー。私の時も、クラスの方みんな頑張ってたな~」
    雪ノ下はそう言った彼女に咎めるような視線を送る。
    それがさらに相模を調子づかせた。
    「ほら、前例もあるしぃ。それにその時、すっごく盛り上がったんでしょ?」
    それはその通りだ。
    だがその時と今では、状況がまるで違う。
    その時は委員長が雪ノ下陽乃だった。
    彼女はみなに自由を与えながらも、そう思わせながらしっかりと仕事をさせたはずだ。
    あるいは、雪ノ下雪乃が委員長を務めていたならばそれも可能だったかもしれない。
    だが今回は、無能の女王ともいえる相模南が委員長だ。
    この差はどうやったって覆せない。
    雪ノ下雪乃のサポートのおかげで、何とか問題が表面化していないだけなのだ。
    とどのつまり、その提案は無謀以外の何物でもない。
    その無謀を名案だと信じて疑わない彼女はさらに続ける。
    「やっぱいいところは受け継いでいくべきだと思うしぃ。先人の知恵に学ぶっていうの?私情を交えないでみんなのことを考えようよ」
    文実のメンバーは誰からともなく拍手の手を打ち始めた。
    皆がそれに従うのであれば、雪ノ下雪乃にできることはない。
    「本当にいいこと言うね~。ね?比企谷君?」
    俺の横に座っていた陽乃が耳元でそう言った。
    おそらくこの案は、先ほど相模と話していたときに彼女が授けたものだ。
    だが、……認めるのはしゃくだが、聡明な彼女が、この案の死えでどのような事態が起きるか理解していないはずはない。
    妹が取り仕切る文化祭をぶち壊し、さらに追い詰めるつもりなのだ。
    「これが、あんたの狙いかよ、雪ノ下、陽乃……」
    「あっ、名前で呼んでくれた~。嬉しいな!それじゃぁね!比企谷君」
    好きなだけ災いの種をまき散らして言った彼女は、意気揚々とした足取りで去って行った。
  25. 25 : : 2014/04/06(日) 14:37:47
    陽乃が巻いた災いの種は早速その芽を出した。
    彼女が現れて数日のうちに委員会を休む者がちらほらとで始めた。
    相模の話が全体に伝わった結果がこれだ。
    仕事量に、明らかな偏りが出始めていた。
    そして、特に面倒な問題を片づけるのは執行部だ。そして、そのメインウェポンが雪ノ下だ。
    雪ノ下の力は群を抜いていたが、それでも作業の量があまりにも多すぎる。
    俺も記録雑務という名目のもと、雑務の仕事が増えてきている。
    おかしいよ?僕、楽できると思ってこの仕事にしたのに……。
    「君、雑務係だよね?これもお願いしていい?」
    見知らぬ上級生から声をかけられた。
    「ハァ、でもこれ俺の仕事じゃ……」
    「文化祭はみんなでやるものだから!」
    そう言って彼はさっさと去って行こうとする。
    俺は無意識にその肩を掴んでいた。
    「……待てよ」
    「なに?仕事はみんなで」
    「みんな?みんなって誰だよ。お前は俺の仕事を手伝ってくれんのか?」
    雪ノ下陽乃によってこの状況が作り出されていたということが、俺から冷静な判断力を奪っていた。
    (殺してやる……)
    俺の頭の中に、不吉な言葉がよぎる。
    「そんな屁理屈言わずに黙ってやればいいんだよ、お前後輩だろ?」
    「ドラグレッダー!」
    鏡の中からドラグレッダーが現れてその先輩に向かって思い切り咆哮を挙げる。
    「比企谷君!」
    雪ノ下のその叫びに、俺は正常な意識を取り戻した。
    「……仕事、ちゃんとやれ」
    俺が睨むと、先輩は黙って首を縦に振り、逃げるようにして走り去って行った。
    「比企谷君……」
    「すまない、雪ノ下。どうか、してた……」
    「なにあれ?」
    「自分が仕事したくないだけなんじゃない?」
    周囲でささやかされたとその声に、思わず俺は答えた。
    「俺が楽できないのはこの際仕方ない。でも、俺以外の誰かが楽してるのだけは許せない!」
    俺は脅しの意味も込めて少し大きな声で言った。
    「その結果が、これ?モンスターで脅して、無理矢理意見を通して……。君、最低だね?」
    ツカツカと歩み寄ってきた城廻が蔑むような目でそう言った。
    「……最低、か。よくもまぁそんなこと言えるよな、あんた」
    「どういう、ことかな?」
    「この委員会での指揮系統に置いて、あんた、生徒会長は委員長に次ぐ権限を持っている。それでいて、委員長の命令を絶対に守るべき立場でもない。つまり、あんたは委員長と同レベルの権限を持ち、責任があるってことだ。この状況を作り出した原因は、あんたにあると言える。そしてその尻ぬぐいを、俺達下っ端がしてる。そんな俺に向かって最低とは、よく言えたもんだ。俺なら恥ずかしくてとてもできないね。……命令や偉そうなこと言う前に、まともに仕事したらどうだ?」
    「……その通りかもしれない。だけど、それでも……、あなたのやったことは許せない!変身!」
    「殺す気はない、だけど、責任の重みくらいは、感じてもらうっ!変身っ!」
  26. 26 : : 2014/04/06(日) 14:55:52
    「こんなこと、絶対間違ってる。だから、ミラーワールドなんて閉じる!」
    「その考えには賛成だがな……、今はあんたを思いっきりぶん殴ってやりたい気分だ」
    「「Sword Vent」」
    城廻の召喚機が発した音声は、今までに聞いたものとはいくらか違うものだった。
    彼女が出現させたのは、ギザギザに刀身がとがった剣。
    俺のドラグセイバーよりもはるかに大きく、少しつばぜった後、だんだんと押されていく。
    このままでは押し切られると判断した俺は、とっさに後ろに下がる。
    しかし彼女の追撃が俺の顔をかすめる。
    強い……。
    「Strike Vent」
    さらに距離をとり、龍頭の武器、ドラグクローを呼び出す。
    城廻がこちらに走ってくる。
    今俺は、逃げてきたままの姿勢なので、彼女に対して背中をさらしている状態だ。
    もう少し、もう少し、もう少しっ!
    極限まで引きつけて、振り向きざまに炎攻撃を放つ。
    「ドラグクローファイヤーッ!!」
    「ガァアァァァッ!」
    腹に思い切り衝撃と炎攻撃を受けて、彼女の体がゴムボールのように吹き飛ぶ。
    剣を落とし、あおむけに倒れている。
    俺は黙って、ミラーワールドを去ろうとした、その時だ。
    「Accel Vent」
    それは、本当に一瞬の出来事。
    一秒にも満たないはずだ。
    そのわずかな時間の中で、彼女は武器を拾い、そして、俺の腹部にそれを突き刺した。
    「かはっ、はっ、ぁぁっ……」
    「油断したみたいだね。これで、終わりだよ」
    まだ、まだ俺は死ねない。
    ほとんど無意識のうちに、俺は一枚のカードを取り出した。
    召喚機にそのカードを近づけるとドラグバイザー(召喚機)の形が変わり、新たな武器となる。
    そして、俺の周囲を灼熱の炎が包んだ。
    俺は静かに、新たな召喚機「ドラグバイザーツヴァイ」にそのカードを入れる。
    そしてそれは、今までよりも少し高い機械音で告げた。
    「Survive」
  27. 27 : : 2014/04/06(日) 18:20:56
    最終的に八幡には幸せになってほしいよなぁ
  28. 28 : : 2014/04/10(木) 21:48:40
    草加雅人「続きはまだかなぁ」
  29. 29 : : 2014/04/12(土) 21:27:54
    テスト期間中でしばらく更新できませんでした……。
    お待たせしてしまって申し訳ありません!
  30. 30 : : 2014/04/12(土) 22:03:05
    俺の全身を包んだ炎がはじける。
    その瞬間に、体中に、言葉では表現できないほどのエネルギーがほとばしる。
    変化は体にも及び、全体的に金色の装飾が施され、頭部からは触覚のようなものも生えている。
    そしてもとあった赤は少し黒みがかった深紅の色となった。
    「これが、サバイブ……」
    「……?どんなトリックか知らないけど!」
    城廻が剣での攻撃を仕掛けてくる。
    「はぁっ!」
    相手の攻撃が到達する前に、召喚機で手首を殴りつけ、攻撃を止める。
    彼女の剣が空中に舞う。
    「今度はこっちの番だ」
    「Sword Vent」
    カードをスキャンすると、ドラグツヴァイから鋭い刀身が伸びた。
    「たぁっ!」
    がら空きになった敵の懐を切りつける。
    それほど力を入れたつもりはないのだが、城廻は勢いよく吹き飛ばされた。
    「これは、なんて力だ……」
    「Shoot Vent」
    ドラグツヴァイの刀身が収納され、かわりに口の部分が開く。
    そしてドラグレッダーが現れ、俺の後ろで攻撃態勢をとる。
    と、その途中、ドラグレッダーがまるで脱皮するかのように装甲(?)をパージし、俺同様金色の混じった新たな姿になった。
    驚いてアドベントカードを確かめると、その名は「ドラグランザー」というらしかった。
    「……いくぞ」
    ドラグランザートドラグツヴァイ、二つの口から同時に灼熱の炎が発射される。
    「ウワァァアァァッッ!」
    城廻は攻撃を受けて倒れた。
    何とか立ち上がろうとしているが、それすらままならない。
    (殺せ!殺せ!殺せ!)
    頭の中で再び声がこだまする。
    そうだな。こいつは自分の役目も果たさず人を責めてばかりだ。
    それに、雪ノ下陽乃の仲間だ……。
    「Final Vent」
    ドラグランざーが再び炎を吐き、空中に舞い上がる。
    俺もジャンプしてそれに飛び乗る。
    「終わりだぁぁっ!」
    ドラグランザーの腹部から車輪のようなものが出て、バイク型に変形する。
    ドラグランザーは炎を吐き続ける。このまま引き倒す!
    「うおぉぉぉぉっ!」
    もう少しでとどめの一撃が炸裂するという、その時だ。
    「キィィィイイイィィッッ!」
    鼓膜を突き破るような、耳障りな超音波。
    これは……。
    ダークウイングに背中を預け、飛翔している仮面ライダーナイト、雪ノ下雪乃が俺と城廻の間に立ちふさがった。
    「雪ノ下……?」
    俺はあわてて攻撃を中断する。
    「戦いを邪魔してごめんなさい。……でも、文実の現状に腹を立てて彼女を倒そうとしているというのなら、それは倒すべき相手が違う。糾弾されるべきは、私よ」
    「違う!お前のせいじゃない!雪ノ下、陽乃の」
    「それも、私の責任だわ。私にもっと力があれば、姉さんの妨害を阻止することができた。それに、彼女が文実、文化祭を壊そうとするのは、私がいるからだもの。……だから、あなたが戦うべき相手は、私だわ。あなたがやるというのなら、私は誠心誠意、全力を持ってあなたと戦う」
    「そんなこと……、できるわけないだろうが」
    俺は逃げるようにして、ミラーワールドを去った。

    「比企谷君」
    どうしようもなくいたたまれなくなって、そのまま帰ろうとしたところを、雪ノ下に声をかけられた。
    「なんだ?」
    「……本当に、ごめんなさい。私の、せいで。……ごめんなさい」
    何をやってるんだ、俺は。目の前の大切な彼女は、凛として立っている。儚げな様子で、今にも崩れてしまいそうな様子で。
    その目は、とても見続けられるようなものではなかった。
    俺はこいつに、こんな顔をさせてたのか。
    なんて、事を……。
    自分のふがいなさに、次から次に嫌悪感がわいてくる。
    「俺の方こそ、ごめん。本当、最近の俺はどうかしてる」
    そう言って、逃げるようにして俺は教室を出た。

    「比企谷君!」
    玄関で靴をとった時、後ろから声をかけられた。
    火野映司、異なるセカイの、仮面ライダーだった。
  31. 31 : : 2014/04/12(土) 22:31:54
    「火野、先生……」
    「ごめん、君の戦う様子、見せてもらったよ」
    「見えるんですか、ミラーワールドが」
    「うん、どんな理屈かは分からないけど」
    「嫌なとこ、見せちゃいましたね……」
    「……多分、君のせいじゃないよ」
    「え?」
    「君が少し変わってしまったと思ってるなら、それはあの、サバイブのカードのせいだと思う」
    「あの、カードが……」
    「うん。あまりに大きな力は、使用者を飲み込んでしまう。っていうのも、俺も昔同じような経験があってさ。強力すぎる力を手に入れてしまった時、暴走して、大切な人たちに見境なく攻撃するようになってしまった」
    「そうなん、ですか……」
    「でも、そんな俺を元に戻してくれたのも、その仲間だったんだ」
    「……」
    「そこで、さ。比企谷君。……俺と、戦わないか?」
    「え?」
    「思いっきりその力を使って、そして、自分で制御できるようにするんだ。……多分俺なら、その相手ができる」
    「でも……」
    「今のままじゃ、君はそのうち破綻する。そして、大切な人も……。俺は何度も、そんな人たちを見てきた。君には、そうなってほしくない」
    その言葉が、決め手になった。俺は、人を守るために、大切な人を守るために戦うんだ。
    「……お願いします」
    「よし!そうと決まれば早速やろう!俺を敵だと憎い敵だと思って!」
    「そうですね、そうじゃなきゃ意味ないですよね。……変身!」
    「その意気だ、行くよ!変身!」
    言って火野先生は、三枚のメダルをベルトにセットした。
    「タカ!トラ!バッタ!タ・ト・バ!タトバ タ・ト・バ!」
    火野先生の姿が変わると同時、奇妙な歌が流れた。
    「……何ですか、それ?」
    「歌は気にしないで! って、なんかあいつに会った時のこと思い出すな……」
    最後の方は俺には聞き取れなかったが、思い出に浸っているようだった。
    しかしそれも一瞬だったようで、火野先生はすぐに俺に向き直る。
    「じゃぁ、行こうか!」
    俺達は、ミラーワールドへと向かった。
    「ファァーーーーッ!」
    銀色の剣を持ち、火野先生、もといオーズが向かってくる。
    「Sword Vent」
    俺もドラグセイバーで対抗する。
    一合、ニ合、三合と打ち合って、俺達は少し距離をとる。
    「このメダルで!」
    オーズは鷹と虎のメダルを抜いて、かわりに緑色のメダルをベルトに入れた。
    「クワガタ!カマキリ!バッタ!ガ~~タガタガタキリッバッ!ガタキリバッ!」
    今の歌を聴く限り、昆虫の力を使った姿らしい。
    全体の色は黄緑で、目だけが赤く光っている。
    「ハッ!」
    両腕についたカマキリの鎌で攻撃してくる。
    それも剣で受ける。
    また数合打ち合ったのちに、オーズは少し下がった。
    今度はメダルを変えるのではなく、右腰につけていたバレンのようなものでベルトをスキャンした。そういえばあれ、変身する時にも使ってたな……。
    「スキャニングチャージッ!」
    その音が響くと同時、オーズの分身体が7体現れた。
    「「「「「ファーーーッ!!」」」」」
    「ならこっちも!」
    「Trick Vent」
    これは、サバイブのカードを手に入れた時、いつの間にか加わっていたカードだ。
    分身を呼び出し、こちらも合計8。
    条件は同じだ。
    しばらく攻防を続け、それぞれ分身体がすべて消えてしまったところで、オーズは新たなメダルを取り出した。
    「ライオン!トラ!チーター!ラタラタ~ ラトラ~~タ~!」
    ネコ科動物?そんなメダルまであるのか。
    ラトラーターコンボとなったオーズのボディの色は黄色、目は美しい水色だ。
    「ハッ!」
    と、突如、彼の姿が消えた。
    そしてその直後、腹部に何度も衝撃を受けた。
    吹き飛ばされた俺がたちあがると、先ほどまで俺がいた場所にはオーズが立っていた。
    「……今のはチーターの力ですか」
    「そうだよ!このメダルはすっごく使えるんだ!まだまだいくよ!」
    また、衝撃。
    どうする……?
