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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

灰色捜査官と白ウサギ

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  1. 1 : : 2015/10/01(木) 20:41:18
    捜査官殺しの喰種"夜叉"を終え!
    http://www.ssnote.net/archives/31064
    の続きになります。前作の方でとある名無しさんより頂いた「夜叉のクインケが気になる」というコメントからアイデアを広げました。
    前作未読の方や、もう忘れてしまったという方のために前回のあらすじを載せますので是非どうぞ。
  2. 2 : : 2015/10/01(木) 20:42:22
    ◎前回のあらすじ

    ハイセ達クインクス班がナッツクラッカーの捜査を進めている頃、“夜叉”と呼ばれる喰種による捜査官狩りが行われていた。アキラに夜叉の捜査を指示された彼は、以前一度訪れて気に入った:reへと再び足を運ぶ。そこで、従業員の名前を聞いた彼は無意識の内に“トーカちゃん”と呼んでしまったが、それから彼女の事をそう呼ぶようになり、親密になっていく。

    だが、その帰り道に夜叉と遭遇。夜叉の圧倒的な力に苦戦を強いられるも、夜叉の気まぐれによりハイセは命を拾う。その後、彼は捜査を進めていく過程で夜叉が:reの常連客であることを知り、夜叉を待ち伏せするために嘘の約束を取り付けるようトーカに頼み、了承を得る。

    そして、夜叉との決戦。ハイセはまたしても苦戦を強いられるが、極彩色の羽赫を持った喰種の助けや、最後は“前の自分”の力を使ったことによって辛くも勝利を収める。
    その後再び:reを訪れ、彼はトーカの連絡先を入手することに成功した。
  3. 3 : : 2015/10/01(木) 20:46:46
    -オークション6日前・シャトー-

    六月「やぁっ!」

    シュッ

    六月が、右手の木製のナイフで刺突を繰り出す。

    ガシッ

    ハイセ「突きが甘い!」

    ハイセは六月の右手を掴むと同時に外側へと捻って彼女の動きを制し、続いて彼女の身体を蹴り飛ばした。

    ハイセ「カバー!」

    不知「言われなくても!」

    不知がハイセの背後から、彼の後頭部目掛けて木刀を振り下ろす。しかし、見事に躱されてしまった。

    ハイセ「動きを止めるな!」

    ハイセは、不意を突いた筈の攻撃が躱されたことから一瞬動きを止めた不知に詰め寄ると、胸倉を掴んで彼の身体を背負い投げた。

    不知「がっ」

    ハイセ「・・・まだまだ未熟!こんなんじゃすぐにやられちゃうよ!」

    六月「はぁはぁはぁ・・・すいません」

    不知「はぁはぁはぁ・・・サッサンが強過ぎんだよ」

    ハイセ「今度の作戦では、僕より強い喰種なんて幾らでも出て来るよ。まず六月くん、ナイフ捌きはかなり軽快になったけど、いざ相手へと突き刺そうとする時の攻撃が甘過ぎる。遠慮はいらないから、この一突きで仕留めるんだって気持ちを持って攻撃して」

    六月「はい!」

    ハイセ「不知くんは、以前指摘したカバーのタイミングがかなり良くなってたよ」

    不知「へへっ」

    ハイセ「でもそこからが0点」

    不知「うがっ!」

    ハイセ「不知くんも攻撃が甘いのはこれから鍛えるとして、回避された後動きを止めちゃダメ。チャンスの後は決まってピンチが待ってるから、攻撃後こそ一番警戒しないと」

    不知「うっす」

    ハイセ率いるクインクス班は、シャトーの一室にて毎日恒例の稽古を行っていた。瓜江久生は個別に鍛錬に勤しんでいるが、それ以外の“三人”は日々、ハイセを相手に実戦訓練を積んでいた。

    ハイセ「・・・三人?」

    才子「死人なう」

    ハイセ「才子ちゃん、もし明日もサボったら、才子ちゃんだけ夕ご飯をカップラーメンにするからね」

    才子「佐々木メシが!」

    ハイセ「それが嫌なら真面目にやろうね。少し休憩したら、走り込みに行くよ」
  4. 4 : : 2015/10/01(木) 20:50:02
    わわわ、期待です!
  5. 5 : : 2015/10/01(木) 20:51:30
    -走り込み終了-

    不知「あ~、今日も疲れた~」

    才子「我がポッチャリの喪失の危機」

    六月「シャワー、先に浴びても良い?」

    不知「別に良いぜ」

    才子「どぞどぞ」

    ハイセ「あっ、ちょっと待って。その前に業務連絡良いかな?」

    六月「はい」

    ハイセ「次の日曜日は訓練を休みにするから、好きに過ごして良いよ」

    不知「良いのかよ。オークション前最後の日曜日だぜ」

    ハイセ「だからこそだよ。来るべきオークション戦へ向けて、身体を休ませないとね。だけど、疲れが残らない程度で自主トレは怠らないこと」

    六月「休養日かぁ・・・どう過ごそう」

    不知「バイクは壊れちまったから、ドライブにも行けねぇや。才子は何かすることあるのか?」

    才子「もち。才子はアキバへゴーするね」

    六月「やっぱり」

    不知「サッサンは?本屋にでも行くのか?」

    ハイセ「う~ん、どうしようかな・・・」

    不知「それとも喫茶店巡りか?」

    ハイセ「(喫茶店・・・)」

    六月「俺、シャワー浴びてきますね」

    ハイセ「あっ、うん。お疲れ」



    ハイセ「はぁ~、やっぱり走り込みの後のシャワーは最高だよ。さて・・・」

    ハイセは自室の椅子に座り、机の上に置いてある携帯電話を開いた。

    ハイセ「(男ハイセ、一世一代の勝負へいざ!・・・て、大袈裟か)」

    彼は、時代遅れのガラパゴス携帯で何やら文字を打ち込み始めた。

    To トーカちゃん
    件名 一緒にお出掛けしませんか?
    突然ですが、今度の日曜日に本屋に一緒に行きませんか?お仕事の方もお忙しいと思いますので、都合が良ければで構いません。

    ハイセ「(う~ん、急に誘うのは変かな。しかし、これはいつかは越えなければいけない壁・・・)送信!」

    ポチ

    ハイセ「ふぅ~、返事はいつ頃来るかな。今日は返事がもらえるまで寝れそうにないや」

    返信が来るまでの間、ハイセは自室にある本を手に取り読み始めた。

    ハイセ「“私は確信したい、人間は恋と革命のために生まれてきたのだ”か。いざ当事者になってみると、以前よりも深く染み渡って来るなあ」

    太宰治の『斜陽』に読み耽る事30分後、ハイセの携帯からメールの受信を知らせる通知音が鳴り響いた。その瞬間、彼は目にも留まらぬ速さで携帯を手に取りメールを開いた。

    From: トーカちゃん
    件名: Re:一緒にお出掛けしませんか?
    私で良ければ是非ご一緒させてください。

    ハイセ「・・・いよっしゃぁ!!!」

    ハイセ「・・・ゴホンッ。さて、OKも貰えたし、日曜日の予定を立てないと。二人で行くならどこの本屋が良いかな」
  6. 6 : : 2015/10/01(木) 20:52:21
    >>4
    ありがとうございます!
  7. 7 : : 2015/10/01(木) 20:55:00
    -喫茶店:re-

    トーカ「・・・」

    四方「トーカ・・・トーカ・・・」

    トーカ「・・・」

    四方「トーカ!」

    トーカ「あっ、はい!何ですか、四方さん」

    四方「そんなに嬉しそうな顔をして、どうしたんだ?」

    トーカ「いやぁ、何でもありませんよ」

    惚けて誤魔化そうとするトーカに対し、四方は彼女の右手に握られているスマートフォンを一瞥した。

    四方「・・・研からか」

    トーカ「なっ!?何故それを!?」

    四方「お前は分かりやすいからな。大体察しは着く」

    トーカ「あはは・・・実はあいつから、今度の日曜日に一緒に本屋に行かないかって誘われまして。デートに誘ってるつもりなんですかね?もしそうなら、本屋に誘うって一体どんなセンスしてるんだって話ですよ」

    四方「ふっ、あいつらしいな」

    トーカ「・・・はい」

    四方「お前が望むのなら研と・・・いや、佐々木琲世と二人で出掛けるのは構わない。だが、一時の感情に囚われて、自分の本意にそぐわぬ行動を取る事だけは無いようにするんだ」

    トーカ「もちろん、です」



    -日曜日・デート当日-

    ハイセ「(待ち合わせの時間は1時だった筈なんだけど・・・)」

    ハイセは待ち合わせ場所の公園に備え付けられている時計を見る。

    ハイセ「(30分も過ぎてるよ。本当に来てくれるかなあ・・・)」

    タッタッタッタッ

    トーカ「お待たせしてすみません!」

    ハイセ「トーカちゃん!いえいえ、僕も遅れてしまって」

    トーカ「嘘をおっしゃらないで下さいよ。夜叉を追っていた時もそうでしたけど、ハイセさんっていつも時間ピッタリに来るじゃないですか」

    ハイセ「あはは、ばれましたか」

    トーカ「・・・本当に変わってない」

    ハイセ「へ?」

    トーカ「こっちの話です。それで、今日はどちらの本屋に?」

    ハイセ「えっと、20区にある石田書店です。早速向かいましょうか」

    トーカ「そうですね」

    二人は、石田書店へと向かって歩き出した。
  8. 8 : : 2015/10/01(木) 20:57:38
    -石田書店-

    ハイセ「本屋に着いたことだし、トーカちゃんのお勧めの本を教えてくれませんか?」

    トーカ「お勧めの本?」

    ハイセ「ええ。せっかく二人で来たんですから、お互いにお勧めの本を教え合いましょう」

    トーカ「お勧めの本と言われましても・・・」

    ハイセ「難しいことは考えずに、自分の好きな本を教えてくれればいいんですよ」

    トーカ「ええっと・・・(本なんて普段読まないし、取り敢えず適当に聞いたことがある有名なやつを言うか・・・)かちかち山とか、好きです」

    ハイセ「かちかち山・・・ですか」

    トーカ「(やばっ!かちかち山って昔話じゃねぇか!)」

    ハイセ「なかなか通ですね。あの話には、昔の人の“悪人は報いをくけるべきだ”という因果応報の考え方がはっきりと描かれていて、興味深いですよね」

    トーカ「え・・・」

    ハイセ「復讐の代行人として兎が狸を殺してしまう所も、復讐への肯定が見られるし、盟神探湯のような古代の風習も読み取ることが出来て、一見すると子供向けの昔話ですけど、深く読むとどんどんのめり込んでしまう深みがあります」

