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孤独な戦士とパティシエの少女

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  1. 1 : : 2016/11/20(日) 18:07:07
    こんにちは!こんばんは!初めての方ははじめまして!刹那と申します!

    今回は調味料杯の作品としてこの物語を書いていこうと思います!完全ノープランなので御手柔らかにお願いします(笑)
    執筆中はコメントを制限致しますのでご了承ください!

    楽しんで読んでいただけたら幸いです!それではGO!
  2. 2 : : 2016/11/20(日) 18:07:56





























  3. 3 : : 2016/11/20(日) 18:15:07






    彼は孤独だった

    誰からも気にされず、誰からも相手にされず

    たった一人森の中で暮らしていた



    彼が暮らしていたのは村外れの森

    そこで彼は一人で小屋を建てて住んでいた

    森の暮らしはそれほど悪くはなかった

    以前は野宿も平気でやっていたのだから生活は普通に出来た

    いや...その時以上に生活は楽だった




    ある時以外は
  4. 4 : : 2016/11/20(日) 18:18:14
    彼も人間であった

    すなわち日々の暮らしは問題ないとしてもどうしても避けられないものがあった

    消耗品の買出し

    自給自足できると言っても所詮は人間

    数ヶ月に一度は村に生活必需品を買いに行かないといけなかった

    そしてそれが......彼にとって一番の地獄であった
  5. 5 : : 2016/11/20(日) 18:45:49













    「はぁ...」

    村へと向かう道を気だるそうに歩く一人の影

    これから起こるであろうことに彼の気は滅入っていた

    「こんなんじゃなかった筈だったんだけどな...」

    ふと吐き出した後悔の言葉は虚しく消える

    仕方が無いことだとわかっていても考えることを止めることはできない

    「なんで俺だけこんな目にあったんだろう...」

    とんだ貧乏くじ......そんな言い回しはこの国にはないがあったとしたら間違いなく彼を表現するにふさわしい言葉だろう

    彼が望んだ力を得るはずだったのに...望まぬ力まで得てしまった...

    その苦しみを彼は存分に感じていた

    力を得なければ今この場に立っていないとわかっていても...
  6. 6 : : 2016/11/20(日) 18:57:02
    村はいつにも増して活気があった

    彼は少し疑問に思いながらも村へ入る手続きのために門番に話しかけようとする

    「あのー?」

    「はい。なんでし――」

    門番の言葉はそこで止まった

    当然か...

    いつもの対応に精一杯の笑顔を浮かべて彼は言った

    「村への立ち入り許可をお願いしたいのですが」












    大きめのコートに身を隠し、彼は村の中を歩いていた

    脳裏に先ほどの門番の愛想笑いを浮かべながら

    慣れていることではあるが変わらない対応にほとほと嫌気が差す

    それにしても――

    彼はあたりを見渡す

    いつもより商店街にいる人数が少ない

    なにか特別な催しでもやっているのだろうか...?

    まぁあったとしても俺には関係の無いことかと素早く買い物へと注意を向けた

    あまり長い時間村にいるのは良くない

    そう思って
  7. 7 : : 2016/11/20(日) 19:06:09
    「あとは......一つか」

    あらかじめ書いてあったメモを見て彼は呟いた

    たった数時間の買い物であったが彼はかなり疲れていた

    店員の微妙に強ばった顔

    迷惑と言わんばかりの目

    完全にマニュアル通りの対応

    「俺が何をしたって言うんだよ...」

    張り裂けんばかりの思いはつい言葉となって口からこぼれる



    「どうなさったのですか?」



    彼はその声に慌てて振り返る

    そこには......

    小さなカゴを持った少女が立っていた



  8. 8 : : 2016/11/20(日) 19:31:39
    まずい.....

    彼は真っ先にそう思った

    ただでさえ村の住民に疎まれているのに...

