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仮面ライダーぼっち17
- やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
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- 1 : 2014/03/31(月) 22:49:50 :
- 雪ノ下の姉、陽乃と出会った八幡。
彼女の放つ光の中に潜む狂気とは……。
そして、八幡達が手に入れたサバイブのカードによって、ライダーバトルはさらに加速する。
そんな中、十四号ライダーを名乗る仮面ライダーオーディンが現れて……?
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- 2 : 2014/04/01(火) 21:46:04 :
- ピンポーンと、突如インターホンが鳴った。
この家に誰かが訪ねてくるなんて珍しい。アマゾンかなんかだろうか。
玄関に行き、戸をあけると、そこには意外な人物がいた。
「や、やっはろー」
夏らしい服に身を包み、キャリーバッグを両手で持って、由比ケ浜結衣は所在なげに立っていた。
「おう、何か用か」
彼女が俺の家を訪れるのはこれで二回目のはずだ。一度目は、あの交通事故の後お礼に来た時。
「あ、あのさ、小町ちゃん、いる?」
「小町ー、由比ケ浜が来たぞー」
「結衣さん、いらっしゃい!ささ、どうぞ上がってください」
「じゃ、じゃぁ、お邪魔します……」
由比ケ浜は少しためらってから玄関に上がった。
「うわー、本がいっぱいるねー」
「そりゃぁお前に比べればな」
「む、なんか失礼な言い方!」
由比ケ浜は頬を膨らませる。
「で、お前何しに来たの?嫌がらせ?」
「嫌がらせってなんだし!あたしが来たら嫌なの?」
「別に嫌じゃねぇけど、……迷惑?」
「この正直者めっ!」
ぽかぽかと肩をたたかれる。
「もー、お兄ちゃん。そんなこと言うからもてないんじゃないの?」
「ふ、バカめ。俺は基本女子とかかわらないから、俺の態度で嫌われることなんてない!」
「悲しいことを自信満々で言ったー……」
「そいで、結局何なんだ?」
「うん、小町ちゃんにお願いしてたサブレのことなんだけど……」
彼女は大事そうに抱えてきたキャリーバッグを指さした。ちなみに、サブレというのは由比ケ浜の愛犬だ。
そのまま、バッグを開ける。
サブレは周囲を見渡して、俺の姿を認めるなり、すごい勢いで走ってくる。
「キャンッ!キャンキャンッ!」
「お兄ちゃん、動物には好かれるのになぁ……」
「なんだそれ、言外に人には好かれないって言ってるの?」
「言外じゃなくってまんま言ってるんだよ!でも小町はお兄ちゃんのこと大好きだよ!あ、今の小町的にポイント高い!」
そういうと小町は、俺の腕をギューッとつかむ。
「はいはい、可愛い可愛い」
「むー、つれないなー」
「んで、由比ケ浜。なんでこの犬連れてきたんだ?」
「うち、これから家族旅行に行くんだ」
家族旅行。ずいぶん懐かしい言葉の響きだ。
「仲いいんだな。お前の家族」
「お兄ちゃんが愛されてないだけだよね」
「なっ、バカっ!超愛されてるっつーの!なんなら寵愛されてるまである!じゃないと、これから脛かじっていくつもりなんだから困っちゃうだろうが!」
「嫌な息子だなぁ」
「つーかよ、なんでわざわざうちに預けるんだよ」
由比ケ浜には仲がいい友達なんていくらでもいるはずだ。
「優美子も姫菜もペット飼ったことなくてさ。ゆきのんにも頼んでみたんだけど、今、実家にいるからって……」