    「Advent」
    ドラグレッダーを呼び出し、俺の周りに炎を吐かせる。
    俺を囲むようにして、灼熱の防御壁が完成する。
    「わぁ、やるなぁ。これじゃ近づけない……。ならっ!」
    「シャチ!ウナギ!タコ!シャ・シャ・シャウタ!シャ・シャ・シャウタ!」
    水棲生物……。これじゃ炎は効かない……。
    シャウタコンボは、全体が水色と藍色、目が黄色に光っている。
    予想通り炎を突破したオーズは、手にしていた鞭を振るった。
    「がぁぁぁああっ!」
    鞭が振れると同時、体にすさまじい電流が走る。
  32. 32 : : 2014/04/12(土) 23:19:13
    ……ウナギの、電気の力か……。
    「Strike Vent」
    「ハァッ!」
    俺が炎を放つと、オーズは頭を振り下ろした。
    すると、そこから水球が発射され、炎が消された。
    この姿は相性悪いな……。
    こうなりゃ、力ずくだ。
    「Final Vent」
    「必殺技か……。なら、」
    「サイ!ゴリラ!ゾウ!……サッゴーッゾッ!……サッゴーッゾッ!」
    太鼓の音が混じった派手な音楽が流れる。
    「スキャニングチャージ!」
    ドラグレッダーの炎を浴びて急降下して行った俺の体が、突如地面に吸いつけられた。
    まるで、重力がいきなり何十倍にもなったかのように。
    「ぁっ!」
    俺はその力にあらがうことができず、技を中断されて地面に衝突された。
    「サゴーゾコンボは、重量計生物の力をつかさどるコンボ。重力だって操れるんだ」
    そんなのありかよ……。
    「まだまだだよ、比企谷君」
    「タカ!イマジン!ショッカー!タ~マ~シ~!タマシータ~マ~シ~!ライダー ダ~マ~シ~!」
    上半身が赤く、下半身は黄色と黒だ。目は緑。
    「魂ボンバーッ!」
    砂が混じった灼熱の炎が放たれた。
    「Guard Vent」
    とっさに盾で防ぐが、炎が触れた瞬間にそれはこなごなに砕け散り、俺の全身を超高熱が襲った。
    火炎龍と契約している俺は、炎攻撃にはかなりの耐性を持っている。盾だって、炎攻撃には特別強いはずだ。
    なのに今の攻撃には、一切対抗できなかった。
    なんて強さ……。
    「こうなったら……」
    オレンジ色の炎が俺の周囲を包む。
    ドラグバイザーが、ドラグツヴァイへと変化する。
    「行きますよ!先生!」
    「Survive」
    変身を終えると同時、先ほどまでのダメージがどこかへ吹き飛んでいった。
    「よし、全力で来い!そしてその力を、完全に君の物にするんだ! 俺も……」
    「コブラ!カメ!ワニ!ブラカ~~ワニッ!」
    全身黄土色で、目は紫色の、仮面ライダーオーズブラカワニコンボ。
    「Sword Vent」
    「ヘビ苦手だけど……。いけっ!」
    俺の剣を、頭部から伸ばしたヘビで受け止める。
    「トァッ!」
    腹部に蹴りを入れるが、あまり効いていないようだ。
    流石はカメの防御力といったところだろうか。
    「これもいいけど、勝負決めれそうにないな……。こっちで行くか!」
    「ス~~パー!スーパータカ!スーパートラ!スーパーバッタ!ス~パー、タトバ タットッバッ!」
    最初に変身したタトバコンボと似ているが、最初は眼が緑だったが、今は真っ赤になっている。そして、体の色もより鮮明になっている。
    「一気に行くか」
    「スキャニングチャージ!」
    バッタの跳躍力を生かし、はるか高くに飛び上がり、そこから急降下キックを放ってくる。
    「Guard Vent」
    ドラグランザーが現れ、俺の体を超高音の炎で包む。
    すごい、とてつもない高温であることはわかるが、俺には一切ダメージがない。
    と、そんなことを思った直後、オーズのキックが炎の壁面(?)に衝突した。
    それぞれの力は拮抗して、中心部で爆発が起きた。
    俺もオーズも勢いよく吹き飛ばされる。
    「この攻撃を防ぐか……。流石だな」
    「プテラ!トリケラ!ティラノ!プ・ト・ティラ~ノザウル~ス!」
    紫色の、少し不気味なフォルムだ。
    と、オーズがその動きを止めた。
    「……火野先生?」
    「これは、この姿はね……。俺がかつて自分を失ったコンボなんだ」
    「……」
    「本当にひどい有様だったよ。誰も殺さずに済んだのが奇跡に思えるくらいにね。……でも今は、きちんと向き合えている。だから君も、きっと」
    「はい、絶対に」
    「よし!いくよ!」
    大型の斧を持って突進してくる。
    「Sword Vent」
    力は完全に拮抗している。
    と、その時オーズが背中の翼をふるった。
    すると、突如そこから目に見えて霊気が噴射され、俺の足元が凍った。
    防御態勢が取れなくなった俺の胸をオーズの斧が深々と抉る。
    「ぅっ……ほんと、強いですね」
    「その言葉、そっくりそのまま返すよ。でも、サバイブの力が使いこなせてない。まだ、力に比企谷君の方が動かされてる」
    「わかって、ますっ!」
    「Advent」
    お返しにと、灼熱攻撃を返す。
    「うぉっ……。やっぱり、強いなぁ。……比企谷君、次が俺の、最後の、最強の姿だ。殺す気でこいっ!……アンク、いくよっ!」
    そう言って取り出したのは、この間見せてくれた、真ん中で割れてしまっていた赤いメダルだ。
    「タカ!クジャク!コンドル! タ~ジャ~ド~ル~!」
  33. 33 : : 2014/04/13(日) 21:02:53
    火野先生良い仕事しますねwwwwwwこれからも出ますか?オーズも好きなのでけっこう期待してます
  34. 34 : : 2014/04/15(火) 22:50:37
    ⇒⇒⇒nyさん
    コメントありがとうございます!
    本編の平塚先生のような感じで八幡達をサポートしてくれる、予定です。
  35. 35 : : 2014/04/15(火) 22:57:28
    深紅の瞳が神秘的で神々しい。真っ赤に染まったその姿は、まるで太陽のようにまばゆく輝いている。
    「これが、オーズの……俺とアンクの、最強の力、仮面ライダーオーズタジャドルロストッ!」
    「タジャドル、ロスト……」
    「ああ、俺の親友がその命を形にしたコンボだ」
    「なるほど……でも俺だって負けられない!」
    「お互い、次の一撃に全てをかけようか」
    「……俺もそう思ってたとこです」
    カードデッキから最強の必殺のカードを取り出す。
    「Final Vent」
    「ハァッ!」
    そう叫び、オーズは自らの体から六枚の紫色のメダルを放出した。
    そしてそれを、右手の円盤型の武器にセットした。
    「ウォォォォォッ!」
    「プテラ、トリケラ、ティラノ!プテラ、トリケラ、ティラノ!……ギガスキャンッ!」
    その声が鳴り終わると同時、オーズは翼を広げて飛び上がる。
    「行くぞ!ドラグランザー!」
    俺も契約モンスタードラグランザーに飛び乗る。
    「ドラグストームファイヤーッッ!」
    炎を吐きながらの突進攻撃。これが俺のサバイブ体でのファイナルベントだ。
    「セイヤァァーーッ!!」
    勢いのある掛け声をオーズが挙げたその瞬間、その背中から何かが分離した。
    全身真っ赤の鳥型の化け物だ。
    俺は直感的に理解した。これが、火野先生の言っていた「アンク」だ。
    アンクはまるで力を分け与えるかのように両手をオーズにかざす。
    炎と炎の全力の一撃が衝突する。
    瞬間、これまで見たことがないほどの大爆発が起きた。
    まさに命をかけた一撃同士がぶつかったというのに、俺の心はむしろ落ち着いていた。
    その時、何かが俺の胸の中にストンと落ちて行った気がした。
    「この、感覚は……」
    「比企谷くん」
    「先生」
    「……もう、大丈夫みたいだね」
    「はい、ありがとうございました」
    「俺はこの世界ではあんまり大したことはできない……。だから、っていうのも変だけど、頑張ってね。大切なものを守るために。この世界の、仮面ライダーとして」
    「はい。……ところで、一体火野先生は……?」
    「俺は、この世界とは別の世界から来た仮面ライダーだ。……この世界には、本来ライダーは存在しないはずだった。それを滅茶苦茶にしたのが、この世界の14号ライダー『オーディン』だ」
    オーディン……金色のあいつか。
    「本来、龍騎の世界のライダーは13人なんだ。……アビスとリュウガが共存する世界はあり得ない」
    「アビスと、リュウガ……」
    「うん、これもオーディンがやったことの弊害だよ。詳しい原理とかは分からないんだけどね、とにかくそのオーディンを倒さないと、大変なことが起きる。この世界にも、他の世界にも」
    「……」
    「ごめん、いきなりこんなこと言っても困るよね。とにかく比企谷くんは、今までどおりでいいんだ。ただ、オーディンにはくれぐれも注意して」
    わかってる、あいつのとんでもなさは、俺だって。そしてその正体は、おそらく……。
    「はい、わかりました」
    「うん、それじゃ、俺はこれで。またね」
    「今日は本当に、ありがとうございました」
    変身を解いて、火野先生はにっこりと笑った。
  36. 36 : : 2014/04/15(火) 23:34:23
    「なんだ、これ……」
    文見の会議室に入った俺は驚愕した。中には二十人もいなかった。
    ひどい連中だとは思っていたがここまでとは……。
    「参ったわね……このままじゃ……」
    俺のもとにやってきた雪ノ下がつぶやいた。
    彼女が言ったことはもっともだが、状況はさらに悪い。このままどころか、これからはもっと人が減るはずだ。さぼっていいと認識されたら加速度的に出席率は下がる。
    俺に脅された先輩は流石に来ていたが。
    何らかの手を打たなければならない。
    だが、どうすればよいのか、それが誰にもわからない。
    なんせ、委員長本人がここにはいないし、副委員長の雪ノ下はさぼってる奴らを補ってなおあまりあるほどに優秀だ。
    だが、それは大きなリスクをはらんでいる。
    エースの雪ノ下がダウンしてしまったら、それが即座に致命傷となる。
    もともと彼女は、人よりも極端に体力がない。
    このままオーバーワークを続けていれば倒れるのは自明の理だ。
    俺もそうさせないよう全力で働いているが……。
    と、憂鬱な気分になっていたその時だ。
    「失礼します」
    良く通る声とともに入ってきたのは、葉山隼人だった。
    「有志の申し込み書類を提出に来たんだけど……」
    「申し込みは右奥へ」
    キーボードを打ちながら、顔を一切上げないままに雪ノ下が告げた。
    「……人、減ってないか?」
    書類の提出を終えた葉山がふとつぶやいた。
    「ああ、まぁな。……誰かさんがステキな委員長を立ててくれたおかげだよ」
    「え、なんのことかな?」
    葉山は皮肉なまでに輝かしい笑顔を向けてくる。
    「……だが、彼女にここまで負担をかけるとは予想外だったな……」
    彼のその言葉はとても小さく、ほとんど俺は聞き取ることができなかった。
  37. 37 : : 2014/04/15(火) 23:34:29
    そして葉山は再び口を開く。
    「欠席者が多く、仕事の大半を雪ノ下さんがやっている。これは……」
    「ええ、その方が効率がいいし」
    顔を上げた雪ノ下が答える。
    「……でもそれも、もうすぐ破綻する」
    その点に関しては俺も全くの同意見だ。
    「そうなる前に、誰かをちゃんと頼った方がいいよ」
    にっこりと、今度は心からの笑みで彼は雪ノ下に微笑む。
    「そうか?俺はそうは思わない」
    俺がそう言うと、葉山は雪の下に気づかれないくらいの一瞬、俺を睨んだ。
    「実際、雪ノ下が一人でやった方が早いことも山ほどある。ロスが少ないのは大きなメリットだ。何より、信じて任せるのは難しいぞ。能力差があり過ぎる場合は特に。……それに、この文実の連中に、信じるに足る人間はいない」
    俺は、人を信じて任せるということができない。その結果うまくいかなくても、自分一人を責めればいい。あの時あいつがああしていれば、そいつがちゃんとやっていれば、そう後悔するのはやりきれない。人にされたことでは諦めがつかない。
    なら、一人でやった方がいい。
    葉山は声には出さず嘲笑し、憐れむような眼で俺を見た。
    「それでうまくいくのか?」
    「あ?」
    「それでうまく行くならそれでもいい。でも、現状回って無いわけだろ?そして、何より失敗できない訳だ。なら、方法を変えていくしかない」
    「っ……」
    正論、まごうこと無き正論だ。痛いところを突かれた。
    こいつの言ったとおりにしたとしても結局のところは失敗するだろう。だが、今はそのもしもの話は意味を持たない。
    「そう、ね……」
    痛いところを突かれたのは雪ノ下も同じようだった。
    だが、彼女に頼れる人間はいない。
    俺は、現状ですでに手一杯。由比ケ浜がいれば違っただろうが……。
    「だから、手伝うよ」
    「部外者にやってもらうのは……」
    「有志団体の取りまとめだけ。有志側の代表ってことで」
    その提案は魅力的だった。だが、いかんせんその相手が葉山隼人だ。
    俺を苦しめる為だけに、ポンコツ相模を委員長にした男。
    だが、今回だけは信頼にたるかもしれない。
    こいつはどうやら雪ノ下に好意を抱いているらしく、彼女の妨害をするような風には思えないからだ。
    「そういうことなら、やってもらえると助かるな」
    いつの間にか近くに来ていた城廻が口をはさんだ。
    「どうかな?」
    葉山に言われて、雪ノ下はあごに手を当ててしばし黙考する。
    「……」
    「雪ノ下さん、誰かを頼ることも大切なことだよ?」
    彼女は諭すように言った。
    葉山の言うことも城廻の言うことも間違っていない。
    最高だ、感動ものだ、素晴らしい仲間意識だ。
    人に助けられることになれている奴はいい。
    躊躇なく人を頼ることができる。
    だが、それを盲信的に称賛する気にはならない。
    だってそうだろ。
    みんなでやることが素晴らしいなら、じゃぁ、一人でやることは悪いことなのか?
    どうして、今まで他人の分まで一人でやってきた奴が責められなきゃならない。
    どうして、雪ノ下雪乃が責められなければならない?
    そのことが、俺は許せない。
    「頼るのは大切だが、頼る気しかない奴がいる。頼るんならまだいい。単純に使ってるだけの奴がいる」
    城廻が俺を睨み、腰元に手を当てる。
    「……やめろ。あんたじゃ俺に勝てないことはわかってるはずだ。それに、もうそういうのはやめだ」
    戦う意思がないことを示す為、俺は両手をぶらぶらと振ってみせた。
    「……確かに、雑務などにもしわ寄せが行っているようですし、一度振り分けを考え直します。それと、葉山君の申し出、受けさせてもらいます。……ごめんなさい」
    その謝罪は、誰に向けられたものだったろうか。
    彼女が謝る必要など、無いのに……。
  38. 38 : : 2014/04/15(火) 23:51:38
    「……」
    会議室の中を見回した俺は、再び嘆息せざるを得なかった。
    出席者はさらに減っている。比較するまでもない。
    雪ノ下を除けば、残りは執行部と数人しか見当たらない。
    「相模さんの提案、ちゃんとだめっていうべきだった……」
    近くにいた城廻がため息をついた。
    そして視界に俺の姿を認めると、こちらに近づいてきた。
    ……何だ?
    「比企谷君」
    「なんだよ」
    「この間は、ごめんなさい。あなたを、最低なんて言って……。間違ってたのは、私だったね……」
    「わかればいい。ただ、手遅れ感はあるけどな……」
    「ちゃんと来てくれてる人もいるから、頑張らないと……。比企谷君にも期待してるよ?」
    「そいつはどうも」
    「……2F担当者。企画申請書類がまだ出ていないのだけれど」
    と、雪ノ下の声に我に返る。
    その担当は相模だったはずだが、まぁ彼女が仕事などするはずもない。
    「……悪い、俺書くわ」
    「そう、本日中に提出」
    記入事項をサーっと呼んでいく。
    ……なるほど、わからん。
    書類に記入するため、俺は教室へと向かった。

    文化祭前の教室と言うのはバタバタしている。
    「もう男子、ちゃんとやってよ!」
    葉山グループに所属する大岡(童貞風見鶏)をはじめとする数人の男子が相模に怒られていた。
    あいつ、こっちに来てたのか。
    まぁ、居てもいなくても同じだが。能力差というのは、どこまでも残酷だ。
    と、本来の目的を思い出し、由比ケ浜の姿を探す。
    ガハマ、ガハマ……っと。
    あ、いた。
    「由比ケ浜」
    「あれ?ヒッキ―、仕事終わったの?」
    「仕事に終わりは無いんだよ」
    「何言ってんの?」
    「……まだ仕事だ。すまんが、ちょっとこれ教えてくれ」
    由比ケ浜に書類を見せる。
    「それって急ぎ?ていうか、隼人君達もいるの?」
    「ああ」
    「ならそっちでやろうよ。ここ騒がしいし」
  39. 39 : : 2014/04/16(水) 00:08:48
    会議室に戻り、由比ケ浜に企画のレクチャーを受ける。
    まさかこいつにものを教わる日が来るとは……。
    言われたとおりにやっているつもりなのだが、由比ケ浜はイラストなどにうるさかった。
    美術2の俺にそんなに求めるなよ……。
    「だから違うって!装飾はもっとバーンと!」
    「わかんねぇ……」
    ていうか、俺の能力以前にこいつの説明能力が低すぎる気が……。
    「それにここ、人数も間違ってるよ」
    「由比ケ浜に指導されると言うのは、堪える物があるな……」
    「なんだと!?いいから早くやる!」
    まじめにやっている生徒がいると言うのは執行部にも励みになるのか、今日はずいぶんいい雰囲気が流れていた。
    そして、その空間を引き裂くように、扉を開く無機質な音がした。
    「遅れてごめんなさーい。あ、葉山君こっちにいたんだー」
    文実を滅茶苦茶にした元凶、相模がやってきた。
    いつもの二人のお供を従えて、久しぶりの登場だった。
    「相模さん、ここに決裁印を。不備は無いと思うわ。こちらで直しておいたから」
    「そう?ありがとー」
    葉山との会話を邪魔されたからかいきなり仕事の話をされたからか、相模はしばし無表情でいたが、すぐに取り繕うと笑顔で書類を受け取った。
    ろくに確認もせずに相模はハンコを押していく。
    「ほらヒッキー、速くやってよ」
    由比ケ浜が俺の目の前でポンと手を叩く。
    「そもそも俺の仕事じゃないんだけどな……」
    だが、それを由比ケ浜に言ってもどうにもならない。
    これ、相模の仕事だったんだけどな……。
    「ヒッキー、手止まってるよ。ほら、急いで」
    「下校時刻まで後二十分……」
    雪ノ下と由比ケ浜にそろってせかされる。
    「まぁ、クラスの方出れてないから多少手間取るのは仕方ないよな」
    葉山が俺をフォローするが、お前それここに雪ノ下がいるからだよね?