    こんな少女と話しているのを見られたら間違いなく誤解を招き村への出入りさえ禁じられてしまう

    彼はフードを深くかぶりさっさとその場から離れようと――

    「ちょっと逃げないでくださいよ」

    彼の行く手を遮るように少女は回り込む

    「退いてくれ」

    彼はあたりの目を気にしながら少女に言った

    「嫌です」

    「頼む」

    「理由を教えてください」

    「お願いだから」

    「答えになっていません」

    「見てわかるだろう!」

    押し問答の末彼はつい声を荒らげる

    「わかりません!」

    負けじと少女も大声を出す

    その様子に気づいたのだろう

    近くで遊んでいた子供が彼を見つけ、その正体を悟った

    「化け物だぁぁぁ!!!」

    そう言いながら走って行ってしまった

    「化け物?」

    少女は不思議そうに彼を見上げる

    「っ!」

    彼は少女のいる方とは真逆――村の入口の方に駆け出した


  9. 9 : : 2016/11/20(日) 20:51:18










    「はぁ...はぁ...」

    村を出て数キロ

    彼はそこで初めて足を止めた

    振り返ると当然のことながら追ってくる影はない

    彼は息を整え家へ帰ろうとして――思い出した

    「......斧買い忘れた」
  10. 10 : : 2016/11/21(月) 21:43:28












    数日後

    結局彼は村への道をまた歩いていた

    残っていた買い物は斧

    薪や家の修繕などのための木材を得るためにどうしても必要だったのだ

    「変な事になってなければいいんだが...」

    フード付きのコートに身を包んだ彼はすこし項垂れながら重い足を動かしていた




    村は相変わらず何かの催しがあるかのように活気づいていた

    彼はなるべく人通りが少ない道を選び鍛冶屋にたどり着く

    「お!戦士じゃないか!」

    彼を見つけた鍛冶屋のオヤジが彼の名を呼ぶ

    「お久しぶりです。お元気でしたか?」

    「ああもちろんだ!お前さんも元気そうだな」

    彼はここのオヤジとは彼が現在のようになる以前から仲が良かった

    そして今もその親交は続いている

    「また斧かい?」

    にこやかに話しかけてくれるオヤジに彼は少しだけ救われるような気持ちになった

    「ええ...半年前にまとめ買いしたのが終わっちゃいまして」

    「十本も購入してもうかい.....難儀だねぇ」

    「加減はするんですが...どうしても駄目ですね...」

    「いっそ体一つで木を切るのはどうだい?」

    「へし折るのだけなら簡単なんですけど、細かくするのが刃物がないとできないので」

    辺りに笑い声が響き渡る

    「じゃあ今度も十本ぐらいでいいかい?」

    「はい。毎回ありがとうございます」

    「いやいや...あんたがいないとわしもこんな所で店なんかやってないよ」

    確かにこんなご時世...未だに武器や防具を必要とする人もあまりいないだろう

    「おじいちゃ〜ん!」

    と二人が話しているところへ可愛らしい声とともにぱたぱたと足音が近づいてきた

    「お!少女ちゃんじゃないか」

    彼が声の主の方を見つめると......



    そこには数日前の少女がいた


  11. 11 : : 2016/11/22(火) 21:19:21
    彼は自分でも表情が固まるのがわかった

    「戦士とは初対面かな?こちらは戦士。かの有名な――」

    「この前はすいませんでした」

    オヤジの言葉を遮って少女が頭を下げる

    「ご迷惑をおかけしました」

    「い、いや...こっちも悪かった」

    彼も常識がないわけじゃない

    相手が頭を下げたらこちらも下げるくらいのことは出来る

    「なんじゃ。知り合いか」

    話の内容がわからずオヤジは一人でおいてけぼりにされていた






    なんだかんだで無事斧を入手し店から出る

    あれから少女と仲良くなることはなく、オヤジが斧を出してる時も無言の状態だった

    まぁオヤジ以外に見られなかっただけマシだろう

    彼には良からぬ誤解を招く自信があった

    「きゃぁぁぁ!」

    突然の悲鳴に彼はふと我に返る

    もの思いにふけっていた彼は自分が広場に出ていたことに今更気づいた

    そして...

    運悪く...催しはそこで開かれていたようだ

    全員の視線が彼に集まる

    まずい...

    反射的に路地へ入ろうとした彼に...

    「戦士...か...?」

    背後から声をかけるものがいた
  12. 12 : : 2016/11/22(火) 21:24:36
    声には聞き覚えがあった

    と言うより忘れるはずがない

    「勇...者......」

    そこにはまごうこと無き世界の希望...