そうだ、今あいつは……。
「ペットホテルも探してみたけど、今、シーズンだからすごく混んでて……」
「そこで小町の出番ですよ!お兄ちゃん!……未来のお嫁さん候補には優しくしとかないと」
「それを聞いたら引き受けたくなくなるんだが……」
「まぁまぁ」
「はぁ、小町がいいってんならいいけどよ」
抜け目ない妹のことだ。どうせ母親への根回しもすんでるんだろう。この家での序列は、俺が圧倒的に低い。母さえクリアすれば、あとは小町に甘々の親父だけだ。
「それで、飼い方なんだけど……」
「大丈夫ですよ!打ちも昔犬飼ってましたから!猫もいますし!」
猫と犬の飼い方は結構違うんだが……。
「へぇ、ちょっと意外。ヒッキーが何か飼うなんて……」
「兄は動物好きですよ?……人間以外は」
「そ、そうなんだ……。じゃぁ、安心かな。サブレ、ヒッキーのこと大好きだし」
「ま、少しの間なら仕方ないな。家族旅行、楽しいといいな」
「うん!ありがと!じゃぁ、お母さん達待たせてるからこれで」
「ではでは、お見送りしますよ」
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- 3 : 2014/04/01(火) 22:08:48 :
- 八月も中盤に差し掛かり、夏休みという感じもなくなってくる。
残り日数を数えて憂鬱な気分になる。
深いため息をつくと、足元に何かが這い寄ってきた。
「なんだよ……」
うちの飼いネコかまくらだった。
なんだ、何か用か?
見つめあうこと数秒。
うん、すげぇ邪魔。
普段は小町にかまってもらっているのだが、今うちにはサブレがいるので、小町はそちらにかまうことが多い。
あれ?うちの妹受験生ですよね。
「ま、お前の方がお兄ちゃんなんだから我慢しろよ」
幼いころから言われ続けてきたセリフを口にして、自分でも噴き出してしまう。
しかしあれだよね、俺がその年だった時よりも、小町の方がはるかに甘やかされている気がするんですが……。
俺、五歳ごろから家事やらされてたのに、小町の小学生時代家事をしているのを一度も見たことがないんだけど。何ですか、僕の思い違いですか。
「おにいちゃーん、およ?珍しい組み合わせだね」
「どうした、何か用か?」
「よ、用がなければお兄ちゃんになんて話しかけないんだからねっ!」
「なにそのツンデレ……。お兄ちゃんちょっと傷ついたよ」
「冗談だよ冗談。お兄ちゃん、スマホ貸して」
「別にいいけど、何に使うんだ?」
「うん、イヌリンガルっていうアプリがあるから使ってみたいの!」
「なんかあやしいな……。ま、いいけど」
小町にせかされ、机の上のスマホを手渡す。
「サブレ、何かしゃべってみて!」
「キャンキャン!(遊んで!)」
「他には?」
「キャンっ!(遊んで!)」
「ヒャンッ!(遊んで!)」
「……お兄ちゃん、これ壊れてるんじゃないの?」
「壊れるほど使ってないんだけど……」
「お兄ちゃん、何か言ってみてよ!」
「ワンっ!(働いたら負けだ!)」
精度高すぎだろ……。
「うん、間違ってるのはお兄ちゃんの方だね」
「とにかく、遊んでほしいみたいだな。……散歩にでも連れてってやれば?」
「じゃぁお兄ちゃんも一緒にいこ!決定!」
「えー、俺読みたい本あるんだけど……」
小町が可愛い顔をして首をかしげる。
「はいはい、わかりましたよ。お兄ちゃんも行きますよ」
「わーい!」
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- 4 : 2014/04/01(火) 22:22:23 :
- すでに空は赤くなり、月がうっすらとその姿を見せている。