    トーカ「そ、そうなんですよね・・・(知らねぇよ)」

    ハイセ「うんうん。昔話に目を向けてみるのも面白そうです」

    トーカ「あの、ハイセさんのお勧めは?」

    ハイセ「僕ですか?今のお勧めは・・・太宰治の“斜陽”ですかね」

    トーカ「太宰治ですか。この前店で読んでいらした、高槻泉だと何がお勧めですか?」

    ハイセ「高槻泉・・・ですか」

    トーカ「お好きではないのですか?」

    ハイセ「読むことは読むんですけど、少し苦手なんですよね。だから、お勧めできないというか・・・」

    トーカ「・・・そうですか。では、まずは太宰治の“斜塔”を読んでみますね」

    ハイセ「“斜陽”です」

    トーカ「あっ、すいません」

    それからハイセは本の世界、主に昔話の世界に入り浸った。一方のトーカはと言うと、一時間ほどで読書に飽きてしまい、雑誌を読んだり漫画を見たりしていた。
  9. 9 : : 2015/10/01(木) 21:00:35
    -三時間後-

    ハイセ「かなり読み耽っちゃったな。あれ、トーカちゃんは?」

    本の世界からようやく戻って来たハイセは、トーカを探して本屋を歩き回る。彼女は雑誌コーナーで雑誌を立ち読みしていた。

    ハイセ「あっ、雑誌を読んでたんですね」

    トーカ「はい。偶然気になる雑誌を見つけたので。ハイセさんは、読みたい本は読み終わりましたか?」

    ハイセ「ええ」

    トーカ「では、お店を出ましょうか」

    ハイセ「―――あの、トーカちゃんって実は本が好きじゃないなんてこと・・・」

    トーカ「ありませんよ!私も大好きです!」

    ハイセ「それは良かった。僕だけ楽しんでたんじゃないかって不安になってたので」

    それから二人は石田書店を後にした。これにて本屋デート(?)は終了であるのだが、帰る方向が一緒であることも手伝って、二人は一緒に帰ることになった。

    トーカ「そう言えば、お仕事の方はどうですか?」

    ハイセ「ああ・・・お陰様で、“夜叉”討伐の功績を表彰されることになりました」

    トーカ「表彰?すごいじゃないですか」

    ハイセ「トーカちゃんの協力が無ければ成し遂げられませんでした。あの時は、本当にありがとうございました」

    トーカ「いえ。いつも助けてもらってばかりで・・・」

    ハイセ「(・・・いつも?)」

    トーカ「それで、表彰はいつ頃に?」

    ハイセ「それが、大分後になりそうなんですよね。ここだけの話、もう数日後に大きな作戦が控えてまして・・・」

    トーカ「大きな作戦?一体どんな?」

    ハイセ「喰種主催のオークション会場に乗り込むというものです」

    トーカ「!?」

    ハイセ「人間に知られる分には問題ないですけど、喰種に知られては事なので他言無用でお願いします」

    トーカ「もちろん、分かってますよ」

    ハイセ「ありがとうございます・・・あ、着きましたね。では、今日のところはこれで」

    ハイセはトーカに軽くお辞儀をした後、彼女に背を向けて歩き出そうとする。

    トーカ「―――ま、待ってください!」

    トーカは彼を大声で呼び止めると同時に、彼の右手を掴んだ。

    トーカ「その作戦が終わったら、絶対、また店に来てください。絶対・・・」

    ハイセ「・・・ええ、約束します。絶対、トーカちゃんの淹れるコーヒーを飲みに来ます」

    トーカ「ありがとう・・・ございます・・・すいません、急に呼び止めて」

    ハイセ「いえいえ。また会いましょう」

    今度こそ、ハイセは東京の街へと消えていった。
  10. 10 : : 2015/10/01(木) 22:46:45
    期待ー!
  11. 11 : : 2015/10/02(金) 00:47:35
    期待
  12. 12 : : 2015/10/02(金) 19:00:35
    >>10
    ありがとうございます!

    >>11
    期待&お気に入りありがとうございます!
  13. 13 : : 2015/10/02(金) 19:05:08
    -オークション前日・[CCG]ラボラトリー区画-

    タッタッタッタッ

    ハイセ「アキラさ~ん」

    アキラ「来たかハイセ」

    ハイセ「“夜叉”のクインケがもう完成したって、本当ですか?」

    アキラ「ああ。地行博士に無理を言って、オークション戦に間に合わせてもらった」

    ハイセ「そんなに急がなくても・・・」

    アキラ「今回の作戦、ユキムラでは限界がある。Sレートを超える喰種と戦うことになれば、赫子の使用は自ずと避けられなかっただろう。だが、お前はあまり赫子を使いたくないのだろう?」

    ハイセ「ええ・・・」

    アキラ「ならば捜査官としての力を高めるしかない。そして、そのための一番手っ取り早い方法は強力なクインケを持つことだ。いずれは喰種の力と捜査官としての力、両方を以って有馬特等を超えてもらうが、今回の作戦では捜査官としての力を大いに伸ばしてもらいたい」

    ハイセ「有馬さんを超えるなんて、まだそんな無茶を言いますか」

    アキラ「無茶ではない。お前ならできる」

    地行「お~い、真戸ちゃん、佐々木く~ん」

    ハイセ「地行博士!今回はお忙しいところ、僕の為にありがとうございました」

    地行「いやいや、他ならぬ真戸ちゃんからの頼みだからね」

    アキラ「地行博士。いきなりで申し訳ないのだが、作戦前日なので・・・」

    地行「そうだね。早速、佐々木君の新クインケのお披露目としよう。僕について来て」

    地行博士に連れられ、二人はクインケ保管庫へと向かった。



    地行「これが、君が倒したS~レート喰種・夜叉の赫包から造られたクインケの一つだ」

    ハイセ「これが夜叉の・・・」

    ハイセに披露された新クインケは、棍棒状のクインケであった。

    ハイセ「棍棒型のクインケですか。僕はてっきり刀型になるものだと思ってたんですけど・・・」

    地行「うん。夜叉の赫子は日本刀のような切れ味を持っていたし、君が希望した形状も刀型だったね」

    ハイセ「はい。今までユキムラを使ってきたので、それと似た形の方が良いと思ったので」

    地行「そっかぁ。でも夜叉の赫子のもう一つの性質から、普段は棍棒型の方が良いという結論に達したんだよ」
  14. 14 : : 2015/10/02(金) 19:09:08
    ハイセ「もう一つの性質?」

    アキラ「とてつもない攻撃力を誇るが、Rc細胞同士の結合が脆弱だという性質だ。刀のように薄い形状にすれば、強度の面で欠陥が現れることは火を見るよりも明らかだった」

    ハイセ「だから、棍棒のように太く強固な形状にしたんですね」

    アキラ「ああ。攻撃力は多少下がったが、その分耐久性は十二分に備わっている。もちろん、攻撃力も下がったとは言ったが他のSレートクインケにも全く引けは取らん。だが、我々クインケ研究者からすれば、それでは物足りない」

    ハイセ「(アキラさんって、研究者では無いような・・・)」

    アキラ「そこで、このクインケに変形ギミックを搭載した。持ち手の端の部分にボタンがあるだろう。押して見ろ」

    ハイセ「はい」

    ハイセは新クインケを手に取り、持ち手にある赤いボタンを押した。

    ガキィン!

    ハイセ「すごい!クインケが刀型になった!」

    地行「剣モードの瞬間Rc値は、鈴屋准特等のジェイソンをも凌駕する6000だ!」

    ハイセ「6000!?」

    アキラ「だが、当然だが大きな弱点を抱えている」

    ハイセ「強度ですね」

    アキラ「ああ。今のうちに忠告しておくが、剣モード時にクインケで相手の攻撃を受け止めようなどとは思うな。一瞬で折れる」

    ハイセ「刃の当て方に気を遣ってもですか?」

    アキラ「折れる」

    ハイセ「わ、わかりました」

    地行「大抵の喰種は通常時の形状で事足りるだろうから、剣モードは起死回生の一発逆転を狙うしかないって時に使いなよ」

    ハイセ「そんな状況には出来ればなってほしくないですね。ところで、このクインケを夜叉の赫包から造られたクインケの一つであるとおっしゃられましたが、他にもあるということですか?」

    地行「良い所に気が付いたね!君の言う通り、夜叉の赫子からはもう一種類クインケが造られた」

    ハイセ「彼は赫者でしたから、やはり鎧ですか?」

    地行「ああ、そうだとも。今持ってくるから、ちょっと待ってて」

    地行はハイセの質問に答えると、保管庫の奥へと走って行った。それから数十秒して、彼は大きなケースを乗せた台車を押して戻って来た。
  15. 15 : : 2015/10/02(金) 19:11:23
    地行「これがアラタの後継として期待されている、防具型のクインケだ」

    そのクインケは、形状こそアラタとほぼ同じであったが、表面は鱗赫特有のものとなっており、ハイセに赫者状態の夜叉の姿を想起させた。

    地行「名前はアラタと同じくそのまんまで、“ヤシャproto”。こっちの方は残念ながら佐々木君個人の物ではなく、CCG全体としての所有物ということになる」

    ハイセ「それはそうですよ。こんな良いクインケ、一等の僕が持つには畏れ多いです」

    地行「佐々木君ならそういうと思ったよ。でも、今日は君に持ち帰ってもらう」

    ハイセ「え?」

    地行「実はこのクインケは調整段階でね。常人に着せるにはまだ危険が多すぎるんだ。でも、オークション戦という最高の実験場を逃すわけにもいかない。だからその・・・悪いとは思ってるけど・・・」

    ハイセ「普通でない僕に着て貰いたいと」

    地行「うん。君なら確実に耐えられると思うよ」

    ハイセ「わかりました。僕にしか出来ないことなら、喜んで引き受けます」

    地行「そう言ってもらえると助かるよ!さて、僕から話しておきたいことはこれで全部かな」

    アキラ「では、最後に名前を決めろ」

    ハイセ「武器の方ですか。普通に“ヤシャ”で・・・あ、鎧と被っちゃうのか」

    アキラ「折角の機会だ。自分で名付けると良い」

    ハイセ「う~ん。そうだな・・・それじゃあ、“フツギョウ”にします」

    アキラ「フツギョウ?」

    地行「フツギョウって、夜明けって意味の払暁かい?」

    ハイセ「はい、そうです。夜叉は夜に現れる喰種でしたから、それを打ち払って手に入れたクインケという意味を込めました。それと、これからどんな困難も乗り越えていこうという願掛けの意味もあります」