    勇者がいた

    「お前......」

    彼を見る勇者の目は...

    五年前と...何も変わっていなかった

    戦士は黙って路地へ走っていった
  13. 13 : : 2016/11/26(土) 21:55:29







    数日後...



    カンッカンッカンッ!

    森の奥で響く音

    「これで今日の分の薪は足りるな...」

    戦士は自宅でいつも通りの生活をしていた

    村での出来事のあと彼は脱兎のごとく自宅に戻った

    そして...

    何事も無かったように生活をする――

    「なんであんな所に勇者が...」

    のは無理だった

    彼は偶然の再開に苛立ちを覚えていた

    確かにこの俺に対して驚いたり気まずかったりするのはわかる

    だが...

    勇者(あいつ)の目は...

    何も変わっていない...

    純粋な怯え

    自分とは明らかに異質なものを見る目だった

    「はぁ」

    彼は家に入る

    そしていつものようにお茶を入れようとした

    その時だった

    「こんにちは〜!開けてくださ〜い!」

    扉を叩く音とともに可愛らしい女の子の声

    その声を聞いた戦士はその場で固まった

    その声は...

    明らかに少女のものだったからだ
  14. 14 : : 2016/11/29(火) 22:03:24
    どうするべきか...

    戦士は突然のことでパニックに陥っていた

    何故こんな町外れの森の中に彼女が来たのか?

    何故ここを知っていたのか?

    「入りますよ〜」

    戦士が止めるまもなく鍵のついていないドアは開けられた

    「こんにちは戦士さん」

    その可愛らしい笑顔に戦士はため息をついた






    仕方なくお茶をいれてやる

    流石にこんな森の中で少女を外に放り出すほど彼は非常識ではなかった

    「ありがとうございます!」

    嬉しそうな顔をした少女は思い出したように手に持っていたカゴを戦士に差し出した

    「これ...私が焼いたんです!良かったら食べてみてください!」

    カゴの中には美味しそうなマドレーヌが四つ

    戦士はそのうちの一つを手に取って匂いをかぐ

    うん...毒が入っているような感じはしない...まぁ毒が入っていても毒消し草はあるからいいが...

    甘い匂いがするそれを半分に割り片方を口に入れる

    途端に甘い味が口いっぱいに広がる

    「うまいな」

    思わず漏れた本音に少女は満面の笑みを浮かべた

    「よかった〜砂糖を多めに入れちゃったので甘すぎると思ったんですけど...」

    「そうなのか?あんまり食ったことないからわからんが...」

    戦闘に次ぐ戦闘の生活でお菓子なんてものは久しぶりに食べたからそれがどれほど美味しいのか彼にはわからないが...

    それでも確かだった

    少女の菓子はどこか懐かしい味がしたことだけは...
  15. 15 : : 2016/11/30(水) 21:20:14
    「ていうかなんでここを?」

    マドレーヌを全部食べ終えた後思い出したように尋ねる

    まぁ予想はついているのだが

    「鍛冶屋さんに聞きました」

    だろうな

    「どうしてここを訪ねたんだ?森の中は危ないぞ。魔物が出るかもしれないし...」

    「でも最近は魔物の姿は見ないってみんな言ってましたよ?勇者が全部倒したって...」

    勇者が?まさか...いくら神に選ばれたものだからってそんなことできるわけがない...おおかた人里を避けるようになっただけだろう

    「まだ危ないから...ここら辺はうろついちゃいけない」

    「戦士さんはここに住んでるじゃないですか」

    少女は不思議そうな目を戦士に向ける

    「俺は強いから平気なんだ」

    「じゃあ私は戦士さんに守ってもらうから平気です」

    「なんで俺がそんなこと」

    「ダメですか?」

    「ダメだ...さっさと帰れ」

    戦士はドアを開けて出るように促した

    「じゃあ送ってください」

    少女は持ってきたかごを持って戦士のそばに立つ

    「は?」

    「ここら辺は危ないんでしょう?村まで送ってください」

    戦士は考えた

    少女を送っていく...誰かに見られる...騒ぎ立てられる......うん、無理だな

    「無理だ」

    「何でですか?」

    少女の眉が釣りあがる

    「俺の格好を見ればわかるだろう?あそこへはあんまり行きたくないんだ」

    「化物って言われたことですか?全然大丈夫じゃないですか」

    「無責任なことを言うな!!」

    思わず戦士は声を荒らげた

    ハッと我に返ると少女は...