    「うち、実行委員長だから―。任せちゃう部分もあるけどよろしくねー」
    相模が汚い声で俺に言う。
    「……ああ、そういえばお前実行委員長だったのか。全然仕事やって無いから気付かなかったわ」
    「はぁ?今あんたなんて?」
    「その通りだろうが。テメェがやった仕事、いくつあるんだよ」
    「……っ!お前みたいなやつが、私に意見するなっ!」
    怒った相模がそういうと同時、鏡からサメのモンスターが出現した。
    こいつが、雪ノ下を襲った犯人だったのか。
    「ドラグレッダーッ!」
    現れた炎の龍が敵の攻撃を阻止する。
    「グガァァアーッ!」
    「……あんたもライダーだったのか。だったら、潰すっ!」
    「お前のせいで、文実も俺らもめちゃくちゃだ。その責任分くらいは、受けてもらうぞ」
    「「変身!」」
  40. 40 : : 2014/04/18(金) 23:37:32
    相模南には思うところが多々ある。
    こいつのせいで雪ノ下は苦しんだ。
    文実は空中分解し、俺は毎日仕事に追われている。
    そして何より……お前みたいな生き方、気に入らないんだよこの野郎。

    「「Sword Vent」」
    「自分の自己満足のために他人を犠牲にし、全てを台無しにした……さぁ、お前の罪を数えろ!」
    「今更数え切れるかっ!」
    激しい衝撃音を立て、俺と相模の剣が衝突する。
    それから数号斬り合ってわかったことがある。
    こいつと契約しているモンスターの力は強大だ。だが、ライダー本人の力が著しく欠如している。
    動きにあまりに無駄が多い。
    見事にライダーの力を使いこなしていた火野先生との戦闘の後だったから、俺の目には余計それが目立った。
    「現実世界でもダメなら、こっちでもダメダメライダーだな、相模っ!」
    「教室の隅っこで黙ってるしかできないぼっちのお前が何を偉そうにっ!」
    ああ、やはり彼女はわかっていない。
    「そうさ、俺はどんなことだって一人で受け止めてきた。お前らが熱いだの寒いだの登下校中に話し合ってごまかしてるのを、俺は一人で耐えていた。わかってたまるかよ、テストのたびにばかだのガリ勉だのと茶化しあっているのに、俺だけは真摯に自分のやってきた結果と向き合って来たんだぜ?……その俺が、お前なんかに負けるはず無いだろうがっ!」
    想いをこめた一撃が、相模の胸を深々とえぐる。
    「これが、俺とおまえの積み重ねてきた物の違いだっ!」
    「あんたなんかに、説教される覚えは無いんだよっ!」
    「Advent」
    「ドラグレッダー!応戦しろ!」
    「Advent」
    サメのモンスターが俺を襲うのを、ドラグレッダーが止めた。
    一瞬、油断していたかもしれない。
    「ガァァァアアッ!」
    「なっ!?」
    後方から出現したサメの体当たりを、俺は何の防御態勢もとらずに受けてしまった。
    「二体目の、モンスター……?かはっ」
    「甘いんだよ、あんた。目障りだから、とっとと死ねっ!」
    鋭い剣を携えて、相模がこちらに走ってくる。
    「負けられないんだよ、俺はっ!」
    「Survive」
    業火が俺の周りを包む。
    突如現れた炎に、相模も止まらざるを得ない。
    「絶望が、お前のゴールだ。相模」
    「何わけの分かんないこと言ってっ!」
    「Shoot Vent」
    「行くぞ!ドラグランザー!」
    俺の持つドラグツヴァイとドラグランザーの口から放たれる二重の高火力攻撃。
    「うっっ!」
    胸部を狙ったその攻撃は、彼女の両手で阻まれてしまったが、それでも相当のダメージを与えられたはずだ。
    「くそっ!」
    「Strike Vent」
    相模の右手に装着されたサメ型の武器から大量の水が放射される。
    以前見た物より勢いは無いが、おびただしい量を出している。
    水に押されるようにして、俺も相当の距離後ろに下がってしまった。
    少しすると収まって、彼女の姿を探したが、相模はもうどこにもいなかった。
    「逃げたか……まぁ、殺すつもりなんて無かったしな」

  41. 41 : : 2014/04/18(金) 23:37:53
    「うっ……」
    現実世界に帰還した俺は、突如虚脱感に襲われた。
    不思議に思い、全身を見渡すと、右手から血が流れていた。
    「なんだ、これ……」
    こんな場所に攻撃は受けていないはずだ。
    と、俺が思索にふけろうとしていたまさにその時。
    ドアを開く無機質な音が再び響いた。
    「ひゃっはろ~!」
    雪ノ下、陽乃っ……。
    「あっ、比企谷君だ~。ひゃっはろ~!」
    「……んだよ」
    「おやおや~、その傷はどうしたのかな~?もしかして、サバイブのカードを使いすぎてるのかなぁ~?」
    「んなっ、てめえ、そんなものを渡しやがったのかっ!」
    「当たり前じゃな~い。強大な力にはリスクが伴う物なのです。使えば使うだけ、体がむしばまれていくよ?」
    何でもないことのように、さらりと言ってのけた。
    「……姉さん、何の用かしら」
    「もう、雪乃ちゃん、そんなに邪険にしないでよ~」
    「あなたがやってきたことを思えば、その位当然だと思うのだけど」
    「ひどいな~。せっかくすごいニュースをもってきてあげたのに」
    「……ニュース?」
    「そうだよ~。雪乃ちゃんの大好きな小川絵里さん、意識が戻ったみたいだよ?」
    「……っ!?それは、本当かしら?」
    「大好きな妹に嘘なんかつくわけないじゃな~い。それに、そんな嘘ついて私に何か得があるの?」
    「……」
    陽乃に言葉を返すことは無く、雪ノ下は駆けだした。
    「あっ、ゆきのんっ!」
    「ガハマちゃ~ん。雪乃ちゃんの行った場所、知りたい?」
    「はい!教えてください!」
    「うんうん、ガハマちゃんは素直でいいね~。場所はね……」
    雪ノ下陽乃に場所を聞いた俺達は雪ノ下の後を追った。
  42. 42 : : 2014/04/18(金) 23:38:43
    「ゆきのん……」
    たどり着いた俺と由比ケ浜が見たのは、病人服を着た一人の女性と、そんな彼女に向けて今まで見たことがないほどの笑顔を向けている雪ノ下の姿だった。
    「……よかったよな。これで、あいつが戦う理由もなくなる」
    「うん、ほんとに」
    雪ノ下は俺達に気づいていないようだった。
    と、そんな彼女に一人の男が近づいていった。
    服装から見るに、この病院の医者だろう。
    彼は二言三言話すと、雪ノ下とともに別室に移動した。
    「俺達も、今日は帰るか」
    「そだね。本当に、よかった……」
    病院を出ようとロビーに降りた時、見知った顔を確認して俺は足をとめた。
    それは、医者と話している平塚静の姿だった。
    会話を終えて彼女がこちらに近づいてきたので、俺はとっさに由比ケ浜とともに身を隠した。
    幸い平塚はこちらに気づくことなく通り過ぎていった。
    「すいません」
    先程まで平塚と話していた医者に俺は声をかける。
    「ん、どうしたんだい?」
    「先程の女性……平塚静さんはどこか悪いんですか?」
    「ん?君達は彼女の知り合いかい?彼女はね、心臓に重い病を患っているんだ。どんなに長くても、一年ともたないだろう」
    「そんな……」
    由比ケ浜が驚嘆の声をもらす。
    「っと、僕は次の診療があるからこれで」
    言い残し、気のよさそうな彼は去っていった。
    「……平塚の戦う理由、永遠の命って……生き延びる、ため、だったんだな……」
    「うん……。平塚先生のやったことって、許せない、けど……やらなきゃ、自分が死んじゃうん、だったら……なんか、わかるって、いうか……」
    「そう、だな……」
    どんな理由があっても彼女の罪は消えない。だが、彼女にもきちんとした戦う理由はあったのだ。それをエゴだと言いきるには、俺はあまりにも死というものに触れあいすぎた。
    「今日はもう、帰ろうぜ。家まで送る」
    「うん、ありがと」
    由比ケ浜を自宅まで送り、自室で仮眠をとっていた俺は、メールの着信音によって起こされた。
    『今から学校で会えませんか? 雪ノ下雪乃』
    時刻はすでに八時を回っている。彼女が俺に連絡を取ってくるなんてとても珍しいことだし、しかもこんな時間に会うなどということは、なかなか考えられることではない。
    何かあったのかと不安に思った俺は、とる物もとらずに家を飛び出した。
  43. 43 : : 2014/04/20(日) 21:12:23
    気になる区切り方wwwwwwwwwww続き待ちどうしいねぇ
  44. 44 : : 2014/04/21(月) 22:47:42
    ⇒⇒⇒nyさん
    そう言ってもらえるとうれしいです!
    励みになります、ありがとうございます!
  45. 45 : : 2014/04/21(月) 22:48:24
    俺が校庭につくと、そこにはとてもはかなげな様子で立っている雪ノ下の姿があった。
    「どうしたんだ、こんな時間に」
    告白などという考えは毛頭ないのがぼっちの悲しいところではある。
    「……今日病院で、絵里さんの病状についての説明を受けたわ」
    「ああ」
    「今は偶然意識が戻っているだけで、またすぐに意識を失う、とのことだったわ」
    「……」
    それじゃ、何も解決してない、ってことか……。
    「私はもう、あの人の苦しむ姿を見たくない……。こんなことをいう自分に、とても嫌気がするのだけど……比企谷君」
    彼女の眼には、もう迷いは無く。その瞳はどこまでも美しくて。
    「私と、戦って」
    初めて彼女と戦った後のあの部室の様子が俺の脳にフラッシュバックする。
    あの時とは、随分変わった。
    俺は彼女を認めるようになったし、そして、きっと彼女も……。
    なら、だからこそ俺は。
    「わかった。お前の戦いの重さ、俺が受け止めてやる!戦うことが罪なら、俺が背負ってやる!」
    カードデッキをかざす。これがきっと、彼女に俺がしてやれる一番のことだから。
    「比企谷君……」
    「全力で行くぞ、雪ノ下」
    「ええ」
    「「変身!」」
  46. 46 : : 2014/04/21(月) 22:48:47
    ミラーワールドに移っても、俺達はしばし互いを見つめあっていた。
    「Sword Vent」
    雪ノ下が槍をつかむ。
    しばし逡巡した後、彼女は少しずつこちらに近づいてくる。
    「Sword Vent」
    「うおおぉぉっ!」
    「はぁぁああっ!」
    互いの思いを込めた一撃がぶつかり合う。
    相模の攻撃とは重みがまるで違う。
    彼女もまた、一人で果敢に挑んできた者だから。
    理不尽で腐った世界を変えようと、自らの力だけを信じて、努力を続けてきた者だから。
    「「はぁぁぁあぁぁっっっ!」」
    互いに剣を交えるこの瞬間、俺は彼女との心の距離が近づいているような気すらしていた。
    雪ノ下は男女の力の差など物ともしない。
    彼女に対してそんなことを考えることさえ、冒涜に当たるだろう。
    俺達の力は完全に拮抗し、そしてのちに互いに距離をあける。
    そしてまた、衝突。
    そんな攻防が三度ほど続き、
    「Strike Vent」
    俺は攻め手を変えた。
    距離をあけての炎攻撃。
    雪ノ下の苦手とする間合いでの戦闘。
    彼女は、全力の、一切手抜きなどしない勝負を望んでいる。
    ならば、自分の得意なフィールドに持ち込もうとすることは、決して悪いことではないはずだ。
    立て続けに炎を放射する。
    しかし、雪ノ下はさすがだった。
    見事な身のこなしで攻撃をことごとくかわし、次第に接近する。
    当然、彼我の距離が狭まれば被弾率も上がるはずなのだが、彼女にとってはそれすら関係ない。
    「Nasty Vent」
    ある程度距離がつまったところで、彼女得意の超音波攻撃が放たれた。
    ふらつく俺に、彼女は容赦なくやりでの一撃を浴びせる。
    だが、俺だって伊達に彼女と居たわけではない。
    攻撃を受ける瞬間、ドラグクローで雪ノ下の腹部を全力で突いた。
    「うっっ……」
    俺達は二人して倒れ込む。
    「やるわね、比企谷君。まさかあそこでカウンターとは……」
    「へっ、ぼっちの適応力なめんな」
    「ふふ、それはあなたの力よ」
    「ありがとよ」
    「やはり、あなたは……」
    彼女の最後の言葉は聞こえなかった。代わりに俺の耳に入ってきたのは、激しい風の音。そして、
    「Survive」
  47. 47 : : 2014/04/21(月) 22:49:28
    水色と金色のフォルム。『ナイト』の名の通り、騎士を思わせる姿だ。
    「やめろ、その力はっ!」
    「わかってるわ。この力が危険なものだということくらいは」
    「なら、なんでっ!」
    「あなたとの戦いで、一切出し惜しみしたくない。持てる力、全てを使いたい」
    「見込まれたもんだな、俺も」
    そんなこと言われたら、こっちだって応えない訳にはいかない。
    激しい業火が俺を包む。
    「いくぜ、雪ノ下」
    「Survive」
    「Shoot Vent」
    「Blast Vent」
    俺とドラグランザーが吐き出した炎が、雪ノ下の契約モンスター、ダークウイング、いや、ダークレイダーが生み出した強風によって軌道をそらされる。
    「はぁっ!」
    そして雪ノ下はその風を利用して、高威力の急降下キックを仕掛けてきた。
    とっさに腕でガードしたが、なかなかのダメージだ。
    「……やるなぁ」
    「感心している、場合かしら?」
    「わーってるよ」
    「「Sword Vent」」
    再び剣と剣が衝突する。
    その体勢のまま、俺は口を開く。
    「……なぁ、雪ノ下」
    彼女は言葉を返さない。
    「何言ってんだって思うかもしんねぇけどさ、俺、今最高に楽しいよ」
    「何を言ってるのかしら?あなた、マゾヒスト?」
    「こんな時まで、変わんねぇな」
    「人の本質は変わらない、というのはあなたの弁ではなかったかしら?でも、私も同感よ。他のライダーと戦うのとは違う。あなたとこうしてぶつかり合うのは、最高に楽しい」
    彼女のその言葉を引き金にして、俺達は少し身を離す。
    「……なぁ、雪ノ下」
    「なにかしら」
    「もしよかったら、俺と、俺と友達に……」
  48. 48 : : 2014/04/21(月) 22:49:45
    「ごめんなさい、それは無理」
    「またかよ……。最後まで言ってないのに」
    「でも、この戦いが終わってあなたが立っていられたのなら考えてあげてもいいわ」
    「そりゃ、俄然やる気が出るな」
    「さぁ、おしゃべりは終わりよ。そろそろ、決めましょう」
    「ああ、そうだな」
    万感の思いを込めて、カードデッキから一枚のカードを抜き取る。
    「「Final Vent」」
    「グガァァアァッッ!」
    「キィイィイイッ!」
    俺達のモンスターがたがいににらみ、咆哮を上げる。
    ほぼ同じタイミングで、俺と雪ノ下はモンスターに飛び乗った。
    そして、ドラグランザーとダークレイダーがバイク型の姿に変形する。
    ドラグランザーはウィリー走行をしながら炎を、ダークレイダーは機首部からエネルギー弾を放出し、互いに向かって距離を縮めていく。
    「「ハアアアァァァァッッ!」」
    バイクとバイクが、互いの必殺技が激突する。
    刹那、今までにないほどの規模の爆発が起きた。
    爆風によって思い切り吹き飛ばされる。あまりに負荷が大きく、サバイブ体から通常の姿に戻っていた。
    薄れていく意識の中で、俺は立ち上がった雪ノ下を見つけた。
    彼女はふらふらとした足取りで、だが確かな意思をもって、こちらに向かってくる。
    その手には、彼女の得物「ウイングランサー」が握られている。
    「……こ、れで」
    「くっ」
    「Sword Vent」
    正直もう抗う気はないが、最後までしっかり戦わなければ、彼女は戦いのあとで自分を責めるだろう。
    それは俺の本意からは程遠いものだ。
    剣を胸の上に掲げ、そして静かに目を閉じた。
    仮面の上からはわからないはずだ。
    終わりを飾ってくれるのがお前だったというのなら、俺の人生もなかなかに良いものだったのだろう。
    「カァン!」
    雪ノ下の槍が俺の剣をはじく。
    感覚で、喉笛の上に槍が構えられていることが分かる。
    いよいよか……。
    「……?」
    しかし、いつまでたっても攻撃は訪れない。
    その時、カランカラン、という槍が地面に落ちる音がした。
    「雪ノ下……?」
    「絵里姉さん……ごめんなさい、私には、できない……」
    その場に崩れ落ちようとする雪ノ下をあわてて受け止める。
    「おい!大丈夫か!」
    「……殺し合いをしていた相手に救われるなんて、私も落ちたものね……昔のわたしなら、こんなことは無かった。弱く、なったのかしら……」
    「そんなこと無い、お前は、間違ってないよ。絶対」
    「比企谷君……」
    「今はまだ、保留でいいんじゃねぇの?お前がどうしてもって思ったら、またいつでも相手になるから」
    「そう、ね。友の言うことなら、聞いてあげるのもやぶさかではないわ」
    「お前、今……」
    「ふふ、冗談よ。でも……」
    「んま、今はそれでもいいや。戻ろうぜ、俺達の世界に」
  49. 49 : : 2014/04/21(月) 22:50:13
    そして翌日の実行委員会。
    心なしか雪ノ下の表情は晴れやかだ。
    そんな彼女が視界に入ると、俺は気恥ずかしくて思わず目をそらしてしまう。
    何これ、こそばゆい……。
    と、俺達がいつもと変わろうと文実の様子は変わらない。
    今日の議題は、文化祭のスローガンだ。
    結構前に決まっていたのだが、これにいちゃもんがついたのだ。
    『目覚めよ、その魂!~総武高校文化祭~』
    ……そりゃアウトだろう。だってこれアギトの奴まんまだし。
    なんなら、人類の為に!とか言い出すまである。
    どこぞの奴をそのまま持ってくるのはどうなのかという話になり、最終的にNGとなった。
    NG、NG、GN粒子っ!俺がっ、俺達がっガンダムだっ!