    地行「困難を夜と捉えた訳だ。佐々木君らしいね」

    アキラ「しかし、()を払うとは、大層な名じゃないか」

    ハイセ「いえ、そんなつもりは!」

    アキラ「冗談だ」

    ハイセ「ホッ・・・地行博士。この度は本当にありがとうございました」

    地行「二人の武運を祈るよ。頑張って」

    ハイセ「はい!」
  16. 16 : : 2015/10/02(金) 19:16:04
    -喫茶店:re-

    四方「今日は客が少なかったな・・・」

    トーカ「―――あの、四方さん」

    四方「なんだ?」

    トーカ「明日のオークションがどこで行われるか分かりますか?」

    四方「研に聞いたのか」

    トーカ「はい」

    四方「俺は知らない」

    トーカ「そうですか・・・」

    四方「が、喰種の俺達にとっては、それを知るのはさほど難しい事ではないだろう。それを踏まえて忠告しておく。お前が決めたことは、“待つこと”だ。それを忘れるな」

    トーカ「・・・はい」

    四方「・・・俺はもう寝る」

    トーカ「お休みなさい」

    店の奥へと去って行く四方。一人残るトーカの瞳は微かに潤んでいた。

    トーカ「どうして出会っちまったんだよ。どうして一緒に戦っちまったんだよ!こんなにあんたが近くにいたんじゃ・・・黙って待っていられなくなるだろうが・・・」



    -オークション当日・集合場所-

    六月「それでは、行ってきます」

    才子「てらむっちゃん」

    不知「頑張れよ、トオル!」

    瓜江「無茶はするなよ(鈴屋が居るんだ。無能は黙っていれば良い)」

    ハイセ「いってらっしゃい、六月くん。什造くん、六月くんを頼みます」

    什造「任せてください。行くですよ、トオル」

    六月「はい」

    テクテクテク

    ハイセ「僕らはトラックで待機だ。早速乗り込もう」

    不知「っし」

    瓜江「了解です」



    -一時間後-

    ハイセを始めとする捜査官達はそれぞれトラックに乗り、什造から発せられる位置情報を基に彼の乗る車を追跡していた。

    ハイセ「マダム達は護衛を雇っている可能性がある。危険な喰種と対峙するかもしれない。“勝てない”と判断したら迷わず逃げる。いいね?」

    不知「オス」

    才子「今すぐにでも」

    瓜江「(またお得意の安全講習か・・・)承知しました」

    政『各員に告ぐ。今回の任務を再確認だ。任務①“館内の喰種の殲滅”。特に“ビッグマダム”は必ず仕留めろ。“アオギリの樹”の介入も予測されるが、この機会を絶対に逃すな』

    政『任務②“民間人の救出”。会場にはオークションの商品として民間人が囚われている可能性が高い。最優先は民間人の安全だ。作戦中は状況に応じ、適宜判断せよ・・・以上』
  17. 17 : : 2015/10/02(金) 19:19:55
    -さらに数十分後-

    不知「ここがオークション会場か。でけぇ・・・」

    瓜江「(喰種の癖に、大層な会場を使っているものだな)」

    才子「ママン、はきそ」

    ハイセ「我慢だよ。もうすぐ、始まる」



    政『鈴屋准特等の合図を確認!』

    ハイセ「!」

    アキラ「総員、突入準備だ!」

    政『・・・作戦を開始する』

    和修政が作戦開始を告げると、オークション会場前にて待機していた捜査官達が一斉に動き出し、施設内へと突入を始めた。

    捜査官A「一匹も逃がすな!」

    捜査官B「包囲しろ!」

    不知「もう始まってんのかよっ・・・」

    ハイセ「僕らの任務は阿藤准特等の指示の下、正面ルートから突入して中の喰種を殲滅することだ。予想通りアオギリの喰種もいるようだし、一瞬たりとも気を抜かないこと」

    不知「おうよ」

    瓜江「はい(当然だ)」

    ハイセを始めとするクインクス班は、エントランスからの突入を試み入口へと走る。途中、アオギリの喰種が襲い掛かって来るも難なく退け、彼等は無事にエントランスへと入ることに成功した。

    アオギリメンバー(以下アオギリ)A「来たぞ!迎え撃て!」

    ハイセ「フッ」

    ブオン!

    アオギリB「グウッ」

    アオギリC「ッア」

    瓜江「ふん」

    ザシュ

    不知「らあッ」

    ザン

    才子「うおお」

    ダダダダ

    アオギリD「な、なんだあの灰色・・・!」

    アオギリE「まるで・・・」

    バキッ ベキィ

    陶木「あれが佐々木琲世ですか・・・」

    赤井「ケッ、クインクス班のメンター野郎か。赫子は使わねぇのか?」

    阿藤「かぶるな・・・」

    赤井「はい?」

    阿藤「いや・・・有馬特等の動きによく似ている・・・」

    ハイセ「(六月くん・・・待ってて)」

    ブオン!

    アオギリF「ボッ」

    阿藤「このまま中央棟に向かいましょう!大芝班は管理棟側へ!」

    大芝「了解!」

    タッタッタッタッ

    阿藤班と共に中央棟へと向かって走るハイセ。周囲の喰種は殲滅され、誰もが警戒を僅かに怠り出している中、ハイセはその気配をいち早く察知した。

    ハイセ「・・・!」

    バッ

    突然、ハイセが久木山の体を押し倒した。次の瞬間・・・

    ドオォ

    捜査官C「べああああ!」

    久木山の傍に居た捜査官の身体が、巨大な赫子によって叩き潰された。

    久木山「あっ、ありがとうございます」

    テクテクテク

    不知「アイツ・・・例のピクハゲ野郎!!」

    現れた喰種は、ハイセ達がナッツクラッカーを尾行した際、彼女と同行していた男であった。両肩からは巨大な甲赫が生えており、アオギリの雑兵とはレベルが違うことが伺えた。
  18. 18 : : 2015/10/03(土) 02:34:26
    期待
  19. 19 : : 2015/10/03(土) 19:01:13
    >>18
    どうもありがとうございます。
  20. 20 : : 2015/10/03(土) 19:04:04
    ピクハゲ「ピクピク・・・」

    ダッ!

    ピクハゲ野郎(不知より)は、両肩に重厚な甲赫を生やしているにもかかわらず、素早い動きでハイセ達に襲い掛かって来た。彼はハイセを間合いに捉えると、右の方の赫子をハイセへと振るった。

    ギィン!!

    ハイセは新クインケ“フツギョウ”で、その攻撃を容易く受け止めてみせる。

    ハイセ「(手強そうだ・・・ここは阿藤准特等と協力して・・・)」

    政『佐々木一等は直進しろ』

    ハイセ「えっ・・・あっ、しかし・・・」

    阿藤「指揮官どのの指令だ。ここは我々阿藤班が」

    ハイセ「・・・みんな!」

    不知「オウ!」

    タッタッタッタッ

    阿藤「羽赫は援護を頼む!味方に当てるなよ?」

    捜査官D「了解!!」



    -中央棟への通路-

    タッタッタッタッ

    ハイセ「不知くん、瓜江くん、後ろ頼むよ!」

    ブオン!

    アオギリG「く」

    瓜江「了解」

    ザシュッ

    アオギリH「ヌアッ」

    不知「らっ!!」

    ザン

    アオギリI「があ」

    タッタッタッタッ

    不知「外に比べると、中は喰種の数が少ねぇな」

    ハイセ「うん。お陰で難なく奥まで行けそうだ」

    瓜江「(しかし、この少なさは異常だ。オークションを行っていたなら大量の参加者が居る筈だが・・・どこかへ隠れている?)」

    ハイセ「・・・あ、あそこに居るのは」



    中央棟では、一旦は叶の襲撃から逃れた六月が再び彼に追い詰められていた。

    叶「それに治るということは・・・」

    バキバキバキ

    叶「多少、ケガをしても良いわけだ」

    叶の赫子が六月に襲い掛かる。だが、彼の赫子は六月に届く前に払い飛ばされた。

    ハイセ「・・・ごめん。遅くなった」

    ドシュシュ

    叶「!?」

    今度は叶へと不知のミサイル型の羽赫が襲い掛かる。不知の赫子は威力こそ低いものの、確実に叶へダメージを与えた。

    叶「ぬゥ!!」

    不知の赫子を受け顔をしかめる叶。そこへ瓜江が追撃の蹴りを繰り出す。

    叶「ゴオ!」

    瓜江はさらにクインケで叶を切り裂こうとするが、その攻撃は赫子で防がれてしまった。

    叶「・・・ぐぬッ!!」

    瓜江「鱗赫です」

    ハイセ「・・・うん」

    叶「この香り・・・!!きさ・・・貴様がァ・・・佐々木の琲世ェェ!!!!」

  21. 21 : : 2015/10/03(土) 19:07:01
    不知「さっすがサッサン。有名人だな」

    ハイセ「喰種の間で有名になっても困るんだけどね」

    瓜江「(無駄話をする気はないから)さっさと仕留めて進みましょう」

    ダッ!

    瓜江が叶へと接近する。それに続くように不知も叶へと近付き、二人はそれぞれ斬りかかる。先程の不意打ちにはダメージを負った叶であったが、今回は真っ正面からの攻撃であり、彼は赫子で的確に攻撃を捌く。そして――――――

    ジャッ

    ドゴォ

    不知「ごあっ」

    瓜江「くっ」

    隙を突いて蹴りを放ち、二人の体を蹴り飛ばした。

    叶「・・・!」

    ガィン!

    カバーのタイミングを指摘された不知へ手本を見せるかの如く、ハイセは的確なタイミングで叶に攻撃を仕掛ける。それを防御した叶に対しハイセは怒涛の連撃を放ち、反撃の芽を摘み取る。

    ハイセ「フッ」

    ガッ!