昼間タップリと日を浴びて、水も十分に吸収した稲をかき分けるように風がピュウっと吹く。
「いやー、お兄ちゃんと散歩するなんて久しぶりですなー」
「そうだなー」
確かに二人で、目的もなくぶらぶら歩くのはご無沙汰かもしれない。
「お帰りって言ってくれる人がいるのって嬉しいよね」
「ま、基本的にはな。例外もあるけど」
「うわー、面倒臭いなー」
小町は、でも、と言って続けた。
「そんなめんどくさいお兄ちゃんでも、いてくれると嬉しいよ」
その言葉を聞いて、俺はふと小町が小学生時代に家出をしたことを思い出す。
家に帰って誰もいないのはさびしいと、幼い小町は大泣きしたものだった。
それ以来俺は、学校が終わるとすぐに帰宅するようになった。もともと友達がいなかったというのが大きな理由だが。
「別にお前の為じゃないさ。ついでだついでだ」
「それでもね、いいんだよ」
「そうか」
「……お兄ちゃん、小町に隠し事してるでしょ?」
「お前はアホか。秘密が一つもない人間なんていねぇんだよ」
「んー、そりゃそうだけどね。……言いたくないなら、いいけどさ。でも、一つだけ」
「なんだよ」
「無理、しないでね。お兄ちゃん昔から、冷たい振りしてすぐ困った人助けちゃうんだから。自分を犠牲にして、さ」
「覚えがないな……」
「もう、捻デレさんなんだから!」
「少なくともデレてはいないと思うが……」
「本当、無理しすぎないでねっ!」
「はいはい」
「いつまでも、そばにいてよねっ!あっ、今の小町的にポイント高い!」
普段のように冗談めかして言ったが、それはきっと彼女の本心だったのだろう。
-
- 5 : 2014/04/01(火) 22:49:02 :
- 玄関のドアを開くと、そこには由比ケ浜がいた。
「やっはろー!」
「よう」
「はい、これお土産」
がさりと紙袋を渡された。
「地域限定なんだよ!」
にこにこと笑って、本当に楽しそうな様子だ。
「おう、ありがと」
中身を確認すると、彼女の言う通りご当地お菓子だった。旅行先を示しながらも、苦手な人が少ないであろう無難なチョイスだ。
「悪いな、気使わせちゃったみたいで」
「ううん、サブレの面倒みてもらったお礼だから!あ、それでサブレは?」
「元気にしてるよ。おーい、小町ー!」
俺が呼ぶとサブレを腕に抱えた小町が走ってくる。
「小町ちゃん、ありがとね」
「いえいえ」
「迷惑かけてなかった?」
「全然大丈夫ですよー。イヌリンガルとかで遊べましたし楽しかったです!」
「イヌリンガル?懐かしいー」
「今アプリで出てんだよ」
実際に起動して由比ケ浜に見せてみる。
「サブレー、お姉ちゃんですよー。ただいまー」
「ワフ?(誰?)」
「ひどいよ!三日しか離れてないのに!」
「んじゃ、またな」
そんなにかかわったわけでもないが、いざ別れるとなると胸にくるものがある。
「結衣さん、また遊びに来てくださいね~」
「うん、絶対行くよ!そうだ小町ちゃん、ほしいものとかない?今回のお礼に」
「お礼ですか?そんなの気にしなくても……。はっ!小町、明日のお祭りのお菓子とかほしいです!」
「お祭り?いいね、一緒に行こっか!」
「あ、あー……。そうしたい気持ちはやまやまなんですけど、小町これでも受験生なんですよ……。だから、買ってきていただけませんか?」
「うん、わかった!」
「あっでも、由比さんみたいな女性が一人で行くのは危ないですよね……。どこかに予定の空いている男性がいないものか……」
言って小町は、ちらりと俺の方を見る。おいおいマジか。
「行こうよヒッキー!ヒッキーもいつも小町ちゃんのお世話になってるんだし!」
そうだな、俺も小町の世話に……あれ?これといって世話になってないぞ?