    この問題に対して対策すべく、急遽招集がかかった。
    久しぶりに全員がそろったのではないだろうか。
    オブザーバーとして、葉山と陽乃という超特大の余計な物まで付いてきたのが悩みの種だ。
    そしてこのことは、文実に秩序が失われていることの何よりの証でもあった。
    少なくなる一方のメンバーで何とか回していたこの状況でこの一件はとどめの一撃となった。
    「それでは会議を始めます。本日の議題は、連絡の通りスローガンについてです」
    雪ノ下の凛とした声が響き渡る。
    まずは挙手でアイデアを求めるが、積極性の墓場と化したこの集団ではそれも難しい。
    その様子を見かねた、というか雪ノ下のポイントを稼ごうとした葉山が発言する。
    「いきなり発表っていうのも難しいと思うし、紙に書いてもらったら?説明は後でしてもらって」
    「そうね……。では、時間を取ります」
    各自に紙が渡される。時期を見て雪ノ下がそれを回収して、生徒会執行部が内容をホワイトボードに書いていく。
    『みんなの笑顔の為に!』
    『Open your Eyes For The Next φ」
    『運命の切り札をつかみ取れ!』
    『ウェーーイ!』
    『天の道を往き、総てを司る』
    『さぁ、お前の罪を数えろ!』
    ……ふざけ過ぎだろ。何でスローガンがアウトになったから考えろよ……。
    ていうかウェーイってなんだウェーイって。ただの口癖じゃねぇか。
    『小夜子ぉぉぉっ!』
    これは書くまでもなかったよね?
    何で橘さんの決め台詞を持ってきちゃったの?
    そんなふざけた中でも、いくつかは真面目に書かれたと思われる物もある。
    『八紘一宇』
    うわぁ、誰が書いたか一発でわかるぅ。これが友情の力か!……絶対に違う。
    と、みんながそれぞれのスローガンの案を見ている中に、これ見よがしの咳の音が響き渡った。
    相模南だ。
    「じゃぁ、最後。うちらの方から。『絆~ともに助け合う文化祭~』
    相模は自分たちで考えた案を発表し、板書しはじめる。
    「ははっっ!」
  50. 50 : : 2014/04/21(月) 23:23:00
    それを見た瞬間に、全くの無意識で笑いがこぼれ出た。
    俺の反応に周囲がざわついた。
    その嘲笑めいたざわめきが彼女の神経を逆なでする。
    となれば、その発端であり立場が弱い俺のもとに矛先を向けるのは自明の理。
    「……何かな?何か変だった?」
    どうにか笑顔を取り繕ってはいるが、相模はだいぶ頭にきているらしく、頬がひきつっている。
    「いやぁ、別に……くくっ」
    言いかけてやめる、それも文句ありげに。これが相手を最も苛立たせる反応であることは経験で知っている。
    言葉では伝えられない物がある。
    それはいつか平塚が言った言葉だった。
    国語教師だからこそ、言葉の無力さを知っている、と。その時俺は皮肉交じりの返答をしたが、その言葉は全くもって正鵠を得ている。
    俺は知っている。言葉を用いずとも意思を伝える方法を。
    休み時間の寝たふり、頼みごとをされた時のいやな顔、仕事中のため息。
    語らずとも、いつだって俺は言外に意思表示をしてきた。
    「何か言いたいことあるんじゃないの?」
    「いや、まぁ、別にぃ」
    最後の語尾を伸ばす彼女の腹立たしい口調の真似もしてやった。
    「ふーん、そう、いやなら意見だしてね」
    そうかい、なら言ってやんぜ!
    『人~よく見たら片方楽してる文化祭~』

    瞬間、世界が凍った。
    あれ、俺って葉山だったっけ?おーい、フリーズベント使ってませんよ~?
    雪ノ下でさえ、ポカンと口をあけている。
    「あっははははははっっ!バカだ!バカがいるっ!もう最高!あっははは!」
    雪ノ下陽乃が彼女らしくもなく大笑いする。
    火野先生は驚いた様子で俺を見ている。
    「えっと……、比企谷君、説明してもらっていいかな?」
    火野先生に促されて、俺は彼に軽く頭を下げてから説明を始めた。
    「いや、人という字は人と人とが支え合って、とか言いますけど、片方がよりかかってるじゃないですか。だから、誰かを『犠牲』にすることを容認しているのが人という字だと思うんですよ。だからまさに、この文実にふさわしいんじゃないかと」
    「……犠牲っていうのは、具体的には?」
    「俺とか超犠牲でしょ。アホみたいに仕事させられてるし、ていうか人の仕事押し付けられてるし。それとも、これが委員長の言うところの『助け合う』ってことなんすかね。俺は少なくともこの場にいる誰にも助けられたことが無いので分かんないんすけど」
    まぁ、正確にいえば火野先生と雪ノ下は別だがそれは今はいいだろう。
    全員の視線が相模へと集中する。
    彼女を信用している者は、委員長に値すると思っている物は一人もいない。
    ざわつきが駆け巡る。
    と、しばらくすると視線の行く先は相模から雪ノ下へと移動する。
    一人で今まであらゆる問題を片付けてきた彼女はいったいどんな決断を下すのか。
  51. 51 : : 2014/04/21(月) 23:23:38
    「比企谷君」
    俺を見つめる吸い込まれそうな瞳。
    ほのかに上気した頬。ほころぶような笑みをたたえた口元。
    そんなどこまでも美しい彼女が紡いだ言葉は、
    「却下。下の下ね」
    最後の一言はいらなかったんじゃないですかね……。
    と、思い出したように彼女は付け足す。
    「ただ、面白くはあったわ。少なくともどこかの誰かが出した欺瞞だらけのアイディアよりはね」
    そう言って彼女は相模を一瞬見て、侮蔑の表情を浮かべる。
    「今日は、解散にします」
    「え、でも……」
    相模があわてて雪ノ下の言葉を止める。
    「どの道この場では決まりっこないわ。各自で考えてきて、明日決めましょう。以降の作業は全員参加に戻せば、遅れは十分に取り戻せる」
    雪ノ下は教室を見渡す。
    「異論はありませんね?」
    その迫力に、誰も言い返せる者はいなかった。
    僅か一瞬の間に、全員が強制参加を承諾させられた。
    やはり彼女の辣腕には舌を巻かざるを得ない。

    「残念だな……少しわかりあえてた気がしてたのに。まじめな子だと思ってたよ」
    悲しそうに城廻めぐりがつぶやいた。
    「少し相手のことを知っただけでわかったような気になってたら、いつか手ひどいしっぺ返しを食らう。早く気付いてよかったな」
    俺の言葉に、彼女は返さない。
    こんな空気に耐えられなくなって、俺はバッグを持って立ち上がった。
    会議室から出ようとすると、雪ノ下に呼び止められた。
    「いいの?」
    「何がだ?」
    「……誤解は解いた方がいいと思うわ」
    「解が出てる以上、もうその問題は終わってんだ。それ以上はどうしようもない」
    「どうでもいい時ばかり言い訳して、大事な時ほど何も言わないのね」
    「不言実行って奴だ。それに、俺はあいつが嫌いだ」
    「でも、それは少し卑怯だと思うわ。それじゃぁ相手も言い訳できないじゃない。私だって、最初はあなたのこと嫌いだったけど……」
    言ってる途中で恥ずかしくなったのか、雪ノ下は口を閉じた。
    「言い訳なんて意味ねぇよ。大事なことほど人は勝手に判断する」
    「そうね、そうかもしれない……」
    少し間をおいて、彼女は言った。
    「なら、もう一度問い直すしかないわね」
    初めてできた友のその言葉の意味をかみしめながら、俺は帰路に就いた。
  52. 52 : : 2014/04/21(月) 23:43:11
    翌日の委員会で新たなスローガンが決定した。活性した長時間の議論の末、最後は皆疲れ果てながらも何とか一つの形にまとめられた。
    『すべとを壊し、全てをつなげ!青春スイッチオン!』
    なんか最後の一言が材木座の声で再生されたのは俺だけだろうか。
    ていうかこれ本当にいいんだろうか……。
    多少不安に思わないでもないが、これが委員会の出した結論だ。
    一応は相模の指示のもと、文実が再スタートする。
    この前までとは別人のように皆やる気に満ち溢れていた。
    「野郎ども!ポスターの再制作だ!」
    このスローガン決めが結束を固める儀式にでもなったようだ。
    「ちょっと待てぃ!予算が追いついてない!」
    「馬鹿野郎!そろばんなんて後で引け!俺は今なんだよ!アストロスイッチ、オーーン!」
    いや、アストロスイッチは押しちゃダメだろ。
    一方俺はボロカスに陰口をたたかれ、シカトにハブにされていた。
    が、これはいじめではない。我が校にいじめは存在しない。
    仕事を振ってくる際も声をかけずにそっと置いていく。
    非難はするが仕事はさせる。
    大したもんである。
    「やぁやぁ、しっかり働いてるかね?」
    雪ノ下陽乃が俺のもとにやってきた。
    「見たらわかんだろうが。どっかいけ」
    「あー、なるほど……しっかりはやってないみたいだね」
    「なんでだよ、超やってんだろうが……」
    「だってこの議事録には比企谷君の功績が入ってないじゃない」
    「はぁ……。俺は特に何かやったつもりはねぇよ。それにそういうのは、言葉にすればするほど泡より軽くなる」
    「ふふ、やっぱり面白いなぁ君は。さてここでクイズです!集団を最も団結させる存在はなんでしょう!」
    「さぁな、あんたと問いかけなんかしたかねぇよ」
    「ふ~ん、わからないんだ~?」
    「もうそれでいいわ。俺はあんたの妹と違ってそんな挑発には乗らない」
    と、その瞬間。
    俺の目の前に大量の書類が積まれた。
    「私が、何かしら、比企谷君?」
    こっわぁぁぁぁっ!雪ノ下さんマジパねぇ!
    「いや、多すぎだろ」
    「私はあなたの能力を評価しているのよ」
    そんな笑顔で言うんじゃねえよ。思わずひきうけちまいそうになるだろうが。
    「絶対に嘘だ……」
    「本当よ、とにかく、それを今日中に」
    「ああ、世界の悪意が見えるようだ……」
    雪ノ下のもとで働いていると、ブラック企業の労働環境がぬるま湯にさえ思えてくる。
    「しょうがないな~、私も手伝ってあげましょー!」
    「姉さん(あんた)は邪魔だから帰って(帰れ)」
    「ひっど―い!でも二人とも息ぴったりだね!お似合いですな~、ま、勝手にやっちゃうんだけどね」
    そう言って俺の書類を半分かっさらう。
    おお、こいつ初めて役に立った!
    「……はぁ、やるなら予算の見直しがあるから、そっちにして」
    そう言って、別の書類を陽乃に渡す。
    当然のごとく俺のもとに仕事が帰ってくる。
    「あ、比企谷君」
    満面の笑みで彼女は、
    「これ、おまけ」
    更なる書類をご丁寧に渡してくれた。
    ブラック委員会に努めているんだが、俺はもう限界かもしれない。
  53. 53 : : 2014/04/21(月) 23:43:28
    原作と違うのは確かな友情が存在している所っすかねぇ。それにしても.....魂が目覚めちゃう文化祭ってwwwwwwwwww最後は二人でオーディンを倒す感じかなぁラストバトルで八幡が「見つけようぜ俺達の答えを俺達の力で」とか言ったら個人的にうおぉてなるなぁ。つーかガハマがライアで三浦が王蛇ってことは.....おいおい考えただけでも穏やかじゃねぇなぁwwwwwwwwwwwwwww
  54. 54 : : 2014/04/22(火) 22:18:02
    →→→nyさん
    いつもコメントありがとうございます!
    やっぱり見てくれる人がいるっていうのは話を書くモチベーションになります!
    「見つけようぜ、俺達の答を。俺達の力で」わぉ!このセリフは絶対に使おうと思ってたので、まさにドンピシャといった所でびっくりです!
    まぁ、物語の進行上変更の可能性は大いにありますが……。
    そこも含めて楽しみにしてくれると嬉しいです!