    通常よりも力のこもった打撃を受け、叶は体勢を崩される。

    ハイセ「瓜江!不知!」

    ザザンッ

    叶「我が・・・」

    二人の斬撃を受け、叶は戦闘不能に陥る。クインクス一同の誰もが駆逐に成功したと確信した次の瞬間、ツタのような形状の赫子が現れ、叶の体を攫っていく。

    瓜江「(逃がさん)」

    瓜江は即座に反応し追撃を試みるが、足にかすり傷を負わせるだけに留まった。

    叶「松・・・まえ」

    ピシ  ピシ 
    ズアアアアア

    突如、床から茨のような赫子が伸びて壁となり、通路を塞がれてしまう。

    ハイセ「逃げられた・・・」

    ハイセ「赫子を分離、こんな事も出来るのか・・・」

    未だかつて見たことのない赫子の使用方法を目の当たりにし、ハイセは驚嘆する。そんな折、彼の無線機から呼出音が鳴った。

    ハイセ「こちら佐々木」

    政『和修だ』

    その通信は、六月との合流を知った和修政からのものだった。
  22. 22 : : 2015/10/03(土) 19:09:16
    彼はオークションの客の喰種が施設内のどこかに匿われている可能性が高いこと、その場所を明らかにするために管理棟へ向かった大芝班がナッツクラッカー単体に敗れ、彼女のレートがAからSに引き上げられたこと、そしてナッツクラッカーの駆逐に向かえというクインクス班への命令を伝えた。

    またその命令を受けたハイセは、負傷と疲弊の目立つ六月の退却を嘆願した。結果、瓜江の同行付きで六月の途中離脱は許可された。

    ハイセ「六月くんは本陣まで戻って、医療班の看護を受けて」

    六月「・・・!」

    ハイセ「君のおかげで奴らの不意をつけた。今日の君の任務はこれで終了だ。よく頑張った、六月三等」

    六月「・・・・・・これで・・・」

    ハイセ「退路は瓜江くんに任せる」

    瓜江「(なにっ)佐々木一等・・・しかし・・・!(俺の功績はどうなる)」

    ハイセ「不知くんはルート把握が不安だ。才子ちゃんと六月くん二人だと戦力的に心細い・・・君だけが、彼を守りながら本陣に戻れる。君が・・・功績を挙げたい気持ちは分かる。でも、今は君にしか頼めない・・・」

    瓜江「(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)わかりました」

    ハイセ「六月くんをよろしくお願いします」

    瓜江「(ちっ)いくぞ六月」

    六月「うん」

    ハイセ「僕らは管理棟へ急ごう」

    才子「達者でな、ちゃんこむ」



    -中庭-

    管理棟へと向かうハイセ、不知、才子の三人は第二中央棟を抜け、中庭へと辿り着いていた。

    ハイセ「屋外か・・・どこから敵が現れるかわからない。周囲の警戒を怠らないように」

    不知「もちろん」

    林村「ッ・・・う・・・」

    ハイセ「あなたは大芝班の・・・」

    林村「林村だ・・・佐々木一等か・・・上にナッツクラッカーが、班長と後輩が・・・まだ・・・」

    班の仲間を心配する林村の様子から、政からの“大芝班は全滅”という報告がハイセの頭をよぎった。

    ハイセ「あっ・・・お、お怪我は・・・」

    林村「落下したが、木がクッションになって、幸い擦り傷だ」

    ハイセ「すぐに医療班の要請を」

    林村「助かる・・・」

    ゾワ

    ハイセ「あぶな―――」

    ドン

    ハイセ「いッ!!!」

    ガキィッ

    殺気から来る悪寒を察知したハイセが咄嗟に不知を突き飛ばす。その直後、謎の白髪の男の飛び蹴りがハイセを襲った。彼はフツギョウを以って攻撃を受け止める。

    オウル「オッほぉぉ、マジかッッ!!!止めやがった!!!」

    ハイセ「(何て力だ・・・抑え切―――)」

    ハイセ「(―――ってみせるッ!)」

    バチィ!

    オウル「わおっ」

    ハイセは全身全霊を以って辛うじて謎の喰種・オウルの奇襲を抑え込み、弾き返した。
  23. 23 : : 2015/10/03(土) 19:16:35
    ハイセ「ハァ・・・ハァ・・・(まさかいきなりクインケの新調に救われるとは。ユキムラだったら受け切れなかった)」

    不知「サッサ―――」

    ハイセ「来るな!!」

    オウル「さっさ?さっさ、さっささ、さささっささ・・・そうか・・・オメェが・・・」

    オウル「エトのヤツ、憎い演出してくれるねぇ。だから俺をここに・・・?クヒヒヒ・・・お肉の味は・・・」

    ダッ!

    オウル「どうかなッッ!!!」

    真っ正面からの小細工なしの突進。スピード任せの単純な攻撃であるが、並の捜査官なら必死の強襲を、ハイセは冷静に見切り、フツギョウで反撃の一撃を叩き込む。

    不知「っし!!さすが・・・」

    オウル「くひっ、くひひひひいひひひひ。こんぐらいじゃあ響かないぜええええ」

    ハイセ「・・・!!」

    ハイセはオウルの左眼のみが紅く染まっているのを目の当たりにした。

    オウル「ぜんッぜん痛くないのよォ・・・“慣れてる”からなああああああああ!!!!ははははははははははは!!!!」

    ハイセ「(隻眼の・・・喰種!!?)」

    バキバキバキキ

    ハイセ「(・・・コイツは――――――)」

    オウル「はッはァア!!!」

    ガキィ!!!

    ハイセ「(ヤバ過ぎる!!!)」

    羽赫の一撃をフツギョウで受け、目の前の喰種の戦闘力の強大さを垣間見た彼は、すぐさま不知達に自分を置いて管理棟へ向かうように命令する。一度は拒否する不知であったが、ハイセの強い口調から事態の切迫さを感じ、止む無く命令に従うことを選択する。

    不知「・・・わっ、和修さん!!」

    政『誰だ?』

    不知「不知ッス。あっ・・・サッサンの・・・いや、佐々木班の不知三等ス!!えっと・・・喰種が現れて増援が・・・あっとつまり・・・」

    林村「ちょっと黙ってろ!!」

    林村「大芝班、林村です!!現在、佐々木班の不知、米林三等と同行中!佐々木一等が突如現れた喰種に襲撃され、我々は退避しております」

    政『対象の推定レートは?』

    林村「Sは確実に超えるものかと・・・」

    政『・・・林村一等、佐々木一等。暫定レートはSS~で行く。佐々木一等は単騎で対峙。林村一等、大芝班はお前以外全滅だ。佐々木班に同行し、再度管理棟へ向かえ』

    林村「・・・・・・・は」
  24. 24 : : 2015/10/03(土) 19:18:32
    不知「おっおいッ、なんだよソレ!!サッサンを見捨てろって言うのかよ!!そんなのおかしいだろ!!一緒に戦えって言えよ!あんたそれでも指揮官かッ」

    林村「・・・了解しました」

    不知「林村さん!」

    政『佐々木一等は出来るだけ管理棟から離れて戦え。その喰種をひきつけろ』

    ハイセ「・・・了解。不知くん、才子ちゃんを頼む」

    不知「・・・ッ・・・了解」

    オウル「・・・上司の鑑だねえ。部下を行かせるなんてさ。嫌いじゃないぜ、そういうの。俺の上司も出来た方だったよなあ・・・秘密の話でもしようぜ、二人きりで」

    ハイセ「・・・生憎だけど、あなたの秘密の話なんて聞きたいとは思わない」

    オウル「別にィ、俺の秘密の話とは言ってないぜ。ほら、サッサキくんにもあるでしょ?人間には言えない秘密とかよォ・・・」

    ハイセ「そんなもの―――」

    ダッ!

    ハイセ「無い!」

    ブオン!

    オウルの質問を振り払うように、ハイセはフツギョウを振るう。しかし、振り切った後に残ったのは空を切る音だけ。

    オウル「お腹ガラ空きッ」

    ドッ

    ハイセ「がッ」

    隙だらけのハイセの腹部に、オウルの右手が突き刺さる。その時の感触に、オウルは違和感を覚えた。

    オウル「佐々木く~ん・・・何か着てる?」

    ハイセ「(この喰種・・・強い。だからこそ、起動させるなら今しかない)」

    バサッ

    上着を脱ぎ捨てるハイセ。彼の胴体は赤黒い鎧で覆われていた。

    ハイセ「“ヤシャproto”・・・オン」

    首周りにあるスイッチが押されると、ヤシャprotoが鈍く輝き始めた。それと共に、彼の体の至る所に鈍い痛みが走り始める。

    ハイセ「(これが装着型クインケの負担か・・・)」

    オウル「何だそれぇ!!喰種に喰種を着せるなんて、イかれてんなぁッッッ!!!」

    ハイセ「僕は喰種じゃない・・・」

    オウル「はい?」

    ハイセ「捜査官だ!!!」

    ドゴオ!!!

    ハイセは“人間の”限界を遥かに超えた速度で接近し、オウルにフツギョウを叩き込んだ。
  25. 25 : : 2015/10/03(土) 19:21:49
    -正面入り口前の広場-

    広場では、真戸アキラ率いる捜査官達がアオギリの白スーツ、及び三枚刃の軍勢と交戦していた。

    アキラ「数の利はこちらにあるぞ!“刃”どもは私が抑える!ナキを押しつぶせ!」

    クインケ“フエグチ”を自在に操り、三枚刃・ミザとその部下達と渡り合う傍ら、広場の捜査官達に指示を出すアキラ。そんな彼女の様子を、遠くで見ている者がいた。

    ???「あのクインケはヒナミの・・・いや、今は他に構っている暇はない。あいつを探さないと。何か、胸騒ぎがする―――――――――」



    -中庭-

    ハイセ「(凄い。防御力が上がっているだけでなく、運動能力まで格段に底上げされている。これなら・・・)」

    オウル「イヒヒヒッ、今のはちょぴッと感じたなぁッ。だけど、まだまだ響かないねぇ」

    ハイセ「ッ・・・(ほとんど効いてない!?)」

    オウルは不気味に笑いながらハイセの近くへと歩み寄る。彼の声、足取りにダメージを受けた様子は全く見られなかったが、フツギョウが叩き込まれた胴体に目を移すと明らかに損傷していた。

    ハイセ「(攻撃が通じていないわけじゃない。たけどすぐに治る上に、奴がダメージとして認識していないんだ)」

    オウル「しっかし驚いたぜ。“捜査官だ”ッて主張し始めたと思ったら、いきなり人間やめてるとしか思えない動きをしてきたんだもんなァ」

    ハイセ「・・・別に、自分が普通の人間だと言ってるわけじゃない」

    オウル「はぁ?ワケ分かんねぇ。だったら――――――」

    ダッ!

    オウル「喰種じゃんかッ!」

    ガィン!

    オウルの突然の強襲を弾き返す。

    ハイセ「違うッ」

    ブオン!

    ハイセが振るったフツギョウを、オウルは突進を弾き返されたばかりにもかかわらず難なく躱す。そして、即座に背後に回り込み――――――

    オウル「オイオイ、矛盾してる―――」

    ガシッ

    オウル「ぜェッッ!!?」

    ブン!

    ハイセ「がッ」

    ハイセの首を掴み、大ホールの外壁へと放り投げた。追撃を加えんと最接近するオウルに対し、今度は攻撃を躱してからカウンターを試みる。

    バキィッ

    ハイセ「(入っ・・・)」

    オウル「痛くねぇツッッてんだろうがァァァ!!!」

    ゴオッ!

    ハイセの攻撃を正面から受け止めた上で、彼を思い切り蹴り飛ばす。その威力はすさまじく、再び壁へと叩き付けられた彼の体は、そのまま壁を貫通して大ホール内のステージ上に着地した。

    その着地の際に、彼の意識は一瞬飛びフツギョウを手放してしまうが、すぐに意識を取り戻しフツギョウを拾い上げた。
  26. 26 : : 2015/10/03(土) 19:36:29
    期待期待期待期待期待‼︎
  27. 27 : : 2015/10/04(日) 01:20:43
    期待した!
  28. 28 : : 2015/10/04(日) 20:49:37
    >>26
    感謝感謝感謝感謝感謝です!!