「えー……」
「いいじゃんお兄ちゃん、お願い」
「へいへい、行けばいいんだろう。わかったよ」
「やった!じゃぁ後でメールするね!」
その日、ライダーバトルを根底から揺るがす事件に会うなどと、俺には到底予想できなかった。
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- 6 : 2014/04/02(水) 17:07:55 :
- 俺と由比ケ浜は寿司詰め状態の電車を乗り継いで、祭りの会場にやってきた。
小町に頼まれた「ほしい物リスト」のことをすっかり忘れて、無邪気にはしゃいでいる。
本当、子供だよなこいつ……。
ちなみに欲しいものリストは、
『焼きそば、ラムネ、わたあめ、タコ焼き、りんご飴、etc……花火を結衣さんと見た思いで』
だそうだ。ちなみにこの代金は全額俺持ちらしいんだけどどういうことなの?
つーか最後のなんだよ……。
ドヤ顔で妹が書いたシーンを思うと、兄として恥ずかしくなる。
ほんとに余計なことばっかしやがって。
どんなに鈍感なラノベの主人公でもここまでやられればわかるだろう。
つーか俺は鈍感じゃない。どころか敏感まである。
世の男子の大半は女子に対して、「こいつ俺のこと好きなんじゃね?」という妄想とともに生きているのだ。
だからこそ、その想いを戒めないといけない。
常に冷静に、「そんなわけないだろ」とたしなめる必要がある。
そうしなければ、後から傷つくのは火を見るより明らかだ。
「とりあえず順番に買っていくか……」
「ヒッキー、りんご飴食べようよ!」
「えー、これ以上出費増やしたくないんだけど」
「もう、けちけちしないの!」
由比ケ浜に押されるまま、俺も飴を購入する。
ついでに由比ケ浜の分の代金も払う。
「あ、いいよ。そんなつもりで言ったんじゃないし」
「気にすんな。買い物に付き合ってもらってるお礼だ」
ま、このくらいはな。
「……ありがとう」
顔を少し赤らめて由比ケ浜が礼を言う。
三百円でこの笑顔が見られたならば、十分おつりがくるだろう。
「えっと、次は焼きそばだね」
後ろを振り向いたとき、こちらを見ている人に気付いた。
そいつはこちらに手を振って近づいてくる。
「あ、ゆいちゃんだー!」
「おーい、さがみーん!」
見たことねぇ奴だな……。
そう思ったのは相手も同じらしく、由比ケ浜に視線で説明を求めてくる。
「この人は、同じクラスの比企谷君。で、こっちが同じクラスの相模南ちゃん」
へぇ、同じクラスの人だったのか。
軽く会釈をする。
その時、気がついた。
一瞬だが、俺と目があった時に彼女は嫌らしい笑みを浮かべたのだ。
「そうなんだー!一緒にきてるんだねー。いいなー、うらやましいなー」
「あはは、違うよー。全然そんなんじゃないよ~」
……しくじったな。
先ほどの相模の汚い笑みは紛れもない嘲笑だ。
こいつは、「由比ケ浜結衣の連れている男」をみて笑ったのだ。
よく知らない人間を判断する際の判断材料は何か。
社会人にとってそれは、収入であったり実績だったりするのだろう。
そして、学生にとってそれは、『所属するカースト』だ。
由比ケ浜は誰にでも隔てなく接するから忘れがちだが、彼女の所属カーストは最高位のものだ。
たとえば雪ノ下雪乃であれば、どのようなカーストにも属していないが、彼女を笑うことができる者はいないだろう。
その容姿、能力、財力がカーストを叩き伏せられるレベルにまで達しているからだ。
だが、この俺比企谷八幡は……。
当然彼女のようにはいかない。他者にとって俺は、『最底辺のカースト』に所属する中の一人でしかない。
そして今のこの状況は、淑女たちの社交場のようなものだ。
連れている男子というのは、バッグや身につけている物以上に大きなステイタスとなる。