    怯えていた

    「......いいから真っ直ぐ帰れ」

    いたたまれなくなって少女をドアの向こうへ押しやり戦士はドアを閉めた
  16. 16 : : 2016/12/04(日) 13:04:01
    やがてドア越しに人の気配が消えるのがわかった

    「ちっ」

    戦士は手で顔を覆った

    以前よりも二回りも三回りも大きくなった手で

    この手のせいで...体のせいで...

    「くそっ!!」

    ドアを思いっきり殴る

    大きな音がしてドアが砕けた

    戦士はそれを気に掛けることなくそのまま家の奥に引っ込もうとした

    その時だった

    「キャァァァァァ!!」

    大きな悲鳴が森の中に響き渡った
  17. 17 : : 2016/12/04(日) 13:17:18
    「まさか...」

    戦士は斧を引っ掴んで外へ飛び出す

    この森の中での悲鳴

    心当たりは一つしかなかった

    必死に走る

    そして......

    魔物の群れ(それ)は直ぐに見えた

    「ダークウルフか...」

    ダークウルフの群れは何かを追い詰めているのか大きな木を中心に同心円状に群がっている

    恐らくその中心にいるのは――

    戦士は斧を握りしめ投げた

    風を切る音が響き、狙った個体から血が吹き出たのが見える

    戦士はその巨体に見合わぬスピードでダークウルフの群れの中を走り、倒したダークウルフから斧を回収した

    ダークウルフの群れはこの新しい乱入者に驚いたのか距離をとる

    そして戦士はその中心にいた少女に駆け寄った

    「大丈夫か」

    見たところ目立った怪我はない

    が彼女は恐怖で震えていた

    「せ、戦士さん...」

    「ちょっと目を瞑っておけ」

    戦士はダークウルフに向き直る

    「さぁ...かかってこい!」











  18. 18 : : 2016/12/04(日) 14:17:17












    すべてを倒すのにそれほど時間はかからなかった

    戦士は少女に駆け寄る

    「もう大丈夫だぞ」

    目を開けた少女の目に写ったのは血まみれの戦士

    「大丈夫...なの?」

    心配そうに戦士を見る

    「ん?ああこれは返り血だから」

    戦士は少女に手を差し伸べた

    「立てるか?」

    「うん...あっ」

    少女は立とうとしてよろける

    「見せろ」

    少女の足は少し腫れていた

    「捻挫だろう...一回戻るぞ」

    戦士は少女を抱き上げた

    俗に言うお姫様抱っこだ

    そのまま戦士は自分の家に向かった
  19. 19 : : 2016/12/04(日) 18:41:48












    「とりあえずこれで冷やしておけ」

    戦士は冷水で濡らした布で患部をまく

    少女はおとなしくその治療を受けていた

    「さっきはすみませんでした」

    少し気まずそうに少女が口を開く

    「確かに...無責任で...余計な事を言いました」

    「......気にするな」

    戦士は少女と目を合わさないようにいそいそと治療に使ったものを片付け始める

    「でも......こんなに優しいのに...なんで...」

    半ば自問のように少女は呟いた

    戦士は片付けていた手を止める

    「人は中身じゃない...外見だって事だ」

    彼が考えてきたことの答え

    人は外見である...

    「あの......もし良かったら...どうしてそんなふうになったのか教えていただけませんか?」

    戦士はちょっと考えた後自分が座るための椅子を持ち出した
  20. 20 : : 2016/12/04(日) 19:09:17
































    俺は......昔は普通の人だったんだ

    普通に育ち...剣を学び...村を守っていた...今お前が住んでいる村だ

    そして...ある日勇者が来た

    ここら辺は昔から強い魔物が出たんだがそれを撃退していた俺がいつの間にか有名になっていたらしい

    あいつは言った...

    魔王を倒せば魔物の進行も増殖も止まる

    そうすれば村は救える...誰一人として犠牲を出さなくても良くなると...

    俺は行くことにした

    魔王を倒して村を救おうって...

    旅は順調だった

    仲間は俺と勇者と魔法使いの三人

    正直、魔王なんて余裕だと思っていた...