    >>27
    毎度ありがとうございます!
  29. 29 : : 2015/10/04(日) 20:53:12
    テクテクテク

    オウル「いつまでそんな玩具(オモチャ)で遊んでるつもりだぁ?お前はもっと良いモン持ってんだろうが」

    ハイセ「何を―――」

    オウル「赫子使えよ」

    ハイセ「!?」

    オウル「お前の赫子はちゃんと使えばそのクインケよりも強い。だから使えよ・・・そして、証明させてくれよ・・・お前が“先生”の最高傑作だった・・・・・・だが、今はどうだ?」

    ハイセ「要らない。そんなもの無くたって・・・」

    ダッ!

    ハイセ「お前を倒せるッ!」

    バキィッ

    オウル「ごえぁッ!」

    フツギョウをフルスイングし、オウルの身体を客席まで弾き飛ばす。さらに追撃を加えんと、オウルを追って駆けるハイセ。しかし、彼が辿り着くよりも早くオウルは起き上がり―――

    ガガガガッ

    無数の結晶化されたRc細胞を放った。ヤシャprotoを身に纏ったハイセには大したダメージは与えられないものの、羽赫の雨に当てられた彼は動きを封じられた。

    オウル「赫子出さないなら・・・」

    ダッ!

    ガシッ

    ハイセ「もがっ」

    オウルは鎧に覆われていない顔を掴み取り、ダッシュの勢いをそのままに―――

    オウル「お仕置きだッ」

    ガゴオン!

    ハイセの後頭部を地面へと叩き付けた。

    オウル「弱ェ弱ェ弱ェ、何をそんなに拒んでるんだ?」

    質問を投げ掛けつつも、オウルはハイセの顔から手を放さない。そのまま、彼はハイセの身体を持ち上げ、ステージ中央にある建物へと放り投げた。

    オウル「そんなんじゃ証明にならないだろう?俺が一番だって示させてくれよぉ!なぁ!?カネキケェェェェェェェンッッッ!!!」

    ハイセ「・・・違う・・・違う・・・」



    ???(相変わらず弱いね)

    ハイセ「!?」

    ???(新しい武器を手に入れても、結局前と変わってないじゃないか)

    ハイセ「(違う。僕は強くなった。奴が強過ぎるだけだ)」

    ???(そんなの言い訳じゃないか。どちらにしろ、このままじゃ()が死んじゃう)

    ハイセ「(こんなところで死ぬつもりなんてない)」

    ???(だったらお願い。僕を見て。僕の名前を、呼んで)

    ハイセ「(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)」
  30. 30 : : 2015/10/04(日) 20:58:52
    ハイセ「嫌だ。消えたく・・・ない・・・」

    ハイセ「(だけど、起死回生の一発逆転を狙うには、赫子しか・・・)」

    己が忌み嫌う力を使うか否かの選択を迫られたハイセは、ふと自分が先程まで振るっていた捜査官の力の象徴を見つめた。夜叉から造られたSレートクインケ“フツギョウ”。それは素が夜叉の赫子であることを感じさせない棍棒型の形状をしており、持ち手の端には――――――

    ハイセ「(いや、まだある。僕には・・・)」

    カチッ

    ハイセ「この力が!!!」

    ガキィン!

    彼が既に戦闘不能に陥っていると思い込んでいたのか、ゆっくりと彼の埋まる瓦礫の山へと歩み寄っていたオウル。彼の耳に、金属音が届く。その直後、瓦礫の山頂付近が崩れ出し、ハイセがクインケと共に姿を現した。

    オウル「・・・何だそのクインケは。おまえッ、剣なんて持ってたか!?」

    ハイセ「同じだよ、さっきまで持ってたものと」

    オウル「つーッことは、変形ギミックってわけねぇ。ハッ!今更形を変えただけでどうにかなるのかよ?」

    バッ!

    たとえ立ち上がろうとも、彼は満身創痍。そう考えたオウルは正面から彼へと飛び掛かった。

    オウル「もう要らねぇやッ、死ね!」

    オウルはハイセの命を摘み取るべく、彼の首を吹き飛ばすつもりで拳を振るう。しかし、オウルの拳は空を切った。

    ハイセが予想外に動けたことに彼は僅かに驚きを抱くも、すぐに平静を取り戻し、ハイセに注意を向ける。彼は今まさに剣型になったフツギョウをオウルへと振り上げようとしていた。それに対し、オウルは避けきれないが大した事は無いと高を括っていた。次の瞬間までは・・・

    ザンッ

    オウル「・・・あっ?」

    まるで初めから繋がっていなかったかのように、オウルの右腕が何の手応えもなく切断されたのだ。ハイセは一気に勝負を決するべく、振り上げたフツギョウを再びオウル目掛けて振り下ろす。

    ザシュッ

    オウル「おじゃああああああああああ!!!!!」

    ハイセ「(直前で僅かに下がられたか。でも、今のは相当効いた筈・・・)」

    激痛に悲鳴を上げるオウルに対し、ハイセはもう一度とどめを刺そうとするが、オウルは思い切り跳躍して彼から距離を取った。

    オウル「ああああああああ・・・いたいいたい~いたいよ~・・・ひどいよささきく~ん、あんまり痛くするからおいちゃん、コーフンしてきちゃった―――」

    ゾワッ

    オウル「―――YO」
  31. 31 : : 2015/10/04(日) 21:03:12
    ハイセ「!!?(あれは、赫子で出来たマスク?まさか、こいつ――――――)」

    オウル「あっあっあっあっあっあっ」

    ダンッ

    宙へと跳び上がるオウル。

    ハイセ「(半赫者!?)」

    オウル「あああ!!!」

    ガガガガッ!

    ハイセの周囲に羽赫の雨が降り注ぐ。その威力は先程放った遠距離攻撃の比では無く、何とヤシャprotoにヒビを入れ始めた。

    ハイセ「(クインケで防ごうにも、剣モードでは・・・)」

    ???(折れちゃうよね)

    ハイセ「(・・・)」

    ???(分かったよ。君が強くなったのは十分認める。だけど、奴に勝つには赫子が・・・)

    ハイセ「要らないッ」

    ダッ!

    ハイセは、羽赫の雨を全身に浴びながらもオウルのもとへと奔る。

    オウル「母ちゃん父ちゃん俺ごめん仕方ない仕方なかった」

    オウルは何の脈絡もなく謝罪を口にしながら、接近して来たハイセに対して遠距離射撃を中断し、自ら彼へと迫る。羽赫の雨が止んだことで遠距離攻撃によってフツギョウを破損される恐れが無くなったことから、彼はフツギョウを前方へと構える。その瞬間―――

    オウル「お具琉―れがーグルたー瑠虞べたんだかー愚あちゃんる屡婁グのないぞ倶う!!!」

    ドウッ

    オウルは赫子の本体部分を一斉に伸ばし、ハイセの胴を穿たんとする。

    ハイセ「がぁっ」

    現在防御不可の状態にある彼に、オウルの赫子が容赦なく突き刺さる。ヤシャprotoの防御性能に救われ何とか串刺しだけは防がれたものの、被ダメージは凄まじく、彼は生と死の境目まで追い込まれる。

    オウル「死死死死死死死死死死死死」

    最後の一撃を加えようと、オウルは羽赫をブレード状に硬質化させて更にハイセへと接近する。

    ???(お願い。僕を見て)

    ハイセ「(・・・)」

    ???(僕を―――――――――)

    ザンッ!


  32. 32 : : 2015/10/04(日) 21:08:29
    -正面入り口前の広場-

    縦島「―――アキラちゃんやべえよ!伊佐井さんとこのホープがラビットに・・・」

    アキラ「向かおう。ラビットはロングレンジもインも辛口だ。どの距離でも対応できる編成に―――」

    捜査官D「真戸上等!」

    アキラ「どうした?」

    捜査官D「それが・・・“白ラビット”が現れたとの報告がッ!!!」

    アキラ「なん・・・だと・・・」



    -大ホール-

    ハイセ「う・・・ぐ・・・」

    ガクッ

    肩から血を流し、膝を着くハイセ。

    オウル「―――べ・・・ああああああああ!!!!!イッデエエエエェェェェェッッッ!!!!!」

    ハイセは最後にカウンターを決めていた。フツギョウによって左腕を肩口から切り裂かれたオウルは、苦痛の声を上げもがき苦しみ、やがて地面に倒れ込んだ。

    ハイセ「(まだ、奴は生きてる。早くトドメを・・・)」

    ハイセはオウルにトドメを刺すべく右足を前に出そうとする。しかし――――――

    ハイセ「(えっ・・・あれ・・・うごか・・・な・・・・・・いっ?)」

    ドサッ

    ハイセは力無く地面へ崩れ落ちた。これまでの戦いでダメージを受け過ぎていた彼には、もう立つ力は残っていなかったのだ。

    ハイセ「(傷も全く治らない。仕方ない、赫子を・・・)」

    止むを得ず、一度は拒絶した赫子を使うことを決意する。しかし、彼がどんなに赫子を出そうとしても、それは発現しなかった。

    ハイセ「(嘘・・・だろ・・・赫子を出すことも出来ないのか・・・)」

    地面に倒れ込んだまま、何も出来ずにいるハイセ。一方のオウルは、フツギョウによって切り裂かれた左腕を順調に繋ぎ合わせていた。やがて・・・

    オウル「あぁ、くそっ。痛かった。死ぬかと思ったぜ?」

    オウルは起き上がった。彼も相応のダメージを負っており、顔を覆うマスクのようなものも消えていたが、瀕死のハイセの命を奪う余力は十分に残っていた。

    オウル「この痛みには、きっちりお礼をしないとなぁ」

    ハイセ「(そんな、動け、嫌だ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、消える、消える、消える、消えたぐっ・・・)」

    パン!

    突如何者かが現れ、オウルの顔面に鋭い蹴りを放ち、彼を壁まで吹き飛ばした。

    今度は意識を失わなかった。ハイセの目には、ウサギのマスクで顔を覆い、左肩に極彩色の翼を持った喰種の姿がはっきりと映っていた。

    ハイセ「――――――あなたは、あの時の・・・」
  33. 33 : : 2015/10/04(日) 21:16:47
    ???「・・・!?」

    バッ!

    喰種がハイセから距離を取った。喰種はこちら側にある何かを警戒しているようだったので、ハイセは僅かしか残っていない力を振り絞って周囲を見回して見る。

    ハイセ「(S3班・・・いつの間に)」

    白いコートに身を包んだ有馬貴将直属の部下達が、ハイセを護る様に囲んでいた。彼等の存在に気付くと同時に、今度は耳に一つの足音が伝わって来た。

    カツン・・・カツン・・・カツン・・・

    ???「(CCGの死神・・・)有馬・・・貴将・・・くっ」

    ダッ!