たとえば彼女が連れているのが葉山隼人であれば状況は全く違っただろう。
それこそヒーローインタビュー並みである。
だが俺なら、軍法会議で欠席裁判レベルだ。
俺はいくら笑われてもいい。こんなやつらにどう思われようと痛みも何もないから。
だが、そのせいで由比ケ浜結衣が嫌な思いをするのは避けたい。
「焼きそば、並んでるみたいだから先行くな」
「あ、あたしも行くよ。じゃぁね、さがみん」
「うん、ばいばーい」
最後にもう一度クスリと笑ったのを俺は見逃さなかった。
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- 7 : 2014/04/02(水) 17:22:29 :
- 「よかったのか?着いてきて。話すことあったんじゃねぇの?」
「ううん、別に。……ちょっと、苦手だし」
由比ケ浜がこんなことを言うのを俺は初めて聞いた。
よほど苦手ということなのだろう。そんな相手ともうまくやっている彼女には素直に感心してしまう。
「そんなことより、もうすぐ花火だよ!楽しみだね!」
屋台の連なっている道から続くメイン会場はすでに人であふれかえっていた。
座る場所も身の置き場もない。
俺一人ならどうとでもなるが、連れがいるとなると話は別だ。
「いやー、混んでるねぇ」
たはは、と彼女は笑う。
「こんなに混むならビニールシートでも持ってくりゃよかったな」
「ヒッキーって、気、使えるんだ」
驚いたように由比ケ浜が言う。
「はぁ?失礼なやっちゃな。気ぃ使ってるから迷惑かけないように隅っこにいるんだろうが」
「そういうことじゃなくてさ……。その、何というか、優しい?じゃん」
「よく気づいたな。そうそう、俺は超優しいんだよ。今までいろいろ嫌なことがあったが、誰一人何一つ復讐せずに見逃してきてやってるからな。俺が並の人間だったら毎日ドラグレッダーが暴れまわってるまである」
冗談のつもりだったが、そんなことをしている奴がかつていてので、いささか不謹慎だったかもしれない。
しかし彼女はそれを気にしているふうもない。
「ま、なんでもいいや。あっちすいてるから行ってみようぜ」
しばらく歩き、俺は立ち止まる。
「どったの?」
「すいてんのはいいけどよ、ここ有料エリアだ」
虎模様のロープが張られ、明らかに区切られている。
バイトの警備員が見回っており、とどまっていたら追い払われるだろう。
少しだけ離れてみることもできるが、エリア内は小高い丘となっており、とても見晴らしがよさそうだ。
「お祭りなんだから、こんなことしないでみんなで楽しめばいいのに……」
由比ケ浜が不満交じりの声を上げる。
確かにそうだ。それは正しい。だが、金持ちや権力者というのは常に自分の力を誇示したがるものだし、こういう場ではそんな思いも強くなるのだろう。
絶対に間違っているが、この世界を牛耳っているのはそんな奴らなのだから仕方ない。
「留美が壊したかったのは、こんな世界だったのかもな……」
「ん?なにかいった?」
「いや、別に。もう少し探してみるか」
由比ケ浜を促して歩き始めると、
「あ、比企谷君だー!」
俺が一番合いたくない相手、雪ノ下陽乃に声をかけられた。
-
- 8 : 2014/04/02(水) 18:00:02 :
- 「由比ケ浜、行くぞ」
彼女の手を取って再び歩き出す。
普段の俺ならとてもできないことだが、この時はそんなことを考える余裕もなかった。
「え?で、でも……」
「いいから」
「もう、まってよー」
唐突に雪ノ下陽乃が、俺達に二枚のカードを投げてきた。
見間違いようもない、ライダーバトルに置いて使用されるカードだ。
「え?なんでこれを陽乃さんが……?」
「……っ」
「もー、そんなに邪険にしないでよー。少し話そうよ、ね?」
結局俺は観念するしかなく、彼女に連れられて有料エリア内の丘の上に上がった。