    由比ケ浜と三浦……。どうなりますかねぇ、なんたって彼女の占い当たっちゃいますから……。
  55. 55 : : 2014/04/22(火) 23:15:12
    一日一日と過ぎていき、寒くなる気温とは裏腹に文実はどんどん熱を帯びていく。
    ドアも終始あけっぱなしだ。
    中ではてきぱきと仕事をさばく雪ノ下がいる。その横では飾り物のように座っている相模の姿もある。
    そして今日も奴は、雪ノ下陽乃は当然のごとく来ていた。
    城廻と相談しているようだ。
    俺も教室に入りシフト表を確認していると、その間にもひっきりなしに人が出入りする。
    「副委員長、ホームページ、テストアップ完了です」
    「了解。相模さん、確認して」
    言いながらも、雪ノ下自身でもチェックをする。その気持ちは手に取るようにわかる。
    「問題無いですね。本番移行してください」
    相模の指示を待たずに雪ノ下が発言する。
    相模はそれを当然のように見ていた。
    「雪ノ下さん、有志の方、機材がたんない!」
    一つさばくとまた一つ。
    しかしその中には、相模に許可を求める声は無い。
    「それは管理部と交渉を。こちらへは報告だけで結構です」
    そんな彼女に、後ろから忍び寄った陽乃が声をかける。
    「さっすが雪乃ちゃん、やっぱりわたしの妹だね~。私が委員長だった時みたい」
    それは何と、不遜な発言だろうか。俺は頭に血が上るのを感じていた。
    「……あなたの妹だから、ではないわ。思い上がりも大概にしてほしいわね」
    「……ふ~ん、言うようになったね」
    「いつまでも相手を取るに足らない物と断ずる。それがあなたの弱さよ、姉さん」
    「ふふっ、なら、私に勝てるつもりでいるのかな?」
    笑ってはいるが、その目はすでに冷たい色を放っている。
    そして静かに、ポケットに手を入れた。
    「「……っっ!!?」」
    近くで見ていた雪ノ下と、その様子を眺めていた俺は、同時に驚嘆の声を漏らした。
    彼女がとりだしたのは、やはりというかなんというべきか、ライダーである証のカードデッキだった。
    そして、その色は茶色。中央には、金の不死鳥のエンブレム。
    「仮面ライダー、オーディン……」
    世界をゆがめた、張本人。
    おそらく、ライダーバトルを始めた者。
    「お前がオーディンだったのかっ!」
    走ってこっちに向かって来たのは、火野先生だ。
    今までに見たことのないような怖い顔で、陽乃を睨んでいる。
    「お前は、お前だけはっ……」
    メダルをデッキに入れて、変身の動作を取る。
    そんな彼の肩を、陽乃はゆっくりと叩いた。
    「やめようよ、オーズ。この世界のライダーじゃないあなたには、何もできないんだから」
    「……くっ」
    悔しそうに唇をかみしめて、火野先生は一歩後ろに下がる。
    そんな彼に変わるようにして、雪ノ下が一歩前に出る。
    「あなたがどんな力を持っていようと、私がやることに変わりは無いわ。あなたを倒す、それだけよ」
    「ふ~ん、あの世わそうなコウモリで?」
    「甘く見ないことね、私にはまだ、由比ケ浜さんからもらった」
    「サバイブ疾風、だね?フフッ、どの道一緒だよ~。サバイブのカードは、オーディンの力を一部使えるようにするだけの物なんだから。オリジナルに勝てるわけないでしょ?って、喋り過ぎちゃったかな?はぁ~、可愛い妹にはつい甘くなっちゃうんだよね~」
    サバイブが、オーディンのもの……。確かにそれは頷けることではあった。
    サバイブの力は確かに圧倒的なものだが、それをもってしてもあのオーディンにはかなう気がしなかった。
    だからといって降参する気もさらさらないが。
    「だったらそれが本当かどうか、試してみる?」
    「もぉ~、雪乃ちゃんったらせっかちなんだから。しょ~が無いな~、他ならぬあなたのいうことだし、その勝負、受けてあげるよ。特別なんだからね?最後に残ったライダーと戦う予定だったのになぁ~」
    「御託はいいわ」
    「待て、俺も一緒に戦う」
    俺も雪ノ下の元に駆け寄る。
    「比企谷く~ん。うーん、残念だけど今は遠慮かな~。かわりは、彼がしてくれるから」
    陽乃が指差した鏡の中には、仮面ライダーリュウガがいた。
    「比企谷君、この人とは、私一人で戦うわ」
    「雪ノ下……」
    俺は彼女のこの表情を知っている。何を言っても聞き入れない時の顔だ。
    「負けんなよ」
    「あなたもね」
    「うんうん、友情っていいな~」
    「お前が俺達を語るな」
    「「「変身!」」」

  56. 56 : : 2014/04/22(火) 23:15:34
    ミラーワールドについた俺は驚いた。
    ほぼ同じ地点で変身したにもかかわらず、雪ノ下と陽乃の姿が見えないのだ。
    ……オーディンの仕業か。
    「待っていたぞ、龍騎。いや、俺よ」
    「……誰だよ、お前」
    「俺はお前自身、鏡の中の、比企谷八幡だ」
    「……」
    「貴様が受けた、抱いたふの感情を全て抱いた存在だ」
    「よくわかんねぇけど、自分そっくりの奴がいるってのは気持ち悪いんだよ。それに、そいつがあんな奴のもとについってんのは、もっと気にいらねぇ」
    「別に俺はあいつの部下というわけではないが、な。まぁ今はどうでもいい。貴様を倒し、その体、俺がいただく」
    「「Sword Vent」」
    聞き慣れた俺の召喚機と、それをいくらか下げたような気味の悪い音が響き渡る。
    武器の形状もそっくりそのままだ。違うのはその色だけだ。
    「「はぁぁぁああっっ!」」
    炎と漆黒の剣が交差する。
    その力量もまさに互角。
    しばし拮抗した後、リュウガが俺の腹部に拳を入れてきた。
    「ちっ……これでどうだ!」
    「Strike Vent」
    炎玉を放射する。
    「Guard Vent」
    リュウガは盾を使った防御と回避を駆使して、見事にそれを防ぐ。
    「今度はこちらから行かせてもらおう」
    「Strike Vent」
    「Guard Vent」
    俺も盾を呼び出す。
    さながら、直前の光景の焼きまわしだ。
    だが、俺も無事耐えて見せた。
    「Advent」
    直前にリュウガがカードデッキに手を伸ばしていなかっただろうか、俺は迂闊にもその音声を聞き逃してしまった。
    俺は背中から黒龍の口にくわえられて、そのまま地面に打ち付けられたまま引きずられる。
    「がぁぁあぁああああっっ!」
    致命傷と言えるダメージだった。
    「くっ……なんで……」
    「ハッ、簡単だろ。俺はストライクベントで武器を呼び出した後、攻撃前にアドベントカードを入れてたのさ。ネタばらししてやったんだ、これで満足して消えてくれるなぁ!」
    「まだに、決まってんだろっ!」
    「Survive」
    「チッ、虎の子の一枚か」
    俺の体を灼熱が包む。
    瞬間、痛みが引いていく。これが変身解除後に体を壊す原因なんだよな……。
    だが、考えるべきは「今」を生き延びることだ。
    「サバイブを使ったからと言って、俺に勝てると思うなぁっ!」
    「Final Vent」
    リュウガの周囲を黒龍『ドラグブラッカ―』がぐるぐると駆け昇っていく。
    それに対応するように、リュウガの体も浮いていく。
    禍々しい瘴気が周囲にまき散らされる。
    「Final Vent」
    ドラグレッダーが現れ、装甲をパージしてドラグランザーとなる。
    その背に乗り、俺も必殺の態勢に入る。
    「ダークドラゴンライダーキック!」
    「ドラグトームファイヤーッ!」
    煉獄と瘴気の衝突。
    俺も相当の衝撃を受けたものの、吹き飛ばされたのはリュウガの方だった。
    「く……仕方ない、ここは引くか」
    どういう理屈かは知らないが、まるで蜃気楼のようにリュウガは姿を消した。
  57. 57 : : 2014/04/22(火) 23:47:25
    「Survive」
    ミラーワールドへ着くと同時、私はサバイブのカードを使った。
    以前比企谷君が言っていたように、このカードは使えば使うほど体をむしばむ諸刃の剣だ。
    だがそれでも、この相手を前にして使わないという選択肢は無い。
    かつて憧れ、そしてそのあまりの汚さに失望し、最も憎むようになった相手。
    彼女は、大きなことを成し遂げる人間だと思う。歴史にその名を残しても、何の不思議もない。
    私が彼女を判断するにあたって、身内の欲目ということは無いだろう。
    彼女はどこまでも有能な人間だ。
    だが、大事を成す際にたくさんの犠牲を強いる。
    自分の気に入った物は壊れるまで使いまわし、敵対したものは徹底的にたたきつぶす。
    私はそれを、そんな生き方を認めたくはない。
    断じてそれを認めるわけにはいかない、それはわたしが、以前壊されかけたものだからだろうか……。
    彼女の隠し持つ一面に気づかぬ者は彼女に無邪気に追従し、そのダークサイドに気づいた者でさえも、その能力としたたかさに魅せられてひかれていく。
    幼いころから、私は彼女の代用品でしかなかった。
    大切なものは、すべて奪われていった。
    ……だが、今のわたしの中には大切なものがある。
    彼女の本性を知っても、私より力があるとわかっても、変わらず私の仲間でい続け、彼女と敵対することを選んでくれた二人の親友。
    由比ケ浜さんと、比企谷君。
    二人がそばにいてくれる限り、私はきっと何だってできる。
    「あなたに引導を渡す」
    「Sword Vent」
    光を浴びて美しく光る鋭利な剣を引き抜く。
    「Sword Vent」
    姉さん、いや、オーディンが手に取ったのは、黄金に輝く二対の剣だ。
    「行くよ、雪乃ちゃん」
    彼女の声を聞き終える前に、私は動き出していた。
    「はぁぁっっ!」
    迷いなく心臓部を狙った一撃。
    完璧なタイミングなはず。
    だが、手ごたえは無かった。
    オーディンの体に触れると同時、そこに黄金の羽根が無数に舞ってその姿が消えた。
    「ぅっ!」
    と、後方から衝撃を受ける。
    無防備な背中を切りつけられた。
    「ハッ!ハァッ!」
    二発、三発と連続で攻撃を繰り出すが、そのいずれも当たらない。
    私の攻撃が少しゆるむと、すかさずオーディンは攻撃を繰り出してくる。
    「……っ!」
    「Blast Vent」
    辺り一帯にダークレイダーの起こした強風が吹き荒れる。
    「……」
    オーディンの姿が消えて、しばらく出現しなくなる。
    「……っ!」
    気をゆるめてしまった一瞬を見計らったかのように、オーディンは上空に現れた。
    そして、風を利用して威力を高めた空中からの降下キックを繰り出してくる。
    くしくもそれは、私が比企谷君との戦いで使った技だった。
    彼との戦いに踏み込まれたような気がして、私の頭に血が上った。
    「Trick Vent」
    弱った自分のカバーをさせるように、7体の分身を呼び出す。
    分身たちは、オーディンが現れた先から攻撃していく。
    これにはいささかオーディンも戸惑ったようだった。
    「Advent」
    だが、その状態は一瞬にして終わった。
    オーディンの契約モンスターであろうフェニックスが出現して周囲を飛び回り、その羽に当たって分身はことごとく消された。
    「ファァァッッ!」
    甲高い声で鳴き、フェニックスは私に向かってくる。
    衝撃に耐えられず、私は吹き飛ばされる。
    その衝撃で、サバイブ体が解けてしまった。
    「……っ!」
    「Sword Vent」
    倒れてしまった状態でも、何とか武器を手にすべく、使い慣れた得物『ウイングランサー』を出現させる。
    「ふふっ、ゲームセットだよ、雪乃ちゃん」
    顔は見えないが、勝ち誇った笑みで彼女は言った。
    剣をわたしの上で交差させる。
    すぐにのど元や心臓部につき刺さないのは、彼女の余裕の表れだろう。
    「バイバイ、雪乃ちゃん」
    オーディンの剣が持ち上げられたその瞬間、私が狙っていた、その一瞬。
    私は右手もとにころがしてあったウイングランサーを手に取った。
    そして可能な限りの速さで、それをオーディンのベルトにつき刺した。
    「う、ぐ、……ああぁっ!」
    オーディンが、金色の粒子となって消えていった。
    「終わった……の?」
    確かにオーディンは消えたはずだ。だが、何か嫌な感じがぬぐえない。
    姉を殺したからなどという思いでは決してないはずだ。
    そうではなく、まだ終わっていない、というか。
    姉の生死を確認するため、私はミラーワールドを後にした。
  58. 58 : : 2014/04/23(水) 02:14:05
    頑張って下さい(=゚ω゚)ノ
  59. 59 : : 2014/04/23(水) 22:20:09
    ⇒⇒⇒六さん
    ありがとうございます!
    完結まではまだしばらくかかりますが、コツコツ書いていこうと思います!
    六さんもいつも楽しい話をありがとうございます!
  60. 60 : : 2014/04/23(水) 22:20:39
    「はぁっ、はぁっ」
    先の戦闘とサバイブを使ったことによる代償とで、俺は満身創痍の状態で元の世界へと戻った。
    俺が戻ったのとほぼ同時、雪ノ下もミラーワールドから帰還した。
    その隣に陽乃の姿は無い。
    「やったのか!?」
    彼女の力を過小評価していたつもりはないが、まさか本当にオーディンを撃破しようなどとは思っていなかった。
    例え無駄だとしても、雪ノ下が戻ってきていなかったら再び戦いに行くつもりだった。
    「ええ、一応、ね」
    そう言った雪ノ下の表情はしかし曇っている。
    「ただ、あの人のことだから、この程度のことで終わるとは思えない……」
    「倒しは、したんだよな……?」
    「ええ、ベルトを突き刺したら、そのまま消えたわ。……材木座君やシザースの時と同じだったから、多分、間違いは無いと思うけど……」
    「そう、か。まぁ、今考えても仕方ないことだな」
    周囲の生徒は、俺達とは別の世界を生きるかのように騒いでいる。
    熱狂と欺瞞と虚構、そしてほんの少しの真実が入り混じる祭典の開幕まであとわずか。
    ついに、明日は文化祭だ。
  61. 61 : : 2014/04/23(水) 22:20:56
    暗闇の中、生徒達のざわめきが響く。
    一つ一つには意思が込められたものであっても、それらが無数に集まると意味をなさない。
    真っ暗でなにもはっきりとしない。
    太陽のもとでは違いが映し出され、どうしようもなく別物だと思い知らされるが、互いの姿も曖昧な今は、闇の中で誰もが一つになっている。
    なるほど確かに、行事の際に暗くするのは理にかなっている。
    であるならば、漆黒の中でスポットライトを浴びるという行為は、そのものが他とは別であることを示唆する。
    さればこそそこに立つ者は特別な存在と言えるし、そうであるべきだ。
    生徒達の声が、一つ、また一つと消えていく。
    『十秒前』
    インカムの先の誰かが告げた。
    「五秒前」
    息をするのを止める。
    「三」
    そこでカウントダウンがやんだ。
    舞台袖から見上げた二階の窓から、雪ノ下がステージを見下ろしている。
    瞬間、目も眩むほどのまばゆい光がステージを照らす。
    「お前ら、文化してるかー!!!?」
    「うおおおおぉぉーっ!」
    突如そこに現れた生徒会長の城めぐりの姿に、会場の熱は一気にわきあがった。
    「すべてを壊し――?」
    「すべてをつなげー!!」
    そのスローガン浸透してるんだ……。
    「俺達の旅は―――!?」
    「終わらなーい!」
    「青春スイッチ―――?」
    「オーーーーン!!!」
    うわー、バカだなーうちの学校。
    宇宙き、たと言っておいてやるか……。
    「それでは、委員長よりご挨拶でーす」
    ステージ中央へと歩く相模の表情は硬い。
    千人超の視線を一身に間も彼女は背負う。
    センター位置に到達しないうちに、彼女の足は止まった。
    マイクを持つ手は震えている。
    がちがちの腕がようやく上がり、相模が一声を放とうとしたその瞬間。
    き―――んと、耳をつんざくハウリング。
    あまりのタイミングの悪さに観衆はどっと笑う。
    その笑いに悪意が無いのははたから見れば明らかだ。
    だが、ステージに立つ彼女はそうは感じていないだろう。
    ハウリングが終わっても話しだせずにいた。
    「では気を取り直して、委員長どうぞ―!」
    城廻の声で再スタートがかかったのか、相模は握りしめていたカンペを開いた。
    焦った指先は簡単に狂う。
    カサリと音をたてて落ちたカンペが、またも生徒たちの笑いを誘う。
    真っ赤な顔で拾い上げる相模に、観衆からは「頑張れ―」などという無責任な声が飛んでくる。
    彼らにはその額縁どおりの意味しかないはずだ。
    だが、それは決して励ましにはならない。
    みじめさを味わっている者にかけるべき言葉など無いのだ。
    相模のあいさつは、カンペを見ながらだと言うのに、つかえ噛みながら、予定時刻を大幅にオーバーして進んでいった。
    前途多難な幕開けだ……。
  62. 62 : : 2014/04/23(水) 22:21:43
    「さっきから仕事してるふりしてるみたいだけど、やること無いの?」
    文化祭本日程が始まり、教室内をうろうろしていると、海老名さんに声をかけられた。
    「やること無いなら受付お願いしていい?それともユー出ちゃう?」
    出ない出ない。首のふりだけで意思を伝える。
    「なら受付よろしくね。公園時間の案内、聞かれたら答えるだけでいいから」
    「わかった」
    時間帯は把握していなかったが、教室前にポスターが貼ってあるからそれを見れば大丈夫だろう。
    ていうか書いてるのにわざわざ俺に尋ねる奴もいないだろう。
    うわ!座ってるだけでいいとかどんな仕事だよ。この経験を生かして将来はそんな職業につこうと思います!
    公演をしていない時は教室の扉を閉める。
    どうやら受付には留守番的な役割もあるようだ。
    クラスメイト達が休憩をしてたり、他のクラスの出し物を身に言っている間も俺はパイプいすに座っていた。
    明日は文実で一日中狩りだされるので、クラスの方に参加できるのは今日だけだ。
    事前の準備もしていない、二日目も働けないのだから、このくらいは仕方ないだろう。
    まぁ、どっちともあのアラサ―が俺に押し付けたから悪いんだけどね!
    ただ、これでクラスの出し物に参加したという名目が立つのだから、こういう役回りにはむしろ感謝すべきだ。
    そして、そんなところまで気を回し、俺の為に何かしてくれる奴というのはクラスに一人しかいない。
    「おつかれー」
    由比ケ浜が机にどさっとビニール袋を置いた。
    机に立てかけていたパイプいすを広げて俺の横に座った。
    「どうだった?」
    「よかったんじゃねぇの。特に戸塚とか戸塚とか戸塚とか」
    「何でさいちゃんしか見てないし……」
    演劇としてのできはともかくとして、観客の盛り上がりは良かった。
    面白さを追求したエンターテインメントとしては十分に成功と言っていいだろう。
    葉山をはじめとしたリア充グループを主要キャストに据えることで、多くの客を集めることができた。
    「みんなずっと頑張ってたからね」
    「ま、そうだな。頑張ったんじゃねぇの。俺いなかったからよくわかんねぇけど」
    「ヒッキーは文実だったから仕方ないよ。あ、何でクラスの円陣に入らなかったの?」
    「例え文実といってもやってないのに参加すんのはおかしいだろ」
    「やっぱりヒッキーはヒッキーだなぁ」
    ため息交じりに彼女は笑う。
    「そうだ、もうお昼ごはん食べた?」
    「いや、まだだけど」
    「なら、これ一緒に食べようよ!」
    机に置いていたビニール袋を持ち上げて由比ケ浜はいう。
    「ん、なにそれ」
    「じゃじゃーん!ハニト―だよ!」
    パンだった。一斤丸々の食パンだった。
    それに生クリームやらチョコやらが塗りたくられている。
    色々トッピングはあるが、ようはこれただの食パンだな。
    「はいっ!」
    にこにこ笑って、手でちぎったパンを俺に渡してくる。
    あ、素手でやっちゃうんですね。別にいいけど。
    「まいう―!」
    いつからお前はデブ芸人になったんだよ……。
    食パンを食べるその顔は幸せそうだ。甘いもの好きなのかな。
    そんな表情を見ていると、俺もこれが美味い物のように見えてくる。
    少しだけワクワクしながら口に入れた。
    ……パンだ。まぎれもねぇ食パンだよ。しかもなんか硬いし、中まで蜂蜜しみてないし……。
    これをうまそうに食う由比ケ浜の味覚が信じられない。
    料理もだめなら舌もか……。
    「うっまぁ!」
    俺の視線も気にせず彼女は次々と平らげていく。
    そんな由比ケ浜を見ていると、批判する気にもなれない。
    彼女が食べ終わるのを見計らって、俺は口を開く。
    「そういや、これいくらだった?」
    「あ、いいよいいよ。別にこれくらい」
    「そういうわけにはいかねぇだろ。俺は養われる気はないが施しを受けるつもりはない!」
    「ど、どう違うの?」
    「ばっか全然違うだろうが、いいか、そもそも」
    「あ、じゃぁ私がヒッキーを養ってあげるよ!」
    「お前はバカであんま稼げなさそうだから断る」
    「理由がひどすぎるっ!?」
    「ま、つーわけで半分ちゃんと出すから」
    「も―、ヒッキーめんどくさいな―。じゃぁ今度なんかおごって?それならいいでしょ?」
    「えー、こういうのあんま伸ばしたくないんだけど……」
    それは、友人として言った言葉ではないだろう。だからこそ、その距離感を測りあぐねてしまう。
    「いいから!決定!」
    「……ヘイヘイ、わかったよ」
    いつもなら断るところだが、今日は皆が羽目を外す文化祭だ。
    だからこのくらいは、な……。
  63. 63 : : 2014/04/23(水) 22:22:17
    文化祭も二日目を迎えた。
    生徒たちだけで行われた一日目とは違い、今日は近所やら他校の生徒やらも来る。
    当然、その分だけトラブルも多くなる。
    よって、今日は末端の俺も文実として終日駆り出されることになる。
    そんな俺の仕事といえば、記念撮影だ、。
    各クラスの出し物や観客の様子を撮影する。
    適当に何枚か取れば終わりだと思っていたのだが、なかなかそうもいかない。
    いざ撮影を始めると、「あの、やめてください……」とか普通に言われるからだ。
    そのたびに俺は文実の腕章を見せる羽目になった。結構傷ついたぜ……。
    そして、何枚目かの写真を撮り終わった時、突如背中に衝撃を受けた。
    「うぉっ!」
    「おにいちゃん!」
    「ぉぉ、なんだ小町か」
    抱きついて甘えてくる様子は非常に可愛い。同じ千葉に住む兄として妹相手に町中でプロポーズとかしはじめるレベル。
    「一人で来たのか?」
    「うん、だって、お兄ちゃんに会いに来ただけだから……。あ、今の小町的にポイント高い!」
    「それさえ言わなければなぁ……」
    「マジレスすると、受験前のこの時期に友達誘うのは気が引けちゃってね」
    「女の子がネット用語を使うな」
    ペシリと頭をはたく。
    「あれ、そういうお兄ちゃんも一人?」
    「ばっかお前、俺が一人じゃない時の方が珍しいだろうが」
    「結衣さんや雪乃さんは?」
    「あいつらは仕事だろ」
    「おにいちゃんは何で教室にいないの?居場所がないの?」
    「俺の友達は愛と勇気だけなんだよ」
    「わー、すごーい」
    何その棒読み。傷つくからやめてくれる?