    CCG最強・有馬貴将を目の前にした喰種の決断は一瞬だった。彼女は一目散にその場から離れようとする。

    S3班A「逃がさん」

    ガガッ

    S3班員の内、羽赫のクインケを持った隊員が彼女へ弾丸を射出した。彼女は俊敏な身のこなしを見せ、そのほとんどを躱す―――が、一発だけ、顔を覆うウサギのマスクに被弾してしまった。

    間もなく、彼女のマスクが崩れ落ちる。マスクの下のその素顔は――――――

    ハイセ「トーカ・・・ちゃん・・・?」

    有馬「・・・」

    トーカ「ッ・・・」

    ダッ!

    トーカは構わず逃走を続けた。それに対し、S3班員の一人が追跡の意思を見せるが有馬に制された。

    結果、彼女は無事に大ホールの出口に到達する。その時だった。

    ギィィ

    扉が、外から開かれた。扉を開けたのは、白ラビット出現の報を受けた真戸アキラであった。

    トーカ「!?」

    アキラ「・・・ラビット!」

    トーカをラビットだと証明する白ウサギのマスクは既に破壊されているにもかかわらず、アキラは彼女の黒ラビットに酷似した極彩色の翼と、自身の研ぎ澄まされた勘によってその答えを引き出した。父の仇を前にした彼女は、脊髄反射のように白ラビットへとクインケを振るう。

    しかし、クインケはトーカの体に触れることなく壁へと突き刺さってしまう。それを見たトーカは、アキラに背を向けて遠くへと走り去っていた。

    アキラ「ラビット・・・・・・ラビットォォォ!!!」

    有馬「アキラ!!!」

    彼女が叫んだのとほぼ同時、有馬の声がホール一帯に響き渡った。その直後、オウルがアキラの横を通り過ぎていった。

    アキラ「た・・・き・・・・・・・・・」

    有馬「・・・ハイセ。大丈夫?」

    ハイセ「なん・・・とか・・・」

    有馬「そう・・・ハイセ、彼女とは知り合い?」

    ハイセ「!?・・・・・・一度だけ、会ったことがあります。それだけ・・・です」

    有馬「―――医療班を、“佐々木一等”が負傷だ」



    こうして、オークション掃討戦の幕が閉じた。
  34. 34 : : 2015/10/04(日) 21:19:36
    -1週間後-

    オークション掃討戦から一週間となるこの日も、ハイセは:reの前で佇んでいた。

    トーカが喰種であることはハイセにばれているにもかかわらず、:reは掃討戦が明けてからも毎日平常通り営業されており、ハイセは毎日店の前まで足を運んでいた。しかし、どうしても店の中へと足を踏み入れることが出来なかった。霧嶋董香が“喰種”であると知ってしまったからである。それも“白ラビット”、上司の親の仇。

    それでもハイセは、今日も店を訪れようとした。作戦が終わったらまた絶対にトーカの淹れたコーヒーを飲みに行くという、最後に彼女と会った日に交わした誓いを果たすために。

    ハイセ「(・・・)」

    彼は店の前で、今までと同じように十数分間黙り込んでいた。いっそ、自分の存在をトーカに気付かれてしまえば良いのにとも思うが、彼女が店を出て彼に声を掛けて来ることは無かった。

    結局、彼は店に入ることなくシャトーへと帰宅した。



    ピーンポーン

    ハイセが夕食の準備をしている時、玄関の呼び鈴が鳴った。六月が来客の応対に向かう。

    六月「先生、アキラさんです」

    ハイセ「アキラさん?」

    ハイセは調理台の火を止め、玄関へと向かう。

    ハイセ「アキラさん、どうなさいました?」

    アキラ「急ですまないが、今から私と一緒に局に来てくれ。局長がお呼びだ」

    ハイセ「局長が!?わ、分かりました。六月くん、夕御飯の準備だけど、後は加熱だけだからお願いしても良いかな?」

    六月「はい」

    ハイセ「すぐに着替えるので、少し待ってください」

    アキラ「うむ」

    ハイセは自室で素早く制服に着替えてから、再び玄関へと戻る。

    アキラ「では行くぞ」

    ハイセ「はい!」

    アキラの運転する車で、二人はCCG本局へと向かった。
  35. 35 : : 2015/10/04(日) 23:09:16
    期待
  36. 36 : : 2015/10/05(月) 19:45:59
    >>35
    m(__)m
  37. 37 : : 2015/10/05(月) 19:51:08
    -CCG本局・局長室-

    コンコン

    ハイセ「失礼します」

    アキラ「失礼します。おや・・・有馬特等」

    有馬「やあ、ハイセ、アキラ」

    ハイセ「有馬さんお一人ですか?」

    有馬「局長なら今会議中だ。ハイセ達が来る時間に間に合わせようとはしていたみたいだけど、予定より時間がかかっているみたいでね」

    ハイセ「局長は忙しいですもんね」

    有馬「――――――ところでハイセ。アキラから聞いたんだけど、“声”がしなくなったって本当かい?」

    ハイセ「・・・はい。オークション掃討戦が終わってから・・・厳密に言えば、例の隻眼の喰種に最後の一撃を加えた時から、前の僕の声が聞こえなくなりました」

    有馬「消えた・・・ということかな?」

    ハイセ「そうかもしれませんし、ただ奥底で眠りについただけかもしれません」

    有馬「赫子は―――」

    アキラ「使えます。その報告を受けた後、赫子を使わせました。赫子の使い心地に関して、特に違和感はなかったようです」

    有馬「そう。なら良かったじゃないか」

    ハイセ「え?」

    有馬「暴走の心配がほとんど無くなったんだし、これからは赫子を目一杯使うことが出来る」

    ハイセ「・・・そう、ですよね。良かったですよね、これで」

    ガチャ

    アキラ「・・・局長!お疲れ様です」

    ハイセ「お、お疲れ様です」

    吉時「うん、お疲れ。こちらから呼び出しておきながら、待たせてしまって申し訳ない」

    ハイセ「いえいえ。局長はお忙しいんですから、仕方がありませんよ」

    吉時「いや、それは言い訳にはならないよ。待たせてしまったことだし、手早く用件を済ませよう」

    吉時が局長の椅子に腰を掛ける。そして、机の棚の中から何かの資料を取り出した。

    吉時「今回佐々木君を呼んだのは、とある喰種の捜査を命じるためだ」

    ハイセ「僕らに・・・ですか」

    吉時「いや、違う。君達にではない。君一人にだ」

    ハイセ「えっ、僕一人に?」

    吉時「ああ。君に捜査してもらいたい喰種は、オークション掃討戦で姿を見せた喰種だ」

    ハイセ「オークション?(あの隻眼か?でも奴はアオギリ、担当はS1~S3のどれかのはずだ)」

    吉時「過去には、20区でアキラの父である真戸呉緒の命を奪った、暫定Aレートの女性の喰種―――」

    吉時「“白ラビット”。これを捜査し、捕獲もしくは駆逐すること。それが君の新たな任務だ」
  38. 38 : : 2015/10/05(月) 20:03:08
    -街-

    “白ラビット”・・・つまり、トーカの駆逐任務を言い渡されたハイセ。彼は、送っていくというアキラの誘いを断り、一人で街を歩いていた。

    断った理由には、一人になりたかったというのもあったが、何より白ラビットを父の仇とするアキラの傍に居るのが怖かった。それは、自分が白ラビットを何とか助けたいと思っているからだ。

    そして彼は、向こうから引き寄せられるかのように、無意識の内に:reの前にやって来た。営業時間はとうに過ぎており、店の灯りは消えている。それを見て、彼はすぐに店の前から立ち去ろうとする。しかし―――

    ハイセ「・・・トーカちゃん?」

    灯りの消えた店内から、彼女は姿を現した。

    ハイセ「(ああ、なんで―――)」



    ハイセ「(―――こうも間が良い(悪い)のだろう)」



    トーカ「ハイセさん・・・」

    二人の間に、しばし沈黙が流れる。

    ハイセ「・・・・・・」

    トーカ「・・・・・・あの」

    ハイセ「はい?」

    トーカ「もう、お店は閉めましたよ」

    ハイセ「ええ、知っています」

    トーカ「なら、どうしてここへ?」

    ハイセ「それは・・・」

    言葉に詰まるハイセ。トーカは、その様子を黙って見つめる。少しして、彼は右手で顎をさすりながら口を開いた。

    ハイセ「約束を守るため、です。オークション戦が終わったら、絶対にまた店に来るって約束。本当なら営業時間中に訪ねたかったんですけど、作戦が終わってからも色々忙しくて・・・」

    トーカ「・・・」

    ボソッ

    ハイセ「はい?」

    トーカ「あっいえ、何でもありません。約束を守ってくださって、ありがとうございます。またお時間があったらいらしてください。では・・・」

    別れの挨拶を告げて、トーカはこの場から立ち去ろうとする。

    ハイセ「―――待ってください!」

    トーカ「・・・はい」

    ハイセ「あの・・・クリスマス・イヴの日って、何か予定はありますか?もし無ければ、僕と――――――一緒に、お出掛けしませんか?」

    突然の誘いに、トーカは驚きを露わにした。

    ハイセ「む、無理はなさらないでください!嫌なら断ってくださって構いません!でも、もしよろしいのなら・・・」

    トーカ「その日は・・・仕事があります。クリスマスは結構稼ぎ時なので、外せません」

    ハイセ「そう・・・ですか。分かりました」

    トーカ「あっ、でも・・・店じまいの後からでもよろしければ、ご一緒させてください」

    ハイセ「本当ですか!?ええ、もちろんオッケーです!では、詳しい予定は後日メールで連絡しますね。本当に・・・ありがとうございます」

    トーカ「いえ、こちらこそお誘い感謝します。では、また・・・」
  39. 39 : : 2015/10/05(月) 21:08:29
    ハイセ「はぁ・・・(最低だ)」

    シャトーへの帰り道、ハイセは心の中で自分を罵倒し続けていた。その原因は、トーカをクリスマスデートに誘った真の動機にある。

    彼は、彼女を捕らえるか否かの決断を先延ばしにしたかったのだ。しかし、ただ先延ばししては、彼女に逃げられてしまうかもしれないし、そもそももう一度彼女と顔を合わせようという勇気が無かった。だから、クリスマス・イヴの日にデートをするという約束を取り付けて彼女と会うことを自身に強制させた。もちろん、デートの約束だけで彼女が逃げることがなくなるとは思っていないが、後者の問題点を解決できれば十分だった。

    しかし、これは誘った後で思いついたこと。誘っている間中は純粋な恋心に満たされていたのも事実。

    それでも彼は、ばったり会った知り合いの女性を突発的にデートに誘うという、今まで行ったことのない行為に何か裏がある様にしか思えなかった。そして、それもまた間違いではなかった。



    -クリスマス・イヴ-

    ハイセ「(とうとう、この日が来てしまった。トーカちゃんとデートできるのはすごくうれしい事だ。だけど―――)」

    ハイセ「(―――辛い。苦しい。胸が、痛む)」

    ハイセはまだ、トーカをどうするかについて腹を決めかねていた。しかし、今日で選ばなければならない。彼女を逃がすか、捕まえるかを。それは、彼女とまた会うことができるかどうかわからないという点からも言えることであったが、なにより面が割れているにもかかわらず一カ月間も捜査が進んでいないという、捜査官として由々しき事態にあるということから言える事だった。