周囲に人はいない。
「父親の名代でね。挨拶ばっかりで疲れてたんだー。比企谷君達が来てくれてよかったー」
「そ、そうなんですか……」
由比ケ浜はこんな時も律儀に挨拶をする。
「で、何の用ですか?まさか世間話をするために俺達を呼んだわけじゃないでしょう」
「ひどいよ比企谷君、用が無いと呼んじゃいけないの?」
「当然だ。あんたみたいな人とは一秒たりとも話したくない」
「ひ、ヒッキー。そんな言い方ひどいよ」
「で、何ですかこのカードは」
由比ケ浜の言葉には答えず質問する。二枚のカードには一枚ずつ翼が描かれており、それぞれ対になっている。
絵柄の上には、『Survive』と書かれている。
「んー、雪乃ちゃんからの預かり物?」
「ふざけないでください」
「雪乃ちゃんと仲良くしてくれてるお礼かな」
「……なんであんたがこのカードを持ってる」
「フフ、内緒」
「なにが、目的だ」
「それも内緒」
俺が彼女を睨むと、彼女はへらへらと笑って続けた。
「ガハマちゃーん、比企谷君が怖いよー」
「……」
由比ケ浜も何も答えず、ただ陽乃を見つめる。
「もー、二人して怖いなー。しょうがない、教えちゃおっかな……」
言葉を告げる前に、彼女はわざとらしいため息をついてみせた。
「二人は、ライダーバトルの邪魔をしてるでしょ?」
「当然だ、殺し合いなんて続けさせてたまるか」
「だ・か・ら、お姉さんからのプレゼント。このサバイブカードを使えば、すっごく強くなれるんだよ。このカードがあれば、ライダーバトルに勝ち残れるよ?」
「そんなつもりはないと言ってるだろうが」
「どんな願いもだよ?ま、少しでも戦ってくれるようにっていう配慮かな。それが理由」
言って彼女は再び笑った。
「……陽乃さん」
それまでひたすら沈黙していた由比ケ浜が口を開いた。
「あたしは、たとえどんな力を手に入れても、絶対にライダーバトルを止めますから」
「フフっ、おもしろいなー二人とも。流石雪乃ちゃんのお友達だよ。でも、そんなことも言ってられなくなるかな」
「どういうことだ?」
俺の質問には答えず、彼女は手にしていたペットボトルの水を地面にこぼした。
「何のつもりだ?」
「まぁまぁ、見てみてよ」
言われたとおり、たった今できた水たまりを眺める。
するとそこに、一人の人物が映った。
「え?」
それは、意外な人物だった。いや、人物、といういい方は少し語弊があるかもしれない。
それは、変身後のライダーだった。
「お、俺……?」
その姿は、俺が変身するライダー龍騎に瓜二つだった。シルエットなどは全く同じで、体の色が少し違う。俺のメインカラーは赤だが、そいつの色は真っ黒で、目だけがあやしく赤く光っていた。
「そう、彼は最凶のライダー、仮面ライダー、リュウガ」
「リュウガ……」
「面白いことはまだあるよ?リュウガー」
「ハァァッ!」
陽乃の声を聞いて、リュウガは咆哮した。
すると彼の変身が解けて、
「そ、そんな……」
彼の姿は、俺と寸分たがわぬものだった。
「なんで、俺が……」
「少しだけ、違うかな。彼はね、中学時代のあなただよ。周囲に虐げられ続けて、世界を憎むようになった、あなた」
「これ、なんなんですか!」
「熱くならないでよガハマちゃーん。今言ったじゃない、それは一年前の比企谷君だよ。比企谷君が今のように世界を許容せず、壊したいと願った、もう一つの、鏡の世界の比企谷君だよ」
「……」
「じゃ、そういうことだから。きっと彼が、ライダーバトルをもっと面白くしてくれるよ。じゃぁね、ばいばーい」
来る時と同様一方的に、雪ノ下陽乃は去って行った。
後には、大きな戸惑いだけが残った。
-
- 9 : 2014/04/02(水) 18:24:37 :
- 悪魔が去った後も、俺達はしばらく何も言うことができなかった。