    「で、何してんの?」
    「仕事だよ」
    「なん、だと……?」
    「んだよ、文句あんのかよ」
    「仕事、お兄ちゃんが、仕事……」
    小町は感慨深げにつぶやく。
    「バイトも大概長続きしないでやめて、ばっくれてそのまま黙ってやめちゃうお兄ちゃんが、仕事……」
    お兄ちゃんに対する認識ひどすぎない?何一つ反論できないのが悲しいことではあるが。
    「小町、嬉しいよ……。でも、お兄ちゃんが遠くに行っちゃったみたいでさびしいな」
    なんでこの子は妹なのに親目線なの?
    すっごい恥ずかしいからやめてくれ。
    「ま、仕事っていっても下っ端の使いっ走りみたいなもんだ。社会の歯車の一つ、って奴だな」
    「ああ、なら納得だ」
    そこで納得しちゃうのかよ……。
    言った俺も自分で納得しちゃったけどさ……。
    そのまま俺達は二人で廊下をだらだらと歩く。
    と、小町が感心したような声を出す。
    「はぁー、やっぱり高校は違うね―」
    「予算とかが違うだけだろ。やろうと思えばお前らだってできると思うぜ?」
    「うーん、確かにそうかもね。じゃ、お兄ちゃん、こまちいろいろ見てくるから」
    言うが早いか、小町はとっととどこかに行ってしまった。
    小町は周囲とのコミュニケーション能力もかなり高いが、それでいて単独行動をこのむ方でもある。
    下の子特有の容量の良さが彼女にはある。俺というキングオブぼっちを見て育ったからか、そのメリットデメリットを正しく理解しているように思う。
    そして、ぼっちであることのメリットと集団にいることのメリットを上手に使いこなしている。
    小町の役に立てたのならば、俺のぼっちライフも悪くなかったのだろう。
    まぁ、兄弟・姉妹にもさまざまな形がある。
    俺のように、一般的にいえば失敗作と言える兄であれば、彼女の気も楽だっただろう。
    むしろ小町の為にあえてダメ人間になったまである。
    俺のような人間となら、比較されても苦ではないだろう。
    だが、俺が度を越して優秀であったならどうだっただろうか。
    そんなことを考えたのは、視線の先に彼女の姿を認めたからだろうか。
  64. 64 : : 2014/04/23(水) 22:22:22
    どんなに周りに人がいても一目でそれとわかる。
    雪ノ下雪乃は一つ一つの教室を見回っているようだった。
    その相貌は常よりもいくらか暖かい。
    経緯はどうあれ、自分のやったことの結果が出ているのだからそりゃぁ暖かくもなるだろう。委員長の相模は何も仕事をしなかったのだから、この成果は彼女一人の物といえる。
    彼女でなければ、文実はいつまでもダラダラとして、この文化祭をぶち壊しにしていただろう。
    それに、葉山隼人と雪ノ下陽乃の妨害工作を乗り越えてみせた。それは間違いなく、彼女の力だ。
    と、彼女は視界に俺を捉えたらしい。
    よ、と俺は軽く手を上げる。
    すると、その視線が冷気を帯びた。
    なんでだよ……。
    胡乱なまなざしのままで、彼女はこちらに寄ってきた。
    「今日は一人なのね」
    「俺は基本いつでも一人だ」
    あれ、こんなことさっきも言った気が……。
    「ところで、何をしているのかしら」
    「仕事だよ。見りゃわかんだろ」
    「わからないから聞いてるのよ」
    わからないのか……。ちょっとショックだよ。
    が、よく考えれば今は対して何かをしているわけでもなかった。
    「で、そう言うお前は?見回り?」
    「ええ」
    「クラスの方はいいのかよ」
    「私に文実を押しつけておいてそちらまで手伝えというのはおかしな話でしょう」
    こいつも俺と同じ感じだったのか。
    「それでは、私はこれで」
    「ああ、じゃぁな」
    「ええ、また」
    他愛もないことではあるが、『また』と言いあえる関係もなかなかいいものだと俺は思った。
  65. 65 : : 2014/04/25(金) 00:03:37
    ぶらぶらと歩いていると、案外あっという間に時は過ぎる。
    「そろそろだな」
    俺の午後からの仕事後半は、体育館でのタイムキーパーだ。
    有志のバンドなどは時間オーバーすることが多々あるので、しっかりと制限時間を伝える人間が必要なのだ。
    ていうか聞かない人間には言っても無駄だと思うんだけどな……。この仕事本当にいるか?
    まぁ、文句は言うまい。社畜は黙って働くからこそ社畜なのだ。
    体育館に近づくと、観客の耳を割くような叫び声が聞こえてきた。
    ステージに立っている人間を見て俺は驚かずにいられなかった。
    「雪ノ下、陽乃……」
    どこまでそこが知れない奴なのだろうか。ベルトを破壊しても、あの世界で倒しても、蘇る。
    こんなの、ただの反則だ。
    と、そんな時見知った姿を見つけたので俺はそいつに歩み寄った。
    「よぉ、雪ノ下」
    「比企谷君……」
    「案の定というかなんというか、生きてたな」
    「……ええ」
    彼女の顔が暗くなったので、俺はこの話題を打ち切ることにした。
    「それにしても、すげえな、あいつ」
    雪ノ下陽乃は管弦楽部のOB、OGを集めて、自身は指揮をしている。
    観客は一体となって、競うように叫び声をあげている。
    そこにいる人間を無理やり取り込んで内輪にしてしまうと言うか、何というか。
    そしてそれに乗ってしまうのはあの楽団の実力と、そして何より雪ノ下陽乃の圧倒的なカリスマ性だろう。
    「……わ」
    周りの声にかき消されそうな小さな声で、彼女は呟いた。
    「あん?」
    「流石だわ、と言ったのよ」
    「意外だな、お前が素直に褒めるなんて」
    「これでも、あの人のことは評価してるのよ……長い間、追い続けていたわ」
    「私もああなりたいと、願っていたものよ……」
    「なんなくていいだろ。お前は、お前のままでいい」
    雪ノ下自身は気づいていないかもしれないが、彼女は遥かに姉よりも魅力的だ。
    そんな彼女があんな奴にけがされるのを、黙って見ていることなどできない。
    「お前はずっと、お前のままで……」
    そのつぶやきも観衆達の声でかき消されてしまったのか、雪ノ下から返事は無かった。
  66. 66 : : 2014/04/25(金) 00:03:59
    俺のタイムキーパーとしての仕事は終わり、今再び記録雑務として、ステージの様子を収めるためカメラを構えている。
    充電を終えたインカムを整理していると、雪ノ下があっち行ったりこっち言ったりと非常に目障りだった。
    「んだ、なんかあったのか?」
    問いかけると、ハッとしたような表情で雪ノ下が聞き返してきた。
    「相模さんがどこにいるか知らないかしら」
    言われて辺りを見回してみる。
    確かに見てないな。
    「エンディングセレモニーの最終打ち合わせをしないといけないのだけど……」
    「ちょっと連絡してみるね」
    城廻が電話をするが、どうやら反応は無いようだ。
    「みんな、いる?」
    城廻の声に、生徒会メンバーがどこからともなく現れる。
    「相模さんを探してくれる?」
    「御意」
    御意って……そんな話し方する奴初めてみたな。
    しかしこれはまずいな……。次の葉山達のステージが終われば過ぎにエンディングセレモニーが始まってしまう。
    もう時間はほとんど残されていない……。
    雪ノ下が腕を組み、小さな唸り声をあげていると、それを見た由比ケ浜がパタパタとやってきた。
    「どったの、ゆきのん」
    「相模さんがどこにいるか、知らない?」
    「さぁ、見てないけど……。いないと困るの?」
    雪ノ下がうなずくと、由比ケ浜は携帯を取り出した。
    「んー。ちょっと聞いてみるね」
    由比ケ浜の人脈は広い。
    もしかしたら見かけた奴がいるかもしれない。
    「放送とか入れてみたらどうだ?」
    「そうね」
    放送室を手配してアナウンスをかけてはみたが、一向に応答は無い。
    「雪ノ下さん!」
    アナウンスを聞きつけたのか、火野先生がやってきた。
    「相模さんは来た?」
    雪ノ下は黙って首を振る。
    「……そっか。こうなったら……」
    火野先生は三枚のメダルを取りだした。
    緑と黄緑色、昆虫系のメダルを使うガタキリバコンボだ。
    「火野先生?」
    「このガタキリバコンボは、分身体をたくさん作ることができる。これで一気に探せば多分」
    「しかし、観客達のパニックを引き起こすかと」
    「マスコットキャラみたいなことで何とかならないかな……」
    「ちょっと難しいでしょうね」
    「なら、ラトラーターコンボならどうかな。チーターメダルの力があれば」
    「それも、多分厳しいと思います。もし人にぶつかったらしゃれにならないし……きっとないとは思いますけど、万が一、ということもありますし……」
    「そっか……そうだね」
    「参ったわね……。このままじゃエンディングセレモニーができない」
  67. 67 : : 2014/04/25(金) 00:04:18
    「さがみん、いないとまずいの?」
    「ええ。挨拶、総評、賞の発表。これが彼女の仕事なのよ」
    それらは代々委員長の仕事だ。例え相模がどんな人間であろうとそれは変わらない。
    「最悪、代役として、私か雪ノ下さんが……」
    「それは難しいと思います。優秀賞と地域賞の結果を知っているのは相模さんだけ」
    「じゃ、賞の発表は後日に回すか」
    「最悪の場合はね。でも、地域賞はここで発表しないと意味がない」
    地域とのつながりを売りにした文化祭だ。地域賞の新設一年目から後日発表ではしゃれにならない。
    何にせよ、相模を見つける必要がある。
    だが、いまだに連絡が取れておらず足取りもつかめていない。
    雪ノ下が唇をかみしめる。
    あの野郎、最後まで迷惑掛けやがって……。
    「どうかした?」
    発表直前だというのに余裕しゃくしゃくの葉山が問いかけてくる。
    「相模さんに連絡がつかなくて……」
    城廻からその言葉を聞いた彼の行動は早かった。
    「副委員長、プログラムの変更申請をしたい。もう一曲追加でやらせてもらえないか?
    時間もないし、口頭承認でいいよね」
    「……そんなことできるの?」
    「ああ。優美子、もう一曲弾きながら歌える?」
    「え、ムリムリムリ!絶対無理だから!」
    緊張したところにそんな提案がされ、三浦は素で驚いている。
    「頼むよ」
    しかし葉山に微笑みかけられると、困ったように唸る。それから頭を抱え出す。
    「……恥を忍んで、頼めるとありがたいのだけれど」
    雪ノ下のそんな様子を受け、三浦は彼女を睨みつけた。
    「別に、あんたの為じゃないからね」
    それは、照れ隠しでも何でもないただの本心だっただろう。
    禍々しいまでの敵意だ。
    しかし、どうやらこの依頼は受けてもらえるようだ。
    「ほら、スタンバるよ」
    三浦に声をかけられた戸部達が不満の声をあげながらも歩いていく。
    その様子を見て、葉山がふうっと息を吐く。
    「……感謝するわ」
    「気にしないでくれ。俺もいいところ見せたいしね。それより……時間を稼げてもせいぜい十分が限度だ」
    十分だ、十分待ってやる!目が、目がぁぁっ!
    「わかっているわ」
    何の手がかりもない状態で、十分以内に彼女を見つけ出し、そしてここに連れ戻す。
    ……あまりにもハードルが高すぎる。
    「あたし、探してくるよ!」
    「闇雲に探しても見つからない」
    由比ケ浜が走りだそうとするのを止める。
    すでにある程度の人数が探し、様々なつてを使っている。
    それでも見つからないということは、彼女は人目のつかないところに隠れているということだ。
    ミラーワールドにでも隠れられたらもうお手上げなのだが、制限時間もあるしそれは無いだろう。
    こうなれば、相模を見つけるのを諦めて次善策を取った方がいいだろう。
    「誰か代役を立てて、賞の結果もでっち上げればいいだろ。認めるのは癪だが、雪ノ下陽乃の管弦楽演奏でいいんじゃないか?」
    「比企谷君……」
    「さすがに……」
    「それはちょっと……」
    「ヒッキーまじきもい……」
    おい!俺がキモイことは関係ないだろ!
    火野先生、葉山、城廻、由比ケ浜に立て続けに否定される。
    と、こんな時いの一番に俺をディスってくる雪ノ下は口を閉ざしたままだ。
    「比企谷君」
    「なんだ?」
    「あと十分あれば、見つけられる?」
    「……」
    その可能性を検討する。
    相模を見つけたとして、ここに連れてこなければならない。
    つまりは十五分以内には彼女を見つけないといけない。
    俺の脚で行ける場所はせいぜい一ケ所が限界だ。
    もし相模が校外に出ていればその時点でアウト。
    「……わからん、としか言えん」
    「そう、できないとは言わないのね。その言葉だけで十分だわ」
    雪ノ下はしばし瞑目し、そしてカッとその目を見開いた。
    「姉さん?今すぐ舞台裏に来て」
  68. 68 : : 2014/04/25(金) 23:01:54
    雪ノ下が電話をかけてからすぐに陽乃は現れた。
    「ひゃっはろー、雪乃ちゃん。何か用かな?」
    そう言って彼女は意地の悪そうな笑みを浮かべた。
    まさかとは思うが、今の状況を把握しているのだろうか。
    いや、彼女でなくとも、自分を嫌っている人間に急に呼び出されれば尋常ではないことが起きているということも分かるかもしれない。
    「姉さん、手伝って」
    あまりに直截ないい方に、陽乃も驚いているようだった。
    黙ったまま凍てつくような眼差しで雪ノ下を睨む。
    雪ノ下はその視線をそらさない。かつてそむけてしまったことを悔やむように。二度と間違わないと言うかのように。
    その視線の交錯は、あまりにも冷ややかだ。
    ふと、陽乃の頬が緩む。
    「へぇ……、いいよ。雪乃ちゃんがわたしにお願いするなんて初めてだし。今回はそのお願い、聞いてあげる」
    遥か高みからかけられるその言葉に甘さは無い。
    すげなく断るよりも、はるかに辛辣だ。
    と、そう言われた雪ノ下はおかしそうにわずかに笑った。
    「……お願い?勘違いしないでほしいわね。これは実行委員としての命令よ。組織図を覚えていないの?指示系統上、私の方が立場で上であるということをわきまえなさい。有志団体代表者の協力義務は校外の人間でも適用されるのよ」
    絶対の自信を持ってそう言い返す。
    自分から頼んでいるにもかかわらず、絶対上位の姿勢を崩さない。
    その姿が、出会った頃の彼女の姿を思い起こさせる。
    決して媚びず、自らの正しさを振りかざし、絶対の刃で相手を斬り伏せる。その姿こそは雪ノ下雪乃。
    それこそが仮面ライダーナイト。誇り高きその名にふさわしい
    一方の陽乃は、実に楽しそうに笑う。
    「で、その義務に反したらどうなるの?出場許可を取り消されても今更なんてこともないし。あ、静ちゃんに言いつけちゃう?」
    その正しさこそは幼さだと、箱庭論にすぎないと告げるように彼女は嘲笑う。
    雪ノ下の正義は、原理原則に忠実な、本来あるべき姿を相手にも求めるものだ。つまるところ、陽乃のようなリアリストには通じない。
    ならここは、ニヒリストの俺の出番かね……。口を開こうとした、その時だ。
    「そうね、いうなれば、あなたの正義、かもしれない」
    「……?」
    陽乃は怪訝な顔をする。
    俺もなにを言わんとしているのか分からない。
    「あなたは幼いころから言っていたわね、強さこそが正義だ、と。そんな大義名分のもとずいぶんとわたしにくだらないことをしてくれたわね。そして今、私はあなたを倒した。
    仮面ライダーとして、真に、あらゆる力が求められる決闘で」
    言って、彼女はカードデッキを取り出す。
    雪ノ下の姿を照らすかのように、蝙蝠のエンブレムが金色に光る。
    「そんな私に、貸しを作れるのよ?これをどうとるかは、あなた次第だけど、ね」
    ……。二の句が続かなかった。
    流石だ、それでこそお前だよ、雪ノ下。
    「ふぅん……言うようになった。本当に成長したのね、雪乃ちゃん」
    「前にも言ったはずよ?私は昔からこうだった。あなたが気づかなかっただけよ」
    「ううん、変わったよ。誰が変えたのか変わったのか……で、どうするつもりなの?」
    「場をつなぐわ」
    「だから、どうやって?」
    「私と姉さん、あと二人いれば何とか……。できればもう一人」
    雪ノ下はそう言って、ステージ脇にある袖の楽器を見た。
    「おい雪ノ下、本気か」
    その意外さに思わず尋ねてしまう。
    「ふふ、面白いこと考えるねぇ。で、曲は?」
    「あなたが学生時代にやった曲。今もできる?」
    「あー、その曲か―」
    陽乃は感心したような声を上げる。
    「誰に物を言ってるの?そう言う雪乃ちゃんこそできるの?」
    「それこそ愚問だわ」
    言うと雪ノ下は不敵に笑った。
    それを聞いて陽乃は頷いた。
  69. 69 : : 2014/04/25(金) 23:02:12
    「そう。じゃああと一人か」
    いやいや、今後二人って言ったばっかだろ……。
    すると、陽乃は大きく手を振った。
    「静ちゃ―ん」
    「……仕方ない。私がベースをやろう。まぁ、まだできるだろ」
    さらに陽乃は振り返って言う。
    「めぐり、キーボード、できるね?」
    「任せてください!」
    「これで後はボーカルだけだね」
    その声を聞いた雪ノ下は、静かに口を開いた。
    「……由比ケ浜さん」
    「うぇい!?」
    まさか自分が声をかけられるとは思っていなかったのだろう。心底驚いたような声を出す。
    そして彼女は、さらに一歩近づいて言う。
    「あなたを頼らせてもらっても、いいかしら」
    「えっと、その……全然自信ないし、多分うまくできないと思うけど、でも……」
    意を決したような表情で、
    「そう言ってくれるの、ずっと待ってたよ」
    しっかりと、雪ノ下の両手を握った。
    「ありがとう」
    「あ、でもわたし歌詞とかうる覚えだからね?その辺は期待しないでね!?」
    「……正しくはうろ覚えというのよ。少し不安になってきたわ……」
    「ゆきのんひどいよ!?」
    「冗談よ。その時はわたしも歌うわ。だから、……頼ってもらってもかまわない、から」
    「ゆきのん!」
    由比ケ浜がいつものように雪の下に抱きつく。そんな彼女の背中を、雪ノ下はいつくしむように優しくなでる。
    「でも、それでも十分ちょっとか……」
    ふと、思いつめたように火野先生が声を出した。
    「よし!俺も何か一曲やるよ!そうすれば比企谷君が探す時間も、十五分は取れるはずだ」
    「できるんですか?」
    「多分、だけどね。あ、でもトリとかは恥ずかしいから葉山君達、順番変わってもらってもいいかな?」
    「はい、わかりました」
    「比企谷君、こんな言い方はあんまりよくないんだけど、信じてる」
    「ヒッキー、任せたよ!」
    「比企谷君、私の、ゆう、友人として……失敗は許さないわ」
    火野先生、由比ケ浜、雪ノ下、三者三様のエールを受けて俺は歩き出す。
    それから火野先生はゆっくりとステージへ向かっていく。
    スポットライトの当たるその場所は、俺の居場所じゃない。
    薄暗い出口から続く、人気のないその道こそは俺の立つべき舞台。
    仮面ライダー龍騎、比企谷八幡の独り舞台だ。
  70. 70 : : 2014/04/25(金) 23:02:42
    「You count the medals 1,2、and 3
    Life goes on! Anything goes!Coming Up OOO!