    そして...決戦の時...

    俺達は魔王にまったく歯が立たなかった

    最初の攻撃で魔法使いが回避できずに死に...

    残った俺と勇者も攻撃を避けることしかできなかった...

    次第に疲れて...勇者がまず攻撃に捕まった

    吹っ飛ばされて壁に叩きつけられ気絶

    残るは俺一人...

    しかも俺はその時剣を持ってなかった

    その時.....もうこれしかないと思って

    余裕ぶってた魔王のスキをついて食べたんだ...

    死んだ魔法使いが持ってた...



    力の種を......全部...



    力が出たよ...筋肉が全部強化されて

    気づいた時には全部終わってた

    目の前に顔がわからないほどボコボコにされた魔王

    そして...

    勇者が目を覚ました

    忘れられない...

    あの時のあいつの目が......

    まぁ当然だろう...

    三人がかりで倒せなかったやつを倒したんだ...

    元の体格より二倍近く大きくなった仲間()

    力の種の副作用...

    俺の全身の筋肉が肥大化し...俺は......元の俺じゃなくなっていた

    結局それが原因で俺は人から忌み嫌われるようになった

    元々魔物は巨大なほど凶悪だって言われてた時代だったから...

    人間の規格を超えた大きさの俺は...もう生活することはできなかった

    魔王討伐の功績は全部勇者が得て...俺は全てを失った





















  21. 21 : : 2016/12/04(日) 19:20:24
    「そんな...」

    戦士が少女の方を見ると

    少女は涙を流していた

    「そんな...酷いですよ...」

    「まぁ...でもあいつが言ったように村は助かった...」

    「でも...感謝もされずに...」

    泣きじゃくる少女に戦士は戸惑う

    「なんでそんなに泣いているんだ...?」

    「だって...だって...」

    言葉にならない声が少女から漏れる

    「こんなに強くて優しいのに...なんで...」

    「ああうん泣かなくていいから...な?」

    どうすればいいのかさっぱりわからず

    戦士はただ少女の頭を撫でていた
  22. 22 : : 2016/12/04(日) 19:45:57












    「送っていくか?」

    しばらくして薬草が効いたのか少女の怪我も治り、村へと帰ることになった

    「いえ...村までだとまた戦士さんに嫌な思いをさせるかもしれないので...」

    少女は頭を下げる

    「ありがとうございました」

    「気にするな」

    「また...ここに来てもいいですか?」

    戦士は少し考えて言った

    「いつでも」





















    それから少女はほとんど毎日戦士のところに来るようになった

    毎回カゴにお菓子を詰めて

    どれも砂糖がふんだんに使われているのかとても甘くて

    懐かしい味がした











    一年後...


    「しばらくここには立ち寄るな」

    今日も来て、帰ろうとする少女に戦士は声をかけた

    「なんで?」

    「ここ最近...魔物の動きが活発になってる......気になるから念のために...調査をしておくから少なくとも来週...俺が村に行く時までは来るな」

    「うんわかった」

    少女の後ろ姿を戦士が見送る

    その目はいつになく厳しかった












  23. 23 : : 2016/12/04(日) 20:15:17
    「おかしい...」

    一週間後...戦士は村への道を歩いていた

    この一週間...森の中で魔物を一匹も見かけなかった

    魔物がいた痕跡すらもだ

    「いくらなんでも...こんなにパタッと...?」

    戦士は悪い予感がしていた












    「あ!戦士!!!」

    一通り買い物を済ませ少女との待ち合わせの場所に行くと彼女はもういた

    「大丈夫だった?変な事言われなかった?」

    「ああ大丈夫だ」

    「そう...はいこれ!」

    また砂糖菓子

    だけど...

    「うまいな...また腕を上げたか?」

    戦士の言葉に少女は嬉しそうに笑う

    「ふふふ、ありがとう」

    あっという間に戦士は全部食べ終えてしまった

    「私もう直ぐ自分の店を開こうって思ってるの」

    突然少女はそんな事を言った

    お店か...

    少女の菓子ならさぞや売れるだろう...