花火大会が終わったころに、由比ケ浜が口を開いた。
「……そろそろ、帰ろっか」
「ああ、そうだな」
帰りの電車は満席で、立ってるだけでも辛い。
「それで、その……あ」
由比ケ浜が何か言おうとしたときに、彼女が降りる駅についた。
俺も黙って下車する。
「降りて……、よかったの?」
「あんないいかたされたら降りるしかないだろうが。なに?わざと?」
「わ、わざとじゃないしっ!」
少し間をおいて、彼女は再び俺に話しかける。
「……これから、どうなるのかな?」
「さぁ、どうだろうな」
「このカードのことも、リュウガ、のことも……」
「最凶のライダーか、随分な役目に抜擢されたもんだな。俺の分身とやらは」
「で、でもあれは、ヒッキーじゃないよ」
「わかってるつもりだ」
「そ、それならいいんだけど」
「で、そのサバイブとかいうカードは、まぁ、なるべく使わないようにすればいいんじゃないか」
「そ、そだね」
またも沈黙が場を支配する。それを破ったのは、やはり由比ケ浜だった。
「陽乃さんって、何者なんだろう……」
「ライダーバトルにかかわってるのは、間違いないけどな。ライダーなのか、それとも……」
「それとも?」
「もっと上位の存在か、だ」
「どういうこと?」
「一ライダーなら、俺達にこのカードを渡したりしないだろ。……これは俺の単なる推測だがな、俺は、雪ノ下陽乃が、ライダーバトルを始めた者だと考えている」
「ライダーバトルを、始めた……」
「あくまで予想だ。それに、考えてどうにかなることでもない」
「それは、そうだけど……」
「とにかくだ、俺達がやるべきことは変わんねぇよ」
「そう、だね。……ゆきのんは、しってるのかな」
「知らないだろうし、知らせるつもりもないだろ」
「知らないままで、いいのかな……」
「知らないことは、悪いことじゃない。知ってることが増えるだけで、面倒事も一気に増える」
「……そっか。ねぇ、ヒッキー」
「なんだ?」
「ゆきのんが困ってたら、助けてあげてね?」
真剣なまなざしで彼女は俺を見つめる。
「いや、それはないだろ」
彼女が助けを求めることも、俺が自ら踏みこむことも。
「それでも、きっとヒッキーは助けるよ」
「何の根拠があってそんなことを」
「だって、あたしのことも助けてくれたじゃん」
「あれはただの偶然だ。救える命があるなら、誰だって手を伸ばすだろ」
「自分が危険な目に会ってまでは、なかなかできないよ。だからきっと、ヒッキーはゆきのんを助けるよ」
「俺にそういうの、期待すんな」
失望させるくらいなら、希望を持たせない。それもきっと、相手を思う一つの形のはずだ。
「事故がなくても、ライダーバトルがなくても、ヒッキーはきっとあたしを助けてくれたよ」
「いや、そんなの助けようがないだろ」
人生にもしもはない。
たらればに勝ちがないのは、カードゲームの世界だけじゃない。
「ううん、そんなことないよ。だってヒッキー言ったじゃん、事故がなくても一人だったって。あたしもこんな性格だからさ、いつか限界が来て、奉仕部に行ったと思うの。そしてね、三人で友達になるの」
少しうるんだ彼女の瞳は、とても美しくて、俺は言葉を失った。
「それで、あたしはきっと……」
その時、由比ケ浜の携帯が鳴った。
「そして……」
「電話、いいのか?」
「あっ、うん。……もしもし、ママ?あっ、うん、もう着いたよ。すぐ、帰るね」
電話を切って、彼女は俺に別れのあいさつを告げる。
「それじゃ、またね。送ってくれてありがと」
「おう、じゃぁな」
これからどうなるかなんて、さっぱりわからない。
だけど俺はきっと、自分の信念を貫かなければならない。
それがきっと、俺と彼女達をつなぐ絆なのだから。
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