    いらない持たない夢も見ない、フリーな状態、それもいいけど
    運命は君、ほっとかない。結局は進むしかない。
    未知なる展開Give me energy
    大丈夫、明日はいつだってブランク!自分の価値は自分で決める物さ!
    OOO!OOO!OOO!カモン!」
    火野先生の歌い声と、観客達の歓声が聞こえてくる。
    どうやら出だしは好調のようだ。
    今この時間、校舎に人影はほとんどない。
    どの道すぐにエンディングセレモニーが始まるから、最後にみんなでひと騒ぎしようと考えて融資ステージを見に行く人が増えるというわけだ。
    こうして人が減ったのは相模を探すのには好条件だ。
    だが、だからと言って色々な場所に行くことはできない。
    身体を限界以上に速く動かすこともできない。
    高速化できるのは、思考のみだ。
    ぼっちが他に誇れるものは、その深い思考だ。
    本来他人とのコミュニケーションに使われるべきリソースをすべて自己の中で完結させるため、やがてその思考は哲学ともいえるレベルにまで達する。
    その思考を全て費やして、あらゆる可能性を模索し、反証を繰り返す。
    その中で否定しきれなかった物を、全力で立証していく。
    それをひたすらに繰り返せば、おのずと解は出る。
    今相模は一人でいるはずだ。ならば、その思考を読めばいい。
    なんせぼっちに関して言えば、俺はベテラン中のベテランだ。
    なめんじゃねぇ。 
    相模はその能力からは考えられないほどに自意識が強い。
    一年時では派手なグループに属していて、その環境、序列になれてしまった。
    だが、二年になってからは三浦という女王によってその立場を失ってしまった。
    その事態が彼女にとって面白いはずがない。かといってそうした階級意識は自身でどうにかできるものではない。
    さればこそ、自分より下の階級の者を求める。
    せめて二番手のトップになろうとする。そして、それには成功したはずだ。
    だが、一度上げた生活レベルを戻すの至難を極める。それは、スクールカーストにおいても同様だ。
    ならば、彼女がとるのは代替行為だ。
    そこで今回の文化祭。
    そしてその、文化祭実行委員長というポストは彼女の願いを満たすに足りただろうか。
    足りたはずだ。仕事は何一つしていないにしても、葉山隼人の推薦を受けて、校内で知らぬ人はいない雪ノ下雪乃の協力も取り付けることができた。
    さらには、伝説ともなっている雪ノ下陽乃に褒められもした。
    ただの嫌味や皮肉だったが、彼女が気づいていないのだから問題は無い。
    だが、それすらも上手くいかなくなったら。代替品すら、失ってしまったら。
    文実のせいでクラスの方にはあまり出られない。そして渋々文実に行けば、相模の代わりを十分に、いや、過剰にこなしてしまう雪ノ下がいる。
    そして、彼女のよりどころとなっていた葉山でさえも雪ノ下を求める。
    さらには、格下と思っている俺からも散々にけなされ、ライダーの力で排除しようとするも、返り討ちにあう。
    ならば、彼女の自尊心は。大きくなりすぎた自己承認欲求は。
    その考えは手に取るようにわかる。甘いよ相模。
    俺の前に道は無い、俺の後に道はできる、という有名な言葉があるが、相模が今通っている道はまさに俺がかつて歩んだ道だ。
    誰かに見てほしくて、認めてほしくてたまらなかった自意識が爆発した、そんな俺の苦い思い出と同じだ。
    さればこそわかる。お前がどうしたいのか、どうしてほしいのか。
    そして、どうして欲しくないのかも、俺にはよくわかってる。
    自分の居場所を見失った人間が望むこと。それは、誰かに自分を見つけてもらうことだ。
    お前みたいなやつの『自分』なんていないことにも気付かずに……。
    探してほしいからこそ、学校の中にいる。
    それもきちんと探せば見つかる、目のつくところに。
    物理的に考えては入れない場所にはいかないし、心理的に考えてそう遠くにもいない。
    なら、どこだ?考えろ、考えるんだ。決して思考を止めるな。
    あいつの思考レベルは、中学時代の俺に近い。
    そんな時、あの頃の俺は一人でいたい時はどこにいた……?
    ベランダや図書室、か?
    図書室は今は入れない。
    この学校で言えばベランダに当たる場所は……屋上か。
    あそこには以前行ったことがある。
    最短ルートもわかっている。
    ならばあとはもう、走るだけだ!
  71. 71 : : 2014/04/25(金) 23:03:06
    屋上へと続く階段は文化祭の荷物置き場になっていて、容易には登れない。
    だが、人一人が通れるほどの隙間ならある。きっとそれが、彼女の足跡。
    相模はきっと、雪ノ下や由比ケ浜の様になりたかったのだろう。
    誰かに求められて、認められて、頼りにされる存在に。
    それに伴う責任を背負う気なんて、さらさらないくせに。
    委員長というラベルをつけることで自らに箔をつけ、そして他者にレッテルを貼って見下すことで自分の優位性を確かめたかったのだ。
    それが、いつか彼女が言っていた『成長』の正体だ。
    ……ふざけんな。
    安易な変化を成長なんて言うな。
    妥協の末の割り切りを、『大人になる』などとほざくな。
    一朝一夕で人間が変わってたまるか。
    変われ、変わる、変わらなきゃ、変わった。
    そんなのは全部嘘っぱちだ。
    昔や今の、最低の自分を認められないで、一体いつ誰を認められるのだ。
    今までの自分は否定するくせに、未来の自分なら肯定できる。
    それが欺瞞でなくてなんだ。
    実態のない肩書に終始して、認めてもらえるとうぬぼれて、自らの境遇に酔って、自分が勝手に作った鎖に縛られて、誰かに教えてもらわなければ自分の世界を見いだせない。
    きっと彼女には、変身願望があったのだろう。
    仮面ライダーになったのも、それが関係しているのかもしれない。
    ……やっぱり俺はお前が嫌いだよ、相模南。
    だからお前は、俺が倒す。

    階段を上り続け、終点、開けた踊り場に出た。
    かくれんぼはおしまいだ。
    見つけようぜ、俺達の答えを。
  72. 72 : : 2014/04/25(金) 23:03:25
    扉の南京錠は壊れていた。
    扉を開くと同時、心地よい風が俺を吹き抜ける。
    相模はフェンスに寄りかかるようにしてこちらを見ていた。
    その表情が一瞬驚愕に変わり、そして落胆する。
    そりゃそうだろう。お前が見つけてほしかったのは俺なんかじゃないだろうから。
    だがそれはこっちだって同じだ。
    今は、ライダー同士でではなく、ただの生徒として話を進めさせてもらおう。
    「エンディングセレモニーが始まるから戻れ」
    「別にうちがやらなくてもいいんじゃないの」
    「俺もそう思うんだがな。残念ながらそうもいかない。時間がないから急いでくれ」
    「時間って……もうセレモニーは始まってるんじゃないの」
    「本当ならな。今はみんなが頑張って時間を稼いでる」
    「それ、誰がやってるの?」
    「三浦や雪ノ下や火野先生達だ」
    今頃は三浦達の演奏の中盤くらいだろうか。
    「ふーん……」
    「わかったら戻れ」
    「じゃぁ、雪ノ下さんがやればいいじゃん。あの人何でもできるし」
    「そういう問題じゃねぇ。お前の持ってる集計結果とかいろいろあんだよ」
    「じゃぁ、集計結果だけ持ってけばいいでしょ!」
    俺の手に紙を叩きつける。
    一瞬、本気で帰ろうかとも思った。
    それでこいつを徹底的に終わらせる。
    だが、それはできない。
    文実に俺しか関わっていなかったなら、俺は迷わずそうしただろう。
    だがそれは、雪ノ下雪乃のやってきたことを、友のやってきたことを台無しにすることになる。
    それはできない。
    あいつが受けた依頼は、相模南に文化祭実行委員長としての責務を全うさせること。
    だからこそ、俺のなすべきことは一つなのだ。
    解決策はわかっている。
    だが、俺にはそのカードがない。
    ここにきて、手詰まり。
    俺が思わず頭をかいたその時だ。
    後ろから、扉を開く重い音がした。
    「ここにいたのか……。探したよ」
    おそらく彼女が待ち続けていた人物、葉山隼人だ。後ろには相模の取り巻き二人も控えている。
    「葉山君……。二人も」
    相模が期待していた展開だ。
    「連絡とれなくて心配したよ?みんな待ってるから、早く戻ろう。ね?」
    「そうだよ!」
    「うんうん!」
    葉山も時間がないことは重々承知している。
    相模が望んでいる言葉を真摯に伝える。
    そもそもこれは、お前が仕組んだことなんだがな……。
    彼のその姿は、どこか道化じみている。
    「でも、今更戻っても……」
    「そんなことないって」
    「一緒にいこ?」
    「そうだよ。みんな相模さんの為に頑張ってるんだから」
    「でも、迷惑かけちゃったし合わせる顔が……」
    相模はまだ渋る。
    「大丈夫だって。さ、行こう」
    「うち、最低……」
    相模が自己嫌悪の言葉を吐き、またその足をとめた。
    タイミングは、ここだ。全く、つくづく嫌になる。こんなことを考えつく自分に、そして、それを案外嫌っていない自分に。
    「ガアアアアアァァァァッッ!」
    空で、炎龍が咆哮した。
    そこにいた全員が首を上げた。
    「本当に最低だな、お前」
  73. 73 : : 2014/04/25(金) 23:03:39
    上に向いていた視線が俺に集まる。
    観客は四人。俺にしては上等な客入りだ。
    「相模、お前はちやほやされたいだけなんだよ。かまってほしいだけなんだ。泣き真似してる今だって、誰かに慰めてもらいたいだけなんだろ?仕事はしない、責任もとらない、でも尊敬してほしい、大事にしてほしい。そんな奴が委員長として扱われるわけねぇだろうが。本当にお前は最低だ」
    「何、言って……」
    「みんな気づいてるぞ?お前のことなんて興味ない俺がわかるくらいだからなぁ」
    「あんたなんかと一緒にしないでよ!」
    「一緒にすんな、だと?それはこっちのセリフだよ。俺は自分のやるべきことからも、現実からも逃げ出したことは一度も無い。お前みたいなやつとは違う」
    反論を許さぬよう、言葉を慎重に選びながら紡いでゆく。
    「よく考えてみろ。お前のことなんか全然知らない俺が、一番早く見つけられた」
    「つまりさ、誰も真剣にお前を探してなかったってことだよ。そりゃそうだよなぁ、お前の代わりなんて誰でもできるんだから」
    相模の顔色が変わった。これは彼女が一番言われたくなかった言葉だろう。
    「わかってるんじゃないか?自分がその程度の」
    俺の言葉に呼応して、ドラグレッダーが相模に襲いかかる。
    と、その時だ。
    「比企谷、少し黙れよ」
    葉山の右手が俺の胸ぐらをつかんだ。
    そのせいで俺の言葉は途切れた。
    そうだ、それでこそ葉山隼人だ。
    裏切らない奴だ。
    「……はっ!」
    カードデッキを取り出して葉山とにらみ合う。
    「葉山君、もういいから、そんな奴ほっといて、行こ?」
    相模が葉山の背に掌をつける。
    その言葉をきっかけにして、葉山はつかんでいた手を離す。
    「……早く戻ろう」
    相模は友人二人に囲まれてその場を去っていく。
    彼女達がいなくなり、葉山がその扉を閉めた。
    「……どうしてあんなやり方しかできないんだ」
    「どの口が言うんだよ、葉山。お前があの場で取るべき行動は、モンスターを呼び出して相模を守ることだったろ。自分の正体がばれることなんて厭わずに、な。やっぱりお前は欺瞞だらけだ」
    「……」
    「なんなら今からやるか?俺の仕事は終わったんでね」
    ドラグレッダーが葉山に向かっていく。
    と、それを、葉山の持つ手鏡から現れたトラのモンスターが止めた。
    「……はっ、やっぱりか」
    「俺は英雄になる男だ。その世界に、お前はいらない」
    そう言って葉山はくるりと踵を返す。
    「英雄なんてなりたいと思ったことなんて無いからよくわかんないけどよぉ、俺にも一つわかることがあるぜ?」
    葉山がその足をとめた。
    「英雄ってのは、なろうとした瞬間になれなくなる。お前、いきなりアウトってわけ」
    葉山は黙って振り返り、親の仇でも見るかのような目で俺を見た。
    「お前には一生、わからないさ」
    葉山は言うと、黙って再び歩き出す。
    その背を追う者は、もういない。
  74. 74 : : 2014/04/26(土) 23:49:48
    体育館に向かう足は自然と速くなる。
    校舎全体に響くかのようなベースとドラム。
    腹の底にまで響くような振動は、しかしその音だけではない。
    歓声だ。
    打ち鳴らす手、踏みしめる足、そして大きな叫び声が、空間にビートを生み出す。
    俺は体育館の扉に手をかけた。
    聞こえてきたのは、二つの歌声。
    聞くもの全てを勇気づけるような由比ケ浜の明るい声と、ただひたすらに美しい雪ノ下の美声。
    『朝焼けに包まれて走り出した行くべき道を情熱のベクトルが僕の胸を貫いていく
    どんな危険に傷つくことがあっても!』
    やりたい放題のリズム隊を牽制するかのように正確なギター。
    いつの間に着替えたのか、全員おそろいの服を着ている。
    それはしかし、彼女達の正体を知っている物からすれば、どこまでも滑稽なものかもしれない。
    命をかけて、願いをかなえるために殺し合うライダー。
    その四人が、今同時に音を紡いでいる。
    プロさながらの、いや、アマチュアだからこその熱狂。
    今この瞬間、闇の中で誰もが一つになっている。
    『夢よ踊れ、この地球(ほし)のもとで。憎しみを映し出す鏡なんて壊すほど。
    夢に向かえ、まだ不器用でも生きている激しさを体中で確かめたい』
    俺が入ってきたことになど誰も気づかない。
    ステージの上からなど、到底見えないはずだ。
    『愛を抱いて、今君の為に。進化する魂が願っていた未来を呼ぶ』
    長かった文化祭の終焉。
    これですべてが終わる。
    俺の仕事は、記録雑務だった。
    だからせめて、覚えていよう。
    彼女達の姿を、その音色を。
    ただ一人で、一番後ろで壁に寄りかかって見ているだけだけど。
    でもきっと、いや、決して忘れない。
  75. 75 : : 2014/04/26(土) 23:50:08
    エンディングセレモニーはつつがなく行われている。
    相模のあいさつは目も当てられない散々なものだったが。
    とちる噛むは当たり前。
    内容は飛び、優秀賞の発表も忘れる。
    雪ノ下に冷静にカンペを出され、ついに彼女は泣きだしてしまった。
    その姿は他の生徒たちからは、感動の涙に見えたようだった。
    「頑張れ!」やら「良かった!」などの声が飛びまわっている。
    だがそれは、的外れもいいところだ。
    きっと彼女が流していたのは、悔し涙だったのだろう。
    なぜ自分がこんな目に逢わねばならないのか、という思いを含んだ。
    最低の気分を味わった後の優しい言葉は何より心にしみる。
    まぁその最低な気分は俺が味あわせたものだが、彼女がやってきたことへの報いとしては甘すぎるとは思う。
    「大丈夫?」
    「あいつがなんか言わなければよかったのにねー」
    俺の言ったことはすぐさま文実中に広まった。
    更にそれはクラスにも伝播したようで、2Fの連中は俺を見ては何かひそひそとささやき合っている。
    「いや、まじヒキタニ君ひでぇから。夏休みとかもさー……」
    戸部、テメェ……。
    「確かに、ちょっとやり過ぎだったよな」
    葉山は絶賛俺のネガティブキャンペーン実施中である。
    「隼人が言うってことは相当だねー」
    そんな中、由比ケ浜は三浦達のグループを離脱し、俺を見て苦笑いを浮かべ、戸塚は心配に俺を見つめている。
    そんな二人を心配させないよう、軽く手を振る。