    「そういえば少女はなぜお菓子職人になろうと思ったんだ?」

    今更ながら戦士は不思議に思った

    少女は少し考えて口を開いた

    「昔...お母さんが私にお菓子作りを教えてくれてね...成り行きで別の人にあげたんだけど...その人がとっても美味しいって言ってくれて」

    「そうか...それで職人を目指したのか」

    「うん...この村に修行のために来てもう1年......師匠ももうすぐ独り立ちを認めてくれるって」

    「よかったな」

    「うん...........それで――」


    カンカンカンカン!!!


    突然村中に不吉な音が響き渡った

    四度の鐘の音...

    「魔物...だと...?」

    6年前までは日常的になっていた...

    魔物の襲来を告げる鐘

    「戦士...」

    「家に戻ってじっとしてろ」

    戦士は走り出した
  24. 24 : : 2016/12/04(日) 22:04:07
    突然の魔物の襲来で村は大混乱に陥っていた

    村の護衛役の兵も実戦経験がない者が多く、魔物を食い止めようとするものはほとんどいない

    「くそっ」

    戦士はそんな混乱の中を走り抜ける

    武器になるようなものは持っていない

    「あれか...」

    村の外から土煙が上がっているのが見える

    ダークウルフ...サイコベア...オールドエント...

    様々な森林系の魔物が確認できた

    「やっぱり......」

    門の周辺は既に人はいなくなっていた

    戦士は着ていたマントを脱ぎ捨てる

    魔物も戦士を見つけたみたいだ

    一斉に戦士に向かっていく

    戦士の脳裏に少女の笑顔が浮かぶ

    次の瞬間

    戦闘の火蓋が切って落とされた
  25. 25 : : 2016/12/04(日) 22:14:00
    「ふっ!」

    戦士の一撃一撃が魔物の数を着実に減らしていく

    頭を砕き、腹を貫き、内蔵が飛び出る

    辺りが血まみれになるのにそう時間はかからなかった

    それでも魔物の勢いはとどまることを知らない

    「どれくらいいるんだ...」

    ダークウルフの脚を持って地面に叩きつけた戦士がぼやいた

    彼は強かった...

    どんなに魔物がいても彼にとっては烏合の衆

    敵ではなかった

    が、いかんせん数が多い

    魔物もまるで戦士が狙いかのように全てが向かってきていた

    ダークウルフの牙が、サイコベアの爪が、全部戦士に飛んでくる

    戦士はそれを見切って反撃をした












  26. 26 : : 2016/12/04(日) 22:33:08
    ズドォォォン!!

    最後の1匹が地面に伏した

    「はぁ...はぁ...はぁ...」

    戦士は肩で息をする

    すべての敵を彼ひとりで倒したようで村への被害は0だった

    「はぁ...はぁ...」

    彼は村の中に戻る

    目指したのは前に教えられた少女のいるお菓子屋

    窓から外を伺っていたのだろう

    戦士が店の前に差し掛かった時少女は出てきた

    「戦士!」

    「大丈夫か?」

    戦士は彼女の頭をなでた

    「それはこっちのセリフだよ!」

    彼が無事に帰ってきたことへの安堵からか少女は笑みをこぼす




    その時...

    戦士の中で何かが反応した

    前にもこんなことがあったような......?



    キェェェェェ!

    空からの突然の鳴き声

    戦士はパッと空を見上げその声の主を探した

    「!」

    それを確認した戦士は少女を地面に押し倒し自分の身を盾にした

    次の瞬間強烈な痛みが戦士の背中を襲った

    「がぁ!」

    「戦士!?」

    それでも戦士はそのまま飛び上がり空を飛んでいた魔物......ドクワシを引っ掴んで地面に叩きつける

    そして...

    戦士は倒れた

    「戦士!!」

    ドクワシの出した酸性の体液が戦士の背中を溶かし更に毒も体中に回っている

    「くそ...」

    痛みに顔を歪める彼に少女が涙を流しながらその名を呼ぶ

    「戦士!戦士!!死んじゃダメ!!」








    戦士は...思い出した......




  27. 27 : : 2016/12/04(日) 22:42:21
















    七年前


    勇者のパーティーが止まっていた街に突如魔物が襲来

    三人で討伐に当たった

    殆どの敵を倒した後...

    声が聞こえた

    「お母さん!お母さん!!死んじゃダメ!!」

    魔物の攻撃を食らったのだろう...