    そんな中でも、アキラは「焦らなくていい」だとか、「ゆっくりでも着実に捜査を続けていけ」と励ましの言葉を掛けていたが、ハイセは、彼女の心の奥底には確かに、ラビットへの、そしてそのラビットをなかなか駆逐することが出来ないでいるハイセへの憤りが隠れているのを感じ取っていた。

    ハイセ「(どちらを選ぶにしろ、今日で決着を付けなくちゃいけないと・・・)」

    イヴのデートに適した服装に着替えながら、彼は答えを考え続けていた。自分は・・・

    どうしたいのか、を。
  40. 40 : : 2015/10/06(火) 01:29:45
    期待
  41. 41 : : 2015/10/06(火) 19:33:32
    >>40
    どうもです(^-^)
  42. 42 : : 2015/10/06(火) 19:37:17
    不知「なんだぁその恰好!サッサン、デートにでも行くのか?」

    自室を出ると、最初に不知にカラかわれた。

    ハイセ「うん、そんなところ」

    不知「えっ、本当にデートかよ!?誰と!?同僚の誰かか!?」

    ハイセ「さぁね。おっしえない」

    不知「いいじゃねぇか。減るもんじゃあるまいし・・・」

    ハイセ「ダ~メ!」

    六月「先生、どこかへお出掛けですか?」

    才子「聖夜の夜にママンは何処へ?」

    不知「サッサン、デートだってよ」

    ハイセ「言っちゃうの!?」

    六月「デート・・・彼女が居るんですか?」

    ハイセ「彼女じゃないよ。でも、彼女だったらどんなに嬉しい事か・・・」

    才子「絶賛片思い中という訳ですな。あっしは応援しているでやんすよ」

    ハイセ「ありがとう才子ちゃん。あっ、そう言えば、帰るのが遅くなるかもしれないから、皆の御飯は六月くんにお願いしても良いかな?」

    六月「はい。構いません」

    才子「佐々木メシがなくなるのなら爆発すべし」

    ハイセ「ごめんね(爆発!?)」

    ハイセ「じゃっ、行って来ます」

    六月「はい」

    不知「頑張れよ~」

    才子「いってらママン」

    こうして彼はシャトーを後にした。約束の時刻の二時間前の事である。



    -:re-

    営業時間が終わり、トーカは四方と共に机を拭いたり、カップを洗ったりと後片付けに勤しんでいた。その最中、入口の扉が開かれた。

    ハイセ「こんばんは。ちょっと早かったですかね?」

    トーカ「いえ、時間通りですよ。でも、もう少しだけ待ってください。まだやらなければいけないことがあるので」

    ハイセ「分かりました」

    ハイセが了承すると、トーカは片付け作業に戻った。

    四方「・・・座って良いぞ」

    ハイセ「あっ、はい。ありがとうございます。えと・・・あなたのお名前は?」

    四方「四方だ」

    ハイセ「いや、苗字ではなくお名前を・・・」

    四方「・・・俺には反応無しか」

    ハイセ「へ?」

    トーカ「ちょっと兄さん!サボらないでよ」

    トーカに叱責され、四方は無言でモップ掛けを始めた。
  43. 43 : : 2015/10/06(火) 19:41:06
    トーカ「お待たせしてごめんなさい。片付け、終わりました」

    ハイセ「いえいえ、こんな忙しい日に一緒に出掛けようなんて言った僕が悪いんですよ。では、行きましょうか」

    トーカ「その前に、着替えてきてもよろしいですか?」

    ハイセ「もちろんです」

    着替えのために、トーカは二階へと上がって行った。それからしばらくして、彼女は私服に身を包んでハイセの元に戻って来た。

    ハイセ「うわぁ・・・似合ってます!とてもお美しいです」

    トーカ「褒めてもなにも出ませんよ。そんなことより、早く行きましょう」

    ハイセ「そうですね」

    トーカ「それじゃあ行って来ます、兄さん」

    四方「ああ」

    ハイセ「妹さんをお借りします」

    こうして、二人は:reを後にして行った。

    四方「さて・・・片付けを仕上げておくか」



    トーカ「今日の行き先は、1区のショッピングモールでしたっけ?」

    ハイセ「ええ。あそこの大ホールに特大のクリスマスツリーが展示されているので、それを見に行きたいなと」

    トーカ「ああ、テレビで見ました。一度直接見たいなと思っていたので、ちょうど良かったです」

    ハイセ「それはそれは」

    このような談笑をしながら、二人はショッピングモールへと歩く。:reからその場所まではそこそこ距離があるのだが、二人にとってその時間はあっという間のものであった。



    -ショッピングモール内大ホール-

    トーカ「うわぁ・・・綺麗・・・」

    ハイセ「喜んでもらえて良かったです」

    トーカ「やっぱり、テレビで見るのとは違いますね。鮮やかさも、迫力も」

    ハイセ「そうですね・・・(さて、ここでもう渡しちゃおうか)」

    ハイセが何かを決断する。それと同時に、彼は自分の顔が火照っていくのを感じた。

    トーカ「あの・・・何か?」

    ハイセ「ト、トーカちゃん!目を瞑ってください!」

    トーカ「え!?あの、えと・・・それは・・・」

    ハイセ「お願いします!」

    トーカ「は、はい・・・」
  44. 44 : : 2015/10/06(火) 19:45:03
    ハイセの指示に従い、トーカはそっと瞼を閉じる。すると、彼女は首筋に何か冷たいものが触れるのを感じた。

    トーカ「!?」

    ハイセ「目を開けてもらって構いませんよ」

    ハイセからの指示を受け、トーカはゆっくりと目を開ける。

    トーカ「ウサギの・・・ネックレス・・・?」

    ハイセ「メリークリスマス、トーカちゃん。僕からのクリスマスプレゼントです」

    トーカ「あ・・・あ、ありがとうございます!でも、何故ウサギを?」

    ハイセ「あっ、やっぱりクリスマスっぽいものの方が良かったですか?」

    トーカ「いえ。寧ろ、ウサギの方が好きです。でも・・・どうしてかなぁって」

    ハイセ「どうしてでしょうね?」

    トーカ「え?」

    ハイセ「僕にも分からないんですよ。何でウサギのネックレスを見つけた時、これはトーカちゃんが好きそうだって直感したのかが。おかしな・・・話ですよね」

    トーカ「・・・はい。本当に、おかしな話です」

    その時、一粒の涙がトーカの頬を伝った。

    ハイセ「トーカちゃん!?」

    トーカ「済みません。その・・・余りに嬉しかったものですから。あっ、そうだ。私からも、何かお返しをしないと」

    ハイセ「お返しなんてそんな!僕が勝手にあげたものですから、気を遣うことなんて・・・」

    トーカ「いえ、お返しさせてください」

    ハイセ「しかし・・・」

    ハイセはもう一度断ろうとするが、トーカが真っ直ぐにこちらの目を見つめてくるので、言葉を続けることが出来ない。

    ハイセ「・・・分かりました」

    トーカ「それじゃあ、ここで待っていてください」

    そう言って、トーカは一人で店内を回ろうとする。だが―――

    ハイセ「待ってください!」

    ガシッ

    ハイセが彼女の手を掴み、彼女を引き留めた。

    ハイセ「一緒に行かせてください。お願いします(一人になってしまったら、余計なことばかり考えてしまうから・・・)」

    トーカ「・・・そっちの方が、あなたの意見を聞けて良いかもしれませんね」

    ハイセ「ありがとうございます」

    二人は、閉店間際のショッピングモール内を回り始めた。
  45. 45 : : 2015/10/06(火) 19:47:27
    アナウンス『本日はご来店頂きまして、誠にありがとうございます。お買い物中のお客様にご案内申しあげます。誠に勝手ではございますが、当店はまもなく閉店のお時間でございます。どなた様もお買い忘れございません様、お早めにお買い求めくださいませ』

    トーカ「あっ、いけない。早くしないと」

    ハイセ「まだ10分ありますから、そう焦らずに・・・」

    最悪プレゼントが貰えなくても構わないと考えているハイセは、こう言ってトーカを落ち着かせようとするが、対するトーカは必死にハイセへのプレゼントを探していた。

    そんな中で、二人はとあるアクセサリーショップに入る。すると、入り口付近にあった一つのペンダントがトーカの目を惹きつけた。

    トーカ「あの、これなんてどうでしょうか?」

    ハイセ「これは・・・赤鼻のトナカイのペンダントですか。うん、可愛いですね。こういうの、好きです」

    トーカ「本当ですか!?それでは、これにしますね!」

    トーカはそのペンダントを持ち、会計へと駆け込んだ。

    ハイセ「(赤鼻のトナカイか・・・少しだけ、僕に似ているかもしれない。だとしたら、僕にとってのサンタクロースは一体誰だろう?アキラさん?有馬さん?それとも・・・)」

    トーカ「お待たせしました!ハイセさん、どうぞ」

    会計を終えたトーカは、早速ハイセに赤鼻のトナカイのペンダントを手渡した。

    ハイセ「ありがとうございます。一生のお宝にしますね」

    トーカ「そんな、大袈裟ですよ。それよりもう閉店の時間ですし、早くお店から出ないと」

    ハイセ「そうですね」



    -ショッピングモール・出入り口-

    トーカ「――――――雪」

    二人がショッピングモールを出た時、視界一面に白化粧がなされていた。

    ハイセ「ところでトーカちゃん。お時間、もう少しいただいても構いませんか?」

    トーカ「ええ・・・」

    ハイセ「良かった。それなら僕に、着いて来てください」

    二人はショッピングモールを後にし、白銀の世界に足を踏み入れた。
  46. 46 : : 2015/10/06(火) 19:51:21
    -公園-

    ショッピングモールを出て数分後、ハイセはとある公園に入ると同時に足を止めた。

    トーカ「公園・・・ここに来たかったんですか?」

    ハイセ「あの・・・トーカちゃん・・・」

    トーカ「はい?」

    ハイセ「逃げてください!!!」

    トーカ「――――――?」

    ハイセ「CCGは既に、あなたを駆逐対象として認識しています。現に、僕は“白ラビット”の・・・あなたの、駆逐を命じられました。幸い、あなたの顔を見ている者はごく少数しかいませんが、僕が見て見ぬ振りをし続けても、いずれCCGはあなたに辿り着きます。だから・・・逃げてください」