    皆にとっての文化祭が終わっても、文実の仕事はまだ残っている。
    さまざまな機材の撤収作業だ。
    文実全員で仕事に当たっていると、
    「みんな、集まって!」
    火野先生に招集をかけられた。
    「まだ少し仕事はあるけど、とりあえずお疲れ様!すっごくいい出来だったと思うよ!打ち上げではしゃぎ過ぎないようにね。それじゃ、本当にお疲れ様でした!」
    その声音はどこまでも優しい。
    互いの努力をたたえ、全員が一丸となった感動の嵐。
    「ほら、委員長」
    城廻が相模の背を叩く。
    「えっと……色々迷惑かけて、すみませんでした。でも、無事に終わって本当に良かったです。お疲れ様でした、……ありがとうございました」
    相模の礼に合わせて、皆が盛大に手を叩く。
    相模が犯した失敗も、彼らの怠慢も、全て等しく青春の一ページに刻まれるのだろう。
    俺はそんな光景を尻目に、教室に戻る。
    疲れで重くなった俺の歩みは、次々と人に抜かれていく。
    相模とその友人が俺の横を通り過ぎる時、その会話を一瞬止めた。
    無視をしているという俺への意思表示だろう。
    やはり甘いし、お前はどうしようもなく偽物だよ、相模。
    本気で人を無視するってのは、意識することなくやるもんだ。
    と、人ごみの中に城廻を見つけた。
    彼女も俺に気づくと歩み寄ってくる。
    「……お疲れさま」
    「ああ、お疲れ」
  76. 76 : : 2014/04/26(土) 23:50:29
    話す彼女の表情は暗い。
    「やっぱり君は不真面目で最低だよ」
    「ハッ、あんたにどう思われようと知ったことじゃないね」
    「私もずいぶん嫌われたなぁ……」
    「返愛機能というものが人にはあるらしい。好意を向けられたら、向けられた方も好意を抱くようになるっていうあれだ。それと同じだな、誰かを嫌いになればそいつからも嫌われる。当然だろ」
    「でも君は、元から私に好かれる気なんてさらさらないよね」
    「ああ、初めて見た時から、お前が嫌いだったよ。お前がやってることは欺瞞だらけの、偽物だからな」
    「なら君は、本物を知ってるの?」
    「……」
    言われて、二人の少女の顔を思い出す。
    「ああ、知ってるさ」
    「そう」
    短く彼女は呟いた。
    「色々あったけど楽しかったよ。最後にいい文化祭ができて嬉しかった。ありがとね」
    そう言うと彼女は笑みを浮かべ、手を振って去っていく。
    俺はそれを黙って見ていた。
    「いいの?」
    背中から掛けられた言葉に返す言葉は決まっている。
    「ああ、これでいい」
    「そう……」
    誤解は解けない。だが、新たに問いかけることはできる。
    そうして出した答えは、きっと正解ではないだろうが、彼女とともに出したその解は、俺好みの回答だ。
    「本当に、誰でも救ってしまうのね」
    「なんのことだ?」
    「本来なら、仕事を放棄して逃げだした相模さんは糾弾されるべき存在だった。
    だけど戻ってきた時の彼女に当てられたのは、気遣うような同情の目線だった。
    文化祭を壊そうとした加害者から、ひどい言葉によって傷つけられた被害者になっていた。取り巻きだけでなく、葉山隼人という証言者までいる、完璧な被害者」
    「深読みしすぎだ。ただの偶然だ」
    「でも、結果としてはそうなったわ。だから、あなたが救ったと言っていいと思うわ」
    「……ま、なんたって俺は人類の愛と平和を守る仮面ライダーだからな」
    「そんなライダーは、あなたと由比ケ浜さんくらいのものよ」
    「お前もだろ、雪ノ下」
    「それこそ何の事だかわからないわ」
    「だろ?なら一緒だ。俺が思ってるのもそういうことだよ」
    「またまたご謙遜を」
    少し雪ノ下に似た、しかしどこまでも不快な声が聞こえた。
    「……姉さん、早く帰ったら?」
    「いやー、比企谷君はいいねー。そのヒールっぷり、最高だよー」
    「お前に言われたかねぇんだよ、悪党野郎」
    「そういうところも好きだなー。雪乃ちゃんにはもったいないかも」
    「もったいないのはあなたと話す時間だと思うわ。いいから帰りなさい」
    「冷たいなー。一緒にバンドやった仲でしょ?」
    「よく言うわ。勝手に好き勝手やってくれて、誰が合わせたと思っているの?」
    「盛り上がってたからいいじゃん、ねぇ比企谷君」
    「ま、確かに盛り上がってはいたな」
    「……見てたの?」
    「後ろの方でな。いい歌だったよ。お前らが歌うと妙にリアリティがあって怖かったけど」
    「Alive a Lifeね。私も好きだわ」
    「雪乃ちゃん小さい頃からよく聞いてたもんねー」
    「いいからあなたはもう帰ったら?」
    「はいはい、帰りますよ。今日は楽しかったよ。お母さんに話したら、どうなるかな、ね?」
    その試すような口ぶりに怒りがわきあがってくる。
    だが、雪ノ下の表情は揺るがない。
    「好きにするといいわ。私はもう、あなた達に利用されるだけの存在じゃない。運命があなた達の手の中にあるなら、私が奪い返す」
    「……本当に変わったよ、雪乃ちゃん。でも、最後に笑うのは私よ」
    カードデッキをかざしてそう言い、彼女は去っていった。
    ……本当に強いよ、お前は。
    「おーいみんな、そろそろホームルームの時間だよ。教室に戻って」
    陽乃と入れ替わるようにして火野先生が走ってきた。
    俺達は軽く挨拶をして歩きだす。
    「比企谷君、ちょっといいかな……」
    呼びとめるその声は彼らしくもなく重苦しい。
    振り返ると、彼は少し困ったような笑みを浮かべている。
    「なんて言えばいいかな……。スローガン決めの時も相模さんの件も、君の力がなければ文化祭は確実に破綻してた。君の活躍は、雪ノ下さんと並んで一番だと思う」
    そこで言葉を切る。きっとその言葉に嘘は無いだろう。
    だが、それはこれから言う言葉の前置きでもあるはずだった。
  77. 77 : : 2014/04/28(月) 00:23:28
    「でもね、素直に称賛する気にはなれないんだ」
    火野先生はじっと俺の瞳を覗き込んでくる。
    「比企谷君。君のやり方はすごいと思う、俺にはとても思いつかない。……だけど、いつも君が、君だけが傷ついてる」
    心の先まで見つめるようなそんな視線からは、陽乃や平塚のような気味の悪さや威圧感は無いというのに、決してそらすことはできなかった。
    「別に、傷ついてなんか……」
    「もし、君が痛みになれてても、だよ。君が傷つくのを見て、心を痛める人もいるってことも、知るべきだと思う」
    「俺にはそんな奴……」
    言いかけて、やめる。確かに、少し前までの俺にはいなかった。
    だが、今は違う。
    雪ノ下、由比ケ浜、戸塚、そして今目の前にいる火野先生も……。
    俺のそんな表情を見て、火野先生はにこりと笑った。
    「話は終わりだよ、説教臭くなっちゃってごめんね?」
    「いえ、ありがとうございました」
    少々気まずくなって教室へと向かう。
    ただ、いつまでもあの優しい瞳は見つめ続けてくれているように思えた。

    帰りのホームルームは形だけのもので、すぐに終わった。
    ルーム長が挨拶をすると、後は打ち上げの話で盛り上がっていた。
    となれば、俺には関係ない。
    さっさと帰り仕度を終え、教室を後にする。
    その際に由比ケ浜と目があったが、軽く手を振ってそのまま踵を返した。
    今日で文化祭は終わったが、俺には報告書を書くという仕事がまだ残っている。
    家ではすぐ寝てしまうし、ファミレスなんかに入って打ち上げの奴らと鉢合うのもお断りだ。
    足は自然と、静かに集中できる場所へと向かっていた。
    それにあそこには……
    思った通り、彼女はそこにいた。
    予想はしていたというのに、―不覚にも見とれてしまった。
    立ち尽くしたままの俺に気づいて、雪ノ下はペンを置く。
    「あら、ようこそ。こうない一の嫌われ者さん」
    「喧嘩売ってんのか……」
    「打ち上げはいかないの?」
    「聞かなくてもわかることをいちいち聞くんじゃねぇよ……」
    俺のその答えを聞くと、雪ノ下は楽しげにほほ笑む。
    意地の悪い奴め……。
    「どう?本格的に嫌われた気分は」
    「ふっ、存在を認められるってのはいいもんだな」
    「なんというべきか……。やっぱりあなた変ね。その弱さを肯定してしまう部分、嫌いじゃないけれど」
    「ああ、俺も嫌いじゃない。むしろこんな俺が大好き、愛していると言ってもいいね」
    「ナルシスト?気持ち悪いから近付かないでくれるかしら」
    「お前の毒舌も相変わらずだな……」
    「ところで、あなた何しに来たの?」
    「報告書まとめるんだよ。ここは静かで集中できるしな」
    「へぇ……似たようなことを考えるものね」
    「選択の幅が少ないだけだ。俺とお前が似てるわけじゃねぇよ」
    同じように一人でいても、俺と雪ノ下は全くの別物と言える。
    だから、だからこそ俺と彼女は真の友たりえるのだろう。
    俺と彼女は、お互いのことをよく知らなかった。
    何を持って知ると言うべきか、わかっていなかったかもしれない。
    ただお互いのあり方を見るだけでよかったというのに。
    大切なものは目には見えない。
    つい、目をそらしてしまうから。
    俺達は半年近い時間をかけて、やっと互いを知ったのだ。
    そして、そして俺は、彼女のことが……
    「やっはろー!」
    そこに、聞き慣れた明るい声が届いた。
    「由比ケ浜?なんのようだ?」
    「文化祭お疲れ!というわけで、後夜祭に行こう!」
  78. 78 : : 2014/04/28(月) 00:23:51
    「いかねーよ」
    「行かないわ」
    「え~~!?せっかくなんだから行こうよ~!」
    「冗談じゃねぇよ。俺なんてその他大勢からすれば来てほしくねぇ奴ナンバーワンだろ」
    「その他大勢って……誰かあなたを待ってくれてる人がいるとでも思っているのかしら」
    「ばっかお前……たくさんいるよ!戸塚とか戸塚とか戸塚とか、後戸塚とか」
    「一名しか該当者がいないと思うのだけど……」
    「あっ、でもさいちゃんは用事で行けないって言ってたよ」
    「はぁ?ならもう俺が行く意味0じゃねぇか」
    「で、でも思い出になるし!」
    「ああれな、思い出って書いてトラウマって読む奴な」
    「そうね、やはりわたし達にはいくメリットがあるとは思えないわ」
    「うぅ……ゆきのんまで……。あっ!ならさ、私達3人だけでどっかいこうよ!奉仕部の打ち上げとして!」
    「そうね……でも、比企谷君もいるのよね……」
    ちょっと雪ノ下さん?俺に対する扱いがひどすぎませんか?
    「ゆきのん、お願い!」
    言って由比ケ浜はいつものように雪ノ下に抱きつく。
    「しょ、しょうがないわね……。わかったわ、わかったから離れてちょうだい」
    出た―!ちょろノ下ちょろ乃!
    「やったー!ゆきのん大好き!じゃぁ決定ね!」
    「あ、あれ……?俺の意思は?」
    「そんなものあるはずがないでしょう?」
    「そうだよ!ハニト―奢ってあげたでしょ!」
    ま、確かに約束したな。なら仕方ねぇか……。
    「わーったよ、ったくしょうがねぇな」
    部室には美しい夕日が差しこんできている。
    祭は終わり、後の祭り。
    人生はいつだって取り返しがつかない。
    こんな一幕だって、いずれは失うのかもしれない。
    だが、本物の絆があれば、俺達は、いつまでも……。
    そんな俺らしくもないことを考えて、俺は報告書の結びを記した。
  79. 79 : : 2014/04/28(月) 00:24:06
    打ち上げが終わった後、相模南は上機嫌で夜道を歩いていた。
    比企谷八幡の策により、彼女は文化祭実行委員長としての面目を保ってこのイベントを終わらせることができた。
    無論、愚かな彼女がそれに気づくことは一生ないだろうが。
    と、そんな彼女を突如頭痛が襲った。
    「……こんな時にモンスター?はぁ、今日くらい休ませてよ」
    ため息交じりに彼女は呟き、仮面ライダーアビスに変身すべく近くにあった鏡にその姿を映した。
    「……っ!あんたは!」
    彼女の眼に映ったのは、憎き敵『比企谷八幡』が変身した仮面ライダー龍騎であった。
    いな、その目は怪しく血の色に染まっている。
    彼女が知る由もないが、それはもう一人の比企谷八幡『仮面ライダーリュウガ』だった。
    「……さぁ、戦え」
    リュウガがそう言うと、契約モンスタードラグブラッカ―が鏡から現れ、相模に襲いかかった。
    すんでのところでそれを交し、相模はカードデッキをかざす。
    「うち、あんただけは許せない!よくも恥をかかせて……。変身!」
    夜の闇に染められたリュウガの姿は、さながら闇の化身。
    「「Sword Vent」」
    数合うちあうと、力の差が如実に表れてきた。
    リュウガの剣が相模の体をかすめる。
    「クッッ……」
    「Advent」
    「Advent」
    呼び出したサメのモンスターは、ドラグブラッカ―によって撃退される。
    しかし、相模の攻撃は終わらない。
    彼女の契約モンスターは二体いるのだ。
    「Strike Vent」
    しかし、それすらもリュウガは読んでいた。
    手にした漆黒の龍頭の武器からダーククローファイヤーを放ち、もう一匹のモンスターも異空間へと還す。
    「ちっ……」
    「Strike Vent」
    大量の水で、ひとまず距離を取ろうとするが、リュウガは見事な跳躍力でそれをかわした。
    「な……」
    「クク、どうした?もう終わりか?なら、次はこちらから行かせてもらおう。……この力を初めて使う相手が貴様の様な小物だということにはいささか複雑な思いがあるが……まぁいいだろう」
    リュウガが一枚のカードをかざすと、召喚機の形が変わった。
    「Survive」
    その声が響き渡ると同時、彼の体を夜色の闇に包まれた。
    そしてそれが晴れると同時現れたのは、黒と金に彩られた、どこまでも不吉な戦士だった。
    「クク、素晴らしい。これがサバイブの力か。これで、俺が最強のライダーだ!」
    そのあまりの威圧感に、相模はしばらく立ち尽くしていた。
    「Final Vent」
    その気味の悪い音で、ようやく相模は我を取り戻す。
    「Final Vent」
    急いで彼女もカードをスキャンする。
    禍々しい黒龍『ダークランザ―』が現れ、リュウガはそれに飛び乗る。
    相模も自らの二体の契約モンスターとともに、必殺技の態勢を取る。
    しかし彼女はすでに、自らの敗北を無意識のうちに悟っていた。
    それが死に直結するものだと認識できていなかったのは、やはりどこまでも彼女が甘いということの証明であったが。
    自らの死に対してさえも、彼女は無責任だった。
    彼女がライダーバトルにおいて敗北するのは、まさに当然の帰結といえた。
    「はぁぁぁっっ!」
    「ダアアァァッ!」
    激突と同時、世界は暗黒の爆発に包まれた。
    「うわぁぁぁあぁああっっ!」
    それは相模南がこの世界に残した最期の言葉であった。
    何一つこの世界に遺すことなく、彼女はその生涯を終えた。
  80. 80 : : 2014/04/28(月) 00:32:31
    原作には登場しない仮面ライダーリュウガサバイブを出してしまい、申し訳ありません。
    色々考えたのですが、物語の進行上あった方がいいと思ったので登場させました。
    技は、龍輝サバイブの暗黒versionだと思ってください。
    本来サバイブは、オーディンの力を使うものなので四枚目が存在することはあり得ないんですが……。
    ホビージャパンからフィギュアが出ているので、そちらの画像を見て補完していただければ幸いです。

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