    お母さんと呼ばれた女性は大量に血を流していた

    「大丈夫か!?魔法使い!治療の魔法を!!」

    戦士と魔法使いは駆け寄ってその二人の保護をした

    速やかで効力の高い魔法治療で女性は命を取り留めた

    そして...

    その街の復興に力を貸して一ヶ月後の出立の時...

    「これ...皆さんで食べてください」

    女の子がカゴを差し出して戦士達に渡した

    中身は...

    マドレーヌ

    戦士はひとつ頬張った

    「とっても美味しいよ」

    それが彼の感想だった











  28. 28 : : 2016/12/04(日) 22:54:25
    「君が...あの時の女の子か...」

    戦士は声を絞って呟いた

    何のことかわかったのだろう

    少女はハッとした

    「そうだよ!!私ずっと感謝してて...嬉しくって...」

    「そう...か......」

    戦士は少女の頭に手をのっける

    「ねぇ戦士!ダメだよ!お願い!!」

    大粒の涙が彼女の頬を濡らす

    こんな女の子をここで泣かしてはいけないな...

    途切れそうな意識を振り絞って――

    「少女...の菓子......本当に...うま、かった......あり...が...とう...」

    最後に伝えたかったこと...

    しっかり伝わっただろうか?

    彼は目をつぶった

    同時に少女の頭にのっていた手がずり落ちた



    少女の泣き声だけが辺りに残っていた
  29. 29 : : 2016/12/04(日) 23:05:24


















    村の外れの森の中

    一人の女性がそこにいた

    小さなカゴを持って

    そこに建っている墓石の前に

    「戦士...今日はマドレーヌ焼いてきたよ」

    そういって彼女はカゴを墓石の前に置いた

    「第二魔王軍がもうすぐそこまで来てるらしいよ...あの村も昨日攻め落とされたって...」

    第二魔王軍...

    戦士が死んだ直後に現れた新しい魔王軍

    その勢いはとどまることを知らず世界は再び闇に支配された

    もう生き残っている人間も少ないだろう

    「私も...もう直ぐそっちに行っちゃうかも...」

    女性はふふふと笑う

    「そうしたらまた美味しいお菓子を作ってあげられるからいいかな?」

    そう言って彼女は自分の家...戦士の家に戻っていった...




























    fin
  30. 30 : : 2016/12/04(日) 23:21:44
    これにて「孤独な戦士とパティシエの少女」を終了とします!!


    完全ノープランで始めた割にはまぁまぁじゃないかと自負しております(笑)がいかがだったでしょう?
    使ったキーワードは「筋肉」そして「砂糖」
    正直かなり難しかったです(笑)


    少し作品の補足をさせていただきますと
    ・少女は村の外の人間でたまたまお菓子作りの修行で来た場所に姿が変わり果てた戦士がいた。え?少女はどこで戦士だと気づいたかですって?ご想像におまかせします(笑)
    ・村への魔物の襲撃は第二の魔王の策略です。前魔王が素手の戦士にやられたことを聞き、先に戦士を殺す手立てをした...と言ったところです
    ・少女はあのあと周囲の反対を押し切り森の中に住み始めました。村への襲撃に総力を使ったので森の中には魔物はいませんでした

    と言う感じです


    そして最後に発表すべき事が...

    私事にはなりますがこの作品をもってnoteでの執筆活動は休止させていただきます
    たまに見に来たりはしますが執筆はしません
    今まで書いた作品の続編など書く予定ではありましたがリアルが忙しいのとただ今「なろう」での活動をしていますのでそちらに本腰を入れたいと思ってます
    今まで応援してくださった読者様、執筆仲間、本当にありがとうございました!


    最後になりましたが、この作品を読んでいただき本当にありがとうございました!!!
  31. 31 : : 2016/12/08(木) 22:12:28
    感動した〜乙
  32. 32 : : 2016/12/09(金) 22:11:28
    >>31
    ありがとうございます!
  33. 33 : : 2016/12/14(水) 11:18:04
    とても面白かったです!
  34. 34 : : 2016/12/15(木) 22:58:15
    >>33
    お気に入り登録まで!?ありがとうございます!

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stardust

刹那

@stardust

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