    トーカ「・・・本当に―――」

    ハイセ「はい、本当で」

    トーカ「何にも変わっちゃいねぇな」



    ハイセ「――――――え?」

    トーカ「前と同じだ。またそうやって、自分を犠牲にして、誰かを救おうとしている。そんなの、自己満足に過ぎないってまだ分かんないの?」

    ハイセ「そうか。やっぱり、あなたは“前の僕”の・・・」

    トーカ「へぇ、気付いてたんだ」

    ハイセ「だったら尚更あなたを―――」

    トーカ「はぁ!?ふざけんな!あんた、自分が何言ってるか分かってんの!?あんた捜査官だろ!?」

    ハイセ「それは・・・勿論分かってます!喰種を逃がすなんてこと、本当は絶対にやっちゃいけないことだ!でも」

    トーカ「いいや分かってない!!!あんたのその行為が、あんた自身に何をもたらすか・・・。あんたの予想通り、私は前のあんたの知人。だからもちろん知ってるよ、あんたが半喰種だってこと。それで、周りの捜査官に色眼鏡で見られてるってことも。そんな状況で、喰種を逃がしたなんてことが知れ渡ったら、あんたの居場所はもうないよ?」

    ハイセ「ッ!?それでも、僕は・・・僕はどうなってもいい!あなたを」

    トーカ「それが自己満だって言ってんだろ!!!自分自身を犠牲にしてまで助けられて、助けられた奴が喜ぶとでも思ってんのか!?第一、私はあんたに護ってもらわなきゃ生きけない程―――」

    ドウッ

    トーカの左肩から、極彩色の翼が生える。それは、赫子以外の何物でも無い。

    トーカ「弱くねぇんだよ!!!」
  47. 47 : : 2015/10/07(水) 19:33:27
    ダッ

    怒号を上げると共に、トーカは一瞬にしてハイセの懐へと迫る。そして―――

    バキィッ

    彼の腹部へと、一切容赦のない蹴りを放った。

    ハイセ「がはっ!――――――」

    激痛の余り、ハイセは地面に倒れ込む。

    トーカ「立てよ、佐々木琲世!私の駆逐を命じられてんだろ?やってみろよ!」

    ハイセ「僕は・・・あなたとは」

    トーカ「いい加減に―――」

    ダッ

    トーカ「―――しろっ!」

    ドゴォッ

    再び放たれた蹴りを食らい、ハイセの身体は宙へと浮く。

    トーカ「何度も言わせんな!あんた喰種捜査官だろ!?だったら私を殺しに来いよ!」

    ドサッ

    ハイセ「ぐっ!」

    ようやく地面へと落ちて来たハイセは、臨戦態勢を取る。しかし、彼の顔には戦意が全く見られなかった。その証拠に・・・

    トーカ「赫子出せよ」

    ハイセ「え?」

    トーカ「クインケが無いなら赫子を出せよ。ここで使わなくて、いつ使うためのもんだ?」

    ハイセ「あくまで、僕と戦うつもりですか?」

    トーカ「いや」

    ハイセ「?」

    トーカ「殺すつもり」

    ゾワッ

    ダッ!

    強烈な殺気を放ちながら、トーカがハイセの目の前へと躍り出る。そして、渾身の蹴りを彼の頭部目掛けて放った。

    ガキィ!

    その蹴りを止めたのは、ハイセの赫子だった。彼女の蹴りに死を直感した彼は、生存本能から無意識の内に赫子を出したのである。

    トーカ「――――――そろそろ、いいか」

    ハイセ「?」

    次の瞬間、トーカはハイセの懐に潜り込むと同時に彼の身体を投げた。そして即座に彼に乗り掛かりマウントポジションを取る。

    ハイセ「(しまっ!)」

    トーカは右拳を引き・・・

    それから、ハイセの顔面目掛けて振り下ろした。
  48. 48 : : 2015/10/07(水) 19:37:32



    トーカの拳は、ハイセの顔に触れる寸前で止められていた。

    ハイセ「ト、トーカちゃん?」

    トーカ「・・・お願いだから」

    ハイセ「えっ?」

    トーカ「お願いだから、いい加減自分の為に生きなよ!私の事は、思い出さなくていい!もう会えなくてもいい!だからあんたは自分の居場所を、もっと大切にしろよ!今のあんたの居場所にだって、あんたを失いたくない上司や、同僚や、部下が、いっぱいいるから!だから・・・もう、私の前に顔見せんな!クソカネキ!!!」

    ハイセ「・・・」

    トーカ「・・・それで、もし」

    トーカ「もし、万が一あんたの記憶が戻って、誰にも頼ることができなくなったら・・・その時は、私があんたの帰る場所になるから」

    こう言い終えるとトーカは立ち上がり、マウントポジションを解く。直後―――

    ドスッ

    ハイセの鳩尾に、拳が叩き込まれた。

    ハイセ「っ・・・あ」

    そしてトーカは、痛みで意識が朧になっているハイセに背を向け走り出した。

    ハイセ「待って・・・トーカちゃん・・・」

    最後の力を振り絞り、ハイセはトーカを呼び止めようとする。しかし、彼女は足を止めるどころか、こちらを振り向くことさえしてはくれなかった。

    ハイセ「(“僕”じゃだめだ。“彼”の言葉じゃなきゃ。でも“彼”は・・・)」

    ハイセ「(ねぇ、君は、どうして出てきてくれないの?僕は、どうして君を消してしまったの?ねぇ、教えてよ・・・・・・カネキケン)」



    ???「逃がすな!追え!」

    ハイセの意識が消える直前、彼は白ラビットを追跡する捜査官の声を聞いた。彼女の赫子を見た近隣住民の誰かが通報したのだろうか、と初めは思ったが、それにしても早過ぎる。まるで・・・

    ハイセ「(ああ、そうか。彼等は・・・)」



    最初から近くに居たのだ(僕を尾行していたんだ)
  49. 49 : : 2015/10/07(水) 19:44:43
    -次の日・シャトー-

    ハイセ「・・・んん」

    アキラ「ハイセ!?」

    ハイセ「アキラ・・・さん・・・」

    六月「先生!大丈夫ですか?」

    ハイセ「六月くんも・・・ここは?」

    六月「シャトーですよ。昨晩、小林上等が運んできてくれたんです」

    ハイセ「ツボネさんが?」

    アキラ「彼女から聞いたぞ。白ラビットと接触したそうだな。そして、交戦の末敗れたと」

    ハイセ「あっ、そうだ!ト・・・白ラビットはどうなりました!?」

    アキラ「残念ながら、逃げられてしまった。お前を返り討ちにするとは、私の父を倒した腕前は伊達ではないようだな」

    ハイセ「(返り討ちにされたことになっているのか。実際は・・・あれ?もし、彼女が僕に襲い掛かってこなかったら、僕は・・・)」

    六月「あっ、俺、皆を呼んできますね」

    ダッ

    ハイセ「・・・」

    アキラ「どうかしたか?」

    ハイセ「へ?」

    アキラ「何か、思い詰めたような顔をしていたぞ」

    ハイセ「いえ、何でも・・・」

    アキラ「そうか」

    ハイセ「・・・・・・アキラさん」

    アキラ「何だ。やはり何かあるのか?」

    ハイセ「あの、僕は―――――――――」

    ハイセ「―――ここで戦っていて、いいんでしょうか」

    アキラ「!?――――――それは」

    不知「サッサーン!」

    才子「ママン!」

    ハイセ「不知くん、才子ちゃん、瓜江くんも」

    瓜江「大丈夫ですか?」

    ハイセ「うん、もう大丈夫」

    才子「ホッ」

    不知「しっかし、嘘つくなんて酷いじゃねぇか」

    ハイセ「嘘?」

    不知「サッサン、家を出るときデートって言ったろ?」

    ハイセ「ああ・・・ごめんごめん。出来るだけ内密に捜査したかったから」

    不知「まぁ、そういう事なら・・・それと、サッサン宛に二つお届け物が入ってたぜ」

    ハイセ「僕宛に?」

    才子「これ・・・」

    才子がハイセに差し出したのは、一冊の本と・・・

    ハイセ「マスク?歯茎剥き出しだし、なんか怖いなぁ。誰からだろう?」

    アキラ「・・・」

    ハイセ「・・・Hysy?」



    その日の午後、ハイセは:reへと足を運んだが、看板には無期限の休業を知らせる貼り紙が貼られていた。
  50. 50 : : 2015/10/07(水) 19:48:51
    -東京某所-

    トーカ「本当に、勝手なことして迷惑かけてすみません」

    四方「過ぎた事だ。もう気にしなくていい」

    ニシキ「しっかし、あの振り方はねぇわ」

    トーカ「ああ!?何でてめぇが振り方を知ってんだよ」

    ニシキ「何でって見てたからだよ。もしもの時は援護しろって四方に言われてたの」

    トーカ「四方さん、余計なことを・・・」

    ニシキ「て言うか、お前クソみたいにカネキのこと好きだな見てるこっちが恥ずかしくなりそうだったぜ」

    トーカ「なっ、別に好きじゃ」

    ニシキ「はい、それツンデレの典型」

    トーカ「はぁ!?」

    ニシキ「あの感じじゃあ、お前を追っかけてCCGを抜けるかもしれねぇぜ。あんな振り方されちゃあ男の方は未練残りまくりだろうなぁ・・・」

    トーカ「・・・」

    ニシキ「おいおい、冗談だって。あいつがカネキなら、そんな馬鹿なことする訳ねぇだろ。でもさ・・・もし、万が一そうなって、あいつがお前に会いに来たらどうする?」

    トーカ「ん~・・・・・・まずは―――」



    トーカ「一発ぶん殴る」





    -完-
  51. 51 : : 2015/10/07(水) 19:54:24
    【あとがき】
    前書いた話が滝澤の暗~い話だったので、今作はノリノリで書くことができました。続くかどうかは検討中です。

    読んでくださった皆様、ありがとうございました。ご意見ご感想等ございましたら遠慮なくどうぞ。
  52. 52 : : 2015/10/07(水) 20:02:08
    乙!


    ハイセとトーカ、これからどうなるのでしょうね。トーカちゃん相変わらずのツンデレですね。
  53. 53 : : 2015/10/07(水) 21:46:55
    >>52
    乙コメントありがとうございます!

    トーカのツンデレが大好きです。また本編で見たい!(笑)
  54. 54 : : 2015/10/08(木) 01:06:53
    続きありますか?

    もう本当に本当に面白くて!

    もっと読みたいです(笑)
  55. 55 : : 2015/10/08(木) 02:21:16
    期待
  56. 56 : : 2015/10/08(木) 21:27:47
    >>54
    ありがとうございます!続きを書くのがいつになるかはまだ未定ですが、その時はまた宜しくお願いします!

    >>55
    ありがとうございます!
  57. 58 : : 2015/10/09(金) 10:31:45
    訂正(上の消してください…消し方わからないので)

    ≫54です 楽しみにしています!
  58. 59 : : 2015/11/08(日) 00:16:04
    才能の権化だアァー‼

  59. 62 : : 2020/10/26(月) 14:58:04
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
    ↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。

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